特許異議申立
2025-701040
組成物、硬化体及び有機EL表示装置
- 審判番号
- 2025-701040
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-511425
- 登録番号
- 7671842
- 請求日
- 2025年11月04日
- 審決日
- 2026年06月16日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人創英
- 【権利者代理人】吉住 和之
- 【権利者代理人】佐々木 善紀
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【異議申立人】吉川 雅也
- 審判長/審判官
- 審判長 辰己 雅夫
- 審判官 加藤 幹
- 審判官 藤井 勲
- 分類
- P1651.113-YAA(C08F) / P1651.121-YAA(C08F) / P1651.537-YAA(C08F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7671842号発明「組成物、硬化体及び有機EL表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7671842号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~16〕について訂正することを認める。
特許第7671842号の請求項1~16に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7671842号に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和4年3月29日(優先権主張 令和3年3月31日)を国際出願日とする特願2023-511425号であって、令和7年4月23日にその特許権の設定登録(請求項の数16)がされ、同年5月2日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和7年11月4日に、本件特許の全請求項(請求項1~16)に係る特許を対象として、特許異議申立人 吉川 雅也(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
その後の手続は以下のとおりである。
令和 8年 1月21日付け 取消理由通知
同年 3月24日 訂正請求書、意見書(特許権者)の提出
同年 4月 9日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 5月15日 意見書(申立人)の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
(1)訂正請求の趣旨
令和8年3月24日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は、「特許第7671842号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~16に訂正することを求める。」ことを請求の趣旨とするものである。
(2)訂正事項
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「である、組成物」とあるのを、「であり、前記光重合開始剤の含有量が、前記重合性化合物100質量部に対して0.01~3質量部である、組成物」と訂正する(訂正箇所には当審合議体が下線を付した。以下同じ。)。
イ 特許請求の範囲の請求項13に「前記光重合開始剤の含有量が、前記重合性化合物100質量部に対して0.3質量部以上であり」とあるのを、「前記光重合開始剤の含有量が、前記重合性化合物100質量部に対して0.3質量部以上3質量部以下であり」と訂正する。
(3)一群の請求項
訂正前の請求項1~12及び14~16について、訂正前の請求項2~12及び14~16は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。そのため、訂正前の請求項1~12及び14~16に対応する訂正後の請求項1~12及び14~16は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項13~16について、訂正前の請求項14~16は訂正前の請求項13を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項13に連動して訂正されるものである。そのため、訂正前の請求項13~16に対応する訂正後の請求項13~16は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして、上記各一群の請求項はいずれも訂正前の請求項14~16を含むから、特許法施行規則第45条の4の規定により、これら各一群の請求項が組み合わされて一群の請求項を構成する。そのため、訂正前の請求項1~16に対応する訂正後の請求項1~16は一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は一群の請求項ごとにするものである。
2 訂正事項の検討
(1)訂正事項1
訂正事項1による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落0066の記載に基づいて、訂正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「光重合開始剤」について、その「含有量」を「重合性化合物100質量部に対して0.01~3質量部」に限定するものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
訂正事項2による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落0066の記載に基づいて、訂正前の請求項13に係る発明を特定するために必要な事項である「光重合開始剤の含有量」を、その上限を特定することで「重合性化合物100質量部に対して0.3~3質量部」に限定するものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、本件訂正請求による訂正は特許異議の申立てがされている請求項である訂正前の請求項1~16に係るものであるから、これに対応する訂正後の請求項1~16に係る発明に、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正請求による訂正は適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~16〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正請求による訂正が認められたため、本件特許の請求項1~16に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明16」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件特許の願書に添付された本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)の請求項1~16に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
脂環式エポキシ化合物及び非環式エポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性化合物と、
球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子と、
光重合開始剤と、
を含有し、
前記無機微粒子の含有量が30体積%以上であり、
アルミ箔で側面及び下部を被覆した内径4mm、深さ8mmのウレタンチューブに充填し、80℃のホットプレート上でチューブ上部から波長365nmのLED光源にて、照射量600mJ/cm2の紫外光を照射し、80℃で30分静置したときの硬化深度が、100μm以上であり、
前記光重合開始剤の含有量が、前記重合性化合物100質量部に対して0.01~3質量部である、
組成物。
【請求項2】
前記無機微粒子が、前記重合性化合物の重合体の屈折率n1との差の絶対値(|n1-n2|)が0.5以下となる屈折率n2を有する無機微粒子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記無機微粒子の屈折率n2が1.4以上である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記無機微粒子の平均円形度が0.7以上1.0以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記無機微粒子が、球状シリカ及び球状アルミナからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
厚さ100μmあたりの全光線透過率T0(%)と全光線反射率R0(%)との和(T0+R0)が、50%以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記光重合開始剤が、下記式(1)で表される化合物を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【化1】
[図:0001439229000001.jpg]
[式(1)中、R1は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基を示し、X-は一価のアニオンを示す。複数存在するR1は互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項8】
下記式(2)で表される光増感剤を更に含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【化2】
[図:0001439229000002.jpg]
[式(2)中、R2は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。複数存在するR2は互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項9】
JIS Z0208に準拠して、温度85℃、相対湿度85%の条件下で測定される厚さ100μmあたり透湿度が100g/(m2・24時間)以下の硬化体を形成するための組成物である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
温度85℃、相対湿度85%、24時間での吸水率が3%以下の硬化体を形成するための組成物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
有機EL表示素子用封止剤である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
ダム・フィル方式のダム形成用封止剤である、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
脂環式エポキシ化合物及び非環式エポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性化合物と、
前記重合性化合物の重合体の屈折率n1との差の絶対値(|n1-n2|)が0.5以下となる屈折率n2を有する、球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子と、
光重合開始剤と、
を含有し、
前記無機微粒子の含有量が30体積%以上であり、
前記光重合開始剤の含有量が、前記重合性化合物100質量部に対して0.3質量部以上3質量部以下であり、
前記無機微粒子の平均円形度が0.7以上1.0以下である、組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物の硬化体。
【請求項15】
有機EL表示素子と、
前記有機EL表示素子を封止する、ダム及びフィル剤からなる封止構造と、
を備え、
前記ダムが、請求項14に記載の硬化体を含む、有機EL表示装置。
【請求項16】
有機ELテレビである、請求項15に記載の有機EL表示装置。」
第4 特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書に記載された取消理由並びに証拠方法
1 特許異議申立書に記載された申立理由
(1)申立理由1(甲第1号証を主引用例とする新規性、進歩性)
本件発明1~7、9、10、13及び14は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する。
また、本件発明1~10、13及び14は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1~10、13及び14についての特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲第4号証を主引用例とする新規性、進歩性)
本件発明1~7、9、10、13及び14は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する。
また、本件発明1~10、13及び14は、甲第4号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1~10、13及び14についての特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件発明1~16は、以下のとおり発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合しない。
本件発明1~12:出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明には800μmを超える硬化深度の数値の範囲内にある組成物についてまで課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、発明の詳細な説明において開示された内容を請求項に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
本件発明13~16:出願時の技術常識に照らしても、無機微粒子の平均粒子径が所定値以下であっても課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、発明の詳細な説明において開示された内容を請求項に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、本件発明1~16についての特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由通知書に記載された取消理由
(1)甲第1号証を主引用例とする新規性、進歩性
本件発明1~7、9、10、13及び14は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する。
また、本件発明1~10、13及び14は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1~10、13及び14についての特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)甲第4号証を主引用例とする新規性、進歩性
本件発明1~7、9、10、13及び14は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する。
また、本件発明1~10、13及び14は、甲第4号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1~10、13及び14についての特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)甲第5号証を主引用例とする新規性、進歩性
本件発明1~7、9、10、13及び14は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第5号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する。
また、本件発明1~10、13及び14は、甲第5号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1~10、13及び14についての特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 証拠方法
(1)特許異議申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証:特開平9-80251号公報
甲第2号証:後藤雅治,環境負荷を軽減したエポキシ系接着剤の開発,エレクトロニクス実装学術講演大会講演論文集,30巻,第30回エレクトロニクス実装学術講演大会,2016年,86-88頁,URL:https://doi.org/10.11486/ejisso.30.0_86
甲第3号証:特開2019-70120号公報
甲第4号証:特開2004-339263号公報
甲第5号証:特開平9-176606号公報
甲第6号証:特開平11-116934号公報
甲第7号証:特開平11-181390号公報
甲第8号証:特開平11-199651号公報
甲第9号証:特開2004-339262号公報
甲第10号証:特開2009-215329号公報
甲第11号証:特開2016-94509号公報
甲第12号証:特開2017-75205号公報
甲第13号証:特開2019-19286号公報
甲第14号証:特開2019-73574号公報
甲第15号証:特開2020-26475号公報
(2)令和8年5月15日に申立人から提出された意見書に添付して提出された証拠方法
甲第16号証:伊達雅志,活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス 63 光酸発生剤,三洋化成ニュース,No.438,2006年
甲第17号証:Jiro Yamamoto et al.,RENEWED TRIARYLSULFONIUM SALTS AS CATIONIC PHOTO-INITIATORS,RadTech Asia '03,2003年,p.200-203 及び抄訳
甲第18号証:J.V.CRIVELLO and J.H.W.LAM,The Photoinitiated Cationic Polymerization of Epoxy Resins,Epoxy Resin Chemistry,1979年,p.1-16,https://pubs.acs.org/doi/10.1021/bk-1979-0114.ch001 及び抄訳
以下「甲第1号証」等を「甲1」等という。
(3)令和8年3月24日に特許権者から提出された意見書に添付して提出された証拠方法
参考文献1:J.H.Lee et al.,Cure depth in photopolymerization: Experiments and theory,Journal of Materials Research,Vol.16,No.12,2001年,p.3536-3544 及び抄訳
以下「参考文献1」を「乙1」という。
(4)令和8年1月21日付けの取消理由通知において当審合議体が職権で採用し提示した証拠方法
参考1:村田貴士企画編集,(高・低)屈折率材料の作製と屈折率制御技術,技術情報協会,2014年,241~247頁,267~272頁,445~450頁
参考2:日本化学工業株式会社,シルスターN(半導体封止材用フィラー),CREATVE,4号,2003年,98-99頁,URL:https://www.nippon-chem.co.jp/research_development/creative.html,https://www.nippon-chem.co.jp/dcms_media/other/cre2003-12.pdf
参考3:1,4-Bis(2',3'-epoxypropyl)perfluorobutane,ChemicalBook,CAS:791-22-0,URL:https://www.chemicalbook.com/ProductChemicalPropertiesCB3426742_EN.htm
参考4:石原産業株式会社Webサイト,TOP > 製品情報 > 機能性材料:高純度酸化チタン,URL:https://www.iskweb.co.jp/products/functional06.html
参考5:国際公開第2019/208615号
参考6:2,2'-hexane-1,6-diylbisoxirane,ChemicalBook,CAS:24854-67-9,URL:https://www.chemicalbook.com/ProductChemicalPropertiesCB5896389_EN.htm
以下「参考1」等を「参1」等という。
第5 当審の判断
1 判断の大要
当審合議体は、本件発明1~16についての特許は特許異議申立書に記載された申立理由1~3又は取消理由通知書に記載された取消理由によっては取り消されるべきものではないと判断する。そして、そのように判断する理由は以下のとおりである。
2 甲1を主引用例とする新規性、進歩性及びこれと同旨の申立理由1について
(1)甲1に記載された発明
甲1(段落0011及び0012)に記載された実施例1に係る接着剤に着目すると、甲1には
「ダイセル化学工業製脂環式エポキシ(セロキサイド2021)30重量%、1,6-ヘキサンジオール2重量%、旭電化工業製光カチオン硬化触媒(SP150)1.5重量%、平均粒径6ミクロンで70ミクロン以上の粗粒子をカットした溶融球状シリカA56.5重量%、平均粒径12ミクロンで70ミクロン以上の粗粒子をカットした溶融破砕状シリカB10.0重量%を配合し、3本ロールで10分混練して得た、接着剤。」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者の構成の対応は以下のとおりとなる。
(a)甲1発明における「ダイセル化学工業製脂環式エポキシ(セロキサイド2021)」は、本件発明1における「脂環式エポキシ化合物」である「重合性化合物」に相当する。
(b)甲1発明における「溶融球状シリカA」は、平均粒径が6ミクロンである点で微粒子であるといえるから、本件発明1における「球状シリカ」である「無機微粒子」に相当する。
(c)甲1発明における「旭電化工業製光カチオン硬化触媒(SP150)」は、甲1の段落0006の記載を踏まえるとダイセル化学工業製脂環式エポキシ(セロキサイド2021)を硬化させるものであるといえるから、本件発明1における「光重合開始剤」に相当する。
(d)甲1発明における「接着剤」は、配合した各成分を混練したものであるから、本件発明1における「組成物」に相当する。
(e)甲1発明における「溶融破砕状シリカB」は、無機微粒子ではあるが、破砕したものである点で球状ではないといえるから、本件発明1における「球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子」に相当しない。
イ 一致点、相違点
上記アから、本件発明1と甲1発明とは、
「脂環式エポキシ化合物及び非環式エポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性化合物と、
球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子と、
光重合開始剤と、
を含有する、
組成物。」
という点で一致し、
(相違点1-1)組成物における球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子の含有量が、本件発明1は30体積%以上であるのに対し、甲1発明は56.5重量%である点
(相違点1-2)組成物の、アルミ箔で側面及び下部を被覆した内径4mm、深さ8mmのウレタンチューブに充填し、80℃のホットプレート上でチューブ上部から波長365nmのLED光源にて、照射量600mJ/cm2の紫外光を照射し、80℃で30分静置したときの硬化深度(以下「本件硬化深度」という。)が、本件発明1は100μm以上であるのに対し、甲1発明は不明である点
(相違点1-3)光重合開始剤の含有量が、本件発明1は重合性化合物100質量部に対して0.01~3質量部であるのに対し、甲1発明は組成物に対して1.5重量%である点
で相違する。
ウ 相違点について
事案に鑑み、相違点1-3から検討する。
上記ア(a)及び(c)で指摘したとおり、甲1発明における「ダイセル化学工業製脂環式エポキシ(セロキサイド2021)」及び「旭電化工業製光カチオン硬化触媒(SP150)」は、それぞれ本件発明1における「重合性化合物」及び「光重合開始剤」に相当する。そして、甲1発明における上記セロキサイド2021及びSP150の含有量はそれぞれ30重量%及び1.5重量%であるから、前者100質量部に対する後者の含有量は
(1.5/30)×100=5(質量部)
である。
そうすると、甲1発明は、組成物における光重合開始剤の含有量が重合性化合物100質量部に対して5質量部であるといえる。そのため、相違点1-3は実質的な相違点である。
そこで、この実質的な相違点についてさらに検討する。
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、樹脂材料と比較して透湿性が低い無機微粒子の組成物への含有量を多くすると硬化体中の未反応モノマーの量が増加する傾向があるが、組成物が100μm以上の本件硬化深度を有すると封止時の光照射によって未反応モノマーが十分に低減され未反応モノマーに起因する防湿性及び信頼性の低下が抑制されることから、十分な無機微粒子を配合しつつ所定の本件硬化深度を有する組成物とすることで、優れた防湿性及び長期信頼性が実現される旨(段落0012~0014)が記載されている。また、本件発明1の構成を備える組成物の硬化体は透湿率及び吸湿率が低く、本件発明1の構成を備える組成物を封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性も良好であった旨(段落0130~0135)も記載されている。
一方、甲1には、甲1発明は応力が低減され、温度サイクル試験でクラックや剥離が発生せず、温度サイクル試験後の接着力もきわめて高い光学部品固定用接着剤である旨が記載されているが(請求項1、段落0005及び0011~0015)、甲1発明の硬化体に未反応モノマーが残存することや、硬化体の透湿率や吸湿率が高いこと、硬化体の硬化状態や耐温耐湿性が不良であることをうかがわせる記載はない。
また、乙1からは光ラジカル重合開始剤の含有量を増やせば硬化深度が浅くなることもあれば深くなることもある旨を看取でき(3539頁の図4及び抄訳)、甲16からは光カチオン重合開始剤の含有量を増やせば塗膜硬度が増加することもあればほとんど変化しないこともある旨を看取できる(3頁の図5)ことを踏まえると、光硬化性組成物における光重合開始剤の含有量がその光硬化性組成物の硬化深度や塗膜硬度といった広義の硬化性に影響を与え得ることは本件優先日当時の技術常識であったものの、光重合開始剤の増減により硬化性が具体的にどのようになるのかを予測することは容易ではなかったことがうかがわれる。
この点、甲1には、甲1発明における光カチオン硬化触媒について、トリアリールスルホニウム塩が広く使用されており、他にもヨードニウム塩、ジアゾニウム塩が公知である旨及び熱カチオン硬化触媒を用いてもよい旨が記載されているにとどまり(段落0008)、甲1発明における光カチオン硬化触媒である「旭電化工業製光カチオン硬化触媒(SP150)」の含有量をどのような観点からどの程度とすればよいのかということや、その増減により硬化性が具体的にどのようになるのかということは記載も示唆もされていない。
さらに、甲1発明における光カチオン硬化触媒の増減により硬化性が具体的にどのようになるのかは当業者に自明であったとする根拠は、甲2~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらない。
したがって、当業者であれば甲1発明における光カチオン硬化触媒の含有量を減らそうとする根拠は、甲1~甲18、乙1又は参1~参6の記載にも本件優先日当時の技術常識にも見出せない。
そうすると、甲1発明において光カチオン硬化触媒の含有量を減らして相違点1-3に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、相違点1-1及び相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1の構成が甲1発明から当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
エ 効果について
本件明細書には、樹脂材料と比較して透湿性が低い無機微粒子の組成物への含有量を多くすると硬化体中の未反応モノマーの量が増加する傾向があるが、組成物が100μm以上の本件硬化深度を有すると封止時の光照射によって未反応モノマーが十分に低減され未反応モノマーに起因する防湿性及び信頼性の低下が抑制されることから、十分な無機微粒子を配合しつつ所定の本件硬化深度を有する組成物とすることで、優れた防湿性及び長期信頼性が実現される旨(段落0012~0014)が記載されている。また、本件発明1の構成を備える組成物の硬化体は透湿率及び吸湿率が低く、本件発明1の構成を備える組成物を封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性も良好であった旨(段落0130~0135)も記載されている。
したがって、本件発明1は、硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好であるという効果を奏するといえる。
そして、光硬化性組成物における光重合開始剤の含有量がその光硬化性組成物の硬化深度や塗膜硬度といった広義の硬化性に影響を与え得ることは本件優先日当時の技術常識であったものの、光重合開始剤の増減により硬化性が具体的にどのようになるのかを予測することは容易ではなかったことがうかがわれることを踏まえると(上記ウ)、本件発明1の構成と、硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好であるという本件発明1の上記効果との関係は明らかであるとする根拠は、甲1~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらないといえる。同様に、甲1発明が本件発明1と同等あるいはそれ以上に硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好であるという効果を奏するとする根拠も、甲1~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらないといえる。
したがって、本件発明1の上記効果は、甲1発明との関係において、本件発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるといえる。
オ 本件発明1についてのまとめ
以上から、本件発明1は甲1発明ではない。また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件発明13について
ア 対比
上記(2)アを参考に本件発明13と甲1発明とを対比すると、本件発明13と甲1発明とは、
「脂環式エポキシ化合物及び非環式エポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性化合物と、
球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子と、
光重合開始剤と、
を含有する、
組成物。」
という点で一致し、
(相違点1-4)球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子の屈折率n2と、重合性化合物の重合体の屈折率n1との差の絶対値(|n1-n2|)が、本件発明13は0.5以下であるのに対し、甲1発明は不明である点
(相違点1-5)組成物における球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子の含有量が、本件発明13は30体積%以上であるのに対し、甲1発明は56.5重量%である点
(相違点1-6)球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子の平均円形度が、本件発明13は0.7以上であるのに対し、甲1発明は不明である点
(相違点1-7)光重合開始剤の含有量が、本件発明13は重合性化合物100質量部に対して0.3~3質量部であるのに対し、甲1発明は組成物に対して1.5重量%である点
で相違する。
イ 相違点について
事案に鑑み、相違点1-7から検討する。
上記(2)ウで検討したとおり、甲1発明は、組成物における光重合開始剤の含有量が重合性化合物100質量部に対して5質量部であるといえる。そのため、相違点1-7は実質的な相違点である。
そこで、この実質的な相違点についてさらに検討する。
本件明細書には、無機粒子の平均円形度が高いと組成物が好適な本件硬化深度を有しやすくなる傾向がある旨(段落0067及び0068)、重合性化合物の重合体の屈折率n1と無機微粒子の屈折率n2との差の絶対値が小さいと組成物が好適な本件硬化深度を有しやすくなる傾向がある旨(段落0070)に加えて、上記(2)ウで指摘した事項が記載されている。
また、上記(2)ウで検討したとおり、当業者であれば甲1発明における光カチオン硬化触媒の含有量を減らそうとする根拠は、甲1~甲18、乙1又は参1~参6の記載にも本件優先日当時の技術常識にも見出せない。
そうすると、甲1発明において光カチオン硬化触媒の含有量を減らして相違点1-7に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、相違点1-4~相違点1-6について検討するまでもなく、本件発明13の構成が甲1発明から当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
ウ 効果について
本件明細書には、無機粒子の平均円形度が高いと組成物が好適な本件硬化深度を有しやすくなる傾向がある旨(段落0067及び0068)、重合性化合物の重合体の屈折率n1と無機微粒子の屈折率n2との差の絶対値が小さいと組成物が好適な本件硬化深度を有しやすくなる傾向がある旨(段落0070)に加えて、上記(2)エで指摘した事項が記載されている。
したがって、本件発明13は、硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好であるという効果を奏するといえる。
そして、光硬化性組成物における光重合開始剤の含有量がその光硬化性組成物の硬化深度や塗膜硬度といった広義の硬化性に影響を与え得ることは本件優先日当時の技術常識であったものの、光重合開始剤の増減により硬化性が具体的にどのようになるのかを予測することは容易ではなかったことがうかがわれることを踏まえると(上記(2)ウ)、本件発明13の構成と、硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好であるという本件発明13の上記効果との関係は明らかであるとする根拠は、甲1~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらないといえる。同様に、甲1発明が本件発明1と同等あるいはそれ以上に硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好であるという効果を奏するとする根拠も、甲1~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらないといえる。
したがって、本件発明13の上記効果は、甲1発明との関係において、本件発明13の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるといえる。
エ 本件発明13についてのまとめ
以上から、本件発明13は甲1発明ではない。また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件発明2~12及び14~16について
本件発明2~12及び14~16は、上記第3のとおり、本件特許請求の範囲の請求項1又は13を引用し本件発明1の構成又は本件発明13の構成をすべて備えるものである。
そうすると、本件発明2~12及び14~16と甲1発明とは相違点1-3又は相違点1-7において少なくとも相違する。そして、相違点1-3及び相違点1-7についての判断は上記(2)及び(3)で検討したとおりである。
したがって、上記(2)又は(3)と同様に、本件発明2~12及び14~16は甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)申立人の主張について
令和8年5月15日に提出した意見書において申立人は、重合性化合物100質量部に対して0.01~3質量部という光重合開始剤の含有量について、(ア)一般に、光重合開始剤の含有量は目的とする重合反応に必要かつ低量の範囲内で適宜選択すればよいことは自明であり、0.01~3質量部という含有量はその目的で調整する範囲内に過ぎない旨及び(イ)重合反応後には不純物となる光重合開始剤を目的とする重合反応に必要かつ低量の範囲内で適宜選択することは、極めて自明であり、少なくとも周知である旨主張し、その効果について、(ウ)本件明細書では、光重合開始剤の含有量の上限を規定することの技術的意義は「より長期保管における信頼性に優れた封止材を形成できる」ことであると説明されているが、これは単に不純物となる光重合開始剤が封止剤中に残存する不都合を低減するという自明な意義を述べたものに過ぎず、当業者にとって当然予測可能な範囲のものである旨主張する(意見書2~4頁)。
しかし、上記主張(ア)及び主張(イ)について、そもそも甲1発明における接着剤全体に対して1.5重量%という光カチオン硬化触媒の含有量が必要かつ低量の範囲を逸脱するものであるかどうかや、これを重合性化合物に対して0.01~3重量%に変更した結果が必要かつ低量の範囲内にあるかどうかは明らかではない。したがって、上記主張(ア)及び主張(イ)は採用できない。
また、上記主張(ウ)は、硬化前の組成物の長期保管における信頼性についてのものであるが、本件発明の効果は「硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好である」というものであるから(上記(2)エ及び(3)ウ)、上記主張(ウ)によって本件発明の効果の非予測性、顕著性が否定されるものではない。
さらに、上記意見書において申立人は、上記相違点1-2は実質的な相違点ではない旨主張するが(意見書5頁)、上記(2)ウ及び(3)イで説示したとおりであるから、この主張によって本件発明の進歩性が否定されるものではない。
(6)取消理由1及びこれと同旨の申立理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~16は甲1発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
3 甲4を主引用例とする新規性、進歩性及びこれと同旨の申立理由2について
(1)甲4に記載された発明
甲4には、「部」は重量部の意味である旨が記載されている(段落0019)。また、甲4の各実施例に共通して配合される樹脂はエポキシ樹脂3のみであることから、甲4の段落0039の「下記の表1~表2に示す割合で、予め球状シリカ粉末をエポキシ樹脂2(脂環式エポキシ樹脂)に配合して分散させた」という記載の「エポキシ樹脂2(脂環式エポキシ樹脂)」は誤記で正しくは「エポキシ樹脂3(脂環式エポキシ樹脂)」であることは当業者に明らかである。
これらのことを踏まえて、甲4(段落0028~0040)に記載された実施例4に係る紫外線硬化型エポキシ樹脂組成物に着目すると、甲4には、
「予め50重量部の以下の球状シリカ粉末Bを、20重量部の以下のエポキシ樹脂3(脂環式エポキシ樹脂)に配合して分散(条件:50℃×30分)させ、この分散物に残りの配合成分(30重量部の以下のエポキシ樹脂2、4重量部の以下の光重合開始剤、1重量部の以下の酸化防止剤、0.02重量部の消泡剤及び1重量部の以下のカップリング剤)を配合し溶融混合(条件:50℃×30分)した後、室温に冷却することにより作製した、紫外線硬化型エポキシ樹脂組成物。
〔エポキシ樹脂2〕下記の式(b)で表されるエポキシ樹脂
[図:0001439229000003.jpg]
〔エポキシ樹脂3〕下記の式(c)で表される脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学社製、セロキサイド2021P:3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)
[図:0001439229000004.jpg]
〔球状シリカ粉末B〕平均粒径0.5μmで粒径5μm以上の粒子を含まない球状シリカ粉末(アドマテックス社製、SE2050)
〔光重合開始剤〕スルホニウム・ヘキサフロロアンチモン系重合開始剤(旭電化社製、SP-170)
〔酸化防止剤〕HCA(三光化学社製)
〔カップリング剤〕γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」
の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、両者の構成の対応は以下のとおりとなる。なお、甲4発明における化学式は省略した。
(a)甲4発明における「〔エポキシ樹脂3〕下記の式(c)で表される脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学社製、セロキサイド2021P:3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート」は、本件発明1における「脂環式エポキシ化合物」である「重合性化合物」に相当する。
(b)甲4発明における「〔エポキシ樹脂2〕下記の式(b)で表されるエポキシ樹脂」は、エポキシ基を2つ有する点で重合性の化合物であるといえるから、本件発明1における「非環式エポキシ化合物」である「重合性化合物」に相当する。
(c)甲4発明における「〔球状シリカ粉末B〕平均粒径0.5μmで粒径5μm以上の粒子を含まない球状シリカ粉末(アドマテックス社製、SE2050)」は、平均粒径0.5μmである点で微粒子であるといえるから、本件発明1における「球状シリカ」である「無機微粒子」に相当する。
(d)甲4発明における「〔光重合開始剤〕スルホニウム・ヘキサフロロアンチモン系重合開始剤(旭電化社製、SP-170)」は、本件発明1における「光重合開始剤」に相当する。
(e)甲4発明における「紫外線硬化型エポキシ樹脂組成物」は、本件発明1における「組成物」に相当する。
イ 一致点、相違点
上記アから、本件発明1と甲4発明とは、
「脂環式エポキシ化合物及び非環式エポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性化合物と、
球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子と、
光重合開始剤と、
を含有する、
組成物。」
という点で一致し、
(相違点4-1)組成物における、球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子の含有量が、本件発明1は30体積%以上であるのに対し、甲4発明は組成物106.02(=50+20+30+4+1+0.02+1)重量部に対して50重量部である点
(相違点4-2)組成物の本件硬化深度が、本件発明1は100μm以上であるのに対し、甲4発明は不明である点
(相違点4-3)光重合開始剤の含有量が、本件発明1は重合性化合物100質量部に対して0.01~3質量部であるのに対し、甲4発明は組成物106.02重量部に対して4重量部である点
で相違する。
ウ 相違点について
事案に鑑み、相違点4-3から検討する。
上記ア(a)、(b)及び(d)で指摘したとおり、甲4発明における「エポキシ樹脂3」及び「エポキシ樹脂2」は、いずれも本件発明1における「重合性化合物」に相当し、甲4発明における「光重合開始剤」は本件発明1における「光重合開始剤」に相当する。そして、甲4発明における上記エポキシ樹脂3、エポキシ樹脂2及び光重合開始剤の含有量はそれぞれ20重量部、30重量部及び4重量部であるから、前者100質量部に対する後者の含有量は
(4/(20+30))×100=8(質量部)
である。
そうすると、甲4発明は、組成物における光重合開始剤の含有量が重合性化合物100質量部に対して8質量部であるといえる。そのため、相違点4-3は実質的な相違点である。
そこで、この実質的な相違点についてさらに検討する。
本件明細書には、上記2(2)ウで指摘した事項が記載されている。
一方、甲4には、甲4発明は高温高湿条件下でも安定した接着力を有するとともに、低線膨張係数で寸法安定性が高い樹脂組成物からなる紫外線硬化型エポキシ樹脂組成物である旨(請求項1、段落0007及び0042~0052)及び光重合開始剤の含有量はエポキシ樹脂及び特定の球状シリカ粉末の合計量100重量部に対して1~15重量部に設定することが好ましい旨(段落0019)が記載されているが、甲4発明の硬化体に未反応モノマーが残存することや、硬化体の透湿率や吸湿率が高いこと、硬化体の硬化状態や耐温耐湿性が不良であることをうかがわせる記載はない。
また、上記2(2)ウで指摘したとおり、光硬化性組成物における光重合開始剤の含有量がその光硬化性組成物の硬化深度や塗膜硬度といった広義の硬化性に影響を与え得ることは本件優先日当時の技術常識であったものの、光重合開始剤の増減により硬化性が具体的にどのようになるのかを予測することは容易ではなかったことがうかがわれる。
この点、甲4には、甲4発明における光重合開始剤について、芳香族スルホニウム塩が好ましく、特に芳香族スルホニウム・ヘキサフロロホスホニウム化合物、芳香族スルホニウム・ヘキサフロロアンチモネート化合物又はその両者の併用が硬化性、接着性等の観点から好ましく、その好ましい含有量は上記のとおりである旨が記載されているにとどまり(段落0018及び0019)、甲4発明における光重合開始剤である「スルホニウム・ヘキサフロロアンチモン系重合開始剤(旭電化社製、SP-170)」の含有量をどのような観点からどの程度とすればよいのかということや、その増減により硬化性が具体的にどのようになるのかということは記載も示唆もされていない。
さらに、甲4発明における光重合開始剤の増減により硬化性が具体的にどのようになるのかは当業者に自明であったとする根拠は、甲1~3及び甲5~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらない。
したがって、当業者であれば甲4発明における光重合開始剤の含有量を減らそうとする根拠は、甲1~甲18、乙1又は参1~参6の記載にも本件優先日当時の技術常識にも見出せない。
そうすると、甲4発明において光重合開始剤の含有量を減らして相違点4-3に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、相違点4-1及び相違点4-2について検討するまでもなく、本件発明1の構成が甲4発明から当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
エ 効果について
本件発明1は、硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好であるという効果を奏するといえる(上記2(2)エ)。
そして、光硬化性組成物における光重合開始剤の含有量がその光硬化性組成物の硬化深度や塗膜硬度といった広義の硬化性に影響を与え得ることは本件優先日当時の技術常識であったものの、光重合開始剤の増減により硬化性が具体的にどのようになるのかを予測することは容易ではなかったことがうかがわれることを踏まえると(上記2(2)ウ)、本件発明1の構成と本件発明1の上記効果との関係は明らかであるとする根拠は、甲1~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらないといえる(上記2(2)エ)。同様に、甲4発明が本件発明1と同等あるいはそれ以上に硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好であるという効果を奏するとする根拠も、甲1~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらないといえる。
したがって、本件発明1の上記効果は、甲4発明との関係において、本件発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるといえる。
オ 本件発明1についてのまとめ
以上から、本件発明1は甲4発明ではない。また、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件発明13について
ア 対比
上記(2)アを参考に本件発明13と甲4発明とを対比すると、本件発明13と甲4発明とは、
「脂環式エポキシ化合物及び非環式エポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性化合物と、
球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子と、
光重合開始剤と、
を含有する、
組成物。」
という点で一致し、
(相違点4-4)球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子の屈折率n2と、重合性化合物の重合体の屈折率n1との差の絶対値(|n1-n2|)が、本件発明13は0.5以下であるのに対し、甲4発明は不明である点
(相違点4-5)組成物における球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子の含有量が、本件発明4は30体積%以上であるのに対し、甲4発明は組成物106.02(=50+20+30+4+1+0.02+1)重量部に対して50重量部である点
(相違点4-6)球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子の平均円形度が、本件発明13は0.7以上であるのに対し、甲4発明は不明である点
(相違点4-7)光重合開始剤の含有量が、本件発明13は重合性化合物100質量部に対して0.3~3質量部であるのに対し、甲4発明は組成物106.02重量部に対して4重量部である点
で相違する。
イ 相違点について
事案に鑑み、相違点4-7から検討する。
上記(2)ウで検討したとおり、甲4発明は、組成物における光重合開始剤の含有量が重合性化合物100質量部に対して8質量部であるといえる。そのため、相違点4-7は実質的な相違点である。
そこで、この実質的な相違点についてさらに検討する。
本件明細書には、上記2(3)イで指摘した事項が記載されている。
また、上記(2)ウで検討したとおり、当業者であれば甲4発明における光重合開始剤の含有量を減らそうとする根拠は、甲1~甲18、乙1又は参1~参6の記載にも本件優先日当時の技術常識にも見出せない。
そうすると、甲4発明において光重合開始剤の含有量を減らして相違点4-7に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、相違点4-4~相違点4-6について検討するまでもなく、本件発明13の構成が甲4発明から当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
ウ 効果について
本件発明13は、硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好であるという効果を奏するといえる(上記2(3)ウ)。
そして、光硬化性組成物における光重合開始剤の含有量がその光硬化性組成物の硬化深度や塗膜硬度といった広義の硬化性に影響を与え得ることは本件優先日当時の技術常識であったものの、光重合開始剤の増減により硬化性が具体的にどのようになるのかを予測することは容易ではなかったことがうかがわれることを踏まえると(上記2(2)ウ)、本件発明13の構成と本件発明13の上記効果との関係は明らかであるとする根拠は、甲1~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらないといえる(上記2(2)エ)。同様に、甲4発明が本件発明13と同等あるいはそれ以上に硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好であるという効果を奏するとする根拠も、甲1~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらないといえる。
したがって、本件発明13の上記効果は、甲4発明との関係において、本件発明13の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるといえる。
エ 本件発明13についてのまとめ
以上から、本件発明13は甲4発明ではない。また、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件発明2~12及び14~16について
上記2(4)と同様に、本件発明2~12及び14~16と甲4発明とは相違点4-3又は相違点4-7において少なくとも相違する。そして、相違点4-3及び相違点4-7についての判断は上記(2)及び(3)で検討したとおりである。
したがって、上記(2)又は(3)と同様に、本件発明2~12及び14~16は甲4発明ではないし、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)申立人の主張について
申立人の主張は上記2(5)で指摘したとおりであり、これについての当審合議体の見解も上記2(5)で示したとおりである。
したがって、申立人の主張はいずれも採用できない。
(6)取消理由2及びこれと同旨の申立理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~16は甲4発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。また、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
4 甲5を主引用例とする新規性、進歩性について
(1)甲5に記載された発明
甲5(段落0014及び0016)に記載された実施例1に係る接着剤に着目すると、甲5には
「ダイセル化学工業製脂環式エポキシ(セロキサイド2021)30.0重量%、1,6-ヘキサンジオール2重量%、旭電化工業製光カチオン硬化触媒(SP-150)1.5重量%、平均粒径0.5μmである球状溶融シリカX10.0重量%、平均粒径6.0μmである球状溶融シリカY56.5重量%を配合し、3本ロールで10分間混練して得た、接着剤。」
の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているといえる。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲5発明とを対比すると、両者の構成の対応は以下のとおりとなる。
(a)甲5発明における「ダイセル化学工業製脂環式エポキシ(セロキサイド2021)」は、本件発明1における「脂環式エポキシ化合物」である「重合性化合物」に相当する。
(b)甲5発明における「球状溶融シリカX」及び「球状溶融シリカY」は、平均粒径がそれぞれ0.5μ及び6.0μmである点で微粒子であるといえるから、いずれも本件発明1における「球状シリカ」である「無機微粒子」に相当する。
(c)甲5発明における「旭電化工業製光カチオン硬化触媒(SP-150)」は、甲5の段落0005の記載を踏まえるとエポキシ樹脂を硬化させるものであるといえるから、本件発明1における「光重合開始剤」に相当する。
(d)甲5発明における「接着剤」は、配合した各成分を混練したものであるから、本件発明1における「組成物」に相当する。
イ 一致点、相違点
上記アから、本件発明1と甲5発明とは、
「脂環式エポキシ化合物及び非環式エポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性化合物と、
球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子と、
光重合開始剤と、
を含有する、
組成物。」
という点で一致し、
(相違点5-1)組成物における球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子の含有量が、本件発明1は30体積%以上であるのに対し、甲5発明は66.5(=10+56.5)重量%である点
(相違点5-2)本件硬化深度が、本件発明1は100μm以上であるのに対し、甲5発明は不明である点
(相違点5-3)光重合開始剤の含有量が、本件発明1は重合性化合物100質量部に対して0.01~3質量部であるのに対し、甲5発明は組成物に対して1.5重量%である点
で相違する。
ウ 相違点について
事案に鑑み、相違点5-3から検討する。
上記ア(a)及び(c)で指摘したとおり、甲5発明における「ダイセル化学工業製脂環式エポキシ(セロキサイド2021)」及び「旭電化工業製光カチオン硬化触媒(SP-150)」は、それぞれ本件発明1における「重合性化合物」及び「光重合開始剤」に相当する。そして、甲5発明における上記セロキサイド2021及びSP-150の含有量はそれぞれ30重量%及び1.5重量%であるから、前者100質量部に対する後者の含有量は
(1.5/30)×100=5(質量部)
である。
そうすると、甲5発明は、組成物における光重合開始剤の含有量が重合性化合物100質量部に対して5質量部であるといえる。そのため、相違点5-3は実質的な相違点である。
そこで、この実質的な相違点についてさらに検討する。
本件明細書には、上記2(2)ウで指摘した事項が記載されている。
一方、甲5には、甲5発明は良好な作業性、高い信頼性を有する光学部品固定用接着剤である旨が記載されているが(請求項1、段落0003及び0014~0020)、甲5発明の硬化体に未反応モノマーが残存することや、硬化体の透湿率や吸湿率が高いこと、硬化体の硬化状態や耐温耐湿性が不良であることをうかがわせる記載はない。
また、上記2(2)ウで指摘したとおり、光硬化性組成物における光重合開始剤の含有量がその光硬化性組成物の硬化深度や塗膜硬度といった広義の硬化性に影響を与え得ることは本件優先日当時の技術常識であったものの、光重合開始剤の増減により硬化性が具体的にどのようになるのかを予測することは容易ではなかったことがうかがわれる。
この点、甲5には、甲5発明における光カチオン硬化触媒について、トリアリールスルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩等が例示できる旨及び熱カチオン硬化触媒を用いてもよい旨が記載されているにとどまり(段落0008)、甲5発明における光カチオン硬化触媒である「旭電化工業製光カチオン硬化触媒(SP-150)」の含有量をどのような観点からどの程度とすればよいのかということや、その増減により硬化性が具体的にどのようになるのかということは記載も示唆もされていない。
さらに、甲5発明における光カチオン硬化触媒の増減により硬化性が具体的にどのようになるのかは当業者に自明であったとする根拠は、甲1~甲4、甲6~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらない。
したがって、当業者であれば甲5発明における光カチオン硬化触媒の含有量を減らそうとする根拠は、甲1~甲18、乙1又は参1~参6の記載にも本件優先日当時の技術常識にも見出せない。
そうすると、甲5発明において光カチオン硬化触媒の含有量を減らして相違点5-3に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、相違点5-1及び相違点5-2について検討するまでもなく、本件発明1の構成が甲5発明から当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
エ 効果について
本件発明1は、硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好であるという効果を奏するといえる(上記2(2)エ)。
そして、光硬化性組成物における光重合開始剤の含有量がその光硬化性組成物の硬化深度や塗膜硬度といった広義の硬化性に影響を与え得ることは本件優先日当時の技術常識であったものの、光重合開始剤の増減により硬化性が具体的にどのようになるのかを予測することは容易ではなかったことがうかがわれることを踏まえると(上記2(2)ウ)、本件発明1の構成と本件発明1の上記効果との関係は明らかであるとする根拠は、甲1~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらないといえる(上記2(2)エ)。同様に、甲5発明が本件発明1と同等あるいはそれ以上に硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好であるという効果を奏するとする根拠も、甲1~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらないといえる。
したがって、本件発明1の上記効果は、甲5発明との関係において、本件発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるといえる。
オ 本件発明1についてのまとめ
以上から、本件発明1は甲5発明ではない。また、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件発明13について
ア 対比
上記(2)アを参考に本件発明13と甲1発明とを対比すると、本件発明13と甲1発明とは、
「脂環式エポキシ化合物及び非環式エポキシ化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む重合性化合物と、
球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子と、
光重合開始剤と、
を含有する、
組成物。」
という点で一致し、
(相違点5-4)球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子の屈折率n2と、重合性化合物の重合体の屈折率n1との差の絶対値(|n1-n2|)が、本件発明13は0.5以下であるのに対し、甲5発明は不明である点
(相違点5-5)組成物における球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子の含有量が、本件発明13は30体積%以上であるのに対し、甲5発明は66.5(=10+56.5)重量%である点
(相違点5-6)球状シリカ、球状アルミナ、球状マグネシア及び球状ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種の無機微粒子の平均円形度が、本件発明13は0.7以上であるのに対し、甲5発明は不明である点
(相違点5-7)光重合開始剤の含有量が、本件発明13は重合性化合物100質量部に対して0.3~3質量部であるのに対し、甲5発明は組成物に対して1.5重量%である点
で相違する。
イ 相違点について
事案に鑑み、相違点5-7から検討する。
上記(2)ウで検討したとおり、甲5発明は、組成物における光重合開始剤の含有量が重合性化合物100質量部に対して5質量部であるといえる。そのため、相違点5-7は実質的な相違点である。
そこで、この実質的な相違点についてさらに検討する。
本件明細書には、上記2(3)イで指摘した事項が記載されている。
また、上記(2)ウで検討したとおり、当業者であれば甲5発明における光カチオン硬化触媒の含有量を減らそうとする根拠は、甲1~甲18、乙1又は参1~参6の記載にも本件優先日当時の技術常識にも見出せない。
そうすると、甲5発明において光カチオン硬化触媒の含有量を減らして相違点5-7に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、相違点5-4~相違点5-6について検討するまでもなく、本件発明13の構成が甲5発明から当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
ウ 効果について
本件発明13は、硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好であるという効果を奏するといえる(上記2(3)ウ)。
そして、光硬化性組成物における光重合開始剤の含有量がその光硬化性組成物の硬化深度や塗膜硬度といった広義の硬化性に影響を与え得ることは本件優先日当時の技術常識であったものの、光重合開始剤の増減により硬化性が具体的にどのようになるのかを予測することは容易ではなかったことがうかがわれることを踏まえると(上記2(2)ウ)、本件発明13の構成と本件発明13の上記効果との関係は明らかであるとする根拠は、甲1~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらないといえる(上記2(2)エ)。同様に、甲5発明が本件発明13と同等あるいはそれ以上に硬化体の透湿率及び吸湿率が低く、封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性が良好であるという効果を奏するとする根拠も、甲1~甲18、乙1又は参1~参6には見当たらないし、本件優先日当時の技術常識にも見当たらないといえる。
したがって、本件発明13の上記効果は、甲5発明との関係において、本件発明13の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるといえる。
エ 本件発明13についてのまとめ
以上から、本件発明13は甲5発明ではない。また、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件発明2~12及び14~16について
上記2(4)と同様に、本件発明2~12及び14~16と甲5発明とは相違点5-3又は相違点5-7において少なくとも相違する。そして、相違点5-3及び相違点5-7についての判断は上記(2)及び(3)で検討したとおりである。
したがって、上記(2)又は(3)と同様に、本件発明2~12及び14~16は甲5発明ではないし、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)申立人の主張について
申立人の主張は上記2(5)で指摘したとおりであり、これについての当審合議体の見解も上記2(5)で示したとおりである。
したがって、申立人の主張はいずれも採用できない。
(6)取消理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~16は甲5発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。また、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
5 申立理由3について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識することができる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)発明の課題
本件明細書の段落0008の記載からみて、本件発明の課題は「防湿性及び長期信頼性に優れた封止材を形成可能な組成物、当該組成物の硬化体及び当該組成物を用いて形成される封止構造を備える有機EL表示装置を提供すること」であると認められる。
(3)本件明細書の発明の詳細な説明の記載
本件明細書には、樹脂材料と比較して透湿性が低い無機微粒子の組成物への含有量を多くすると硬化体中の未反応モノマーの量が増加する傾向があるが、組成物が100μm以上の本件硬化深度を有すると封止時の光照射によって未反応モノマーが十分に低減された未反応モノマーに起因する防湿性及び信頼性の低下が抑制されることから、十分な無機微粒子を配合しつつ所定の本件硬化深度を有する組成物とすることで、優れた防湿性及び長期信頼性が実現される旨(段落0012~0014)が記載されている。
また、本件明細書には、光重合開始剤について、その含有量は重合性化合物100質量部に対して0.01質量部以上が好ましく、0.3質量部以上が更に好ましく、これにより硬化性がより向上する旨及び5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましく、これにより長期保管における信頼性に優れた封止材を形成できる旨(段落0066)が記載されている。
さらに、本件明細書には、無機微粒子について、平均円形度(真円度)が高いと組成物が好適な本件硬化深度を有しやすくなる傾向がある旨(段落0067及び0068)、重合性化合物の重合体の屈折率n1と無機微粒子の屈折率n2との差の絶対値(|n1-n2|)が小さいと組成物が好適な本件硬化深度を有しやすくなる傾向がある旨(段落0070)並びにその含有量は30体積%以上であり、十分な硬化深度を維持しつつ無機微粒子の含有量を多くすることで硬化体の透湿性がより低下する傾向がある旨及びその含有量を少なくすることで本件硬化深度をより満たしやすくなる傾向がある旨(段落0076)が記載されている。
そして、本件明細書には、(a)組成物が本件発明1又は13の構成を備える実施例1~実施例7は、組成物の硬化体の透湿度及び吸湿率が低く、同組成物を封止材として使用して作製した側面封止基板の硬化状態及び耐温耐湿性も良好であるが、(b)重合性化合物が(A-5)1,10-デカンジオールジメタクリレートのみからなりエポキシ化合物を含有しない比較例4は、|n1-n2|が0.5以下であるにもかかわらず、硬化深度が浅く、硬化体の透湿度及び吸湿率が高く、側面封止基板の硬化状態及び耐湿耐温性が不充分である旨、(c)無機微粒子の含有量がゼロ又は少ない比較例1及び比較例2は、硬化深度は深く、硬化体の吸湿率は低いものの透湿度が高く、側面封止基板の硬化状態は良好であるが耐湿耐温性が低い旨、(d)|n1-n2|が0.5超である比較例3は、硬化深度が浅く、硬化体の透湿度及び吸湿率が高く、側面封止基板の硬化状態及び耐湿耐温性が不充分である旨、が記載されている(段落0113~0135)。
(4)検討
ア 本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者の理解
上記(3)で指摘した本件明細書の発明の詳細な説明の一般的な記載及び各実施例、比較例についての記載に接した当業者であれば、上記(2)で認定した発明の課題を解決するためには、実施例1~実施例7及び比較例4から組成物における重合性化合物がエポキシ化合物を含むことが前提であり、かつ、実施例1~実施例7並びに比較例1及び比較例2から組成物における無機微粒子の含有量がある程度多いことが前提であることを理解するといえる。そしてその上で、実施例1~実施例7及び比較例3から|n1-n2|を小さくすることにより硬化深度が深くなり、その結果封止時の光照射によって未反応モノマーが十分に低減され未反応モノマーに起因する防湿性及び信頼性の低下が抑制されることを理解するといえる。
さらに、無機微粒子の配合量が異なる実施例1と比較例1との対比から、(光カチオン重合開始剤である重合開始剤(B-1)を併用するか否かという相違はあるものの)組成物における無機微粒子の含有量が少ないと硬化深度が深くなる旨を理解し、このことと無機微粒子の配合量及び真円度(平均円形度)が異なる実施例2と比較例2との対比から、(|n1-n2|が多少相違するものの)組成物における無機微粒子の真円度(平均円形度)が高いと硬化深度が深くなる旨を理解するといえる。
イ 本件発明1について
本件発明1は、上記第3のとおり、重合性化合物がエポキシ化合物を含むものであり、無機微粒子の含有量がある程度多いものであり、無機微粒子の形状が球状すなわち平均円形度が高いものであり、かつ、深い硬化深度を備えるものであるから、上記(3)及び上記アを踏まえると、当業者が上記(2)で認定した発明の課題を解決できると認識することができる範囲のものであるといえる。
したがって、本件発明1は本件明細書の発明の詳細な説明の記載したものである。
ウ 本件発明13について
本件発明13は、上記第3のとおり、重合性化合物がエポキシ化合物を含むものであり、無機微粒子の含有量がある程度多いものであり、組成物における無機微粒子の平均円形度が高いものであり、かつ、|n1-n2|が小さいものであるから、上記(3)及び上記アを踏まえると、当業者が上記(2)で認定した発明の課題を解決できると認識することができる範囲のものであるといえる。
したがって、本件発明13は本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。
エ 本件発明2~12及び14~16について
本件発明2~12及び14~16は、上記第3のとおり、本件特許請求の範囲の請求項1又は13を引用し本件発明1の構成又は本件発明13の構成をすべて備えるものである。
そうすると、上記イ及びウにおける検討を踏まえると、本件発明2~12及び14~16も、当業者が上記(2)で認定した発明の課題を解決できると認識することができる範囲のものであるといえる。
したがって、本件発明2~12及び14~16は本件明細書の発明の詳細な説明の記載したものである。
(5)申立人の主張について
ア 本件発明1~12について
特許異議申立書において申立人は、本件特許1~12について、本件発明1の組成物に含有される重合性化合物、無機微粒子及び光重合開始剤の種類は発明の課題を直接に解決する技術的特徴ではなく、本件硬化深度を100μm以上に制御することが発明の課題を解決するための構成として開示されているということを前提とした上で、本件硬化深度が800μmを超え、重合性化合物、無機微粒子及び光重合開始剤を含有する組成物を用いた場合は、どのような組成の組成物とすればよいのかが理解できないから、出願時の技術常識に照らしても、発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、請求項に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張する(特許異議申立書64~65頁)。
しかし、上記(3)で指摘した本件明細書の発明の詳細な説明の一般的な記載及び各実施例、比較例についての記載に接した当業者であれば、組成物に含有される重合性化合物の種類や無機微粒子の形状、種類及び量が上記(2)で認定した発明の課題の解決に寄与する要素であると認識するといえる。また、本件硬化深度は1000μmを超えるが透湿度が高いものである本件明細書の比較例1についての記載(段落0135)に接した当業者であれば、本件硬化深度を100μm以上に制御することが上記(2)で認定した発明の課題を解決するための十分条件であると認識することはない。
したがって、申立人の上記主張は、組成物に含有される重合性化合物、無機微粒子及び光重合開始剤の種類は発明の課題を直接に解決する技術的特徴ではないというその前提において適切ではないから、採用できない。
また、上記(3)で指摘した本件明細書の発明の詳細な説明の一般的な記載及び各実施例、比較例についての記載に接した当業者であれば、例えば本件明細書の実施例1(段落0133)において無機微粒子の配合量を多少減らしたものもなお所定の無機微粒子含有量及び800μmを超える本件硬化深度を備え、かつ、透湿度は多少向上するもののなお上記(2)で認定した発明の課題を解決できると認識するといえる。そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件硬化深度が800μmを超える組成物であっても上記(2)で認定した発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度の記載があるといえる。
したがって、申立人の上記主張はこの点でも採用できない。
イ 本件発明13~16について
特許異議申立書において申立人は、本件特許13~16について、本件発明13の組成物に含有される重合性化合物、無機微粒子及び光重合開始剤の種類は発明の課題を直接に解決する技術的特徴ではなく、無機微粒子の平均円形度が0.7以上1.0以下であることも発明の課題を直接に解決する技術的特徴ではないということを前提とした上で、無機微粒子の平均粒子径が所定値以上であることが発明の課題を解決するために必要であるとし、平均粒子径が所定値以下である無機微粒子を含有する組成物を用いた場合は、どのような組成の組成物とすればよいのかが理解できないから、出願時の技術常識に照らしても、発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、請求項に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張する(特許異議申立書65~77頁)。
しかし、上記(3)で指摘した本件明細書の発明の詳細な説明の一般的な記載及び各実施例、比較例についての記載に接した当業者であれば、組成物に含有される重合性化合物の種類や無機微粒子の形状、種類及び量が上記(2)で認定した発明の課題の解決に寄与する要素であると認識するといえる。
したがって、申立人の上記主張は、その前提において適切ではないから、採用できない。
また、無機微粒子の平均粒子径が所定値以上であることが発明の課題を解決するために必要である旨の主張も、本件明細書の段落0074の「無機微粒子の平均粒子径が大きいと、硬化体中での水分の透過を阻害する効果が得られやすくなる」という記載の反対解釈と(反対解釈が必ずしも真ではないことは論を俟たない。)、甲4の段落0006「無機質充填剤の粒径が細かくなりサブミクロン単位となってくると表面積が著しく増大して相互作用が強まるため、凝集して均一に分散できなかったり、増粘したりして液状樹脂として取り扱えなくなるため多量の無機質充填剤を添加することが困難となることが知られている」という記載とに基づくものであって、その根拠が薄弱であるといわざるを得ない。
したがって、申立人の上記主張はこの点でも採用できない。
(6)申立理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~16は本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件特許請求の範囲の記載は本件発明1~16について特許法第36条第6項第1号に適合する。
第6 むすび
上記第5の2~5のとおり、本件特許の請求項1~16に係る特許は、取消理由通知書に記載された取消理由又は特許異議申立書に記載された申立理由によって取り消すことはできない。
そして、他に本件特許の請求項1~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-701040