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特許異議申立

2024-700691

正極、及びそれを含むリチウム電池

審判番号
2024-700691
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-155903
登録番号
7422503
請求日
2024年07月23日
審決日
2025年06月02日
公報発行日
2025年08月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】三星電子株式会社
  • 【権利者代理人】阿部 達彦
  • 【権利者代理人】後藤 学
  • 【権利者代理人】光末 竜太
  • 【権利者】三星エスディアイ株式会社
  • 【権利者代理人】阿部 達彦
  • 【権利者代理人】後藤 学
  • 【権利者代理人】光末 竜太
  • 【異議申立人】野崎 彩
審判長/審判官
  • 審判長 篠原 功一
  • 審判官 須原 宏光
  • 審判官 井上 信一
分類
P1652.113-YAA(H01M) / P1652.121-YAA(H01M) / P1652.536-YAA(H01M) / P1652.537-YAA(H01M)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7422503号発明「正極、及びそれを含むリチウム電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7422503号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認める。 特許第7422503号の請求項1ないし10、13ないし20に係る特許を維持する。 特許第7422503号の請求項11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7422503号の請求項1ないし20に係る特許についての出願は、令和1年8月28日(パリ条約に基づく優先権主張 平成30年8月28日 韓国(KR))に出願され、令和6年1月18日にその特許権の設定登録がなされ、同年1月26日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。 令和6年 7月23日 特許異議申立人 野崎 彩による請求項1ない し11、13ないし20に係る特許に対する特 許異議の申立て 令和6年11月 7日付け 取消理由通知 令和7年 2月10日 特許権者による訂正請求書、意見書の提出 なお、令和7年3月6日付けで特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知をし、意見書を提出する機会を与えたが提出されなかった。 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 令和7年2月10日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第7422503号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし20について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである(なお、下線は訂正部分を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上である、正極。」と記載されているのを、 「正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上であり、 前記第1非フッ素系バインダがシアノ基を含むことを特徴とする、正極。」に訂正する(請求項1の記載を直接または間接に引用する請求項2ないし10、13、14、及び20も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項11を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項12に「前記第1非フッ素系バインダが、アクリロニトリル系単量体に由来する反復単位と、オレフィン系単量体に由来する反復単位と、を含むことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の正極。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、 「正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上であり、 前記第1非フッ素系バインダが、アクリロニトリル系単量体に由来する反復単位と、オレフィン系単量体に由来する反復単位と、を含むことを特徴とする、正極。」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項13に「請求項1から12のいずれか一項に記載の正極」と記載されているのを「請求項1から10及び12のいずれか一項に記載の正極」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項14に「請求項1から13のいずれか一項に記載の正極」と記載されているのを「請求項1から10、12、及び13のいずれか一項に記載の正極」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項15に「前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、正極活物質95ないし98.9重量%、導電材1ないし4重量%、及びバインダ0.01ないし2重量%を含み、ローディング量が3.0mAh/cm 2以上であることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の正極。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、 「正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上であり、 前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、正極活物質95ないし98.9重量%、導電材1ないし4重量%、及びバインダ0.01ないし2重量%を含み、ローディング量が3.0mAh/cm 2以上であることを特徴とする、正極。」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項17に「ASTM D790に準ずる曲げ特性試験において、90°以上曲げられた後にも破断されないことを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の正極。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、 「正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上であり、 ASTM D790に準ずる曲げ特性試験において、90°以上曲げられた後にも破断されないことを特徴とする、正極。」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項18に「ASTM D790に準ずる曲げ特性試験において、最大曲げ強度が1.0N以下であることを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載の正極。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、 「正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上であり、 ASTM D790に準ずる曲げ特性試験において、最大曲げ強度が1.0N以下であることを特徴とする、正極。」に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項19に「ASTM D3330に準ずる180°剥離強度試験において、剥離強度が0.3gf/mm以上であることを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載の正極。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、 「正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上であり、 ASTM D3330に準ずる180°剥離強度試験において、剥離強度が0.3gf/mm以上であることを特徴とする、正極。」に訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項20に「請求項1ないし19のうちいずれか1項に記載の正極」と記載されているのを「請求項1から10及び12から19のうちいずれか1項に記載の正極」に訂正する。 2.訂正の適否についての判断 (1)一群の請求項について 訂正前の請求項1ないし20について、請求項2ないし20は請求項1を直接または間接に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1ないし20に対応する訂正後の請求項1ないし20は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア.訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1に係る発明において、バインダが含む「第1非フッ素系バインダ」について、「シアノ基を含む」ことの限定を付加するものである。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、上記限定に関して、訂正前の請求項11に「前記第1非フッ素系バインダがシアノ基を含むことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の正極。」と記載されており、また、本件特許明細書の段落【0030】には「例示的な1つの正極において、第1非フッ素系バインダは、シアノ基を含む。・・」と記載されている。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 また、訂正事項1は上述のとおり、請求項1に係る発明において、バインダが含む「第1非フッ素バインダ」について「シアノ基を含む」ことの限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 イ.訂正事項2について 訂正事項2は、請求項11を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 ウ.訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項12が請求項1から10のいずれか一項を引用する記載であったものを、請求項2ないし10の引用を削除するとともに、請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して請求項1の記載を引用しないものとして独立形式の請求項へ改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 そして、訂正事項3は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに独立形式の請求項へ改めただけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 エ.訂正事項4について 訂正事項4は、訂正前の請求項13が請求項1から12のいずれか一項を引用する記載であったところ、上記訂正事項2による訂正によって請求項11が削除されたことに伴い、削除された請求項11を引用しているという不明瞭な状態を解消するために請求項1から10及び12のいずれか一項を引用する記載としたものであるといえ、特許法第120条の5第第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 そして、訂正事項4は上述のとおり、削除された請求項11の引用という不明瞭な状態を正すものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 オ.訂正事項5について 訂正事項5は、訂正前の請求項14が請求項1から13のいずれか一項を引用する記載であったところ、上記訂正事項2による訂正によって請求項11が削除されたことに伴い、削除された請求項11を引用しているという不明瞭な状態を解消するために請求項1から10、12、及び13のいずれか一項を引用する記載としたものであるといえ、特許法第120条の5第第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 そして、訂正事項5は上述のとおり、削除された請求項11の引用という不明瞭な状態を正すものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 カ.訂正事項6について 訂正事項6は、訂正前の請求項15が請求項1から14のいずれか一項を引用する記載であったものを、請求項2ないし14の引用を削除するとともに、請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して請求項1の記載を引用しないものとして独立形式の請求項へ改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 そして、訂正事項6は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに独立形式の請求項へ改めただけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 キ.訂正事項7について 訂正事項7は、訂正前の請求項17が請求項1から16のいずれか一項を引用する記載であったものを、請求項2ないし16の引用を削除するとともに、請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して請求項1の記載を引用しないものとして独立形式の請求項へ改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 そして、訂正事項7は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに独立形式の請求項へ改めただけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 ク.訂正事項8について 訂正事項8は、訂正前の請求項18が請求項1から17のいずれか一項を引用する記載であったものを、請求項2ないし17の引用を削除するとともに、請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して請求項1の記載を引用しないものとして独立形式の請求項へ改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 そして、訂正事項8は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに独立形式の請求項へ改めただけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 ケ.訂正事項9について 訂正事項9は、訂正前の請求項19が請求項1から18のいずれか一項を引用する記載であったものを、請求項2ないし18の引用を削除するとともに、請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して請求項1の記載を引用しないものとして独立形式の請求項へ改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 そして、訂正事項9は上述のとおり、引用する請求項の一部を削除するとともに独立形式の請求項へ改めただけであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 コ.訂正事項10について 訂正事項10は、訂正前の請求項20が請求項1ないし19のうちいずれか1項を引用する記載であったところ、上記訂正事項2による訂正によって請求項11が削除されたことに伴い、削除された請求項11を引用しているという不明瞭な状態を解消するために請求項1から10及び12から19のうちいずれか1項を引用する記載としたものであるといえ、特許法第120条の5第第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 そして、訂正事項10は上述のとおり、削除された請求項11の引用という不明瞭な状態を正すものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (3)独立特許要件について 訂正事項1ないし3、6ないし9については「特許請求の範囲の減縮」を目的として含むものであるところ、本件においては、訂正前の請求項1ないし11、13ないし20について特許異議の申立てがなされている一方、訂正前の請求項12については特許異議の申し立てがなされていない。したがって、請求項12に係る訂正事項3に関しては、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件が課されることになる。 しかしながら、請求項12で特定する「前記第1非フッ素系バインダが、アクリロニトリル系単量体に由来する反復単位と、オレフィン系単量体に由来する反復単位と」を含むことについては、特許異議申立人が提出した甲第2号証ないし甲第4号証のいずれにも記載がない。一方、甲第1号証には、段落【0058】には「・・バインダは、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、・・アクリロニトリル-ブタジエンゴム、・・またはこれらの組み合わせの群から選択されるのが好ましい。」と記載され、このうちの「アクリロニトリル-ブタジエンゴム」は、「アクリロニトリル系単量体に由来する反復単位と、オレフィン系単量体に由来する反復単位と」を含む「非フッ素系バインダ」であるといえるものである。しかしながら、そもそも甲第1号証には、ポリマー性バインダとして「極性官能基含有」の「フッ素系バインダ」と「非フッ素系バインダ」との組み合わせに着目した記載はなく、甲第1号証の段落【0060】には「分散液媒体としてのNMPと、分散助剤としてのPVP、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピリジン、ポリスチレンまたはポリビニルピリジン-ポリスチレンブロックコポリマーと、バインダとしてのPVdFと、電極材料としてのNMCとの組み合わせがさらに好ましい。」とも記載されていることを踏まえると、ポリマー性バインダとしてあえて極性官能基を含有するフッ素系バインダ(ポリフッ化ビニリデン(PVdF))を用いることに加えて、さらにアクリロニトリル系単量体に由来する反復単位とオレフィン系単量体に由来する反復単位とを含む非フッ素系バインダであるといえる「アクリロニトリル-ブタジエンゴム」を組み合わせるようにすべき動機があるとはいえない。したがって、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明や技術事項によって請求項12に係る発明の新規性、進歩性を否定することはできず、また、他に証拠を発見しない。 そして、請求項12に係る発明について、新規性や進歩性以外の独立特許要件違反となる理由も発見しない。 よって、請求項12に係る訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合するといえる。 3.訂正の適否についてのむすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定、及び同条第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。 なお、特許権者からは、訂正後の請求項12、15~19について、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することの求めがなされているが、訂正する請求項1、12を請求項13や請求項14が引用し、訂正する請求項1、12、15、17ないし19を請求項20が引用しており、請求項1ないし20で一群の請求項を形成しているといえるから、当該別の請求単位とする求めは認められない。 よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認める。 第3 当審の判断 1.本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明11」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。 「【請求項1】 正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上であり、 前記第1非フッ素系バインダがシアノ基を含むことを特徴とする、正極。 【請求項2】 前記線形炭素系導電材が、炭素ナノチューブ(CNT)、炭素ナノファイバ及び炭素ナノロッドのうちから選択された1以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の正極。 【請求項3】 前記導電材が、前記線形炭素系導電材以外に、粒子状炭素系導電材をさらに含み、前記線形炭素系導電材の縦横比が2以上であり、前記粒子状炭素系導電材の縦横比が2未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の正極。 【請求項4】 前記粒子状炭素系導電材が、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、天然黒鉛及び人造黒鉛のうちから選択された1以上を含むことを特徴とする請求項3に記載の正極。 【請求項5】 前記線形炭素系導電材と前記粒子状炭素系導電材との重量比が、90:10ないし10:90であることを特徴とする請求項3または4に記載の正極。 【請求項6】 前記第1フッ素系バインダの含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、2wt%以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の正極。 【請求項7】 前記第1フッ素系バインダが、 極性官能基を含む単量体由来の反復単位と、 フッ化ビニリデン由来の反復単位と、 選択的に、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロビニル及びパーフルオロアルキルビニルエーテルからなる群のうちから選択された1以上のフッ素含有単量体由来の反復単位と、を含み、 重量平均分子量が1,000,000Dalton以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の正極。 【請求項8】 極性官能基非含有第2フッ素系バインダをさらに含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の正極。 【請求項9】 前記第2フッ素系バインダがフッ化ビニリデン系バインダであり、重量平均分子量が1,000,000Dalton以下であることを特徴とする請求項8に記載の正極。 【請求項10】 前記第1フッ素系バインダと前記第2フッ素系バインダとの重量比が、90:10ないし10:90であることを特徴とする請求項8または9に記載の正極。 【請求項11】 (削除) 【請求項12】 正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上であり、 前記第1非フッ素系バインダが、アクリロニトリル系単量体に由来する反復単位と、オレフィン系単量体に由来する反復単位と、を含むことを特徴とする、正極。 【請求項13】 前記リチウム遷移金属酸化物が下記化学式2で表示される化合物であることを特徴とする請求項1から10及び12のいずれか一項に記載の正極: (化学式2) LiaNixCoyMzO2-bAb 前記化学式2で、 1.0≦a≦1.2、0≦b≦0.2、0.3≦x<1.0、0<y≦0.4、0<z≦0.4、x+y+z=1であり、Mは、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、ガリウム(Ga)、シリコン(Si)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)及びホウ素(B)からなる群から選択された1以上であり、Aは、F、S、Cl、Br、またはそれらの組み合わせである。 【請求項14】 前記リチウム遷移金属酸化物が、下記化学式3あるいは4で表示される化合物であることを特徴とする請求項1から10、12、及び13のいずれか一項に記載の正極: (化学式3) LiNixCoyMnzO2 (化学式4) LiNixCoyAlzO2 前記式で、0.3≦x<1.0、0<y≦0.4、0<z≦0.4である。 【請求項15】 正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上であり、 前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、正極活物質95ないし98.9重量%、導電材1ないし4重量%、及びバインダ0.01ないし2重量%を含み、ローディング量が3.0mAh/cm2以上であることを特徴とする、正極。 【請求項16】 前記ローディング量が5.0mAh/cm2以上であることを特徴とする請求項15に記載の正極。 【請求項17】 正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上であり、 ASTM D790に準ずる曲げ特性試験において、90°以上曲げられた後にも破断されないことを特徴とする、正極。 【請求項18】 正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上であり、 ASTM D790に準ずる曲げ特性試験において、最大曲げ強度が1.0N以下であることを特徴とする、正極。 【請求項19】 正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上であり、 ASTM D3330に準ずる180°剥離強度試験において、剥離強度が0.3gf/mm以上であることを特徴とする、正極。 【請求項20】 請求項1から10及び12から19のうちいずれか1項に記載の正極と、 負極と、 前述の正極と負極との間に配置される電解質と、を含むリチウム電池。」 2.取消理由通知に記載した取消理由について (1)取消理由の概要 令和6年11月7日付け取消理由通知に記載した取消理由(理由A及び理由B)の概要は、次のとおりである。 (1-1)理由A(新規性) 請求項1ないし5、7、13、14、20に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし5、7、13、14、20に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (1-2)理由B(進歩性、引用例1を主引例とする場合) 請求項8ないし10に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1に記載された発明及び引用例3に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項8ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (1-3)理由B(進歩性、引用例2を主引例とする場合) 請求項1ないし10、13、14、20に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例2に記載された発明及び引用例1、3に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし10、13、14、20に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 引用例1:特表2016-514080号公報(甲第1号証) 引用例2:国際公開第2018/054231号(甲第2号証) 引用例3:国際公開第2014/051067号(甲第3号証) (2)引用例の記載事項 (2-1)引用例1 取消理由通知において引用した引用例1(特表2016-514080号公報、甲第1号証)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「【請求項1】 分散液媒体、ポリマー性分散助剤および前記分散液媒体に分散したカーボンナノチューブを含む分散液であって、カーボンナノチューブの総量において≧1μmの平均アグロメレートサイズを有するアグロメレート中に存在するカーボンナノチューブの割合が≦40体積%であり、非アグロメレート化形態で存在するカーボンナノチューブの≧70重量%が≧200nmの長さを有することを特徴とする、分散液。 ・・・・(中 略)・・・・ 【請求項3】 前記分散助剤が、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリビニルピリジン(例えばポリ(4-ビニルピリジン)またはポリ(2-ビニルピリジン))、ポリスチレン(PS)、ポリ(4-ビニルピリジン-co-スチレン)、ポリ(スチレンスルホネート)(PSS)、リグノスルホン酸、リグノスルホネート、ポリ(フェニルアセチレン)(PPA)、ポリ(メタ-フェニレンビニレン)(PmPV)、ポリピロール(PPy)、ポリ(p-フェニレンベンゾビスオキサゾール)(PBO)、天然ポリマー、アニオン性脂肪族界面活性剤、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリオキシエチレン界面活性剤、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、セルロース誘導体、異なるセルロース誘導体の混合物、ポリビニルクロリド(PVC)、多糖類、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアミド、ポリイミド、ブロックコポリマー(例えば、アクリルブロックコポリマー、エチレンオキシド-プロピレンオキシドコポリマー)およびこれらの混合物の群から選択される、請求項1または2に記載の分散液。 ・・・・(中 略)・・・・ 【請求項11】 請求項1から6のいずれか一項に記載の分散液、電極材料およびポリマー性バインダを含む電極の製造のための組成物であって、ここで前記バインダが、少なくとも部分的に溶解した形態で組成物中に存在する、組成物。 【請求項12】 前記電極材料が、LiNixMnyAlzCo1-x-y-zO2(0≦x,y,z≦1およびx+y+z≦1)、LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2、LiCoO2、LiNi0.7Co0.3O2、LiNi0.8Co0.2O2、LiNi0.9Co0.1O2、LiNiO2、LiMn2O4、LiMn1.5(Co,Fe,Cr)0.5O4、LiNixAlyCo1-x-yO2(0≦x,y≦1およびx+y≦1)、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi0.78Co0.19Al0.03O2、LiNi0.78Co0.19Al0.03MxO2(x=0.0001~0.05、M=アルカリ金属またはアルカリ土類金属)、LiFePO4、Li2FeP2O7、LiCoPO4、Li1+xMyMn2-x-yO4(M=Al、Cr、Ga)、LiTiS2、Li2V2O5、LiV3O8、Li2TiS3、Li3NbSe3、Li2TiO3、硫黄、ポリスルフィドおよび/または硫黄含有材料の群から選択される、請求項11に記載の組成物。」 イ.「【0053】 本発明はさらに、電極製造のための組成物に関し、本発明の分散液、電極材料およびポリマー性バインダを含み、ここでバインダは、少なくとも部分的に溶解した形態で組成物中に存在する。粒子状グラファイトまたは導電性カーボンブラックは、導電性材料としての組成物に添加されていてもよい。」 ウ.「【0056】 組成物の好ましい実施形態において、電極材料は、LiNixMnyAlzCo1-x-y-zO2(0≦x,y,z≦1およびx+y+z≦1)、LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2、LiCoO2、LiNi0.7Co0.3O2、LiNi0.8Co0.2O2、LiNi0.9Co0.1O2、LiNiO2、LiMn2O4、LiMn1.5(Co,Fe,Cr)0.5O4、LiNixAlyCo1-x-yO2(0≦x,y≦1およびx+y≦1)、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi0.78Co0.19Al0.03O2、LiNi0.78Co0.19Al0.03MxO2(x=0.0001~0.05、M=アルカリ金属またはアルカリ土類金属)、LiFePO4、Li2FeP2O7、LiCoPO4、Li1+xMyMn2-x-yO4(M=Al、Cr、Ga)、LiTiS2、Li2V2O5、LiV3O8、Li2TiS3、Li3NbSe3、Li2TiO3、硫黄、ポリスルフィドおよび/または硫黄含有材料の群から選択される。材料は、マイクロまたはナノ粒子の形態で存在してもよい。この種類の材料を用いて、正極を創出できる。」 エ.「【0058】 同様に、バインダは、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ブタジエンゴムのタイプ、例えばスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ポリアクリル酸またはこれらの組み合わせの群から選択されるのが好ましい。 【0059】 分散液媒体としてのNMPと、分散助剤としてのPVP、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピリジン、ポリスチレンまたはポリビニルピリジン-ポリスチレンブロックコポリマーと、バインダとしてのPVdFとの組み合わせが特に好ましい。 【0060】 分散液媒体としてのNMPと、分散助剤としてのPVP、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピリジン、ポリスチレンまたはポリビニルピリジン-ポリスチレンブロックコポリマーと、バインダとしてのPVdFと、電極材料としてのNMCとの組み合わせがさらにより好ましい。」 オ.「【0067】 略号「NMC]は、電極活物質LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2(Toda Kogyo Corp.Japan)に関して使用される。PVDFは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF,SOLEF(登録商標)5130/1001,Solvay)を示し、PVPは、ポリビニルピロリドン(PVP K30,Sigma-Aldrich 81420)を示し、NMPは、1-メチル-2-ピロリジノン(Sigma-Aldrich 328634)を示し、CMCは、カルボキシメチルセルロース(Walocel CRT 30G,Dow Chemicals)を示す。「SuperP(登録商標)Li」は、市販の導電性カーボンブラック(TIMCAL Graphite&Carbon,Switzerland)である。特に断らない限り、使用されるCNTは、約70g/dm3のバルク密度を有し、約130m2/gの比BET表面積を有するBaytubes C70P(Bayer MaterialScience,Leverkusen)、または約150g/dm3のバルク密度を有し、約210m2/gの比BET表面積を有するBaytubesC150P(Bayer MaterialScience,Leverkusen)である。 【0068】 [実施例1a]:分散液媒体としてNMPを用いる本発明の分散液の製造 50gの約130m2/gの比BET表面積を有するC70Pタイプ(Bayer M aterialScience,Leverkusen)のカーボンナノチューブを、ナイフミル(Retsch, Grindomix GM300)を用いて60分間粉砕した。5gのポリビニルピロリドン(PVPK30,Sigma-Aldrich81420)を、945gの1-メチル-2-ピロリジノン(Sigma-Aldrich 328634)中に、撹拌しながら完全に溶解させた。粉砕材料を、調製された溶液と続いて混合し、ローター-ステーターシステム(Fluid Kotthoff GmbH)で90分間均質化した。その後、材料を、撹拌器を備えた貯蔵容器に導入し、そこからこの材料をジェット分散機に送った。ジェット分散機は、0.5mmの直径を有する円形ノズルを備えていた。ポンプにより、160barの圧力にてノズルオリフィスを通して分散液を運び、次いで貯蔵容器に戻した。60パスの後、直径0.4mmを有するノズルを使用し、圧力を190barに上昇させ、分散操作を、さらに60パス行った。CNTの質量に基づいて総エネルギーインプットは、約42000kJ/kgであった。 ・・・・(中 略)・・・・ 【0080】 [実施例5]:カーボンナノチューブの質量で異なる割合を用いた実施例1に従う分散液からの本発明のスラリーの製造 3gのポリフッ化ビニリデン(PVDF,SOLEF(登録商標)5130/1001,Solvay)を、30℃で4時間撹拌(約500rpm)することによって、約25mLの1-メチル-2-ピロリジノン(NMP,Sigma-Aldrich328634)に溶解させた。このNMP/PVDF溶液に、30gの実施例1からの分散液(1.5gの量のCNTを含有する)を添加し、混合物を約2.5h(約2000rpm)間室温で撹拌した。その後、さらに44.5gのNMC活物質(NM3100,Toda Kogyo Corp.)および1.0gのグラファイト(TimcalからのKS6L)を添加し、撹拌を700rpmで60分間継続した。このスラリーの固形分含有量は50gであり、固形分構成成分は、6重量%のPVDF、3重量%のCNT、0.3重量%のポリビニルピロリドン、2重量%のグラファイトおよび88.7重量%のNMC活物質を含有していた。添加された実施例1からの分散液の量を変動させることによって、広範囲にわたってスラリー中のCNTの量を増大または低減できる。対応する様式において、総固形分含有量が再び50gとなるように、添加されたNMC活物質の量を調整することがそれぞれの場合において必要である。このようにして、同じ量のPVDFおよびグラファイトを用いて、CNT含有量を広い範囲にわたって変動させ得る。 ・・・・(中 略)・・・・ 【0083】 [実施例7]:異なる割合の導電性添加剤を有する本発明の電極の製造 必要に応じて、実施例5のスラリーは、1-メチル-2-ピロリジノン(NMP,Sigma-Aldrich328634)を用いて、1/sの剪断速度にて約5~約30Pa・sの粘度を有するような程度まで希釈した(Anton Paarレオメータ、MCRシリーズで測定)。続いて、スラリーを、コーティングバーを用いて30μmの厚さのアルミニウム箔上にコーティングした(湿潤フィルム厚さ:120μmのターゲット値)。このフィルムを、続いて60℃にて18時間乾燥させた。続いて、この乾燥フィルムを、7000kg/cm2の圧力で圧縮した(カレンダ加工した)。」 上記「ア.」ないし「オ.」から以下のことがいえる。 ・上記「ア.」の【請求項11】、「イ.」の記載によれば、引用例1には、所定の分散液、電極材料およびポリマー性バインダを含む組成物を用いて製造された電極について記載されているといえる。 ・上記「ア.」の【請求項1】の記載によれば、所定の分散液は、分散液媒体、ポリマー性分散助剤および分散液媒体に分散されたカーボンナノチューブを含むものである。 ・上記「ア.」の【請求項3】、「エ.」の記載によれば、ポリマー性分散助剤としては例えばポリビニルピロリドン(PVP)が選択され、また、上記「ア.」の【請求項12】、「ウ.」の記載によれば、電極材料としては例えばLiNi0.33Mn0.33Co0.33O2が選択され、さらに、上記「エ.」の記載によれば、ポリマー性バインダとしては例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)が選択されるものである。 そして、上記「オ.」の記載によれば、実施例7に係る実施例5のスラリー(組成物)を用いて製造された電極にあっては、固形分構成成分として6重量%のポリマー性バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、3重量%のカーボンナノチューブ(CNT)、0.3重量%のポリマー性分散助剤としてのポリビニルピロリドン(PVP)、2重量%のグラファイト、および88.7重量%のNMC活物質を含有するスラリーをアルミニウム箔上にコーティングし、乾燥、圧縮して得られるものである。ここで、NMC活物質は、LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2であり、ポリマー性バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)には、SOLEF 5130/1001,Solvayが用いられてなるものである。 以上のことから、特に実施例7に係る実施例5のスラリー(組成物)を用いて製造された電極である正極に着目し、上記記載を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。 「固形分構成成分として6重量%のポリマー性バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、3重量%のカーボンナノチューブ(CNT)、0.3重量%のポリマー性分散助剤としてのポリビニルピロリドン(PVP)、2重量%のグラファイト、および88.7重量%のNMC活物質を含有するスラリーをアルミニウム箔上にコーティングし、乾燥、圧縮して得られた正極であって、 前記NMC活物質は、LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2であり、 前記ポリマー性バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)には、SOLEF 5130/1001,Solvayが用いられてなる、正極。」 (2-2)引用例2 取消理由通知において引用した引用例2(国際公開第2018/054231号、甲第2号証)には、以下の各記載がある。なお、国内段階において公表された特表2019-533126号公報の記載を翻訳文として付記する(下線は当審で付与した。)。 ア.「[0067] A positive electrode includes a cathode electrode layer supported on a cathode current collector. The cathode electrode layer comprises at least a cathode material and a binder material. The cathode electrode layer may further comprise a conductive agent for enhancing electron conductivity of the cathode electrode layer. A negative electrode includes an anode electrode layer supported on an anodecurrent collector. The anode electrode layer comprises at least an anode material and a binder material. The anode electrode layer may further comprise a conductive agent for enhancing electron conductivity of the anode electrode layer.」 ([0067] 正極は、カソード集電体上に支持されたカソード電極層を含む。カソード電極層は、少なくともカソード材料とバインダー材料とを備える。カソード電極層は、カソード電極層の電子伝導性を高めるための導電剤をさらに備えてもよい。負極は、アノード集電体上に支持されたアノード電極層を含む。アノード電極層は、少なくともアノード材料とバインダー材料とを備える。アノード電極層は、アノード電極層の電子伝導性を高めるための導電剤をさらに備えてもよい。) イ.「[0075] In certain embodiments, the cathode active material is a nickel-containing cayhode active material.・・・・ In certain embodiments, the nickel-containing cathode active material is selected from the group consisting of LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2 (NMC333) , LiNi0.4Mn0.4Co0.2O2 (NMC442) , LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2 (NMC532) , LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2 (NMC622) , LiNi0.7Mn0.15Co0.15O2 , LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2 (NMC811) , Li0.9Mn0.05Co0.05O2 , LiNi0.92Mn0.04Co0.04O2 , LiNi0.8Co0.15Al0.05O2 (NCA), LiNi0.5Mn0.5O2 , LiNi0.6Mn0.4O2 , LiNi0.7Mn0.3O2 , LiNi0.8Mn0.2O2 , LiNi0.5Co0.5O2 , LiNi0.6Co0.4O2 , LiNi0.7Co0.3O2 , LiNi0.8Co0.2O2 , LiNiO2 , and combinations thereof. The nickel-containing composite oxide is relatively unstable in a moisture-containing environment. Therefore, performance of the cathode comprising the nickel-rich cathode active material is strongly affected by the residual moisture content in a battery.」 ([0075] ある実施形態において、カソード活物質はニッケル含有カソード活物質である。・・・・ある実施形態において、ニッケル含有カソード活物質は、LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2(NMC333)、LiNi0.4Mn0.4Co0.2O2(NMC442)、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2(NMC532)、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2(NMC622)、LiNi0.7Mn0.15Co0.15O2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2(NMC811)、Li0.9Mn0.05Co0.05O2、LiNi0.92Mn0.04Co0.04O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2(NCA)、LiNi0.5Mn0.5O2、LiNi0.6Mn0.4O2、LiNi0.7Mn0.3O2、LiNi0.8Mn0.2O2、LiNi0.5Co0.5O2、LiNi0.6Co0.4O2、LiNi0.7Co0.3O2、LiNi0.8Co0.2O2、LiNiO2、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。ニッケル含有複合酸化物は、水分含有環境において比較的不安定である。したがって、ニッケルを多量に含有するカソード活物質を含むカソードの性能は、バッテリ内の残留水分量によって強く影響される。) ウ.「[0078] In some embodiments, the conductive agent is selected from the group consisting of carbon, carbon black, graphite, expanded graphite, graphene, graphene nanoplatelets, carbon fibres, carbon nano-fibers, graphitized carbon flake, carbon tubes, carbon nanotubes, activated carbon, mesoporous carbon, and combinations thereof. In certain embodiments, the conductive agent is not carbon, carbon black, graphite, expanded graphite, graphene, graphene nanoplatelets, carbon fibres, carbon nano-fibers, graphitized carbon flake, carbon tubes, carbon nanotubes, activated carbon, or mesoporous carbon. [0079] In certain embodiments, the amount of the conductive agent in each of the cathode and anode electrode layers is independently at least 1%, at least 2%, at least 3%, at least 4%, at least 5%, at least 10%, at least 15%, at least 20%, at least 25%, at least 30%, at least 35%, at least 40%,at least 45%, or at least 50%by weight, based on the total weight of the cathode or anode electrode layer. In some embodiments, the amount of the conductive agent in each of the cathode and anode electrode layers is independently at most 1%, at most 2%, at most 3%, at most 4%, at most 5%, atmost 10%, at most 15%, at most 20%, at most 25%, at most 30%, at most 35%, at most 40%, at most 45%, or at most 50%by weight, based on the total weight of the cathode or anode electrode layer.」 ([0078] いくつかの実施形態において、導電剤は、カーボン、カーボンブラック、グラファイト、膨張グラファイト、グラフェン、グラフェンナノプレートレット、炭素繊維、カーボンナノファイバー、グラファイト化カーボンフレーク、カーボンチューブ、カーボンナノチューブ、活性炭、メソポーラスカーボン、およびそれらの組み合わせから選択される。ある実施形態では、導電剤は、カーボン、カーボンブラック、グラファイト、膨張グラファイト、グラフェン、グラフェンナノプレートレット、炭素繊維、カーボンナノファイバー、グラファイト化カーボンフレーク、カーボンチューブ、カーボンナノチューブ、活性炭、またはメソポーラスカーボンではない。 [0079] ある実施形態において、カソード電極層およびアノード電極層それぞれにおける導電剤の量は、カソード電極層またはアノード電極層の総重量に基づいて、独立して、少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、少なくとも3重量%、少なくとも4重量%、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、少なくとも40重量%、少なくとも45重量%、または少なくとも50重量%である。いくつかの実施形態において、カソード電極層およびアノード電極層それぞれにおける導電剤の量は、カソード電極層またはアノード電極層の総重量に基づいて、独立して、最大1重量%、最大2重量%、最大3重量%、最大4重量%、最大5重量%、最大10重量%、最大15重量%、最大20重量%、最大25重量%、最大30重量%、最大35重量%、最大40重量%、最大45重量%、または最大50重量%である。 ) エ.「[00116] In certain embodiments, each of the binder materials in the cathode and anode electrode layers is independently selected from the group consisting of styrene-butadiene rubber, carboxymethyl cellulose,polyvinylidene fluoride, acrylonitrile copolymer, polyacrylic acid, polyacrylonitrile, poly (vinylidene fluoride) -hexafluoropropene, latex, a salt of alginic acid, and combinations thereof.」 ([00116] ある実施形態において、カソード電極層およびアノード電極層におけるバインダー材料はそれぞれ、独立して、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデン、アクリロニトリルコポリマー、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフルオロプロペン、ラテックス、またはアルギン酸塩およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。) オ.「Example 1 A) Preparation of positive electrode slurry [00129] A positive electrode slurry was prepared by mixing 94 wt. %cathode material (LNMC TLM 310, obtainedfrom Xinxiang Tianli Energy Co. Ltd., China) , 3 wt.% carbon black (SuperP; obtained from TimcalLtd, Bodio, Switzerland) as a conductive agent, and 0.8 wt.% polyacrylic acid (PAA, #181285, obtained from Sigma-Aldrich, US) , 1.5 wt.% styrene butadiene rubber (SBR, AL-2001, obtained from NIPPONA&L INC., Japan) and 0.7 wt.% polyvinylidene fluoride (PVDF; 5130, obtained from Solvay S.A., Belgium) as a binder, which were dispersed in deionized water to form a slurry with a solid content of 50 wt.%. The slurry was homogenized by a planetary stirring mixer. B) Preparation of positive electrode [00130] The homogenized slurry was coated onto both sides of an aluminum foil having a thickness of 20 μm using a transfer coater (ZY-TSF6-6518, obtained from Jin Fan Zhanyu New Energy Technology Co. Ltd., China) with an area density of about 26 mg/cm2. The coated films on the aluminum foil were dried for 3 minutes by a 24-meter-long conveyor hot air drying oven as a sub-module of the transfer coater operated at a conveyor speed of about 8 meters/minute to obtain a positive electrode. The temperature-programmed oven allowed a controllable temperature gradient in which the temperature gradually rosefrom the inlet temperature of 60 ℃ to the outlet temperature of 75 ℃.・・」 (実施例1 A)正極スラリーの作製 [00129] 脱イオン水中に分散させた、94重量%のカソード材料(LNMC TLM 310、中国の新郷ティアンリエネルギー有限公司(Xinxiang Tianli Energy Co. Ltd., China)より入手)と、導電剤として3重量%のカーボンブラック(SuperP、スイス国ボディオのティムカル社(Timcal Ltd)より入手)と、0.8重量%のポリアクリル酸(PAA、#181285、米国のシグマ・オルドリッチ社 (Sigma-Aldrich, US)より入手)と、1.5重量%のスチレンブタジエンゴム(SBR、AL-2001、日本国の日本A&L社 (NIPPON A&L INC., Japan)より入手)と、バインダーとして0.7重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF, Solef(登録商標) 5130、ベルギー国のソルヴェイ・エセ・アー社 (Solvay S.A., Belgium)より入手)とを混合して正極スラリーを作製し、50重量%の固形分を有するスラリーを形成した。スラリーをプラネタリー撹拌ミキサーで均質化した。 B)正極スラリーの作製 [00130] 均質化されたスラリーを、約26mg/m2の面積密度を有するトランスファーコーター(ZY-TSF6-6518、金帆展宇新能源科技有限公司(Jin Fan Zhanyu New Energy Technology Co., Ltd., China)社製)を用いて厚さ20μmのアルミニウム箔の両面にコーティングした。約8m/分のコンベア速度で動作されるトランスファーコーターのサブモジュールとして24mの長さのコンベア熱風乾燥オーブンによりアルミニウム箔上の被覆膜を3分間乾燥させて正極を得た。温度プログラムオーブンは、温度が60℃の入口温度から75℃の出口温度に徐々に上昇する制御可能な温度勾配を可能にした。・・) カ.「[00188] The formulations of the pouch cell of each of these Examples and Comparative Examples are summarizedin Table 1 below. The drying conditions of the electrode assembly of each of these Examples and Comparative Examples are shown in Table 2 below. The moisture contents of the electrode assembly, electrodes and separators, and capacity retentions of the cell of each of these Examples and ComparativeExamples are shown in Table 3. The electrochemical tests of these Examples show the good electrochemical stability of the battery in a wide range of potential, as well as outstanding cycle performance. Table 1 [図:0001425745000001.jpg] [図:0001425745000002.jpg] 」 ([00188] これらの実施例および比較例のそれぞれのパウチセルの調合物を下記表1にまとめる。これらの実施例および比較例のそれぞれの電極アセンブリの乾燥条件を下記表2に示す。電極アセンブリ、電極、およびセパレータの含水量、およびこれらの実施例および比較例のそれぞれのセルの容量維持率を表3に示す。これらの実施例の電気化学的試験は、広範囲の電位におけるバッテリの良好な電気化学的安定性、ならびに優れたサイクルパフォーマンスを示す。)(「Table 1」(表1)は省略) 上記「ア.」ないし「カ.」から以下のことがいえる。 ・上記「ア.」の記載によれば、引用例2には、カソード集電体上に支持されたカソード電極層を含む正極について記載されており、カソード電極層は、少なくともカソード材料とバインダー材料とを備え、さらに導電剤を備えてもよいものである。 ・上記「イ.」の記載によれば、カソード材料(カソード活物質)としてはニッケル含有カソード活物質であり、例えばLiNi0.33Mn0.33Co0.33O2(NMC333)が選択され、また、上記「ウ.」の記載によれば、導電剤としては例えばカーボンブラック、カーボンナノチューブが選択され、その量は、例えばカソード電極層の総重量に基づいて少なくとも1重量%であり、さらに、上記「エ.」の記載によれば、バインダー材料としては例えばポリフッ化ビニリデンが選択されるものである。 そして、上記「オ.」 、「カ.」の記載によれば、実施例1に係る正極スラリーを用いて作製された正極にあっては、94重量%のカソード材料と、導電剤として3重量%のカーボンブラックと、バインダー材料として0.8重量%のポリアクリル酸、1.5重量%のスチレンブタジエンゴム、及び0.7重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを混合した正極スラリーをアルミニウム箔の両面にコーティングし、乾燥して得られるものである。ここで、カソード材料には、LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2(NMC333)が用いられ、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)には、Solef 5130,Solvay S.A.,Belgiumが用いられてなるものである。 以上のことから、特に実施例1に係る正極スラリーを用いて作製された正極に着目し、上記記載を総合勘案すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。 「94重量%のカソード材料と、導電剤として3重量%のカーボンブラックと、バインダー材料として0.8重量%のポリアクリル酸、1.5重量%のスチレンブタジエンゴム、及び0.7重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを混合した正極スラリーをアルミニウム箔の両面にコーティングし、乾燥して得られた正極であって、 前記カソード材料には、LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2(NMC333)が用いられ、 前記ポリフッ化ビニリデン(PVDF)には、Solef 5130,Solvay S.A.,Belgiumが用いられてなる、正極。」 (3)取消理由についての当審の判断 (3-1)理由A(新規性)について ア.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と引用発明1とを対比する。 a.引用発明1の正極は、固形分構成成分としてポリマー性バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリマー性分散助剤としてのポリビニルピロリドン(PVP)、グラファイト、およびNMC活物質を含有するスラリーを用いて得られるものであるところ、このうちの「NMC活物質」は、本件発明1でいう「正極活物質」に相当する。また、「カーボンナノチューブ(CNT)」及び「グラファイト」は、通常、導電性のある材料であり、本件発明1でいう「導電材」に相当する。さらに、「ポリビニルピロリドン(PVP)」は、分散助剤として用いられるものであるが、本件特許明細書の段落【0020】の「また、該正極が第1非フッ素系バインダを含むことにより、線形炭素系導電材の分散性が向上する。」なる記載を参照するに、その機能が共通している当該「第1非フッ素系バインダ」に相当するとみることができ、したがって、ポリマー性バインダとしての「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)」に加えて「ポリビニルピロリドン(PVP)」が、本件発明1でいう「バインダ」に相当するといえる。 よって、本件発明1と引用発明1とは、「正極活物質と、導電材と、バインダとを含」むものである点で一致する。 b.引用発明1における「NMC活物質」は、LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2であり、これはニッケル(Ni)、及び1以上の他の遷移金属、すなわちMn、Coを含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物といえるものである。また、ニッケル(Ni)の含量は、遷移金属の全体モル数に対して33mol%であり、本件発明1で特定する「30mol%以上」の範囲に含まれる。 したがって、本件発明1と引用発明1とは、「前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して30mol%以上」である点で一致する。 c.上記a.で述べたように、引用発明1における「カーボンナノチューブ(CNT)」及び「グラファイト」が、本件発明1でいう「導電材」に相当するものであるところ、このうちの「カーボンナノチューブ(CNT)」が、本件発明1でいう「線形炭素系導電材」に相当する。 したがって、本件発明1と引用発明1とは、「前記導電材が線形炭素系導電材を含」むものである点で一致する。 d.上記a.で述べたように、引用発明1におけるポリマー性バインダとしての「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)」に加えて「ポリビニルピロリドン(PVP)」が、本件発明1でいう「バインダ」に相当し、このうちの「ポリビニルピロリドン(PVP)」は、本件発明1でいう「第1非フッ素系バインダ」に相当するとみることができるものである。そして、ポリマー性バインダとしての「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)」には、SOLEF 5130/1001,Solvayが用いられてなるものであるところ、本件特許明細書の段落【0072】の「第1フッ素系バインダ溶液(mPVDF、カルボン酸基(-COOH)含有改質PVDF、SOLEF 5130、重量平均分子量=1,000,000g/mol、Solvay、ベルギー)」なる記載からみて、引用発明1におけるポリマー性バインダとしての「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)」は、極性官能基であるカルボン酸基含有ポリフッ化ビニリデン(PVDF)であるといえ、本件発明1でいう「極性官能基含有第1フッ素系バインダ」に相当する。 したがって、本件発明1と引用発明1とは、「前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含」み、「前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上である」点で一致するといえる。 e.引用発明1における「カーボンナノチューブ(CNT)」は、スラリー中の固形分構成成分として3重量%であるから、本件発明1が線形炭素系導電材の含量として特定する「0.1wt%以上」の範囲に含まれる。 したがって、本件発明1と引用発明1とは、「前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上」である点で一致する。 f.上記a.で述べたように、引用発明1におけるポリマー性分散助剤としての「ポリビニルピロリドン(PVP)」は、本件発明1でいう「第1非フッ素系バインダ」に相当するとみることができるものであるが、当該「第1非フッ素系バインダ」について、本件発明1では「シアノ基」を含むことを特定するのに対して、引用発明1ではポリビニルピロリドン(PVP)であり、シアノ基を含まない点で相違する。 g.そして、引用発明1における「正極」は、本件発明1でいう「正極」に相当する。 よって、上記a.ないしg.によれば、本件発明1と引用発明1とは、 「正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して30mol%以上であり、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上である、正極。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 第1非フッ素系バインダについて、本件発明1では「シアノ基」を含むことを特定するのに対して、引用発明1ではポリビニルピロリドン(PVP)であり、シアノ基を含まない点。 (イ)判断 上記のとおり、相違点があるから、本件発明1は、引用例1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 イ.本件発明2ないし5、7、13、14、20について 請求項2ないし5、7、13、14、20は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点1に係る発明特定事項を有するものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明2ないし5、7、13、14、20は、引用例1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 ウ.まとめ 以上のとおりであるから、本件請求項1ないし5、7、13、14、20に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。 (3-2)理由B(進歩性、引用例1を主引例とする場合)について ア.本件発明8について (ア)対比 本件発明8と引用発明1とを対比すると、本件請求項8は本件請求項1を引用するものであるから、上記「(3-1)ア.(ア)」に記載したとおり、少なくとも上記[相違点1]において相違する。 (イ)判断 そこで、上記[相違点1]について検討する。 引用例1の段落【0058】には「・・バインダは、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、・・アクリロニトリル-ブタジエンゴム、・・またはこれらの組み合わせの群から選択されるのが好ましい。」と記載され、このうちの「アクリロニトリル-ブタジエンゴム」は、「シアノ基」を含む「非フッ素系バインダ」といえるものである。しかしながら、そもそも引用例1では、ポリマー性バインダにおける「フッ素系バインダ」として実施例5のスラリー(組成物)において極性官能基を含有するポリフッ化ビニリデン(PVdF)である「SOLEF 5130/1001,Solvay」が用いられてはいるものの、「フッ素系バインダ」の中でも特に「極性官能基含有」のものと「シアノ基」を含む「非フッ素系バインダ」との組み合わせに着目した記載はなく、引用例1の段落【0060】には「分散液媒体としてのNMPと、分散助剤としてのPVP、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピリジン、ポリスチレンまたはポリビニルピリジン-ポリスチレンブロックコポリマーと、バインダとしてのPVdFと、電極材料としてのNMCとの組み合わせがさらに好ましい。」とも記載されていることを踏まえると、引用発明1において、ポリマー性バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)としてあえて極性官能基を含有する「SOLEF 5130/1001,Solvay」を用いることに加えて、さらにシアノ基を含む非フッ素系バインダであるといえる「アクリロニトリル-ブタジエンゴム」を併用するようし、相違点1に係る構成とすべき動機があるとはいえない。 また、取消理由通知において引用した引用例3には、正極用結着剤に含まれるフッ素含有重合体(ポリフッ化ビニリデン)を、正極活物質同士の結着性や集電体と活物質との結着性、スラリーの均一性をより有効に保つために、低分子量体と高分子量体とを重量比30/70~70/30で併用する技術事項が記載(特に段落[0146]、[0153]~[0155]を参照)され、高分子量のポリフッ化ビニリデンとして引用発明1と同じソルベイ社製Solef5130が挙げられ、低分子量のポリフッ化ビニリデンとして例えばソルベイ社製Solef6008が挙げられている〔なお、甲第4号証(特開2011-56437号公報)の段落【0065】を参照するに、ソルベイ社製Solef6008は、フッ化ビニリデンホモポリマー(重量平均分子量23万)である〕。そしてさらに引用例3には、正極用結着剤としてフッ素含有重合体とともに「ニトリル基含有アクリル重合体」を併用することも記載(特に[請求項1]、[請求項4]、段落[0020]、[0087]~[0089])されているものの、引用例3においても、段落[0154]に高分子量のポリフッ化ビニリデンの一例として引用発明1と同じ極性官能基を含有するポリフッ化ビニリデンである「ソルベイ社製Solef5130」が挙げられているにすぎず、正極用結着剤として「フッ素系バインダ」(フッ素含有重合体)の中でも特に「極性官能基含有」のものと「シアノ基」を含む「非フッ素系バインダ」(ニトリル基含有アクリル重合体)との組み合わせに着目した記載があるわけではなく、引用例1について上述した点も踏まえると、引用発明1において、ポリマー性バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)としてあえて極性官能基を含有する「SOLEF 5130/1001,Solvay」を用いることに加えて、さらにシアノ基を含む非フッ素系バインダであるといえる「ニトリル基含有アクリル重合体」を併用するようし、相違点1に係る構成とすべき動機までは見出せない。 よって、本件発明8は、引用例1に記載された発明及び引用例3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.本件発明9、10について 請求項9、10は請求項8を引用するものであり、本件発明9、10は、本件発明8の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明8についての判断と同様の理由により、本件発明9、10は、引用例1に記載された発明及び引用例3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.まとめ 以上のとおりであるから、本件請求項8ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 (3-3)理由B(進歩性、引用例2を主引例とする場合)について ア.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と引用発明2とを対比する。 a.引用発明2の正極は、カソード材料と、導電材としてのカーボンブラックと、バインダー材料としてポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを混合した正極スラリーを用いて得られるものであるところ、このうちの「カソード材料」、「カーボンブラック」、「ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)」が、それぞれ本件発明1でいう「正極活物質」、「導電材」、「バインダ」に相当する。 したがって、本件発明1と引用発明2とは、「正極活物質と、導電材と、バインダとを含」むものである点で一致する。 b.引用発明2における「カソード材料」は、LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2(NMC333)であり、これはニッケル(Ni)、及び1以上の他の遷移金属、すなわちMn、Coを含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物といえるものである。また、ニッケル(Ni)の含量は、遷移金属の全体モル数に対して33mol%であり、本件発明1で特定する「30mol%以上」の範囲に含まれる。 したがって、本件発明1と引用発明2とは、「前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して30mol%以上」である点で一致する。 c.導電材について、本件発明1では「線形炭素系導電材」を含み、「前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上」であることを特定するのに対し、引用発明2ではそのような特定を有していない点で相違する。 d.引用発明2は、バインダー材料としてポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むものであるところ、このうちの「ポリアクリル酸」及び「スチレンブタジエンゴム」は、本件発明1でいう「第1非フッ素系バインダ」に相当するとみることができるものである。そして、「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)」には、Solef 5130,Solvay S.A.,Belgiumが用いられてなるものであるところ、本件特許明細書の段落【0072】の「第1フッ素系バインダ溶液(mPVDF、カルボン酸基(-COOH)含有改質PVDF、SOLEF 5130、重量平均分子量=1,000,000g/mol、Solvay、ベルギー)」なる記載からみて、引用発明2における「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)」は、極性官能基であるカルボン酸基含有ポリフッ化ビニリデン(PVDF)であるといえ、本件発明1でいう「極性官能基含有第1フッ素系バインダ」に相当する。 したがって、本件発明1と引用発明2とは、「前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含」み、「前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上である」点で一致するといえる。 e.上記d.で述べたように、引用発明2におけるバインダー材料に含まれる「ポリアクリル酸」及び「スチレンブタジエンゴム」は、本件発明1でいう「第1非フッ素系バインダ」に相当するとみることができるものであるが、当該「第1非フッ素系バインダ」について、本件発明1では「シアノ基」を含むことを特定するのに対して、引用発明2ではポリアクリル酸及びスチレンブタジエンゴムであり、シアノ基を含まない点で相違する。 f.そして、引用発明2における「正極」は、本件発明1でいう「正極」に相当する。 よって、上記a.ないしf.によれば、本件発明1と引用発明2とは、 「正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して30mol%以上であり、 前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上である、正極。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点2] 導電材について、本件発明1では「線形炭素系導電材」を含み、「前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上」であることを特定するのに対し、引用発明2ではそのような特定を有していない点。 [相違点3] 第1非フッ素系バインダについて、本件発明1では「シアノ基」を含むことを特定するのに対して、引用発明2ではポリアクリル酸及びスチレンブタジエンゴムであり、シアノ基を含まない点。 (イ)判断 事案に鑑み、まず上記[相違点3]について検討する。 引用例2の段落[00116]には「・・バインダ材料はそれぞれ、独立して、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデン、アクリロニトリルコポリマー、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリ(フッ化ビニリデン)-ヘキサフルオロプロペン、ラテックス、またはアルギン酸塩およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。」と記載され、このうちの「アクリロニトリルコポリマー」や「ポリアクリロニトリル」は、「シアノ基」を含む「非フッ素系バインダ」といえるものである。しかしながら、そもそも引用例2には、バインダーとして「フッ素系バインダ」の中でも特に「極性官能基含有」のものと「非フッ素系バインダ」との組み合わせに着目した記載はなく、バインダーに含まれるポリフッ化ビニリデン(PVdF)としてあえて極性官能基を含有する「Solef 5130,Solvay S.A.,Belgium」を用いることに加えて、さらにシアノ基を含む非フッ素系バインダであるといえる「アクリロニトリルコポリマー」や「ポリアクリロニトリル」を組み合わせるようにすべき動機があるとはいえない。 また、取消理由通知において引用した引用例1には「・・バインダは、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)、・・アクリロニトリル-ブタジエンゴム、・・またはこれらの組み合わせの群から選択されるのが好ましい。」と記載(段落【0058】)され、引用例3には、正極用結着剤としてフッ素含有重合体とともに「ニトリル基含有アクリル重合体」を併用することが記載(特に[請求項1]、[請求項4]、段落[0020]、[0087]~[0089])されているものの、これら引用例1や引用例3にも、バインダ(正極用結着剤)としてフッ素系バインダの中でも特に「極性官能基含有」のものと非フッ素系バインダとの組み合わせに着目した記載があるわけではなく、上述したのと同様に、引用発明2において、バインダーに含まれるポリフッ化ビニリデン(PVdF)としてあえて極性官能基を含有する「Solef 5130,Solvay S.A.,Belgium」を用いることに加えて、さらにシアノ基を含む非フッ素系バインダである「ニトリル基含有アクリル重合体」を組み合わせるようにすべき動機までは見出せない。 したがって、引用例1や引用例3を参照したとしても、引用発明2において、相違点3に係る構成を容易に導き出すことはできない。 よって、他の相違点(上記相違点2)について検討するまでもなく、本件発明1は、引用例2に記載された発明及び引用例1、3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.本件発明2ないし10、13、14、20について 請求項2ないし10、13、14、20は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし10、13、14、20は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし10、13、14、20は、引用例2に記載された発明及び引用例1、3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.まとめ 以上のとおりであるから、本件請求項1ないし10、13、14、20に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)申立理由の概要 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりであると認められる。 (1-1)申立理由1(新規性、甲第1号証を主引例とする場合) 請求項11、17ないし19に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項11、17ないし19に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (1-2)申立理由2(新規性、甲第2号証を主引例とする場合) 請求項1ないし4、6、7、11、13、14、17ないし20に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし4、6、7、11、13、14、17ないし20に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (1-3)申立理由3(進歩性) 請求項1ないし11、13ないし20に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし11、13ないし20に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 甲第1号証:特表2016-514080号公報 甲第2号証:国際公開第2018/054231号 甲第3号証:国際公開第2014/051067号 (参考文献として) 甲第4号証:特開2011-56437号公報 (1-4)申立理由4(実施可能要件) 本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1ないし11、13ないし20に係る発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、請求項1ないし11、13ないし20に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 (1-5)申立理由5(サポート要件) 請求項1ないし11、13ないし20に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではないから、請求項1ないし11、13ないし20に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)甲第1号証ないし甲第3号証の記載事項 (2-1)甲第1号証 甲第1号証(特表2016-514080号公報)の記載事項は、上記「2.(2-1)引用例1」に記載したとおりであり、甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)は、上記引用発明1と同じである。 (2-2)甲第2号証 甲第2号証(国際公開第2018/054231号)の記載事項は、上記「2.(2-2)引用例2」に記載したとおりであり、甲第2号証に記載された発明(以下、「甲2発明」という。)は、上記引用発明2と同じである。 (2-3)甲第3号証 甲第3号証(国際公開第2014/051067号)には、「リチウムイオン二次電池」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「[請求項1] 負極、正極及び非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池であって、 前記負極が、合金系活物質を含み、 前記正極が、正極活物質、正極用結着剤および導電材を含み、 前記正極用結着剤が、ニトリル基含有アクリル重合体及びフッ素含有重合体を含み、 前記ニトリル基含有アクリル重合体の非水電解液に対する膨潤度が3倍以下で、THF不溶解分量が30質量%以下であり、 前記導電材の粒子径が5~40nmである、 リチウムイオン二次電池。 [請求項2] 前記正極活物質100質量部に対し、導電材が1~3質量部、正極用結着剤が0.5~2質量部含まれる、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。 ・・・・(中 略)・・・・ [請求項4] 前記フッ素含有重合体が、ポリフッ化ビニリデンである請求項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。」 イ.「[0013] 本発明の要旨は以下のとおりである。 (1)負極、正極及び非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池であって、 前記負極が、合金系活物質を含み、 前記正極が、正極活物質、正極用結着剤および導電材を含み、 前記正極用結着剤が、ニトリル基含有アクリル重合体及びフッ素含有重合体を含み、 前記ニトリル基含有アクリル重合体の非水電解液に対する膨潤度が3倍以下で、THF不溶解分量が30質量%以下であり、 前記導電材の粒子径が5~40nmである、 リチウムイオン二次電池。 (2)前記正極活物質100質量部に対し、導電材が1~3質量部、正極用結着剤が0.5~2質量部含まれる、(1)に記載のリチウムイオン二次電池。 ・・・・(中 略)・・・・ (4)前記フッ素含有重合体が、ポリフッ化ビニリデンである(1)~(3)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。」 ウ.「[0076](正極) 正極は、集電体と、前記集電体上に積層される正極活物質層とからなる。正極活物質層は、正極活物質(A)、正極用結着剤(B)および導電材(C)を含み、必要に応じその他の成分を含む。 [0077](A)正極活物質 正極活物質は、リチウムイオンを挿入及び脱離可能な活物質が用いられ、このような正極活物質は、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。 [0078] 無機化合物からなる正極活物質としては、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属とのリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。 上記の遷移金属としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が使用される。 ・・・・(中 略)・・・・ [0083] これらの中でも、サイクル特性と初期容量が優れることから、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2 )、Co-Ni-Mnのリチウム複合酸化物(Li(CoMnNi)O2 )、リチウム過剰層状化合物(Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2)、スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物(LiNi0.5Mn1.5O4 )が好ましく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、リチウム過剰層状化合物(Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2)がより好ましい。」 エ.「[0146](B2)フッ素含有重合体 正極用結着剤には、上記ニトリル基含有アクリル重合体(B1)に加えて、フッ素含有重合体(B2)を用いる。正極用結着剤が、フッ素含有重合体を含むことで、スラリーの安定性が向上し、また電解液に対する結着剤の膨潤を抑制し、サイクル特性が向上する。さらに、正極用結着剤が、フッ素含有重合体に加えてニトリル基含有アクリル重合体を含むことで、高電位でのサイクル特性がより向上する。 ・・・・(中 略)・・・・ [0152] フッ素含有重合体(B2)の中でも、フッ素含有単量体としてフッ化ビニリデンを含む重合体、具体的には、フッ化ビニリデンの単独重合体、フッ化ビニリデンとこれと共重合可能な他のフッ素含有単量体との共重合体、フッ化ビニリデンとこれと共重合可能な他のフッ素含有単量体とこれらと共重合可能な単量体との共重合体が好ましい。 [0153] 上記のようなフッ素含有重合体の中でも、フッ化ビニリデンの単独重合体(ポリフッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニルが好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。 [0154] フッ素含有重合体(B2)は、一種単独であってもよく、また2種以上を併用してもよい。特に低分子量体と高分子量体とを併用することが好ましい。具体的には、ASTM D3835 /232℃100sec -1 で測定されるフッ素含有重合体の溶融粘度が35kpoise未満であるものを低分子量、35kpoise以上であるものを高分子量とし、両者を併用することが好ましい。 例えば、高分子量のポリフッ化ビニリデンとして、アルケマ社製KYNAR HSV900、ソルベイ社製Solef6020、Solef6010、Solef1015、Solef5130 クレハ社製KF7208が挙げられる。また、低分子量のポリフッ化ビニリデンとして、例えば、アルケマ社製KYNAR710 720 740 760 760A、ソルベイ社製Solef6008、クレハ社製KF1120が挙げられる。」 オ.「[0171] 導電材としては、負極と同様に、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、およびカーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。導電材を含有することにより、正極用スラリー製造時の安定性が向上し、また正極活物質層における正極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、高容量化が図られる。導電材の含有量は、正極活物質の総量100質量部に対して、好ましくは1~3質量部、より好ましくは1.2~2.8質量部、特に好ましくは1.5~2.5質量部である。導電材の含有量が少なすぎると、正極における内部抵抗が増大し、高容量化が困難になる場合がある。また導電材の含有量が多すぎると、電極の高密度化が困難になり、初期容量が低下する場合がある。」 カ.「[0211] フッ素含有重合体(B2)は、以下のものを用いた。 混合PVdF:ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製KYNAR HSV900と同社製KYNAR720との1:1(重量比)混合物) なお、KYNAR HSV900のASTM D3835 /232℃100sec -1 で測定される溶融粘度は50kpoiseであり、KYNAR720の溶融粘度は9kpoiseである。 高分子量PVdF: KYNAR HSV900 低分子量PVdF: KYNAR720 [0212](実施例1) 〔正極用スラリー組成物および正極の製造〕 正極活物質としてコバルト酸リチウムLCO(LiCoO2 )(粒子径:12μm)100部と、正極導電材としてアセチレンブラック(AB35,電気化学工業社製デンカブラック粉状品:粒子径35nm、比表面積68m 2 /g)2.0部と、正極用結着剤のフッ素含有重合体として混合ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製KYNAR HSV900とKYNAR720との1:1混合物)1.6部およびニトリル基含有アクリル重合体として重合体B1-1を固形分相当量で0.4部と、適量のNMPとをプラネタリーミキサーにて攪拌し、正極用スラリー組成物を調製した。 [0213] 集電体として、厚さ15μmのアルミ箔を準備した。上記正極用スラリー組成物をアルミ箔の両面に乾燥後の塗布量が25mg/cm2になるように塗布し、60℃で20分、120℃で20分間乾燥後、150℃、2時間加熱処理して正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.9g/cm3の正極活物質層とアルミ箔とからなるシート状正極を作製した。これを幅4.8mm、長さ50cmに切断し、アルミニウムリードを接続した。 ・・・・(中 略)・・・・ [0225](実施例15) 正極導電材を、アセチレンブラック(電気化学工業社製デンカブラック粉状品:粒子径23nm、比表面積133m2/g)1.8部と、HiPCO(Unidym社製カーボンナノチューブ:粒子径26nm、比表面積700m2/g)0.2部の混合物に変更した以外は、実施例1と同様とした。結果を表2に示す。」 上記「ア.」ないし「カ.」から以下のことがいえる。 ・上記「ア.」の[請求項1]、「イ.」の記載によれば、引用例3に記載の「リチウムイオン二次電池」は、正極活物質、正極用結着剤および導電材を含む正極を備えるものであり、正極用結着剤が、ニトリル基含有アクリル重合体及びフッ素含有重合体を含むものである。 ・上記「ア.」の[請求項2]、「イ.」、「オ.」の記載によれば、正極活物質100質量部に対し、導電材は1~3質量部であり、特に「オ.」の記載によれば、導電材としてはアセチレンブラックやカーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができるものである。また、上記「ア.」の[請求項4]、「イ.」、「エ.」の記載によれば、正極用結着剤が含むフッ素含有重合体は、より好ましくはポリフッ化ビニリデンであり、低分子量体と高分子量体とを併用することが好ましいものであり、さらに、上記「ウ.」の記載によれば、正極活物質としては、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)やリチウム過剰層状化合物(Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2)がより好ましいものである。 ・そして、上記「カ.」の記載によれば、実施例15に係る正極用スラリー組成物を用いて作製された正極にあっては、正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)100部と、正極導電材としてアセチレンブラック1.8部とHiPCO(Unidym社製カーボンナノチューブ)0.2部と、正極用結着剤のフッ素含有重合体として混合ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製KYNAR HSV900とKYNAR720との1:1混合物)1.6部およびニトリル基含有アクリル重合体を固形分相当量で0.4部とを含む正極用スラリー組成物をアルミ箔の両面に塗布し、乾燥・加熱処理した後、圧延して得られたものである。 以上のことから、特に実施例15に係る正極用スラリー組成物を用いて作製された正極に着目し、上記記載を総合勘案すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。 「正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)100部と、正極導電材としてアセチレンブラック1.8部とHiPCO(Unidym社製カーボンナノチューブ)0.2部と、正極用結着剤としてフッ素含有重合体1.6部とニトリル基含有アクリル重合体を固形分相当量で0.4部と、を含む正極用スラリー組成物をアルミ箔の両面に塗布し、乾燥・加熱処理した後、圧延して得られた正極であって、 前記正極用結着剤のフッ素含有重合体には、混合ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製KYNAR HSV900とKYNAR720との1:1混合物)が用いられてなる、正極。」 (3)申立理由についての当審の判断 (3-1)申立理由1(新規性、甲第1号証を主引例とする場合)について ア.本件発明11について 本件訂正請求による訂正によって請求項11については削除された。 イ.本件発明17について 独立形式で記載された本件発明17と甲1発明(引用発明1)とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する(一致点については、上記「2.(3-1)ア.(ア)」のa.ないしe.及びg.を参照)。 [相違点4] 本件発明17では「ASTM D790に準ずる曲げ特性試験において、90°以上曲げられた後にも破断されない」ことを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有していない点。 上記のとおり、相違点があるから、本件発明17は、甲第1号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 ウ.本件発明18について 独立形式で記載された本件発明18と甲1発明(引用発明1)とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する(一致点については、上記「2.(3-1)ア.(ア)」のa.ないしe.及びg.を参照)。 [相違点5] 本件発明18では「ASTM D790に準ずる曲げ特性試験において、最大曲げ強度が1.0N以下」であることを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有していない点。 上記のとおり、相違点があるから、本件発明17は、甲第1号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 エ.本件発明19について 独立形式で記載された本件発明19と甲1発明(引用発明1)とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する(一致点については、上記「2.(3-1)ア.(ア)」のa.ないしe.及びg.を参照)。 [相違点6] 本件発明19では「ASTM D790に準ずる180°剥離強度試験において、剥離強度が0.3gf/mm以上」であることを特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有していない点。 上記のとおり、相違点があるから、本件発明17は、甲第1号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 オ.まとめ 以上のとおりであるから、本件請求項17ないし19に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。 (3-2)申立理由2(新規性、甲第2号証を主引例とする場合)について ア.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲2発明(引用発明2)とを対比すると、上記「2.(3-3)ア.(ア)」に記載したとおり、 [相違点2]及び[相違点3]において相違し、その余の点で一致する。 (イ)判断 よって上記のとおり、相違点があるから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 イ.本件発明2ないし4、6、7、13、14について 請求項2ないし4、6、7は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記[相違点2]及び[相違点3]に係る発明特定事項をそれぞれ有するものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明2ないし4、6、7は、甲第2号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 ウ.本件発明11について 本件訂正請求による訂正によって請求項11については削除された。 エ.本件発明17ないし19について それぞれ独立形式で記載された本件発明17ないし19のいずれも、上記「ア.」で検討した本件発明1と同様、少なくとも上記[相違点2]に係る発明特定事項を有するものであるから、上記本件発明1についての判断と同様に、本件発明17ないし19は、甲第2号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 オ.本件発明20について 請求項20は請求項1、17ないし19のいずれかを引用するものであり、本件発明20は、上記「ア.」で検討した本件発明1、上記「エ.」で検討した本件発明17ないし19と同様、少なくとも上記[相違点2]に係る発明特定事項を有するものであるから、上記本件発明1、17ないし19についての判断と同様に、本件発明20は、甲第2号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 カ.まとめ 以上のとおりであるから、本件請求項1ないし4、6、7、13、14、17ないし20に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。 (3-3)申立理由3(進歩性)について ア.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 a.甲3発明の正極は、正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)と、正極導電材としてアセチレンブラックとHiPCO(Unidym社製カーボンナノチューブ)と、正極用結着剤としてフッ素含有重合体とニトリル基含有アクリル重合体と、を含む正極用スラリー組成物を用いて得られるものであるところ、このうちの「コバルト酸リチウム(LiCoO2)」、「アセチレンブラックとHiPCO(Unidym社製カーボンナノチューブ)」、「フッ素含有重合体とニトリル基含有アクリル重合体」が、それぞれ本件発明1でいう「正極活物質」、「導電材」、「バインダ」に相当する。 したがって、本件発明1と甲3発明とは、「正極活物質と、導電材と、バインダとを含」むものである点で一致する。 b.正極活物質について、本件発明1では「ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上」であることを特定するのに対し、甲3発明ではコバルト酸リチウム(LiCoO2)である点で相違する。 c.上記a.で述べたように、甲3発明における正極導電材としての「アセチレンブラックとHiPCO(Unidym社製カーボンナノチューブ)」が、本件発明1でいう「導電材」に相当するものであるところ、このうちの「HiPCO(Unidym社製カーボンナノチューブ)」が、本件発明1でいう「線形炭素系導電材」に相当する。 したがって、本件発明1と甲3発明とは、「前記導電材が線形炭素系導電材を含」むものである点で一致する。 d.上記a.で述べたように、甲3発明における正極用結着剤としての「フッ素含有重合体とニトリル基含有アクリル重合体」が、本件発明1でいう「バインダ」に相当するものであり、このうちの「フッ素含有重合体」は、「混合ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製KYNAR HSV900とKYNAR720との1:1混合物)」である。 したがって、甲3発明における「フッ素含有重合体」と本件発明1でいう「極性官能基含有第1フッ素系バインダ」とは、「第1フッ素系バインダ」である点では共通するといえる。 一方、甲3発明における「ニトリル基含有アクリル重合体」については、ニトリル基がシアノ基とも呼ばれるものであるから、本件発明1でいう「第1非フッ素系バインダ」に相当し、「シアノ基を含む」ものである点でも一致する。 よって、本件発明1と甲3発明とは、「前記バインダが、第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダとを含み」、「前記第1非フッ素系バインダがシアノ基を含む」ものである点で共通する。 ただし、第1フッ素系バインダについて、本件発明1では「極性官能基含有」のものであり、「前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上」であることを特定するのに対し、甲3発明では混合ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製KYNAR HSV900とKYNAR720との1:1混合物)であり、極性官能基含有のものであることの特定がない点で相違する。 e.甲3発明における正極用スラリー組成物は、「正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)100部と、正極導電材としてアセチレンブラック1.8部とHiPCO(Unidym社製カーボンナノチューブ)0.2部と、正極用結着剤としてフッ素含有重合体1.6部とニトリル基含有アクリル重合体を固形分相当量で0.4部と」を含むことから、このうちの「HiPCO(Unidym社製カーボンナノチューブ)」の含量は、正極活物質、正極導電材及び正極用結合材の全体重量を基準とすると、0.2/(100+1.8+0.2+1.6+0.4)×100≒0.2wt%であり、本件発明1で特定する「0.1wt%以上」の範囲に含まれる。 したがって、本件発明1と甲3発明とは、「前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上」である点で一致する。 f.そして、甲3発明における「正極」は、本件発明1でいう「正極」に相当する。 よって、上記a.ないしf.によれば、本件発明1と甲3発明とは、 「正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、 前記導電材が線形炭素系導電材を含み、 前記バインダが、第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、 前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上であり、 前記第1非フッ素系バインダがシアノ基を含むことを特徴とする、正極。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点7] 正極活物質について、本件発明1では「ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上」であることを特定するのに対し、甲3発明ではコバルト酸リチウム(LiCoO2)である点。 [相違点8] 第1フッ素系バインダについて、本件発明1では「極性官能基含有」のものであり、「前記第1フッ素系バインダの極性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群のうちから選択される1以上」であることを特定するのに対し、甲3発明では混合ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製KYNAR HSV900とKYNAR720との1:1混合物)であり、極性官能基含有のものであることの特定がない点。 (イ)判断 事案に鑑み、まず上記相違点8について検討する。 甲第3号証には、段落[0154]に高分子のポリフッ化ビニリデンの一例として極性官能基を含有するポリフッ化ビニリデン(カルボン酸基含有改質PVDF)である「ソルベイ社製Solef5130」が挙げられてはいるものの、正極用結着剤として「フッ素含有重合体」(フッ素系バインダ)の中でも特に「極性官能基含有」のものと「ニトリル基含有アクリル重合体」(非フッ素系バインダ)との組み合わせに着目した記載があるわけではなく、甲3発明において、フッ素含有重合体であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)としてあえて極性官能基を含有する「ソルベイ社製Solef5130」を用いるようにすべき動機があるとはいえない。また、甲第1号証や甲第2号証においても、正極における結着剤(バインダ)としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含み、当該ポリフッ化ビニリデン(PVDF)として甲第3号証に一例として示されるものと同じソルベイ(Solvay)社製の「Solef5130」が挙げられてはいるものの、バインダ(正極用結着剤)としてフッ素系バインダである「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)」の中でも特に「極性官能基含有」のものと「非フッ素系バインダ」との組み合わせに着目した記載があるわけでもなく、上述したのと同様に、甲3発明において、フッ素含有重合体であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)としてあえて極性官能基を含有する「ソルベイ社製Solef5130」を用いるようにすべき動機は見出せない。 したがって、甲第1号証や甲第2号証を参照したとしても、甲3発明において、相違点8に係る構成を容易に導き出すことはできない。 よって、他の相違点(上記相違点7)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.本件発明2ないし10、13、14について 請求項2ないし10、13、14は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし10、13、14は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし10、13、14は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.本件発明11について 本件訂正請求による訂正によって請求項11については削除された。 エ.本件発明15、17ないし19について それぞれ独立形式で記載された本件発明15、17ないし19のいずれも、上記「ア.」で検討した本件発明1と同様、少なくとも上記[相違点8]に係る発明特定事項を有するものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明15、17ないし19は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ.本件発明16について 請求項16は請求項15を引用するものであり、本件発明16は、本件発明15の発明特定事項であるローディング量についてその範囲を狭める限定を付加したものであるから、上記本件発明15についての判断と同様の理由により、本件発明16は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 カ.本件発明20について 請求項20は請求項1、15、17ないし19のいずれかを引用するものであり、本件発明20は、本件発明1、15、17ないし19のいずれかの発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1、15、17ないし19についての判断と同様の理由により、本件発明20は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 キ.まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1ないし10、13ないし20に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 (3-4)申立理由4(実施可能要件)について ア.特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、概略次のような実施可能要件に関する申立理由を主張している。 本件特許明細書の実施例において、正極は、「NCM」なる物質を含むとされているが、本件特許明細書においては、「NCM」なる物質の詳細について何ら記載されておらず、当該技術分野の技術常識を踏まえても、「NCM」なる物質が具体的にどのようなものであるのかが明確でなく、これにより、本件発明を実施するためには、当業者であっても過度の試行錯誤を要する。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 イ.判断 実施例における正極は、リチウム電池に用いられる正極であるところ(本件特許明細書の段落【0070】以降の記載参照)、リチウム電池に用いられる正極が含む「NCM」は、Ni、Co、Mnを含む三元系のLi遷移金属酸化物からなる正極活物質を意味することは当業者にとって自明なことである。そして、本件特許明細書の段落【0072】には比較例1について、正極活物質が、本件請求項1、12、15、17ないし19における「ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上」との特定を満たす「LiNi0.88Co0.08Mn0.04O2」を用いたことが記載されており、実施例においてもこれと同じものが用いられていると解されることを踏まえると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1ないし10、13ないし20に係る発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。 ウ.まとめ よって、特許異議申立人の実施可能要件に関する申立理由についての上記主張は採用することはできず、本件請求項1ないし10、13ないし20に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。 (3-5)申立理由5(サポート要件)について ア.特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、概略次のようなサポート要件に関する申立理由を主張している。 (ア)本件請求項1において、正極は「正極活物質と、導電材と、バインダとを含み、前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上であり、前記導電材が線形炭素系導電材を含み、前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み」と特定されている。一方で、本件特許明細書の発明の詳細な説明においては、「正極活物質」が特定の式で表されるニッケル遷移金属酸化物であり、導電材が特定のカーボンナノチューブとケッチェンブラックであり、バインダが「m-PVdF、カルボン酸基(-COOH)含有改質PVdF、SOLEF 5130、重量平均分子量=1,000,000g/mol、Solvay、ベルギー」と特定の「NBR、水素化アクリロニトリル-ブタジエンバインダ」を使用することが記載されているのみであり、前記正極活物質以外の正極活物質、前記導電材以外の導電材、前記バインダ以外のバインダ、及びそれら以外の成分として、具体的にどのようなものを用いれば、本件発明が解決しようとする課題を解決できるのかを当業者が認識することができない。 (イ)本件請求項1において、正極は「極性官能基含有第1フッ素系バインダ」を含むと特定されている。そして、「極性官能基含有第フッ素系バインダ」は、極性官能基として「カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群から選択される1以上」であると特定されている。一方で、本件特許明細書の発明の詳細な説明、特に実施例においては、「極性官能基含有第1フッ素系バインダ」として、市販品である「m-PVdF、カルボン酸基(-COOH)含有改質PVdF、SOLEF 5130、重量平均分子量=1,000,000g/mol、Solvay、ベルギー」を使用することが記載されているのみであり、カルボン酸基以外の極性官能基を含有するフッ素系バインダの例がなく、カルボン酸基以外の極性官能基含有フッ素系バインダが、本件発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が認識することができない。 よって、当該技術分野における技術常識に照らしても、発明の詳細な説明の記載内容を、本件請求項1ないし11、13ないし20に記載された発明の範囲に一般化できないものであり、本件請求項1ないし11、13ないし20に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明といえないものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 イ.判断 上記(ア)の点について 本件特許明細書の段落【0011】~【0013】には「一側面によれば、極性官能基含有バインダ及び線形炭素系導電材を含むことにより、正極の柔軟性及び結着力が同時に向上する。他の一側面によれば、向上した柔軟性及び結着力を有する正極を採用することにより、リチウム電池の寿命特性が向上する。さらに他の一側面によれば、向上した柔軟性及び結着力を有し、ニッケル含量が多いリチウム遷移金属酸化物を含み、増大されたローディング量を有する正極を採用することにより、リチウム電池のエネルギー密度が向上する。」と記載され、また、段落【0020】には「該正極が該線形炭素系導電材を0.1wt%以上含み、極性官能基含有第1フッ素系バインダを含むことにより、向上した結着力と柔軟性とを同時に提供することにより、向上したサイクル特性とエネルギー密度とを提供する。また、該正極が第1非フッ素系バインダを含むことにより、線形炭素系導電材の分散性が向上する。」と記載されているところ、本件請求項1、12、15、17ないし19には「前記導電材が線形炭素系導電材を含み、前記バインダが、極性官能基含有第1フッ素系バインダと、第1非フッ素系バインダを含み、前記線形炭素系導電材の含量が、前記正極活物質、導電材及びバインダの全体重量を基準に、0.1wt%以上」であるとあり、所定量の線形炭素導電材と極性官能基含有フッ素系バインダを含むことが特定され、さらに、本件請求項1、12、15、17ないし19には「前記正極活物質が、ニッケル、及び1以上の他の遷移金属を含み、層状結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、前記ニッケルの含量が、遷移金属の全体モル数に対して、30mol%以上」であるとあり、ニッケル含量が多いリチウム遷移金属酸化物を含むことが特定されていることから、これら請求項に係る発明であれば、本件特許明細書の段落【0006】~【0008】に記載された本件発明が解決しようとする課題を解決できると認識することができるといえ、たとえこれら請求項に係る発明において、実施例において使用した特定の極活物質と特定の導電材と特定のバインダの組み合わせに特定(限定)されていないからといって、これら請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとまではいえない。 上記(イ)の点について 本件特許明細書の段落【0024】には「・・極性官能基は、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、及びそれらの塩からなる群から選択される1以上でもあるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、フッ素系バインダの極性官能基として使用されるものであるならば、いずれも可能である。そのような極性官能基のうち、正極活物質との結着性、及び正極活物質相と集電体との結着性の観点から、例えば、カルボン酸基またはスルホン酸基が選択される。・・」と記載されており、当業者であれば、正極活物質等との結着性の観点からカルボン酸基以外のスルホン酸基等も選択可能であり、カルボン酸基以外の極性官能基を選択したとしても本件特許明細書の段落【0006】~【0008】に記載された本件発明が解決しようとする課題を解決できると認識することができるといえる。 したがって、出願時の技術常識に照らしても、本件請求項1ないし10、13ないし20に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないものではなく、本件請求項1ないし10、13ないし20に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明でないということはできない。 ウ.まとめ よって、特許異議申立人のサポート要件に関する申立理由についての上記主張は採用することはできず、本件請求項1ないし10、13ないし20に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。 第4 むすび 以上のとおり、本件請求項1ないし10、13ないし20に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件請求項1ないし10、13ないし20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件請求項11に係る特許については訂正により削除され、本件特許の請求項11に対して特許異議申立人がした特許異議申立てについてはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700691

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