特許異議申立
2026-700397
非水電解質電池用リード線、絶縁膜及び非水電解質電池
- 審判番号
- 2026-700397
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-124929
- 登録番号
- 7768067
- 請求日
- 2026年05月07日
- 審決日
- 2026年07月16日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】住友電気工業株式会社
- 【権利者代理人】池田 義典
- 【異議申立人】松山 徳子
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲高▼橋 真之
- 審判官 木村 貴俊
- 審判官 ▲吉▼澤 雅博
- 分類
- P1651.121-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7768067号発明「非水電解質電池用リード線、絶縁膜及び非水電解質電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7768067号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7768067号の請求項1~7に係る特許についての出願は、2021年12月27日を国際出願日とする特願2022-534768号の一部を令和4年8月4日に新たな特許出願としたものであって、令和7年11月4日にその特許権が設定登録され、令和7年11月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和8年5月7日に特許異議申立人 松山 徳子(以下、「申立人」という。)により、請求項1~7に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
特許第7768067号の請求項1~7の特許に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
導体と、
複数の層を有し、上記導体の外周面の少なくとも一部を被覆する絶縁膜と
を備え、
上記絶縁膜が上記導体の表面に積層される導体被覆層と、上記絶縁膜の最表面に積層される第1絶縁層と、上記第1絶縁層の内面に積層される第2絶縁層とを有し、
上記導体被覆層が酸変性ポリオレフィンを含み、
上記第2絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度におけるせん断破壊強度S2が6MPa以上17MPa以下であり、上記第1絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度におけるせん断破壊強度S1が6MPa以上16MPa以下である非水電解質電池用リード線。
【請求項2】
上記せん断破壊強度S2が15MPa以下である請求項1に記載の非水電解質電池用リード線。
【請求項3】
上記第2絶縁層の平均厚さT2が25μm以上であり、
上記第1絶縁層の平均厚さT1が25μm以上である請求項1又は請求項2に記載の非水電解質電池用リード線。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の非水電解質電池用リード線に用いる絶縁膜。
【請求項5】
封入容器と、
上記封入容器の内部から外部へ延びるように配置される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複数の非水電解質電池用リード線と
を備え、
上記封入容器が最内樹脂層、金属層及び最外樹脂層をこの順に積層されたシート体から構成されており、
上記最内樹脂層と上記第1絶縁層とが熱融着されている非水電解質電池。
【請求項6】
上記第1絶縁層の80℃以上125℃以下の範囲のいずれか1点の温度におけるせん断破壊強度S1に対する上記最内樹脂層の上記第1絶縁層と同じ温度におけるせん断破壊強度S4の比率(S4/S1)が0.50以上1.60以下である請求項5に記載の非水電解質電池。
【請求項7】
上記せん断破壊強度S4が3MPa以上20MPa以下である請求項6に記載の非水電解質電池。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人の特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
1 理由A(サポート要件違反)
本件の請求項1~7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから特許法第36条第6項第1号の規定に違反し、その特許は同法第113条第4号の規定により取り消されるべきである。
2 理由B(明確性違反)
本件の請求項1~7に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確でないから特許法第36条第6項第2号の規定に違反し、その特許は同法第113条第4号の規定により取り消されるべきである。
3 理由C(進歩性)
本件請求項1~7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきである。
[証拠]
甲第1号証:国際公開第2021/241560号
甲第2号証:国際公開第2021/100226号
第4 各甲号証の記載
1 甲第1号証について
(1)記載事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
「[0002] 近年、電気エネルギーを貯蔵するための蓄電池として、リチウムイオン電池などの2次電池、キャパシタ等が注目されている。蓄電池は、例えば、電池本体と、電池本体を収容する収容容器と、電池本体に接続された電極リード線とを備える。収容容器は、防水性、遮光性に優れた電池外装用積層体を用いて作製される。電池外装用積層体は、例えば、ポリアミド等からなる基材層と、アルミニウム箔とが積層された積層体である。電極リード線は、一端を含む部分が収容容器から外部に引き出された状態で収容容器に封止される。
[0003] 蓄電池では、収容容器に水が入ると、水が電解液中の成分と反応してフッ化水素が生成する可能性がある。フッ化水素は、電極リード線を劣化させ、電池寿命に影響を及ぼす場合がある。そのため、収容容器と電極リード線との間に、封止用のフィルム(樹脂フィルム)を介在させることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
封止用のフィルムは、電極リード線と収容容器とを接着し、収容容器と電極リード線との間に隙間ができるのを抑える。これにより、外部から前記隙間を通して収容容器内部へ水が浸入しにくくなる。」
「[0005] 封止用のフィルム(以下、封止フィルムという)は、電極リード線および収容容器に対する接着強度が高いことが好ましい。また、封止フィルムは、収容容器内の電解液に接触する可能性があるため、電解液に対する耐性が求められる。すなわち、封止フィルムには、次の3つの特性が求められる。
(i)電極リード線(第1基体)に対する接着強度。
(ii)収容容器(第2基体)に対する接着強度。
(iii)電解液に対する耐性。」
「[0019]<封止フィルム>
図1は、実施形態の封止フィルム1を示す概略断面図である。図2は、実施形態の電極リード線部材10を示す概略斜視図である。
[0020] 図2に示すように、電極リード線部材10は、電極リード線11と、封止フィルム1とを備える。電極リード線11は、「第1基体」の一例である。
図1に示すように、封止フィルム1は、第1接着層2と、第2接着層3と、基材層4とを備える。
[0021][第1接着層]
第1接着層2は、加熱又は加圧によって電極リード線11(図2参照)に融着(接着)する層である。第1接着層2の表面は、封止フィルム1の一方の表面1aである。第1接着層2は、樹脂で構成される。
[0022] 第1接着層2は、酸変性ポリオレフィンを主として含む。第1接着層2が「酸変性ポリオレフィンを主として含む」とは、第1接着層2を構成する樹脂のなかで、酸変性ポリオレフィンの含有率が最も高いことを意味する。第1接着層2は、第1接着層2の全量に対して酸変性ポリオレフィンを50質量%以上含む(好ましくは、酸変性ポリオレフィンを50質量%を越えて含む)ことが好ましい。第1接着層2は、第1接着層2の全量に対して酸変性ポリオレフィンを80質量%以上含むことが好ましい。
・・・
[0029] 第1接着層2を構成する樹脂の融点は、110℃以上150℃以下が好ましい。
第1接着層2を構成する樹脂の融点が110℃以上であると、熱圧着時に第1接着層2が過度に薄くなりにくく、接着強度を確保しやすい。第1接着層2を構成する樹脂の融点が150℃以下であると、熱圧着時に樹脂が流動しやすくなるため、電極リード線11の周囲に樹脂が十分に回り込み、電極リード線11の全周を封止しやすい。」
「[0034][第2接着層]
第2接着層3は、例えば、加熱又は加圧によって収容容器と融着(接着)する層である。収容容器については後述する。第2接着層3の表面は、封止フィルム1の他方の表面1bである。第2接着層3は、樹脂で構成される。
[0035] 第2接着層3は、ポリオレフィンを主として含む。第2接着層3が「ポリオレフィンを主として含む」とは、第2接着層3を構成する樹脂のなかで、ポリオレフィンの含有率が最も高いことを意味する。第2接着層3は、第2接着層3の全量に対してポリオレフィンを50質量%以上含む(好ましくは、ポリオレフィンを50質量%を越えて含む)ことが好ましい。第2接着層3は、第2接着層3の全量に対してポリオレフィンを80質量%以上含むことが好ましい。
・・・
[0041] 第2接着層3を構成する樹脂の融点は、110℃以上150℃以下が好ましい。
第2接着層3を構成する樹脂の融点が110℃以上であると、熱圧着時に第2接着層3が過度に薄くなりにくく、接着強度を確保しやすい。第2接着層3を構成する樹脂の融点が150℃以下であると、熱圧着時に樹脂が流動しやすくなるため、収容容器と電極リード線11との間を封止しやすい。」
「[0046][基材層]
基材層4は、第1接着層2と第2接着層3との間に介在して設けられている。基材層4は、樹脂で構成される。
[0047] 基材層4は、例えば、ポリオレフィンを主として含む。基材層4が「ポリオレフィンを主として含む」とは、基材層4を構成する樹脂のなかで、ポリオレフィンの含有率が最も高いことを意味する。基材層4は、基材層4の全量に対してポリオレフィンを50質量%以上含む(好ましくは、基材層4の全量に対してポリオレフィンを50質量%を越えて含む)ことが好ましい。基材層4は、基材層4の全量に対してポリオレフィンを80質量%以上含むことが好ましい。
・・・
[0058] 基材層4を構成する樹脂の融点は、150℃以上170℃以下が好ましい。
基材層4を構成する樹脂の融点が150℃以上であると、封止フィルム1の電解液耐性を確保しやすい。また、封止フィルム1に耐熱性を付与することができる。
基材層4を構成する樹脂の融点が170℃以下であると、封止フィルム1に柔軟性を与えることができる。そのため、電極リード線11および収容容器と、封止フィルム1との間に隙間が生じにくくなる。」
「[0061]<電極リード線部材>
図2に示すように、電極リード線部材10は、電極リード線11と、一対の封止フィルム1とを有する。
一対の封止フィルム1は、第1接着層2が向かい合って配置される。一対の封止フィルム1は、電極リード線11を挟持する。一対の封止フィルム1は、それぞれ電極リード線11の一方の面および他方の面に相当する領域に接する。そのため、一対の封止フィルム1は、全体として電極リード線11の全周に接している。
[0062] 電極リード線11は、リード線本体111と、表面処理層112とを有する。電極リード線11は、一方向に直線的に延在する。電極リード線11は、金属製である。
[0063] 電極リード線11は、導電性を有する。電極リード線11は、リチウムイオン電池30(図3参照)と電気的に接続される。電極リード線11は、リチウムイオン電池30と外部機器とを通電させる。
リード線本体111の材料としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、金、白金、各種合金など、公知の金属を用いることができる。なかでも、導電性に優れ、コスト的にも有利なことから、アルミニウム又は銅が好ましい。」
「[0091]<電解液に対する耐性試験>
電解液に対する封止フィルムの耐性を次のようにして評価した。
電池外装用積層体を用いて包装袋を作製し、その中に、LiPF6を1.0mol/リットル含む電解液(DMC:EMC:EC=4:3:3)を入れた。電解液には、純水を0.2質量%(2000ppm)添加した。」
「
[図:0001438322000001.jpg]
」
(2)記載された技術事項
上記記載事項より、甲第1号証には次の技術事項が記載されているといえる。
ア [0062]には、「電極リード線11」は、「リード線本体111」を有すること、[0063]には、「リード線本体111の材料」として、「導電性を有する」「金属を用いる」ことが記載されている。
イ [0020]には、「電極リード線部材10は、電極リード線11と、封止フィルム1とを備える」ことが記載されており、図2から、封止フィルム1はリード線本体111の外周面の少なくとも一部を被覆していることが看取できる。
ウ [0020]には、「封止フィルム1は、第1接着層2と、第2接着層3と、基材層4とを備える」ことが記載されており、図1及び図2、並びに[0021]、[0034]及び[0046]の記載から、封止フィルム1の電極リード線11側の面1aに第1接着層2が設けられ、反対面1bに第2接着層3が設けられ、第1接着層2と第2接着層3との間に基材層4が介在して設けられているといえる。
エ [0022]には、「第1接着層2は、酸変性ポリオレフィンを主として含む」ことが記載されており、[0035]及び[0047]には、第2接着層及び基材層は「ポリオレフィンを主として含む」ことが記載されている。
オ [0063]の記載から、電極リード線11はリチウムイオン電池30に用いるもので、[0091]の記載から、実施例において用いられているリチウムイオン電池は、電解質を含むリチウムイオン電池であるといえる。
(3)記載された発明
上記(2)ア~オの技術事項を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「導電性を有する金属を用いたリード線本体と、
リード線本体の外周面の少なくとも一部を被覆している封止フィルムを備えた電極リード線部材において、
封止フィルムは、第1接着層と、第2接着層と、基材層とを備え、封止フィルムの電極リード線側の面に第1接着層が設けられ、反対面に第2接着層が設けられ、第1接着層と第2接着層との間に基材層が設けられており、
第1接着層は、酸変性ポリオレフィンを主として含み、第2接着層及び基材層はポリオレフィンを主として含む、
電解質を含むリチウムイオン電池用電極リード線部材。」
2 甲第2号証について
(1)記載事項
「[0008] 本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、リード導体と外装パッケージとの間に封止フィルムを挟んで熱シールすることによって、外装パッケージ中の金属層とリード導体との間のショートを防ぐことができるとともに、電池内部の圧力が上昇した場合にシール部分が破壊されて液漏れするのを防ぐことができる、絶縁性及び密封性に優れた二次電池を提供することを目的とする。また、そのような二次電池に使用される封止フィルム及びそれを用いたタブリードを提供することを目的とする。」
「[0014] 上記課題は、リード導体の一部の両面が、上記封止フィルムで被覆されてなるタブリードを提供することによっても解決される。」
「[0018] 本発明は、外装パッケージで覆われた二次電池において、正極又は負極に接続されたリード導体と前記外装パッケージとの間に配置されて熱シールされる封止フィルムに関する。図1に示すように、本発明の封止フィルム20はコア層21とその両面にスキン層22、23が形成されてなる3層の多層封止フィルムである。
[0019] 図2に、封止フィルム20を用いた本発明の二次電池10の外観を示す。また図3に、本発明の二次電池10の熱シール部分の断面図を示す。本発明の二次電池10は、正極、負極、電解質及びセパレータを含む発電要素と、該発電要素を収容し周縁部が熱シールされてなる外装パッケージ40と、前記正極又は前記負極に接続されて外装パッケージ40の外側に引き出されるリード導体31と、外装パッケージ40とリード導体31の間に配置されて熱シールされる封止フィルム20を有するものである。このときの外装パッケージ40は、酸素や水分の透過を防ぐための金属層42と、熱シールするためのシーラント樹脂層41を含む多層フィルムからなるものであり、パウチ形状に封止されることが多い。このとき、リード導体31と外装パッケージ40中の金属層42とのショートを防ぎ、リード導体31と外装パッケージ40間での密封性を向上させるために、本発明の封止フィルム20が採用される。
[0020] 背景技術の欄でも記載したように、近年、リチウムイオン二次電池が大型化しており、その場合の外装パッケージの熱シール工程では、小型の電池よりも大きな熱量でヒートシール工程が行われるため、ショートによる不良発生のリスクが更に高くなっている。そのため、封止フィルムにはより高度な絶縁性が要求されるようになっている。絶縁性を向上させる方策の一つとして、特許文献1及び2に記載されているように、封止フィルムをポリプロピレンの3層構造にして、スキン層のポリプロピレンに比べてコア層のポリプロピレンの融点や溶融粘度や荷重たわみ温度を高くする方策が提案されている。これによって、スキン層が容易に溶融流動して熱接着を可能にしながらも、コア層が上下からの圧力に耐えて十分な厚みを維持することができ、絶縁性が確保される。」
「[0025] 本発明の封止フィルム20の最大の特徴は、コア層21が、融点が155~166℃であり、メルトフローレート(MFR)が0.5~5g/10minであるポリプロピレンを含み、コア層21のシャルピー強度が15kJ/m2以上であることである。
[0026] コア層21に含まれるポリプロピレンの融点は155~166℃である。当該融点が155℃未満の場合、スキン層22、23に含まれるポリプロピレンとの融点の差が小さくなるので好ましくない。ここで、熱シール工程では、スキン層22、23を溶融させて、スキン層22、23と、リード導体31や外装パッケージ40とを熱融着させる。このとき、コア層21に含まれるポリプロピレンの融点を155℃以上とすることで、熱シール工程において加熱加圧された場合であっても、コア層21はスキン層22、23に比べ流動し難いので、コア層21として一定の厚みを確保することができ、優れた絶縁性を得ることができる。融点は158℃以上であることが好ましく、161℃以上であることがより好ましく、163℃以上であることがさらに好ましい。一方、融点は165℃以下であることが好ましい。本明細書における融点とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、2nd Run測定時に昇温速度10℃/minで測定される融解ピーク温度(℃)のことをいう。ここで、融解ピークが2つ以上観測された場合には、ベースラインを基準にしたピーク高さが最も高いピークの温度を、コア層21に含まれるポリプロピレンの融解ピーク温度(℃)とする。スキン層22、23についても同様である。」
「[0034] スキン層22、23の少なくとも一方の層に含まれるポリプロピレンが、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物又は不飽和エポキシ化合物で変性されていることが好ましい。これらの変性は、ランダム共重合あるいはブロック共重合によるものであってもよく、グラフト変性であってもよい。
[0035] 本発明において、スキン層22、23の一方の層がリード導体31と接着する金属接着層22であり、他方の層が外装パッケージ40と接着するパッケージ接着層23であることが好ましい。このとき、金属接着層22に含まれるポリプロピレンが、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物又は不飽和エポキシ化合物で変性されたポリプロピレンであることが好ましい。こうすることによって、リード導体31との密着性を向上させることができる。中でも、ポリプロピレンが、不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸無水物で変性されたポリプロピレンであることがより好ましい。
[0036] 金属接着層22に含まれるポリプロピレンとパッケージ接着層23に含まれるポリプロピレンとが、同じ種類のポリプロピレンであってもかまわないし、異なる種類のポリプロピレンであってもかまわない。同じ種類のポリプロピレンを用いることにより、封止フィルム20において金属接着層22とパッケージ接着層23の区別がなくなるため、封止作業を行うときに表裏面の識別が不要となり作業性が向上するとともに、表裏面を誤ることによる不良品の発生を防止することもできる。」
(2)記載された技術事項
上記記載事項より、甲第2号証には次の技術事項が記載されているといえる。
ア [0014]には、「リード導体の一部の両面が、上記封止フィルムで被覆されてなるタブリードを提供する」ことが記載されており、[0020]の記載から、封止フィルムには絶縁性があるといえる。
イ [0018]には、「封止フィルム20はコア層21とその両面にスキン層22、23が形成されてなる3層の多層封止フィルムである。」と記載されており、[0035]には、「スキン層22、23の一方の層がリード導体31と接着する金属接着層22であり、他方の層が外装パッケージ40と接着するパッケージ接着層23である」と記載されている。
ウ また、[0035]には、「金属接着層22に含まれるポリプロピレンが、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物又は不飽和エポキシ化合物で変性されたポリプロピレンである」と記載されており、[0036]の記載から、パッケージ接着層23はポリプロピレンを含むといえる。
エ [0025]には、「コア層はポリプロピレンを含み」、「シャルピー強度が15kJ/m2以上である」ことが記載されている。
オ [0008]には、「二次電池に使用される封止フィルム及びそれを用いたタブリードを提供する」と記載されており、[0019]には、「二次電池10は、正極、負極、電解質及びセパレータを含む発電要素と、・・・リード導体31と、・・・封止フィルム20を有するものである。」と記載されていることから、上記アの記載を踏まえると、タブリードは二次電池に用いるものであるといえる。
(3)記載された発明
上記(2)ア~オの技術事項を総合勘案すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「リード導体の一部の両面が、絶縁性がある封止フィルムで被覆されてなるタブリードであって、
封止フィルム20はコア層21とその両面にスキン層22、23が形成されてなる3層の多層封止フィルムで、
当該スキン層22、23の一方の層がリード導体31と接着する金属接着層22であり、他方の層が外装パッケージ40と接着するパッケージ接着層23であり、
金属接着層22に含まれるポリプロピレンが、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物又は不飽和エポキシ化合物で変性されたポリプロピレンであり、パッケージ接着層23はポリプロピレンを含み、
コア層21はポリプロピレンを含み、シャルピー強度が15kJ/m2以上である
正極、負極、電解質及びセパレータを含む二次電池に用いるタブリード。」
第5 当審の判断
1 理由A(サポート要件違反)について
(1)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、概略、次のように主張している。
ア 理由A-1
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0010】、【0011】に記載のように、封入容器とリード線とが、高温下でも、良好な接着性を実現することであり、課題を解決するには、接着する対象である「封入容器の最内樹脂層」と「リード線の第1絶縁層」の組み合わせが必須の構成である。
ここで、本件発明は、「第1絶縁層」及び「第2絶縁層」の「せん断破壊強度」を所定範囲にコントロールすることで、上述した課題を全て達成できるよう本件明細書には記載されているが、2つの絶縁層の「せん断破壊強度」をコントロールすることで実現できる技術的効果は、【0015】に記載のように物理的な力が多層構造の絶縁膜(第1絶縁層/第2絶縁層)に作用した場合に、作用する力が一層(第1絶縁層/第2絶縁層のいずれか)に集中せず、できるだけ偏在しないように均等に案分するものである。
2つの絶縁層の「せん断破壊強度」を所定範囲にコントロールするだけでは、「非水電解質電池の封入容器との高温下における接着性に優れる」という課題を解決することはできず、「酸変性ポリプロピレンを含む封入容器の最内樹脂層」と「ポリプロピレンである第1絶縁層」との強固な溶着を前提として達成されるものである。
本件発明では、封入容器の最内樹脂層とリード線の第1絶縁層とを具体的に限定していないため、あらゆる材料の封入容器の最内樹脂層及び第1絶縁層で課題を解決できたかは不明であり、技術常識に照らしても、本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。(異議申立書18頁12行~19頁17行)
イ 理由A-2
本件明細書では、リード線に固着された「絶縁膜」が備える外側から2つの層「第1絶縁層」及び「第2絶縁層」の「せん断破壊強度」が所定範囲にコントロールされることで、課題を達成できるよう記載されている。
コントロールされた「第1絶縁層」及び「第2絶縁層」のせん断破壊強度は、「導体」に「絶縁膜」を熱で固着した状態、すなわち、熱処理した後の「絶縁膜」が備える、外側から2つの層「第1絶縁層」及び「第2絶縁層」のせん断破壊強度である。
上記熱処理として、本件明細書では【0084】に「金型温度220℃、面圧0.3MPaの条件でヒートシールを行った。」と記載されている。
しかしながら、本件発明は、ヒートシール条件を具体的に限定していないため、如何なるヒートシール条件でヒートシールした場合であっても課題を解決できたかは不明であり、技術常識に照らしても、本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。(異議申立書19頁18行~20頁10行)
(2)当審の判断
ア 理由A-1について
本件特許は、本件明細書の【0011】の記載からみて、「高温下におけるリード線と非水電解質電池の封入容器との接着性の向上」を課題とするものである。
一方、本件明細書の【0015】には、「また、上記第2絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度におけるせん断破壊強度S2に対する上記第1絶縁層の上記第2絶縁層と同じ温度におけるせん断破壊強度S1の比率(S1/S2)が0.33以上3.0以下であることで、高出力の電池が到達する温度範囲のせん断破壊強度が、上記第1絶縁層と上記第1絶縁層の内面に積層される第2絶縁層とで近い範囲となる。一般に、非水電解質電池の使用上限温度は60℃付近であり、電池内部にて電解液、電解質などが劣化し分解ガスとなって内圧がかかった際に起きる剥離現象では、最初に剥離の起点となる絶縁膜などの材料破壊が起き、次にできた起点から剥離が進行して、接着部全体が剥離して分解ガスや電解液が漏洩する事態となる。しかし、当該非水電解質電池用リード線は、この従来の上限温度以上の高温下において上記絶縁膜に対して剥離する方向に力が生じても、第1絶縁層と上記第1絶縁層の内面に積層される第2絶縁層とのせん断破壊強度が近いことから、どちらか片方の層へ破壊現象が片寄ることがなく、剥離の起点になったとしてもそれ以上の剥離の進行を抑えることができる。そのため、当該非水電解質電池用リード線が非水電解質電池の封入容器に収容され、上記封入容器と当該非水電解質電池用リード線とが上記絶縁膜を介して接着された場合に、高温下においても強固な接着性を維持しやすい。」と記載されている。
上記記載からみて、本件特許は、上記課題に関して、「使用上限温度は60℃付近」における「内圧がかかった際に起きる剥離現象」について、「最初に剥離の起点となる絶縁膜などの材料破壊が起き、次にできた起点から剥離が進行」する点に着目し、その対策として「従来の上限温度以上の高温下」においても内圧がかかった際に「非水電解質電池用リード線」の「絶縁膜に対して剥離する方向に力が生じても、第1絶縁層と上記第1絶縁層の内面に積層される第2絶縁層とのせん断破壊強度が近いことから、どちらか片方の層へ破壊現象が片寄ることがなく、剥離の起点になったとしてもそれ以上の剥離の進行を抑える」ことにより課題を解決するものである。
してみると、本件明細書に接した当業者は、本件発明が、非水電解質電池用リード線を構成する絶縁膜の第1絶縁層と第2絶縁層について、高温下におけるせん断破壊強度を所定範囲に特定することにより、どちらか片方の層へ破壊現象が片寄ることがなく、剥離の起点になったとしても絶縁膜におけるそれ以上の剥離の進行を抑えることにより、封入容器とリード線との接着部全体の剥離を抑制して、高温下における接着性を維持し得るものと理解することができる。
また、本件明細書の上記記載は、「80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度における第1絶縁層のせん断破壊強度S1及び第2絶縁層のせん断破壊強度S2の比率(S1/S2)が0.33以上3.0以下」とするものであるが、本件発明において特定された第1絶縁層と第2絶縁層とのせん断破壊強度は、それぞれ「せん断破壊強度S1が6MPa以上16MPa以下」、「せん断破壊強度S2が6MPa以上17MPa以下」であることから、S1/S2は、少なくとも約0.353以上2.67以下の範囲となり、上記記載の「0.33以上3.0以下」の範囲内にある。
してみると、本件発明1~4については、封入容器の最内樹脂層について特定されていなくとも、リード線側の絶縁膜の層構成及び高温下でのせん断破壊強度を特定することにより、少なくとも絶縁膜における剥離の進行を抑えるという課題解決手段を把握することができる。
また、本件発明5~7についても、請求項1を引用しており、請求項5においては、最内樹脂層を含む封入容器の構成が特定され、請求項6及び7においては、最内樹脂層のせん断破壊強度S4又はS4/S1が特定されており、本件明細書の【0024】、【0025】には、最内樹脂層と第1絶縁層とのせん断破壊強度の関係により応力集中を抑制し得ることが記載されている。
したがって、申立人のいうように、封入容器の最内樹脂層の材料名が具体的に限定されていないことをもって、直ちに本件発明1~7が発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
イ 理由A-2について
上記アで検討したように、本件明細書には、非水電解質電池用リード線を構成する絶縁膜の第1絶縁層と第2絶縁層の高温下でのせん断破壊強度をコントロールすることにより、どちらか片方の層へ破壊現象が片寄ることがなく、剥離の起点になったとしてもそれ以上の剥離の進行を抑え、接着部全体の剥離を抑制して、封入容器とリード線との強固な接着性を維持し得ることが記載されている。
してみると、封入容器とリード線との強固な接着性の維持のためには、第1絶縁層及び第2絶縁層の高温下でのせん断破壊強度を特定すれば足り、当該せん断破壊強度の絶縁層を製造するためのヒートシール条件は課題を解決するために必須の構成であるとは認められない。
よって、本件発明は、特定のヒートシール条件自体を課題解決手段とするものではなく、最終的に得られる絶縁膜における第1絶縁層及び第2絶縁層の高温下でのせん断破壊強度により課題解決するものである。
したがって、実施例に記載されたヒートシール条件が請求項に限定されていないことをもって、本件発明が発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
ウ まとめ
以上のことより、本件の請求項1~7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであって、特許法第36条第6項第1号に適合しないものとはいえない。
したがって、申立人の主張する申立理由Aは理由がない。
2 理由B(明確性違反)について
(1)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、概略、次のように主張している。
ア 理由B-1
本件発明は、「第1絶縁層」及び「第2絶縁層」の「せん断破壊強度」の範囲を規定しているところ、本件明細書の【0016】にせん断破壊強度の測定方法として、垂直速度と水平速度とを低速モードとして、絶縁膜の表面から切刃で切削したと記載されている。
ここで、絶縁膜の表面の水平面上に、どの方向で切刃を向けて押し込んだのかが、全く不明である。
本件明細書において、絶縁膜は押出成形により製造されることが記載されており(【0056】)、押出成形により成型されたフィルムは、仮に未延伸と称されるフィルムであっても、実際にはフィルムの巻き取り方向(MD)と幅方向(TD)では物性が異なるものとなる。
すなわち、切刃を押し込む断面によっては、測定値が変動する可能性が高い。
そうすると、本件明細書には切刃の押し込み方向が不明であるため、本件明細書に記載のせん断破壊強度の測定方法では測定条件が不十分であり、どのような条件でせん断破壊強度S2及びせん断破壊強度S1を測定した場合に本件発明の範囲となるのか不明確である。(異議申立書20頁12行~21頁2行)
イ 理由B-2
課題を解決できたことの評価として、本件明細書の【0089】に(剥離強度)の評価を記載しているが、当該評価におけるサンプルの具体的な説明が記載されていない。
本件明細書の【0084】~【0086】に非水電解質電池用リード線、封入容器、及び、非水電解質電池の作製についてそれぞれ記載されているが、これらの段落に記載された方法で作製された非水電解質電池を用いてどのような剥離強度測定用のサンプルを作製したかは記載も示唆もされていない。
よって、どのようにして作製したサンプルであれば本件発明の課題を解決できることになるのかが不明瞭であるため、本件発明がどのようにして課題を解決できたのかが不明瞭である。(異議申立書21頁3行~13行)
(2)当審の判断
ア 理由B-1について
本件発明は、絶縁膜の第1絶縁層と第2絶縁層とのせん断破壊強度を特定するものである。
ここで、本件明細書の【0016】には、せん断破壊強度の測定方法として、測定対象試料の各表面側の表層部を、垂直速度及び水平速度を一定速度で切刃により切削し、切削時に切刃にかかる水平力及び切削断面積を求め、求められた水平力及び切削断面積を用いて、式(1)により算出することが、測定装置、垂直速度、水平速度、切削力プロファイル等の条件とともに具体的に記載されている。してみると、当業者は、積層体である絶縁膜のせん断破壊強度について、絶縁膜の表面側の表層部を、垂直速度及び水平速度を一定速度で切刃により切削し、切削時に切刃にかかる水平力及び切削断面積を求め、求められた水平力及び切削断面積を用いて、算出するものと理解できる。
したがって、本件発明は、絶縁膜において測定され、算出されるせん断破壊強度が特定された範囲内にあるものとして明確である。
仮に、申立人の主張のように、フィルムの方向による物性の違いによって、フィルム断面のせん断破壊強度の測定値が異なるとしても、本件発明が「第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確」であるとまではいえない。
よって、本件発明1におけるせん断破壊強度S1及びS2の測定方法が不明確であるとはいえず、請求項1、及びこれを直接又は間接に引用又は前提とする請求項2~7の記載が特許法第36条第6項第2号に違反するとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
イ 理由B-2について
本件発明は、絶縁膜の第1絶縁層と第2絶縁層とのせん断破壊強度を特定するものであるが、剥離強度又はその測定用サンプルの構成を発明特定事項として含むものではない。
したがって、実施例における剥離強度測定用サンプルの具体的説明がないことは、請求項に記載された発明の範囲を直ちに不明確にするものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
ウ まとめ
以上のことより、本件発明1~7は、特許を受けようとする発明が明確でないとはいえず、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するとはいえない。
したがって、申立人の主張する申立理由Bは理由がない。
3 理由C(進歩性)について
(1)理由C-1(甲第1号証に対する進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「導電性を有する金属を用いたリード線本体」は、本件発明1の「導体」に相当する。
b 甲1発明の「封止フィルム」は、「第1接着層と、第2接着層と、基材層とを備え」ていることから、複数の層を有しているといえる。また、各層は「変性ポリオレフィン」又は「ポリオレフィン」を主として含んでおり、ポリオレフィン樹脂は、通常、電気絶縁性物質であることから、封止フィルムも絶縁性を有するといえる。
よって、甲1発明の「封止フィルムは、第1接着層と、第2接着層と、基材層とを備え」ている点、及び「リード線本体の外周面の少なくとも一部を被覆している封止フィルム」は、本件発明1の「複数の層を有し、上記導体の外周面の少なくとも一部を被覆する絶縁膜」に相当する。
c 甲1発明の「第1接着層」は「封止フィルムの電極リード線側の面に」が設けられていることから、本件発明1の「上記導体の表面に積層される導体被覆層」に相当する。
甲1発明の「第2接着層」は「反対面に」設けられていることから、本件発明1の「上記絶縁膜の最表面に積層される第1絶縁層」に相当する。
甲1発明の「基材層」は「第1接着層と第2接着層との間に」「介在して」設けられていることから、本件発明1の「上記第1絶縁層の内側に積層される第2絶縁層」に相当する。
よって、甲1発明の「封止フィルム」は、本件発明1の「上記絶縁膜が上記導体の表面に積層される導体被覆層と、上記絶縁膜の最表面に積層される第1絶縁層と、上記第1絶縁層の内面に積層される第2絶縁層とを有」することに相当する構成を有する。
d 甲1発明は「第1接着層は、酸変性ポリオレフィンを主として含」むことから、本件発明1の「上記導体被覆層が酸変性ポリオレフィンを含」むことに相当する。
e 本件発明1は、「上記第2絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度におけるせん断破壊強度S2が6MPa以上17MPa以下であり、上記第1絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度におけるせん断破壊強度S1が6MPa以上16MPa以下である」のに対して、甲1発明は、基材層のせん断破壊強度及び第2接着層のせん断破壊強度に関してそれぞれ特定されていない点で相違する。
f 本件明細書の【0060】の「当該非水電解質電池10は、上述した当該非水電解質電池用リード線1を備える。非水電解質電池としては、例えばリチウムイオン電池等の二次電池が挙げられる。」との記載、【0061】の「非水電解質電池(二次電池)10は、図示しない板状の正極、板状の負極及び非水電解質(例えば非水電解液)と、封入容器11と、複数の、具体的には2本の非水電解質電池用リード線1とを備える。」との記載、【0067】の「非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。」との記載から、本件発明1の「非水電解質電池用リード線」は「リチウムイオン電池等の二次電池」に備えられるものといえる。
また、本件明細書の【0061】の「本実施形態の非水電解質電池用リード線1は、上述したように、絶縁膜5が導体被覆層6、第2絶縁層7及び第1絶縁層8を備える。」との記載から、本件発明1の「非水電解質電池用リード線」は、「導体」と「絶縁膜」とを備えているといえる。
一方、甲1発明では、「電極リード線部材」が、「リード線本体」と「封止フィルム」とを備えており、「電解質電池であるリチウムイオン電池用」であることから、甲1発明の「電極リード線部材」は、本件発明1の「リード線」に対応する。
してみると、甲1発明の「電解質を含む電池であるリチウムイオン電池用電極リード線部材」と、本件発明1の「非水電解質電池用リード線」とは、「電解質電池用リード線」で一致する。
ただし、本件発明1では、「非水電解質」であるのに対して、甲1発明には、電解質を含むものの、非水電解液とはいえない点で相違する。
g 上記a~fより、本件発明1と甲1発明とは、
「導体と、
複数の層を有し、上記導体の外周面の少なくとも一部を被覆する絶縁膜と
を備え、
上記絶縁膜が上記導体の表面に積層される導体被覆層と、上記絶縁膜の最表面に積層される第1絶縁層と、上記第1絶縁層の内面に積層される第2絶縁層とを有し、
上記導体被覆層が酸変性ポリオレフィンを含む、電解質電池用リード線。」
である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点1〉
本件発明1は、「上記第2絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度におけるせん断破壊強度S2が6MPa以上17MPa以下であり、上記第1絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度におけるせん断破壊強度S1が6MPa以上16MPa以下である」のに対して、甲1発明は、基材層のせん断破壊強度及び第2接着層のせん断破壊強度に関してそれぞれ特定されていない点。
〈相違点2〉
電解質が、本件発明1は「非水電解質」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点。
(イ)判断
相違点1について検討する。
甲1発明の「基材層」及び「第2接着層」は、「ポリオレフィンを主として含む」ものである。
しかしながら、樹脂のせん断破壊強度の値は、同じポリプロピレンであったとしても、その種類、例えばホモポリプロピレンと低結晶性ポリプロピレンとでは異なること、また、樹脂に添加される無機フィラー等によっても調整できることは、技術常識であるといえる。すると、技術常識を踏まえても母材となる当該事項だけからせん断破壊強度の値そのものは明らかではなく、また、甲第1号証にはせん断破壊強度について示唆もされていないから、甲1発明においてせん断破壊強度S1を6MPa以上16MPa以下とすること及びS2を6MPa以上17MPa以下とすることが容易であるということはできない。
また、甲第1号証の他の記載等を考慮しても、せん断破壊強度S1を6MPa以上16MPa以下とすること及びS2を6MPa以上17MPa以下とすることは容易であるとはいえない。
なお、特許異議申立人は特許異議申立書において以下の主張をしている。
構成C(相違点1)に関し、甲第1号証の実施例に記載の封止フィルムの構成は、「酸変性ポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレン」であり、これは本件明細書の実施例に記載の絶縁膜と同じ構成で、甲第1号証の[0058]には「封止フィルム1に耐熱性を付与する」と本件発明に係る課題と同じ効果を奏することが記載されており、甲第1号証には本件発明と用途が同じで課題も同じ発明が記載されているから、本件発明1に規定のせん断破壊強度S1及びせん断破壊強度S2を満たす蓋然性が高く、仮にそうでないとしても当業者であれば本件発明1に規定のせん断破壊強度S1及びせん断破壊強度S2を満たすようにすることは容易になし得る。(異議申立書28頁11行~29頁3行)
しかしながら、母材の材質と耐熱性だけでせん断破壊強度は特定されないから、甲第1号証で使用されるポリオレフィンと本件明細書等に記載のランダムポリプロピレンが融点の共通するランダムポリプロピレンであったとしても、両者のせん断破壊強度が共通の値であるとはいえない。よって、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、相違点2を検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて本件発明1の相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
よって、本件の請求項1に係る発明は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとは認められず、本件の請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
イ 本件発明2~7について
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに第2絶縁層のせん断破壊強度S2を15MPa以下に限定するものである。また、本件発明2及び3は、本件発明1に係る非水電解質電池用リード線の構成を含む非水電解質電池用リード線に係るもので、本件発明4は、本件発明1~3に係る非水電解質電池用リード線の構成要素を含む絶縁膜に係るもので、本件発明5~7は、本件発明1に係る非水電解質電池用リード線を構成要素として含む非水電解質電池に係るものである。
よって、本件発明2~7は、甲1発明に対して、少なくとも本件発明1について認定した相違点1に係る構成を含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとは認められない。
したがって、本件の請求項2~7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(2)理由C-2(甲第2号証に対する進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
a 甲2発明の「リード導体」は、本件発明1の「導体」に相当する。
b 甲2発明の「封止フィルム20はコア層21とその両面にスキン層22、23が形成されてなる3層の多層封止フィルム」であることから、複数の層を有しているといえる。
よって、甲2発明の「リード導体の一部の両面が、絶縁性がある封止フィルムで被覆されてなるタブリードであ」ることは、本件発明1の「複数の層を有し、上記導体の外周面の少なくとも一部を被覆する絶縁膜」に相当する。
c 甲2発明の「金属接着層22」は、リード導体である金属の表面に積層されることから、本件発明1の「導体被覆層」に相当する。また、甲2発明の「コア層21」はスキン層22、23の間にあることから、本件発明1の「第2絶縁層」に相当する。
そうすると、甲2発明の「封止フィルム20はコア層21とその両面にスキン層22、23が形成されてなる3層の多層封止フィルムで」及び「当該スキン層22、23の一方の層がリード導体31と接着する金属接着層22であり、他方の層が外装パッケージ40と接着するパッケージ接着層23である」は、本件発明1の「上記絶縁膜が上記導体の表面に積層される導体被覆層と、上記絶縁膜の最表面に積層される第1絶縁層と、上記第1絶縁層の内面に積層される第2絶縁層とを有」することに相当する。
d 甲2発明は「金属接着層22に含まれるポリプロピレンが、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物又は不飽和エポキシ化合物で変性されたポリプロピレンであ」ることから金属接着層22は酸変性されたポリプロピレンを含み、そして、ポリオレフィンはポリプロピレンを含むプラスチックの総称であることから、本件発明1の「上記導体被覆層が酸変性ポリオレフィンを含」むことに相当する。
e 本件発明1は、「上記第2絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度におけるせん断破壊強度S2が6MPa以上17MPa以下であり、上記第1絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度におけるせん断破壊強度S1が6MPa以上16MPa以下である」のに対して、甲2発明は、「コア層21はポリプロピレンを含みシャルピー強度が15kJ/m2以上である」点、及び「パッケージ接着層はポリプロピレンを含む」点は特定されているものの、コア層のせん断破壊強度及びパッケージ接着層のせん断破壊強度の特定がない点で相違する。
f 甲2発明の「正極、負極、電解質及びセパレータを含む二次電池に用いるタブリード」は、本件発明1の「電池用リード線」に対応する。
ただし、電解質が、本件発明1では、「非水電解質」であるのに対して、甲2発明では二次電池の電解質が水以外のものであると特定されていない点。
g 上記a~fより、本件発明1と甲2発明とは、
「導体と、
複数の層を有し、上記導体の外周面の少なくとも一部を被覆する絶縁膜と
を備え、
上記絶縁膜が上記導体の表面に積層される導体被覆層と、上記絶縁膜の最表面に積層される第1絶縁層と、上記第1絶縁層の内面に積層される第2絶縁層とを有し、
上記導体被覆層が酸変性ポリオレフィンを含む、電池用リード線。」
である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点3〉
本件発明1は、「上記第2絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度におけるせん断破壊強度S2が6MPa以上17MPa以下であり、上記第1絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度におけるせん断破壊強度S1が6MPa以上16MPa以下である」のに対して、甲2発明は、「コア層21はポリプロピレンを含みシャルピー強度が15kJ/m2以上である」点、及び「パッケージ接着層はポリプロピレンを含む」点は特定されているものの、コア層のせん断破壊強度及びパッケージ接着層のせん断破壊強度の特定がない点。
〈相違点4〉
電解質が、本件発明1は「非水電解質」であるのに対して、甲2発明はその旨特定されていない点。
(イ)判断
相違点3について検討する。
甲2発明の「コア層」は「ポリオレフィンを主として含み、シャルピー強度が15kJ/m2以上」であり、「パッケージ接着層」は「ポリプロピレンを含」むものである。
しかしながら、技術常識を踏まえても当該事項だけからせん断破壊強度の値そのものは明らかではなく、また、せん断破壊強度について示唆もされていないから、甲2発明においてせん断破壊強度S1を6MPa以上16MPa以下とすること及びS2を6MPa以上17MPa以下とすることが容易であるということはできない。
また、甲第2号証の他の記載や甲第1号証の記載を考慮しても、せん断破壊強度S1を6MPa以上16MPa以下とすること及びS2を6MPa以上17MPa以下とすることは容易であるとはいえない。
なお、特許異議申立人は特許異議申立書において以下の主張をしている。
構成C(相違点3)に関し、甲第2号証の[0051]、[0055]、[0056]、[表1]には、実施例1、3として、酸変性プロピレンランダムコポリマーペレット(A-PP、外層用(金属接着層22)、「導体被覆層」に相当)/ポリプロピレンブロックコポリマーペレット(B-PP、「第2絶縁層」に相当)/ポリプロピレンランダムコポリマーペレット(R-PP、外層用(パッケージ接着層23用)、「第1絶縁層」に相当)の3層構造の封止フィルム(絶縁膜)が具体的に記載されており、これらの封止フィルムは、本件特許明細書の実施例で具体的に開示されている絶縁膜(導体被覆層/第2絶縁層/第1絶縁層)と組成、層構成が同一(本件特許明細書【0080】、【0081】、【0084】、【表1】~【表3】)であり、本件特許明細書の【0010】、【0011】及び甲第2号証の[0008]、[0031]には、ともに耐熱性を向上することが課題とすることが記載されていて、本件発明1と甲第2号証は、本件特許明細書の実施例と甲第2号証の実施例1、3の絶縁膜(導体被覆層/第2絶縁層/第1絶縁層)の組成及び層構成が同一であり、また、いずれも封止フィルムに関するという点で技術分野が共通し、課題も共通していることから、甲第2号証の実施例1、3の3層構造の封止フィルム(絶縁膜)は、本件発明1の上記特性を満たす蓋然性が高く、仮にそうでないとしても当業者であれば、上記特性を満たすようにすることは容易になし得る。(異議申立書29頁末行~30頁末行)
しかしながら、母材の材質と耐熱性だけでせん断破壊強度は特定されないから、甲第2号証で使用されるポリプロピレンと本件明細書等に記載のランダムポリプロピレンが融点の共通するランダムポリプロピレンであったとしても、両者のせん断破壊強度が共通の値であるとはいえない。よって、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、相違点4を検討するまでもなく、甲第2号証に記載された発明に基づいて本件発明1の相違点3に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
よって、本件の請求項1に係る発明は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとは認められず、本件の請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
イ 本件発明2~7について
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに第2絶縁層のせん断破壊強度S2を15MPa以下に限定するものである。また、本件発明2及び3は、本件発明1に係る非水電解質電池用リード線の構成を含む非水電解質電池用リード線に係るもので、本件発明4は、本件発明1~3に係る非水電解質電池用リード線の構成要素を含む絶縁膜に係るもので、本件発明5~7は、本件発明1に係る非水電解質電池用リード線を構成要素として含む非水電解質電池に係るものである。
よって、本件発明2~7は、甲2発明に対して、少なくとも本件発明1について認定した相違点3に係る構成を含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとは認められない。
したがって、本件の請求項2~7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700397