特許異議申立
2025-700122
セメント組成物及びその製造方法、並びに、耐久性向上混合材
- 審判番号
- 2025-700122
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-064354
- 登録番号
- 7529426
- 請求日
- 2025年01月28日
- 審決日
- 2025年10月31日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】UBE三菱セメント株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】石坂 泰紀
- 【権利者代理人】須藤 康洋
- 【権利者代理人】佐々木 善紀
- 【異議申立人】三上 恵只
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 田口 裕健
- 審判官 原 賢一
- 分類
- P1651.537-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条6項1号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7529426号発明「セメント組成物及びその製造方法、並びに、耐久性向上混合材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7529426号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕、12、13について訂正することを認める。
特許第7529426号の請求項1~13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7529426号の請求項1~13に係る特許についての出願は、令和2年3月31日を出願日とする出願であり、令和6年7月29日にその特許権の設定登録がされ、同年8月6日に特許掲載公報が発行され、その後、令和7年1月28日に、その請求項1~13に係る特許を対象として特許異議申立人三上恵只(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、同年4月23日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年6月27日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、それに対し、同年8月6日に異議申立人より意見書の提出があったものである。
第2 訂正の適否
1 訂正事項
本件訂正は、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「CaO量が6.0~40.0質量%、SiO2量が35.0~75.0質量%、及びAl2O3量が14.0~25.0質量%であり、
前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、
前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準とする、
前記混合材の含有量が2.0~30.0質量%であり、
前記無機粉末の含有量が1.0~29.0質量%であり、且つ、
前記石灰石の含有量が1.0~10.0質量%である」とあるのを、「CaO量が14.0~18.0質量%、SiO2量が50.0~60.0質量%、及びAl2O3量が18.0~20.0質量%であり、
前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、
前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準とする、
前記混合材の含有量が5.0~15.0質量%であり、
前記無機粉末の含有量が2.5~7.5質量%であり、且つ、
前記石灰石の含有量が2.5~7.5質量%であり、
前記セメントクリンカーと前記石膏との合計量を基準とする、前記石膏の含有量がSO3換算で1.1~1.6質量%である」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2~11も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8に「前記セメントクリンカーと前記石膏との合計量を基準とする、前記石膏の含有量がSO3換算で0.5~3.0質量%である」とあるのを、「前記混合材の含有量が6.5~15.0質量%であり、
前記セメントクリンカーと前記石膏との合計量を基準とする、前記石膏の含有量がSO3換算で1.1~1.6質量%である」に訂正する。
(請求項8を引用する請求項9~11も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項11に「CaO量が6.0~40.0質量%であり、SiO2量が35.0~75.0質量%であり、Al2O3量が14.0~25.0質量%である」とあるのを、「CaO量が14.0~18.0質量%であり、SiO2量が50.0~60.0質量%であり、Al2O3量が18.0~20.0質量%である」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項12に「CaO量が6.0~40.0質量%、SiO2量が35.0~75.0質量%、及びAl2O3量が14.0~25.0質量%であり、
前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、
前記工程において、前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準とする前記混合材の含有量が2.0~30.0質量%となり、前記無機粉末の含有量が1.0~29.0質量%となり、前記石灰石の含有量が1.0~10.0質量%となるように」とあるのを、「CaO量が14.0~18.0質量%、SiO2量が50.0~60.0質量%、及びAl2O3量が18.0~20.0質量%であり、
前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、
前記工程において、前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準とする前記混合材の含有量が5.0~15.0質量%となり、前記無機粉末の含有量が2.5~7.5質量%となり、前記石灰石の含有量が2.5~7.5質量%となり、前記セメントクリンカーと前記石膏との合計量を基準とする、前記石膏の含有量がSO3換算で1.1~1.6質量%となるように」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項13に「CaO量が6.0~40.0質量%、SiO2量が35.0~75.0質量%、及びAl2O3量が14.0~25.0質量%であり、
前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、
セメントクリンカー、石膏及び前記耐久性向上混合材の合計量を100質量%として、前記無機粉末の含有量が1.0~29質量%となり、前記石灰石の含有量が1.0~10.0質量%となるように」とあるのを、「CaO量が14.0~18.0質量%、SiO2量が50.0~60.0質量%、及びAl2O3量が18.0~20.0質量%であり、
前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、
セメントクリンカー、石膏及び前記耐久性向上混合材の合計量を100質量%として、前記無機粉末の含有量が2.5~7.5質量%となり、前記石灰石の含有量が2.5~7.5質量%となり、前記セメントクリンカーと前記石膏との合計量を基準とする、前記石膏の含有量がSO3換算で1.1~1.6質量%となるように」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、4、5について
訂正事項1、4、5は、無機粉末の全量を基準とするCaO量、SiO2量及びAl2O3量に関し、本件明細書の【0044】の「CaO量は、上記無機粉末の全量を基準として・・・特に好ましくは14.0~18.0質量%である。」との記載、【0045】の「SiO2量は、上記無機粉末の全量を基準として・・・更に好ましくは50.0~60.0質量%である。」との記載、及び【0046】の「Al2O3量は、上記無機粉末の全量を基準として・・・特に好ましくは18.0~20.0質量%である。」との記載に基づいて、CaO量の範囲を「6.0~40.0質量%」から「14.0~18.0質量%」に、SiO2量の範囲を「35.0~75.0質量%」から「50.0~60.0質量%」に、Al2O3量の範囲を「14.0~25.0質量%」から「18.0~20.0質量%」にそれぞれ狭めるものである。
また、訂正事項1、4は、セメントクリンカー、石膏及び混合材の合計量を基準とする、混合材の含有量の範囲を、「2.0~30.0質量%」から「5.0~15.0質量%」に狭めるものである。ここで、同【0042】の「上記セメント組成物における上記混合材の合計の含有量は、低炭素化の観点からは多い方が望ましく、一方でセメント硬化体の物性(例えば、圧縮強さ等)向上の観点からは少ない方が望ましい。上記セメント組成物における上記混合材の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量を基準として、2.0~30.0質量%含むが、好ましくは4.0~25.0質量%であり、より好ましくは5.5~20質量%であり、更に好ましくは6.5~15.0質量%であり、特に好ましくは7.5~12.5質量%である。」との記載によれば、混合材の含有量の上限については、「15.0質量%」の記載がある。他方、下限の「5.0質量%」についての記載はないものの、混合材の含有量の下限は、「低炭素化の観点から」「2.0質量%」~「7.5質量%」としていくことがより好ましくなっていくのであるから、この範囲の中で下限を「5.0質量%」としても、本件明細書の記載を総合すれば、新たな技術的事項が導入されるというものではない。
さらに、訂正事項1、4、5は、セメントクリンカー、石膏及び混合材の合計量を基準とする無機粉末の含有量、石灰石の含有量を、セメント(セメントクリンカー、石膏からなる)、無機粉末(石炭ガス化スラグ)、石灰石の全量を100質量%とする、以下の【0086】【表4】に記載される実施例において、
[図:0001432067000001.jpg]
無機粉末の含有量の最小値が2.5質量%(実施例1、4)、最大値が7.5質量%(実施例3、6)、石灰石の含有量の最小値が2.5質量%(実施例3、6)、最大値が7.5質量%(実施例1、4)であることに基づいて、それぞれ、「1.0~29.0質量%」から「2.5~7.5質量%」に、「1.0~10.0質量%」から「2.5~7.5質量%」に狭めるものである。
また、訂正事項1、4、5は、セメントクリンカーと石膏との合計量を基準とする、SO3換算での石膏の含有量が、同【0040】の「石膏は、例えば、二水石膏、半水石膏、及び無水石膏を使用することができる。・・・セメント組成物における石膏の含有量は、上記セメントクリンカー及び上記石膏の合計の含有量を100質量%として、SO3換算で・・・特に好ましくは1.1~1.6質量%である。」との記載に基づいて、「1.1~1.6質量%」であることをさらに限定するものである。
以上によれば、訂正事項1、4、5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件明細書の【0042】の「上記セメント組成物における上記混合材の合計の含有量は、低炭素化の観点からは多い方が望ましく、一方でセメント硬化体の物性(例えば、圧縮強さ等)向上の観点からは少ない方が望ましい。上記セメント組成物における上記混合材の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量を基準として・・・更に好ましくは6.5~15.0質量%であり、特に好ましくは7.5~12.5質量%である。」との記載に基づいて、(訂正前の)請求項8が、(訂正前の)請求項1を直接又は間接的に引用していたことにより特定されていたことになる、混合材の含有量の範囲である「2.0~30.0質量%」を、「6.5~15.0質量%」に狭めるものである。
また、訂正事項2は、セメントクリンカーと石膏との合計量を基準とする、SO3換算での石膏の含有量を、同【0040】の「石膏は、例えば、二水石膏、半水石膏、及び無水石膏を使用することができる。・・・セメント組成物における石膏の含有量は、上記セメントクリンカー及び上記石膏の合計の含有量を100質量%として、SO3換算で・・・特に好ましくは1.1~1.6質量%である。」との記載に基づいて、「0.5~3.0質量%」から「1.1~1.6質量%」に狭めるものである。
以上によれば、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、無機粉末の全量を基準として、前記無機粉末の非晶質相中におけるCaO量、SiO2量及びAl2O3量について、本件明細書の【0044】の「CaO量は、上記無機粉末の全量を基準として・・・特に好ましくは14.0~18.0質量%である。」との記載、【0045】の「SiO2量は、上記無機粉末の全量を基準として・・・更に好ましくは50.0~60.0質量%である。」との記載、及び【0046】の「Al2O3量は、上記無機粉末の全量を基準として・・・特に好ましくは18.0~20.0質量%である。」との記載、そして、【0049】の「上述の化学組成は、非晶質中の組成であることが望ましい」との記載に基づいて、非晶質中の、CaO量の範囲を「6.0~40.0質量%」から「14.0~18.0質量%」に、SiO2量の範囲を「35.0~75.0質量%」から「50.0~60.0質量%」に、Al2O3量の範囲を「14.0~25.0質量%」から「18.0~20.0質量%」にそれぞれ狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~11〕、12、13について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~11〕、12、13について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1~13に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。なお、「本件発明」については、本件訂正前のものに対しても区別せずに用いることがある。)は、次のとおり特定されるものである。
「【請求項1】
セメントクリンカーと、
石膏と、
混合材と、を含有し、
前記混合材が、非晶質相を含む無機粉末、及び石灰石を含み、
前記無機粉末は、CaO、SiO2及びAl2O3を含む化学組成を有し、前記無機粉末の全量を基準として、CaO量が14.0~18.0質量%、SiO2量が50.0~60.0質量%、及びAl2O3量が18.0~20.0質量%であり、
前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、
前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準とする、
前記混合材の含有量が5.0~15.0質量%であり、
前記無機粉末の含有量が2.5~7.5質量%であり、且つ、
前記石灰石の含有量が2.5~7.5質量%であり、
前記セメントクリンカーと前記石膏との合計量を基準とする、前記石膏の含有量がSO3換算で1.1~1.6質量%である、セメント組成物。
【請求項2】
前記混合材100質量%を基準とする前記無機粉末の含有量が5.0~95.0質量%である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記無機粉末における前記化学組成がMgOを更に含み、
前記無機粉末の全量を基準とする前記MgO量が5.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記無機粉末における前記化学組成がSO3を更に含み、
前記無機粉末の全量を基準とする前記SO3量が1.0質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
前記無機粉末のブレーン比表面積が2000~10000cm2/gである、請求項1~4のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項6】
前記無機粉末が石炭ガス化スラグの粉砕物を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項7】
前記セメントクリンカーは、Bogue式によって算出されるC3S量が35.0~75.0質量%であり、C3A量が8.0~14.0質量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項8】
前記混合材の含有量が6.5~15.0質量%であり、
前記セメントクリンカーと前記石膏との合計量を基準とする、前記石膏の含有量がSO3換算で1.1~1.6質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項9】
前記セメントクリンカーがSO3及びR2Oを含み、
前記セメントクリンカー100質量%における、SO3量が0.10~2.00質量%であり、且つ
R2O量は全アルカリ量を示し、R2O[%]=Na2O[%]+0.658×K2O[%]で算出される前記全アルカリ量が0.10~2.00質量%である、請求項1~8のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項10】
硬化促進剤を更に含有し、
前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量100質量部に対する前記硬化促進剤の含有量が0.1~20.0質量部である、請求項1~9のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項11】
前記無機粉末の全量を基準として、前記無機粉末の前記非晶質相中におけるCaO量が14.0~18.0質量%であり、SiO2量が50.0~60.0質量%であり、Al2O3量が18.0~20.0質量%である、請求項1~10のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項12】
セメントクリンカーと、石膏と、混合材と、を混合する工程を備え、
前記混合材が、非晶質相を含む無機粉末、及び石灰石を含み、
前記無機粉末は、CaO、SiO2及びAl2O3を含む化学組成を有し、前記無機粉末の全量を基準として、CaO量が14.0~18.0質量%、SiO2量が50.0~60.0質量%、及びAl2O3量が18.0~20.0質量%であり、
前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、
前記工程において、前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準とする前記混合材の含有量が5.0~15.0質量%となり、前記無機粉末の含有量が2.5~7.5質量%となり、前記石灰石の含有量が2.5~7.5質量%となり、前記セメントクリンカーと前記石膏との合計量を基準とする、前記石膏の含有量がSO3換算で1.1~1.6質量%となるように、前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材を混合する、セメント組成物の製造方法。
【請求項13】
非晶質相を含む無機粉末と石灰石とを含む、耐久性向上混合材であって、
前記無機粉末は、CaO、SiO2及びAl2O3を含む化学組成を有し、前記無機粉末の全量を基準として、CaO量が14.0~18.0質量%、SiO2量が50.0~60.0質量%、及びAl2O3量が18.0~20.0質量%であり、
前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、
セメントクリンカー、石膏及び前記耐久性向上混合材の合計量を100質量%として、前記無機粉末の含有量が2.5~7.5質量%となり、前記石灰石の含有量が2.5~7.5質量%となり、前記セメントクリンカーと前記石膏との合計量を基準とする、前記石膏の含有量がSO3換算で1.1~1.6質量%となるように、セメントクリンカー及び石膏とともに配合して用いる、耐久性向上混合材。」
第4 令和7年4月23日付けで通知した取消理由、及び異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 令和7年4月23日付けで通知した取消理由の概要
・特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1~13に係る特許は、その請求項1~13の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由」とする。)。
2 異議申立人による特許異議の申立理由の概要
(1)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~13に係る発明は、下記3に記載の甲第1号証に記載された発明及び甲第1~6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由1」という。)。
(2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1~5に係る特許は、請求項1~5の記載が下記(3)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由2」という。)。
(3)申立理由2の内容
ア 本件発明1~5は、無機材料一般を対象としてしている。しかし、(実施例には)混合材における無機材料として、ごく一部の石炭ガス化スラグに限定した開示があるのみである。すると、一般的な化学組成や非晶質量(ガラス化率)を提示するだけで、請求範囲に特定される、すべての無機材料一般について、これらを混合材として実施し、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるか、本件明細書の全記載や技術常識を考慮しても認識できない。
イ 本件発明1~5は、すべての無機材料一般について、無機粉末の全量を基準として、CaO量が6.0~40.0質量%、SiO2量が35.0~75.0質量%、及びAl2O3量が14.0~25.0質量%であり、前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であることで成立する。しかし、実施例には、実験結果として化学組成として、CaO量が16.0質量%、SiO2量が53.2質量%、及びAl2O3量が19.2質量%の無機材料の結果が示されているのみであり、物の有する機能・特性等と、その物の構造との関係を理解することが困難な化学物質の技術分野において、出願時のこの化学物質の技術分野における技術常識に照らしても、実施例と同様のガラス化率を有し、比較例として例示される市販の高炉スラグの化学組成をも含むような請求項のCaO量の上限が40.0質量%、SiO2量の下限が35.0質量%、及びAl2O3量の下限が14.0質量%の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
3 提出された証拠
甲第1号証:閑山徹志 他「高炉スラグセメントコンクリートの収縮特性に水和生成物が及ぼす影響に関する実験検討」コンクリート工学年次論文集、Vol.40、No.1、2018、189~194頁
甲第2号証:深谷泰文 他「セメント・コンクリート材料科学」、技術書院、平成15年10月10日、103~107頁
甲第3号証:亀島範昭 他「15.高炉スラグの各種物性値と高炉セメントの強度との関係について」、セ技年報、36、昭57、85~88頁
甲第4号証:平戸瑞穂 他「石炭高温ガス化炉から排出される石灰石添加スラグのセメント混和材利用に関する基礎研究」、日本エネルギー学会誌、第71巻第3号(1992)、181~187頁
甲第5号証:国際公開第2014/077251号
甲第6号証:伊藤駿之介 他「各種クリンカーを細骨材として用いたコンクリートの自己治癒性能評価に関する研究」コンクリート工学年次論文集、Vol.41、No.1、2019、1415~1420頁
(以下、甲第1号証を略して、「甲1」などという。)
第5 当審の判断
当審は、上記取消理由及び申立理由1、2のいずれの理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。
以下、その理由について詳述する。
1 サポート要件違反に関する取消理由、申立理由2について
(1)取消理由について
上記第2に記載した本件訂正により、本件発明が訂正されたので、訂正された本件発明について改めてサポート要件の判断を行う。
ア サポート要件判断の規範と本件発明の課題
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。
本件明細書の【0002】~【0005】には、「地球温暖化防止及び低炭素化の観点から、製造時のCO2排出量の多いセメントクリンカーに代えて、セメント組成物における混合材の含有量を増加させることが望まれ」ると共に、「混合材の利用拡大を図る上では、利用できる無機粉末の選択肢を拡大することも望まれ」ているという状況のもと(【0002】)、「これまで混合材としての利用が少ない無機粉末として、例えば、石炭ガス化スラグの粉砕物が挙げられる」が、「燃焼後の石炭中の灰分が溶融して固化したCaO量の多い、非晶質の無機粉末である」石炭ガス化スラグ粉は、「高温環境下での強さ発現などは分かっていない」(【0003】)という従来技術の問題点が記載され、また、「初期の高温養生及びセメント組成物の発熱によって、コンクリート内部の温度が著しく上昇することで、本来初期に生成するべきエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2Oで表される化合物)の分解が発生」し、「その後、コンクリートの供用中に水分が供給されることによって、エトリンガイトが再生成する現象が生じ」、「硬化体組織に膨張が生じ、コンクリートにひび割れ等の深刻な劣化を引き起こ」すという、「高温環境下でのコンクリート構造物や蒸気養生の二次製品等での遅延エトリンガイト形成(DEF)及びDEFに伴うセメント硬化体の劣化が問題視され」ているところ(【0004】)、石炭ガス化スラグ粉のように非晶質を多く含む無機粉末がDEFに及ぼす影響を記載した文献は見当たらない」(【0005】)という従来の技術の問題点が記載されている。
そして、本件発明の課題は、上述の問題点を受け、【発明が解決しようとする課題】の後に記載される「混合材の含有量が多い場合であっても、DEFに伴う膨張を抑制し、且つ高温環境下における十分な圧縮強度発現性を有するセメント組成物及びその製造方法を提供すること」(【0008】)であるといえる。
イ 本件発明の課題に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載、及び、これらの記載により当業者が上記アの課題を解決できると認識できる範囲について
(ア)本件明細書の実施例は、以下のとおり記載されている。
以下の【表1】にあるような[ベースセメント(セメントクリンカー及び石膏の混合物)を調製し、
【0076】【表1】
[図:0001432067000002.jpg]
無機粉末及び石灰石として、以下の【表2】及び【表3】に示される、石炭ガス化スラグであるIG1、IG2、石灰石であるCC、高炉スラグ微粉末であるBSを用い、
【0081】【表2】
[図:0001432067000003.jpg]
【0083】【表3】
[図:0001432067000004.jpg]
実施例1~6、比較例1~6、及び参考例1として、セメント、無機粉末(石炭ガス化スラグ)、石灰石、及び高炉スラグ微粉末を、以下の【表4】に示す配合割合(質量%)で、混合及び粉砕することによって、セメント組成物を調製したことが記載されている。
【0086】【表4】
[図:0001432067000005.jpg]
そして、実施例及び比較例で調製した各セメント組成物を用いて、DEF試験及び圧縮強さの測定を行ったことが記載され、[DEF試験]では、実施例及び比較例で調製した各セメント組成物に対して、細骨材としてのセメント協会(一社)のセメント強さ試験用標準砂、及び水を配合し、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載の方法に準拠してモルタル組成物を調製し、次に所定の手順で、モルタル硬化体を得、調製されたモルタル硬化体について、20℃の恒温室にて水中養生を行い、脱型時を基長として、水中養生材齢7日目、14日目、28日目、その後は28日間経過毎にモルタル硬化体を水中から取り出して、長さ変化量を測定し、3本のモルタル硬化体の表裏の6か所にて、長さ変化量を測定し、その平均値を、対象とするモルタル硬化体の長さ変化量とし、得られた長さ変化量をストレインゲージの間隔(100mm)で除した値を、モルタル硬化体の膨張率とし、水中養生材齢112日目のモルタル硬化体について以下の基準でDEF及びDEFにともなうモルタル硬化体の膨張抑制の程度を評価し、結果を表6及び表7に示したことが記載されている。
A:モルタル硬化体の膨張率が0.05%以下である。
B:モルタル硬化体の膨張率が0.05%超0.10%以下である。
C:モルタル硬化体の膨張率が0.10%超0.25%以下である。
D:モルタル硬化体の膨張率が0.25%超である。
また、圧縮強さの測定では、表3及び表4の配合で調製したモルタル組成物を35℃の恒温室にてモルタルとして練り混ぜて型詰めを行い、所定の手順でモルタル硬化体を得、得られたモルタル硬化体について、材齢28日まで35℃の恒温室で水中養生を行った後に、圧縮強さを測定し、下記の基準で評価し、結果を表6及び表7に示したことが記載されている。
A:圧縮強さが55MPa以上である。
B:圧縮強さが53MPa以上55MPa未満である。
C:圧縮強さが52MPa以上53MPa未満である。
D:圧縮強さが50MPa以上52MPa未満である。
E:圧縮強さが50MPa未満である。
【0094】【表6】
[図:0001432067000006.jpg]
【0096】【表7】
[図:0001432067000007.jpg]
ここで、【0095】には、表6の結果について、比較例1~3の組成物及び実施例1~3のモルタル組成物の結果から、混和材が石灰石のみであるとDEFに伴う膨張を抑制できず(比較例2)、混和材が無機粉末のみであると圧縮強さが低下する(比較例3)ことが確認され、混和材として、無機粉末と石灰石との併用が必要であることが確認され、比較例1及び実施例2の結果から、特定の化学成分を有する無機粉末を混合材として含むことによって、DEFに伴う膨張の抑制効果と、圧縮強さとを実用上十分に両立できることが確認できることが記載され、【0098】には、表7の結果について、比較例4は石灰石を5質量%添加し、JIS R 5201に規定される普通ポルトランドセメントを模擬した試料であるがDEFに伴う膨張率が大きく、さらに石灰石を10質量%まで増加させた場合、又は石灰石5質量%に高炉スラグ微粉末を添加した場合にはDEFに伴う膨張率の増加がみられるのに対して、実施例の試料はいずれもDEF抑制効果が高く、十分な圧縮強さを有することが確認されたことが記載されている。
(イ)本件発明は、上記アにあるように、「混合材の含有量が多い場合であっても、DEFに伴う膨張を抑制し、且つ高温環境下における十分な圧縮強度発現性を有するセメント組成物及びその製造方法を提供する」という課題を解決しようとするものであるところ、上記イでの本件明細書の記載によれば、まず、実施例では、【0076】【表1】に記載される、セメントクリンカー及び石膏の合計の含有量を100質量%として、SO3換算で1.6質量%又は1.4質量%の石膏を含むベースセメント、【0081】【表2】、【0083】【表3】に記載される、CaO量が16.0質量%、SiO2量が53.2質量%、及びAl2O3量が19.2質量%であり、非晶質量が100質量%である無機粉末を用い、【0086】【表4】に記載されるように、セメント(ベースセメント)と混合材(無機粉末、石灰石)の質量比を、90:10に固定したものにおいて、無機粉末と石灰石の比率が2.5~7.5:7.5~2.5である場合には、上記【0094】【表6】及び【0096】【表7】に示されるように、DEFに伴う膨張の抑制効果と、圧縮強さとを十分に両立できること(例えば、【0095】)、すなわち、上記アの発明の課題を解決できることが示されている。
(ウ)まず、混合材の含有量については、【0002】の「地球温暖化防止及び低炭素化の観点から、製造時のCO2排出量の多いセメントクリンカーに代えて、セメント組成物における混合材の含有量を増加させることが望まれる。混合材としては、セメント組成物とともに利用した場合に反応性に優れる無機粉末が利用されてきた。これらの無機粉末は非晶質を多く含み、例えば、高炉スラグやフライアッシュ等が利用されている。しかし、さらなる混合材の利用拡大を図る上では、利用できる無機粉末の選択肢を拡大することも望まれる。」との記載によれば、その存在が前提となるものであり、【0041】には、「混合材は、少なくとも非晶質相を含む無機粉末及び石灰石を含」み、「上記無機粉末を含むことで、DEFに伴うセメント硬化体の膨張の抑制及び長期の高温養生後の圧縮強さの向上に寄与する」こと、「石灰石を含有することによってセメント製造時のCO2排出量の低減や高温養生後のセメント硬化体の圧縮強さ向上に寄与する」こと、【0042】には、「上記セメント組成物における上記混合材の合計の含有量は、低炭素化の観点からは多い方が望ましく、一方でセメント硬化体の物性(例えば、圧縮強さ等)向上の観点からは少ない方が望まし」く、「上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量を基準として、2.0~30.0質量%含むが、好ましくは4.0~25.0質量%であり、より好ましくは5.5~20質量%であり、更に好ましくは6.5~15.0質量%であり、特に好ましくは7.5~12.5質量%であ」り、「混合材の含有量が上述の範囲内であることによって、セメント製造時のCO2削減効果と、セメント硬化体の圧縮強さを十分に両立することができる」ことが記載されている。
これらの記載によれば、混合材の含有量については、セメント製造時のCO2削減効果と、セメント硬化体の圧縮強さの両立等から定められるものであり、これらの観点は、特に所定の値のみでしか両立が図られないというものではなく、所定の範囲であれば両立が図られるものと理解できるから、上記実施例で上記アでの課題が解決されることが確認された、「前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準とする、前記混合材の含有量が10質量%(セメント(ベースセメント)と混合材(無機粉末、石灰石)の質量比が、90:10)であ」る場合を中心とし、少なくとも、「5.0~15.0質量%」程度の範囲であれば、セメント製造時のCO2削減効果と、セメント硬化体の圧縮強さの両立が図られることが理解できる。
(エ)無機粉末の含有量については、【0055】に「上記無機粉末の含有量の下限値は、混合材100質量%を基準として、好ましくは5.0質量%以上であり、より好ましくは12.5質量%以上であり、更に好ましくは35.0質量%以上であり、特に好ましくは60.0質量%以上である。上記無機粉末の含有量の上限値は、混合材100質量%を基準として、好ましくは95.0質量%以下であり、より好ましくは92.5質量%以下であり、更に好ましくは90.0質量%以下であり、特に好ましくは87.5質量%以下である。上記無機粉末の含有量は上述の範囲内で適宜調整することができ、混合材100質量%を基準として、例えば、5.0~95.0質量%であってよい。上記無機粉末の含有量が上述の範囲内であり、上記無機粉末を多く含むことでDEFの抑制効果が向上できる。石灰石を適量含むことで、高温養生後の強さ向上に寄与する。」、【0056】に「上記無機粉末の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量を基準として、1.0~29.0質量%であるが、好ましくは3.0~20.0質量%であり、より好ましくは5.5~15.0質量%であり、更に好ましくは5.0~9.0質量%である。」と記載され、無機粉末の非晶質量については、【0015】に「上記無機粉末100質量%中の上記非晶質相量が80.0~100.0質量%であってよい。無機粉末における非晶質相量が上記範囲内であることによって、反応性を高め、優れた強度発現性を得ることができる。」と記載され、石灰石の含有量については、【0059】に「石灰石の含有量は、DEF抑制の観点からは少ない方が望ましく、一方で、セメント組成物の製造におけるCO2発生量低減を含む低炭素化の観点からは多い方が望ましい。石灰石の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量を基準として、1.0~10.0質量%であるが、好ましくは2.0~9.0質量%であり、より好ましくは2.4~12.5質量%であり、更に好ましくは.5~10.0質量%である。石灰石の含有量が上述の範囲内であることで、セメント組成物の水和に伴う発熱を低減しエトリンガイトの分解をより抑制でき、セメント硬化体の強度もより増進することができる。石灰石の含有量が上述の範囲内であることで、セメント硬化体の初期及び長期の強度発現性をより向上させることができる。」と記載されている。
これらの記載によれば、無機粉末及び石灰石の含有量については、上述の混合材の含有量の範囲の中で、無機粉末を多く含むことでDEFの抑制効果が向上でき、石灰石を適量含むことで、高温養生後の強さ向上が図られるところ、石灰石の含有量は、DEF抑制の観点からは少ない方が望ましいといった点から、それぞれの範囲が決められるものであり、無機粉末の非晶質相量は、反応性の点からその範囲が決められるものである。
ここで、上記実施例では、非晶質相量が100質量%である無機粉末を用い、セメント(ベースセメント)と混合材(無機粉末、石灰石)の質量比を、90:10に固定したものにおいて、無機粉末と石灰石の比率が2.5~7.5:7.5~2.5である場合には、上記実施例で上記アの課題が解決されることが確認されている。そして、上述の無機粉末及び石灰石の含有量、無機粉末の非晶質量の規定理由からすれば、含有量の範囲に対し臨界的にDEF抑制や高温養生後の強さ向上、反応性の効果が変化するものとはいえないから、上記実施例で上記アの発明の課題が解決されることが確認された、「非晶質相量が100質量%である無機粉末を用い、セメント(ベースセメント)と混合材(無機粉末、石灰石)の質量比を、90:10に固定したものにおいて、無機粉末と石灰石の比率が2.5~7.5:7.5~2.5である場合」を含め、無機粉末100質量%中の非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、無機粉末の含有量について、セメントクリンカー、石膏及び混合材の合計量を基準として、2.5~7.5質量%程度、石灰石の含有量について、セメントクリンカー、石膏及び混合材の合計量を基準として、2.5~7.5質量%程度の範囲であれば、DEF抑制や高温養生後の強さ向上の効果が得られることが理解できる。
(オ)「無機粉末」は、【0043】に、「CaO、SiO2及びAl2O3を含む化学組成を有する」こと、「上記無機粉末の化学組成は、上記無機粉末の全量を基準として、CaO量が6.0~40.0質量%、SiO量が35.0~75.0質量%、及びAl2O3量が14.0~25.0質量%であ」り、「上記の組成であることで、優れたDEF抑制効果と、十分な高温養生時の圧縮強さが得られる」こと、【0044】には、「CaO量は、上記無機粉末の全量を基準として、好ましくは7.0~35質量%であり、より好ましくは8.0~30.0質量%であり、更に好ましくは10.0~25.0質量%であり、更により好ましくは12.0~20.0質量%であり、特に好ましくは14.0~18.0質量%である」こと、【0045】には「SiO2量は、上記無機粉末の全量を基準として、好ましくは40.0~70.0質量%であり、より好ましくは45.0~65.0質量%であり、更に好ましくは50.0~60.0質量%である」こと、【0046】には、「Al2O3量は、上記無機粉末の全量を基準として、好ましくは15.0~24.0質量%であり、より好ましくは16.0~22.0質量%であり、更に好ましくは17.0~21.0質量%であり、特に好ましくは18.0~20.0質量%である」ことが記載され、石膏の含有量については、【0040】に、「セメント組成物における石膏の含有量は、上記セメントクリンカー及び上記石膏の合計の含有量を100質量%として、SO3換算で、好ましくは0.5~3.0質量%であり、より好ましくは0.7~2.5質量%であり、更に好ましくは0.9~2.0質量%であり、特に好ましくは1.1~1.6質量%である。石膏の含有量が上述の範囲内であることによって、DEFの発生を抑制しつつ、可使時間を十分に確保することができる。石膏の含有量が上述の範囲内であることによって、セメント硬化体の圧縮強さを向上できる。」ことが記載されている。
ここで、上記アの発明の課題における、特に「DEFに伴う膨張を抑制」する点について、令和7年6月27日に提出された意見書における、技術常識に基づくとされる、セメントクリンカーや石膏といった水硬性成分の一部を、非晶質相を含む無機粉末と石灰石とを含む混合材によって置き換えることによって水硬性成分を希釈し硬化初期の発熱量を調整し、エトリンガイトの熱分解の発生を低減するとともに、DEFに伴うセメント硬化体の膨張の抑制及び圧縮強さ向上を図る旨の記載(6頁5~9行)、「エトリンガイトの再生成反応は、エトリンガイトの熱分解によって生成するモノサルフェート(AFm-SO4)に対して、セメントの反応生成物の一つである水酸化カルシウム等に由来するカルシウムイオンと、石膏等に由来する硫酸イオンとが水分とともに供給され、反応することで起こるとされており、反応式で示すと、
6Ca2++4OH-+2[Al(OH)4]-+3SO42-+26H2O→3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O
と表記され、エトリンガイトの再生成を抑制する観点からは、「カルシウム源」、及び「SO42-源」のいずれかを弱めることでDEFが抑制されることが分かり、無機粉末中のCaOは少ない方がカルシウムの供給が少なくなり、DEFを抑制する傾向にある。また、無機粉末の非品質中のSiO2は ポゾラン反応に準ずる反応を起こし、水酸化カルシウムと反応してこれを消費することからエトリンガイトの再生成を抑制することができ、さらに、エトリンガイトの再生成反応では、モノサルフェートにおけるSO3/Al2O3が1であるのに対してエトリンガイトではSO3/Al2O3が3と大きくなる反応であるので、無機粉末に由来するAl2O3の供給が多いとモノサルフェートが生成しやすくなる方向にはたらき、エトリンガイトの再生成が抑制される傾向にあることが分かる。一方で、CaOが多いほど、無機粉末の反応性が向上し、組織を緻密化する結果、高温での圧縮強さを増進するので、無機粉末に一定量以上のCaOが必要となり、また、SiO2、Al2O3は溶解しにくいため、その量が多すぎると組織の形成がされにくく、高温での圧縮強さを増進しにくくなるため、無機粉末のSiO2、Al2O3を一定量以下とする必要がある」旨の記載(7頁12行~8頁7行)によれば、エトリンガイトの再生成を抑制する観点から、石膏等の「SO42-源」を弱めること、DEFを抑制するため、高温での圧縮強さの増進が損なわれない程度に無機粉末中のCaOの含有量を減らすこと、高温での圧縮強さの増進が損なわれないように、SiO2、Al2O3が溶解できずに組織を形成できないことがない範囲でSiO2、Al2O3の含有量を増やすことで、エトリンガイトの再生成の防止と高温での圧縮強さの増進の両立を図ること、すなわち、上記アの発明の課題を解決することができることが理解できる。この作用機序によれば、石膏の含有量、無機粉末中のCaO量、SiO2量及びAl2O3量によって臨界的にエトリンガイトの再生成の防止と高温での圧縮強さの増進の両立が図られるというものではないから、上記実施例で上記アの発明の課題が解決されることが確認された、「セメントクリンカー及び石膏の合計の含有量を100質量%として、SO3換算で1.6質量%又は1.4質量%の石膏を含むベースセメント、CaO量が16.0質量%、SiO2量が53.2質量%、及びAl2O3量が19.2質量%であ」る「無機粉末」を用いる場合を含め、「前記無機粉末の全量を基準として、CaO量が14.0~18.0質量%、SiO2量が50.0~60.0質量%、及びAl2O3量が18.0~20.0質量%であり」、「前記セメントクリンカーと前記石膏との合計量を基準とする、前記石膏の含有量がSO3換算で1.1~1.6質量%である」程度までは、少なくとも上記アの発明の課題を解決することができることが理解できる。
(カ)以上をまとめると、上記アの発明の課題が解決されることが確認された実施例での、セメントクリンカー及び石膏の合計の含有量を100質量%として、SO3換算で1.6質量%又は1.4質量%の石膏を含むベースセメント、CaO量が16.0質量%、SiO2量が53.2質量%、及びAl2O3量が19.2質量%であり、非晶質量が100質量%である無機粉末を用い、セメント(ベースセメント)と混合材(無機粉末、石灰石)の質量比を、90:10に固定したものにおいて、無機粉末と石灰石の比率が2.5~7.5:7.5~2.5であるセメント組成物を基礎として、少なくとも「前記混合材が、非晶質相を含む無機粉末、及び石灰石を含み、
前記無機粉末は、CaO、SiO2及びAl2O3を含む化学組成を有し、前記無機粉末の全量を基準として、CaO量が14.0~18.0質量%、SiO2量が50.0~60.0質量%、及びAl2O3量が18.0~20.0質量%であり、
前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、
前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準とする、
前記混合材の含有量が5.0~15.0質量%であり、
前記無機粉末の含有量が2.5~7.5質量%であり、且つ、
前記石灰石の含有量が2.5~7.5質量%であり、
前記セメントクリンカーと前記石膏との合計量を基準とする、前記石膏の含有量がSO3換算で1.1~1.6質量%である、セメント組成物」の範囲では、実施例と同様に、DEFに伴う膨張の抑制効果と、圧縮強さとを十分に両立できる、すなわち、上記アの発明の課題を解決できることが理解できる。
ウ 特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が上記アの課題を解決できると認識できる範囲との対比
上記イで述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと、上記アの発明の課題を解決することができる範囲は、少なくとも、「前記混合材が、非晶質相を含む無機粉末、及び石灰石を含み、
前記無機粉末は、CaO、SiO2及びAl2O3を含む化学組成を有し、前記無機粉末の全量を基準として、CaO量が14.0~18.0質量%、SiO2量が50.0~60.0質量%、及びAl2O3量が18.0~20.0質量%であり、
前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり、
前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準とする、
前記混合材の含有量が5.0~15.0質量%であり、
前記無機粉末の含有量が2.5~7.5質量%であり、且つ、
前記石灰石の含有量が2.5~7.5質量%であり、
前記セメントクリンカーと前記石膏との合計量を基準とする、前記石膏の含有量がSO3換算で1.1~1.6質量%である、セメント組成物」であることが理解できるところ、本件発明の範囲は、この範囲に一致している。
なお、本件発明12は、「セメント組成物の製造方法」に係る発明であり、表現形式は異なるものの上述の内容が特定されている。本件発明13には、上述の「前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準とする、前記混合材の含有量が5.0~15.0質量%であり」に対応する特定がないが、本件発明13は、本件発明1の「混合材」に対応する「耐久性向上混合材」に係る発明であり、「耐久性向上混合材」として見た場合、上記アの発明の課題を解決するのに必要な混合材に対する事項は、全て特定されている。
以上によれば、本件発明は、上記アの発明の課題を解決することができると認識できる本件明細書の発明の詳細な記載の範囲のものであるから、上記アのサポート要件判断の規範に照らせば、本件発明(本件発明1~13)は、サポート要件を満たしているといえる。
(2)申立理由2について
第4の2(2)申立理由2のアの点について、この理由では、無機材料について、「化学組成や非晶質量」を示しているだけであるとしているが、上記(1)イ(エ)及び(オ)で述べたように、無機粉末が果たす役割を考えると、上記(1)アの発明の課題を解決するには、スラグ、フライアッシュといった無機粉末の種類ではなく、化学組成や非晶質量が重要であって、無機粉末が、CaO、SiO2及びAl2O3を含む化学組成を有し、前記無機粉末の全量を基準として、CaO量が14.0~18.0質量%、SiO2量が50.0~60.0質量%、及びAl2O3量が18.0~20.0質量%であり、前記無機粉末100質量%中の非晶質相量が80.0~100.0質量%であれば良く、特に石炭ガス化スラグでなければならないということはない。
また、同申立理由2のイの点について、化学組成が、CaO量が16.0質量%、SiO2量が53.2質量%、及びAl2O3量が19.2質量%である実施例の無機材料での結果から、無機材料の種類の特定がなくても、少なくとも無機粉末の全量を基準として、CaO量が14.0~18.0質量%、SiO2量が50.0~60.0質量%、及びAl2O3量が18.0~20.0質量%の範囲で、発明の課題を解決できることが理解できることは、上記(1)イ(オ)で述べたとおりである。
さらに、本件明細書に記載される比較例として例示される市販の高炉スラグの化学組成が、CaO量が6.0~40.0質量%、SiO2量が35.0~75.0質量%、及びAl2O3量が14.0~25.0質量%の範囲に含まれるとしているが、本件明細書に記載される比較例として例示される市販の高炉スラグの化学組成は、CaO量が40.4質量%、SiO2量が33.5質量%、及びAl2O3量が13.4質量%であり(【0081】【表2】)、本件発明の無機粉末の化学組成の範囲には含まれていない。
以上によれば、申立理由2には、理由がない。
(3)令和7年8月6日に提出の意見書における異議申立人の主張について
異議申立人は、以下の点を主張し、本件発明は、サポート要件を満たすものではないことを主張している。
ア 異議申立人の主張
(ア)特許権者が令和7年6月27日に提出した意見書(以下、単に「特許権者の意見書」という。)には、混合材の含有量について、セメントクリンカーや石膏といった水硬性成分の一部を、非晶質相を含む無機粉末と石灰石とを含む混合材によって置き換えることによって水硬性成分を希釈し硬化初期の発熱量を調整し、エトリンガイトの熱分解の発生を低減するとともに、DEFに伴うセメント硬化体の膨張の抑制及び圧縮強さ向上を図るものであることが理解できる、と記載されているが、セメントクリンカーや石膏といった水硬性成分の一部を、非晶質相を含む無機粉末と石灰石とを含む混合材によって置き換える量の程度その多寡についての影響の具体的言及は認められず、結局、実施例を根拠に置き換え数量の最適量を推測するしかない。また、カルシウムアルミノシリケートガラス(CaO-Al2O3-SiO2系ガラス)の中には、セメント水和の環境下である、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)溶液に対して不溶性を示すものが存在する(3(1))。
(イ)特許権者の意見書で、「エトリンガイトの再生成を抑制する観点からは、「カルシウム源」、及び「SO42-源」のいずれかを弱めることでDEFが抑制されることが分かり、無機粉末中のCaOは少ない方がカルシウムの供給が少なくなり、DEFを抑制する傾向にある。また、無機粉末の非品質中のSiO2は ポゾラン反応に準ずる反応を起こし、水酸化カルシウムと反応してこれを消費することからエトリンガイトの再生成を抑制することができ、さらに、エトリンガイトの再生成反応では、モノサルフェートにおけるSO3/Al2O3が1であるのに対してエトリンガイトではSO3/Al2O3が3と大きくなる反応であるので、無機粉末に由来するAl2O3の供給が多いとモノサルフェートが生成しやすくなる方向にはたらき、エトリンガイトの再生成が抑制される傾向にあることが分かる。一方で、CaOが多いほど、無機粉末の反応性が向上し、組織を緻密化する結果、高温での圧縮強さを増進するので、無機粉末に一定量以上のCaOが必要となり、また、SiO2、Al2O3は溶解しにくいため、その量が多すぎると組織の形成がされにくく、高温での圧縮強さを増進しにくくなるため、無機粉末のSiO2、Al2O3を一定量以下とする必要がある」旨記載されていることに対し、無機材料からの各イオンの供給量やその多寡の数値根拠の記載はなく、課題解決との具体的な関係については、傾向のみ伺うことができるにとどまり、例えば、同じ無機材料でも、BET比表面積が異なれば、溶解速度、イオン供給量、反応性が異なり、効果が得られないこととなる。本件発明のCaO、Al2O3及びSiO2の含有量の数値自体は本件明細書に記載があるものの、効果の根拠記載は「特に好ましい」との記載以外認められず、結局、実施例を根拠に化学組成範囲の最適値を推測するしかない(3(2))。
(ウ)実施例には、混合材における無機材料として、ごく一部の石炭ガス化スラグの開示があるのみであり、本件発明の無機材料が、課題を解決するものであるかは、実施例によって、判定せざるを得ない。カルシウムアルミノシリケートガラス(CaO-Al2O3-SiO2系ガラス)の中には、セメント水和の環境下である、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)溶液に対して不溶性を示すものが存在し、また、非晶質化により、不溶化が促進されるケースもある。
すると、化学組成や非品質量(ガラス化率)を提示するだけで、請求項1に記載の無機材料一般について、これらを石灰石との混合材として、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるかを認識することはできない(3(3))。
(エ)無機材料について、同じ化学組成の石炭ガス化スラグでもBET比表面積の異なる参考例1は、本件発明の範囲に含まれるのに、十分な物性が得られていないと解され、同じ化学組成の石炭ガス化スラグでもBET比表面積が、所定値を下回ると、更に、DEF試験結果が悪化し、課題が解決できない可能性は否定できない。すると本件発明1は、BET比表面積の数値限定を加えないと、課題を解決できない構成を含むこととなる(3(4))。
イ 異議申立人の主張に対する当審の判断
(ア)上記ア(ア)の主張について
混合材の含有量が、セメントクリンカーや石膏といった水硬性成分の一部を置き換える量になるところ、混合材の含有量については、本件明細書の【0042】に「上記セメント組成物における上記混合材の合計の含有量は、低炭素化の観点からは多い方が望ましく、一方でセメント硬化体の物性(例えば、圧縮強さ等)向上の観点からは少ない方が望ましい。上記セメント組成物における上記混合材の含有量は、上記セメントクリンカー、上記石膏及び上記混合材の合計量を基準として、2.0~30.0質量%含むが、好ましくは4.0~25.0質量%であり、より好ましくは5.5~20質量%であり、更に好ましくは6.5~15.0質量%であり、特に好ましくは7.5~12.5質量%である。混合材の含有量が上述の範囲内であることによって、セメント製造時のCO2削減効果と、セメント硬化体の圧縮強さを十分に両立することができる。」と記載されているし、本件発明の混合材の含有量の範囲が、実施例を根拠にして、セメント製造時のCO2削減効果と、セメント硬化体の圧縮強さの両立が図られる範囲であることは、上記(1)イ(ウ)で述べたとおりである。
また、「カルシウムアルミノシリケートガラス(CaO-Al2O3-SiO2系ガラス)の中には、セメント水和の環境下である、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)溶液に対して不溶性を示すものが存在する」としているが、CaO、Al2O3及びSiO2のどのような範囲で、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)溶液に対して不溶性となるのか等具体的に示されておらず、根拠のある主張とはいえない。
(イ)上記ア(イ)の主張について
本件発明での無機粉末の化学組成の範囲(各イオンの供給量)自体は、本件明細書に記載されており、この範囲で本件発明の課題が解決されるか否かを判断するのに、特許権者の意見書の記載を参照したのであるから、異議申立人が取り上げている特許権者の意見書での記載が具体的な数値の記載のない定性的なものであるとしても、この記載を参照すれば、本件明細書に記載される無機粉末の化学組成の範囲で本件発明の課題が解決できることが理解できる。
ここで、異議申立人は、「同じ無機材料でも、BET比表面積が異なれば、溶解速度、イオン供給量、反応性が異なり、効果が得られない」ことを主張しているが、例えば、より無機材料が溶解しやすい条件に調整する等すれば、無機材料でのBET比表面積が異なるとしても、最終的に無機材料が溶解するようにすれば、イオン供給量は変わらないし、溶解速度、反応性が異なるとしても、最終的に得られるセメント硬化体の性質が、本件発明の課題を解決できなくなるほど変わるとはいえない。
そして、本件発明の無機粉末の化学組成の範囲が、実施例を根拠にして、本件発明の課題を解決できる範囲であることは、上記(1)イ(オ)で述べたとおりである。
(ウ)上記ア(ウ)の主張について
本件発明において、本件発明の課題の解決することとの関係では、混合材に含まれる無機粉末はその種類によらず、化学組成や非晶質量(ガラス化率)が所定の範囲にあれば良いことは、上記(1)イ(ウ)及び(オ)で述べたとおりである。
また、「カルシウムアルミノシリケートガラス(CaO-Al2O3-SiO2系ガラス)の中には、セメント水和の環境下である、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)溶液に対して不溶性を示すものが存在し、また、非晶質化により、不溶化が促進されるケースもある」としているが、上記(ア)でも述べたように、CaO、Al2O3及びSiO2のどのような範囲で、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)溶液に対して不溶性となるのか等具体的に示されておらず、根拠のある主張とはいえない。
(エ)上記ア(エ)の主張について
上記(1)イ(オ)で述べた無機粉末に関する本件発明の課題を解決することに関する作用機序によれば、無機粉末における化学組成の面が重要であって、BET比表面積の値によって、DEF試験結果は変わるものの、本件発明の課題が解決できないといえる程度まで結果が悪化するとまではいうことができない。実際、【0096】【表7】におけるDEF試験では、発明の課題を解決していないといえる比較例での水中養生材齢112日目の膨張率が、0.27~0.40%であるのに対して、参考例1の膨張率は、0.19%であり、比較例に比べれば優れた結果を示している。また、セメント硬化体を製造する際の無機粉末に対する溶解条件によっては、膨張率での評価がさらに向上することも考えられる。
ここで、異議申立人の「同じ化学組成の石炭ガス化スラグでもBET比表面積が、所定値を下回ると、更に、DEF試験結果が悪化し、課題が解決できない可能性は否定できない。」との主張は、所定値が実際にどの程度であるのか等、具体的な根拠に欠けるものである。
(オ)以上のとおりであるから、上記意見書における異議申立人の主張は、採用することができない。
2 進歩性欠如に関する申立理由1について
(1)各甲号証に記載された事項
ア 甲1に記載された事項
(ア)「1.はじめに
環境負荷低減に向け高炉セメントコンクリート(以下BFSコンクリート)への期待は大きいが,特に夏期高温時における収縮の増大と収縮ひび割れへの懸念が普及の阻害要囚のひとつとなっている1)2)。筆者らは,夏期高温時における高炉B種セメントコンクリートの収縮,ひび割れ挙動について詳細に検討し,無水石こうなどの少量混合成分による前記阻害要囚の抑制対策について提案したが,コスト,効果の点で必ずしも汎用的に用いるレベルには達していない3)。
高炉セメントB種(BB)に代わり高炉スラグの使用率が低いA種(BA)を用いれば,普通ポルトランドセメント(N)コンクリートに性状が近づき,BFSコンクリートを普遍的に利用できるとともに,対策がより実用的,経済的となり,Nコンクリートに比べてひび割れ抵抗性がむしろ優れるBFSコンクリートが実況できる可能性がある4)。
これらを受け,本研究ではBAを対象に,収縮が小さくかつひび割れ抵抗性に優れる低収縮型のコンクリートを実現すべく,夏期高温時を模倣した環境にて添加する少量混合成分および硬化時に生じる水和生成物の種類が収縮性状に及ぼす影響について考察すべく実験を行う。
2.実験計画
2.1 自由収縮実験
(1)実験の概要および試験方法
本研究では,自由収縮実験と水和解析実験を実施する(表-1)。自由収縮実験では,SO3使用率,CaCO3使用率がBAコンクリートの自由収縮ひずみ挙動に及ぼす影響を把握することを目的とし,表-1に示すようにBFS使用率,SO3使用率,CaCO3使用率の3つを実験要因とする。SO3使用率は,市販品のBAコンクリートに近いレベルの2.5%に加え,3.5と4.5%について実験を行う。これらを低収縮高炉A種(以下,BLS(A)と表記)と呼び市販品のBA,BB,Nと比較する。CaC03使用率は,無混入から最大7%の3水準とする。」(189頁左欄1行~右欄7行)
(イ)「(2)配(調)合および材料
表-2に自由収縮実験に用いるコンクリートの配(調)合を示す。表-1の水準に従い,BLS(A)についてはSO3使用率とCaCO3使用率をそれぞれ3水準にて変化させた全9種類の配(調)合を対象とする。全てのBLS(A)コンクリートにおいて水結合材比50%,単位水量175kg/m3に統一し,比較用に加えるBA,BB,Nも同様とする。
表-3は使用材料の一覧である。自由収縮実験に用いるセメントOPC1は、SO3を質量比で2.2%,高炉スラグを製造時の少量混合成分として同じく5%含有している。高炉スラグ微粉末BFS1は,表-4に示す品質で,SO3の含有量は無視できる程度としてあり,JIS A 6206に定める4000級の規定を満足し,汎用的に用いられる範囲にある4200cm2/g程度の比表面積を有している。表-2にあるコンクリートのBFS使用率は,セメントに含有される分量を含んだ値で定めてある。また,同じくSO3使用率は,セメントに含まれる分量を勘案した値である。」(190頁左欄12~28行)
(ウ)「
[図:0001432067000008.jpg]
[図:0001432067000009.jpg]
[図:0001432067000010.jpg]
[図:0001432067000011.jpg]
」(190頁)
イ 甲2に記載された事項
(ア)「
[図:0001432067000012.jpg]
[図:0001432067000013.jpg]
・・・
[図:0001432067000014.jpg]
」(103頁14行~104頁下から8行)
(イ)「
[図:0001432067000015.jpg]
[図:0001432067000016.jpg]
」(103、104頁)
ウ 甲3に記載された事項
(ア)「
[図:0001432067000017.jpg]
・・・
[図:0001432067000018.jpg]
」(85頁左欄1行~右欄7行)
(イ)「
[図:0001432067000019.jpg]
[図:0001432067000020.jpg]
」(85、86頁)
エ 甲4に記載された事項
(ア)「
[図:0001432067000021.jpg]
[図:0001432067000022.jpg]
」(181頁左欄1行~右欄15行)
(イ)「
[図:0001432067000023.jpg]
」(182頁)
(ウ)「
[図:0001432067000024.jpg]
[図:0001432067000025.jpg]
」(186頁右欄11行~187頁左欄10行)
オ 甲5に記載された事項
(ア)「実施例
[0032] 以下、本発明を実施例と図面を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
(1)セメント
普通ポルトランドセメント、太平洋セメント社製
C3S:50.6質量%、C2S:24.8質量%、C3A:8.5質量%、C4AF:9.4質量%、SO3:2.0質量%」
(イ)「[0034]
[表1]
[図:0001432067000026.jpg]
」
カ 甲6に記載された事項
(ア)「
[図:0001432067000027.jpg]
[図:0001432067000028.jpg]
」(1415頁左欄1行~右欄3行)
(イ)「
[図:0001432067000029.jpg]
」(1416頁)
(2)甲1に記載された発明
甲1の上記(1)ア(ア)に「これらを受け,本研究ではBAを対象に,収縮が小さくかつひび割れ抵抗性に優れる低収縮型のコンクリートを実現すべく,夏期高温時を模倣した環境にて添加する少量混合成分および硬化時に生じる水和生成物の種類が収縮性状に及ぼす影響について考察すべく実験を行う。」、「自由収縮実験では,SO3使用率,CaCO3使用率がBAコンクリートの自由収縮ひずみ挙動に及ぼす影響を把握することを目的とし,表-1に示すようにBFS使用率,SO3使用率,CaCO3使用率の3つを実験要因とする。」とあるように、甲1には、BA(高炉スラグの使用率が低いA種)を対象に,収縮が小さくかつひび割れ抵抗性に優れる低収縮型のコンクリートを実現すべく、SO3使用率、CaCO3使用率がBAコンクリートの自由収縮ひずみ挙動に及ぼす影響を把握することを目的とし、同(ウ)に記載される表-1に示すようにBFS使用率、SO3使用率、CaCO3使用率の3つを実験要因とする複数のBAコンクリートを作成し、これらについて、夏期高温時を模倣した環境にて、添加する少量混合成分および硬化時に生じる水和生成物の種類が収縮性状に及ぼす影響について考察すべく実験を行ったことが記載されている。
この実験に使用する表-1に記載される複数のBAコンクリートのうち、BLS(A)-2.5-3に着目すると、BFS1が56.0(kg/m3)、CaSO4が4.43(kg/m3)、CaCO3が10.5(kg/m3)からなるBFS混和材、OPC1が279(kg/m3)、細骨材が810(kg/m3)、粗骨材が955(kg/m3)であり、結合材の質量に対する比率で表されたBFS使用率(%)が20、SO3使用率(%)が2.5、CaCO3使用率(%)が3であるコンクリートが記載されている。ここで、同(ウ)の表-3によれば、OPC1は普通ポルトランドセメントであり、BFS1は高炉スラグ微粉末であり、CaSO4は無水石こうであり、CaCO3は石灰石微粉である。
そして、同(ウ)の表-5によれば、結合材は、OPC、BFS、CaSO4、CaCO3からなるものであることから、上記のBLS(A)-2.5-3について、結合材を構成するといえるOPC、BFS、CaSO4、CaCO3に着目すると、甲1には、BLS(A)-2.5-3の結合材として、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「高炉スラグ微粉末が56.0(kg/m3)、無水石こうであるCaSO4が4.43(kg/m3)、石灰石微粉であるCaCO3が10.5(kg/m3)からなるBFS混和材、普通ポルトランドセメントが279(kg/m3)であり、結合材の質量に対する比率で表された高炉スラグ微粉末使用率(%)が20、SO3使用率(%)が2.5、CaCO3使用率(%)が3である結合材。」
(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)本件明細書の【0074】の「[ベースセメント(セメントクリンカー及び石膏の混合物)の調製]」との記載によれば、セメントは、セメントクリンカーと石膏を含むものであるといえると共に、甲1の上記(1)ア(ウ)の表-3によれば、甲1発明の「普通ポルトランドセメント」は、SO3を2.2%含むものとされ、石こうを含むものであるといえるから、甲1発明の「無水石こうであるCaSO4」と「普通ポルトランドセメント」は、合わせて本件発明1の「セメントクリンカーと、石膏」に相当しているといえる。
そして、甲1発明の「高炉スラグ微粉末」は、本件発明1の「非晶質相を含む無機粉末」と「無機粉末」である点で共通し、甲1発明の「石灰石微粉であるCaCO3」は、本件発明1の「石灰石」に相当するから、甲1発明の「高炉スラグ微粉末」と「石灰石微粉であるCaCO3」は、合わせて本件発明1の「非晶質相を含む無機粉末、及び石灰石を含」む「混合材」と、「無機粉末、及び石灰石を含」む「混合材」の点で共通する。
そうすると、甲1発明の、「無水石こうであるCaSO4」、「普通ポルトランドセメント」、「高炉スラグ微粉末」及び「石灰石微粉であるCaCO3」を含む「結合材」は、本件発明1の「セメントクリンカーと、石膏と、」「非晶質相を含む無機粉末、及び石灰石を含」む「混合材と、を含有」する「セメント組成物」と、含まれる成分が共通するものであるから、本件発明1の「セメント組成物」に相当する。
以上によれば、甲1発明の「結合材」は、本件発明1の「セメントクリンカーと、石膏と、混合材と、を含有し、前記混合材が、無機粉末、及び石灰石を含」む「セメント組成物」に相当する構成を有しているといえる。
(イ)甲1発明の認定の基礎となった「BLS(A)-2.5-3」を含め甲1の上記(1)ア(ウ)の表-1に記載されるコンクリートは、「高炉スラグ微粉末」として「BFS1」を用いるものであるところ、同(ウ)の表-6には、水和解析実験に用いた「高炉スラグ微粉末」である「BFS2」の化学成分が記載されている。ここで、同じ「高炉スラグ微粉末」である「BFS1」と「BFS2」は、類似した化学成分からなるものであるといえるから、「BFS1」も「BFS2」と同様に、CaO、SiO2及びAl2O3を含むものであるといえる。
そうすると、甲1発明の「高炉スラグ微粉末」(BFS1)は、本件発明1の「CaO、SiO2及びAl2O3を含む化学組成を有し」に相当する構成を有するものであるといえる。
(ウ)甲1発明における「CaCO3使用率(%)は」「結合材の質量に対する比率で」「3である」ところ、上記(ア)で述べたように、「結合材」は、「無水石こうであるCaSO4」、「普通ポルトランドセメント」、「高炉スラグ微粉末」及び「石灰石微粉であるCaCO3」を含むものであり、このうち、「無水石こうであるCaSO4」と「普通ポルトランドセメント」は、合わせて本件発明1の「セメントクリンカーと、石膏」に相当し、「高炉スラグ微粉末」と「石灰石微粉であるCaCO3」は、合わせて本件発明1の「混合材」に相当するから、甲1発明における「CaCO3使用率(%)」は、本件発明1のように、「前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準」としたものであるといえる。
そうすると、甲1発明で、「CaCO3使用率(%)は」「結合材の質量に対する比率で」「3である」ことは、本件発明1の「前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準とする」、「前記石灰石の含有量が2.5~7.5質量%であ」るとの条件を満足している。
(エ)以上によれば、本件発明1と甲1発明は、「セメントクリンカーと、
石膏と、
混合材と、を含有し、
前記混合材が、無機粉末、及び石灰石を含み、
前記無機粉末は、CaO、SiO2及びAl2O3を含む化学組成を有し、
前記セメントクリンカー、前記石膏及び前記混合材の合計量を基準とする、
前記石灰石の含有量が2.5~7.5質量%である、セメント組成物。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点1>
無機粉末について、本件発明1では、無機粉末が、非晶質相を含み、前記無機粉末の全量を基準として、CaO量が14.0~18.0質量%、SiO2量が50.0~60.0質量%、及びAl2O3量が18.0~20.0質量%であり、前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であるのに対し、甲1発明では、高炉スラグ微粉末のCaO量、SiO2量及びAl2O3量、無機粉末100質量%中の非晶質相量が明らかでない点。
<相違点2>
セメントクリンカー、石膏及び混合材の合計量を基準とする、混合材及び無機粉末の含有量について、本件発明1では、混合材の含有量が5.0~15.0質量%であり、無機粉末の含有量が2.5~7.5質量%であるのに対し、甲1発明では、混合材に対応する「高炉スラグ微粉末使用率(%)」及び「CaCO3使用率(%)」が合わせて23%であると共に、無機粉末に対応する「高炉スラグ微粉末」の「使用率(%)」が20%である点。
<相違点3>
セメントクリンカーと石膏との合計量を基準とする、石膏の含有量について、本件発明1では、石膏の含有量がSO3換算で1.1~1.6質量%であるのに対し、甲1発明では、結合材に対して、SO3使用率(%)が2.5である点。
イ 相違点に対する判断
まず、上記相違点1について検討する。
甲1には、甲1発明における「高炉スラグ微粉末」(自由収縮実験に用いたコンクリートであるBLS(A)-2.5-3に用いた「BFS1」)の化学成分に関する何らの記載もない。また、甲1において、水和実験で用いられた「高炉スラグ微粉末」である「BFS2」の化学組成は、甲1の上記(1)ア(ウ)の表-6によれば、CaO量が42.6質量%、SiO2量が33.8質量%、及びAl2O3量が14.4質量%であるといえ、本件発明1での範囲と相当異なっている。ここで、甲1発明の「高炉スラグ微粉末」の化学成分は、同じ「高炉スラグ微粉末」という点で、水和実験で用いられた「高炉スラグ微粉末」(「BFS2」)の化学組成と類似しているといえるから、甲1発明の「高炉スラグ微粉末」のCaO量、SiO2量及びAl2O3量は、水和実験で用いられた「高炉スラグ微粉末」(「BFS2」)と同様に、本件発明1の範囲と相当異なるものであるといえる。
そして、甲1発明は、同(ア)の「本研究ではBAを対象に,収縮が小さくかつひび割れ抵抗性に優れる低収縮型のコンクリートを実現すべく,夏期高温時を模倣した環境にて添加する少量混合成分および硬化時に生じる水和生成物の種類が収縮性状に及ぼす影響について考察すべく実験を行う。」との記載、「自由収縮実験では,SO3使用率,CaCO3使用率がBAコンクリートの自由収縮ひずみ挙動に及ぼす影響を把握することを目的とし,表-1に示すようにBFS使用率,SO3使用率,CaCO3使用率の3つを実験要因とする。」との記載によれば、甲1発明では、収縮が小さくかつひび割れ抵抗性に優れる低収縮型のコンクリートを実現すべく、夏期高温時を模倣した環境にて、添加する少量混合成分および硬化時に生じる水和生成物の種類が収縮性状に及ぼす影響について考察するため、自由収縮実験では、SO3使用率、CaCO3使用率がBAコンクリートの自由収縮ひずみ挙動に及ぼす影響を把握することを目的とし、BFS使用率、SO3使用率、CaCO3使用率を変化させる(同(ウ)の表-1)ものであるから、甲1に記載されるコンクリートでは、高炉スラグ微粉末の使用率、無水石こうであるCaSO4の使用量、石灰石微粉であるCaCO3の使用量は検討するとしても、高炉スラグ微粉末の化学組成までを検討するものではない。
そうすると、甲1発明には、高炉スラグ微粉末の化学組成を変更する動機付けはないから、甲2~甲6の記載事項の如何に関わらず、無機粉末の化学組成の構成を含む上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
上述のように、甲2~甲6の記載事項の如何に関わらず、無機粉末の化学組成の構成を含む上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないが、念のため各甲号証の内容について検討する。
無機粉末の化学組成の構成についての記載があるのは、甲2~4であるが、CaO量、SiO2量、及びAl2O3量に着目すると、甲2には、高炉スラグの化学組成例として、CaO量が40~45%、SiO2量が30~35%、及びAl2O3量が15~20%であること(上記(1)イ(ア))、又はCaO量が35~40%、SiO2量が30~41%、及びAl2O3量が12~20%であること(同(イ))が記載され、甲3の上記(1)ウ(イ)の表1には、複数の高炉スラグの化学組成が記載され、甲4の上記(1)エ(イ)のTable 1には、石灰石を添加したガス化炉からのスラグとして(同(ア))、複数の化学組成が記載されているが、本件発明1の無機粉末の化学組成を全て満たすものはない。
そうすると、甲1発明に、仮に、甲2~甲4の記載事項を組み合わせたとしても、甲2~甲4には、本件発明1の無機粉末の化学組成を満たすものは記載されていないのであるから、本件発明1の構成には到らない。
ウ 小括
以上のとおり、上記相違点に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件発明2~11について
本件発明2~11は、本件発明1を引用し、これを、さらに限定するものであるところ、本件発明1が、甲1発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2~11も、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件発明12について
本件発明12は、「セメントクリンカーと、石膏と、混合材と、を混合する工程を備え」る「セメント組成物の製造方法」の発明であるが、ここでの混合材は、「非晶質相を含む無機粉末、及び石灰石を含み、前記無機粉末は、CaO、SiO2及びAl2O3を含む化学組成を有し、前記無機粉末の全量を基準として、CaO量が14.0~18.0質量%、SiO2量が50.0~60.0質量%、及びAl2O3量が18.0~20.0質量%であり、前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり」と、本件発明1と同じ特定がなされている。
これによれば、「結合材」の発明である甲1発明を、「結合材の製造方法」として認定し直して、本件発明12と対比したとしても、本件発明12との間には、少なくとも、上記(3)ア(エ)で述べた相違点1が存在することになる。
そして、この相違点1が、当業者が容易に想到し得たものでないことは、同イで述べたとおりである。
そうすると、本件発明12との間における他の相違点について検討するまでもなく、本件発明12は、甲1に記載された発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件発明13について
本件発明13は、「非晶質相を含む無機粉末と石灰石とを含む、耐久性向上混合材」の発明であるが、この無機粉末については、「CaO、SiO2及びAl2O3を含む化学組成を有し、前記無機粉末の全量を基準として、CaO量が14.0~18.0質量%、SiO2量が50.0~60.0質量%、及びAl2O3量が18.0~20.0質量%であり、前記無機粉末100質量%中の前記非晶質相量が80.0~100.0質量%であり」との、本件発明1と同じ特定がなされている。
これによれば、「結合材」の発明である甲1発明を、結合材に含まれる「高炉スラグ微粉末」と「石灰石微粉」を、本件発明13の「耐久性向上混合材」に対応する発明として認定し直し、本件発明13と対比したとしても、本件発明13との間には、少なくとも、上記(3)ア(エ)で述べた相違点1が存在することになる。
そして、この相違点1が、当業者が容易に想到し得たものでないことは、同イで述べたとおりである。
そうすると、本件発明13との間における他の相違点について検討するまでもなく、本件発明13は、甲1に記載された発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本件特許1~13は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由及び上記申立理由1、2では、本件特許1~13を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~13を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700122