特許異議申立
2025-700596
味の強度が増強された非アルコールビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2025-700596
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-519898
- 登録番号
- 7595224
- 請求日
- 2025年06月05日
- 審決日
- 2025年09月05日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】キリンホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
- 【異議申立人】清水 将博
- 【異議申立人】赤松 善弘
- 審判長/審判官
- 審判長 松田 成正
- 審判官 松本 陶子
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1651.113-Y (A23L) / P1651.121-Y (A23L) / P1651.536-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7595224号発明「味の強度が増強された非アルコールビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7595224号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7595224号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、2023年(令和5年)9月4日(優先権主張 令和5年7月31日)を国際出願日とする出願であって、令和6年11月27日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年12月5日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和7年6月5日に特許異議申立人 清水 将博(以下、「特許異議申立人A」という。)及び特許異議申立人 赤松 善弘(以下、「特許異議申立人B」という。)それぞれから特許異議の申立て(対象請求項はいずれも請求項1ないし9)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
メチオノールの含有量が2ppm以上100ppm以下である、非アルコールビールテイスト飲料であって、リナロールの含有量が5ppb以上200ppb以下であり、かつ、カプリル酸の含有量が0.1ppm以上10ppm以下であり、脱アルコール麦汁発酵液を原料とする、非アルコールビールテイスト飲料(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)。
【請求項2】
アルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満である、請求項1に記載の非アルコールビールテイスト飲料。
【請求項3】
メチオノールの含有量が2ppm以上10ppm以下である、請求項1または2に記載の非アルコールビールテイスト飲料。
【請求項4】
リナロールの含有量が5ppb以上100ppb以下である、請求項1または2に記載の非アルコールビールテイスト飲料。
【請求項5】
カプリル酸の含有量が0.3ppm以上5ppm以下である、請求項1または2に記載の非アルコールビールテイスト飲料。
【請求項6】
非アルコールビールテイスト飲料を製造する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下に調整する工程、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるリナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下に調整する工程、および、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるカプリル酸の含有量を0.1ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料の製造方法を除く)。
【請求項7】
前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
非アルコールビールテイスト飲料における味の強度または味の余韻を増強する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下に調整する工程、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるリナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下に調整する工程、および、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるカプリル酸の含有量を0.1ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでなり、前記非アルコールビールテイスト飲料が脱アルコール麦汁発酵液を原料とするものである、方法(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料における味の強度または味の余韻を増強する方法を除く)。
【請求項9】
前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満である、請求項8に記載の方法。」
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要等
1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要等
令和7年6月5日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
(1)申立理由A1(甲第A1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし9は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第A1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由A2(甲第A4号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし9は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第A4号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由A3(甲第A10号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし9は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A10号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第A10号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由A4(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許明細書(【0002】~【0006】)の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、アルコール濃度が低いことに起因して弱くなった非アルコールビールテイスト飲料の「味の強度」を増強し、アルコール濃度が低いことに起因した非アルコールビールテイスト飲料の「味の余韻」を増強することであると言える。このような課題に対して、本件特許発明1、6及び8は、非アルコールビールテイスト飲料において、2メチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下の範囲に特定し、リナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下の範囲に特定し、カプリル酸の含有量を0.1ppm以上10ppm以下の範囲に特定している。
本件特許発明1に該当する飲料すべてについて、どうして上記課題を解決できるのか、技術常識を参酌しても当業者は理解することができないから、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1~9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
(5)申立理由A5(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明が解決しようとする課題は、アルコール濃度が低いことに起因して弱くなった非アルコールビールテイスト飲料の「味の強度」を増強し、アルコール濃度が低いことに起因した非アルコールビールテイスト飲料の「味の余韻」を増強することであると言える。
技術常識を参酌しても、本件特許発明1に該当する飲料すべてについて、上記課題を解決できるものではないから、本件特許発明1~9は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(6)申立理由A6(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件特許発明1は、「非アルコールビールテイスト飲料」(物の発明)であるが、当該請求項には、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」という(すなわち、麦汁を発酵させて得られた麦汁発酵液を脱アルコールして得られた原料から作られたことを意味する)、その物の製造方法が記載されているものと認められる。ここで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最二小判平成27年6月5日平成24年(受)1204号、同2658号)。しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、出願人から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。したがって、本件特許発明1~5は明確でない。
イ 本件特許発明1は、「但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」との記載がある。ここで、「高甘味度甘味料」という用語について、一般的に確立した定義は存在しない。例えば、甲16には、甘味倍数30~50のチクロが高甘味度甘味料として記載されている(表7.93)。一方、甲17には、高甘味度甘味料とは砂糖の甘味度の数百倍以上の甘味度を持つ甘味料のことであると定義されている。さらに、甲18には、甘味度として砂糖の1000倍以上の甘味を呈するものが高甘味度甘味料と呼ばれることが記載されている。このように、甘味度の下限が異なる複数の定義が存在しており、単に「高甘味度甘味料」と記載しただけでは、どのような甘味料が「高甘味度甘味料」に該当するのかが明らかではない。したがって、「但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」との記載によって除かれる範囲が不明確であるから、本件特許発明1は明確でない。本件特許発明2~9についても同様である。
なお、「但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」との記載は、特開2017-023017号公報(甲19)に記載の発明との重なりを除くために、追加されたものである。ここで、甲19の【0015】には、高甘味度甘味料とはショ糖の数百倍から数千倍の高い甘味を有する甘味料であることが記載されており、仮に、「但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く」における「高甘味度甘味料」がショ糖の数百倍から数千倍の高い甘味を有する甘味料であるとしても、「数百倍」や「数千倍」との記載は、依然として不明確である。
(7)証拠方法
甲第A1号証:特表2016-515812号公報
甲第A2号証:香料、No.293、令和4年3月発行、53-66、香栄興工業株式会社
甲第A3号証:本件特許の2024年8月27日起案の拒絶理由通知
甲第A4号証:国際公開第2014/119064号
甲第A5号証:醸造物の成分、1999年12月10日、財団法人日本醸造協会
甲第A6号証:香料、No.223、平成16年9月発行、145-153、2004年9月、香栄興工業株式会社
甲第A7号証:卑(当審注:原文は「口」偏に「卑」)酒科技、2001年2期発行、26-27、2001年、中国醸(当審注:原文は「酉」偏に「良」)酒工業(当審注:原文は「並」から冠部分の部首を除いたもの)協会
甲第A8号証:特開2020-127399号公報
甲第A9号証:特願2021-560208の拒絶査定
甲第A10号証:特開2015-19598号公報
甲第A11号証:化学と生物、Vol.56、No.7、2018年発行、508-512、2018年、日本農芸化学会
甲第A12号証:国際公開第2022/210104号
甲第A13号証:国際公開第2022/163521号
甲第A14号証:特開2018-183126号公報
甲第A15号証:特開2018-191537号公報
甲第A16号証:最新 香料の事典(普及版)、2012年2月25日、株式会社朝倉書店
甲第A17号証:近年の甘味料の動向(https://www.kenko-kenbi.or.jp/columns/food/1879/)、2015年10月30日、一般財団法人東京顕微鏡院
甲第A18号証:最近の合成甘味料事情(JFRLニュース Vol.5 No.20 Apr.2016)、2016年4月、一般財団法人日本食品分析センター
甲第A19号証:特開2017-23017号公報
証拠の表記は、特許異議申立書Aの記載におおむね従った。以下、順に「甲A1」のようにいう。
2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要等
令和7年6月5日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
(1)申立理由B1(甲第B1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし9は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由B2(甲第B7号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし9は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B7号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由B3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件特許発明の課題は、「味の強度が増強された非アルコールビールテイスト飲料およびその製造方法を提供」することである(本件明細書の段落0007)。そして、本件特許発明の効果は、「非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となり、また、味の余韻を増強することも可能である。」である(本件明細書の段落0010)。
本件特許発明1においては、非アルコールビールテイスト飲料において、メチオノールの含有量が2ppm以上100ppm以下、リナロールの合有量が5ppb以上200ppb以下、カプリル酸の合有量が0.lppm以上10ppm以下であることが規定されている。
一方、本件明細書の実施例の中で、本件特許発明1の構成を満たす実施例は、試験2の試験区14、15(2点)だけである(表4)。
本件特許発明1で規定する数値範囲のうち、メチオノールの濃度が100ppm、カプリル酸の濃度が0.1ppm、リナロールの濃度が10ppb又は200ppbの場合のみが実施例により裏付けられているが、これ以外の範囲について、本件特許発明1で解決可能とされる効果が得られるかは裏付けられていない。
また、特許請求の範囲から除外された他の試験区に比べて、この試験区14、15が特に優れているとみなせる項目はない。
例えば、試験区10は味の強度、味の余韻、嗜好飲料としてのバランスのいずれの項目も試験区14を上回っている。試験区15に対しては味の強度の評価値が同じで、他の項目は上回っている。すなわち、本件特許発明1で規定する数値範囲を満たす試験区14、15の範囲であることにより、他の濃度範囲である場合に比べて格別な効果が得られるものではない。本件特許発明1の数値範囲に定めることにより格別の効果が得られているとは言えないので、何ら課題が解決できていないといえる。
従って、本件特許発明1は、サポート要件を満たさないといえる。本件特許発明2~9についても同様である。
イ 本件特許発明3は、メチオノールの含有量が2ppm以上10ppm以下であることを規定している。しかし、本件特許発明1の構成を満たす実施例である試験区14、15のメチオノールの含有量は100ppmである。すなわち、本件特許発明3に含まれる実施例(試験区)が存在しない。
本件特許発明5は、カプリル酸の含有量が0.3ppm以上5ppm以下であることを規定している。しかし、本件特許発明1の構成を満たす実施例である試験区14、15のカプリル酸の含有量は0.lppmである。すなわち、本件特許発明5に含まれる実施例(試験区)が存在しない。
従って、本件特許発明3、5は、サポート要件を満たさないといえる。
(4)申立理由B4(サポート要件及び実施可能要件)
本件特許の請求項6ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号及び同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件明細書に記載された実施例においては、脱アルコール麦汁発酵液(ベース飲料サンプル)を得て、ベース飲料サンプルにメチオノール、リナロール又はカプリル酸を添加することで各成分の濃度を調整している。本件特許発明6、8では各成分の「濃度を調整する工程」が記載されているが、各成分を添加する方法以外で「濃度を調整する工程」については実施例により裏付けられていない。そのため、本件特許発明6、8に含まれる範囲が、実施例により裏付けられている範囲から、当業者が拡張ないし一般化できる範囲に比べて広すぎるため、サポート要件を満たさない。
また、各成分を添加する方法以外の方法ではどのようにして各成分の濃度を調整するのかを当業者が理解することができないため、添加する方法以外の方法で当業者が本件特許発明6、8を実施することができない。
そのため、本件特許発明6、8はサポート要件及び実施可能要件を満たさない。本件特許発明7、9も同様である。
(5)申立理由B5(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明1の構成要件「但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く。」につき、本件明細書には「高甘味度甘味料」の定義はなく、どの甘みを有する成分が「高甘味度甘味料」であるのかが明確でない。高甘味度甘味料には様々な成分があり、各成分はそれぞれ甘味を有する。そのため、当業者が、ある具体的な物(非アルコールビールテイスト飲料)が本件特許発明1の範囲に入るか否かを理解できないため、本件特許発明1は明確性要件を満たさない。
同様の規定がある本件特許発明6及び8も同様に明確性要件を満たさない。
また、本件特許発明2~5、7及び9も同様に明確性要件を満たさない。
(6)証拠方法
甲第B1号証:国際公開第2021/131636号
甲第B2号証:特許第5604020号公報
甲第B3号証:KANEDA et al., “Effect of Pitching Yeast and Wort Preparation on Flavor Stability of Beer”,Journal of Fermentation and Bioengineering,Vo.73,No.6,456-460、1992年(公開)、Elsevier(公開者)
甲第B4号証:Riu-Aumatell et al., “Assessment of the aroma profiles of low-alcohol beers using HS-SPME-GC-MS”,Food Research International 57 (2014) 196-202、2014年(公開)、Elsevier(公開者)
甲第B5号証:C.Zufall et al., “Die Entalkoholisierung von Bier durch Dialyse-Verfahrenstechnische Beeinflussung der Bierqualitat”,Monatsschrift fur Brauwissenschaft 53, No 9/10, 2000, 164-179頁
甲第B6号証:醸造物の成分、236~241頁、平成11年12月10日発行、財団法人日本醸造協会(発行者)
甲第B7号証:中国特許第1314794号明細書
甲第B8号証:Peter G. Hill et al.“Determination of sulphur compounds in beer using headspace solidphase microextraction and gas chromatographic analysis with pulsed flame photometric detection”,Journa1 of Chromatography A,872 (2000)203-213
甲第B9号証:Michael Fechir et al,,“Molecular lnsights into the Contribution of Specialty Barley Malts to the Aroma of Bottom-Fermented Lager Beers”,J.Agric.Food Chem.2021,69,8190-8199
甲第B10号証:Yang Soo Byeon et al., “Quality Characteristic s of Wheat Malts with Different Country of Origin and Their Effect on Beer Brewing”,Journal of Food Quality Volume 2021,27 May 2021,Article ID 2146620、2021年5月27日(公開日)、WILEY Online Library(公開者)
証拠の表記は、特許異議申立書Bの記載におおむね従った。なお、外国語の特殊記号の摘記は省略した。以下、順に「甲B1」のようにいう。
第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について
特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の判断に際し、まず、新規性・進歩性の申立理由(申立理由A1ないしA3、B1及びB2)を判断し、次に記載要件の申立理由(申立理由A4ないしA6及びB3ないしB5)を判断する。
1 申立理由A1(甲A1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲A1に記載された事項等
ア 甲A1に記載された事項
甲A1には、「飲料を製造するためのフレーバーシステムおよび方法」に関しておおむね次のとおり記載されている。下線は当審で付したものである。他の証拠についても同様。
・「【請求項1】
ビールのフレーバーを有する飲料の製造方法であって:
化合物の第1群から選択される少なくとも1種のフレーバー化合物をある量の水に添加するステップであって、前記化合物の第1群が3-メチルブタノール、2-メチルブタノール、2,3-ブタンジオン、バニリン、2-メチルプロパノール、3-メチルブタナール、2,3-ペンタンジオン、2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、フラネオール、およびエチルフラネオールからなり、前記第1群から選択される前記少なくとも1種のフレーバー化合物を約0.5μg/l~約5,000,000μg/lの範囲の量で添加するステップ;
化合物の第2群からの少なくとも1種のフレーバー化合物をある量の水に添加するステップであって、前記第2群が2-フェニルエタノール、2-フェニル酢酸、酢酸2-フェニルエチル、ミルセンおよびリナロールからなり、前記第2群から選択される前記少なくとも1種のフレーバー化合物を約5μg/l~約75,000μg/lの範囲の量で添加するステップ;ならびに
アロマ化合物の第3群からの少なくとも1種のフレーバー化合物をある量の水に添加するステップであって、前記第3群がホップエキス、テトラ-イソ-エキス10%、ロ-イソ-エキス10%、および異性化ホップエキス30%からなり、前記第3群から選択される前記少なくとも1種のフレーバー化合物を約10,000μg/l~約30,000,000μg/lの範囲の量で添加するステップ;
を含み、
前記フレーバー化合物が、醸造、発酵、または蒸留の必要なくビールのフレーバーを有する飲料を形成するのに十分な量で含まれる、方法。
【請求項2】
オクタン酸、2-メチルプロパン酸、ブタン酸、3-メチルブタン酸、2-メチルブタン酸、デカン酸、およびヘキサン酸からなる群からの少なくとも1種のフレーバー化合物をある量の水に添加するステップであって、前記少なくとも1種の化合物を約50μg/l~約10,000μg/lの範囲の量で添加するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。」
・「【請求項5】
3-ヒドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、硫化ジメチル、三硫化ジメチル、3-(メチルチオ)-1-プロパノール、3-(メチルチオ)-1-プロパナール、(E)-2-ノネナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、および(E,E)-2,4-ノナジエナールからなる群からの少なくとも1種の化合物をある量の水に添加するステップであって、前記少なくとも1種の化合物を約0.1μg/l~約5,000μg/lの範囲の量で添加するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。」
・「【請求項11】
ある量のエタノールを前記飲料に添加してアルコール飲料を形成するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。」
・「【請求項30】
ビールのフレーバーを有する飲料の製造方法であって:
化合物の第1群から選択される少なくとも1種のフレーバー化合物をある量の水に添加するステップであって、前記化合物の第1群が3-メチルブタノール、2-メチルブタノール、2,3-ブタンジオン、バニリン、2-メチルプロパノール、3-メチルブタナール、2,3-ペンタンジオン、2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、フラネオール、2-アミノアセトフェノン、およびエチルフラネオールからなり、前記第1群から選択される前記少なくとも1種のフレーバー化合物を約0.1μg/l~約5,000,000μg/lの範囲の量で添加するステップ;
化合物の第2群からの少なくとも1種のフレーバー化合物をある量の水に添加するステップであって、前記第2群が2-フェニルエタノール、2-フェニル酢酸、酢酸2-フェニルエチル、フェニルアセトアルデヒド、ミルセン、ゲラニオール、およびリナロールからなり、前記第2群から選択される前記少なくとも1種のフレーバー化合物を約1μg/l~約75,000μg/lの範囲の量で添加するステップ;ならびに
アロマ化合物の第3群からの少なくとも1種のフレーバー化合物をある量の水に添加するステップであって、前記第3群がホップエキス、テトラ-イソ-エキス10%、ロ-イソ-エキス10%、異性化ホップエキス30%、cis-イソフムロン、trans-イソフムロン、cis-イソコフムロン、trans-イソコフムロン、イソアドフムロン、およびコムルチフィドールグリコシドからなり、前記第3群から選択される前記少なくとも1種のフレーバー化合物を約1μg/l~約30,000,000μg/lの範囲の量で添加するステップ
を含み;
前記フレーバー化合物が、醸造、発酵、または蒸留の必要なくビールのフレーバーを有する飲料を形成するのに十分な量で含まれる、方法。」
・「【0031】
好適には、フレーバーシステム12は、液体ベース10(図1に示す)と組み合わされ、飲料14を形成する。好適な実施形態では、液体ベース10は、水または水およびエタノールの組み合わせである。しかしながら、他の実施形態では、液体ベース10は、低フレーバービール(図2に示す)とすることができる。しかしながら、低フレーバービールベース10に加えてフレーバーシステム12中に用いられるフレーバー化合物およびその濃度は、低フレーバービール中にすでに存在するフレーバー化合物を考慮して調節されるべきである。例えば、低フレーバービールがベース10として用いられ、低フレーバービールがその中にフルーティフレーバーを有する場合、フレーバーシステム中のフルーティ化合物の量は低減および/または限定されるべきである。
【0032】
各フレーバー群に含まれる化合物およびフレーバーシステム12中に含めることができる各化合物の量の範囲を以下の表1~13に示す。
【0033】
表1に示すように、フレーバー群1は、フレーバーシステムから形成される飲料にチージーまたはスウェッティアロマを与えることができる7個の化合物を含む。フレーバー群1の化合物は、オクタン酸、2-メチルプロパン酸、ブタン酸、3-メチルブタン酸、2-メチルブタン酸、デカン酸、ヘキサン酸およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。フレーバーシステム12から形成されるいずれかの飲料中に含めることができるフレーバー群1の各化合物の範囲、フレーバーシステム12から形成されるワイン風飲料中に含める各化合物の範囲、フレーバーシステム12から形成されるウイスキー風飲料中に含める各化合物の範囲およびフレーバーシステム12から形成されるビール風飲料中に含める各化合物の範囲を1リットル当たりのマイクログラム(μg/l)で示す。実施形態では、フレーバー群1の化合物は、例えば、ワイン風飲料、ウイスキー風飲料、またはビール風飲料中に含めてもよい。他の実施形態では、フレーバー群1の化合物は、ウイスキー風飲料中に含めるには望ましくない場合があり得る-よって、実施形態では、ウイスキー飲料を形成するのに用いるフレーバーシステムは、フレーバー群1からのアロマ化合物を含まないだろう。また、フレーバー群1化合物のそれぞれは、同じ群の他の化合物で置き換え、同様のアロマを得ることができる。
【0034】
【表1】
[図:0001428017000001.jpg]
」
・「【0037】
表3に示すように、フレーバー群3は、フレーバーシステム12から形成される飲料にフローラルおよび/またはハニーアロマを与えることができる7個の化合物を含む。フレーバー群3の化合物は、2-フェニルエタノール、2-フェニル酢酸、酢酸2-フェニルエチル、フェニルアセトアルデヒド、リナロール、ミルセン、ゲラニオール、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。いずれかの飲料を形成するフレーバーシステム12中に含めることができるフレーバー群3の各化合物の範囲、ワイン風飲料を形成するフレーバーシステム12中の各化合物の範囲、ウイスキー風飲料を形成するフレーバーシステム12中の各化合物の範囲およびビール風飲料を形成するフレーバーシステム12中の各化合物の範囲を1リットル当たりのマイクログラム(μg/l)で示す。さらに、フレーバー群3化合物のそれぞれは、同じ群の他の化合物で置き換え、同様のアロマを得ることができる。
【表3】
[図:0001428017000002.jpg]
」
・「【0042】
表6に示すように、フレーバー群6は、フレーバーシステム12から形成される飲料にクックド、シーズニングおよび/またはファッティアロマを与えることができる9個の化合物を含む。フレーバー群6の化合物は、3-ヒドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、硫化ジメチル、三硫化ジメチル、3-(メチルチオ)-1-プロパノール、3-(メチルチオ)-1-プロパナール、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、(E)-2-ノネナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、(E,E)-2,4-ノナジエナールおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。いずれかの飲料を形成するフレーバーシステム12中に含めることができるフレーバー群6の各化合物の範囲、ワイン風飲料を形成するフレーバーシステム12中の各化合物の範囲、ウイスキー風飲料を形成するフレーバーシステム12中の各化合物の範囲およびビール風飲料を形成するフレーバーシステム12中の各化合物の範囲を1リットル当たりのマイクログラム(μg/l)で示す。しかしながら、実施形態では、ウイスキーのフレーバーを有する飲料を形成する場合、硫化ジメチル、三硫化ジメチル、および/または3-メチル-2-ブテン-1-チオールはフレーバーシステム中に含めない場合があり得る。さらに、フレーバー群6化合物のそれぞれは、同じ群の他の化合物で置き換え、同様のアロマを得ることができる。
【0043】
【表6】
[図:0001428017000003.jpg]
」
・「【0058】
さらに、エタノールを約0.1体積%~約80体積%の範囲のアルコール含有量を有する飲料を製造するのに十分な量で添加することができる。例えば、本明細書において製造されるようなワインは、エタノールを、約0.1体積%~約25体積%のアルコール含有量を有するワイン風飲料を製造するのに十分な量で含むことができる。ウイスキー風飲料は、エタノールを、約50体積%~約70体積%のアルコール含有量を有するウイスキー風飲料を製造するのに十分な量で含むことができ、ビール風飲料は、エタノールを、約0.1体積%~約20体積%のアルコール含有量を有するのに十分な量で含むことができる。」
・「【0066】
(実施例3)
ピルスナータイプビールは、約3μg/lの量の(E)-β-ダマセノン、約2,000μg/lの量の2-メチルブタン酸、約10,000μg/lの量の2-フェニルエタノール、約1,000μg/lの量の3-(メチルチオ)プロパノール、約2000μg/lの量の3-メチルブタン酸、約200μg/lの量の3-メチルブタナール、約50,000μg/lの量の3-メチルブタノール、約150μg/lの量の硫化ジメチル、約200μg/lの量の酪酸エチル、約200μg/lの量のヘキサン酸エチル、約150μg/lの量のオクタン酸エチル、約500μg/lの量のフラネオール、約500μg/lの量の2-フェニル酢酸、約5μg/lの量の3-ヒドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、約50,000μg/lの量の3-メチルブタノール、約50,000μg/lの量の2-メチルブタノール、約100μg/lの量のエチルフラネオール、約300μg/lの量のリナロール、約150μg/lの量の4-アリル-2-メトキシフェノール、約5μg/lの量の3-(メチルチオ)-1-プロパナール、約400,000μg/lの量のクエン酸、約1,500,000μg/lの量のスクロース、約1,500,000μg/lの量のカリウム、約5,000,000μg/lの量のホップエキス、約100,000μg/lの量の異性化ホップエキス30%、約100,000μg/lの量のグルタミン酸一ナトリウム、約37,500,000μg/lの量のエタノールおよび水を組み合わせることにより製造することができる。
【0067】
(実施例4)
ライトピルスナータイプビールは、約3μg/lの量の(E)-β-ダマセノン、約2000μg/lの量の2-メチルブタン酸、約10,000μg/lの量の2-フェニルエタノール、約1,000μg/lの量の3-(メチルチオ)プロパノール、約2,000μg/lの量の3-メチルブタン酸、約200μg/lの量の3-メチルブタナール、約50,000μg/lの量の3-メチルブタノール、約150μg/lの量の硫化ジメチル、約200μg/lの量の酪酸エチル、約200μg/lの量のヘキサン酸エチル、約150μg/lの量のオクタン酸エチル、約500μg/lの量のフラネオール、約500μg/lの量の2-フェニル酢酸、約5μg/lの量の3-ヒドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、約50,000μg/lの量の3-メチルブタノール、約50,000μg/lの量の2-メチルブタノール、約100μg/lの量のエチルフラネオール、約300μg/lの量のリナロール、約150μg/lの量の4-アリル-2-メトキシフェノール、約5μg/lの量の3-(メチルチオ)-1-プロパナール、約400,000μg/lの量のクエン酸、約1,500,000μg/lの量のスクロース、約1,500,000μg/lの量のカリウム、約5,000,000μg/lの量のホップエキス、約100,000μg/lの量の異性化ホップエキス30%、約100,000μg/lの量のグルタミン酸一ナトリウム、約33,100,000μg/lの量のエタノールおよび水を組み合わせることにより製造することができる。」
イ 甲A1に記載された発明
甲A1に記載された事項を、特に実施例3に関して整理すると、甲A1には次の発明(以下、「甲A1発明」、「甲A1製法発明」及び「甲A1方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A1発明>
「約3μg/lの量の(E)-β-ダマセノン、約2,000μg/lの量の2-メチルブタン酸、約10,000μg/lの量の2-フェニルエタノール、約1,000μg/lの量の3-(メチルチオ)プロパノール、約2000μg/lの量の3-メチルブタン酸、約200μg/lの量の3-メチルブタナール、約50,000μg/lの量の3-メチルブタノール、約150μg/lの量の硫化ジメチル、約200μg/lの量の酪酸エチル、約200μg/lの量のヘキサン酸エチル、約150μg/lの量のオクタン酸エチル、約500μg/lの量のフラネオール、約500μg/lの量の2-フェニル酢酸、約5μg/lの量の3-ヒドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、約50,000μg/lの量の3-メチルブタノール、約50,000μg/lの量の2-メチルブタノール、約100μg/lの量のエチルフラネオール、約300μg/lの量のリナロール、約150μg/lの量の4-アリル-2-メトキシフェノール、約5μg/lの量の3-(メチルチオ)-1-プロパナール、約400,000μg/lの量のクエン酸、約1,500,000μg/lの量のスクロース、約1,500,000μg/lの量のカリウム、約5,000,000μg/lの量のホップエキス、約100,000μg/lの量の異性化ホップエキス30%、約100,000μg/lの量のグルタミン酸一ナトリウム、約37,500,000μg/lの量のエタノールおよび水を組み合わせることにより製造したピルスナータイプビール。」
<甲A1製法発明>
「約3μg/lの量の(E)-β-ダマセノン、約2,000μg/lの量の2-メチルブタン酸、約10,000μg/lの量の2-フェニルエタノール、約1,000μg/lの量の3-(メチルチオ)プロパノール、約2000μg/lの量の3-メチルブタン酸、約200μg/lの量の3-メチルブタナール、約50,000μg/lの量の3-メチルブタノール、約150μg/lの量の硫化ジメチル、約200μg/lの量の酪酸エチル、約200μg/lの量のヘキサン酸エチル、約150μg/lの量のオクタン酸エチル、約500μg/lの量のフラネオール、約500μg/lの量の2-フェニル酢酸、約5μg/lの量の3-ヒドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、約50,000μg/lの量の3-メチルブタノール、約50,000μg/lの量の2-メチルブタノール、約100μg/lの量のエチルフラネオール、約300μg/lの量のリナロール、約150μg/lの量の4-アリル-2-メトキシフェノール、約5μg/lの量の3-(メチルチオ)-1-プロパナール、約400,000μg/lの量のクエン酸、約1,500,000μg/lの量のスクロース、約1,500,000μg/lの量のカリウム、約5,000,000μg/lの量のホップエキス、約100,000μg/lの量の異性化ホップエキス30%、約100,000μg/lの量のグルタミン酸一ナトリウム、約37,500,000μg/lの量のエタノールおよび水を組み合わせることによりピルスナータイプビールを製造する方法。」
<甲A1方法発明>
「約3μg/lの量の(E)-β-ダマセノン、約2,000μg/lの量の2-メチルブタン酸、約10,000μg/lの量の2-フェニルエタノール、約1,000μg/lの量の3-(メチルチオ)プロパノール、約2000μg/lの量の3-メチルブタン酸、約200μg/lの量の3-メチルブタナール、約50,000μg/lの量の3-メチルブタノール、約150μg/lの量の硫化ジメチル、約200μg/lの量の酪酸エチル、約200μg/lの量のヘキサン酸エチル、約150μg/lの量のオクタン酸エチル、約500μg/lの量のフラネオール、約500μg/lの量の2-フェニル酢酸、約5μg/lの量の3-ヒドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、約50,000μg/lの量の3-メチルブタノール、約50,000μg/lの量の2-メチルブタノール、約100μg/lの量のエチルフラネオール、約300μg/lの量のリナロール、約150μg/lの量の4-アリル-2-メトキシフェノール、約5μg/lの量の3-(メチルチオ)-1-プロパナール、約400,000μg/lの量のクエン酸、約1,500,000μg/lの量のスクロース、約1,500,000μg/lの量のカリウム、約5,000,000μg/lの量のホップエキス、約100,000μg/lの量の異性化ホップエキス30%、約100,000μg/lの量のグルタミン酸一ナトリウム、約37,500,000μg/lの量のエタノールおよび水となるようにピルスナータイプビールを調整する方法。」
なお、特許異議申立人Aは、甲A1に記載された発明として、次の発明が認定できる旨主張する(特許異議申立書Aの第81ないし83ページ)。
(甲1発明)
「メチオノールの含有量が0.1ppm以上5ppm以下である、ビールのフレーバーを有する飲料であって、リナロールの含有量が10ppb以上10000ppb以下であり、かつ、カプリル酸の含有量が0.25ppm以上25ppm以下である、飲料。」
(甲1製法発明)
「ビールのフレーバーを有する飲料を製造する方法であって、前記飲料におけるメチオノールの含有量を0.1ppm以上5ppm以下に調整する工程、前記飲料におけるリナロールの含有量を10ppb以上10000ppb以下に調整する工程、および、前記飲料におけるカプリル酸の含有量を0.25ppm以上25ppm以下に調整する工程を含んでなる、方法。」
(甲1方法発明)
「ビールのフレーバーを有する飲料を、ビールのような飲料のフレーバーおよび/または口当たりを有する飲料とする方法であって、前記飲料におけるメチオノールの含有量を0.1ppm以上5ppm以下に調整する工程、前記飲料におけるリナロールの含有量を10ppb以上10000ppb以下に調整する工程、および、前記飲料におけるカプリル酸の含有量を0.25ppm以上25ppm以下に調整する工程を含んでなる、方法。」
そこで、検討する。
甲A1の【0043】の【表1】には、フレーバー群6中の化合物として「3-(メチルチオ)-1-プロパナール(メチオノール)」を選択した場合に、その含有量を0.1ppm以上5ppm以下にすることが記載され、同【0037】の【表3】には、フレーバー群3中の化合物として「リナロール」を選択した場合に、その含有量を10ppb以上10000ppb以下にすることが記載され、同【0034】の【表1】には、フレーバー群1中の化合物として「オクタン酸(カプリル酸)」を選択した場合に、その含有量を0.25ppm以上25ppm以下にすることが記載されているが、これらの記載箇所を含め、甲A1には、「3-(メチルチオ)-1-プロパナール(メチオノール)」、「リナロール」及び「オクタン酸(カプリル酸)」を同時に選択することは記載されていないし、当然、その場合に、それぞれの含有量を「0.1ppm以上5ppm以下」、「10ppb以上10000ppb以下」及び「0.25ppm以上25ppm以下」にすることも記載されていない。
したがって、甲A1に記載された事項からは、特許異議申立人Aの主張するような発明を認定することはできない。
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲A1発明を対比する。
甲A1発明における「3-(メチルチオ)プロパノール」は本件特許発明1における「メチオノール」に相当する。
甲A1発明における「ピルスナータイプビール」は本件特許発明1における「非アルコールビールテイスト飲料」と、「ビールテイスト飲料」という限りにおいて一致する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「メチオノール及びリナロールを含有するビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A1-1a>
本件特許発明1においては、「メチオノールの含有量が2ppm以上100ppm以下」、「リナロールの含有量が5ppb以上200ppb以下であり、かつ、カプリル酸の含有量が0.1ppm以上10ppm以下であり」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、「メチオノール」の含有量は「約1,000μg/l」(約1ppm)と特定され、「リナロール」の含有量は「約300μg/l」(約300ppb)と特定され、「カプリル酸」は含有していない点。
<相違点A1-1b>
本件特許発明1においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A1-1c>
「ビールテイスト飲料」に関して、本件特許発明1においては、「非アルコールビールテイスト飲料」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A1-1d>
本件特許発明1においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点A1-1aについて検討する。
甲A1発明における「メチオノール」の含有量は「約1,000μg/l」(約1ppm)、「リナロール」の含有量は「約300μg/l」(約300ppb)及び「カプリル酸」の含有量は0であり、本件特許発明1における「メチオノール」の含有量(2ppm以上100ppm以下)、「リナロール」の含有量(5ppb以上200ppb以下)及び「カプリル酸」の含有量(0.1ppm以上10ppm以下)から外れているから、相違点A1-1aが実質的な相違点であることは明らかである。
また、甲A1には、甲A1発明において、「メチオノール」の含有量を「2ppm以上100ppm以下」、「リナロール」の含有量を「5ppb以上200ppb以下」及び「カプリル酸」の含有量を「0.1ppm以上10ppm以下」にして、相違点A1-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明1は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」(本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0009】)という本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A1発明であるとはいえないし、甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5のいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A1発明であるとはいえないし、甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6と甲A1製法発明を対比する。
両者の間には本件特許発明1と甲A1発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲A1製法発明は「約1,000μg/lの量の3-(メチルチオ)プロパノール」及び「約300μg/lの量のリナロール」を組み合わせるものであるから、「3-(メチルチオ)プロパノールの含有量を調整する工程」及び「リナロールの含有量を調整する工程」を有するといえる。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ビールテイスト飲料を製造する方法であって、前記ビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を調整する工程、前記ビールテイスト飲料におけるリナロールの含有量を調整する工程を含んでなる、ビールテイスト飲料を製造する方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A1-6a>
本件特許発明6においては、「ビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下に調整する工程」、「ビールテイスト飲料におけるリナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下に調整する工程」及び「ビールテイスト飲料におけるカプリル酸の含有量を0.1ppm以上10ppm以下に調整する工程」「を含んでなり」と特定されているのに対し、甲A1製法発明においては、「メチオノール」の含有量は「約1,000μg/l」(約1ppm)と特定され、「リナロール」の含有量は「約300μg/l」(約300ppb)と特定され、「カプリル酸」は含有していないことから、本件特許発明6で特定されるような「調整する工程」を含んでいない点。
<相違点A1-6b>
本件特許発明6においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲A1製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A1-6c>
「ビールテイスト飲料」に関して、本件特許発明6においては、「非アルコールビールテイスト飲料」と特定されているのに対し、甲A1製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A1-6d>
本件特許発明6においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料の製造方法を除く)」と特定されているのに対し、甲A1製法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点A1-6aについて検討する。
相違点A1-6aは相違点A1-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、相違点A1-6aは実質的な相違点であり、甲A1には、甲A1製法発明において、相違点A1-6aに係る本件特許発明6の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明6は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」という本件特許発明6の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲A1製法発明であるとはいえないし、甲A1製法発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明7について
本件特許発明7は請求項6を引用して特定するものであり、本件特許発明6の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明6と同様に、甲A1製法発明であるとはいえないし、甲A1製法発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と甲A1方法発明を対比する。
両者の間には本件特許発明1と甲A1発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲A1方法発明は「約1,000μg/lの量の3-(メチルチオ)プロパノール」及び「約300μg/lの量のリナロール」を組み合わせるものであるから、「3-(メチルチオ)プロパノールの含有量を調整する工程」及び「リナロールの含有量を調整する工程」を有するといえる。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ビールテイスト飲料を製造する方法であって、前記ビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を調整する工程、前記ビールテイスト飲料におけるリナロールの含有量を調整する工程を含んでなる、方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A1-8a>
本件特許発明8においては、「ビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下に調整する工程」、「ビールテイスト飲料におけるリナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下に調整する工程」及び「ビールテイスト飲料におけるカプリル酸の含有量を0.1ppm以上10ppm以下に調整する工程」「を含んでなり」と特定されているのに対し、甲A1方法発明においては、「メチオノール」の含有量は「約1,000μg/l」(約1ppm)と特定され、「リナロール」の含有量は「約300μg/l」(約300ppb)と特定され、「カプリル酸」は含有していないことから、本件特許発明8で特定されるような「調整する工程」を含んでいない点。
<相違点A1-8b>
本件特許発明8においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲A1方法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A1-8c>
「ビールテイスト飲料」に関して、本件特許発明8においては、「非アルコールビールテイスト飲料」と特定されているのに対し、甲A1方法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A1-8d>
本件特許発明8においては、「非アルコールビールテイスト飲料における味の強度または味の余韻を増強する方法」と特定されているのに対し、甲A1方法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A1-8e>
本件特許発明8においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料における味の強度または味の余韻を増強する方法を除く)」と特定されているのに対し、甲A1方法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点A1-8aについて検討する。
相違点A1-8aは相違点A1-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、相違点A1-8aは実質的な相違点であり、甲A1には、甲A1方法発明において、相違点A1-8aに係る本件特許発明8の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明8は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」という本件特許発明8の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲A1方法発明であるとはいえないし、甲A1方法発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(7)本件特許発明9について
本件特許発明9は請求項8を引用して特定するものであり、本件特許発明8の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明8と同様に、甲A1方法発明であるとはいえないし、甲A1方法発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(8)申立理由A1についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由A1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由A2(甲A4に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲A4に記載された事項等
ア 甲A4に記載された事項
甲A4には、「非発酵ビール様発泡性飲料」に関しておおむね次のとおり記載されている。
・「[0020] 本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、さらに、特定の16の香気成分の少なくとも1種以上を含有することが好ましい。当該16の香気成分は、麦芽を原料としなくとも、原料由来の香気成分がほとんど含まれていない場合であっても、単独で添加することによってビールらしさを付与できる。
[0021] 当該16の香気成分は、香りのタイプより、穀物様香気成分、ホップ様香気成分、及び含硫香気成分の3種類に分類することができる。穀物様香気成分としては、3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、及び2-プロピル-1-ピロリンの8種類の化合物である。ホップ様香気成分としては、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、及びシス-3-ヘキセノールの5種類の化合物である。含硫香気成分としては、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールの3種類の化合物である。
[0022] 本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、求める製品特性に応じて、当該16の香気成分のうち、1種類のみを単独で含有していてもよく、2種類以上を組み合わせて含有していてもよい。2種類以上を組み合わせて含有させる場合には、8種類の穀物様香気成分のうちの少なくとも1種以上、5種類のホップ様香気成分のうちの少なくとも1種以上、及び3種類の含硫香気成分のうちの少なくとも1種以上、を含有することが好ましい。
中でも、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料としては、4-ビニルグアイアコール及び3-メチル-1-ブタノールからなる群より選択される1種以上の穀物様香気成分を含有し、ミルセン、リナロール、及びシス-3-ヘキセノールからなる群より選択される1種以上のホップ様香気成分を含有し、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールからなる群より選択される1種以上の含硫香気成分を含有することが好ましく、前記16の香気成分全てを含有することが特に好ましい。
[0023] 各香気成分の含有量は、最終製品に求められる品質特性に応じて適宜調整されるが、前記穀物様香気成分の場合には、各化合物の濃度が0.24~30000ppbであることが好ましく、前記ホップ様香気成分の場合には、各化合物の濃度が0.2~250000ppbであることが好ましく、前記含硫香気成分の場合には、各化合物の濃度が0.001~3000ppbであることが好ましい。なお、「前記穀物様香気成分の場合には、各化合物の濃度が0.24~30000ppbである」とは、前記8種類の穀物様香気成分のうちの1種類の化合物を含有する場合には、当該化合物の非発酵ビール様発泡性飲料中の含有量が0.24~30000ppbであり、前記8種類の穀物様香気成分のうちの2種類以上の化合物を含有する場合には、それぞれの化合物の含有量がいずれも0.24~30000ppbであることを意味する。ホップ様香気成分及び含硫香気成分の場合も同様である。」
・「[0075]
[実施例4]
表7に記載の組成により、酸味料、色素、及び起泡剤を含有する調合液を調製した後、これに炭酸ガスを3.0gas volになるように加えることにより、サンプル4-1を調製した。サンプル4-1の原料としては、表7中に示すベーガン通商株式会社製の「50%発酵乳酸BM-G」(製品名)、天野実業株式会社製の「カラメルSP」(製品名)、丸善製薬株式会社製の「キラヤニンC-100」(製品名)、扶桑化学工業株式会社の「クエン酸フソウ(無水)」(製品名)、「ヘルシャスA」(製品名)を用いた。
[0076][表7]
[図:0001428017000004.jpg]
」
・「[0078]
[実施例5]
ビールに含まれる主要香気成分のうちの特に匂い強度の強い16成分(3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリン、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、シス-3-ヘキセノール、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオール)を実施例4で製造したサンプル4-1に様々な濃度で添加し、ビールらしさについて官能評価を実施した。官能評価は、2名の専門パネルにより、サンプル4-1の評価を中心値4とした7段階評価(ビールらしさが感じられない場合を1とし、非常に強く感じられた場合を7とする。)にて行った。また、表8~10には、評価に当たり各パネルが述べたコメントも記載した。」
・「[0080][表9]
[図:0001428017000005.jpg]
[0081]
[表10]
[図:0001428017000006.jpg]
[0082]
表8~10に示すように、いずれの成分も、濃度に差はあるが、低濃度で添加した場合には添加の効果が官能上わからず、サンプル4-1と変わらないが、添加濃度を高くするにつれてビールらしさが高くなり、ある濃度でピークに達し、さらに添加濃度が高くなるにつれて特有の香気が強くなりすぎてビールらしさが低下する傾向が観察された。つまり、これらの16成分のうちの少なくとも1種類を適切な濃度で含有させることにより、ビールらしさがより強く付与されることがわかった。」
・「[0085][実施例7]
実施例4で製造したサンプル4-1に、前記16成分全てを、それぞれ実施例1でビールらしさの評価が高かった濃度で添加したサンプル7-1を調製し、実施例5と同様にしてビールらしさの官能評価を行った。サンプル7-1における各香気成分の濃度は、3-メチル-1-ブタノールが6000ppb、イソバレリン酸が1000ppb、γ-ノナラクトンが120ppb、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノンが80ppb、2-アセチルチアゾールが30ppb、4-ビニルグアイアコールが800ppb、2-アセチル-1-ピロリンが2.4ppb、2-プロピル-1-ピロリンが2.4ppb、ミルセンが40ppb、リナロールが160ppb、β-ダマセノンが1ppb、フェネチルアルコールが5000ppb、シス-3-ヘキセノールが2150ppb、3-メチル-2-ブテン-1-チオールが0.5ppb、メチオノールが600ppb、及び2-メチル-3-フランチオールが0.01ppbであった。評価結果を表12に示す。
サンプル7-1では、ビールらしさが非常に強く付与されており、ほぼビールと同様の官能評価が得られた。この結果、起泡剤と色素を含有するが原料として麦芽やホップを用いていない非発酵ビール様発泡性飲料に前記16成分を全て適切な濃度で含有させることにより、ビールとほぼ同等の香味を有する非発酵ビール様発泡性飲料を製造し得ることがわかった。
[0086][表12]
[図:0001428017000007.jpg]
」
イ 甲A4に記載された発明
甲A4に記載された事項を、特に実施例7に関して整理すると、甲A4には次の発明(以下、「甲A4発明」、「甲A4製法発明」及び「甲A4方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A4発明>
「3-メチル-1-ブタノールが6000ppb、イソバレリン酸が1000ppb、γ-ノナラクトンが120ppb、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノンが80ppb、2-アセチルチアゾールが30ppb、4-ビニルグアイアコールが800ppb、2-アセチル-1-ピロリンが2.4ppb、2-プロピル-1-ピロリンが2.4ppb、ミルセンが40ppb、リナロールが160ppb、β-ダマセノンが1ppb、フェネチルアルコールが5000ppb、シス-3-ヘキセノールが2150ppb、3-メチル-2-ブテン-1-チオールが0.5ppb、メチオノールが600ppb、及び2-メチル-3-フランチオールが0.01ppbとなるように香気成分を実施例4で製造したサンプル4-1に添加して調整した非発酵ビール様発泡性飲料。」(当審注:「実施例4で製造したサンプル4-1」については上記ア参照。以下同様。)
<甲A4製法発明>
「3-メチル-1-ブタノールが6000ppb、イソバレリン酸が1000ppb、γ-ノナラクトンが120ppb、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノンが80ppb、2-アセチルチアゾールが30ppb、4-ビニルグアイアコールが800ppb、2-アセチル-1-ピロリンが2.4ppb、2-プロピル-1-ピロリンが2.4ppb、ミルセンが40ppb、リナロールが160ppb、β-ダマセノンが1ppb、フェネチルアルコールが5000ppb、シス-3-ヘキセノールが2150ppb、3-メチル-2-ブテン-1-チオールが0.5ppb、メチオノールが600ppb、及び2-メチル-3-フランチオールが0.01ppbとなるように香気成分を実施例4で製造したサンプル4-1に添加して調整する非発酵ビール様発泡性飲料を製造する方法。」
<甲A4方法発明>
「3-メチル-1-ブタノールが6000ppb、イソバレリン酸が1000ppb、γ-ノナラクトンが120ppb、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノンが80ppb、2-アセチルチアゾールが30ppb、4-ビニルグアイアコールが800ppb、2-アセチル-1-ピロリンが2.4ppb、2-プロピル-1-ピロリンが2.4ppb、ミルセンが40ppb、リナロールが160ppb、β-ダマセノンが1ppb、フェネチルアルコールが5000ppb、シス-3-ヘキセノールが2150ppb、3-メチル-2-ブテン-1-チオールが0.5ppb、メチオノールが600ppb、及び2-メチル-3-フランチオールが0.01ppbとなるように香気成分を実施例4で製造したサンプル4-1に添加して調整して、起泡剤と色素を含有するが原料として麦芽やホップを用いていない非発酵ビール様発泡性飲料にビールとほぼ同等の香味を有するようにする方法。」
なお、特許異議申立人Aは、甲A4に記載された発明として、次の発明が認定できる旨主張する(特許異議申立書Aの第89及び90ページ)。
(甲4発明)
「メチオノールの含有量が0.001~3000ppbである、アルコールを含まない非発酵ビール様発泡性飲料であって、リナロールの含有量が0.2~250000ppbである、飲料。」
(甲4製法発明)
「アルコールを含まない非発酵ビール様発泡性飲料を製造する方法であって、前記飲料におけるメチオノールの含有量を0.001~3000ppbに調整する工程、および、前記飲料におけるリナロールの含有量を0.2~250000ppbに調整する工程を含んでなる、方法。」
(甲4方法発明)
「アルコールを含まない非発酵ビール様発泡性飲料を、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有する発泡性飲料とする方法であって、前記飲料におけるメチオノールの含有量を0.001~3000ppbに調整する工程、および、前記飲料におけるリナロールの含有量を0.2~250000ppbに調整する工程を含んでなる、方法。」
そこで、検討する。
甲A4の[0020]ないし[0023]には、特定の16の香気成分を含有することが好ましいこと、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、及びシス-3-ヘキセノールの5種類の化合物であるホップ様香気成分の場合にはその濃度が0.2~250000ppbであることが好ましいこと及び3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールの3種類の化合物である含硫香気成分の場合にはその濃度が0.001~3000ppbであることが好ましいことが記載されているが、これらの記載箇所を含め、甲A4には、16の香気成分の中から、「リナロール」及び「メチオノール」を特定して選択することは記載されていないし、当然、その場合に、それぞれの含有量を「0.2~250000ppb」及び「0.001~3000ppb」にすることも記載されていない。
したがって、甲A4に記載された事項からは、特許異議申立人Aの主張するような発明を認定することはできない。
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲A4発明を対比する。
甲A4発明における「非発酵ビール様発泡性飲料」は本件特許発明1における「非アルコールビールテイスト飲料」と、「ビールテイスト飲料」という限りにおいて一致する。
甲A4発明における「リナオール」の含有量は「160ppb」であるから、本件特許発明1における「リナオール」の含有量の「5ppb以上200ppb以下」の条件を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「メチオノールを含有し、リナロールの含有量が5ppb以上200ppb以下であるビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A4-1a>
本件特許発明1においては、「メチオノールの含有量が2ppm以上100ppm以下」及び「カプリル酸の含有量が0.1ppm以上10ppm以下であり」と特定されているのに対し、甲A4発明においては、「メチオノール」の含有量は「600ppb」(0.6ppm)と特定され、「カプリル酸」は含有していない点。
<相違点A4-1b>
本件特許発明1においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲A4発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A4-1c>
「ビールテイスト飲料」に関して、本件特許発明1においては、「非アルコールビールテイスト飲料」と特定されているのに対し、甲A4発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A4-1d>
本件特許発明1においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」と特定されているのに対し、甲A4発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点A4-1aについて検討する。
甲A4発明における「メチオノール」の含有量は「600ppb」(0.6ppm)及び「カプリル酸」の含有量は0であり、本件特許発明1における「メチオノール」の含有量(2ppm以上100ppm以下)及び「カプリル酸」の含有量(0.1ppm以上10ppm以下)から外れているから、相違点A4-1aが実質的な相違点であることは明らかである。
また、甲A4には、甲A4発明において、「メチオノール」の含有量を「2ppm以上100ppm以下」及び「カプリル酸」の含有量を「0.1ppm以上10ppm以下」にして、相違点A4-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明1は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」という本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A4発明であるとはいえないし、甲A4発明並びに甲A4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5のいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A4発明であるとはいえないし、甲A4発明並びに甲A4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6と甲A4製法発明を対比する。
両者の間には本件特許発明1と甲A4発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲A4製法発明は「メチオノールが600ppb」、「リナロールが160ppb」となるように香気成分を添加するものであるから、「メチオノールの含有量を調整する工程」及び「リナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下に調整する工程」を有するといえる。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ビールテイスト飲料を製造する方法であって、前記ビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を調整する工程、前記ビールテイスト飲料におけるリナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下に調整する工程を含んでなる、ビールテイスト飲料を製造する方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A4-6a>
本件特許発明6においては、「ビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下に調整する工程」及び「ビールテイスト飲料におけるカプリル酸の含有量を0.1ppm以上10ppm以下に調整する工程」「を含んでなり」と特定されているのに対し、甲A4製法発明においては、「メチオノール」の含有量は「600ppb」(0.6ppm)と特定され、「カプリル酸」は含有していないことから、本件特許発明6で特定されるような「調整する工程」を含んでいない点。
<相違点A4-6b>
本件特許発明6においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲A4製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A4-6c>
「ビールテイスト飲料」に関して、本件特許発明6においては、「非アルコールビールテイスト飲料」と特定されているのに対し、甲A4製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A4-6d>
本件特許発明6においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料の製造方法を除く)」と特定されているのに対し、甲A4製法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点A4-6aについて検討する。
相違点A4-6aは相違点A4-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、相違点A4-6aは実質的な相違点であり、甲A4には、甲A4製法発明において、相違点A4-6aに係る本件特許発明6の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明6は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」という本件特許発明6の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲A4製法発明であるとはいえないし、甲A4製法発明並びに甲A4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明7について
本件特許発明7は請求項6を引用して特定するものであり、本件特許発明6の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明6と同様に、甲A4製法発明であるとはいえないし、甲A4製法発明並びに甲A4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と甲A4方法発明を対比する。
両者の間には本件特許発明1と甲A4発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲A4方法発明は「メチオノールが600ppb」、「リナロールが160ppb」となるように香気成分を添加するものであるから、「メチオノールの含有量を調整する工程」及び「リナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下に調整する工程」を有するといえる。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を調整する工程、前記ビールテイスト飲料におけるリナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下に調整する工程を含んでなる、方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A4-8a>
本件特許発明8においては、「ビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下に調整する工程」及び「ビールテイスト飲料におけるカプリル酸の含有量を0.1ppm以上10ppm以下に調整する工程」「を含んでなり」と特定されているのに対し、甲A4方法発明においては、「メチオノール」の含有量は「600ppb」(0.6ppm)と特定され、「カプリル酸」は含有していないことから、本件特許発明8で特定されるような「調整する工程」を含んでいない点。
<相違点A4-8b>
本件特許発明8においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲A4方法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A4-8c>
「ビールテイスト飲料」に関して、本件特許発明8においては、「非アルコールビールテイスト飲料」と特定されているのに対し、甲A4方法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A4-8d>
本件特許発明8においては、「非アルコールビールテイスト飲料における味の強度または味の余韻を増強する方法」と特定されているのに対し、甲A4方法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A4-8e>
本件特許発明8においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料における味の強度または味の余韻を増強する方法を除く)」と特定されているのに対し、甲A4方法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点A4-8aについて検討する。
相違点A4-8aは相違点A4-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、相違点A4-8aは実質的な相違点であり、甲A4には、甲A4方法発明において、相違点A1-8aに係る本件特許発明8の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明8は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」という本件特許発明8の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲A4方法発明であるとはいえないし、甲A4方法発明並びに甲A4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(7)本件特許発明9について
本件特許発明9は請求項8を引用して特定するものであり、本件特許発明8の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明8と同様に、甲A4方法発明であるとはいえないし、甲A4方法発明並びに甲A4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(8)申立理由A2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由A2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由A3(甲A10に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲A10に記載された事項等
ア 甲A10に記載された事項
甲A10には、「非アルコール飲料及びその製造方法、並びに非アルコール飲料へのアルコール感付与方法」に関しておおむね次のとおり記載されている。
・「【請求項1】
メチルチオ基を有する低級脂肪族化合物を、製造される非アルコール飲料に対して10ppb以上となる添加量で配合する工程を含む
ことを特徴とする非アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
前記低級脂肪族化合物が、2-(メチルチオ)エタノール、3-(メチルチオ)プロピルアセテート、3-(メチルチオ)プロピオン酸及び3-(メチルチオ)プロパノールからなる群より選択される少なくとも一種である
ことを特徴とする請求項1に記載の非アルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
2-(メチルチオ)エタノール、3-(メチルチオ)プロピルアセテート若しくは3-(メチルチオ)プロピオン酸の含有量が10ppb以上、又は3-(メチルチオ)プロパノールの含有量が37ppb以上である
ことを特徴とする非アルコール飲料。
【請求項4】
メチルチオ基を有する低級脂肪族化合物を、非アルコール飲料に対して10ppb以上となる添加量で配合する工程を含む
ことを特徴とする非アルコール飲料へのアルコール感付与方法。
【請求項5】
前記低級脂肪族化合物が、2-(メチルチオ)エタノール、3-(メチルチオ)プロピルアセテート、3-(メチルチオ)プロピオン酸及び3-(メチルチオ)プロパノールからなる群より選択される少なくとも一種である
ことを特徴とする請求項4に記載のアルコール感付与方法。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に開示される呈味改善物質によれば、ビール様飲料に特有の味質を増強することができるとされている。しかしながら、このように種々の呈味物質や香料を調合することによって製造される非アルコール飲料では、飲料を嚥下した際に呈味物質による雑味が後を引いて、好まれない後残り感を生じることがある。こうした呈味物質による後残り感は、アルコール飲料に特有の切れのある後味とは相反する感覚に感じられるため、非アルコール飲料のアルコール感を希薄にする一因ともなっている。そこで、非アルコール飲料に対して、アルコール感を付与する新たな手段が求められている。
したがって、本発明の課題は、アルコール感が付与された非アルコール飲料及びその製造方法、並びに非アルコール飲料へのアルコール感付与方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、食品用の香料として知られているメチルチオ基を有する低級脂肪族化合物が、非アルコール飲料の後味を改善し、非アルコール飲料にアルコール感を付与するのに有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。」
・「【0012】
本実施形態に係る飲料は、アルコールの含有量が1v/v%未満の非アルコール飲料である。すなわち、酒税法上で定義される酒類には該当しない飲料であって、炭酸飲料、果実飲料、野菜飲料、茶飲料等に代表される清涼飲料水に該当する飲料に関する。例えば、ビール、醸造酒、蒸留酒、混成酒等のアルコール飲料の味わいを模して製造されるノンアルコールビールテイスト飲料、カクテルテイスト飲料、チューハイテイスト飲料、梅酒テイスト飲料等と称される飲料が本実施形態に係る飲料の典型例として含まれる。
なお、本明細書において、単に「アルコール」という場合は、エチルアルコールを意味するものとする。
【0013】
本実施形態に係る飲料におけるアルコールの濃度は、1v/v%未満である限り任意の濃度とすることができる。例えば、アルコールの濃度は、0.5v/v%未満としてもよく、0.01v/v%未満としてもよく、0.00v/v%としてもよい。すなわち、原料に不可避的に含まれているアルコールを1v/v%未満の任意の濃度で含有していてもよく、実質的にはアルコールを含有していなくてもよい。
なお、アルコールの濃度は、15℃におけるエチルアルコールの濃度を意味している。」
・「【0070】
表4に、3-(メチルチオ)プロパノールを添加した各試料についての官能試験の結果を示す。なお、試料の調製に用いたノンアルコールビールテイスト飲料の市販品には、27ppb程度の3-(メチルチオ)プロパノールが含まれているため、表に示す添加量と27ppbを合算した量が試料中における含有量である。
【0071】
【表4】
[図:0001428017000008.jpg]
【0072】
表1~表4に示すように、「アルコール感」の評価項目においては、いずれのメチルチオ基を有する低級脂肪族化合物についても、添加量が増加するにしたがって評価が向上する傾向がみられた。添加量が10ppb以上である各試料では、アルコール感が付与されていることが認められ、特に、No.1-4~No.1-6、No.2-4~No.2-6、No.3-5~No.3-6、No.4-5~No.4-6に係る各試料では、アルコール感が良好であるとの評価が得られた。これに対し、添加量が5ppbである各試料では、No.2-2に係る試料を除いて、アルコール感の付与は有意には認められなかった。
また、「後残り感」の評価項目においては、2-(メチルチオ)エタノール及び3-(メチルチオ)プロピルアセテートでは、添加量が5ppb以上である各試料について、3-(メチルチオ)プロピオン酸及び3-(メチルチオ)プロパノールでは、添加量が10ppb以上である各試料について、それぞれ後味の切れによる後残り感の解消がみられ、特に、No.1-3~No.1-5、No.2-3~No.2-5、No.3-4~No.3-6、No.4-5~No.4-6に係る各試料では、後味の切れが良好で後残り感が改善されているとの評価が得られた。なお、No.1-6及びNo.2-6に係る試料の評価は、添加量の増加に対して低下した。
また、「総合評価」の評価項目においては、いずれのメチルチオ基を有する低級脂肪族化合物についても、添加量が10ppb以上である試料では、非アルコール飲料製品として適した香味を有していると認められ、特に、No.1-3~No.1-5、No.2-3~No.2-5、No.3-4~No.3-6、No.4-5~No.4-6に係る各試料では、非アルコール飲料製品として非常に好ましい香味を有しているとの評価が得られた。なお、No.1-6及びNo.2-6に係る試料の評価は、添加量の増加に対して低下した。」
イ 甲A10に記載された発明
甲A10に記載された事項を、特に【請求項2】、【請求項3】及び【請求項5】に関して整理すると、甲A10には次の発明(以下、「甲A10発明」、「甲A10製法発明」及び「甲A10方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A10発明>
「3-(メチルチオ)プロパノールの含有量が37ppb以上である非アルコール飲料。」
<甲A10製法発明>
「3-(メチルチオ)プロパノールの含有量が37ppb以上となる添加量で配合する工程を含む非アルコール飲料の製造方法。」
<甲A10方法発明>
「3-(メチルチオ)プロパノールの含有量が37ppb以上となる添加量で配合する工程を含む非アルコール飲料へのアルコール感付与方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲A10発明を対比する。
甲A10発明における「3-(メチルチオ)プロパノール」は本件特許発明1における「メチオノール」に相当する。
甲A10発明における「非アルコール飲料」は本件特許発明1における「非アルコールビールテイスト飲料」と、「非アルコール飲料」という限りにおいて一致する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「メチオノールを含有する非アルコール飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A10-1a>
本件特許発明1においては、「メチオノールの含有量が2ppm以上100ppm以下」、「リナロールの含有量が5ppb以上200ppb以下であり、かつ、カプリル酸の含有量が0.1ppm以上10ppm以下であり」と特定されているのに対し、甲A10発明においては、「メチオノール」の含有量は「37ppb以上」(0.037ppm以上)と特定され、「リナロール」及び「カプリル酸」の含有量は特定されていない点。
<相違点A10-1b>
本件特許発明1においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲A10発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A10-1c>
「非アルコール飲料」に関して、本件特許発明1においては、「非アルコールビールテイスト飲料」と特定されているのに対し、甲A10発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A10-1d>
本件特許発明1においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」と特定されているのに対し、甲A10発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点A10-1aについて検討する。
甲A10発明における「メチオノール」の含有量は「37ppb以上」(0.037ppm以上)と特定されるものの、「2ppm以上100ppm以下」とは特定されておらず、「リナロール」及び「カプリル酸」の含有量は何ら特定されていないから、相違点A10-1aが実質的な相違点であることは明らかである。
また、甲A10には、甲A10発明において、「メチオノール」の含有量を「2ppm以上100ppm以下」、「リナロール」の含有量を「5ppb以上200ppb以下」及び「カプリル酸」の含有量を「0.1ppm以上10ppm以下」にして、相違点A10-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明1は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」という本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A10発明であるとはいえないし、甲A10発明並びに甲A10及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5のいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A10発明であるとはいえないし、甲A10発明並びに甲A10及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6と甲A10製法発明を対比する。
両者の間には本件特許発明1と甲A10発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲A10製法発明における「3-(メチルチオ)プロパノールの含有量が37ppb以上となる添加量で配合する工程」は本件特許発明6における「メチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下に調整する工程」と、「メチオノールの含有量を調整する工程」という限りにおいて一致する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「非アアルコール飲料を製造する方法であって、前記非アルコール飲料におけるメチオノールの含有量を調整する工程を含んでなる、非アルコール飲料を製造する方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A10-6a>
本件特許発明6においては、「前記非アルコールビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下に調整する工程、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるリナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下に調整する工程、および、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるカプリル酸の含有量を0.1ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでなり」と特定されているのに対し、甲A10製法発明においては、「メチオノール」の含有量は「37ppb以上」と特定され、「リナロール」及び「カプリル酸」の含有量は特定されていないことから、本件特許発明6で特定されるような「調整する工程」を含んでいない点。
<相違点A10-6b>
本件特許発明6においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲A10製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A10-6c>
「非アルコール飲料」に関して、本件特許発明6においては、「非アルコールビールテイスト飲料」と特定されているのに対し、甲A10製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A10-6d>
本件特許発明6においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料の製造方法を除く)」と特定されているのに対し、甲A10製法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点A10-6aについて検討する。
相違点A10-6aは相違点A10-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、相違点A10-6aは実質的な相違点であり、甲A10には、甲A10製法発明において、相違点A10-6aに係る本件特許発明6の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明6は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」という本件特許発明6の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲A10製法発明であるとはいえないし、甲A10製法発明並びに甲A10及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明7について
本件特許発明7は請求項6を引用して特定するものであり、本件特許発明6の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明6と同様に、甲A10製法発明であるとはいえないし、甲A10製法発明並びに甲A10及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と甲A10方法発明を対比する。
両者の間には本件特許発明1と甲A10発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲A10方法発明における「3-(メチルチオ)プロパノールの含有量が37ppb以上となる添加量で配合する工程」は本件特許発明8における「メチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下に調整する工程」と、「メチオノールの含有量を調整する工程」という限りにおいて一致する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「非アルコール飲料におけるメチオノールの含有量を調整する工程を含んでなる、方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A10-8a>
本件特許発明8においては、「前記非アルコールビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下に調整する工程、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるリナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下に調整する工程、および、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるカプリル酸の含有量を0.1ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでなり」と特定されているのに対し、甲A10方法発明においては、「メチオノール」の含有量は「37ppb以上」(0.37ppm以上)と特定され、「リナロール」及び「カプリル酸」の含有量は特定されていないことから、本件特許発明10で特定されるような「調整する工程」を含んでいない点。
<相違点A10-8b>
本件特許発明8においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲A10方法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A10-8c>
「非アルコール飲料」に関して、本件特許発明8においては、「非アルコールビールテイスト飲料」と特定されているのに対し、甲A10方法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A10-8d>
本件特許発明8においては、「非アルコールビールテイスト飲料における味の強度または味の余韻を増強する方法」と特定されているのに対し、甲A10方法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点A10-8e>
本件特許発明8においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料における味の強度または味の余韻を増強する方法を除く)」と特定されているのに対し、甲A10方法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点A10-8aについて検討する。
相違点A10-8aは相違点A10-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、相違点A10-8aは実質的な相違点であり、甲A10には、甲A10方法発明において、相違点A10-8aに係る本件特許発明8の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明8は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」という本件特許発明8の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲A10方法発明であるとはいえないし、甲A10方法発明並びに甲A10及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(7)本件特許発明9について
本件特許発明9は請求項8を引用して特定するものであり、本件特許発明8の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明8と同様に、甲A10方法発明であるとはいえないし、甲A10方法発明並びに甲A10及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(8)申立理由A3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由A3によっては取り消すことはできない。
4 申立理由B1(甲B1に基づく進歩性)について
(1)甲B1に記載された事項等
ア 甲B1に記載された事項
甲B1には、「脱アルコール飲料の製造方法、アルコール飲料の製造方法及びアルコール含有飲料由来のアロマ成分の製造方法」に関しておおむね次のとおり記載されている。
・「技術分野
[0001]
本発明は、アルコール含有飲料から、エタノール濃度が低減された脱アルコール飲料を製造する方法に関する。本発明はまた、アルコール飲料の製造方法に関する。本発明はさらに、アルコール含有飲料由来のアロマ成分の製造方法に関する。」
・「[0040]<参考例1>
減圧水蒸気蒸留を用いた脱アルコール
1.原料及び装置
原料には市販のビール(Alc5.5%、以下ビールAと記載する)、市販のノンアルコールビール(外国(日本以外の国)製のノンアルコールビール、Alc0.5%、以下ノンアルコールビールBと記載する)を用いた。減圧水蒸気蒸留は、連続式向流気液抽出装置を用いて実施した。」
・「[0062]<実施例2>
回収したアロマ成分を脱アルコールサンプルに添加し、香味付与効果を確認した。使用したビールAは参考例1で使用したものと同じである。
ビールの脱アルコールサンプルは、ビールAから減圧水蒸気蒸留により作製した。減圧水蒸気蒸留は、参考例1と同じ装置を用い、以下の条件で行った。得られたビールの脱アルコールサンプル(以下、脱アルコールサンプル(I)という)のエタノール濃度は、0.001v/v%であった。
(減圧水蒸気蒸留の条件)
原料フィード流量:30mL/min
蒸気温度:45℃
カラム内圧力(絶対圧力):0.0066MPa
処理回数:上記条件にて2回
[0063]ビールAの減圧水蒸気蒸留で得られた蒸留液(Alc11.06%)について、実施例1と同じ方法で吸着樹脂(Muromac(登録商標)SAP9121、室町ケミカル株式会社)にアロマ成分を吸着させ、次いで樹脂を水で洗浄し、水蒸気でアロマ成分を溶出させてアロマ溶液(Alc0.02v/v%)を得た。得られたアロマ溶液を濃縮して濃縮アロマ溶液(Alc0.048%)を作製した。
上記で得た脱アルコールサンプル(I)400mLに、濃縮アロマ溶液45mLを混合して、エタノール濃度が0.0048v/v%の脱アルコールビール(II)を得た。
(評価)
回収アロマを添加することで醸造由来の香りを付与することができるのかを確認する目的で、脱アルコールサンプル(I)及び脱アルコールビール(II)の比較を行った。
訓練されたパネラー4名(パネラーA~D)で、官能評価を実施した。評価項目はビールらしい醸造香(醸造で生じるビールらしい香り)、麦汁臭、劣化香味の3つとした。各試料を口に含み、下記の基準で0~3点で、0.25点刻みの13段階で、上記の項目を評価し、その後パネラーの評点の平均値を求めた。ノンアルコールビールにおいて麦汁臭はネガティブととらえられる。従って麦汁臭が弱い方が、香味がよいといえる。劣化香味とは、加熱により生じる加熱臭や酸味でネガティブな影響を与える香味である。減圧蒸留時に熱負荷がかかることで成分が劣化すると、劣化香味臭が強くなる。」
・「[0071]上記の結果から、ビールからエタノールとアロマ成分を分離し、エタノールを除去したアロマ成分を、ビールの脱アルコールサンプルに添加することで、ビールらしい醸造香を付与することができた。かつ、ビールからエタノールを分離するだけでは麦汁臭や劣化香味というものが目立つのに対して、これらの香味を低減できることが確認できた。ビールからエタノールを除去すると、醸造由来の香りが飛んでしまうためビールらしさが低減するが、回収したアロマ成分からエタノールを除去して添加することで、ビールらしさが付与され、かつ、エタノール濃度が低減された脱アルコールビールを製造することができた。」
イ 甲B1に記載された発明
甲B1に記載された事項を、特に実施例2に関して整理すると、甲B1には次の発明(以下、「甲B1発明」、「甲B1製法発明」及び「甲B1方法発明」という。)が記載されていると認める。なお、特許異議申立人Bは、甲B1に記載された発明を具体的に認定していない。
<甲B1発明>
「市販のビールAから作製した脱アルコールサンプル(I)400mLに、市販のビールAから作製した濃縮アロマ溶液45mLを混合して得たエタノール濃度が0.0048v/v%の脱アルコールビール。」
<甲B1製法発明>
「市販のビールAから作製した脱アルコールサンプル(I)400mLに、市販のビールAから作製した濃縮アロマ溶液45mLを混合してエタノール濃度が0.0048v/v%の脱アルコールビールを製造する方法。」
<甲B1方法発明>
「市販のビールAから作製した脱アルコールサンプル(I)400mLに、市販のビールAから作製した濃縮アロマ溶液45mLを混合してエタノール濃度が0.0048v/v%として、脱アルコールビールにビールらしい醸造香を付与する方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲B1発明を対比する。
甲B1発明における「エタノール濃度が0.0048v/v%の脱アルコールビール」は本件特許発明1における「非アルコールビールテイスト飲料」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「非アルコールビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B1-1a>
本件特許発明1においては、「メチオノールの含有量が2ppm以上100ppm以下」、「リナロールの含有量が5ppb以上200ppb以下であり、かつ、カプリル酸の含有量が0.1ppm以上10ppm以下であり」と特定されているのに対し、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B1-1b>
本件特許発明1においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B1-1c>
本件特許発明1においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」と特定されているのに対し、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点B1-1aについて検討する。
甲B1には、「メチオノール」、「リナロール」及び「カプリル酸」について何ら記載も示唆もなく、当然、甲B1発明において、相違点B1-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明1は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」という本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
なお、特許異議申立人Bは、「メチオノール」に関して、甲B2、甲B8、甲B9及び甲B10を参照して、甲B1に記載された非アルコールビールテイスト飲料のメチオノール濃度は本件特許発明1のメチオノールの含有量の範囲を満たす可能性が高く、仮に満たさないとしても、このような濃度範囲に定めることに何ら困難性はないと主張し、「リナロール」に関して、甲B2及び甲B4を参照して、甲B1に記載された非アルコールビールテイスト飲料のリナロール濃度は本件特許発明1のリナロールの含有量の範囲を満たす可能性が高く、仮に満たさないとしても、このような濃度範囲に定めることに何ら困難性はないと主張し、「カプリル酸」に関して、甲B3、甲B5及び甲B6を参照して、甲B1に記載された非アルコールビールテイスト飲料のカプリル酸濃度は本件特許発明1のカプリル酸の含有量の範囲を満たす可能性が高く、仮に満たさないとしても、このような濃度範囲に定めることに何ら困難性はないと主張する(特許異議申立書Bの第25及び26ページ)。
そこで、検討する。
「メチオノール」、「リナロール」及び「カプリル酸」の個々の成分に関して、本件特許発明1で特定される含有量の範囲にあるビールテイスト飲料を記載する証拠があるとしても、それらの証拠は甲B1と直接関連する証拠ではないから、甲B1発明における「メチオノール」、「リナロール」及び「カプリル酸」の含有量が本件特許発明1で特定される含有量の範囲にあることにはならないし、甲B1発明にそれらの証拠に記載された事項を適用する動機付けがあるともいえない。また、「メチオノール」、「リナロール」及び「カプリル酸」の全ての成分が同時に本件特許発明1で特定される含有量の範囲にあるものを記載する証拠は示されていないし、「メチオノール」、「リナロール」及び「カプリル酸」の全ての成分が同時に本件特許発明1で特定される含有量の範囲にする動機付けを示す証拠もない。
したがって、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5のいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6と甲B1製法発明を対比する。
両者の間には本件特許発明1と甲B1発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「非アルコールビールテイスト飲料を製造する方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点B1-6a>
本件特許発明6においては、「前記非アルコールビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下に調整する工程、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるリナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下に調整する工程、および、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるカプリル酸の含有量を0.1ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでなり」と特定されているのに対し、甲B1製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B1-6b>
本件特許発明6においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲B1製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B1-6c>
本件特許発明6においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料の製造方法を除く)」と特定されているのに対し、甲B1製法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点B1-6aについて検討する。
相違点B1-6aは相違点B1-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲B1製法発明において、相違点B1-6aに係る本件特許発明6の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明6は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」という本件特許発明6の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲B1製法発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明7について
本件特許発明7は請求項6を引用して特定するものであり、本件特許発明6の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明6と同様に、甲B1製法発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と甲B1方法発明を対比する。
両者の間には本件特許発明1と甲B1発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲B1方法発明における「アルコール感を付与する」は本件特許発明における「味の強度または味の余韻を増強する」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「非アルコールビールテイスト飲料の味の強度または味の余韻を増強する方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点B1-8a>
本件特許発明8においては、「前記非アルコールビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下に調整する工程、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるリナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下に調整する工程、および、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるカプリル酸の含有量を0.1ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでなり」と特定されているのに対し、甲B1方法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B1-8b>
本件特許発明8においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲B1方法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B1-8c>
本件特許発明8においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料における味の強度または味の余韻を増強する方法を除く)」と特定されているのに対し、甲B1方法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点B1-8aについて検討する。
相違点B1-8aは相違点B1-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲B1方法発明において、相違点B1-8aに係る本件特許発明8の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明8は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」という本件特許発明8の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲B1方法発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)本件特許発明9について
本件特許発明9は請求項8を引用して特定するものであり、本件特許発明8の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明8と同様に、甲B1方法発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(8)申立理由B1についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由B1によっては取り消すことはできない。
5 申立理由B2(甲B7に基づく進歩性)について
(1)甲B7に記載された事項等
ア 甲B7に記載された事項
甲B7には、「ノンアルコールビールを製造する逆浸透プロセス」に関しておおむね次のとおり記載されている。なお、甲B7は外国語文献なので、表を除き、訳文のみを摘記した。
・「本発明は、ノンアルコールビールを製造する逆浸透プロセスであり、ビール製造業界における逆浸透技術の応用に関する。」(第1ページ要約第1及び2行)
・「逆浸透法によるノンアルコールビールの製造は、アルコール度数を85%以上下げることができ、既存のビール製造工程を変更する必要がなく、ノンアルコールビールはビール本来の風味が維持され、美味しい味わいになる。」(第1ページ要約第8ないし12行)
・「逆浸透法による一般ビールの脱アルコール化は実現可能である。ビール企業の既存の生産設備を活用でき、生産プロセスを変更する必要がない。工程の最後に逆浸透操作ユニットを追加するだけで、元のビールと同じ風味を持つノンアルコールビールや低アルコールビールのアルコール度数を大幅に低減できる。投資コストと運用コストは中程度であるため、アルコール生産企業に受け入れられやすく、産業化の見通しも良好である。」(説明書第3/10ページ第1ないし3行)
・「添付図に示すプロセスで、逆浸透膜によりノンアルコールビールを製造するパイロットテストを実施した。」(説明書第4/10ページ第24行)
・「原酒と、脱水素後に得られたアルコールフリービールの指標を分析し比較した。
1.脱アルコール前後の酒の物理的・化学的指標の分析と官能評価」(説明書第4/10ページ第28ないし30行)
・「表1 脱アルコール前後の物理的・化学的指標の分析
[図:0001428017000009.jpg]
」(説明書第5/10ページの表1)(当審注:表の第1行第3列の語は「脱アルコール酒」と訳され、第5行第1列の語は「アルコール含有量%(v/v)」と訳される。)
・「表2 脱アルコール前後の官能評価
[図:0001428017000010.jpg]
」(説明書第5/10ページの表2)(当審注:表2の第1行第3列の語は「脱アルコール酒」と訳され、第3行第1列の語は「香気」と訳され、第3行第3列の語は「ホップの香りがより顕著」と訳され、第4行第1列の語は「味」と訳され、第4行第3列の語は「味は軽く、原酒本来の風味があり、新鮮さも良好。ホップの苦味、殺菌力は普通」と訳される。)
・「表2から分かるように、脱アルコール前後の官能評価では、脱アルコール酒は依然として比較的明確なホップの香りとホップの苦味を持ち、原酒の風味特性も保持している。」(説明書第5/10ページの表2の下の2行)
イ 甲B7に記載された発明
甲B7に記載された事項を、特に説明書第5/10ページの表1に関して整理すると、甲B7には次の発明(以下、「甲B7発明」、「甲B7製法発明」及び「甲B7方法発明」という。)が記載されていると認める。なお、特許異議申立人Bは、甲B7に記載された発明を具体的に認定していない。
<甲B7発明>
「アルコール含有量が0.36%(v/v)のノンアルコールビール。」
<甲B7製法発明>
「アルコール含有量が0.36%(v/v)のノンアルコールビールを製造する方法。」
<甲B7方法発明>
「アルコール含有量が0.36%(v/v)のノンアルコールビールのビール本来の風味を維持する方法。」
(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲B7発明を対比する。
甲B7発明における「アルコール含有量が0.36%(v/v)のノンアルコールビール」は本件特許発明1における「非アルコールビールテイスト飲料」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「非アルコールビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B7-1a>
本件特許発明1においては、「メチオノールの含有量が2ppm以上100ppm以下」、「リナロールの含有量が5ppb以上200ppb以下であり、かつ、カプリル酸の含有量が0.1ppm以上10ppm以下であり」と特定されているのに対し、甲B7発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B7-1b>
本件特許発明1においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲B7発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B7-1c>
本件特許発明1においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料を除く)」と特定されているのに対し、甲B7発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点B7-1aについて検討する。
甲B7には、「メチオノール」、「リナロール」及び「カプリル酸」について何ら記載も示唆もなく、当然、甲B7発明において、相違点B7-1aに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明1は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」という本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
なお、特許異議申立人Bは、「メチオノール」に関して、甲B2、甲B8、甲B9及び甲B10を参照して、甲B7に記載された脱アルコールビールのメチオノール濃度は本件特許発明1のメチオノールの含有量の範囲を満たす蓋然性が高く、仮に満たさないとしても、このような濃度範囲に定めることに何ら困難性はないと主張し、「リナロール」に関して、甲B2及び甲B4を参照して、甲B7に記載された脱アルコールビールのリナロール濃度は本件特許発明1のリナロールの含有量の範囲を満たす蓋然性が高く、仮に満たさないとしても、このような濃度範囲に定めることに何ら困難性はないと主張し、「カプリル酸」に関して、甲B3、甲B5及び甲B6を参照して、甲B7に記載された脱アルコールビールのカプリル酸濃度は本件特許発明1のカプリル酸の含有量の範囲を満たす蓋然性が高く、仮に満たさないとしても、このような濃度範囲に定めることに何ら困難性はないと主張する(特許異議申立書Bの第29及び30ページ)。
そこで、検討する。
「メチオノール」、「リナロール」及び「カプリル酸」の個々の成分に関して、本件特許発明1で特定される含有量の範囲にあるビールテイスト飲料を記載する証拠があるとしても、それらの証拠は甲B7と直接関連する証拠ではないから、甲B7発明における「メチオノール」、「リナロール」及び「カプリル酸」の含有量が本件特許発明1で特定される含有量の範囲にあることにはならないし、甲B7発明にそれらの証拠に記載された事項を適用する動機付けがあるともいえない。また、「メチオノール」、「リナロール」及び「カプリル酸」の全ての成分が同時に本件特許発明1で特定される含有量の範囲にあるものを記載する証拠は示されていないし、「メチオノール」、「リナロール」及び「カプリル酸」の全ての成分が同時に本件特許発明1で特定される含有量の範囲にする動機付けを示す証拠もない。
したがって、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲B7発明並びに甲B7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5のいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B7発明並びに甲B7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6と甲B7製法発明を対比する。
両者の間には本件特許発明1と甲B7発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「非アルコールビールテイスト飲料を製造する方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点B7-6a>
本件特許発明6においては、「前記非アルコールビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下に調整する工程、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるリナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下に調整する工程、および、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるカプリル酸の含有量を0.1ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでなり」と特定されているのに対し、甲B7製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B7-6b>
本件特許発明6においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲B7製法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B7-6c>
本件特許発明6においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料の製造方法を除く)」と特定されているのに対し、甲B7製法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点B7-6aについて検討する。
相違点B7-6aは相違点B7-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲B7製法発明において、相違点B7-6aに係る本件特許発明6の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明6は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」という本件特許発明6の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲B7製法発明並びに甲B7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明7について
本件特許発明7は請求項6を引用して特定するものであり、本件特許発明6の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明6と同様に、甲B7製法発明並びに甲B7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と甲B7方法発明を対比する。
両者の間には本件特許発明1と甲B7発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲B7方法発明における「ノンアルコールビールのビール本来の風味を維持する」は本件特許発明における「味の強度または味の余韻を増強する」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「非アルコールビールテイスト飲料の味の強度または味の余韻を増強する方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点B7-8a>
本件特許発明8においては、「前記非アルコールビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を2ppm以上100ppm以下に調整する工程、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるリナロールの含有量を5ppb以上200ppb以下に調整する工程、および、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるカプリル酸の含有量を0.1ppm以上10ppm以下に調整する工程を含んでなり」と特定されているのに対し、甲B7方法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B7-8b>
本件特許発明8においては、「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」と特定されているのに対し、甲B7方法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B7-8c>
本件特許発明8においては、「(但し、高甘味度甘味料を含有する非アルコールビールテイスト飲料における味の強度または味の余韻を増強する方法を除く)」と特定されているのに対し、甲B7方法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点B7-8aについて検討する。
相違点B7-8aは相違点B7-1aと実質的に同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲B7方法発明において、相違点B7-8aに係る本件特許発明8の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明8は「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」という本件特許発明8の構成から当業者が予測することのできる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲B7方法発明並びに甲B7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)本件特許発明9について
本件特許発明9は請求項8を引用して特定するものであり、本件特許発明8の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明8と同様に、甲B7方法発明並びに甲B7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(8)申立理由B2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由B2によっては取り消すことはできない。
6 申立理由A4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし5は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用をすることができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明6及び7は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、それにより生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明8及び9は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明の【0011】ないし【0033】には本件特許発明1ないし9の各発明特定事項について具体的に記載されている。
発明の詳細な説明の【0017】及び【0031】には本件特許発明1ないし5の製造方法について具体的に記載されている。
発明の詳細な説明の【0035】ないし【0047】には本件特許発明1ないし9の実施例について具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし5を生産し、使用することができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明6及び7の使用をし、それにより生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明8及び9の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし9に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aの上記第3 1(4)の主張について検討する。
実施可能要件の判断は、上記(1)の判断基準に従って行うものであり、本件特許発明1に該当する飲料全てについて、発明の課題を解決できるかどうかは実施可能要件の判断とは関係がない。
なお、本件特許発明1に該当する飲料全てについて、発明の課題を解決できると当業者が認識でき、本件特許発明1に関して特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しているといえることは、下記7のとおりである。
したがって、特許異議申立人Aの上記第3 1(4)の主張は採用できない。
(4)申立理由A4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A4によっては取り消すことはできない。
7 申立理由A5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲(以下、「特許請求の範囲」という。)の記載は上記第2のとおりである。
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0005】及び【0007】によると、本件特許発明1ないし5の解決しようとする課題は「味の強度が増強された非アルコールビールテイスト飲料を提供すること」であり、本件特許発明6及び7の解決しようとする課題は「味の強度が増強された非アルコールビールテイスト飲料の製造方法を提供すること」であり、本件特許発明8及び9の解決しようとする課題は「非アルコールビールテイスト飲料における味の強度または味の余韻を増強する方法を提供すること」である(以下、総称して「発明の課題」という。)。
発明の詳細な説明の【0006】には「メチオノールの濃度を調整することにより、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強できることを見出した。」と記載され、同【0009】には「本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強することが可能となる。また、本発明によれば、非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強することも可能である。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0008】には「本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)メチオノールの含有量が0.1ppm以上である、非アルコールビールテイスト飲料。
(2)アルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満である、前記(1)に記載の非アルコールビールテイスト飲料。
(3)リナロールの含有量が0.1ppb以上である、前記(1)または(2)に記載の非アルコールビールテイスト飲料。
(4)カプリル酸の含有量が0.3ppm以上である、前記(1)または(2)に記載の非アルコールビールテイスト飲料。
(5)リナロールの含有量が0.1ppb以上であり、カプリル酸の含有量が0.3ppm以上である、前記(1)または(2)に記載の非アルコールビールテイスト飲料。
(6)非アルコールビールテイスト飲料を製造する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を0.1ppm以上に調整する工程を含んでなる、方法。
(7)前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満である、前記(6)に記載の方法。
(8)非アルコールビールテイスト飲料における味の強度を増強する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を0.1ppm以上に調整する工程を含んでなる、方法。
(9)非アルコールビールテイスト飲料における味の余韻を増強する方法であって、前記非アルコールビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を0.1ppm以上に調整する工程を含んでなる、方法。
(10)前記非アルコールビールテイスト飲料のアルコール(エタノール)濃度が0.01v/v%未満である、前記(8)または(9)に記載の方法。」と記載され、本件特許発明1ないし9に対応する記載がある。
発明の詳細な説明の【0035】ないし【0047】において、「メチオノールの含有量が0.1ppm以上である、非アルコールビールテイスト飲料」という条件を満たす試験区2ないし25が上記条件を満たさない試験区1よりも、味の強度や味の余韻が増強されていることを確認している。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から、当業者は「メチオノールの含有量が0.1ppm以上である、非アルコールビールテイスト飲料」、「メチオノールの含有量を0.1ppm以上に調整する工程を含む、非アルコールビールテイスト飲料の製造方法」及び「非アルコールビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を0.1ppm以上に調整する工程を含む、方法」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし5は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「非アルコールビールテイスト飲料」をさらに限定したものであり、本件特許発明6及び7は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「製造方法」をさらに限定したものであり、本件特許発明8及び9は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「方法」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし9は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aの上記第3 1(5)の主張について検討する。
上記(2)のとおり、発明の詳細な説明の記載から、当業者は「メチオノールの含有量が0.1ppm以上である、非アルコールビールテイスト飲料」は発明の課題を解決できると認識できる。
すなわち、本件特許発明1に該当する飲料全てについて、発明の課題を解決できると当業者は認識できる。
したがって、特許異議申立人Aの上記第3 1(5)の主張は採用できない。
(4)申立理由A5についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A5によっては取り消すことはできない。
8 申立理由A6(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし9の記載は、上記第2のとおりであり、本件特許の請求項1ないし9の記載には、それら自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aの上記第3 1(6)の主張について検討する。
ア 上記第3 1(6)アについて
「脱アルコール麦汁発酵液を原料とする」という記載は、「非アルコールビールテイスト飲料」の原料を特定しているだけで、製造方法を特定しているものではない。
すなわち、「物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合」に該当しない。
したがって、不可能・非実際的事情が存在することについて、本件特許の明細書等に記載がなく、また、特許権者から主張・立証がされていないとしても、本件特許発明1ないし5が明確でないということにはならない。
イ 上記第3 1(6)イについて
「高甘味度甘味料」は、その記載のとおり、甘味度が高い甘味料のことであり、具体的にどのようなものかは、当業者であれば理解できる。
したがって、仮に「「高甘味度甘味料」という用語について、一般的に確立した定義は存在しない」としても、本件特許発明1ないし9が明確でないということにはならない。
ウ まとめ
したがって、特許異議申立人Aの上記第3 1(6)の主張は採用できない。
(4)申立理由A6についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A6によっては取り消すことはできない。
9 申立理由B3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準及びサポート要件の判断
サポート要件の判断基準及びサポート要件の判断は上記7(1)及び(2)のとおりである。
(2)特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bの上記第3 2(3)の主張について検討する。
ア 上記第3 2(3)アについて
サポート要件の判断は上記7(1)の判断基準に従って行われるものであり、本件特許発明1で規定する数値範囲を満たすことにより、他の濃度範囲である場合に比べて格別な効果が得られるかどうかで行うものではない。
したがって、「本件特許発明1で規定する数値範囲を満たす試験区14、15の範囲であることにより、他の濃度範囲である場合に比べて格別な効果が得られるものではない。本件特許発明1の数値範囲に定めることにより格別の効果が得られているとは言えない」としても、本件特許発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないということにはならない。
イ 上記第3 2(3)イについて
サポート要件の判断は上記7(1)の判断基準に従って行われるものであり、発明の詳細な説明に本件特許発明3及び5の実施例が存在するかどうかで行うものではない。
したがって、本件特許発明3及び5の実施例が存在しないとしても、本件特許発明3及び5に関して、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないということにはならない。
ウ まとめ
したがって、特許異議申立人Bの上記第3 2(3)の主張は採用できない。
(3)申立理由B3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由B3によっては取り消すことはできない。
10 申立理由B4(サポート要件及び実施可能要件)について
(1)サポート要件及び実施可能要件の判断基準及び判断
サポート要件の判断基準及び判断は上記7(1)及び(2)のとおりである。
また、実施可能要件の判断基準及び判断は上記6(1)及び(2)のとおりである。
(2)特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bの上記第3 2(4)の主張について検討する。
「非アルコールビールテイスト飲料におけるメチオノールの含有量を0.1ppm以上に調整」されていれば発明の課題を解決できると認識できるので、各成分を添加する方法以外で「濃度を調整する工程」が実施例により裏付けられているかどうかはサポート要件の判断に影響しない。
また、各成分を添加する方法により「濃度を調整する工程」を実施できるし、各成分を添加する方法以外の方法では「濃度を調整する工程」を実施できないことの具体的な証拠が示されている訳でもないから、発明の詳細な説明に各成分を添加する方法以外の方法が実施例として記載されていないとしても、実施可能要件を充足しないとはいえない。
(3)申立理由B4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項6ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由B4によっては取り消すことはできない。
11 申立理由B5(明確性要件)について
申立理由B5における特許異議申立人Bの主張は申立理由A6における特許異議申立人Aの主張に包含される。
すなわち、申立理由A6と同様に判断される。
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由B5によっては取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許異議申立書A及びBに記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700596