特許異議申立
2023-700896
非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池
- 審判番号
- 2023-700896
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-148162
- 登録番号
- 7231687
- 請求日
- 2023年08月31日
- 審決日
- 2025年03月27日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】帝人株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 【異議申立人】▲高▼畑 明久
- 審判長/審判官
- 審判長 岩間 直純
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 篠原 功一
- 分類
- P1652.113-YAA(H01M) / P1652.121-YAA(H01M) / P1652.537-YAA(H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7231687号発明「非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7231687号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10、12-19〕について訂正することを認める。
特許第7231687号の請求項4-7、9、12-18に係る特許を維持する。
特許第7231687号の請求項1-3、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7231687号の請求項1ないし11に係る発明についての出願は、令和3年9月10日に出願され、令和5年2月20日にその特許権が設定登録され、同年3月1日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 5年 8月31日 :特許異議申立人▲高▼畑 明久による請求項1-9に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 5年12月21日付け:取消理由通知
令和 6年 2月29日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 6年 6月 5日付け:訂正拒絶理由通知
令和 6年 8月22日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 6年10月21日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、令和6年10月21日に訂正の請求がなされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、令和6年2月29日にされた訂正の請求は取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年10月21日付けの訂正請求の趣旨は、特許第7231687号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-10、12-19に訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
a 訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
b 訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項2を新たに請求項16とし、「請求項1」と記載されているのを、「請求項4~7、請求項9、請求項12~15のいずれか1項」に訂正する。
(3)訂正事項3
a 訂正事項3-1
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
b 訂正事項3-2
特許請求の範囲の請求項3を新たに請求項17とし、「請求項1又は請求項2」と記載されているのを、「請求項4~7、請求項9、請求項12~16のいずれか1項」に訂正する。
(4)訂正事項4
a 訂正事項4-1
特許請求の範囲の請求項4に「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。」と記載されているのを、「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、を備え、電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである、非水系二次電池用セパレータ。」に訂正する。
b 訂正事項4-2
特許請求の範囲の請求項4を新たに請求項12とし、「請求項1~請求項3のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項5~7、又は請求項9」に訂正する。
(5)訂正事項5
a 訂正事項5-1
特許請求の範囲の請求項5に「前記接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。」と記載されているのを、「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、を備え、前記接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である、非水系二次電池用セパレータ。」に訂正する。
b 訂正事項5-2
特許請求の範囲の請求項5を新たに請求項13とし、「請求項1~請求項4のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項6、請求項7、又は請求項9」に訂正する。
(6)訂正事項6
a 訂正事項6-1
特許請求の範囲の請求項6に「前記芳香族系樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。」と記載されているのを、「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、を備え、前記芳香族系樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30重量%~90重量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30重量%~90重量%である、非水系二次電池用セパレータ。」に訂正する。
b 訂正事項6-2
特許請求の範囲の請求項6を新たに請求項14とし、「請求項1~請求項5のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項7又は請求項9」に訂正する。
(7)訂正事項7
a 訂正事項7-1
特許請求の範囲の請求項7に「前記無機粒子が、金属水酸化物及び金属硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。」と記載されているのを、「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、を備え、前記無機粒子が、金属水酸化物及び金属硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30重量%~90重量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30重量%~90重量%である、非水系二次電池用セパレータ。」に訂正する。
b 訂正事項7-2
特許請求の範囲の請求項7を新たに請求項15とし、「請求項1~請求項6のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項9」に訂正する。
(8)訂正事項8
a 訂正事項8-1
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
b 訂正事項8-2
特許請求の範囲の請求項8を、新たに請求項18とし、「請求項1~請求項7のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項4~7、請求項9、請求項12~17のいずれか1項」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に「前記耐熱性多孔質層の前記接着層側の面の算術平均高さSaが、0.7μm以下である、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。」と記載されているのを、「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、を備え、前記耐熱性多孔質層の前記接着層側の面の算術平均高さSaが、0.7μm以下である、非水系二次電池用セパレータ。」に訂正する。
(10)訂正事項10
a 訂正事項10-1
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1~請求項9のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項4~7、請求項9のいずれか1項」に訂正する。
b 訂正事項10-2
特許請求の範囲の請求項10を新たに請求項19とし、「請求項1~請求項9のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項12~請求項18のいずれか1項」に訂正する。
2 当審の判断
(1)一群の請求項について
訂正事項1ないし10に係る本件訂正前の請求項1ないし10について、請求項2ないし10は請求項1を引用しているから、本件訂正前の請求項1ないし10に対応する本件訂正の請求項〔1-10、12-19〕は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2について
訂正事項2のうち訂正事項2-1は、請求項2を削除するものであるから、「特許請求の範囲を減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項4~7、9の訂正内容を考慮すれば、訂正事項2のうち訂正事項2-2は、請求項2を引用する請求項4~7、9をまとめると共に、請求項6及び7を直接又は間接的に引用するものについて「前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30重量%~90重量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30重量%~90重量%である」と限定するものであり「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
してみると、訂正事項2は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、本件明細書段落【0068】に「共重合体に含まれるスチレン系単量体単位の含有量は、・・・スチレン系単量体単位及びアクリル系単量体単位の合計含有量に対して、・・・30重量%~90重量%であることが更にこのましい」と、段落【0080】に「混合体に含まれるスチレン系樹脂の含有量は、・・・スチレン系樹脂及びアクリル系樹脂の合計含有量に対して、・・・30重量%~90重量%であることが更に好ましい」と記載されていることを考慮すれば、訂正事項2に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3のうち訂正事項3-1は、請求項3を削除するものであるから、「特許請求の範囲を減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項2、4~7、9の訂正内容を考慮すれば、訂正事項3のうち訂正事項3-2は、請求項3を引用する請求項4~7及び9をまとめると共に、請求項6及び7を直接又は間接的に引用するものについて「前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30重量%~90重量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30重量%~90重量%である」と限定するものであり「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
してみると、訂正事項3は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、本件明細書段落【0068】、段落【0080】の記載を考慮すれば、訂正事項3に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項4について
訂正事項4のうち訂正事項4-1は、請求項1を引用する請求項4について請求項間の引用関係を解消して独立形式の請求項へ改めると共に、請求項2、3を引用しないものとする訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項5~7、9の訂正内容を考慮すれば、訂正事項4のうち訂正事項4-2は、請求項4を引用する請求項5~7、9をまとめると共に、請求項6及び7を引用するものについて「前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30重量%~90重量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30重量%~90重量%である」と限定するものであり「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
してみると、訂正事項4は、請求項1を引用する請求項4を「他の請求項記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とすると共に、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、本件明細書段落【0068】、段落【0080】の記載を考慮すれば、訂正事項4に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正及び特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
オ 訂正事項5について
訂正事項5のうち訂正事項5-1は、請求項1を引用する請求項5について請求項間の引用関係を解消して独立形式の請求項へ改めるると共に、請求項2~4を引用しないものとする訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項6、7、9の訂正内容を考慮すれば、訂正事項5のうち訂正事項5-2は、請求項5を引用する請求項6、7、9をまとめると共に、請求項6及び7を引用するものについて「前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30重量%~90重量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30重量%~90重量%である」と限定するものであり「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
してみると、訂正事項5は、請求項1を引用する請求項5を「他の請求項記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とすると共に、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、本件明細書段落【0068】、段落【0080】の記載を考慮すれば、訂正事項5に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正及び特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
カ 訂正事項6について
訂正事項6のうち訂正事項6-1は、請求項2を引用する請求項6について請求項間の引用関係を解消して独立形式の請求項へ改めるると共に、請求項1、3~5を引用しないものとし、更に、「前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30重量%~90重量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30重量%~90重量%である」と限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項7、9の訂正内容を考慮すれば、訂正事項6のうち訂正事項6-2は、請求項6を引用する請求項7、9をまとめると共に、請求項7を引用するものについて「前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30重量%~90重量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30重量%~90重量%である」と限定するものであり「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
してみると、訂正事項6は、請求項2を引用する請求項6を「他の請求項記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とすると共に、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、本件明細書段落【0068】、段落【0080】の記載を考慮すれば、訂正事項6に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正及び特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
キ 訂正事項7について
訂正事項7のうち訂正事項7-1は、請求項2を引用する請求項7について請求項間の引用関係を解消して独立形式の請求項へ改めるると共に、請求項1、3~6を引用しないものとし、更に、「前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30重量%~90重量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30重量%~90重量%である」と限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項9の訂正内容を考慮すれば、訂正事項7のうち訂正事項7-2は、訂正前の請求項1を引用する請求項7を引用する請求項9である。
してみると、訂正事項7は、請求項2を引用する請求項7を「他の請求項記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とすると共に、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、本件明細書段落【0068】、段落【0080】の記載を考慮すれば、訂正事項7に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正及び特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ク 訂正事項8について
訂正事項8のうち訂正事項8-1は、特許請求の範囲の請求項8を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項2~7、9の訂正内容を考慮すれば、訂正事項8のうち訂正事項8-2は、請求項4~7を引用する請求項8及び請求項8を引用する請求項9をまとめたものである。
してみると、訂正事項8は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項8に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正及であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ケ 訂正事項9について
訂正事項9は、請求項1を引用する請求項9について請求項間の引用関係を解消して独立形式の請求項へ改めると共に、請求項2~8を引用しないものとする訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
そして、訂正事項9に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正及び特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
コ 訂正事項10について
訂正事項10のうち訂正事項10-1は、請求項10について請求項1~3、8を引用しないものとする訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項2~8の訂正内容を考慮すれば、訂正事項10のうち訂正事項10-2は、請求項4~7、9を引用する請求項10をまとめたものである。
してみると、訂正事項10は、実質的に訂正前の請求項1~3、8に係る構成のみを引用する請求項10を削除するものであり「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項10に係る訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
したがって、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正及であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件
訂正事項10は、上記コに示したとおり「特許請求の範囲の減縮」を目的とするところ、本件においては訂正前の請求項10は特許異議の申立てがされていないので、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、訂正後の請求項10、19に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
そこで、訂正後の請求項10に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かを検討すると、下記「第3 本件発明」に示すとおり、訂正後の請求項10に係る発明は訂正後の請求項4~7、9を引用する発明であるところ、下記「第4 取消理由通知に記載した取消理由について」および「第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について」に示すとおり、訂正後の請求項4~7、9に係る発明はいずれも、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項に規定された特許要件を満たさないものとはいえず、また、同法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び同条第6項第2号に規定された要件を満たさないものでもなく、さらに、他にこれら発明についての特許を取り消すべき理由も見いだせないことから、訂正後の請求項4~7、9に係る発明をさらに限定した訂正後の請求項10に係る発明が、独立特許要件を満たさないとする理由はない。また、訂正後の請求項19に係る発明についても同様である。
よって、訂正後の請求項10、19に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号および第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合し、同法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10、12-19〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし19に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明19」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備え、
電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである、
非水系二次電池用セパレータ。
【請求項5】
芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備え、
前記接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である、
非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備え、
前記芳香族系樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%であり、
前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30質量%~90質量%である、
非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備え、
前記無機粒子が、金属水酸化物及び金属硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%であり、
前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30質量%~90質量%である、
非水系二次電池用セパレータ。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備え、
前記耐熱性多孔質層の前記接着層側の面の算術平均高さSaが、0.7μm以下である、
非水系二次電池用セパレータ。
【請求項10】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項4~7、請求項9のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータと、を備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池。
【請求項11】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置されたセパレータと、を備えた非水系二次電池であって、
前記セパレータは、芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、を備えており、
前記セパレータと前記正極又は前記負極とは前記接着層を介して接着しており、
前記セパレータと電極とを剥離した場合に、前記耐熱性多孔質層及び前記電極の両方に前記接着性樹脂粒子が付着する非水系二次電池。
【請求項12】
電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである、請求項5~7、又は請求項9に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項13】
前記接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である、請求項6、請求項7、又は請求項9に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項14】
前記芳香族系樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項7又は請求項9に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項15】
前記無機粒子が、金属水酸化物及び金属硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項9に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項16】
前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項4~7、請求項9、請求項12~15のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項17】
前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子の、前記耐熱性多孔質層への付着量が、0.1g/m2~5.0g/m2である、請求項4~7、請求項9、請求項12~16のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項18】
多孔質基材を更に備え、前記耐熱性多孔質層が前記多孔質基材の片面又は両面に設けられている、請求項4~7、請求項9、請求項12~17のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項19】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項12~請求項18のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータと、を備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし3、6ないし8に係る特許に対して、当審が令和6年8月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(理由1)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(理由2)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という)が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
●理由1(新規性)について
・請求項1、2、8について引用文献1または2
・請求項1、2、6~8について引用文献3
●理由2(進歩性)について
・請求項3について引用文献3
・請求項1~3、6~8について引用文献4
〈引用文献等〉
引用文献1:特開2016-100149号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開2016-154107号公報(甲第2号証)
引用文献3:国際公開第2016/047165号(甲第3号証)
引用文献4:特開2017-50149号公報(甲第5号証)
引用文献5:特開2012-119224号公報(甲第6号証)
引用文献6:特開2012-99324号公報(甲第8号証)
引用文献7:特開2016-139622号公報(甲第4号証)
2 引用文献の記載、引用発明
(1)引用文献1
引用文献1の【0128】、【0129】、【0132】の記載より、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「ポリプロピレン製の有機セパレータ(セルガード社製、製品名「セルガード2500」)の両面上に、下記多孔膜層用スラリー組成物を塗布し、50℃で1分間乾燥させ、片面厚み2μmずつの多孔膜層を備えるセパレータ基材を得、このセパレータ基材の多孔膜層の両面上に、下記接着層用組成物を塗布し、50℃で1分間乾燥させた、片面0.5μmずつの接着層を備える非水系二次電池に用いられるセパレータ。
[多孔膜層用スラリー組成物]
非導電性粒子として等電点8.9であるアルミナ(日本軽金属社製、「LS-256」)100部、増粘剤としてカルボン酸基が導入されたアクリルアミド重合体(荒川化学社製、「ポリストロン(登録商標)117」)を含む水分散体を固形分相当で1.0部、多孔膜層用結着材として下記粒子状結着材Bの水分散液を固形分相当で3部、ポリエチレングリコール型界面活性剤(サンノプコ社製、「サンノプコSNウェット366」)0.2部を混合した、スラリー組成物
[接着層用組成物]
下記粒子状結着材Aを含む水分散液(固形分相当で100部)に対し、下記粒子状結着材Bを含む水分散液を固形分相当で8部、ポリエチレングリコール型界面活性剤(サンノプコ社製、製品名「SN366」)1部を添加し、さらにイオン交換水により希釈し、固形分濃度30%のスラリー状の接着層用組成物
[粒子状結着材Aを含む水分散液]
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、粒子状結着材Aのコア部形成用として、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのメタクリル酸メチル75部、酸基含有単量体としてのメタクリル酸4部、架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート1部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、イオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を添加し、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始し、重合転化率が96%になった時点で、続いて、粒子状結着材Aのシェル部(重合体Aに相当)形成用として、芳香族ビニル単量体としてのスチレン18部と、酸基含有単量体としてのメタクリル酸1部と、アルコキシシリル基含有単量体としての3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、製品名「A-174」)1部の混合物を連続添加し、70℃に加温して重合を継続し、添加した全単量体の重合転化率が96%になった時点で、冷却し反応を停止して得た、水分散液
[粒子状結着材Bを含む水分散液]
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、製品名「エマール2F」)0.15部、並びに過硫酸アンモニウム0.5部を、それぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温し、一方、別の容器で、イオン交換水50部、分散剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、並びに、2-エチルヘキシルアクリレート45部、スチレン50部、イタコン酸3部、N-メチロールアクリルアミド1部およびアリルグリシジルエーテル1部を混合して単量体混合物を得、この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行い、添加中は、60℃で反応を行い、添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了して得た、アクリル系重合体を含む水分散液」
(2)引用文献2
引用文献2の【0066】~【0068】の記載より、引用文献2には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
「ポリエチレン製の多孔基材からなる有機セパレータ基材(セルガード社製、厚み16μm)の片面に、下記非水系二次電池機能層用組成物を塗布し、60℃で10分乾燥させ、機能層(多孔膜層)を備える厚み18μmのセパレータを得、当該機能層(多孔膜層)を備えるセパレータに対し、下記その他の機能層用組成物を厚さ1μmとなるように両面に塗布し、60℃で10分乾燥させた、機能層(多孔膜層)およびその他の機能層(接着層)を備える厚み20μmのセパレータ。
[非水系二次電池機能層用組成物]
非導電性粒子としてのアルミナフィラー(日本軽金属社製、「LS256」)100部に対して、下記機能層用バインダーを固形分相当で5部、水溶性高分子(増粘剤)としてカルボン酸基が導入されたアクリルアミド重合体(荒川化学社製、「ポリストロン(登録商標)117」)1.5部、ポリエチレングリコール型界面活性剤(サンノプコ社製、「サンノプコ(登録商標)SNウェット366」)0.2部を混合した組成物
[その他の機能層用組成物]
下記コアシェル構造を有する有機粒子を含む水分散液を固形分換算で100部に対し、下記結着材を含む水分散液を固形分換算で15部、濡れ剤としてのエチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体(固形分濃度70質量%、重合比:5/5(質量比))を固形分換算で1.9部混合し、さらにイオン交換水を固形分濃度が15質量%になるように混合して得た、スラリー状の組成物
[機能層用バインダー]
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王ケミカル社製、「エマルゲン(登録商標)120」)0.15部、および過流酸アンモニウム0.5部を、それぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温し、一方、別の容器でイオン交換水50部、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王ケミカル社製、「エマルゲン(登録商標)120」)0.5部、そして(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体として2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)64部、芳香族モノビニル単量体としてスチレン(ST)30部、エポキシ/N-メチロール系架橋性単量体としてアリルグリシジルエーテル(AGE)2.8部、多価エチレン性不飽和系架橋性単量体としてアリルメタクリレート(AMA)0.2部、および酸性基含有単量体としてアクリル酸3部を混合して単量体組成物を得、この単量体組成物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行い、添加中は、70℃で反応を行い、添加終了後、さらに80℃で3時間撹拌して反応を終了して得た、粒子状重合体を含む水分散液(非水系二次電池機能層用バインダー)
[コアシェル構造を有する有機粒子を含む水分散液]
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、コア部形成用として、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのメタクリル酸メチル75部、酸基含有単量体としてのメタクリル酸4部、架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート1部;乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部;イオン交換水150部、並びに、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌し、その後、60℃に加温して重合を開始し、重合転化率が96%になるまで重合を継続させて、コア部を構成する粒子状の重合体を含む水分散液を得、この水分散液に、シェル部形成用として、芳香族モノビニル単量体としてのスチレン19部および酸基含有単量体としてのメタクリル酸1部の混合物を連続添加し、70℃に加温して重合を継続した。重合転化率が96%になった時点で、冷却して反応を停止して得た、コア部の外表面が部分的にシェル部で覆われたコアシェル構造を有する有機粒子を含む水分散液
[結着材を含む水分散液]
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、製品名「エマール2F」)0.15部、および重合開始剤としての過流酸アンモニウム0.5部を、それぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温し、一方、別の容器で、イオン交換水50部、分散剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、および、ブチルアクリレート94部、アクリロニトリル2部、メタクリル酸2部、N-メチロールアクリルアミド1部、アクリルアミド1部を混合して単量体組成物を得、この単量体組成物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行い、単量体組成物の添加中は、60℃で反応を行い、添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了して得た、粒子状の結着材(アクリル重合体)を含む水分散液」
(3)引用文献3
引用文献3の[0021]~[0022]、[0026]、[0047]、[0060]、[0125]、[0135]、[0157]の記載より、引用文献3には以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているといえる。
「基材の少なくとも一つの面に配置された熱可塑性ポリマーを有する層(ポリマー層)を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
基材は少なくとも一方の表面に無機フィラー及び樹脂製バインダを含む多孔層を有する多孔膜、ポリマー層は、接着層として機能し得るものであり、
ポリマー層における熱可塑性ポリマーは、粒状の熱可塑性ポリマーであり、
熱可塑性ポリマーとしてはアクリル系重合体が挙げられ、アクリル系重合体としては芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体であり、
多孔層における無機フィラーとしては水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、硫酸アルミニウムであり、
樹脂製バインダとしてはポリアミドイミド、特に耐久性の観点から全芳香族ポリアミドであり、
蓄電デバイスとしては、非水電解液二次電池である
蓄電デバイス用セパレータ。」
(4)引用文献4
引用文献4の【請求項1】、【請求項5】、【請求項21】、【0032】、【0064】、【0096】の記載より、引用文献4には以下の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されているといえる。
「1又は複数のポリエチレンからなるポリオレフィン微多孔膜を含む基材;並びに
該基材の少なくとも片面に配置された、粒子状のアクリル樹脂含有重合体を含む接着層;
を含む二次電池用セパレータにおいて、
前記アクリル樹脂含有重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体と芳香族ビニル単量体に由来する単位を有し、
前記ポリオレフィン微多孔膜を含む基材と前記接着層との間に、無機フィラー及び樹脂バインダーを含む多孔層を有し、
無機フィラーとしては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム等が挙げられ、
芳香族ビニル単量体としては、スチレン化合物が好ましく、より好ましくはスチレンであり、
非水電解液二次電池の製造に用いられるセパレータ。」
3 当審の判断
(1)取消理由1(新規性)について
ア 引用発明1及び2に基づく取消理由
本件訂正により、請求項1、2、8は削除されたので、上記取消理由通知で通知した引用文献1または2に基づく取消理由は、その対象が存在しないものとなった。
イ 引用文献3に基づく取消理由
(ア)本件発明1、2、8について
本件訂正により、請求項1、2、8は削除されたので、上記取消理由通知で通知した引用文献3に基づく取消理由のうち請求項1、2、8に対する取消理由は、その対象が存在しないものとなった。
(イ)本件発明6について
本件発明6と引用発明3とを対比する。
a 引用発明3の「多孔層」は「無機フィラー及び樹脂製バインダを含」み「樹脂製バインダとしては耐久性の観点から全芳香族ポリアミド」であるから、引用発明3の「無機フィラー」、「全芳香族ポリアミド」である「樹脂製バインダー」がそれぞれ、本件発明6の「無機粒子」、「芳香族系樹脂」に相当し、引用発明3の「多孔層」は、本件発明6の「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」に相当する。
b 引用発明3の「ポリマー層」は「熱可塑性ポリマーを有する層」であり、「熱可塑性ポリマーは、粒状の熱可塑性ポリマーであり、熱可塑性ポリマーとしてはアクリル系重合体が挙げられ、アクリル系重合体としては芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体」であるから、「ポリマー層」は芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体の粒状の熱可塑性ポリマーを有する。
引用発明3の「ポリマー層」が有する「粒状の熱可塑性ポリマー」は、その構成材料からみて、本件発明6の「フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子」に相当する。
そして、引用発明3は「ポリマー層」は「基材の少なくとも一つの面に配置され」「接着層として機能し得るものであり」、「基材は少なくとも一方の表面に無機フィラー及び樹脂製バインダを含む多孔層を有する多孔膜」であるから、「ポリマー層」が「多孔層」(本件発明6の「耐熱性多孔質層」)上に設けられた「接着層」であり、「ポリマー層」が有する「熱可塑性ポリマー」が「多孔層」に付着しているのは明らかである。
以上のことより、引用発明3の「ポリマー層」は、本件発明6の「前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層」に相当する。
c 引用発明3の「樹脂製バインダ」が「ポリアミドイミド、特に耐久性の観点から全芳香族ポリアミド」であることは、本件発明6の「前記芳香族系樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド」「からなる群より選ばれる少なくとも1種を含」むことに相当する。
d 本件発明6は「前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30質量%~90質量%である」のに対して、引用発明3は接着層として機能し得るポリマー層における「熱可塑性ポリマーは、粒状の熱可塑性ポリマーであり、」「熱可塑性ポリマーとしてはアクリル系重合体が挙げられ、アクリル系重合体としては芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体」であると特定されているのみである点で相違する。
e 引用発明3の「蓄電デバイス用セパレータ」の「蓄電デバイスとしては、非水系二次電池である」から、引用発明3の「蓄電デバイス用セパレータ」は本件発明6の「非水系二次電池用セパレータ」に相当する。
f したがって、両者は以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備え、
前記芳香族系樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点1〉
本件発明6は「前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30質量%~90質量%である」のに対して、引用発明3は接着層として機能し得るポリマー層における「熱可塑性ポリマーは、粒状の熱可塑性ポリマーであり、」「熱可塑性ポリマーとしてはアクリル系重合体が挙げられ、アクリル系重合体としては芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体」であると特定されているのみである点。
g 上記fのとおり、本件発明6と引用発明3とは相違点1を有するから、請求項6に係る発明は、引用文献3に記載された発明ではない。
したがって、請求項6に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項6に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
(ウ)本件発明7について
本件発明7と引用発明3とを対比する。
a 上記「(イ)a」と同様にして、引用発明3の「多孔層」は、本件発明7の「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」に相当する。
b 上記「(イ)b」と同様にして、引用発明3の「ポリマー層」は、本件発明7の「前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層」に相当する。
c 引用発明3において、「多孔層における無機フィラー」として「水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム」が挙げられていることは、本件発明7の「前記無機粒子が、金属水酸化物及び金属硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含」むことに相当する。
d 本件発明7は「前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30質量%~90質量%である」のに対して、引用発明3は接着層として機能し得るポリマー層における「熱可塑性ポリマーは、粒状の熱可塑性ポリマーであり、」「熱可塑性ポリマーとしてはアクリル系重合体が挙げられ、アクリル系重合体としては芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体」であると特定されているのみである点で相違する。
e 上記「(イ)e」と同様にして、引用発明3の「蓄電デバイス用セパレータ」は本件発明7の「非水系二次電池用セパレータ」に相当する。
f したがって、両者は以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「 芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備え、
前記無機粒子が、金属水酸化物及び金属硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点2〉
本件発明7は「前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30質量%~90質量%である」のに対して、引用発明3は接着層として機能し得るポリマー層における「熱可塑性ポリマーは、粒状の熱可塑性ポリマーであり、」「熱可塑性ポリマーとしてはアクリル系重合体が挙げられ、アクリル系重合体としては芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体」であると特定されているのみである点。
g 上記fのとおり、本件発明7と引用発明3とは相違点2を有するから、請求項7に係る発明は、引用文献3に記載された発明ではない。
したがって、請求項7に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項7に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
(エ)本件発明12~18について
請求項12および13に係る発明のうち請求項6又は7を引用する発明、請求項14に係る発明のうち請求項7を引用する発明、請求項16に係る発明のうち請求項6又は7および請求項6又は7を引用する請求項12~14を引用する発明、請求項17に係る発明のうち請求項6又は7および請求項6又は7を直接又は間接的に引用する請求項12~14、16を引用する発明、請求項18に係る発明のうち請求項6又は7および請求項6又は7を直接又は間接的に引用する請求項12~14、16、17に係る発明は、引用文献3に記載された発明ではなく、これらの発明に係る特許は、請求項6又は7に係る特許と同様に特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件の請求項1、2、8に対する取消理由は、その対象が存在しないものとなった。
また、本件の請求項6、7に係る発明は、引用文献3に記載された発明ではないから、本件の請求項6、7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
さらに、請求項12および13に係る発明のうち請求項6又は7を引用する発明、請求項14に係る発明のうち請求項7を引用する発明、請求項16に係る発明のうち請求項6又は7および請求項6又は7を引用する請求項12~14を引用する発明、請求項17に係る発明のうち請求項6又は7および請求項6又は7を直接又は間接的に引用する請求項12~14、16を引用する発明、請求項18に係る発明のうち請求項6又は7および請求項6又は7を直接又は間接的に引用する請求項12~14、16、17に係る特許は、請求項6又は7に係る特許と同様に特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
(2)取消理由2(進歩性)について
ア 引用発明3に基づく取消理由
本件訂正により、請求項3は削除されたので、上記取消理由通知で通知した引用文献3に基づく取消理由は、その対象が存在しないものとなった。
イ 引用文献4に基づく取消理由
(ア)本件発明1~3、8について
本件訂正により、請求項1~3、8は削除されたので、上記取消理由通知で通知した引用文献4に基づく取消理由のうち請求項1~3、8に対する取消理由は、その対象が存在しないものとなった。
(イ)本件発明6について
本件発明6と引用発明4とを対比する。
a 引用発明4の「多孔層」は「無機フィラー及び樹脂バインダーを含む」から、引用発明4の「無機フィラー」は本件発明6の「無機粒子」に相当し、引用発明4の「樹脂バインダー」は本件発明6の「芳香族系樹脂」とは樹脂である点で一致し、引用発明4の「多孔層」は、本件発明6の「耐熱性多孔質層」とは「樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」である点で一致する。
ただし、耐熱性多孔質層が含有する樹脂が、本件発明6は「芳香族系」であるのに対して、引用発明4はその旨特定されていない点で相違する。
b 引用発明4の「接着層」は「粒子状のアクリル樹脂含有重合体を含」み、「アクリル樹脂含有重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体と芳香族ビニル単量体に由来する単位を有」する。
引用発明4の「接着層」が有する「粒子状のアクリル樹脂含有重合体」は、その構成材料からみて、本件発明6の「フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子」に相当する。
そして、引用発明4は「接着層」は「基材の少なくとも片面に配置され」「基材と前記接着層との間に、無機フィラー及び樹脂バインダーを含む多孔層を有し」ているから、「接着層」が「多孔層」(本件発明6の「耐熱性多孔質層」)上に設けられた「接着層」であり、「接着層」が有する「粒子状のアクリル樹脂含有重合体」が「多孔層」に付着しているのは明らかである。
以上のことより、引用発明4の「接着層」は、本件発明6の「前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層」に相当する。
c 上記aで述べたように、本件発明6の耐熱性多孔質層が含有する樹脂は「芳香族系」である。
そして、耐熱性多孔質層が含有する樹脂が、本件発明6は「芳香族系樹脂」であり「前記芳香族系樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含」むのに対して、引用発明4はその旨特定されていない点で相違する。
d 本件発明6は「前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30質量%~90質量%である」のに対して、引用発明4は接着層に含まれる「アクリル樹脂含有重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体と芳香族ビニル単量体に由来する単位を有」すると特定されるのみである点で相違する。
e 引用発明4の「非水電解液二次電池の製造に用いられるセパレータ」は、本件発明6の「非水系二次電池用セパレータ」に相当する。
f したがって、両者は以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備える、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点3〉
耐熱性多孔質層が含有する樹脂が、本件発明6は「芳香族系樹脂」であり「前記芳香族系樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含」むのに対して、引用発明4はその旨特定されていない点。
〈相違点4〉
本件発明6は「前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30質量%~90質量%である」のに対して、引用発明4は接着層に含まれる「アクリル樹脂含有重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体と芳香族ビニル単量体に由来する単位を有」すると特定されるのみである点。
g 事案に鑑み、相違点4について検討する。
引用文献4には、「前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30質量%~90質量%」とすることは、記載されていない。
引用文献4の段落【0064】には粒子状のアクリル樹脂含有重合体を含む接着層について「アクリル樹脂含有重合体全体に対する芳香族ビニル単量体の含有量は、特に限定されていないが、1~60質量%であることが好ましく、より好ましくは3~40質量%、さらに好ましくは5~20質量%である」と記載され、実施例としては表1に、スチレン系樹脂の含有量が5質量%、20質量%の例が記載されるものの、スチレン系単量体単位の含有量をアクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位の合計含有量に対して30質量%~90質量%、または、スチレン系樹脂の含有量をアクリル系樹脂及びスチレン系樹脂の合計含有量に対して30質量%~90質量%とすることは、記載されていない。
そして、引用発明4のアクリル樹脂含有重合体全体に対する芳香族ビニル単量体(スチレン)の含有量をさらに好ましい値である5~20質量%から外れる30質量%~90質量%とする動機があるものとは認められない。
よって、引用発明4において、本件発明6の相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たこととは認められない。
h したがって、請求項6に係る発明は、引用文献4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでないから、請求項6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(ウ)本件発明7について
本件発明7と引用発明4とを対比する。
a 上記(イ)aのとおり、引用発明4の「多孔層」は、本件発明7の「耐熱性多孔質層」とは「樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」である点で一致する。
ただし、耐熱性多孔質層が含有する樹脂が、本件発明7は「芳香族系」であるのに対して、引用発明4はその旨特定されていない点で相違する。
b 上記(イ)bのとおり、引用発明4の「接着層」は、本件発明7の「前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層」に相当する。
c 引用発明4において、「無機フィラーとしては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム等が挙げられ」ることは、本件発明7の「前記無機粒子が、金属水酸化物及び金属硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含」むことに相当する。
d 本件発明7は「前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30質量%~90質量%である」のに対して、引用発明4は接着層に含まれる「アクリル樹脂含有重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体と芳香族ビニル単量体に由来する単位を有」すると特定されるのみである点で相違する。
e 上記(イ)eのとおり、引用発明4の「非水電解液二次電池の製造に用いられるセパレータ」は、本件発明7の「非水系二次電池用セパレータ」に相当する。
f したがって、両者は以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備え、
前記無機粒子が、金属水酸化物及び金属硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点5〉
耐熱性多孔質層が含有する樹脂が、本件発明7は「芳香族系樹脂」であるのに対して、引用発明4はその旨特定されていない点。
〈相違点6〉
本件発明7は「前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量重量%~90質量重量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30質量重量%~90質量重量%である」のに対して、引用発明4は接着層に含まれる「アクリル樹脂含有重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体と芳香族ビニル単量体に由来する単位を有」すると特定されるのみである点。
g 事案に鑑み、相違点6について検討する。
本件発明7の相違点6に係る構成は、本件発明6の相違点4に係る構成と同一である。
してみると、上記(イ)gで検討したとおり、引用発明4において、本件発明7の相違点6に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たこととは認められない。
h したがって、請求項7に係る発明は引用文献4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでなく、請求項7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(エ)本件発明12~18について
請求項12および13に係る発明のうち請求項6又は7を引用する発明、請求項14に係る発明のうち請求項7を引用する発明、請求項16に係る発明のうち請求項6又は7および請求項6又は7を引用する請求項12~14を引用する発明、請求項17に係る発明のうち請求項6又は7および請求項6又は7を直接または間接的に引用する請求項12~14、16を引用する発明、請求項18に係る発明のうち請求項6又は7および請求項6又は7を直接および間接的に引用する請求項12~14、16、17に係る発明は、引用文献4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、これらの発明に係る特許は、請求項6又は7に係る特許と同様に、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件の請求項1~3、8に対する取消理由は、その対象が存在しないものとなった。
また、本件の請求項6、7に係る発明は、引用文献4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、本件の請求項6、7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
さらに、請求項12および13に係る発明のうち請求項6又は7を引用する発明、請求項14に係る発明のうち請求項7を引用する発明、請求項16に係る発明のうち請求項6又は7および請求項6又は7を引用する請求項12~14を引用する発明、請求項17に係る発明のうち請求項6又は7および請求項6又は7を直接又は間接的に引用する請求項12~14、16を引用する発明、請求項18に係る発明のうち請求項6又は7および請求項6又は7を直接又は間接的に引用する請求項12~14、16、17に係る特許は、請求項6又は7に係る特許と同様に、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
当審が通知した取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次の通りである。
(1)申立理由1(新規性欠如)について
請求項4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であって、また、請求項3~5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第3号証に記載された発明であって、それぞれ、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項3~5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(進歩性欠如)について
請求項1、2、4~9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第3号証に記載された発明に基づいて、請求項1~9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第4号証に記載された発明に基づいて、請求項4、5、9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第5号証に記載された発明に基づいて、それぞれ、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(明確性要件違反)について
フーリエ変換赤外分光法による、フェニル基等のピーク面積について
ア 本件特許発明5では、接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下であることが特定されている。
イ そして、かかるピーク面積S1及びS2について、本件特許の明細書では、「ベースラインと吸収スペクトル線とで囲まれた範囲の面積(単位:無次元)であると説明されている(【0103】、【0203】、【0205】)。
ウ しかしながら、このような面積については、規格化をしなければ、その絶対値に技術的意味はないから、「ピーク面積S1が0.01~3であり、・・・ピーク面積S2が4以下である」という発明特定事項は、技術的に不明確である(この二つの面積の相対比であれば、その値に、技術的意味はある(例えば、甲第3号証の【0083】、甲第4号証の【請求項3】、【0049】)。
エ よって、本件特許の請求項5及び同請求項を直接・間接的に引用する請求項6~9に係る発明は、不明確である。
(4)申立理由4(サポート要件違反)について
ア 本件特許発明の課題
本件特許発明が解決しようとする課題は、ドライヒートプレス及びウェットヒートプレスのいずれによっても電極との接着性に優れる非水系二次電池用セパレータを提供することである(本件特許明細書【0008】)。
イ 接着性樹脂粒子の付着量について
上記アの課題を解決するためには、所定量の接着性樹脂粒子が耐熱性多孔質層に付着して接着層を形成する必要があると考えられるところ、請求項1では、接着性樹脂粒子が耐熱性多孔質層に対する付着量について特定されていない。
このため、請求項1では、上記課題の解決には至らないような、わずかな付着量の場合も包含されているため、請求項1はサポート要件を充足しない。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、4~9(ただし請求項3を引用する部分を除く)についても同様である。
ウ フェニル基含有アクリル系樹脂中のフェニル基の量について
本件特許明細書の【0025】等の記載によれば、ウェットプレス時の接着性は、接着性樹脂粒子に含まれるアクリル系樹脂が有するフェニル基が、ウェット状態において耐熱性多孔質層に含まれる芳香族系樹脂が有する芳香環及び電極との親和性が高いことに由来するものである。
実際、実施例1~3及び比較例1を対比すると、フェニル基含有アクリル系樹脂中のフェニル基の量と、ウェット接着強度との間には、相関があることがわかる。
そうしてみると、請求項1では、上記課題の解決には至らないような、フェニル基含有アクリル系樹脂中のフェニル基の量がわずかな場合も包含されているため、請求項1はサポート要件を充足しない。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3、5~9(ただし請求項4を引用する部分を除く)についても同様である。
エ 接着性樹脂粒子のガラス転移温度について
本件特許の課題の1つであるドライヒートプレスは、接着性樹脂粒子のガラス転移温度以上の熱を付与することで、接着性樹脂粒子が軟化し、電極-セパレータ間が接着層によって接着されるものであるから、接着性樹脂粒子のガラス転移温度は、ドライヒートプレス温度より低い必要がある。
しかしながら、請求項1は、あらゆるガラス転移温度を有する接着性樹脂粒子を許容しているから、ドライヒートプレスによって軟化しないような接着性樹脂粒子の態様についても包含している。
このため、そのような態様は、本件特許発明の課題を解決できるとは言えず、請求項1はサポート要件を充足しない。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~9についても同様である。
(5)申立理由5(実施可能要件違反およびサポート要件違反)について
実施例における接着性樹脂粒子について
ア 本件特許発明1では、接着層を構成する樹脂として、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を用いることとされている。
イ 実施例で用いられる接着性樹脂粒子については、共重合体中のスチレン系単量体単位とアクリル系単量体単位の質量比、ガラス転移温度、体積平均粒径で特定がされている。
ウ ここで、明細書の記載によれば、スチレン系単量体は、フェニル基を有する単量体で、スチレン、メタクロロスチレン、パラクロロスチレン、パラフルオロスチレン、パラメトキシスチレン、メタ-tert-ブトキシスチレン、パラ-tert-ブトキシスチレン、パラビニル安息香酸、パラメチル-α-メチルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩(例:スチレン酸ナトリウム)等が挙げられるとされている(【0067】)。
エ また、アクリル系単量体については、「(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩、及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。(メタ)アクリル酸塩としては、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸マグネシウム、(メタ)アクリル酸亜鉛等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)メタクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。」と記載されている(【0066】)。
オ このように、スチレン系単量体及びアクリル系単量体として、さまざまな種類の単量体を用いることができるが、どの単量体を使うかによって、得られる共重合体の接着特性は大きく変化するはずである。
カ しかしながら、本件特許発明の課題の解決等を具体的に確認する実施例においては、接着性樹脂粒子を組成する具体的なモノマーについての開示はなく、当業者であっても、再現可能に記載されているとはいえない。
キ その意味において、本件特許の請求項1~9に係る発明は、サポート要件及び実施可能要件を満たさないものとなっている。
〈甲号証〉
甲第1号証:特開2016-100149号公報(引用文献1)
甲第2号証:特開2016-154107号公報(引用文献2)
甲第3号証:国際公開第2016/047165号(引用文献3)
甲第4号証:特開2016-139622号公報(引用文献7)
甲第5号証:特開2017-50149号公報(引用文献4)
甲第6号証:特開2012-119224号公報(引用文献5)
甲第7号証:特開2020-177773号公報
甲第8号証:特開2012-99324号公報(引用文献6)
甲第9号証:特開2010-92881号公報
甲第10号証:特開2019-29313号公報
甲第11号証:国際公開第2013/058348号
2 各甲号証の記載、各甲号証記載の発明
(1)甲第1号証
甲第1号証は引用文献1であるから、甲第1号証には上記「第4」の「2(1)」に記載した引用発明1と同様の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
(2)甲第2号証
甲第2号証は引用文献2であるから、甲第2号証には上記「第4」の「2(2)」に記載した引用発明2と同様の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
(3)甲第3号証
甲第3号証は引用文献3であるから、甲第3号証には上記「第4」の「2(3)」に記載した引用発明3と同様の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
(4)甲第4号証
甲第4号証の【請求項1】、【請求項8】、【0063】、【0142】、【0144】、【0145】~【0147】、【0148】、【0151】の記載より、甲第4号証には以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
「基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体を含む、リチウムイオン二次電池に用いられる蓄電デバイス用セパレータであって、
固形分で80質量部の水分散体A1と、固形分で20質量部の水分散体A7とを、水に均一に分散させて、熱可塑性ポリマーを含む塗布液(固形分30質量%)を調製し、
次いで、基材B1-1の片面にポリマー層がドット状になるように塗布液を塗布し、
その後、60℃にて塗布後の塗布液を乾燥して水を除去し、
さらに、基材B1-1のもう片面にも同様に塗布液を塗布し、再度上記と同様にして乾燥させ、基材B1-1の両面に接着層として機能し得るポリマー層を形成したリチウムイオン二次電池に用いられる蓄電デバイス用セパレータ。
[基材B1-1]
Mvが70万であり、ホモポリマーの高密度ポリエチレンを45質量部と、Mvが30万であり、ホモポリマーの高密度ポリエチレンを45質量部と、Mvが40万であるホモポリマーのポリプロピレンとMvが15万であるホモポリマーのポリプロピレンとの混合物(質量比=4:3)10質量部とをドライブレンドして得られたポリオレフィン混合物99質量部に酸化防止剤を1質量部添加し、再度ドライブレンドすることにより得た混合物を用いた、気孔率40%のポリオレフィン微多孔膜
[水分散体A1]
St/MMA/AA/MAA/A-TMPT/AcSiが78/20/1.0/1.0/1.0/0.5(質量部)の乳化液を滴下した水分散体
[水分散体A7]
MMA/BA/AA/MAA/A-TMPT/AcSiが38/60/1.0/1.0/1.0/0.5(質量部)の乳化液を滴下した水分散体
ここで、Stはスチレン、MMAはメチルメタクリレート、BAはメチルアクリレート、AAはアクリル酸、MAAはメタクリル酸、A-TMPTはトリメチロールプロパントリアクリレート、AcSiはγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」
(5)甲第5号証
甲第5号証は引用文献4であるから、甲第5号証には上記「第4」の「2(4)」に記載した引用発明4と同様の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。
3 当審の判断
(1)申立理由1について
ア 甲1発明との対比及び判断
(ア)本件発明4について
本件発明4と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「多孔膜層」は「多孔膜層用スラリー組成物」より形成され、「多孔膜層用スラリー組成物」は「非導電性粒子として」の「アルミナ」と「粒子状結着材Bの水分散液」を混合したものである。
また、甲1発明の「粒子状結着材Bの水分散液」は「スチレン」を含む混合物を重合して得たものである。
してみると、甲1発明の「多孔膜層」は非導電性粒子のアルミナ及びスチレンを含む重合体を含有したものである。
ここで、非導電性粒子のアルミナが無機粒子であり、スチレンを含む重合体が芳香族系樹脂であることは明らかである。
したがって、甲1発明の「アルミナ」、「スチレンを含む重合体」がそれぞれ、本件発明4の「無機粒子」、「芳香族系樹脂」に相当し、甲1発明の「多孔膜層」は、本件発明4の「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」に相当する。
b 甲1発明の「接着層」は「接着層用組成物」より形成され、「接着層用組成物」は「粒子状結着材Aを含む水分散液」及び「粒子状結着材Bを含む水分散液」より構成される。
また、甲1発明の「粒子状結着材Aを含む水分散液」は「メタクリル酸メチル」、「メタクリル酸」を含む材料を添加重合したコア部及び「スチレン」、「メタクリル酸」を含む混合物を重合したシェル部の重合体を含むものであり、「粒子状結着材Bを含む水分散液」は「スチレン」を含む混合物を重合して得たアクリル系重合体を含む水分散液である。
甲1発明の「接着層」を形成する「粒子状結着材Aを含む水分散液」、「粒子状結着材Bを含む水分散液」の「粒子状結着材A」、「粒子状結着材B」は、その構成材料からみて、本件発明4の「フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子」に相当する。
そして、甲1発明は「多孔膜層の両面上に、下記接着層用組成物を塗布し、」「接着層を備える」ものであるから、「接着層」が「多孔膜層」(本件発明4の「耐熱性多孔質層」)上に設けられ、「接着層」を構成する「粒子状結着材A」、「粒子状結着材B」が「多孔膜層」に付着しているのは明らかである。
以上のことより、甲1発明の「接着層」は、本件発明4の「前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層」に相当する。
c 本件発明4は「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。
d 甲1発明の「非水系二次電池に用いられるセパレータ」は本件発明4の「非水系二次電池用セパレータ」に相当する。
e したがって、両者は以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備える、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点7〉
本件発明4は「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点。
f 上記eのとおり、本件発明4は、甲1発明との相違点7を有するから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
g 特許異議申立人は、相違点7に関連して、甲1発明における「粒子状結着剤A」は、その構成モノマーとして「フェニル基」を有するスチレンを18質量%含んでおり、また、「多孔膜層」を構成する重合体も、その構成モノマーとして「芳香環」に相当するスチレンを含んでいるから、「粒子状結着剤A」と「多孔膜層」との間の親和性が高いといえ、甲1発明も本件発明4における接着強度を充足する蓋然性が高い旨主張している(申立書第96頁第26行ないし第97頁第6行)。
しかしながら、接着層用組成物を構成する粒子状接着剤Aとしてスチレンを18部含み、多孔膜層を構成する重合体もスチレンを含むというだけでは、必ずしも、電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの接着層と多孔膜層との間の接着強度が0.01N/15mm~2.0N/15mmを充足する蓋然性が高いとは認められないから、申立人の主張は採用できない。
(イ)本件発明12、16~18について
請求項12に係る発明、請求項16に係る発明のうち請求項4又は12を引用する発明、請求項17~18に係る発明のうち請求項4又は12を直接および間接的に引用する発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明ではないから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
イ 甲2発明との対比及び判断
(ア)本件発明4について
本件発明4と甲2発明とを対比する。
a 甲2発明の「機能層(多孔膜層)」は「非水系二次電池機能層用組成物」より形成され、「非水系二次電池機能層用組成物」は「非導電性粒子として」の「アルミナフィラー」と「機能層用バインダー」を混合したものである。
また、甲2発明の「機能層用バインダー」は「スチレン」を含む混合物を重合して得たものである。
してみると、甲2発明の「機能層(多孔膜層)」は非導電性粒子のアルミナフィラー及びスチレンを含む重合体を含有したものである。
ここで、非導電性粒子のアルミナフィラーが無機粒子であり、スチレンを含む重合体が芳香族系樹脂であることは明らかである。
したがって、甲2発明の「アルミナフィラー」、「スチレンを含む重合体」がそれぞれ、本件発明4の「無機粒子」、「芳香族系樹脂」に相当し、甲2発明の「機能層(多孔膜層)」は、本件発明4の「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」に相当する。
b 甲2発明の「その他の機能層(接着層)」は「その他の機能層用組成物」より形成され、「その他の機能層用組成物」は「コアシェル構造を有する有機粒子を含む水分散液」及び「結着材を含む水分散液」より構成される。
また、甲2発明の「コアシェル構造を有する有機粒子を含む水分散液」は「メタクリル酸メチル」、「メタクリル酸」を含む材料を添加重合したコア部及び「スチレン」、「メタクリル酸」を含む混合物を重合したシェル部の「コアシェル構造を有する有機粒子」を含むものである。
甲2発明の「その他の機能層(接着層)」を形成する「コアシェル構造を有する有機粒子を含む水分散液」の「コアシェル構造を有する有機粒子」は、その構成材料からみて、本件発明4の「フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子」に相当する。
そして、甲2発明は「機能層(多孔膜層)を備えるセパレータに対し、」「その他の機能層用組成物を」「両面に塗布し、」「機能層(多孔膜層)およびその他の機能層(接着層)を備える」構成としたものであるから、「その他の機能層(接着層)」が「機能層(多孔膜層)」(本件発明4の「耐熱性多孔質層」)上に設けられ、「その他の機能層(接着層)」を構成する「コアシェル構造を有する有機粒子」が「機能層(多孔膜層)」に付着しているのは明らかである。
以上のことより、甲2発明の「その他の機能層(接着層)」は、本件発明4の「前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層」に相当する。
c 本件発明4は「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」のに対して、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。
d 甲2発明の「セパレータ」は「非水系二次電池機能層用組成物」を用いて形成されたものであるから、本件発明4の「非水系二次電池用セパレータ」に相当する。
e したがって、両者は以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備える、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点8〉
本件発明4は「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」のに対して、甲2発明はその旨特定されていない点。
f 上記eのとおり、本件発明4は、甲2発明との相違点8を有するから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
g 特許異議申立人は、相違点8に関連して、甲2発明における「コアシェル構造を有する有機粒子」は、その構成モノマーとして「フェニル基」を有するスチレンを19質量%含んでおり、また、「機能層(多孔膜層)」を構成する「機能層用バインダー」も、その構成モノマーとして「芳香環」に相当するスチレンを含んでいるから、「コアシェル構造を有する有機粒子」と「機能層(多孔膜層)」との間の親和性が高いといえ、甲2発明も本件発明4における接着強度を充足する蓋然性が高い旨主張している(申立書第103頁第8ないし15行)。
しかしながら、コアシェル構造を有する有機粒子としてスチレンを19質量%含み、機能層(多孔膜層)を形成する機能層用バインダーもスチレンを含むというだけでは、必ずしも、電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの接着層と多孔膜層との間の接着強度が0.01N/15mm~2.0N/15mmを充足する蓋然性が高いとは認められないから、申立人の主張は採用できない。
(イ)本件発明12、16~18について
請求項12に係る発明、請求項16に係る発明のうち請求項4又は12を引用する発明、請求項17~18に係る発明のうち請求項4又は12を直接および間接的に引用する発明は、いずれも甲第2号証に記載された発明ではないから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
ウ 甲3発明との対比及び判断
(ア)本件発明3について
本件訂正により、請求項3は削除されたので、甲第3号証に基づく申立理由のうち請求項3に対する申立理由は、その対象が存在しないものとなった。
(イ)本件発明4について
本件発明4と甲3発明とを対比する。
a 甲3発明の「多孔層」は「無機フィラー及び樹脂製バインダを含」み「樹脂製バインダとしては」「耐久性の観点から全芳香族ポリアミド」であるから、甲3発明の「無機フィラー」、「全芳香族ポリアミド」である「樹脂製バインダ」がそれぞれ、本件発明4の「無機粒子」、「芳香族系樹脂」に相当し、甲3発明の「多孔層」は、本件発明4の「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」に相当する。
b 甲3発明の「ポリマー層」は「熱可塑性ポリマーを有する層」であり、「熱可塑性ポリマーは、粒状の熱可塑性ポリマーであり、熱可塑性ポリマーとしてはアクリル系重合体が挙げられ、アクリル系重合体としては芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体」であるから、「ポリマー層」は芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体の粒状の熱可塑性ポリマーを有する。
甲3発明の「ポリマー層」が有する「粒状の熱可塑性ポリマー」は、その構成材料からみて、本件発明1の「フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子」に相当する。
そして、甲3発明は「ポリマー層」は「基材の少なくとも一つの面に配置され」「接着層として機能し得るものであり」、「基材は少なくとも一方の表面に無機フィラー及び樹脂製バインダを含む多孔層を有する多孔膜」であるから、「ポリマー層」が「多孔層」(本件発明4の「耐熱性多孔質層」)上に設けられた「接着層」であり、「ポリマー層」が有する「熱可塑性ポリマー」が「多孔層」に付着しているのは明らかである。
以上のことより、甲3発明の「ポリマー層」は、本件発明4の「前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層」に相当する。
c 本件発明4は「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」のに対して、甲3発明はその旨特定されていない点で相違する。
d 甲3発明の「蓄電デバイス用セパレータ」の「蓄電デバイスとしては、非水系二次電池である」から、甲3発明の「蓄電デバイス用セパレータ」は本件発明4の「非水系二次電池用セパレータ」に相当する。
e したがって、両者は以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備える、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点9〉
本件発明4は「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」のに対して、甲3発明はその旨特定されていない点。
f 上記eのとおり、本件発明4は、甲3発明との相違点9を有するから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
g 特許異議申立人は、相違点9に関連して、甲3発明における「熱可塑性ポリマー」は、その構成モノマーとして「フェニル基」を有する芳香族ビニル単量体を含んでおり、また、「樹脂製バインダ」も、その構成モノマーとして「芳香環」に相当するスチレンを含んでいるから、「熱可塑性ポリマー」と「多孔層」との間の親和性が高いといえ、甲3発明も本件発明4における接着強度を充足する蓋然性が高い旨主張している(申立書第110頁第24行ないし第111頁第5行)。
しかしながら、ポリマー層の熱可塑性ポリマーが芳香族ビニル単量体を含み、多孔層の樹脂製バインダが芳香環に相当するスチレンを含むというだけでは、必ずしも、電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときのポリマー層と多孔層との間の接着強度が0.01N/15mm~2.0N/15mmを充足する蓋然性が高いとは認められないから、申立人の主張は採用できない。
(ウ)本件発明5について
a 本件発明5は、本件発明4より「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」との構成を削除し、「前記接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である」との構成を追加したものに相当する。
そして、本件発明5は「前記接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である」のに対して、甲3発明はその旨特定されていない点で相違する。
b したがって、上記(イ)のa、b、dの対比を考慮すれば、本件発明5と甲3発明とは以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備える、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点10〉
本件発明5は「前記接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である」のに対して、甲3発明はその旨特定されていない点。
c 上記bのとおり、本件発明5は、甲3発明との相違点10を有するから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
d 特許異議申立人は、相違点10に関連して、甲3発明における「熱可塑性ポリマー」は、芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを有しているから、甲3発明も本件発明5における「接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である」構成を充足すると推定することはできる旨主張している(申立書第111頁第19ないし23行)。
しかしながら、ポリマー層の熱可塑性ポリマーが芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを有していることだけで、ポリマー層のフーリエ変換赤外分光法によるフェニル基のピーク面積S1が0.01~3で、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下になると推定することはできないから、申立人の主張は採用できない。
(エ)本件発明12、13、16~18について
請求項12に係る発明、請求項13に係る発明、請求項16~18に係る発明のうち請求項4、5、12または13を直接および間接的に引用する発明は、いずれも甲第3号証に記載された発明ではないから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件の請求項3に対する申立理由は、その対象が存在しないものとなった。
また、本件の請求項4に係る発明は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明ではなく、本件の請求項4、5に係る発明は、甲第3号証に記載された発明ではないから、本件の請求項4、5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
さらに、請求項12、13、16~18に係る発明も甲第1~3号証に記載された発明ではないから、請求項12、13、16~18に係る特許は、請求項4、5に係る特許と同様に特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
(2)申立理由2について
ア 甲3発明との対比及び判断
(ア)本件発明1、2、8について
本件訂正により、請求項1、2、8は削除されたので、甲第3号証に基づく申立理由のうち請求項1、2、8に対する申立理由は、その対象が存在しないものとなった。
(イ)本件発明4について
本件発明4と甲3発明とは、上記「(1)ウ(イ)e」に記載した相違点9を有する。
甲第3号証には、電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときのポリマー層と多孔層との間の接着強度については記載も示唆もされておらず、甲第3号証に基づいて電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときのポリマー層と多孔層との間の接着強度を0.01N/15mm~2.0N/15mmとする動機づけも見当たらない。
よって、本件の請求項4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(ウ)本件発明5について
本件発明5と甲3発明とは、上記「(1)ウ(ウ)b」に記載した相違点10を有する。
そして、甲第3号証の段落【0082】~【0083】には「ポリマー層」(本件発明5の「接着層」)が有する「熱可塑性ポリマー」について、芳香族ビニル化合物単量体の芳香環に由来する波長740~770cm-1の赤外吸収ピーク強度と(メタ)アクリル酸エステル単量体の(メタ)アクリロイル基に由来する波長1720~1750cm-1の赤外吸収ピーク強度との比を1~18とする旨記載されているものの、接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1や(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2については記載も示唆もされておらず、甲第3号証に基づいて接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下とする動機づけも見当たらない。
よって、本件の請求項5に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(エ)本件発明6について
a 上記「2(3)」に記載したように、甲3発明は引用発明3と同様の発明であるから、本件発明6と甲3発明とは、上記「第4」の「3(1)イ(イ)f」に記載した相違点1と同様の以下の相違点を有する。
〈相違点11〉
本件発明6は「前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30質量%~90質量%である」のに対して、甲3発明は接着層として機能し得るポリマー層における「熱可塑性ポリマーは、粒状の熱可塑性ポリマーであり、」「熱可塑性ポリマーとしてはアクリル系重合体が挙げられ、アクリル系重合体としては芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体」であると特定されているのみである点。
b 相違点11について検討する。
甲第3号証の[0060]には、アクリル系重合体を「(2)芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体、好ましくは、芳香族ビニル単量体5~95質量%(より好ましくは10~92質量%、更に好ましくは25~80質量%、特に好ましくは40~60質量%)と、(メタ)アクリル酸5質量%以下(より好ましくは0.1~5質量%)と、(メタ)アクリル酸エステル単量体5~95質量%(より好ましくは15~85質量%、更に好ましくは20~80質量%、特に好ましくは30~75質量%)と、アミド基を有する単量体、シアノ基を有する単量体、及びヒドロキシル基を有する単量体から成る群より選択される少なくとも1種10質量%以下(より好ましくは5質量%以下)と、架橋性単量体10質量%以下(より好ましくは0.01~5質量%、更に好ましくは0.1~3質量%)との共重合体」とすることが記載されているものの、芳香族ビニル単量体の含有量を(メタ)アクリル酸エステル単量体と芳香族ビニル単量体の合計含有量に対して30質量%~90質量%に特定することは記載も示唆もされておらず、そのようにする動機づけも見当たらない。
よって、甲第3号証に基づいて本件発明6の相違点11に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たとは認められない。
したがって、本件の請求項6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(オ)本件発明7について
a 上記「2(3)」に記載したように、甲3発明は引用発明3と同様の発明であるから、本件発明7と甲3発明とは、上記「第4」の「3(1)イ(ウ)f」に記載した相違点2と同様の以下の相違点を有する。
〈相違点12〉
本件発明7は「前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30質量%~90質量%である」のに対して、甲3発明は接着層として機能し得るポリマー層における「熱可塑性ポリマーは、粒状の熱可塑性ポリマーであり、」「熱可塑性ポリマーとしてはアクリル系重合体が挙げられ、アクリル系重合体としては芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する共重合体」であると特定されているのみである点。
b 相違点12について検討する。
本件発明7の相違点12に係る構成は、本件発明6の相違点11に係る構成と同一である。
してみると、上記「(エ)b」に記載したのと同様の理由により、本件の請求項7に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(カ)本件発明9について
a 本件発明9は、本件発明4より「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」との構成を削除し、「前記耐熱性多孔質層の前記接着層側の面の算術平均高さSaが、0.7μm以下である」との構成を追加したものに相当する。
そして、本件発明9は「前記耐熱性多孔質層の前記接着層側の面の算術平均高さSaが、0.7μm以下である」のに対して、甲3発明はその旨特定されていない点で相違する。
b したがって、上記「(1)ウ(イ)」のa、b、dの対比を考慮すれば、本件発明9と甲3発明とは以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備える、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点13〉
本件発明9は「前記耐熱性多孔質層の前記接着層側の面の算術平均高さSaが、0.7μm以下である」のに対して、甲3発明はその旨特定されていない点。
c 相違点13について検討する。
甲第3号証には、多孔層のポリマー層側の面の算術平均高さについては記載も示唆もされておらず、甲第3号証に記載の発明において、かかる高さを採用することが周知技術であるともいえないから、甲第3号証に基づいて本件発明9の相違点13に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たとは認められない。
したがって、本件の請求項9に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
d 特許異議申立人は、相違点13に関連して、甲第6号証には、非水電解質電池用セパレータの耐熱性多孔質層の微細な表面欠陥の発生を抑制することで、電極活物質との適度な密着性の保持、セパレータによる電極の傷つきの抑制等の効果が期待できること記載され、また、甲第7号証に、樹脂およびフィラーを含んでいる非水電解液二次電池用多孔質層の表面粗さ(Ra)を0.15μm以下とすること、多孔質層の表面粗さは小さいほど好ましいことが記載されていることを考慮すると、セパレータの耐熱性多孔質層の表面粗さはできるだけ小さいことが好ましいことは、当業者には公知の技術的知見であったから、甲3発明において多孔層の表面粗さを極力小さいものとすることは当業者が容易に想到し得ることである旨主張している(申立書第114頁第5ないし15行)。
しかしながら、セパレータの耐熱性多孔質層の表面粗さをできるだけ小さくすること自体は周知の技術事項であるとしても、セパレータと電極とのドライ接着強度及びウェット接着強度を高くするために、電極と直接接触する面では無い耐熱性多孔質層の接着層側の面の算術平均高さを0.7μm以下とすることを、当業者が容易に想到し得るものとは認められないから、申立人の主張は採用できない。
(キ)本件発明12~18について
請求項12~18に係る発明も、請求項4~7、9に係る発明と同様に、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項12~18に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
イ 甲4発明との対比及び判断
(ア)本件発明1~3、8について
本件訂正により、請求項1~3、8は削除されたので、甲第4号証に基づく申立理由のうち請求項1~3、8に対する申立理由は、その対象が存在しないものとなった。
(イ)本件発明4について
本件発明4と甲4発明とを対比する。
a 甲4発明の「基材B1-1」は気孔率40%のポリオレフィン微多孔膜であるから、本件発明4の「耐熱性多孔質層」とは、「多孔質層」である点で一致する。
ただし、多孔質層が、本件発明4は「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」であるのに対して、甲4発明は「ポリオレフィン微多孔膜」である点で相違する。
b 甲4発明の水分散体A1、A7の乳化液により構成される「熱可塑性ポリマー」は水中に分散した共重合粒子として存在するものであり、St(スチレン)、AA(アクリル酸)等の乳化液を構成する組成からみて、本件発明4の「フェニル基含有アクリル系樹脂粒子」に相当する。
そして、甲4発明では「固形分で80質量部の水分散体A1と、固形分で20質量部の水分散体A7とを、水に均一に分散させて、熱可塑性ポリマーを含む塗布液(固形分30質量%)を調製し、次いで、基材B1-1の片面にポリマー層がドット状になるように塗布液を塗布し、」「基材B1-1の両面に接着層として機能し得るポリマー層を形成」するから、水分散体A1、A7の熱可塑性ポリマーが基剤B1-1に付着し、基剤B-1の上にポリマー層が設けられる。
以上のことより、甲4発明の「ポリマー層」は本件発明4の「接着層」と、「前記多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記多孔質層に付着してなる接着層」である点で一致する。
ただし、上記aに記載したのと同様に、多孔質層が、本件発明4は「耐熱性多孔質」であるのに対して、甲4発明は「ポリオレフィン微多孔膜」である点で相違する。
c 本件発明4は「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」のに対して、甲4発明はその旨特定されていない点で相違する。
d 甲4発明の「リチウムイオン二次電池に用いられる蓄電デバイス用セパレータ」は本件発明4の「非水系二次電池用セパレータ」に相当する。
e したがって、両者は以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「多孔質層と、
前記多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記多孔質層に付着してなる接着層と、
を備える、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点14〉
多孔質層が、本件発明4は「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」であるのに対して、甲4発明は「ポリオレフィン微多孔膜」である点。
〈相違点15〉
本件発明4は「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」のに対して、甲4発明はその旨特定されていない点。
f 事案に鑑み、相違点15について検討する。
甲第4号証には、電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときのポリマー層と多孔質層である基材との間の接着強度については記載も示唆もされておらず、甲第4号証に基づいて電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときのポリマー層と多孔質層との間の接着強度を0.01N/15mm~2.0N/15mmとする動機づけも見当たらないから、甲第4号証に基づいて本件発明4の相違点15に係る構成とすることを、当業者が容易になし得たとは認められない。
よって、本件の請求項4に係る発明は、その他の相違点について検討するまでもなく、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
g 特許異議申立人は、相違点15に関連して、甲4発明の熱可塑性ポリマーは、スチレンを60質量%以上含んでおり、また、基材を芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層とした場合、耐熱性多孔質層を形成する構成する樹脂もスチレンを含むこととなるから、本件発明4における接着強度を充足する蓋然性が高い旨主張している(申立書第120頁第1ないし11行)。
しかしながら、甲第4号証の段落【0064】には、基材としてポリオレフィン系の他、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド等が記載されているものの、ポリマー層を得る場合に塗布液の塗布性に優れ、体積当たりの容量を増大させる観点からポリオレフィン微多孔膜が好ましい旨記載されており、甲4発明において「ポリオレフィン微多孔膜」に代えて「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」とする動機があるものとは認められないから、申立人の主張は採用できない。
(ウ)本件発明5について
a 本件発明5は、本件発明4より「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」との構成を削除し、「前記接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である」との構成を追加したものに相当する。
そして、本件発明5は「前記接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である」のに対して、甲4発明はその旨特定されていない点で相違する。
b したがって、上記(イ)のa、b、dの対比を考慮すれば、本件発明5と甲4発明とは以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「多孔質層と、
前記多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記多孔質層に付着してなる接着層と、
を備える、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点16〉
多孔質層が、本件発明5は「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」であるのに対して、甲4発明は「ポリオレフィン微多孔膜」である点。
〈相違点17〉
本件発明5は「前記接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である」のに対して、甲4発明はその旨特定されていない点。
c 事案に鑑み、相違点17について検討する。
甲第4号証の段落【0049】には「ポリマー層」(本件発明5の「接着層」)が有する「熱可塑性ポリマー」の共重合体について、芳香族ビニル化合物単量体の芳香環に由来する740cm-1~770cm-1の波長における赤外吸収ピーク強度に対する(メタ)アクリル酸エステル単量体の(メタ)アクリロイル基に由来する1720cm-1~1750cm-1の波長における赤外吸収ピーク強度との比が1~18であると好ましい旨記載されているものの、ポリマー層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積や(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積については記載も示唆もされておらず、甲第4号証に基づいてポリマー層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下とする動機づけも見当たらない。
よって、甲第4号証に基づいて、本件発明5の相違点17に係る構成とすることを、当業者が容易になし得たとは認められない。
したがって、本件の請求項5に係る発明は、その他の相違点について検討するまでもなく甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
d 特許異議申立人は、相違点17に関連して、甲4発明における「熱可塑性ポリマー」は、芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを有しているから、甲4発明も本件発明5における「接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である」構成を充足すると推定することはできる旨主張している(申立書第120頁第24ないし27行)。
しかしながら、ポリマー層の熱可塑性ポリマーが芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを有していることだけで、ポリマー層のフーリエ変換赤外分光法によるフェニル基のピーク面積S1が0.01~3で(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下になると推定することはできないから、申立人の主張は採用できない。
(エ)本件発明6について
a 本件発明6は、本件発明4より「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」との構成を削除し、「前記芳香族系樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子、及び、(ii)アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂を含む混合体である樹脂粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%であり、前記スチレン系樹脂の含有量は、前記アクリル系樹脂及び前記スチレン系樹脂の合計含有量に対して、30質量%~90質量%である」との構成を追加したものに相当する。
b 本件発明6は「耐熱性多孔質層」が含有する「芳香族系樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含」むのに対して、甲4発明はその旨特定されていない点で相違する。
c 上記「(イ)b」に記載したのと同様に甲4発明の水分散体A1、A7の乳化液より構成される「熱可塑性ポリマー」は本件発明6の「フェニル基含有アクリル系樹脂粒子」に相当するところ、甲4発明は、St/MMA/AA/MAA/A-TMPT/AcSiが78/20/1.0/1.0/1.0/0.5(質量部)の乳化液を滴下した水分散体A1、MMA/BA/AA/MAA/A-TMPT/AcSiが38/60/1.0/1.0/1.0/0.5(質量部)の乳化液を滴下した水分散体A7を、固形分で80質量部の水分散体A1と、固形分で20質量部の水分散体A7とを、水に均一に分散させた熱可塑性ポリマーを含む塗布液を調整し、当該塗布液によりポリマー層を形成するものであるから、芳香族ビニル化合物単量体であるStの含有量は、芳香族ビニル化合物単量体であるSt及び(メタ)アクリル酸エステル単量体であるMMA、AA、A-TMPT、AcSi、BAの合計含有量に対して、約61.48質量%である。
してみると、甲4発明の「熱可塑性ポリマー」は、本件発明6の「前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子」「であり、前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%」に含まれる構成を有する。
d したがって、上記(イ)のa、b、dの対比を考慮すれば、本件発明6と甲4発明とは以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「多孔質層と、
前記多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記多孔質層に付着してなる接着層と、
を備え、
前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子であり、
前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%である、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点18〉
多孔質層が、本件発明6は「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」であるのに対して、甲4発明は「ポリオレフィン微多孔膜」である点。
〈相違点19〉
本件発明6は「耐熱性多孔質層」が含有する「芳香族系樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含」むのに対して、甲4発明はその旨特定されていない点。
e 相違点18について検討する。
甲第4号証の段落【0064】には、基材としてポリオレフィン系の他、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド等が記載されているものの、ポリマー層を得る場合に塗布液の塗布性に優れ、体積当たりの容量を増大させる観点からポリオレフィン微多孔膜が好ましいと記載されており、甲4発明において「ポリオレフィン微多孔膜」に代えて「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」とする動機があるものとは認められないから、甲第4号証に基づいて、基材を芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層とすることを、当業者が容易になし得たとは認められない。
よって、本件の請求項6に係る発明は、その他の相違点について検討するまでもなく、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
f 特許異議申立人は、相違点18に関連して、非水電解質二次電池の安全性確保においてセパレータの役割は重要であり、シャットダウン機能と、耐熱性が要求され(甲第6、8、9、10号証)、シャットダウン機能はポリオレフィンを含む多孔質基材により得られること(甲第6、8、9、10号証)、耐熱性は、無機フィラー及び耐熱性樹脂を含む耐熱性多孔質層によって得られること(甲第6、9号証)は、周知の技術的知見であり、また、耐熱性樹脂として全芳香族ポリアミドが好ましいこと(甲第6、7、8、9号証)も同様に周知の技術的知見であった旨、また、甲第4号証の段落【0071】には基材として、非導電性粒子及び結着剤を含む多孔膜を積層することも記載されていることを踏まえると、甲4発明においてシャットダウン機能及び耐熱性の両者を担保すべくポリオレフィン微多孔膜の上に無機フィラー及び耐熱性樹脂(全芳香族ポリアミド)を含む耐熱性多孔質層を形成することは当業者が容易に想到し得ることである旨主張している(申立書第91頁第5ないし24行、第117頁第14行ないし第118頁第2行、第121頁第11行)。
また、本件発明6の相違点18に係る構成の奏する効果に関連して、甲第10号証にはアクリル系樹脂はドライヒートプレスによる電極との接着性を高めること、また、アクリル系樹脂のアクリル基と耐熱性樹脂のアミド結合との親和性が高いことが記載され、また、甲第4号証は電極との接着性に優れた蓄電デバイス用セパレータを提供することを課題とし、基材上に形成され、接着層として機能するポリマー層を構成する熱可塑性ポリマーとして芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを有する共重合体を用いることとしたもので、実施例においてはセパレータと電極との接着性試験をウェット状態で行っていおり、甲第4号証には本件明細書段落【0025】に記載の作用機序と同旨の内容が示されている旨主張している(申立書第108頁第11行ないし第109頁第2行、第118頁第3ないし9行、第121頁第11行)。
しかしながら、上記したように、甲4発明において「ポリオレフィン微多孔膜」に代えて「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」とする動機があるものとは認めらない。
そして、甲第4号証段落【0071】には基材を非導電性粒子及び結着剤を含む多孔膜を積層したものとすることが記載されているものの、甲第4号証には当該結着剤を耐熱性の芳香族系樹脂とすることは記載も示唆もされていない。
また、甲第6ないし11号証のいずれにも、ドライヒートプレスとウェットヒートプレスのいずれによっても電極との接着性に優れるセパレータを提供するために、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着層を芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層上に設けることは記載も示唆もされていない。
以上のことより、申立人の主張は採用できない。
(オ)本件発明7について
a 本件発明7は、本件発明6より「前記芳香族系樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み」との構成を削除し、「前記無機粒子が、金属水酸化物及び金属硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み」との構成を追加したものに相当する。
そして、本件発明7は「耐熱性多孔質層」が含有する「無機粒子が、金属水酸化物及び金属硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含」むのに対して、甲4発明はその旨特定されていない点で相違する。
b したがって、上記(イ)のa、b、d及び(エ)のcの対比を考慮すれば、本件発明7と甲4発明とは以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「多孔質層と、
前記多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記多孔質層に付着してなる接着層と、
を備え、
前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が、(i)アクリル系単量体単位及びスチレン系単量体単位を含む共重合体である樹脂粒子であり、
前記スチレン系単量体単位の含有量は、前記アクリル系単量体単位及び前記スチレン系単量体単位の合計含有量に対して、30質量%~90質量%である、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点20〉
多孔質層が、本件発明7は「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」であるのに対して、甲4発明は「ポリオレフィン微多孔膜」である点。
〈相違点21〉
本件発明7は「耐熱性多孔質層」が含有する「無機粒子が、金属水酸化物及び金属硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含」むのに対して、甲4発明はその旨特定されていない点。
c 相違点20について検討する。
本件発明7の相違点20に係る構成は、本件発明6の相違点18に係る構成と同一である。
よって、上記「(エ)e」に記載したのと同様の理由により、本件の請求項7に係る発明は、その他の相違点について検討するまでもなく、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明し得たものではない。
したがって、請求項7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(カ)本件発明9について
a 本件発明9は、本件発明4より「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」との構成を削除し、「前記耐熱性多孔質層の前記接着層側の面の算術平均高さSaが、0.7μm以下である」との構成を追加したものに相当する。
そして、本件発明9は「前記耐熱性多孔質層の前記接着層側の面の算術平均高さSaが、0.7μm以下である」のに対して、甲4発明はその旨特定されていない点で相違する。
b したがって、上記(イ)のa、b、dの対比を考慮すれば、本件発明9と甲4発明とは以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「多孔質層と、
前記多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記多孔質層に付着してなる接着層と、
を備える、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点22〉
多孔質層が、本件発明9は「芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」であるのに対して、甲4発明は「ポリオレフィン微多孔膜」である点。
〈相違点23〉
本件発明9は「前記耐熱性多孔質層の前記接着層側の面の算術平均高さSaが、0.7μm以下である」のに対して、甲4発明はその旨特定されていない点。
c 事案に鑑み、相違点23について検討する。
甲第4号証には、基材B1-1の面の算術平均高さについては記載も示唆もされておらず、かかる高さを採用することが周知技術であるともいえないから、甲第4号証に基づいて、本件発明9の相違点23に係る構成とすることを、当業者が容易になし得たとは認められない。
よって、本件の請求項9に係る発明は、その他の相違点について検討するまでもなく甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
d 特許異議申立人は、相違点23に関連して、基材を芳香族系樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層とした場合において、耐熱性多孔質層の表面粗さを極力小さくすることは、公知の技術的知見(甲第6、7号証)に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである旨主張している(申立書第123頁第4ないし6行)。
しかしながら、セパレータの耐熱性多孔質層の表面粗さをできるだけ小さくすること自体は周知の技術事項であるとしても、セパレータと電極とのドライ接着強度及びウェット接着強度を高くするために、電極と直接接触する面では無い耐熱性多孔質層の接着剤層側の面の算術平均高さを0.7μm以下とすることを、当業者が容易に想到し得るものとは認められないから、申立人の主張は採用できない。
(キ)本件発明12~18について
請求項12~18に係る発明も請求項4~7、9に係る発明と同様に甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではなく、請求項12~18に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
ウ 甲5発明との対比及び判断
(ア)本件発明4について
本件発明4と甲5発明とを対比する。
a 甲5発明の「多孔層」は「無機フィラー及び樹脂バインダーを含む」から、甲5発明の「無機フィラー」は本件発明4の「無機粒子」に相当し、甲5発明の「樹脂バインダー」は本件発明4の「芳香族系樹脂」とは樹脂である点で一致し、甲5発明の「多孔層」は、本件発明4の「耐熱性多孔質層」とは「樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層」である点で一致する。
ただし、耐熱性多孔質層が含有する樹脂が、本件発明4は「芳香族系」であるのに対して、甲5発明はその旨特定されていない点で相違する。
b 甲5発明の「接着層」は「粒子状のアクリル樹脂含有重合体を含」み、「アクリル樹脂含有重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体と芳香族ビニル単量体に由来する単位を有」する。
甲5発明の「接着層」が有する「粒子状のアクリル樹脂含有重合体」は、その構成材料からみて、本件発明4の「フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子」に相当する。
そして、甲5発明は「接着層」は「基材の少なくとも片面に配置され」「基材と前記接着層との間に、無機フィラー及び樹脂バインダーを含む多孔層を有し」ているから、「接着層」が「多孔層」(本件発明4の「耐熱性多孔質層」)上に設けられた「接着層」であり、「接着層」が有する「粒子状のアクリル樹脂含有重合体」が「多孔層」に付着しているのは明らかである。
以上のことより、甲5発明の「接着層」は、本件発明4の「前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層」に相当する。
c 本件発明4は「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」のに対して、甲5発明はその旨特定されていない点で相違する。
d 甲5発明の「非水電解液二次電池の製造に用いられるセパレータ」は、本件発明4の「非水系二次電池用セパレータ」に相当する。
e したがって、両者は以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備える、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点24〉
耐熱性多孔質層が含有する樹脂が、本件発明4は「芳香族系樹脂」であるのに対して、甲5発明はその旨特定されていない点。
〈相違点25〉
本件発明4は「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」のに対して、甲5発明はその旨特定されていない点。
f 事案に鑑み、相違点25について検討する。
甲第5号証には、電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの接着層と多孔層との間の接着強度については記載も示唆もされておらず、甲第5号証に基づいて電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの接着層と多孔層との間の接着強度を0.01N/15mm~2.0N/15mmとする動機づけも見当たらないから、甲第5号証に基づいて本件発明4の相違点25に係る構成とすることを、当業者が容易になし得たとは認められない。
したがって、本件の請求項4に係る発明は、その他の相違点について検討するまでもなく甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
g 特許異議申立人は、相違点25に関連して、甲5発明において、接着層を構成するアクリル樹脂含有重合体は、その構成モノマーとして「フェニル基」を有する「芳香族ビニル単量体」を含んでおり、多孔層の樹脂バインダーを芳香族系樹脂とした場合、多孔層も「芳香環」を含むことになるから、本件発明4における接着強度を充足する蓋然性が高い旨主張している(申立書第128頁第1ないし9行)。
しかしながら、ポリマー層の熱可塑性ポリマーが芳香族ビニル単量体を含み、多孔層の樹脂製バインダが芳香環を含む樹脂であるというだけでは、必ずしも、電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときのポリマー層と多孔層との間の接着強度が0.01N/15mm~2.0N/15mmを充足する蓋然性が高いとは認められないから、申立人の主張は採用できない。
(イ)本件発明5について
a 本件発明5は、本件発明4より「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」との構成を削除し、「前記接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である」との構成を追加したものに相当する。
そして、本件発明5は「前記接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である」のに対して、甲5発明はその旨特定されていない点で相違する。
b したがって、上記(ア)のa、b、dの対比を考慮すれば、本件発明5と甲5発明とは以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備える、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点26〉
耐熱性多孔質層が含有する樹脂が、本件発明5は「芳香族系樹脂」であるのに対して、甲5発明はその旨特定されていない点。
〈相違点27〉
本件発明5は「前記接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である」のに対して、甲5発明はその旨特定されていない点。
c 事案に鑑み、相違点27について検討する。
甲第5号証には、接着層のフーリエ変換赤外分光法について記載も示唆もされておらず、甲第5号証に基づいて接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2を4以下とする動機づけも見当たらないから、甲第5号証に基づいて本件発明5の相違点27に係る構成とすることを、当業者が容易になし得たとは認められない。
よって、本件の請求項5に係る発明は、その他の相違点について検討するまでもなく甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
d 特許異議申立人は、相違点27に関連して、甲5発明における「アクリル樹脂含有重合体」は、芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有するから、甲5発明も本件発明5における「接着層のフーリエ変換赤外分光法による、フェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下である」構成を充足すると推定することはできる旨主張している(申立書第128頁第22ないし25行)。
しかしながら、アクリル樹脂含有重合体が芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを有していることだけで、ポリマー層のフーリエ変換赤外分光法によるフェニル基のピーク面積S1が0.01~3で(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下になると推定することはできないから、申立人の主張は採用できない。
(ウ)本件発明9について
a 本件発明9は、本件発明4より「電解液を含浸させた状態で熱プレスしたときの、前記接着層と前記耐熱性多孔質層との間の接着強度が、0.01N/15mm~2.0N/15mmである」との構成を削除し、「前記耐熱性多孔質層の前記接着層側の面の算術平均高さSaが、0.7μm以下である」との構成を追加したものに相当する。
そして、本件発明9は「前記耐熱性多孔質層の前記接着層側の面の算術平均高さSaが、0.7μm以下である」のに対して、甲5発明はその旨特定されていない点で相違する。
b したがって、上記(ア)のa、b、dの対比を考慮すれば、本件発明9と甲5発明とは以下の一致点と相違点を有する。
〈一致点〉
「樹脂及び無機粒子を含有する耐熱性多孔質層と、
前記耐熱性多孔質層上に設けられ、フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子を含有し、前記フェニル基含有アクリル系樹脂を含む接着性樹脂粒子が前記耐熱性多孔質層に付着してなる接着層と、
を備える、
非水系二次電池用セパレータ。」
〈相違点28〉
耐熱性多孔質層が含有する樹脂が、本件発明9は「芳香族系樹脂」であるのに対して、甲5発明はその旨特定されていない点。
〈相違点29〉
本件発明9は「前記耐熱性多孔質層の前記接着層側の面の算術平均高さSaが、0.7μm以下である」のに対して、甲5発明はその旨特定されていない点。
c 事案に鑑み、相違点29について検討する。
甲第5号証には、多孔層の面の算術平均高さについては記載も示唆もされておらず、かかる高さを採用することが周知技術であるともいえないから、甲第5号証に記載の発明において、多孔層の面の算術平均高さを0.7μm以下とすることを、当業者が容易になし得たとは認められない。
よって、本件の請求項9に係る発明は、その他の相違点について検討するまでもなく、甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
d 特許異議申立人は、相違点29に関連して、耐熱性多孔質層の表面粗さを極力小さくすること、公知の技術的知見(甲第6、7号証)に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである旨主張している(申立書第131頁第1ないし3行)。
しかしながら、セパレータの耐熱性多孔質層の表面粗さをできるだけ小さくすること自体は周知の技術事項であるとしても、セパレータと電極とのドライ接着強度及びウェット接着強度を高くするために、電極と直接接触する面では無い耐熱性多孔質層の接着剤層側の面の算術平均高さを0.7μm以下とすることを、当業者が容易に想到し得るものとは認められないから、申立人の主張は採用できない。
(エ)本件発明12~18について
請求項12に係る発明、請求項13に係る発明及び請求項4、5、9、12、13を直接又は間接的に引用する請求項14~18に係る発明も、請求項4、5、9に係る発明と同様に、甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項12に係る発明、請求項13に係る発明及び請求項4、5、9、12、13を直接又は間接的に引用する請求項14~18に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
エ 小括
以上のとおり、本件の請求項1~3、8に対する申立理由は、その対象が存在しないものとなった。
また、本件の請求項4~7、9に係る発明は、甲第3号証または甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではなく、また、本件の請求項4、5、9に係る発明は、甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、本件の請求項4~7、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
さらに、請求項12~18に係る発明も、甲第3~5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、請求項12~18に係る特許は、請求項4~7、9に係る特許と同様に、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(3)申立理由3について
ア 本件の明細書には次の記載がある。
「【0102】
接着層は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)によるフェニル基のピーク面積S1が0.01~3であり、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下であることが好ましい。
フェニル基のピーク面積S1が0.01以上であり、かつ、(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下であると、接着層が耐熱性多孔質層及び電極に対し、より十分なウェット接着強度を発現し得る。フェニル基のピーク面積S1が3以下であると、接着層の電解液による膨潤がより抑制し得る。
・・・
(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2は、例えば、0.01以上、より好ましくは0.1以上であってもよい。
【0103】
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による接着層のフェニル基のピーク面積S1は、下記の方法により求める。下記の条件のフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により接着層の吸収スペクトルを得た後、フェニル基の吸収ピーク(694cm-1~710cm-1)に対し、ベースライン補正を行い、ベースラインと吸収スペクトル線とで囲まれた範囲の面積(単位:無次元)を求める。任意に選択した8箇所の異なる範囲の吸収スペクトルから得られた値を平均し、接着層のフェニル基のピーク面積S1とする。
また、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による接着層の(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2は、下記の方法により求める。下記の条件のフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により接着層の吸収スペクトルを得た後、(メタ)アクリル由来のカルボニル基の吸収ピーク(1707cm-1~1753cm-1)に対し、ベースライン補正を行い、ベースラインと吸収スペクトル線とで囲まれた範囲の面積(単位:無次元)を求める。任意に選択した8箇所の異なる範囲の吸収スペクトルから得られた値を平均し、接着層の(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2とする。
各面積は、測定装置の機能により算出される。
【0104】
-条件-
測定装置:フーリエ変換赤外分光光度計〔IRAffinity-1、(株)島津製作所製〕
測定波長範囲:400cm-1~4000cm-1
測定モード:透過率
アポダイズ関数:Happ-Genzel
分解能:4cm-1
積算回数:10回
測定サンプル数:n=8」
イ 上記段落【0104】に記載された測定条件及び段落【0103】に記載されたピーク面積を求める方法によれば、本件の請求項5に記載されたフェニル基のピーク面積S1及び(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2は、フーリエ変換赤外分光光度計〔IRAffinity-1、(株)島津製作所製〕の機能により算出される値であり、1つの吸収スペクトルにおける、それぞれの所定波長領域の吸収スペクトル線に基づいて求められる、同一の測定対象の面積と理解できる。
したがって、本件の請求項5に係る記載は、所定の測定装置を用いて得られた吸収スペクトルより算出されたフェニル基のピーク面積S1が0.01~3であると共に(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2が4以下となる接着層を有するセパレータを表しているものとして明らかであるから、明確でないとはいえない。
なお、本件の請求項5ではフェニル基のピーク面積S1の範囲及び(メタ)アクリル由来のカルボニル基のピーク面積S2の範囲が共に特定されているのであるから、本件の請求項5は、実質的にフェニル基のピーク面積S1とカルボニル基のS2の比の範囲を特定することに等しいものと当業者は理解するといえる。
ウ よって、本件特許の請求項5の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確であるとはいえないから、請求項5及び同項を直接及び間接的に引用する請求項12~18に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものでない。
(4)申立理由4について
ア 接着性樹脂粒子の付着量について
本件の明細書段落【0008】の記載によれば、本件発明はドライヒートプレス及びウェットヒートプレスのいずれによっても電極との接着性に優れる非水系二次電池用セパレータを提供するものであるから、本件発明は電極とセパレータが接着されることが前提のものであるといえる。
そうすると、電極とセパレータを接着する接着層の接着性樹脂粒子の付着量が本件の請求項に明示的に特定されていないとしても、電極とセパレータを接着する接着層として通常用いられる量を付着したものと当業者は理解するものと認められるから、申立人の主張は採用できない。
イ フェニル基含有アクリル系樹脂中のフェニル基の量について
本件の明細書段落【0025】の記載より、アクリル系樹脂が有するフェニル基によりウェットヒートプレスでの電極との接着性に優れると当業者は理解し得ると認められるところ、アクリル系樹脂がフェニル基を僅かでも含有すれば、フェニル基を含有しないアクリル系樹脂に比べウェットヒートプレスでの電極との接着性は多少なりとも優れたものになると認められるから、申立人の主張は採用できない。
ウ 接着性樹脂粒子のガラス転移温度について
上記アに記載したように、本件発明はドライヒートプレス及びウェットヒートプレスのいずれによっても電極との接着性に優れる非水系二次電池用セパレータを提供するものである。
してみると、本件発明は電極とセパレータがドライヒートプレスでも接着されることが前提のものであり、接着性樹脂粒子のガラス転移温度が本件の請求項に明示的に特定されていないとしても、ドライヒートプレス温度で接着し得るガラス転移温度の接着性樹脂粒子を用いると当業者は理解するものと認められるから、申立人の主張は採用できない。
エ 小括
以上より、請求項4~7、9、12~18の記載は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえないから、請求項4~7、9、12~18に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるとはいえない。
(5)申立理由5について
接着性樹脂粒子である共重合体について、本件の明細書段落【0066】にはアクリル系単量体の具体例が、【0067】にはスチレン系単量体の具体例が、それぞれ記載され、【0068】には共重合体に含まれるスチレン系単量体の好ましい含有量が記載されている。
また、接着性樹脂粒子である混合体について、【0075】、【0076】にはアクリル系樹脂の具体例が、【0078】、【0070】にはスチレン系樹脂の具体例が、それぞれ記載され、【0080】には混合体に含まれるスチレン系樹脂の好ましい含有量が記載されている。
してみると、単量体や樹脂の種類により接着特性が変化するとしても、当業者であれば、明細書に具体的に記載された材料の中から各単量体または樹脂を選択して接着性樹脂粒子を製造し得るものと認められる。
したがって、本件特許の明細書において、実施例として用いられた具体的なモノマーが記載されていないとしても、当業者が本件発明を実施することができないとまではいえないから、申立人の主張は採用できない。
よって、請求項4~7、9、12~18に係る特許は、特許法第36条第4項第1号および同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるとはいえない。
第6 まとめ
よって、本件請求項4ないし7、9、12ないし18に係る特許は、取消理由および特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことができない。
さらに、ほかに本件請求項4ないし7、9、12ないし18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1ないし3、8は訂正により削除されたため、請求項1ないし3、8に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700896