特許異議申立
2024-700938
果汁含有飲料
- 審判番号
- 2024-700938
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-009313
- 登録番号
- 7458192
- 請求日
- 2024年09月30日
- 審決日
- 2026年05月08日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アサヒ飲料株式会社
- 【権利者代理人】林 一好
- 【異議申立人】星 晃子
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 宮久保 博幸
- 審判官 柴田 昌弘
- 分類
- P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.536-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7458192号発明「果汁含有飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7458192号の特許請求の範囲を令和7年12月4日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕、5、6、7、8、9、10、11について訂正することを認める。
特許第7458192号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7458192号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、令和2年1月23日を出願日とする出願であって、令和6年3月21日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和6年9月30日に特許異議申立人 星 晃子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし11)がされ、同年11月27日に特許異議申立人から手続補正書(方式)が提出され、令和7年3月28日付けで取消理由が通知され、同年5月30日に特許権者 アサヒ飲料株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年6月9日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、これに対し同年7月10日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年10月6日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年12月4日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、令和8年2月27日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、これに対し同年4月1日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
なお、令和7年5月30日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和7年12月4日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に、「果汁率が1~80質量%であり、赤ブドウの果汁を含む果汁含有飲料であって、」
と記載されているのを、
「果汁率が1~80質量%であり、赤ブドウの果汁を含む果汁含有飲料であって、前記果汁含有飲料に含まれる果汁が、濃縮果汁からなり、」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4についても同様に訂正する。
(2)訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に、「前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.0001~100ppbである」
と記載されているのを、
「前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.1~100ppbである」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4についても同様に訂正する。
(3)訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項5に、「果汁率が1~80質量%であり、赤ブドウの果汁を含む果汁含有飲料に、・・・を含む、」
と記載されているのを、
「果汁率が1~80質量%であり、赤ブドウの果汁を含む果汁含有飲料に、・・・を含み、前記果汁含有飲料に含まれる果汁が、濃縮果汁からなる、」に訂正する。
(4)訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項5に、「ヘキサン酸エチルをその含有量が0.0001~100ppbとなるように添加することを含む、」
と記載されているのを、
「ヘキサン酸エチルをその含有量が0.1~100ppbとなるように添加することを含み、」に訂正する。
(5)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に、「ヘキサン酸エチルをその含有量が0.0001~100ppbとなるように添加することを含む」
と記載されているのを、
「ヘキサン酸エチルをその含有量が0.1~100ppbとなるように添加することを含む」に訂正する。
(6)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に「前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.0001~100ppbとなるように添加される」
と記載されているのを、
「前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.1~100ppbとなるように添加される」に訂正する。
(7)訂正事項5-1
特許請求の範囲の請求項8に、「果汁率が1~80質量%であり、ソフトフルーツの果汁を含む果汁含有飲料であって、」
と記載されているのを、
「果汁率が1~80質量%であり、ソフトフルーツの果汁を含む果汁含有飲料であって、前記果汁含有飲料に含まれる果汁が、濃縮果汁からなり、」に訂正する。
(8)訂正事項5-2
特許請求の範囲の請求項8に、「前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.0001~100ppbである」
と記載されているのを、
「前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.1~100ppbである」に訂正する。
(9)訂正事項6-1
特許請求の範囲の請求項9に、「果汁率が1~80質量%であり、ソフトフルーツの果汁を含み、・・・を含む、」
と記載されているのを、
「果汁率が1~80質量%であり、ソフトフルーツの果汁を含み、・・・を含み、前記果汁含有飲料に含まれる果汁が、濃縮果汁からなる、」に訂正する。
(10)訂正事項6-2
特許請求の範囲の請求項9に、「ヘキサン酸エチルをその含有量が0.0001~100ppbとなるように添加することを含む」
と記載されているのを、
「ヘキサン酸エチルをその含有量が0.1~100ppbとなるように添加することを含む」に訂正する。
(11)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に、「ヘキサン酸エチルをその含有量が0.0001~100ppbとなるように添加することを含む」
と記載されているのを、
「ヘキサン酸エチルをその含有量が0.1~100ppbとなるように添加することを含む」に訂正する。
(12)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に「前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.0001~100ppbとなるように添加される」
と記載されているのを、
「前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.1~100ppbとなるように添加される」に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし4について、請求項2ないし4は請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし4に対応する訂正後の請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の適否の判断
(1)訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)請求項1ないし4についての訂正について
訂正事項1-1に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1に記載されていた果汁含有飲料に含まれる赤ブドウの果汁を濃縮果汁に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項1-2に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1に記載されていたヘキサン酸エチルの含有量の数値範囲を狭くするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1-1及び1-2に係る請求項1の訂正は、本件特許の明細書の【0020】には、「果汁には、果実の搾汁を濃縮した濃縮果汁、濃縮果汁を希釈した還元果汁を含む。」と記載されており、本件特許の明細書の【0031】には「ヘキサン酸エチルの含有量は、0.1ppb以上であることが好まし」いことが記載されていることから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4についての訂正も同様である。
(イ)請求項5についての訂正について
訂正事項2-1に係る請求項5の訂正は、訂正前の請求項5に記載されていた果汁含有飲料に含まれる赤ブドウの果汁を濃縮果汁に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項2-2に係る請求項5の訂正は、訂正前の請求項5に記載されていたヘキサン酸エチルの含有量の数値範囲を狭くするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2-1及び2-2に係る請求項5の訂正は、訂正事項1-1及び1-2に係る請求項1の訂正と同様の理由で、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)請求項6についての訂正について
訂正事項3に係る請求項6の訂正は、訂正前の請求項6に記載されていたヘキサン酸エチルの含有量の数値範囲を狭くするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3に係る請求項6の訂正は、本件特許の明細書の【0031】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(エ)請求項7についての訂正について
訂正事項4に係る請求項7の訂正は、訂正前の請求項7に記載されていたヘキサン酸エチルの含有量の数値範囲を狭くするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4に係る請求項7の訂正は、本件特許の明細書の【0031】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(オ)請求項8についての訂正について
訂正事項5-1に係る請求項8の訂正は、訂正前の請求項8に記載されていた果汁含有飲料に含まれるソフトフルーツの果汁を濃縮果汁に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項5-2に係る請求項8の訂正は、訂正前の請求項8に記載されていたヘキサン酸エチルの含有量の数値範囲を狭くするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5-1及び5-2に係る請求項8の訂正は、訂正事項1-1及び1-2に係る請求項1の訂正と同様の理由で、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(カ)請求項9についての訂正について
訂正事項6-1に係る請求項9の訂正は、訂正前の請求項9に記載されていた果汁含有飲料に含まれるソフトフルーツの果汁を濃縮果汁に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項6-2に係る請求項9の訂正は、訂正前の請求項9に記載されていたヘキサン酸エチルの含有量の数値範囲を狭くするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項6-1及び6-2に係る請求項9の訂正は、訂正事項1-1及び1-2に係る請求項1の訂正と同様の理由で、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(キ)請求項10についての訂正について
訂正事項7に係る請求項10の訂正は、訂正前の請求項10に記載されていたヘキサン酸エチルの含有量の数値範囲を狭くするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項7に係る請求項10の訂正は、本件特許の明細書の【0031】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(ク)請求項11についての訂正について
訂正事項8に係る請求項11の訂正は、訂正前の請求項11に記載されていたヘキサン酸エチルの含有量の数値範囲を狭くするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項8に係る請求項11の訂正は、本件特許の明細書の【0031】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(2)独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし11に対してされているので、訂正を認める要件として、訂正前の請求項1ないし11に対応する訂正後の請求項1ないし11に対しては、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
4 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕、5、6、7、8、9、10、11について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、令和7年12月4日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
果汁率が1~80質量%であり、赤ブドウの果汁を含む果汁含有飲料であって、
前記果汁含有飲料に含まれる果汁が、濃縮果汁からなり、
ヘキサン酸エチルを含み、
前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.1~100ppbである、
果汁含有飲料。
【請求項2】
前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.1ppb以上100ppb未満である、
請求項1に記載の果汁含有飲料。
【請求項3】
前記果汁率が10~50質量%である、
請求項1又は2に記載の果汁含有飲料。
【請求項4】
糖度が1~10である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の果汁含有飲料。
【請求項5】
果汁率が1~80質量%であり、赤ブドウの果汁を含む果汁含有飲料に、ヘキサン酸エチルをその含有量が0.1~100ppbとなるように添加することを含み、前記果汁含有飲料に含まれる果汁が、濃縮果汁からなる、
果汁含有飲料の製造方法。
【請求項6】
果汁率が1~80質量%であり、赤ブドウの果汁を含む果汁含有飲料に、ヘキサン酸エチルをその含有量が0.1~100ppbとなるように添加することを含む、
前記果汁含有飲料を飲んだときに感じられる果汁感を高める方法。
【請求項7】
ヘキサン酸エチルを含み、
果汁率が1~80質量%であり、赤ブドウの果汁を含む果汁含有飲料中に、前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.1~100ppbとなるように添加される、
風味増強剤。
【請求項8】
果汁率が1~80質量%であり、ソフトフルーツの果汁を含む果汁含有飲料であって、
前記果汁含有飲料に含まれる果汁が、濃縮果汁からなり、
糖度が3~10であり、
ヘキサン酸エチルを含み、
前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.1~100ppbである、
果汁含有飲料。
【請求項9】
果汁率が1~80質量%であり、ソフトフルーツの果汁を含み、糖度が3~10である果汁含有飲料に、ヘキサン酸エチルをその含有量が0.1~100ppbとなるように添加することを含み、前記果汁含有飲料に含まれる果汁が、濃縮果汁からなる、
果汁含有飲料の製造方法。
【請求項10】
果汁率が1~80質量%であり、ソフトフルーツの果汁を含み、糖度が3~10である果汁含有飲料に、ヘキサン酸エチルをその含有量が0.1~100ppbとなるように添加することを含む、
前記果汁含有飲料を飲んだときに感じられる果汁感を高める方法。
【請求項11】
ヘキサン酸エチルを含み、
果汁率が1~80質量%であり、ソフトフルーツの果汁を含み、糖度が3~10である果汁含有飲料中に、前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.1~100ppbとなるように添加される、
風味増強剤。」
第4 特許異議申立書等に記載した申立ての理由の概要等
令和6年11月27日提出の手続補正書により補正された、同年9月30に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
なお、申立て理由の番号は、当審において新たに付したものである。
1 申立理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし11は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由1-2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし11は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由1-3(甲第3号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし11は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由1-4(甲第4号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし11は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由1-5(甲第5号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし11は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
6 申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)甲第1号証から甲第5号証によれば、赤ブドウには本来的にヘキサン酸エチルが含まれており、本件特許発明1から11に記載の果汁含有飲料等において、どのようにヘキサン酸エチルの含有量、特に下限値付近の含有量に調整して実施するのかを当業者が理解できる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されていない。
(2)甲第8号証から甲第9号証によれば、SPME法による定量分析では検量限界は0.1ppb程度であり、本件特許発明1、3ないし11に記載の果汁含有飲料等において、ヘキサン酸エチルの下限値0.0001ppbをどのように当業者が測定すればよいのか、発明の詳細な説明からでは理解できず、当業者であっても実施することができない。
7 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
甲第4号証又は甲第5号証によれば、本件特許明細書の実施例で用いられた赤ブドウ(コンコード)には本来的にヘキサン酸エチルが含まれているといえるが、ヘキサン酸エチルの含有量が0であることを前提に試験をしており、表2(段落【0055】)などに示された、ヘキサン酸エチルの含有量は正確ではなく、発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1から11のすべての範囲において課題を解決できることが記載されたものではない。
したがって、本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
8 証拠方法
甲第1号証:Yusen wu, et al., Aroma characterization based on aromatic series analysis in table grapes, SCIENTIFIC REPORTS 6, Article number:31116, (https://www.nature.com/articles/srep31116)
甲第2号証:有手友嗣ほか、ブドウ‘ルビーロマン’の糖、有機酸および揮発性成分の分析、石川県農林総合研究センター農業試験場研究報告31、p.17~28
甲第3号証:森美由紀ほか、生食用ブドウ品種における果肉香気成分のプロファイリング、園芸学研究第16巻別冊1、園芸学会平成29年度春季大会研究発表、p.77、果046
甲第4号証:P. Schreier, et al., Volatile Constituents from Concord, Niagara (Vitis labrusca, L.) and Elvira (V. labrusca, L. x V. riparia, M.) Grapes, Canadian Institute of Food Science and Technology, Vol.14, No.2, p.112-118
甲第5号証:香料2014 Winter No.264、日本香料協会発行、p.184-186
甲第6号証:特開2017-108713号公報
甲第7号証:合成香料編集委員会編、合成香料 化学と商品知識 増補新版、化学工業日報社、p.611
甲第8号証:Merck社Webページ「定量的SPME法の開発」、2024年9月27日(出力日)、(https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/protocol/analytical-chemistry/solid-phase-microextraction/developing-a-quantitative?msockid=102b8c22fb3c65053498992bfale64a6)
甲第9号証:アジレントテクノロジー株式会社、アプリケーションノート、「SPMEによる煙の影響を受けたワイン中の遊離揮発性フェノールの分析」、2022年9月(掲載月)、(https://www.chem-agilent.com/appnote/pdf/application-smoke-taint-wine-SPME-8890-gc-5994-3161ja-jp-agilent.pdf)
甲第9の1号証:甲第9号証の掲載年月が記載されたアジレント テクノロジー株式会社webページ
甲第10号証:アジレント テクノロジー株式会社、アプリケーションノート、「Agilent 8860ガスクロマトグラフによる蒸留酒中のアルコール、アルデヒド、エステルの分析」、2019年3月(掲載月)、(https://www.chem-agilent.com/appnote/pdf/rev_low_5994-0490JAJP.pdf)
甲第10の1号証:甲第10号証の掲載年月が記載されたアジレント テクノロジー株式会社webページ
甲第11号証:宮脇長人ほか、「パイナップル果汁の界面前進凍結濃縮とそのワイン製造への応用」、日本食品科学工学会誌、2017年、第64巻第5号、p256‐262
甲第12号証:「ルビーロマン果汁の界面前進凍結濃縮とそのワイン製造への応用」、日本食品科学工学会誌、2021年、第68巻第4号、p159‐165
甲第13号証:国際公開第2019/091556号
甲第14-1号証:石崎佳奈ほか、「界面前進凍結濃縮による果汁の高品質濃縮とそのワイン製造への応用」、石川県工業試験場 平成27年度研究報告、No.65、p63-64、[https://www.irii.jp/randd/theme/h27/pdf/guidance006.pdf]
甲第14-2号証:石川県工業試験場;平成27年度研究報告No.65 webページ [https://www.irii.jp/randd/theme/h27/]
甲第15-1号証:後藤昭二ほか、「逆浸透法による甲州種ブドウ果汁の濃縮とワインの試醸」、山梨大学ワイン科学研究センター研究報告、vol.18、p33-36、[http://www.wine.yamanashi.ac.jp/jiev/vol/vol-18-1983/33.pdf]
甲第15-2号証:山梨大学ワイン科学研究センター;研究報告;vol.18 (1983)webページ[http://www.wine.yamanashi.ac.jp/jiev/vol-18/]
甲11ないし13は、特許異議申立人が令和7年7月10日に提出した意見書に添付して提出したものであり、甲14-1ないし甲15-2は、特許異議申立人が令和8年4月1日に提出した意見書に添付して提出したものである。
なお、証拠の表記については、特許異議申立書、令和7年7月10日に提出された意見書及び令和8年4月1日に提出された意見書の記載に概ね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 特許権者が提出した証拠方法
特許権者が、令和7年5月30日に提出した意見書に添付して提出した証拠方法は次のとおりである。
乙第1号証:太田英明ほか、ブドウ濃縮果汁製造工程におけるヘッドスペース揮発性成分の変化、日本食品工業学会誌、第29巻、第2号、1982年2月、93~99頁
なお、証拠の表記については、概ね令和7年5月30日に提出された意見書の記載にしたがった。以下、順に「乙1」という。
第6 令和7年10月6日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要
令和7年10月6日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。
取消理由1(甲6を主たる証拠とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る発明は、甲6に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第7 当審の判断
当審は、上記取消理由1並びに申立理由1-1ないし3には、以下のとおり理由がないと判断する。以下、取消理由及び取消理由において採用しなかった異議申立理由を順に判断する。
1 取消理由1(甲6を主たる証拠とする新規性・進歩性)
(1)甲6に記載された事項等
ア 甲6に記載された事項
甲6には、「赤ブドウ果汁入り飲料の澱の発生を抑制する方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
100gあたり10mg以上125mg以下のポリフェノールを含有する赤ぶどう果汁入り飲料に対して、ビタミンCを0.005質量%以上0.05質量%以下添加することを特徴とする、赤ぶどう果汁入り飲料の澱の発生を抑制する方法。
【請求項2】
前記赤ぶどう果汁入り飲料における赤ぶどう果汁由来の果汁含有率が、5%以上80%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記赤ぶどう果汁入り飲料は、コンコード種または巨峰種に由来する果汁を含む、請求項1または2に記載の方法。」
・「【0007】
以上の背景から、本発明は赤ぶどう果汁入り飲料固有の風味を損なわずに、赤ぶどう果汁入り飲料における澱の発生を抑制する方法を提供する。」
・「【0014】
本実施形態における赤ぶどう果汁入り飲料は、前述のポリフェノール含有量を満足するものであれば、特に限定されないが、この飲料に用いられる赤ぶどうの品種は、たとえば、以下のものが挙げられる。
すなわち、赤ぶどうの品種としては、たとえば、コンコード種、巨峰種、甲州種、ピオーネ種、キャンベル・アーリー種、デラウェア種、マスカット・ベリーA種、スチューベン種、赤嶺種、藤稔種、ルビーレッド種、カルベネソーヴィニヨン種等が挙げられ、赤ぶどう果汁入り飲料としては、これら赤ぶどうの果汁を含むことができる。
これらの中でも、本実施形態の方法においては、適度なポリフェノール量を有し、かつ、飲料とした際に、良好な呈味を与えることから、コンコード種または巨峰種に由来する果汁を含むことが好ましい。
【0015】
また、上記の赤ぶどうは単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。本実施形態における赤ぶどう果汁入り飲料の種類としては、赤ぶどう果実の搾汁液(ストレート果汁)、搾汁液を濃縮した濃縮果汁、濃縮果汁をさらに希釈した還元果汁のいずれであってもよい。
また、赤ぶどう果汁は、精密濾過法、酵素処理法、限外濾過法などにより清澄処理した透明果汁でも混濁果汁でもよい。ただし、本実施形態の方法は、飲料の外観を良化させるという観点からは、この赤ぶどう果汁が透明果汁であることが好ましい。」
・「【0017】
本実施形態の赤ぶどう果汁入り飲料における赤ぶどう果汁由来の果汁含有率は、製品にあわせて適宜設定することができる。
すなわち、果汁含有率100%の果実ジュースもしくは果実ミックスジュースとすることもできるし、果汁含有量が100%に満たない果汁入り飲料とすることもできる。
なお、本実施形態においては、赤ぶどう由来の果汁含有率が5%以上80%以下に設定されていることが好ましい。
【0018】
ここで、「果汁含有率」とは、果実を搾汁して得られるストレート果汁を100%としたときの相対濃度であり、JAS規格(果実飲料の日本農林規格)に示される糖用屈折計示度の基準(°Bx)に基づいて換算できる。
たとえば、ぶどう果汁は、JAS規格が11°Bxであるから、55°Bxの濃縮ぶどう果汁を飲料中に10質量%配合した場合、果汁含有率は50%となる。なお、飲料における、果汁含有率をJAS規格の糖用屈折計示度に基づいて計算する際は、果汁に加えられた糖類、はちみつ等の糖用屈折計示度を除くものとする。
通常、果汁含有率は「質量%」または単に「%」で示される(すなわち、飲料100gあたりの果汁量(g)を示す)が、本明細書では、「%」として示すこととする。」
・「【実施例】
【0033】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0034】
[試験A:コンコード種の赤ぶどう果汁を用いた検討]
表1に示す配合に従って飲料原料を混合して得られた赤ぶどう果汁入り飲料を加熱殺菌した後、280mlペットボトルに充填することで、実施例A1~A3および比較例A1、比較例A2の赤ぶどう果汁入り飲料を作製した。
【0035】
具体的には、各実施例および各比較例の飲料は、表1に示す配合となるように、それぞれ以下の方法で作製した。
市販の68°Bxグレープ濃縮透明果汁(コンコード種)(日進通商株式会社より入手)を水で希釈して果汁溶液を調製した後、得られた果汁溶液に対して、異性化糖であるハイフラクトM(日本コーンスターチ株式会社製)を添加混合した。次いで、得られた混合溶液に対して、所定量のビタミンC(L-アスコルビン酸)、クエン酸(無水)、香料を添加して、クエン酸三ナトリウムによってpHが3.3となるように調整した。なお、pHは、ガラス電極pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、それぞれ20℃でのpHを測定しながら調整を行った。
このようにして得られた赤ぶどう果汁入り飲料は、65℃、10分相当以上で加熱殺菌した後、280mlペットボトルに充填してから、室温まで冷却し、後述する評価に用いた。なお、飲料における果汁含有率(赤ぶどう果汁)は、30%となるように調整しており、フォーリンチオカルト法(FOLIN-CIOCALTEU法)(没食子酸換算)によって測定された飲料の100gあたりのポリフェノール含有量は46.7mgであった。
【0036】
得られた赤ぶどう果汁入り飲料について、下記に示す評価を行った。
【0037】
(評価項目)
澱の量評価:各実施例および各比較例の赤ぶどう果汁入り飲料について、55℃で10日間恒温静置保管し、澱の発生について目視で判断した。
なお、評価としては、ビタミンCを最も多く添加した比較例A2を「0点」、ビタミンCを添加していない比較例A1を「4点」とし、他の飲料については、熟練した10名のパネラーが以下の尺度に従って採点し、その平均点を求めることで行った。
0点:比較例A2と同等である。
1点:比較例A2に対し、わずかに澱が観察される。
2点:比較例A2に対し、やや澱が観察される。
3点:比較例A2に対し、明らかに澱が多く観察されるが、比較例A1程でない。
4点:比較例A1と同等である。
【0038】
官能評価試験1(液色):各実施例および各比較例の飲料について、55℃で10日間恒温静置保管し、その前後での液色の変化を評価した。
なお、この試験は、熟練した10人のパネラーが以下の尺度に従って評価を実施し、その平均点を求めた。
0点:保管前後で液色が同等である。
2点:保管前後で液色が殆ど同じである。
4点:保管前後で液色にやや差が観察される。
6点:保管前後で液色に差が観察される。
8点:保管前後で液色に大きな差が観察される。
【0039】
官能評価試験2(褐変臭):各実施例および各比較例の飲料について、55℃で10日間恒温静置保管し、その前後での褐変臭の変化を評価した。
なお、この試験は、熟練した10人のパネラーが以下の尺度に従って評価を実施し、その平均点を求めた。
0点:保管前後で褐変臭の程度が同等である。
2点:保管前後で褐変臭の程度が殆ど同じである。
4点:保管前後で褐変臭の程度にやや差が感じられる。
6点:保管前後で褐変臭の程度に差が感じられる。
8点:保管前後で褐変臭の程度に大きな差が感じられる。
【0040】
官能評価試験3(劣化味):各実施例および各比較例の飲料について、55℃で10日間恒温静置保管し、その前後での劣化味の変化を評価した。
なお、この試験は、熟練した10人のパネラーが以下の尺度に従って評価を実施し、その平均点を求めた。
0点:保管後でも劣化味を感じない。
2点:保管後でも殆ど劣化味を感じない。
4点:保管後にやや劣化味を感じる。
6点:保管後に劣化味を感じる。
8点:保管後に明らかな劣化味を感じる。
【0041】
官能評価試験4(全体の風味):各実施例および各比較例の飲料について、55℃で10日間恒温静置保管し、その前後での風味の変化幅を評価した。
なお、この試験は、熟練した10人のパネラーが以下の尺度に従って評価を実施し、その平均点を求めた。
0点:保管前後で全体の風味の程度が同等である。
2点:保管前後で全体の風味の程度が殆ど同じである。
4点:保管前後で全体の風味の程度にやや差が感じられる。
6点:保管前後で全体の風味の程度に差が感じられる。
8点:保管前後で全体の風味の程度に大きな差が感じられる。
【0042】
色差ΔE:各実施例および各比較例の飲料それぞれについて、55℃で10日間恒温静置保管する前と、上記恒温静置保管した後に、光源がD65である分光測色計(コニカミノルタ株式会社製、CM-3500d)を用いて色差ΔEの値を測定した。なお、測定条件としては、測定視野10°を採用し、ハンターLab表色系よりΔEを算出した。
【0043】
上記評価項目に関する評価結果を、以下の表1に各成分の配合比率と共に示す。
【0044】
【表1】
[図:0001438261000001.jpg]
【0045】
表1からわかるように、所定量のビタミンCを添加した各実施例においては、澱の発生を抑制できると同時に、赤ぶどう果汁入り飲料固有の風味を損なわない、という結果をもたらした。
一方、ビタミンCを多量に添加した比較例A2では、澱の発生は抑制できるものの、赤ぶどう果汁入り飲料固有の風味が損なわれる傾向があり、ビタミンCを添加しなかった比較例A1では、澱の発生が観察された。」
・「【0046】
[試験B:巨峰種の赤ぶどう果汁を用いた検討]
表2に示す配合に従って飲料原料を混合し、得られた赤ぶどう果汁入り飲料を加熱殺菌した後、280mlペットボトルに充填することで、実施例B1~B3および比較例B1、比較例B2の赤ぶどう果汁入り飲料を作製した。
【0047】
具体的には、各実施例および各比較例の飲料は、表2に示す配合となるように、それぞれ以下の方法で作製した。
市販の68°Bxグレープ濃縮透明果汁(巨峰種)(株式会社果香より入手)を水で希釈して果汁溶液を調製した後、得られた果汁溶液に対して、異性化糖であるハイフラクトM(日本コーンスターチ株式会社製)を添加混合した。次いで、得られた混合溶液に対して、所定量のビタミンC(L-アスコルビン酸)、クエン酸(無水)を添加して、クエン酸三ナトリウムによってpHが3.3となるように調整した。なお、pHは、ガラス電極pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、それぞれ20℃でのpHを測定しながら調整を行った。
このようにして得られた赤ぶどう果汁入り飲料は、65℃、10分相当以上で加熱殺菌した後、280mlペットボトルに充填してから、室温まで冷却し、後述する評価に用いた。なお、飲料における果汁含有率(赤ぶどう果汁)は、30%となるように調整しており、フォーリンチオカルト法(FOLIN-CIOCALTEU法)(没食子酸換算)によって測定された飲料の100gあたりのポリフェノール含有量は23.81mgであった。
【0048】
得られた赤ぶどう果汁入り飲料について、下記に示す評価を行った。
【0049】
(評価項目)
澱の量評価:各実施例および各比較例の赤ぶどう果汁入り飲料について、55℃で14日間恒温静置保管し、澱の発生について目視で判断した。
なお、評価としては、ビタミンCを最も加えた比較例B2を「0点」、ビタミンCを加えていない比較例B1を「4点」とし、他の飲料については、熟練した10名のパネラーが以下の尺度に従って採点し、その平均点を求めることで行った。
0点:比較例B2と同等である。
1点:比較例B2に対し、わずかに澱が観察される。
2点:比較例B2に対し、やや澱が観察される。
3点:比較例B2に対し、明らかに澱が多く観察されるが、比較例B1程でない。
4点:比較例B1と同等である。
【0050】
[図:0001438261000002.jpg]
【0051】
表2からわかるように、所定量のビタミンCを添加した各実施例においては、澱の発生を抑制できるものであった。なお、ビタミンCを多量に添加した、比較例B2においては、液色、褐変臭、劣化味、全体の風味の面で、前述の比較例A2とほぼ同様の結果をもたらした。」
イ 甲6に記載された発明
甲6に記載された事項を、特に請求項2を引用する請求項3について整理すると、甲6には、次の発明(以下、順に「甲6飲料発明」、「甲6製法発明」及び「甲6方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲6飲料発明>
「100gあたり10mg以上125mg以下のポリフェノールを含有する赤ぶどう果汁入り飲料に対して、ビタミンCを0.005質量%以上0.05質量%以下添加した赤ぶどう果汁入り飲料であって、
前記赤ぶどう果汁入り飲料における赤ぶどう果汁由来の果汁含有率が、5%以上80%以下であり、
前記赤ぶどう果汁入り飲料は、コンコード種または巨峰種に由来する果汁を含む、赤ぶどう果汁入り飲料。」
<甲6製法発明>
「甲6飲料発明の飲料の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲6飲料発明とを対比する。
甲6飲料発明の「赤ぶどう果汁」は、本件特許発明1の「赤ブドウの果汁」に相当し、甲6飲料発明の「赤ぶどう果汁入り飲料」は、本件特許発明1の「果汁含有飲料」に相当する。
甲6飲料発明の「果汁含有率」は、JAS規格(果実飲料の日本農林規格)に示される糖用屈折計示度の基準(°Bx)に基づいて換算できるものであり(甲6の【0018】)、本件特許の発明の詳細な説明の【0027】の記載からみて、本件特許発明1の「果汁率」に相当するところ、甲6飲料発明の果汁含有飲料は「赤ぶどう果汁由来の果汁含有率が、5%以上80%以下であ」るから、本件特許発明1の「果汁率が1~80%であ」るという発明特定事項を満たす。
そうすると、両者は、下記の一致点で一致し、下記の相違点1で相違する。
<一致点>
「果汁率が1~80質量%であり、赤ブドウの果汁を含む果汁含有飲料である果汁含有飲料。」
<相違点1>
本件特許発明1は「果汁含有飲料に含まれる果汁が、濃縮果汁からなり、ヘキサン酸エチルを含み、前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.1~100ppbである」のに対し、甲6飲料発明においてはそのように特定されていない点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
甲6には「本実施形態における赤ぶどう果汁入り飲料の種類としては、赤ぶどうの果実の搾汁液(ストレート果汁)、搾汁液を濃縮した濃縮果汁、濃縮果汁をさらに希釈した還元果汁のいずれであってもよい。」ことが記載され(【0015】)、実施例において「市販の68°Bxグレープ濃縮透明果汁(コンコード種)」(【0035】)及び「市販の68°Bxグレープ濃縮透明果汁(巨峰種)」(【0047】)が用いられているものの、どのような方法で濃縮した濃縮果汁を用いるかについては記載されていない。
そして、乙1には、コンコード種のブドウを用いた濃縮透明果汁(赤ブドウ)の製造工程における、原料、加熱色出し工程後、酵素処理工程後、濃縮工程後、製品の各段階において、ヘッドスペースに含まれる揮発性成分の量を測定したことが記載されており、「全製造工程を通じて全香気の99.3%が損失した」こと(98頁右欄の要約の12行目)並びに原料に含まれるヘキサン酸エチル(Ethyl Caproate)のピーク面積が「7075」(表1のA欄)であるのに対し、最終的な濃縮果汁に含まれるヘキサン酸エチルのピーク面積は示されていない(表1のE欄)ことが記載されている。そうすると、少なくとも乙1に記載された方法で濃縮した濃縮果汁は、原料にヘキサン酸エチルが含まれていたとしてもそのほとんどが製造工程中に損失してしまうといえる。
甲6に記載された「濃縮果汁」は、その製造方法が特定されていないので、乙1に記載された方法と同様の方法で製造された濃縮果汁を含み得るものである。そうすると、甲6において、濃縮前の果汁において、甲1ないし5に記載されているような含有量でヘキサン酸エチルを含む果汁を用いたとしても、甲6に記載された「濃縮果汁」がヘキサン酸エチルをどの程度の量含むのかは、不明であると言わざるを得ず、甲6及び他の証拠をみても、甲6に記載された濃縮果汁が、本件特許発明1の発明特定事項であるヘキサン酸エチルの含有量を満たす蓋然性が高いとする理由を見いだすことができない。よって、相違点1は実質的な相違点である。
そして、甲6飲料発明において、数ある香気成分の中からヘキサン酸エチルに着目し、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とする動機付けは、甲6及び他の証拠をみても見いだすことができない。また、本件特許発明1は、果汁感が良好な果汁含有飲料を提供することができるという、その構成から当業者が予測できた範囲を超える効果を奏するものである。
よって、本件特許発明1は、甲6飲料発明ではなく、甲6飲料発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、令和7年7月10日提出の意見書(2-7頁)において、甲11~13に示したように、濃縮方法によっては、原液と比較してほとんどヘキサン酸エチルを減少させずに濃縮することもできるのであるから、甲6飲料発明において濃縮果汁を用いたとしても、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たす、と主張する。
また、令和8年4月1日提出の意見書(2-3頁)において、特許異議申立人は以下の主張をする。
本件特許発明1は、濃縮果汁をどのような濃縮方法で濃縮したかに関して限定がない。
甲14の1には食品の濃縮操作方法は、蒸発法、膜濃縮法、凍結濃縮法の3つがあることが記載されており、甲14の1及び甲15の1の記載をみれば、ブドウにおいては、蒸発法、膜濃縮法、凍結濃縮法のいずれでも濃縮果汁を製造することができるといえ、甲11ないし14の1には、濃縮果汁中には、ヘキサン酸エチルがほとんど損失せずに残存することが示されている。
当業者であれば濃縮果汁中の香気成分はできる限り損失を防ごうとするものであるから、香気成分を殆ど消失した乙1記載の濃縮果汁ではなく、他の濃縮果汁を選択するといえる。
あらゆる濃縮方法で濃縮された濃縮果汁を含む本件特許発明1において、濃縮果汁を用いたとしてもヘキサン酸エチルの含有量が本件特許発明1の要件を満たすことはあり得るから、甲6飲料発明に対して新規性及び進歩性を有するとはいえない。
(イ)特許異議申立人の主張についての当審の判断
甲6には、どのような濃縮方法で濃縮した濃縮果汁を用いるかの記載はなく、甲6に記載された「濃縮果汁」は、甲11ないし14-1に示される方法とは異なる方法で濃縮された濃縮果汁も含むので、濃縮果汁中にヘキサン酸エチルがほとんど損失せずに残存するということはできず、甲6飲料発明は、ヘキサン酸エチルの含有量が本件特許発明1の要件を満たすということはできない。また、甲6及び他の証拠をみても、甲6飲料発明において、数ある香気成分の中からヘキサン酸エチルに着目し、その含有量を相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けを見いだすことができない。
よって、特許異議申立人の主張は採用することができない。
エ 本件特許発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1は甲6飲料発明ではなく、甲6飲料発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
よって、本件特許発明2ないし4は、甲6飲料発明ではなく、甲6飲料発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明5について
本件特許発明5と甲6製法発明とを対比すると、両者の間には、上記(2)アに記載した本件特許発明1と甲6飲料発明の間と同様の相当関係があるといえるので、両者は、下記の一致点で一致し、下記の相違点5で相違する。
<一致点>
「果汁率が1~80質量%であり、赤ブドウの果汁を含む果汁含有飲料の製造方法。」
<相違点5>
本件特許発明5が「ヘキサン酸エチルをその含有量が0.1~100ppbとなるように添加することを含み、前記果汁含有飲料に含まれる果汁が、濃縮果汁からなる」ことを特定するのに対し、甲6製法発明は、そのように特定されていない点。
上記相違点5について検討する。上記相違点5は、上記相違点1と実質的に同じ内容であるから、上記(2)と同様に判断される。
よって、本件特許発明5は、甲6製法発明ではなく、甲6製法発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と甲6飲料発明とを対比すると、甲6飲料発明の「赤ぶどう果汁」は、本件特許の明細書の【0024】の記載からみて、本件特許発明8の「ソフトフルーツの果汁」に相当する。また、本件特許発明8と甲6飲料発明との間には、上記(2)アに記載した本件特許発明1と甲6飲料発明の間と同様の相当関係があるといえるから、両者は、下記の一致点で一致し、下記の相違点で相違する。
<一致点>
「果汁率が1~80質量%であり、ソフトフルーツの果汁を含む果汁含有飲料。」
<相違点8-1>
本件特許発明8が「糖度が3~10であ」ることを特定するのに対し、甲6飲料発明は、糖度が特定されていない点。
<相違点8-2>
本件特許発明8が「果汁含有飲料に含まれる果汁が、濃縮果汁からなり」、「ヘキサン酸エチルを含み、前記ヘキサン酸エチルの含有量が0.1~100ppbである」のに対し、甲6飲料発明においてはそのように特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点8-2について検討する。上記相違点8-2は、上記(2)イで検討した相違点1と実質的に同じ内容であるから、上記(2)と同様に判断される。
よって、本件特許発明8は、甲6飲料発明ではなく、甲6飲料発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件特許発明9について
本件特許発明9と甲6製法発明とを対比すると、甲6製法発明の「赤ぶどう果汁」は、本件特許の明細書の【0024】の記載からみて、本件特許発明8の「ソフトフルーツの果汁」に相当し、両者の間には、上記(2)アに記載した本件特許発明1と甲6飲料発明の間と同様の相当関係があるといえるので、両者は、下記の一致点で一致し、少なくとも下記の相違点9において相違する。
<一致点>
「果汁率が1~80質量%であり、ソフトフルーツの果汁を含む果汁含有飲料の製造方法。」
<相違点9>
本件特許発明9が「ヘキサン酸エチルをその含有量が0.1~100ppbとなるように添加することを含み、前記果汁含有飲料に含まれる果汁が、濃縮果汁からなる」ことを特定するのに対し、甲6製法発明は、そのように特定されていない点。
上記相違点9について検討する。上記相違点9は、上記相違点1と実質的に同じ内容であるから、上記(2)と同様に判断される。
よって、本件特許発明9は、甲6製法発明ではなく、甲6製法発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)取消理由1(甲6を主たる証拠とする新規性・進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし5、8及び9は、特許法第29条第1項第3号には該当せず、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取消理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由1-1(甲1を主たる証拠とする進歩性)ないし1-5(甲5を主たる証拠とする進歩性)について
(1)甲1ないし甲5に記載された事項
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「食用ブドウのアロマ系列分析に基づく香りの特徴」に関して、おおむね次の事項が記載されている。甲1は、外国語で記載された文献であるため、訳文にて記す。下線は当審が付した(他の文献についても同様である。)。
・「香りは食用ブドウの品質の重要な一部であるが、主要なアロマ化合物や食用ブドウのアロマ系列は未知のままである。本論文では、食用ブドウ20品種から67のアロマ化合物を同定した。」(1頁1-3行)
・「結果
食用ブドウの成熟度の測定。食用ブドウ20品種の成熟度を推定するため、全可溶性固形分 (TSS)、全酸度(TA)、糖酸比(TSS/TA)、pHを測定した(図1)。これらの品種では、 TAは2.50~4.00g/Lの範囲にあり、TSS値はほぼすべての品種で15°Brixより高かった。 TSS/TAは、シャインマスカット(8.98)とブラックスワン(9.61)を除き、およそ5~7の範囲であった。これらの結果は、すべてのブドウの果実が適切な成熟時期に達したことを示している。
食用ブドウ中の揮発性化合物の同定と特徴。 これら20品種から合計67種の揮発性化合物(果肉で61種(表1)、果皮で64種(表2))が同定され、これらの化合物には、果皮にアルコール8種、テルペン24種、エステル12種、果汁にアルコール6種、テルペン21種、エステル14種が含まれていた。」(2頁結果欄1-9行)
・「
[図:0001438261000003.jpg]
図1.本研究で使用した主な食用ブドウ20品種とその全酸度(TA、g/L)、全可溶性固形分(TSS、°Brix)、pHおよび糖酸比(TSS/TA)。データは平均値±標準誤差で示した(n=3)。収穫時期のブドウ品種の写真を品種の列に掲載した。大文字は食用ブドウの品種コードを示す:A-Jumeigui, B-Fujiminori, C-Italian, D-Seto Giants, E-Shine Muscat, F-Red Alexandria, G-Rizamat, H-Zuijiruciang, I-Heibaladuo, J-Yoho, K-Oriental Star, L-Kyoho, M-Suiho, N-Black Swan, O-Jingya, P-Black Beet, Q-Gold Finger, R-High Bailey, S-Tamina, T-Centennial
Seedless。」(2頁図1)
・「
[図:0001438261000004.jpg]
表1 食用ブドウの果汁中の揮発性化合物の濃度(μg/kg)。データは平均値(n=3)。大文字は図1に示した食用ブドウの品種を示す。アロマ化合物は濃度アレイの左側に記載し、カラースケールを下部に示した。各化合物の濃度が高い方を赤、そうでない方を緑とした。」(3頁表1)
イ 甲2に記載された事項
甲2には、「ブドウ‘ルビーロマン’の糖、有機酸および揮発性成分の分析」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「石川県が開発したブドウ品種‘ルビーロマン’は、V. viniferaとV. labruscaの交雑品種である‘藤稔’の実生から発生した生食用ブドウ品種であり、鮮やかな赤い果皮と、巨大な果粒を特徴としている。しかし、食味の特徴については、糖酸比が比較的高いことや、官能的にフォクシー香に分類されることが分かっているものの(嶋ら2006)、他品種との違いが詳細に明らかにされているわけではない。そこで、ルビーロマンの食味の特徴を明らかにするために、ルビーロマンと代表的なブドウ品種について、糖および有機酸ならびに揮発性成分を分析した。」(18頁左欄下から7行から同右欄4行)」
・「II. 試験方法
1. 供試材料
1)糖組成および有機酸組成分析用試料
糖組成および有機酸組成の分析には、ルビーロマン、デラウェア、クイーンニーナ、サニードルチェ、秋鈴、サニールージュ、オリエンタルスター、大粒ピオーネ、ブラックビート、サマーブラック、高墨、紫玉、藤稔、巨峰、ブラックオリンピア、シャインマスカット、翠峰、サンヴェルデ、ハニービーナス、ロザリオビアンコの計20品種を用いた。これらの品種はいずれも石川県農林総合研究センター農業試験場砂丘地農業研究センター(石川県かほく市)のハウス内にて慣行栽培したものを、適期に収穫した後、分析に供試するまで冷凍保管(-18℃)した。
2)揮発性成分分析用試料
房の揮発性成分の分析には、フォクシー香品種およびマスカット香品種から計4品種を用いた。フォクシー香品種にはルビーロマン、巨峰、デラウェアの3品種を、マスカット香品種にはシャインマスカットの1品種を用いた。果肉の揮発性成分の分析には、フォクシー香品種、マスカット香品種およびその他品種から5品種を用いた。フォクシー香品種にはルビーロマン、巨峰、デラウェア、マスカット香品種にはシャインマスカット、その他品種にはサニードルチェを用いた。いずれも砂丘地農業研究センターのハウス内にて慣行栽培したものを、適期(8月12日、サニードルチェのみ8月26日)に収穫した後、収穫当日に分析に供試した。」(18頁右欄5-32行)
・「3.揮発性成分の分析
1)揮発性成分の捕集
房から発する揮発性成分については、まず試料を房ごと袋(GLサイエンス製テドラーバッグAA-5)に入れて熱シールをした後、恒温器を用いて30℃で30分間維持した。袋内の空気500mlを臭気捕集チューブ(ゲステル(株)製Tenax-TA 60/80)に通して、袋内の揮発性成分を臭気捕集チューブに吸着した。以上の操作を、1品種あたり独立した3房でそれぞれ行った。
果肉の揮発性成分については、飛塚ら(2009)の方法を参考にして行った。房から果実をランダムに選び、皮を剥いて果肉をミキサーでホモジナイズした。ホモジナイズした果肉5gと、塩化ナトリウム2gをガラスバイアルに入れてよく撹拌した後、ヘッドスペースの香気成分を固層マイクロ抽出法(SPME法)により 40℃、10分間抽出した。抽出にはコーティング層DVB/carboxen/PDMSのSPMEファイバー(スペルコ製)を用いた。以上の操作を、1品種あたり独立した3房でそれぞれ行った。」(19頁左欄23-41行)
・「 3)エステル類の定量分析
酢酸エチル、酪酸エチル、クロトン酸エチル、2-メチル酪酸エチル、吉草酸エチル、ヘキサン酸エチル(東京化成工業(株)製、特級)を用いて、10000mg/lエタノール溶液をそれぞれ調整し、これを蒸留水で10mg/lに希釈し検量線用標準試料とした。10mg/l水溶液5gに塩化ナトリウム2gを添加し、果肉と同様の方法で揮発性成分を捕集し、GC/MSにより分析した。なお、標準試料、果肉試料ともに、内部標準として200mg/lシクロヘキサノール水溶液10μlを添加して分析した。標準試料の分析結果から1点検量線を作成し、果肉中のエステル濃度を定量した。」(19頁右欄16-27行)
・「
[図:0001438261000005.jpg]
」(20頁左欄)
・「III.結果
1.糖
供試した20品種の糖分析結果を表1に示す。ルビーロマンは、果糖が8.7g/100g、ブドウ糖が7.1g/100g、ショ糖が0.4 /100g、合計16.1g/100gであり、供試した20品種の中で、ハニービーナス、デラウェアに次いで3番目に糖の合計濃度(糖濃度)が高かった。供試した20品種の糖濃度の平均値±標準偏差は15.5±0.9であり、ルビーロマンの糖濃度は平均値よりやや高かったが、平均値±標準偏差の範囲に含まれていた。果糖、ブドウ糖、ショ糖の組成比は、果糖が53.7%、ブドウ糖が43.9%、ショ糖が2.4%であり、ショ糖が非常に少ないという一般的なブドウの性質を示した。ルビーロマン以外の19品種もすべてショ糖が少ない等量型の糖組成パターンを示した。供試した20品種の平均値±標準偏差は、果糖53.0±1.6、ブドウ糖44.8±1.3、ショ糖2.2±0.8であり、ルビーロマンは平均値とほぼ同じ値になった。」(19頁右欄下から14行から20頁左欄4行)
・「
[図:0001438261000006.jpg]
」(22頁)
・「 5.果肉に含まれるエステル類の定量分析
これまでの結果より、ルビーロマンの揮発性成分はエステル類に特徴があると考えられたため、ルビーロマンおよび巨峰の果肉に含まれるエステル類をより詳細に解析するため、酢酸エチル、酪酸エチル、2-メチル酪酸エチル、吉草酸エチル、クロトン酸エチル、ヘキサン酸エチルの6成分を定量した。2-ヘキセン酸エチルは標品を入手できなかったため、定量しなかった。ルビーロマンに含まれるエステル類としては、酢酸エチルが最も高濃度で含まれており、次いで酪酸エチル、ヘキサン酸エチル、クロトン酸エチル、吉草酸エチル、2-メチル酪酸エチルの順に多く含まれていた。対して巨峰では、酢酸エチル、酪酸エチル、クロトン酸エチル、ヘキサン酸エチルの順に多く含まれていた。酢酸エチル以外の6つのエステルは、巨峰よりもルビーロマンのほうが高濃度で含まれていた。ルビーロマンで検出された6つのエステル類の内、嗅覚閾値を超えていると予想されるものは、文献の存在しないクロトン酸エチルを除いて、酢酸エチル、酪酸エチル、吉草酸エチルの3成分であった。酪酸エチル、吉草酸エチルは、臭覚閾値が低く、微量でも強い香りを引き起こすエステルであるため、ルビーロマンの香りに強く影響していると考えられた。」(22頁左欄下から4行から23頁左欄10行)
ウ 甲3に記載された事項
甲3には、「生食用ブドウ品種における果肉香気成分のプロファイリング」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「[目的]ブドウ(Vitis spp.)果実の香気はブドウの品質において重要な要素の1つであり,アメリカブドウのフォクシー香,欧州ブドウのマスカット香などが知られている.その他,これらと異なる香気(特異香)を有する品種・系統も報告されている.しかしながら,それぞれのプドウ品種・系統における果実の詳細な香気成分やその生成制御機構は明らかにされていない.そこで本研究では,主に日本で栽培・利用されている主要な生食用ブドウ品種の果肉香気を分析し,そのプロファイリングを行うことを目的とした.」(77頁1-5行)
・「[材料および方法]農研機構果樹茶部門(広島県東広島市)の圃場にて栽培・収穫されたプドウ果実を,筑波大にて分析した.官能評価においてフォクシー香を有すると評価されたブドウ8品種(‘安芸クイーン’,‘キャンベルアーリー’,‘巨峰’,‘ブラックビート’,‘ピオーネ’など),マスカット香を有するブドウ2品種(‘シャインマスカット’,‘マスカットオブアレキサンドリア’),特異香ブドウ6品種(‘デラウェア’,‘ベーリーA’,‘シャルドネ’,‘安芸津21号’など)の計16品種・系統を使用した.サンプルはすべて収穫期適期の果実であり,果皮と種子を手で除き果肉を液体窒素で凍結させ-80℃で保存した.凍結果肉より内部標準物質(2-オクタノール),塩化ナトリウムとともに抽出した揮発性物質を,ヘッドスペース固相マイクロ抽出(HS-SPME)法にて捕捉し,DB-WAXカラムを装着したGC-MS (DSQ II, Tharmo Fisher Scientific社製)を用いて分析した.」(77頁6-13行)
・「
[図:0001438261000007.jpg]
」(77頁)
エ 甲4に記載された事項
甲4には、「コンコード、ナイアガラ(Vitis labrusca, L.)およびエルヴィラ(V. labrusca, L. × V. riparia, M. )の揮発性成分」に関して、おおむね次の事項が記載されている。甲4は、外国語で記載された文献であるため、訳文にて記す。
・「要約
コンコード、ナイアガラ(V. labrusca, L.)およびエルビラ(V. labrusca, L. × V. riparia, M.)のブドウの果実から、減圧蒸留と抽出を組み合わせて揮発性成分を分離した。シリカゲル上の吸着クロマトグラフィーとガスクロマトグラフ質量分析計の組み合わせにより、25種類の酸、19種類のアルコール、22種類のカルボニル、63種類のエステル、6種類の炭化水素、10種類の雑多な構造の化合物が同定された。」(112頁Abstract欄1-7行)
・「材料と方法
コンコード、ナイアガラ、エルビラのブドウは、1978年10月と1979年10月にカナダ、オンタリオ州のナイアガラ・フォールズ地区で収穫され、500mgの粉末K2S2O5/kg(輸送中の酸化ダメージを防ぐため)を使用してビニール袋に詰められ、空輸(冷蔵0-5℃)で西ドイツのフライジング、ヴァイエンシュテファンにあるミュンヘン工科大学食品技術・分析化学研究所に送られた。
2kgの果実を手で摘み、Waringブレンダーでホモジナイズした。2つの内部標準物質(ペンチルブタン酸エステル0.90mgおよび1-ヘプタノール0.76mg)と2Lの蒸留水を加えた後、パルプを真空下(5torr, 45℃)で8時間蒸留し、蒸留物を液体窒素で冷却した3つのトラップに収集した。
4kgの希釈パルプから得られた2Lの無色の水性蒸留物中の揮発性成分は、ペンタン-ジクロロメタン混合物(2+1)を用いて8時間抽出することにより分離された。蒸留物1Lごとの抽出のために100mLの有機層が使用された(Drawertand Rapp,1968)。香りの抽出物は、以前に記載された方法(Drawert et al.,1969)に従い、Vigreuxカラム(45℃)で3mLに濃縮された。抽出には、再蒸留によってさらに精製された市販の溶媒(99%)が使用された。」(113頁左欄Materials and Methods欄)
・「
[図:0001438261000008.jpg]
」(117頁Table 5)
オ 甲5に記載された事項
甲5には、「果物の香り」のうち、ブドウの香気成分に関して、おおむね次の
事項が記載されている。
・「【香気成分】
ブドウの香気成分については多くの報告があり,現在までに約500種以上の成分が明らかにされている。ブドウは多くの品種,産地があり品種毎の香気分析も行われており,その含有する成分およびバランスが大きく異なっていることが報告されている。マスカット系のヨーロッパブドウ(V. vanifera)からは 350成分以上がが報告されておりHexanol, cis-3-Hexenol, trans-2-Hexenolなどグリーンノートのある脂肪族アルコール類,およびLinalool, Geraniolなど華やかな香りのテルペン系アルコールが重要な香気であることが知られている。コンコード系のアメリカプドウ(V. labrusca)からは150成分以上が報告されており,Methyl anthranilate, Ethyl crotonateが主成分であり,この成分が狐臭(foxy flavor)の原因であることが知られている。また,Ethyl trans-2-hexenoate, Ethyl trans-2-octenoateなどが甘いフルーティなトップノート香気として,Mesifuraneがカラメル様のベースノートに寄与する成分として報告されている。」(185頁左欄7-26行)
・「
[図:0001438261000009.jpg]
[図:0001438261000010.jpg]
」(185頁右欄から186頁左欄表1)
(2)対比・判断
本件特許発明1と甲1ないし5それぞれに記載された発明とを対比すると、甲1ないし5にはいずれも、各種の食用ブドウに含まれる揮発性成分ないし香気成分の含有量が記載されており、ヘキサン酸エチルの含有量が0.1~100ppbの範囲内である食用ブドウが記載されているものの、これらのブドウの果汁を濃縮果汁としたものを含む果汁含有飲料は記載も示唆もされていない点で少なくとも相違する。そして、甲1ないし5に記載されたヘキサン酸エチルの含有量が0.1~100ppbである食用ブドウを、そのヘキサン酸エチルの含有量を維持した状態で濃縮果汁とし、これを含む果汁含有飲料とする動機付けは、甲1ないし5及び他の証拠に記載された事項をみても見当たらない。
よって、本件特許発明1は、甲1ないし5それぞれに記載された発明ではなく、甲1ないし5それぞれに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
本件特許発明2ないし11についても同様に判断される。
(3)申立理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)ないし1-5(甲第5号証を主たる証拠とする進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし11は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由1-1ないし1-5によっては取り消すことはできない。
3 申立理由2(実施可能要件)について
特許異議申立人の主張は、上記第4 6に記載に記載したとおりである。
そこで、検討する。本件特許の発明の詳細な説明に記載された比較例1-1では、濃縮果汁を用いてヘキサン酸エチルを含まない果汁含有飲料を調整しており、本件特許発明において、赤ブドウの果汁としてヘキサン酸エチルを含まない濃縮果汁を用いれば、ヘキサン酸エチルの含有量が下限値付近に調整できることは当業者に明らかである。また、本件特許発明におけるヘキサン酸エチルの含有量の下限値は、0.1ppbであり、SPME法による定量分析の検量限界と同程度であるから、当業者であればその含有量を測定することができるといえる。
よって、申立理由2では、本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(サポート要件)について
特許異議申立人の主張は、上記第4 7に記載に記載したとおりである。
そこで、検討する。本件特許の発明の詳細な説明の【0049】~【0080】に記載された実施例及び比較例を見れば、濃縮果汁を用いてヘキサン酸エチルを含まない果汁含有飲料を調整できることは明らかであるから、本件特許の発明の詳細な説明の表2(段落【0055】)などに示されたヘキサン酸エチルの含有量は正確ではないという特許異議申立人の主張は採用することができず、他に本件特許発明がサポート要件を充足しないとする根拠も見当たらない。
よって、申立理由3では、本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
第8 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した理由及び特許異議申立書に記載した理由によっては、本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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