2021-701109
電極板
- 審判番号
- 2021-701109
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-188366外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6939747
- 請求日
- 2021年11月26日
- 審決日
- 2023年03月20日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社豊田中央研究所
- 【権利者代理人】畠山 文夫
- 【異議申立人】中川 賢治
- 分類
- P1651.121-YAA(H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 13項目
第1 手続の経緯
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特許第6939747号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年10月3日に出願され、令和3年9月6日にその特許権の設定登録がされ、令和3年9月22日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
なお、令和4年10月31日の訂正請求に対して申立人に意見する機会を設けたが、申立人から応答はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年10月31日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、特許第6939747号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す)。なお、本件訂正請求前に行った令和4年6月17日の訂正請求は取り下げられたものと見なす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「…500nm超500μm以下である。」
とあるのを、
「…1000nm超100μm以下である。 (4)前記電極板は、PEM水電解装置用バイポーラプレートとして用いられる。」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0011】に
「…チタン亜酸化物を含む。」
とあるのを、
「…チタン亜酸化物を含む。 (3)前記被覆膜の厚さは、1000nm超500μm以下である。 (4)前記電極板は、PEM水電解装置用バイポーラプレートとして用いられる。」
と訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1における「電極板」について、形成された被覆膜の厚さを「500nm超500μm以下」から「1000nm超100μm以下」に限定し、かつ、「PEM水電解装置用バイポーラプレートとして用いられる」ものに限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
そして、願書に添付した明細書の段落【0023】には、「被覆膜の厚さは、0.02μm以上が好ましい」ことが、段落【0028】には「実施例」の試料の作製において「被覆膜の膜厚」を「0.3μm」としたこと、段落【0025】には、「電極板」は「PEM水電解装置用バイポーラプレート」に用いること、がそれぞれ記載されているから、訂正事項1に係る訂正は新規事項の追加にも該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、本件訂正前の明細書の段落【0011】の記載を、本件訂正に係る請求項1の記載と同様のものとする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、請求項1ないし5は一群の請求項を構成する。
したがって、本件訂正前の請求項1ないし5に対応する、本件訂正後の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(5)訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
なお、本件においては、本件訂正前の請求項1ないし5について特許異議の申立てがされているから、対応する本件訂正後の請求項1ないし5に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
以上の点より、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
以下の構成を備えた電極板。
(1)前記電極板は、
基板と、
前記基板の表面の少なくとも一部に形成された被覆膜と
を備えている。
(2)前記被覆膜は、チタン亜酸化物を含む。
(3)前記被覆膜の厚さは、1000nm超500μm以下である。
(4)前記電極板は、PEM水電解装置用バイポーラプレートとして用いられる。
【請求項2】
前記チタン亜酸化物は、TixO2x-1(xは、1以上7以下の整数)で表される組成を有するいずれか1以上の化合物を含む請求項1に記載の電極板。
【請求項3】
前記基板は、チタン若しくはチタン合金、ステンレス鋼、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、又は、高分子材料からなる請求項1又は2に記載の電極板。
【請求項4】
前記被覆膜は、少なくとも電極との接触面に形成されている請求項1から3までのいずれか1項に記載の電極板。
【請求項5】
(削除)
第4 特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知に記載した取消理由について
1 申立理由の概要
(1)本件訂正前の請求項1ないし5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1号第3号(同法第113条第2号)の規定により取り消されるべきものである。
(2)本件訂正前の請求項1ないし5に係る発明は、甲第1号証~甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になしえたものであるから、特許法第29条第2項(同法第113条第2号)の規定により取り消されるべきものである。
2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して、当審が令和4年9月22日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
請求項1ないし4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項(引用文献2,引用文献3,引用文献4)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。したがって、本件の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項5に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
<引用文献等一覧>
第5 当審の判断
1 引用文献の記載事項、引用発明
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(1)引用文献1
ア 令和4年9月22日付けの取消理由通知において引用した引用文献1には以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。以下同様)。
「【0022】[チタン材]チタン材は、母材と、母材の表面に形成されたチタン酸化物皮膜とを備える。」
「【0023】〈母材〉母材は、純チタンまたはチタン合金からなる。ここで、「純チタン」とは、98.8%以上のTiを含有し、残部が不純物からなる金属材を意味する。純チタンとして、たとえば、JIS1種~JIS4種の純チタンを用いることができる。これらのうち、JIS1種およびJIS2種の純チタンは、経済性に優れ、加工しやすいという利点を有する。「チタン合金」とは、70%以上のTiを含有し、残部が合金元素と不純物元素とからなる金属材を意味する。チタン合金として、たとえば、耐食用途のJIS11種、13種、もしくは17種、または高強度用途のJIS60種を用いることができる。」
「【0024】〈チタン酸化物皮膜〉チタン酸化物皮膜は、第1主相および第2主相を含む。第1および第2主相は、後述のX線回折分析により特定される。第1および第2主相は、いずれも、TinO(2n-1)(nは、1~9の整数;以下、特に断りのない限り、同様)相のいずれかである。すなわち、チタン酸化物皮膜は、TinO(2n-1)の2種以上を主たる相(およそ存在比が大きい相)として含む。これにより、チタン酸化物皮膜に繰り返し応力変動が与えられたとき、チタン材の接触抵抗の上昇が抑制される。nは、1~9の範囲で小さい方が、このような効果が得られやすい。この点で、nは、1~5の整数であることが好ましい。」
「【0041】〈チタン酸化物皮膜の厚さ〉チタン酸化物皮膜の厚さは、10nm以上1000nm以下であることが好ましい。チタン酸化物皮膜の厚さが10nm未満であると、チタン材と他の部材との擦過により、チタン酸化物皮膜が損耗し、母材が露出するおそれがある。露出した母材の表面には、TiO2を主体とする自然酸化膜が形成される。したがって、この場合は、チタン酸化物皮膜がTinO(2n-1)の2種以上を主たる相として含んでいても、安定した導電性は得られない。チタン酸化物皮膜の厚さは、30nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。」
「【0042】一方、チタン酸化物皮膜の導電性は母材の導電性より劣るので、チタン酸化物皮膜の厚さが1000nmより大きいと、チタン酸化物皮膜の厚さ方向の電気抵抗が無視できないほど大きくなる。チタン酸化物皮膜の厚さは、200nm以下であることがより好ましい。」
「【0057】[固体高分子形燃料電池のセパレータ]このセパレータは、上記チタン材を備える。セパレータにおいて電極膜との接触部には、チタン酸化物皮膜が存在する。このため、固体高分子形燃料電池内で、セパレータと電極膜との初期の接触抵抗は低いとともに、セパレータと電極膜との接触部に応力変動が繰り返し与えられても、チタン酸化物皮膜の導電性は劣化しにくい。さらに、チタン材(チタン酸化物皮膜)が耐食性を有することにより、セパレータは耐食性を有する。すなわち、セパレータの導電性と耐食性とは安定している。」
イ 上記アから、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
(ア)段落【0057】によれば、「チタン材」は、「固体高分子形燃料電池のセパレータ」が備えるものである。
(イ)段落【0022】によれば、「チタン材」は、「母材と、母材の表面に形成されたチタン酸化物皮膜とを備える」ものである。
(ウ)段落【0024】によれば、「チタン酸化物皮膜は、TinO(2n-1)」を含み、「n」は「1~5の整数」である。
(エ)段落【0041】によれば、「チタン酸化物皮膜の厚さは、10nm以上1000nm以下」である。
(オ)段落【0023】によれば、「母材は、純チタンまたはチタン合金からなる」ものである。
ウ 上記イから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「固体高分子形燃料電池のセパレータが備えるチタン材であって、チタン材は、母材と、母材の表面に形成されたチタン酸化物皮膜とを備え、チタン酸化物皮膜は、TinO(2n-1)を含み、nは1~5の整数であり、チタン酸化物皮膜の厚さは、10nm以上1000nm以下であり、母材は、純チタンまたはチタン合金からなる、チタン材。」
(2)引用文献2
ア 令和4年9月22日付けの取消理由通知において引用した引用文献2には以下の事項が記載されている。
「【技術分野】【0001】本発明は、工業用又は民生用電解プロセスに使用される電解用電極と、それを用いた電解方法、並びにそれを用いた電解装置に関する。」
「【0006】そこで、本発明は従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、容易な製造方法によって得られ、低電流密度による水の電気分解によって、高効率にてオゾンを生成することが可能であると共に、過酸化水素や強い酸化力を有するOHラジカルを生成することが可能である電解用電極及び、それを用いた電解方法、並びに、それを用いた電解装置を提供する。」
「【実施例1】【0024】図1は本発明の電解用電極の一例としての実施例1の電解用電極1の平断面図である。図1に示すように電解用電極1は、基体2と、当該基体2の表面に形成される中間層3と、当該中間層3の表面に形成される表面層4とから構成される。」
「【0035】上述した如く得られる電解用電極1は、表面層4は、すべて酸化チタンとされている。また、中間層3は、基体2のシリコンと、白金シリサイドを形成している。また、シリコンは、中間層3までで止まっており、表面層4の内部にまで拡散していない。また、同様に、中間層3を構成する白金も表面層4内部にまでは到達していない。」
イ 上記アから、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
(ア)段落【0006】によれば、「水の電気分解」が可能である「電解用電極」である。
(イ)段落【0024】によれば、「電解用電極1」は、「基体2」と、「表面層4」とから構成されるものである。
ここで段落【0035】によれば、「電解用電極1」の「表面層4」は「酸化チタン」である。
ウ 上記イから、引用文献2には次の技術的事項が記載されていると認められる。
「水の電気分解が可能である電解用電極が、基体と、表面層とから構成され、表面層は酸化チタンである」こと。
(3)引用文献3
ア 令和4年9月22日付けの取消理由通知において引用した引用文献3には以下の事項が記載されている。
「【技術分野】【0001】この発明は、電極部材、特にチタン電極部材とその製造方法に関するものである。この電極部材は、その表面に各種有機分子あるいは無機物質、有機・無機複合体、金属錯体、酵素を含む生体分子、分子触媒などの1種又は2種以上の触媒等(以下、触媒という)を固定することにより、水の電気分解装置、燃料電池、太陽電池、センサー等の電極に好適に利用され得る。」
「【0010】この発明の電極部材によれば、表面層が少なくとも酸化チタンの相を含むので、触媒を化学的に長期間安定に固定することができる。そして、表面層が前記多数の柱状結晶を含むくし型構造をとるので、大きい比表面積を有し、単位体積あたりの触媒修飾量が大きく反応効率に優れる。ここで、くし型とは、前記基材の表面を櫛の背とすると図1に示すように柱状結晶が櫛の歯のように基材から遠ざかる方向に延びている形状を指す。柱状結晶の酸化チタンを構成するチタンが、基材中のチタンもしくはチタン合金に由来するものであって、表面層が基材から連続して形成されているので、表面層は基材に強く固定されている。しかも前記酸化チタンはTiO2-xで表されるように酸素欠陥を有するものであってもよく、この場合は窒化チタンは含まれていないか又は検出されない程度の微量であっても導電性を有する。また、導電性を向上させるために表面層の一部が窒化チタンの相で構成されていてもよい。」
「【0039】[結晶相の同定]実施例1-5及び8、並びに比較例1と同一条件でそれぞれ処理を施したチタン金属板を薄膜X線回折装置にかけて、表面層の結晶相を解析したところ、図3に示すように窒素加熱処理における温度が高いほど窒化チタンのピークが顕著であった。また、加熱処理温度が高くなるにつれて、TiO2よりO/Ti比(理論値=2)が小さい、Ti4O7(O/Ti=1.75)、Ti2O3(O/Ti=1.5)の形成が確認できた。このことは酸素欠陥の形成を示していると考えられる。」
イ 上記アから、引用文献3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
(ア)段落【0010】に記載された、「電極部材」は「表面層」が少なくとも「酸化チタン」を含み、「酸化チタンはTiO2-xで表されるように酸素欠陥を有する」ものである。
ここで、段落【0039】によれば、「TiO2よりO/Ti比(理論値=2)が小さい、Ti4O7(O/Ti=1.75)、Ti2O3(O/Ti=1.5)」の形成は、「酸素欠陥」の形成を示すものである。してみると、段落【0010】でいう「TiO2-xで表されるように酸素欠陥を有する」「酸化チタン」は「Ti4O7」又は「Ti2O3」といえる。
したがって、引用文献3には、「電極部材」は、「表面層」が「Ti4O7」又は「Ti2O3」を含むことが記載されている。
(イ)段落【0001】によれば、「電極部材」は「水の電気分解装置」又は「燃料電池」の「電極」に利用されるものである。
ウ 上記イから、引用文献3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「電極部材は、表面層がTi4O7又はTi2O3を含み、水の電気分解装置又は燃料電池の電極に好適に利用される」こと。
(4)引用文献4
ア 令和4年9月22日付けの取消理由通知において引用した引用文献4には以下の事項が記載されている。
「【0028】〈本発明のチタン合金材〉図1は、本発明の一実施形態に係るチタン合金材の断面図である。本発明のチタン合金材は、母材1、および母材1上に形成される第1の酸化物層2を備える。以下、このチタン合金材が、主として、燃料電池のセパレータに用いられる場合について、説明する。」
「【0035】〈第1の酸化物層〉第1の酸化物層は、TiOx(1≦x<2)とMOy(1≦y≦2.5)とを含む。TiOxとの化学式で表されるチタン酸化物には、TiO、Ti2O3、Ti4O7などの低次酸化物、およびTiO2の結晶構造を有し酸素の一部が欠損したものが含まれ得る。第1の酸化物層には、これらのチタン酸化物の2種以上が存在し得る。xは、チタン酸化物の平均化学組成としての、Tiに対するOの原子比である。」
「【0070】〈燃料電池用セパレータ〉本発明のセパレータは、上記チタン合金材を備える。このセパレータは、プレス成形により所望の形状に形成されたものとすることができる。燃料電池が、たとえば、固体高分子形燃料電池である場合、セパレータは、後述のように、燃料ガスおよび酸化性ガスの流路となる溝がプレス成形により形成されたものとすることができる。この場合、基材を所望の形状にプレス成形した後、チタン酸化物層を形成してもよく、母材の上にチタン酸化物層が形成されたチタン合金材を得た後、このチタン合金材をプレス成形してもよい。」
「【0100】この本発明のチタン合金材は、たとえば、燃料電池のセパレータ、電気分解用の電極(たとえば、水の電気分解用の電極)等に利用することができる。」
イ 上記アから、引用文献4には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
(ア)段落【0028】によれば、「チタン合金材」は、「母材1、および母材1上に形成される第1の酸化物層2を備える」ものである。
そして段落【0035】によれば、「第1の酸化物層」はTiOx(1≦x<2)を含み、TiOxとの化学式で表されるチタン酸化物には、「TiO、Ti2O3、Ti4O7」などの低次酸化物」が含まれるから、「第1の酸化物層」は「TiO、Ti2O3、Ti4O7」が含まれるものといえる。
(イ)段落【0028】によれば、「チタン合金材」は「燃料電池のセパレータに用いられる」ものである。そして、段落【0070】によれば、「燃料電池用セパレータ」について、「燃料電池」は「固体高分子形燃料電池」である。
また、段落【0100】によれば、「チタン合金材」は、「燃料電池のセパレータ」又は「水の電気分解用の電極」に利用するものである。
してみると、引用文献4には、「チタン合金材」は「固体高分子形燃料電池」の「セパレータ」又は「水の電気分解用の電極」に用いられることが記載されている。
ウ 上記イから、引用文献4には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「チタン合金材は、母材、および母材上に形成される第1の酸化物層を備え、第1の酸化物層はTiO、Ti2O3、Ti4O7が含まれ、チタン合金材は、固体高分子形燃料電池のセパレータ又は水の電気分解用の電極に用いられる」こと。
2 本件発明1について
(1)本件発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)本件発明1の「電極板」とは、本願明細書の段落【0004】によれば、「単に『電極板』という時は、広義のバイポーラプレート、すなわち、MEAの用途を問わず、MEAの両面に配置される拡散層等を含む導電性部材の総称を表す」ものである。
そして、本願明細書の段落【0002】によれば、「固体高分子形燃料電池」は、「MEA」の両面に「セパレータ」が配置されるものであるところ、段落【0001】によれば、そのような「固体高分子形燃料電池用セパレータ」も「電極板」に含まれるものである。
してみると、引用発明1の「チタン材」は、「固体高分子形燃料電池のセパレータ」が備えるものであって、「セパレータ」として用いられるものといえるから、本件発明1の「電極板」に相当する。
但し、「電極板」について、本件発明1は「PEM水電解装置用バイポーラプレートとして用いられる」のに対して、引用発明1は「固体高分子形燃料電池のセパレータ」である点で相違する。
(イ)本件発明1の「基板」とは、本願明細書の段落【0017】によれば、「基板」は「チタン若しくはチタン合金」である。
してみると、引用発明1の「母材」は、「チタン材」が備えるものであり、また「純チタンまたはチタン合金からなる」ものであるから、本件発明1の「電極板」が備え、「チタン若しくはチタン合金」である「基板」に相当する。
(ウ)引用発明1の「チタン酸化物皮膜」は、「母材」の表面に形成されたものであるから、本件発明1の「前記基板の表面の少なくとも一部に形成された被覆膜」に相当する。
(エ)前記(ア)ないし(ウ)より、引用発明1の「チタン材は、母材と、母材の表面に形成されたチタン酸化物皮膜とを備え」ることは、本件発明の「(1)前記電極板は、基板と、前記基板の表面の少なくとも一部に形成された被覆膜とを備えている」ことに相当する。
(オ)本件発明1の「チタン亜酸化物」とは、本願明細書の段落【0019】によれば、「TixO2x-1」であって「xは、1以上の整数」で表される組成を有する化合物である。
してみると、引用発明1の「TinO(2n-1) 」であって「nは、1~5の整数」であるものは、本件発明1の「チタン亜酸化物」に含まれる。
よって、引用発明1の「チタン酸化物皮膜は、TinO(2n-1)を含み、nは1~5の整数」であることは、本件発明1の「(2)被覆膜は、チタン亜酸化物を含む」ことに相当する。
(カ)「被覆膜の厚さ」について、引用発明1は「10nm以上1000nm以下である」であるのに対し、本件発明1は「1000nm超100μm以下である」点で相違する。
(2)以上のことから、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「以下の構成を備えた電極板。(1)前記電極板は、基板と、前記基板の表面の少なくとも一部に形成された被覆膜とを備えている。(2)前記被覆膜は、チタン亜酸化物を含む。」
【相違点1】
「電極板」について、本件発明1は「PEM水電解装置用バイポーラプレートとして用いられる」のに対して、引用発明1は「固体高分子形燃料電池のセパレータ」である点。
【相違点2】
「被覆膜の厚さ」について、引用発明1は「10nm以上1000nm以下である」であるのに対し、本件発明1は「1000nm超100μm以下である」点。
(3)新規性についての小括
上記(2)のとおり、本件発明1と引用発明1とは相違点1及び2を有するものであるから、本件発明1は引用発明1ではない。
(4)相違点に対する判断
以下、相違点2について検討する。
上記1(1)アで抜粋したとおり、引用文献1の段落【0042】には、「チタン酸化物皮膜の厚さが1000nmより大きいと、チタン酸化物皮膜の厚さ方向の電気抵抗が無視できないほど大きくなる。」と記載されている。
よって、当業者が引用発明1の「10nm以上1000nm以下である」「チタン酸化物膜の厚さ」を1000nm超とする動機付けは引用文献1には存在しない。また、引用文献2ないし4にも「チタン材」の「チタン酸化物膜の厚さ」を1000nm超にするとの技術的事項は示されていない。
したがって、引用文献2ないし4に示された技術的事項に基づいて、引用発明1の「10nm以上1000nm以下である」「チタン酸化物膜の厚さ」を1000nm超とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
なお、申立人は異議申立書において、引用文献1(甲第1号証)及び引用文献2(甲第2号証)に引用文献1(甲第1号証)に記載された発明のチタン材のチタン酸化物膜の厚さを1000nm超とする旨の記載がなされている、又は、引用文献1(甲第1号証)に記載された発明のチタン材のチタン酸化物膜の厚さを1000nm超とすることが当業者にとって容易である、等の主張をしていない。
(5)進歩性についての小括
上記(4)のとおり、本件発明1は、相違点1を検討するまでもなく、上記引用発明1及び引用文献2ないし4が示す技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
3 本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の構成を全て有し、さらに限定したものであるから、本件発明2ないし4は、少なくとも相違点1及び2の点で引用発明1と相違する。そして、相違点2については上記(4)で検討したとおりであるから、本件発明2ないし4は引用発明1ではなく、また、引用発明1及び引用文献2ないし4が示す技術事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものでもない。
第6 むすび
したがって、請求項1ないし請求項4に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことはできない。また、他に請求項1ないし請求項4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項5に係る特許は、上記のとおり訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701109