特許異議申立
2025-700176
麺皮食品の皮に適用されるための組成物
- 審判番号
- 2025-700176
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-002221
- 登録番号
- 7534090
- 請求日
- 2025年02月10日
- 審決日
- 2026年02月13日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
- 【異議申立人】長屋 雅人
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 壷内 信吾
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第3項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7534090号発明「麺皮食品の皮に適用されるための組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7534090号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし7〕、8及び9について訂正することを認める。
特許第7534090号の請求項1、2及び5ないし9に係る特許を維持する。
特許第7534090号の請求項3及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7534090号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、令和2年1月9日(優先権主張 平成31年1月22日)の出願であって、令和6年8月5日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和7年2月10日に特許異議申立人 長屋 雅人(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし9)がされ、同年3月14日付けで手続補正指令(方式)が通知され、同年4月4日に特許異議申立人から手続補正書(方式)が提出され、同年5月1日付けで取消理由が通知され、同年7月3日に特許権者 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年同月9日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年8月6日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年同月25日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年9月17日に特許権者から意見書及び手続補正書が提出され、同年11月10日に取消理由(決定の予告)が通知され、令和8年1月5日に特許権者から訂正請求がされるとともに意見書が提出されたものである。
なお、令和7年7月3日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、既に特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられており、下記第2 1のとおり、令和8年1月5日に提出された訂正請求書でされた訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、下記第6及び7のとおり、提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断し、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された特別の事情があるときといえるから、特許異議申立人に再度の意見書の提出の機会を与えていない。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和8年1月5日に提出された訂正請求書(以下、「訂正請求書」という。)でされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、上記訂正請求書の記載では、各訂正事項が訂正前の特許請求の範囲のどの記載をどのように訂正するのか明確でなかったので、上記訂正請求書に記載された各訂正事項の記載、本件訂正前の特許請求の範囲の記載及び訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の記載を照らし合わせて、当審で訂正事項を整理した。下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「組成物」という記載を「麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化抑制用組成物」という記載に訂正する。併せて、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び5ないし7も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「組成物」という記載の後に「(但し、該組成物は、(i)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物)」という記載を加える。併せて、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び5ないし7も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3及び4を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5の「請求項1~4」という記載を「請求項1~2」という記載に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6の「請求項1~5」という記載を「請求項1~2、5」という記載に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7の「請求項1~6」という記載を「請求項1~2、5~6」という記載に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8の「加熱調理前の麺皮食品の皮に適用する工程を含む」という記載を「加熱調理前の麺皮食品の皮に打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種の態様で適用する工程を含む」という記載に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8の「麺皮食品の品質低下抑制」という記載を「麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化抑制」という記載に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8の「方法」という記載の後に「(但し、該方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化抑制方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む餃子や春巻きの麺質を改良する方法)」という記載を加える。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項9の「加熱調理前の麺皮食品の皮に適用する工程を含む」という記載を「加熱調理前の麺皮食品の皮に打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種の態様で適用する工程を含む」という記載に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項9の「品質低下が抑制」という記載を「麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化が抑制」という記載に訂正する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項9の「製造方法」という記載の後に「(但し、該製造方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化が抑制された点心の製造方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む麺質を改良した餃子や春巻きの製造方法)」という記載を加える。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「組成物」の用途を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2による請求項1についての訂正は、「組成物」から「(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2についての訂正について
訂正事項1及び2による請求項2についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項3及び4についての訂正について
訂正事項3による請求項3及び4についての訂正は、請求項3及び4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3による請求項3及び4についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)請求項5ないし7についての訂正について
訂正事項4による請求項5についての訂正、訂正事項5による請求項6についての訂正及び訂正事項6による請求項7についての訂正は、いずれも、引用する請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4による請求項5についての訂正、訂正事項5による請求項6についての訂正及び訂正事項6による請求項7についての訂正は、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)請求項8についての訂正について
訂正事項7による請求項8についての訂正は、「加熱調理前の麺皮食品の皮に適用する工程」の内容を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項8による請求項8についての訂正は、「麺皮食品の品質低下抑制」における「品質低下」の内容を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項9による請求項8についての訂正は、「方法」から「(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化抑制方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む餃子や春巻きの麺質を改良する方法」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項7ないし9による請求項8についての訂正は、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)請求項9についての訂正について
訂正事項10による請求項9についての訂正は、「加熱調理前の麺皮食品の皮に適用する工程」の内容を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項11による請求項9についての訂正は、「品質低下が抑制」における「品質低下」の内容を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項12による請求項9についての訂正は、「製造方法」から「(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化が抑制された点心の製造方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む麺質を改良した餃子や春巻きの製造方法」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項10ないし12による請求項9についての訂正は、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 本件訂正についてのむすび
以上のとおり、訂正事項1及び2による請求項1及び2についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
訂正事項3による請求項3及び4についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
訂正事項4による請求項5についての訂正、訂正事項5による請求項6についての訂正及び訂正事項6による請求項7についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
訂正事項7ないし9による請求項8についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
訂正事項10ないし12による請求項9についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし7は一群の請求項に該当するものである。
そして、訂正事項1ないし6による請求項1ないし7についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
訂正事項7ないし9による請求項8についての訂正は、請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。
訂正事項10ないし12による請求項9についての訂正は、請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。
また、特許異議申立人からの特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし9に対してされているので、請求項1ないし9についての訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし7〕、8及び9について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、加熱調理前の麺皮食品の皮に適用される打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種に用いられるための麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化抑制用組成物(但し、該組成物は、(i)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物)。
【請求項2】
前記麺皮食品が、冷凍、冷蔵、チルド、又は、常温温度帯で保存、流通、及び/又は販売される麺皮食品である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記アラビアガムの含有量が、組成物全量に対して、0.001質量%以上である、請求項1~2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ガティガムの含有量が、組成物全量に対して、0.001質量%以上である、請求項1~2、5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記大豆多糖類の含有量が、組成物全量に対して、0.001質量%以上である、請求項1~2、5~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を、加熱調理前の麺皮食品の皮に打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種の態様で適用する工程を含む、麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化抑制方法(但し、該方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化抑制方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む餃子や春巻きの麺質を改良する方法)。
【請求項9】
アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を、加熱調理前の麺皮食品の皮に打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種の態様で適用する工程を含む、麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化が抑制された麺皮食品の製造方法(但し、該製造方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化が抑制された点心の製造方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む麺質を改良した餃子や春巻きの製造方法)。」
第4 特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由の概要等
令和7年4月4日に特許異議申立人が提出した手続補正書(方式)により補正された同年2月10日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載された特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし5及び7ないし9は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし9は、甲第1号証に記載された発明に基づいてその優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許発明1、3、4、6、8及び9は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいてその優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3、4、6、8及び9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし3、8及び9は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明に基づいてその優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3、8及び9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第4号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし4及び7ないし9は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第4号証に記載された発明に基づいてその優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4及び7ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許明細書において、粉に含まれる状態での麺皮製品への適応を確認しているのは試験例2のみであるところ、試験例2では、アラビアガムと小麦粉を3通りの量比で混合した打ち粉を用いた場合の効果が確認されているのに対し、ガティガム及び大豆多糖類については、打ち粉等の粉に含まれる状態で麺皮製品へ適用された場合の状態は、具体的に示されていない。
試験例2は、生餃子の表面に打ち粉を付着させた後、フライパンに油を加えて焼いてから、蒸し水を加えているので、蒸し水にアラビアガム等を溶解させた試験例1とは全く態様が異なる。
そして、明細書の他の記載事項あるいは出願時の技術常識を参酌しても、構造或いは科学的性質がアラビアガムと同一であるとはいえない、ガティガム或いは大豆多糖類についてもアラビアガムと同様に、打ち粉等の粉として麺皮製品へ適用された場合に、麺皮製品(即ち餃子)同士が全く結着せず皮も破れないという、アラビアガムの場合と同様の効果を奏する、ということはできない。
そうすると、「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する」とする本件特許発明1に係る組成物の範囲まで、明細書に記載された事項を拡張ないし一般化することはできないから、本件特許発明1は、「具材に含まれる野菜や肉類から出た旨み成分が流出したり、水分が流出したりすることで、調理後の麺皮食品の風味を著しく損なうことのないようにする(段落【0018】)」という本件特許の課題を解決するための手段が反映されている、ということはできない。
よって、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2ないし7は発明の詳細な説明に記載されたものでない。
また、「加熱調理前の麺皮食品の皮に適用する工程」と単に特定されているだけで、粉として適用されることを包含している、本件特許発明8に係る「麺皮食品の品質低下抑制方法」及び本件特許発明9に係る「品質低下が抑制された麺皮食品の製造方法」についても、上記と同様のことがいえるから、本件特許発明8、9もまた発明の詳細な説明に記載されたものでない。
(2)本件特許発明8、9では、アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を、加熱調理前の麺皮食品の皮に適用する工程を含むことが記載されているが、どのように適用するのかについて特定されていない。本件特許発明1では、打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種に用いられると特定しているが、本件特許発明8、9にはそのような特定がない。本件特許の実施例では蒸し水として加え、試験例2は打ち粉を付着し、試験例3は水溶液に浸漬している。麺皮同士の結着には、麺皮外面が影密するところ、麺皮食品の皮への適用には、麺皮内部に含有させることや、麺皮の外面ではなく麺皮で包む具材等の食材側内面への適用も包含している。適用の方法は麺皮同士の結着抑制の良否に影響すると考えられるところ、そのような態様においてまで、本件特許の課題が解決できるのか否か、実施例には示されていない。
よって、本件特許発明8、9は、課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
6 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2004/004493号
甲第2号証:特開2008-182930号公報
甲第3号証:特開2003-339331号公報
甲第4号証:特開2006-311849号公報
甲第5号証:特開2016-106590号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由(決定の予告)の概要
令和7年11月10日付けで通知された取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。
1 取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし5及び7ないし9は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし9は、甲1に記載された発明に基づいてその優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。なお、該取消理由1は申立理由1とおおむね同旨である。
2 取消理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明8及び9は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲2に記載された発明に基づいてその優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項8及び9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。なお、該取消理由2は申立理由2と重複する。
3 取消理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし3は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲3に記載された発明に基づいてその優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。なお、該取消理由3は申立理由3に包含される。
第6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
1 取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「焼成前の点心、焼き点心及びそれらの製造方法」に関しておおむね次の事項が記載されている。なお、記載事項の摘記に際し、半角文字は適宜全角で摘記した。下線は予め付されたものと当審で付したものである。他の証拠についても同様。
・「背景技術
焼き餃子に代表される焼き点心は、具の軟らかな食感と、皮の焼き目のパリパリ感とが同時に味わえる点で従来から好まれている。
ところで、食品売り場等における惣菜、テイクアウト食品、デリバリー食品及び冷凍食品の需要が近年増大しており、焼き点心も同様な形態で販売されている。惣菜、テイクアウト及びデリバリーの形態で販売される焼き点心は、調理後喫食するまでにある程度の時間経過は避けられず、また冷凍された焼き点心は、冷凍保存中に具から皮への水分移行が避け難い。このような現象により、焼き点心における皮の焼き目のパリパリ感が著しく低下する。
従来、このような欠点や、焼成前の点心同士、更には該点心と容器との付着を防止するために、澱粉等の打ち粉を外表面に付着させる方法が一般的に行われている。しかし、この方法では、焼成前の点心同士の付着や該点心の容器への付着を抑制することはできるが、上述のパリパリ感の劣化の低下についてはほとんどその効果が得られない。」(第1ページ第7ないし20行)
・「発明の開示
本発明の目的は、凍結保存した場合や、焼成後、ある程度の時間経過によっても焼き目のパリパリ感の劣化が充分に抑制できる焼成前の点心、焼き点心及びそれらの製造法を提供することにある。
本発明の別の目的は、取り扱いが容易で、凍結保存した場合や、焼成後、ある程度の時間経過によっても焼き点心の焼き目のパリパリ感の劣化を充分に抑制することが可能な焼成前の点心の製造に用いるパリパリ感劣化抑制剤を提供することにある。」(第1ページ末行ないし第2ページ第6行)
・「抑制剤を付着させるには、例えば、打ち粉をするように行うことができる他、トレー等の保存容器の底面に抑制剤を敷詰め、該抑制剤上に点心を載置して付着させる方法等が挙げられる。」(第6ページ第15ないし17行)
・「本発明の焼成前の点心、焼き点心及びその製造法では、上記抑制剤を用いるので、焼き目のパリパリ感が維持された焼き点心が得られる。従って、特に、惣菜、デリバリー、テイクアウトする焼き点心、冷凍又は冷蔵の焼成前の点心及び焼き点心として極めて有用である。
実施例
以下実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1-1~1-21、比較例1-1~1-3
表1に示す組成の各粉体を均一混合し、パリパリ感劣化抑制剤を調製した。
尚、表1中の「パインフロー」及ぴ「パインフローS」は、それぞれ商品名で、松谷化学工業(株)製である。これらのかさ密度は、JIS K 1201-1:2000「工業用炭酸ナトリウム-第1部:かさ密度の求め方」に準じて測定した。その結果、パインフロ一(a)のかさ密度は4.00ml/g、パインフロー(b)のかさ密度は3.85ml/g、パインフローSのかさ密度は4.55ml/gであった。また、デキストリンは商品名「サンテック#30」(三和澱粉工業(株)製)を用い、そのかさ密度は1.85ml/gであった。更に、小麦澱粉のかさ密度は1.27ml/gであった。ここで、パインフロー(a)とパインフロー(b)は、ロットの異なる同一商品名の市販品である。
[図:0001435177000001.jpg]
実施例2-1~2-20及び比較例2-1~2-4
餃子用皮として、市販の餃子皮(東京食品(株)製、商品名「餃子の皮 なま」皮1枚の重さは7g)を用い、また餃子用の具を常法に従い調製し、餃子1個あたり具18gを入れて包み、餃子を多数製造した。
次いで、表2に示す実施例1-1~1-20及び比較例1-1~1-3で調製した各抑制剤をそれぞれ別のトレー底面に敷詰め、そこに上記餃子10個を焼成すべき面を下面にして各々載置した。前記抑制剤のトレーへの供給量は、上述の操作により餃子1個あたり、各抑制剤が約0.75g付着するような量とした。続いて、各トレーに対して餃子1個あたり0.6gの水を噴霧した後、コンべクションオーブンにより95℃で7分間蒸煮した。
得られた蒸煮物を-35℃で凍結し凍結品を調製した。得られた凍結品を、油を引いたフライパン上に載置し、軽く焼いた後に水を入れて焼成し焼き餃子を調製した。尚、実施例2-21は、蒸煮せずに生のまま凍結した後に同様に焼成した。
得られた各焼き餃子を専門のパネル25人に、焼成直後、常温保存1時間後、2時間後、3時間後及び4時間後に食してもらい、皮焼き目におけるパリパリ感を評価してもらった。評価は、抑制剤を付着させなかった比較例2-1の焼成直後の食感を基準値としての0点とし、±3点の点数を付けることにより行った。結果をパネル全員の平均点として表2に示す。ここで、パリパリ感が良好なものほど+値が高く、-値が高いほどパリパリ感の低下が大きいことを意味する。
[図:0001435177000002.jpg]
」(第7ページ第14行ないし第9ページ下から第2行)
・「請求の範囲
1.具を麺体皮で包んだ焼成前の点心であって、穀物粉と、かさ密度3.0ml/g以上の粉末状の澱粉加水分解物(A-1)とを含み、焼成後の麺体皮における経時的なパリパリ感の劣化を抑制するためのパリパリ感劣化抑制剤を、麺体皮の外表面に有する焼成前の点心。」(第11ページ第1ないし5行)
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に実施例1-13又は1-18に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1物発明」、「甲1方法発明」及び「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1物発明>
「穀物粉として小麦澱粉88重量%、澱粉加水分解物としてJIS K 1201-1:2000に準じて測定したかさ密度が3.85ml/gであるパインフロー(b)5重量%、デキストリン5重量%及び増粘多糖類としてアラビアガム2重量%又は大豆多糖類2重量%の組成の各粉体を均一混合して調製された餃子のパリパリ感劣化抑制剤であって、餃子を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の餃子の皮に付着させる餃子のパリパリ感劣化抑制剤。」
<甲1方法発明>
「穀物粉として小麦澱粉88重量%、澱粉加水分解物としてJIS K 1201-1:2000に準じて測定したかさ密度が3.85ml/gであるパインフロー(b)5重量%、デキストリン5重量%及び増粘多糖類としてアラビアガム2重量%又は大豆多糖類2重量%の組成の各粉体を均一混合して調製された餃子のパリパリ感劣化抑制剤を、餃子を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の餃子の皮に付着させる工程を含む餃子のパリパリ感劣化抑制方法。」
<甲1製法発明>
「穀物粉として小麦澱粉88重量%、澱粉加水分解物としてJIS K 1201-1:2000に準じて測定したかさ密度が3.85ml/gであるパインフロー(b)5重量%、デキストリン5重量%及び増粘多糖類としてアラビアガム2重量%又は大豆多糖類2重量%の組成の各粉体を均一混合して調製された餃子のパリパリ感劣化抑制剤を、餃子を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の餃子の皮に付着させる工程を含む餃子のパリパリ感劣化が抑制された餃子の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1物発明を対比する。
甲1物発明における「アラビアガム2重量%又は大豆多糖類2重量%」は本件特許発明1における「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種」に相当する。
甲1物発明における「焼成前の餃子の皮」は本件特許発明1における「加熱調理前の麺皮食品の皮」に相当する。
甲1物発明における「餃子を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の餃子の皮に付着させる」ことは本件特許発明1における「加熱調理前の麺皮食品の皮」に「打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種」を「適用」することに相当する。
甲1物発明における「パリパリ感劣化抑制剤」は本件特許発明1における「組成物」に相当する。
甲1物発明は、「餃子を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の餃子の皮に付着させる」ものであるから、「焼成前の餃子同士の付着や該餃子の容器への付着を抑制することはできる」といえ、甲1物発明は本件特許発明1における「麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化抑制用組成物」に相当する発明特定事項を有しているといえる。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、加熱調理前の麺皮食品の皮に適用される打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種に用いられるための麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化抑制用組成物。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-1>
「組成物」に関して、本件特許発明1においては「(但し、該組成物は、(i)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物)」と特定されているのに対し、甲1物発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点1-1について検討する。
甲1物発明は「澱粉加水分解物としてJIS K 1201-1:2000に準じて測定したかさ密度が3.85ml/gであるパインフロー(b)」を混合して調製された「餃子のパリパリ感劣化抑制剤」の発明であるから、相違点1-1が実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
そして、甲1には、甲1物発明における「澱粉加水分解物としてJIS K 1201-1:2000に準じて測定したかさ密度が3.85ml/gであるパインフロー(b)」を混合して調製された「餃子のパリパリ感劣化抑制剤」を「JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物」以外のものとする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1物発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「麺皮食品における加熱前(生の状態)や加熱時の麺皮の結着を効果的に抑制する組成物」を「提供することが可能となる」及び「生の状態の麺皮食品の皮が、経時的に硬化することを抑制する組成物」を「提供することが可能となる」(本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0018】)という、甲1物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
よって、本件特許発明1は甲1物発明であるとはいえないし、甲1物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明2、5及び7について
本件特許発明2、5及び7はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1物発明であるとはいえないし、甲1物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明6について
本件特許発明6は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と甲1方法発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲1物発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲1方法発明は、「餃子を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の餃子の皮に付着させる工程を含む」ものであるから、「焼成前の餃子同士の付着や該餃子の容器への付着を抑制することはできる」といえ、甲1方法発明は本件特許発明8における「麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化の抑制方法」に相当する発明特定事項を有しているといえる。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を、加熱調理前の麺皮食品の皮に打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種の態様で適用する工程を含む、麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化抑制方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-8>
「抑制方法」に関して、本件特許発明8においては「(但し、該方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化抑制方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む餃子や春巻きの麺質を改良する方法)」と特定されているのに対し、甲1方法発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点1-8について検討する。
甲1方法発明は「澱粉加水分解物としてJIS K 1201-1:2000に準じて測定したかさ密度が3.85ml/gであるパインフロー(b)」を混合して調製された「餃子のパリパリ感劣化抑制剤」を用いる「餃子のパリパリ感劣化抑制方法」の発明であるから、相違点1-8が実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
そして、甲1には、甲1方法発明における「澱粉加水分解物としてJIS K 1201-1:2000に準じて測定したかさ密度が3.85ml/gであるパインフロー(b)」を混合して調製された「餃子のパリパリ感劣化抑制剤」を「JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物」以外のものとする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1方法発明において、相違点1-8に係る本件特許発明8の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明8は「麺皮食品における加熱前(生の状態)や加熱時の麺皮の結着を効果的に抑制する」「方法」を「提供することが可能となる」及び「生の状態の麺皮食品の皮が、経時的に硬化することを抑制する」「方法」を「提供することが可能となる」(発明の詳細な説明の【0018】)という、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
よって、本件特許発明8は甲1方法発明であるとはいえないし、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)本件特許発明9について
ア 対比
本件特許発明9と甲1製法発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲1物発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲1製法発明は、「餃子を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の餃子の皮に付着させる工程を含む」ものであるから、「焼成前の餃子同士の付着や該餃子の容器への付着を抑制することはできる」といえ、甲1製法発明は本件特許発明9における「麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化が抑制された麺皮食品の製造方法」に相当する発明特定事項を有しているといえる。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を、加熱調理前の麺皮食品の皮に打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種の態様で適用する工程を含む、麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化が抑制された麺皮食品の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-9>
「製造方法」に関して、本件特許発明9においては「(但し、該製造方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化が抑制された点心の製造方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む麺質を改良した餃子や春巻きの製造方法)」と特定されているのに対し、甲1製法発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点1-9について検討する。
相違点1-9は相違点1-8と実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、相違点1-9が実質的な相違点であることは当業者に明らかであり、甲1製法発明において、相違点1-9に係る本件特許発明9の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明9は「麺皮食品における加熱前(生の状態)や加熱時の麺皮の結着を効果的に抑制する組成物」を用いた麺皮食品の製造方法を「提供することが可能となる」及び「生の状態の麺皮食品の皮が、経時的に硬化することを抑制する組成物」を用いた麺皮食品の製造方法を「提供することが可能となる」(発明の詳細な説明の【0018】)という、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
よって、本件特許発明9は甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(7)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の令和7年8月6日に提出された意見書における主張は要するに、本件特許発明1、8及び9に含まれる「ガティガム」及び「大豆多糖類」においても、「アラビアガム」同様の効果が奏されるとはいえないから、本件特許発明1、2及び5ないし9は甲1に記載された発明であるか、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというものである(上記意見書第2ないし5ページ)。
そこで、上記主張について検討する。
上記(2)イ、(5)イ及び(6)イのとおり、「ガティガム」及び「大豆多糖類」において「アラビアガム」と同様の効果が奏されるか否かにかかわらず、甲1に記載された発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項から、当業者が本件特許発明1、8及び9に容易に想到することはできない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(8)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1、2、5及び7ないし9は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1、2及び5ないし9は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1、2及び5ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、取消理由1によっては取り消すことはできない。
2 取消理由2(甲2に基づく進歩性)及び申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
取消理由2(甲2に基づく進歩性)は申立理由2(甲2に基づく進歩性)と重複するので併せて検討する。
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「食品の粘着防止剤」に関しておおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
ガティガムからなる、食品の粘着防止剤。
【請求項2】
ガティガムと、油脂と、水とを含む乳化物からなる、食品の粘着防止剤。」
【請求項3】
請求項1または2に記載の粘着防止剤を含む、食品。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の粘着を防止するために用いられる粘着防止剤、および該粘着防止剤を含有する食品に関する。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、食品の味および外観に影響を与えず、かつ食品同士あるいは食品と容器との粘着を効果的に抑制し得る、食品の粘着防止剤、および該粘着防止剤を含有する食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、ガティガムを用いることによって、食品同士あるいは食品と容器との粘着防止に優れた効果を発揮することを見出して本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の食品の粘着防止剤は、ガティガムからなる。」
・「【0018】
本発明の食品の粘着防止剤は、ガティガムからなる。この粘着防止剤は、ガティガム自体をそのまま用いてもよいが、ガティガムを水に溶解した水溶液、ガティガムと油脂と水とを混合した乳化物、該乳化物をさらに噴霧乾燥などの当業者が通常行う乾燥方法を用いることによって得られる粉末(乳化物粉末)などの形態で用いてもよい。」
・「【0027】
上記穀粒、穀粉、および澱粉からなる群より選択される少なくとも1種を主成分として含む食品としては、例えば、麺類、米飯、団子状食品、シート状食品などが挙げられる。麺類としては、例えば、うどん、きしめん、日本そば、中華麺、素麺、パスタなどの小麦粉またはそば粉を主成分とする麺類、春雨などの緑豆澱粉を主成分とする麺類、およびビーフンなどの米粉またはジャガイモなどに由来する澱粉を主成分とする麺類が挙げられる。米飯としては、白飯、ピラフ、焼飯、およびおこわが挙げられる。団子状食品としては、例えば、わらび餅、かしわ餅などの餅類、および白玉団子が挙げられる。シート状食品としては、例えば、餃子の皮およびワンタンが挙げられる。なお、上記シート状食品に具材を包んだ食品、例えば、餃子、シュウマイなどについても、本発明の粘着防止剤が適用されることはいうまでもない。」
・「【0030】
本発明の食品の粘着防止剤の使用方法は、特に制限されない。例えば、食品原料に予め上記粘着防止剤を練り込んでもよいし、あるいは食品を上記粘着防止剤でコーティングしてもよい。食品を上記粘着防止剤でコーティングすることが好ましい。コーティングは、例えば、食品に上記粘着防止剤を塗布、滴下、または噴霧することによって行われる、あるいは食品を上記粘着防止剤の水溶液または乳化物に浸漬し、水切りすることなどによって行われる。例えば、加熱食品(茹でる、蒸す、炊く、炒めるなどの加熱調理される加工食品)の場合、加熱調理前に予め上記練り込むことまたはコーティングすることにより使用するか、あるいは加熱処理後にコーティングすることにより使用し得る。即席麺類(ノンフライ麺およびフライ麺)の場合、食品原料に予め粘着防止剤を練り込んで製麺するか、あるいは製麺した麺線を蒸す前、あるいは蒸した後に粘着防止剤でコーティングすることにより使用される。即席麺類は、得られた麺線を、その後、必要に応じて蒸し、成型し、そして水分を除去することによって製造される。粘着防止剤によるコーティングは、製麺した麺線を蒸した後で、かつ水分を除去する前に行うことが好ましい。冷凍食品の場合は、食品に予め粘着防止剤を練りこむことまたはコーティングすることにより使用し、その後冷凍する、あるいは冷凍食品を解凍した後に、上記の塗布、滴下、噴霧、浸漬などの処理を行うことにより使用する。」
・「【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0035】
(実施例1~4)
ガティガムを10質量%含有する水溶液(実施例1)、ガティガムを5質量%含有する水溶液(実施例2)、ガティガムを0.1質量%含有する水溶液(実施例3)、およびガティガムを0.05質量%含有する水溶液(実施例4)をそれぞれ調製した(以下、ガティガムを含む水溶液を単にガティガム含有水溶液という)。各水溶液を用いて、粘着防止性(麺ほぐれ性または付着防止性)を以下のようにして評価した。結果を表1に示す。
【0036】
(粘着防止性1:麺ほぐれ性)
麺ほぐれ性を、以下のようにして評価した。まず、茹で麺(うどんおよび中華麺)を試作した。
【0037】
うどんは、小麦粉90質量部、タピオカ加工澱粉10質量部、食塩3質量部、および水37質量部をミキサーで捏ね、製麺し、茹でて得た。
【0038】
中華麺は、小麦粉(準強力粉)100質量部、食塩2質量部、およびかん水(ボーメ度6)34質量部をミキサーで捏ね、製麺し、茹でて得た。
【0039】
次いで、これらの茹で麺100質量部に、上記ガティガム含有水溶液3質量部を噴霧した。5℃にて24時間保存した後、箸で茹で麺をほぐした。麺ほぐれ性について、15名のパネラーにより以下の基準で官能的に評価し、平均点を算出した。なお、点数が高いほど、麺ほぐれ性が優れていることを示す。
【0040】
(評価基準)
5点:箸でほぐさずに、1本の麺線を容易に摘み上げることができる
(茹で上げ直後の麺のほぐれ性と同等である)
4点:箸でほぐすと、容易に麺全体がばらける
3点:箸でほぐすと、麺全体がばらけるが、時間がかかる
2点:箸でほぐすと、部分的にばらけるが、麺線同士が粘着している
1点:箸でほぐしても、麺塊がばらけない、あるいは麺線がちぎれる
(多糖類を噴霧せずに得られる保存茹で麺(後述の比較例7)と同等である)
【0041】
(粘着防止性2:付着防止性)
付着防止性を、以下のようにして評価した。まず、ぬるま湯80質量部に上新粉100質量部を加えて攪拌した後、20分間蒸し、さらにミキサーにて捏ねた。冷却後、成形して団子を得た。次いで、この団子を、上記ガティガム含有水溶液を水で2倍に希釈した希釈液に浸漬した。団子を取り出して水切りした後、5℃にて24時間保存した。保存後、付着防止性ついて、15名のパネラーにより以下の基準で官能的に評価し、平均点を算出した。なお、点数が高いほど、付着防止性が優れていることを示す。
【0042】
(評価基準)
5点:団子同士がほとんど付着していない
(冷却成形直後の団子の付着性と同等である)
4点:団子同士が付着しているが、箸で容易に外すことができる
3点:団子同士が付着しており、箸で外すことができるが、やや粘着している
2点:団子同士が密着しており、箸で一方の団子を摘んでも外れ難い
1点:団子同士が密着しており、形を保ったまま箸で外すことが困難である
(多糖類を噴霧せずに得られる保存団子(後述の比較例7)と同等である)」
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、特に【請求項1】ないし【請求項3】、【0018】、【0027】及び【0030】に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2物発明」、「甲2方法発明」及び「甲2製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2物発明>
「加熱調理前に餃子の皮に予め練り込むことまたはコーティングすることにより、餃子の皮に適用される餃子同士あるいは餃子と容器との粘着を効果的に抑制するためのガティガムを含む粘着防止剤。」
<甲2方法発明>
「ガティガムを含む粘着防止剤を、加熱調理前に餃子の皮に予め練り込むことまたはコーティングすることにより、餃子の皮に適用する餃子同士あるいは餃子と容器との粘着を効果的に抑制し得る方法。」
<甲2製法発明>
「ガティガムを含む粘着防止剤を、加熱調理前に餃子の皮に予め練り込むことまたはコーティングすることにより、餃子の皮に適用する餃子同士あるいは餃子と容器との粘着を効果的に抑制した餃子の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2物発明を対比する。
甲2物発明における「ガティガム」は本件特許発明1における「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種」に相当する。
甲2物発明における「加熱調理前に餃子の皮に予め練り込むことまたはコーティングすることにより、餃子の皮に適用される」は本件特許発明1における「加熱調理前の麺皮食品の皮に適用される」に相当する。
甲2物発明における「餃子同士あるいは餃子と容器との粘着を効果的に抑制するためのガティガムを含む粘着防止剤」は本件特許発明1における「麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化抑制用組成物(但し、該組成物は、(i)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物)」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、加熱調理前の麺皮食品の皮に適用される麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化抑制用組成物(但し、該組成物は、(i)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物)。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-1>
本件特許発明1においては「打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種に用いられるための」と特定されているのに対し、甲2物発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点2-1について検討する。
甲2には、甲2物発明を「餃子の皮に予め練り込むことまたはコーティングすること」に代えて「打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種に用い」るようにする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲2物発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「麺皮食品における加熱前(生の状態)や加熱時の麺皮の結着を効果的に抑制する組成物」を「提供することが可能となる」及び「生の状態の麺皮食品の皮が、経時的に硬化することを抑制する組成物」を「提供することが可能となる」という、甲2物発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は甲2物発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明6について
本件特許発明6は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2物発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と甲2方法発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲2物発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
甲2方法発明における「餃子同士あるいは餃子と容器との粘着を効果的に抑制する方法」は本件特許発明8における「麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化の抑制方法(但し、該方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化抑制方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む餃子や春巻きの麺質を改良する方法)」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を、加熱調理前の麺皮食品の皮に適用する工程を含む、麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化抑制方法(但し、該方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化抑制方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む餃子や春巻きの麺質を改良する方法)。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2-8>
「加熱調理前の麺皮食品の皮に適用する工程」に関して、本件特許発明8においては「打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種の態様で」と特定されているのに対し、甲2方法発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点2-8について検討する。
甲2方法発明は「ガティガムを含む粘着防止剤」を「加熱調理前に餃子の皮に予め練り込むことまたはコーティングすることにより、餃子の皮に適用する」方法の発明であるから、相違点2-8が実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
そして、甲2には、甲2方法発明における「餃子の皮に予め練り込むことまたはコーティングすること」に代えて「打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種の態様で」適用するようにする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲2方法発明において、相違点2-8に係る本件特許発明8の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明8は「麺皮食品における加熱前(生の状態)や加熱時の麺皮の結着を効果的に抑制する」「方法」を「提供することが可能となる」及び「生の状態の麺皮食品の皮が、経時的に硬化することを抑制する」「方法」を「提供することが可能となる」という、甲2方法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
よって、本件特許発明8は甲2方法発明であるとはいえないし、甲2方法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明9について
ア 対比
本件特許発明9と甲2製法発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明8と甲2方法発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲2製法発明における「餃子同士あるいは餃子と容器との粘着を効果的に抑制した餃子の製造方法」は本件特許発明9における「麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化が抑制された麺皮食品の製造方法(但し、該製造方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化が抑制された点心の製造方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む麺質を改良した餃子や春巻きの製造方法)」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を、加熱調理前の麺皮食品の皮に適用する工程を含む、麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化が抑制された麺皮食品の製造方法(但し、該製造方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化が抑制された点心の製造方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む麺質を改良した餃子や春巻きの製造方法)。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2-9>
「加熱調理前の麺皮食品の皮に適用する工程」に関して、本件特許発明9においては「打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種の態様で」と特定されているのに対し、甲2製法発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点2-9について検討する。
相違点2-9は相違点2-8と実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、相違点2-9が実質的な相違点であることは当業者に明らかであり、甲2製法発明において、相違点2-9に係る本件特許発明9の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明9は「麺皮食品における加熱前(生の状態)や加熱時の麺皮の結着を効果的に抑制する組成物」を用いた麺皮食品の製造方法を「提供することが可能となる」及び「生の状態の麺皮食品の皮が、経時的に硬化することを抑制する組成物」を用いた麺皮食品の製造方法を「提供することが可能となる」という、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
よって、本件特許発明9は甲2製法発明であるとはいえないし、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の令和7年8月6日に提出された意見書における主張は、令和7年7月3日にされた訂正請求による訂正後の本件特許発明8及び9が「但し、噴霧又は浸漬による適用を除く。」という発明特定事項を有していることを前提とする主張である(上記意見書第5及び6ページ)が、令和8年1月5日にされた訂正請求により、令和7年7月3日にされた訂正請求は取り下げられたものとみなされ、また、令和8年1月5日にされた訂正請求による訂正後の本件特許発明8及び9は「但し、噴霧又は浸漬による適用を除く。」という発明特定事項を有していない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、その前提が異なるものとなっており、詳細に検討するまでもなく、採用できない。
(7)取消理由2及び申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明8及び9は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1、6、8及び9は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1、6、8及び9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、取消理由2及び申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 取消理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)及び申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)について
取消理由3は申立理由3に包含されるので併せて検討する。
(1)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「食感改良剤、麺類およびその製造方法」に関しておおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】 カシアガムを含有することを特徴とする、麺類用の食感改良剤。
【請求項2】 多糖類、繊維類、糖アルコール類、でん粉類、たん白質類、乳製品類、カルシウム剤類、アルカリ剤類、pH調整剤類、乳化剤類、酵素類、および食品素材類から選択される1種または2種以上をさらに含む請求項1に記載の食感改良剤。
【請求項3】 カシアガムを含有することを特徴とする、麺類の茹で延び抑制剤。
【請求項4】 カシアガムを含有することを特徴とする、麺類の弾力増強剤。
【請求項5】 カシアガムを含有することを特徴とする、麺類の滑らかさ改良剤。
【請求項6】 カシアガムを含有することを特徴とする、麺類の硬さ増強剤。
【請求項7】 請求項1もしくは2に記載の食感改良剤、請求項3に記載の茹で延び抑制剤、請求項4に記載の弾力増強剤、請求項5に記載の滑らかさ改良剤、または請求項6に記載の硬さ増強剤を含むことを特徴とする麺類。
【請求項8】 生麺、生チルド麺、生冷凍麺、茹で麺、茹でチルド麺、茹で冷凍麺、蒸し麺、蒸しチルド麺、蒸し冷凍麺、乾麺、油揚げ即席麺、非油揚げ即席麺、またはロングライフ麺である請求項7に記載の麺類。
【請求項9】 中華麺、そば、うどん、そうめん、冷麦、きし麺、ビーフン、ちゃんぽん、冷麺、にゅう麺、スパゲッティー、マカロニ、パスタ、餃子の皮、シウマイの皮、またはラビオリの皮である請求項7に記載の麺類。」
・「【0002】
【従来の技術】一般的に食されている麺類は、生麺を調理することにより作られる。生麺は、強力粉・準強力粉・中力粉・薄力粉・デュラムセモリナ粉・はと麦粉・大麦粉・ライ麦粉・そば粉・米粉・とうもろこし粉・大豆粉などの粉体に、場合によってはでん粉などの副原料を加え、さらに水、場合によってはこれに食塩やかんすいやアルコールなどを加えて混合し、場合によっては熟成時間をとったり叩いたり踏んだりしてから、さらに場合によってはロールや棒や手で延ばしたりして麺帯を作り、切歯などで切り出したり手で延ばしたり穴から押し出したりして麺線とするか、または麺帯をくり貫いたりカットしたりして所定の形の麺帯にして製造される。これら生麺は、でき上がり直後にすぐさま調理されたり、あるいは生のまま一端パッケージに入れられたり、箱に入れられたりして流通し、飲食店や家庭で茹でたり蒸したり炒めたり煮込んだり揚げたりして喫食される場合も多いが、工場などで茹でたり蒸したり炒めたり煮込んだり乾燥したり油揚げしたりpH調整処理したり加熱殺菌処理して加工され、その後パッケージングされ、常温・チルド・冷凍の状態で流通される場合も多い。いずれの場合においても、麺類としての価値を決める因子は色・味・香り・食感であり、このうち麺類のうまさ・まずさを決定付ける最も重要ものは食感である。麺類の食感は、硬さ・弾力・粘り・歯触り・舌触りなどが関与し、コシ・歯切れ・のどごし・滑らかさ・しなやかさなどで表現される。」
・「【0007】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明では、前述する従来技術の問題点を少しでも解決し、現在望まれている要望を満たすことが可能で、より食感改良効果がある麺類用の食感改良剤を提供することを目的とする。また、それを用いて食感が改良された麺類、およびその製造方法を提供することも目的とする。」
・「【0019】本発明の食感改良剤は、カシアガムを含有するものであれば、その他の成分の種類と含有量は所期の効果を過度に阻害しない限り特に制限されない。例えば、多糖類、繊維類、糖アルコール類、でん粉類、たん白質類、乳製品類、カルシウム剤類、アルカリ剤類、pH調整剤類、乳化剤類、酵素類、食品素材類の1種または2種以上を含んでいてもよい。
【0020】本発明では多糖類として、天然ガムやそれを加工したものを広く用いることができる。例えば、アルギン酸、アルギン酸塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ヒアルロン酸、カラギーナン、マンナン、ペクチン、プルラン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアーガム、寒天、カードラン、タマリンドガム、アラビアガム、トラガントガム、ファセーレラン、ジェランガム、サイリウムシードガム、カラヤガム、キチン、キトサンなどの海藻、種子、樹脂および微生物由来の物質またはそれを加工した物質の1種または2種以上を用いることができる。ただし、本発明で用いることができる多糖類はこれらの具体例に限定されるものではない。」
・「【0053】本発明でいう麺・麺類とは、強力粉・準強力粉・中力粉・薄力粉・デュラムセモリナ粉・はと麦粉・大麦粉・ライ麦粉・そば粉・米粉・とうもろこし粉・大豆粉などの粉体に、場合によってはでん粉などの副原料を加え、さらに水、場合によってはこれに食塩やかんすいやアルコールなどを加えて混合し、場合によっては熟成時間をとったり叩いたり踏んだりしてから、さらに場合によってはロールや棒や手で延ばしたりして麺帯を作り、切歯などで切り出したり手で延ばしたり穴から押し出したりして麺線とするか、または麺帯をくり貫いたりカットしたりして所定の形の麺帯にして得られる麺や、これらの麺を工場などで茹でたり蒸したり炒めたり煮込んだり乾燥したり油揚げしたりpH調整処理したり加熱殺菌処理して加工され、その後パッケージングされ、常温・チルド・冷凍の状態で流通される生麺、生チルド麺、生冷凍麺、茹で麺、茹でチルド麺、茹で冷凍麺、蒸し麺、蒸しチルド麺、蒸し冷凍麺、乾麺、油揚げ即席麺、非油揚げ即席麺、ロングライフ麺などのことを指し、具体的には、中華麺、そば、うどん、そうめん、冷麦、きし麺、ビーフン、ちゃんぽん、冷麺、にゅう麺、スパゲッティー、マカロニ、パスタ、餃子の皮、シウマイの皮、ラビオリの皮などである。ただし、本発明の食感改良剤を適用できる麺類はこれらの具体例に限定されるものではない。」
・「【0055】添加の仕方としては、食感改良剤を粉のまま、または水を加えてから混合したり、ふりかけたり、まぶしたり、摺込んだり、漬け込んだり、あるいは注入したりして使用する。また、添加される工程については、原料粉中でも、副原料添加後でも、練り水添加後でも、混合中でも、熟成中でも、叩いたり踏んだりしている際中でも、ロールや棒や手で延ばしたりして麺帯を作っている際中でも、切歯などで切り出したり手で延ばしたり穴から押して出したりして麺線にしている際中でも、麺帯をくり貫いたりカットしたりして所定の形の麺帯にしている際中でも、その後の茹でたり蒸したり炒めたり煮込んだり乾燥したり油揚げしたりpH調整処理したり加熱殺菌処理加工中でもいかなる工程中でも構わないが、好ましくは原料粉中か副原料中か練り水中に添加するのがもっとも効果を発揮しやすい。」
・「【0057】実施例1 生中華麺 単品の食感改良剤
95.0重量部の準強力粉(日清製粉(株)製、特ナンバーワン)に5.0重量部のタピオカでん粉(松谷化学工業(株)製、パインベークCC)を加えてよく混合し、100.0重量部の粉体とした。この100.0重量部に対し、1.0重量部の食塩(鳴門塩業(株)製、うず塩)、1.5重量部のかん粉(オルガノ(株)製、かんすいKF)をよく混ぜ、これにカシアガム((株)紀文フードケミファ製、カシアガム)、アラビアガム(研光通商(株)製、アラビアガム)、キトサン(甲陽ケミカル(株)製、甲陽キトサンFM-80)、ペクチン((株)三晶製、ゲニュペクチンYM-150J)、カラギーナン(FMC BioPolymer製、Gelcarin ME811)、大豆植物繊維((株)紀文フードケミファ製、ソヤミール)、ステアロイル乳酸カルシウム((株)ベルフ製、ステアロイル乳酸カルシウム)のいずれか1種を1.0重量部、あるいは加工でん粉(ホーネンコーポレーション(株)、ゲルコールGT-α)、タピオカ加工でん粉(セレスタージャパン(株)、C☆CreamTex75728)、脱脂粉乳(明治乳業(株)、明治脱脂粉乳)のいずれか1種の2.0重量部を加えてよく混ぜ、これを34.0重量部の水に溶かすか懸濁させ練り水とした。これを上記の準強力粉とタピオカでん粉の混合粉体に加えて10分間混合し、10分の熟成時間を取った後、常法により生地を圧延ロールに通して粗麺帯を作り(3.0mm)、これを2枚重ねにしてロールに通す作業を2回繰り返した。これを同じロールで2.0mm→1.0mm→0.7mm→0.5mmまで順次圧延したあと、角20番の切刃を装着した切り出し機に通して、麺線状に切り出して生麺を得た。生のままのこの生麺を、沸騰したお湯の中で3分間茹でて調理しスープの入った器に入れ、官能検査に供した。一方、上記の生中華麺製造法のうちカシアガム以下の添加剤を加えなかったものを対照として、同様に製造、調理した。これらについて、調理直後とスープに10分間保持した後に官能検査により食感を調べた。結果を表1に示す。」
・「【0058】本明細書の実施例において官能検査は、訓練された4人のパネルにより中華麺については麺類の滑らかさ、硬さ、弾力、茹で延び具合について、パスタ麺については麺類の滑らかさ、硬さ、弾力について、良い方を+として-3から+3の7段階で評価し、平均点で示した。いずれの場合も食感として好ましい方を+として評価させ、特に中華麺における茹で延び具合は、茹で延びあるいは湯延びしていない方を+とすることに留意した。中華麺における滑らかさ、硬さ、弾力は麺を調理して食べられる状態になった直後に、茹で延び具合は麺を調理してスープに保持して8分または10分経過した後にそれぞれ評価した。パスタ麺についてはすべて調理直後に評価した。また、官能検査はすべてブラインドで行い、対照区の結果を0に補正して先入観が入らないように配慮した。」
・「【0059】
【表1】
[図:0001435177000003.jpg]
」
・「【0072】上記実施例以外にも、餃子の皮についても検討を行ったが、本発明のカシアガムおよびそれを主体とした食感改良剤により、食感を改良することができた。」
イ 甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を、特に【請求項1】、【請求項2】、【請求項7】、【請求項9】、【0019】、【0020】、【0053】及び【0055】に関して整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3物発明」、「甲3方法発明」及び「甲3製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲3物発明>
「カシアガム及びアラビアガムを含む食感改良剤であって、茹でたり蒸したりする前の餃子の皮、シウマイの皮、ラビオリの皮にふりかけたり、まぶしたり、擦込んだり、漬け込んだりあるいは注入したりして使用する食感改良剤。」
<甲3方法発明>
「カシアガム及びアラビアガムを含む食感改良剤を、ふりかけたり、まぶしたり、擦込んだり、漬け込んだりあるいは注入したりして茹でたり蒸したりする前の餃子の皮、シウマイの皮、ラビオリの皮に使用して、餃子、シウマイ、ラビオリの食感を改良する方法。」
<甲3製法発明>
「カシアガム及びアラビアガムを含む食感改良剤を、ふりかけたり、まぶしたり、擦込んだり、漬け込んだりあるいは注入したりして茹でたり蒸したりする前の餃子の皮、シウマイの皮、ラビオリの皮に使用する、食感が改良された餃子、シウマイ、ラビオリの製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3物発明を対比する。
甲3物発明における「アラビアガム」は本件特許発明1における「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種」に相当する。
甲3物発明における「茹でたり蒸したりする前の餃子の皮、シウマイの皮、ラビオリの皮」は本件特許発明1における「加熱調理前の麺皮食品の皮」に相当する。
甲3物発明における「ふりかけたり、まぶしたり、擦込んだり、漬け込んだりあるいは注入したりして使用する」ことは本件特許発明1における「加熱調理前の麺皮食品の皮」に「打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種」を「適用」することに相当する。
甲3物発明における「食感改良剤」は本件特許発明1における「組成物(但し、該組成物は、(i)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物)」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、加熱調理前の麺皮食品の皮に適用される打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種に用いられるための組成物(但し、該組成物は、(i)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物)。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点3-1>
「組成物」に関して、本件特許発明1においては「麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化抑制用」と特定されているのに対し、甲3物発明においては「食感改良」剤と特定されている点。
イ 判断
相違点3-1について検討する。
甲3の【0002】及び【0058】によると、甲3物発明における「食感改良」は「コシ・歯切れ・のどごし・滑らかさ・しなやかさなどで表現される」食感の改良であり、具体的には「滑らかさ、硬さ、弾力、茹で延び具合」の改良であるから、相違点3-1が実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
そして、甲3には、甲3物発明における「食感改良」を「麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化抑制」とする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲3物発明において、相違点3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「麺皮食品における加熱前(生の状態)や加熱時の麺皮の結着を効果的に抑制する組成物」を「提供することが可能となる」及び「生の状態の麺皮食品の皮が、経時的に硬化することを抑制する組成物」を「提供することが可能となる」という、甲3物発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
よって、本件特許発明1は甲3物発明であるとはいえないし、甲3物発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3物発明であるとはいえないし、甲3物発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と甲3方法発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲3物発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲3方法発明における「餃子、シウマイ、ラビオリの食感を改良する方法」は本件特許発明8における「方法(但し、該方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化抑制方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む餃子や春巻きの麺質を改良する方法)」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を、加熱調理前の麺皮食品の皮に打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種の態様で適用する工程を含む、方法(但し、該方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化抑制方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む餃子や春巻きの麺質を改良する方法)。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点3-8>
「方法」に関して、本件特許発明8においては「麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化抑制」と特定されているのに対し、甲3方法発明においては「食感を改良する方法」と特定されている点。
イ 判断
相違点3-8について検討する。
相違点3-8は相違点3-1と実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、相違点3-8が実質的な相違点であることは当業者に明らかであり、甲3方法発明において、相違点3-8に係る本件特許発明8の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明8は「麺皮食品における加熱前(生の状態)や加熱時の麺皮の結着を効果的に抑制する」「方法」を「提供することが可能となる」及び「生の状態の麺皮食品の皮が、経時的に硬化することを抑制する」「方法」を「提供することが可能となる」という甲3方法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
よって、本件特許発明8は甲3方法発明であるとはいえないし、甲3方法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明9について
ア 対比
本件特許発明9と甲3製法発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲3物発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲3製法発明における「食感が改良された餃子、シウマイ、ラビオリの製造方法」は本件特許発明9における「麺皮食品の製造方法(但し、該製造方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化が抑制された点心の製造方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む麺質を改良した餃子や春巻きの製造方法)」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を、加熱調理前の麺皮食品の皮に打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種の態様で適用する工程を含む、麺皮食品の製造方法(但し、該製造方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化が抑制された点心の製造方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む麺質を改良した餃子や春巻きの製造方法)。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点3-9>
「麺皮食品の製造方法」に関して、本件特許発明9においては「麺皮食品同士の結着、麺皮食品と調理器具との結着、結着に起因する麺皮食品の皮の破れ、又は、麺皮食品の経時的硬化が抑制された」と特定されているのに対し、甲3製法発明においては「食感が改良された」と特定されている点。
イ 判断
相違点3-9について検討する。
相違点3-9は相違点3-1と実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、相違点3-9が実質的な相違点であることは当業者に明らかであり、甲3製法発明において、相違点3-9に係る本件特許発明9の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明9は「麺皮食品における加熱前(生の状態)や加熱時の麺皮の結着を効果的に抑制する組成物」を用いた麺皮食品の製造方法を「提供することが可能となる」及び「生の状態の麺皮食品の皮が、経時的に硬化することを抑制する組成物」を用いた麺皮食品の製造方法を「提供することが可能となる」という甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
よって、本件特許発明9は甲3製法発明であるとはいえないし、甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)取消理由3及び申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1、8及び9は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1、8及び9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、取消理由3及び申立理由3によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由(決定の予告)として採用しなかった特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由について
取消理由(決定の予告)として採用しなかった特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由は次のとおりである。
・申立理由2(甲2に基づく進歩性)の一部
・申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)の一部
・申立理由4(甲4に基づく新規性・進歩性)
・申立理由5(サポート要件)
申立理由2(甲2に基づく進歩性)の一部及び申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)の一部についてはそれぞれ上記第6 2及び3で検討したとおりである。
以下、申立理由4(甲4に基づく新規性・進歩性)及び申立理由5(サポート要件)の順に検討する。
1 申立理由4(甲4に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲4に記載された事項等
ア 甲4に記載された事項
甲4には、「麺質改良剤」に関しておおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
ヒドロキシプロピルセルロースを含むことを特徴とする麺質改良剤。
【請求項2】
さらに水溶性へミセルロースを含有し、ヒドロキシプロピルセルロースと水溶性へミセルロースとの割合が1:10~10:1(重量比)であることを特徴とする請求項1記載の麺質改良剤。
【請求項3】
麺ほぐれ改良剤である、請求項1または2に記載する麺質改良剤。
【請求項4】
湯伸び抑制剤である、請求項1または2に記載する麺質改良剤。
【請求項5】
つや付与剤である、請求項1または2に記載する麺質改良剤。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれかに記載の麺質改良剤を含む麺類。
【請求項7】
請求項3に記載する麺ほぐれ改良剤を麺原料に配合して麺類を製造するか、または請求項3に記載する麺ほぐれ改良剤を用いて生麺または加熱処理麺を処理することを特徴とする麺類のほぐれを改良する方法。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みて開発されたもので、麺類の品質を改良するための剤(麺質改良剤)、具体的には、麺同士が結着し団子状になるのを防止または抑制し、麺類のほぐれ性を改良する剤(麺ほぐれ改良剤)、麺類の湯伸びを抑制する剤(湯伸び抑制剤)、または麺類に光沢(つや)を付与する剤(つや付与剤)を提供することを目的とする。さらに、本発明はかかる麺質改良剤(麺ほぐれ改良剤、湯伸び抑制剤、つや付与剤)を用いることによって、麺同士が結着して団子状になるのが抑制されてほぐれ性が改良された麺類、湯伸びが抑制された麺類、または光沢(つや)のある麺類を提供することを目的とする。」
・「【0016】
本発明が対象とする麺類は、穀類(米、小麦、大麦、蕎麦、粟、稗等)の澱粉質を主原料として、これに加水混練して製麺したものであり、麺類の種類やその形状を特に限定するものではない。具体的には、例えば、うどん、中華麺、皮類(餃子や春巻きの皮などを含む)、和そば、素麺、冷麦、冷麺、ビーフン、はるさめ、きしめん、ヌードル、パスタ(マカロニやスパゲッティを含む)等が挙げられる。」
・「【0026】
具体的には、以下の方法を例示することができる。
1.麺質改良剤を、直接あるいは水溶液に溶解或いは分散させてから麺類の原料に配合して、麺類生地に練り込む。
2.麺質改良剤を添加した水または熱湯にて麺類をゆでる。
3.ゆでるなどの任意の加熱処理をした麺類(加熱処理麺)を、麺質改良剤または麺質改良剤を水に溶解或いは分散させた溶液で表面処理する。
4.生麺または加熱処理麺を、麺質改良剤を調味液に溶解または分散させた溶液で表面処理する。
5.生麺または加熱処理麺を、麺質改良剤を溶解または分散させた油を用いて調理する。」
・「【0030】
また、麺質改良剤を用いて生麺や加熱処理麺を処理して麺類を製造する場合(上記2~5の方法の場合)、処理液中のヒドロキシプロピルセルロースの濃度が0.1~5重量%、好ましくは0.5~2重量%となるように麺質改良剤を用いることができる。なお、処理方法が噴霧の場合、ヒドロキシプロピルセルロースの濃度は、更に好ましくは1~2重量%となるように麺質改良剤を用いることができる。」
・「【0037】
本発明の麺質改良剤は、ヒドロキシプロピルセルロースと水溶性ヘミセルロースとを1:10~10:1(重量比)(ヒドロキシプロピルセルロース100重量部に対して水溶性ヘミセルロース10~1000重量部)、好ましくは1:9~9:1(重量比)(ヒドロキシプロピルセルロース100重量部に対して水溶性ヘミセルロース約10~900重量部)の割合で含むものであればよく、その限りにおいてヒドロキシプロピルセルロースと水溶性ヘミセルロースの2成分からなるものであってもよいし、他の成分を含有するものであってもよい。他の成分としては、例えば、(1)湯伸び防止効果やコシなどの食感改良効果を主目的として本発明の麺質改良剤を用いる場合、キサンタンガム、グァーガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、ペクチン、グルコマンナン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、カードラン、カラヤガム、ガティガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、タラガム、プルラン、ペクチン、ラムザンガム、ヒドロキシプロピルセルロース以外の水溶性セルロースエーテル(メチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロースが好ましい)などの増粘安定剤を挙げることができる。また、(2)ほぐれ効果を主目的として本発明の麺質改良剤を用いる場合、他の成分としてヒドロキシプロピルセルロース以外の水溶性セルロースエーテル(メチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロースが好ましい)などを挙げることができる。さらに(3)つや出し効果を主目的として本発明の麺質改良剤を用いる場合、他の成分としてプルラン、ヒドロキシプロピルセルロース以外の水溶性セルロースエーテル(メチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロースが好ましい)を挙げることができる。」
イ 甲4に記載された発明
甲4に記載された事項を、特に【請求項1】、【0016】、【0026】、【0030】及び【0037】に関して整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4物発明」、「甲4方法発明」及び「甲4製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲4物発明>
「ヒドロキシプロピルセルロース及びガティガムを含有し、生の餃子や春巻きの皮を表面処理することで餃子や春巻きの麺質を改良する麺質改良剤。」
<甲4方法発明>
「ヒドロキシプロピルセルロース及びガティガムを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む餃子や春巻きの麺質を改良する方法。」
<甲4製法発明>
「ヒドロキシプロピルセルロース及びガティガムを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む麺質を改良した餃子や春巻きの製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲4物発明を対比するに、両者は少なくとも次の点で相違又は一応相違する。
<相違点4-1>
本件特許発明1においては「打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種に用いられるための」と特定されているのに対し、甲4物発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
甲4物発明は「表面処理することで餃子や春巻きの麺質を改良する麺質改良剤」であるから、相違点4-1が実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
そして、甲4には、甲4物発明における「麺質改良剤」を「表面処理する」ことに代えて「打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種に用い」るようにする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲4物発明において、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は「麺皮食品における加熱前(生の状態)や加熱時の麺皮の結着を効果的に抑制する組成物」を「提供することが可能となる」及び「生の状態の麺皮食品の皮が、経時的に硬化することを抑制する組成物」を「提供することが可能となる」という甲4物発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
よって、本件特許発明1は甲4物発明であるとはいえないし、甲4物発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明2及び7について
本件特許発明2及び7はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲4物発明であるとはいえないし、甲4物発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と甲4方法発明を対比するに、両者は少なくとも次の点で相違又は一応相違する。
<相違点4-8a>
本件特許発明8においては「打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種の態様で適用する工程を含む」と特定されているのに対し、甲4方法発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点4-8b>
「抑制方法」に関して、本件特許発明8においては「(但し、該方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化抑制方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む餃子や春巻きの麺質を改良する方法)」と特定されているのに対し、甲4方法発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点4-8bについて検討する。
甲4方法発明は「ヒドロキシプロピルセルロース及びガティガムを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む餃子や春巻きの麺質を改良する」方法であるから、相違点4-8bが実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
そして、甲4には、甲4方法発明における「ヒドロキシプロピルセルロース及びガティガムを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理する」ことを他のものとする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲4方法発明において、相違点4-8bに係る本件特許発明8の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明8は「麺皮食品における加熱前(生の状態)や加熱時の麺皮の結着を効果的に抑制する」「方法」を「提供することが可能となる」及び「生の状態の麺皮食品の皮が、経時的に硬化することを抑制する」「方法」を「提供することが可能となる」という甲4方法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲4方法発明であるとはいえないし、甲4方法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明9について
ア 対比
本件特許発明9と甲4製法発明を対比するに、両者は少なくとも次の点で相違又は一応相違する。
<相違点4-9a>
本件特許発明9においては「打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種の態様で適用する工程を含む」と特定されているのに対し、甲4製法発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点4-9b>
「製造方法」に関して、本件特許発明9においては「(但し、該製造方法は、(i)及び(ii)を除く;
(i)JIS K 1201-1:2000で測定したかさ密度が3.0ml/g以上である澱粉加水分解物を含む組成物を点心を載置するトレー底面に敷詰めること又は打ち粉をすることで焼成前の点心の皮に付着させる工程を含む点心のパリパリ感劣化が抑制された点心の製造方法;
(ii)ヒドロキシプロピルセルロースを含有する麺質改良剤で生の餃子や春巻きの皮を表面処理することを含む麺質を改良した餃子や春巻きの製造方法)」と特定されているのに対し、甲4製法発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点4-9bについて検討する。
相違点4-9bは相違点4-8bと実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、相違点4-9bが実質的な相違点であることは当業者に明らかであり、甲4製法発明において、相違点4-9bに係る本件特許発明9の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明9は「麺皮食品における加熱前(生の状態)や加熱時の麺皮の結着を効果的に抑制する組成物」を用いた麺皮食品の製造方法を「提供することが可能となる」及び「生の状態の麺皮食品の皮が、経時的に硬化することを抑制する組成物」を用いた麺皮食品の製造方法を「提供することが可能となる」という甲4製法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
よって、本件特許発明9は甲4製法発明であるとはいえないし、甲4製法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の令和7年8月6日に提出された意見書における主張は要するに、本件特許発明1、8及び9に含まれる「ガティガム」について「アラビアガム」同様の効果が奏されるとはいえないから、本件特許発明1、2及び5ないし9は甲4に記載された発明であるか、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというものである(上記意見書第6及び7ページ)。
そこで、上記主張について検討する。
上記(2)イ、(4)イ及び(5)イのとおり、「ガティガム」において「アラビアガム」と同様の効果が奏されるか否かにかかわらず、甲4に記載された発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項から、当業者が本件特許発明1、8及び9に容易に想到することはできない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(7)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許発明1、2及び7ないし9は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1、2及び7ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由4によっては取り消すことはできない。
2 申立理由5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)サポート要件の判断
ア 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
イ 判断
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0007】によると、本件特許発明1、2及び5ないし7の解決しようとする課題は「生の状態や、加熱調理された麺皮食品の品質低下を抑制することができる」「組成物」を提供することであり、本件特許発明8の解決しようとする課題は「生の状態や、加熱調理された麺皮食品の品質低下を抑制することができる」「麺皮食品の品質低下抑制方法」を提供することであり、本件特許発明9の解決しようとする課題は「生の状態や、加熱調理された麺皮食品の品質低下」が抑制された「麺皮食品の製造方法」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)。
発明の詳細な説明の【0007】には「本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、麺皮食品の皮に適用されるための組成物に、アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を含有させることにより、生の状態や、加熱調理された麺皮食品の品質低下を抑制することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0008】ないし【0017】には、本件特許発明1、2及び5ないし9に対応する記載がある。
発明の詳細な説明の【0063】ないし【0078】には、「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、加熱調理前の麺皮食品に適用される組成物」という条件を満たす実施例を用いて製造された麺皮食品が、そうでない麺皮食品よりも、麺皮食品同士の結着が弱く皮が破れにくいこと、麺皮食品同士の結着が全くなく皮が破れないこと及び麺皮食品同士が結着しにくく透明性が高く照り艶が良好で食感が柔らかい等の麺皮食品の品質低下が抑制されたことを確認する記載がある。
そうすると、発明の詳細な説明の上記記載により当業者は「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、加熱調理前の麺皮食品に適用される組成物」、「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を、加熱調理前の麺皮食品の皮に適用する工程を含む、麺皮食品の品質低下抑制方法」及び「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を、加熱調理前の麺皮食品の皮に適用する工程を含む、品質低下が抑制された麺皮食品の製造方法。」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1、2及び5ないし7は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「組成物」をさらに限定したものであり、本件特許発明8は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「抑制方法」をさらに限定したものであり、本件特許発明9は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「製造方法」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1、2及び5ないし9は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
よって、本件特許発明1、2及び5ないし9に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
申立理由5における特許異議申立人の主張(上記第4 5(1)及び(2))について検討するに、次のとおりいずれの主張も採用できない。
ア 上記第4 5(1)における主張について
発明の詳細な説明の【0071】ないし【0075】に記載された試験例2において、粉に含まれる状態での麺皮製品への適応を確認しているのが「アラビアガム」だけで、「大豆多糖類」及び「ガティガム」については確認していないとしても、同【0064】ないし【0070】に記載された試験例1において、蒸し水としてではあるが、「アラビアガム」、「大豆多糖類」及び「ガティガム」の3種類全てについて、麺皮食品の品質低下が抑制されたこと、すなわち発明の課題を解決できることを確認している。
そして、麺皮食品の表面に付着させている点において、蒸し水と打ち粉、バッタ-及びまぶし粉に変わりはないから、発明の詳細な説明の記載から、「大豆多糖類」及び「ガティガム」を打ち粉、バッタ-及びまぶし粉として適用させた場合にも、程度の差はあるとしても、「アラビアガム」と同様に、麺皮食品の品質低下が抑制され、発明の課題を解決できると当業者は理解する。
したがって、「「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種を含有する」とする本件特許発明1に係る組成物の範囲まで、明細書に記載された事項を拡張ないし一般化することはできない・・・(略)・・・本件特許の課題を解決するための手段が反映されている、ということはできない。」とはいえない。
よって、特許異議申立人の上記第4 5(1)における主張は採用できない。
イ 上記第4 5(2)における主張について
本件特許発明8及び9において、アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種をどのように適用するのかについて特定されておらず、文言上、麺皮内部に含有させることや、麺皮の外面ではなく麺皮で包む具材等の食材側内面への適用が包含されるとしても、発明の詳細な説明の【0006】の記載に接した当業者は、麺皮内部に含有させることや、麺皮の外面ではなく麺皮で包む具材等の食材側内面への適用を想定しないことは明らかである。
したがって、「本件特許発明8、9は、課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」とはいえない。
また、本件訂正により、本件特許発明8及び9において、「アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群より選択される少なくとも1種」を「加熱調理前の麺皮食品の皮に打ち粉、バッター及びまぶし粉からなる群より選択される少なくとも1種の態様で適用する」ことが特定され、特許異議申立人が主張するような「麺皮内部に含有させることや、麺皮の外面ではなく麺皮で包む具材等の食材側内面への適用」が本件特許発明8及び9に含まれないことが明確になった。
よって、特許異議申立人の上記第4 5(2)における主張は採用できない。
(4)申立理由5についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1、2及び5ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由5によっては取り消すことはできない。
第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1、2及び5ないし9に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2及び5ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項3及び4に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項3及び4に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700176