特許異議申立
2026-700195
電気化学セル、電気化学セル装置、モジュールおよびモジュール収容装置
- 審判番号
- 2026-700195
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-556582
- 登録番号
- 7736801
- 請求日
- 2026年03月05日
- 審決日
- 2026年06月29日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】京セラ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】林 尚子
- 審判長/審判官
- 審判長 涌井 智則
- 審判官 木村 貴俊
- 審判官 ▲吉▼澤 雅博
- 分類
- P1651.121-Y (H01M) / P1651.536-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7736801号発明「電気化学セル、電気化学セル装置、モジュールおよびモジュール収容装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7736801号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7736801号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和4年10月25日を国際出願日とする国際特許出願であって、令和7年9月1日にその特許権の設定登録がなされ、同年9月9日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1~9に係る特許に対し、令和8年3月5日に特許異議申立人 林 尚子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~9に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明9」といい、併せて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1電極層と、
第2電極層と、
前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置し、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質層と
を備え、
前記第1電極層は、電子伝導性材料と、ジルコニウムよりも電気陰性度の小さい第1元素を主成分とする第1材料とを含み、
前記第1電極層は、前記固体電解質層の反対側に位置する第1面と前記固体電解質層に接する第2面とを有し、
前記第1元素を、前記第1面よりも前記第2面に近い部位に多く含有し、
前記第1材料は、前記第1元素を含む酸化物を含有する第1粒子である
電気化学セル。
【請求項2】
前記第1元素は、アルカリ土類金属を含む
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記第1元素は、Ca、SrおよびBaから選択される1以上の元素を含む
請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記第1元素は、Sc、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、DyおよびYbから選択される1以上の希土類元素を含む
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記第1元素は、La、Nd、Sm、EuおよびYbから選択される1以上の元素を含む
請求項4に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記第1粒子は、前記第1電極層の前記固体電解質層の反対側に位置する第1面よりも前記第1電極層の前記固体電解質層に接する第2面に近い部位に多く位置している
請求項5に記載の電気化学セル。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載の電気化学セルを含むセルスタックを有する
電気化学セル装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電気化学セル装置と、
前記電気化学セル装置を収納する収納容器と
を備えるモジュール。
【請求項9】
請求項8に記載のモジュールと、
前記モジュールの運転を行うための補機と、
前記モジュールおよび前記補機を収容する外装ケースと
を備えるモジュール収容装置。」
第3 申立理由の概要
1 特許異議の申立理由
異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由は、次のとおりである。
(1)申立理由1(進歩性)
本件発明1~9は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件発明1~9は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)申立理由3(明確性要件)
本件発明1~9は、明確ではないから、本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)申立理由4(実施可能要件)
本件特許に係る願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1~9について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、本件特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 異議申立人の提出した証拠
異議申立人は、次の甲第1号証~甲第3号証(以下、「甲1」~「甲3」という。)を証拠として提出している。
甲第1号証(甲1):特開2015-32427号公報
甲第2号証(甲2):特開平9-274921号公報
甲第3号証(甲3):国際公開第2015/030215号
第4 異議申立人が提出した証拠の記載
1 甲1について
(1) 甲1の記載
「【0011】
固体酸化物形燃料電池の運転時には、燃料極に含まれる酸化ニッケルが還元される。還元されたニッケルは凝集し、燃料極の収縮を引き起こす。よって、燃料極における酸化ニッケルの含有量が大きいほど、固体酸化物形燃料電池の運転時に、酸化ニッケルの還元によって燃料極は収縮しやすくなる。
また、固体酸化物形燃料電池の焼成時には、固体電解質層と燃料極とが異なる収縮挙動を示すことによって、燃料極が収縮する。固体電解質層と燃料極との組成の違いが大きいと、燃料極は収縮しやすくなる。例えば、燃料極において、Niの含有率を上げて電解質材料の含有率を下げると、固体電解質層と燃料極との組成の違いが大きくなり、焼成時における燃料極は収縮しやすくなる。
従来の固体電解質形燃料電池では、燃料極層が固体電解質層から離れるにつれてニッケルの比率が高くなるので、焼成時及び運転時において燃料極が収縮しやすい。
【0012】
燃料極に収縮が起こると、図3で示すように、単セル1全体が燃料極3から固体電解質層2へと向かって凹状に湾曲するように収縮し、セルの反りが発生してしまうという問題がある。特許文献1~4には、固体酸化物形燃料電池の焼成時及び運転時において、セルの反りが引き起こされるという問題について、記載も示唆もされていない。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この発明は、このような問題を解消し、焼成時及び運転時におけるセルの反りを防止することのできる固体酸化物形燃料電池及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するための手段は、
(1) 固体電解質層とこの固体電解質層の一方の面に形成された燃料極と前記固体電解質層の他方の面に形成された空気極とを備えて成る単セルを有する固体酸化物形燃料電池において、前記燃料極は、固体電解質層の表面に燃料極活性層と燃料極基板層とをこの順に積層して成り、前記燃料極活性層と前記燃料極基板層とは、ともに電解質材料とNiとを含有し、前記燃料極活性層に含有される電解質材料とNiとの合計に対するNiの質量%が、前記燃料極基板層に含有される電解質材料とNiとの合計に対するNiの質量%よりも大きいことを特徴とする固体酸化物形燃料電池である。
これにより、固体酸化物形燃料電池の運転時に、燃料極基板層におけるNiの凝集による燃料極の収縮が防止され、セルの反りを防止することができる。また、固体酸化物形燃料電池の焼成時に、燃料極基板層と固体電解質層とが近い収縮挙動を示すので、燃料極の収縮が防止され、セルの反りを防止することができる。」
「【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明に係る固体酸化物形燃料電池について図を参照しながら具体的に説明する。図1に示されるように、この発明に係る固体酸化物形燃料電池の一例は、固体電解質層2とこの固体電解質層2の一方の面に形成された燃料極3と固体電解質層2の他方の面に形成された空気極4とから成る単セル1を備え、燃料極3は、固体電解質層2の表面に燃料極活性層5と燃料極基板層6とをこの順に積層して成る。
【0029】
固体電解質層2は、固体酸化物形燃料電池の運転時に、空気極4に導入される酸化剤ガスが電子を受け取ることによって発生した酸素イオンを、燃料極3へと移動させる酸素イオン電導性を有する。」
「【0034】
この発明における燃料極3は、固体電解質層2の表面に燃料極活性層5と燃料極基板層6とをこの順に積層してなる。言い換えると、燃料極3は、燃料極活性層5と燃料極基板層6とを積層してなり、固体電解質層2と直接に面接着する層が燃料極活性層5であり、燃料極活性層5と直接に面接着する層が燃料極基板層6である。
燃料極活性層5及び燃料極基板層6はいずれも、Niを含む金属と電解質材料とを有する。電解質材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、サマリウム添加セリア(CeSmO2)、ガドリウム添加セリア(CeGdO2)、及びカルシア安定化ジルコニア(CaSZ)を挙げることができる。固体電解質層2と燃料極3とが著しく異なる熱膨張率を示すことによって、高温条件下において燃料極3が固体電解質層2から剥離することを防止するために、燃料極3と固体電解質層2とは共に同じ電解質材料、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)で形成されることが好ましい。
Niを含む金属としては、Niそのもの、又はNiとCu、Fe、Co、Ag、Pt、Pd、W、及びMoよりなる群から選択される少なくとも一種の金属との合金等を挙げることができる。」
「【0048】
単セルによって形成される固体酸化物形燃料電池を、詳しくは、図4で示す。図4では、単セル1を主要部とする発電層12が、金属製のセル間セパレータ13を挟んで、同図の上下方向に直列に多数積層され、固体酸化物形燃料電池11が形成されている。
【0049】
また、図4における固体酸化物形燃料電池11の縦断面図を図5に示す。各単セル1の燃料極基板層6は、燃料極側集電体14によりセル間セパレータ13(下端部では底体18)に電気的に接続されると共に、各空気極4は、空気極側集電体15によりろう材16を介して他のセル間セパレータ13(上端部では蓋体17)に電気的に接続されている。」
「【0054】
固体酸化物形燃料電池を運転すると、アノードとして働く燃料極3は、還元性の雰囲気となる。燃料極3における酸化ニッケルは、単体のNiへと還元され、さらに単体のNi同士が凝集することによって、燃料極3は収縮しようとする。この発明では、固体電解質層2に隣接した燃料極活性層5におけるNi比率は比較的大きく、燃料極活性層5に隣接した燃料極基板層6におけるNi比率が比較的小さいので、燃料極基板層6におけるNiの凝集による燃料極基板層6の収縮はより起こりにくい。単セル1において末端側に存在する燃料極基板層6が収縮しにくいので、単セル1に反りを発生させようとする力が抑えられる。故に、固体酸化物形燃料電池の運転中に、燃料極3の収縮による単セル1の反りの発生が防止される。」
「【0057】
(実施例1)
(燃料極基板層用グリーンシートの作製)
BET法による比表面積が3~4m2/gであるNiOの粉末を、Ni重量に換算して50質量部となるように秤量し、BET法による比表面積が5~7m2/gであるYSZの粉末50質量部と混合し、混合粉末を得た。この混合粉末に対して、造孔剤である有機ビーズ(混合粉末に対して10重量%)と、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製した。得られたスラリーにドクターブレード法を用いることによって、厚さ250μmの燃料極基板層用グリーンシートを得た。
【0058】
(燃料極活性層用グリーンシートの作製)
BET法による比表面積が3~4m2/gであるNiOの粉末を、Ni重量に換算して55質量部となるように秤量し、BET法による比表面積が5~7m2/gであるYSZの粉末45質量部と混合し、混合粉末を得た。この混合粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製した。得られたスラリーにドクターブレード法を用いることによって、厚さ10μmの燃料極活性層用グリーンシートを得た。」
・・・
【0060】
(アノードハーフセルの作製) 燃料極基板層用グリーンシート1枚と、燃料極活性層用グリーンシート1枚と、固体電解質層用グリーンシート1枚とを積層し、25×25mm角に切り出して積層成形体を得た。この積層成形体を、250℃で脱脂した後、1350℃で焼成して、セルの反りを評価するためのアノードハーフセル31を得た。」
ア 第28段落の記載から、固体酸化物形燃料電池は、固体電解質層2とこの固体電解質層2の一方の面に形成された燃料極3と固体電解質層2の他方の面に形成された空気極4とから成る単セル1を備え、燃料極3は、固体電解質層2の表面に燃料極活性層5と燃料極基板層6とをこの順に積層して成るものである。
イ 第29段落の記載から、固体電解質層2は、酸素イオン電導性を有するものである。
ウ 第34段落の記載から、燃料極活性層5及び燃料極基板層6はいずれも、Niを含む金属と電解質材料とを有しており、電解質材料は、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、サマリウム添加セリア(CeSmO2)、ガドリウム添加セリア(CeGdO2)、及びカルシア安定化ジルコニア(CaSZ)であり、燃料極3と固体電解質層2とはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)で形成されることが好ましい。
エ 第57段落の記載から、燃料極基板層用グリーンシートは、NiOの粉末を、Ni重量に換算して50質量部となるように秤量し、YSZの粉末50質量部と混合し、混合溶剤等を加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製して得たものである。また、第58段落の記載から、燃料極活性層用グリーンシートは、NiOの粉末を、Ni重量に換算して55質量部となるように秤量し、YSZの粉末45質量部と混合し、混合溶剤等を加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製して得たものである。さらに、第54、60段落の記載から、燃料極基板層用グリーンシート1枚と、燃料極活性層用グリーンシート1枚と、固体電解質層用グリーンシート1枚とを積層して積層成形体としたものを焼成してアノードハーフセルとして燃料極を構成するものである。
(2) 甲1発明
上記(1)によれば、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
[甲1発明]
「固体酸化物形燃料電池は、固体電解質層2とこの固体電解質層2の一方の面に形成された燃料極3と固体電解質層2の他方の面に形成された空気極4とから成る単セル1を備え、
燃料極3は、固体電解質層2の表面に燃料極活性層5と燃料極基板層6とをこの順に積層して成るものであり、
固体電解質層2は、酸素イオン電導性を有しており、
燃料極活性層5及び燃料極基板層6はいずれも、Niを含む金属と電解質材料とを有しており、
燃料極基板層用グリーンシートは、NiOの粉末を、Ni重量に換算して50質量部となるように秤量し、YSZの粉末50質量部と混合し、混合溶剤等を加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製して得たものであり、
燃料極活性層用グリーンシートは、NiOの粉末を、Ni重量に換算して55質量部となるように秤量し、YSZの粉末45質量部と混合し、混合溶剤等を加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製して得たもので、
燃料極基板層用グリーンシート1枚と、燃料極活性層用グリーンシート1枚と、固体電解質層用グリーンシート1枚とを積層して積層成形体としたものを焼成してアノードハーフセルとして燃料極を構成する
固体酸化物形燃料電池の単セル。」
2 甲2について
(1) 甲2の記載
「【0006】さらに、燃料電極2は、起電力を外部に取り出すための電極であるから、電子伝導度が高くかつ分極を生じにくいことのほかに、高温の還元雰囲気に曝されるから、高温での安定性が要求され、また固体電解質1との間の熱応力やこれに起因する剥離を防止するために、熱膨張率が固体電解質1の熱膨張率に近いことが望まれる。そこで、これらの諸要求を満たすために、現在、ニッケル(Ni)や酸化ニッケル(NiO)のサーメットや、重量割合にして4:6~6:4のNi/YSZやNiO/YSZのサーメットを燃料電極として採用している。ここで、NiOは高温の還元雰囲気に曝されてNiになることにより、導電性を有するようになっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような固体電解質型燃料電池を長時間高温状態で使用していると、燃料電極2に焼結(シンタリング)が進行することにより、Ni(融点約1455℃)が凝集してしまう。この結果、この燃料電極の多孔質構造が次第に崩壊して、この燃料電極2の燃料ガス透過性が低下するとともに、この燃料電極2の電子伝導性が低下して電極としての活性が失われるようになってしまい、その上、この燃料電極2の分極抵抗が増大するという様々な問題がある。そこで最近では、固体電解質型燃料電池の燃料電極として求められる条件をより満足させることができる燃料電極の開発が望まれている。
【0008】この発明は、上記の要望に応えるべくなされたものであって、固体電解質型燃料電池の燃料電極の特性を向上させることを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段およびその作用】請求項1に記載した発明は、上記の目的を達成するために、ジルコニアを主体とする固体電解質を挟んで燃料電極と空気電極とを設けた固体電解質型燃料電池の燃料電極であって、少なくともニッケルもしくは酸化ニッケルを含む材料粉末に、MgO,CaO,SrO,Y2O3,La2O3,Sc2O3,Al2O3のうちのいずれか一種以上の酸化物を添加してなる混合粉末材料によって、前記固体電解質の表面に多孔構造の膜状に構成したことを特徴とするものである。」
「【0015】
【発明の実施の形態】つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。この発明で対象とする燃料電極2は図6に示す一般的な固体電解質型燃料電池の燃料電極と同様に、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)やカルシア安定化ジルコニア(CSZ)からなる固体電解質層(膜)の表面に多孔構造の薄膜状に形成される。その組成は、電極としての電動性を良好に維持し、かつ固体電解質との熱膨張率の点での整合性を保つためにニッケル(Ni)とジルコニア(YSZもしくはCSZ)とを主体としており、これらのサーメットが使用されている。なお、原料としてNiに替えて酸化ニッケル(NiO)を使用でき、これは燃料電池の運転中に還元されてNiとなり、電極の電導度を良好にする。さらにこの発明では、これらに加えて適当量の金属酸化物が添加されている。これは、高温状態に長期間曝されることによるNiのシンタリング(焼結)を防止するためであり、この酸化物の例として、MgO,CaO,SrO,Y2O3,La2O3,Sc2O3,Al2O3があり、これらのうちの少なくともいずれか一種が微粉末として高分散状態に添加されている。
【0016】この金属酸化物を含有する燃料電極は、種々の方法で形成することができ、その例を示せば以下のとおりである。
【0017】先ずスラリー法について図1を参照して説明すると、粉末材料として、YSZ粉末とNi粉末と上記の金属酸化物粉末との混合材料を用意する。その配合割合は、一例として、YSZ粉末:50wt%、Ni粉末:49wt%、金属酸化物粉末:1wt%とし、これに溶媒および助剤としてテレピネオール(特級)とポリピニルブチラールとを加える。このように調整した材料を撹拌・混合してスラリーとし、これを固体電解質の表面にスクリーン印刷(塗布)して所定の厚さに形成する。ついで不活性ガス雰囲気で加熱して乾燥および脱脂を行うとともに、さらに高温に加熱して多孔質の燃料電極とする。その場合の加熱・冷却プロフィールを図1に併せて掲載してあり、一例として、昇温率50℃/hで6時間加熱して300℃まで温度を上げ、10分間、その温度に維持した後、200℃/hの昇温率で5時間加熱して1200℃まで温度を上げ、5時間、その温度に維持した後に、200℃の冷却率で常温まで冷却する。
【0018】また溶射法について図2を参照して説明すると、それぞれ粒径を約40μmに調整したYSZ粉末と、NiもしくはNiO粉末と、前記金属酸化物のいずれか一種の粉末とを、それぞれ50wt%、49wt%、1wt%の割合で配合し、これを充分撹拌・混合した後にプラズマ溶射あるいはアーク溶射もしくはフレーム溶射などの適宜の方法で固体電解質の表面に溶射して多孔質の薄膜状電極とする。
【0019】さらにスラリー法と電気化学蒸着法(EVD法)とを組み合わせた方法について図3を参照して説明すると、NiもしくはNiO粉末98wt%と上記のいずれかの金属酸化物2wt%とを、テレピネオール(特級)とポリビニルブチラールとを溶媒および助剤として撹拌・混合し、得られたスラリーを固体電解質の表面に塗布し、不活性ガス雰囲気で仮焼成を行い、その表面にYSZをEVD法により付着させる。この塗布および仮焼成ならびにEVD法を繰り返し行って所定厚さの電極を形成する。
【0020】つぎにこの発明の効果を確認するために行った実験での測定結果を記す。先ず比較例としてNiとYSZとのサーメットからなる厚さ100μmの電極を固体電解質の表面に形成したものを用意し、その高温状態でのNiのシンタリングの進行状態を判定するために1000℃の雰囲気に500時間放置した場合の電気的抵抗値の増大率を測定した。一方、本発明例として、NiとYSZとの混合粉末に前述した金属酸化物を添加した材料粉末を用いて固体電解質の表面に電極を形成し、その電極について上記の比較例と同様にして電気的抵抗値の増大率を測定した。測定結果を図4に示してある。
【0021】この図4に示す測定結果から明らかなように、この発明による燃料電極は、高温雰囲気での電気抵抗の増大が殆どなく、このことからNiの焼結・凝集の進行が抑制され、燃料電極としての特性の劣化が少なくなることが認められた。これは、融点の高い物質が混合されていることによるものと考えられる。」
「【0027】
【発明の効果】以上説明したようにこの発明による燃料電極によれば、金属酸化物(MO系もしくはM2O3系)の融点が高いため、燃料電極に含まれるニッケルの焼結・凝集が抑制もしくは防止され、その結果、電極の活性が維持されて燃料電極の寿命特性が向上し、ひいては固体電解質型燃料電池の発電能力を長期間に亘って良好に維持することができる。」
ア 第9段落の記載から、ジルコニアを主体とする固体電解質を挟んで燃料電極と空気電極とを設けた固体電解質型燃料電池の燃料電極である。
イ 第9、15段落の記載から、燃料電極2は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)やカルシア安定化ジルコニア(CSZ)からなる固体電解質層(膜)の表面に多孔構造の薄膜状に形成され、その組成は、電極としての電動性(当審注:「電導性」の誤記と思われるので、以下、「電導性」とする。)を良好に維持し、かつ固体電解質との熱膨張率の点での整合性を保つためにニッケル(Ni)とジルコニア(YSZもしくはCSZ)とを主体としており、少なくともニッケルもしくは酸化ニッケルを含む材料粉末に、MgO,CaO,SrO,Y2O3,La2O3,Sc2O3,Al2O3のうちのいずれか一種以上の金属酸化物を添加してなる混合粉末材料によって、前記固体電解質の表面に多孔構造の膜状に構成している。
ウ 第16、17段落の記載から、燃料電極をスラリー法により形成する場合は、配合割合を、YSZ粉末:50wt%、Ni粉末:49wt%、金属酸化物粉末:1wt%とし、これに溶媒等を加え、撹拌・混合してスラリーとし、これを固体電解質の表面にスクリーン印刷(塗布)して所定の厚さに形成し、高温に加熱して多孔質の燃料電極としたものである。
エ 第16、18段落の記載から、燃料電極を溶射法により形成する場合は、それぞれ粒径を約40μmに調整したYSZ粉末と、NiもしくはNiO粉末と、前記金属酸化物のいずれか一種の粉末とを、それぞれ50wt%、49wt%、1wt%の割合で配合し、これを充分撹拌・混合した後にプラズマ溶射あるいはアーク溶射もしくはフレーム溶射などの適宜の方法で固体電解質の表面に溶射して多孔質の薄膜状電極とするものである。
オ 第16、19段落の記載から、燃料電極をスラリー法と電気化学蒸着法(EVD法)とを組み合わせて形成する方法では、NiもしくはNiO粉末98wt%と上記のいずれかの金属酸化物2wt%とを、溶媒等とともに撹拌・混合し、得られたスラリーを固体電解質の表面に塗布し、不活性ガス雰囲気で仮焼成を行い、その表面にYSZをEVD法により付着させることを繰り返し行って所定厚さの電極を形成するものである。
(2) 甲2技術
上記(1)によれば、甲2には次の技術(以下、「甲2技術」という。)が記載されている。
[甲2技術]
「ジルコニアを主体とする固体電解質を挟んで燃料電極と空気電極とを設けた固体電解質型燃料電池の燃料電極であって、
燃料電極2は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)やカルシア安定化ジルコニア(CSZ)からなる固体電解質層(膜)の表面に多孔構造の薄膜状に形成され、その組成は、電極としての電導性を良好に維持し、かつ固体電解質との熱膨張率の点での整合性を保つためにニッケル(Ni)とジルコニア(YSZもしくはCSZ)とを主体としており、
少なくともニッケルもしくは酸化ニッケルを含む材料粉末に、MgO,CaO,SrO,Y2O3,La2O3,Sc2O3,Al2O3のうちのいずれか一種以上の金属酸化物を添加してなる混合粉末材料によって、前記固体電解質の表面に多孔構造の膜状に構成するものであり、
燃料電極をスラリー法により形成する場合は、配合割合を、YSZ粉末:50wt%、Ni粉末:49wt%、金属酸化物粉末:1wt%とし、これに溶媒等を加え、撹拌・混合してスラリーとし、これを固体電解質の表面にスクリーン印刷(塗布)して所定の厚さに形成し、高温に加熱して多孔質の燃料電極としたものであり、
燃料電極を溶射法により形成する場合は、それぞれ粒径を約40μmに調整したYSZ粉末と、NiもしくはNiO粉末と、前記金属酸化物のいずれか一種の粉末とを、それぞれ50wt%、49wt%、1wt%の割合で配合し、これを充分撹拌・混合した後にプラズマ溶射あるいはアーク溶射もしくはフレーム溶射などの適宜の方法で固体電解質の表面に溶射して多孔質の薄膜状電極とするものであり、
燃料電極をスラリー法と電気化学蒸着法(EVD法)とを組み合わせて形成する方法では、NiもしくはNiO粉末98wt%と上記のいずれかの金属酸化物2wt%とを、溶媒等とともに撹拌・混合し、得られたスラリーを固体電解質の表面に塗布し、不活性ガス雰囲気で仮焼成を行い、その表面にYSZをEVD法により付着させることを繰り返し行って所定厚さの電極を形成するものである
固体電解質型燃料電池。」
3 甲3について
(1) 甲3の記載
「[0001] 本発明は、セル、セルスタック装置、モジュールおよびモジュール収容装置に関する。」
「[0009] しかしながら、従来の特許文献1、2に示す燃料電池セルでは、多孔質の支持体の強度は低いため、強度を高めるべく支持体の開気孔率を小さくする必要がある。このためには、燃料電池セルを作製する際の焼成温度を高くする必要があるが、焼成温度を高くすると、燃料電池セルの還元時の変形量が大きくなるという問題があった。
[0010] 本発明は、焼成温度が低い場合でも、支持体の開気孔率を小さくできるセル、セルスタック装置、モジュールおよびモジュール収容装置を提供することを目的とする。」
「[0026] 燃料電池セル10は、燃料極層3と酸素極層6とが固体電解質層4を介して対面している部分が燃料電池として機能して発電する。即ち、酸素極層6の外側に空気等の酸素含有ガスを流し、且つ支持体1内の燃料ガス通路2に燃料ガス(水素含有ガス)を流し、所定の作動温度まで加熱することにより発電する。そして、かかる発電によって生成した電流は、支持体1に設けられているインターコネクタ層8を介して集電される。」
「[0030] 図3は、燃料電池セルの焼成温度を1500℃とし、支持体1のNa量を変化させた場合の支持体1の開気孔率を示すもので、Na量を低減することにより開気孔率が低減できることがわかる。従って、焼成温度を低くした場合であっても、Na量を低減させることにより、開気孔率を低減でき、支持体1の強度を高くできることがわかる。開気孔率については、燃料電池セルにおける支持体1の一部を切り出してアルキメデス法により測定できる。
[0031] なお、図4は燃料極層が支持体となる燃料電池セルの第2の形態を示す断面図であるが、この場合であっても、図1と同様な作用効果を得ることができる。すなわち、図1の第1の形態では、支持体1上に燃料極層3、固体電解質層4、酸素極層6を積層したが、図4の第2の形態のように、燃料極層自体を支持体1とし、この支持体1に、固体電解質層4、酸素極層6を設けても良い。」
「[0083] 図7は、上述した燃料電池セル10の複数個を、集電部材13を介して電気的に直列に接続して構成されたセルスタック装置の一例を示したものであり、(a)はセルスタック装置11を概略的に示す側面図、(b)は(a)のセルスタック装置11の一部拡大断面図であり、(a)で示した破線で囲った部分を抜粋して示している。なお、(b)において(a)で示した破線で囲った部分に対応する部分を明確とするために矢印にて示しており、(b)で示す燃料電池セル10においては、上述した中間層等の一部の部材を省略して示している。
[0084] なお、セルスタック装置11においては、各燃料電池セル10を、集電部材13を介して配列することでセルスタック12を構成しており、各燃料電池セル10の下端部が、燃料電池セル10に燃料ガスを供給するためのガスタンク16に、ガラスシール材等の接着剤により固定されている。また、ガスタンク16に下端部が固定された弾性変形可能な導電部材14により、燃料電池セル10の配列方向の両端から、セルスタック12を挟持している。」
「[0090] 図9は、セルスタック装置11を収納容器19内に収納してなる燃料電池モジュール18の一例を示す外観斜視図であり、直方体状の収納容器19の内部に、図7に示したセルスタック装置11を収納して構成されている。」
「[0095] 図10は、外装ケース内に図9で示した燃料電池モジュール18と、セルスタック装置11を動作させるための補機とを収納してなる燃料電池装置(モジュール収容装置)の一例を示す斜視図である。なお、図10においては一部構成を省略して示している。
[0096] 図10に示す燃料電池装置23は、支柱24と外装板25とから構成される外装ケース内を仕切板26により上下に区画し、その上方側を上述した燃料電池モジュール18を収納するモジュール収納室27とし、下方側を燃料電池モジュール18を動作させるための補機類を収納する補機収納室28として構成されている。なお、補機収納室28に収納する補機類は省略して示している。」
ア 第26段落の記載から、燃料電池セル10は、燃料極層3と酸素極層6とが固体電解質層4を介して対面している部分が燃料電池として機能して発電するものである。
イ 第83段落の記載から、燃料電池セル10の複数個を、集電部材13を介して電気的に直列に接続して構成されたセルスタック装置としているといえる。
ウ 第90、96段落の記載から、セルスタック装置11を収納容器19内に収納してなる燃料電池モジュール18として、燃料電池装置23は、外装ケース内を仕切板26により上下に区画し、その上方側を上述した燃料電池モジュール18を収納するモジュール収納室27とし、下方側を燃料電池モジュール18を動作させるための補機類を収納する補機収納室28として構成されているものである。
(2) 甲3技術
上記(1)によれば、甲3には次の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されている。
[甲3技術]
「燃料電池セル10は、燃料極層3と酸素極層6とが固体電解質層4を介して対面している部分が燃料電池として機能して発電するもので、
燃料電池セル10の複数個を、集電部材13を介して電気的に直列に接続して構成されたセルスタック装置としており、
セルスタック装置11を収納容器19内に収納してなる燃料電池モジュール18としたもので、
外装ケース内を仕切板26により上下に区画し、その上方側を上述した燃料電池モジュール18を収納するモジュール収納室27とし、下方側を燃料電池モジュール18を動作させるための補機類を収納する補機収納室28として構成されたものである、
燃料電池装置23。」
第5 申立理由に対する当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 本件特許の発明の詳細な説明の第20、24段落の記載からみて、甲1発明の「燃料極3」、「空気極4」はそれぞれ、本件発明1の「第1電極層」、「第2電極層」に含まれる。
(イ) 甲1発明は、「固体電解質層2とこの固体電解質層2の一方の面に形成された燃料極3と固体電解質層2の他方の面に形成された空気極4とから成る単セル1」であり、これは固体電解質層2が、燃料極3と空気極4との間に位置するものである。さらに、甲1発明の「固体電解質層2」は、「酸素イオン電導性を有して」いることから、本件発明1の固体電解質層と同じく「酸化物イオン伝導性を有する」といえる。
よって、甲1発明は、本件発明1の「前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置し、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質層」を備えているといえる。
(ウ) 甲1発明は、「燃料極3は、固体電解質層2の表面に燃料極活性層5と燃料極基板層6とをこの順に積層して成るもの」であり、上記(ア)(イ)からみて、甲1発明の「燃料極基板層6」の燃料極活性層5側の反対側の面、「燃料極活性層5」の固体電解質層2側の面がそれぞれ、本件発明1の「第1電極層」の「第1面」、「第2面」に対応するといえる。
(エ) 甲1発明は、「燃料極3」を構成する「燃料極活性層5及び燃料極基板層6はいずれも、Niを含む金属と電解質材料とを有して」いる。このNiは、本願発明1の「電子伝導性材料」に含まれることから、甲1発明の「燃料極3」は、本件発明1の「第1電極層は、電子伝導性材料」を含む点で対応する。
しかしながら、本件発明1の「第1電極層」は、「ジルコニウムよりも電気陰性度の小さい第1元素を主成分とする第1材料」を含むのに対して、甲1発明の「燃料極3」にはそのような特定はない。
(オ) 本件発明1では、「前記第1元素を、前記第1面よりも前記第2面に近い部位に多く含有し」ているのに対して、甲1発明では、そのような特定はない。
(カ) 本件発明1では、「前記第1材料は、前記第1元素を含む酸化物を含有する第1粒子である」のに対して、甲1発明では、そのような特定はない。
(キ) 以上によれば、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点]
第1電極層と、
第2電極層と、
前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置し、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質層と
を備え、
前記第1電極層は、電子伝導性材料を含み、
前記第1電極層は、前記固体電解質層の反対側に位置する第1面と前記固体電解質層に接する第2面とを有している、
電気化学セル。
[相違点1]
本件発明1では、「第1電極層」が「ジルコニウムよりも電気陰性度の小さい第1元素を主成分とする第1材料」を含むのに対して、甲1発明の「燃料極3」にはそのような特定はない点。
[相違点2]
本件発明1では、「前記第1元素を、前記第1面よりも前記第2面に近い部位に多く含有し」ているのに対して、甲1発明では、そのような特定はない点。
[相違点3]
本件発明1では、「前記第1材料は、前記第1元素を含む酸化物を含有する第1粒子である」のに対して、甲1発明では、そのような特定はない点。
イ 判断
相違点1~3は相互に関連する構成であることから、相違点1~3をまとめて判断する。
まず、相違点1及び3について検討する。
本件特許の発明の詳細な説明の第51段落には、「第1材料5Bは、ジルコニウムよりも電気陰性度の小さい第1元素を主成分とする。第1元素は、たとえば、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属および/またはSc、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、DyおよびYbなどの希土類元素、特にLa、Nd、Sm、EuおよびYbから選択される希土類元素を含んでもよい。また、「第1元素を主成分とする」とは、たとえば、酸化物換算で30モル%以上を占める元素であることをいう。」との記載がある。この記載から、甲2技術に記載されている化学式に含まれる元素のうち「Ca、Sr、Sc、Y、La」は、上記されているように「ジルコニウムよりも電気陰性度が小さい」元素であるといえ、本件発明1の「第1の元素」に相当する。さらに、甲2技術の「CaO,SrO,Y2O3,La2O3,Sc2O3」「のうちのいずれか一種以上の金属酸化物」の「粉末」は、本件発明1の「第1元素を含む酸化物を含有する第1粒子」である「第1材料」に相当するといえる。
したがって、相違点1及び相違点3については甲2技術として記載されており、甲1(第15段落)と甲2(第7段落)とはNiが凝集することを防ぐという課題が共通していることから、甲2技術を甲1発明に適用して、相違点1及び相違点3に係る構成とすることは当業者にとって容易といえる。
続いて、相違点2について検討する。
相違点2の「前記第1元素を、前記第1面よりも前記第2面に近い部位に多く含有し」ている構成は、甲2、甲3に記載されておらず、また、他に周知技術であるという証拠もない。
そして、甲1発明に甲2技術を適用した場合において、甲2技術の「Ca、Sr、Sc、Y、La」を第1元素として、「第1元素を、前記第1面よりも前記第2面に近い部位に多く含有し」ようとする動機付けもないから、甲1発明において、相違点2の構成とすることは当業者であっても容易になし得るものとはいえない。
さらに、本願発明1における「前記第1元素を、前記第1面よりも前記第2面に近い部位に多く含有」とは、下記3(2)にて述べる第1電極層の厚み方向Tにおいて第1元素が勾配的分布となることを意味しているものと解される。
一方、甲1発明の燃料極3は、燃料極活性層5と燃料極基板層6とが積層され、それぞれの層を形成するための材料におけるNi含有量は、「50質量部」及び「55質量部」とするものである。また、甲1発明の燃料極3は、各層の構成成分を混合した粉末をボールミルによって分散混合させて溶媒を混ぜ合わせたスラリーから形成されている。このことからみて、この甲1発明に甲2技術を適用し、上記各層に「Ca、Sr、Sc、Y、La」を元素とする金属酸化物を添加したとしても、金属酸化物の元素は各層において略均等に分散されていると考えられる。してみると、甲1発明に甲2技術を適用しても、相違点2に係る構成には到達しない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 異議申立人の主張について
異議申立人は、異議申立書18~20頁にて、相違点1~3は甲1発明に甲2発明を適用して当業者が容易に発明することができる旨主張する。
異議申立書では、甲2の第27段落を引用した上で「燃料極に含まれるニッケルは、金属の中では融点が比較的低いため、高温で作動させるとニッケル粒子が移動し、合体(凝集)しやすいという性質がある。特にニッケルの含有量が多くなるとニッケル粒子同士が接触する確率が高くなるため、雪だるま式に凝集が進みやすい。燃料極に融点の高い金属酸化物を添加すると、金属酸化物がニッケル粒子間に入り込み、ニッケル同士の分散状態を保つことができるため、ニッケルの凝集を低減できる。当業者であれば甲2の記載から、ニッケルの含有量が多いほど凝集しやすくなるため、ニッケルの含有量が多いほど、凝集を防ぐために添加する金属酸化物が多く必要になることは容易に理解できる。甲2発明において、NiもしくはNiOと金属酸化物の割合は、NiもしくはNiOが49wt%のときに金属酸化物1wt%であり、NiもしくはNiOが98wt%のときに金属酸化物2wt%である。甲2発明によれば、Niの焼結・凝集を抑制もしくは防止するために添加される金属酸化物の量は、NiもしくはNiOの量が増えるにつれて増加することがわかる。」と主張している。
ここで、甲2に記載の燃料電極は、その形成方法として、「スラリー法」、「溶射法」、「スラリー法と電気化学蒸着法(EVD法)とを組み合わせ」が例示されている。さらに、各方法における材料配合は「スラリー法」及び「溶射法」が「NiもしくはNiOと金属酸化物の割合は、NiもしくはNiOが49wt%のときに金属酸化物1wt%」としているのに対して、「スラリー法と電気化学蒸着法(EVD法)とを組み合わせ」の場合は、「NiもしくはNiOが98wt%のときに金属酸化物2wt%」としているが、これらは、異なる形成方法における材料配合の例示である。特に、「スラリー法と電気化学蒸着法(EVD法)とを組み合わせ」を用いる場合は、EVD法によりYSZが付着することとなり、形成された燃料電極における電極全体における割合は、形成前から変化するといえることからも明らかである。このことからみて、甲2に記載の異なる形成方法における材料配合をもって、直ちにNiもしくはNiO含有量と金属酸化物含有量との一般的な増減関係を教示するものとはいえない。
よって、甲1発明の「燃料極基板層用グリーンシートは、NiOの粉末を、Ni重量に換算して50質量部となるように秤量し、YSZの粉末50質量部と混合し、混合溶剤等を加え、スラリーを調製して得た」ものと「燃料極活性層用グリーンシートは、NiOの粉末を、Ni重量に換算して55質量部となるように秤量し、YSZの粉末45質量部と混合し、混合溶剤等を加え、スラリーを調製して得た」ものに対して、甲2技術を適用した場合に、NiもしくはNiOの重量%と金属酸化物の重量%の関係性を特定されていないことから、Niの重量に換算して金属酸化物の添加量を調整するとはいえない。
仮に、甲2技術において、NiもしくはNiOの重量%と金属酸化物の重量%との間に異議申立人の主張するような関係があったとしても、当該技術を甲1発明に適用した際に、下記3(2)にて述べる第1電極層の厚み方向Tにおいて第1元素が勾配的分布となる構成となるとはいえない。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上によれば、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2) 本件発明2~9について
本件発明2~9も、上記(1)アの相違点2に係る構成を有する。
そして、本件発明2~9は、本件発明1の構成をすべて含む発明であるから、甲1発明と対比すると、少なくとも、上記1(1)アの相違点1~3の構成を有するところである。
そうすると、本件発明1が上記1(1)のとおり、甲1に記載された発明ではなく、甲2、3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2~9も、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3) 申立理由1(進歩性)についてのまとめ
本件発明1~9は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、当該発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものでもない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1) サポート要件について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを比較し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。
そこで、以下、検討する。
本件特許の発明の詳細な説明には、第2段落に、「近年、次世代エネルギーとして、燃料電池セルを複数有する燃料電池セルスタック装置が種々提案されている。燃料電池セルは、水素含有ガス等の燃料ガスと空気等の酸素含有ガスとを用いて電力を得ることができる電気化学セルの一種である。」と背景技術に関して記載されており、電気化学セルの一種である燃料電池セルを複数有する燃料電池セルスタック装置について記載されていることがわかる。
そして、第53段落には、「このように、燃料極層5が第1元素を有する第1材料5Bを含むことにより、たとえば、燃料極層5における反応経路が増加することから電極抵抗が低下すると考えられる。燃料極層5における反応経路が増加するのは、電気陰性度が小さく水酸基(OH-)を引き寄せやすい第1元素が水酸基の供給源となり、水素との反応を促進していると考えられる。このため、本実施形態に係るセル1によれば、発電性能を向上することができる。」との記載、第54段落には、「また、燃料極層5の固体電解質層6の反対側に位置する面を第1面とし、固体電解質層6に接する面を第2面としたとき、第1材料5Bは、第1面よりも第2面に近い部位に多く含まれてもよい。第1材料5Bは、第1元素を含む酸化物を含有する第1粒子であってもよい。第1粒子は、第1面よりも第2面に近い部位に多く位置していてもよい。このように、第1材料5Bが、第2面に近い部位に多く含まれることにより、電池性能をさらに高めることができる。」との記載、第92段落には、「実施形態に係る電気化学セル(セル1)は、第1電極層(燃料極層5)と、第2電極層(空気極層8)と、固体電解質層6とを備える。固体電解質層6は、第1電極層と第2電極層との間に位置し、酸化物イオン伝導性を有する。第1電極層は、電子伝導性材料5Aと、ジルコニウムよりも電気陰性度の小さい第1元素を主成分とする第1材料5Bとを含む。これにより、電気化学セルの発電性能、電解性能などのセル性能を向上することができる。」との記載がある。
上記の記載から、本件発明の課題が、背景技術として記載されている「電気化学セル」に対して、「発電性能を向上する」ことにあり、そのために、課題を解決する手段として、「電気化学セル(セル1)は、第1電極層(燃料極層5)と、第2電極層(空気極層8)と、固体電解質層6とを備える。固体電解質層6は、第1電極層と第2電極層との間に位置し、酸化物イオン伝導性を有する。第1電極層は、電子伝導性材料5Aと、ジルコニウムよりも電気陰性度の小さい第1元素を主成分とする第1材料5Bとを含む。」ものであり、このうち、「第1電極層が第1元素を有する第1材料5Bを含む」ようにすることで、「燃料極層5における反応経路が増加する」ようになり、「燃料極層5における反応経路が増加するのは、電気陰性度が小さく水酸基(OH-)を引き寄せやすい第1元素が水酸基の供給源となり、水素との反応を促進している」ものであることが記載されている。
さらに電池性能を高めるために、「第1材料5Bは、第1元素を含む酸化物を含有する第1粒子であってもよい。第1粒子は、第1面よりも第2面に近い部位に多く位置していてもよい。このように、第1材料5Bが、第2面に近い部位に多く含まれる」ように構成していることも記載されている。
したがって、本件発明によって、ジルコニウムよりも電気陰性度の小さい第1元素を主成分とする第1材料を第1電極層に含み、第1電極層である燃料極層に対して、固体電解質層の反対側に位置する面を第1面とし、固体電解質層に接する面を第2面としたときに、第1材料は、第1面よりも第2面に近い部位に多く含まれていることで、電池性能をさらに高めることができるという効果が得られることがわかる。
一方、本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、「前記第1電極層は、電子伝導性材料と、ジルコニウムよりも電気陰性度の小さい第1元素を主成分とする第1材料とを含み、前記第1電極層は、前記固体電解質層の反対側に位置する第1面と前記固体電解質層に接する第2面とを有し、前記第1元素を、前記第1面よりも前記第2面に近い部位に多く含有し、前記第1材料は、前記第1元素を含む酸化物を含有する第1粒子である」構成(以下、構成Aという。)を備えた電気化学セルが記載されているから、本件発明1では、本件特許の発明の詳細な説明と同じく、第1電極層では、第1元素を、前記第1面よりも前記第2面に近い部位に多く含有していることが記載されている。
そうすると、本件発明1及び本件発明1の構成をすべて有する本件発明2~9は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、本件発明1~9は、サポート要件を満たす。
(2) 異議申立人の主張について
ア 「燃料極層を第1電極層に一般化できない」について
異議申立人は、本件発明1~9について、「請求項に係る発明は、第1電極層が燃料極層であり、第2電極層が空気極層であることを特定していない。請求項に係る発明は、発明の課題を解決し得ないものを含むため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。従って請求項1に係る発明、及び、請求項1を引用する請求項2~9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。」旨を主張する。(申立書25頁8行~下から4行)
しかしながら、上記(1)のとおり、本件発明1は、本件発明の課題を解決するための構成として、構成Aを備えていることが特定されている。
また、本件発明1において、「前記第1電極層と前記第2電極層との間に位置し、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質層」「を備え、」「前記第1電極層は、電子伝導性材料と、ジルコニウムよりも電気陰性度の小さい第1元素を主成分とする第1材料とを含」むことが特定されていることからみて、本件発明1において「第1電極層」が「燃料極層」であることまで特定されていなかったとしても、「ジルコニウムよりも電気陰性度の小さい第1元素を主成分とする第1材料」を含むことで、発明の詳細な説明に記載されている「燃料極層」に対応する構成となることも当業者にとって明らかである。
一方、本件特許の発明の詳細な説明の第53段落等において、効果の説明は、「たとえば」「と考えられる」との文言を用いて、第1元素による作用機序の一例又は推定を述べたものにとどまる。したがって、同記載をもって、本件特許が「燃料極層」にしか成立しない技術思想であると限定的に解することは相当であるとまではいえない。
よって、本件発明1~9がサポート要件を満たしていないとまではいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。
イ 「燃料電池セルを電気化学セルに拡張できない」について
異議申立人は、本件発明1~9について、「請求項に係る発明は、電気化学セルが燃料電池セルであることを特定していない。請求項に係る発明は、発明の課題を解決し得ないものを含むため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。従って請求項1に係る発明、及び、請求項1を引用する請求項2~9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。」旨を主張する。(申立書25頁下から3行目~26頁14行)
しかしながら、上記(1)のとおり、本件発明1は、本件発明の課題を解決するための構成として、構成Aを備えていることが特定されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明の第53段落には、「このように、燃料極層5が第1元素を有する第1材料5Bを含むことにより、たとえば、燃料極層5における反応経路が増加することから電極抵抗が低下すると考えられる。燃料極層5における反応経路が増加するのは、電気陰性度が小さく水酸基(OH-)を引き寄せやすい第1元素が水酸基の供給源となり、水素との反応を促進していると考えられる。このため、本実施形態に係るセル1によれば、発電性能を向上することができる。」との記載があり、「第1電極層」の「ジルコニウムよりも電気陰性度の小さい第1元素」が水酸基の供給源となり、水素との反応を促進しているものであるから、本件発明1として、「電気化学セル」が「燃料電池セル」であることが明記されていなかったとしても、発明の詳細な説明に記載されている「燃料電池セル」に対応する構成となることも当業者にとって明らかである。
一方、上記のように本件特許の機序説明が主として燃料電池セルを念頭に置くものであったとしても、そのことから直ちに、本件特許の発明の詳細な説明の記載が電解セルを含む上位概念を支持していないとまではいえない。してみると、本件発明1において「電気化学セル」と規定することは、本件特許の発明の詳細な説明の記載に基づく一般化の範囲内であるといえる。
よって、本件発明1~9がサポート要件を満たしていないとまではいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。
ウ 「第1粒子の分布」について
異議申立人は、本件発明1~5、7~9について、「電子伝導性材料が第1元素を含み、かつ、電子伝導性材料における第1元素の含有量が「第1粒子」に含まれる第1元素の含有量より多い場合、第1元素を、第1面よりも第2面に近い部位に多く含有させるためには、第2面より第1面に近い部位に「第1粒子」を多く含有させる必要がある。
しかし、発明の詳細な説明には、第1面より第2面に近い部位に「第1粒子」を多く含有させることしか記載されていない。発明の詳細な説明に、第2面より第1面に近い部位に「第1粒子」を多く含有させることを示唆する記載もないため、本件特許発明1は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。従って請求項1に係る発明、及び、請求項1を引用する請求項2~5、7~9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。」旨を主張する。(申立書26頁15行~27頁15行)
しかしながら、上記(1)のとおり、本件発明1は、本件発明の課題を解決するための構成として、構成Aを備えていることが特定されている。
また、本件発明1は、「前記第1電極層」として「電子伝導性材料」と「ジルコニウムよりも電気陰性度の小さい第1元素を主成分とする第1材料」とを含むものである。このため異議申立人の主張の前提である「電子伝導性材料が第1元素を含む」構成について特定するものではないことから、異議申立人の主張は採用できない。
したがって、本件発明1~5、7~9がサポート要件を満たしていないとまではいえない。
(3) 小括
以上によれば、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであって、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
したがって、異議申立人の主張する申立理由2は理由がない。
3 申立理由3(明確性)及び申立理由4(実施可能要件)について
(1)異議申立人の主張について
異議申立人は、「請求項1に「前記第1元素を、前記第1面よりも前記第2面に近い部位に多く含有し」との記載があるが、第1面よりも第2面に近い「部位」が曖昧である。
部位とは「ある部分が全体に対して占める位置」(精選版日本国語大辞典)を意味する。
下記の図は、第1面と第2面とを有する燃料極層の断面に現出する第1元素(白丸)の分布の一例を模式的に記した図である。
[図:0001437432000001.jpg]
発明の詳細な説明の第54段落に記載されたEPMAは、元素分析の範囲(部位)を様々な大きさに設定することができ、また元素分析をする位置を任意に設定できる。図の(a)のように部位(四角形の破線の部分)を設定して元素分析を行うと、この燃料極層は、第2面よりも第1面に近い部位に第1元素を多く含有すると判断される。一方、図の(b)のように部位を設定して元素分析を行うと、この燃料極層は、第1面よりも第2面に近い部位に第1元素を多く含有すると判断される。
このように「部位」の大きさや位置によって、第1面よりも第2面に近い部位に第1元素を多く含有するか否かの判断が変わってしまう。そのため当業者は、ある具体的な物が、請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できない。従って請求項1に係る発明、及び、請求項1を引用する請求項2~9に係る発明は、発明の範囲が不明確である。
また、当業者は第1面よりも第2面に近い部位に第1元素を多く含有することを定める手段が理解できないため、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明、及び、請求項1を引用する請求項2~9に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。」旨を主張する。
(2)当審の判断
まず、本件発明1の「前記第1元素を、前記第1面よりも前記第2面に近い部位に多く含有し」なる特定について検討する。
まず、上記特定は、「前記第1面よりも前記第2面に近い」からみて、第1電極層の厚み方向Tに関して規定するものであることがわかる。また、本件特許の発明の詳細な説明には、上記「部位」の具体的範囲が明示されていないことからみて、上記特定は、第1電極層の厚み方向Tにおいて第1元素が勾配的分布となることを意味しているものと解される。
してみると、上記特定は、第1電極層において、第1元素が第1の面から第2の面に向かって徐々に多く含有する構成を示すものであり、異議申立書の24頁目に記載している図の(a)、(b)に示すような「第1面に近い部位」に「第1元素」が多く存在するものを含みうるとはいえない。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の第49段落には、「図3に示すように、燃料極層5は、電子伝導性材料5Aおよび第1材料5Bを有している。電子伝導性材料5Aは、支持基板2と固体電解質層6との間に位置している。第1材料5Bは、電子伝導性材料5Aの間に位置している。」と記載されており、第54段落には、「また、燃料極層5の固体電解質層6の反対側に位置する面を第1面とし、固体電解質層6に接する面を第2面としたとき、第1材料5Bは、第1面よりも第2面に近い部位に多く含まれてもよい。第1材料5Bは、第1元素を含む酸化物を含有する第1粒子であってもよい。第1粒子は、第1面よりも第2面に近い部位に多く位置していてもよい。このように、第1材料5Bが、第2面に近い部位に多く含まれることにより、電池性能をさらに高めることができる。なお、燃料極層5が複数の第1元素を含む場合、第1元素の含有量とは、当該複数の第1元素の含有量の合計とする。また、第1元素の含有量とは、所定の部位において燃料極層5に含まれる元素を酸化物換算した合計に対する、酸化物換算した第1元素のモル比率(モル%)である。燃料極層5における第1元素の含有量は、たとえばEPMAを用いた元素分析により確認できる。なお、燃料極層5に含まれる元素とは、燃料極層5の所定の部位に含まれる電子伝導性材料5Aおよび第1材料5Bから検出される元素である。」と記載されており、本件特許の図3は次図となっている。
「【図3】
[図:0001437432000002.jpg]
」
上記記載から、第1材料5Bは、第1元素を含む酸化物を含有する第1粒子であり、固体電解質層6に接する面(第2面)側に第1材料5Bを多く含有することが記載されていることから、本件請求項1の「前記第1元素を、前記第1面よりも前記第2面に近い部位に多く含有し」との記載が不明確であるとはいえない。
また、異議申立人は「当業者は第1面よりも第2面に近い部位に第1元素を多く含有することを定める手段が理解できない」点も主張しているが、本件発明は製造方法を特許請求の範囲としている発明でもないことから、本件特許の上記に記載されているような第1電極層とするために、成分の比重差を利用して濃度勾配を生じさせたり、成分濃度の異なる多層構造にしたりといった当業者が想定しうる製造方法を用いればよいのであり、当業者が過度な試行錯誤を伴うものとは認められない。
したがって、異議申立人の主張は前提を欠いており、理由がない。
(3) 小括
以上によれば、本件発明は明確であるから、本件特許は、特許法36条6項2号及び36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
したがって、異議申立人の主張する申立理由3、4は理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び異議申立人の提出した証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2026-700195