特許異議申立
2025-700911
歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセス、セラミック成形体、およびセラミック成形体の使用
- 審判番号
- 2025-700911
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-506828外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7649287
- 請求日
- 2025年09月19日
- 審決日
- 2026年01月07日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ビタ ツァーンファブリク ハー.ラウター ゲーエムベーハー ウント コー カーゲー
- 【権利者代理人】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
- 【異議申立人】松本 善行
- 分類
- P1651.561-Y (C04B) / P1651.537-Y (C04B) / P1651.536-Y (C04B) / P1651.121-Y (C04B) / 標準データ:手続:異議 / 標準データ:651・561-Y (C04B) / 標準データ:651・537 / 標準データ:651・536 / 標準データ:651・121
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条1号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)、特許情報標準データ(審判)
事件の表示
特許第7649287号発明「歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセス、セラミック成形体、およびセラミック成形体の使用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7649287号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7649287号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)8月5日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2019年8月8日(2件) (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和7年3月11日にその特許権の設定登録がされ、同年同月19日に特許掲載公報が発行され、その後、令和7年9月19日に、本件特許の請求項1~12に係る発明について、特許異議申立人 松本 善行(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許
本件特許の請求項1~12に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。以下、各請求項に係る発明及び特許を、項番に対応して「本件発明1」、「本件特許1」などといい、まとめて「本件発明」、「本件特許」ということがある。
「【請求項1】
歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセスであって、
a)セラミック粉末層混合物を調製するため、4つの異なるベース粉末を混合し、
b)ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、すくなくとも異なる5層のセラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成し、
c)前記積層セラミック粉末層をプレスして、圧縮成形体を形成し、
d)ステップc)で得られた成形体を焼結してセラミック成形体を形成するステップを含み、
少なくとも3層の前記セラミック粉末層はそれぞれ異なる量の4つの異なるベース粉末の混合物を含み、
前記ベース粉末はそれぞれ少なくとも80重量%のZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含み、それぞれの量は前記ベース粉末の総重量に基づき、
前記セラミック粉末層は、92から96重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、3.5から6.5重量%のY2O3、および0.02から0.1重量%のCo3O4からなるベース粉末Aを含み、その量は、それぞれベース粉末Aの総重量に基づき、
前記セラミック粉末層は、85から93重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および7.5から11.0重量%のEr2O3からなるベース粉末Bを含み、その量は、それぞれベース粉末Bの総重量に基づき、
前記セラミック粉末層は、90から94重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および5.5から8.0重量%のY2O3からなるベース粉末Cを含み、その量は、それぞれベース粉末Cの総重量に基づき、
前記セラミック粉末層は、90から94重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および5.5から8.0重量%のY2O3、0.1から0.3重量%のFe2O3からなるベース粉末Dを含み、その量は、それぞれベース粉末Dの総重量に基づく、プロセス。
【請求項2】
前記ベース粉末のうちのすべてが、Y2O3および/またはEr2O3を、少なくとも6重量%から10重量%含み、その量は前記ベース粉末の成分の総重量に基づく、ことを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ベース粉末のうちの3つは、着色金属酸化物を含む、ことを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記ベース粉末のうちの3つは、ジルコニアおよび酸化ハフニウムを、90重量%から96重量%含み、それぞれの量は前記ベース粉末の成分の総重量に基づく、ことを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
少なくとも2つの前記セラミック粉末層の厚さが異なり、前記積層セラミック粉末層の厚さを100%としたとき、少なくとも5%の厚さの差を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
少なくとも1つの外側の前記セラミック粉末層が、両方の外側の前記セラミック粉末層の間にある前記セラミック粉末層よりも厚い、ことを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
d)で予備焼結された前記セラミック成形体は、サブトラクティブ方法によって処理され、別のステップで最終焼結が続く、ことを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記ベース粉末は、40μmから60μmの平均粒径D50を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記ベース粉末の無機成分は、レーザー回折による測定で、0.2から0.7μmの平均粒子サイズD50を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
Fe2O3の濃度は外側の粉末層から進んで層から層へと増加し、すべての粉末層は0.1から0.18重量%のFe2O3を含み、その量は粉末層の総重量に基づく、ことを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
請求項1から10の何れか1項に記載のプロセスによって得られる、セラミック成形体。
【請求項12】
歯科修復物のための、請求項11に記載のセラミック成形体の使用。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する申立理由は、概略、以下のとおりである。
1 申立理由1(新規事項の追加)
令和6年11月12日提出の手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、下記第4の1(1)の点で、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
2 申立理由2(サポート要件違反)
本件特許1~12は、特許請求の範囲の記載が下記第4の2(1)ア~クの点で不備であるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 申立理由3(実施可能要件違反)
本件特許1~12は、特許請求の範囲の記載が下記第4の3(1)ア~クの点で不備であるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4 申立理由4(明確性要件違反)
本件特許1~12は、特許請求の範囲の記載が下記第4の4(1)ア~セの点で不備であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
5 申立理由5(進歩性欠如)
本件発明1~12は、下記6の甲第1号証~甲第6号証のいずれかに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1~12は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
6 証拠方法
甲第1号証:特開2017-185163号公報
甲第2号証:中国特許出願公開第104844200号明細書
甲第3号証:国際公開第2014/181828号
甲第4号証:中国特許出願公開第102285795号明細書
甲第5号証:特表2015-531646号公報
甲第6号証:中国特許出願公開第103058655号明細書
以下、甲各号証を証拠番号に沿って「甲1」等という。
第4 当審の判断
1 申立理由1(新規事項の追加)について
(1)申立理由1の内容(特許異議申立書(3-6)ア)
本件補正により、請求項1の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」の組成について、同請求項中の各成分「を含む」との記載が、当該成分「からなる」との記載に変更された。
しかし、当初明細書等には、当該成分「を含む」ことの記載しかなく、当該成分「からなる」こと、及び、当該成分以外の成分を含まないことの記載はない。また、本件明細書の実施例の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」はいずれも、有機バインダーを含むものであり、当該成分「からなる」ものではない。さらに、これらの粉末が当該成分「からなる」ことが技術常識からみて自明な事項であるともいえない。
したがって、請求項1の「を含む」との記載を「からなる」との記載に変更することは、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
(2)新規事項の有無についての検討
上記(1)のとおり「からなる」との記載に変更する補正について、当初明細書等の記載を確認する。なお、本件特許の出願以降、明細書の発明の詳細な説明の記載に対する補正はなされていないため、本件特許掲載公報における各段落の記載内容は、以下に示す出願時の明細書における各段落の記載内容と同一である。
本件発明のベース粉末の組成に関して、出願時の明細書における【0021】には、「本発明のベース粉末はそれぞれ、少なくとも80重量%のZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含み、それぞれ量は前記ベース粉末の総重量に基づく」と記載されており、他の箇所においても、この記載が前提とされているところ、ZrO2及びAl2O3は、必須の含有成分であることが当初明細書等から読み取れる。
また、同【0022】、【0023】には、ベース粉末の「好ましい実施形態」として、「焼結状態でのジルコニアベースのセラミックの相安定化に有利」な「イットリア(Y2O3)および/または酸化エルビウム(Er2O3)」を含有できることが記載されており、同【0024】には、「一実施形態」として、「酸化鉄(Fe2O3)、酸化コバルト(Co3O4)、酸化エルビウム(Er2O3)からなる群から選択され」る「着色金属酸化物」を含有できることが記載されている。さらに、同【0025】には、「場合によりハフニア」を含有できること、同【0031】には、「別の実施形態」として「有機成分をさらに」含有できることが記載されている。これらの記載から、上述の必須の含有成分以外の成分として、上記相安定化成分、着色金属酸化物成分、ハフニア、有機成分のいずれか1つ以上を採用できることが読み取れる一方、ハフニアや有機成分が常に含有されるべき成分であるとは読み取れない。
加えて、同【0027】~【0030】には、「好ましい実施形態」の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」における、上記必須の含有成分、相安定化成分、着色金属酸化物成分それぞれの具体的な含有量として、本件請求項1に記載の含有量を採用できることが記載されている。
以上からすると、「ベース粉末A」~「ベース粉末D」において、ハフニアや有機成分等を含有させずに、上記必須の含有成分、相安定化成分、着色金属酸化物成分のみを含有させる(つまり、「からなる」)構成とし、各含有成分の含有量として本件請求項1に記載の含有量を採用することは、上述の当初明細書等の記載から導かれる事項といえる。
(3)申立理由1についての結論
以上のとおり、本件補正は当初明細書等に記載された事項の範囲内でなされたものであるから、申立理由1には、理由がない。
2 申立理由2(サポート要件違反)について
(1) 申立理由2の内容(特許異議申立書(3-7)ア~ク)
ア ベース粉末の粒径
歯科修復物の調製に使用するための焼結成形体の強度は、原材料である粉末の粒径によって変化するものであることが技術常識であるところ、本件発明1のベース粉末は、その粒径D50が特定されていない。
一方、本件明細書には、ベース粉末の粒径D50が40から80μmの範囲内の場合に、「最終製品の透光性と強度の両方を個別に調整できる」との本件発明の課題が解決されたことが実施例で示されているものの、当該数値範囲外の場合に上記課題が解決されたことは示されていない。
そのため、本件特許の出願時の技術常識に照らせば、ベース粉末の粒径D50が40から80μmの範囲外の如何なる粒径の場合でも、上記課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
イ ベース粉末無機成分の平均粒子サイズ
本件明細書【0034】の記載によれば、ベース粉末の無機成分の粒子サイズD50は、粉末層間の色の勾配に寄与するものであるところ、本件発明1のベース粉末の無機成分は、その粒子サイズD50が特定されていない。
一方、本件明細書には、ベース粉末の無機成分の粒子サイズ(粒度)D50が、0.2から0.7μmの範囲内の場合に、「段階的なカラーグラデーションを生成できる」との本件発明の課題が解決されたことが実施例で示されているものの、当該数値範囲外の場合に上記課題が解決されたことは示されていない。
そのため、本件特許の出願時の技術常識に照らせば、ベース粉末の無機成分の粒子サイズD50が0.2から0.7μmの範囲外の如何なる粒子サイズの場合でも、上記課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
ウ 4つの異なるベース粉末
本件発明1の「4つの異なるベース粉末」は、各粉末が如何なる点で異なるかが特定されていないため、その粒径のみが異なる場合を包含している。
一方、本件明細書には、4つのベース粉末の組成が互いに異なる場合に、「段階的なカラーグラデーションを生成できる」との本件発明の課題が解決されたことが実施例で示されているものの、4つのベース粉末の組成が互いに異ならない場合に上記の課題が解決されたことは示されていない。
そのため、本件特許の出願時の技術常識に照らせば、4つのベース粉末の組成が互いに異ならない場合でも、上記課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
エ 異なる5層のセラミック粉末層
本件発明1の「異なる5層のセラミック粉末層」は、各粉末層が如何なる点で異なるかが特定されていないため、その粒径のみが異なる場合を包含している。
一方、本件明細書には、5層のセラミック粉末層の組成が互いに異なる場合に、「段階的なカラーグラデーションを生成できる」との本件発明の課題が解決されたことが実施例で示されているものの、5層のセラミック粉末層の組成が互いに異ならない場合に上記の課題が解決されたことは示されていない。
そのため、本件特許の出願時の技術常識に照らせば、5層のセラミック粉末層の組成が互いに異ならない場合でも、上記課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
オ 積層セラミック粉末層
本件発明1の「積層セラミック粉末層」は、5層のセラミック粉末層を「含む」と特定されているため、当該5層のセラミック粉末層以外の粉末層を含む場合を包含している。
一方、本件明細書には、積層セラミック粉末層が、互いに組成が異なる5層のセラミック粉末層「からなる」場合に、「段階的なカラーグラデーションを生成できる」との本件発明の課題が解決されたことが実施例で示されているものの、積層セラミック粉末層が4つの異なるベース粉末を含まない他の粉末層を含む場合に上記の課題が解決されたことは示されていない。
そのため、本件特許の出願時の技術常識に照らせば、互いに組成が異なる5層のセラミック粉末層の間に、4つのベース粉末を含まない他の粉末層を含む場合でも、上記課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
カ 「少なくとも3層」以外のセラミック粉末層の組成
本件発明1の「5層のセラミック粉末層」は、「少なくとも3層」についてのみ「4つの異なるベース粉末の混合物」を含むと特定されているため、「少なくとも3層」以外の他の2層が4つの異なるベース粉末を含まない場合を包含している。
一方、本件明細書には、積層セラミック粉末層が、互いに組成が異なる5層のセラミック粉末層からなる場合に、「段階的なカラーグラデーションを生成できる」との本件発明の課題が解決されたことが実施例で示されているものの、「少なくとも3層」以外の他の2層が4つの異なるベース粉末を含まない場合に上記の課題が解決されたことは示されていない。
そのため、本件特許の出願時の技術常識に照らせば、「少なくとも3層」以外の他の2層が4つの異なるベース粉末を含まない場合でも、上記課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
キ セラミック粉末層の組成
本件発明1の「5層のセラミック粉末層」は、「少なくとも3層」及びそれ以外の他の2層とも、「4つの異なるベース粉末の混合物」「からなる」とは特定されていないため、各粉末層が4つの異なるベース粉末以外の成分を含む場合を包含している。
一方、本件明細書には、5層のセラミック粉末層が4つのベース粉末A~D「からなる」場合に、「段階的なカラーグラデーションを生成できる」との本件発明の課題が解決されたことが実施例で示されているものの、各粉末層が4つの異なるベース粉末以外の成分を含む場合に上記の課題が解決されたことは示されていない。
そのため、本件特許の出願時の技術常識に照らせば、各粉末層が4つの異なるベース粉末以外の成分を含む場合でも、上記課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
ク ベース粉末の組成
本件発明1の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」は、本件請求項1に記載の各成分「からなる」ことが特定されている。
一方、上記1(1)と同様に、本件明細書には、ベース粉末A~Dが当該成分「からなる」ことの記載はなく、また、当該成分「からなる」ことが技術常識からみて自明な事項であるともいえない。
そのため、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
(2)サポート要件の適否についての検討
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点により検討する。
イ 本件発明の課題
本件明細書の発明の詳細な説明の【0002】、【0003】によれば、「セラミック製の歯科修復物には、ガラスセラミックと酸化物セラミックの両方の材料が市場に出回って」おり、後者の材料である「層状ジルコニアブロックを使用すると、高い強度を実現できる」ものの、「これらは通常不透明である」ために、「手作業による手直し」によって「焼結修復物を自然な歯の色に個別にカラーマッチングすること」が必要となるとの事情があったことが把握できる。
そして、【0004】の【発明が解決しようとする課題】からすると、本件発明の課題は、上述の事情に鑑み、「セラミック修復物に自然な色調のグラデーションを生成すること」及び当該セラミック修復物の「強度、特にそれらのエッジ強度、透光性、および加工性」に関する「高い要求」を満たすものとすることであるといえる。
ウ 発明の詳細な説明に記載された課題解決手段
(ア)上記課題の記載を受けた【課題を解決するための手段】として、【0005】には、「数種類のベース粉末を含むシステムを用いることで、最終製品の透光性と強度の両方を個別に調整できるセラミック成形体に段階的なカラーグラデーションを生成できる」と記載されている。
また、【0009】には、「セラミック粉末層は、少なくとも3つの識別可能なベース粉末からな」り、「それぞれ隣接する粉末層は、それらの化学組成および/または物理的特性が異な」り、「個々の粉末層の組成の違いは、選択された適切なベース粉末の種類と量によって達成することができる」旨が記載され、【0011】には、「それら(粉末層)の組成に関してそれぞれ異なる4つまたは5つのセラミック粉末層を提供することが有利であ」り、「特に5つ以上のセラミック粉末層を使用することで、歯科修復物にとって重要な良好な色の勾配と物性の勾配を実現することができ」、「人工歯のより明るい先端および象牙質領域への段階的な移行で調整することができ、審美的および機械的な要求を満たすことができる」旨が記載されている。
(イ)上記「少なくとも3つの識別可能なベース粉末」について、【0021】には、「本発明のベース粉末はそれぞれ、少なくとも80重量%のZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含み、それぞれ量は前記ベース粉末の総重量に基づく」ものであり、「ベース粉末は歯科修復物の製造に適しているため、焼結状態でも生体適合性の要件を満たして」おり、「ベース粉末の混合は、各セラミック粉末層で個々の着色と透光性を達成することができ、これは、隣接する粉末層がある場合は、連続的かつ段階的なカラーグラデーションをもたらすように選択される」旨が記載されている。
加えて、上記「ベース粉末」について、【0022】~【0024】には、「セラミックの相安定化に有利な」イットリア(Y2O3)および/または酸化エルビウム(Er2O3)」や、「個々の歯の色を作り出す」「着色金属酸化物」としての「酸化鉄(Fe2O3)、酸化コバルト(Co3O4)、酸化エルビウム(Er2O3)」を添加することも記載されており、【0027】~【0030】には、組成が異なる4種のベース粉末の組成例が記載されている。
(ウ)【0051】以降には、【実施例】として、80重量%以上のZrO2と、0.02重量%以上のAl2O3とを含み、相安定化成分や着色金属酸化物の含有量が上記(イ)の組成例における含有量と同一である4種のベース粉末を用いて、各粉末の混合量を変更することで組成の異なる5層のセラミック粉末層を形成し、段階的なカラーグラデーション(色調の勾配)や硬度の勾配を有するセラミック成形体を製造した具体例が記載されている。
(エ)上記(ア)の記載からすると、ベース粉末から複層のセラミック粉末層を形成するにあたり、組成が異なる数種類のベース粉末の混合量を調整すれば、個々の粉末層の組成を変化させ、各粉末層の透光性と強度の両方を個別に調整可能であり、このような個別調整により透光性と強度を段階的に変化させれば、セラミック製の歯科修復物に求められる色調や強度の勾配を生じさせられることが認識でき、上記(ウ)の具体例も当該認識を裏付けるものといえる。
ここで、組成の異なる2種以上のベース粉末を用いれば、その混合量の調整により、セラミック粉末層の組成を変化させることができ、3層以上のセラミック粉末層によれば、各層の特性の「グラデーション」(段階的な変化)を生じさせ得ることからすれば、ベース粉末混合量の調整により、各セラミック粉末層の組成を段階的に変化させて、色調や強度の勾配を生じさせるという上述の機序自体は、2種以上のベース粉末を用いて3層以上のセラミック粉末層を形成する場合に発現可能であり、上記(ア)及び(ウ)のベース粉末数(「少なくとも3つ」、「4種」)やセラミック粉末層数(「4つまたは5つ」、「5つ以上」)は、本件発明の課題を解決するにあたって好適な実施形態であるといえる。
また、上記(イ)の記載からすると、ベース粉末として、セラミック製の歯科修復物の製造に適し、生体適合性の要件を満たす、少なくとも80重量%のZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含むものであり、かつ、強度や色調の調整のために、相安定化成分や着色金属酸化物を含むものを用いることで、要求特性を満足する歯科修復物を製造可能であることが認識でき、上記(ウ)の具体例も当該認識を裏付けるものといえる。
なお、歯科修復物の色調や強度を調整可能とするにあたっては、ベース粉末のいずれかに相安定化成分及び/又は着色金属酸化物を含ませる必要があるといえるが、これらの成分の具体的な化合物種や含有量は、実際に製造する際の製品特性に応じて調整されるものであるところ、上記(イ)及び(ウ)に記載の化合物種や含有量は、あくまで好適な実施形態であって、当該実施形態以外の相安定化成分、着色金属酸化物やそれらの含有量によって、色調や強度の勾配が生じさせられないとは認識されない。
エ 発明の詳細な説明の記載と特許請求の範囲の記載との対比
上記ウ(エ)からすると、発明の詳細な説明の記載から、上記イの課題を解決するために、次の2点が肝要であることが認識できるといえる。
・組成が異なる2種以上のベース粉末の混合量を調整し、3層以上のセラミック粉末層における各層の組成を変化させること。
・ベース粉末として、セラミック製の歯科修復物の製造に適した80重量%以上のZrO2と、0.02重量%以上のAl2O3とを含み、相安定化成分及び/又は着色金属酸化物を含むものを用いること。
一方、特許請求の範囲に記載される本件発明1は、
「歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセス」
であることが特定された上で、
「a)セラミック粉末層混合物を調製するため、4つの異なるベース粉末を混合し、
b)ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、すくなくとも異なる5層のセラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成」
することと、
「少なくとも3層の前記セラミック粉末層はそれぞれ異なる量の4つの異なるベース粉末の混合物を含」
むことが特定され、さらに、「4つの異なるベース粉末」として、「ベース粉末A」~「ベース粉末D」という、「それぞれ少なくとも80重量%のZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含み」、相安定化成分(Y2O3、Er2O3)及び/又は着色金属酸化物(Fe2O3、Co3O4、Er2O3)も含む粉末用いることが特定されている。
上記特定事項は、本件発明の課題解決に必要な上述の2点を満足するものであり、その上、ベース粉末の数や、ベース粉末含有成分の化合物種や成分量についても好適な実施形態を採用しているものであるから、当該特定事項を有する本件発明1は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決可能であると認識できる範囲のものであり、サポート要件を満たすものといえる。
本件発明2~10、12も、本件発明1の全ての構成を含むプロセス又は使用(方法)の発明であるから、上述と同様にサポート要件を満たすものといえる。
本件発明11も、本件発明1のとおり製造されたことにより、色調及び強度の勾配を有するセラミック成形体、つまり、上記イの課題を解決したセラミック成形体の発明であるから、サポート要件を満たすものといえる。
(3)申立人の主張について
上記(2)のとおり、本件発明はサポート要件を満たすものであるが、念のため、上記(1)ア~クの申立人の主張内容についても検討する。
ア ベース粉末の粒径
申立人は、ベース粉末の粒径D50を一定範囲内とする必要がある旨を主張している。
しかしながら、当該粒径D50が如何なる数値であっても、組成が異なるベース粉末の混合量を層別に変更すれば、各層の色調や強度を変更することが可能であるため、ベース粉末の混合量の変更に加えて、さらに粒径D50を規定する必要があるとはいえない。
イ ベース粉末無機成分の平均粒子サイズ
申立人は、ベース粉末無機成分の平均粒子サイズを一定範囲内とする必要がある旨を主張している。
しかしながら、当該平均粒子サイズが如何なる数値であっても、組成が異なるベース粉末の混合量を層別に変更すれば、各層の色調や強度を変更することが可能であるため、ベース粉末の混合量の変更に加えて、さらに無機成分の平均粒子サイズを規定する必要があるとはいえない。
ウ 4つの異なるベース粉末
申立人は、ベース粉末の如何なる点が異なるのかが特定されておらず、本件発明はベース粉末の組成が異ならない態様を包含しているという前提で、本件発明がサポート要件を満たさない旨を主張している。
しかしながら、本件請求項1には、「ベース粉末A」~「ベース粉末D」の組成が記載されており、これらの組成は互いに異なるものであるところ、これらの粉末の混合量を調整することにより、セラミック粉末層の組成も調製することができるから、ベース粉末の組成が異ならない態様を包含しているという誤った前提に基づく申立人の主張は、妥当ではない。
エ 異なる5層のセラミック粉末層
申立人は、セラミック粉末層の如何なる点が異なるのかが特定されておらず、本件発明はセラミックス粉末層の組成が異ならない態様を包含しているという前提で、本件発明がサポート要件を満たさない旨を主張している。
しかしながら、本件請求項1には、「少なくとも3層の前記セラミック粉末層はそれぞれ異なる量の4つの異なるベース粉末の混合物を含」むことが記載されており、この構成によれば、少なくとも3層のセラミック粉末層については、組成が異なる粉末層であることが規定されているといえ、それにより、特性の段階的な変化を生じさせられるものであるといえるから、セラミックス粉末層の組成が異ならない態様を包含しているという誤った前提に基づく申立人の主張は、妥当ではない。
オ 積層セラミック粉末層
申立人は、本件発明1が、「5層のセラミック粉末層」以外の、4種のベース粉末を含まない他の層を含み得ること、特に、組成が異なるセラミック粉末層の間に当該ベース粉末を含まない層を含み得ることから、本件発明がサポート要件を満たさない旨を主張している。
しかしながら、本件請求項1には、「カラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセス」として、「少なくとも3層の前記セラミック粉末層はそれぞれ異なる量の4つの異なるベース粉末の混合物を含」むことが記載されているところ、本件発明1は、少なくとも当該「3層」の部分によって、層組成の変化による特性のグラデーションを形成するプロセスであると解するのが自然であり、このような特性のグラデーションが形成されれば、本件発明の課題が解決されたものとなる。そうすると、申立人が主張するようなベース粉末を含まない層が、所定のセラミック粉末層間に位置し、グラデーションの形成を阻害するような態様までも、本件発明に包含されると解するのは妥当ではない。
カ 「少なくとも3層」以外の層の組成
申立人は、本件発明1の「少なくとも3層」以外の他の2層が4つの異なるベース粉末を含まない場合を包含していることから、本件発明がサポート要件を満たさない旨を主張している。
しかしながら、上記オでも確認したとおり、本件発明1は、少なくとも当該「3層」の部分において、層組成の変化による特性のグラデーションを形成するものと解されるところ、他の2層の構成によらず、本件発明の課題を解決可能であるといえるから、申立人の当該主張は、妥当ではない。
キ セラミック粉末層の組成
申立人は、本件発明1の各粉末層が4つの異なるベース粉末以外の成分を含む場合を包含していることから、本件発明がサポート要件を満たさない旨を主張している。
しかしながら、各粉末層にベース粉末A~D以外の成分が含有されるとしても、ベース粉末A~Dの混合量の調整により、各粉末層の組成を変化させることは当然に可能であり、各粉末層の組成を変化させれば、特性のグラデーションを形成させることができるところ、各粉末層に他の成分が含有される場合でも、本件発明の課題を解決可能であるといえるから、申立人の当該主張は、妥当ではない。
ク ベース粉末の組成
申立人は、上記1(1)の申立理由1と同様の論旨で、ベース粉末A~Dが本件請求項1に記載の各成分「からなる」ことは、本件の発明の詳細な説明に記載されていない旨を主張している。
しかしながら、上記1(2)と同様に、本件明細書の特に【0021】~【0031】の記載をみれば、ベース粉末として、「少なくとも80重量%のZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3と」を必須の含有成分とし、当該必須の含有成分以外の成分として、「イットリア(Y2O3)および/または酸化エルビウム(Er2O3)」の「相安定化」成分と、「酸化鉄(Fe2O3)、酸化コバルト(Co3O4)、酸化エルビウム(Er2O3)からなる群から選択され」る「着色金属酸化物」を本件請求項1に記載の含有量で含有できることが読み取れるとともに、「場合によりハフニア」を含有でき、「別の実施形態」として「有機成分をさらに」含有できることが読み取れる一方、ハフニアや有機成分が常に含有されるべき成分であるとは読み取れない。
そのため、ベース粉末A~Dにおいて、ハフニアや有機成分等を含有させずに、上記必須の含有成分、相安定化成分、着色金属酸化物成分のみを含有させる(つまり、「からなる」)構成とし、各含有成分の含有量として本件請求項1に記載の含有量を採用することは、本件の発明の詳細な説明に記載された事項であるといえる。
(4)申立理由2についての結論
以上のとおり、本件発明はサポート要件を満たすものであるから、申立理由2には、理由がない。
3 申立理由3(実施可能要件違反)について
(1)申立理由3の内容(特許異議申立書(3-8)ア~ク)
ア ベース粉末の粒径
上記2(1)アと同様に、発明の詳細な説明の記載からでは、ベース粉末の粒径D50が40から80μmの範囲外の如何なる粒径の場合でも、本件発明の課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記場合についての本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
イ ベース粉末無機成分の平均粒子サイズ
上記2(1)イと同様に、発明の詳細な説明の記載からでは、ベース粉末の無機成分の粒子サイズD50が0.2から0.7μmの範囲外の如何なる粒子サイズの場合でも、本件発明の課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記場合についての本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
ウ 4つの異なるベース粉末
上記2(1)ウと同様に、発明の詳細な説明の記載からでは、4つのベース粉末の組成が互いに異ならない場合でも、本件発明の課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記場合についての本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
エ 異なる5層のセラミック粉末層
上記2(1)エと同様に、発明の詳細な説明の記載からでは、5層のセラミック粉末層の組成が互いに異ならない場合でも、本件発明の課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記場合についての本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
オ 積層セラミック粉末層
上記2(1)オと同様に、発明の詳細な説明の記載からでは、互いに組成が異なる5層のセラミック粉末層の間に、4つのベース粉末を含まない他の粉末層を含む場合でも、本件発明の課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記場合についての本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
カ 「少なくとも3層」以外のセラミック粉末層の組成
上記2(1)カと同様に、発明の詳細な説明の記載からでは、「少なくとも3層」以外の他の2層が4つの異なるベース粉末を含まない場合でも、本件発明の課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記場合についての本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
キ セラミック粉末層の組成
上記2(1)キと同様に、発明の詳細な説明の記載からでは、各粉末層が4つの異なるベース粉末以外の成分を含む場合でも、本件発明の課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記場合についての本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
ク ベース粉末の組成
上記2(1)クと同様に、発明の詳細な説明の記載からでは、所定成分「からなる」ベース粉末A~Dによって、本件発明の課題が解決可能であることを当業者が認識できない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記ベース粉末A~Dが特定された本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
(2)実施可能要件の適否についての検討
ア 実施可能要件の判断手法
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明において、発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断すべきものである。
以下、この観点により検討する。
イ 発明の詳細な説明の記載事項
発明の詳細な説明の【0007】には、以下の記載がある。
「本発明は、歯科修復物の製造に使用するためのカラーグラデーションを有する焼結成形体の製造方法に関するものであり、a)セラミック粉末層混合物を調製するため、少なくとも3つの異なるベース粉末を混合し、b)ステップa)で得られたセラミック粉末層混合物を積み重ねて、すくなくとも異なる5層の積層セラミック粉末層を形成し、c)前記積層セラミック粉末層をプレスして、圧縮成形体を形成し、d)ステップc)で得られた成形体を焼結してセラミック成形体を形成するステップを含み、各セラミック粉末層は少なくとも3つの異なるベース粉末の混合物を含み、前記ベース粉末はそれぞれ少なくとも80重量%のZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含み、それぞれ量は前記ベース粉末の総重量に基づく。」
また、【0012】~【0034】には、上記「ステップa)」で混合される「ベース粉末」の具体的な説明が記載されており、その中には、上記2(2)ウ(イ)でも確認したベース粉末中の各成分の化合物種や含有量の説明も含まれている。さらに、【0035】~【0042】には、上記「ステップb)」~「ステップd)」において採用され得る具体的条件の説明が記載されている。
そして、上記2(2)ウ(ウ)でも確認したとおり、【0051】以降には、【実施例】として、80重量%以上のZrO2と、0.02重量%以上のAl2O3とを含み、相安定化成分や着色金属酸化物の含有量が上記(イ)の組成例における含有量と同一である4種のベース粉末を用いて、各粉末の混合量を変更することで組成の異なる5層のセラミック粉末層を形成し、段階的なカラーグラデーション(色調の勾配)を有するセラミック成形体を製造した具体例が記載されている。
ウ 実施可能要件の判断
上記イからすれば、本件の発明の詳細な説明には、本件発明の「ステップa)」~「ステップd)」を含むプロセスを実施するため、あるいは、当該プロセスにより得られる本件発明のセラミック成形体を製造するために必要となる、ベース粉末の態様や各ステップの一連の条件が、具体的な製造例を示しつつ開示されているといえる。
したがって、本件発明1~12については、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明において、発明の構成等が記載されているといえる。
(3)申立人の主張について
上記(2)のとおり、本件発明は実施可能要件を満たすものであるが、念のため、上記(1)ア~クの申立人の主張内容についても検討する。
申立人は、要するに、本件発明に包含される一部の構成が、本件発明の課題を解決できないものであることを指摘し、そのことを以て実施可能要件違反であると結論づけている。
しかしながら、特定の場合や構成について、課題解決が可能であるかどうかと、その実施が可能であるかどうかは、直接対応するものではなく、実施可能要件は、上記(2)アの手法に従って判断されるべきものであり、当該手法に沿って判断すると、上記(2)イ及びウのとおりとなる。加えて、上記2(3)ア~クで検討したとおり、そもそも、上記(1)ア~クで申立人が指摘する点によって、本件発明が課題を解決できないものであるということもできない。
したがって、実施可能要件に関する申立人の主張は、いずれも妥当ではない。
(4)申立理由3についての結論
以上のとおり、本件発明の詳細な説明は、本件発明についての実施可能要件を満たすものであるから、申立理由2には、理由がない。
4 申立理由4(明確性要件違反)について
(1)申立理由4の内容(特許異議申立書(3-9)ア~セ)
ア 4つの異なるベース粉末
本件発明1の「4つの異なるベース粉末」は、如何なる点で異なるのかが特定されていないから、本件発明1~12は、明確でない。
イ 異なる5層のセラミック粉末層
本件発明1の「異なる5層のセラミック粉末層」は、如何なる点で異なるのかが特定されていないから、本件発明1~12は、明確でない。
ウ ベース粉末Aにおけるジルコニア含有量の下限値
本件発明1の「ベース粉末A」におけるジルコニア含有量の下限値は、他の全ての成分含有量の上限値を加算しても100重量%未満となるから、本件発明1~12は、明確でない。
エ ベース粉末AにおけるY2O3含有量の下限値
本件発明1の「ベース粉末A」におけるY2O3含有量の下限値は、他の全ての成分含有量の上限値を加算しても100重量%未満となるから、本件発明1~12は、明確でない。
オ ベース粉末Bにおけるジルコニア含有量の下限値
本件発明1の「ベース粉末B」におけるジルコニア含有量の下限値は、他の全ての成分含有量の上限値を加算しても100重量%未満となるから、本件発明1~12は、明確でない。
カ ベース粉末BにおけるEr2O3含有量の下限値
本件発明1の「ベース粉末B」におけるEr2O3含有量の下限値は、他の全ての成分含有量の上限値を加算しても100重量%未満となるから、本件発明1~12は、明確でない。
キ ベース粉末Cにおけるジルコニア含有量の下限値
本件発明1の「ベース粉末C」におけるジルコニア含有量の下限値は、他の全ての成分含有量の上限値を加算しても100重量%未満となるから、本件発明1~12は、明確でない。
ク ベース粉末CにおけるY2O3含有量の下限値
本件発明1の「ベース粉末C」におけるY2O3含有量の下限値は、他の全ての成分含有量の上限値を加算しても100重量%未満となるから、本件発明1~12は、明確でない。
ケ ベース粉末Dにおけるジルコニア含有量の下限値
本件発明1の「ベース粉末D」におけるジルコニア含有量の下限値は、他の全ての成分含有量の上限値を加算しても100重量%未満となるから、本件発明1~12は、明確でない。
コ ベース粉末DにおけるY2O3含有量の下限値
本件発明1の「ベース粉末D」におけるY2O3含有量の下限値は、他の全ての成分含有量の上限値を加算しても100重量%未満となるから、本件発明1~12は、明確でない。
サ ベース粉末Bにおけるジルコニア含有量の上限値
本件発明1の「ベース粉末B」におけるジルコニア含有量の上限値は、他の全ての成分含有量の下限値を加算しても100重量%未満となるから、本件発明1~12は、明確でない。
シ ベース粉末BにおけるEr2O3含有量の上限値
本件発明1の「ベース粉末B」におけるEr2O3含有量の上限値は、他の全ての成分含有量の下限値を加算しても100重量%未満となるから、本件発明1~12は、明確でない。
ス 酸化ハフニウム
本件発明4では、ベース粉末が酸化ハフニウム(ハフニア)を含み得ることが特定されているが、この特定事項は、本件発明1のベース粉末A~Dが本件請求項1に記載の成分「からなる」(つまり、ベース粉末A~Dが酸化ハフニウムを含まない)との特定事項と矛盾しているから、本件発明4~12は、明確でない。
(当審注:特許異議申立書第38ページでは、「本件(特許)発明3」における「ハフニウム」についての記載不備として主張されているが、文脈からみて「本件発明4」における「酸化ハフニウム(ハフニア)」についての主張と解する。)
セ Fe2O3
本件発明10では、「すべての粉末層」がFe2O3を含むことが特定されているが、この特定事項は、本件発明1のベース粉末A~Cが本件請求項1に記載の成分「からなる」(つまり、ベース粉末A~CがFe2O3を含まない)との特定事項と矛盾しているから、本件発明10~12は、明確でない。
(2)明確性要件の適否についての検討
特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そして、以下に示すとおり、上記(1)ア~セで申立人が指摘する点は、いずれも、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確な点であるとはいえない。
ア 4つの異なるベース粉末
本件発明1の「4つの異なるベース粉末」は、その文言上、4つに分類できる程度に、何らかの形態や物性等が異なっているという意味として理解できるから、そもそも、如何なる点で異なるのかが直接的に特定されていないこと自体を理由として、発明が不明確であるということにはならない。
しかも、本件発明1の「4つの異なるベース粉末」は、ベース粉末A~Dとして、少なくとも組成が異なることが特定されているから、如何なる点で異なるのかが特定されていないという指摘も妥当ではない。
イ 異なる5層のセラミック粉末層
本件発明1の「異なる5層のセラミック粉末層」は、その文言上、5層に分類できる程度に、何らかの形態や物性等が異なっているという意味として理解できるから、そもそも、如何なる点で異なるのかが直接的に特定されていないこと自体を理由として、発明が不明確であるということにはならない。
しかも、本件発明1の「異なる5層のセラミック粉末層」の「少なくとも3層」については、「それぞれ異なる量の4つの異なるベース粉末の混合物を含」むものとして、少なくとも組成が異なることが特定されているから、如何なる点で異なるのかが特定されていないという指摘も妥当ではない。
ウ ベース粉末Aにおけるジルコニア含有量の下限値
本件発明1の「ベース粉末A」におけるジルコニア含有量の下限値は、確かに、他の全ての成分含有量の上限値を加算しても100重量%未満となり、本件発明1の「からなる」との規定と形式的に矛盾し得るとはいえる。
しかしながら、ベース粉末Aの組成範囲に関しては、本件明細書【0027】に各成分「を含む」と記載されているとおり、もともと他の成分を含有し得る数値範囲、つまり、上記下限値を取り得る数値範囲が包含されていたものである一方、本件発明1の特定事項としては、「からなる」との規定によって他の成分を含有しない範囲に減縮されているものである。
以上を踏まえれば、本件発明1のベース粉末Aの組成範囲は、各成分の含有量が本件請求項1に記載の数値範囲内(つまり、【0027】の数値範囲内)であって、かつ、「からなる」に矛盾しない範囲内と解釈するのが自然であるところ、上述の形式的な矛盾点が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものとはいえない。
エ ベース粉末AにおけるY2O3含有量の下限値
オ ベース粉末Bにおけるジルコニア含有量の下限値
カ ベース粉末BにおけるEr2O3含有量の下限値
キ ベース粉末Cにおけるジルコニア含有量の下限値
ク ベース粉末CにおけるY2O3含有量の下限値
ケ ベース粉末Dにおけるジルコニア含有量の下限値
コ ベース粉末DにおけるY2O3含有量の下限値
サ ベース粉末Bにおけるジルコニア含有量の上限値
シ ベース粉末BにおけるEr2O3含有量の上限値
これらエ~シで指摘される各成分含有量の形式的な矛盾点も、上記ウと同様に、矛盾を生じない自然な解釈が可能であるから、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものとはいえない。
ス 酸化ハフニウム
本件発明4の「ジルコニアおよび酸化ハフニウムを、90重量%から96重量%含み」との規定は、ジルコニア及び酸化ハフニウムの合計含有量に関する規定であり、酸化ハフニウムを必ず含むことが規定されているわけではないから、本件発明4において酸化ハフニウム量を0重量%とする場合は、本件発明1の「からなる」との規定と矛盾しない。
一方、本件発明4において酸化ハフニウム量を0重量%超とする場合は、本件発明1の「からなる」との規定と形式的に矛盾し得るとはいえる。しかしながら、上記ウで確認したとおり、本件明細書に記載されたベース粉末は、本件請求項1に記載の成分以外の成分を含有し得るものであることを踏まえると、本件発明4の上記規定は、本件請求項1に記載の成分に加えて、酸化ハフニウムを「さらに」含有することを意図するものと無理なく解釈できるところ、上述の形式的な矛盾点が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものとはいえない。
セ Fe2O3
本件発明10の「すべての粉末層は・・・Fe2O3を含み」との特定事項は、各ベース粉末の組成ではなく、各粉末層としての組成を規定するものである。そして、本件発明1の「少なくとも3層」については、Fe2O3を含むベース粉末Dが混合されており、また、他の層については、Fe2O3量に関し特段の制限がないのであるから、本件発明10の上記特定事項は、本件発明1の規定と何ら矛盾しない。
(3)申立理由4についての結論
以上のとおり、本件発明は明確であるから、申立理由4には、理由がない。
5 申立理由5(進歩性欠如)について
(1)甲各号証の記載内容
甲1~甲6の摘記事項中の下線は、当審にて付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。
ア 甲1について
(ア)甲1の記載事項
「【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、上下表層に彩度が最も低いE層(LE,CE)と彩度が最も高いC層(LC,CC)がそれぞれ平行に配置され、且つそれら2層の中間にM層(LM,CM)が平行に位置する4層以上の層構造からなる歯科切削加工用セラミックスブランクであって、それぞれの層における明度L*及び彩度C*が、
LM=(LE+LC)/2×0.97~1.03
CM=(CE+CC)/2×0.93~1.07
CC>CM>CE
の関係を満足しており、好ましくは、
LM=(LE+LC)/2×0.99~1.01
CM=(CE+CC)/2×0.95~1.05
CC>CM>CE
を満足していることである。」
「【0040】
本発明の歯科切削加工用セラミックスブランクは、ジルコニア、アルミナ、二ケイ酸リチウムガラス、アルミノシリケートガラスなどいずれの素材でも用いることができる。その中でも素材としてジルコニアを用いることが好ましい。
・・・
【0042】
ジルコニア製の前記ブランクは特性的な改良のために第二の元素を含んだジルコニア粉末や成形性のために二次加工されたジルコニア等、いずれのジルコニア粉末を用いても製造することができる。例えばプレス成形に適したバインダーが付与され顆粒状のジルコニア粉末やスリップキャスト法により製造することができるバインダーが無添加のジルコニア粉末等が挙げられる。
【0043】
またジルコニア粉末組成に安定化剤としてイットリア(酸化イットリウム)、セリア(酸化セリウム)、カルシア(酸化カルシウム)、マグネシア(酸化マグネシウム)などの酸化物が添加されたものを用いても何等制限はない。口腔内で長期的に使用できる強度を確保するために、結晶構造として正方晶系となるよう、安定化剤の量を規定しているものが好ましい。例えば安定化剤としてイットリアを使用している場合、イットリアの含有量は2.5mol%~6mol%であることが好ましい。また、強度を重視する場合は3mol%を添加、光透過性を重視する場合は4mol%~6mol%を添加したジルコニア粉末を使用することが好ましい。
【0044】
さらに焼結性の向上と低温劣化の抑制のために、ジルコニア粉末組成にアルミナ(酸化アルミニウム)を0.01質量%~0.3質量%添加したものを使用することも好ましい。しかし、アルミナを過剰に添加すると光透過性が低下するため、0.01質量%~0.25質量%添加したジルコニア粉末を使用するのが好ましい。
・・・
【0046】
使用するジルコニア粉末は、着色用の顔料成分を含有しても良い。顔料成分としては、酸化鉄、酸化エルビウム、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化プラセオジム等が挙げられる。これらの顔料成分を複合的に添加したジルコニア粉末を使用しても良い。」
「【0057】
次に本発明の歯科切削加工用セラミックスブランクの製造方法の一例として、ジルコニアブランクを製造する場合について説明する。
【0058】
白色及び着色ジルコニア粉末を数種類選択し、エナメル色及び歯頸部色となるよう適度な配合比で混合する。エナメル色の配合をE色とすると、例えばE色は白色のジルコニア粉末の比率が高く、酸化鉄や酸化エルビウムを含有する着色ジルコニア粉末の比率は低くなる。歯頸部色の配合をC色とすると歯頸部色は酸化鉄や酸化エルビウムを含有する着色ジルコニア粉末の比率は高くなる。M層はE色とC色の比率が50:50となるよう混合する。M層とC層の間の中間層が1層の場合、その中間層をM2色とすると、例えばM2色はE色とC色の比率が25:75となるよう混合する。
【0059】
次にE色、M色、M2色、C色を所定の厚みになるよう積層させていく。例えばE色を金型に充填後平坦にならす。一旦軽くプレスを施してもよいし、そのまま所定の厚みになるよう下金型を下げM色を充填してもよい。重量換算で粉末を充填してもよく、体積換算で粉末を充填してもよい。体積換算の場合金型上面ですり切る方法もある。次に前述と同じ方法でM2色及びC色を充填する。全層積層後プレス成形して成形体を得る。成形体はCIP成形(冷間静水等方圧加圧成形)を行ってもよい。
【0060】
成形体を室温から600℃まで時間をかけて脱脂し、その後800℃~1200℃で焼成することにより仮焼体が得られる。脱脂工程を削除し、一連の工程で焼成して仮焼体を得てもよい。
【0061】
この得られた仮焼体をCAD/CAMシステムを用いて歯冠形状に切削加工を行い、1350℃~1600℃で焼結させ歯科用補綴装置を得ることができる。」
「【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をより詳細に、且つ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施例においてはジルコニア粉末を用いた歯科切削加工用セラミックスブランクについて説明する。
【0065】
(各層におけるジルコニア粉末の調合)
ジルコニア粉末(白色)、ジルコニア粉末(茶褐色)、ジルコニア粉末(ピンク色)、ジルコニア粉末(グレー色)の4種類の粉末を使用した。E層、M層、C層およびM層とC層の間の中間層についてそれぞれ所望の色調及び光透過性(コントラスト比)になるよう混合し、E色、M色、C色およびM2色とした。なお、実施例1~実施例5、比較例1~比較例3のE色、M色、C色およびM2色は、使用しているジルコニア粉末又は混合比率は全て異なる。
【0066】
[実施例1]
実施例1に使用したジルコニア粉末は、イットリア含有量が5.5mol%の粉末を用いた。表中には使用したジルコニア粉末のイットリア含有量としてmol%の数値を記載した。
・・・
【0075】
(歯科切削加工用セラミックスブランクの製作)
実施例1で調合した各層のジルコニア混合粉末を用いて、4層構造のジルコニアブランクの製作を行った。φ20の金型に、まずE色のジルコニア混合粉末をブランク全体の15%の厚みになるよう充填し、1kNの圧力で15秒間プレスを行った。その後、M色のジルコニア混合粉末を25%の厚みになるよう充填し、1kNの圧力で15秒間プレスを行った。M色とC色の間にくる中間層についても同様に充填とプレスを行い、最後にC色のジルコニア混合粉末を35%の厚みになるよう充填し、10kNの圧力で1分間プレス成形を行った。得られた4層構造のプレス成形体は200MPaの圧力で1分間CIP成形を行った。CIP成形後、60℃/時の昇温速度で500℃まで昇温し2時間係留後、60℃/時の昇温速度で1000℃まで昇温し2時間係留後、炉内放冷をしてジルコニア仮焼体を得て、歯科切削加工用セラミックスブランクとした。
・・・
【0081】
[実施例2]
実施例2に使用したジルコニア粉末は、イットリア含有量が5.5mol%の粉末を用いた。
・・・
【0085】
(歯科切削加工用セラミックスブランクの製作)
実施例1と同じ製作方法で実施したが、E色のジルコニア粉末はブランク全体の30%の厚みになるよう充填し、M色のジルコニア粉末は10%の厚みになるよう充填した。また、M色とC色の間にくる中間層は2層とし、全体で5層構造のジルコニア仮焼体とした。
・・・
【0089】
[実施例3]
実施例3に使用したジルコニア粉末は、イットリア含有量が5.5mol%の粉末を用いた。
・・・
【0093】
(歯科切削加工用セラミックスブランクの製作)
実施例1と同じ製作方法で実施したが、E色のジルコニア粉末はブランク全体の30%の厚みになるよう充填し、M色のジルコニア粉末は10%の厚みになるよう充填した。また、M色とC色の間にくる中間層は2層とし、全体で5層構造のジルコニア仮焼体とした。
・・・
【0105】
[実施例5]
実施例5に使用したジルコニア粉末は、イットリア含有量が3.0mol%の粉末を用いた。
・・・
【0109】
(歯科切削加工用セラミックスブランクの製作)
実施例1と同じ製作方法で実施したが、E色のジルコニア粉末はブランク全体の30%の厚みになるよう充填し、M色のジルコニア粉末は10%の厚みになるよう充填した。また、M色とC色の間にくる中間層は2層とし、全体で5層構造のジルコニア仮焼体とした。」
(イ)甲1に記載された発明
上記(ア)に示す甲1【0029】によれば、甲1には、「上下表層に彩度が最も低いE層・・・と彩度が最も高いC層・・・がそれぞれ平行に配置され、且つそれら2層の中間にM層・・・が平行に位置する4層以上の層構造からなる歯科切削加工用セラミックスブランク」に関する技術が記載されている。
ここで、同【0040】によれば、当該ブランクは「素材としてジルコニアを用いる」ものであり、同【0042】によれば、「ジルコニア製の前記ブランクは特性的な改良のために第二の元素を含んだジルコニア粉末・・・を用いても製造することができる」ものであり、同【0043】、【0044】、【0046】によれば、当該第二の元素を含んだジルコニア粉末は、「ジルコニア粉末組成に安定化剤としてイットリア(酸化イットリウム)・・・が添加され」、「イットリアの含有量は2.5mol%~6mol%である」もの、「さらに・・・ジルコニア粉末組成にアルミナ(酸化アルミニウム)を0.01質量%~0.3質量%添加したもの」、「顔料成分として・・・酸化鉄、酸化エルビウム、酸化コバルト」「を含有」し得るものである。
そして、同【0057】~【0061】には、上記「ジルコニア」製の「歯科切削加工用セラミックスブランクの製造方法」が記載されており、当該方法は、「白色及び着色ジルコニア粉末を数種類選択し、エナメル色及び歯頸部色となるよう適度な配合比で混合」し、「次にE色、M色、M2色、C色を所定の厚みになるよう積層させ」、「全層積層後プレス成形して成形体を得」て、「成形体を室温から600℃まで時間をかけて脱脂し、その後800℃~1200℃で焼成することにより仮焼体」を得て、「この得られた仮焼体を・・・歯冠形状に切削加工を行い、1350℃~1600℃で焼結させ歯科用補綴装置を得る」ものである。
さらに、同【0064】以降の【実施例】では、上記「白色及び着色ジルコニア粉末を数種類選択し、エナメル色及び歯頸部色となるよう適度な配合比で混合」するにあたり、「ジルコニア粉末(白色)、ジルコニア粉末(茶褐色)、ジルコニア粉末(ピンク色)、ジルコニア粉末(グレー色)の4種類の粉末を使用し」、「E層、M層、C層およびM層とC層の間の中間層についてそれぞれ所望の色調及び光透過性(コントラスト比)になるよう混合し」ており(【0065】)、また、実施例2、3、5では、「全体で5層構造」の仮焼体(【0085】、【0093】、【0109】)を作成している。
上記実施例の態様に注目しつつ、歯科切削加工用セラミックスブランクの製造方法についてまとめると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「上下表層に彩度が最も低いE層と彩度が最も高いC層がそれぞれ平行に配置され、且つそれら2層の中間にM層が平行に位置する4層以上の層構造からなる歯科切削加工用セラミックスブランクの製造方法であって、
当該ブランクは、素材としてジルコニアを用いるものであり、ジルコニア製の前記ブランクは、特性的な改良のために第二の元素を含んだジルコニア粉末を用いることができ、当該第二の元素を含んだジルコニア粉末は、ジルコニア粉末組成に安定化剤としてイットリア(酸化イットリウム)が添加され、当該イットリアの含有量は2.5mol%~6mol%であり、ジルコニア粉末組成にアルミナ(酸化アルミニウム)を0.01質量%~0.3質量%添加したものであり、顔料成分として、酸化鉄、酸化エルビウム、酸化コバルトを含有し得るものであり、
当該ブランクを製造するにあたり、
ジルコニア粉末(白色)、ジルコニア粉末(茶褐色)、ジルコニア粉末(ピンク色)、ジルコニア粉末(グレー色)の4種類の粉末を使用し、E層、M層、C層およびM層とC層の間の中間層についてそれぞれ所望の色調及び光透過性(コントラスト比)になるよう混合し、
次にE色、M色、M2色、C色を所定の厚みになるよう5層積層させ、
全層積層後プレス成形して成形体を得て、
成形体を室温から600℃まで時間をかけて脱脂し、その後800℃~1200℃で焼成することにより全体で5層構造の仮焼体を得て、この得られた仮焼体を歯冠形状に切削加工を行い、1350℃~1600℃で焼結させ歯科用補綴装置を得る、
方法。」
以下、当該発明を「甲1発明」という。
イ 甲2について
(ア)甲2の記載事項
以下、当審訳のみ示す(甲4、甲6についても同様。)。
「[0006] 本発明の技術的解決手段は以下の通りである。
[0007] 一、複数の酸化物を添加したグラデーションカラーを有するジルコニア歯科修復物。
[0008] 図1に示すように、各セラミック層において、粉末A、粉末B、粉末Cを異なる質量分率で粉末Dと混合し、積層する。粉末A、粉末B、粉末Cはそれぞれ、ErO2添加ジルコニアセラミック粉末原料、CeO2添加ジルコニアセラミック粉末原料、Fe2O3添加ジルコニアセラミック粉末原料である。粉末Dは、未添加ジルコニアセラミック粉末原料である。
[0009] 歯科用ジルコニアセラミック混合粉末Aの重量組成比は、ErO2≦5.0wt%、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%であり、残部はZrO2である。
[0010] 歯科用ジルコニアセラミック混合粉末Bの重量組成比は、CeO2≦20.0wt%、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%であり、残部はZrO2である。
[0011] 歯科用ジルコニアセラミック混合粉末Cの重最組成比は、Fe2O3≦1.2wt%、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%であり、残部はZrO2である。
[0012] 粉末Dの重量組成比は、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%、Fe2O3≦0.01wt%であり、残部はZrO2である。」
「[0036] 実施例1:
[0037] 粉末A、B、C、Dを、10%:10%:10%:70%、13%:13%:13%:61%、16%:16%:16%:52%、19%:19%:19%:43%、22%:22%:22%:34%の質量分率で均一に混合し、5つの異なる色の粉末セラミック層を作製した。隣接する層間のA、B、Cの合計質量分率の差は9%であり、各層の厚さは15mmであった。
[0038] 5種の粉末を上記の順序で成形型に投入し、積層した。予備加圧圧力は0.5MPa、乾燥加圧圧力は5MPa、保持時間は5秒であった。次に、200MPaの圧力と60秒間の保持時間で冷間等方圧プレスを行った。得られた成形体を焼結炉で850℃、90分間予備焼結した。その後、ブランクに彫刻を施し、表面仕上げと寸法が要求仕様を満たしていることを確認した。最後に、1450℃で60分間の最終焼結工程を実施し、グラデーションカラーを有する歯科用ジルコニアセラミックを作製した。本実施例で作製したグラデーションカラーの各層におけるErO2、CeO2、Fe2O3の含有量は、上から下に向かってErO2(0.50wt%~l.l0wt%)、CeO2(2.00wt%~4.40wt%)、Fe2O3(0.12wt%~0.26wt%)であった。本実施例における各種粉末は、それぞれの成分比で無水エタノール中で24時間ボールミル粉砕され、その後100℃で12時間乾燥された。」
(イ)甲2に記載された発明
上記(ア)に示す甲2[0007]によれば、甲2には、「複数の酸化物を添加したグラデーションカラーを有するジルコニア歯科修復物」に関する技術が記載されており、同[0008]によれば、当該歯科修復物は、「各セラミック層において、粉末A、粉末B、粉末Cを異なる質量分率で粉末Dと混合し、積層する」ことで得られたものである。また、同[0009]~[0012]によれば、「粉末Aの重量組成比は、ErO2≦5.0wt%、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%であり、残部はZrO2であ」り、「粉末Bの重量組成比は、CeO2≦20.0wt%、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%であり、残部はZrO2であ」り、「粉末Cの重最組成比は、Fe2O3≦1.2wt%、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%であり、残部はZrO2であ」り、「粉末Dの重量組成比は、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%、Fe2O3≦0.01wt%であり、残部はZrO2である。」
そして、同[0036]~[0038]には、「実施例1」として、上記歯科修復物の具体的な製造例が記載されており、その製造方法は、「粉末A、B、C、Dを、10%:10%:10%:70%、13%:13%:13%:61%、
16%:16%:16%:52%、19%:19%:19%:43%、22%:22%:22%:34%の質量分率で均一に混合し、5つの異なる色の粉末セラミック層を作製し」、「5種の粉末を上記の順序で成形型に投入し、積層し」、「次に、200MPaの圧力と60秒間の保持時間で冷間等方圧プレスを行」い、「得られた成形体を焼結炉で850℃、90分間予備焼結し」、「その後、ブランクに彫刻を施し、表面仕上げと寸法が要求仕様を満たしていることを確認し」、「最後に、1450℃で60分間の最終焼結工程を実施し、グラデーションカラーを有する歯科用ジルコニアセラミックを作製」するというものである。
また、当該方法により「作製したグラデーションカラーの各層におけるErO2、CeO2、Fe2O3の含有量は、上から下に向かってErO2(0.50wt%~l.l0wt%)、CeO2(2.00wt%~4.40wt%)、Fe2O3(0.12wt%~0.26wt%)」である。
上記製造方法をまとめると、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。
「複数の酸化物を添加したグラデーションカラーを有するジルコニア歯科修復物の製造方法であって、
当該歯科修復物は、各セラミック層において、粉末A、粉末B、粉末Cを異なる質量分率で粉末Dと混合し、積層することで得られたものであり、
粉末Aの重量組成比は、ErO2≦5.0wt%、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%であり、残部はZrO2であり、
粉末Bの重量組成比は、CeO2≦20.0wt%、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%であり、残部はZrO2であり、
粉末Cの重最組成比は、Fe2O3≦1.2wt%、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%であり、残部はZrO2であり、
粉末Dの重量組成比は、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%、Fe2O3≦0.01wt%であり、残部はZrO2であり、
当該歯科修復物を製造するにあたり、
粉末A、B、C、Dを、10%:10%:10%:70%、13%:13%:13%:61%、16%:16%:16%:52%、19%:19%:19%:43%、22%:22%:22%:34%の質量分率で均一に混合し、
5つの異なる色の粉末セラミック層を作製し、5種の粉末を上記の順序で成形型に投入し、積層し、
次に、200MPaの圧力と60秒間の保持時間で冷間等方圧プレスを行い、
得られた成形体を焼結炉で850℃、90分間予備焼結し、その後、ブランクに彫刻を施し、表面仕上げと寸法が要求仕様を満たしていることを確認し、最後に、1450℃で60分間の最終焼結工程を実施し、グラデーションカラーを有する歯科用ジルコニアセラミックを作製し、
作製されたグラデーションカラーの各層におけるErO2、CeO2、Fe2O3の含有量は、上から下に向かってErO2(0.50wt%~l.l0wt%)、CeO2(2.00wt%~4.40wt%)、Fe2O3(0.12wt%~0.26wt%)である、
方法。」
以下、当該発明を「甲2発明」という。
ウ 甲3について
(ア)甲3の記載事項
「課題を解決するための手段
[0008] 本発明の第1視点によれば、ジルコニア、ジルコニアの相転移を抑制する安定化剤及び顔料を含有し、顔料の含有率が異なる複数の積層用粉末を作製する工程と、複数の積層用粉末を型内に積層する積層工程と、を含むジルコニア組成物の製造方法が提供される。積層工程において、少なくとも2つの積層用粉末を型に充填した後、型を振動させる。」
「[0086] 次に、本発明のジルコニア焼結体を製造するための組成物及び仮焼体について説明する。組成物及び仮焼体は、上述の本発明のジルコニア焼結体の前駆体(中間製品)となるものである。仮焼体は、組成物を焼結に至らない温度で焼成(即ち仮焼)したものである。また、仮焼体には、成形加工したものも含まれる。たとえば、仮焼したジルコニアディスクをCAD/CAM(Computer-Aided Design/Computer-Aided Manufacturing)システムで加工した歯科用補綴物(例えば歯冠形状)も仮焼体に含まれる。
[0087] 本発明の組成物及び仮焼体は、組成の異なるジルコニア粉末を積層させて作製したものである。
[0088] 組成物及び仮焼体は、(主として単斜晶系)ジルコニア結晶粒子と、安定化剤と、酸化チタンと、を含有する。組成物は、酸化アルミニウムを含有してもよい。酸化アルミニウムはαアルミナであると好ましい。
・・・
[0090] 組成物及び仮焼体中の安定化剤としては、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、イットリア、酸化セリウム(CeO2)等の酸化物が挙げられる。安定化剤は、焼結体中のジルコニア粒子が部分安定化できるような量を添加すると好ましい。例えば、安定化剤としてイットリアを使用する場合、イットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計mol数に対して、2.5mol%~4.5mol%であると好ましく、3mol%~4.5mol%であると好ましく、3.5mol%~4.5mol%であるとより好ましい。
[0091] 組成物及び仮焼体における酸化アルミニウムの含有率は、ジルコニア結晶粒子及び安定化剤の合計質量に対して、0質量%(無含有)~0.3質量%であると好ましい。ジルコニア焼結体の強度を高めるためである。0.3質量%より多いとジルコニア焼結体の透明度が低下してしまう。
・・・
[0094] 本発明の組成物及び仮焼体は、着色用の顔料を含有してもよい。例えば、本発明の組成物及び仮焼体から作製されるジルコニア焼結体が歯科用材料に適用される場合、顔料としては、例えば、酸化クロム(Cr2O3)、酸化エルビウム(Er2O3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化プラセオジム(Pr6O11)等を使用することができる。これらの顔料を複合的に用いてもよい。顔料の含有率は、部分的に異ならせることもできる。
[0095] 例えば、成形した組成物及び仮焼体において、全体を4層に分け、下端から全体の厚さに対して25%~45%の領域を第1層、第1層上の、全体の厚さに対して5%~25%の領域を第2層、第2層上の、全体の厚さに対して5%~25%の領域を第3層、及び第3層上から上端までの、全体の厚さに対して25%~45%の領域を第4層としたとき、第1層から第4層に向かって顔料の含有率が低下すると好ましい。
[0096] 例えば、組成物及び仮焼体から製造された焼結体を歯科用材料として使用する場合、顔料として、酸化エルビウム及び酸化鉄を添加することができる。この場合、第1層においては、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、酸化エルビウムの含有率が0.33質量%~0.52質量%であり、酸化鉄の含有率が0.05質量%~0.12質量%であると好ましい。第2層においては、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、酸化エルビウムの含有率が0.26質量%~0.45質量%であり、酸化鉄の含有率が0.04質量%~0.11質量%であると好ましい。第3層においては、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、酸化エルビウムの含有率が0.05質量%~0.24質量%であり、酸化鉄の含有率が0.012質量%~0.08質量%であると好ましい。第4層においては、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、酸化エルビウムの含有率が0質量%~0.17質量%であり、酸化鉄の含有率が0質量%~0.07質量%であると好ましい。酸化エルビウム及び酸化鉄の含有率は、第1層から第4層へ順に低下していくと好ましい。
[0097] 例えば、組成物及び仮焼体から製造された焼結体を歯科用材料として使用する場合、顔料として、酸化エルビウム、酸化鉄及び酸化クロムを添加することができる。例えば、組成物及び仮焼体から製造された焼結体を歯科用材料として使用する場合、第1層においては、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、酸化エルビウムの含有率が0.08質量%~0.37質量%であり、酸化鉄の含有率が0.08質量%~0.15質量%であり、酸化クロムの含有率が0.0008質量%~0.0012質量%であると好ましい。第2層においては、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、酸化エルビウムの含有率が0.06質量%~0.42質量%であり、酸化鉄の含有率が0.06質量%~0.18質量%であり、酸化クロムの含有率が0.0006質量%~0.001質量%であると好ましい。第3層においては、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、酸化エルビウムの含有率が0.06質量%~0.17質量%であり、酸化鉄の含有率が0.018質量%~0.042質量%であり、酸化クロムの含有率が0.0001質量%~0.0003質量%であると好ましい。第4層においては、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、酸化エルビウムの含有率が0質量%~0.12質量%であり、酸化鉄の含有率が0質量%~0.001質量%であり、酸化クロムの含有率が0質量%~0.0001質量%であると好ましい。酸化エルビウム、酸化鉄及び酸化クロムの含有率は、第1層から第4層へ順に低下していくと好ましい。
[0098] 例えば、組成物及び仮焼体から製造された焼結体を歯科用材料として使用する場合、顔料として、酸化エルビウム、酸化鉄及び酸化プラセオジムを添加することができる。例えば、組成物及び仮焼体から製造された焼結体を歯科用材料として使用する場合、第1層においては、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、酸化エルビウムの含有率が0.08質量%~2.2質量%であり、酸化鉄の含有率が0.003質量%~0.12質量%であり、酸化プラセオジムの含有率が0.003質量%~0.12質量%であると好ましい。第2層においては、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、酸化エルビウムの含有率が0.06質量%~1.9質量%であり、酸化鉄の含有率が0.002質量%~0.11質量%であり、酸化プラセオジムの含有率が0.002質量%~0.11質量%であると好ましい。第3層においては、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、酸化エルビウムの含有率が0.018質量%~1質量%であり、酸化鉄の含有率が0.008質量%~0.06質量%であり、酸化プラセオジムの含有率が0.0008質量%~0.06質量%であると好ましい。第4層においては、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、酸化エルビウムの含有率が0質量%~0.7質量%であり、酸化鉄の含有率が0質量%~0.05質量%であり、酸化プラセオジムの含有率が0質量%~0.05質量%であると好ましい。酸化エルビウム、酸化鉄及び酸化プラセオジムの含有率は、第1層から第4層へ順に低下していくと好ましい。」
「[0109] 次に、本発明の組成物、仮焼体及び焼結体の製造方法の一例について説明する。ここでは、焼結体の色を徐々に変化させる(グラデーション化させる)方法についても合わせて説明する。
[0110] まず、水中でジルコニアと安定化剤を湿式混合してスラリーを形成する。次に、スラリーを乾燥させて造粒する。次に、造粒物を仮焼して、1次粉末を作製する。
[0111] 次に、焼結体にグラデーションをつける場合には、1次粉末を2つに分ける。次に、顔料の添加率に差が生じるように、2つの1次粉末のうち、少なくとも一方に顔料を添加する。例えば、一方には、顔料を添加せず、他方には、顔料を添加してもよい。以下、特定の顔料の添加率が低い方の粉末を低添加率粉末と称し、特定の顔料の添加率の高い方の2次粉末を高添加率粉末と称する。高添加率粉末における顔料の添加量は、焼結体の最も色の濃い領域の添加量に合わせると好ましい。そして、それぞれについて、水中で所望の粒径になるまでジルコニアを粉砕混合して、ジルコニアスラリーを形成する。次に、スラリーを乾燥させて造粒し、2次粉末を作製する。酸化アルミニウム、酸化チタン、バインダ等の添加剤を添加する場合には、1次粉末の作製時に添加してもよいし、2次粉末の作製時に添加してもよい。
[0112] 次に、低添加率粉末及び高添加率粉末の2次粉末を基にして、顔料の含有割合が異なる複数の粉末を作製する。例えば、上述の計4層の組成物及び仮焼体を作製する場合、第1層用の第1粉末は、低添加率粉末を混合せずに、高添加率粉末100%とする。第2層用の第2粉末は、低添加率粉末:高添加率粉末=5:95~15:85の割合で混合する。第3層用の第3粉末は、低添加率粉末:高添加率粉末=35:65~45:55の割合で混合する。第4層用の第4粉末は、低添加率粉末:高添加率粉末=45:55~55:45の割合で混合する。他の混合割合として、例えば、上述の計4層の組成物及び仮焼体を作製する場合、第1層用の第1粉末は、低添加率粉末を混合せずに、高添加率粉末100%とする。第2層用の第2粉末は、低添加率粉末:高添加率粉末=10:90~30:70の割合で混合する。第3層用の第3粉末は、低添加率粉末:高添加率粉末=70:30~90:10の割合で混合する。第4層用の第4粉末は、高添加率粉末を混合せずに、低添加率粉末100%とする。
[1113] ジルコニア焼結体を歯科用材料に用いる場合、第2層と第3層間の配合差を第1層と第2層の配合差及び第3層及び第4層の配合差よりも大きくすると好ましい。これにより、天然歯と同様の色変化を再現することができる。
[0114] このように、焼結体が異なる色を呈する2種類の粉末を基にして、各層の顔料含有率を調整することにより、各粉末を順に積層すると色を自然に変化させることができる(グラデーションを作り出すことができる)。
・・・
[0116] 次に、顔料の含有率が異なる複数の粉末を順に積層させていく。焼結体にグラデーションを形成する場合には、積層する順に、ある特定の顔料の添加率が段階的に高く又は低くなるように積層すると好ましい。まず、型に、1層目の粉末を充填した後、1層目の粉末の上面を平坦にならす。平坦に均す方法としては、例えば、型を振動させたり、1層目の粉末の上面をすりきったりする方法を採用することができる。ただし、全層を積層するまではプレス処理を施さないと好ましい。次に、1層目の粉末の上に、2層目の粉末を充填する。次に、型に振動を与える。型内の粉末に振動が伝達するようにする。振動を与える方法としては、例えば、型に機械的振動を与えたり、手動で型を揺らしたり、金づち等で型を叩いたり、適宜所望の方法を採ることができる。これにより、第1層目の粉末と第2層目の粉末の境界において、第1層目の粉末と第2層目の粉末が部分的に混合するものと考えられる。すなわち、振動を与える回数や強さ、機械的振動の場合には周波数や振幅等は、層間の境界において上下層の粉末の混合が起こるように、粉末の粒径、粒径分布、粒子形状等に応じて適宜設定することができる。次に、第1層目の粉末と同様にして、第2層目の粉末の上面をならす。全層積層するまでこの作業を繰り返す。
・・・
[0118] 全層を積層したら、プレス成形して、本発明の組成物としての成形物を作製する。成形物にさらにCIP処理を施してもよい。
[0119] 次層の粉末を充填する前にプレス処理を施さないこと、及び各層を充填する度に振動を与えることにより、隣接する層間において、上下層の粉末が混合した境界層を形成することができると考えられる。これにより、焼結体において、隣接する層間の密着性を高めることができる。加熱処理時の収縮量又は収縮速度を各層で同等にすることができ、加熱処理時に層間に剥離を生じさせたり、焼結体が目標とする形状に対していびつに変形したりすることを防止することができる。さらに、隣接する層間の色の差異を緩和することができる。これにより、焼結体において、積層方向に色を自然に変化させることができる(グラデーションを作り出すことができる)。
[0120] また、この方法によれば、各主要層の間に中間層を必要としない。すなわち、主要層を4層積層する場合、4層だけを積層すればよい。また、各層毎にプレス処理を必要としない。これにより、手間及び時間を大きく削減することができ、製造コストを低下させることができる。
[0121] 仮焼体を作製しない場合には、組成物を1400℃~1600℃、好ましくは1450℃~1550℃で焼成することにより、ジルコニア粉末を焼結させて、本発明のジルコニア焼結体を製造する。成形物の段階で所望の形状に成形してもよい。
[0122] 仮焼体を作製する場合には、組成物を800℃~1200℃で焼成して、仮焼体を作製する。次に、仮焼体を1400℃~1600℃、好ましくは1450℃~1550℃で焼成することにより、ジルコニア粉末を焼結させて、本発明のジルコニア焼結体を製造する。成形は、仮焼体の段階で切削加工等により実施してもよいし、焼結後に実施してもよい。成形は、CAD/CAMシステムで実施することができる。
[0123] 歯科用補綴物の製造方法は、仮焼体又は焼結体を歯冠形状に成形する以外は、焼結体の上記製造方法と同様である。
[0124] なお、上記実施形態においては、4層の積層体に基づく組成物、仮焼体及び焼結体を例示したが、4層に限定されるものではない。例えば、上述の第1層及び第4層の2層の積層体から作製された組成物、仮焼体及び焼結体であってもよい。または、上述の第1層、第2層及び第4層、もしくは第1層、第3層及び第4層の3層の積層体から作製された組成物、仮焼体及び焼結体であってもよい。」
(イ)甲3に記載された発明
上記(ア)に示す甲3[0008]によれば、甲3には、「ジルコニア、ジルコニアの相転移を抑制する安定化剤及び顔料を含有し、顔料の含有率が異なる複数の積層用粉末を作製する工程と、複数の積層用粉末を型内に積層する積層工程と、を含むジルコニア組成物の製造方法」に関する技術が記載されており、同[0086]によれば、当該「組成物」は、「焼結に至らない温度で焼成(即ち仮焼)し」て「仮焼体」を製造し、当該「仮焼体」を「前駆体(中間製品)」として「ジルコニア焼結体」を製造するためのものであり、当該「仮焼体」は、「歯冠形状」に「成形加工」した「歯科用補綴物」を含むものである。
また、同[0088]、[0090]、[0094]によれば、「組成物」及び「仮焼体」は、「ジルコニア結晶粒子と、安定化剤と、酸化チタンと、を含有」し、「酸化アルミニウムを含有してもよ」く、「安定化剤としては、・・・イットリア・・・等の酸化物が挙げられ」、また、「着色用の顔料を含有してもよ」く、「顔料としては、酸化クロム(Cr2O3)、酸化エルビウム(Er2O3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化プラセオジム(Pr6O11)等を使用することができる」ものである。
そして、同[0109]~[0123]には、上記「組成物」及び「仮焼体」を用いた、「色を徐々に変化」すなわち「グラデーション化」させた「(ジルコニア)焼結体」の製造方法が記載されており、当該方法は、
「水中でジルコニアと安定化剤を湿式混合してスラリーを形成」し、「スラリーを乾燥させて造粒」し、「造粒物を仮焼して、1次粉末を作製」し、
「焼結体にグラデーションをつける場合には、1次粉末を2つに分け」、「顔料の添加率に差が生じるように、2つの1次粉末のうち、少なくとも一方に顔料を添加」し、「特定の顔料の添加率が低い方の粉末を低添加率粉末と」し、「特定の顔料の添加率の高い方の2次粉末を高添加率粉末と」し、「それぞれについて、水中で所望の粒径になるまでジルコニアを粉砕混合して、ジルコニアスラリーを形成」し、「スラリーを乾燥させて造粒し、2次粉末を作製」し、
ここで、「1次粉末の作製時」又は「2次粉末の作製時」に「酸化アルミニウム、酸化チタン、バインダ等の添加剤を添加」し、
「低添加率粉末及び高添加率粉末の2次粉末を基にして、顔料の含有割合が異なる複数の粉末を作製」し、ここで、「焼結体が異なる色を呈する2種類の粉末を基にして、各層の顔料含有率を調整することにより、各粉末を順に積層すると色を自然に変化させる」つまり「グラデーションを作り出す」粉末とし、
「顔料の含有率が異なる複数の粉末を順に積層させ」、「積層する順に、ある特定の顔料の添加率が段階的に高く又は低くなるように積層」させ、
「全層を積層したら、プレス成形して、本発明の組成物としての成形物を作製」し、
「組成物を800℃~1200℃で焼成して、仮焼体を作製」し、「仮焼体を1400℃~1600℃・・・で焼成することにより、ジルコニア粉末を焼結させて、・・・ジルコニア焼結体を製造」するものであり、また、「仮焼体又は焼結体を歯冠形状に成形」して「歯科補綴物」とすることも含むものである。
さらに、同[0124]によれば、上述の「顔料の含有割合が異なる複数の粉末を順に積層させ」る際の積層数としては、「2層」~「4層」を採用できるものである。
上記ジルコニア焼結体の製造方法をまとめると、甲3には、以下の発明が記載されているといえる。
「色を徐々に変化すなわちグラデーション化させたジルコニア焼結体の製造方法であって、
当該焼結体の前駆体である組成物及び仮焼体は、ジルコニア結晶粒子と、安定化剤と、酸化チタンと、を含有し、酸化アルミニウムを含有し、安定化剤としては、イットリア等の酸化物が挙げられ、また、着色用の顔料を含有し、顔料としては、酸化クロム(Cr2O3)、酸化エルビウム(Er2O3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化プラセオジム(Pr6O11)等を使用するものであり、
焼結体を製造するにあたり、
水中でジルコニアと安定化剤を湿式混合してスラリーを形成し、スラリーを乾燥させて造粒し、造粒物を仮焼して、1次粉末を作製し、
1次粉末を2つに分け、顔料の添加率に差が生じるように、2つの1次粉末のうち、少なくとも一方に顔料を添加し、特定の顔料の添加率が低い方の粉末を低添加率粉末とし、特定の顔料の添加率の高い方の2次粉末を高添加率粉末とし、それぞれについて、水中で所望の粒径になるまでジルコニアを粉砕混合して、ジルコニアスラリーを形成し、スラリーを乾燥させて造粒し、2次粉末を作製し、
ここで、1次粉末の作製時又は2次粉末の作製時に酸化アルミニウム、酸化チタン、バインダ等の添加剤を添加し、
低添加率粉末及び高添加率粉末の2次粉末を基にして、顔料の含有割合が異なる複数の粉末を作製し、ここで、焼結体が異なる色を呈する2種類の粉末を基にして、各層の顔料含有率を調整することにより、各粉末を順に積層すると色を自然に変化させる、つまり、グラデーションを作り出す粉末とし、
顔料の含有率が異なる複数の粉末を順に2層~4層積層させ、積層する順に、ある特定の顔料の添加率が段階的に高く又は低くなるように積層させ、
全層を積層したら、プレス成形して、組成物としての成形物を作製し、
組成物を800℃~1200℃で焼成して、仮焼体を作製し、仮焼体を1400℃~1600℃で焼成することにより、ジルコニア粉末を焼結させ、ここで、仮焼体又は焼結体を歯冠形状に成形して歯科補綴物とする、
方法。」
以下、当該発明を「甲3発明」という。
エ 甲4について
(ア)甲4の記載事項
「[0022] 淡黄色を基調とし、5段階の彩度レベルを持つ歯科用多色加工可能ジルコニアセラミックを作製する。歯科用CAD/CAMシステムを用いて、上顎中切歯のフルクラウン修復物を作製した。
[0023] ジルコニア粉末原料:白色および黄色のジルコニア粉末。主要成分(wt%):Y2O3 5.2±0.5、Al2O3 0.1~0.4、微量のNa2O、SiO2、Fe2O3、残部ZrO2。実際の粒子径は約90nm。
[0024] 着色ジルコニア粉末の調製:白色ジルコニア粉末と黄色ジルコニア粉末を、それぞれ60%:40%、70%:30%、80%:20%、90%:10%、95%:5%の質量分率(wt%)で秤量・混合した。各混合粉末の総質量は10gであった。混合物を密封チューブに入れ、上記の比率に従って1、2、3、4、5とラベルを貼り、十分に混合した。
[0025] 多色加工可能ジルコニアセラミック素地の調製:着色ジルコニア粉末混合物を、電子天秤を用いて1~5の順に秤量し、質量は3、2、2、2、3gとした。これらを飽和度の高い順に長方形の型(14mm×15mm×20mm)に投入し、積層した後、4MPaの圧力で乾式プレスした。作製した多色加工可能ジルコニアセラミック成形体をプラスチックフィルムでしつかりと包み、冷間等方圧プレス機に投入した。成形体を200MPaの圧力でプレスし、3分間保持した。
[0026] 多色加工可能多孔質ジルコニアセラミックス成形体の作製:成形した多色加工可能ジルコニアセラミックス成形体(高さ18mm±0.2mm)を高温磁器炉で予備焼結した。室温から150分かけて均一に昇温し、950℃で60分間保持した後、室温まで自然冷却した。得られた多色加工可能ジルコニアセラミック多孔質ブランクは十分な強度を示し、CAD/CAMを用いた設計・加工が容易であった。対象とする修復物(上顎中切歯)の測色結果に基づき、仮想修復物をセラミックブロックの中央に配置し、CAMシステムを用いて20%の拡大率で加工した。
[0027] この多色加工可能ジルコニアセラミック多孔質ブランクから作製した上顎中切歯用オールジルコニア修復物は、室温から150分かけて1450℃まで均一に昇温し、この温度で120分間保持した後、室温まで自然冷却することで完全に焼結した。その後、研磨および洗浄を行った。
[0028] 肉眼及び実体顕微鏡観察:上顎中切歯用オールジルコニア修復物は、表面が滑らかで、ひび割れや気孔がなく、半透明性を呈し、修復物の全表面における色彩分布が均一で一貫性があり、切端から歯頸部にかけて、彩度が徐々に増加しつつ透明度が徐々に低下し、淡黄色から濃黄色へのグラデーションを呈し、色彩のグラデーションと鮮やかさが強く感じられる。」
(イ)甲4に記載された発明
上記(ア)に示す甲4[0022]によれば、甲4には、「淡黄色を基調とし、5段階の彩度レベルを持つ歯科用多色加工可能ジルコニアセラミック」の「作製」方法が記載されている。
そして、同[0023]によれば、当該方法は、「ジルコニア粉末原料」として、「主要成分(wt%):Y2O3 5.2±0.5、Al2O3 0.1~0.4、微量のNa2O、SiO2、Fe2O3、残部ZrO2」である「白色および黄色のジルコニア粉末」を用いるものである。
また、同[0024]~[0027]によれば、当該方法は、「白色ジルコニア粉末と黄色ジルコニア粉末を、それぞれ60%:40%、70%:30%、80%:20%、90%:10%、95%:5%の質量分率(wt%)で秤量・混合し」、「混合物を密封チューブに入れ、上記の比率に従って1、2、3、4、5とラベルを貼り、十分に混合し」、「着色ジルコニア粉末混合物を、電子天秤を用いて1~5の順に秤量し、質量は3、2、2、2、3gとし」、「これらを飽和度の高い順に長方形の型・・・に投入し、積層した後、4MPaの圧力で乾式プレスし」、「作製した多色加工可能ジルコニアセラミック成形体をプラスチックフィルムでしつかりと包み、冷間等方圧プレス機に投入し」、「成形体を200MPaの圧力でプレスし、3分間保持し」、「成形した多色加工可能ジルコニアセラミックス成形体・・・を高温磁器炉で予備焼結し」、「室温から150分かけて均一に昇温し、950℃で60分間保持した後、室温まで自然冷却し」、「得られた多色加工可能ジルコニアセラミック多孔質ブランク」を用いて、「対象とする修復物(上顎中切歯)の測色結果に基づき、仮想修復物をセラミックブロックの中央に配置し、CAMシステムを用いて20%の拡大率で加工し」、「この多色加工可能ジルコニアセラミック多孔質ブランクから作製した上顎中切歯用オールジルコニア修復物」を、「室温から150分かけて1450℃まで均一に昇温し、この温度で120分間保持した後、室温まで自然冷却することで完全に焼結し」、「その後、研磨および洗浄を行」うというものである。
さらに、同[0028]によれば、当該方法により、「切端から歯頸部にかけて」「淡黄色から濃黄色へのグラデーション」を呈する「上顎中切歯用オールジルコニア修復物」が得られるものである。
以上からすると、甲4には、以下の発明が記載されているといえる。
「淡黄色を基調とし、5段階の彩度レベルを持つ歯科用多色加工可能ジルコニアセラミックの作製方法であって、
ジルコニア粉末原料として、主要成分(wt%):Y2O3 5.2±0.5、Al2O3 0.1~0.4、微量のNa2O、SiO2、Fe2O3、残部ZrO2である、白色および黄色のジルコニア粉末を用い、
白色ジルコニア粉末と黄色ジルコニア粉末を、それぞれ60%:40%、70%:30%、80%:20%、90%:10%、95%:5%の質量分率(wt%)で秤量・混合し、混合物を密封チューブに入れ、上記の比率に従って1、2、3、4、5とラベルを貼り、十分に混合し、
着色ジルコニア粉末混合物を、電子天秤を用いて1~5の順に秤量し、質量は3、2、2、2、3gとし、これらを飽和度の高い順に長方形の型に投入し、積層した後、
4MPaの圧力で乾式プレスし、作製した多色加工可能ジルコニアセラミック成形体をプラスチックフィルムでしつかりと包み、冷間等方圧プレス機に投入し、成形体を200MPaの圧力でプレスし、3分間保持し、
成形した多色加工可能ジルコニアセラミックス成形体を高温磁器炉で予備焼結し、室温から150分かけて均一に昇温し、950℃で60分間保持した後、室温まで自然冷却し、得られた多色加工可能ジルコニアセラミック多孔質ブランクを用いて、対象とする修復物(上顎中切歯)の測色結果に基づき、仮想修復物をセラミックブロックの中央に配置し、CAMシステムを用いて20%の拡大率で加工し、この多色加工可能ジルコニアセラミック多孔質ブランクから作製した上顎中切歯用オールジルコニア修復物を、室温から150分かけて1450℃まで均一に昇温し、この温度で120分間保持した後、室温まで自然冷却することで完全に焼結し、その後、研磨および洗浄を行い、
切端から歯頸部にかけて、淡黄色から濃黄色へのグラデーションを呈する上顎中切歯用オールジルコニア修復物を得る、
方法。」
以下、当該発明を「甲4発明」という。
オ 甲5について
(ア)甲5の記載事項
「【0008】
本発明は、(a)有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末を準備する段階と、(b)所望する色相勾配を出すために、前記有色ジルコニア系粉末と前記白色ジルコニア系粉末との配合比を異なるように混合して前記有色ジルコニア系粉末と前記白色ジルコニア系粉末とが互いに異なる重量比で配合された複数個の原料を準備する段階と、(c)前記有色ジルコニア系粉末の含量が多い原料の順に、または前記有色ジルコニア系粉末の含量が少ない原料の順に前記複数個の原料を順次的に圧縮成形用モールドに注入する段階と、(d)前記複数個の原料が注入された前記圧縮成形用モールドに圧力を印加して成形する段階と、(e)成形された結果物を仮焼する段階を含むことを特徴とする色相勾配を有する人工歯牙用ジルコニアブロックの製造方法を提供する。」
「【0053】
圧縮成形(compression molding)方法を用いて色相勾配を有するジルコニアブロックを製造する方法を説明する。
【0054】
有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末を準備する。ジルコニア系粉末は形状、成形条件、粉末大きさ、配合成分などを考慮して選択する。例えば、ジルコニア系粉末は100nm~10μm程度の平均粒径を有することが好ましく、球状の形状を有することが好ましい。
【0055】
前記白色ジルコニア系粉末は、色相を表さない白色のジルコニア粉末である。前記白色ジルコニア系粉末に成形を容易とするための有機物バインダーを添加して混合することができる。この場合、前記有機物バインダー、前記白色ジルコニア系粉末100重量部に対して0.1~7重量部添加することが好ましい。前記有機物バインダーでは、ポリビニルアルコール(PVA)などのように一般に知られる物質を使用することができ、その使用に制限はない。
【0056】
前記有色ジルコニア系粉末は、ジルコニア粉末と色相を表示させるための金属酸化物とが混合して塑性過程を経て形成された粉末とすることができる。色相を表示させるための金属酸化物としては、赤色酸化鉄(Fe2O3)、黄色酸化鉄(Fe2O3)、黄色を表すMoO3、アイボリーまたは茶色を表すMnO2、黄色を表すCeO2、黄色を表すBaO、オレンジ色を表すV2O5、黒色を表すV2O3、黒色を表すCoOまたはこれらの混合物などが用いられる。
前記有色ジルコニア系粉末には成形を容易とするための有機物バインダーを添加して混合することができる。この場合、前記有機物バインダーは、前記有色ジルコニア系粉末100重量部に対して0.1~7重量部添加することが好ましい。前記有機物バインダーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)などのように、一般に知られる物質を使用することができ、その使用に制限はない。
【0057】
所望する色相勾配を出すために、有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末との配合比が異なるように混合して有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末との重量比が互いに異なるように配合された複数個の原料を準備する。複数個の原料は、所望する色相勾配を出すために有色ジルコニア系粉末の量と白色ジルコニア系粉末の量が順次的な割合を有するようにする。このとき、有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末との配合比は所望する色相勾配によって数~数十段階に調整することができる。
前記複数個の原料を全体として見た場合、前記有色ジルコニア系粉末の含量は所定割合で多くなり、前記有色ジルコニア系粉末の含量に対応する前記白色ジルコニア系粉末の含量は所定割合で小さくなるか、または前記有色ジルコニア系粉末の含量は所定割合で小さくなり、前記有色ジルコニア系粉末の含量に対応する前記白色ジルコニア系粉末の含量は所定割合で多くなることができる。例えば、下記表1に表するように有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末を互いに異なる重量比に配合した原料1~10を準備する。
【0058】
【表1】
[図:0001432097000001.jpg]
・・・
【0060】
ジルコニア系粉末を成形することができるように圧縮成形用モールド(mold)10を準備する。圧縮成形用モールド10は、上部ポンチ20と下部ポンチ30を含むものとすることができる。所望する色相勾配を出すために、有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末とが目標とする割合で混合した複数個の原料をモールド10に注入する。
【0061】
図1に示すように、有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末との配合比を複数個の段階で区分して複数個の原料を順次的に圧縮成形用モールド10に注入する。このとき、複数個の段階は、所望する色相勾配によって数~数十段階に調整することができる。前記有色ジルコニア系粉末の含量が多い原料の順に、または前記有色ジルコニア系粉末の含量が少ない原料の順に前記複数個の原料を順次的に圧縮成形用モールド10に注入する。
・・・
【0063】
前記複数個の原料が注入された前記モールド10に、所定の圧力(例えば、1トンから3トンの間の圧力)でプレスを用いて目標とする形態に圧縮成形する。
【0064】
成形された結果物に対して均一な内部密度分布を維持させるために冷間静水圧工程(Cold Isotropic Press;CIP)を行う。前記冷間静水圧は、圧縮成形された結果物に対して10~200MPa範囲の圧力で1~120分間印加することが好ましい。
【0065】
圧縮成形された結果物にバインダーなどを燃消させて除去するための脱脂工程を行う。前記脱脂工程は、400~800℃程度の温度で1~120時間程度行うことが好ましい。さらに、前記脱脂工程は、酸化(酸素(O2)または空気(air))雰囲気で行うことが好ましい。
【0066】
脱脂工程後に、機械加工に適切な硬度及び密度条件を合わせるために電気炉のようなファーネス(furnace)に装入して仮焼工程を行う。前記仮焼工程は、800~1100℃程度の仮焼温度で10分~48時間程度行うことが好ましい。前記仮焼温度までは1~50℃/minの昇温速度で上昇することが好ましく、昇温速度が遅すぎる場合は時間が長く所要され生産性が低減し、昇温速度が早すぎる場合は急激な温度上昇で熱的ストレスが加わることになるので、上記範囲の昇温速度で温度を上昇することが好ましい。前記仮焼は、酸化雰囲気(例えば、酸素(O2)または空気(air)雰囲気)で実施することが好ましい。
仮焼工程を行った後、ファーネス温度を下降させて仮焼された結果物をアンローディングする。前記ファーネス冷却は、ファーネス電源を遮断して自然状態で冷却されるようにするか、または任意に温度下降率(例えば、10℃/min)を設定して冷却されるようにすることができる。ファーネス温度を下降させる間にもファーネス内部の圧力は一定で維持することが好ましい。前記仮焼工程で残留したバインダーは燃消して除去することができる。
【0067】
仮焼された結果物をCNC(computerized numerical controller)のようなミリング装置にローディングして目標とするジルコニアブロック形状に沿って加工する。前記加工のためにCAD(computer-aided design)/CAM(computer-aided manufacturing)工程が用いられる。
【0068】
加工された結果物をきれいに洗浄した後に乾燥する。前記乾燥は、常温~150℃程度の温度で10分~24時間の間に行うことが好ましい。」
(イ)甲5に記載された発明
上記(ア)に示す甲5【0008】によれば、甲5には、「色相勾配を有する人工歯牙用ジルコニアブロックの製造方法」が記載されている。
そして、同【0054】~【0056】によれば、当該方法は、「有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末を準備」する工程を有しており、ここで、「前記白色ジルコニア系粉末は、色相を表さない白色のジルコニア粉末であ」り、「前記有色ジルコニア系粉末は、ジルコニア粉末と色相を表示させるための金属酸化物とが混合して塑性過程を経て形成された粉末」であり、「色相を表示させるための金属酸化物としては、赤色酸化鉄(Fe2O3)、黄色酸化鉄(Fe2O3)、黄色を表すMoO3、アイボリーまたは茶色を表すMnO2、黄色を表すCeO2、黄色を表すBaO、オレンジ色を表すV2O5、黒色を表すV2O3、黒色を表すCoOまたはこれらの混合物などが用いられる」ものである。
また、同【0057】~【0058】によれば、当該方法は、「所望する色相勾配を出すために、有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末との配合比が異なるように混合して有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末との重量比が互いに異なるように配合された複数個の原料を準備する」工程を有しており、ここで、「複数個の原料は、所望する色相勾配を出すために有色ジルコニア系粉末の量と白色ジルコニア系粉末の量が順次的な割合を有するように」し、例えば、「下記表1に表するように有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末を互いに異なる重量比に配合した原料1~10を準備する」ものである。
[図:0001432097000002.jpg]
さらに、同【0060】~【0068】によれば、当該方法は、上記原料を準備した後、「所望する色相勾配を出すために、有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末とが目標とする割合で混合した複数個の原料をモールド10に注入し」、「前記複数個の原料が注入された前記モールド10に、所定の圧力・・・でプレスを用いて目標とする形態に圧縮成形」し、「成形された結果物に対して均一な内部密度分布を維持させるために冷間静水圧工程・・・を行」い、「圧縮成形された結果物にバインダーなどを燃消させて除去するための脱脂工程を行」い、「脱脂工程後に、機械加工に適切な硬度及び密度条件を合わせるために・・・仮焼工程を行」い、「仮焼された結果物を・・・加工」し、「加工された結果物をきれいに洗浄した後に乾燥する」というものである。
以上からすると、甲5には、以下の発明が記載されているといえる。
「色相勾配を有する人工歯牙用ジルコニアブロックの製造方法であって、
有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末を準備し、ここで、前記白色ジルコニア系粉末は、色相を表さない白色のジルコニア粉末であり、前記有色ジルコニア系粉末は、ジルコニア粉末と色相を表示させるための金属酸化物とが混合して塑性過程を経て形成された粉末であり、色相を表示させるための金属酸化物としては、赤色酸化鉄(Fe2O3)、黄色酸化鉄(Fe2O3)、黄色を表すMoO3、アイボリーまたは茶色を表すMnO2、黄色を表すCeO2、黄色を表すBaO、オレンジ色を表すV2O5、黒色を表すV2O3、黒色を表すCoOまたはこれらの混合物などが用いられ、
所望する色相勾配を出すために、有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末との配合比が異なるように混合して有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末との重量比が互いに異なるように配合された複数個の原料を準備し、ここで、複数個の原料は、有色ジルコニア系粉末の量と白色ジルコニア系粉末の量が順次的な割合を有するように、下記表のように有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末を互いに異なる重量比に配合した原料1~10を準備し、
[図:0001432097000003.jpg]
上記原料を準備した後、所望する色相勾配を出すために、有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末とが目標とする割合で混合した複数個の原料をモールドに注入し、前記複数個の原料が注入された前記モールドに、所定の圧力でプレスを用いて目標とする形態に圧縮成形し、成形された結果物に対して均一な内部密度分布を維持させるために冷間静水圧工程を行い、
圧縮成形された結果物にバインダーなどを燃消させて除去するための脱脂工程を行い、脱脂工程後に、機械加工に適切な硬度及び密度条件を合わせるために仮焼工程を行い、仮焼された結果物を加工し、加工された結果物をきれいに洗浄した後に乾燥する、
方法。」
以下、当該発明を「甲5発明」という。
カ 甲6について
(ア)甲6の記載事項
「[0005] 本発明の目的は、透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックおよびその製造方法を提供することであり、透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックは、質量分率比でY2O3 5.0~13.5、Al2O3 0.25~0.5、Na2O≦0.01、SiO2≦0.02、Fe2O3≦0.01、残部ZrO2とする配合組成の2~5種の歯科用ジルコニアセラミック混合粉末A、B、C、D及びEから構成されており、当該2~5種類の歯科用ジルコニアセラミック粉末A、B、C、D、Eを異なる質量分率比で混合して積み重ね、透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックが形成される。焼結後の透明度は、A>B>C>D>Eである。
[0006] 混合粉末A、B、C、D及びEの1種以上を、異なる質量分率比で焼結後の透明度が増加する順に層状に成形型に投入し、その後、乾式プレス成形することで、5~11種の透明度が異なるセラミック層を有する透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックスを得る。
[0007] 透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックの製造方法であって、以下の工程を含む:混合粉末の調製、乾式プレス成形、冷間等方圧プレス成形、予備焼結、ブランクの修復。具体的な手順は以下のとおりである。
(1)Y2O3 5.0~13.5、Al2O3 0.25~0.5、Na2O≦0.01、SiO2≦0.02、Fe2O3≦0.01、残部ZrO2の質量分率比となるように2~5種の歯科用ジルコニアセラミック混合粉末A、B、C、D及びEを調製する。
(2)混合粉末A、B、C、D及びEの1種類以上を用いて、焼結透明度が増加する順に層状に成形型に投入し、3~28MPaの圧力、5~30秒の保圧時間で乾式プレスして、5~11種の透明度が異なるセラミック層を有する透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックディスクを得る。
(3)乾式プレスされた歯科用ジルコニアディスクをさらに10~20MPaの圧力、60~200秒の保圧時間で冷間等方圧プレスする。
(4)予備焼結の焼結温度を350~1010℃、保持時間を90~120分とし、透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックを得る。焼結後の透明度はA>B>C>D>Eである。
(5)ブランクの修復は、予備焼結ジルコニアセラミックのトリミング、研磨、洗浄を含み、透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックを得る。
[0008] 透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックディスクでは、隣接するセラミック層における高焼結透明度と低焼結透明度のセラミック粉末Aの質量分率の差は10%以下であり、Y層がX層よりも高い焼結透明度を備えるものとして、AY-AX≦10%と表される。
・・・
[0010] 本発明は、透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックおよびその製造方法を提供する。以下、実施例によって本発明をさらに説明する。
[0011] Y2O3 5.0~13.5、Al2O3 0.25~0.5、Na2O≦0.01、SiO2≦0.02、Fe2O3≦0.01、残部ZrO2とする配合組成であり、焼結後の透明度がA>B>C>D>Eである、5種類の歯科用ジルコニアセラミック混合粉末の組成は次のとおりである。
A:Y2O3 13.5、Al2O3 0.25、Na2O≦0.01、SiO2≦0.02、Fe2O3≦0.01、残部ZrO2。
[0012] B:Y2O3 10.5、Al2O3 0.3、Na2O≦0.01、SiO2≦0.02、Fe2O3≦0.01、残部ZrO2。
[0013] C:Y2O3 8.5、Al2O3 0.4、Na2O≦0.01、SiO2≦0.02、Fe2O3≦0.01、残部ZrO2。
[0014] D:Y2O3 6.5、Al2O3 0.5、Na2O≦0.01、SiO2≦0.02、Fe2O3≦0.01、残部ZrO2。
[0012] E:Y2O3 5.0、Al2O3 0.5、Na2O≦0.01、SiO2≦0.02、Fe2O3≦0.01、残部ZrO2。
・・・
[0026] 実施例11
粉末A、B、C、Dを、それぞれ20%:30%:30%:20%、30%:25%:25%:20%、40%:25%:25%:10%、50%:20%:20%:10%、60%:15%:15%:10%、70%:10%:10%:10%、及び80%:8%:8%:4%の質量分率比で均等に混合し、AY30%-AX20%=10%となる7種の混合粉末を得た。7種の混合粉末を成形型に順次投入し、層状に積層した後、3MPaの圧力で10秒間乾式プレスした。その後、16MPaの圧力で100秒間冷間静水圧プレスを行った。成形したブランクを取り出し、焼結炉に入れ、500℃で100分間焼結した。最後に、ブランクを補修することで、透明度勾配を有する歯科用ジルコニア焼結セラミックを得た。
[0027] 実施例12
粉末A、B、C、Eを、それぞれ0:40%:40%:20%、4%:40%:40%:16%、8%:35%:35%:22%、12%:35%:35%:18%、16%:35%:35%:14%及び20%:35%:35%:10%の質量分率比で均等に混合し、AY4%-AX0%=4%となる6種の混合粉末を得た。6種の混合粉末を成形型に順次投入し、層状に積層した後、10MPaの圧力で20秒間乾式プレスした。その後、18MPaの圧力で150秒間冷間静水圧プレスを行った。成形したブランクを取り出し、焼結炉に入れ、700℃で90分間焼結した。最後に、ブランクを補修することで、透明度勾配を有する歯科用ジルコニア焼結セラミックを得た。
[0028] 実施例13
粉末A、B、D、Eを、それぞれ54%:20%:20%:6%、60%:15%:15%:10%、66%:15%:15%:4%、72%:10%:10%:8%及び78%:8%:8%:6%の質量分率比で均等に混合し、AY60%-AX54%=6%となる5種の混合粉末を得た。5種の混合粉末を成形型に順次投入し、層状に積層した後、15MPaの圧力で5秒間乾式プレスした。その後、10MPaの圧力で60秒間冷間静水圧プレスを行った。成形したブランクを取り出し、焼結炉に入れ、350℃で120分間焼結した。最後に、ブランクを補修することで、透明度勾配を有する歯科用ジルコニア焼結セラミックを得た。
[0029] 実施例14
粉末A、C、D、Eを、それぞれ24%:30%:30%:16%、32%:30%:30%:8%、40%:25%:25%:10%、48%:20%:20%:12%、56%:20%:20%:4%、64%:15%:15%:6%、72%:8%:8%:2%、80%:8%:8%:4%、86%:5%:5%:4%、94%:2%:2%:2%及び100%:0:0:0の質量分率比で均等に混合し、AY32%-AX24%=8%となる11種の混合粉末を得た。11種の混合粉末を成形型に順次投入し、層状に積層した後、20MPaの圧力で30秒間乾式プレスした。その後、20MPaの圧力で180秒間冷間静水圧プレスを行った。成形したブランクを取り出し、焼結炉に入れ、1010℃で110分間焼結した。最後に、ブランクを補修することで、透明度勾配を有する歯科用ジルコニア焼結セラミックを得た。
[0030] 実施例15
粉末A、B、C、D、Eを、それぞれ16%:31%:31%:11%:11%、24%:22%:22%:20%:12%、32%:23%:23%:11%:11%、40%:20%:20%:10%:10%、48%:16%:16%:10%:10%、56%:12%:12%:10%:10%、64%:12%:12%:6%:6%、72%:9%:9%:5%:5%及び80%:6%:6%:4%:4%の質量分率比で均等に混合し、AY24%-AX16%=8%となる9種の混合粉末を得た。9種の混合粉末を成形型に順次投入し、層状に積層した後、20MPaの圧力で30秒間乾式プレスした。その後、20MPaの圧力で180秒間冷間静水圧プレスを行った。成形したブランクを取り出し、焼結炉に入れ、1010℃で110分間焼結した。最後に、ブランクを補修することで、透明度勾配を有する歯科用ジルコニア焼結セラミックを得た。」
(イ)甲6に記載された発明
上記(ア)に示す甲6[0007]によれば、甲6には、「透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックの製造方法」が記載されており、当該方法は、「混合粉末の調製、乾式プレス成形、冷間等方圧プレス成形、予備焼結、ブランクの修復」の工程を含むものである。
そして、「混合粉末の調製」は、「(1)Y2O3 5.0~13.5、Al2O3 0.25~0.5、Na2O≦0.01、SiO2≦0.02、Fe2O3≦0.01、残部ZrO2の質量分率比となるように2~5種の歯科用ジルコニアセラミック混合粉末A、B、C、D及びEを調製する」工程であり、「乾式プレス成形」は、「(2)混合粉末A、B、C、D及びEの1種類以上を用いて、焼結透明度が増加する順に層状に成形型に投入し、3~28MPaの圧力、5~30秒の保圧時間で乾式プレスして、5~11種の透明度が異なるセラミック層を有する透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックディスクを得る」工程であり、「冷間等方圧プレス成形」は、「(3)乾式プレスされた歯科用ジルコニアディスクをさらに10~20MPaの圧力、60~200秒の保圧時間で冷間等方圧プレスする」工程であり、「予備焼結」は、「(4)予備焼結の焼結温度を350~1010℃、保持時間を90~120分とし、透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックを得る」工程であり、「ブランクの修復」は、「(5)・・・予備焼結ジルコニアセラミックのトリミング、研磨、洗浄を含」む工程である。
さらに、同[0026]~[0030]には、実施例12~15として、上記「混合粉末の調製」及び「乾式プレス成形」の工程において、粉末A~Eのうちの4~5種を異なる質量分率比で混合し、5~11種の混合粉末を得て、これを層状に積層した具体例も記載されている。
そうすると、甲6には、以下の発明が記載されているといえる。なお、名称の混同を避けるため、以下、「混合粉末A、B、C、D及びE」を単に「粉末A、B、C、D及びE」と呼称し、これらを混合したものを「混合粉末」と呼称することとする。
「透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックの製造方法であって、
粉末の調製、乾式プレス成形、冷間等方圧プレス成形、予備焼結、ブランクの修復の工程を含み、
粉末の調製は、Y2O3 5.0~13.5、Al2O3 0.25~0.5、Na2O≦0.01、SiO2≦0.02、Fe2O3≦0.01、残部ZrO2の質量分率比となるように2~5種の歯科用ジルコニアセラミック粉末A、B、C、D及びEを調製する工程であり、
乾式プレス成形は、粉末A、B、C、D及びEの4~5種を異なる質量分率比で混合し、5~11種の混合粉末を得て、焼結透明度が増加する順に層状に成形型に投入し、3~28MPaの圧力、5~30秒の保圧時間で乾式プレスして、5~11種の透明度が異なるセラミック層を有する透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックディスクを得る工程であり、
冷間等方圧プレス成形は、乾式プレスされた歯科用ジルコニアディスクをさらに10~20MPaの圧力、60~200秒の保圧時間で冷間等方圧プレスする工程であり、
予備焼結は、その焼結温度を350~1010℃、保持時間を90~120分とし、透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックを得る工程であり、
ブランクの修復は、予備焼結ジルコニアセラミックのトリミング、研磨、洗浄を含む工程である、
方法。」
以下、当該発明を「甲6発明」という。
(2)本件発明1について
ア 甲1発明を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
a 甲1発明の「上下表層に彩度が最も低いE層と彩度が最も高いC層がそれぞれ平行に配置され、且つそれら2層の中間にM層が平行に位置する4層以上の層構造」は、色が段階的に変化した「カラーグラデーション」を有するものといえるから、甲1発明の「上下表層に彩度が最も低いE層と彩度が最も高いC層がそれぞれ平行に配置され、且つそれら2層の中間にM層が平行に位置する4層以上の層構造からなる歯科切削加工用セラミックスブランクの製造方法」は、本件発明1と同じく「歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセス」であるといえる。
b 甲1発明の「ジルコニア粉末(白色)、ジルコニア粉末(茶褐色)、ジルコニア粉末(ピンク色)、ジルコニア粉末(グレー色)の4種類の粉末を使用し、E層、M層、C層およびM層とC層の間の中間層についてそれぞれ所望の色調及び光透過性(コントラスト比)になるよう混合」するステップは、本件発明1の「a)セラミック粉末層混合物を調製するため、4つの異なるベース粉末を混合」するステップに相当する。
c 甲1発明の「4種類の粉末を使用し、・・・混合し」た後の「E色、M色、M2色、C色を所定の厚みになるよう5層積層させ」るステップは、本件発明1の「b)ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、すくなくとも異なる5層のセラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成」するステップに相当する。
d 甲1発明の「全層積層後プレス成形して成形体を得」るステップは、本件発明1の「c)前記積層セラミック粉末層をプレスして、圧縮成形体を形成」するステップに相当する。
e 甲1発明の「成形体を室温から600℃まで時間をかけて脱脂し、その後800℃~1200℃で焼成することにより全体で5層構造の仮焼体を得て、この得られた仮焼体を歯冠形状に切削加工を行い、1350℃~1600℃で焼結させ」るステップは、本件発明1の「d)ステップc)で得られた成形体を焼結してセラミック成形体を形成するステップ」に相当する。
f 甲1発明において「積層させ」た「5層」は、「ジルコニア粉末(白色)、ジルコニア粉末(茶褐色)、ジルコニア粉末(ピンク色)、ジルコニア粉末(グレー色)の4種類の粉末」すなわち「4つの異なるベース粉末」の混合物を含んでおり、さらに、「それぞれ所望の色調及び光透過性(コントラスト比)になるよう」に各粉末の混合比を変化させたものであるから、甲1発明の「層構造」と本件発明1の「セラミック粉末層」は、その「少なくとも3層」に「それぞれ異なる量の4つの異なるベース粉末の混合物を含」む点で共通する。
g 甲1発明の「ジルコニア粉末」は、明らかにジルコニア(ZrO2)を主成分とし、アルミナ(Al2O3)が添加されたものであるから、甲1発明の「ジルコニア粉末」と本件発明1の「ベース粉末」は、それぞれZrO2とAl2O3とを含む点で共通する。
h そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセスであって、
a)セラミック粉末層混合物を調製するため、4つの異なるベース粉末を混合し、
b)ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、すくなくとも異なる5層のセラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成し、
c)前記積層セラミック粉末層をプレスして、圧縮成形体を形成し、
d)ステップc)で得られた成形体を焼結してセラミック成形体を形成するステップを含み、
少なくとも3層の前記セラミック粉末層はそれぞれ異なる量の4つの異なるベース粉末の混合物を含み、
前記ベース粉末はそれぞれZrO2とAl2O3とを含む、プロセス」
である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
セラミック粉末層を形成するベース粉末の組成に関し、
本件発明1の4つの異なるベース粉末は、「それぞれ少なくとも80重量%のZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含み」、かつ、
「92から96重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、3.5から6.5重量%のY2O3、および0.02から0.1重量%のCo3O4からなるベース粉末A」、
「85から93重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および7.5から11.0重量%のEr2O3からなるベース粉末B」、
「90から94重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および5.5から8.0重量%のY2O3からなるベース粉末C」、
「90から94重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および5.5から8.0重量%のY2O3、0.1から0.3重量%のFe2O3からなるベース粉末D」
の4種の粉末である一方、
甲1発明の4つの異なるベース粉末(ジルコニア粉末)は、ジルコニアを主成分とし、「ジルコニア粉末組成に安定化剤としてイットリア(酸化イットリウム)が添加され、当該イットリアの含有量は2.5mol%~6mol%であり、ジルコニア粉末組成にアルミナ(酸化アルミニウム)を0.01質量%~0.3質量%添加したものであり、顔料成分として、酸化鉄、酸化エルビウム、酸化コバルトを含有し得るもの」であって、「白色」、「茶褐色」、「ピンク色」又は「グレー色」を呈するものであるが、各粉末におけるイットリア(Y2O3)量やアルミナ(Al2O3)量の数値範囲が本件発明1の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」の数値範囲と一致しているとはいえず、各粉末における顔料成分の具体的な種類や含有量が不明である点。
(イ)相違点に対する判断
上述のとおり、甲1には、ジルコニア粉末にイットリア、アルミナ、顔料成分を含有させることは記載されているものの、各粉末において、本件発明1の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」と同じ化合物種及び含有量の組成とすることは開示されていないし、まして、これらの4つの粉末組成を組み合わせて使用することは何ら開示されていない。
さらに、甲2~甲6にも、本件発明1の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」の粉末組成や、それらの4種を組み合わせて使用することが何ら開示されておらず、歯科切削加工用セラミックスブランクにおいて、本件発明1と同じ粉末組成を採用することが周知技術であったといえる証拠はない。
そうすると、相違点1に係る構成を備える本件発明1は、当業者が甲1発明、他の甲号証の記載事項及び周知技術に基づいて容易に想到し得たものとはいえない。
イ 甲2発明を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
a 甲2発明の「複数の酸化物を添加したグラデーションカラーを有するジルコニア歯科修復物の製造方法」は、本件発明1と同じく「歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセス」であるといえる。
b 甲2発明の「粉末A、粉末B、粉末Cを異なる質量分率で粉末Dと混合」又は「粉末A、B、C、Dを、10%:10%:10%:70%、・・・の質量分率で均一に混合」するステップは、本件発明1の「a)セラミック粉末層混合物を調製するため、4つの異なるベース粉末を混合」するステップに相当する。
c 甲2発明の「粉末A、粉末B、粉末Cを異なる質量分率で粉末Dと混合」した後の「5つの異なる色の粉末セラミック層を作製し、5種の粉末を上記の順序で成形型に投入し、積層」するステップは、本件発明1の「b)ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、すくなくとも異なる5層のセラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成」するステップに相当する。
d 甲2発明の「5種の粉末を・・・積層し」た後の「200MPaの圧力と60秒間の保持時間で冷間等方圧プレスを行」うステップは、本件発明1の「c)前記積層セラミック粉末層をプレスして、圧縮成形体を形成」するステップに相当する。
e 甲2発明の「得られた成形体を焼結炉で850℃、90分間予備焼結し、その後、ブランクに彫刻を施し、表面仕上げと寸法が要求仕様を満たしていることを確認し、最後に、1450℃で60分間の最終焼結工程を実施」するステップは、本件発明1の「d)ステップc)で得られた成形体を焼結してセラミック成形体を形成するステップ」に相当する。
f 甲2発明において「積層」させた「セラミック層」は、「粉末A、B、C、D」すなわち「4つの異なるベース粉末」の混合物を含んでおり、さらに、層毎に各粉末の混合比を変化させたものであるから、甲2発明の「セラミック層」と本件発明1の「セラミック粉末層」は、その「少なくとも3層」に「それぞれ異なる量の4つの異なるベース粉末の混合物を含」む点で共通する。
g 甲2発明の「粉末A、B、C、D」は、ZrO2を主成分とし、アルミナ(Al2O3)が0.2~0.4wt%添加されたものであるから、甲2発明の「粉末A、B、C、D」と本件発明1の「ベース粉末」は、それぞれZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含む点で共通する。
なお、甲2発明の「粉末A、B、C、D」は、ZrO2量が80重量%未満となる粉末を包含しているから、ZrO2の含有量が「少なくとも80重量%」であるとはいえない。
h そうすると、本件発明1と甲2発明は、
「歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセスであって、
a)セラミック粉末層混合物を調製するため、4つの異なるベース粉末を混合し、
b)ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、すくなくとも異なる5層のセラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成し、
c)前記積層セラミック粉末層をプレスして、圧縮成形体を形成し、
d)ステップc)で得られた成形体を焼結してセラミック成形体を形成するステップを含み、
少なくとも3層の前記セラミック粉末層はそれぞれ異なる量の4つの異なるベース粉末の混合物を含み、
前記ベース粉末はそれぞれZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含む、プロセス」
である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2>
本件発明1の4つの異なるベース粉末は、「それぞれ少なくとも80重量%のZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含み」、かつ、
「92から96重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、3.5から6.5重量%のY2O3、および0.02から0.1重量%のCo3O4からなるベース粉末A」、
「85から93重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および7.5から11.0重量%のEr2O3からなるベース粉末B」、
「90から94重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および5.5から8.0重量%のY2O3からなるベース粉末C」、
「90から94重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および5.5から8.0重量%のY2O3、0.1から0.3重量%のFe2O3からなるベース粉末D」
の4種の粉末である一方、
甲2発明の4つの異なるベース粉末(粉末A、B、C、D)は、
「ErO2≦5.0wt%、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%であり、残部はZrO2」である粉末A、
「CeO2≦20.0wt%、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%であり、残部はZrO2」である粉末B、
「Fe2O3≦1.2wt%、Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%であり、残部はZrO2」である粉末C
「Y2O3が5.4wt%、Al2O3が0.2~0.4wt%、Na2O≦0.01wt%、SiO2≦0.02wt%、Fe2O3≦0.01wt%であり、残部はZrO2」である粉末D
の4種の粉末である点。
(イ)相違点に対する判断
甲2発明は、上述の粉末組成の「粉末A、B、C、D」を用いるものであるところ、甲2発明において、その組成範囲を超えることになる本件発明1の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」の組成の組み合わせを採用する動機はない。
加えて、甲1、甲3~甲6にも、本件発明1の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」の粉末組成や、それらの4種を組み合わせて使用することが何ら開示されておらず、ジルコニア歯科修復物において、本件発明1と同じ粉末組成を採用することが周知技術であったといえる証拠はない。
そうすると、相違点2に係る構成を備える本件発明1は、当業者が甲2発明、他の甲号証の記載事項及び周知技術に基づいて容易に想到し得たものとはいえない。
ウ 甲3発明を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件発明1と甲3発明を対比する。
a 甲3発明の「ジルコニア焼結体」は、「歯科補綴物」として用いられるものであるから、甲3発明の「色を徐々に変化すなわちグラデーション化させたジルコニア焼結体の製造方法」は、本件発明1と同じく「歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセス」であるといえる。
b 甲3発明の「低添加率粉末及び高添加率粉末の2次粉末を基にして、顔料の含有割合が異なる複数の粉末を作製し、ここで、焼結体が異なる色を呈する2種類の粉末を基にして、各層の顔料含有率を調整することにより、各粉末を順に積層すると色を自然に変化させる、つまり、グラデーションを作り出す粉末と」するステップと、本件発明1の「a)セラミック粉末層混合物を調製するため、4つの異なるベース粉末を混合」するステップとは、「セラミック粉末層混合物を調製するため、異なるベース粉末を混合」する点で共通する。
c 甲3発明の「グラデーションを作り出す粉末」を準備した後の「顔料の含有率が異なる複数の粉末を順に2層~4層積層させ、積層する順に、ある特定の顔料の添加率が段階的に高く又は低くなるように積層させ」るステップと、本件発明1の「b)ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、すくなくとも異なる5層のセラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成」するステップとは、「ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、セラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成」する点で共通する。
d 甲3発明の「全層を積層したら、プレス成形して、組成物としての成形物を作製」するステップは、本件発明1の「c)前記積層セラミック粉末層をプレスして、圧縮成形体を形成」するステップに相当する。
e 甲3発明の「組成物としての成形物を作製」した後の「組成物を800℃~1200℃で焼成して、仮焼体を作製し、仮焼体を1400℃~1600℃で焼成することにより、ジルコニア粉末を焼結させ、ここで、仮焼体又は焼結体を歯冠形状に成形して歯科補綴物とする」ステップは、本件発明1の「d)ステップc)で得られた成形体を焼結してセラミック成形体を形成するステップ」に相当する。
f 甲3発明において「積層」させた「全層」は、「低添加率粉末及び高添加率粉末の2次粉末」すなわち「ベース粉末」の混合物を含んでおり、さらに、「各層の顔料含有率を調整」したものであるから、甲3発明の「全層」と本件発明1の「セラミック粉末層」は、その「少なくとも3層」に「それぞれ異なる量の異なるベース粉末の混合物を含」む点で共通する。
g 甲3発明の「低添加率粉末及び高添加率粉末の2次粉末」は、ジルコニア(ZrO2)を主成分とし、酸化アルミニウム(Al2O3)が添加されたものであるから、甲3発明の「2次粉末」と本件発明1の「ベース粉末」は、それぞれZrO2とAl2O3とを含む点で共通する。
h そうすると、本件発明1と甲3発明は、
「歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセスであって、
a)セラミック粉末層混合物を調製するため、異なるベース粉末を混合し、
b)ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、セラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成し、
c)前記積層セラミック粉末層をプレスして、圧縮成形体を形成し、
d)ステップc)で得られた成形体を焼結してセラミック成形体を形成するステップを含み、
少なくとも3層の前記セラミック粉末層はそれぞれ異なる量の異なるベース粉末の混合物を含み、
前記ベース粉末はそれぞれZrO2とAl2O3とを含む、プロセス」
である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点3-1>
本件発明1のベース粉末は、「それぞれ少なくとも80重量%のZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含み」、かつ、
「92から96重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、3.5から6.5重量%のY2O3、および0.02から0.1重量%のCo3O4からなるベース粉末A」、
「85から93重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および7.5から11.0重量%のEr2O3からなるベース粉末B」、
「90から94重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および5.5から8.0重量%のY2O3からなるベース粉末C」、
「90から94重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および5.5から8.0重量%のY2O3、0.1から0.3重量%のFe2O3からなるベース粉末D」
の4種の粉末である一方、
甲3発明のベース粉末(2次粉末)は、「特定の顔料の添加率が低い方の粉末を低添加率粉末とし、特定の顔料の添加率の高い方の2次粉末を高添加率粉末とし」、「ジルコニア」を主成分とし、その含有成分として、「安定化剤と、酸化チタンと、を含有し、酸化アルミニウムを含有し、安定化剤としては、イットリア等の酸化物が挙げられ、また、着色用の顔料を含有し、顔料としては、酸化クロム(Cr2O3)、酸化エルビウム(Er2O3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化プラセオジム(Pr6O11)等を使用」した、「低添加率粉末」及び「高添加率粉末」の2種の粉末である点。
<相違点3-2>
本件発明1のセラミック粉末層の積層数が「すくなくとも異なる5層」であるのに対し、甲3発明の積層数が「2層~4層」である点。
(イ)相違点に対する判断
相違点3-1について検討する。
甲3発明は、「低添加率粉末」及び「高添加率粉末」の2種の粉末を用いるものであるところ、甲3発明において、粉末種を4種まで増加させる動機はない。
加えて、甲1、甲2、甲6には、4種の粉末を使用することは記載されているものの、これらを含む甲1、甲2、甲4~甲6のいずれにも、本件発明1の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」の粉末組成や、それらの4種を組み合わせて使用することが何ら開示されておらず、歯科補綴物を作製するためのジルコニア焼結体において、本件発明1と同じ粉末組成を採用することが周知技術であったといえる証拠はない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、相違点3-1に係る構成を備える本件発明1は、当業者が甲3発明、他の甲号証の記載事項及び周知技術に基づいて容易に想到し得たものとはいえない。
エ 甲4発明を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件発明1と甲4発明を対比する。
a 甲4発明の「淡黄色を基調とし、5段階の彩度レベルを持つ歯科用多色加工可能ジルコニアセラミックの作製方法」は、本件発明1と同じく「歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセス」であるといえる。
b 甲4発明の「白色ジルコニア粉末と黄色ジルコニア粉末を、それぞれ60%:40%、70%:30%、80%:20%、90%:10%、95%:5%の質量分率(wt%)で秤量・混合し、混合物を密封チューブに入れ、上記の比率に従って1、2、3、4、5とラベルを貼り、十分に混合」するステップと、本件発明1の「a)セラミック粉末層混合物を調製するため、4つの異なるベース粉末を混合」するステップとは、「セラミック粉末層混合物を調製するため、異なるベース粉末を混合」する点で共通する。
c 甲4発明の「着色ジルコニア粉末混合物を、電子天秤を用いて1~5の順に秤量し、質量は3、2、2、2、3gとし、これらを飽和度の高い順に長方形の型に投入し、積層」するステップは、本件発明1の「b)ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、すくなくとも異なる5層のセラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成」するステップに相当する。
d 甲4発明の「着色ジルコニア粉末混合物を・・・積層した後」の「4MPaの圧力で乾式プレスし、作製した多色加工可能ジルコニアセラミック成形体をプラスチックフィルムでしつかりと包み、冷間等方圧プレス機に投入し、成形体を200MPaの圧力でプレスし、3分間保持」するステップは、本件発明1の「c)前記積層セラミック粉末層をプレスして、圧縮成形体を形成」するステップに相当する。
e 甲4発明の「成形した多色加工可能ジルコニアセラミックス成形体を高温磁器炉で予備焼結し、室温から150分かけて均一に昇温し、950℃で60分間保持した後、室温まで自然冷却し、得られた多色加工可能ジルコニアセラミック多孔質ブランクを用いて、対象とする修復物(上顎中切歯)の測色結果に基づき、仮想修復物をセラミックブロックの中央に配置し、CAMシステムを用いて20%の拡大率で加工し、この多色加工可能ジルコニアセラミック多孔質ブランクから作製した上顎中切歯用オールジルコニア修復物を、室温から150分かけて1450℃まで均一に昇温し、この温度で120分間保持した後、室温まで自然冷却することで完全に焼結し、その後、研磨および洗浄を行」うステップは、本件発明1の「d)ステップc)で得られた成形体を焼結してセラミック成形体を形成するステップ」に相当する。
f 甲4発明において「積層」させた粉末混合物の層は、「白色ジルコニア粉末と黄色ジルコニア粉末」すなわち「ベース粉末」の混合物を含んでおり、さらに、各層が「60%:40%、70%:30%、80%:20%、90%:10%、95%:5%の質量分率(wt%)」を有するものであるから、甲4発明の粉末混合物の層と本件発明1の「セラミック粉末層」は、その「少なくとも3層」に「それぞれ異なる量の異なるベース粉末の混合物を含」む点で共通する。
g 甲4発明の「白色ジルコニア粉末と黄色ジルコニア粉末」は、「主要成分(wt%)」が「Y2O3 5.2±0.5、Al2O3 0.1~0.4、微量のNa2O、SiO2、Fe2O3、残部ZrO2である」から、甲4発明の「白色ジルコニア粉末と黄色ジルコニア粉末」と本件発明1の「ベース粉末」は、それぞれ少なくとも80重量%のZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含む点で共通する。
h そうすると、本件発明1と甲4発明は、
「歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセスであって、
a)セラミック粉末層混合物を調製するため、異なるベース粉末を混合し、
b)ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、すくなくとも異なる5層のセラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成し、
c)前記積層セラミック粉末層をプレスして、圧縮成形体を形成し、
d)ステップc)で得られた成形体を焼結してセラミック成形体を形成するステップを含み、
少なくとも3層の前記セラミック粉末層はそれぞれ異なる量の異なるベース粉末の混合物を含み、
前記ベース粉末はそれぞれ少なくとも80重量%のZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含む、プロセス」
である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点4>
本件発明1のベース粉末は、
「92から96重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、3.5から6.5重量%のY2O3、および0.02から0.1重量%のCo3O4からなるベース粉末A」、
「85から93重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および7.5から11.0重量%のEr2O3からなるベース粉末B」、
「90から94重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および5.5から8.0重量%のY2O3からなるベース粉末C」、
「90から94重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および5.5から8.0重量%のY2O3、0.1から0.3重量%のFe2O3からなるベース粉末D」
の4種の粉末である一方、
甲4発明のベース粉末は、「主要成分(wt%):Y2O3 5.2±0.5、Al2O3 0.1~0.4、微量のNa2O、SiO2、Fe2O3、残部ZrO2である」、「白色ジルコニア粉末」及び「黄色ジルコニア粉末」の2種の粉末である点。
(イ)相違点に対する判断
甲4発明は、「白色ジルコニア粉末」及び「黄色ジルコニア粉末」の2種の粉末を用いるものであるところ、甲4発明において、粉末種を4種まで増加させる動機はない。
加えて、甲1、甲2、甲6には、4種の粉末を使用することは記載されているものの、これらを含む甲1~甲3、甲5、甲6のいずれにも、本件発明1の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」の粉末組成や、それらの4種を組み合わせて使用することが何ら開示されておらず、歯科用多色加工可能ジルコニアセラミックにおいて、本件発明1と同じ粉末組成を採用することが周知技術であったといえる証拠はない。
そうすると、相違点4に係る構成を備える本件発明1は、当業者が甲4発明、他の甲号証の記載事項及び周知技術に基づいて容易に想到し得たものとはいえない。
オ 甲5発明を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件発明1と甲5発明を対比する。
a 甲5発明の「色相勾配を有する人工歯牙用ジルコニアブロックの製造方法」は、本件発明1と同じく「歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセス」であるといえる。
b 甲5発明の「所望する色相勾配を出すために、有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末との配合比が異なるように混合して有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末との重量比が互いに異なるように配合された複数個の原料を準備」するステップと、本件発明1の「a)セラミック粉末層混合物を調製するため、4つの異なるベース粉末を混合」するステップとは、「セラミック粉末層混合物を調製するため、異なるベース粉末を混合」する点で共通する。
c 甲5発明の「有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末を互いに異なる重量比に配合した原料1~10を準備し」た後の「上記原料を準備した後、所望する色相勾配を出すために、有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末とが目標とする割合で混合した複数個の原料をモールドに注入」するステップでは、当該原料1~10がモールド内で順に積層され10層の粉末層が形成されると解されるから、当該ステップは、本件発明1の「b)ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、すくなくとも異なる5層のセラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成」するステップに相当する。
d 甲5発明の「前記複数個の原料が注入された前記モールドに、所定の圧力でプレスを用いて目標とする形態に圧縮成形し、成形された結果物に対して均一な内部密度分布を維持させるために冷間静水圧工程を行」うステップは、本件発明1の「c)前記積層セラミック粉末層をプレスして、圧縮成形体を形成」するステップに相当する。
e 甲5発明の「圧縮成形された結果物にバインダーなどを燃消させて除去するための脱脂工程を行い、脱脂工程後に、機械加工に適切な硬度及び密度条件を合わせるために仮焼工程を行い、仮焼された結果物を加工し、加工された結果物をきれいに洗浄した後に乾燥する」ステップは、本件発明1の「d)ステップc)で得られた成形体を焼結してセラミック成形体を形成するステップ」に相当する。
f 甲5発明において「モールド」内に形成された粉末層のそれぞれは、下記表に対応した粉末混合比を有するから、当該粉末層と本件発明1の「セラミック粉末層」は、その「少なくとも3層」に「それぞれ異なる量の異なるベース粉末の混合物を含」む点で共通する。
[図:0001432097000004.jpg]
g 甲5発明の「有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末」は、ジルコニア(ZrO2)を含むものであるから、甲5発明の「有色ジルコニア系粉末と白色ジルコニア系粉末」と本件発明1の「ベース粉末」は、それぞれZrO2を含む点で共通する。
h そうすると、本件発明1と甲5発明は、
「歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセスであって、
a)セラミック粉末層混合物を調製するため、異なるベース粉末を混合し、
b)ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、すくなくとも異なる5層のセラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成し、
c)前記積層セラミック粉末層をプレスして、圧縮成形体を形成し、
d)ステップc)で得られた成形体を焼結してセラミック成形体を形成するステップを含み、
少なくとも3層の前記セラミック粉末層はそれぞれ異なる量の異なるベース粉末の混合物を含み、
前記ベース粉末はそれぞれZrO2を含む、プロセス」
である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点5>
本件発明1のベース粉末は、
「92から96重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、3.5から6.5重量%のY2O3、および0.02から0.1重量%のCo3O4からなるベース粉末A」、
「85から93重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および7.5から11.0重量%のEr2O3からなるベース粉末B」、
「90から94重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および5.5から8.0重量%のY2O3からなるベース粉末C」、
「90から94重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および5.5から8.0重量%のY2O3、0.1から0.3重量%のFe2O3からなるベース粉末D」
の4種の粉末である一方、
甲5発明のベース粉末は、「色相を表さない」「白色ジルコニア系粉末」と、「ジルコニア粉末と色相を表示させるための金属酸化物とが混合して塑性過程を経て形成された粉末であり、色相を表示させるための金属酸化物としては、赤色酸化鉄(Fe2O3)、黄色酸化鉄(Fe2O3)、黄色を表すMoO3、アイボリーまたは茶色を表すMnO2、黄色を表すCeO2、黄色を表すBaO、オレンジ色を表すV2O5、黒色を表すV2O3、黒色を表すCoOまたはこれらの混合物などが用いられ」る「有色ジルコニア系粉末」の2種の粉末である点。
(イ)相違点に対する判断
甲5発明は、「白色ジルコニア系粉末」及び「有色ジルコニア系粉末」の2種の粉末を用いるものであるところ、甲5発明において、粉末種を4種まで増加させる動機はない。
加えて、甲1、甲2、甲6には、4種の粉末を使用することは記載されているものの、これらを含む甲1~甲4、甲6のいずれにも、本件発明1の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」の粉末組成や、それらの4種を組み合わせて使用することが何ら開示されておらず、人工歯牙用ジルコニアブロックにおいて、本件発明1と同じ粉末組成を採用することが周知技術であったといえる証拠はない。
そうすると、相違点5に係る構成を備える本件発明1は、当業者が甲5発明、他の甲号証の記載事項及び周知技術に基づいて容易に想到し得たものとはいえない。
カ 甲6発明を主引用発明とする場合
(ア)対比
本件発明1と甲6発明を対比する。
a 甲6発明の「透明度勾配」は、色調の段階的な変化の一種といえるから、甲6発明の「透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックの製造方法」は、本件発明1と同じく「歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセス」であるといえる。
b 甲6発明の「粉末A、B、C、D及びEの4~5種を異なる質量分率比で混合し、5~11種の混合粉末を得」るステップは、本件発明1の「a)セラミック粉末層混合物を調製するため、4つの異なるベース粉末を混合」するステップに相当する。
c 甲6発明の「5~11種の混合粉末を得」た後の「焼結透明度が増加する順に層状に成形型に投入」するステップでは、5~11種の混合粉末が成形型内で順に積層され5~11層の粉末層が形成されると解されるから、当該ステップは、本件発明1の「b)ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、すくなくとも異なる5層のセラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成」するステップに相当する。
d 甲6発明の「層状に成形型に投入」した後の「3~28MPaの圧力、5~30秒の保圧時間で乾式プレスして」「乾式プレスされた歯科用ジルコニアディスクをさらに10~20MPaの圧力、60~200秒の保圧時間で冷間等方圧プレスする」ステップは、本件発明1の「c)前記積層セラミック粉末層をプレスして、圧縮成形体を形成」するステップに相当する。
e 甲6発明の「冷間等方圧プレス」後の「予備焼結」及び「ブランクの修復」を行うステップは、本件発明1の「d)ステップc)で得られた成形体を焼結してセラミック成形体を形成するステップ」に相当する。
f 甲6発明において「成形型」内に形成された粉末層は、「粉末A、B、C、D及びEの4~5種を異なる質量分率比で混合し」た「5~11種の混合粉末」からなるものであるから、当該粉末層と本件発明1の「セラミック粉末層」は、その「少なくとも3層」に「それぞれ異なる量の4つの異なるベース粉末の混合物を含」む点で共通する。
g 甲6発明の「粉末A、B、C、D及びE」は、「Y2O3 5.0~13.5、Al2O3 0.25~0.5、Na2O≦0.01、SiO2≦0.02、Fe2O3≦0.01、残部ZrO2の質量分率比」を有するものであるから、当該「粉末A、B、C、D及びE」と本件発明1の「ベース粉末」は、それぞれ少なくとも80重量%のZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含む点で共通する。
h そうすると、本件発明1と甲6発明は、
「歯科修復物の調製に使用するためのカラーグラデーションを備えた焼結成形体を製造するプロセスであって、
a)セラミック粉末層混合物を調製するため、4つの異なるベース粉末を混合し、
b)ステップa)で得られた前記セラミック粉末層混合物を積み重ねて、すくなくとも異なる5層のセラミック粉末層を含む積層セラミック粉末層を形成し、
c)前記積層セラミック粉末層をプレスして、圧縮成形体を形成し、
d)ステップc)で得られた成形体を焼結してセラミック成形体を形成するステップを含み、
少なくとも3層の前記セラミック粉末層はそれぞれ異なる量の4つの異なるベース粉末の混合物を含み、
前記ベース粉末はそれぞれ少なくとも80重量%のZrO2と、少なくとも0.02重量%のAl2O3とを含む、プロセス」
である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点6>
本件発明1の4つの異なるベース粉末は、
「92から96重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、3.5から6.5重量%のY2O3、および0.02から0.1重量%のCo3O4からなるベース粉末A」、
「85から93重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および7.5から11.0重量%のEr2O3からなるベース粉末B」、
「90から94重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および5.5から8.0重量%のY2O3からなるベース粉末C」、
「90から94重量%のジルコニア、0.02から0.1重量%のAl2O3、および5.5から8.0重量%のY2O3、0.1から0.3重量%のFe2O3からなるベース粉末D」
の4種の粉末である一方、
甲6発明の4つの異なるベース粉末(粉末A、B、C、D及びE)は、「Y2O3 5.0~13.5、Al2O3 0.25~0.5、Na2O≦0.01、SiO2≦0.02、Fe2O3≦0.01、残部ZrO2の質量分率比」を有する4種の粉末である点。
(イ)相違点に対する判断
甲6発明は、上述の粉末組成の「粉末A、B、C、D及びE」を用いるものであるところ、甲6発明において、その組成範囲を超えることになる本件発明1の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」の組成の組み合わせを採用する動機はない。
加えて、甲1~甲5にも、本件発明1の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」の粉末組成や、それらの4種を組み合わせて使用することが何ら開示されておらず、透明度勾配ジルコニア歯科用セラミックにおいて、本件発明1と同じ粉末組成を採用することが周知技術であったといえる証拠はない。
そうすると、相違点6に係る構成を備える本件発明1は、当業者が甲6発明、他の甲号証の記載事項及び周知技術に基づいて容易に想到し得たものとはいえない。
(3)本件発明2~10、12について
本件発明2~10の「焼結成形体を製造するプロセス」、及び、本件発明12の「セラミック成形体の使用(方法)」は、本件発明1の発明特定事項を全て含む方法の発明であるから、本件発明1と同様、甲1発明~甲6発明のいずれかに基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
(4)本件発明11について
本件発明11のセラミック成形体は、本件発明1~10のいずれかのプロセスによって得られるものであるから、本件発明1に規定された「それぞれ異なる量の4つの異なるベース粉末の混合物」から形成された「少なくとも3層」の「セラミック粉末層」を備えるものである。
そして、上述のとおり、甲1~甲6のいずれにも、本件発明1の「ベース粉末A」~「ベース粉末D」の粉末組成や、それらの4種を組み合わせた混合物は何ら開示されていないから、本件発明11も、甲1発明~甲6発明のいずれかに基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
(5)申立理由5についての結論
以上のとおり、本件発明1~12は、甲1発明~甲6発明のいずれかに基づいて当業者が容易に発明できたものでないから、申立理由5には、理由がない。
第5 むすび
上記第4のとおり、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものではなく、同法第36条第4項第1号、第6項第1号又は同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでもなく、同法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。
したがって、本件特許1~12は、同法第113条第1号、第2号又は第4号のいずれにも該当しないから、申立理由1~5によって、本件特許1~12を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~12を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700911