審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2024-700744

繊維補強モルタルの押出積層方法

審判番号
2024-700744
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-022740
登録番号
7430147
請求日
2024年08月07日
審決日
2026年03月25日
公報発行日
2026年06月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】太平洋セメント株式会社
  • 【権利者代理人】新井 範彦
  • 【権利者】大成建設株式会社
  • 【権利者代理人】新井 範彦
  • 【異議申立人】渋谷 都
審判長/審判官
  • 審判長 深草 祐一
  • 審判官 金 公彦
  • 審判官 原 賢一
分類
P1651.113-YAA(B28B) / P1651.121-YAA(B28B) / P1651.161-YAA(B28B) / P1651.536-YAA(B28B) / P1651.537-YAA(B28B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7430147号発明「繊維補強モルタルの押出積層方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7430147号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第7430147号の請求項1、2に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7430147号の請求項1、2に係る特許についての出願は、令和3年2月16日に出願されたものであり、令和6年2月1日にその特許権の設定登録がされ、同年同月9日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月7日に、請求項1、2に係る特許を対象として特許異議申立人渋谷都(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。 以降の主な手続きは以下のとおりである。 令和6年 9月 5日 特許異議申立書に対する手続補正書の提出(異議申立人) 同年12月 6日付け 取消理由通知 令和7年 2月 5日 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者) 同年 3月19日 同年2月5日に提出された意見書に対する手続補正書及び同日に提出された訂正請求書に対する手続補正書の提出(特許権者) 同年 4月25日 訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)(異議申立人からの応答なし。) 同年 7月25日付け 取消理由通知(決定の予告) 同年 9月18日 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)(以下、「本件訂正」という。) 同年10月 3日付け 手続補正指令(方式)(特許権者に対して) 同年10月31日 同年9月18日に提出された訂正請求書に対する手続補正書の提出(特許権者) 同年12月10日付け 訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)(異議申立人からの応答なし。) なお、令和7年2月5日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「先の訂正」ということがある。)は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 本件訂正は、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「(b)前記短繊維の長さが10~17mm (c)前記短繊維のアスペクト比が45~300 (d)該短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として1.5~3.5体積%」とあるのを、「(b)前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが10~17mm (c)前記繊維補強モルタル中の短繊維のアスペクト比が45~300 (d)前記繊維補強モルタル中の短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として2.0~3.5体積%」に訂正する。 (請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「押出積層時の0打フローおよび15打フローが」とあるのを、「JIS R 5201に準拠して測定した押出積層時の0打フローおよび15打フローが」に訂正する。 (請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2に「(C)前記短繊維のアスペクト比が300以下 (D)前記短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として5.0%以下」とあるのを、「(C)前記短繊維のアスペクト比が45~300 (D)前記短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として2.0~3.5体積%」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「(b)前記短繊維」、「(c)前記短繊維」及び「(d)該短繊維」を、それぞれ、「(b)前記繊維補強モルタル中の短繊維」、「(c)前記繊維補強モルタル中の短繊維」及び「(d)前記繊維補強モルタル中の短繊維」とする訂正と、(d)において、「モルタルマトリックスの体積を100」とする「短繊維の体積含有率」が、本件訂正前は、「1.5~3.5体積%」であったものを、「2.0~3.5体積%」とする訂正を含むものである。 前者の訂正は、本件訂正前の特に「(b)前記短繊維」で、「前記」とあるのにこの記載より前に、「短繊維」との記載がなく、ここでの「短繊維」と「繊維補強モルタル」との関係が明らかでない記載となっていたのに対し、本件明細書の【0014】の「4.繊維補強モルタル 次に、本発明で用いる繊維補強モルタルについて説明する。該繊維補強モルタルは、短繊維、結合材、細骨材、および水を少なくとも含む水硬性組成物である。」との記載に基づいて、「(b)前記繊維補強モルタル中の短繊維」とすることによって、繊維補強モルタル中に含まれる短繊維であることを明確にし、さらに、(b)での訂正に合わせて、(c)、(d)での「短繊維」も、繊維補強モルタル中に含まれるものであることを明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。 そして、この明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正は、訂正前の記載の本来の意味を明らかにするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、後者の訂正は、本件明細書の【0027】に「2.本発明の繊維補強モルタルの押出積層試験 [試験1] 表3に示す配合に従い、繊維を除く各材料を、パン型ミキサに投入して2分間混合し、ミキサ内の掻き落としを行ってから、さらに2分間混合した後、繊維を混入し、さらに2分間混合して、繊維補強モルタルを調製した。なお、表3における繊維を除く各材料の値は、結合材の質量を100としたときの質量比(%で表示)であり、繊維量の値は、モルタルマトリックスの体積を100としたときの体積比(Vol.%で表示)である。」との記載があり、同【0028】に「【表3】 [図:0001436143000001.jpg] 」との記載があるところ、繊維補強モルタルの組成を示す【表3】に、上記【0027】で、「モルタルマトリックスの体積を100としたときの体積比(Vol.%で表示)である」とされる、「繊維量(Vol.%)」が、実施例2で、「2.0」であることに基づいて、「モルタルマトリックスの体積を100」とする「短繊維の体積含有率」を、「1.5~3.5体積%」の範囲を、「2.0~3.5体積%」の範囲に狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そうすると、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、本件明細書の【0030】の「(1)0打フローおよび15打フロー(フレッシュ性状) 実施例1~5、および比較例1~3の繊維補強モルタルに対して、JIS R 5201に準拠してフロー試験を行い、フローコーンを垂直方向に取り去った直後に測定したフロー値を0打フロー、15秒間に15回の落下運動を与えた後に測定したフロー値を15打フローとした。」との記載に基づいて、請求項のみの記載では、「0打フロー」及び「15打フロー」がどのような特性値であるのか、必ずしも明らかでなかったものを、「JIS R 5201に準拠して測定した押出積層時の0打フローおよび15打フロー」とすることにより、JIS R 5201に準拠するフロー試験で求めた特性値であることを明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると共に、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 そして、この明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正は、訂正前の記載の本来の意味を明らかにするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について 短繊維のアスペクト比及び体積含有率について、本件訂正前の請求項1では、「(c)前記短繊維のアスペクト比が45~300 (d)該短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として1.5~3.5体積%」であったのに対し、本件訂正前の請求項2では、「(C)前記短繊維のアスペクト比が300以下 (D)前記短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として5.0%以下」とされていた。ここで、請求項2は、請求項1を引用していながら、短繊維のアスペクト比及び体積含有率が、請求項1の範囲に対応していなかったのに対し、本件訂正後の請求項1の「(c)・・・短繊維のアスペクト比が45~300 (d)・・・短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として2.0~3.5体積%」に対して、請求項2を「(C)前記短繊維のアスペクト比が45~300 (D)前記短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として2.0~3.5体積%」に訂正することにより、短繊維のアスペクト比及び体積含有率を請求項1の範囲内となるようにして、請求項1に整合させたものであるから、訂正事項3は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 なお、本件においては、本件訂正前の全ての請求項1、2について、特許異議申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3 小括 本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1、2〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1、2に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。なお、「本件発明」については、本件訂正前のものに対しても区別せずに用いることがある。)は、次のとおり特定されるものである。 「【請求項1】 JIS R 5201に準拠して測定した押出積層時の0打フローおよび15打フローが、それぞれ100~130mm、および150~190mmである繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法であって、 下記(a)~(d)の条件をすべて満たす繊維補強モルタルの押出積層方法。 (a)前記繊維補強モルタルの水/結合材比が35%以下 (b)前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが10~17mm (c)前記繊維補強モルタル中の短繊維のアスペクト比が45~300 (d)前記繊維補強モルタル中の短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として2.0~3.5体積% 【請求項2】 下記(A)~(D)の条件をすべて満たす、請求項1に記載の繊維補強モルタルの押出積層方法。 (A)前記材料押出方式の付加製造装置の押出ノズルの内径が20~30mm (B)前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが、前記押出ノズルの内径の70%以下 (C)前記短繊維のアスペクト比が45~300 (D)前記短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として2.0~3.5体積%」 第4 令和7年7月25日付けで通知した取消理由(決定の予告)、令和6年12月6日付けで通知した取消理由、及び異議申立人による特許異議の申立理由の概要 1 令和7年7月25日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要 ・特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件) 本件特許は、先の訂正後の請求項1、2の記載が後記第5の1(1)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由1」という。)。 2 令和6年12月6日付けで通知した取消理由の概要 (1)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件) 本件特許は、設定登録時の請求項1、2の記載が後記第5の1(2)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由2」という。)。 (2)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件) 本件特許は、設定登録時の明細書の記載が後記第5の2(1)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由3」という。)。 (3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件) 本件特許は、設定登録時の請求項1、2の記載が第5の3(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由4」という。)。 3 異議申立人による特許異議の申立理由の概要 (1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性) 設定登録時の請求項1に係る発明は、下記4に記載の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(下記4に記載の甲第2号証を参考にする。以下、「申立理由1」という。)。 (2)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性) 設定登録時の請求項1、2に係る発明は、下記4に記載の甲第1号証に記載された発明及び下記4に記載の甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2」という。)。 (3)特許法第29条の2所定の規定違反(拡大先願) 設定登録時の請求項1、2に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願であって、本件特許出願後に出願公開公報の発行がされた下記4に記載の特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(下記4に記載の甲第3号証として提出された公開公報の内容と同じであるので、以下、公開公報の記載を引用する。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、それらの特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由3」という。)。 (4)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件) 本件特許は、設定登録時の請求項1、2に対応する明細書の記載が後記第5の2(1)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由4」という。)。 (5)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件) 本件特許は、設定登録時の請求項1、2の記載が後記第5の1(2)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由5」という。)。 4 提出された証拠 甲第1号証:特開2020-200215号公報 甲第2号証:「コンクリート片はく落防止用の繊維補強材 合成短繊維「バルリンク」」と題する株式会社大林組のホームページの出力物、出力日2025年7月2日(URL:https://www.obayashi.co.jp/solution_technology/detail/tech_d035.html# 甲第3号証:特開2021-31343号公報(特願2019-154660号) (以下、甲第1号証を略して「甲1」などという。) 第5 当審の判断 当審は、上記取消理由1~4及び申立理由1~5のいずれにも理由がないと判断する。 以下、その理由について詳述する。 1 明確性要件に関する取消理由1、2及び申立理由5について (1)取消理由1について ア 取消理由1の概要 (ア)明確性要件の判断手法と先の訂正後の請求項1(請求項2)(以下、項目アの中では、単に、請求項1(請求項2)という。)の記載における明確性要件の検討点について 特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断するとされている。 そして、請求項1の「押出積層時の」「15打フローが」「150~190mmである繊維補強モルタル」の記載が明確性要件に適合するか否かを、上述の観点に従って、以下検討する。 (イ)本件明細書の記載 本件明細書には、「15打フロー」に関し、以下の記載がある。 a 「【0010】 本発明の付加製造方法は、前記のとおり、特定の0打フローおよび15打フローを有する繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法等である。以下、本発明について第1~3の発明に分けて詳細に説明する。ここで、0打フローとは、調製した繊維補強モルタルに対して、JIS R 5201 12 フロー試験で規定されている機械器具および測定方法にしたがって、フローコーンを垂直方向に取り去った直後に測定したフロー値であり、15打フローとは、15秒間に15回の落下運動を与えた後に測定したフロー値である。」 b 「【実施例】 【0023】 以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。 1.使用した材料 ・・・ (9)短繊維 (i)繊維1~3、5 ビニロン繊維(PVA)で、密度は1.3g/cm3である (ii)繊維4 ポリパラフェニレン・ベンゾビス・オキサゾール(PBO)繊維で、密度は1.51g/cm3である。アスペクト比等を表2に示す。 【0026】 【表2】 [図:0001436143000002.jpg] 【0027】 2.本発明の繊維補強モルタルの押出積層試験 [試験1] 表3に示す配合に従い、繊維を除く各材料を、パン型ミキサに投入して2分間混合し、ミキサ内の掻き落としを行ってから、さらに2分間混合した後、繊維を混入し、さらに2分間混合して、繊維補強モルタルを調製した。なお、表3における繊維を除く各材料の値は、結合材の質量を100としたときの質量比(%で表示)であり、繊維量の値は、モルタルマトリックスの体積を100としたときの体積比(Vol.%で表示)である。 【0028】 【表3】 [図:0001436143000003.jpg] 【0029】 実施例1~5、および比較例1~3の繊維補強モルタルについて、以下の方法に従い、0打フロー(15回の落下運動を行わないで測定したフロー値)、15打フロー、ノズル押出性、および積層性を評価した。 【0030】 (1)0打フローおよび15打フロー(フレッシュ性状) 実施例1~5、および比較例1~3の繊維補強モルタルに対して、JIS R 5201に準拠してフロー試験を行い、フローコーンを垂直方向に取り去った直後に測定したフロー値を0打フロー、15秒間に15回の落下運動を与えた後に測定したフロー値を15打フローとした。 ・・・ これらの結果を表4に示す。 【0031】 【表4】 [図:0001436143000004.jpg] ・・・ 【0033】 [試験2] 表5に示す配合に従い、前記実施例1~5および比較例1~3の場合と同様にして、繊維補強モルタルを調製した。なお、表5における各材料の値の意味は、表3における各材料の値の意味と同じである。 なお、表5の配合について、供試体の圧縮強度が50MPa以上の高強度になるように、繊維を含まないモルタルを用いて水結合材比を調整したところ、モルタルの水結合材が0.35以下で、優れた強度発現性を発揮することが明らかとなった。また、前記実施例1~5および比較例1~3の結果に基づき、優れたノズル押出性および押出後の積層性を発揮するためには、0打フロー値は100~130mm、15打フロー値は150~190mmであるから、当該フロー値になるように、表5の配合を調整した。 【0034】 【表5】 [図:0001436143000005.jpg] 【0035】 実施例6~12、および比較例4~6の繊維補強モルタルについて、0打フロー、15打フロー、材齢7日の圧縮強度および曲げ強度を測定した。 前記0打フロー、15打フローは、前記実施例1~5および比較例1~3の場合と同様にして評価および測定した。 また、前記強度試験では、JIS A 1132「コンクリートの強度試験用供試体の作り方」に準拠して、φ10×20cmの円柱供試体および10×10×40cmの角柱供試体を、打設して翌日脱枠した後、気中養生を行って作製した。次に、材齢7日の圧縮強度はJIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して測定し、材齢7日の曲げ強度はJIS A 1106「コンクリートの曲げ強度試験方法」に準拠して測定した。 これらの結果を表6に示す。また、アスペクト比と曲げ強度の関係を図7に示す。 【0036】 【表6】 [図:0001436143000006.jpg] 【0037】 表6と図7から以下のことが云える。 繊維のアスペクト比が50~65である本発明の繊維補強モルタル組成物(実施例6~10)は、繊維の混入量が体積比で2.0~3.0%で、繊維の種類や水結合材比の違いにかかわらず、ノズル押出性および押出後の積層性に優れ、また供試体の曲げ強度は9.0~11.5MPaと特に高い。また、いずれの実施例も適度な流動性を有する。 また、アスペクト比が120である本発明の繊維補強モルタル(実施例11、12)は、ノズル押出性および押出後の積層性に優れるような繊維の混入量は体積比が2.0~2.5%で、ノズル押出性および押出後の積層性が高く、また曲げ強度は8.0~9.9MPaと高い。 これに対して、繊維のアスペクト比が300である比較例4および5は、繊維の混入量が体積比で1.0~1.5%で、ノズル押出性および押出後の積層性が高いが、曲げ強度は5.4~6.1MPaと低い。 また、繊維を含まない比較例6のモルタルは、曲げ強度が3.5MPaと低く、曲げ性能に劣る。」 (ウ)明確性要件の判断 請求項1に記載される「15打フロー」について、まず、上記(イ)aの【0010】には、「調製した繊維補強モルタルに対して、JIS R 5201 12 フロー試験で規定されている機械器具および測定方法にしたがって、フローコーンを垂直方向に取り去った直後に」「15秒間に15回の落下運動を与えた後に測定したフロー値である」ことが記載され、どのように測定を行い得られる値であるかは、理解できる。 次に、「15打フロー」について、実際に、測定を行い15打フローの値を測定している実施例に関する記載を参照する。 上記(イ)bの【0028】【表3】に記載される「比較例3」は、「繊維の種類」が繊維3、「水結合材比(%)」が31、「繊維量(Vol.%)」が3.0、「細骨材1:細骨材2」が60:15、「減水剤1(%)」が0.30、「減水剤2(%)」が0.30、「凝結遅延剤(%)」が1.2、「消泡剤(%)」が0.2の配合(【表3】)のものを「繊維を除く各材料を、パン型ミキサに投入して2分間混合し、ミキサ内の掻き落としを行ってから、さらに2分間混合した後、繊維を混入し、さらに2分間混合して、繊維補強モルタルを調製した。」(【0027】)とされるものであり、この「比較例3」の「繊維補強モルタルに対して、JIS R 5201に準拠してフロー試験を行い、フローコーンを垂直方向に取り去った直後に測定したフロー値を0打フロー、15秒間に15回の落下運動を与えた後に測定したフロー値を15打フローとした」(【0030】)ところ、【0031】【表4】に示されるように、「比較例3」の「15打フロー(mm)」は、「194」である。 一方、同bの【0034】【表5】に記載される「実施例9」も、「繊維の種類」が繊維3、「水結合材比(%)」が31、「繊維量(Vol.%)」が3.0、「細骨材1:細骨材2」が60:15、「減水剤1(%)」が0.30、「減水剤2(%)」が0.30、「凝結遅延剤(%)」が1.2、「消泡剤(%)」が0.2の配合(【表5】)のものを「比較例3」の「場合と同様にして、繊維補強モルタルを調製した。」(【0033】)とされるものであり、この「実施例9」の「繊維補強モルタルに対して、0打フロー、15打フロー」「を測定した」(【0035】)ところ、【0036】【表6】に示されるように、「実施例9」の「15打フロー(mm)」は、「187」である。 ここで、本件明細書の記載によれば、「15打フロー」の値を含めモルタルの特性を決定する要因は、材料の種類、それらの配合、モルタルの調製工程であり、これら以外の要因が「15打フロー」の値を含めモルタルの特性に影響することは記載されていない。 これによれば、「15打フロー」は、材料の種類、それらの配合、モルタルの調製工程によって決まる数値であるといえるところ、同じ材料、同じ配合であり、同じ調製工程を経る「比較例3」と「実施例9」は同じ「15打フロー」を有すると考えられるが、「15打フロー」は、「比較例3」では「194」であるのに対し、「実施例9」では「187」で相違している。 なお、仮に、本件明細書に記載されている、材料の種類、それらの配合、モルタルの調製工程以外の要因でも、「15打フロー」の値が変わるのであれば、本件明細書の記載や技術常識を考慮したとしても、どのように「15打フロー」の値を調整するのか不明となり、本件発明は、実施可能要件を充足しないこととなる。 そうすると、本件明細書の記載において、同じ材料、同じ配合であり、同じ調製工程を経るモルタルであっても、測定にて得られる「15打フロー」の値が異なるということは、「15打フロー」の値は、一義的に定まる値ではないということになり、本件発明の技術的な範囲を明確に画定する特定事項としては、不明確な値となる。 すなわち、所定の材料、所定の配合、所定の調製工程を経てモルタルを製造したとしても、ある場合には、請求項1の「15打フロー」の範囲に含まれないものの、別の場合には、請求項1の「15打フロー」の範囲に含まれるといった場合が生じ、このモルタルを用いる押出積層方法が、本件発明の技術的範囲に含まれるか否かで、まさに、第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるものである。 そうすると、請求項1の「押出積層時の」「15打フローが」「150~190mmである繊維補強モルタル」の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえるから、この記載を含む請求項1及び請求項1を引用する請求項2の記載は、明確性要件に適合しているとはいえない。 イ 取消理由1に対する当審の判断 本件発明が、明確性要件を満たすか否かは、上記ア(ア)に記載される判断手法によって、判断すべきところ、本件発明は、上記第3で特定されるとおりのものであり、請求項1における、(a)~(d)の条件である繊維補強モルタルの水/結合材比、短繊維の長さ、短繊維のアスペクト比、短繊維の体積含有率の範囲、請求項2における、(A)、(B)の条件((C)、(D)の条件は、それぞれ、請求項1の(c)、(d)の条件と同じ。)である付加製造装置の押出ノズルの内径、短繊維の長さと押出ノズルの内径の比の範囲の記載は、明確であり、これらの点における本件発明の技術的範囲は、明確であるといえる。 また、請求項1における「押出積層時の」「0打フロー」及び「15打フロー」についても、請求項1に特定されるとおり、「JIS R 5201に準拠して測定」され、本件明細書の【0010】で「0打フローとは、調製した繊維補強モルタルに対して、JIS R 5201 12 フロー試験で規定されている機械器具および測定方法にしたがって、フローコーンを垂直方向に取り去った直後に測定したフロー値であり、15打フローとは、15秒間に15回の落下運動を与えた後に測定したフロー値である。」と定義され、「押出積層時」とは、同【0011】に「「押出積層時」とは、付加製造装置に繊維補強モルタルを供給する時点をいう。繊維補強モルタルを混練した後、付加製造装置に供給する前に0打フローおよび15打フローを測定し、所定の範囲内であることを確認するとよい。」とあるとおり、通常、繊維補強モルタルを混練した後、すぐに付加製造装置に供給するところ、付加製造装置に供給する直前にJIS R 5201というよく知られた方法に準拠して「0打フロー」及び「15打フロー」を測定すればよいのであるから、本件発明における「0打フロー」及び「15打フロー」の範囲も明確であるといえる。 そうすると、本件発明には、不明確な点はなく、その技術的範囲は明確であるといえる。 ここで、上記ア(ウ)に記載しているように、本件明細書の記載からは、「15打フロー」は、材料の種類、それらの配合、モルタルの調製工程によって決まる数値であるといえるところ、同じ材料、同じ配合であり、同じ調製工程を経る「比較例3」と「実施例9」で、「15打フロー」が、「比較例3」では「194」であるのに対し、「実施例9」では「187」で相違し、一見、「15打フロー」は、一義的に定まる値ではないように見える。 しかしながら、測定により値を決める際には、不可避的に誤差、バラツキが生じることは技術常識であり、技術分野毎に、その誤差、バラツキの大きさが異なるといえる。 そして、JIS R 5201は、JISとして規定されるとおり、モルタル等の技術分野で、そのフロー特性を表現するのに確立した指標であるが、その測定方法を示す、例えば、甲3の後記5(1)エの【0022】に「[フロー値の測定方法] JIS R 5201(2015)「セメントの物理試験方法」で規定されたフロー試験にしたがって、以下の方法でフロー値を測定した。 フローテーブル上の中央に正しく置いたフローコーンに、水硬性複合材料を詰め、直ちにフローコーンを上方に垂直に取り去り、15秒間に15回の落下運動を与え、水硬性複合材料が広がった後の径を最大と認める方向と、これに直角な方向とで1mm単位まで測定し、その平均値をフロー値(単位:mm)とした。」と記載されるように、15秒間に15回もの落下運動を与え水硬性複合材料を広げるものであり、広がった形状についても、最大の方向とそうではない方向(直角な方向)が生じることを前提とし、これらの平均をとるものであるから、モルタルの技術分野において、フロー試験における「15打フロー」等は、精密な再現性が得られるものではなく、材料の種類、それらの配合、モルタルの調製工程が同じであるとしても、ある程度の誤差、ばらつきが生じることは技術常識であるといえる。上記の「比較例3」及び「実施例9」のように、本件発明の「15打フロー」の範囲の境界(上限の190mm)付近では、同じ材料、同じ配合であり、同じ調製工程を経たとしても、実施によって、その範囲内外へのぶれが生じることは、この分野における当業者であれば技術常識として認識できることであるといえる。 そうすると、モルタルの技術分野では、「15打フロー」の値を決める要因には、材料の種類、それらの配合、モルタルの調製工程の他に、不可避的に多少の誤差、ばらつきが含まれることは、当業者に共通の認識であるといえる。 そして、本件発明の「15打フロー」については、まずは、押出積層時に「15打フロー」を測定すれば、本件発明の技術的範囲に含まれるか否かは判明すること、また、「15打フロー」の範囲の境界付近の値については、同じ材料、同じ配合であり、同じ調製工程を経たとしても、不可避的に生じる多少の誤差、ばらつきのため、本件発明の範囲に属するか否かで多少のぶれが生じる可能性があるものの、このことはモルタルの技術分野における技術常識であることからすると、上記ア(ウ)に記載されるように、同じ材料、同じ配合であり、同じ調製工程を経る「比較例3」と「実施例9」について、「15打フロー」の値に相違があったとしても、このことが、モルタルの技術分野において、第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるものであるとまではいうことはできない。 以上によれば、取消理由1には、理由がない。 (2)取消理由2及び申立理由5について 申立理由5は、取消理由2と同旨であるので、取消理由2として判断する。 ア 取消理由2(申立理由5)の概要 (ア)設定登録時の請求項1、2(以下、アの項目の中では単に請求項1、2という。)は以下のとおり記載されるものである。 「【請求項1】 押出積層時の0打フローおよび15打フローが、それぞれ100~130mm、および150~190mmである繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法であって、 下記(a)~(d)の条件をすべて満たす繊維補強モルタルの押出積層方法。 (a)前記繊維補強モルタルの水/結合材比が35%以下 (b)前記短繊維の長さが10~17mm (c)前記短繊維のアスペクト比が45~300 (d)該短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として1.5~3.5体積% 【請求項2】 下記(A)~(D)の条件をすべて満たす、請求項1に記載の繊維補強モルタルの押出積層方法。 (A)前記材料押出方式の付加製造装置の押出ノズルの内径が20~30mm (B)前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが、前記押出ノズルの内径の70%以下 (C)前記短繊維のアスペクト比が300以下 (D)前記短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として5.0%以下」 (イ)請求項1の記載について 請求項1の(b)及び(c)、特に(b)に「前記短繊維」と記載されているが、この記載より前に「短繊維」の記載はないから、「前記短繊維」の記載は、明確でない。 また、この記載より前に、「繊維補強モルタル」との記載があるが、ここでの「繊維」と(b)及び(c)の「短繊維」との関係も明確でない。 (ウ)請求項2の記載について 請求項1では、「(c)前記短繊維のアスペクト比が45~300」及び「(d)該短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として1.5~3.5体積%」と記載される一方、請求項1を引用する請求項2では、「(C)前記短繊維のアスペクト比が300以下」、「(D)前記短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として5.0%以下」と記載されている。 ここで、請求項2は、請求項1を引用していることから、請求項2に記載される事項は、請求項1に記載される事項の範囲内のものであるとも理解されるが、請求項2に記載される「短繊維のアスペクト比」及び「短繊維の体積含有率」の範囲は、引用する請求項1の「短繊維のアスペクト比」及び「短繊維の体積含有率」の範囲よりも広いため、請求項2の「短繊維のアスペクト比」及び「短繊維の体積含有率」の範囲の記載は、引用する請求項1の記載との関係で明確でない。 イ 取消理由2及び申立理由5に対する当審の判断 まず、上記ア(イ)について、上記第2の1(1)に記載の訂正事項1により、「(b)前記短繊維の長さが10~17mm (c)前記短繊維のアスペクト比が45~300」 とあったものが、「(b)前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが10~17mm (c)前記繊維補強モルタル中の短繊維のアスペクト比が45~300」と訂正されることにより、まず、(b)の短繊維が、繊維補強モルタル中に含まれる短繊維であることが明確になり、さらに、(b)での訂正に合わせて、(c)も、「前記繊維補強モルタル中の短繊維」とすることにより、(c)の短繊維も、繊維補強モルタル中に含まれるものであることが明確になった。 次に、上記ア(ウ)について、本件訂正後の請求項1の「(c)・・・短繊維のアスペクト比が45~300 (d)・・・短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として2.0~3.5体積%」に対して、訂正事項3により、請求項2が「(C)前記短繊維のアスペクト比が45~300 (D)前記短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として2.0~3.5体積%」と訂正されることにより、請求項2に記載される(C)及び(D)の範囲が、請求項1の範囲内となり、請求項2の記載は、請求項1の記載に整合するものとなった。 そうすると、上記アにおける記載上の不備はないものとなったから、取消理由2及び申立理由5には、理由がない。 2 実施可能要件に関する取消理由3及び申立理由4について 申立理由4は、取消理由3と同旨であるので、取消理由3として判断する。 (1)取消理由3(申立理由4)の概要 上記1(1)ア(ウ)に記載しているように、設定登録時の請求項1に係る発明における「15打フロー」は、材料の種類、それらの配合、モルタルの調製工程によって決まる数値であるといえるところ、同じ材料、同じ配合であり、同じ調製工程を経る「比較例3」と「実施例9」は同じ「15打フロー」を有すると考えられるが、「15打フロー」は、「比較例3」では「194」であるのに対し、「実施例9」では「187」で相違している。 そうすると、本件発明を実施する上で必要である「0打フロー(mm)」も含め「15打フロー(mm)」の調製の際には、実施例及び比較例も含め本件明細書の記載を参照するところ、「比較例3」と「実施例9」という整合していない例が存在しているため、本件明細書の記載において、「0打フロー(mm)」を含め「15打フロー(mm)」を調整する方法が不明確となっていることから、本件明細書は、当業者が、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 (2)取消理由3及び申立理由4に対する当審の判断 ア 実施可能要件の判断手法に基づいた実施可能要件の判断 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かを検討して判断すべきものとされている。 そして、本件発明は、上記第3に記載されるとおりのものであるところ、この「繊維補強モルタルの押出積層方法」を実施する上で必要となる「繊維補強モルタル」の材料である結合材については、本件明細書の【0019】に、短繊維については、本件発明に特定がなされる短繊維の長さ、アスペクト比、体積含有率と繊維補強モルタルの強度、押出性等の特性との関係性を含め同【0015】~【0018】に詳細な記載がなされている。また、「繊維補強モルタル」の調製については、同【0027】に「表3に示す配合に従い、繊維を除く各材料を、パン型ミキサに投入して2分間混合し、ミキサ内の掻き落としを行ってから、さらに2分間混合した後、繊維を混入し、さらに2分間混合して、繊維補強モルタルを調製した。」と記載され、調製された「繊維補強モルタル」の押出積層方法については、同【0030】に、ノズルからの押出しとして、繊維補強モルタルを、ノズルの内径が25mmの材料押出方式の付加製造装置(3Dプリンタ)の特殊ノズル上部に投入して、ノズルからの押し出し時間は60~80分、ノズルからの押し出し速度は6000~9000mm/分、ノズルから押し出す材料の量は40~60リットルで押出しを行うこと、付加製造装置は、繊維補強モルタル等のセメント系材料を、材料投入ホッパーに投入した後、市販のスクイーズポンプにより特殊ノズルに送り出して、セメント系材料をノズル先端から押し出しながら積層することが記載されている。 さらに、本件発明の(a)~(d)の「(a)前記繊維補強モルタルの水/結合材比が35%以下 (b)前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが10~17mm (c)前記繊維補強モルタル中の短繊維のアスペクト比が45~300 (d)前記繊維補強モルタル中の短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として2.0~3.5体積%」との条件を満たし、さらに、細骨材、減水剤、凝結遅延剤、消泡剤を含み、同【0030】に記載されるJIS R 5201に準拠した試験を行い0打フロー及び15打フローが本件発明の範囲内にある実施例2~8、10~12について、同【0031】の【表4】、【0032】、【0036】の【表6】、【0037】において、良好なノズル押出性、積層性が得られること、すなわち、繊維補強モルタルの押出積層方法が実施できることが具体的に示されている。 そうすると、本件明細書の記載を見れば、本件発明の繊維補強モルタルの押出積層方法を実施するのに、過度の試行錯誤を要するとはいえないことから本件発明は、実施可能要件を満足するといえる。 ここで、同じ材料、同じ配合であり、同じ調製工程を経る「比較例3」と「実施例9」は同じ「15打フロー」を有すると考えられるが、「15打フロー」は、「比較例3」では「194」であるのに対し、「実施例9」では「187」で相違している。 このことについて、モルタルの技術分野では、特にフロー試験における「15打フロー」のような試験の場合、上記1(1)イでも述べたように、精密な再現性が得られず、ある程度の誤差、ばらつきが生じることは技術常識であるといえるから、特に「15打フロー」について、本件発明の範囲の境界(上限の190mm)付近では、同じ材料、同じ配合であり、同じ調製工程を経たとしても、実施によって、その範囲内外へのぶれが生じることは、この分野における当業者の共通の認識であるといえる。そして、このような場合にかかわらず、少なくとも、本件明細書の一般的な記載や、実施例9以外の他の実施例2~8、10~12を参照すれば、繊維補強モルタルの押出積層方法を実施することができること、さらには、JIS R 5201に準拠して、「15打フロー」を測定すること自体には何らの困難もないのであるから、「15打フロー」の値が多少の誤差やばらつきを含むものであるとしても、繊維補強モルタルの押出積層時に「15打フロー」を測定し、「15打フロー」が本件発明の範囲に入るのを確認してから、本件発明の押出積層方法を実施すれば、特に、本件発明の押出積層方法を実施することに支障はないといえる。 そうすると、同じ材料、同じ配合であり、同じ調製工程を経る「比較例3」と「実施例9」について、「15打フロー」の値に相違があるとしても、このことは、本件発明の実施可能要件の判断を左右するものではない。 以上によれば、取消理由3及び申立理由4には、理由がない。 3 サポート要件に関する取消理由4について (1)取消理由4の概要 サポート要件の判断は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して行うべきであるところ、本件発明の課題は、「モルタル等の水硬性材料の引張強度や曲げ強度を改善するために、短繊維を混合すること」を前提とした上で、その際に生じる「水硬性材料の流動性が低下」するという問題に対し、「短繊維を混合した繊維補強モルタルと材料押出方式の付加製造装置を用いて、練り混ぜ性、流動性および積層性(成形性)に優れた繊維補強モルタルの押出積層方法を提供すること」にあるといえる。 そして、設定登録時の請求項1、2に係る発明は、上記の課題を、設定登録時の請求項1に係る発明で特定される「押出積層時の0打フローおよび15打フローが、それぞれ100~130mm、および150~190mmである繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法であって、 下記(a)~(d)の条件をすべて満たす繊維補強モルタルの押出積層方法。 (a)前記繊維補強モルタルの水/結合材比が35%以下 (b)前記短繊維の長さが10~17mm (c)前記短繊維のアスペクト比が45~300 (d)該短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として1.5~3.5体積%」で解決するものである。 一方、上記1(1)ア(イ)bの【0034】【表5】に記載される「比較例4」は、「水/結合材比(%)」が34%、「繊維量(Vol.%)(繊維の体積含有率)」が1.5、「繊維長(mm)(短繊維の長さ)」が12mm、「短繊維のアスペクト比」が300(繊維1、【0026】【表2】)であるものであり、さらに、「0打フロー(mm)」および「15打フロー(mm)」が、それぞれ114mm、および175mmであり、上述の設定登録時の請求項1(請求項2)に係る発明の範囲に含まれるものである。 しかしながら、この態様は、「比較例」とされるものであると共に、「繊維のアスペクト比が300である比較例4および5は、繊維の混入量が体積比で1.0~1.5%で、ノズル押出性および押出後の積層性が高いが、曲げ強度は5.4~6.1MPaと低い。」(【0037】)とされているし、圧縮強度についても、実施例6~12に比べて劣っている上に、「短繊維の体積含有量」が設定登録時の請求項1(請求項2)に係る発明の範囲外の比較例5よりも劣っている。 そうすると、設定登録時の請求項1(請求項2)に係る発明の範囲に含まれる「比較例4」は、「モルタル等の水硬性材料の引張強度や曲げ強度を改善する」ことを前提としている本件発明の課題を解決しているとはいえない態様である。さらに、上記【0037】の記載によれば、「比較例4」における曲げ強度及び圧縮強度の低下は、少なくとも、短繊維のアスペクト比が300であって、繊維の混入量が繊維2~5を用いた実施例と比較して少ないことによるといえるところ、このアスペクト比の値が、設定登録時の請求項1に記載された範囲内の300以下であっても300に近接する範囲では、曲げ強度及び圧縮強度が低下しているといえることから、本件発明の課題を解決しているとはいえない。 以上によれば、「比較例4」の態様、さらには、短繊維のアスペクト比が、300以下であって300に近接する範囲の態様を含む設定登録時の請求項1(請求項2)に係る発明は、本件発明の課題を解決しているとはいえないから、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。 (2)取消理由4に対する当審の判断 まず、上記第2の1(1)に記載した訂正事項1によって、設定登録時における請求項1で「(d)該短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として1.5~3.5体積%」とあったものが、「(d)前記繊維補強モルタル中の短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として2.0~3.5体積%」に訂正され、繊維補強モルタル中の短繊維の体積含有率が「2.0~3.5体積%」に限定されることによって、本件発明の課題を解決できない態様とされていた、短繊維の体積含有率が1.5体積%である「比較例4」は、本件発明の範囲に含まれないものとなったから、本件発明の範囲は、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなったといえる。 また、短繊維のアスペクト比が、300以下であって300に近接する範囲では曲げ強度及び圧縮強度が低下しているといえることから、この範囲を含む設定登録時の請求項1(請求項2)に係る発明は、本件発明の課題を解決しているとはいえないことについては、上記1(1)ア(イ)bの【0034】【表5】の実施例6~12を参照すると、使用している短繊維は、アスペクト比が50~120の短繊維ではあるが、短繊維の体積含有率が2.0体積%(実施例7、11)以上で、曲げ強度及び圧縮強度の値が良好なものとなることが、同bの【0036】【表6】に示されていること、また、短繊維は、本件発明が「繊維補強モルタル」とされるとおり、「補強」すなわち、強度向上のために添加されるものであるから、概ね短繊維の体積含有率が高くなれば、曲げ強度及び圧縮強度等は向上するといえる。 そうすると、上記訂正事項1によって、繊維補強モルタル中の短繊維の体積含有率の低く、曲げ強度及び圧縮強度が十分でないおそれのある「1.5~2.0体積%未満」の範囲が除かれ、「2.0~3.5体積%」の範囲となることによって、短繊維のアスペクト比が、300以下であって300に近接する範囲の場合であっても、繊維補強モルタル中の短繊維の体積含有率が、「2.0~3.5体積%」の範囲であれば、曲げ強度及び圧縮強度が十分であり、本件発明の課題を解決するといえる。 以上によれば、本件発明は、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、取消理由4には、理由がない。 4 新規性、進歩性に関する申立理由1、2について (1)甲1、甲2に記載された事項 ア 甲1に記載された事項 (ア)「【請求項1】 セメント、細骨材、速硬性混和材、凝結遅延剤を含み、 前記セメント100質量部に対して、前記速硬性混和材を20質量部以上200質量部以下含むことを特徴とする付加積層用セメント質材料。 【請求項2】 短繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載の付加積層用セメント質材料。 【請求項3】 請求項1または2に記載の付加積層用セメント質材料と水とを混練したことを特徴とするモルタルまたはコンクリート。 【請求項4】 JIS R5201:2015のフロー試験に準拠して測定したフロー値が210mm以下であることを特徴とする請求項3に記載のモルタルまたはコンクリート。 【請求項5】 請求項3または4に記載のモルタルまたはコンクリートを用いることを特徴とする付加積層方法。」 (イ)「【0011】 ・速硬性混和材 速硬性混和材は、セメント組成物の硬化時間を短くし、かつ初期強度発現性を向上させる作用を有し、本発明においては、自立安定性を付与するものである。 本発明は、セメント100質量部に対して、速硬性混和材を20質量部以上200質量部以下含むことを特徴とする。速硬性混和材の配合量としては、セメント100質量部に対して、22質量部以上150質量部以下が好ましく、25質量部以上100質量部以下がより好ましい。 ・・・ 【0020】 ・短繊維 本発明の付加積層用セメント質材料において、上層自重による下層の沈下の抑制、強度またはじん性の向上を目的として短繊維を混入することができる。混入する短繊維としては、コンクリート分野において用いられている高張力鋼繊維、アモルファス鋼繊維、ステンレス繊維等の鋼繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維等の有機繊維、炭素繊維、ガラス繊維等を、特に制限することなく使用することができる。短繊維の長さ、径、アスペクト比、断面形状等に特に制限はないが、本発明のセメント質材料は、ポンプにより押し出されてノズルから抽出されるものであるため、ポンプおよびノズルの形状・内径に依存するが、その長さは短いことが好ましく、長さ50mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましく、12mm以下であることがさらに好ましい。 短繊維の混入量は、特に制限されないが、混入量が多いとポンプおよびノズルでの閉塞が懸念されるため、例えば、硬化後のコンクリート体積に対して外割で0.05体積%以上3.0体積%以下が好ましく、0.05体積%以上0.3体積%以下がより好ましい。 ・・・ 【0022】 本発明のセメント質材料は、水と混練してモルタル、または、さらに粗骨材を混入してコンクリートとすることができる。混練する水は、上水道水、河川水、湖沼水、工業用水、地下水、上澄水、スラッジ水等を利用することができ、上水道水を利用することが好ましい。また、混練する水は、付加積層が可能な流動性を有する範囲で少ないことが好ましく、具体的には、セメント100質量部に対して、30質量部以上70質量部以下が好ましく、34質量部以上66質量部以下がより好ましい。 【0023】 本発明のセメント質材料は、付加積層用であり、このモルタル、またはコンクリートをポンプで圧送し、ノズルから押し出しながらノズル、製作テーブルのいずれかまたは両方を動かしながら1層ずつ積層する付加積層により、様々な形状に造形する。そのため、本発明のモルタル、またはコンクリートは、JIS R5201:2015のフロー試験に準拠して測定したフロー値が210mm以下であることが好ましい。このフロー値が210mmより大きいと、材料の自立安定性が保たれず、付加積層時に上層の自重による下層の沈下が大きくなる場合がある。このフロー値は、210mm以下が好ましく、200mm以下がより好ましく、180mm以下がさらに好ましい。なお、フロー値の下限値は、使用するポンプおよびノズルの形状・内径等に依存するが、140mm以上程度である。」 (ウ)「【0027】 「実験2」 短繊維配合による効果を確認するため、下記表3に示す材料を混練し、モルタルを得た。表3に示すモルタルの組成は、短繊維配合によるフロー値の変動を抑えるため、セメント質量部に対して、水を微調整して、フロー値が同一となるようにした。 【表3】 [図:0001436143000007.jpg] W :水、神奈川県横浜市水道水 C :セメント、太平洋セメント株式会社製、普通ポルトランドセメント SCM2:速硬性混和材、デンカ株式会社製、商品名「デンカコスミック」 S :細骨材、千葉県君津産、最大粒径5mm Re2 :凝結遅延剤、デンカ株式会社製、商品名「デンカD-200セッター」 F :短繊維、萩原工業株式会社製、商品名「バルリンク」 【0028】 上記で得られたモルタルを、新明和工業株式会社製スクイズポンプMM153(最大吐出圧力1.5MPa)を用いて、内径40mmのポンピングチューブで輸送し、内径10mmのノズルを有する3次元付加積層装置を用いて、側面厚さ10mmの中空断面を層厚5mm×20層で、積層高さ100mmとなるように付加積層した。硬化後の付加積層体を側方から見た様を図1に示す。」 イ 甲2に記載された事項 「 [図:0001436143000008.jpg] [図:0001436143000009.jpg] 」 (2)甲1に記載された発明 甲1の上記(1)ア(ウ)の【0027】には、短繊維配合による効果を確認するため、【表3】に示す材料を混練し、モルタルを得たことが記載され、同【0028】には、そのモルタルを「新明和工業株式会社製スクイズポンプMM153(最大吐出圧力1.5MPa)を用いて、内径40mmのポンピングチューブで輸送し、内径10mmのノズルを有する3次元付加積層装置を用いて、側面厚さ10mmの中空断面を層厚5mm×20層で、積層高さ100mmとなるように付加積層」することが記載されている。 ここで、この【表3】に記載される「実施例5」に着目し、「W」が「水」、「C」が「セメント」、「SCM2」が「速硬性混和材」、「S」が「細骨材」、「Re2」が「凝結遅延剤」、「F」が「短繊維、萩原工業株式会社製、商品名「バルリンク」」を意味していること、また、【表3】で直接的には「B」が意味するものが明らかでないが、「B」がセメントである「C」と速硬性混和材である「SCM2」の混合量とすると、実施例4及び5で、W/B(%)の値である30、SCM/B(%)の値である20に合致することを考慮すると、実施例5として、以下のモルタルが記載されているといえる。 「水:38重量部、セメント:100重量部、速硬性混和材:25重量部、細骨材:163重量部、凝結遅延剤:1.88重量部、短繊維、萩原工業株式会社製、商品名「バルリンク」:0.40重量部であり、水/(セメント+速硬性混和材)が30%、速硬性混和材/(セメント+速硬性混和材)が20%であり、フロー値が176である、モルタル。」 そして、モルタルを付加積層すること(【0028】)は、「付加積層方法」といえるところ、「実施例5」のモルタルを付加積層することを考慮すると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「水:38重量部、セメント:100重量部、速硬性混和材:25重量部、細骨材:163重量部、凝結遅延剤:1.88重量部、短繊維、萩原工業株式会社製、商品名「バルリンク」:0.40重量部であり、水/(セメント+速硬性混和材)が30%、速硬性混和材/(セメント+速硬性混和材)が20%であり、フロー値が176である、モルタルを、 新明和工業株式会社製スクイズポンプMM153(最大吐出圧力1.5MPa)を用いて、内径40mmのポンピングチューブで輸送し、内径10mmのノズルを有する3次元付加積層装置を用いて、側面厚さ10mmの中空断面を層厚5mm×20層で、積層高さ100mmとなるように付加積層する付加積層方法。」 (3)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 (ア)甲1発明は、モルタルに「短繊維」を含むものであるところ、甲1の上記(1)ア(イ)の【0020】の「・短繊維 本発明の付加積層用セメント質材料において、上層自重による下層の沈下の抑制、強度またはじん性の向上を目的として短繊維を混入することができる。」との記載によれば、甲1発明の「短繊維」は、モルタルの強度またはじん性の向上を目的として混入するものであるから、甲1発明の「短繊維」を含む「モルタル」は、本件発明1の「繊維補強モルタル」に相当する。 また、甲1発明の「内径10mmのノズルを有する3次元付加積層装置」は、ノズルから「モルタル」を押出すものであるから、本件発明1の「材料押出方式の付加製造装置」に相当し、甲1発明での「モルタル」を「内径10mmのノズルを有する3次元付加積層装置を用いて」「付加積層する付加積層方法」は、本件発明1での「繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法」に相当する。 さらに、甲1発明の「フロー値」とは、甲1の同(イ)の【0023】の「そのため、本発明のモルタル、またはコンクリートは、JIS R5201:2015のフロー試験に準拠して測定したフロー値が210mm以下であることが好ましい。このフロー値が210mmより大きいと、材料の自立安定性が保たれず、付加積層時に上層の自重による下層の沈下が大きくなる場合がある。」との記載によれば、「JIS R5201:2015のフロー試験に準拠して測定した」ものであるところ、JIS R5201:2015のフロー試験を示す、例えば甲3の後記5(1)イの【0022】の「[フロー値の測定方法] JIS R 5201(2015)「セメントの物理試験方法」で規定されたフロー試験にしたがって、以下の方法でフロー値を測定した。 フローテーブル上の中央に正しく置いたフローコーンに、水硬性複合材料を詰め、直ちにフローコーンを上方に垂直に取り去り、15秒間に15回の落下運動を与え、水硬性複合材料が広がった後の径を最大と認める方向と、これに直角な方向とで1mm単位まで測定し、その平均値をフロー値(単位:mm)とした。」との記載によれば、15秒間に15回の落下運動を与え、水硬性複合材料が広がった後の径を最大と認める方向と、これに直角な方向とで1mm単位まで測定し、その平均値としたフロー値(単位:mm)であるといえる。これに対し、本件発明1の「15打フロー」とは、本件明細書の【0030】の「(1)0打フローおよび15打フロー(フレッシュ性状) 実施例1~5、および比較例1~3の繊維補強モルタルに対して、JIS R 5201に準拠してフロー試験を行い、フローコーンを垂直方向に取り去った直後に測定したフロー値を0打フロー、15秒間に15回の落下運動を与えた後に測定したフロー値を15打フローとした。」との記載によれば、甲1発明の「フロー値」と同じくJIS R 5201に準拠し、15秒間に15回の落下運動を与えた後に測定したフロー値であるから、甲1発明の「フロー値」は、本件発明1の「15打フロー」に相当し、甲1発明の「フロー値」の値である「176」は、本件発明1の「150~190mm」の条件を満たす。 ここで、本件発明1の「15打フロー」は、「押出積層時の」「15打フロー」とされているが、本件明細書の上記【0030】の記載でも、「15打フロー」は、押出積層を行うため調整された実施例のモルタルに対して測定されており、この意味では、付加積層するために調整されたモルタルに対してフロー値が測定されている、甲1発明と同じである。 そうすると、甲1発明の「短繊維、萩原工業株式会社製、商品名「バルリンク」:0.40重量部であり、」「フロー値が176である、モルタルを、」「内径10mmのノズルを有する3次元付加積層装置を用いて、」「付加積層する付加積層方法」は、本件発明1の「JIS R 5201に準拠して測定した押出積層時の」「15打フローが、」「150~190mmである繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法」に相当する。 (イ)甲1発明の「速硬性混和材」は、甲1の上記(1)ア(イ)の【0011】の「速硬性混和材は、セメント組成物の硬化時間を短くし、かつ初期強度発現性を向上させる作用を有し、本発明においては、自立安定性を付与するものである。」との記載によれば、「セメント」と共に強度発現に関係する成分であるといえるから、甲1発明の「セメント」と「速硬性混和材」は、本件発明1の「結合材」に相当するといえる。 そうすると、甲1発明の「モルタル」において、「水/(セメント+速硬性混和材)が30%」であることは、本件発明1の「(a)前記繊維補強モルタルの水/結合材比が35%以下」の条件を満たす。 (ウ)甲1発明の「短繊維、萩原工業株式会社製、商品名「バルリンク」」は、「バルリンク」について説明がなされている甲2の上記(1)イによれば、「繊維の長さは12mm」、「繊維径が43μm」とされるものであるから、「バルリンク」のアスペクト比は、279(12×103/43)となる。 そうすると、甲1発明の「短繊維」は、本件発明1の「(b)前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが10~17mm (c)前記繊維補強モルタル中の短繊維のアスペクト比が45~300」との条件を満たす。 (エ)以上によれば、本件発明1と甲1発明は、「JIS R 5201に準拠して測定した押出積層時の15打フローが、150~190mmである繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法であって、 下記(a)~(c)の条件をすべて満たす繊維補強モルタルの押出積層方法。 (a)前記繊維補強モルタルの水/結合材比が35%以下 (b)前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが10~17mm (c)前記繊維補強モルタル中の短繊維のアスペクト比が45~300」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点1> 繊維補強モルタルについて、本件発明1では、JIS R 5201に準拠して測定した押出積層時の0打フローが、100~130mmであり、繊維補強モルタル中の短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として2.0~3.5体積%であるのに対し、甲1発明では、これらの点が不明である点。 なお、繊維補強モルタル中の短繊維の体積含有率の程度によって、繊維補強モルタルの0打フローも変化することから、2つの点は、同じ相違点とした。 イ 相違点に対する判断 (ア)上記相違点1について検討する。 本件明細書の【0032】の「表4に示すように、本発明の繊維補強モルタル(実施例1~5)は、繊維の種類および量と、水結合材比の違いにかかわらず、0打フロー値が111~130mm、15打フロー値が156~186mmと、いずれも適度な流動性を有し(フレッシュ性状は〇)、ノズル押出性、および押出後の積層性に優れる。」との記載によれば、本件発明1は、繊維補強モルタルの押出積層時の0打フローおよび15打フローが、それぞれ100~130mm、および150~190mmであることにより、繊維補強モルタルが、適度な流動性を有し(フレッシュ性状は〇)、ノズル押出性、および押出後の積層性に優れるものとなるといえる。 他方、甲1発明は、15打フローについては、本件発明1の範囲内にあるものの、0打フローがどのような値であるかについては何らの記載や示唆もないことから、上記相違点1における0打フローの点は、本件発明1と甲1発明との間で実質的な相違点となるものである。 また、甲1発明には、0打フローを所定の範囲の値にする何らの動機付けもないから、0打フローを本件発明1の範囲内の数値とすることを、当業者が容易に想到し得るとはいえない。 (イ)甲1発明では、モルタル中の短繊維の体積含有率が、不明であるものの、甲1の上記(1)ア(イ)の【0020】には、「短繊維の混入量は、特に制限されないが、混入量が多いとポンプおよびノズルでの閉塞が懸念されるため、例えば、硬化後のコンクリート体積に対して外割で0.05体積%以上3.0体積%以下が好ましく、0.05体積%以上0.3体積%以下がより好ましい。」と記載されている。 他方、本件明細書には、以下の記載がある。 「【0017】 ・・・ 前記繊維のアスペクト比が300を超えると、混練や押出の際にファイバーボールが生じやすくなる。また、マトリックスの流動性が著しく低下するので、流動性を確保するために単位水量が増加して、繊維補強モルタルの強度が低下する。・・・ 【0018】 前記繊維の体積含有率は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは0.5~4.0%、さらに好ましくは1.5~3.5体積%である。該率が5.0%を超えると、混練や押出の際にファイバーボールが生じやすくなり、また、マトリックスの流動性を確保するために単位水量が増加するため、繊維補強モルタルの強度が低下する。・・・」 「【0026】 【表2】 [図:0001436143000010.jpg] ・・・ 【0028】 【表3】 [図:0001436143000011.jpg] ・・・ 【0031】 【表4】 [図:0001436143000012.jpg] 」 本件明細書の以上の記載によれば、短繊維のアスペクト比が大きくなると、混練や押出しの際にファイバーボールが生じやすくなり、マトリックスの流動性が著しく低下すること、また、短繊維の体積含有率を大きくしても、混練や押出しの際にファイバーボールが生じやすくなるといえる(【0017】、【0018】)。 これによれば、短繊維として、アスペクト比が大きなものを用い、短繊維の体積含有率を大きくした場合には、混練や押出しの際にファイバーボールが生じやすくなり、マトリックスの流動性が著しく低下することになるといえる。 そうすると、短繊維として、アスペクト比が大きなものを用いる場合には、短繊維の体積含有率は低めにすることになるといえる。 実際、【0028】【表3】に記載される実施例でも、アスペクト比300の繊維1を用いている実施例1では、繊維量(Vol.%)が1.5であるのに対し、アスペクト比50の繊維5を用いている実施例3、アスペクト比50の繊維3を用いている実施例5では、繊維量(Vol.%)が3まで含まれており、上述の傾向を表しているといえる。 上述の、短繊維としてアスペクト比が大きなものを用いた場合には、ファイバーボールの生成によるマトリックスの著しい流動性の低下を避けるため、短繊維の体積含有率は低めにするという傾向を踏まえ、甲1の上記【0020】の記載を検討すると、短繊維の体積含有率としては、まずは、「0.05体積%以上3.0体積%」の範囲が記載されているが、本件明細書の【0026】【表2】を参照しても、比較的アスペクト比が大きい部類に属する甲1発明での短繊維である「バルリンク」(アスペクト比:279)を高い体積%で添加した場合には、ファイバーボールの生成によるマトリックスの著しい流動性の低下が生じる恐れがあり、このような短繊維を用いる場合は、甲1の上記【0020】に「0.05体積%以上0.3体積%以下がより好ましい。」と記載されているように、本件発明1の「2.0~3.5体積%」という短繊維の体積含有率の範囲に比べて、より低い体積含有率を採用している蓋然性が高いといえる。 そうすると、甲1発明において、短繊維である「バルリンク」の体積含有が、本件発明1の「2.0~3.5体積%」の範囲にあるということはできないし、また、甲1発明は、「バルリンク」を、高い体積含有率で添加することを志向するものでもないから、甲1発明には、「バルリンク」の体積含有率を、本件発明1の「2.0~3.5体積%」の範囲内にする動機付けがあるとはいえない。 (ウ)上記(ア)及び(イ)によれば、上記相違点1は、実質的な相違点であるし、上記相違点1に係る本件発明1の構成を、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1を引用し、これを、さらに限定するものであるところ、本件発明1が、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2も、同様に、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (5)新規性、進歩性に関する申立理由1、2についてのまとめ 上記(3)及び(4)で述べたとおり、申立理由1、2には、理由がない。 5 拡大先願に関する申立理由3について (1)甲3に記載された事項 ア 「【0002】 近年、モルタルなどのセメント系材料を付加製造(3Dプリンティング)して構造物を形成する方法が提案されている(例えば特許文献1、2)。この方法はセメント系材料をポンプ等で圧送してノズルから押出し、未硬化状態の材料を積層した後に硬化させて造形する方法である。設計通りに造形するためには、未硬化状態の材料を積層したときに下層の形状が保持される形状保持性が求められる。」 イ 「【0009】 <水硬性複合材料> 本実施形態の水硬性複合材料は、水硬性マトリクス組成物と短繊維を含む。 [水硬性マトリクス組成物] 水硬性マトリクス組成物(以下、単にマトリクス組成物ともいう。)としては、公知の水硬性材料を用いることができる。例えば、セメント含有組成物(例えば、セメントペー スト、モルタル、コンクリート)、ジオポリマー組成物が挙げられる。 マトリクス組成物は水を含む。マトリクス組成物中の固形分(水分以外の成分)の組成は、硬化体の用途に応じて設計することが好ましい。 ・・・ 【0011】 [短繊維] 短繊維の材質は、化学的に合成された高分子からなる合成繊維、又は無機物からなる繊維が好ましい。前者としては、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等が挙げられる。後者としては、ガラス繊維、鋼繊維、炭素繊維、岩石繊維(バサルトなど)、セラミック繊維、シリカ繊維等が挙げられる。 特に、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、鋼繊維は、セメント系材料との親和性に優れる点で好ましい。 【0012】 短繊維の直径は100μm以下であり、50μm以下が好ましい。短繊維の直径が前記上限値以下であると、水硬性複合材料の形状保持性を高める効果に優れる。 本明細書において、繊維の直径(単位:μm)は、番手(単位:dtex)及び密度(単位:g/cm3)から下記式により算出した値である。 直径=11.3×(番手/密度)1/2 なお、繊維の番手は糸長10000mの糸重量を意味し、1dtexは糸長10000mの糸重量が1グラムであることを表す。 短繊維の直径の下限値は特に限定されない。入手しやすい点では1μm以上が好ましい。 短繊維の長さは0.1~30mmであり、5~20mmがより好ましい。前記範囲の下限値以上であると硬化後の水硬性複合材料の引張特性の向上が期待でき、上限値以下であると繊維混入後の水硬性複合材料を混練しやすい。 【0013】 水硬性複合材料における短繊維の含有量は、マトリクス組成物100体積部に対して短繊維が0.5体積部以上であり、1.0体積部以上が好ましい。前記下限値以上であると水硬性複合材料の形状保持性を高める効果に優れる。上限は、マトリクス組成物と混練しやすい点で、マトリクス組成物100体積部に対して短繊維が3.0体積部以下であることが好ましい。 水硬性複合材料に含まれる短繊維は1種でもよく、直径、長さ又は材質の1以上が互いに異なる2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、短繊維の合計が前記含有量の範囲内であればよい。 【0014】 [フロー値] 本実施形態の水硬性複合材料は、JIS R 5201(2015)「セメントの物理試験方法」で規定するフロー値が120~160mmが好ましい。前記範囲の下限値以上であると圧送性に優れ、上限値以下であると形状保持性に優れる。 フロー値が前記範囲内となるように短繊維の含有量を設定することが好ましい。また短繊維の材質、直径、長さによってもフロー値を調整できる。例えば、短繊維の材質、直径及び長さが同じである場合、短繊維の含有量が多いほどフロー値は小さくなる傾向がある。 本発明におけるフロー値は、使用時におけるフロー値である。短繊維の含有量が前記範囲内であるときに、前記範囲のフロー値が得られるように、水硬性複合材料における水の含有量を調整することが好ましい。例えば構成材料の結合材の総質量に対して水の含有量は15~50質量%が好ましい。 例えば、水硬性複合材料の調製直後(練上がり直後)から30分後におけるフロー値が120~160mmの範囲内であることが好ましい。」 ウ 「【0019】 図1、2は本実施形態の製造方法の例として、付加製造装置を用いる方法を説明するための概略図である。 予め、マトリクス組成物と短繊維を混練した水硬性複合材料を調製し、ノズル10を備えた付加製造装置に供給する。押出工程では、図1、2に示すように、ノズル10を矢印方向に移動させながら、水硬性複合材料20を所定の位置に押出す。この操作を繰り返して、水硬性複合材料20からなる第一層21、第二層22、第三層23…を順に積層して所望の形状の積層体30を得る。 各層の厚さは特に限定されないが、良好な積層性が得られやすい点で1~30mmが好ましい。 この後、積層体30を公知の方法で養生し、水硬性複合材料20を硬化させる。硬化する過程で、隣接する水硬性複合材料20からなる層(第一層21、第二層22、第三層23…)どうしが接合されて一体化し、目的の形状の硬化体が得られる。」 エ 「【実施例】 【0021】 以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。 測定方法又は評価方法は以下の方法を用いた。 【0022】 [フロー値の測定方法] JIS R 5201(2015)「セメントの物理試験方法」で規定されたフロー試験にしたがって、以下の方法でフロー値を測定した。 フローテーブル上の中央に正しく置いたフローコーンに、水硬性複合材料を詰め、直ちにフローコーンを上方に垂直に取り去り、15秒間に15回の落下運動を与え、水硬性複合材料が広がった後の径を最大と認める方向と、これに直角な方向とで1mm単位まで測定し、その平均値をフロー値(単位:mm)とした。 【0023】 [圧送性の評価方法] 排出口の形状が略矩形(縦1.5cm、横3cm)であるノズルを備えた押出機を用い、ポンプで一定の押出速度で水硬性複合材料を帯状に連続押出した。図1、2に示すように、ノズルを一定速度(30mm/秒)で移動させながら連続押出した。このとき、押し出した材料の連続性が保たれなくなり、不連続になった時点、あるいは連続計測したポンプ圧力がその平均値より20%以上低下した時点の層数を算出し、連続押出ができる層数と定義した。この層数が多いほど圧送性に優れる。下記の基準で圧送性を評価した。 ○:連続押出ができる層数が10層以上。 ×:連続押出ができる層数が10層未満。 【0024】 [形状保持性の評価方法] 前記圧送性の評価方法と同じ方法で第14層まで積層した直後に、長さ方向(ノズルの移動方向)の中央における、第1層の下端から第7層の天端(上端)までの高さを測定した。この高さが大きいほど形状保持性に優れる。下記の基準で形状保持性を評価した。 ○:高さが60mm以上。 ×:高さが60mm未満。 【0025】 以下の材料を使用した。 [使用材料] セメント:普通ポルトランドセメント(比重3.16) シリカフューム:比重2.20 フライアッシュ:比重2.30 石灰石微粉末:比表面積3300cm2/g(比重2.71) 珪砂:粒径0.05~0.85mm(比重2.60) 減水剤:高性能減水剤 繊維(B):直径12μm、長さ(カタログ値(標準長))6mmのポリエチレン繊維(比重0.97) 【0026】 [例1~5] 本例ではマトリクス組成物(A)として表1に示す配合のモルタルを用いた。 表1に示す材料(結合材、細骨材、水及び混和剤)と、繊維(B)を、ホバートミキサを用いて混練して水硬性複合材料を調製した。 マトリクス組成物(A)の100体積部に対する繊維(B)の添加量を表2に示す。例1では繊維(B)を添加せず、マトリクス組成物(A)を水硬性複合材料とした。例2~5では、上述したフロー試験における落下運動を与える前のフロー値が例1と同程度になるように、減水剤の添加量を調整した。 水硬性複合材料の調製直後(練上がり直後)から30分後のフロー値を上記の方法で測定した。上述の落下運動を与えた後のフロー値を表2に示す(以下、同様)。 得られた水硬性複合材料の圧送性及び形状保持性を上記の方法で評価した。結果を表2に示す(以下、同様)。 【0027】 【表1】 [図:0001436143000013.jpg] 【0028】 【表2】 [図:0001436143000014.jpg] 【0029】 表2の結果に示されるように、短繊維を0.5体積部以上含み、かつフロー値が120~160mmである例2~4の水硬性複合材料は、圧送性と形状保持性を両立できた。」 (2)甲3に記載された発明 甲3には、上記(1)アの【0002】に記載される「モルタルなどのセメント系材料を付加製造(3Dプリンティング)して構造物を形成する方法」に関する技術が記載されているところ、付加製造装置を用いる方法に関する、同ウの【0019】の「マトリクス組成物と短繊維を混練した水硬性複合材料を調製し、ノズル10を備えた付加製造装置に供給する。押出工程では、図1、2に示すように、ノズル10を矢印方向に移動させながら、水硬性複合材料20を所定の位置に押出す。この操作を繰り返して、水硬性複合材料20からなる第一層21、第二層22、第三層23…を順に積層して所望の形状の積層体30を得る。」との記載によれば、付加製造装置を用いて、水硬性複合材料を押出し、積層することが記載されているから、これを、水硬性複合材料の押出積層方法としてとらえ、上記【0019】で下線を付した内容をまとめると以下の方法が記載されているといえる。 「マトリクス組成物と短繊維を混練した水硬性複合材料を調製し、ノズルを備えた付加製造装置に供給し、押出工程では、ノズルを移動させながら、水硬性複合材料を所定の位置に押出し、この操作を繰り返して、水硬性複合材料からなる層を順に積層して所望の形状の積層体を得る水硬性複合材料の押出積層方法。」 この方法におけるマトリクス組成物と短繊維を混練した水硬性複合材料として、同エの【0026】~【0029】には、例1~例5が記載されているが、同エの【0023】に記載される圧送性の評価、及び【0024】に記載される形状保持性の評価で優れた特性を示すとされている例2~例4のうち、繊維(B)の配合が最も高い例4に着目する。 まず、例4におけるマトリクス組成物(A)の配合は、同エの【0027】【表1】によれば、マトリクス組成物(A)100重量%に対して、結合材:46.7重量%(セメント:31.1重量%+シリカフューム:6.2重量%+フライアッシュ:4.7重量%+石灰石微粉末:4.7重量%)、細骨材:41.9重量%、水:10.7重量%、混和剤:0.7重量%である。 そして、例4における水硬性複合材料の配合は、マトリクス組成物(A)100体積部に対して、繊維(B):1.5体積部であり、フロー値[mm]は、130であり、この繊維(B)は、同エの【0025】の記載によれば、「直径12μm、長さ(カタログ値(標準長))6mmのポリエチレン繊維(比重0.97)」である。 ここで、例4における水硬性複合材料は、上述の押出積層方法に適用されるといえるから、甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。 「マトリクス組成物(A)100重量%に対して、結合材:46.7重量%、細骨材:41.9重量%、水:10.7重量%、混和剤:0.7重量%であり、マトリクス組成物(A)100体積部に対して、繊維(B):1.5体積部であり、フロー値[mm]が、130である、水硬性複合材料であって、繊維(B)は、直径12μm、長さ(カタログ値(標準長))6mmのポリエチレン繊維(比重0.97)である、水硬性複合材料を、調製し、ノズルを備えた付加製造装置に供給し、押出工程では、ノズルを移動させながら、水硬性複合材料を所定の位置に押出し、この操作を繰り返して、水硬性複合材料からなる層を順に積層して所望の形状の積層体を得る水硬性複合材料の押出積層方法。」 (3)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲3発明を対比する。 (ア)甲3発明において、甲3の上記(1)エの【0026】の「本例ではマトリクス組成物(A)として表1に示す配合のモルタルを用いた。」との記載によれば、甲3発明の少なくとも「マトリクス組成物(A)」は、「モルタル」であるといえるところ、甲3の同イの【0012】の「短繊維の長さは0.1~30mmであり、5~20mmがより好ましい。前記範囲の下限値以上であると硬化後の水硬性複合材料の引張特性の向上が期待でき、上限値以下であると繊維混入後の水硬性複合材料を混練しやすい。」との記載によれば、甲3発明の「短繊維」は、少なくとも引張特性の向上を目的として配合するものであるから、甲3発明の「マトリクス組成物(A)」と「短繊維」を含む「水硬性複合材料」は、本件発明1の「繊維補強モルタル」に相当する。 また、甲3発明の「付加製造装置」は、「押出工程」を行うものであるから、本件発明1の「材料押出方式の付加製造装置」に相当し、甲3発明の「水硬性複合材料を、調製し、ノズルを備えた付加製造装置に供給し、押出工程では、ノズルを移動させながら、水硬性複合材料を所定の位置に押出し、この操作を繰り返して、水硬性複合材料からなる層を順に積層して所望の形状の積層体を得る水硬性複合材料の押出積層方法」は、本件発明1での「繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法」に相当する。 さらに、甲3発明の「フロー値」とは、甲3の同エの【0022】の「[フロー値の測定方法] JIS R 5201(2015)「セメントの物理試験方法」で規定されたフロー試験にしたがって、以下の方法でフロー値を測定した。 フローテーブル上の中央に正しく置いたフローコーンに、水硬性複合材料を詰め、直ちにフローコーンを上方に垂直に取り去り、15秒間に15回の落下運動を与え、水硬性複合材料が広がった後の径を最大と認める方向と、これに直角な方向とで1mm単位まで測定し、その平均値をフロー値(単位:mm)とした。」との記載によれば、「JIS R 5201(2015)」「で規定されたフロー試験にしたがって」15秒間に15回の落下運動を与え、水硬性複合材料が広がった後の径を最大と認める方向と、これに直角な方向とで1mm単位まで測定し、その平均値であるといえる。これに対し、本件発明1の「15打フロー」とは、上記4(3)ア(ア)で述べたように、甲3発明の「フロー値」と同じくJIS R 5201に準拠し、15秒間に15回の落下運動を与えた後に測定したフロー値であるから、甲3発明の「フロー値」は、本件発明1の「15打フロー」に相当する。 ここで、甲3の同イの【0014】の「本発明におけるフロー値は、使用時におけるフロー値である。」との記載によれば、甲3発明における「フロー値」は、使用時、すなわち、押出積層時のフロー値である。ただし、甲3発明における「フロー値」は、130であるから、本件発明1における「15打フロー」の範囲にはなく、「15打フロー」が特定されているという点でのみ一致している。 そうすると、甲3発明の「フロー値[mm]が、130で」あり、「直径12μm、長さ(カタログ値(標準長))6mmのポリエチレン繊維(比重0.97)である」「繊維(B)」を含む、「水硬性複合材料を、調製し、ノズルを備えた付加製造装置に供給し、押出工程では、ノズル移動させながら、水硬性複合材料を所定の位置に押出し、この操作を繰り返して、水硬性複合材料からなる層を順に積層して所望の形状の積層体を得る水硬性複合材料の押出積層方法」は、本件発明1の「JIS R 5201に準拠して測定した押出積層時の0打フローおよび15打フローが、それぞれ100~130mm、および150~190mmである繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法」と、「JIS R 5201に準拠して測定した押出積層時の」「15打フローが」特定された「繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法」の点で共通する。 (イ)甲3発明において、「水/結合材比」は、22.9%(10.7/46.7×100)と計算されるから、本件発明1の「(a)前記繊維補強モルタルの水/結合材比が35%以下」の条件を満たす。 (ウ)甲3発明における「繊維(B)」について、マトリクス組成物(A)100体積部に対して、繊維(B):1.5体積部であり、繊維(B)は、直径12μm、長さ(カタログ値(標準長))6mmのポリエチレン繊維(比重0.97)であり、アスペクト比は、500(6/(12×10-3))であるから、本件発明1の「(b)前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが10~17mm」、「(c)前記繊維補強モルタル中の短繊維のアスペクト比が45~300」及び「(d)前記繊維補強モルタル中の短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として2.0~3.5体積%」の点は満たしていない。 (エ)以上によれば、本件発明1と甲3発明は、「JIS R 5201に準拠して測定した押出積層時の15打フローが特定された繊維補強モルタルを用いて、材料押出方式の付加製造装置により押出積層する、繊維補強モルタルの押出積層方法であって、 下記(a)の条件を満たす繊維補強モルタルの押出積層方法。 (a)前記繊維補強モルタルの水/結合材比が35%以下」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点2> 繊維補強モルタルについて、本件発明1では、JIS R 5201に準拠して測定した押出積層時の0打フローおよび15打フローが、それぞれ100~130mm、および150~190mmであり、前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが10~17mmであり、前記繊維補強モルタル中の短繊維のアスペクト比が45~300であり、前記繊維補強モルタル中の短繊維の体積含有率が、モルタルマトリックスの体積を100として2.0~3.5体積%であるのに対し、甲3発明では、0打フローが不明であり、15打フローは130であり、前記繊維補強モルタル中の短繊維の長さが6mmであり、前記繊維補強モルタル中の短繊維のアスペクト比が500であり、前記繊維補強モルタル中の短繊維の体積含有率が、マトリクス組成物(A)の体積を100部として1.5体積部である点。 なお、繊維補強モルタル中の短繊維の長さ、アスペクト比、体積含有率の程度によって、繊維補強モルタルの0打フロー及び15打フローも変化することから、これらの点は、同じ相違点とした。 イ 相違点に対する判断 上記相違点2について検討する。 甲3には、甲3発明の0打フローがどの程度の値であるかについては何らの記載や示唆もないことから、上記相違点2における0打フローの点は、本件発明1と甲3発明との間で実質的な相違点となるものである。 また、甲3発明における、本件発明1の「15打フロー」、「短繊維の長さ」、「短繊維のアスペクト比」及び「短繊維の体積含有率」にそれぞれ相当する値が、本件発明1の範囲と異なるのであるから、これらの点も、本件発明1と甲3発明との間で実質的な相違点となるものである。 ここで、甲3の例えば上記(1)イの【0012】には、「短繊維の直径は100μm以下であり、50μm以下が好ましい。短繊維の直径が前記上限値以下であると、水硬性複合材料の形状保持性を高める効果に優れる。 ・・・ 短繊維の直径の下限値は特に限定されない。入手しやすい点では1μm以上が好ましい。 短繊維の長さは0.1~30mmであり、5~20mmがより好ましい。前記範囲の下限値以上であると硬化後の水硬性複合材料の引張特性の向上が期待でき、上限値以下であると繊維混入後の水硬性複合材料を混練しやすい。」との記載があり、甲3に記載される短繊維の長さとして0.1~30mm、短繊維の直径として1~100μmの範囲を取り得ることが記載され、ここでの短繊維の長さの範囲は、本件発明1の範囲を含むものであるが、この短繊維の長さと直径から計算されるアスペクト比の範囲は、1(0.1mm/100μ)~30000(30mm/1μ)という実質的な内容を伴わない極めて広範な範囲となり、この範囲が、本件発明のアスペクト比の範囲に実質的に一致しているということはできない。 また、短繊維の長さの範囲や、短繊維のアスペクト比等の範囲が、本件発明1の範囲と重複しているとしても、これらの値は、0打フローや15打フローの値に関係するものであるから、0打フローや15打フローの値が、本件発明1の範囲内の値である前提のもと(実際には、本件発明1の範囲内にないが)、短繊維の長さや、短繊維のアスペクト比等の値が、上記【0012】に記載される短繊維の長さや、計算されるアスペクト比の広範な範囲の中で、本件発明1の範囲内の値となっているということはできない。 そうすると、上記相違点2は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲3発明と同一であるとはいえない。 (4)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1を引用し、これを、さらに限定するものであるところ、本件発明1が、甲3発明と同一であるといえない以上、本件発明2も、同様に、甲3発明と同一であるとはいえない。 (5)拡大先願に関する申立理由3についてのまとめ 上記(3)及び(4)で述べたとおり、申立理由3には、理由がない。 第6 むすび 上記第5で検討したとおり、本件特許1、2は、特許法第36条第6項第1号及び第2号、並びに第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条第1項及び第2項、並びに同法第29条の2の規定に違反してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1~4及び上記申立理由1~5では、本件特許1、2を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1、2を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700744

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決162件(大成建設株式会社、太平洋セメント株式会社、渋谷 都)
  • 2021-700568異議申立 / 2021-10-13 / 維持けい酸質肥料およびその製造方法
    同じ当事者: 太平洋セメント株式会社、渋谷 都
  • 2025-700423異議申立 / 2026-03-26 / 訂正認容蓄電体および蓄電構造物
    同じ当事者: 大成建設株式会社
  • 2025-700296異議申立 / 2026-03-24 / 請求成立(取消)ポリイソシアヌレート発泡体
    同じ当事者: 渋谷 都
  • 2025-700835異議申立 / 2026-01-28 / 維持高炉スラグ微粉末及びその製造方法
    同じ当事者: 太平洋セメント株式会社
  • 2024-701035異議申立 / 2026-01-08 / 訂正認容溶断製袋用の二軸延伸ポリプロピレンフィルム
    同じ当事者: 渋谷 都
同じ論点・分野の審決(審決分類)44件(113・B28B、121・B28B、161・B28B ほか)
  • 2020-700656異議申立 / 2021-06-22 / 訂正認容粉末積層造形に用いるための造形用材料
    共通の審決分類: 113・B28B、121・B28B、536・B28B、537・B28B
  • 2019-700740異議申立 / 2021-03-30 / 訂正認容コンクリート瓦およびその成形材料
    共通の審決分類: 113・B28B、121・B28B、536・B28B、537・B28B
  • 2024-700941異議申立 / 2025-09-03 / 訂正認容石膏ボード中の起泡液化剤
    共通の審決分類: 113・B28B、121・B28B、537・B28B
  • 2022-701310異議申立 / 2023-09-26 / 訂正認容水硬性石灰を用いた成形体およびその製造方法
    共通の審決分類: 113・B28B、121・B28B、537・B28B
  • 2021-700485異議申立 / 2022-08-23 / 訂正認容石膏プラスターボードの製造方法およびそれにより得られる石膏プラスターボード
    共通の審決分類: 113・B28B、121・B28B、537・B28B

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存