特許異議申立
2026-700447
窒素含有多孔質炭素及びその製造方法、並びに燃料電池用電極触媒
- 審判番号
- 2026-700447
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2025-539758
- 登録番号
- 7773680
- 請求日
- 2026年05月19日
- 審決日
- 2026年08月26日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三井金属株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人翔和国際特許事務所
- 【異議申立人】杉浦 健文
- 審判長/審判官
- 審判長 梶尾 誠哉
- 審判官 畑中 博幸
- 審判官 木村 貴俊
- 分類
- P1652.113-Y (H01M) / P1652.121-Y (H01M) / P1652.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7773680号発明「窒素含有多孔質炭素及びその製造方法、並びに燃料電池用電極触媒」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7773680号の請求項1~3、6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7773680号の請求項1~3、6に係る特許(以下「本件特許1」~「本件特許3」、「本件特許6」といい、併せて「本件特許」という。)についての出願は、2025年(令和7年)1月22日(優先権主張 2024年2月8日、日本)を国際出願日とする出願であって、令和7年11月11日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月19日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対し、令和8年5月19日に特許異議申立人杉浦 健文(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~3、6に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明3」、「本件発明6」といい、併せて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~3、6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
窒素含有多孔質炭素であって、
前記窒素含有多孔質炭素は、炭素材料の骨格中の炭素元素の一部が窒素元素で置換されており、
細孔径2.0nm以上50.0nm以下の範囲における最頻細孔径が2.0nm以上10.0nm以下であり、
炭素元素の質量に対する窒素元素の質量の比が0.005以上であり、
窒素吸着法により測定したBET比表面積が400m2/g以上である、窒素含有多孔質炭素。
【請求項2】
窒素吸脱着等温線をBJH法により解析することで得られる、全細孔容積に対する細孔径2.0nm以上30.0nm以下の範囲の細孔容積の比が、0.60以上である、請求項1に記載の窒素含有多孔質炭素。
【請求項3】
窒素吸着法により測定したBET比表面積に対する、水蒸気吸着法により測定したBET比表面積の比が0.010以上0.500以下である、請求項1又は2に記載の窒素含有多孔質炭素。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の窒素含有多孔質炭素に、白金族元素を含む金属が担持された、燃料電池用電極触媒。」
第3 申立理由の概要
1 特許異議の申立理由
異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由は、次のとおりである。
(1)申立理由1(新規性)
本件発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 異議申立人の提出した証拠
異議申立人が提出した証拠は次のとおりである。
甲第1号証:国際公開第2022/054485号
甲第2号証:特開2014-97912号公報
甲第3号証:特開2023-129136号公報
甲第4号証:国際公開第2023/167199号
甲第5号証:国際公開第2022/181261号
甲第6号証:Synthesis of catalysts with fine platinum particles supported by high-surface-area activated carbons and optimization of their catalytic activities for polymer electrolyte fuel cells、the Royal Society of Chemistry、2021年6月8日
< https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2021/ra/d1ra02156g>
甲第7号証:固体高分子型燃料電池の水生成を伴う負荷サイクル試験における触媒表面の親水性とアイオノマーの分散や耐久性との相関を評価 ニュースリリース、令和5年11月28日、エヌ・イー ケムキャット株式会社
第4 甲第1号証の記載
1 甲第1号証には、次の記載がある。
「[0020] 本実施形態に係る金属担持触媒(以下、「本触媒」という。)は、炭素担体と、当該炭素担体に担持された触媒金属粒子とを含む金属担持触媒であって、当該金属担持触媒の平均細孔径に対する、当該触媒金属粒子の数平均粒子径の比が0.70以上、1.30以下であり、当該金属担持触媒の窒素吸着等温線の相対圧力が0.4以上、0.6以下の範囲内において、吸着側等温線の窒素吸着量に対する脱着側等温線の窒素吸着量の比の最大値が1.05以下であり、当該炭素担体に担持されている当該触媒金属粒子の総数に対する、当該炭素担体の外表面から20nm以上の深さの位置に担持されている当該触媒金属粒子の数の割合が11%以上である。
・・・(中略)・・・。
[0023] 炭素担体は、多孔質の炭素材料であることが好ましい。この場合、炭素担体は、高い連通性を有する細孔を含むことが好ましい。すなわち、炭素担体は、多くの連通孔を有する炭素材料であることが好ましい。
・・・(中略)・・・。
[0027] 炭素担体は、窒素を含むことが好ましい。すなわち、この場合、炭素担体は、その炭素構造に窒素原子を含む。窒素を含む炭素担体は、窒素を含む炭素化材料であることが好ましい。窒素含有炭素化材料は、窒素含有有機物を含む原料の炭素化により得られる。窒素含有有機物は、窒素含有有機化合物を含むことが好ましい。窒素含有有機化合物は、その分子内に窒素原子を含む有機化合物であれば特に限られない。また、炭素担体に含まれる窒素は、窒素ドープ処理により導入されたものであってもよい。」
「[0063] 本触媒の窒素吸着法によるBET比表面積(以下、「N2-BET比表面積」という。)は、例えば、200(m2/g-炭素担体)以上であってもよく、600(m2/g-炭素担体)以上であることが好ましく、900(m2/g-炭素担体)以上であることがより好ましく、1000(m2/g-炭素担体)以上であることがより一層好ましく、1100(m2/g-炭素担体)以上であることが特に好ましい。本触媒のN2-BET比表面積の上限値は特に限られないが、当該N2-BET比表面積は、例えば、3000(m2/g-炭素担体)以下であってもよい。
[0064] 本触媒のN2-BET比表面積(m2/g-炭素担体)に対する、本触媒の水蒸気吸着法によるBET比表面積(m2/g-炭素担体)の比(以下、「水蒸気-BET/窒素-BET比表面積比」という。)は、例えば、0.080以下であってもよく、0.070以下であることが好ましく、0.060以下であることがより好ましく、0.055以下であることがより一層好ましく、0.050以下であることが特に好ましい。本触媒の水蒸気-BET/窒素-BET比表面積比の下限値は特に限られないが、当該比表面積比は、例えば、0.010以上であってもよい。」
「[0127] [炭素担体A]1.0gのポリアクリロニトリル(PAN)と、1.0gの2-メチルイミダゾールと、6.0gの塩化亜鉛(ZnCl2)と、30gのジメチルホルムアミドとを混合した。得られた混合物から乾燥により溶媒を除去した。乾燥した混合物を大気中で加熱して、250℃で不融化を行った。
・・・(中略)・・・。
[0130] [炭素担体B]1.0gのPANと、1.0gの2-メチルイミダゾールと、6.0gのZnCl2と、0.18gの塩化鉄(III)六水和物(FeCl3・6H2O)と、30gのジメチルホルムアミドとを混合した。得られた混合物から乾燥により溶媒を除去した。乾燥した混合物を大気中で加熱して、250℃で不融化を行った。
[0131] 不融化後の混合物を、窒素雰囲気中、0.90MPaのゲージ圧力下、1300℃で加熱保持することにより、炭素化を行った。炭素化により得られた炭素化材料に希塩酸を加え、撹拌した。その後、炭素化材料を含有する懸濁液を、ろ過膜を使用してろ過し、ろ液が中性になるまで蒸留水で炭素化材料を洗浄した。こうして酸洗浄による金属除去処理を行った。
[0132] 微粉砕機によって、金属除去処理後の炭素化材料を、その粒子径の中央値が1μm以下になるまで粉砕した。粉砕後の炭素化材料の真空乾燥を行い、水分を除去した。その後、炭素化材料に窒素雰囲気中で300℃の加熱処理を施した。さらに、加熱処理後の炭素化材料を、アンモニアガス流通下、900℃で加熱保持することにより、当該炭素化材料に窒素ドープ処理及び賦活化処理を施した。こうして得られた炭素化材料を炭素担体Bとして用いた。」
「[0145] [例4]炭素担体Bに触媒金属粒子の担持法Dを適用して、金属担持触媒を製造した。具体的に、炭素担体Bと、H2PtCl6及びCоCl2を含む水溶液とを18時間混合した。その後、得られた混合液を空気中100℃で乾燥させ、さらに窒素中、150℃中で保持して、溶媒成分を揮発させた。
[0146] 得られた固形物に、水素雰囲気(水素ガス100体積%)中900℃で60分の加熱処理を施した。こうして得られた金属担持触媒から、白金合金以外の余分な金属を除去するために、当該金属担持触媒と10%硝酸溶液とを2時間混合した。その後、ろ過により、金属担持触媒と酸溶液とを分離し、さらに、蒸留水でろ液が中性になるまで当該金属担持触媒を洗浄した。洗浄後の金属担持触媒を真空中60℃で乾燥し、水分を除去した。
[0147] その後、硝酸を除去するため、金属担持触媒に、窒素中300℃で加熱処理を施した。さらに、白金酸化物を還元除去するため、金属担持触媒に、窒素中700℃で加熱処理を施した。こうして炭素担体Bと、当該炭素担体Bに担持された白金合金粒子とから構成される白金合金担持触媒を得た。最終的に得られた金属担持触媒における白金の担持量は30重量%であった。また、金属担持触媒における貴金属/非貴金属モル比(具体的には、Pt/Coモル比)は、7.0であった。」
「[0159] [炭素担体及び金属担持触媒の窒素含有量:元素分析(燃焼法)]炭素担体及び金属担持触媒の燃焼法による元素分析を行い、当該炭素担体の窒素含有量及び当該金属担持触媒の窒素含有量をそれぞれ測定した。すなわち、有機微量元素分析装置(2400II、パーキンエルマー株式会社)を用いて、未だ触媒金属粒子を担持していない炭素担体の窒素原子含有量、及び金属担持触媒の窒素原子含有量をそれぞれ燃焼法により測定した。具体的に、ヘリウムをキャリアガスとして用い、2mgの炭素担体又は2mgの金属担持触媒を、燃焼管温度980℃、還元管温度640℃の条件で分析した。
[0160] そして、炭素担体に含まれていた窒素原子の重量を、当該炭素担体の重量で除した値に100を乗じて、当該炭素担体の窒素原子含有量(重量%)を算出した。また、同様に、金属担持触媒に含まれていた窒素原子の重量を、当該金属担持触媒の重量で除した値に100を乗じて、当該金属担持触媒の窒素原子含有量(重量%)を算出した。」
「[0168] また、温度77Kにおける窒素吸着等温線から、金属担持触媒の窒素吸着法によるBET比表面積(m2/g-金属担持触媒)を得た。なお、数値の単位における「/g-金属担持触媒」は、金属担持触媒1gあたりの値であることを示す。そして、金属担持触媒の比表面積と、上述のICP-MSで得られた当該金属担持触媒の金属含有量とに基づき、当該金属担持触媒に含まれる炭素担体1gあたりの比表面積(m2/g-炭素担体)を算出した。すなわち、金属担持触媒の比表面積(m2/g-金属担持触媒)を、次の式で算出される当該金属担持触媒に含まれる炭素担体の重量比で除することにより、炭素担体1gあたりの比表面積(m2/g-炭素担体)を算出した:炭素担体の重量比=1-(ICP-MSで得られた金属含有量(重量%))/100。
[0169] また、温度77Kにおける窒素吸着等温線から、BJH法により、孔径が5nm以上の細孔の容積(5nm以上細孔の容積)(cm3/g-金属担持触媒)と、孔径が5nm未満の細孔の容積(5nm未満細孔の容積)(cm3/g-金属担持触媒)とを得た。そして、上述した比表面積と同様に、ICP-MSで得られた金属担持触媒の金属含有量に基づき、当該金属担持触媒に含まれる炭素担体1gあたりの5nm以上細孔の容積(cm3/g-炭素担体)及び5nm未満細孔の容積(cm3/g-炭素担体)を算出した。
[0170] さらに、5nm未満細孔の容積(cm3/g-炭素担体)を5nm以上細孔の容積(cm3/g-炭素担体)で除することにより、5nm未満細孔/5nm以上細孔容積比を算出した。
[0171] また、温度77Kにおける窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.98の点での吸着量により全細孔容積(cm3/g-金属担持触媒)を得た。さらに、上述した比表面積と同様に、ICP-MSで得られた金属担持触媒の金属含有量に基づき、当該金属担持触媒に含まれる炭素担体1gあたりの全細孔容積(cm3/g-炭素担体)を算出した。そして、市販の自動比表面積測定装置(TriStar II 3020、株式会社島津製作所製)に付属の解析ソフトウェア(TriStar II 3020)を使用し、次の式により、金属担持触媒の平均細孔径(nm)を算出した:平均細孔径(nm)=4×{全細孔容積(cm3/g-金属担持触媒)×1021}/比表面積(m2/g-金属担持触媒)×1018。」
「図7
[図:0001439253000001.jpg]
」
2 上記1によれば、次のことがいえる。
(1)段落[0020]によれば、甲第1号証には、炭素担体と、当該炭素担体に担持された触媒金属粒子とを含む金属担持触媒が記載されている。
また、段落[0023]によれば、炭素担体は、多孔質の炭素材料であり、段落[0027]によれば、炭素担体は、窒素を含む。
よって、甲第1号証には、多孔質の炭素材料であり、窒素を含む炭素担体と、当該炭素担体に担持された触媒金属粒子とを含む金属担持触媒が記載されているといえる。
(2)段落[0145]~[0147]によれば、例4として製造された、炭素担体Bと、当該炭素担体Bに担持された白金合金粒子とから構成される白金合金担持触媒が記載されている。
(3)段落[0130]~[0132]によれば、炭素担体Bは、PANと、2-メチルイミダゾールと、ZnCl2と、塩化鉄(III)六水和物(FeCl3・6H2O)と、ジメチルホルムアミドとを混合し、乾燥により溶媒を除去した混合物を250℃で不融化後、窒素雰囲気中、1300℃で加熱保持して炭素化を行い、炭素化により得られた炭素化材料に酸洗浄による金属除去処理を行い、金属除去処理後の炭素化材料を粉砕し、真空乾燥を行い、水分を除去した後、窒素ドープ処理及び賦活化処理を施して得られる。
また、段落[0127]によれば、PANは、ポリアクリロニトリルの略称である。
(4)図7によれば、例4の金属担持触媒の「平均細孔径」は、3.16nmであり、段落[0171]によれば、「平均細孔径」は「平均細孔径(nm)=4×{全細孔容積(cm3/g-金属担持触媒)×1021}/比表面積(m2/g-金属担持触媒)×1018。」の式により算出される
(5)図7によれば、例4の金属担持触媒の「5nm未満細孔/5nm以上細孔容積比」は、2.90であり、[0169]、[0170]によれば、「5nm未満細孔/5nm以上細孔容積比」は、窒素吸着等温線から、BJH法により、孔径が5nm以上の細孔の容積(5nm以上細孔の容積)(cm3/g-金属担持触媒)と、孔径が5nm未満の細孔の容積(5nm未満細孔の容積)(cm3/g-金属担持触媒)とを得て、ICP-MSで得られた金属担持触媒の金属含有量に基づき、当該金属担持触媒に含まれる炭素担体1gあたりの5nm以上細孔の容積(cm3/g-炭素担体)及び5nm未満細孔の容積(cm3/g-炭素担体)を算出し、5nm未満細孔の容積(cm3/g-炭素担体)を5nm以上細孔の容積(cm3/g-炭素担体)で除することにより算出される。
(6)図7によれば、例4における「炭素担体の窒素原子含有量」は2.51重量%であり、段落[0159]、[0160]によれば、「炭素担体の窒素原子含有量」は、未だ触媒金属粒子を担持していない炭素担体の窒素原子含有量を燃焼法により測定し、炭素担体に含まれていた窒素原子の重量を、当該炭素担体の重量で除した値に100を乗じて算出される。
(7)図7によれば、例4における「N2-BET比表面積(m2/g-炭素担体)」は、1803m2/gであり、段落[0063]、[0064]及び[0168]によれば、「N2-BET比表面積(m2/g-炭素担体)」は、金属担持触媒の窒素吸着法によるBET比表面積(m2/g-金属担持触媒)を、当該金属担持触媒に含まれる炭素担体の重量比(=1-(ICP-MSで得られた金属含有量(重量%))/100)で除することにより算出される。
3 甲1発明
上記2によれば、甲第1号証には、例4に基づく次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「多孔質の炭素材料であり、窒素を含む炭素担体と、当該炭素担体に担持された触媒金属粒子とを含む金属担持触媒であって、
炭素担体は、ポリアクリロニトリルと、2-メチルイミダゾールと、ZnCl2と、塩化鉄(III)六水和物(FeCl3・6H2O)と、ジメチルホルムアミドとを混合し、乾燥により溶媒を除去した混合物を250℃で不融化後、窒素雰囲気中、1300℃で加熱保持して炭素化を行い、炭素化により得られた炭素化材料に酸洗浄による金属除去処理を行い、金属除去処理後の炭素化材料を粉砕し、真空乾燥を行い、水分を除去した後、窒素ドープ処理及び賦活化処理を施して得られ、
平均細孔径は、3.16nmであり、平均細孔径は、平均細孔径(nm)=4×{全細孔容積(cm3/g-金属担持触媒)×1021}/比表面積(m2/g-金属担持触媒)×1018の式により算出され、
5nm未満細孔/5nm以上細孔容積比は、2.90であり、5nm未満細孔/5nm以上細孔容積比は、窒素吸着等温線から、BJH法により、孔径が5nm以上の細孔の容積(5nm以上細孔の容積)(cm3/g-金属担持触媒)と、孔径が5nm未満の細孔の容積(5nm未満細孔の容積)(cm3/g-金属担持触媒)とを得て、ICP-MSで得られた金属担持触媒の金属含有量に基づき、当該金属担持触媒に含まれる炭素担体1gあたりの5nm以上細孔の容積(cm3/g-炭素担体)及び5nm未満細孔の容積(cm3/g-炭素担体)を算出し、5nm未満細孔の容積(cm3/g-炭素担体)を5nm以上細孔の容積(cm3/g-炭素担体)で除することにより算出され、
炭素担体の窒素原子含有量は、2.51重量%であり、炭素担体の窒素原子含有量は、未だ触媒金属粒子を担持していない炭素担体の窒素原子含有量を燃焼法により測定し、炭素担体に含まれていた窒素原子の重量を、当該炭素担体の重量で除した値に100を乗じて算出され、
N2-BET比表面積(m2/g-炭素担体)は、1803m2/gであり、N2-BET比表面積(m2/g-炭素担体)は、金属担持触媒の窒素吸着法によるBET比表面積(m2/g-金属担持触媒)を、当該金属担持触媒に含まれる炭素担体の重量比(=1-(ICP-MSで得られた金属含有量(重量%))/100)で除することにより算出される、
金属担持触媒。」
第5 申立理由に対する当審の判断
1 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「多孔質の炭素材料であり、窒素を含む炭素担体」は、本件発明1の「窒素含有多孔質炭素」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「窒素含有多孔質炭素。」
(相違点1)
本件発明1は、「炭素材料の骨格中の炭素元素の一部が窒素元素で置換されて」いるのに対し、甲1発明の「炭素担体」はその旨特定されていない点。
(相違点2)
本件発明1は、「細孔径2.0nm以上50.0nm以下の範囲における最頻細孔径が2.0nm以上10.0nm以下であ」るのに対し、甲1発明は「最頻細孔径」が記載されていない点。
(相違点3)
本件発明1は、「炭素元素の質量に対する窒素元素の質量の比が0.005以上であ」るのに対し、甲1発明は、「炭素担体の窒素原子含有量は、2.51重量%であ」る点。
(相違点4)
本件発明1は、「窒素吸着法により測定したBET比表面積が400m2/g以上である」のに対し、甲1発明は、「金属担持触媒の窒素吸着法によるBET比表面積(m2/g-金属担持触媒)を、当該金属担持触媒に含まれる炭素担体の重量比(=1-(ICP-MSで得られた金属含有量(重量%))/100)で除することにより算出される」「N2-BET比表面積(m2/g-炭素担体)は、1803m2/gであ」る点。
(2)判断
ア 申立理由1(新規性)について
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とは、上記相違点1~4を有するものであるから、本件発明1は、甲1発明ではない。
(イ)本件発明2、3、6について
上記第2のとおり、本件発明2、3、6は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記(ア)と同様の理由により、本件発明2、3、6は、甲1発明ではない。
イ 申立理由2(進歩性)について
(ア)本件発明1について
事案に鑑み、相違点2から検討する。
a 甲第1号証には、最頻細孔径について記載されておらず、また、甲1発明の「多孔質の炭素材料であり、窒素を含む炭素担体」において、最頻細孔径を所定の範囲に調整する理由はなく、それを裏付ける証拠も提出されていない。
b また、異議申立人が進歩性についての証拠として提出する甲第2号証及び甲第3号証のいずれにも、最頻細孔径に係る記載や示唆は見当たらないことから、甲第2号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された事項を適用したとしても、上記相違点2に係る「細孔径2.0nm以上50.0nm以下の範囲における最頻細孔径が2.0nm以上10.0nm以下であ」るとの構成を導き出すことはできない。
一方、本件発明1は、相違点2の構成を備えることにより、本件明細書の【0014】に記載されているように、「最頻細孔径が前記の範囲内にあることで、窒素含有多孔質炭素の比表面積が大きくなり、電極触媒に用いた場合、触媒金属粒子を多く担持させることが可能となる。更に、細孔内に担持された触媒金属がアイオノマーと接触しづらくなり、触媒の被毒を抑制することができる。」という効果を有するものである。
c よって、上記相違点1、3、4について検討するまでもなく、甲1発明において、上記相違点2に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、本件発明1は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件発明2、3、6について
上記第2のとおり、本件発明2、3、6は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記(ア)と同様の理由により、本件発明2、3、6は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 異議申立人の主張について
(ア)新規性について
a 異議申立人は、異議申立書において、甲第1号証の例4は、孔径5nm以上の細孔の容積に対する孔径5nm未満の細孔の容積比が2.90であることから、孔径5nm未満の細孔がより優勢であると理解される。例4の当該容積比と平均細孔径(3.16nm)とを考慮すると、例4は、孔径3.16nm 付近かつ孔径5nm未満の領域に最頻細孔径を有する蓋然性が高い旨主張する。(18頁17~21行)
b 異議申立人の上記主張について検討する。
(a)甲1発明における「5nm未満細孔/5nm以上細孔容積比」は、BJH法に基づいて算出されるところ、BJH法とは、細孔を円筒形状と仮定して解析する方法であることは技術常識(例えば、国際公開第2016/002668号の段落[0027]、国際公開第2023/210812号の段落[0013]、国際公開第2017/213057号の段落[0045]、向井田健一、多孔質物質の細孔構造計算法の比較、粉体工学会誌、VOL.16 No.9 3頁左欄「1.緒言」、5頁左欄「4.2 CI法、BJH法、ML法の比較」、1979年 <https://www.jstage.jst.go.jp/article/sptj1978/16/9/16_9_507/_pdf/-char/en> を参照。)であって、細孔の容積は、細孔の数、孔径、全長、形状構造に影響されると理解できる。
そうすると、甲1発明において、「5nm未満細孔/5nm以上細孔容積比は、2.90であ」ることをもって、孔径が5nm未満の細孔がより優勢であるとは必ずしもいえない。
(b)そして、甲1発明の「平均細孔径」は「3.16nm」であるものの、該「平均細孔径」は「平均細孔径(nm)=4×{全細孔容積(cm3/g-金属担持触媒)×1021}/比表面積(m2/g-金属担持触媒)×1018」の式により算出されるものであり、「平均細孔径」が「3.16nm」であり、「5nm未満細孔/5nm以上細孔容積比」が「2.90」である甲1発明において、最頻細孔径が2.0nm以上10.0nm以下の範囲内に必ず含まれるものであると推認できる証拠は提出されていない。
(c)また、異議申立書(18頁8~16行)において、甲第1号証における炭素担体の平均細孔径は、金属担持前後において実質的に同一であると推認される根拠として、甲第4号証及び甲第5号証が挙げられているものの、各甲号証には、最頻細孔径を、「平均細孔径」及び「5nm未満細孔/5nm以上細孔容積比」から推認できることは一切記載されていない。
(d)以上のとおり、異議申立人の「例4は、孔径3.16nm 付近かつ孔径5nm未満の領域に最頻細孔径を有する蓋然性が高い」との主張は採用できない。
(イ)進歩性について
a 異議申立人は、異議申立書において、甲第3号証の段落【0045】、【0046】には金属担持前における炭素担体の好ましい平均細孔径が記載されているから、当該記載を参酌すると、「細孔径2.0nm以上50.0nm以下の範囲における最頻細孔径が2.0nm以上10.0nm以下であ」ることを充足する炭素担体を採用することは、当業者であれば容易になし得ることである旨主張する。(26頁1~14行)
b 異議申立人の上記主張について検討する。
甲第3号証に、最頻細孔径に係る記載や示唆は見当たらないことは、上記イ(ア)bのとおりである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。
エ 申立理由1及び申立理由2のまとめ
以上によれば、本件特許は、特許法第29条第1項の規定及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、異議申立人の主張する申立理由1及び申立理由2には理由がない。
2 申立理由3(サポート要件)
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照)。
(2)当審の判断
本件明細書の段落【0007】の記載によれば、本件発明の課題は、炭素材料を電極触媒に用いた場合、触媒の被毒を抑制しつつ、低加湿条件下で触媒活性が高い窒素含有多孔質炭素を提供することである。
そして、本件明細書の記載によれば、窒素含有多孔質炭素について、本件発明で特定されているとおり、炭素材料の骨格中の炭素元素の少なくとも一部を窒素元素で置換し(段落【0018】)、細孔径2.0nm以上50.0nm以下の範囲における窒素含有多孔質炭素の最頻細孔径を2.0nm以上10.0nm以下とし(段落【0014】)、炭素元素の質量に対する窒素元素の質量の比を0.005以上とし(段落【0021】)、窒素含有多孔質炭素のBET比表面積を400m2/g以上とする(段落【0023】)ことによって、触媒の被毒を抑制することができ、触媒活性を高くできる(段落【0014】、【0021】)、という効果を奏することで、発明の課題を解決するものであることが理解できる。
そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件発明は、サポート要件を満たしている。
(3)異議申立人の主張について
ア 異議申立人は、異議申立書において、本件明細書の段落【0075】の表1には、課題が解決されることが示されている具体的態様が実施例として示されているが、これら実施例においては、N/Cが0.015~0.132である窒素含有多孔質炭素を用いている場合に課題が解決することが示されているにすぎず、本件明細書等のその他の記載を参酌しても、N/Cが0.015~0.132という範囲を外れる場合であっても、上記課題が達成される根拠が具体的に示されているとは認められないため、本件発明1に係る窒素含有多孔質炭素の範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない旨主張する。(28頁5~17行)
イ しかしながら、上記(2)のとおり、本件発明は、炭素材料の骨格中の炭素元素の少なくとも一部を窒素元素で置換し、細孔径2.0nm以上50.0nm以下の範囲における窒素含有多孔質炭素の最頻細孔径を2.0nm以上10.0nm以下とし、炭素元素の質量に対する窒素元素の質量の比を0.005以上とし、窒素含有多孔質炭素のBET比表面積を400m2/g以上とすることによって、発明の課題を解決するものであることが理解できる。
そうすると、異議申立人の上記主張は、本件発明のサポート要件の判断に影響を及ぼすものではない。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。
(4)申立理由3のまとめ
以上によれば、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
したがって、異議申立人の主張する申立理由3は理由がない。
第6 むすび
以上の次第であるから、特許異議の申立ての理由及び異議申立人の提出した証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700447