特許異議申立
2025-700524
油脂加工澱粉組成物、揚げ物衣材用ミックス粉及び揚げ物並びにこれらの製造方法
- 審判番号
- 2025-700524
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-136238
- 登録番号
- 7584253
- 請求日
- 2025年05月14日
- 審決日
- 2026年03月04日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ニップン
- 【権利者代理人】▲吉▼田 和彦
- 【権利者代理人】須田 洋之
- 【権利者代理人】市川 さつき
- 【権利者代理人】服部 博信
- 【権利者代理人】松田 七重
- 【異議申立人】中嶋 美奈子
- 審判長/審判官
- 審判長 松田 成正
- 審判官 壷内 信吾
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1651.537-YAA(A23L) / P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7584253号発明「油脂加工澱粉組成物、揚げ物衣材用ミックス粉及び揚げ物並びにこれらの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7584253号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4及び8〕について訂正することを認める。
特許第7584253号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7584253号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、令和2年8月12日の出願であって、令和6年11月7日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月15日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和7年5月14日に特許異議申立人 中嶋 美奈子(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされ、同年6月12日に特許異議申立人から手続補正書(方式)が提出され、同年7月28日付けで取消理由が通知され、同年9月29日に特許権者 株式会社ニップン(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年10月7日に特許権者から手続補正書(方式)が提出され、同年11月21日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年12月24日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和7年9月29日に特許権者からされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物であり、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部である、
油脂加工澱粉組成物。」とあるのを、
「 油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物であり、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~15質量部である、
油脂加工澱粉組成物。」
に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4についても同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1又は2に記載の油脂加工澱粉組成物を含有する、揚げ物衣材用ミックス粉。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、
「前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100量部に対して0.05~12質量部である、請求項1に記載の油脂加工澱粉組成物を含有する、揚げ物衣材用ミックス粉。」に訂正する。
請求項3の記載を引用する請求項4についても同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1又は2に記載の油脂加工澱粉組成物を含有する、揚げ物衣材用ミックス粉。」とあるうち、請求項2を引用するものについて、
「 油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物であり、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.5~5質量部である、油脂加工澱粉組成物を含有する、揚げ物衣材用ミックス粉。」と訂正し、新たに請求項8とする。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「前記油脂及び前記乳化剤の合計量」の「前記油脂加工澱粉」に対する割合の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2及び4についての訂正について
訂正事項1による請求項2及び4についての訂正は、いずれも請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項2及び4についての訂正は、いずれも願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項3についての訂正について
訂正事項1による請求項3についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2による請求項3についての訂正は、「前記油脂及び前記乳化剤の合計量」の「前記油脂加工澱粉」に対する割合に関する限定を追加した上で、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項3についての訂正は、いずれも願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)請求項8についての訂正について
訂正事項3による請求項8についての訂正は、本件訂正前の請求項1又は2の記載を引用する請求項3について、請求項1の記載のみを引用する請求項3を削除し、請求項1の記載を引用する請求項2の記載を引用する請求項3を請求項1及び2の記載を引用しない独立形式に書き下した上で、新たな請求項8とするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、訂正事項3による請求項8についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし3による請求項1ないし4及び8についての訂正は、いずれも特許法120条の5第2項ただし書第1又は4号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし3による請求項1ないし4及び8についての訂正は、いずれも特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし4は一群の請求項に該当するものである。
そして、訂正事項1ないし3による請求項1ないし4及び8についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議申立人からの特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし7に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4及び8〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物であり、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~15質量部である、
油脂加工澱粉組成物。
【請求項2】
前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.5~5質量部である、
請求項1に記載の粉体混合物である油脂加工澱粉組成物。
【請求項3】
前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~12質量部である、請求項1に記載の油脂加工澱粉組成物を含有する、揚げ物衣材用ミックス粉。
【請求項4】
請求項1若しくは2に記載の油脂加工澱粉組成物又は請求項3に記載の揚げ物衣材用ミックス粉を使用してなる、揚げ物。
【請求項5】
油脂及び乳化剤を混合して、前記油脂を22~97質量%含む油脂-乳化剤混合物を得る工程、及び
油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部の前記油脂-乳化剤混合物を混合する工程を含む、
粉体混合物である油脂加工澱粉組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法によって得られた油脂加工澱粉組成物を使用する、揚げ物衣材用ミックス粉の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法によって得られた油脂加工澱粉組成物又は請求項6に記載の方法によって得られた揚げ物衣材用ミックス粉を使用する、揚げ物の製造方法。
【請求項8】
油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物であり、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.5~5質量部である、油脂加工澱粉組成物を含有する、揚げ物衣材用ミックス粉。」
第4 特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法並びに特許権者から提出された証拠方法等
令和7年6月12日に特許異議申立人から提出された手続補正書(方式)により補正された同年5月14日に特許異議申立人から提出された特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載された特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法並びに令和7年9月29日に特許権者から提出された証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由1(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明1に係る油脂加工澱粉組成物は、「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物」であり、かつ「前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり」、「前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部である」ことを特徴とするものである。
上記の「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物」とは、その製法等に特に限定がないことから、「油脂加工澱粉、油脂、及び乳化剤が各々全く別の粒として存在する」という構成(構成1)や、「油脂加工澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体」である構成(構成2)、などの様々な構成の粉体混合物を包含するものであると認められる。
一方、本件特許明細書の実施例にて製造された油脂加工澱粉組成物は、その製造工程(0036段落の製造例1)を見るに、液状の油脂(日清サラダ油)と乳化剤を均一になるまで混合して油脂-乳化剤混合物を調製し、次いで油脂加工澱粉を室温で撹拌しながら、該油脂-乳化剤混合物を、調製してから15分以内に徐々に添加し、均一になるまで撹拌混合して調製したものである。このような工程において得られた油脂-乳化剤混合物は、油脂と乳化剤を混然一体となった状態で含有するものであり、かつこれを油脂加工澱粉と均一になるまで撹拌混合する操作によって、油脂加工澱粉に付着すると推定される。
したがって、実施例にて製造された油脂加工澱粉組成物は、構成2(「油脂加工澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体」)の構成を有する粉体混合物であると推定される。
ここで、本件特許明細書の0003段落、0012段落、0017段落によれば、本件特許発明1に係る油脂加工澱粉組成物の原料となる「油脂加工澱粉」とは、そもそも、表面に油脂、及び必要に応じて乳化剤等の他の任意成分が付着した澱粉である。そうすると、そのように得られた油脂加工澱粉の表面に、さらに油脂と乳化剤が付着したものである、構成2の油脂加工澱粉組成物は、結局のところ「澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体」との構成をとるものと認められる。
しかしながら、このような「澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体」である構成2の油脂加工澱粉組成物を観察したときに、そこに含まれる「油脂」及び「乳化剤」が、原料となる「油脂加工澱粉」に由来するものであるのか、又はそれと別途に添加混合されたものであるのかを判別することはできない。
つまり、実施例にて製造されたような、構成2の油脂加工澱粉組成物を観察しても、それが、原料であるべき「油脂加工澱粉」そのものではなく、「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物」であるか否かを、当業者は確認することができない。ゆえに、構成2の油脂加工澱粉組成物において「前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり」、「前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部である」か否かを、当業者は確認することができない。
構成2の油脂加工澱粉組成物においては、原料の油脂加工澱粉に対して所定量の油脂及び乳化剤を混合するという製造方法によれば、原料の油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤の量を各々特定することは可能であるかもしれないが、製造後の油脂加工澱粉組成物を観察しても、どの部分が原料の油脂加工澱粉であり、どの部分が混合した油脂及び乳化剤であるかを見分け、それら各々の量を特定することはできない。
したがって、本件特許発明1に係る油脂加工澱粉組成物は、その発明の外縁を特定することができない不明確な発明である。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし4も同様である。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許発明1ないし4
本件特許発明の課題は、バッターを調製する際に、水分への分散性に優れ、ダマが出来難く、かつ揚げ種との結着性を良好にし、揚げ物の食感を良好にすることができる油脂加工澱粉組成物を提供することである(0006段落)。
実施例で製造、使用した油脂加工澱粉組成物のような、油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤からなり、かつ油脂-乳化剤混合物を得た後、直ちに油脂加工澱粉と撹拌混合することで得られたもの、あるいは「油脂加工澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体」、として特定されていない、本件特許発明1の油脂加工澱粉組成物は、前述の本件特許発明の課題を解決できない範囲を含むものである。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし4についても同様である。
(2)本件特許発明1ないし7
本件特許発明の課題は、前述のとおり、1)水分への分散性に優れ、ダマが出来難く、かつ2)揚げ物の食感が良好で、3)揚げ種との結着性が良好である、油脂加工澱粉組成物を提供することである。
試験例5(表6)によれば、実施例で製造、使用した油脂加工澱粉組成物(実施例3、24~27)は、その原料の油脂加工澱粉(比較例1、7~10)と比べて、評価例1のダマの割合は低下したが、評価例2の食感、及び評価例3の結着性については、いずれも原料の油脂加工澱粉と比べて、かえって評価が低下している。さらに、表2~表5に示される実施例のいずれも、原料の油脂加工澱粉(比較例1)と比べて、評価例2及び3の評価は向上していない。
すなわち、本件特許明細書の実施例において、本件特許発明によって解決できることが確認された課題は、油脂加工澱粉組成物の水分への分散性の向上のみであり、衣の食感や結着性の課題を本件特許発明が解決できることは示されていない。
したがって、本件特許発明1は、本件特許発明の課題を解決できないものであるから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
本件特許発明2ないし7についても同様である。
3 申立理由3(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許発明1、3及び4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3及び4に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第4ないし6号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明並びに下記の甲第5及び6号証に記載された事項に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(甲第4ないし9号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4ないし6号証のいずれかに記載された発明及び下記の甲第5ないし9号証に記載された事項に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
6 証拠方法
甲第1号証:特開2014-82994号公報
甲第2号証:一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC メールマガジン 2017年8月発行(vol.137)卵の栄養機能とアンチエイジング効果 第3回 卵黄脂質でアンチエイジング(URL: http://www.mac.or.jp/mail/170801/02.shtml、アクセス日2025年5月8日)
甲第3号証:たまご博物館のウェブページ レシチンについて 2000年6月11日(URL: http://takakis.la.coocan.jp/reshichin.htm、アクセス日2025年5月8日)
甲第4号証:特開昭54-11249号公報
甲第5号証:特開2014-143929号公報
甲第6号証:特開2018-139565号公報
甲第7号証:特開平9-94064号公報
甲第8号証:特開2000-14335号公報
甲第9号証:特開2014-93982号公報
甲第10号証:洋菓子材料の調理科学、株式会社柴田書店、表紙、第62ないし88ページ、奥付き、2004年9月20日17版発行
甲第11号証:製パン原料、社団法人日本パン技術研究所、表紙、第110、111、118ないし121及び182ページ、奥付き、平成16年7月第11版
なお、甲第10及び11号証は令和7年12月24日に特許異議申立人から提出された意見書に添付されたものである。
証拠の表記は、特許異議申立書及び上記意見書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
7 特許権者から提出された証拠方法
令和7年10月7日に特許権者から提出された手続補正書(方式)により補正された同年9月29日に提出された意見書に添付された証拠方法は次のとおりである。
乙第1号証:特許第6320605号公報
乙第2号証:特開2020-61997号公報
乙第3号証:国際公開第2018/123257号
乙第4号証:特許第3585688号公報
乙第5号証:日本農芸化学会誌、Vol.56、No.2、pp.117-122(1982)、日本農芸化学会
乙第6号証:栄養と食糧、24(6)、317-324(1971)、日本栄養・食糧学会
証拠の表記は、上記意見書の記載におおむね従った。以下、順に「乙1」のようにいう。
第5 取消理由の概要
令和7年7月28日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
1 取消理由1(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。なお、該取消理由1は申立理由1とおおむね同旨である。
本件特許発明1に係る「油脂加工澱粉組成物」は、「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物」であり、かつ、「前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり」、「前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部である」ことを特徴とするものである。
上記の「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物」とは、その製法等に特に限定がないことから、「油脂加工澱粉、油脂、及び乳化剤が各々全く別の粒として存在する」という構成(構成1)や、「油脂加工澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体」である構成(構成2)などの様々な構成の粉体混合物を包含するものであると認められる。
一方、本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の実施例にて製造された油脂加工澱粉組成物は、その製造工程(【0036】の製造例1)をみるに、液状の油脂(日清サラダ油)と乳化剤を均一になるまで混合して油脂-乳化剤混合物を調製し、次いで油脂加工澱粉を室温で撹拌しながら、該油脂-乳化剤混合物を、調製してから15分以内に徐々に添加し、均一になるまで撹拌混合して調製したものである。このような工程において得られた油脂-乳化剤混合物は、油脂と乳化剤を混然一体となった状態で含有するものであり、かつこれを油脂加工澱粉と均一になるまで撹拌混合する操作によって、油脂加工澱粉に付着すると推定される。
したがって、実施例にて製造された油脂加工澱粉組成物は、構成2(「油脂加工澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体」)の構成を有する粉体混合物であると推定される。
ここで、発明の詳細な説明の【0003】、【0012】及び【0017】によれば、本件特許発明1に係る「油脂加工澱粉組成物」の原料となる「油脂加工澱粉」とは、そもそも、表面に油脂、及び必要に応じて乳化剤等の他の任意成分が付着した澱粉である。
そうすると、そのように得られた油脂加工澱粉の表面に、さらに油脂と乳化剤が付着したものである、構成2の油脂加工澱粉組成物は、結局のところ「澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体」との構成をとるものと認められる。
しかしながら、このような「澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体」である構成2の油脂加工澱粉組成物を観察したときに、そこに含まれる「油脂」及び「乳化剤」が、原料となる「油脂加工澱粉」に由来するものであるのか、原料となる「油脂加工澱粉」とは別途に添加混合されたものであるのかを当業者といえども判別することはできない。
つまり、実施例にて製造されたような、構成2の油脂加工澱粉組成物を観察しても、それが、原料であるべき「油脂加工澱粉」そのものではなく、「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物」であるか否かを、当業者は確認することができない。ゆえに、構成2の油脂加工澱粉組成物において、「前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり」、「前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部である」か否かを、当業者は確認することができない。
したがって、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎としても、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるといえる。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明2ないし4に関しても同様に、特許請求の範囲の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるといえる。
よって、本件特許発明1ないし4は明確であるとはいえない。
2 取消理由2(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1、3及び4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3及び4に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。なお、該取消理由2は申立理由3を包含する。
3 取消理由3(甲4に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明並びに甲5及び6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。なお、該取消理由3は申立理由4及び申立理由5の一部とおおむね同旨である。
第6 取消理由についての当審の判断
以下、順に検討する。なお、申立理由5(甲4ないし9に基づく進歩性)は実質的に甲4を主引用文献とする進歩性の理由であるから、取消理由3(甲4に基づく進歩性)と併せて検討する。
1 取消理由1(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし4及び8の記載は、上記第3のとおりである。
本件特許の請求項1ないし4及び8に記載された「油脂」及び「乳化剤」という用語は本件特許が属する技術分野において通常使用される用語であるし、「油脂加工澱粉」とは本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0012】に「本発明において、油脂加工澱粉とは、澱粉及び食用油脂を混合して澱粉の表面に油脂を付着させた後、任意に乾燥し、加熱熟成(油脂加工)して得られるものをいう。」と記載されているものであり、「澱粉」と「油脂」との単なる混合物ではなく、加熱熟成により、「油脂」が「澱粉」表面に強固に付着しているものである。すなわち、本件特許の請求項1ないし4及び8に記載された「油脂加工澱粉」は、単に「油脂」と「澱粉」とを混合したものではなく、それとは異なる特性を有するものである(このことは、甲4及び6並びに乙1ないし3の記載からみて、当業者の技術常識でもある。)。
そうすると、本件特許の請求項1ないし4及び8の記載には、それら自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明1ないし4及び8に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の特許異議申立書における主張(上記第4 1)及び令和7年12月24日に提出された意見書における主張について検討する。
ア 特許異議申立書における主張(上記第4 1)について
上記(2)のとおり、「油脂加工澱粉」は「澱粉」と「油脂」との単なる混合物ではなく、加熱熟成により、「油脂」が「澱粉」表面に強固に付着しているものであるから、当業者は、「澱粉」に強固に付着した「油脂」及び「乳化剤」と、「油脂加工澱粉」に単に付着した「油脂」及び「乳化剤」とを判別することはできる。
すなわち、発明の詳細な説明の実施例にて製造されたような「油脂加工澱粉組成物」を観察して、それが、原料であるべき「油脂加工澱粉」そのものではなく、「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物」であるか否かを、当業者は確認することができ、「油脂加工澱粉組成物」において「前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり」、「前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~15質量部である」か否かを、当業者は確認することができる。
したがって、特許異議申立人の特許異議申立書における主張(上記第4 1)は採用できない。
イ 令和7年12月24日に提出された意見書における主張について
特許異議申立人の令和7年12月24日に提出された意見書における主張は、要するに、次のとおりである(上記意見書第5ないし9ページ)。
・本件特許発明1は「油脂加工澱粉、油脂、及び乳化剤が全く別々の粒として存在する」という構成(構成1)を包含するか否かが明らかでない点で、発明の技術的範囲を定めることができない不明確なものである(以下、「主張1」という。)。
・本件特許発明1が「油脂加工澱粉の方面に油脂及び乳化剤が付着した粒体である」という構成(構成2)を包含し「油脂加工澱粉」が少なくとも加熱熟成相当の処理を経て製造される場合、「物理的に油脂が澱粉表面に強固に付着している」状態となっているものを包含するから、依然として取消理由で指摘されたとおりであり、構成2の構成についてもその技術的範囲を明確に定めていない(以下、「主張2」という。)。
そこで、検討する。
(ア)主張1について
上記(2)のとおりであるから、本件特許の請求項1の記載からみて、本件特許発明1は「油脂加工澱粉、油脂、及び乳化剤が全く別々の粒として存在する」という構成(構成1)を包含することは当業者に明らかである。
したがって、上記主張1は採用できない。
(イ)主張2について
仮に、特許異議申立人が主張するように、本件特許発明1が、「油脂加工澱粉」が少なくとも加熱熟成相当の処理を経て製造され、「物理的に油脂が(油脂加工)澱粉表面に強固に付着している」状態となっているものを包含するとしても、上記(2)のとおり、「油脂加工澱粉」は「澱粉」と「油脂」との単なる混合物ではなく、加熱熟成により、「油脂」が「澱粉」表面に強固に付着しているものであり、単に「油脂」と「澱粉」とを混合したものとは異なる特性を有するものであるから、「油脂加工澱粉」、「油脂」及び「乳化剤」を当業者は区別できるものであるし、「物理的に油脂が(油脂加工)澱粉表面に強固に付着」した結果、当業者が区別できない物は本件特許発明1に含まれない(このように解することは、特許権者の令和7年9月20日に提出された意見書における主張とも整合する。)。
したがって、「構成2の構成についてもその技術的範囲を明確に定めていない」とはいえず、上記主張2も採用できない。
(4)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし4及び8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号に該当せず、取消理由1によっては取り消すことはできない。
2 取消理由2(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「バッター液用粉末組成物」に関しておおむね次の事項が記載されている。なお、記載事項の摘記に際し、半角文字は適宜全角で摘記した。また、下線は当審で付したものである。他の証拠についても同様。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、具材と衣の結着性が良好で、且つ具材が軟らかくジューシーなフライ食品を得るための、バッター液用粉末組成物を提供することを目的とする。」
・「【0029】
[実施例1]
下記配合表1に従って、
油脂加工澱粉、乾燥卵白(水戻しpH9.0)、乾燥卵黄、卵殻粉、キサンタンガムを粉体混合して、本発明のバッター液用粉末組成物を製した。
【0030】
〔配合表1〕
乾燥卵白(水戻しpH9.0) 45%
乾燥卵黄 15%
卵殻粉 8%
キサンタンガム 0.5%
油脂加工澱粉 残余
--------------------
合計 100%
【0031】
[比較例1]
乾燥卵白の含有量を45%から25%に変更し、差分を油脂加工澱粉で調整した以外は、実施例1に準じてバッター液用粉末組成物を製した。」
・「【0035】
[試験例1]
実施例1、及び比較例1~4のバッター液用粉末組成物を用いて、フライ食品を製し、本発明の効果を有するか調べた。具体的には、(1)(2)の手順に沿って行った。結果は表1に示す。
(1)フライ食品の製造(とんかつ)
各バッター液用粉末組成物1部に対して、3倍量の清水を加えて撹拌混合し、バッター液を調製した。次いで、豚肉(ロース)を、得られたバッター液に付着させた後、パン粉を付着させて-20℃で3日間冷凍保存し、油ちょう前の冷凍フライ食品を調製した。次いで、調製した冷凍フライ食品を175℃で6分間油ちょうし、フライ食品(とんかつ)を製した。」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に比較例1に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1物発明1」及び「甲1物発明2」という。)が記載されていると認める。
<甲1物発明1>
「乾燥卵白(水戻しpH9.0)25%、乾燥卵黄15%、卵殻粉8%、キサンタンガム0.5%、油脂加工澱粉残余を粉体混合して製したバッター液用粉末組成物。」
<甲1物発明2>
「甲1物発明1を用いて製したフライ食品。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1物発明1を対比する。
甲1物発明1における「油脂加工澱粉残余」は本件特許発明1における「油脂加工澱粉」に相当する。
甲1物発明1における「粉体混合して製したバッター液用粉末組成物」は本件特許発明1における「粉体混合物である、油脂加工澱粉組成物」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「油脂加工澱粉を含む粉体混合物である、
油脂加工澱粉組成物。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-1a>
「油脂加工澱粉を含む粉体混合物」「である、油脂加工澱粉組成物」に関して、本件特許発明1においては「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物であり、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であ」る「油脂加工澱粉組成物」と特定されているのに対し、甲1物発明1においては「乾燥卵白(水戻しpH9.0)25%、乾燥卵黄15%、卵殻粉8%、キサンタンガム0.5%、油脂加工澱粉残余を粉体混合して製したバッター液用粉末組成物」と特定されている点。
<相違点1-1b>
本件特許発明1においては「前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~15質量部である」と特定されているのに対し、甲1物発明1においては本件特許発明1のようには特定されておらず、甲2及び3に記載された事項を踏まえて計算すると、「前記油脂加工澱粉100質量部」に対する「前記油脂及び前記乳化剤の合計量」が「約15.0質量部~約16.6質量部」と計算される点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点1-1bについて検討する。
甲2及び3に記載された事項を踏まえての計算上、甲1物発明1における「前記油脂加工澱粉100質量部」に対する「前記油脂及び前記乳化剤の合計量」が「約15.0質量部~約16.6質量部」と計算されるとしても、甲1に「前記油脂加工澱粉100質量部」に対する「前記油脂及び前記乳化剤の合計量」が「15.0質量部」のものが実際に記載されている訳ではないから、相違点1-1bは実質的な相違点である。
そして、甲1には、甲1物発明1において、相違点1-1bに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明1は「バッターを調製する際に、水分への分散性に優れ、ダマが出来難く、かつ揚げ種との結着性を良好にし、揚げ物の食感を良好にすることができる油脂加工澱粉組成物を提供することができる」(発明の詳細な説明の【0009】)という本件特許発明1の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
なお、特許異議申立人は、令和7年12月24日に提出された意見書において、相違点1-1bは存在しないし、甲1物発明1のようなバッター液用粉末組成物を配合する際に通常起こり得る程度の微差にすぎない旨主張する(上記意見書第13ないし15ページ)が、上記のとおり、甲1に「前記油脂加工澱粉100質量部」に対する「前記油脂及び前記乳化剤の合計量」が「15.0質量部」のものが実際には記載されていない以上、相違点1-1bは実質的な相違点であるし、通常起こり得る程度の微差にすぎないともいえないので、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1物発明1であるとはいえないし、甲1物発明1並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明3について
本件特許発明3は請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1物発明1であるとはいえないし、甲1物発明1並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲1物発明2を対比するに、両者の間には、上記相違点1-1a及び1-1bと同様の相違点がある。
そして、それらの相違点についての判断も同様である。
したがって、本件特許発明4は甲1物発明2であるとはいえないし、甲1物発明2並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と甲1物発明1を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲1物発明1との間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「油脂加工澱粉を含む粉体混合物である、
油脂加工澱粉組成物。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-8a>
「油脂加工澱粉を含む粉体混合物」「である、油脂加工澱粉組成物」に関して、本件特許発明8においては「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物であり、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であ」る「油脂加工澱粉組成物」と特定されているのに対し、甲1物発明1においては「乾燥卵白(水戻しpH9.0)25%、乾燥卵黄15%、卵殻粉8%、キサンタンガム0.5%、油脂加工澱粉残余を粉体混合して製したバッター液用粉末組成物」と特定されている点。
<相違点1-8b>
本件特許発明8においては「前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.5~5質量部である」と特定されているのに対し、甲1物発明1においては本件特許発明8のようには特定されておらず、甲2及び3に記載された事項を踏まえて計算すると、「前記油脂加工澱粉100質量部」に対する「前記油脂及び前記乳化剤の合計量」が「約15.0質量部~約16.6質量部」と計算される点。
<相違点1-8c>
本件特許発明8においては「油脂加工澱粉組成物を含有する、揚げ物衣材用ミックス粉」と特定されているのに対し、甲1物発明1においては「バッター液用粉末組成物」と特定されている点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点1-8bについて検討する。
相違点1-8bが実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
そして、甲1には、甲1物発明1において、相違点1-8bに係る本件特許発明8の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明8は「バッターを調製する際に、水分への分散性に優れ、ダマが出来難く、かつ揚げ種との結着性を良好にし、揚げ物の食感を良好にすることができる油脂加工澱粉組成物」「を含有する、揚げ物衣材用ミックス粉」「を提供することができる」という本件特許発明8の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲1物発明1であるとはいえないし、甲1物発明1並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1、3、4及び8は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1、3、4及び8に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、取消理由2によっては取り消すことはできない。
3 取消理由3(甲4に基づく進歩性)及び申立理由5(甲4ないし9に基づく進歩性)について
(1)甲4に記載された事項等
ア 甲4に記載された事項
甲4には、「改良された油脂加工澱粉の製造法」に関しておおむね次の事項が記載されている。
・「2. 特許請求の範囲
油脂を澱粉粒に接触、固着せしめて油脂加工澱粉を製造するに当り、脂肪酸のモノグリセリドを併用することを特徴とする改良された油脂加工澱粉の製造法。」(第1ページ左下欄第4ないし8行)
・「従来より油脂(トリグリセリド)を澱粉粒に接触、固着し、油脂を澱粉粒外殻のミセル構造と強固に結合せしめて高粘弾特性等の優れた加工特性を有する所謂油脂加工澱粉が開発されている。(例えば特公昭45-32898号明細書参照)本油脂加工澱粉はゲル強度、膨潤度、最高粘度、転移温度等の加工特性が未処理澱粉たる生澱粉に比し大巾に改良され、食品加工用、工業用原料、特に練製品用として適切な澱粉である。しかしながら、本油脂加工澱粉は原料の澱粉、油脂の種類により程度は異るが、その物性上の特質から取扱いにやゝ困難さがあり強く改良が要望されて来た。即ち、従来の油脂加工澱粉の特に改良すべき点は次の3点である。
1)油脂加工澱粉製造時に、油脂を接触せしめた澱粉の粘着性が増大し、その安息角が増大するので装置への付着が顕著である。
2)油脂加工澱粉そのものの粘着性も大であるので、保存時に澱粉粒子が相互に固結し、所謂「ダマ」を生成する。使用に際しては、このダマを篩別するか、又は破砕、磨砕等する必要がある。
3)油脂加工澱粉を水に分散して使用する場合、澱粉スラリー液の粘性の増大、及び泡末の発生等が認められる。」(第1ページ左下欄第13行ないし右下欄第17行)
・「澱粉とは馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉等の地下澱粉、とうもろこし澱粉、小麦澱粉等の穀物澱粉等である。
油脂とはトリグリセライドであって、大豆油、菜種油、オリーブ油、とうもろこし油、パーム油等の植物油、豚脂、牛脂、イカ油、イワシ油、鯨油等の動物油等である。また、モノグリセリドとはラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の油脂構成脂肪酸のモノグリセリドである。」(第2ページ右上欄第10ないし19行)
・「問題となる油脂加工澱粉の物性上の諸問題点、即ち澱粉の粘着性、固結性、澱粉スラリー液の粘性及び発泡性と油脂加工澱粉の優れた加工特性、例えば糊液のゲル強度とのバランスを保持するため使用するモノグリセリドの種類及び量を選択することが重要である。一般的には付着油脂量に対し0.1~5倍、好ましくは0.5~3.5、更に好ましくは2.5倍以下のモノグリセリドを付着するよう使用することになる。」(第3ページ左上欄第14行ないし右上欄第2行)
イ 甲4に記載された発明
甲4に記載された事項を、特に特許請求の範囲に関して整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4物発明」及び「甲4製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲4物発明>
「油脂を澱粉粒に接触、固着せしめて油脂加工澱粉を製造するに当り、脂肪酸のモノグリセリドを併用した油脂加工澱粉。」
<甲4製法発明>
「油脂を澱粉粒に接触、固着せしめて油脂加工澱粉を製造するに当り、脂肪酸のモノグリセリドを併用する油脂加工澱粉の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲4物発明を対比する。
本件特許発明1に係る「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物」である「油脂加工澱粉組成物」は、「澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体」との構成をとる場合を含むものと認められる。
他方、甲4物発明における「澱粉粒」及び「脂肪酸のモノグリセリド」はそれぞれ本件特許発明1における「澱粉」及び「乳化剤」に相当することから、甲4物発明も「澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体」との構成をとる場合を含むものと認められる。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体である組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点4-1>
上記「組成物」が、本件特許発明1においては、「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物であり」、「前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり」、「前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~15質量部である」「油脂加工澱粉組成物」と特定されているのに対し、甲4物発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点4-1について検討する。
甲4物発明は「油脂加工澱粉」に関する発明であるところ、甲4(第1ページ左下欄第13行ないし右下欄第17行)、甲5(【0002】及び【0006】)並びに甲6(【0002】及び【0013】)に記載されているように、「油脂加工澱粉」には、ダマを生成しやすく、バッターを調整する際にはダマや分散ムラを生じやすいという問題があり、該問題を解決することは、「油脂加工澱粉」の技術分野において、周知の課題であり、「油脂加工澱粉」を製造する際に、「油脂加工澱粉」の物性を改善するために、澱粉に対する油脂及び乳化剤の量を調節することは、甲4(第3ページ左上欄第14行ないし右上欄第2行)、甲5(【請求項1】ないし【請求項6】)並びに甲6(【請求項1】、【請求項2】及び【0026】)に記載されているように、周知技術であるとしても、甲4には、甲4物発明において、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明1は「バッターを調製する際に、水分への分散性に優れ、ダマが出来難く、かつ揚げ種との結着性を良好にし、揚げ物の食感を良好にすることができる油脂加工澱粉組成物を提供することができる」という甲4物発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
なお、特許異議申立人は、令和7年12月24日に提出された意見書において、おおむね次のとおり主張する(上記意見書第19ないし21ページ)。
・「油脂加工澱粉」には、ダマを生成しやすく、バッターを調整する際にはダマや分散ムラを生じやすいという問題があり、該問題を解決することは、「油脂加工澱粉」の技術分野において、周知の課題である。そして、「油脂加工澱粉」を製造する際に、「油脂加工澱粉」の物性を改善するために、澱粉に対する油脂及び乳化剤の量を調節することは、甲4ないし6に記載されているように、周知技術である。したがって、甲4発明において、ダマや分散ムラを低減させようとして、澱粉に対する油脂及び乳化剤の量を調節することは当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず、その結果として、相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項の条件を満たす組成物とすることは当業者が容易に想到し得たことであるし、その際に、甲7ないし9に記載された事項を用いることも当業者が容易になし得たことである。
そこで、該主張について検討するに、上記のとおり、「油脂加工澱粉」には、ダマを生成しやすく、バッターを調整する際にはダマや分散ムラを生じやすいという問題を解決することは周知の課題であり、「油脂加工澱粉」を製造する際に澱粉に対する油脂及び乳化剤の量を調節することは周知技術であるとしても、甲4に、甲4物発明において、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもない以上、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項の条件を満たす組成物とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は甲4物発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲4物発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明4について
本件特許発明4は請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有する油脂加工組成物を直接又は間接的に使用した揚げ物の発明であるから、本件特許発明1と同様に、甲4物発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明5について
ア 対比
本件特許発明5と甲4製法発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲4物発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体である組成物の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点4-5>
上記「組成物の製造方法」が、本件特許発明5においては、「油脂及び乳化剤を混合して、前記油脂を22~97質量%含む油脂-乳化剤混合物を得る工程、及び油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部の前記油脂-乳化剤混合物を混合する工程を含む、粉体混合物である油脂加工澱粉組成物の製造方法」と特定されているのに対し甲4製法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点4-5について検討する。
甲4製法発明は「油脂加工澱粉の製造方法」に関する発明であるところ、上記(2)イのとおり、「油脂加工澱粉」には、ダマを生成しやすく、バッターを調整する際にはダマや分散ムラを生じやすいという問題があり、該問題を解決することは、「油脂加工澱粉」の技術分野において、周知の課題であり、「油脂加工澱粉」を製造する際に、「油脂加工澱粉」の物性を改善するために、澱粉に対する油脂及び乳化剤の量を調節することは、上記(2)イのとおり、周知技術であるとしても、甲4製法発明において、相違点4-5に係る本件特許発明5の発明特定事項を採用する動機付けはなく、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明5は「バッターを調製する際に、水分への分散性に優れ、ダマが出来難く、かつ揚げ種との結着性を良好にし、揚げ物の食感を良好にすることができる油脂加工澱粉組成物」の「製造方法」「を提供することができる」という甲4製法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明5の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明5は甲4製法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件特許発明6及び7について
本件特許発明6及び7は請求項5の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明5の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明5と同様に、甲4製法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と甲4物発明を対比する。
本件特許発明8に係る「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物」である「油脂加工澱粉組成物」は、「澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体」との構成をとる場合を含むものと認められる。
他方、甲4物発明における「澱粉粒」及び「脂肪酸のモノグリセリド」はそれぞれ本件特許発明8における「澱粉」及び「乳化剤」に相当することから、甲4物発明も「澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体」との構成をとる場合を含むものと認められる。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体である組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点4-8a>
上記「組成物」が、本件特許発明8においては、「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物であり」、「前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり」、「前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.5~5質量部である」「油脂加工澱粉組成物」と特定されているのに対し甲4物発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点4-8b>
本件特許発明8においては「油脂加工澱粉組成物を含有する、揚げ物衣材用ミックス粉」と特定されているのに対し、甲4物発明においては「油脂加工澱粉」と特定されている点。
イ 判断
相違点4-8aについて検討する。
甲4物発明は「油脂加工澱粉」に関する発明であるところ、上記(2)イのとおり、「油脂加工澱粉」には、ダマを生成しやすく、バッターを調整する際にはダマや分散ムラを生じやすいという問題があり、該問題を解決することは、「油脂加工澱粉」の技術分野において、周知の課題であり、「油脂加工澱粉」を製造する際に、「油脂加工澱粉」の物性を改善するために、澱粉に対する油脂及び乳化剤の量を調節することは、周知技術であるとしても、甲4には、甲4物発明において、相違点4-8aに係る本件特許発明8の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明8は「バッターを調製する際に、水分への分散性に優れ、ダマが出来難く、かつ揚げ種との結着性を良好にし、揚げ物の食感を良好にすることができる油脂加工澱粉組成物」「を含有する、揚げ物衣材用ミックス粉」「を提供することができる」という甲4物発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明8の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲4物発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(8)取消理由3及び申立理由5についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし8は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、取消理由3及び申立理由5によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由について
取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由は申立理由2(サポート要件)及び申立理由5(甲4ないし9に基づく進歩性)である。
申立理由5(甲4ないし9に基づく進歩性)については上記第6 3で検討したとおりである。
以下、申立理由2(サポート要件)について検討する。
1 サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
2 サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0006】によると、本件特許発明1及び2の解決しようとする課題は「バッターを調製する際に、水分への分散性に優れ、ダマが出来難く、かつ揚げ種との結着性を良好にし、揚げ物の食感を良好にすることができる油脂加工澱粉組成物」を提供することであり、本件特許発明3及び8の解決しようとする課題は該「油脂加工澱粉組成物」「を含有する」「揚げ物衣材用ミックス粉」を提供することであり、本件特許発明4の解決しようとする課題は該「油脂加工澱粉組成物」又は該「揚げ物衣材用ミックス粉」を「使用してなる」「揚げ物」を提供することであり、本件特許発明5の解決しようとする課題は該「油脂加工澱粉組成物」の「製造方法」を提供することであり、本件特許発明6の解決しようとする課題は該「揚げ物衣材用ミックス粉」の「製造方法」を提供することであり、本件特許発明7の解決しようとする課題は該「揚げ物」の「製造方法」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)。
そして、発明の詳細な説明の【0007】には「本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む油脂加工澱粉組成物において、油脂及び乳化剤の合計量に対する油脂の含有割合を特定の割合とし、油脂及び乳化剤の合計量を特定の量とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載され、同【0008】、【0011】、【0023】、【0031】、【0033】及び【0042】の【表1】の実施例の欄には、本件特許発明1ないし8に対応する記載がある。
また、発明の詳細な説明の【0035】ないし【0056】で、「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物であり、前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり、前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部である、油脂加工澱粉組成物」の条件を満たす実施例において、バッターを調製する際に、水分への分散性に優れ、ダマが出来難く、かつ揚げ種との結着性を良好にし、揚げ物の食感を良好にすることができることを確認している。
そうすると、発明の詳細な説明の記載により当業者は「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物であり、前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり、前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部である、油脂加工澱粉組成物」、該「油脂加工澱粉組成物」「を含有する」「揚げ物衣材用ミックス粉」、該「油脂加工澱粉組成物」又は該「揚げ物衣材用ミックス粉」を「使用してなる」「揚げ物」、該「油脂加工澱粉組成物」の「製造方法」、該「揚げ物衣材用ミックス粉」の「製造方法」及び該「揚げ物」の「製造方法」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1及び2は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「油脂加工澱粉組成物」をさらに限定したものであり、本件特許発明3及び8は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「揚げ物衣材用ミックス粉」をさらに限定したものであり、本件特許発明4は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「揚げ物」をさらに限定したものであり、本件特許発明5は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「油脂加工澱粉組成物」の「製造方法」をさらに限定したものであり、本件特許発明6は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「揚げ物衣材用ミックス粉」の「製造方法」をさらに限定したものであり、本件特許発明7は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「揚げ物」の「製造方法」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし8は発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
よって、本件特許発明1ないし8に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
3 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の特許異議申立書における主張(上記第4 2(1)及び(2))及び令和7年12月24日に提出された意見書における主張について検討する。
(1)特許異議申立書における主張について
ア 上記第4 2(1)について
発明の詳細な説明において、「実施例で製造、使用した油脂加工澱粉組成物のような、油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤からなり、かつ油脂-乳化剤混合物を得た後、直ちに油脂加工澱粉と撹拌混合することで得られたもの」でしか発明の課題を解決できることを確認していないとしても、上記2のとおりであるから、発明の詳細な説明の記載により当業者は「油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物であり、前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり、前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部である、油脂加工澱粉組成物」であれば、実施例以外のものであっても、程度の差はあれ、発明の課題を解決できると当業者は理解する。
また、発明の詳細な説明に記載された実施例以外の場合に、発明の課題を解決できないことを示す具体的な証拠が提示されている訳でもない。
したがって、上記第4 2(1)における主張は採用できない。
イ 上記第4 2(2)について
発明の課題を解決できているかどうかは、比較例と比べて評価が高いかどうかで判断するものではない(なお、本件特許の場合は、比較例はいずれも、「水分への分散性に優れ、ダマが出来難く」という課題の点で発明の課題を解決できていない。)。
したがって、実施例で製造し、使用した油脂加工澱粉組成物(実施例3及び24ないし27)がその原料の油脂加工澱粉(比較例1及び7ないし10)と比べて、評価例2の食感及び評価例3の結着性については、かえって評価が低下しており、また、表2ないし5に示される実施例のいずれも、原料の油脂加工澱粉(比較例1)と比べて、評価例2及び3の評価は向上していないとしても、比較例と比べることで、発明の課題を解決できていないとはいえない。
なお、実施例3及び24ないし27や表2ないし5に示される実施例においていずれも、評価例2及び3の評価は、比較例1及び7ないし10より低下しているとしても、十分高く、上記2のとおりであるから、「揚げ種との結着性を良好にし、揚げ物の食感を良好にすることができ」という課題は解決できると当業者は理解する。
よって、上記第4 2(2)における主張は採用できない。
(2)令和7年12月24日に提出された意見書における主張について
特許異議申立人の令和7年12月24日に提出された意見書における主張は、要するに次のとおりである(上記意見書第9及び10ページ)。
・「油脂加工澱粉、油脂、及び乳化剤が全く別々の粒として存在する」という構成(構成1)について発明の課題を解決できることを証明する実施例が存在せず、「油脂加工澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着した粒体」という構成(構成2)については、その範囲全体にわたって、常に発明の課題を解決できると認めることはできない(以下、「主張3」という。)。
・本件特許発明1ないし4及び8は、油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤以外の成分を任意の量で包含し得るものであるが、油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤以外の成分をいかなる量で含有する油脂加工澱粉組成物であっても、必ず発明の課題を解決できることは示されていない(以下、「主張4」という。)。
・発明の詳細な説明の実施例において、本件特許発明1ないし8において解決できることが確認された課題は、油脂加工澱粉組成物の水分への分散性の向上のみであり、衣の食感や結着性の課題を本件特許発明1ないし8が解決できることは示されていない(以下、「主張5」という。)。
そこで、検討する。
(ア)主張3について
構成1の場合でも、バッターとした場合には、構成2のように油脂加工澱粉の表面に油脂及び乳化剤が付着するので、程度の差はあれ、発明の課題を解決できると当業者は理解する。
また、構成1の場合には、発明の課題を解決できないことを示す具体的な証拠が提示されている訳でもない。
したがって、主張3は採用できない。
(イ)主張4について
油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤以外の成分をいかなる量で包含したとしても、程度の差はあれ、発明の課題を解決できると当業者は理解する。
また、油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤以外の成分が特定の含有量の場合には、発明の課題を解決できないことを示す具体的な証拠が提示されている訳でもない。
したがって、主張4は採用できない。
(ウ)主張5について
主張5については、上記(1)イと同様であり、採用できない。
4 申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由2によっては取り消すことはできない。
第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700524