2022-700890
ポルトランドセメントの製造方法
- 審判番号
- 2022-700890
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-254870外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7037857
- 請求日
- 2022年09月09日
- 審決日
- 2022年10月31日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】太平洋セメント株式会社
- 【異議申立人】笹井 栄治
- 分類
- P1651.121-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 12項目
第1 手続の経緯
特許第7037857号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成29年12月28日に出願され、令和4年3月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1及び2に係る特許に対し、令和4年9月9日に特許異議申立人笹井栄治(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。
第2 本件発明
特許第7037857号の請求項1及び2の特許に係る発明(以下「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりである。
「【請求項1】ボーグ式を用いて算出した下記のセメント鉱物組成を有する普通ポルトランドセメントクリンカ、二水石膏、およびトリエタノールアミンを混合して粉砕し、ブレーン比表面積が4300~4700cm2/gのポルトランドセメントを製造する、ポルトランドセメントの製造方法であって、前記ポルトランドセメント中の全SO3が2.5~3.5質量%となるように二水石膏を混合し、かつ、普通ポルトランドセメントクリンカ100質量部に対し、トリエタノールアミンを0.017~0.043質量部混合する、ポルトランドセメントの製造方法(ただし、当該ポルトランドセメントの製造方法では、オキシカルボン酸またはその塩類、リグニンスルホン酸またはその塩類、およびII無水石膏のいずれも添加しない。)。[セメント鉱物組成]3CaO・SiO2: 55.0~65.5質量%2CaO・SiO2: 10.0~20.0質量%3CaO・Al2O3: 8.0~11.0質量%4CaO・Al2O3・Fe2O3: 8.5~11.0質量%【請求項2】普通ポルトランドセメントクリンカと二水石膏の合計100質量部に対し、石灰石、高炉スラグ、およびフライアッシュから選ばれる1種以上を、5.3質量部以下混合して粉砕する、請求項1に記載のポルトランドセメントの製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として以下の甲第1号証~甲第4号証(以下「甲1」~「甲4」という。)を提示し、本件発明1及び2は、甲1に記載された発明及び甲2~4の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである旨主張する。
<証拠方法>
第4 甲号証の記載
1 甲1について
(1)記載事項について
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甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与したものである(以下同様。)。
(甲1ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬率(H.M.)が2.10~2.30、ケイ酸率(S.M.)が1.80~2.48、鉄率(I.M.)が1.3~2.6であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合が、ボーグ式による計算値で70.0質量%以下である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、
該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO3換算で1.2質量%以上であり、かつ、該セメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合が、SO3換算で30質量%以上であることを特徴とするセメント。」
(甲1イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
早強ポルトランドセメントは、短期材齢における強度発現性が求められていることから、C3S量、又は水硬率(H.M.)を一定のレベルに保つ必要がある。C3S量、又は水硬率(H.M.)を一定のレベルに保つためには、クリンカの化学組成において、CaO量に制限(下限)が生じることになるため、CaO量を減少させる効果を有する廃棄物(特に粘土代替廃棄物)の使用量には限界があった。
そこで、本発明は、原料として用いられる廃棄物の使用量を増加させることができるとともに、早強ポルトランドセメントと同等の物理特性(具体的には、凝結、強度、及び流動性)を有するセメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水硬率、ケイ酸率、鉄率、及びC3S量が特定の数値範囲内である焼成物の粉砕物と、特定の石膏を含むセメントによれば、前記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[3]を提供するものである。
[1] 水硬率(H.M.)が2.10~2.30、ケイ酸率(S.M.)が1.80~2.48、鉄率(I.M.)が1.3~2.6であり、かつ、焼成物100質量%中の3CaO・SiO2の割合が、ボーグ式による計算値で70.0質量%以下である焼成物の粉砕物と、石膏を含むセメントであって、該セメント100質量%中の石膏の割合が、SO3換算で1.2質量%以上であり、かつ、該セメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合が、SO3換算で30質量%以上であることを特徴とするセメント。」
(甲1ウ)「【0009】
また、上記焼成物中のC3Sの量は、焼成物100質量%中の割合として、ボーグ式による計算値で70.0質量%以下、好ましくは50.0~70.0質量%、より好ましくは60.0~70.0質量%である。C3Sの割合が70.0質量%を超えると、凝結時間が短くなる。
なお、本明細書中、焼成物中のC3S、C2S、C3A、C4AFの各量は、焼成物100質量%中の割合(質量%)として、原料や焼成物の化学成分に基づき、下記のボーグの計算式を用いて算出される。
C3S(%)=(4.07×CaO(%))-(7.60×SiO2(%))-(6.72×Al2O3(%))-(1.43×Fe2O3(%))
C2S(%)=(2.87×SiO2(%))-(0.754×C3S(%))
C3A(%)=(2.65×Al2O3(%))-(1.69×Fe2O3(%))
C4AF(%)=3.04×Fe2O3(%)」
・・・
【0012】
本発明のセメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量(100質量%)に対する半水石膏の割合は、SO3換算で30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。該割合が30質量%以上であると、本発明のセメントを含むモルタル等の流動性を向上させることができる。」
(甲1エ)「【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.焼成物の製造、及び評価
焼成物の原料として、従来、ポルトランドセメントクリンカの主原料として一般的に使用されている石灰石、粘土、珪石、鉄原料等を主体とし、さらに原料代替廃棄物を用いて、焼成物の水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)、および鉄率(I.M.)が表2で示す値となるように原料を調合した。
ここで、焼成物11の原料として用いた原料代替廃棄物の、焼成物(クリンカ)1ton(表中「t」と表す。)当たりの配合量(kg)を表1に示す。該焼成物11は市販の早強ポルトランドセメントクリンカと同等の水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)、および鉄率(I.M.)を有する焼成物である。
また、他の焼成物に用いられる原料代替廃棄物は、目的とする水硬率等を有する焼成物を得るために、表1で示される原料代替廃棄物のうち、石炭灰及びR鉄原料以外の廃棄物(R石灰石、R粘土、建設発生土、及びR珪石)の使用量を可能な限り固定して、石炭灰及びR鉄原料の使用量を調整したものである。
表2中、原料代替廃棄物の使用量は、焼成例11で用いられた原料代替廃棄物の使用量を基準として、増加した量を表している。
1)原料代替廃棄物の使用量の評価
各焼成物の製造に用いられる原料代替廃棄物の使用量が、焼成例11に用いられた原料代替廃棄物の使用量(165.0kg/ton)よりも20kg/ton以上増加した焼成物は、廃棄物の使用量が十分に増加したものとして評価を「○」とした。結果を表2に示す。
表2の結果から、焼成物のケイ酸率(S.M.)が2.48を超える場合、又はC3S量が70.0質量%を超える場合、焼成物の原料代替廃棄物の使用量の評価が悪くなることがわかる。
【0017】
【表1】(略)
【0018】
【表2】
[図:0001392107000001.jpg]
【0019】
2.セメントの製造、及び評価
[実施例1~7、比較例1~13]
表2の各焼成物100質量部に対して、排脱二水石膏(住友金属社製)及び該排脱二水石膏を140℃で加熱して得られた半水石膏を、セメント100質量%中の割合として、石膏(二水石膏及び半水石膏)の割合がSO3換算で2.7質量%となる量を添加し、バッチ式ボールミルでブレーン比表面積が4500±50cm2/gとなるように同時粉砕して、セメントを調製した。なお、二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合は、全てのセメントにおいて、SO3換算で50質量%とした。
【0020】
各セメントを用いて、以下の特性を評価した。
1)焼成物の被粉砕性の評価
各セメントのブレーン比表面積と、該ブレーン比表面積となるまでに要した時間を表3に示す。
・・・
【0022】
【表3】
[図:0001392107000002.jpg]
」
なお、上記表2における「C3AF」は、上記(甲1ウ)に正しく記載されているように「C4AF」の誤記である。
(甲1オ)「【0024】
[実施例8~13、比較例14~17]
実施例8~13及び比較例14~17では、表2の焼成物6を焼成物(クリンカ)として使用した。
焼成物100質量部に対して、排脱二水石膏(住友金属社製)及び該排脱二水石膏を140℃で加熱して得られた半水石膏を、表5に示される割合で添加して、バッチ式ボールミルで118分間同時粉砕して、セメントを調製した。
・・・
【0025】
【表5】
[図:0001392107000003.jpg]
」
(2)甲1発明について
ア 上記(甲1ウ)の「本明細書中、焼成物中のC3S、C2S、C3A、C4AFの各量は、焼成物100質量%中の割合(質量%)として、原料や焼成物の化学成分に基づき、下記のボーグの計算式を用いて算出される」ことを踏まえると、上記(甲1エ)の表2におけるC3S、C2S、C3A、C4AFの質量%は、ボーグ式を用いて算出したものである。そして、その表2を参照すると、焼成物8及び18のみが、本件発明1の「[セメント鉱物組成]」を満たすことから、上記(甲1エ)の【0019】に記載されている「セメントの製造」における焼成物として「焼成物8」を用いて、甲1に記載された発明を認定することとする。
なお、「焼成物18」を用いて甲1に記載された発明を認定したとしても、その判断は、以下の第5で述べる「焼成物8」を用いて認定した場合と同じとなる。
イ 「焼成物8」を用いたときのブレーン比表面積は、表3を参照すると、4470cm2/gである。
ウ 上記ア及びイを踏まえ、上記(甲1エ)の【0019】に記載されている「セメントの製造」から、甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)を認定すると、以下のとおりである。
「ボーグ式を用いて算出した下記の組成を有する焼成物100質量部に対して、排脱二水石膏及び該排脱二水石膏を140℃で加熱して得られた半水石膏を、セメント100質量%中の割合として、石膏(二水石膏及び半水石膏)の割合がSO3換算で2.7質量%となる量を添加し、バッチ式ボールミルでブレーン比表面積が4470cm2/gとなるように同時粉砕して、セメントを製造する方法であって、二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合は、SO3換算で50質量%である、セメントの製造方法。C3S:62.0質量%C2S:15.7質量%C3A:9.1質量%C4AF:9.9質量%」
2 甲2について
甲2には、以下の事項が記載されている。
「原料(クリンカーと鉱滓の混合物)に対する粉砕助剤(トリエタノールアミン)の最適添加量を求めた。結果は図1に示す如く,トリエタノールアミンの最適量は,ボールミル,コンパウンドミル共に0.02%である。実験室ミルでは,0.02%以上を添加しても90ミクロンよりも大きい粗粉分の量は減少しないので,曲線は水平となるが,工場ミルではトリエタノールアミンが0.02%を超すと,粗粉分は逆に増加の傾向を示した。この差異の原因は,ボールミルが不連続粉砕機構であるのに対して,コンパウンドミルが連続的作用機構であることに関係がある(後述)。」(191頁右欄)
「[図:0001392107000004.jpg]」(191頁右欄)
3 甲3について
甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3ア)「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、石炭灰や建設発生土等の廃棄物を比較的多く使用し、セメントクリンカー中のAl、C3A含有量が増加した場合であっても、セメントペーストやモルタル、コンクリートの流動性を向上することができるセメント組成物、及びセメント組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、石炭灰や建設発生土等の廃棄物を比較的多量に使用し、セメント組成物中のAl含有量やC3A含有量が比較的多いセメントにおいて、セメント組成物中のストロンチウム(以下「Sr」とする)含有量、酸化マグネシウム(以下「MgO」とする)含有量が、セメントペースト、モルタル又はコンクリートの流動性の改善に影響を及ぼすことを見出し、本発明を完成するに至った。」
(甲3イ)「【0069】
得られたセメントクリンカーに二水石膏をセメント組成物中のSO3含有量が2質量%となるように混合し、更に混合材として石灰石4質量%と高炉スラグ1質量%を添加し、実機ミルでブレーン比表面積が3200~3500cm2/gになるように粉砕し、セメント組成物を得た。」
4 甲4について
甲4には、以下の事項が記載されている。
「その他の報告もほほ同様に,SO3はむしろある程度多い方が諸性質に対して良好であるとしている。しかし市販されている普通ポルトランドセメントのSO3は,JISにより2.5%以下に定められていることもあり,平均1.7%程度の低い水準で管理されている。これは主に使用されているセッコウの形態が二水型であるため,現場ミルで粉砕されるセメントはその際温度が上がり,セッコウが脱水されて半水セッコウ等に変化するので,使用する際,偽凝結等を示したりするためである。」(85頁左欄2~10行)
第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「焼成物」は、上記(甲1エ)の「焼成物の原料として、従来、ポルトランドセメントクリンカの主原料として一般的に使用されている石灰石、粘土、珪石、鉄原料等を主体とし、さらに原料代替廃棄物を用いて、焼成物の水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)、および鉄率(I.M.)が表2で示す値となるように原料を調合した。」との記載から、「ポルトランドセメントクリンカ」といえ、そして、本件特許明細書の【0013】の「普通ポルトランドセメントクリンカのセメント鉱物組成は、一般に、C3Sが50~67質量%、C2Sが9~25質量%、C3Aが8~11質量%、およびC4AFが8~11質量%である」との記載から、甲1発明の上記「組成」を鑑みれば、甲1発明の「焼成物」は「普通ポルトランドセメントクリンカ」といえる。ここで、C3S、C2S、C3A、C4AFは、各々3CaO・SiO2、2CaO・SiO2、3CaO・Al2O3、4CaO・Al2O3・Fe2O3のセメント鉱物のことである。
そうすると、甲1発明の「ボーグ式を用いて算出した下記の組成を有する焼成物」「C3S:62.0質量% C2S:15.7質量% C3A:9.1質量% C4AF:9.9質量%」は、本件発明1の「ボーグ式を用いて算出した下記のセメント鉱物組成を有する普通ポルトランドセメントクリンカ」「[セメント鉱物組成]3CaO・SiO2:55.0~65.5質量% 2CaO・SiO2:10.0~20.0質量% 3CaO・Al2O3:8.0~11.0質量% 4CaO・Al2O3・Fe2O3:8.5~11.0質量%」に相当する。
イ 上記アを踏まえると、甲1発明の「セメント」は、「ポルトランドセメント」といえることから、甲1発明の「セメント100質量%中の割合として、石膏(二水石膏及び半水石膏)の割合がSO3換算で2.7質量%となる量を添加し、バッチ式ボールミル」で処理することと、本件発明1の「ポルトランドセメント中の全SO3が2.5~3.5質量%となるように二水石膏を混合」することとは、甲1発明の「二水石膏及び半水石膏」及び本件発明1の「二水石膏」が、上位概念としての「石膏」という限りにおいて共通することから、両者は「ポルトランドセメント中の全SO3が2.5~3.5質量%となるように石膏を混合」することで共通する。
ウ 上記ア及びイを踏まえると、
甲1発明の「ボーグ式を用いて算出した下記の組成を有する焼成物100質量部に対して、排脱二水石膏及び該排脱二水石膏を140℃で加熱して得られた半水石膏を、セメント100質量%中の割合として、石膏(二水石膏及び半水石膏)の割合がSO3換算で2.7質量%となる量を添加し、バッチ式ボールミルでブレーン比表面積が4470cm2/gとなるように同時粉砕して、セメントを製造する」ことと、
本件発明1の「ボーグ式を用いて算出した下記のセメント鉱物組成を有する普通ポルトランドセメントクリンカ、二水石膏、およびトリエタノールアミンを混合して粉砕し、ブレーン比表面積が4300~4700cm2/gのポルトランドセメントを製造する」こととは、
「ボーグ式を用いて算出した下記のセメント鉱物組成を有する普通ポルトランドセメントクリンカ、石膏を混合して粉砕し、ブレーン比表面積が4300~4700cm2/gのポルトランドセメントを製造する」ことで共通する。
エ 一致点・相違点について
そうすると、本件発明と甲1発明とは、
(一致点)
「ボーグ式を用いて算出した下記のセメント鉱物組成を有する普通ポルトランドセメントクリンカ、石膏を混合して粉砕し、ブレーン比表面積が4300~4700cm2/gのポルトランドセメントを製造する、ポルトランドセメントの製造方法であって、前記ポルトランドセメント中の全SO3が2.5~3.5質量%となるように石膏を混合する、ポルトランドセメントの製造方法。[セメント鉱物組成]3CaO・SiO2: 55.0~65.5質量%2CaO・SiO2: 10.0~20.0質量%3CaO・Al2O3: 8.0~11.0質量%4CaO・Al2O3・Fe2O3: 8.5~11.0質量%」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
石膏が、本件発明1では、「二水石膏」であるのに対し、甲1発明では、「排脱二水石膏及び該排脱二水石膏を140℃で加熱して得られた半水石膏」「(二水石膏及び半水石膏)」で「二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合は、SO3換算で50質量%である」ものである点。
(相違点2)
普通ポルトランドセメントクリンカ、石膏を混合して粉砕する際に、本件発明1では、「トリエタノールアミン」も混合し、その際「普通ポルトランドセメントクリンカ100質量部に対し、トリエタノールアミンを0.017~0.043質量部混合する」のに対し、甲1発明では、「トリエタノールアミン」を混合してない点。
(相違点3)
本件発明1では、「(ただし、当該ポルトランドセメントの製造方法では、オキシカルボン酸またはその塩類、リグニンスルホン酸またはその塩類、およびII無水石膏のいずれも添加しない。)」と特定されているのに対し、甲1発明では、そのような特定はない点。
(2)相違点に対する判断
ア 相違点1について
(ア)本件特許明細書では、「石膏」について、
「【課題を解決するための手段】【0008】そこで、本発明者は前記課題を解決するため、種々検討した結果、特定のセメント鉱物組成を有する普通ポルトランドセメントクリンカ、二水石膏、およびトリエタノールアミンを特定の割合で混合して粉砕した特定のブレーン比表面積のポルトランドセメントは、早強ポルトランドセメントと同等の性状を有することを見い出し、本発明を完成させた。」
「【0015】2.二水石膏本発明で用いる石膏は二水石膏であり、II型無水石膏ではない。本発明で用いる二水石膏は、特に制限されず、例えば、天然二水石膏、排煙脱硫石膏、リン酸石膏、チタン石膏、フッ酸石膏、および精錬石膏から選ばれる、少なくとも1種以上が挙げられる。また、二水石膏の最大粒径は、粉砕機に投入する際の作業性の向上や、粉砕効率向上等の観点から、1.2mm以下が好ましい。」
「【0024】2.セメントの製造表1に示す普通ポルトランドセメントクリンカA~D、表2に示す二水石膏、および、トリエタノールアミンまたはジエチレングリコールを、表3に示すセメントの配合に従い混合した後、ボールミル(粉砕能力:86トン/時間)を用いて同時粉砕(一括粉砕)してポルトランドセメントを製造した。なお、前記ポルトランドセメントの製造に使用した石膏は二水石膏であり、II型無水石膏は使用しなかった。」
と記載されており、本件発明1で特定されるとおり、石膏として用いられるのは「二水石膏」のみであり、本件発明1の「ポルトランドセメント中の全SO3が2.5~3.5質量%となるように」「混合」する際の石膏として「二水石膏」以外の石膏を含有し得ると解されるものではない。
(イ)一方、甲1発明においては、石膏は「排脱二水石膏及び該排脱二水石膏を140℃で加熱して得られた半水石膏」「(二水石膏及び半水石膏)」で「二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合は、SO3換算で50質量%である」ものであり、甲1発明は「半水石膏」を必須とする発明である。
この点、上記(甲1ウ)に「本発明のセメント中の二水石膏及び半水石膏の合計量(100質量%)に対する半水石膏の割合は、SO3換算で30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。該割合が30質量%以上であると、本発明のセメントを含むモルタル等の流動性を向上させることができる。」と記載されているとおり、むしろ半水石膏を多く含有させるものであり、「半水石膏」を取り除いて「二水石膏」のみとすることはできない。
(ウ)そうすると、甲1発明において、「排脱二水石膏及び該排脱二水石膏を140℃で加熱して得られた半水石膏」「(二水石膏及び半水石膏)」で「二水石膏及び半水石膏の合計量に対する半水石膏の割合は、SO3換算で50質量%である」ものに代えて「二水石膏」とすることには、そもそも阻害要因があることから、石膏について記載されている上記甲3及び甲4の記載に基づいても当業者が容易になし得たこととはいえない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人は、上記相違点1に関連して、特許異議申立書で次のような主張もしていることから、当該主張について検討する。
「甲第4号証には、二水石膏は粉砕時の温度上昇により、半水石膏に変化する旨の記載があるように、二水石膏で混合しても製造過程で半水石膏に変化することもあるから、SO3含有量を調整するために二水石膏のみを混合するか半水石膏を含めて混合するかで何ら本質的な違いが生じるものではないことは、当業者にとって周知の事項である。」
b 上記主張について検討するに、本件発明1は「普通ポルトランドセメントクリンカ、二水石膏、およびトリエタノールアミンを混合して粉砕し、ブレーン比表面積が4300~4700cm2/gのポルトランドセメントを製造する、ポルトランドセメントの製造方法」であり、粉砕前の石膏として混合させるものが「二水石膏」であることを特定した方法の発明であり、粉砕後の「石膏」について特定した発明ではない。
一方、仮に、上記甲4に記載されているとおり、粉砕時に温度が上昇し、二水石膏の一部が半水石膏に変化するとしても、甲1発明は、「焼成物・・・、排脱二水石膏及び・・・半水石膏を、・・・石膏(二水石膏及び半水石膏)の割合がSO3換算で2.7質量%となる量を添加し、バッチ式ボールミルで・・・となるように同時粉砕して、セメントを製造する方法」であり、粉砕前の石膏が「(二水石膏及び半水石膏)」であることを特定したものであるから、本件発明1と甲1発明とは、粉砕前の石膏として異なるものであり、この点は製造方法の発明としての実質的な相違点である。
また、この点について、上記(甲1オ)の表5を参照するに、そこには粉砕前の二水石膏と半水石膏の割合を変えることにより、粉砕後のセメントの特性値が異なってくることが示されていることから、申立人の上記「SO3含有量を調整するために二水石膏のみを混合するか半水石膏を含めて混合するかで何ら本質的な違いが生じるものではない」との主張は、受け入れられない。
(オ)小括
したがって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲3及び4の記載、さらには甲2の記載に基づいて、当業者が容易になし得たことではない。
(3)まとめ
よって、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~4の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではないから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものはない。
2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用してより限定した発明であるから、本件発明2についても、甲1発明及び甲2~4の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではなく、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものはない。
第6 むすび
以上のとおり、本件発明1及び2は、甲1発明及び甲2~4の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではないことから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しない。
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700890