特許異議申立
2023-700091
ビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2023-700091
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-166062
- 登録番号
- 7109513
- 請求日
- 2023年01月30日
- 審決日
- 2026年03月25日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】小林 浩
- 【権利者代理人】古橋 伸茂
- 【権利者代理人】石原 俊秀
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 松田 成正
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1651.113-Y (C12C) / P1651.121-Y (C12C) / P1651.536-Y (C12C) / P1651.537-Y (C12C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7109513号発明「ビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7109513号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7109513号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし14に係る特許についての出願は、令和2年9月30日の出願(特願2020-166062号)であって、令和4年7月21日にその特許権の設定の登録(請求項の数14)がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行され、その後、令和5年1月30日に特許異議申立人 中川 賢治(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし14)がされ、同年6月22日付けで取消理由が通知され、同年8月24日に特許権者 サントリーホールディングス株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし14に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
糖質濃度が0.5g/100mL以下であり、且つ、下記要件(I)~(III)をすべて満たす、ビールテイスト飲料。
・要件(I):前記ビールテイスト飲料の苦味価が19BUs以上である。
・要件(II):前記ビールテイスト飲料の色度が9EBC以上である。
・要件(III):苦味価(単位:BUs)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔苦味価/糖質濃度〕が、40以上である。
【請求項2】
麦芽比率が50~100質量%である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
麦芽比率が50~95質量%である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
前記ビールテイスト飲料が、ビールである、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
苦味価(単位:BUs)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔苦味価/糖質濃度〕が、45以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項6】
色度(単位:EBC)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔色度/糖質濃度〕が、10以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項7】
イソα酸の含有量が、前記ビールテイスト飲料の全量基準で、10~150質量ppmである、請求項1~6のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項8】
α酸の含有量が、前記ビールテイスト飲料の全量基準で、0.10~30質量ppmである、請求項1~7のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項9】
ビシナルジケトン(VDK)の含有量が、前記ビールテイスト飲料の全量基準で、0.001~1.50質量ppmである、請求項1~8のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項10】
原麦汁エキス濃度が、6.0質量%以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項11】
総ポリフェノールの含有量が、前記ビールテイスト飲料の全量基準で、60質量ppm以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項12】
アルコール度数が3.0(v/v)%以上である、請求項1~11のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料を製造する方法であって、下記工程(1)~(2)を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。
・工程(1):各種原材料を用いて、糖化処理、煮沸処理、及び固形分除去処理のうち少なくとも1つの処理を行い、発酵前液を得る工程。
・工程(2):前記発酵前液に酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程。
【請求項14】
穀物に由来するスピリッツを添加する工程を有しない、請求項13に記載のビールテイスト飲料の製造方法。」
第3 特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法並びに特許権者から提出された証拠方法
令和5年1月30日に特許異議申立人から提出された特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載された特許異議申立ての理由(以下、特許異議申立書の記載に従い、順に「異議理由1A」ないし「異議理由4」という。)の概要及び証拠方法並びに特許権者から提出された証拠方法は次のとおりである。
1 異議理由1A(甲第1-1号証に基づく新規性)
本件特許発明1ないし14は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1-1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 異議理由2A(甲第1-1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし14は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1-1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 異議理由2B(甲第5号証(飲料2)に基づく進歩性)及び異議理由2C(甲第5号証(飲料4)に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし3及び5ないし11は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 異議理由2D(甲第6号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし14は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 異議理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)実施例1~4、比較例1~2について
本件明細書の表1に記載されている実施例1~4、比較例1~2のビールテイスト飲料の物性値のうち、アルコール度数と原麦汁エキスの値から、換算式(甲11の第508ページ右欄第17ないし31行)に基づいて真正エキスを算出すると、下記の通りとなる。
[図:0001434081000001.jpg]
実施例1は糖質濃度が1.3g/100mL、比較例1及び比較例2は糖質濃度が3.0g/100mLであるにもかかわらず、これらは真正エキスがマイナス値となっている。糖質がある程度含有しているにもかかわらず、真正エキスがマイナスとなることは技術的にあり得ないことから、これらの実験データには誤記が含まれていることが明らかである。
また、実施例1と実施例2を比較すると、両者は麦芽100%で製造し、ほぼ同じ原麦汁エキス(7.1と7.2)で発酵させたビールであるにも関わらず、糖質の多い実施例1の方が、アルコール濃度が高くなっている。通常、同程度の原麦汁エキスの麦汁を発酵させた場合、糖質を多く残したビールは発酵による糖のアルコール変換が進まないため、アルコール濃度は低くなる。一方、糖質を少なくしたビールは、発酵による糖のアルコール変換が進むため、アルコール濃度は高くなる。実施例1と実施例2は麦芽100%で製造したビールであることから、副原料による差異とも認められないため、この技術常識に対して、実施例1と実施例2の結果は技術常識として説明のつかない現象である。
さらに、真正エキス値が正の値であった実施例2及び4についても、糖質濃度と真正エキスの濃度の乖離が大きく、違和感を覚える。真正エキス中、炭水化物は75~80%を占めている(甲11の第506ページ左欄第4ないし25行)。また、本件明細書の段落【0012】によれば、「糖質」とは、対象となる食品から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、アルコール分及び水分を除いたものと定義されており、当該定義によれば、糖質と食物繊維の合計が炭水化物に相当する。これらにより、実施例2~4の炭水化物量、食物繊維量は下記表の通りとなる。
[図:0001434081000002.jpg]
上記表で示すように、実施例2と実施例4では、糖質の2倍以上もの食物繊維が含まれている。麦芽由来の食物繊維の多くは、糖化処理により糖質に分解されるものであり、原料として特別に食物繊維を増量させていない限り、糖質に対してこのように大量の食物繊維を含むビールテイスト飲料が製造されるとは考えにくい。
本件明細書には、実施例1~4、比較例1~2のビールテイスト飲料の製造方法については、「それぞれの実施例及び比較例においては、酵素の種類、添加量及び添加のタイミング、糖化液を調製する際の各温度領域の設定温度及び保持時間等を適宜設定し、表1に示す糖質濃度、総ポリフェノール量及びアルコール度数となるようにそれぞれ調整した。」(段落【0069】)との記載しかなく、具体的な製造方法は開示されていない。また、原料として食物繊維を使用したとの記載もない。このため、従来の技術常識と矛盾する物性のビールテイスト飲料がいかなる方法で製造されるのか、本件明細書の記載からは当業者には理解できない。
(2)実施例5~16、比較例3~4について
本件明細書には、実施例5~16、比較例3~4のビールテイスト飲料の製造方法については、「<飲料の調製> 大麦麦芽の種類や粉砕の程度、糖液の調製の仕方、麦汁に添加するホップの種類や添加量及び添加のタイミング、並びに、煮沸処理の諸条件(煮沸温度や煮沸時間等)を適宜設定して、実施例3等と同様の糖化工程及び発酵工程を経て、表2に示す苦味価及び色度に調整した、ビールであるビールテイスト飲料を調製した。」(段落【0073】)との記載があるのみである。
実施例5~16、比較例3~4については、各ビールテイスト飲料のアルコール濃度の記載はないが、麦芽比率と原麦汁エキス、糖質濃度が実施例3と同じであり、かつ「実施例3等と同様の糖化工程及び発酵工程を経て」製造されたとあることから、実施例5~16、比較例3~4のビールテイスト飲料のアルコール濃度は実施例3と同程度(5.2v/v%)であり、その真正エキス濃度も、実施例3と同程度(1.077g/100mL)である蓋然性が高い。つまり、実施例5~16、比較例3~4のビールテイスト飲料も、実施例3のビールテイスト飲料と同様に、原料として特別に食物繊維を増量させていないにもかかわらず、糖質の2倍程度もの食物繊維を含むビールテイスト飲料であり、従来の技術常識と矛盾する物性のビールテイスト飲料であるから、いかなる方法で製造されるのか、本件明細書の記載からは当業者には理解できない。
(3)小括
本件明細書において、本件特許発明の効果(苦味価、色度、苦味価/糖質濃度を所定の範囲内に調整することで、飲んだ際のインパクトの強さと飲みやすさのバランスに優れること)について具体的に確認しているのは、実施例1ないし16のみであるが、実施例1ないし16のビールテイスト飲料は、いかなる方法で製造されるのか、本件特許の明細書の記載からは当業者には理解できない。したがって、本件特許の明細書には、本件特許発明1ないし14について当業者が実施できるように記載されているとはいえない。
6 異議理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件明細書の実施例2~4のビールテイスト飲料のアルコール度数は、実施例2が3.3%、実施例3は5.2%、実施例4は6.3%であり、それぞれ大きく異なる。特に、実施例2と実施例4では、アルコール度数に2倍近くの開きがある。にもかかわらず、本件明細書の表1によれば、実施例2~4のビールテイスト飲料のインパクトと飲みやすさは、いずれも同程度の官能評価値である。
アルコールは刺激が強く、アルコール濃度が6.3%である実施例4のビールテイスト飲料と、アルコール濃度が3.3%である実施例2のビールテイスト飲料とが、同程度のインパクトであるということは、実施例2には、実施例4に比べて不足するアルコール由来の刺激を補い、インパクトが実施例4と同程度になるように増大させる何らかの成分を有していると予想される。
ただし、本件明細書において本件特許発明の効果に必須とされる特性である糖質、苦味価、色度は、実施例2~4でいずれも同程度であり、実施例2において不足するアルコール由来の刺激を補ってインパクトの増大に寄与する成分ではない。つまり、本件明細書の表1の結果は、糖質、苦味価、及び色度以外の第三の成分が、インパクトに寄与していることを示唆している。実際に、実施例2~4のビールテイスト飲料は、麦芽比率が異なり、かつ糖化や発酵の諸条件が異なるため、香気成分をはじめとする各種の組成が互いに異なっているから、これらの成分のいずれかが、インパクトに寄与していると推察される。
このように、本件特許の明細書の実施例2ないし4の結果からは、本件特許発明の効果を達成するためには、糖質、苦味価、及び色度以外の第三の成分が必要であることが示唆されているにもかかわらず、本件特許発明には、当該第三の成分について特定されていない。つまり、本件特許発明は、発明の効果を奏するために必要な構成が欠けているのであるから、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
7 証拠方法
甲第1-1号証:dpatrickryan,『Bridge Brewing Company Prime Time IPA - American IPA at 5.0% ABV』、2020年5月1日掲載、RyansBooze Beer Reviews [online] ryansbooze.com 〔2021年11月10日検索〕、インターネット、原本及び抄訳文<URL:https://ryansbooze.com/2020/05/bridge-brewing-company-prime-time-ipa-american-ipa-at-5-0-abv/>
甲第1-2号証:Bridge Brewing Company、『PrimeTime NO COMPROMISES』、掲載日不明、[online] 〔2022年10月31日検索〕、インターネット、原本及び抄訳文<URL:https://www.bridgebrewing.com/drinkprimetime>
甲第1-3号証:Lauren Ciccarelli、『20+ Low-Carb Beers That Won’t Sabotage Your Keto Diet』、2019年9月23日掲載、[online] Perfect Keto〔2023年1月25日検索〕、インターネット、原本及び抄訳文<URL:https://perfectketo.com/low-carb-and-ketogenic-beer-options>
甲第1-4号証:Randy Mosher、『Tasting Beer』 THE QUALITIES OF BEER 2009年、ISBN:978-1-60342-089-1 第66~72ページ、写し及び抄訳文
甲第1-5号証:Luis Ferreira Guido、『Brewing and Craft Beer』、2019年、MDPI、ISBN:978-3-03921-489-1、第66~68ページ、写し及び抄訳文<URL: https://www.mdpi.com/books/book/1627><DOI:https://doi.org/10.3390/books978-3-03921-490-7>
甲第1-6号証:『カナダ政府による栄養表示規格』、2018年5月11日掲載、[online] カナダ食品検査庁〔2021年12月8日検索〕、インターネット、原本及び抄訳文<URL:https://inspection.canada.ca/food-label-requirements/labelling/industry/nutrition-labelling/definitions/eng/1387826851549/1387826852362#d13>
甲第1-7号証:『カナダ政府による栄養表示規格』、「List of ingredients and allergens on food labels」、2022年10月11日修正掲載、[online] カナダ食品検査庁 〔2023年1月25日検索〕インターネット、原本及び抄訳文<URL:https://inspection.canada.ca/food-labels/labelling/industry/list-of-ingredients-and-allergens/eng/1628716222800/1628716311275>
甲第1-8号証:日本ビール文化研究会、『日本ビール検定公式テキスト 2016年6月改訂版』、株式会社マイナビ出版、2017年5月30日、第70ページ
甲第2号証:財団法人日本醸造協会、『醸造物の成分』、平成11年12月10日、第250~272ページ、写し
甲第3号証:特許第4791549号公報
甲第4号証:井上喬、「ジアセチル-発酵飲食品製造のキーテクノロジー-」株式会社幸書房、2001年4月20日、第49~86ページ
甲第5号証:国際公開第2011/145670号
甲第6号証:中国特許出願公開第109706015号明細書
甲第7号証:国際公開第2014/119064号
甲第8号証:特開2015-80479号公報
甲第9-1号証:橋本直樹、『ライトビールの登場~ビールの新しい味を担って~』、New Food Industry、1988年、第30巻、第3号、第6~13ページ
甲第9-2号証:国際公開第2014/196265号
甲第9-3号証:特開2018-198619号公報
甲第10号証:特願2020-058724号の拒絶査定、令和3年9月16日(起案日)、令和3年9月28日(発送日)、特許庁審査官、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT) J-PlatPat経過情報照会
甲第11号証:吉田重厚、“第1章 ビールの一般成分”、日本醸造協会雑誌、財団法人日本醸造協会 1976年7月15日、第71巻、第7号、第505~510ページ、<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/71/7/71_7_505/_article/-char/ja/><DOI:https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan1915.71.505>
甲第12号証:吉田重厚、「英独和ビール用語辞典」、財団法人日本醸造協会、平成16年2月15日、第10ページ
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
8 特許権者から提出された証拠方法
令和5年8月24日に特許権者から提出された意見書に添付された証拠方法は次のとおりである。
乙第1号証:マガジンサミットのウェブサイト、「1周年でリニューアルしたサッポロGOLD STAR!ブランド担当者へのインタビューで見えた、本気と進化」、2021年4月19日、マガジンサミット編集部、https://magazinesummit.jp/lifetrend/20210419120893134
乙第2号証:グルメWatchのウェブサイト、「キリンビール「本麒麟」がリニューアル。中味のうまさだけで勝負!」、2023年5月18日、濱野紗妃、https://gourmet.watch.impress.co.jp/docs/news/1501544.html
乙第3号証:異議2021-701010の特許決定公報
証拠の表記は、上記意見書の記載におおむね従った。以下、順に「乙1」のようにいう。
第4 取消理由の概要
令和5年6月22日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
1 取消理由1(甲1-1に基づく新規性)
本件特許発明1ないし9及び12ないし14は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1-1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、本件特許の請求項1ないし9及び12ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。なお、該取消理由1は異議理由1Aに包含される。
2 取消理由2(甲1-1に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし9及び12ないし14は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1-1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項1ないし9及び12ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。なお、該取消理由2は異議理由2Aに包含される。
第5 取消理由1(甲1-1に基づく新規性)及び取消理由2(甲1-1に基づく進歩性)についての当審の判断
取消理由1は異議理由1Aに包含され、取消理由2は異議理由2Aに包含されることから、取消理由1、取消理由2、異議理由1A及び異議理由2Aを併せて検討する。
1 甲1-1に記載された事項等
(1)甲1-1に記載された事項
甲1-1は「Bridge Brewing Company Prime Time IPA-American IPA at 5.0% ABV」というタイトルの文献であり、おおむね次の事項が記載されている。甲1-1は外国語文献のため写真を除き特許異議申立人が提出した訳文を摘記する。
・「ブリッジ ブリューイング カンパニー プライムタイムIPA - アルコール度数5.0v/v%のアメリカンIPA(コレクティブで3.25カナダドル、355ml、2020年4月8日にパッケージ化、2020年4月24日に購入、2020年4月30日にレビュー)」(第1ページ第6及び7行)
・「外観:やや濁ったミディアムアンバー、指1本分のゆるい淡いアイボリーの泡、良好な保持力と中程度の石鹸状のレース。(3/5)」(第1ページ8及び9行)
・「低カロリーのビールとしては悪くないが、IPA の風味が少し薄められており、特に後味は少し薄くてシャープだ。彼らのPrimeTime APAよりもわずかに良く、不愉快ではないが、アルコール度数の低いエールから私が望むほどには、飲みやすくなく、きれいでもない。(13/20)」(第1ページ第13ないし16行)
・「
[図:0001434081000003.jpg]
」(第2ページ)(当審注:缶体表面の枠で囲った部分に、110カロリー、1.5g炭水化物、5.0%アルコール/VOLと記載されている。)
(2)甲1-1に記載された発明
甲1-1に記載された事項を整理すると、甲1-1には次の発明(以下、「甲1-1飲料発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1-1飲料発明>
「アルコール度数5.0v/v%のアメリカンIPAであって、
1.5g炭水化物/355mlであり、
外観がやや濁ったミディアムアンバーである、
アメリカンIPA。」
また、甲1-1飲料発明は缶に「ビール」と記載されているから、一般的なビールの製造方法、すなわち、麦芽を糖化処理し、ホップを添加し、発酵前液を調製し、酵母を接種してアルコール発酵させて製造しているものと認められる。よって、甲1-1には次の発明(以下、「甲1-1製法発明」という。)も記載されていると認める。
<甲1-1製法発明>
「麦芽を糖化処理し、ホップを添加して、発酵前液を調製する工程と、
酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有する、
甲1-1飲料発明の製造方法。」
2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1-1飲料発明とを対比する。
甲1-1飲料発明における「アルコール度数5.0v/v%のアメリカンIPA」は、ビールであるから、本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
甲1-6によると、炭水化物には糖質のほかデンプン、食物繊維、糖アルコール及びポリデキストロースが含まれるので、甲1-1飲料発明における「1.5g炭水化物/355ml」(100mL当たりの数値に換算すると、約0.42g/100mL)は、本件特許発明1における「糖質濃度が0.5g/100mL以下」という発明特定事項の条件を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「糖質濃度が0.5g/100mL以下である、ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-1a>
本件特許発明1においては「・要件(I):前記ビールテイスト飲料の苦味価が19BUs以上である。」「を満たす」と特定されているのに対し、甲1-1飲料発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点1-1b>
本件特許発明1においては「・要件(II):前記ビールテイスト飲料の色度が9EBC以上である。」「を満たす」と特定されているのに対し、甲1-1飲料発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点1-1c>
本件特許発明1においては「・要件(III):苦味価(単位:BUs)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔苦味価/糖質濃度〕が、40以上である。」「を満たす」と特定されているのに対し、甲1-1飲料発明においてはそのようには特定されていない点。
(2)判断
相違点1-1aについて検討する。
甲1-1には、甲1-1飲料発明の苦味価に関する記載はないから、相違点1-1aが実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
そして、甲1-1には、甲1-1飲料発明において、苦味価を19BUs以上にして、相違点1-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1-1飲料発明において、甲1-1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「飲んだ際のインパクトの強さと飲みやすさとのバランスに優れた飲料となり得る。」(本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0006】)という本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書において、おおむね次のとおり主張する。摘記に際し、空白行は省略した。
「(ア)甲第1-1号証に記載のビールテイスト飲料に係る発明
前記(4-2)(ア)で述べたように、甲第1-1号証には、本願出願前にカナダで製造販売されていたアメリカンIPAビール「Prime Time IPA」が記載されている。
ここで、アメリカンIPAビールは、本件明細書のビールテイスト飲料に相当する。
また、「Prime Time IPA」は、やや濁ったミディアムアンバーであり、355mL当たりの炭水化物を1.5g含有しており、アルコール濃度が5.0v/v%、苦味価が25IBUである、低カロリー、低炭水化物を訴求したビールである(記載事項1-1~記載事項1-5)。
ミディアムアンバーのビールの色度は、12SRMであり(記載事項1-8)、EBCに換算すると、23.64EBCである(記載事項1-9)。
また、炭水化物には、糖質、デンプン、食物繊維、糖アルコール、ポリデキストロースが含まれるので(記載事項1-10)、「Prime Time IPA」の糖質濃度は、当然に、炭水化物濃度(1.5g/355mL=0.42g/100mL)以下である。
さらに、「Prime Time IPA」の苦味価(25IBU)と糖質濃度(0.42g/100mL以下)の値から、苦味価(単位:BUs)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔苦味価/糖質濃度〕は、59.5以上である。また、「Prime Time IPA」の色度(23.64EBC)と糖質濃度(0.42g/100mL以下)の値から、色度(単位:EBC)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔色度/糖質濃度〕は56.3以上である。
したがって、甲第1-1号証には、下記のアメリカンIPAビールに係る発明が開示されているといえる。
甲1-1発明
1a: 糖質濃度が0.42g/100mL以下であり、且つ、
1b1: 苦味価が25BUsであり、
1b2: 色度が23.64EBCであり、
1b3: 苦味価(単位:BUs)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔苦味価/糖質濃度〕が59.5以上であり、
1f: 色度(単位:EBC)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔色度/糖質濃度〕が56.3以上であり、
1l: アルコール度数が5.0(v/v)%であり、
1e: ビールである、
1c: アメリカンIPAビール。
・・・(略)・・・
(ウ)本件発明1と甲1-1発明との対比
構成1a、1b1、1b2、1b3、及び1cは、それぞれ、構成A、B1、B2、B3、及びCに相当する。
したがって、本件発明1と甲1-1発明に相違点はなく、同一の発明である。」(特許異議申立書第45ないし47ページ)
イ 特許異議申立人の主張についての判断
上記主張について検討する。
「Prime Time IPA」の苦味価が「25IBU」であるという特許異議申立人の主張の根拠は、甲1-2であるが、甲1-1に記載された飲料が2020年4月24日に市場で購入された飲料であるのに対し、甲1-2は2022年10月31日に検索されたホームページの記載であり、甲1-1の公開日から2年半以上経過した時点のものである。
そして、乙1及び2に記載されているように、ビールテイスト飲料等の業界では、1年程度の比較的短い期間で、リニューアルされていることが一般的であり、ブランド又は商品名が等しいというだけでは、全て同程度の特性値を示し、またその成分が等しいということはできない。
そうすると、甲1-1に記載された飲料は、甲1-2に記載された特性値を示す、すなわち、苦味価が「25IBU」であるとは必ずしもいえない。
したがって、特許異議申立人の主張するような甲1-1発明を認定することはできない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)本件特許発明1についてのまとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1-1飲料発明であるとはいえないし、甲1-1飲料発明並びに甲1-1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
3 本件特許発明2ないし12について
本件特許発明2ないし12はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1-1飲料発明であるとはいえないし、甲1-1飲料発明並びに甲1-1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
4 本件特許発明13について
本件特許発明13と甲1-1製法発明を対比・判断する。
本件特許発明13は本件特許発明1ないし12のいずれかを製造する製造方法の発明であり、甲1-1製法発明は甲1-1飲料発明の製造方法の発明であるから、本件特許発明1ないし12のいずれも甲1-1飲料発明であるといえない以上、本件特許発明13は甲1-1製法発明であるとはいえないし、本件特許発明1ないし12のいずれも甲1-1飲料発明並びに甲1-1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない以上、本件特許発明13は甲1-1製法発明並びに甲1-1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
5 本件特許発明14について
本件特許発明14は、請求項13の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明13の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明13と同様に、甲1-1製法発明であるとはいえないし、甲1-1製法発明並びに甲1-1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
6 取消理由1及び2並びに異議理由1A及び2Aについてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし14は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当せず、取消理由1及び2並びに異議理由1A及び2Aによっては取り消すことはできない。
第6 取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由について
取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由は、次のとおりである。
・異議理由1A(甲1-1に基づく新規性)のうちの一部
・異議理由2A(甲1-1に基づく進歩性)のうちの一部
・異議理由2B(甲5(飲料2)に基づく進歩性)
・異議理由2C(甲5(飲料4)に基づく進歩性)
・異議理由2D(甲6に基づく進歩性)
・異議理由3(実施可能要件)
・異議理由4(サポート要件)
なお、異議理由1Aのうちの一部及び異議理由2Aのうちの一部については、上記第5で検討したとおりである。
以下、残りの理由について、順に検討する。
1 異議理由2B(甲5(飲料2)に基づく進歩性)及び異議理由2C(甲5(飲料4)に基づく進歩性)について
(1)甲5に記載された事項等
ア 甲5に記載された事項
甲5には、「泡の安定化された非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料」に関しておおむね次の事項が記載されている。
・「背景技術
[0002] 消費者の健康志向が高まる中、ビール、発泡酒、ビールテイスト飲料などの嗜好性飲料においても低カロリーや低糖質といった商品の需要が高まっている。具体例としては、ライトビールや、カロリーカットタイプあるいは糖質カットタイプのビールテイスト飲料などの様々なタイプのビールテイスト飲料の需要が高まってきている。また、道路交通法改正による飲酒運転の罰則強化により低アルコールもしくはアルコール度が0.00%のノンアルコールのビールテイスト飲料の需要が増加している。しかしながら、これらの健康志向のビールテイスト飲料、特に非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料においては、十分な泡品質を確保することは困難であった。
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0003] 従って、非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料における泡品質の改善が切望されている。」
・「発明の効果
[0006] 本発明により、ノンアルコールタイプの非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料において液面に形成される泡に関して、十分な品質、特に安定性を確保することができる。しかも、泡を安定化させるための添加剤を用いる必要がないため、簡便なだけでなく、当該添加剤による香味への影響も少ない。また、泡持ちを良くすると考えられている苦味料を添加する必要もない。」
・「[0046] 実施例1
<本発明の非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料の製造>
麦由来のエキス分の総量が所望の範囲内にある、本発明の非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料(飲料1~7)、及び麦由来のエキス分の総量が所望の範囲外である非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料(比較例1~3)を、以下の方法により製造した。飲料1~4については、麦芽20kg(全麦芽のうち色麦芽であるカラメル麦芽の占める割合が60重量%)を用い、また、飲料5~7、及び比較例1~4については、麦芽20kg(全麦芽のうち色麦芽であるカラメル麦芽の占める割合が50重量%)を用いた。
[0047] 麦芽を適当な粒度に粉砕したものを仕込槽に入れ、これに120Lの温水を加え、約50℃のマッシュを作った。50℃で30分保持後、徐々に昇温して65℃~72℃で60分間、糖化を行った。糖化が完了したマッシュを77℃まで昇温後、麦汁濾過槽に移し濾過を行い、濾液を得た。
[0048] 得られた濾液の一部をとり、温水を加え、その際、濾液と温水の混合割合は、煮沸完了時のエキス分の量が目標とする値になるよう調整した。製造スケールを100Lとし、ホップを約100g添加し、100℃で80分間煮沸をした。煮沸後の液からオリを分離し、約2℃に冷却後、酸化防止剤、香料、酸味料(pHが4未満となる量を添加)、甘味料、必要によりカラメル色素を各々適量加えて約24時間貯蔵した。その間、炭酸ガスを適量添加した。その後、濾過・瓶詰め・殺菌(65℃以上で10分間加熱)の工程を経て、本発明の非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料1~7を得た。このうち、飲料3及び4、あるいは、飲料5及び6は、同じ方法により得られた異なるバッチである。また、比較例1~3の三つの飲料は、同じ方法により得られた異なるバッチである。
[0049] <品質評価>
飲料1~7及び比較例1~3の評価結果を、以下の表1に示す。
[0050]
[図:0001434081000004.jpg]
」
イ 甲5に記載された発明
甲5に記載された事項を、特に実施例1の飲料2及び4に関して整理すると、甲5には次の発明が記載されていると認める。
<甲5飲料2発明>
「糖質が0.3g/100mlであり、苦味価が20BUsであり、色度が7EBCである非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料。」
<甲5飲料4発明>
「糖質が0.4g/100mlであり、苦味価が18BUsであり、色度が10EBCである非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料。」
(2)異議理由2B(甲5(飲料2)に基づく進歩性)について
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲5飲料2発明とを対比する。
甲5飲料2発明における「非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料」は本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
甲5飲料2発明における「糖質が0.3g/100mlであり」は本件特許発明1における「糖質濃度が0.5g/100mL以下であり」に相当する。
甲5飲料2発明における「苦味価が20BUsであり」は本件特許発明1における「・要件(I):前記ビールテイスト飲料の苦味価が19BUs以上である。」「を満たす」に相当する。
甲5飲料2発明における苦味価と糖質の比は約66.7(=20/0.3)と計算されるから、甲5飲料発明2は本件特許発明1における「・要件(III):苦味価(単位:BUs)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔苦味価/糖質濃度〕が、40以上である。」「を満たす」という発明特定事項の条件を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「糖質濃度が0.5g/100mL以下であり、且つ、下記要件(I)、(III)をすべて満たす、ビールテイスト飲料。
・要件(I):前記ビールテイスト飲料の苦味価が19BUs以上である。
・要件(III):苦味価(単位:BUs)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔苦味価/糖質濃度〕が、40以上である。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点5-1>
本件特許発明1においては「・要件(II):前記ビールテイスト飲料の色度が9EBC以上である。」「を満たす」と特定されているのに対し、甲5飲料2発明においては「色度が7EBCである」と特定され、本件特許発明1のようには特定されていない点。
(イ)判断
甲5には、甲5飲料2発明において、色度を9EBC以上にして、相違点5-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲5飲料2発明において、甲5及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点5-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「飲んだ際のインパクトの強さと飲みやすさとのバランスに優れた飲料となり得る。」という本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、ビールテイスト飲料において、飲料の色度をどの程度にするかは、当業者が通常行う設計事項に過ぎないし、甲5飲料2発明において、飲料の色度が9EBC以上になるように調整することは、当業者にとって容易になし得ることである旨主張する(特許異議申立書第58ページ)。
そこで、検討するに、甲5を含めいずれの証拠にも、甲5飲料2発明の認定の根拠となった飲料2の色度を9EBCという具体的な数値以上とする動機付けとなる記載はなく、甲5飲料2発明において、飲料の色度が9EBC以上になるように調整することは当業者が容易になし得たことであるとはいえないし、本件特許発明1の奏する効果も本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(エ)本件特許発明1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1は甲5飲料2発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2、3及び5ないし11について
本件特許発明2、3及び5ないし11はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲5飲料2発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 異議理由2Bについてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし3及び5ないし11は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし11に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当せず、異議理由2Bによっては取り消すことはできない。
(3)異議理由2C(甲5(飲料4)に基づく進歩性)について
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲5飲料4発明とを対比する。
甲5飲料4発明における「非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料」は本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
甲5飲料4発明における「糖質が0.4g/100mlであり」は本件特許発明1における「糖質濃度が0.5g/100mL以下であり」に相当する。
甲5飲料4発明における「色度が10EBCであり」は本件特許発明1における「・要件(II):前記ビールテイスト飲料の色度が9EBC以上である。」「を満たす」に相当する。
甲5飲料4発明における苦味価と糖質の比は45(=18/0.4)と計算されるから、甲5飲料発明4は本件特許発明1における「・要件(III):苦味価(単位:BUs)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔苦味価/糖質濃度〕が、40以上である。」「を満たす」という発明特定事項の条件を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「糖質濃度が0.5g/100mL以下であり、且つ、下記要件(II)、(III)をすべて満たす、ビールテイスト飲料。
・要件(II):前記ビールテイスト飲料の色度が9EBC以上である。
・要件(III):苦味価(単位:BUs)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔苦味価/糖質濃度〕が、40以上である。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点5-2>
本件特許発明1においては「・要件(I):前記ビールテイスト飲料の苦味価が19BUs以上である。」「を満たす」と特定されているのに対し、甲5飲料4発明においては「苦味価が18BUsであり」と特定され、本件特許発明1のようには特定されていない点。
(イ)判断
甲5には、甲5飲料4発明において、苦味価を19BUs以上にして、相違点5-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲5飲料4発明において、甲5及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点5-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「飲んだ際のインパクトの強さと飲みやすさとのバランスに優れた飲料となり得る。」という本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、ビールテイスト飲料において、飲料の苦味価をどの程度にするかは、当業者が通常行う設計事項に過ぎないし、甲5飲料4発明において、飲料の苦味価が19BUs以上になるように調整することは、当業者にとって容易になし得ることである旨主張する(特許異議申立書第63ページ)。
そこで、検討するに、甲5を含めいずれの証拠にも、甲5飲料4発明の認定の根拠となった飲料4の苦味価を19BUsという具体的な数値以上とする動機付けとなる記載はなく、甲5飲料4発明において、飲料の苦味価を19BUs以上になるように調整することは当業者が容易になし得たことであるとはいえないし、本件特許発明1の奏する効果も本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(エ)本件特許発明1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1は甲5飲料4発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2、3及び5ないし11について
本件特許発明2、3及び5ないし11はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲5飲料4発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 異議理由2Cについてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし3及び5ないし11は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし11に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当せず、異議理由2Cによっては取り消すことはできない。
2 異議理由2D(甲6に基づく進歩性)について
(1)甲6に記載された事項等
ア 甲6に記載された事項
甲6には、「全麦ライトタイプ黒ビール及びその調製方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。甲6は外国語文献のため特許異議申立人が提出した訳文を摘記する。また、半角文字は適宜全角文字で表記した。
・「請求項1.エール麦芽にチョコレート麦芽とロースト大麦を使用し、外来糖化酵素を添加せずに上面発酵法により製造されることを特徴とする全麦ライトタイプ黒ビール、前記ビールは、原麦汁濃度10~12°P、苦味品質15~25EBC、色品質80~140EBC、RDF≧66%及び外観糖度≦2.4°Pを有することを特徴とする、ビールである。」(請求項1)
・「[0002] 黒ビールは「黒牛ダイ(当審注:女偏に乃)」と呼ばれる。国家規格では、色度が41EBC以上のビールとして、Schwarzbier、ポーター、スタウトの3つの主要カテゴリーを定義している。Schwarzbierは下面酵母発酵のビールで軽い風味、ポーターとスタウトは上面酵母発酵のビールでコクのある風味が特徴である。一般的に黒ビールは、色が濃い黒色で、原麦汁濃度は12°P~20°P、アルコール度数は4.5%vol以上、味は濃厚でやや甘めである。」
・「[0003] 黒ビールに際立つ焦げた香り、焦げた風味、コクとほのかな甘味があるのは、製麦過程で高温で乾燥させて得られる焦がし麦芽とライ麦麦芽を大量に使用することが主な理由である。しかし、高温乾燥は麦芽の酵素も破壊してしまうため、外来糖化酵素を使用しない黒ビールは通常、発酵度が低く残糖が多いため、やや甘くコクのある味わいとなる。外来糖化酵素を添加せず、黒ビール特有の焦げやチョコレート、コーヒーの風味を持ちながら、同時に発酵度が高く、残糖が少なく、軽くてさわやかな味わいの黒ビールが開発されれば、黒ビールのカテゴリーが充実するだけでなく、従来の黒ビールが風味や味が重く、もっと飲むのに適しているという問題を解決し、消費者に選択肢を与えることができる。」
・「[0021] 本発明の実施形態は、エール麦芽にチョコレート麦芽とロースト大麦を加え、外来糖化酵素を添加せずに、上面発酵方法により製造された、原麦汁濃度10~12°P、苦味品質15~25EBC、色品質80~140EBC、RDF≧66%、外観糖度≦2.4°Pである全麦ライトタイプ黒ビールである、前記ビールを提供するものである。」
・「[0041] 実施例4
[0042] エール麦芽93%、チョコレート麦芽2%、ロースト大麦5%)と水を原料とし、粉砕→糖化→ろ過→煮沸(最終麦汁濃度が12°Pとなるようにホップを段階的に添加)→サイクロン沈殿→冷却→酸素添加→上記酵母添加→発酵→ろ過→殺菌→すなわち12°P全麦ライトタイプ黒ビールを製造する。」
・「[0043] 実施例5
[0044] エール麦芽89%、チョコレート麦芽7%、ロースト大麦4%)、水を原料に粉砕→糖化→ろ過→煮沸(段階的にホップを添加、最終麦汁濃度12°P煮沸)→回転沈殿→冷却→酸素添加→上記酵母添加→発酵→ろ過→殺菌→つまり12°P全麦ライトタイプ黒ビールである。」
・「[0048] 表2実施例1~5で得られた麦汁の物理化学的試験結果
[0049]
[図:0001434081000005.jpg]
[0050] 表3実施例1~5で調製した全麦ライトタイプビールの試験結果
[0051]
[図:0001434081000006.jpg]
[0052]
[図:0001434081000007.jpg]
[0053] 表1のデータから、本発明の実施例1~5で使用した麦芽は、全粒粉ライトタイプの黒ビール処方で麦芽に設定した基準を満たすことがわかり、表2~3のデータから、処方の選択成分の設定に基づき、仕込み麦汁濃度は10~12°P、最終発酵度は68%以上、苦味は20~35EBC、色は90~130EBCであることがわかり 麦汁濃度10~12°P、苦味15~25EBC、色80~140EBC、RDF≧66%、外観糖度≦2.4°Pと、黒ビールに求められる期待通りの風味・味を持つ麦汁を調製することができた。」
イ 甲6に記載された発明
甲6に記載された事項を、特に実施例4に関して整理すると、甲6には次の発明(以下、「甲6飲料発明」及び「甲6製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲6飲料発明>
「苦味価が20EBCであり、色度が112EBCである、全麦ライトタイプ黒ビール。」
<甲6製法発明>
「エール麦芽89%、チョコレート麦芽7%、ロースト大麦4%、水を原料に粉砕→糖化→ろ過→煮沸(段階的にホップを添加、最終麦汁濃度12°P煮沸)→回転沈殿→冷却→酸素添加→上記酵母添加→発酵→ろ過→殺菌する工程を有する甲6飲料発明の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲6飲料発明を対比する。
甲6飲料発明における「全麦ライトタイプ黒ビール」は本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
甲6飲料発明における「苦味価が20EBCであり」は、EBCという単位がBUsという単位のことであるとすると、本件特許発明1における「要件(I):前記ビールテイスト飲料の苦味価が19BUs以上である。」「を満たす」に相当する(なお、EBCという単位がBUsという単位のことでない場合は、苦味価の点も相違点となる。)。
甲6飲料発明における「色度が112EBCである」は本件特許発明1における「要件(II):前記ビールテイスト飲料の色度が9EBC以上である。」「を満たす」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「下記要件(I)、(II)をすべて満たす、ビールテイスト飲料。
・要件(I):前記ビールテイスト飲料の苦味価が19BUs以上である。
・要件(II):前記ビールテイスト飲料の色度が9EBC以上である。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点6-1a>
本件特許発明1においては「糖質濃度が0.5g/100mL以下であり」と特定されているのに対し、甲6飲料発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点6-1b>
本件特許発明1においては「・要件(III):苦味価(単位:BUs)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔苦味価/糖質濃度〕が、40以上である。」「を満たす」と特定されているのに対し、甲6飲料発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点6-1aについて検討する。
甲6には、甲6飲料発明において、糖質濃度が0.5g/100mL以下となるようにして、相違点6-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲6飲料発明において、甲6及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点6-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「飲んだ際のインパクトの強さと飲みやすさとのバランスに優れた飲料となり得る。」という本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲6には、糖質濃度を低下させることが好ましいと記載されており、よって、甲6の記載から、甲6飲料発明の黒ビールの糖質濃度をより低減させようとすることは、当業者が容易になし得ることであり、ビールテイスト飲料の低糖質化の技術も、各種の方法が、本件特許の出願時には周知技術であったため、これらの低糖質化の周知技術を適用することにより、近年の低カロリー化、低糖質化への消費者の嗜好の変化に合わせて、甲6飲料発明の黒ビールの糖質濃度を、消費者に訴求力のある0.5g/100mL未満になるまで低減させることは、当業者が容易になし得ることである旨主張する(特許異議申立書第69ページ)。
そこで、検討するに、甲6を含めいずれの証拠にも、甲6飲料発明の認定の根拠となった実施例4の糖質濃度を0.5g/100mLという具体的な数値以下とする動機付けとなる記載はなく、甲6飲料発明において、飲料の糖質濃度を0.5g/100mL以下になるように調整することは当業者が容易になし得たことであるとはいえないし、本件特許発明1の奏する効果も本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
エ 本件特許発明1についてのまとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲6飲料発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし12について
本件特許発明2ないし12はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲6飲料発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明13について
本件特許発明13と甲6製法発明を対比・判断する。
本件特許発明13は本件特許発明1ないし12のいずれかを製造する製造方法の発明であり、甲6製法発明は甲6飲料発明の製造方法の発明であるから、本件特許発明1ないし12のいずれも甲6飲料発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない以上、本件特許発明13は甲6製法発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明14について
本件特許発明14は、請求項13の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明13の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明13と同様に、甲6製法発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)異議理由2Dについてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし14は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当せず、異議理由2Dによっては取り消すことはできない。
3 異議理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1ないし12は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明13及び14は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断について
発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし14の各発明特定事項の技術的意義について具体的に記載されている。
また、発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし14における糖質濃度、苦味価、色度、イソα酸の含有量、α酸の含有量、ビシナルジケトン(VDK)、総ポリフェノール含有量及びアルコール度数等の物性値の調整方法又は制御方法について具体的に記載されている(糖質濃度については【0013】、苦味価については【0016】、色度については【0019】、イソα酸及びα酸については【0022】、ビシナルジケトン(VDK)については【0023】、総ポリフェノール含有量については【0028】並びにアルコール度数については【0031】参照。)。
さらに、発明の詳細な説明の【0054】ないし【0066】には、本件特許発明1ないし12のいずれかに係るビールテイスト飲料の製造方法について具体的に記載されている。
そして、発明の詳細な説明の【0068】ないし【0084】には、本件特許発明1ないし14の実施例について、具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし12を生産し、使用することができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明13及び14の使用をし、それにより生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし14に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 5における主張について検討する。
特許異議申立人の、本件特許の発明の詳細な説明に記載された実施例及び比較例の物性値が甲11等に記載された技術常識と矛盾するから、本件特許発明の効果を確認している実施例1ないし16のビールテイスト飲料が、いかなる方法で製造されるのか理解できないので、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし14について当業者が実施できるように記載されているとはいえない、という主張については、上記(2)のとおり、発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし14における糖質濃度、苦味価、色度、イソα酸の含有量、α酸の含有量、ビシナルジケトン(VDK)、総ポリフェノール含有量及びアルコール度数等の物性値の調整方法又は制御方法並びにビールテイスト飲料の製造方法について具体的に記載されているし、甲11の第508ページ右欄第17ないし31行に記載の換算式は、それに続く第31及び32行に「勿論,実際の工程では,酵母の増減量や,アルコールの蒸発量にかなりのバラツキがあると考えられる」と記載されているように、実際にはその換算式どおりの値にはならないことがあり得るものであるし、スピリッツを添加してアルコール度数を調整することも許容されている(発明の詳細な説明の【0031】)ことから、実施例1ないし16に関する記載が技術常識と矛盾するとまではいえない。
また、特許異議申立人は、アルコール濃度に関して実施例1及び2の結果が技術常識として説明のつかない現象であるとか、大量の食物繊維を含むビールテイスト飲料が製造されるとは考えにくい、とも主張するが、いずれも上記(2)の判断を左右するものではない。
さらに、発明の詳細な説明に記載された糖質濃度、苦味価、色度、イソα酸の含有量、α酸の含有量、ビシナルジケトン(VDK)、総ポリフェノール含有量及びアルコール度数等の物性値の調整方法又は制御方法並びにビールテイスト飲料の製造方法では、実施例1ないし16のビールテイスト飲料を製造することができないことの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、特許異議申立人の上記第3 5における主張は採用できない。
(4)異議理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、異議理由3によっては取り消すことはできない。
4 異議理由4(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲(以下、「特許請求の範囲」という。)の記載は上記第2のとおりである。
他方、発明の詳細な説明の【0001】ないし【0004】によると、本件特許発明1ないし12の解決しようとする課題は「飲んだ際のインパクトの強さと飲みやすさとのバランスに優れる新規なビールテイスト飲料」を提供することであり、本件特許発明13及び14の解決しようとする課題は該「ビールテイスト飲料」の「製造方法」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)。
そして、発明の詳細な説明の【0005】には「本発明は、糖質濃度、並びに、苦味価及び色度の少なくとも一方を所定の範囲に調整したビールテイスト飲料を提供する。具体的には、本発明は、下記態様[1]~[15]を提供する。
[1]
糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、且つ、下記要件(I)及び(II)の少なくとも一方を満たす、ビールテイスト飲料。
・要件(I):前記ビールテイスト飲料の苦味価が18BUs以上である。
・要件(II):前記ビールテイスト飲料の色度が7EBC以上である。
[2]
要件(I)及び要件(II)を共に満たす、上記[1]に記載のビールテイスト飲料。
[3]
麦芽比率が50~100質量%である、上記[1]又は[2]に記載のビールテイスト飲料。
[4]
糖質濃度が0.5g/100mL以下である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
[5]
前記ビールテイスト飲料が、ビールである、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
[6]
苦味価(単位:BUs)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔苦味価/糖質濃度〕が、40以上である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
[7]
色度(単位:EBC)と糖質濃度(単位:g/100mL)との比〔色度/糖質濃度〕が、10以上である、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
[8]
イソα酸の含有量が、前記ビールテイスト飲料の全量基準で、10~150質量ppmである、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
[9]
α酸の含有量が、前記ビールテイスト飲料の全量基準で、0.10~30質量ppmである、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
[10]
ビシナルジケトン(VDK)の含有量が、前記ビールテイスト飲料の全量基準で、0.001~1.50質量ppmである、上記[1]~[9]のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
[11]
原麦汁エキス濃度が、6.0質量%以上である、上記[1]~[10]のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
[12]
総ポリフェノールの含有量が、前記ビールテイスト飲料の全量基準で、60質量ppm以上である、上記[1]~[11]のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
[13]
アルコール度数が3.0(v/v)%以上である、上記[1]~[12]のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
[14]
上記[1]~[13]のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料を製造する方法であって、下記工程(1)~(2)を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。
・工程(1):各種原材料を用いて、糖化処理、煮沸処理、及び固形分除去処理のうち少なくとも1つの処理を行い、発酵前液を得る工程。
・工程(2):前記発酵前液に酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程。
[15]
穀物に由来するスピリッツを添加する工程を有しない、上記[14]に記載のビールテイスト飲料の製造方法。」と記載され、同【0011】には「本発明の一態様のビールテイスト飲料の糖質濃度は、飲んだ際のインパクトの強さを有しつつも、飲みやすいビールテイスト飲料とする観点から、1.5g/100mL以下であるが、・・・(略)・・・より更に好ましくは0.5g/100mL以下」と記載され、同【0014】には「また、本発明の一態様のビールテイスト飲料において、上記要件(I)で規定する苦味価は、低糖質濃度としても、飲んだ際のインパクトが強いビールテイスト飲料とする観点から、18BUs以上であるが、好ましくは19BUs以上」と記載され、同【0017】には「また、本発明の一態様のビールテイスト飲料において、上記要件(II)で規定する色度は、低糖質濃度としても、飲んだ際のインパクトが強いビールテイスト飲料とする観点から、7EBC以上であるが、・・・(略)・・・特に好ましくは9EBC以上であり」と記載され、文言上、本件特許発明1ないし14に対応する記載がある。
また、発明の詳細な説明の【0069】ないし【0084】において、「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、苦味価が18BUs以上であり、色度が7EBC以上であるビールテイスト飲料」の条件を満たす実施例の飲料は「飲んだ際のインパクトの強さのスコア基準」及び「飲みやすさのスコア基準」が共に優れていることを確認し、上記条件を満たさない比較例の飲料は「飲んだ際のインパクトの強さのスコア基準」及び「飲みやすさのスコア基準」のどちらかが優れていないことを確認している。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から、当業者は「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、苦味価が18BUs以上であり、色度が7EBC以上であるビールテイスト飲料」及び該「飲料」の「製造方法」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし12は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「ビールテイスト飲料」をさらに限定したものであり、本件特許発明13及び14は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「製造方法」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし14は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし14に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 6における主張について検討する。
特許異議申立人の主張は要するに、糖質、苦味価、及び色度以外の第三の成分が、インパクトに寄与しているから、本件特許発明1ないし14において、第三の成分を特定する必要があるというものであるが、仮に、糖質、苦味価、及び色度以外の第三の成分が、インパクトに寄与することがあるとしても、上記(2)のとおり、発明の詳細な説明の記載から、当業者は「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、苦味価が18BUs以上であり、色度が7EBC以上であるビールテイスト飲料」及び該「飲料」の「製造方法」は発明の課題を解決できると認識できる。
また、本件特許発明1ないし14において特定される発明特定事項を有していても、発明の課題を解決できないことの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、本件特許発明1ないし14において、第三の成分を特定する必要があるとはいえず、特許異議申立人の上記第3 6における主張は採用できない。
(4)異議理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、異議理由4によっては取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700091