特許異議申立
2025-700667
塗工剤および積層体
- 審判番号
- 2025-700667
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-209760
- 登録番号
- 7622985
- 請求日
- 2025年06月26日
- 審決日
- 2026年05月20日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ユニチカ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人森本国際特許事務所
- 【異議申立人】土山 秀男
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 渡辺 陽子
- 審判官 井上 千弥子
- 分類
- P1651.113-YAA(C09D) / P1651.121-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7622985号発明「塗工剤および積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7622985号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、〔3~5〕について訂正することを認める。
特許第7622985号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7622985号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和2年12月18日(優先権主張 令和元年12月23日)を出願日とする出願であって、令和7年1月20日にその特許権の設定登録がされ、同年1月28日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、本件特許に対し、令和7年6月26日に、特許異議申立人 土山 秀男(以下「申立人A」という。)により、また、令和7年7月7日(受理日7月8日)に、特許異議申立人 中川 賢治(以下「申立人B」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされた。
その後の主な経緯は、以下のとおりである。
令和7年12月11日付け 取消理由通知書
令和8年 2月 5日 訂正請求書及び意見書
同年 2月25日付け 訂正請求があった旨の通知書
同年 3月26日 意見書(申立人A)
なお、令和8年2月25日付けの通知書に対し、申立人Bから意見書の提出はなかった。
第2 訂正請求について
1 訂正の内容
令和8年2月5日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、次の訂正事項を含むものである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に、「酸変性ポリオレフィン樹脂」と記載されているのを「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」に訂正する。
イ 訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に、「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂」と記載されているのを「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」に訂正する。
ウ 訂正事項1-3
特許請求の範囲の請求項1に、「水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」と記載されているのを「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂」と記載されているのを「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」に訂正する。
(3)訂正事項3
ア 訂正事項3-1
特許請求の範囲の請求項3に、「酸変性ポリオレフィン樹脂」と記載されているのを「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」に訂正する。
イ 訂正事項3-2
特許請求の範囲の請求項3に、「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂」と記載されているのを「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」に訂正する。
ウ 訂正事項3-3
特許請求の範囲の請求項3に、「水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」と記載されているのを「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」に訂正する。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項1-1は、訂正前の「酸変性ポリオレフィン樹脂」を「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」に特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(イ)訂正事項1-2は、訂正前の「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂」を「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」に特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(ウ)訂正事項1-3は、訂正前の「水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」に特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アから明らかなように、訂正事項1は、訂正前の請求項1の発明特定事項を概念的により下位のものに限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
(ア)訂正事項1-1
本件特許の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、「・・・」は、省略箇所を示す。
「【0009】
<酸変性ポリオレフィン樹脂>
本発明の塗工剤を構成する酸変性ポリオレフィン樹脂は、酸変性成分とオレフィン成分とを共重合成分として含有する共重合体であることが好ましい。・・・
【0010】
酸変性成分は、不飽和カルボン酸成分であることが好ましく、不飽和カルボン酸や、その無水物により導入される。
・・・
【0014】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、基材との密着性を向上させる理由から、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有することが好ましい。
・・・
【0052】
塗工剤の原料および紙基材として、下記のものを使用した。
1.酸変性ポリオレフィン樹脂
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体(E-1)の製造
ヒーター付きの密閉できる耐圧ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、100gの酸変性ポリオレフィン樹脂(エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸共重合体、無水マレイン酸2質量%、融点105℃、ガラス転移温度0℃未満)、100gのイソプロパノール、4.0gのトリエチルアミン、および296gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌しながら120℃まで加熱することによって、乳白色のポリオレフィン樹脂水性分散体E-1(固形分濃度約20質量%、粘度60mPa・s、水性媒体におけるイソプロパノール比率25質量%)を得た。」
すなわち、本件明細書の【0009】、【0010】、【0014】には、「酸変性ポリオレフィン樹脂」の共重合成分として、不飽和カルボン酸成分、オレフィン成分、(メタ)アクリル酸エステル成分が記載され、【0052】には、「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」の具体例である「エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸共重合体」が記載されているから、訂正事項1-1は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。
(イ)訂正事項1-2
「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂」を「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」とする訂正は、訂正前の「酸変性ポリオレフィン樹脂」と「アクリル樹脂」の重複部分を取り除き、両者を明確に区別するためのもので、新たな技術事項を導入するものではないから、訂正事項1-2は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。
(ウ)訂正事項1-3
本件明細書には、以下の事項が記載されている。
「【0023】
水酸基含有化合物としては、例えば、カラギナン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類、キサンタンガム、グアガム、ペクチン、変性デンプン等の多糖類、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。これらの中でも、塗工剤の粘度を制御しやすいことから、カルボキシメチルセルロース、多糖類が好ましく、耐油性に優れる樹脂層が形成されることから、多糖類がより好ましい。
・・・
【0056】
4.水酸基含有化合物
・CMC:カルボキシメチルセルロース、日本製紙社製、サンローズF350HC
・多糖類:キサンタンガム、ダニスコジャパン社製、GRINDSTED Xanthan J
・PVA:ポリビニルアルコール溶液、日本酢ビポバール社製JMR-10Lの10質量%溶液(溶媒:水/イソプロパノール(質量比40/60))
・・・
【0061】
【表1】
[図:0001438285000001.jpg]
」
すなわち、本件明細書の【0023】、【0056】、【0061】の【表1】には、「水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」として、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」が記載されているから、訂正事項1-3は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。
(エ)したがって、訂正事項1は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
エ 訂正事項1のまとめ
上記ア~ウのとおりであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合する。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2について、訂正事項1-2と同内容の訂正をするものであるから、上記(1)と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合する。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3について、請求項1と同内容の訂正をするものであるから、上記(1)と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合する。
(4)独立特許要件について
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~5に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項のいわゆる独立特許要件は課されない。
(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1~2について、請求項2は請求項1を引用しており、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、訂正前の請求項3~5について、請求項4、5は請求項3を引用しており、訂正事項3によって訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~2、3~5に対応する訂正後の請求項1~2、3~5は、それぞれ特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であって、本件訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。
3 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1~4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、令和8年2月5日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、〔3~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明5」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂と、
ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)と、
カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)と、
水性媒体と、を含有することを特徴とする塗工剤。
【請求項2】
ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)の含有量が、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、10質量部を超え、100質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の塗工剤。
【請求項3】
紙基材と樹脂層とが積層されてなる積層体であって、
樹脂層が、共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂と、
ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)と、
カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)と、を含有することを特徴とする積層体。
【請求項4】
請求項3に記載の積層体を含むことを特徴とする包装材料。
【請求項5】
請求項3に記載の積層体を含むことを特徴とする紙容器。」
第4 申立理由の概要
1 申立人Aの申立理由の概要
申立人Aは、証拠方法として以下の甲第1号証~甲第11号証及び参考資料1~2を提出するとともに、概略、以下の申立理由A-1~A-8(合議体注:合議体が申立人Aの申立理由に符号を付した。)により、本件発明に係る特許は、取り消されるべきものであると主張している。
(1)申立理由A-1(甲第1号証による新規性欠如)
本件発明1は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(2)申立理由A-2(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如)
本件発明1~5は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明、又は、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証に記載された発明、並びに、甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(3)申立理由A-3(甲第2号証による新規性欠如)
本件発明1、3~5は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であり特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件発明1、3~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(4)申立理由A-4(甲第2号証を主引例とする進歩性欠如)
本件発明1~5は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(5)申立理由A-5(甲第6号証による新規性欠如)
本件発明1、2は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第6号証に記載された発明であり特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件発明1、2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(6)申立理由A-6(甲第6号証を主引例とする進歩性欠如)
本件発明1、2は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1、2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(7)申立理由A-7(明確性要件)
本件発明1~5に係る特許は、以下のア~ウの理由から、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
ア 本件発明1~5における「酸変性ポリオレフィン樹脂」と「アクリル樹脂」は明確に区別をすることができない。
イ 本件発明1~5における「水酸基含有化合物」と「水性媒体」は明確に区別をすることができない。
ウ 本件発明1~5における「酸変性ポリオレフィン樹脂」と「水酸基含有化合物」は明確に区別をすることができない。
(8)申立理由A-8(サポート要件)
本件発明1~5に係る特許は、以下の理由から、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
発明の詳細な説明において、本件発明1~5の解決しようとする課題を解決できることが確認された「酸変性ポリオレフィン樹脂」は、「エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸共重合体」のみであり、共重合成分によって、塗工剤の特性が大きく異なることは技術常識であるから、「エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸共重合体」以外の酸変性ポリオレフィン樹脂を包含する本件発明1~5は、上記課題を解決できると認識できる範囲のものではない。
(9)証拠方法
甲第1号証:特開2001-088250号公報
甲第2号証:特開2016-028133号公報
甲第3号証:特開2019-116536号公報
甲第4号証:特許第6055578号
甲第5号証:特開2003-336191号公報
甲第6号証:特開2011-074290号公報
甲第7号証:URL:https://www.fujigom.co.jp/manufacturing/20230915-818/
甲第8号証:URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%AB%E6%A8%B9%E8%84%82
甲第9号証:URL:https://mediahub.covestro.com/m/3f9750d5lc9fdffl/original/NeoCryl_A-6092.p df
甲第10号証:URL:https://utsrus.com/data/ETS_WWW/files/b1b0c573-0433-1le9-8129-c58096cfb4ac/Neocryl%20A%201092%2OTDS%20(EN).pdf
甲第11号証:URL:https://okahata.co.jp/blog/material/what-is-glycol
申立人Aが提出した特許異議申立書を「申立書A」、甲第1号証~甲第11号証を「甲A1」~「甲A11」のように略記する場合がある。
また、申立人Aは、令和8年3月26日の意見書(以下「意見書A」という。)に添付して、参考資料1及び2を提出した。
参考資料1:「みなさんは「多糖類」と言われてイメージが湧くでしょうか?」、URL:https://www.tatourui.com/about/0l_tatourui.html
参考資料2:京都工芸繊維大学 山田 和志、日本包装学会誌、2022年、Vol.31、No.3、178頁、用語「多糖類」の項目、URL:https://www.spstj.jp/publication/term/doc/31-3-1.pdf
2 申立人Bの申立理由の概要
申立人Bは、証拠方法として以下の甲第1号証~甲第4号証を提出するとともに、概略、以下の申立理由B-1~B-6(合議体注:合議体が申立人Bの申立理由に符号を付した。)により、本件発明に係る特許は、取り消されるべきものであると主張している。
(1)申立理由B-1(甲第1号証による新規性欠如)
本件発明1~2は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件発明1~2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(2)申立理由B-2(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如)
本件発明1~5は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明、又は、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(3)申立理由B-3(甲第2号証による新規性欠如)
本件発明1は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であり特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(4)申立理由B-4(甲第2号証を主引例とする進歩性欠如)
本件発明1~5は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明、又は、甲第2号証~甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(5)申立理由B-5(サポート要件)
本件発明1~5に係る特許は、以下の理由から、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
発明の詳細な説明には、「水酸基含有化合物」について、これを含有することで粘度を制御できると記載されていても、「水酸基含有化合物」は、水、アルコール類、フェノール類、カルボン酸、スルホン酸など多様な化合物を含むものであり、多様な水酸基含有化合物の全体にわたって、本件発明1~5の解決しようとする課題を解決することができると認識することはできない。
(6)申立理由B-6(明確性要件)
本件発明1~5に係る特許は、以下の理由から、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
本件発明1~5における「水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」について、「水酸基含有化合物」に含まれるアルコール類が「水性媒体」として説明されるなど、「水酸基含有化合物」の表している技術的意味が明らかでない。
(7)証拠方法
甲第1号証:特開2005-023303号公報
甲第2号証:特開2016-023304号公報
甲第3号証:特開2019-116536号公報
甲第4号証:特開2003-336191号公報
申立人Bが提出した特許異議申立書を「申立書B」、甲第1号証~甲第4号証を「甲B1」~「甲B4」のように略記する場合がある。
第5 取消理由の概要
令和7年12月11日付けの取消理由通知書における取消理由(以下「取消理由」という。)の概要は、以下のとおりである。
[取消理由1](明確性)本件発明1~5は、以下の理由から明確でないから、本件発明1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものである。
本件発明1~5における「酸変性ポリオレフィン樹脂」と「アクリル樹脂」は明確に区別をすることができず、「水酸基含有化合物」と「水性媒体」は明確に区別をすることができず、「酸変性ポリオレフィン樹脂」と「水酸基含有化合物」は明確に区別をすることができないから、本件発明1~5は、明確でない(申立理由A-7、B-6に対応。)。
[取消理由2](新規性)本件発明1~2は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A1、甲A2、甲A6、甲B1、又は甲B2に記載された発明であり特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1~2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(申立理由A-1、A-3、A-5、B-1、B-3に対応。)。
甲A1、甲A2、甲A6、甲B1、又は甲B2による新規性欠如の理由を、それぞれ「取消理由2-A1」、「取消理由2-A2」、「取消理由2-A6」、「取消理由2-B1」、「取消理由2-B2」という。
[取消理由3](進歩性)本件発明1~5は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A1、甲A2、甲A6、甲B1又は甲B2に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立理由A-2、A-4、A-6、B-2、B-4に対応。)。
甲A1、甲A2、甲A6、甲B1、又は甲B2を主引例とする進歩性欠如の理由を、それぞれ「取消理由3-A1」、「取消理由3-A2」、「取消理由3-A6」、「取消理由3-B1」、「取消理由3-B2」という。
[取消理由4](サポート要件)本件発明1~5は、以下の理由から、発明の詳細な説明に記載された発明でないから、本件発明1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。
非常に多様な成分をも含有する本件発明1~5は、本件発明1~5の解決しようとする課題を解決できると認識することができる範囲のものではない(申立理由A-8、B-5に対応。)。
第6 当審の判断
1 取消理由1、申立理由A-7、B-6(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、本件明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件発明1~5の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、本件明細書の記載とも整合する。
したがって、本件発明1~5に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、本件明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確とはいえない。
(3)申立人Aの主張について
ア 申立人Aは、本件発明1~5における「酸変性ポリオレフィン樹脂」と「アクリル樹脂」は明確に区別をすることができないこと、「水酸基含有化合物」と「水性媒体」は明確に区別をすることができないこと、「酸変性ポリオレフィン樹脂」と「水酸基含有化合物」は明確に区別をすることができないことを挙げて、本件発明1~5の特許請求の範囲の記載は明確でないと主張する(申立書A40頁11行~42頁4行)。
また、「アクリル樹脂」が示す範囲、例えば、いずれのモノマーを必須の重合成分とするのか、官能基が付与された重合体等の誘導体までも広く包含するのか特定できないから、「アクリル樹脂」の範囲は明確でなく、さらに、「アクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」において除外されている「酸変性ポリオレフィン樹脂」を構成する各重合成分の含有割合が規定されておらず、除外されている範囲が明確でないことを挙げて、本件発明1~5の特許請求の範囲の記載は明確でないと主張する(意見書A2頁下から3行~4頁5行)。
イ しかしながら、本件発明1~5における「アクリル樹脂」は、訂正により、「アクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」となったから、「酸変性ポリオレフィン樹脂」と「アクリル樹脂」は、明確に区別をすることができるものである。
そして、本件発明1~5における「水酸基含有化合物」は、訂正により、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物」となったところ、カルボキシメチルセルロースと多糖類は、水性媒体ではなく、酸変性ポリオレフィン樹脂でもない。
そうすると、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物」は、「水性媒体」とも「酸変性ポリオレフィン樹脂」とも明確に区別をすることができるものである。
また、「アクリル樹脂」とは、通常用いられている技術用語であって不明確ということはなく、また、除外される範囲も、「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」であれば、各重合成分の含有割合にかかわらず除外されることは明確である。
したがって、申立人Aの主張は、採用できない。
(4)申立人Bの主張について
ア 申立人Bは、本件発明1~5における「水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」について、「水酸基含有化合物」に含まれるアルコール類が「水性媒体」として説明されるなど、「水酸基含有化合物」の表している技術的意味が明らかでないから、本件発明1~5の特許請求の範囲の記載は明確でないと主張する(申立書B17頁1行~16行)。
イ しかしながら、本件発明1~5における「水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」は、訂正により、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」となったから、その範囲は明確であり、「水性媒体」として説明されるアルコール類を含まないことも明らかである。
したがって、申立人Bの主張は、採用できない。
(5)まとめ
よって、本件発明1~5の特許請求の範囲の記載は明確であり、本件特許の請求項1~5に係る特許は、取消理由1、申立理由A-7、B-6(明確性要件)によって、取り消すことができないものである。
2 取消理由2-A1、3-A1、申立理由A-1、A-2(甲A1を主引例とする新規性欠如、進歩性欠如)
(1)甲A1に記載された発明
甲A1には、実施例5(【0034】の【表1】)として、アクリル系重合体、PVA、マレイン酸共重合体としてイソバンを含むコート剤が記載されている。
そして、甲A1の【0030】には、上記実施例5は、無水マレイン酸共重合体として、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体(クラレ社製:イソバン)を用いた以外は実施例2と同様であると記載され、同【0027】の実施例2の記載によれば、実施例5のアクリル系重合体は、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及び、スルホメタクリレートの共重合体であり、得られたコート液は、水を含んでいるから、水性コート剤であると認められる。
以上によれば、甲A1には、以下の発明が記載されていると認められる。
<甲A1発明>
「アクリル系重合体、PVA、マレイン酸共重合体としてイソバンを含むコート剤であって、
アクリル系重合体は、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及び、スルホメタクリレートの共重合体であり、
イソバンは、クラレ社製のイソブチレン-無水マレイン酸共重合体である、
水性コート剤。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A1発明を対比する。
(ア)甲A1発明の「イソブチレン-無水マレイン酸共重合体」における「イソブチレン」は、本件発明1の「オレフィン成分」に相当し、「無水マレイン酸」は、本件発明1の「不飽和カルボン酸成分」に相当する。また、甲A1発明の「イソブチレン-無水マレイン酸共重合体」は、共重合体成分に含まれる「無水マレイン酸」という「酸」により「変性」されているといえるから、本件発明1の「酸変性」に相当する。そうすると、甲A1発明の「イソブチレン-無水マレイン酸共重合体」と本件発明1の「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」とは、「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」である限りにおいて一致する。
(イ)甲A1発明の「アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及び、スルホメタクリレートの共重合体であ」る「アクリル系重合体」は、本件発明1の「アクリル樹脂」に相当する。そして、本件発明1の「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」における「前記酸変性ポリオレフィン樹脂」とは、「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」であるところ、甲A1発明の「アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及び、スルホメタクリレートの共重合体であ」る「アクリル系重合体」は、「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」には該当しないものである。
そうすると、甲A1発明の「アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及び、スルホメタクリレートの共重合体であ」る「アクリル系重合体」は、本件発明1の「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」に相当する。
(ウ)甲A1発明の「水性コート剤」は、本件発明1の「水性媒体と、を含有する」、「塗工剤」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明1と甲A1発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂と、
ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)と、
水性媒体と、を含有することを特徴とする塗工剤。」
<相違点A1-1>
酸変性ポリオレフィン樹脂が、本件発明1は、共重合成分として、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有するのに対し、甲A1発明は、共重合成分として、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有するか不明な点。
<相違点A1-2>
本件発明1は、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有するものであるのに対し、甲A1発明は、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有しない点。
そして、上記相違点A1-1、A1-2は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲A1に記載された発明ではない。
したがって、甲A1による新規性欠如は、理由がない。
イ 相違点A1-2の判断
事案に鑑み、相違点A1-2から判断する。
甲A1には、甲A1発明において、カルボキシメチルセルロースや多糖類を含有するものとすることは記載も示唆もされていない。
そして、申立人が提出した甲A1~A11、B1~B4の記載を検討しても、甲A1発明において、カルボキシメチルセルロースや多糖類を含有するものとすることを動機付けられる理由は見いだせない。
したがって、甲A1発明において、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有するものとすることは、当業者が容易に行うことではない。
ウ 小括
よって、相違点A1-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A1に記載された発明ではなく、甲A1に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5を甲A1発明と対比すると、少なくとも、上記(2)アの「相違点A1-2」の点で相違するから、上記(2)と同様に、本件発明2~5は、甲A1に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲A1に記載された発明ではなく、本件発明1~5は、甲A1に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、取消理由2-A1、3-A1、申立理由A-1、A-2(甲A1を主引例とする新規性欠如、進歩性欠如)によって、取り消すことができないものである。
3 取消理由2-A2、3-A2、申立理由A-3、A-4(甲A2を主引例とする新規性欠如、進歩性欠如)
(1)甲A2に記載された発明
ア 甲A2の実施例21(【0141】、【0146】の【表2】)には、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)水性分散体、エポキシ化植物油(B)、ポリウレタン樹脂(C)、ポリビニルアルコール(D)を含む水性分散体E-21であって、上記「酸変性ポリオレフィン樹脂(A)水性分散体」の種類が「A-2」、樹脂が「PO2」であり、上記「ポリウレタン樹脂(C)」の種類が「HUX380」であり、上記「ポリビニルアルコール(D)」の種類が「VC-10」である水性分散体が記載され、甲A2の請求項10には、「・・・ポリオレフィン樹脂水性分散体からなることを特徴とする押出しラミネート用アンカーコート剤」が記載されている。
イ そして、上記「PO2」は、エチレン、無水マレイン酸、アクリル酸エチルの共重合体であり(【0125】の【表1】)、上記「HUX380」は、エステル型ポリウレタン樹脂の水性分散体であるアデカ社製アデカボンタイターHUX380であり(【0131】)、上記「VC-10」は、ポリビニールアルコール(PVA)の水溶液である日本酢ビ・ポバール社製VC-10である(【0140】)。
ウ 以上によれば、甲A2には、以下の発明が記載されていると認められる。
<甲A2発明>
「酸変性ポリオレフィン樹脂(A)水性分散体、エポキシ化植物油(B)、ポリウレタン樹脂(C)、ポリビニルアルコール(D)を含む水性分散体であって、
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)水性分散体が、エチレン、無水マレイン酸、アクリル酸エチルの共重合体であり、
ポリウレタン樹脂(C)が、エステル型ポリウレタン樹脂の水性分散体であるアデカ社製アデカボンタイターHUX380であり、
ポリビニルアルコール(D)が、ポリビニールアルコール(PVA)の水溶液である日本酢ビ・ポバール社製VC-10である、
水性分散体からなる押出しラミネート用アンカーコート剤。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A2発明を対比する。
(ア)甲A2発明の「エチレン、無水マレイン酸、アクリル酸エチルの共重合体」における「エチレン」は、本件発明1の「オレフィン成分」に相当し、「無水マレイン酸」は、本件発明1の「不飽和カルボン酸成分」に相当し、「アクリル酸エチル」は、本件発明1の「(メタ)アクリル酸エステル成分」に相当するから、甲A2発明の「エチレン、無水マレイン酸、アクリル酸エチルの共重合体」である「酸変性ポリオレフィン樹脂(A)」は、本件発明1の「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」に相当する。
(イ)甲A2発明の「エステル型ポリウレタン樹脂の水性分散体であるアデカ社製アデカボンタイターHUX380」は、「ウレタン樹脂」であるから、本件発明1の「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」に相当する。
(ウ)甲A2発明の「水性分散体からなる押出しラミネート用アンカーコート剤」は、本件発明1の「水性媒体と、を含有する」、「塗工剤」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明1と甲A2発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂と、
ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)と、
水性媒体と、を含有することを特徴とする塗工剤。」
<相違点A2-1>
本件発明1は、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有するものであるのに対し、甲A2発明は、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有しない点。
そして、上記相違点A2-1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲A2に記載された発明ではない。
したがって、甲A2による新規性欠如は、理由がない。
イ 相違点A2-1の判断
(ア)甲A2には、以下の事項が記載されている。
「【0039】
本発明の水性分散体は、不揮発性の水性分散化助剤を実質的に含有しないことが好ましい。本発明は、不揮発性水性分散化助剤の使用を排除するものではないが、水性分散化助剤を用いずとも、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)やエポキシ化植物油(B)を水性分散体中に均一に、溶解および/または分散することができる。水性分散体は、不揮発性の水性分散化助剤を実質的に含有しないため、接着性や耐内容物性、耐水性に優れており、これらの性能は長期的にもほとんど変化しない。
【0040】
ここで、「水性分散化助剤」とは、水性分散体の製造において、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
【0041】
「不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有しない」とは、こうした助剤を水性分散体の製造時に用いず、得られる水性分散体が結果的にこの助剤を含有しないことを意味する。したがって、こうした水性分散化助剤は、含有量がゼロであることが最も好ましいが、本発明の効果を損ねない範囲で含有しても構わず、例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)に対して5質量%以下、好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下程度含まれていても差し支えない。
【0042】
本発明でいう不揮発性水性分散化助剤としては、例えば、後述する乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物などが挙げられる。
【0043】
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0044】
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン-プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸-無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物等が挙げられる。」
(イ)上記(ア)のとおり、甲A2には、不揮発性水性分散化助剤の使用を排除するものではないが、実質的に含有しないことが好ましいこと、不揮発性水性分散化助剤として例示されたものの一つとして、保護コロイド作用を有する化合物が挙げられることが記載され、さらに、保護コロイド作用を有する化合物として多数列挙された中に、カルボキシメチルセルロースと多糖類である変性デンプン、アラビアゴムが記載されている。
そうすると、甲A2発明において、実質的に含有しないことが好ましいとされている不揮発性水性分散化助剤をあえて含有するものとしたうえで、不揮発性水性分散化助剤として挙げられた中から保護コロイド作用を有する化合物を選択し、さらに、保護コロイド作用を有する化合物として多数列挙された中からカルボキシメチルセルロースや多糖類を選択し、これらを含有するものとすることは、当業者が容易に行うこととはいえない。
そして、申立人が提出した甲A1~A11、B1~B4の記載を検討しても、甲A2発明において、カルボキシメチルセルロースや多糖類を含有するものとすることを動機付けられる理由は見いだせない。
したがって、甲A2発明において、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有するものとすることは、当業者が容易に行うことではない。
ウ 申立人Aの主張について
(ア)申立人Aは、甲A2の【0039】には、不揮発性水性分散化助剤の使用を排除するものではないと明記され、また、【0041】にも不揮発性水性分散化助剤について「本発明の効果を損ねない範囲で含有しても構わず」と記載されているから(上記イ(ア))、甲A2発明は、カルボキシメチルセルロースと多糖類を含み得ること、また、甲A2には、甲A2に記載された水性分散体を用いた包装材料が「油」又は「油成分」を含む内容物に対して優れた耐性を有することが記載されており(【0107】、【0108】)、実際に、甲A2発明として認定した実施例21等においても、灯油に対する耐内容物試験で「剥離不可」という優れた接着保持性、すなわち、耐油性を有することが実証されているから、本件発明1の効果は予測し得たものであること、加えて、本件明細書中、カルボキシメチルセルロースを含む実施例2の耐油性評価は、カルボキシメチルセルロースの代わりにポリビニルアルコールを含む実施例10等と同様の「○」であるから、本件明細書には、本件発明1が耐油性に顕著に優れることは記載されていないことを挙げて、本件発明1は、甲2A発明から容易に発明をすることができたものであると主張する(意見書A4頁6行~6頁14行)。
(イ)しかしながら、甲A2に、不揮発性水性分散化助剤の使用を排除するものではないと明記され、効果を損ねない範囲で含有しても構わないと記載されていたとしても、上記イ(イ)のとおり、実質的に含有しないことが好ましいとされている不揮発性水性分散化助剤をあえて含有するものとしたうえで、不揮発性水性分散化助剤として挙げられた中から保護コロイド作用を有する化合物を選択し、さらに、保護コロイド作用を有する化合物として多数列挙された中からカルボキシメチルセルロースや多糖類を選択し、これらを含有するものとすることは、当業者が容易に行うこととはいえない。
そして、カルボキシメチルセルロースを含む実施例2の耐油性評価が、カルボキシメチルセルロースの代わりにポリビニルアルコールを含む実施例10等と同様の「○」であるとしても、実施例2とは、カルボキシメチルセルロースの有無が異なる実施例1では、耐油性評価が「△」であったのに対し、カルボキシメチルセルロースを含む実施例2では、耐油性評価が「○」となっているから、カルボキシメチルセルロースを含有することで、耐油性評価が△から○に向上していることが理解できる。そうすると、本件発明1は、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有することで、優れた効果を奏するものといえる。
したがって、申立人Aの主張は、採用できない。
エ 小括
よって、本件発明1は、甲A2に記載された発明ではなく、甲A2に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5を甲A2発明と対比すると、少なくとも、上記(2)アの「相違点A2-1」の点で相違するから、上記(2)と同様に、本件発明3~5は、甲A2に記載された発明ではなく、また、本件発明2~5は、甲A2に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1、3~5は、甲A2に記載された発明ではなく、本件発明1~5は、甲A2に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、取消理由2-A2、3-A2、申立理由A-3、A-4(甲A2を主引例とする新規性欠如、進歩性欠如)によって、取り消すことができないものである。
4 取消理由2-A6、3-A6、申立理由A-5、A-6(甲A6を主引例とする新規性欠如、進歩性欠如)
(1)甲A6に記載された発明
甲A6の【0064】、【0065】の【表1】には、(A)水性スチレン化(メタ)アクリルコポリマー、(B)非塩素系マレイン酸変性ポリオレフィン、(C)導電性カーボン、(E)添加剤として、体質顔料(カオリナイト)、表面調整剤(シリコン系)、造膜助剤(グリコール系)、消泡剤(ポリマー系)、増粘剤(ウレタン会合型)、中和剤(4級アンモニウム塩)、(D)水を含む「導電性水系プライマー組成物」が記載されている。
したがって、甲A6には、以下の発明が記載されているといえる。
<甲A6発明>
「(A)水性スチレン化(メタ)アクリルコポリマー、(B)非塩素系マレイン酸変性ポリオレフィン、(C)導電性カーボン、(E)添加剤として、体質顔料(カオリナイト)、表面調整剤(シリコン系)、造膜助剤(グリコール系)、消泡剤(ポリマー系)、増粘剤(ウレタン会合型)、中和剤(4級アンモニウム塩)、(D)水を含む導電性水系プライマー組成物。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A6発明を対比する。
(ア)甲A6発明の「(A)水性スチレン化(メタ)アクリルコポリマー」は、本件発明1の「アクリル樹脂」に相当する。
そして、本件発明1の「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」における「前記酸変性ポリオレフィン樹脂」とは、「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」であるところ、甲A6発明の「(A)水性スチレン化(メタ)アクリルコポリマー」は、甲A6の【0063】によれば、スチレン、イソブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、アクリル酸を共重合したポリマーであり、「オレフィン成分」を含まないから、「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」には該当しないものである。
そうすると、甲A6発明の「(A)水性スチレン化(メタ)アクリルコポリマー」は、本件発明1の「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」に相当する。
(イ)甲A6発明の「(B)非塩素系マレイン酸変性ポリオレフィン」は、「酸変性ポリオレフィン樹脂」であり、また、「不飽和カルボン酸」である「マレイン酸」を共重合成分として含むから、本件発明1の「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」とは、「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分を含有する変性ポリオレフィン樹脂」である限りにおいて一致する。
(ウ)甲A6発明の「(D)水」は、本件発明1の「水性媒体」に相当する。
(エ)甲A6発明の「導電性水系プライマー組成物」は、本件発明1の「塗工剤」に相当する。
(オ)以上によれば、本件発明1と甲A6発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分を含有する酸変性ポリオレフィン樹脂と、
ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)と、
水性媒体と、を含有することを特徴とする塗工剤。」
<相違点A6-1>
酸変性ポリオレフィン樹脂が、本件発明1は、共重合成分として、オレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有するのに対し、甲A6発明は、そのようなものであるか不明な点。
<相違点A6-2>
本件発明1は、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有するものであるのに対し、甲A6発明は、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有しない点。
そして、上記相違点A6-1、A6-2は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲A6に記載された発明ではない。
したがって、甲A6による新規性欠如は、理由がない。
イ 相違点A6-2の判断
事案に鑑み、相違点A6-2から判断する。
甲A6には、甲A6発明において、カルボキシメチルセルロースや多糖類を含有するものとすることは記載も示唆もされていない。
そして、申立人が提出した甲A1~A11、B1~B4の記載を検討しても、甲A6発明において、カルボキシメチルセルロースや多糖類を含有するものとすることを動機付けられる理由は見いだせない。
したがって、甲A6発明において、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有するものとすることは、当業者が容易に行うことではない。
ウ 小括
よって、相違点A6-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A6に記載された発明ではなく、甲A6に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明2について
本件発明2を甲A6発明と対比すると、少なくとも、上記(2)アの「相違点A6-2」の点で相違するから、上記(2)と同様に、本件発明2は、甲A6に記載された発明ではなく、また、甲A6に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、甲A6に記載された発明ではなく、甲A6に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許の請求項1~2に係る特許は、取消理由2-A6、3-A6、申立理由A-5、A-6(甲A6を主引例とする新規性欠如、進歩性欠如)によって、取り消すことができないものである。
5 取消理由2-B1、3-B1、申立理由B-1、B-2(甲B1を主引例とする新規性欠如、進歩性欠如)
(1)甲B1に記載された発明
甲B1の実施例3(【0075】の【表1】)には、樹脂粒子(A)として樹脂粒子(A-1)、ウレタンエマルション(E)としてユーコートUX8100、水酸基含有樹脂(B)としてポリエステル樹脂(B-1)、硬化剤(C)としてバイヒドロールVP LS2310、サイメル325、顔料(D)としてカーボンMA100、JR806、MICRO ACE S-3を含む水性塗料が記載されている。
したがって、甲B1には、以下の発明が記載されていると認められる。
<甲B1発明>
「樹脂粒子(A)として樹脂粒子(A-1)、ウレタンエマルション(E)としてユーコートUX8100、水酸基含有樹脂(B)としてポリエステル樹脂(B-1)、硬化剤(C)としてバイヒドロールVP LS2310、サイメル325、顔料(D)としてカーボンMA100、JR806、MICRO ACE S-3を含む水性塗料。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲B1発明を対比する。
(ア)甲B1発明の「樹脂粒子(A-1)」は、甲B1の【0064】~【0066】からみて、無水マレイン酸グラフトポリエチレンに、スチレンとアクリル酸2-エチルヘキシルを共重合したものである。そして、上記「無水マレイン酸」は、本件発明1の「不飽和カルボン酸成分」に相当し、上記「ポリエチレン」のモノマー成分は、本件発明1の「オレフィン成分」に相当し、上記「アクリル酸2-エチルヘキシル」は、本件発明1の「(メタ)アクリル酸エステル成分」に相当し、「無水マレイン酸」を含むことは、無水マレイン酸という「酸」により「変性」されているといえるから、本件発明1の「酸変性」に相当する。
そうすると、甲B1発明の「樹脂粒子(A-1)」は、本件発明1の「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」に相当する。
(イ)甲B1発明の「ウレタンエマルション(E)」である「ユーコートUX8100」は、「ウレタン樹脂」であるから、本件発明1の「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」に相当する。
(ウ)甲B1発明の「水性塗料」は、本件発明1の「水性媒体と、を含有する」、「塗工剤」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明1と甲B1発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂と、
ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)と、
水性媒体と、を含有することを特徴とする塗工剤。」
<相違点B1-1>
本件発明1は、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有するものであるのに対し、甲B1発明は、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有しない点。
そして、上記相違点B1-1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲B1に記載された発明ではない。
したがって、甲B1による新規性欠如は、理由がない。
イ 相違点B1-1の判断
甲B1には、甲B1発明において、カルボキシメチルセルロースや多糖類を含有するものとすることは記載も示唆もされていない。
そして、申立人が提出した甲A1~A11、B1~B4の記載を検討しても、甲B1発明において、カルボキシメチルセルロースや多糖類を含有するものとすることを動機付けられる理由は見いだせない。
したがって、甲B1発明において、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有するものとすることは、当業者が容易に行うことではない。
ウ 小括
よって、本件発明1は、甲B1に記載された発明ではなく、甲B1に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5を甲B1発明と対比すると、少なくとも、上記(2)アの「相違点B1-1」の点で相違するから、上記(2)と同様に、本件発明2は、甲B1に記載された発明ではなく、また、本件発明2~5は、甲B1に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、甲B1に記載された発明ではなく、本件発明1~5は、甲B1に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、取消理由2-B1、3-B1、申立理由B-1、B-2(甲B1を主引例とする新規性欠如、進歩性欠如)によって、取り消すことができないものである。
6 取消理由2-B2、3-B2、申立理由B-3、B-4(甲B2を主引例とする新規性欠如、進歩性欠如)
(1)甲B2に記載された発明
甲B2の実施例1(【0118】、【0122】の【表5】)には、水性ウレタン樹脂であるアデカボンタイターHUX561(ADEKA社製)、水性塩素化ポリオレフィン変性アクリル樹脂であるB-1、水性無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂であるC-1、ポリフローKL245、白色顔料ペースト、緑色顔料ペースト、紫色顔料ペースト、赤色顔料ペースト、黄色顔料ペースト、アートパールC800、ブチルセロソルブ、プライマルASE60、イオン交換水を含有する塗料組成物が記載されている。
したがって、甲B2には、以下の発明が記載されていると認められる。
<甲B2発明>
「水性ウレタン樹脂であるアデカボンタイターHUX561(ADEKA社製)、水性塩素化ポリオレフィン変性アクリル樹脂であるB-1、水性無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂であるC-1、ポリフローKL245、白色顔料ペースト、緑色顔料ペースト、紫色顔料ペースト、赤色顔料ペースト、黄色顔料ペースト、アートパールC800、ブチルセロソルブ、プライマルASE60、イオン交換水を含有する塗料組成物。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲B2発明を対比する。
(ア)甲B2発明の「水性無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂であるC-1」は、甲B2の【0114】によれば、製造例1で作製したPOM-1の水分散体であり、同【0111】によれば、POM-1は、ポリプロピレン系樹脂PO-1を無水マレイン酸で変性した樹脂であり、同【0105】~【0108】によれば、ポリプロピレン系樹脂PO-1は、エチレン-プロピレン共重合体(PO-1)である。すなわち、甲B2発明の「水性無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂であるC-1」は、水性無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合ポリプロピレン系樹脂であるところ、上記「エチレン」と「プロピレン」は、本件発明1の「オレフィン成分」に相当し、上記「無水マレイン酸」は、本件発明1の「不飽和カルボン酸成分」に相当し、上記「無水マレイン酸変性」は、本件発明1の「酸変性」に相当する。
そうすると、甲B2発明の「水性無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂であるC-1」と本件発明1の「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」とは、「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」である限りにおいて一致する。
(イ)甲B2発明の「水性塩素化ポリオレフィン変性アクリル樹脂であるB-1」は、本件発明1の「アクリル樹脂」に相当する。そして、本件発明1の「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」における「前記酸変性ポリオレフィン樹脂」とは、「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」であるところ、甲B2発明の「水性塩素化ポリオレフィン変性アクリル樹脂であるB-1」は、甲B2の【0101】によれば、ポリオレフィン樹脂、メチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、イソブチルメタクリレートを共重合した樹脂であって、不飽和カルボン酸成分を含まないから、上記「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分と(メタ)アクリル酸エステル成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂」には該当しない。
そうすると、甲B2発明の「水性塩素化ポリオレフィン変性アクリル樹脂であるB-1」は、本件発明1の「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」に相当する。
(ウ)甲B2発明の「水性ウレタン樹脂であるアデカボンタイターHUX561(ADEKA社製)」は、本件発明1の「ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)」に相当する。
(エ)甲B2発明の「イオン交換水」は、本件発明1の「水性媒体」に相当する。
(オ)甲B2発明の「塗料組成物」は、本件発明1の「塗工剤」に相当する。
(カ)以上によれば、本件発明1と甲B2発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「共重合成分として、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂と、
ウレタン樹脂および/またはアクリル樹脂(ただし、前記アクリル樹脂には、前記酸変性ポリオレフィン樹脂に該当する樹脂は含まれない。)と、
水性媒体と、を含有することを特徴とする塗工剤。」
<相違点B2-1>
酸変性ポリオレフィン樹脂が、本件発明1は、共重合成分として、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有するのに対し、甲B2発明は、共重合成分として、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有しない点。
<相違点B2-2>
本件発明1は、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有するものであるのに対し、甲B2発明は、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有しない点。
そして、上記相違点B2-1、B2-2は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲B2に記載された発明ではない。
したがって、甲B2による新規性欠如は、理由がない。
イ 相違点B2-2の判断
事案に鑑み、相違点B2-2から判断する。
甲B2には、甲B2発明において、カルボキシメチルセルロースや多糖類を含有するものとすることは記載も示唆もされていない。
そして、申立人が提出した甲A1~A11、B1~B4の記載を検討しても、甲B2発明において、カルボキシメチルセルロースや多糖類を含有するものとすることを動機付けられる理由は見いだせない。
したがって、甲B2発明において、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有するものとすることは、当業者が容易に行うことではない。
なお、取消理由4において認定した、甲B2の比較例7の記載に基づく「甲B2-2発明」について検討しても、本件発明1とは上記「相違点B2-2」の点で少なくとも相違するものであって、同様に、甲B2-2発明において、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」を含有するものとすることは、当業者が容易に行うことではない。
ウ 小括
よって、相違点B2-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B2に記載された発明ではなく、甲B2に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5を甲B2発明と対比すると、少なくとも、上記(2)アの「相違点B2-2」の点で相違するから、上記(2)と同様に、本件発明2~5は、甲B2に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲B2に記載された発明ではなく、本件発明1~5は、甲B2に記載された発明及び甲A1~A11、B1~B4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、取消理由2-B2、3-B2、申立理由B-3、B-4(甲B2を主引例とする新規性欠如、進歩性欠如)によって、取り消すことができないものである。
7 取消理由4、申立理由A-8及び申立理由B-5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)本件発明が解決しようとする課題
発明の詳細な説明の【0004】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「紙または不織布のような塗工剤が浸み込み易い基材に対して、塗工性、造膜性に優れるとともに、形成された樹脂層が、ヒートシール性、防水性、耐油性に優れる塗工剤の提供」であるといえる。
(3)サポート要件の判断
発明の詳細な説明の【0005】には、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性塗工剤に、ウレタン樹脂、アクリル樹脂及び水酸基含有化合物から選択される1種以上を含有させた塗工剤が、上記課題を解決することを見出したこと、【0009】には、ポリオレフィン樹脂が酸変性されていることにより、造膜性、基材への塗工性が向上すること、【0010】には、酸変性成分は、不飽和カルボン酸成分であることが好ましいこと、【0014】には、酸変性ポリオレフィン樹脂は、基材との密着性を向上させる理由から、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有することが好ましいこと、【0023】には、水酸基含有化合物としては、塗工剤の粘度を制御しやすいことから、カルボキシメチルセルロース、多糖類が好ましいこと、【0025】には、形成される樹脂層の防水性及び耐油性を一層向上させるために、ウレタン樹脂及び/又はアクリル樹脂と、水酸基含有化合物とを併せて含有することが好ましいことが記載されている。そして、【0061】の【表1】には、本件発明の具体的態様である実施例2、3、7、8が、上記課題を解決できることが記載されている。
そうすると、本件発明により、「紙または不織布のような塗工剤が浸み込み易い基材に対して、塗工性、造膜性に優れるとともに、形成された樹脂層が、ヒートシール性、防水性、耐油性に優れる塗工剤の提供」との課題を解決することができると当業者は認識できるといえる。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(4)申立人Aの主張について
ア 申立人Aは、発明の詳細な説明において、本件発明の解決しようとする課題を解決できることが確認された「酸変性ポリオレフィン樹脂」は、「エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸共重合体」(無水マレイン酸2質量%、融点105℃、ガラス転移温度0℃未満)という特定の組成及び物性を有する樹脂のみであること、共重合成分によって、塗工剤の特性が大きく異なることは技術常識であること、また、酸変性ポリオレフィン樹脂がどのような作用機序で課題解決に寄与しているのか不明であることから、上記特定の組成及び物性を有する樹脂以外の酸変性ポリオレフィン樹脂を包含する本件発明は、上記課題を解決できると認識できる範囲のものではないと主張する(申立書A42頁5行~24行、意見書A7頁14行~8頁19行)。
また、「多糖類」は、参考資料1、2のとおり、多種多様な物質を包含するところ、発明の詳細な説明において、本件発明の解決しようとする課題を解決できることが確認された「多糖類」は、キサンタンガムのみであること(意見書A8頁20行~9頁下から9行)、また、本件発明の解決しようとする課題を解決できることが確認された「アクリル樹脂」は、実施例で用いられた「アクリル樹脂Aエマルション:DSM社製、NeoCryl A-6092、固形分濃度43質量%、ガラス転移温度56℃」、「アクリル樹脂Bエマルション:DSM社製、NeoCryl A-1092、固形分濃度49質量%、ガラス転移温度9℃」のみであることを挙げて、本件発明は、上記課題を解決できると認識できる範囲のものではないと主張する(意見書A9頁下から8行~10頁10行)。
イ しかしながら、上記(3)のとおり、発明の詳細な説明には、ポリオレフィン樹脂が酸変性されていることにより、造膜性、基材への塗工性が向上し、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有することで基材との密着性が向上することが記載されており、実施例で用いられた酸変性ポリオレフィン樹脂でなければ、造膜性、基材への塗工性、基材との密着性が向上しないといえる具体的な理由はない。そして、発明の詳細な説明には、塗工剤の粘度を制御しやすいことから多糖類が好ましいと記載されており、実施例で用いられたキサンタンガムでなければ、塗工剤の粘度を制御できないといえる具体的な理由はない。また、発明の詳細な説明には、形成される樹脂層の防水性及び耐油性を一層向上させるために、ウレタン樹脂及び/又はアクリル樹脂と、水酸基含有化合物とを併せて含有することが好ましいと記載されており、実施例で用いられたアクリル樹脂でなければ、形成される樹脂層の防水性、耐油性が向上しないといえる具体的な理由はない。そうすると、本件発明が、本件発明の解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものではないといえる理由はない。
したがって、申立人Aの主張は、採用できない。
(5)申立人Bの主張について
ア 申立人Bは、発明の詳細な説明には、「水酸基含有化合物」について、これを含有することで粘度を制御できると記載されていても、「水酸基含有化合物」は、水、アルコール類、フェノール類、カルボン酸、スルホン酸など多様な化合物を含むものであり、多様な水酸基含有化合物の全体にわたって、本件発明の解決しようとする課題を解決することができると認識することはできないと主張する(申立書B15頁下から8行~16頁最下行)。
イ しかしながら、本件発明1~5における「水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」は、訂正により、「カルボキシメチルセルロース及び多糖類から選択される少なくとも1種の水酸基含有化合物(ただし、繊維状セルロースを除く。)」となり、カルボキシメチルセルロース及び多糖類であれば、粘度を制御することができると当業者は認識することができるといえる。
したがって、申立人Bの主張は、採用できない。
(6)まとめ
よって、本件発明1~5は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、取消理由4、申立理由A-8、B-5(サポート要件違反)によって、取り消すことができないものである。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、取消理由通知書における取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては取り消すことができないものである。
また、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700667