特許異議申立
2025-700665
多結晶シリコンロッドおよびその製造方法
- 審判番号
- 2025-700665
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-542803
- 登録番号
- 7606459
- 請求日
- 2025年06月25日
- 審決日
- 2026年04月07日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社トクヤマ
- 【権利者代理人】前田・鈴木国際特許弁理士法人
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 塩谷 領大
- 分類
- P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B) / P1651.536-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B) / P1651.851-YAA(C01B) / P1651.853-YAA(C01B) / P1651.857-YAA(C01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7606459号発明「多結晶シリコンロッドおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7606459号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、〔4、5〕について訂正することを認める。
特許第7606459号の請求項2~5に係る特許を維持する。
特許第7606459号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7606459号の請求項1~5に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願(以下、「本件特許出願」という。)は、2020年(令和2年)8月20日(優先権主張 令和1年8月23日)を国際出願日とする出願であって、令和6年12月17日にその特許権の設定登録がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和7年6月25日に特許異議申立人中川賢治(以下、「申立人」という。)により本件特許1~5に対する特許異議の申立てがされ、同年9月25日付けで取消理由が通知され、同年11月28日に特許権者により意見書及び訂正請求書の提出がされ、令和8年1月14日に特許権者により訂正請求書に対する手続補正書(方式)が提出され、同年2月18日に申立人により意見書が提出された。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和8年1月14日提出の手続補正書(方式)により補正された、令和7年11月28日提出の訂正請求書における訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~3〕、〔4、5〕を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「前記領域における鉄の濃度が元素換算で20pptw以下、ニッケルの濃度が元素換算で5pptw以下である、請求項1に記載の多結晶シリコンロッド。」と記載されているのを、
「シリコンの棒状体からなる芯線を有する多結晶シリコンロッドであって、上記芯線と該芯線の表面に析出した多結晶シリコンとの界面から2mmの領域における、鉄及びニッケルの総金属濃度が元素換算で25pptw以下であり、前記領域における鉄の濃度が元素換算で20pptw以下、ニッケルの濃度が元素換算で5pptw以下である多結晶シリコンロッド。」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1又は2に記載の多結晶シリコンロッド」と記載されているのを、
「請求項2に記載の多結晶シリコンロッド」に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「前記芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、可動式のクリーンブースを用いて、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くこと」と記載されているのを、
「前記芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、可動式のクリーンブースを用いて、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くこと」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付された明細書、特許請求の範囲、又は図面(以下、それぞれ「本件明細書」などといい、まとめて「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2が請求項1を引用しているところ、その引用関係を解消して、独立形式請求項にすると共に、請求項2の「前記領域における鉄の濃度が元素換算で20pptw以下、ニッケルの濃度が元素換算で5pptw以下である」との記載に整合するように、「鉄及びニッケルの総金属濃度」を「元素換算で40pptw以下」から「元素換算で25pptw以下」にするものであるから、訂正事項2は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、本件訂正前の請求項4の記載において、どの期間に「可動式のクリーンブースを用いて」いるのかが明確でなかったものを、語順を入れ替えて、「前記芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、可動式のクリーンブースを用いて」いることを明確にするものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号、及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、〔4、5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件訂正後の請求項2~5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明2」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項2~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項2】
シリコンの棒状体からなる芯線を有する多結晶シリコンロッドであって、上記芯線と該芯線の表面に析出した多結晶シリコンとの界面から2mmの領域における、鉄及びニッケルの総金属濃度が元素換算で25pptw以下であり、前記領域における鉄の濃度が元素換算で20pptw以下、ニッケルの濃度が元素換算で5pptw以下である多結晶シリコンロッド。
【請求項3】
前記領域におけるクロムの濃度が元素換算で10pptw以下、である、請求項2に記載の多結晶シリコンロッド。
【請求項4】
シリコンの棒状体からなる芯線に通電するための電極を設けた底板と、該底板を覆うドーム型のカバーとを有する反応器を使用し、前記電極に前記芯線を接続して通電しながら、前記反応器内に多結晶シリコン析出用原料ガスを供給し、前記芯線の表面に多結晶シリコンを気相成長させる多結晶シリコンロッドの製造方法であって、
前記芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、可動式のクリーンブースを用いて、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くことを特徴とする多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項5】
前記クリーンブースが、水平気流対向方式で清浄化された空気を反応器に供給する構造を有し、前記反応器を、前記クリーンブース内に収納して、前記シリコン芯線が置かれる雰囲気の清浄度を達成することを特徴とする請求項4に記載の多結晶シリコンロッドの製造方法。」
第4 特許異議の申立てについて
1 申立ての理由の概要
申立人が主張する特許異議の申立ての理由は、概略、以下のとおりである。
(1) 申立理由1(進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~3に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、設定登録時の請求項4、5に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の甲第1号証~甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件特許1~5は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2(実施可能要件違反)
設定登録時の請求項1に記載の発明は、「シリコンの棒状体からなる芯線を有する多結晶シリコンロッドであって、上記芯線と該芯線の表面に析出した多結晶シリコンとの界面から2mmの領域における、鉄及びニッケルの総金属濃度が元素換算で40pptw以下であることを特徴とする、多結晶シリコンロッド」というものである。
しかし、本件明細書の実施例1及び2には、「鉄が5pptw、ニッケルが2pptw、クロムが1pptw、銅が1pptw以下、亜鉛が1pptw以下の多結晶シリコンロッドを、ブレードを用いて8mm□の細棒に切り出すことにより」得た「シリコン芯線」のみが記載されており、その他のシリコン芯線を用いた結果についてはまったく開示していない。
多結晶シリコンロッドは、反応時の周囲雰囲気だけでなく、使用されたシリコン芯線の純度によっても金属汚染度が敏感に変化すると見られることを考慮すると、当業者が、特定シリコン芯線を用いた実施例のみに基づいて、設定登録時の請求項1に記載の発明に含まれる全ての種類のシリコン芯線に対して、前記総金属濃度が制限された多結晶シリコンロッドを容易に実施することができるものではない。当該請求項1を引用する請求項2及び3も同様である。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が設定登録時の請求項1~3に記載の発明を容易に実施できる程度に記載されているといえない。
よって、本件特許1~3は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3) 申立理由3(サポート要件違反)について
設定登録時の請求項1に記載の発明は、「シリコンの棒状体からなる芯線を有する多結晶シリコンロッドであって、上記芯線と該芯線の表面に析出した多結晶シリコンとの界面から2mmの領域における、鉄及びニッケルの総金属濃度が元素換算で40pptw以下であることを特徴とする、多結晶シリコンロッド」というものである。
しかし、本件明細書の発明の詳細な説明には、特定のシリコン芯線を用いて製造された多結晶シリコンロッドのみを開示しているだけであり、出願時の技術常識に照らしてみても、実施例1に記載された特定のシリコン芯線を用いた方法を、設定登録時の請求項1に記載のあらゆる種類のシリコン芯線を用いた多結晶シリコンロッドの製造方法に拡張ないし一般化することはできない。
したがって、設定登録時の請求項1に記載の発明及びこれを引用する請求項2~3に記載の発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
よって、本件特許1~3は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4) 証拠方法一覧
甲第1号証 国際公開第2017/221952号
甲第2号証 特開2008-145052号公報
甲第3号証 特開平11-83104号公報
甲第4号証 特開2015-30628号公報
甲第5号証 特表2016-536249号公報
甲第6号証 特開2017-81803号公報
参考資料1 特開2020-45257号公報
参考資料2 「月刊「クリーンテクノロジー」別冊号 早わかりQ&A クリーンルームの設計・施工マニュアル【改訂版】」、平成27年12月7日発行、日本工業出版株式会社、第9ページ
参考資料3 特開2014-31309号公報
2 取消理由通知に記載した取消理由について
当審が特許権者に通知した、令和7年9月25日付けの取消理由は、概略、以下のとおりである。
(1) 取消理由1(新規性欠如)
設定登録時の請求項1、3に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許1、3は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2) 取消理由2(明確性要件違反)
設定登録時の請求項4の「前記芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、可動式のクリーンブースを用いて、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置く」との記載は、「可動式のクリーンブースを用いて」との記載が、どの記載に掛かっているのかが明確でなく、(i)「芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間」の全てにおいて、「可動式のクリーンブースを用いて」、「前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置く」ことを示しているのか、(ii)「芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間」の全てにおいて、「前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置く」ところ、「該芯線の上部より前記カバーで底板を覆う」間だけ、「可動式のクリーンブースを用いて」いることを示しているのか、(iii)「可動式のクリーンブースを用いて、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆う」間だけ、「前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置く」こと示しているのか、あるいは、これら以外のことを示しているのかが明確でない。
したがって、設定登録時の請求項4の記載、及びこれを引用する請求項5の記載は明確でない。
よって、本件特許4、5は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3) 刊行物一覧
引用文献1 国際公開第2017/221952号
引用文献2 "Si基板に対するCuおよびNi拡散量の調査"、DISCO Technical Review、2018年11月、[online]、株式会社ディスコ、[取得日2025年8月28日]、取得先<URL:https://www.disco.co.jp/jp/solution/technical_review/doc/TR18-02_Si%E5%9F%BA%E6%9D%BF%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8BCu%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3Ni%E6%8B%A1%E6%95%A3%E9%87%8F%E3%81%AE%E8%AA%BF%E6%9F%BB_20181107.pdf>
なお、引用文献1は、前記1(4)の甲第1号証であるので、以下、引用文献1を「甲第1号証」で示す。
3 甲号証、参考文献、及び引用文献の記載について
(1) 甲第1号証(引用文献1)の記載
甲第1号証には、「多結晶シリコンロッド及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある(下線は当審が付した。以下、同様である。)。
「[請求項3] シリコン析出反応炉内に多結晶シリコン種棒を組立てた後、前記種棒を1000℃以上シリコンの融点未満の温度に通電加熱し、前記通電加熱した温度で前記反応炉にトリクロロシランガスと水素ガスを主成分とする原料ガスを供給して前記種棒表面にシリコンを析出成長させる、シーメンス法による多結晶シリコンロッドの製造方法において、
前記種棒を1000℃以上シリコンの融点未満の温度に加熱した後、前記反応炉に四塩化ケイ素ガスと水素ガスの混合ガスを、炉壁温度を30℃以上に維持した状態で10分間以上、供給して前記種棒の表面を前記反応炉内でエッチングし、続いて前記加熱温度で前記トリクロロシランガスと水素ガスを主成分とする原料ガスを供給することを特徴とする多結晶シリコンロッドの製造方法。
[請求項4] 前記製造された多結晶シリコンロッドのバルク鉄(Fe)濃度が0.04ppbw以下、バルクニッケル(Ni)濃度が0.007ppbw以下、バルククロム(Cr)濃度が0.005ppbw以下である請求項3記載の多結晶シリコンロッドの製造方法。」
「[0002] シリコン半導体の製造においては、高純度の多結晶シリコンを単結晶化してこの単結晶シリコンが基盤材料とされているが、半導体製品の高性能化、高密度化に伴い、原料となる多結晶シリコンについても、極限まで不純物を低減することが望まれている。高純度の多結晶シリコンを製造するためには、溶融凝固法のような汚染源となるるつぼ等を用いず、反応炉内で高純度の多結晶シリコンを種棒として、通電加熱してその種棒表面にシリコンが析出される、シーメンス法が主流となっている。このシーメンス法の特徴としては、沸点が常温付近にあり、蒸留精製が容易なトリクロロシランが高純度の中間原料として使用され、このトリクロロシランを還元析出させることで、通常10mm角以下の細い多結晶シリコン種棒(以下、単に「種棒」ということもある。)表面にシリコンが析出成長されて直径100mm以上の高純度の多結晶シリコンロッドが製造されている。成長中は、反応炉内に供給される原料ガスの純度などが制御され、徹底して汚染源が排除されているが、この種棒を析出反応炉にて組立てる際には反応炉内部が大気に開放されるため、大気中に含まれる物質の汚染の影響を受けやすい。この汚染を防止する対策として、組立て作業がクリーンブース内で行われたり、組立てた後に反応炉内の空気が不活性ガスなどで置換されている。しかし反応炉が一旦大気開放されると、ある程度の汚染源が残留してしまうことは避けられず、結果として製造された多結晶シリコンロッドの種棒界面付近のロッド芯部の純度は、ロッド表面部の純度より低下する結果となる。一方、シリコン析出に使用される反応炉材質は一般的にステンレス鋼で構成される場合が多く、ステンレス鋼の表面に生成した不動態被膜に含まれるFe、Ni、Cr等の金属化合物が多結晶シリコン成長中に付着すると考えられている。」
「[0032] 〔多結晶シリコンロッドの製造方法〕
本実施形態の多結晶シリコンロッドを製造する一例を次に説明する。この製造方法では、図1に示すように、多結晶シリコン種棒の組立て工程10と、この種棒を通電加熱する工程11と、四塩化ケイ素ガスと水素ガスの混合ガスを供給する工程12と、トリクロロシラン(TCS)ガスと水素ガスを主成分とする原料ガスを供給する工程13とを経て多結晶シリコンロッド14を得る。」
「[0036] 本実施形態の特徴ある構成は、四塩化ケイ素ガスと水素ガスの混合ガスを供給する工程12にある。この工程12では、工程11の加熱温度と炉内圧力を維持し、炉壁温度を30℃以上に維持した状態で水素ガス雰囲気にて10分間以上、四塩化ケイ素ガス(STC)と水素ガスの混合ガスを反応炉内に供給する。四塩化ケイ素ガスは種棒表面層をエッチングするガスであり、水素ガスはキャリアガスである。」
「実施例
[0045] 次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
[0046] <実施例1>
バルクのリン(P)濃度が0.020ppbaであるシリコンロッドから断面形状が約8mm角にかつ長さ約2000mmに切り出した種棒をフッ酸と硝酸の混酸溶液でエッチングし、純水による洗浄で表面を清浄化した。反応炉の内底部に配設された一対の電極に種棒をそれぞれ立設し、これらの種棒の上端部間を連結部材で繋いで鳥居型に組立てた。その後反応炉内を不活性ガスにて置換し、種棒をヒーターで予熱した後に通電して約1100℃に昇温した後、水素ガスを10分間流し、不活性ガスを追い出した。その後、水素ガスを、四塩化ケイ素ガスと水素ガスの混合ガス(25体積%STC)に切り替えて10分間反応炉内に供給した。この際、反応炉の炉壁温度を30℃、炉内圧力を0.06MPaに維持した。その後、STCガスと水素ガスの混合ガスをTCSガスと水素ガスの原料ガスに切り替えて約120時間反応炉内に供給した。種棒の表面上にシリコンが析出成長し直径約115mmの多結晶シリコンロッドが得られた。
[0047] <実施例2>
実施例1と同じ処理を行った種棒を用いて実施例1と同様に鳥居型に種棒を組立て、反応炉内を不活性ガスにて置換し、種棒をヒーターで予熱した後に通電して昇温した後、水素ガスを10分間流し、不活性ガスを追い出した。その後、水素ガスを、四塩化ケイ素ガスと水素ガスの混合ガス(50体積%STC)に切り替えて30分間反応炉内に供給した。この際、反応炉の炉壁温度を80℃、炉内圧力を0.07MPaGに維持した。その後、STCガスと水素ガスの混合ガスをTCSガスと水素ガスの原料ガスに切り替えて約120時間反応炉内に供給した。種棒の表面上にシリコンが析出成長し直径約117mmの多結晶シリコンロッドが得られた。
[0048] <実施例3>
実施例1と同じ処理を行った種棒を用いて実施例1と同様に鳥居型に種棒を組立て、反応炉内を不活性ガスにて置換し、種棒をヒーターで予熱した後に通電して昇温した後、水素ガスを10分間流し、不活性ガスを追い出した。その後、水素ガスを、四塩化ケイ素ガスと水素ガスの混合ガス(65体積%STC)に切り替えて20分間反応炉内に供給した。この際、反応炉の炉壁温度を80℃、炉内圧力を0.08MPaGに維持した。その後、STCガスと水素ガスの混合ガスをTCSガスと水素ガスの原料ガスに切り替えて約120時間反応炉内に供給した。種棒の表面上にシリコンが析出成長し直径約122mmの多結晶シリコンロッドが得られた。
・・・
[0051] <比較試験及び評価>
実施例1~3と比較例1、2で得られた5種類の多結晶シリコンロッドを円柱状にそれぞれ切り出して試料とした。円柱状に切り出した試料から、(a)種棒を含むロッド芯部、(b)ロッド表面から5mmのロッド表面部、(c)ロッド表面から40mmのロッド中間部のそれぞれから直径12mmの棒を2本切り出し、これらの棒を個別にFZ法によって結晶化し、SEMI MF1389に則って、PL(Photoluminescence)法でリン濃度を測定した。上記とは別に実施例1~3と比較例1、2で得られた多結晶シリコンロッドから試料をそれぞれ切り出し、試料に含まれるバルクの金属不純物の濃度をICP-MSを用いて測定した。具体的には、ロッドから3個の試料を採取して、試料毎に鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及びクロム(Cr)の各濃度を測定し、その平均値を求めた。2本のリン濃度の平均値と、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及びクロム(Cr)の各濃度をの平均値を表1に示す。
[0052]
[表1]
[図:0001437384000001.jpg]
・・・
[0055] これに対して、実施例1~3では、種棒表面にシリコンを析出する前に四塩化ケイ素ガスと水素ガスの混合ガスを、STCガスの濃度を25~65体積%、反応炉の炉壁温度を30℃以上にして10分間以上供給したため、エッチングが十分に行われて、上記比(P2/P1)が1.64~1.80であり、ロッド内部(芯部)からロッド表面部まで全体として均質な多結晶シリコンロッドが得られることを確認した。また上記シリコンロッドのバルクFe濃度が0.04ppbw以下、バルクNi濃度0.007ppbw以下、バルクCr濃度0.005ppbw以下であり、含有するFe、Ni、Crを低減したシリコンロッドを得られることを確認した。」
(2) 甲第2号証の記載
甲第2号証には、「循環風路形成装置」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【請求項1】
クリーンブース内部を区画する内側間仕切部材と、前記クリーンブースの天井面又は側面に設けた清浄空気供給装置と、前記内側間仕切部材の下端と床面との間に設けた間隙と、クリーンブースの外側には、クリーンブースを覆うように設けた外側間仕切用ブースと、前記外側間仕切用ブースには、外側の低清浄度域より区画する外側間仕切部材を設け、前記清浄空気供給装置によってクリーンブース内部に吹き出した清浄空気は、前記内側間仕切部材と前記外側間仕切部材との間に形成されたレターン経路を通って循環することを特徴とする循環風路形成装置。」
「【請求項6】
外側間仕切用ブースの支柱下端に可動装置を設けた請求項1~5いずれかに記載の循環風路形成装置。」
「【0001】
本考案は精密機械分野等において発塵を嫌う作業工程等に使用されるクリーンブースに係るものである。」
「【0056】
(実施の形態4)
図4に示すように、外側間仕切用ブース6の隅角部に配設された支柱7の下端にキャスター14を取りつけた構成となっている。
【0057】
上記構成により、さまざまな場所にあるクリーンブース1に対して、高性能フィルタ2の負荷低減が必要な際に、簡易に設置および移動ができる。」
「【図4】
[図:0001437384000002.jpg]
」
(3) 甲第3号証の記載
甲第3号証には、「低温クリーンブース」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【請求項1】 ブース域を決めるフレームと、該ブースの内外を仕切る可動性のある仕切り部材とを備え、前記ブース域の天井部に、空調ユニットとフィルターユニットとを備えてなる低温クリーンブースにおいて、
前記仕切り部材を二重以上の部材で構成し、その二重以上の仕切り部材が互いに接触しないように、当該仕切り部材下部に、仕切り部材が開閉できる程度に可動性のある錘手段を備えたことを特徴とする低温クリーンブース。」
「【請求項5】 請求項1,2,3および4記載のもののいずれかにおいて、ブース域を決めるフレームの下部に車輪を取り付けたことを特徴とする低温クリーンブース。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、低温クリーンブースに係り、例えば、食品加工場等で局所的に10~20℃の低温条件で、かつ、クリーン度が要求される場所に利用するのに好適な簡易型の低温クリーンブースに関するものである。」
「【0007】なお付記すると、上記従来技術のもつ課題を解決するために、本発明の低温クリーンブースは、ブース域を決めるフレームとブース内外を仕切る二重以上の仕切り材にて構成し、最外表面部の仕切り材の温度が下がらないようにして仕切り材外表面の結露を防止するとともに、フレーム下部に車輪を設けることにより、空調ユニット、フィルタユニットを含むブース全体を移動できるように構成している。また、クリーン度の確保においては空調ユニットから外気を導入できるように構成し、ブース内を常に正圧(陽圧)に保ち、外部から埃等が入り込まないように工夫している。さらに、ブース内での作業のため人の出入りが必要となるが、仕切り材を可動として出入り可能としている。」
「【0016】本実施形態の低温クリーンブースは、フレーム1の下部に車輪2を設けるとともに、空調ユニット10、フィルタユニット8等を全て天井部に配設しているので、ブース全体を容易に移動することができる。また、ブース内外の仕切りは安価なビニール等で構成できるため、安価に製造できるものである。なお、ここで図示はしないが、カーテンは、三重、四重と重ねてさらに効果を高めてもよいことは言うまでもない。」
「【図2】
[図:0001437384000003.jpg]
」
(4) 甲第4号証の記載
甲第4号証には、「多結晶シリコンロッドの製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【請求項1】
CVD法によりシリコン芯線にシリコンを析出させて多結晶シリコンロッドを製造する方法であって、
前記シリコン芯線を洗浄後に1本毎に袋詰めし、
該袋詰めの状態で前記シリコン芯線をハンドリングし、
反応炉内にセットする際に前記シリコン芯線を袋から取り出して電極に取り付ける、ことを特徴とする多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項2】
前記洗浄後の前記シリコン芯線を前記袋を密封して袋詰めする、請求項1に記載の多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項3】
前記袋の材質はポリエチレン製である、請求項1または2に記載の多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項4】
前記袋の外面に前記シリコン芯線の履歴管理用の識別ラベルを添付する、請求項1~3の何れか1項に記載の多結晶シリコンロッドの製造方法。
【請求項5】
前記電極へのシリコン芯線の取り付け作業を、前記袋の外面のみに触れ、前記シリコン芯線に直接触れることなく行う、請求項1~4の何れか1項に記載の多結晶シリコンロッドの製造方法。」
「【0001】
本発明は多結晶シリコンロッドの製造方法に関し、より詳細には、シリコンを析出させるためのシリコン芯線の汚染や破損を防止する技術に関する。」
「【0010】
半導体デバイス製造用単結晶シリコン基板の製造に用いる多結晶シリコンのように、高純度の多結晶シリコンを製造する場合には、多結晶シリコン棒の育成に用いる際のシリコン芯線の内部および表面の清浄度が極めて高いものである必要がある。このため、機械加工されたシリコン芯線は、最終段階でエッチングや洗浄が行われ、表面の汚れや傷が除去される。さらに、使用直前まで汚染されないように保管され、運搬時等のハンドリングに際しても清浄度を維持することが必要となる。」
(5) 甲第5号証の記載
甲第5号証には、「多結晶シリコンの製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【請求項1】
少なくとも1つの支持体上に多結晶シリコンを堆積させて少なくとも1つの多結晶シリコンロッドを得ること、またはシリコン粒子上に多結晶シリコンを堆積させて多結晶シリコン細粒を得ることを含み、
個々の堆積はクラス1~100,000のクリーンルーム内の反応器中で行われ、
ろ過空気はクリーンルーム中へ導入され、前記空気は、最初に1μm以上の粒子を分離する少なくとも1つのフィルターに通過させた後、1μm未満の粒子を分離する浮遊粒子フィルターに通過させることによりろ過される、多結晶シリコンの製造方法。」
「【0046】
堆積については、このことは、その中で多結晶シリコンが堆積する反応器は全て、クリーンルーム内にあることを意味し、細粒の製造のためのシーメンス法による堆積および、流動床法による堆積の両方に適用される。これは、シリコンロッドまたは細粒を反応器から取り出した場合であっても、最初から清浄な低粒子空気にしか触れないという利点を有する。」
(6) 甲第6号証の記載
甲第6号証には、「多結晶シリコン反応炉」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【請求項1】
炉底を構成する基台と、
該基台上に着脱可能に取り付けられているベルジャとを備える多結晶シリコン反応炉であって、
前記基台の外周部に設けられた受け部と、
前記ベルジャの下端開口縁部に設けられたフランジ部とが、
締結部により固定されており、
前記基台には、前記受け部よりも半径方向外側位置に、上下方向に延びるガイド棒が設けられ、
前記ベルジャには、前記フランジ部よりも半径方向外側位置に、前記ガイド棒が挿通可能な貫通孔を有する開孔板が設けられ、
前記基台の平面視の中心から前記ガイド棒の中心軸までの距離と、前記ベルジャの平面視の中心から前記貫通孔の中心軸までの距離とが同距離に設けられていることを特徴とする多結晶シリコン反応炉。」
「【0018】
以下、本発明に係る多結晶シリコン反応炉の実施形態について説明する。
図1は、本発明が適用される多結晶シリコン反応炉を模式的に表した全体図である。この多結晶シリコン反応炉100は、炉底を構成する基台1と、この基台1上に着脱可能に取り付けられた釣鐘形状のベルジャ2とを備え、基台1とベルジャ2とで囲まれた炉内に設けられた複数のシリコン芯棒31を通電加熱することにより、炉内に供給した原料ガスを反応させて、シリコン芯棒31の表面に多結晶シリコンを生成する。」
「【図1】
[図:0001437384000004.jpg]
」
(7) 参考資料1の記載
参考資料1には、「多結晶シリコンロッドの製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【0006】
本発明者らは、シーメンス法による高純度の多結晶シリコンロッド(以下、単にロッドということもある。)中の金属不純物の分布を注意深く調査した結果、Fe,Niなどの金属不純物は、シリコン種棒(以下、単に種棒ということもある。)表面から外方拡散し、ロッドの低温部分やロッドの欠陥部分に濃縮される傾向があることを突き止めた。この傾向は、反応炉を開放して行う種棒の組立作業中に反応炉内に金属不純物が持ち込まれることと、反応中の1000℃を超えるロッド温度においては、Fe,Niなどの金属不純物は拡散速度が十分に速く、ロッド内全域に拡散し得ることに関係すると考えられる。更に、拡散速度が遅くなるロッドの低温部分は金属不純物が滞留して濃度が比較的高くなるとともに、ある種の欠陥は金属不純物のトラップとして働くものとして説明される。そこで、本発明者らは、「連結部材」又はロッドにあえて金属不純物のトラップを形成して金属不純物を捕集した後、このトラップ部をロッドから切り離すことを検討した。ここで、「連結部材」とは、二本のシリコン種棒が接続されるシリコン製部材をいう。」
(8) 参考資料2の記載
参考資料2には、次の記載がある。
「
[図:0001437384000005.jpg]
」
(9) 参考資料3の記載
参考資料3には、「多結晶シリコンチャンクおよびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【0086】
本発明の両方法について、またこの2つの方法の記述された実施形態について、クラッシャーが確実に、クラス10000以下のクリーンルーム内に設置されることが、好ましい。
【0087】
このユニットは、クラス100(US FED STD(アメリカ連邦規格)209E;ISO 14644-1に取って代わられたものによる。)もしくはより良好なクリーンルーム内に設置されることが好ましい。
【0088】
クラス100(ISO 5)では、1リットル当り存在する直径0.5μmを超える粒子が、3.5個以下でなければならない。」
(10) 引用文献2の記載
引用文献2には、「Si基板に対するCuおよびNi拡散量の調査」(タイトル)に関して、次の記載がある。
「
[図:0001437384000006.jpg]
Fig.1 Siに対する拡散係数と温度依存〔1〕」
4 当審の判断
事案に鑑み、取消理由1(新規性欠如)、申立理由1(進歩性欠如)、取消理由2(明確性要件違反)、申立理由2(実施可能要件違反)、申立理由3(サポート要件違反)の順に検討する。
なお、本件訂正により請求項1は削除され、本件特許1に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったため、ここでの検討の対象としない。
(1) 取消理由1(新規性欠如)、申立理由1(進歩性欠如)について
ア 甲第1号証に記載された発明
(ア) 前記3(1)によれば、甲第1号証には、シリコン析出反応炉内に多結晶シリコン種棒を組立てた後、前記種棒を1000℃以上シリコンの融点未満の温度に通電加熱し、前記通電加熱した温度で前記反応炉にトリクロロシランガスと水素ガスを主成分とする原料ガスを供給して前記種棒表面にシリコンを析出成長させる、シーメンス法による多結晶シリコンロッドの製造方法において、前記種棒を1000℃以上シリコンの融点未満の温度に加熱した後、前記反応炉に四塩化ケイ素ガスと水素ガスの混合ガスを、炉壁温度を30℃以上に維持した状態で10分間以上、供給して前記種棒の表面を前記反応炉内でエッチングし、続いて前記加熱温度で前記トリクロロシランガスと水素ガスを主成分とする原料ガスを供給する多結晶シリコンロッドの製造方法([請求項3])、及び、前記製造された多結晶シリコンロッドのバルク鉄(Fe)濃度が0.04ppbw以下、バルクニッケル(Ni)濃度が0.007ppbw以下、バルククロム(Cr)濃度が0.005ppbw以下であること([請求項4])が記載されている。
また、甲第1号証には、トリクロロシランをTCS、四塩化ケイ素をSTCと示した([0032]、[0036])上で、前記多結晶シリコンロッドの製造方法の具体例である実施例1として、バルクのリン(P)濃度が0.020ppbaであるシリコンロッドから断面形状が約8mm角にかつ長さ約2000mmに切り出した種棒をフッ酸と硝酸の混酸溶液でエッチングし、純水による洗浄で表面を清浄化し、反応炉の内底部に配設された一対の電極に種棒をそれぞれ立設し、これらの種棒の上端部間を連結部材で繋いで鳥居型に組立て、その後反応炉内を不活性ガスにて置換し、種棒をヒーターで予熱した後に通電して約1100℃に昇温した後、水素ガスを10分間流し、不活性ガスを追い出し、その後、水素ガスを、四塩化ケイ素ガスと水素ガスの混合ガス(25体積%STC)に切り替えて10分間反応炉内に供給し、反応炉の炉壁温度を30℃、炉内圧力を0.06MPaに維持し、その後、STCガスと水素ガスの混合ガスをTCSガスと水素ガスの原料ガスに切り替えて約120時間反応炉内に供給し、種棒の表面上にシリコンが析出成長し直径約115mmの多結晶シリコンロッドが得られたこと([0046])、得られた多結晶シリコンロッドから試料をそれぞれ切り出し、試料に含まれるバルクの鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及びクロム(Cr)の各濃度をICP-MSを用いて測定したこと([0051])、及び、シリコンロッドのバルクFe濃度が0.01ppbw、バルクNi濃度0.007ppbw、バルクCr濃度0.005ppbwであること([0052][表1])が記載されている。
(イ) 前記(ア)の記載事項を実施例1の「多結晶シリコンロッド」、及び「多結晶シリコンロッドの製造方法」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「多結晶シリコンロッド」に係る発明を「甲1発明1」といい、「多結晶シリコンロッドの製造方法」に係る発明を「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。
<甲1発明1>
「バルクのリン濃度が0.020ppbaであるシリコンロッドから断面形状が約8mm角にかつ長さ約2000mmに切り出した種棒をフッ酸と硝酸の混酸溶液でエッチングし、純水による洗浄で表面を清浄化し、反応炉の内底部に配設された一対の電極に種棒をそれぞれ立設し、これらの種棒の上端部間を連結部材で繋いで鳥居型に組立て、その後反応炉内を不活性ガスにて置換し、種棒をヒーターで予熱した後に通電して約1100℃に昇温した後、水素ガスを10分間流し、不活性ガスを追い出し、その後、水素ガスを、四塩化ケイ素ガスと水素ガスの混合ガス(25体積%四塩化ケイ素)に切り替えて10分間反応炉内に供給し、反応炉の炉壁温度を30℃、炉内圧力を0.06MPaに維持し、その後、四塩化ケイ素ガスと水素ガスの混合ガスをトリクロロシランガスと水素ガスの原料ガスに切り替えて約120時間反応炉内に供給し、種棒の表面上にシリコンが析出成長して得られた、直径約115mmの多結晶シリコンロッドであって、
得られた多結晶シリコンロッドから試料を切り出し、試料に含まれるバルクの鉄、ニッケル、及びクロムの各濃度をICP-MSを用いて測定したときに、バルク鉄濃度が0.01ppbw、バルクニッケル濃度0.007ppbw、バルククロム濃度0.005ppbwである、多結晶シリコンロッド。」
<甲1発明2>
「バルクのリン濃度が0.020ppbaであるシリコンロッドから断面形状が約8mm角にかつ長さ約2000mmに切り出した種棒をフッ酸と硝酸の混酸溶液でエッチングし、純水による洗浄で表面を清浄化し、反応炉の内底部に配設された一対の電極に種棒をそれぞれ立設し、これらの種棒の上端部間を連結部材で繋いで鳥居型に組立て、その後反応炉内を不活性ガスにて置換し、種棒をヒーターで予熱した後に通電して約1100℃に昇温した後、水素ガスを10分間流し、不活性ガスを追い出し、その後、水素ガスを、四塩化ケイ素ガスと水素ガスの混合ガス(25体積%四塩化ケイ素)に切り替えて10分間反応炉内に供給し、反応炉の炉壁温度を30℃、炉内圧力を0.06MPaに維持し、その後、四塩化ケイ素ガスと水素ガスの混合ガスをトリクロロシランガスと水素ガスの原料ガスに切り替えて約120時間反応炉内に供給し、種棒の表面上にシリコンが析出成長して、直径約115mmの多結晶シリコンロッドを得る、多結晶シリコンロッドの製造方法。」
イ 取消理由1(新規性欠如)について
取消理由1は、設定登録時の請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項3に係る発明についてされたところ、本件訂正によって、請求項1が削除され、さらに、請求項3の引用請求項から請求項1が削除されたため、取消理由1は理由がなくなった。
ウ 申立理由1(進歩性欠如)について
(ア) 本件発明2について
a 対比
甲1発明1の「シリコンロッドから断面形状が約8mm角にかつ長さ約2000mmに切り出した種棒」は、本件発明2の「シリコンの棒状体からなる芯線」に相当する。そして、この対応関係を踏まえると、甲1発明1の「種棒の表面上にシリコンが析出成長して得られた」、「多結晶シリコンロッド」は、本件発明2の「シリコンの棒状体からなる芯線を有する多結晶シリコンロッド」に相当する。
したがって、本件発明2と甲1発明1とは、「シリコンの棒状体からなる芯線を有する多結晶シリコンロッド」の点で一致して、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件発明2は、「上記芯線と該芯線の表面に析出した多結晶シリコンとの界面から2mmの領域における、鉄及びニッケルの総金属濃度が元素換算で25pptw以下であり、前記領域における鉄の濃度が元素換算で20pptw以下、ニッケルの濃度が元素換算で5pptw以下である」のに対して、甲1発明1は、「得られた多結晶シリコンロッドから試料を切り出し、試料に含まれるバルクの鉄、ニッケル、及びクロムの各濃度をICP-MSを用いて測定したときに、バルク鉄濃度が0.01ppbw、バルクニッケル濃度0.007ppbw」である点。
b 判断
(a) 甲1発明1では、約1100℃、約120時間で多結晶シリコンの析出成長を行っているところ、当該温度における鉄やニッケルの拡散係数は、前記3(10)の「Siに対する拡散係数と温度依存」の関係図によれば、10-5~10-6程度であり、鉄やニッケルの拡散速度は十分に速いし、多結晶シリコンの析出成長を約120時間行っていることから、多結晶シリコンロッドにおける鉄やニッケルは、多結晶シリコンロッド全体に拡散しているといえる。
したがって、甲1発明1において、種棒と該種棒の表面に析出成長した多結晶シリコンとの界面から2mmの領域(以下、「界面領域」という。)の鉄濃度やニッケル濃度は、バルク鉄濃度(0.01ppbw)やバルクニッケル濃度(0.007ppbw)と同程度であるといえ、界面領域における、鉄及びニッケルの総金属濃度は0.017ppbw(17pptw)程度、鉄濃度は0.01ppbw(10pptw)程度、ニッケル濃度は0.007ppbw(7pptw)程度であるといえる。
そうしてみると、甲1発明1は、本件発明2の「上記芯線と該芯線の表面に析出した多結晶シリコンとの界面から2mmの領域における、鉄及びニッケルの総金属濃度が元素換算で25pptw以下であり、前記領域における鉄の濃度が元素換算で20pptw以下」であることを満たしているといえるが、「ニッケルの濃度が元素換算で5pptw以下である」ことを満たしているといえない。
また、甲第1号証には、「多結晶シリコンロッドのバルク鉄(Fe)濃度が0.04ppbw以下、バルクニッケル(Ni)濃度が0.007ppbw以下、バルククロム(Cr)濃度が0.005ppbw以下である」(前記3(1)の[請求項4])、また、「上記シリコンロッドのバルクFe濃度が0.04ppbw以下、バルクNi濃度0.007ppbw以下、バルクCr濃度0.005ppbw以下であり」(前記3(1)の[0055])と記載されており、「バルクニッケル(Ni)濃度」が「0.007ppbw以下」であることが示されている。
しかしながら、甲第1号証に記載された「バルクニッケル(Ni)濃度」の具体的な値は、実施例1~3の「0.007ppbw」のみであり(前記3(1)の[0045]~[0055]、特に[0052][表1]参照)、甲第1号証には、0.007ppbw未満の具体的な値が示されておらず、さらに、「バルクニッケル(Ni)濃度」を0.007ppbw未満とするための具体的な方法も記載されていない。
そうしてみると、甲第1号証の「バルクニッケル(Ni)濃度が0.007ppbw以下」との記載から、甲第1号証に「ニッケルの濃度が元素換算で5pptw以下である」ことが実質的に記載されているということはできない。
したがって、相違点1は実質的なものである。
(b) 次に、甲1発明1において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることの容易想到性を検討すると、多結晶シリコンロッドの界面領域におけるニッケルの濃度を5pptw以下とすることは、甲第1号証~甲第6号証、参考資料1~参考資料3、及び引用文献2のいずれにも記載されていないし、このことが周知技術であるともいえない。
したがって、甲1発明1において、界面領域における「ニッケルの濃度が元素換算で5pptw以下」とすること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるといえない。
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(イ) 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2の発明特定事項をすべて含みさらに限定が付されたものであるから、前記(ア)の本件発明2についての検討と同様の理由により、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(ウ) 本件発明4について
a 対比
本件発明4と甲1発明2の対応関係は次のとおりである。
(a) 甲1発明2の「多結晶シリコンロッドの製造方法」は、本件発明4の「多結晶シリコンロッドの製造方法」に相当する。
(b) 甲1発明2の「シリコンロッドから断面形状が約8mm角にかつ長さ約2000mmに切り出した種棒」は、本件発明4の「シリコンの棒状体からなる芯線」に相当する。
(c) 甲1発明2の「反応炉」、「反応炉の内底部」、「一対の電極」は、それぞれ、本件発明4の「反応器」、「底板」、「電極」に相当する。
(d) 甲1発明2の「反応炉」は、「反応炉の内底部に配設された一対の電極に種棒をそれぞれ立設し、これらの種棒の上端部間を連結部材で繋いで鳥居型に組立て、その後反応炉内を不活性ガスにて置換し」ていることから、「内底部」を覆う部材を有していることは明らかであり、当該覆う部材は、本件発明4の「カバー」に相当する。
(e) 甲1発明2の「トリクロロシランガスと水素ガスの原料ガス」、「種棒の表面上にシリコンが析出成長」することは、「多結晶シリコンロッド」を製造することを踏まえると、本件発明4の「多結晶シリコン析出用原料ガス」、「前記芯線の表面に多結晶シリコンを気相成長させる」ことに相当する。
(f) 前記(b)~(e)の対応関係を踏まえると、甲1発明2の「反応炉の内底部に配設された一対の電極に種棒をそれぞれ立設し、これらの種棒の上端部間を連結部材で繋いで鳥居型に組立て、その後反応炉内を不活性ガスにて置換し、種棒をヒーターで予熱した後に通電して約1100℃に昇温した後、水素ガスを10分間流し、不活性ガスを追い出し」、「反応炉の炉壁温度を30℃、炉内圧力を0.06MPaに維持し」、「トリクロロシランガスと水素ガスの原料ガスに切り替えて約120時間反応炉内に供給し、種棒の表面上にシリコンが析出成長」することは、本件発明4の「シリコンの棒状体からなる芯線に通電するための電極を設けた底板と、該底板を覆う」「カバーとを有する反応器を使用し、前記電極に前記芯線を接続して通電しながら、前記反応器内に多結晶シリコン析出用原料ガスを供給し、前記芯線の表面に多結晶シリコンを気相成長させる」ことに相当する。
以上の対応関係を踏まえると、本件発明4と甲1発明2とは、
「シリコンの棒状体からなる芯線に通電するための電極を設けた底板と、該底板を覆うカバーとを有する反応器を使用し、前記電極に前記芯線を接続して通電しながら、前記反応器内に多結晶シリコン析出用原料ガスを供給し、前記芯線の表面に多結晶シリコンを気相成長させる多結晶シリコンロッドの製造方法」の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点2)
本件発明4の「カバー」は、「ドーム型」であるのに対して、甲1発明2は、その点が明らかでない点。
(相違点3)
本件発明4は、「前記芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、可動式のクリーンブースを用いて、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置く」のに対して、甲1発明2は、その点が明らかでない点。
b 判断
事案に鑑み、相違点3を検討する。
甲第1号証には、「組立て作業がクリーンブース内で行われた」こと(前記3(1)の[0002])、甲第2号証には、「下端にキャスター14を取りつけた」「外側間仕切用ブース6」(前記3(2)の【0056】、【図4】)、甲第3号証には、「フレーム1の下部に車輪2を設け」た「低温クリーンブース」(前記3(3)の【0016】、【図2】)、甲第4号証には、「多結晶シリコン棒の育成に用いる際のシリコン芯線の内部および表面の清浄度が極めて高いものである必要がある」ため、「シリコン芯線を洗浄後に1本毎に袋詰めし、該袋詰めの状態で前記シリコン芯線をハンドリング」すること(前記3(4)の【請求項1】、【0010】)、甲第5号証には、「少なくとも1つの支持体上に多結晶シリコンを堆積させて少なくとも1つの多結晶シリコンロッドを得る」ときに、「個々の堆積はクラス1~100,000のクリーンルーム内の反応器中で行われ」ること(前記3(5)の【請求項1】)、及び甲第6号証には、「炉底を構成する基台1と、この基台1上に着脱可能に取り付けられた釣鐘形状のベルジャ2とを備え」た「多結晶シリコン反応炉100」(前記3(6)の【0018】、【図1】)が記載されている。
しかしながら、甲第1号証~甲第6号証のいずれにも、多結晶シリコンロッドの製造方法において、「前記芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、可動式のクリーンブースを用いて、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置く」ことは記載されていないし、このことは、参考資料1~参考資料3、及び引用文献2にも記載されておらず、また周知技術であるともいえない。
したがって、甲1発明2において、「前記芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、可動式のクリーンブースを用いて、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置く」こと、すなわち、相違点3に係る本件発明4の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるといえない。
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第1号証~甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(エ) 本件発明5について
本件発明5は、本件発明4の発明特定事項をすべて含みさらに限定が付されたものであるから、前記(ウ)の本件発明4についての検討と同様の理由により、本件発明5は、甲第1号証~甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(オ) 前記(ア)~(エ)のとおりであるから、本件特許2~5は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
エ 申立人の主張について
申立人は、令和8年2月18日提出の意見書において、甲第1号証の[請求項4]に「多結晶シリコンロッドのバルク鉄(Fe)濃度が0.04ppbw以下、バルクニッケル(Ni)濃度が0.007ppbw以下、バルククロム(Cr)濃度が0.005ppbw以下である」と記載されていることを論拠にして、本件発明2、3は、甲第1号証に記載された発明である旨を主張している(意見書の3(2)、(3)参照)。
しかしながら、前記ウ(ア)b(a)で検討したとおり、甲第1号証には、多結晶シリコンロッドの界面領域でのニッケルの濃度が5pptw以下であることが実質的に記載されているということはできないから、申立人の主張は採用できない。
オ 取消理由1(新規性欠如)、申立理由1(進歩性欠如)についての結論
以上のとおりであるから、取消理由1、及び申立理由1に理由はない。
(2) 取消理由2(明確性要件違反)について
ア 明確性要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
以下、この観点に立って検討する。
イ 明確性要件に対す判断
(ア) まず、取消理由2で指摘した点を検討すると、本件訂正により、設定登録時の請求項4の「前記芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、可動式のクリーンブースを用いて、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くこと」との記載は、「前記芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、可動式のクリーンブースを用いて、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くこと」に訂正され、「芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間」の全てにおいて、「可動式のクリーンブースを用いて、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くこと」を示していることが明確になった。
したがって、本件請求項4の前記記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるといえない。
(イ) そして、本件請求項4、5のその余の記載をみても、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確な記載は見当たらないから、本件請求項4、5の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件に適合する。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和8年2月18日提出の意見書において、本件発明4は、工程間のシリコン芯線の搬送時に「可動式のクリーンブースを用いて、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くこと」が明確に特定していないため、不明確である旨を主張している(意見書の3(4)参照)。
しかしながら、本件請求項4には、「前記芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、可動式のクリーンブースを用いて、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くこと」と記載され、「芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間」の全て、すなわち、工程間のシリコン芯線の搬送時を含めた全てにおいて、「可動式のクリーンブースを用いて、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くこと」を示している。
したがって、申立人の前記主張は採用できない。
エ 取消理由2(明確性要件違反)についての結論
以上のとおりであるから、取消理由2に理由はない。
(3) 申立理由2(実施可能要件違反)について
ア 実施可能要件の判断手法
物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。
以下、この観点に立って検討する。
イ 実施可能要件に対する判断
(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明(以下、「本件発明の詳細な説明」という。)には、実施例1として、「鉄が5pptw、ニッケルが2pptw、クロムが1pptw、銅が1pptw以下、亜鉛が1pptw以下の多結晶シリコンロッドを、ブレードを用いて8mm□の細棒に切り出すことによりシリコン芯線を得」て、「上記シリコン芯線をフッ化水素酸と硝酸との混合溶液からなる洗浄液を収容した洗浄槽に浸漬し洗浄を行」い、「その後、ダウンフロー方式のクリーンブース内で水洗リンス、風乾による乾燥、及び、シリコン芯線の溶接を行い、コの字型のシリコン芯線を得」たこと(【0051】)、「溶接後、運搬中の汚染を防ぐために、シリコン芯線は、前述シリコン洗浄工程内のクリーンブース内で密閉容器に詰めた上で、反応器への運搬を行った」こと(【0052】)、「反応器においては、前記図4に示すクリーンブース(水平気流対向方式)を、底板2を囲むようにセットし、クリーンブース9内でシリコン芯線4を密閉容器より取り出し、高純度化処理した黒鉛電極1にセットした」こと(【0053】)、「上記クリーンブース内がISO14644-1により定義されるClass6の清浄度に調整されていたこと」(【0054】)、「クリーンブース上部より反応器のカバー3を降下させ、底板2に取り付け、その後、クリーンブース9を撤去した」こと(【0055】)、「次いで、反応器内をガス置換した後、原料ガスであるトリクロロシラン及び水素を供給して950℃にてシリコンの析出を実施し、直径約120mmの多結晶シリコンロッドを得た」こと(【0056】)が記載されている。また、実施例2として、「実施例1において、クリーンブースを図4に示す移動式クリーンブース(水平気流対向方式)とし、クリーンブースを移動させながら各工程を実施した以外は同様にして、多結晶シリコンロッドを得た」こと(【0059】)、「その間、クリーンブース内は、ISO14644-1により定義されるClass6の清浄度に調整されていたこと」(【0059】)、「上記方法により得られた多結晶シリコンロッド」の「シリコン界面領域の重金属濃度を測定し」て、Fe濃度が18pptw、Cr濃度が1pptw、Ni濃度が1pptw、Cu濃度が1pptw、Zn濃度が1pptwであったこと(【0060】、【0063】【表1】)が記載されている。
そして、実施例2で得られた「多結晶シリコンロッド」は、本件発明2、3の「多結晶シリコンロッド」といえるから、実施例2には、本件発明2、3の「多結晶シリコンロッド」を製造するための具体例が記載されているといえる。
(イ) また、本件発明の詳細な説明には、「上記シリコン芯線が重金属を含む外気と接触すると、それがたとえ極めて短い時間の接触であっても、上記シリコン芯線表面はすぐに汚染されるという知見を得た」こと(【0004】)、「シリコン芯線の表面を清浄化してから、上記シリコン芯線を電極に接続し、上記シリコン芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、上記シリコン芯線近傍の雰囲気を特定の条件に調整し、それを維持することにより、シリコン芯線の汚染に起因する重金属濃度が十分に低減され、清浄度の高い多結晶シリコンロッドを得ることに成功し」たこと(【0008】)、「代表的な製造方法を例示すれば、シリコン芯線に通電するための電極を設けた底板と、該底板を覆うドーム型のカバーとを有する反応器を使用し、前記電極に前記芯線を接続して通電しながら、前記反応器内に多結晶シリコン析出用原料ガスを供給し、前記芯線の表面に多結晶シリコンを気相成長させる方法であって、前記シリコン芯線の表面を清浄化してから、該シリコン芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くことを特徴とする方法が挙げられる」こと(【0026】)、「シリコン芯線内部の金属濃度は、シリコン芯線表面の重金属濃度に影響を及ぼし、さらには得られる多結晶シリコンロッド全体としての純度にも影響するため、低いほど好ましい。具体的には、鉄濃度が20pptw以下、好ましくは10pptw以下、更に好ましくは、5pptw以下であり、ニッケル濃度が10pptw以下、好ましくは2pptw以下であり、また、クロム濃度が10pptw以下、好ましくは5pptw以下、銅濃度は5pptw以下、亜鉛濃度は、5pptw以下であることが更に好ましい」こと(【0027】)、「本発明の製造方法における最大の特徴は、前記シリコン芯線の表面を清浄化してから、該芯線を電極に接続し、該芯線の上部より前記カバーで底板を覆うまでの間、前記シリコン芯線をISO14644-1により定義されるClass4~6の清浄度に調整された雰囲気下に置くことである。こうすることによって、シリコン芯線表面の重金属濃度を清浄化処理直後の低い状態で維持したまま、そのシリコン芯線表面に多結晶シリコンを析出させることができ、得られる多結晶シリコンロッドの純度をより向上させることができる」こと(【0030】)、及び「清浄度をClass4~6とした意味は、清浄度が不十分であると、シリコン芯線4の表面が汚染され、得られる多結晶シリコンロッドのバルク汚染を十分に低減できず、一方、清浄度が高すぎると、高い清浄度を達成するためのコストが膨大になるためである」こと(【0031】)が記載されている。
(ウ) 以上によれば、前記(ア)の実施例2の「多結晶シリコンロッド」の製造方法を参考にしつつ、前記(イ)のシリコン芯線近傍の雰囲気の清浄度に関する記載や、シリコン芯線の金属濃度に関する記載を参酌することで、当業者において、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明2、3の「多結晶シリコンロッド」を製造できるといえる。
(エ) また、本件発明の詳細な説明には、背景技術として、「半導体あるいは太陽光発電用ウェハーの原料として使用する多結晶シリコンは、通常、ジーメンス法を用いて製造される」こと(【0002】)が記載されていることからして、当業者において、本件発明2、3の「多結晶シリコンロッド」が「半導体あるいは太陽光発電用ウェハーの原料」として使用できることも理解できる。
(オ) したがって、前記アの判断手法を本件に当てはめると、本件発明の詳細な説明の記載は、本件発明2、3について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえるから、特許法第36条第4項第1号に規定された要件に適合する。
ウ 申立人の主張について
前記1(2)における申立人の主張は、要するに、特定金属濃度のシリコン芯線を用いた実施例のみに基づいて、実施例以外のシリコン芯線を含む本件発明2、3の多結晶シリコンロッドを当業者が容易に実施できない、ということである。
しかしながら、前記イで検討したとおり、本件発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、実施例以外のシリコン芯線を含む本件発明2、3の多結晶シリコンロッドを当業者が実施できるといえるから、申立人の上記主張は採用できない。
エ 申立理由2(実施可能要件違反)についての結論
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。
(4) 申立理由3(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下、この観点に立って検討する。
イ 本件発明の課題について
本件発明の詳細な説明の記載からして、本件発明の課題は、シリコン芯線表面に多結晶シリコンを気相成長させて得る多結晶シリコンロッドであって、上記多結晶シリコン内部の重金属濃度が十分に低減された多結晶シリコンロッド及びその製造方法を提供することであるといえる(【0007】)。
ウ 本件発明の詳細な説明に記載された課題を解決するための手段について
(ア) 本件発明の詳細な説明には、「本発明の多結晶シリコンロッドは、図2(a)の概略図に示すように、ジーメンス法で製造した長尺の多結晶シリコンロッドであって、図2(b)に示されるX-X’断面のように、シリコン芯線4を中心に多結晶シリコン5が析出してなるものである」こと(【0014】)、「上記多結晶シリコンロッドにおいて、シリコン芯線4と該シリコン芯線の表面に析出した多結晶シリコン5とが互いに接している境界面であるシリコン界面6が存在する。すなわち、シリコン界面6を挟んで、シリコン芯線4と多結晶シリコン5とが接触している。本発明では、シリコン界面6を挟んで全厚4mmの領域を、シリコン界面領域と呼ぶ」こと(【0016】)、「本発明の多結晶シリコンロッドにおける最大の特徴は、上記シリコン界面領域における鉄及びニッケル総金属濃度が元素換算で40pptw以下、特に、30pptw以下、更には、15pptw以下であることが好ましい。また、各元素別には、鉄濃度が20pptw以下、特に、10pptw以下、ニッケル濃度が10pptw以下、特に5pptw以下であることが好ましい」こと(【0017】)、「上記鉄、ニッケルは、外気との接触時によるシリコン芯線の汚染物質として代表的なものであり、また、シリコンの析出温度において拡散し易い重金属であることからシリコンロッド全体にわたって汚染を拡大する虞のある重金属であり、本発明においては、これらの金属濃度により、シリコン芯線に起因する多結晶シリコンロッドの清浄度を特定するものである」こと(【0018】)、「シリコン芯線界面から2mmの領域(全厚4mm)における重金属濃度を測定すれば、多結晶シリコンロッドのバルク汚染(重金属汚染)に対するシリコン芯線表面の重金属汚染の影響を的確に評価できること」(【0020】)、及び「本発明の多結晶シリコンロッドは、前記シリコン界面領域における重金属による汚染量が極めて低く抑えられたものであり、かかるシリコン界面領域における鉄及びニッケルの濃度を元素換算で40pptw以下という驚異的なレベルにまで低減したものである。そして、これにより、従来の多結晶シリコンロッドに比べて、ロッド全体としての純度をも高くすることが可能となり、より高品質なシリコン結晶が求められる用途への使用に対して有用である」こと(【0012】)が記載されている。
(イ) 前記(ア)の記載によれば、当業者において、シリコン芯線4を中心に多結晶シリコン5が析出してなる多結晶シリコンロッドであって、シリコン芯線4と該シリコン芯線の表面に析出した多結晶シリコン5とが互いに接しているシリコン界面6を挟んで全厚4mmのシリコン界面領域における鉄及びニッケル総金属濃度が元素換算で40pptw以下、鉄濃度が20pptw以下、ニッケル濃度が10pptw以下である多結晶シリコンロッドが、従来の多結晶シリコンロッドに比べて、ロッド全体としての純度も高く、より高品質なシリコン結晶が求められる用途に使用できることを理解でき、本件発明の課題を解決できると認識できる。
エ 本件特許請求の範囲の記載と本件発明の詳細な説明の記載との対比
本件発明2は、前記第3のとおり、「シリコンの棒状体からなる芯線を有する多結晶シリコンロッドであって、上記芯線と該芯線の表面に析出した多結晶シリコンとの界面から2mmの領域における、鉄及びニッケルの総金属濃度が元素換算で25pptw以下であり、前記領域における鉄の濃度が元素換算で20pptw以下、ニッケルの濃度が元素換算で5pptw以下である多結晶シリコンロッド」であるところ、本件発明2の「多結晶シリコンロッド」は、前記ウ(イ)で検討した多結晶シリコンロッドから、鉄及びニッケル総金属濃度やニッケル濃度をさらに減少させ、純度を高めたものである。
そうしてみると、本件発明2は、前記ウ(イ)で検討した多結晶シリコンロッドと同様に、当業者において、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
請求項2の記載を引用する本件発明3についても同様である。
したがって、前記アの判断手法を本件に当てはめると、特許請求の範囲の請求項2、3の記載の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件に適合する。
オ 申立人の主張について
前記1(3)における申立人の主張は、要するに、実施例1に記載された特定金属濃度のシリコン芯線を用いた方法を、本件発明2、3のあらゆる種類のシリコン芯線を用いた多結晶シリコンロッドの製造方法に拡張又は一般化することはできない、ということである。
しかしながら、本件発明2、3は、「多結晶シリコンロッド」の発明であって、製造方法の発明でないから、申立人の上記主張は採用できない。
カ 申立理由3(サポート要件違反)についての結論
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。
第4 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては、本件特許2~5を取り消すことはできない。
また、他に本件特許2~5を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1は、前記第2のとおり、本件訂正により削除された。これにより、本件特許1に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700665