特許異議申立
2024-700993
セメント組成物、モルタル組成物、及び、コンクリート構造物の補修方法
- 審判番号
- 2024-700993
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-159642
- 登録番号
- 7465451
- 請求日
- 2024年10月10日
- 審決日
- 2026年01月07日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友大阪セメント株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人藤本パートナーズ
- 【異議申立人】鈴木 佐知子
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 塩谷 領大
- 審判官 深草 祐一
- 分類
- P1651.113-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B) / P1651.536-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第2条第3項第1号、特許法第29条第1項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7465451号発明「セメント組成物、モルタル組成物、及び、コンクリート構造物の補修方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7465451号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ー4〕について訂正することを認める。
特許第7465451号の請求項2-4に係る特許を維持する。
特許第7465451号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7465451号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和2年9月24日の出願であって、令和6年4月3日にその特許権の設定登録がされ、同年同月11日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和6年10月10日に、特許異議申立人鈴木佐知子(以下「申立人」という。)による請求項1~4に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年10月10日 :申立人による特許異議の申立て
令和7年 1月27日付け:取消理由通知
同年 3月31日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 4月15日付け:訂正請求があった旨の通知
同年 5月21日 :申立人による意見書の提出
同年 6月30日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年 8月29日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 9月10日付け:訂正請求があった旨の通知
上記令和7年9月10日付けの通知で、申立人に、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人からは応答がなかった。
また、令和7年3月31日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「先の訂正」ということがある。)は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。以下、令和7年8月29日にされた訂正請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。
第2 本件訂正の適否について
1 本件訂正の内容
本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~4〕を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に「前記スラグのブレーン比表面積が、8000cm2/g未満である、請求項1に記載のセメント組成物。」と記載されているのを、
「ポルトランドセメントと、スラグと、セメント混和用ポリマーと、を含むセメント組成物であって、
前記セメント混和用ポリマーと前記ポルトランドセメントとのポリマーセメント比(固形分比)が、3質量%以上10質量%以下であり、
前記セメント混和用ポリマーのガラス転移温度が5℃以上であり、
混合材としてフライアッシュをさらに含み、
前記スラグのブレーン比表面積が、4000cm2/g以上8000cm2/g未満であり、
前記ポルトランドセメントの配合量が、前記ポルトランドセメント、前記スラグ、及び前記フライアッシュを含む粉体成分100質量部に対して30質量部以上45質量部以下であり、
前記スラグの配合量が、前記粉体成分100質量部に対して2.5質量部以上20質量部以下であり、
前記フライアッシュの含有量が、前記粉体成分100質量部に対して2.5質量部以上10質量部以下であり、
コンクリート構造物の補修箇所に充填又は塗布するために用いられる、セメント組成物。」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3及び4も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(3)訂正事項3
明細書の段落[0051]及び段落[0057]に「各実施例及び比較例」と記載されているのを、「各実施例、参考例及び比較例」に訂正し、また、段落[0053]の表1及び段落[0058]の表2に「実施例12」、「実施例13」、「実施例14」と記載されているのを、「参考例12」、「参考例13」、「参考例14」に訂正し、さらに、段落[0059]に「実施例1~14」と記載されているのを、「実施例1~11」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載のセメント組成物と、水と、細骨材と、を含む、モルタル組成物。」と記載されているのを、「請求項2に記載のセメント組成物と、水と、細骨材と、を含む、モルタル組成物。」に訂正する。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1の記載を引用する請求項2の記載を当該請求項1の記載を引用しない形式に書き改めるとともに、「前記スラグのブレーン比表面積」の範囲を、「8000cm2/g未満」から「4000cm2/g以上8000cm2/g未満」に限定し、また、「ポルトランドセメント」、「スラグ」、「フライアッシュ」を含む点に関し、それぞれの配合量について、「前記ポルトランドセメントの配合量が、前記ポルトランドセメント、前記スラグ、及び前記フライアッシュを含む粉体成分100質量部に対して30質量部以上45質量部以下」、「前記スラグの配合量が、前記粉体成分100質量部に対して2.5質量部以上20質量部以下」、「前記フライアッシュの含有量が、前記粉体成分100質量部に対して2.5質量部以上10質量部以下」と限定し、さらに、「セメント組成物」の用途に関し、「コンクリート構造物の補修箇所に充填又は塗布するために用いられる」と限定するものである。よって、訂正事項1は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、「スラグのブレーン比表面積」の数値範囲を限定する点については、【0025】の「前記スラグのブレーン比表面積は、自己治癒性を向上させる観点から、8000cm2/g未満であることが好ましい。また、さらに自己治癒性を向上させる観点から、4000cm2/g以上であることが好ましい。」との記載を根拠としており、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書」などといい、まとめて「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、「ポルトランドセメント」、「スラグ」及び「フライアッシュ」の配合量を限定する点については、【0023】の「前記ポルトランドセメントの配合量は、圧縮強度の確保とひび割れ抵抗性向上の観点から、粉体成分100質量部に対して10質量部以上60質量部以下であることが好ましく、30質量部以上45質量部以下であることがより好ましい。なお、セメントが2種以上含まれる場合、前記配合量は、セメントの合計配合量である。また、粉体成分としては、例えば、セメント、スラグ、フライアッシュ、骨材等が挙げられる。」との記載、【0026】の「前記スラグの配合量は、自己治癒性向上の観点から、粉体成分100質量部に対して、2.5質量部以上であることが好ましい。また、施工性の観点から、粉体成分100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましい。」との記載、及び【0031】の「本実施形態に係るセメント組成物は、混合材としてフライアッシュをさらに含んでいてもよい。・・・前記フライアッシュの含有量は、粉体成分100質量部に対して、2.5質量部以上10質量部以下とすることができる。」との記載を根拠として数値範囲を限定し、前記「粉体成分」についても、前記【0023】の成分の例示の記載に基づいて、「前記ポルトランドセメント、前記スラグ、及び前記フライアッシュを含む粉体成分」と限定したものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、セメント組成物の用途を限定する点については、請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4が「請求項3に記載のモルタル組成物を、コンクリート構造物の補修箇所に充填又は塗布する、コンクリート構造物の補修方法」である点、及び【0017】、【0046】の補修方法に関する同様の記載を根拠に、請求項4の補修方法に用いる請求項3のモルタル組成物に含まれる請求項2のセメント組成物の用途として限定したものであって、本件発明の背景技術について、【0003】に「腐食劣化したコンクリート構造物の補修材として、種々の耐酸性モルタルが提案されている」と記載されていることからも、上記の点は本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、明細書の「実施例」のうち、前記訂正事項1及び2によって請求項1が削除され、請求項2がさらに限定されたことで、特許請求の範囲に記載された発明に該当するものではなくなったものについて、特許請求の範囲の記載と整合するように、「参考例」に変更するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項2により請求項1が削除されたことに伴い、請求項1又は2を引用していた請求項3について、請求項2のみを引用するように変更するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)独立特許要件について
本件特許の請求項1~4の全ての請求項に係る特許について特許異議の申立てがされたので、本件訂正後における、削除されていない請求項2~4に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(独立特許要件)は適用されない。
3 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
上記第2のとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、本件特許異議申立に係る本件訂正後の請求項2~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明2」~「本件発明4」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項2~4に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
ポルトランドセメントと、スラグと、セメント混和用ポリマーと 、を含むセメント組成物であって、
前記セメント混和用ポリマーと前記ポルトランドセメントとのポリマーセメント比(固形分比)が、3質量%以上10質量%以下であり、
前記セメント混和用ポリマーのガラス転移温度が5℃以上であり、
混合材としてフライアッシュをさらに含み、
前記スラグのブレーン比表面積が、4000cm2/g以上8000cm2/g未満であり、
前記ポルトランドセメントの配合量が、前記ポルトランドセメント、前記スラグ、及び前記フライアッシュを含む粉体成分100質量部に対して30質量部以上45質量部以下であり、
前記スラグの配合量が、前記粉体成分100質量部に対して2.5質量部以上20質量部以下であり、
前記フライアッシュの含有量が、前記粉体成分100質量部に対して2.5質量部以上10質量部以下であり、
コンクリート構造物の補修箇所に充填又は塗布するために用いられる、セメント組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のセメント組成物と、水と、細骨材と、を含む、モルタル組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のモルタル組成物を、コンクリート構造物の補修箇所に充填又は塗布する、コンクリート構造物の補修方法。」
第4 令和7年6月30日付けで通知した取消理由(決定の予告)、同年1月27日付けで通知した取消理由、申立人による特許異議の申立理由の概要
1 令和7年6月30日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
(1) 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
本件特許は、先の訂正後の請求項2~4の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由1」とする。)。
(2) 取消理由1の内容
先の訂正後の本件特許請求の範囲の請求項2~4では、セメント組成物に含まれるポルトランドセメント、スラグ、フライアッシュ、セメント混和用ポリマーについて、セメントポリマー比(固形分比)の範囲は特定されているものの、粉体成分中の各成分の配合量の範囲がポルトランドセメントしか特定されていない。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、セメントポリマー比(P/C比)の調整により本件課題を解決できることを確認したのは、粉体成分が特定のバランスで配合された場合のみである。すなわち、粉体成分100質量部とした場合、ポルトランドセメントを30質量部、40質量部又は45質量部、各種スラグを2.5質量部、5質量部又は10質量部、そして、フライアッシュを2.5質量部、5質量部又は10質量部という、狭い範囲の配合割合の場合だけである。さらに、P/C比が先の訂正後の請求項2に係る発明の範囲を外れると課題を解決できないことを確認した比較例は、粉体成分100質量部に対し、ポルトランドセメント40質量部、スラグ5質量部、フライアッシュ5質量部の割合で配合したもののみである。そうすると、粉体成分について、表1に記載されたポルトランドセメント、スラグ、フライアッシュの配合割合のバランスから大きく外れる場合には、P/C比が3質量%以上10質量%以下でさえあれば本件課題を解決できると当業者が理解できるとはいえない。
したがって、先の訂正後の本件特許請求の範囲の請求項2~4は、スラグ、フライアッシュとの配合バランスが特定されていないものであり、発明の詳細な説明に記載された本件課題を解決できる範囲以外の態様をも広く包含していることから、先の訂正後の請求項2~4に係る発明は、当業者において、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえない。
2 令和7年6月30日付けで通知した取消理由(決定の予告)とは異なる令和7年1月27日付けで通知した取消理由の概要
(1) 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)
ア 設定登録時の請求項1、3、4に係る発明は、後記4の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである(以下「取消理由2」とする。)。
イ 設定登録時の請求項1、2、3に係る発明は、後記4の甲第8号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである(以下「取消理由3」とする。)。
3 申立人による特許異議の申立理由の概要
(1) 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)及び同法同条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
ア 設定登録時の請求項1~4に係る発明は、後記4の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。また、設定登録時の請求項1~4に係る発明は、同甲第1号証に記載された発明及び同甲第2~7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下「申立理由1」とする。)
イ 設定登録時の請求項1~4に係る発明は、後記4の甲第8号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。また、設定登録時の請求項1~4に係る発明は、同甲第8号証に記載された発明及び同甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下「申立理由2」とする。)
(2) 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)
本件特許は、設定登録時の請求項1~4に対応する本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(以下「申立理由3」とする。)。
(3) 申立理由3の内容
本件特許明細書の【0057】では、具体的な温度条件などが一切記載されておらず、環境温度がポリマーディスパージョンのガラス転移温度以下になったのかどうかは不明である。また、環境温度がガラス転移温度以下とはならなかった比較例も存在するのかどうかも不明である。さらには、ガラス転移温度が、請求項1に記載された5℃以上ではない(つまりガラス転移温度が5℃未満の)ポリマーディスパージョンを用いた比較例もない。
本件特許明細書の【0035】によれば、ガラス転移温度以下の環境温度とならないと、スラグ表面に付着したフィルムが剥離しないものであるため、自己治癒性の試験が、いかなる温度条件で行われたかは、本件特許発明の効果を証明する上で非常に重要な要素である。
このような環境温度に関する条件の記載が一切なく、ガラス転移温度以下とはならなかったもののような比較例も存在しない本件特許明細書の発明の詳細な説明は、Tgが5℃以上であることによって、自己治癒性の効果が得られているのかが当業者が理解可能に記載されているということはできない。
(4) 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
本件特許は、設定登録時の請求項1~4の記載が、下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下「申立理由4」とする。)。
(5) 申立理由4の内容
ア 設定登録時の請求項1では、ポルトランドセメント、ポリマー、スラグ、フライアッシュの配合量が一切限定されていない。
ここで、本件特許発明の得ようとする効果は、本件特許明細書の【0006】によれば、耐酸性が高く、かつ、ひび割れ抵抗性に優れたセメント組成物、モルタル組成物、及びコンクリート構造物の補修方法を提供することにある。
しかし、本件特許明細書の【0053】の表1を参照すれば、所望の圧縮強度、乾燥収縮率、および耐酸性を得るためには、スラグ、フライアッシュ及びポルトランドセメントの配合量がどのような値であっても、本件特許の目的とする効果が得られるとは考えられず、スラグ、フライアッシュ及びポルトランドセメントの配合量には上限、下限があることが明白である。また、ポルトランドセメント、スラグ及びフライアッシュの配合量には好適なバランスがあることも明白である。
したがって、少なくともスラグ、フライアッシュ、ポルトランドセメントの配合量についての限定が全くない設定登録時の請求項1に係る発明は、本件特許発明の目的とする効果を得られない構成も含むものであって、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。設定登録時の請求項1を引用する請求項2~4についても同様である。
イ 設定登録時の請求項1では、ガラス転移温度Tgが5℃以上であることが特定されている。ここで、本件特許明細書の【0028】では、「ポリマーディスパージョンのガラス転移温度は、ひび割れ箇所の自己治癒性を向上させる観点から、5℃以上であることが好ましい。」旨の記載がある。よって、Tgが5℃以上であることが規定されている設定登録時の請求項1に係る発明は、ひび割れ箇所の自己治癒性を向上させる点も、目的とする効果として含むものである。
しかし、設定登録時の請求項1では、スラグの配合量は特定されておらず、さらにはポリマーの配合量に対し、スラグの配合量がどの程度であるかも特定されていない。加えて、スラグの比表面積についても特定されていない。
配合量の特定がない以上、スラグ、ポリマーの配合量は任意であり、例えば、ポリマーに対し、スラグが過剰となる場合は、スラグの表面をポリマーが十分に覆うことはできず、本件特許明細書の【0035】に記載のような、スラグの未反応面を十分に形成することができない構成が含まれる。
したがって、スラグの含有率の限定、スラグに対するポリマーの含有率、及びスラグの比表面積の限定のない設定登録時の請求項1に係る発明は、本件特許発明の目的とする効果を得られない構成も含むものであって、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。設定登録時の請求項1を引用する請求項2~4に係る発明も同様である。
(6) 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)
本件特許は、設定登録時の請求項2の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下「申立理由5」とする。)。
(7) 申立理由5の内容
前記申立理由4について述べたように、設定登録時の請求項1では、ポルトランドセメント、スラグ、フライアッシュの配合量、スラグに対するポリマーの比率、スラグの比表面積のような特定がなされておらず、本件特許発明において得ようとする効果を奏しない構成も含むものであって、発明特定事項が技術的に十分特定されていないことが明らかであり、明細書及び図面の記載を考慮しても、当業者が請求項の記載から発明を明確に把握できない。設定登録時の請求項1を引用する請求項2~4も同様である。
4 提出された証拠
甲第1号証:特開2007-161507号公報
甲第2号証:特開2008-120620号公報
甲第3号証:Joachim Schulze et al., Long-term performance of redispersible powders in mortars, Cement and Concrete Research, 31, 2001年, p.357-362
甲第4号証:特開2016-13960号公報
甲第5号証:特開2018-127374号公報
甲第6号証:公益社団法人土木学会編、コンクリート標準示方書、一般財団法人日本規格協会、2018年、p.385~389
甲第7号証:日鉄高炉セメント株式会社カタログ(エスメント)、2019年4月
甲第8号証:特開平5-78154号公報
以下、甲第1号証等を「甲1」などという。
第5 当審の判断
当審は、上記取消理由1~3及び申立理由1~5のいずれにも理由がないと判断する。
以下、その理由について詳述する。
1 取消理由2、3及び申立理由1、2(新規性欠如又は進歩性欠如)について
(1)甲1~甲8に記載された事項
ア 甲1の記載事項
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポルトランドセメント、(B)BET比表面積0.75~3.0m2/gのスラグ、(C)フライアッシュ又は/及びメタカオリン粉末、(D)シリカフゥーム及び(E)生石灰系膨張材を含有してなる高耐久性断面修復材。
・・・
【請求項3】
さらに、(F)ポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂、(G)保水剤、(H)分散剤の何れか1種又は2種以上を含有してなる請求項1又は2記載の高耐久性断面修復材。」
(イ) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタルやコンクリート系の構造物の修復に用いる耐久性に優れたセメント系の断面修復材に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルやコンクリート系の構造物の修復に使用される断面修復材には修復基体への同化性、修復時の施工性及び修復後の耐久性等が要求される。・・・」
(ウ) 「【0017】
・・・また、本発明の高耐久性断面修復材による修復施工は、従来から使用されているセメント系断面修復材と概ね同様の方法で施工することができ、特段の配慮等は必要としない。」
(エ) 「【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を具体的に詳しく説明する。
[修復材の作製] 次に表すA1~A2、B1~B7、C1~C4、D1~D2、E1~E2、F1~F2、G、H及びJから選定される材料と水を、表1に記した配合量となるようモルタルミキサーに投入し、約20℃の温度下で3分間混合し、修復材(本発明品1~10、参考品11~17)を作製した。
A1;普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)
A2;早強ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)
A3;アルミナセメント(太平洋マテリアル株式会社製)
B1;BET比表面積0.5m2/gの高炉スラグ粉末(主要化学成分含有量CaO;45.4質量%、SiO2;29.4質量%、Al2O3;14.1質量%、MgO;5.2質量%、Fe2O3;0.8質量%)
B2;BET比表面積1.5m2/gの高炉スラグ粉末(含有化学成分はB1と同じ)
B3;BET比表面積2.5m2/gの高炉スラグ粉末(含有化学成分はB1と同じ)
B4;BET比表面積4.0m2/gの高炉スラグ粉末(含有化学成分はB1と同じ)
B5;BET比表面積0.5m2/gの下水汚泥溶融スラグ粉末(主要化学成分含有量CaO;35.0質量%、SiO2;28.2質量%、Al2O3;14.0質量%、MgO;3.1質量%、Fe2O3;7.3質量%)
B6;BET比表面積1.0m2/gの下水汚泥溶融スラグ粉末(含有化学成分はB5と同じ)
B7;BET比表面積2.5m2/gの下水汚泥溶融スラグ粉末(主要化学成分含有量CaO;38.4質量%、SiO2;17.2質量%、Al2O3;15.8質量%、MgO;3.5質量%、Fe2O3;8.0質量%)
C1;BET比表面積1.5m2/gのフライアッシュ
C2;BET比表面積3.5m2/gのフライアッシュ
C3;メタカオリン粉末(BET比表面積14.5m2/g)
C4;カオリナイト粉末(BET比表面積4.0m2/g)
D1;シリカフューム(BET比表面積20.0m2/g)
D2;硫酸リチウム(市販品)
E1;生石灰系膨張剤(商品名「太平洋エクスパン」、太平洋マテリアル株式会社製)
E2;カルシウムサルファアルミネート系膨張剤(商品名「デンカCSA」、電気化学工業株式会社製)
F1;スチレンブタジエン系ポリマーディスパージョン(商品名「太平洋CXB」、太平洋マテリアル株式会社製)
F2;アクリルスチレン系再乳化粉末樹脂(商品名「LL512」、旭化成ケミカルズ株式会社製)
G;ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名「90SH-4000」、信越化学工業株式会社製)
H;ポリカルボン酸系高性能減水剤(商品名「コアフローNF-100」、太平洋マテリアル株式会社製)
J;細骨材(粒径0.15~2.5mmで粗粒率3.58の山砂)」
(オ) 「【0019】
【表1】
[図:0001434129000001.jpg]
」
(カ) 「【0020】
[施工性の評価] 作製した修復材について、鏝切れ、鏝伸び、塗り垂れ抵抗及び吹付け施工適合性の4項目を調べ、断面修復材としての施工性を評価した。・・・」
イ 甲2の記載事項
「【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に詳しく説明するが、・・・
【0018】
<素地調整材の作製>次に表すC~H3から選定される材料と水(添加水;水道水を使用)を、表1に表した配合量となるよう混合容器に投入し、・・・素地調整材(本発明品1~12、参考品21~25)を作製した。
【0019】
・・・
H3;アクリルスチレン系再乳化粉末樹脂(商品名「ヴィナパスLL512」、旭化成ケミカルズ株式会社製)」
ウ 甲3の記載事項
「2. Experimental
・・・
Vinnapass LL512(styrene/acrylic powder with TG=20℃.
・・・
TG=glass transition temperature」(358ページ左欄)
(当審訳「2.実験
・・・
ヴィナパスLL512(TG=20℃のスチレン/アクリル粉末
・・・
TG=ガラス転移温度」)
エ 甲4の記載事項
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理施設、農業集落排水施設、及び温泉排水施設などの腐食環境下にある土木・建築施設などのコンクリート構造物の建設、改修、及び補修に好適に使用することが可能な耐酸性水硬性組成物、及びモルタル組成物に関する。また、本発明は、モルタル硬化体に関する。」
(イ) 「【0087】
合成樹脂エマルジョンは、含まれる合成樹脂成分のガラス転移温度(Tg)が好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上、さらに好ましくは10℃以上である。このような合成樹脂エマルジョンを用いると、コンクリート下地が湿潤状態であっても優れた接着性を有し、また作業性も良好となる。
・・・
【0089】
合成樹脂エマルジョンとしては、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョンなどの公知の建築材料用エマルジョンを用いることができる。すなわち、合成樹脂エマルジョンの合成樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル酸誘導体、エチレン、酢酸ビニルなどのα-オレフィン化合物、スチレンなどのビニル化合物、ブタジエンなどの重合成分の重合体又は共重合体を用いることができる。」
オ 甲5の記載事項
「【0025】
また、表1には、比較のため、JISの高炉スラグ微粉末4000、高炉スラグ微粉末6000、高炉スラグ微粉末8000に相当する市販の高炉スラグ微粉末について測定した物性を併せて表示している。
【0026】
【表1】
[図:0001434129000002.jpg]
」
カ 甲6の記載事項
(ア)「
[図:0001434129000003.jpg]
」(386ページ15行~末行)
(イ) 「7.3 比表面積
比表面積の試験は、JIS R 5201の7.1(比表面積試験)による。ただし,試料の質量は,ブレーン空気透過装置のセルに粉末度測定校正用標準試料と同程度の加圧力で詰めることのできる量とする。」(387ページ下から10~8行)
キ 甲7の記載事項
「
[図:0001434129000004.jpg]
」(2ページ)
ク 甲8の記載事項
(ア) 「【0002】
【従来技術とその問題点】従来よりガラス繊維補強コンクリート(GRC)はセメント材料、ガラス繊維、珪砂、水等を原料としてプレミックス法或いはダイレクトスプレー法により製造されている。上記GRCの製造ではセメント材料として普通ポルトランドセメント、珪酸石灰・アウィン・スラグ3成分系低アルカリ性セメント等が用いられているが、普通ポルトランドセメントを用いる場合にはセメントの水和反応により生成する水酸化カルシウムによって製品中のガラス繊維を劣化させ、且つ乾燥による収縮が極めて大きくなる(収縮率10~15×10-4程度)という問題がある。」
(イ) 「【0008】本発明者らは、上記の如き従来技術の問題点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、一定のガラス転移温度を有するポリアクリル酸エステル系ポリマーディスパージョンを含む特定組成のセメント組成物は上記問題を解消できることを見出し、特にGRC中に生成する有害物質である水酸化カルシウム量を有効に減少させることによりガラス繊維の劣化を防ぎ、且つ優れた曲げ比例限界強度を発現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】即ち本発明は、ガラス繊維補強コンクリート組成物において、ポルトランドセメント100重量部に対して(1)高炉スラグ粉末20~50重量部、(2)フライアッシュ及び/又はシリカフューム10~25重量部、(3)無水石膏及び/又は二水石膏5~20重量部(4)ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物及び/又はメラミンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物0.5~3重量部、及び(5)ガラス転移温度20~80℃のポリアクリル酸エステル系ポリマーディスパージョン固形分5~40重量部を添加してなることを特徴とする高強度ガラス繊維補強コンクリート組成物に係るものである。」
(ウ) 「【0012】高炉スラグ粉末(成分(1))としては、潜在水硬性を有するものであれば特に限定されない。但し、そのブレーン表面積が3000cm2/g未満の場合にはその活性が減少してGRCの性能を低下させるおそれがあるので、ブレーン表面積3000cm2/g以上のものを用いるのが好ましい。配合量はポルトランドセメント100重量部に対し20~50重量部とする。その配合量が20重量部を下回る場合にはセメントから生成する水酸化カルシウムを減少させることができず、凝結遅延や強度低下を引き起こす。また50重量部を超える場合には強度発現が遅くなり脱型するまでに長時間を要し好ましくない。本発明セメント組成物中における上記高炉スラグ粉末は、その潜在水硬性による水和反応によってセメントから生成する水酸化カルシウムを減少させる役割を果たす。」
(エ) 「【0019】
【実施例】以下、実施例及び比較例を示し、本発明を更に詳しく説明する。
【0020】実施例1~7
下記第1表に示す組成の高強度ガラス繊維補強コンクリート組成物(試料No1~7)をダイレクトスプレー法により調製した。
【0021】使用した高炉スラグ粉末のブレーン表面積は約3000cm2/g、同様にフライアッシュは約3000cm2/g、シリカフュームは約200000cm2/g、無水石膏は約3000cm2/gであった。
【0022】尚、表中ポリアクリル酸エステル系ポリマーディスパージョンとしては固形分45重量%、ガラス転移温度60℃の「2F-914」(カネボウNSC(株)製)を、ナフタリンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物としては「マイティ150RX」(花王(株)製)を用いた。また、膨脹材としてカルシウムサルホアルミネート系膨脹材(「デンカCSA」、電気化学工業(株)製)を、収縮低減剤として低級アルコールアルキレンオキシド付加物系収縮低減剤(「テトラガードAS20」、三洋化成(株)製)、遅延剤としてクエン酸をそれぞれ使用した。」
(オ) 「【0023】
【表1】
[図:0001434129000005.jpg]
」
(2) 取消理由2及び申立理由1(甲1を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如)について
ア 本件発明2について
(ア) 甲1に記載された発明
(a) 甲1には、前記(1)ア(ア)に、
「【請求項1】
(A)ポルトランドセメント、(B)BET比表面積0.75~3.0m2/gのスラグ、(C)フライアッシュ又は/及びメタカオリン粉末、(D)シリカフゥーム及び(E)生石灰系膨張材を含有してなる高耐久性断面修復材。
・・・
【請求項3】
さらに、(F)ポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂、(G)保水剤、(H)分散剤の何れか1種又は2種以上を含有してなる請求項1又は2記載の高耐久性断面修復材。」
が記載されている。
(b) そして、前記(1)ア(オ)の【表1】には、上記(a)の高耐久性断面修復材の実施例としての本発明品8の、Kg単位での配合組成が記載されており、前記(1)ア(エ)に記載された各成分名と対応させて整理すると、本発明品8は、以下の配合量で各成分を配合したものである。
普通ポルトランドセメント(A1):80Kg
早強ポルトランドセメント(A2):20Kg
BET比表面積2.5m2/gの高炉スラグ粉末(B3):90Kg
フライアッシュ(C1):10Kg
メタカオリン粉末(C3):20Kg
シリカフューム(D1):8Kg
生石灰系膨張剤(E1):4Kg
アクリルスチレン系再乳化粉末樹脂(商品名「LL512」、旭化成ケミカルズ株式会社製)(F2):5Kg
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(G):0.3Kg
ポリカルボン酸系高性能減水剤(H):0.7Kg
細骨材(J):288Kg
水:76Kg
(c) 上記配合成分のうち、水を除いた成分からなる組成物に着目して整理すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
(甲1発明)
「普通ポルトランドセメント(A1):80Kg
早強ポルトランドセメント(A2):20Kg
BET比表面積2.5m2/gの高炉スラグ粉末(B3):90Kg
フライアッシュ(C1):10Kg
メタカオリン粉末(C3):20Kg
シリカフューム(D1):8Kg
生石灰系膨張剤(E1):4Kg
アクリルスチレン系再乳化粉末樹脂(商品名「LL512」、旭化成ケミカルズ株式会社製)(F2):5Kg
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(G):0.3Kg
ポリカルボン酸系高性能減水剤(H):0.7Kg
細骨材(J):288Kg
を含み、
高耐久性断面修復材に用いられる組成物」
(イ) 本件発明2と甲1発明との対比
a 甲1発明の「普通ポルトランドセメント(A1)」及び「早強ポルトランドセメント(A2)」、「高炉スラグ粉末(B3)」、「アクリルスチレン系再乳化粉末樹脂(商品名「LL512」、旭化成ケミカルズ株式会社製)(F2)」、「フライアッシュ(C1)」は、それぞれ本件発明2の「ポルトランドセメント」、「スラグ」、「セメント混和用ポリマー」、「フライアッシュ」に相当する。
b そして、甲1発明は、セメントを含む組成物であるから「セメント組成物」とみることができ、「フライアッシュ」は、セメントの「混和材」とみることができる。
c また、甲1発明のアクリルスチレン系再乳化粉末樹脂(F2)は粉末樹脂であるから、配合された5Kgは全て固形分と認められ、普通ポルトランドセメント(A1):80Kgと早強ポルトランドセメント(A2):20Kgとの合計100Kgとの比を質量%で計算すると、5質量%であり、本件発明2のポリマーセメント比(固形分比)の範囲である3質量%以上10質量%以下を満足する。
d そして、本件発明2における「ポルトランドセメント」、「スラグ」及び「フライアッシュ」の配合量に関して、「前記ポルトランドセメント、前記スラグ、及び前記フライアッシュを含む粉体成分100質量部に対して」と記載される「粉体成分」は、本件特許明細書の【0023】に「粉体成分としては、例えば、セメント、スラグ、フライアッシュ、骨材等が挙げられる。」と記載されていることから、甲1発明において、前記粉体成分に相当するのは「普通ポルトランドセメント(A1)」、「早強ポルトランドセメント(A2)」、「BET比表面積2.5m2/gの高炉スラグ粉末(B3)」、「フライアッシュ(C1)」、「メタカオリン粉末(C3)」、「シリカフューム(D1)」、「生石灰系膨張剤(E1)」、「細骨材(J)」であるといえる。これらの合計量を計算すると、80Kg+20Kg+90Kg+10Kg+20Kg+8Kg+4Kg+288Kg=520Kgである。そうすると、当該粉体成分の合計量を100質量部としたときの、ポルトランドセメントの配合量、すなわち「普通ポルトランドセメント(A1)」及び「早強ポルトランドセメント(A2)」の合計配合量は、19.2質量部であり、「BET比表面積2.5m2/gの高炉スラグ粉末(B3)」の配合量は17.3質量部であり、「フライアッシュ(C1)」の配合量は、1.92質量部である。
e さらに、甲1発明の「高耐久性断面修復材に用いられる」点は、前記(1)ア(ウ)に「本発明の高耐久性断面修復材による修復施工は、従来から使用されているセメント系断面修復材と概ね同様の方法で施工することができ」ると記載され、さらに前記(1)ア(カ)に「作製した修復材について、鏝切れ、鏝伸び、塗り垂れ抵抗及び吹付け施工適合性の4項目を調べ」たことも記載されていることから、「高耐久性断面修復材」を「鏝塗り等」により施工するものであり、本件発明2の「コンクリート構造物の補修箇所に充填又は塗布するために用いられる」点に相当するといえる。
f そうすると、本件発明2と甲1発明とは、
「ポルトランドセメントと、スラグと、セメント混和用ポリマーと、を含むセメント組成物であって、
前記セメント混和用ポリマーと前記ポルトランドセメントとのポリマーセメント比(固形分比)が、3質量%以上10質量%以下であり、
混合材としてフライアッシュをさらに含み、
コンクリート構造物の補修箇所に充填又は塗布するために用いられる、セメント組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明2は、「前記セメント混和用ポリマーのガラス転移温度が5℃以上」であるのに対し、甲1発明は、セメント混和用ポリマーに相当するアクリルスチレン系再乳化粉末樹脂(商品名「LL512」、旭化成ケミカルズ株式会社製)(F2)のガラス転移点が不明である点
<相違点2>
本件発明2は、「前記スラグのブレーン比表面積が、4000cm2/g以上8000cm2/g未満」であるのに対し、甲1発明は、高炉スラグ粉末(B3)が「BET比表面積2.5m2/g」である点
<相違点3>
本件発明2は、「前記ポルトランドセメントの配合量が、前記ポルトランドセメント、前記スラグ、及び前記フライアッシュを含む粉体成分100質量部に対して30質量部以上45質量部以下であり」、「前記スラグの配合量が、前記粉体成分100質量部に対して2.5質量部以上20質量部以下であり」、「前記フライアッシュの含有量が、前記粉体成分100質量部に対して2.5質量部以上10質量部以下であ」るのに対し、甲1発明は、「普通ポルトランドセメント(A1)」、「早強ポルトランドセメント(A2)」、「BET比表面積2.5m2/gの高炉スラグ粉末(B3)」、「フライアッシュ(C1)」、「メタカオリン粉末(C3)」、「シリカフューム(D1)」、「生石灰系膨張剤(E1)」、「細骨材(J)」の粉体成分合計量100質量部に対して、「普通ポルトランドセメント(A1)」及び「早強ポルトランドセメント(A2)」の合計配合量は、19.2質量部であり、「BET比表面積2.5m2/gの高炉スラグ粉末(B3)」の配合量は17.3質量部であり、「フライアッシュ(C1)」の配合量は、1.92質量部である点
(ウ) 相違点についての検討
a 事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
b 本件発明2の「ブレーン比表面積」と、甲1発明の「BET比表面積」は、測定法が異なり、その技術的意味も異なるものであるから、甲1発明のスラグのブレーン比表面積が相違点2に係る範囲のものであるとはいえない。
c 申立人は、異議申立書の24ページ4行~25ページ13行において、「甲第5号証によればJIS規格の高炉スラグ微粉末4000~8000のスラグで測定されたBET比表面積が0.78~2.55m2/gであるため、甲第1号証のBET比表面積が0.75~3.0m2/gのスラグは、JIS規格の高炉スラグ微粉末4000~8000のスラグである蓋然性が極めて高い」、「甲第6号証に示すように、高炉スラグ微粉末4000は、ブレーン比表面積3500cm2/g以上5000cm2/g未満であり、高炉スラグ微粉末6000は、ブレーン比表面積5000cm2/g以上7000cm2/g未満であり、高炉スラグ微粉末(当審注:「高炉スラグ微粉末8000」の誤記と認める。)は、ブレーン比表面積7000cm2/g以上10000cm2/g未満であるので、甲第1号証に記載のBET比表面積が0.75~3.0m2/gのスラグのブレーン比表面積は、8000cm2/gのスラグを含む蓋然性が極めて高い」、「甲第7号証(エスメント)では、この分類にしたがって、分類された商品が記載されている。当業界において、ブレーン比表面積8000cm2/g未満のスラグは、JISの基準からは少なくとも高炉スラグ微粉末8000も一部含まれる可能性がある。よって、ブレーン比表面積8000cm2/g未満のスラグは、甲第1号証に記載されている」などと主張している。
d また、申立人は、令和7年5月21日提出の意見書の1ページ下から10行~2ページ下から11行において、「甲第1号証に記載されているBET比表面積が0.75~3.0m2/g(7500~30000cm2/g)のスラグをブレーン法にて測定を行った場合、ブレーン比表面積は4000~8000cm2/gと重複する蓋然性が極めて高いものであり、特許権者は本件特許発明2と甲第1号証とが相違することを十分に説明できているとはいえません。」、「甲第5号証の表1によれば、本件特許発明におけるブレーン比表面積が4000~8000cm2/gの範囲内にある高炉スラグ部粉末4000(当審注:「高炉スラグ微粉末4000」の誤記と認める。)、高炉スラグ微粉末6000は、それぞれBET比表面積が0.78m2/g、1.09m2/gであり、これは甲第1号証に記載のBET表面積が0.75~3.0m2/g(7500~30000cm2/g)の範囲に入っています。よって、甲第1号証に記載のBET表面積が0.75~3.0m2/g(7500~30000cm2/g)のスラグをブレーン法にて測定した場合も、ブレーン比表面積はBET比表面積より小さい値となると推測され、甲第1号証のスラグのブレーン比表面積は4000~8000cm2/gの範囲内に入る蓋然性が極めて高いと言えます。」などと主張している。
e しかしながら、甲5には、JISの高炉スラグ微粉末4000、高炉スラグ微粉末6000、高炉スラグ微粉末8000に相当する市販の高炉スラグ微粉末について測定した物性を、比較のため併せて表示した表1が記載されているところ、BET比表面積の値とブレーン比表面積の値を比較すると、BET比表面積が大きくなればブレーン比表面積も大きくなるという単純な相関性はない。例えば、高炉スラグ微粉末BはBET比表面積が2.60m2/gでブレーン比表面積が2.16m2/gであるところ、高炉スラブ微粉末CはBET比表面積が3.77m2/gでより大きくなっているにも関わらずブレーン比表面積は1.45m2/gとより小さくなっている。また、高炉スラグ微粉末8000のBET比表面積は2.55であり、甲1発明の高炉スラグ粉末(B2)のBET比表面積2.5m2/gに最も近いが、そのブレーン比表面積は0.92m2/g(9200cm2/g)であって、本件発明2の上限8000cm2/gを大きく超えている。そして、上述のとおり、BET比表面積とブレーン比表面積との間には単純な相関関係があるわけではないので、BET比表面積が2.55m2/g(甲5記載の高炉スラグ微粉末8000の値)から2.5m2/g(甲1記載の高炉スラグ粉末(B2)の値)へと小さくなれば、当然にブレーン比表面積が8000cm2/g未満になるともいえない。
f さらに、甲6に記載された表1には、387ページの「7.3 比表面積」の記載も合わせ見れば、高炉スラグ微粉末3000、4000、6000及び8000の品質について、ブレーン比表面積(cm2/g)がそれぞれ「2750以上3500未満」、「3500以上5000未満」、「5000以上7000未満」及び「7000以上10000未満」であることが示されているが、JIS規格によるそれぞれの高炉スラグ微粉末は、ブレーン比表面積の一定の幅で区切られたものであって、それぞれ特定のブレーン比表面積を有するものではない。特に、高炉スラグ微粉末8000のブレーン比表面積の範囲は7000cm2/g以上10000cm2/g未満であって、本件発明2で特定する上限値8000cm2/gを超える範囲を含んでおり、高炉スラグ微粉末8000であれば、必ずブレーン表面積が8000cm2/g未満である訳ではなく、このことは、甲5の表1に記載された「高炉スラグ微粉末8000」のブレーン比表面積が9200cm2/gであることとも整合する。甲7に記載された商品の種類と比表面積の対応関係も甲6と同じものである。
g したがって、甲5~7の記載事項を参照しても、甲1発明の「BET比表面積2.5m2/gの高炉スラグ粉末(B3)」のブレーン比表面積が4000cm2/g以上8000cm2/g未満であるとはいえない。
h よって、相違点2は、実質的な相違点である。
i 次に、相違点2に係る本件発明2の構成とすることが、当業者が容易に想到し得るものであるかについて検討する。
j 本件発明2で特定するスラグのブレーン比表面積に関し、本件特許明細書には、「前記スラグ表面の一部に前記セメント混和用ポリマーのフィルムが付着することにより、該付着箇所にはスラグの未反応面が形成される。コンクリート構造物にひび割れが発生し、かつ、ガラス転移温度以下の環境温度になると、スラグ表面に付着したフィルムが剥離し、スラグの未反応面において水和反応が起こる。これにより、ひび割れ箇所を水和物で埋めて、自己治癒することができる。」(【0010】)、「前記スラグのブレーン比表面積が8000cm2/g未満であると、該スラグ表面に前記セメント混和用ポリマーのフィルムが付着しやすくなる。その結果、ひび割れ箇所の自己治癒性をより向上させることができる。」(【0012】)、「前記スラグのブレーン比表面積は、自己治癒性を向上させる観点から、8000cm2/g未満であることが好ましい。また、さらに自己治癒性を向上させる観点から、4000cm2/g以上であることが好ましい。」(【0025】)と記載されている。すなわち、本件発明2におけるスラグのブレーン比表面積は、スラグの表面の一部へのセメント混和用ポリマーのフィルム付着による自己治癒性をさらに向上させるために特定したものである。しかしながら、前記c~gで検討した甲5~7の他、甲2~4の記載を参照しても、前記自己治癒性の向上のためにスラグのブレーン比表面積の範囲を特定するという技術思想は記載も示唆もされていない。そうすると、甲1発明において、BET比表面積2.5m2/gの高炉スラグ粉末(B3)について、ブレーン比表面積が特定範囲のものを選択し、又は置換して、相違点2に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
k 申立人は、異議申立書の25ページ7~10行において、「ブレーン比表面積8000cm2/g未満のスラグは、・・・当業界で通常に使用されているものであり周知技術である。または、当業者は、ブレーン比表面積8000cm2/g未満のスラグを用いることを、甲第5号証、甲第6号証または甲第7号証から容易に想到可能なものである。」とも主張している。
l しかしながら、ブレーン比表面積が4000cm2/g以上8000cm2/g未満である高炉スラグ微粉末が周知であったとしても、様々なブレーン比表面積を有する高炉スラグ微粉末の中から、敢えて特定範囲のブレーン比表面積を有するものを選択するという技術思想は、甲2~7のいずれにも記載も示唆もされておらず、それが技術常識であったともいえない。そうすると、当業者が相違点2に係る本件発明2の構成を採用することを容易に想到し得たとはいえず、申立人の主張は採用できない。
m 以上のとおり、上記相違点2は、実質的な相違点であると共に、上記相違点2に係る本件発明2の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2~7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件発明2を引用し、本件発明2の構成を全て含むものであるところ、本件発明2が、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2~7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明3、4は、甲1発明ではないし、本件発明3、4は、甲1発明及び甲2~7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 小括
よって、取消理由2及び申立理由1には理由がない。
(3) 取消理由3及び申立理由2(甲8を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如)について
ア 甲8に記載された発明
(ア) 甲8には、前記(1)ク(エ)に「第1表に示す組成の高強度ガラス繊維補強コンクリート組成物(試料No1~7)」を調製したこと、「使用した高炉スラグ粉末のブレーン表面積は約3000cm2/g」であったこと、「表中ポリアクリル酸エステル系ポリマーディスパージョンとしては固形分45重量%、ガラス転移温度60℃の「2F-914」(カネボウNSC(株)製)を、・・・用いた」ことが記載されている。
(イ) そして、前記(1)ク(オ)の【表1】には、「ポルトランドセメント」、「高炉スラグ」、「フライアッシュ」、「シリカフューム」、「無水石膏」、「PAE系ポリマーディスパージョン」、「珪砂5号」、「耐アルカリガラス繊維」を含有する試料No1、3、4、5、6、7が記載されている。
(ウ) ここで、各試料のPAE系ポリマーディスパージョンの固形分の重量部を固形分45重量%で計算し、さらにPAE系ポリマーディスパージョンの固形分とポルトランドセメントの比(P/C比)を重量%で計算すると、
(試料No1)固形分:7.7重量部、P/C比:7.7重量%
(試料No3)固形分:7.7重量部、P/C比:7.7重量%
(試料No4)固形分:7.2重量部、P/C比:7.2重量%
(試料No5)固形分:7.2重量部、P/C比:7.2重量%
(試料No6)固形分:7.2重量部、P/C比:7.2重量%
(試料No7)固形分:9.0重量部、P/C比:9.0重量%
である。
(エ) また、これら試料における粉体成分である「ポルトランドセメント」、「高炉スラグ」、「フライアッシュ」、「シリカフューム」、「無水石膏」、「珪砂5号」、「耐アルカリガラス繊維」の配合量及びそれらの合計量は、以下のとおりである。
(試料No1)ポルトランドセメント:100重量部、高炉スラグ:40重量部、フライアッシュ:20重量部、シリカフューム0重量部、無水石膏:10重量部、珪砂5号:119重量部、耐アルカリガラス繊維:0Kg、合計:289重量部
(試料No3)ポルトランドセメント:100重量部、高炉スラグ:30重量部、フライアッシュ:10重量部、シリカフューム:10重量部、無水石膏10重量部、珪砂5号:119重量部、耐アルカリガラス繊維:0Kg、合計:279重量部
(試料No4)ポルトランドセメント:100重量部、高炉スラグ:30重量部、フライアッシュ:10重量部、シリカフューム:10重量部、無水石膏10重量部、珪砂5号:112重量部、耐アルカリガラス繊維:0Kg、合計:272重量部
(試料No5)ポルトランドセメント100:重量部、高炉スラグ:35重量部、フライアッシュ:18重量部、シリカフューム0重量部、無水石膏:10重量部、珪砂5号:118重量部、耐アルカリガラス繊維:17Kg、合計:298重量部
(試料No6)ポルトランドセメント:100重量部、高炉スラグ:20重量部、フライアッシュ:20重量部、シリカフューム0重量部、無水石膏:15重量部、珪砂5号:109重量部、耐アルカリガラス繊維:15Kg、合計:279重量部
(試料No7)ポルトランドセメント:100重量部、高炉スラグ:40重量部、フライアッシュ:12重量部、シリカフューム0重量部、無水石膏:15重量部、珪砂5号:117重量部、耐アルカリガラス繊維:17Kg、合計:301重量部
(オ) 上記配合成分のうち、水を除いた成分からなる組成物に着目して整理すると、甲8には、次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲8発明)
「ポルトランドセメント、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、無水石膏、珪砂5号、耐アルカリガラス繊維、及びPAE系ポリマーディスパージョンを含有し、
PAE系ポリマーディスパージョンの固形分とポルトランドセメントの比(P/C比)、及び、ポルトランドセメント、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、無水石膏、珪砂5号、耐アルカリガラス繊維の配合量が、それぞれ以下のとおりであり、
(試料No1)P/C比:7.7重量%、ポルトランドセメント:100重量部、高炉スラグ:40重量部、フライアッシュ:20重量部、シリカフューム0重量部、無水石膏:10重量部、珪砂5号:119重量部、耐アルカリガラス繊維:0Kg
(試料No3)P/C比:7.7重量%、:ポルトランドセメント:100重量部、高炉スラグ:30重量部、フライアッシュ:10重量部、シリカフューム:10重量部、無水石膏10重量部、珪砂5号:119重量部、耐アルカリガラス繊維:0Kg
(試料No4)P/C比:7.2重量%、ポルトランドセメント:100重量部、高炉スラグ:30重量部、フライアッシュ:10重量部、シリカフューム:10重量部、無水石膏10重量部、珪砂5号:112重量部、耐アルカリガラス繊維:0Kg
(試料No5):P/C比:7.2重量%、ポルトランドセメント100:重量部、高炉スラグ:35重量部、フライアッシュ:18重量部、シリカフューム0重量部、無水石膏:10重量部、珪砂5号:118重量部、耐アルカリガラス繊維:17Kg
(試料No6):P/C比:7.2重量%、ポルトランドセメント:100重量部、高炉スラグ:20重量部、フライアッシュ:20重量部、シリカフューム0重量部、無水石膏:15重量部、珪砂5号:109重量部、耐アルカリガラス繊維:15Kg
(試料No7):P/C比:7.2重量%、ポルトランドセメント:100重量部、高炉スラグ:40重量部、フライアッシュ:12重量部、シリカフューム0重量部、無水石膏:15重量部、珪砂5号:117重量部、耐アルカリガラス繊維:17Kg
前記PAE系ポリマーディスパージョンのガラス転移温度が60℃、前記高炉スラグ粉末のブレーン表面積が約3000cm2/gである、
高強度ガラス繊維補強コンクリートに用いられる組成物」
イ 本件発明2と甲8発明との対比
(ア) 甲8発明の「ポルトランドセメント」、「高炉スラグ」、「フライアッシュ」、「PAE系ポリマーディスパージョン」は、それぞれ本件発明2の「ポルトランドセメント」、「スラグ」、「フライアッシュ」、「セメント混和用ポリマー」に相当し、甲8発明の組成物は、ポルトランドセメントを含む組成物であるから「セメント組成物」であるとみることができる。
(イ) そして、甲8発明のPAE系ポリマーディスパージョンの固形分とポルトランドセメントの比は、本件発明2の「ポリマーセメント比(固形分比)」に相当し、その値は、本件発明2の3質量%以上10質量%以下を満足する。
(ウ) また、甲8発明の「PAE系ポリマーディスパージョンのガラス転移温度が60℃」であることは、本件発明2の「セメント混和用ポリマーのガラス転移温度が5℃以上」であることを満足する。
(エ) さらに、甲8発明の、ポルトランドセメント、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、無水石膏、珪砂5号、耐アルカリガラス繊維の粉体成分の合計量は、それぞれ以下のとおりである。
(試料No1)289重量部
(試料No3)279重量部
(試料No4)272重量部
(試料No5)298重量部
(試料No6)279重量部
(試料No7)301重量部
(オ) そして、ポルトランドセメント、高炉スラグ及びフライアッシュの、ポルトランドセメント、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、無水石膏及び珪砂5号の粉体成分100重量部に対する配合量を計算すると、それぞれ、
(試料No1)
ポルトランドセメント:34.6重量部
高炉スラグ:13.8重量部
フライアッシュ:6.92重量部
(試料No3)
ポルトランドセメント:35.8重量部
高炉スラグ:10.8重量部
フライアッシュ:3.58重量部
(試料No4)
ポルトランドセメント:36.8重量部
高炉スラグ:11.0重量部
フライアッシュ:3.68重量部
(試料No5)
ポルトランドセメント:33.6重量部
高炉スラグ:11.7重量部
フライアッシュ:6.04重量部
(試料No6)
ポルトランドセメント:35.8重量部
高炉スラグ:7.17重量部
フライアッシュ:7.17重量部
(試料No7)
ポルトランドセメント:33.2重量部
高炉スラグ:13.3重量部
フライアッシュ:3.99重量部
であるから、いずれの試料の場合も、本件発明2の「前記ポルトランドセメントの配合量が、前記ポルトランドセメント、前記スラグ、及び前記フライアッシュを含む粉体成分100質量部に対して30質量部以上45質量部以下」、「前記スラグの配合量が、前記粉体成分100質量部に対して2.5質量部以上20質量部以下」、「前記フライアッシュの含有量が、前記粉体成分100質量部に対して2.5質量部以上10質量部以下」を満足する。
(カ) そうすると、本件発明2と甲8発明とは、
「ポルトランドセメントと、スラグと、セメント混和用ポリマーと、を含むセメント組成物であって、
前記セメント混和用ポリマーと前記ポルトランドセメントとのポリマーセメント比(固形分比)が、3質量%以上10質量%以下であり、
前記セメント混和用ポリマーのガラス転移温度が5℃以上であり、
混合材としてフライアッシュをさらに含み
前記ポルトランドセメントの配合量が、前記ポルトランドセメント、前記スラグ、及び前記フライアッシュを含む粉体成分100質量部に対して30質量部以上45質量部以下であり、
前記スラグの配合量が、前記粉体成分100質量部に対して2.5質量部以上20質量部以下であり、
前記フライアッシュの含有量が、前記粉体成分100質量部に対して2.5質量部以上10質量部以下である、セメント組成物」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4>
本件発明2では、「前記スラグのブレーン比表面積が、4000cm2/g以上8000cm2/g未満」であるのに対し、甲8発明では、「前記高炉スラグ粉末のブレーン表面積が約3000cm2/g」である点
<相違点5>
本件発明2は、「コンクリート構造物の補修箇所に充填又は塗布するために用いられる」セメント組成物であるのに対し、甲8発明は、「高強度ガラス繊維補強コンクリートに用いられる組成物」である点
ウ 相違点についての検討
(ア) 事案に鑑み、まず相違点4について検討する。
(イ) 本件発明2のスラグのブレーン比表面積は、4000cm2/g以上8000cm2/g未満であるのに対し、甲8発明の高炉スラグのブレーン比表面積は約3000cm2/gであるから、相違点4は実質的な相違点である。
(ウ) 次に、相違点4に係る本件発明2の構成とすることが、当業者が容易に想到し得るものであるかについて検討する。
(エ) 甲8には、高炉スラグのブレーン比表面積について、【0012】に「高炉スラグ粉末(成分(1))としては、・・・ブレーン表面積3000cm2/g以上のものを用いるのが好ましい。」と記載されており、甲8発明の高炉スラグのブレーン比表面積を3000cm2/g以上とすることについては一応示唆されている。しかしながら、その上限値を限定することについては記載されていない。
(オ) また、前記(2)ア(ウ)で相違点2について検討したとおり、本件発明2におけるスラグのブレーン比表面積は、スラグの表面の一部へのセメント混和用ポリマーのフィルム付着による自己治癒性をさらに向上させるために所定の範囲に特定するものであるのに対し、甲8には、「従来よりガラス繊維補強コンクリート(GRC)はセメント材料、ガラス繊維、珪砂、水等を原料として・・・製造されている。・・・普通ポルトランドセメントを用いる場合にはセメントの水和反応により生成する水酸化カルシウムによって製品中のガラス繊維を劣化させ、且つ乾燥による収縮が極めて大きくなる・・・という問題がある。」(【0002】)、「高炉スラグ粉末(成分(1))としては、・・・そのブレーン表面積が3000cm2/g未満の場合にはその活性が減少してGRCの性能を低下させるおそれがある・・・その配合量が20重量部を下回る場合にはセメントから生成する水酸化カルシウムを減少させることができず、凝結遅延や強度低下を引き起こす。また50重量部を超える場合には強度発現が遅くなり脱型するまでに長時間を要し好ましくない。本発明セメント組成物中における上記高炉スラグ粉末は、その潜在水硬性による水和反応によってセメントから生成する水酸化カルシウムを減少させる役割を果たす。」(【0012】)と記載されているように、甲8発明におけるスラグは、ガラス繊維に悪影響を及ぼす水酸化カルシウムを減少させるための成分であって、そのブレーン表面積が3000cm2/g未満の場合にはその活性が減少してGRCの性能を低下させるおそれがあることは記載されているが、本件発明のように、セメント組成物の自己治癒性を向上させるためにスラグのブレーン比表面積を調整するという技術に関する記載はない。そして、前記(2)ア(ウ)で検討したように、異議申立書において言及された甲4のみならず甲1~3、5~7の記載を参照しても、そのような技術思想は記載も示唆もされていない。
(カ) そうすると、甲8発明において、高炉スラグのブレーン比表面積を約3000cm2/gから、4000cm2/g以上8000cm2/g未満という特定範囲のものに置換して、相違点4に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(キ) 以上のとおり、上記相違点4は、実質的な相違点であると共に、上記相違点4に係る本件発明2の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、相違点5について検討するまでもなく、本件発明2は、甲8発明ではないし、甲8発明及び甲1~7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件発明2を引用し、本件発明2の構成を全て含むものであるところ、本件発明2が、甲8発明ではないし、甲8発明及び甲1~7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明3、4は、甲8発明ではないし、本件発明3、4は、甲8発明及び甲1~7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 小括
よって、取消理由3及び申立理由2には理由がない。
2 取消理由1及び申立理由4(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法について
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下、この観点に立って検討する。
(2) 本件発明の課題について
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、以下の記載がある(下線は当審において付した。)。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ポルトランドセメント系耐酸性モルタルでは、水酸化カルシウムの生成量が多いため、腐食劣化の原因となる二水石膏の生成を十分に抑制することができず、耐酸性が高いとは言い難い。また、アルミナセメント系耐酸性モルタルは、アルミナセメント水和物の相転移(比重の大きな水和物への変化)に伴いモルタルの強度が低下し、ひび割れ等が発生しやすくなることから、高い耐酸性とひび割れ抵抗性の両立は困難である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐酸性が高く、かつ、ひび割れ抵抗性に優れたセメント組成物、モルタル組成物、及びコンクリート構造物の補修方法を提供することを課題とする。」
イ 上記の記載から、本件発明2~4の課題(以下、「本件課題」という。)は、従来のポルトランドセメント系耐酸性モルタル及びアルミナセメント系耐酸性モルタルの問題を解決し、耐酸性が高く、かつ、ひび割れ抵抗性に優れたセメント組成物、モルタル組成物、及びコンクリート構造物の補修方法を提供することであるといえる。
(3) 発明の詳細な説明の記載について
ア 発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(ア) 「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセメント組成物は、ポルトランドセメントと、スラグと、セメント混和用ポリマーと、を含むセメント組成物であって、前記セメント混和用ポリマーと前記ポルトランドセメントとのポリマーセメント比(固形分比)が、3質量%以上10質量%以下である。
【0008】
斯かる構成により、前記セメント組成物は、水酸化カルシウムの生成量を抑制しつつ、硫酸イオンの侵入を抑制することができるため、耐酸性を高めることができる。また、前記セメント組成物は、ポルトランドセメントを含むため、ひび割れ抵抗性に優れる。
【0009】
本発明に係るセメント組成物は、前記セメント混和用ポリマーのガラス転移温度が5℃以上であってもよい。
【0010】
前記スラグ表面の一部に前記セメント混和用ポリマーのフィルムが付着することにより、該付着箇所にはスラグの未反応面が形成される。コンクリート構造物にひび割れが発生し、かつ、ガラス転移温度以下の環境温度になると、スラグ表面に付着したフィルムが剥離し、スラグの未反応面において水和反応が起こる。これにより、ひび割れ箇所を水和物で埋めて、自己治癒することができる。前記セメント混和用ポリマーのガラス転移温度が5℃以上であると、前記水和反応が起こりやすくなるため、ひび割れ箇所の自己治癒性を向上させることができる。
【0011】
本発明に係るセメント組成物は、前記スラグのブレーン比表面積が、8000cm2/g未満であってもよい。
【0012】
前記スラグのブレーン比表面積が8000cm2/g未満であると、該スラグ表面に前記セメント混和用ポリマーのフィルムが付着しやすくなる。その結果、ひび割れ箇所の自己治癒性をより向上させることができる。
【0013】
本発明に係るセメント組成物は、混合材としてフライアッシュをさらに含んでいてもよい。
【0014】
斯かる構成により、前記セメント組成物は、コンクリート構造物の強度を高めることができる。
【0015】
本発明に係るモルタル組成物は、前記セメント組成物と、水と、細骨材と、を含む。
【0016】
斯かる構成により、本発明に係るモルタル組成物は、水酸化カルシウムの生成量を抑制しつつ、硫酸イオンの侵入を抑制することができるため、耐酸性を高めることができる。また、本発明に係るモルタル組成物は、ポルトランドセメントを含むため、ひび割れ抵抗性に優れる。
・・・
【0018】
前記コンクリート構造物の補修方法は、上述のモルタル組成物を用いることにより、腐食劣化したコンクリート構造物を補修して、耐酸性が高く、かつ、ひび割れ抵抗性に優れたコンクリート構造物を得ることができる。」
(イ) 「【発明を実施するための形態】
【0020】
<セメント組成物>
以下、本実施形態に係るセメント組成物について説明する。
・・・
【0023】
前記ポルトランドセメントの配合量は、圧縮強度の確保とひび割れ抵抗性向上の観点から、粉体成分100質量部に対して10質量部以上60質量部以下であることが好ましく、30質量部以上45質量部以下であることがより好ましい。なお、セメントが2種以上含まれる場合、前記配合量は、セメントの合計配合量である。また、粉体成分としては、例えば、セメント、スラグ、フライアッシュ、骨材等が挙げられる。
【0024】
スラグとしては、例えば、高炉スラグ、転炉スラグ、脱リンスラグ等が挙げられる。これらの中でも、スラグは、耐酸性を高める観点から、高炉スラグであることが好ましい。なお、スラグは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記スラグのブレーン比表面積は、自己治癒性を向上させる観点から、8000cm2/g未満であることが好ましい。また、さらに自己治癒性を向上させる観点から、4000cm2/g以上であることが好ましい。なお、ブレーン比表面積は、JIS R 5201:2015の8.1に準じて測定した値をいうものである。
【0026】
前記スラグの配合量は、自己治癒性向上の観点から、粉体成分100質量部に対して、2.5質量部以上であることが好ましい。また、施工性の観点から、粉体成分100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましい。なお、スラグが2種以上含まれる場合、前記配合量は、スラグの合計配合量である。
・・・
【0030】
前記セメント混和用ポリマーと前記ポルトランドセメントとのポリマーセメント比(固形分比)は、耐酸性を高める観点から、3質量%以上10質量%以下であり、5質量%以上9質量%以下であることが好ましい。
【0031】
本実施形態に係るセメント組成物は、混合材としてフライアッシュをさらに含んでいてもよい。フライアッシュとしては、特に限定されるものではなく、例えば、フライアッシュI種、II種、III種、IV種等が挙げられ、JIS A 6201の規定に適合するものを用いることができる。前記フライアッシュの含有量は、粉体成分100質量部に対して、2.5質量部以上10質量部以下とすることができる。
・・・
【0034】
本実施形態に係るセメント組成物は、ポルトランドセメントと、スラグと、セメント混和用ポリマーと、を含み、前記セメント混和用ポリマーと前記ポルトランドセメントとのポリマーセメント比(固形分比)が、3質量%以上10質量%以下であることにより、水酸化カルシウムの生成量を抑制しつつ、硫酸イオンの侵入を抑制することができるため、耐酸性を高めることができる。また、本実施形態に係るセメント組成物は、ポルトランドセメントを含むため、ひび割れ抵抗性に優れる。」
(ウ) 「【0053】
【表1】
[図:0001434129000006.jpg]
」
(エ) 「【0058】
【表2】
[図:0001434129000007.jpg]
」
イ 前記ア(ア)の記載事項から、本件発明に係るセメント組成物は、ポルトランドセメントと、スラグと、セメント混和用ポリマーと、を含むこと、そして、前記セメント混和用ポリマーと前記ポルトランドセメントとのポリマーセメント比(固形分比)が、3質量%以上10質量%以下であることが重要であり、この構成によって水酸化カルシウムの生成量を抑制しつつ、硫酸イオンの侵入を抑制することができるため、耐酸性を高めることができること、また、ポルトランドセメントを含むため、ひび割れ抵抗性に優れることが理解できる。
ウ そして、前記耐酸性を高めること及びひび割れ抵抗性に優れることに関し、前記ア(イ)には、「前記ポルトランドセメントの配合量は、圧縮強度の確保とひび割れ抵抗性向上の観点から、粉体成分100質量部に対して10質量部以上60質量部以下であることが好ましく、30質量部以上45質量部以下であることがより好ましい。・・・また、粉体成分としては、例えば、セメント、スラグ、フライアッシュ、骨材等が挙げられる。」(【0023】)、「前記スラグの配合量は、自己治癒性向上の観点から、粉体成分100質量部に対して、2.5質量部以上であることが好ましい。また、施工性の観点から、粉体成分100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましい。」(【0026】)、「前記セメント混和用ポリマーと前記ポルトランドセメントとのポリマーセメント比(固形分比)は、耐酸性を高める観点から、3質量%以上10質量%以下であり、5質量%以上9質量%以下であることが好ましい。」(【0030】)、「前記フライアッシュの含有量は、粉体成分100質量部に対して、2.5質量部以上10質量部以下とすることができる。」(【0031】)と記載されており、ポルトランドセメント、スラグ、フライアッシュを粉体成分に対して一定範囲内の量となるような配合バランスで含有し、かつポリマーセメント比が一定範囲内となるようにセメント組成物の配合を調整することが肝要であることが理解できる。
エ また、前記ア(ア)には、「前記スラグ表面の一部に前記セメント混和用ポリマーのフィルムが付着することにより、該付着箇所にはスラグの未反応面が形成される。コンクリート構造物にひび割れが発生し、かつ、ガラス転移温度以下の環境温度になると、スラグ表面に付着したフィルムが剥離し、スラグの未反応面において水和反応が起こる。これにより、ひび割れ箇所を水和物で埋めて、自己治癒することができる。前記セメント混和用ポリマーのガラス転移温度が5℃以上であると、前記水和反応が起こりやすくなるため、ひび割れ箇所の自己治癒性を向上させることができる。」(【0010】)との説明があり、セメント混和用ポリマーがスラグ表面の一部に付着して一定の未反応面を形成できる程度に、粉体成分の配合バランスが調整されていることも重要であることが理解できる。
オ さらに、前記ア(ウ)、(エ)の【表1】、【表2】には、そのような特性を有するセメント組成物の配合調整に関し、粉体成分100質量部とした場合、ポルトランドセメントを30質量部、40質量部又は45質量部、各種スラグを2.5質量部、5質量部又は10質量部、そして、フライアッシュを2.5質量部、5質量部又は10質量部という、前記ウで摘示した範囲内の、いくつかの異なる配合割合において、ひび割れの問題があるアルミナセメントを含まずポルトランドセメントを含み、かつP/C比が本件発明2の範囲内となっている実施例1~11、参考例12~14と、ポルトランドセメントを含まない比較例3及びポルトランドセメントを含むがP/C比が下限の3質量%及び上限の10質量%から外れる比較例1、2が記載され、P/C比が小さすぎる比較例1では乾燥収縮率及び耐酸性が「×」評価であり、P/C比が大きすぎる比較例2では圧縮強度が「×」評価であったことが示されている。これら、実施例、参考例、比較例は、前記(イ)~(エ)で理解した、本件発明の課題を解決するために肝要となる手段の説明と整合するものである。
(4) 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比、検討
本件特許請求の範囲の請求項2~4では、セメント組成物について、ポルトランドセメント、スラグ、フライアッシュ、セメント混和用ポリマーを含有すること、そして、セメントポリマー比(P/C比)の範囲、粉体成分100質量部に対するポルトランドセメント、スラグ、フライアッシュそれぞれの配合量が、発明の詳細な説明の【0023】、【0026】、【0030】、【0031】に記載された範囲であって、【表1】、【表2】の具体例に裏打ちされた範囲に特定されており、その上で、セメント混和用ポリマーのガラス転移点、スラグのブレーン比表面積の範囲も限定されているから、上記(3)ア~オで理解した、発明の詳細な説明に記載された本件課題を解決できる範囲内のものといえる。よって、本件発明2~4は、当業者において、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、本件課題を解決できると認識できる範囲のものであり、前記(1)の判断基準に照らせば、本件特許請求の範囲の請求項2~4はサポート要件に適合する。
(5) 申立人の主張について
申立人は、設定登録時の請求項1では、ポルトランドセメント、ポリマー、スラグ、フライアッシュの配合量が一切限定されていない旨、また、設定登録時の請求項1に係る発明は、ひび割れ箇所の自己治癒性を向上させる点も、目的とする効果として含むものであるところ、スラグの配合量及びポリマーに対するスラグの配合量が特定されておらず、スラグの比表面積についても特定されていない旨主張していたが、本件訂正により、本件発明2~4は、上記(4)のとおり、これらの成分の配合量の範囲が特定され、さらに、スラグのブレーン比表面積の範囲もより限定されたものとなった。そのため、上記申立人の主張は、理由がないものとなった。
(6) 小括
したがって、本件特許の請求項2~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するから、取消理由1及び申立理由4には理由がない。
3 申立理由3(実施可能要件違反)について
(1) 実施可能要件違反の判断手法
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断すべきものである。
そして、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいい、方法の発明における実施とは、その方法を使用する行為をいうから(特許法第2条第3項第1号、2号)、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、明細書等にその物を生産し、かつ、その物を使用することができる、及びその方法を使用することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる、及びその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2) 当審の判断
ア 物の発明である本件発明2は、「ポルトランドセメント」、「ブレーン比表面積が、4000cm2/g以上8000cm2/g未満のスラグ」、「ガラス転移温度が5℃以上のセメント混和用ポリマー」、「フライアッシュ」を所定範囲で含むものであり、本件発明3は、さらに「水」と「細骨材」を含むものであるが、これらの成分については、発明の詳細な説明の【0022】~【0031】、【0040】~【0044】に記載されているように、それぞれ当業者において周知の材料から選択して用いればよいものである。そして、本件発明のセメント組成物又はモルタル組成物は、これら特定の成分を当該技術分野における通常の方法により配合、混練すれば製造できるものであることは当業者にとって自明であるから、本件発明2、3は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく生産できるものである。
イ そして、方法の発明である本件発明4は、本件発明3のモルタル組成物をコンクリート構造物の補修箇所に充填又は塗布する、コンクリート構造物の補修方法の発明であり、本件発明2、3の物の発明の使用方法に相当する発明でもあるが、本件発明3のような成分を有するモルタルをコンクリート構造物の補修箇所に充填又は塗布してコンクリートの補修を行うことも、従来から普通に行われている方法にしたがって行えばよいことであり、本件発明2、3の物の発明、又は本件発明4の方法の発明は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく使用できるものである。
ウ また、本件発明2、3、4の用途については、前記2でサポート要件違反に関して検討したとおり、発明の詳細な説明には本件発明の課題とその解決手段についての記載があり、具体的な実施例において、本件発明2、3の要件を満足するモルタル組成物がひび割れ抵抗性、耐食性に優れ、自己治癒性も有するものであったことが示されている。そうすると、発明の詳細な説明には、本件発明2、3、4を過度の試行錯誤を要することなく使用して本件課題を解決できることが理解できるように記載されているともいえる。
エ したがって、本件発明2、3、4は、実施可能要件を満たすといえる。
(3) 申立人の主張について
ア 申立人は、環境温度に関する条件の記載が一切なく、ガラス転移温度以下とはならなかったもののような比較例も存在しない本件特許明細書の発明の詳細な説明は、Tgが5℃以上であることによって、自己治癒性の効果が得られているのかが当業者が理解可能に記載されているということはできない旨主張している。
イ しかしながら、発明の詳細な説明には、Tgが5℃、13℃、23℃であるセメント混和用ポリマーを用い、スラグのブレーン比表面積が本件発明2の範囲内である実施例において、自己治癒性の評価が「○」であったことが具体的に記載されている。そして、前記2のサポート要件違反についての検討で摘示したとおり、発明の詳細な説明の【0010】には、自己治癒性が向上する作用機序に関し、「前記スラグ表面の一部に前記セメント混和用ポリマーのフィルムが付着することにより、該付着箇所にはスラグの未反応面が形成される。コンクリート構造物にひび割れが発生し、かつ、ガラス転移温度以下の環境温度になると、スラグ表面に付着したフィルムが剥離し、スラグの未反応面において水和反応が起こる。これにより、ひび割れ箇所を水和物で埋めて、自己治癒することができる。前記セメント混和用ポリマーのガラス転移温度が5℃以上であると、前記水和反応が起こりやすくなるため、ひび割れ箇所の自己治癒性を向上させることができる。」との説明が記載されている。これらの記載に接した当業者であれば、この作用機序によって実施例で自己治癒性が「○」という評価が得られたと考え、ひび割れを導入したコンクリート構造物がセメント混和用ポリマーのTg以下の環境温度に置かれた結果、自己治癒性が確認されたと理解できる。また、我が国の冬期の気温を考慮すれば、5℃以上という範囲の環境温度となることが、当業者が過度の試行錯誤を要するような特殊な条件であるともいえない。
ウ したがって、申立人の主張は採用できない。
(4) 小括
したがって、本件特許の請求項2~4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合するから、申立理由3には理由がない。
4 申立理由5(明確性違反)について
(1) 明確性要件違反の判断手法
特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるので、以下、この観点に立って検討する。
(2) 当審の判断
ア 本件発明2、3で特定される事項について、前記3の実施可能要件違反についての検討で述べたとおり、いずれの成分も当該技術分野で周知の材料から選択できるものであり、ポリマーセメント比(固形分比)という成分比、ガラス転移温度、ブレーン比表面積という特性値についても技術常識から理解できるものである。また、ポルトランドセメント、スラグ、フライアッシュの配合量に関する、「前記ポルトランドセメント、前記スラグ、前記フライアッシュを含む粉体成分100質量部に対して」という特定については、【0023】に「粉体成分としては、例えば、セメント、スラグ、フライアッシュ、骨材等が挙げられる。」との記載から、当業者は、ここに例示されるような粉体成分の合計量に対する量であることが理解できる。ここで粉体成分の例として「骨材」も挙げられていることから、本件発明2の「セメント組成物」は、骨材を含まない狭義のセメント組成物を意味するものではなく、セメントを含む組成物という程度の意味であることも理解できる。
イ そして、本件発明4で特定される補修方法についても、従来周知のモルタルによるコンクリート構造物の補修方法を特定したものであって、不明確なところはない。
ウ よって、本件特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3) 申立人の主張について
ア 申立人は、設定登録時の請求項1では、ポルトランドセメント、スラグ、フライアッシュの配合量、スラグに対するポリマーの比率、スラグの比表面積のような特定がなされておらず、本件発明において得ようとする効果を奏しない構成も含むものであって、発明特定事項が技術的に十分特定されていないことが明らかであり、明細書及び図面の記載を考慮しても、当業者が請求項の記載から発明を明確に把握できない旨主張している。
イ しかしながら、本件訂正により、本件発明2~4は、これらの成分の配合量の範囲が特定され、さらに、スラグのブレーン比表面積の範囲もより限定されたものとなった。そして、ポリマーセメント比に加えてスラグの粉体成分に対する配合量の範囲が特定されたため、スラグとセメント混和用ポリマーとの比率の範囲も限定された。そのため、上記申立人の主張は、理由がないものとなった。
(4) 小括
したがって、本件特許の請求項2~4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するから、申立理由5には理由がない。
第6 むすび
前記第5で検討したとおり、本件特許の請求項2~4に係る特許は、特許法第29条第1項及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるとも、同法第36条第4項第1号並びに同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1~3及び上記申立理由1~5では、請求項2~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項2~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについては、請求項1は本件訂正により削除され、当該申立てに係る特許が存在しないこととなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700993