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特許異議申立

2024-700076

固形ルウ

審判番号
2024-700076
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-218998外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7317493
請求日
2024年01月31日
審決日
2024年11月29日
公報発行日
2025年03月28日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7317493号発明「固形ルウ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7317493号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第7317493号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7317493号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、 平成30年11月22日の出願であって、 令和 5年 7月21日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、 令和 5年 7月31日に特許掲載公報が発行され、 その後、その特許に対し、 令和6年 1月31日に特許異議申立人 吉川 雅也(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、 令和 6年 5月27日付けで取消理由が通知され、 令和 6年 7月25日に特許権者 江崎グリコ株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求がされるとともに意見書の提出がされ、 令和 6年 8月 8日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされたものである。 なお、訂正請求があった旨の通知に対して、特許異議申立人からは、何ら応答がなかった。 第2 本件訂正について 1 訂正の内容 令和6年7月25日にされた訂正請求における訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。 ・訂正事項 特許請求の範囲の請求項1に、「粉体原料(但し小麦粉を除く)を50~90質量%、油脂を10~50質量%、及びHLB7以下の乳化剤を0.1~3質量%含み、」と記載されているのを、「粉体原料(但し小麦粉を除く)、油脂及びHLB7以下の乳化剤を含む固形ルウであって、前記粉体原料を50~90質量%、前記油脂を10~50質量%、及び前記HLB7以下の乳化剤を0.1~3質量%含み、」と訂正する。 併せて、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。 2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項による請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1に係る発明における「粉体原料(但し小麦粉を除く)を50~90質量%、油脂を10~50質量%、及びHLB7以下の乳化剤を0.1~3質量%含み、・・・固形ルウ。」という記載について、原料として、小麦粉が含まれる「粉体原料」の態様を除いた「固形ルウ」であることを明確にするためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 訂正についてのまとめ 以上のとおり、訂正事項による請求項1~3についての訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 なお、訂正前の請求項1~3について、請求項2、3は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 以上のことから、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、「本件特許発明1」等という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 粉体原料(但し小麦粉を除く)、油脂及びHLB7以下の乳化剤を含む固形ルウであって、 前記粉体原料を50~90質量%、前記油脂を10~50質量%、及び前記HLB7以下の乳化剤を0.1~3質量%含み、前記粉体原料が澱粉を含み、前記粉体原料の粒径300μm以下の粒子の割合が80%以上であり、前記乳化剤がショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドかなる群から選ばれる少なくとも1種である、固形ルウ。 【請求項2】 前記澱粉が馬鈴薯澱粉及びタピオカ澱粉からなる群から選ばれる少なくとも1種である、 請求項1に記載の固形ルウ。 【請求項3】 前記乳化剤がショ糖脂肪酸エステルである、請求項1又は2に記載の固形ルウ。」 第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要 令和 6年 1月31日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第2号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1~3に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件特許発明は、「ブルームの発生がなく、調理溶解時に透明感のある固形ルウを提供すること」(【0006】)を課題としているが、発明の課題の解決には粉糖が必須であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識を考慮しても、粉末原料において粒径300μm以下の粒子の割合を80%以上にするだけで本件特許発明の課題が解決されるとは理解できず、乳化剤についても、グリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドを使用した場合でも発明の課題が解決できるとは理解できない。 したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、サポート要件は満たされていない。 3 証拠方法 甲第2号証:特開2002-95449号公報 甲第3号証:「乳化剤講座 【上級編第1回】HLB値の利用方法」、[online]、2016年8月公開、太陽化学株式会社、[2023年11月20日検索]、インターネット<URL:https://www.taiyokagaku.com/lab/emulsion_learning/06/> 甲第4号証:特開平6-98727号公報 甲第5号証:松村康生ら監修,「食品の界面制御技術と応用-開発現場と研究最前線を繋ぐ-」、株式会社シーエムシー出版、2011年7月29日発行、pp.250~254、「2 カレー・ホワイトソース」の項 甲第6号証:特開平4-370078号公報 甲第7号証:特開2001-252055号公報 甲第8号証:「創健社 お米で作った 本格カレールー 135g」、[online]、2016年2月29日、Amazon.co.jp、[2023年11月21日検索]、インターネット<URL:ttps://www.amazon.eo.jp/%E5%89%B5%E5%81%A5%E7%A4%BE-%E3%81%8A%E7%B1%B3%E3%81%A7%E4%BD%9C%E3%81%A3%E3%81%9F%E6%9C%AC%E6%AO%BC%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%A6-135g/dp/B003ANIBPK/ref=sr_l_l07?adgrpid=71821071555&gclid=EAiaIQobCh%E2%80o/oA6> 甲第9号証:「王子さまシリーズ S&B カレーの王子さま ルウタイプ 80g×5個」、[online]、2023年8月25日、Amazon.co.jp、[2023年12月19日検索]、インターネット<URL:https://www.amazon.eo.jp/S-B-%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%8l %AE%E7%8E%8B%E5%AD%90%E3%81%95%E3%81%BE-%E3%83%AB%E3%82%A6%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%97-80g%C3%975%E5%80%8B/dp/BOOH70CM58?th=l> 甲第10号証:令和4年11月2日付意見書 証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。 以下、順に「甲1」のようにいう。 第5 令和6年5月27日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由について ・取消理由(明確性要件) 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 本件特許発明1には、「粉体原料(但し小麦粉を除く)を50~90質量%、油脂を10~50質量%、及びHLB7以下の乳化剤を0.1~3質量%含」む「固形ルウ」が記載されているが、「但し小麦粉を除く」という記載の技術的意味が明確ではない。 したがって、本件特許発明1~3は、一の発明を把握することができず、第三者の利益が不当に害される可能性があるといえるから、明確ではない。 第6 当審の判断 当審は以下に述べるように、取消理由及び申立理由1、2によっては、本件特許を取り消すことはできないと判断する。 1 取消理由(明確性要件)について (1)明確性要件の判断手法 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (2)明確性要件についての判断 本件特許の請求項1~3の記載は上記第3のとおりであって、請求項1~3の記載それ自体は明確であり、また、本件特許明細書の記載を考慮しても不整合はない。 よって、本件特許発明1~3については、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、本件特許に係る出願の出願当時における当業者の技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (3)取消理由(明確性要件)についてのむすび 上記のとおり、本件特許発明1~3は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるとはいえないから、取消理由の理由では、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由1(甲2に基づく進歩性)について (1)甲2に記載された事項等 ア 甲2に記載された事項 甲2には、「ルウの製造方法」について、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【特許請求の範囲】 【請求項1】小麦粉ルウからなるルウ製品を製造する方法であって、少なくとも油脂、風味原料及び澱粉系原料として小麦粉4重量%~18重量%及びコーンスターチ10重量%~18重量%を用い、油脂と小麦粉とを加熱混合して小麦粉ルウを作った後、これに風味原料を混合し65℃以上の温度で仕上げのために加熱処理するか、上記の原料を一括して混合し65℃以上の温度で仕上げのために加熱処理することを特徴とするルウの製造方法。」 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、澱粉系原料として、特定量の小麦粉及びコーンスターチを配合して製造されてなる食感及び風味の改質された新規なルウを製造する方法に関するものである。また、本発明は、小麦粉ルウ、及び粉体原料等を配合し、これを加熱混合してなるルウであって、吸湿性粉体原料が均質に配合されてなる均質で高品質のカレールウ等のルウを製造する方法に関するものであり、更に詳しくは、吸湿性粉体原料を澱粉系原料と共に粉砕した均一な粒度で加工適性が高い原料を用いることによって、粉体原料の沈降分離を回避して、製品中の粉体原料を均質化させることにより、従来製品と比べて、滑らかな粘度で優れた食感と風味を有するように改質された新しいタイプの高品質のルウを製造する方法に関するものである。」 ・「【0005】 【発明が解決しようとする課題】このような状況の中で、本発明者らは、上記小麦粉ルウにみられる問題点を根本的に改善すると共に、従来製品と比べて、食感が滑らかとなり、風味立ちが良好となるような新しいタイプのルウ製品を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、澱粉系原料として、少なくとも特定量の小麦粉及びコーンスターチを使用し、しかも香辛料等の微粒子状に含まれる水不溶性原料の粒子径を特定のものに調整することにより、所期の目的を達成し得ることを見出した。更に、本発明者らは、ルウの製造工程において、製品における粉体原料の沈降分離を極少にして、高品質の製品を作製することを可能とするための新しい方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、ルウの原料配合において、粉体原料をコーンスターチ等の澱粉系原料と共に粉砕することにより、加工適性の高い粉砕原料が得られること、そして、この原料を使用して製品化することにより、原料の沈降分離が回避された均質で高品質の製品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、従来製品と比べて、食感が滑らかとなり、風味立ちがよい食感及び風味が改質された新しいタイプのルウを製造する方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、先行技術の小麦粉を用いるルウと同等の粘度等の物性を有し、かつ食感及び風味の優れた新しいタイプのルウを製造する方法を提供することを目的とするものである。本発明は、ルウの原料配合において、加工適性の高い特定の粉砕粉体原料を使用することにより、粉体原料を均質に含む高品質のルウを製造する方法を提供することを別の目的とする。また、本発明は、ルウの製造において、吸湿性粉体原料を澱粉系粉体原料と共に粉砕した原料を用いてなる高品質のルウを製造する方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、滑らかな粘度で優れた食感、風味を有する高品質のルウを製造する方法を提供することを目的とする。」 ・「【0020】 【実施例】次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は当該実施例によって何ら限定されるものではない。 実施例1 1.原料の仕込み (1)小麦粉ルウ原料 油脂(ヘット及びラード)、小麦粉及びコーンスターチを使用した。 (2)水系原料 融合型風味原料(乳製品(チーズ、ヨーグルト等)、肉、野菜、果実のエキス、ブイヨン、ジュース、各種香辛料、その他の配合物であるカレーパウダー)を使用する。 (3)粉体原料 単独型風味原料(食塩、砂糖、スターチ、各種香辛料、その配合物であるカレーパウダー、オニオンパウダー、ビーフエキスパウダー、アミノ酸(調味料)、粉末醤油、乳化剤等)を粉体原料として使用した。香辛料等の水不溶性原料の粒子径は約106μ以下であった。 【0021】2.粉体原料の調製 食塩、砂糖等の粉体原料のうち、食塩は、予め食塩10部にコーンスターチ1部を混合して高速粉砕機(HS-5型、西村機械社製)で1700rpmで粉砕し、中心粒径170±10μm、150μmパス=30~50%程度のものとし、砂糖は、グラニュー糖9部にコーンスターチ10部を混合して高速粉砕機で700rpmで粉砕し、中心粒径240~300μm、150μmパス=10~30%程度のものとして、均一な粒度で加工適性の高い粉砕粉体原料を調製した。 【0022】3.小麦粉ルウの製造 油脂12部、小麦粉12部を加熱釜で約50分間かけて約120℃まで加熱攪拌した後、約70℃まで冷却して小麦粉ルウを製造した。 【0023】4.カレールウの製造 この小麦粉ルウに、前記のように粉砕した食塩8部、砂糖8.5部、コーンスターチ11部の粉体原料と、カレーパウダー6部及びアミノ酸1.5部を混合した粉体原料と、果実ペースト5.7部を加えて再び加熱攪拌し、約60分間かけて約114℃まで加熱後、充填機にて容器に入れ、冷却固化してカレールウを製造した。 【0024】5 製品の特性 上記により、原料の沈降分離が回避された均質な高品質のルウ製品が得られた。このルウに含まれる香辛料等の水不溶性原料の中心粒径53~90μm、106μmパス=60~85%程度であった。上記のカレールウ(固形ルウ)を用いて、常法により、水、具材と煮込んで調理したカレーは適度の粘度(60℃で約2000cp)を有し、非常に滑らかな舌触りと口どけを有し、更に、生臭さや粉っぽい風味が全くなく、香辛料、調味料等に基づくルウに特有の本来のデリケートな香辛味や旨味がシャープに引き出され、優れた食感及び風味を有するものであった。」 イ 甲2に記載された発明 上記アに記載された内容のうち、特に実施例1について整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。 <甲2発明> 「油脂12部及び小麦粉12部から調製した小麦粉ルウに、粉体原料である食塩8部、砂糖8.5部、コーンスターチ11部、カレーパウダー6部、及びアミノ酸1.5部と、果実ペースト5.7部を添加して加熱攪拌した後、容器に充填し冷却固化して製造したカレールウ。」 (2)検討 ア 本件特許発明1について 甲2発明と本件特許発明1を対比する。 甲2発明の「コーンスターチ」、「冷却固化したカレールウ」は、本件特許発明1の「澱粉」、「固形ルウ」に相当する。 また、甲2発明の「粉体原料である食塩8部、砂糖8.5部、コーンスターチ11部、カレーパウダー6部、及びアミノ酸1.5部」は、本件特許発明1の「(小麦粉を除く)」以外の「粉体原料」に相当する。 そうすると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。 <一致点> 「粉体原料、油脂を含む固形ルウである、固形ルウ。」 <相違点1> 本件特許発明1の固形ルウは、「粉体原料(但し小麦粉を除く)」を含むことが特定されているのに対して、甲2発明のカレールウは小麦粉を含む点。 <相違点2> 本件特許発明1の固形ルウでは、「乳化剤」を含むことと、「前記粉体原料を50~90質量%、前記油脂を10~50質量%、及び前記HLB7以下の乳化剤を0.1~3質量%含み、前記粉体原料が澱粉を含み、前記粉体原料の粒径300μm以下の粒子の割合が80%以上であり、前記乳化剤がショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドかなる群から選ばれる少なくとも1種である」ことが特定されているのに対し、甲2発明ではそのような特定がされていない点。 以下、相違点1について検討する。 本件特許発明1の固形ルウは、粉体原料(但し小麦粉を除く)」を含むこと、すなわち、小麦粉が含まれる「粉体原料」の態様を除いた固形ルウであることをが特定されている。 一方で、甲2発明は、甲2の請求項1、【0001】及び【0005】等からも明らかに、小麦粉を含むことを前提としたルウの発明であり、ルウの材料から小麦粉を除くことの動機付けは見出せない。 よって、甲2発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 してみると、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件特許発明2、3について 本件特許発明2、3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。 よって、本件特許発明2、3は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)申立理由1についてのむすび 上記のとおり、本件特許発明1~3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1の理由では、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由2(サポート要件) (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 以下、検討する。 (2)特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。 (3)サポート要件の判断 発明の詳細な説明の【0006】によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「ブルームの発生がなく、調理溶解時に透明感のある固形ルウを提供すること」である。 そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0007】には特許請求の範囲に対応する記載があり、【0008】には本発明によれば、澱粉を使用してもブルームの発生がなく、透明性のあるあんかけを作ることが出来る固形ルウを製造できることについて、【0009】~【0010】には澱粉を含む全ての粉体原料の好ましい含有量について、【0011】には油脂の好ましい含有量について、【0012】には乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリドから少なくとも1種を用いてもいいことと、乳化剤の好ましいHLBと、固形ルウ中の乳化剤の好ましい含有量とについて、【0013】には粉体原料の粒径300μm以下の粒子の割合を80%以上とすることで固形ルウの保存時のブルーム発生が抑制されることについて記載されている。 また、【0015】~【0024】の実施例1~6及び比較例1~4では、小麦粉を用いない粉体原料、油脂及びHLB7以下の乳化剤を含む固形ルウであって、前記粉体原料を50~90質量%、前記油脂を10~50質量%、及び前記HLB7以下の乳化剤を0.1~3質量%含み、前記粉体原料が澱粉を含み、前記粉体原料の粒径300μm以下の粒子の割合が80%以上であり、前記乳化剤がショ糖脂肪酸エステルである固形ルウが、ブルームの発生が防止出来ていることが示されている。 そうすると、当業者は、粉体原料(但し小麦粉を除く)、油脂及びHLB7以下の乳化剤を含む固形ルウであって、前記粉体原料を50~90質量%、前記油脂を10~50質量%、及び前記HLB7以下の乳化剤を0.1~3質量%含み、前記粉体原料が澱粉を含み、前記粉体原料の粒径300μm以下の粒子の割合が80%以上であり、前記乳化剤がショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドかなる群から選ばれる少なくとも1種である固形ルウとすることで、本件特許発明の課題を解決することができると認識できる。 そして、本件特許発明1~3は、上記発明の課題を解決することができる特定事項を全て含み、これをさらに限定するものであるから、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であって、本件特許の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 (4)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、発明の課題の解決には粉糖が必須であり、本件明細書の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識を考慮しても、粉末原料において粒径300μm以下の粒子の割合を80%以上にするだけで本件特許発明の課題が解決されるとは理解できないことを主張する。 また、特許異議申立人は、乳化剤について、実施例で用いられていないグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドを使用した場合でも発明の課題が解決できるとは理解できないと主張している。 しかしながら、本件特許発明が発明の課題を解決できると認識できることは、上記(3)の検討のとおりであり、当業者であれば、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載から、発明の課題を解決できることを認識することができるといえる。この点については、特許権者が令和4年11月2日付け意見書および令和5年5月23日付け意見書内で示した追加比較実験の結果と齟齬するものでないし、また、特許異議申立人は発明の課題を解決し得ない具体的な証拠を示すものでもない。 したがって、特許異議申立人の当該主張は、いずれも採用できるものではなく、上記(3)の判断に何ら影響するものではない。 (5)申立理由2についてのむすび 上記のとおり、本件特許発明1~3は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるとはいえないから、申立理由2の理由では、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。 第7 結語 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700076

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