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特許異議申立

2025-701018

窒化ケイ素焼結体、回路基板、および窒化ケイ素焼結体の製造方法

審判番号
2025-701018
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-101402
登録番号
7668849
請求日
2025年10月22日
審決日
2026年05月29日
公報発行日
2026年08月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社MARUWA
  • 【権利者代理人】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
  • 【異議申立人】金田 綾香
審判長/審判官
  • 審判長 深草 祐一
  • 審判官 三崎 仁
  • 審判官 市川 篤
分類
P1652.113-YAA(C04B) / P1652.121-YAA(C04B) / P1652.536-YAA(C04B) / P1652.537-YAA(C04B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7668849号発明「窒化ケイ素焼結体、回路基板、および窒化ケイ素焼結体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7668849号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7、12〕について訂正することを認める。 特許第7668849号の請求項1~4、6及び12に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7668849号(請求項の数12。以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)は、令和5年6月21日を出願日とする特許出願(特願2023-101402号)に係るものであって、令和7年4月17日に設定登録され、同年4月25日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、同年10月22日提出の特許異議申立書(以下、「申立書」という。)により、その請求項1~4、6及び12に係る特許に対し、特許異議申立人である金田綾香(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、令和8年1月14日付けで取消理由が通知され、同年2月24日に特許権者により意見書及び訂正請求書の提出がされた。 なお、令和8年2月24日提出の訂正請求書に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を設けたが、指定期間内に意見書は提出されなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和8年2月24日に提出された訂正請求書における訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~7、12〕を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「窒化ケイ素粒子と、前記窒化ケイ素粒子の間に存在する粒界相と有する窒化ケイ素焼結体であって、 前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板において、基板表面における絶縁破壊電界Viが常温で8kV/mm以上であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。」 と記載されているのを、 「窒化ケイ素粒子と、前記窒化ケイ素粒子の間に存在する粒界相とを有するとともに、フッ素元素が所定割合残留している窒化ケイ素焼結体であって、 前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板において、基板表面における絶縁破壊電界Viが常温で8kV/mm以上であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。」 に訂正する(請求項1を直接又は間接的に引用する場合の請求項2、4~7、12も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に 「窒化ケイ素粒子と、前記窒化ケイ素粒子の間に存在する粒界相とを有する窒化ケイ素焼結体であって、 前記粒界相は、アモルファス相と粒界結晶相とからなり、 所定のエッチング条件下で前記窒化ケイ素焼結体のエッチング処理後の単位表面積当たりの重量減少量wdが12μg/mm2以下であり、 前記重量減少量wdは、前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板の重量と、エッチング処理前の基板の重量との差分を、基板の表面積で除算することによって得られることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。」 と記載されているのを、 「窒化ケイ素粒子と、前記窒化ケイ素粒子の間に存在する粒界相とを有するとともに、フッ素元素が所定割合残留している窒化ケイ素焼結体であって、 前記粒界相は、アモルファス相と粒界結晶相とからなり、 所定のエッチング条件下で前記窒化ケイ素焼結体のエッチング処理後の単位表面積当たりの重量減少量wdが12μg/mm2以下であり、 前記重量減少量wdは、前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板の重量と、エッチング処理前の基板の重量との差分を、基板の表面積で除算することによって得られることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。」 に訂正する(請求項3を直接引用する場合の請求項4~7、12も同様に訂正する)。 2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件の適否について)の判断 (1)訂正事項1について ア 訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1記載の「窒化ケイ素焼結体」に対し、「フッ素元素が所定割合残留している」との限定を加え、「窒化ケイ素焼結体」の範囲を狭めるものであるから、本件特許の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 次に、訂正事項1が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。また、当審が注目した記載箇所に下線を付した(以下、同じ。)。)に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて検討する。 (ア)本件明細書等においては、 【0035】に、 「本発明の窒化ケイ素焼結体は、その原料に添加剤として第2族元素フッ化物を添加することで、窒化ケイ素粉末のフッ素量(不純物量)によらず、基板表面のエッチングむらを抑えるために、焼結体の粒界相の結晶化を効果的に制御することを可能とした。すなわち、窒化ケイ素焼結体は、エッチングむらの軽減とともに、エッチング処理後の窒化ケイ素焼結体の基板表面における絶縁耐圧性能や耐エッチング性を改善したものである。ここで、第2族元素フッ化物は、Mg、Ca、Sr、およびBaのフッ化物からなる群から選択された1つ以上である。特に、第2族元素フッ化物は、CaF2、MgF2、またはそれらの組み合わせであることが好ましい。第2族元素フッ化物がCaF2を含む場合、焼成時の液相中に導入されたCaイオンとFイオンが焼結後も粒界相に残留し、粒界相の凝固温度を低下させ、粒界結晶化抑制を容易にすることが考えられる。一方、第2族元素フッ化物がMgF2を含む場合、MgイオンがMgOと同様に焼結体の緻密化を促進する。本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、好ましくは、0.05~0.2重量%のフッ素元素を含むように構成された。」と記載され、 【0044】に、 「次に、第2族元素フッ化物(CaF2)の添加による窒化ケイ素焼結体の特性の変化について考察する。添加剤としてのCaF2粉末を所定の添加量で添加した混合体(そのシート成形体)の焼結過程では、酸窒化ガラスの液相組成へCaイオンおよびFイオンが加わる。CaイオンはSiとMgを含む酸窒化ガラスと共晶化合物を形成することでガラスの融点を下げる効果がある。また、Fイオンを酸窒化ガラスへ導入することでも液相中への窒素溶解度を増加させてガラス融点を低下させるとともに、2つのFイオンが1つのOイオンを置換することでガラス分子の重合度が低下し、液相の粘度を低下させることができる。これらの効果によって液相の焼結初期の緻密化の開始温度が低下させるとともに、粒界ガラス層の均一性を向上させ、焼結初期における緻密化を促進させる効果がある。焼結初期段階で緻密化を進めておくと、焼結初期から焼結後期までの全焼結過程で観察される成形体からの収縮割合に対する、焼結中期から焼結後期までの加熱過程で観測される収縮割合が小さくなる。焼結中期から焼結後期の加熱工程では、MgOやSiO2の揮発による影響により、液相量の減少や粘度増加が起こりやすく、焼結初期段階における緻密化を進めておくことは、焼結体の微細構造化、基板表裏面や基板面内での均一性や特性改善に有効である。」 と記載され、 【0074】に、 「表1に示すとおり、焼成前の原料粉末の混合体のフッ素量は、実施例1~7では600ppm 以上であるのに対し、比較例1~3では600ppm未満である。比較例1~3のフッ素量は、主に、窒化ケイ素の原料粉末の不純物に起因しているが、この原料粉末起因のフッ素量は800ppm以下である。また、焼結体の特性について、焼結体基板中に含有されるフッ素量(フッ素元素)は、実施例1~7では0.05重量%以上であるのに対し、比較例1~3では検出されなかった(つまり0重量%)。すなわち、フッ素を適量の第2族元素フッ化物として添加したことにより、フッ素元素が焼結体中に効果的に残留したことが考えられる。」と記載されている。 このように、本件明細書等【0035】、【0044】及び【0074】によれば、窒化ケイ素焼結体に、「フッ素元素が所定割合残留している」ことが記載されている。 (イ)したがって、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項から導くことができるものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 訂正事項1は、請求項1を直接又は間接的に引用する場合の請求項2、4~7及び12についても同様に訂正するものであるが、そのうちの請求項5及び7については特許異議の申立てがされていない請求項であるから、特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて検討する。 後記第9で述べるように、訂正後の請求項5及び7(後記第3参照)が直接又は間接的に引用する訂正後の請求項1に係る特許を取り消すべき理由は発見されず、また他に訂正後の請求項5及び7に係る特許を取り消すべき理由も発見しないから、訂正後の請求項5及び7に係る発明は、独立して特許を受けることができるものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項3記載の「窒化ケイ素焼結体」に対し、「フッ素元素が所定割合残留している」との限定を加え、「窒化ケイ素焼結体」の範囲を狭めるものであるから、本件特許の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 次に、訂正事項2が、本願明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて検討する。 (ア)上記(1)イ(ア)で検討したとおり、本件明細書等【0035】、【0044】及び【0074】には、窒化ケイ素焼結体に、「フッ素元素が所定割合残留している」ことが記載されている。 (イ)したがって、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項から導くことができるものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 訂正事項2は、請求項3を直接引用する場合の請求項4~7及び12についても同様に訂正するものであるが、そのうちの請求項5及び7については特許異議の申立てがされていない請求項であるから、特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて検討する。 後記第9で述べるように、訂正後の請求項5及び7(後記第3参照)が直接引用する訂正後の請求項3に係る特許を取り消すべき理由は発見されず、また他に訂正後の請求項5及び7に係る特許を取り消すべき理由も発見しないから、訂正後の請求項5及び7に係る発明は、独立して特許を受けることができるものである。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項~第7項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7、12〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許の請求項1~7及び12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などという。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7及び12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】 窒化ケイ素粒子と、前記窒化ケイ素粒子の間に存在する粒界相とを有するとともに、フッ素元素が所定割合残留している窒化ケイ素焼結体であって、 前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板において、基板表面における絶縁破壊電界Viが常温で8kV/mm以上であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。 【請求項2】 所定のエッチング条件下で前記窒化ケイ素焼結体のエッチング処理後の単位表面積当たりの重量減少量wdが12μg/mm2以下であり、 前記重量減少量wdは、前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板の重量と、エッチング処理前の基板の重量との差分を、基板の表面積で除算することによって得られることを特徴とする請求項1に記載の窒化ケイ素焼結体。 【請求項3】 窒化ケイ素粒子と、前記窒化ケイ素粒子の間に存在する粒界相とを有するとともに、フッ素元素が所定割合残留している窒化ケイ素焼結体であって、 前記粒界相は、アモルファス相と粒界結晶相とからなり、 所定のエッチング条件下で前記窒化ケイ素焼結体のエッチング処理後の単位表面積当たりの重量減少量wdが12μg/mm2以下であり、 前記重量減少量wdは、前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板の重量と、エッチング処理前の基板の重量との差分を、基板の表面積で除算することによって得られることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。 【請求項4】 0.02~0.2重量%のカルシウム元素を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体。 【請求項5】 0.05~0.2重量%のフッ素元素を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体。 【請求項6】 前記エッチング処理後の基板のSEMの断面画像において、基板表層から40μm未満の深さの粒界相が除去されており、前記粒界相が除去された領域には、粒界結晶相が残っていないことを特徴とする請求項1または3に記載の窒化ケイ素焼結体。 【請求項7】 1~5重量%の酸化イットリウムと、1.5~3.5重量%の酸化マグネシウムと、0.05~0.3重量%の第2族元素フッ化物とから構成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体。 【請求項12】 請求項1から3のいずれか一項に記載の前記窒化ケイ素焼結体の基板と、前記基板の表面上に接合され、所定の回路状に形成された金属板と、を備える回路基板。 第4 特許異議申立理由、取消理由の概要 1 特許異議申立理由の概要 申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下の(1)~(3)のとおりである。 ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。 ・甲第1号証 特開2022-166445号公報 ・甲第2号証 特開平7-267735号公報 (以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。) (1)申立理由1(新規性、進歩性) 本件特許の設定登録時の請求項1~3、6及び12に係る発明(以下、それぞれ「設定登録時の本件発明1」などという。)は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。また、設定登録時の本件発明1~3、6及び12は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、設定登録時の本件発明1~3、6及び12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(サポート要件違反) 特許請求の範囲の記載は、設定登録時の本件発明1~4、6及び12について、窒化ケイ素焼結体中に第2族元素フッ化物を含有するという課題解決手段が反映されていないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、設定登録時の本件発明1~4、6及び12に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 (3)申立理由3(実施可能要件) 窒化ケイ素焼結体中に第2族元素フッ化物を含有することが特定されておらず、かつ、焼結助剤及びその量についても特定されていない設定登録時の本件発明1~4、6及び12の実施には、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤または複雑高度な実験が必要な場合が含まれるから、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、設定登録時の本件発明1~4、6及び12に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 2 取消理由の概要 令和8年1月14日付けで通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。 ●取消理由(サポート要件違反) 特許請求の範囲の記載は、設定登録時の本件発明1~4、6及び12について、窒化ケイ素焼結体にFイオンが所定割合残留しているとの課題解決手段が反映されていないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、設定登録時の本件発明1~4、6及び12に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 第5 各証拠について 1 甲1(特開2022-166445号公報)について 甲1には、「窒化ケイ素焼結体」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている(なお、「・・・」は記載の省略を表す。)。 (1)特許請求の範囲 「【請求項1】 窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.9以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の10%以上を占めている窒化ケイ素焼結体。」 (2)技術分野 「【0001】 本発明は、回路基板、放熱部材等として使用される窒化ケイ素焼結体に関するものである。」 (3)背景技術 「【0002】 回路基板、放熱部材等として使用される絶縁性セラミックス(焼結体)の材料としては、窒化アルミニウム(AlN)や、窒化ケイ素(Si3N4)が挙げられる。 窒化アルミニウムは、熱伝導率が150W/m・K以上と高いが、機械的強度が低いため、クラックが生じやすく使いづらい。 窒化ケイ素は、熱伝導率が窒化アルミニウムほどではないが50W/m・K以上はあるうえ、機械的強度が高いため、クラックが生じにくく薄型化ができる等の利点を有する。そのため、近年、窒化ケイ素焼結体の開発及び採用が進んでいる。」 (4)発明が解決しようとする課題 「【0011】 ・・・本発明者の検討によると、気孔率と、ポア最大直径の制御だけでは、絶縁耐力の向上に限界があること、そして、凹凸度が1に近いボイドが一定以上を占めていることにより、窒化ケイ素焼結体の反りが小さくなり、絶縁破壊電圧がより高くなることが分かってきた。本発明は、この検討をさらに鋭意進めてなされたものである。」 (5)作用・効果 「【0013】 凹凸度が0.9以上のボイドが10%以上を占めていることにより、又は、凹凸度が0.8以上のボイドが30%以上を占めていることにより、電圧印加時にボイド形状の凹凸部において発生する部分放電が、凹凸が小さいために発生しにくくなって減少し、絶縁破壊電圧が高くなる。 また、ボイドの平面投影面積率が1.0%以下であることにより、窒化ケイ素焼結体の反りが小さくなる。」 「【0014】 本発明によれば、窒化ケイ素焼結体の絶縁破壊電圧が高くなる。」 (6)発明を実施するための形態 「【0017】 1.製造方法 窒化ケイ素焼結体の製造方法において、窒化ケイ素粉末と焼結助剤との混合物を焼結する焼結工程は、1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50≦2200とし、焼結助剤で形成される粒界相をアモルファス構造とすることが好ましい。 半導体検出器を備えたX線回折装置を使用して得られたX線回折パターンにおいて粒界相に由来するピークが検出されないことが好ましい。 前記焼結工程において、焼成用の閉鎖状態の筐体内に、製造する窒化ケイ素焼結体とは別体の予め焼結した板状の窒化ケイ素焼結体を配置することが好ましい。 前記焼結助剤として少なくともMgO又はMgSiN2を含有し、SrOを含有しないことが好ましい。 【0018】 1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50≦2200とすることにより、焼結が実現されるとともに、焼結中のSiO2の揮発が抑制されて、粒界相の結晶化が抑制される。焼結助剤で形成される粒界相をアモルファス構造とすることにより、焼結後の冷却時に、体積収縮が小さくなるとともに、焼結助剤がより低温まで液相として存在して窒化ケイ素結晶粒間の狭い部分まで行き渡るため、窒化ケイ素焼結体中のボイドが少なくなり、窒化ケイ素焼結体の内部応力が減少して反りが小さくなる。また、ボイド形状の凹凸が小さくなる。 また、焼結工程において、焼成用の閉鎖状態の筐体内に、製造する窒化ケイ素焼結体とは別体の予め焼結した板状の窒化ケイ素焼結体(以下「ダミー窒化ケイ素焼結体」という。)を配置すると、焼成時にダミー窒化ケイ素焼結体のSiO2が揮発することにより、製造する窒化ケイ素焼結体のSiO2の揮発が抑制されるので、これによっても結晶化が抑制され、また、焼結密度の低下が防止される。ダミー窒化ケイ素焼結体は、製造する窒化ケイ素焼結体と、同一組成である必要はないが、同一助剤系であることが好ましい。 また、焼結助剤としてアルカリ土類金属を添加することにより、液相の融点を下げる効果がある。しかしながら、アルカリ土類金属であってもSrOは、MgO又はMgSiN2よりも揮発しにくいことから焼成後に残存してしまい、熱伝導を阻害する要因になってしまうため、少なくともMgO又はMgSiN2を含有し、SrOを含有しないことにより、高熱伝導率の窒化ケイ素焼結体を得ることができる。 また、窒化ケイ素焼結体が相対密度98%以上に緻密化することにより、曲げ強度が高くなり、絶縁破壊電圧も高くなる。 【0019】 2.粒界相 窒化ケイ素焼結体は、窒化ケイ素と、焼結助剤で形成される粒界相とからなり、前記粒界相がアモルファス構造であることが好ましい。 前記粒界相は、少なくともMgO又はMgSiN2を含有し、SrOを含有しないことが好ましい。 前記粒界相は、少なくともMg、稀土類元素(RE)、Siを含むアモルファス構造であることが好ましい。 半導体検出器を備えたX線回折装置を使用して得られたX線回折パターンにおいて回折角2θが28°~32°の範囲に存在する粒界相における結晶化合物のピークのうち、最も大きい積分強度が、窒化ケイ素(101)面の積分強度に対して5%以下であるものを、アモルファス構造と定義する。 窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの平面投影面積率が1.0%以下であることが好ましい。 窒化ケイ素焼結体の熱伝導率が80W/m・K以上であることが好ましい。 【0020】 粒界相がアモルファス構造であることにより、焼結後の冷却時に、体積収縮が小さくなるとともに、焼結助剤がより低温まで液相として存在して窒化ケイ素結晶粒間の狭い部分まで行き渡るため、窒化ケイ素焼結体中のボイドが少なくなり、窒化ケイ素焼結体の内部応力が減少して反りが小さくなる。また、ボイド形状の凹凸が小さくなる。」 「【0025】 5.用途 窒化ケイ素焼結体の用途としては、特に限定されないが、次の用途を例示できる。 図5(a)に示すような、半導体モジュール、LEDパッケージ、ペルチェモジュール、プリンタ、複合機、半導体レーザー、光通信、高周波などで使用される回路基板。 ・・・」 (7)実施例 「【0027】 表1及び表2に示す実施例1~21に示す窒化ケイ素焼結体と、表3に示す比較例1~8の窒化ケイ素焼結体を作製した。以下「各例」というときは、実施例1~21及び比較例1~8の各々を指すものとする。 【0028】 【表1】 [図:0001438300000001.jpg] 【0029】 【表2】 [図:0001438300000002.jpg] 」 「【0031】 [1]材料 主原料である窒化ケイ素(Si3N4)として、イミド熱分解法、もしくは、直接窒化法によって製造された、平均粒子径(D50)が約1.0μmの窒化ケイ素粉末を各例に用いた。 【0032】 焼結助剤として、表1~3に示すように、MgO、MgSiN2、Y2O3、La2O3、Nd2O3、Sm2O3、Dy2O3の各粉末から選んだ2種を、各例に用いた。実施例1~21では、少なくともMgO又はMgSiN2を用いており、SrOを用いていない。 【0033】 [2]製造方法 (i)材料の混合工程 各例について、窒化ケイ素粉末に対して表1~3に示す質量%の焼結助剤粉末を配合した(窒化ケイ素粉末と焼結助剤粉末との計が100質量%)。この配合粉末100重量部に対して、界面活性型分散剤を0.3重量部と、トルエンとエタノールの混合溶媒を約50重量部添加して、樹脂製容器と窒化ケイ素玉石を用いたボールミルによって粉砕混合を行った。」 「【0045】 図1(a)に実施例1のX線回折パターンを示す。焼結助剤で形成される粒界相に由来するピークが検出されず、表1のとおり、積分強度比は0であった。これは、粒界結晶相が存在せず、粒界相が実質的にアモルファス構造であることを示している。 実施例2~19も実施例1と同様であった。 実施例20,21では焼結助剤で形成される粒界相に由来するピークが検出されたが、表1のとおり、積分強度比は2.4%、3.8%であった。このように、粒界相に結晶相は存在するがその積分強度比が5%以下と僅かであるものを、アモルファス構造と定義する。」 「【図1】 [図:0001438300000003.jpg] 」 2 甲2(特開平7-267735号公報)について 甲2には、「窒化ケイ素セラミツクス材料及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。 「【0018】 【実施例】 実施例1 Si3 N4 粉末(平均粒径0.3μm、α相含有量95%)と、MgO(平均粒径0.3μm)、CeO2 (平均粒径0.5μm)をアセトン中で混合し乾燥したものをホットプレスにより、焼成温度1700℃、保持時間1h、圧力40MPa の条件で窒素雰囲気中で焼成し、60×90×7mmのサイズの焼結体を作製した。組成は、表1に示す通りであり、本発明の組成のものと比較例として本発明の組成範囲外のものについて、同様の条件で行なうとともに、焼結温度1825℃で焼成したもの及び圧力を10MPa で焼成したものを作製し、試験を行なった。 【0019】得られた焼結体を3×4×40mmのサイズに加工した後、アルキメデス法による密度測定、荷重1kgfでのビッカース硬度測定、三点曲げ強度測定(JISR1601)、SEPB法による破壊靭性試験(JIS R1607)を行なった。 【0020】その結果、本発明によるものは、室温での三点曲げ試験で1400MPa 以上の高強度を示したのに対して、比較例7~12で行なった本発明の範囲外の組成では、1200MPa 以下の強度のものしか得られず、本発明の組成範囲が有効であることが明らかである。焼結体のX線回折の結果、本発明によるものは、いずれもSi3 N4 のピークしか見られず、粒界相が非晶質であるのに対して、比較例7~12の焼結体は、Si3 N4 以外のピークが見られ粒界相が結晶化していることがわかった。また、焼結温度が1825℃でホットプレスした焼結体(比較例13)では、本発明の組成範囲内でも本発明の温度範囲で焼成したものに比べて粒成長が進み、大幅に強度が低下した。一方、圧力10MPa で焼成した焼結体(比較例14)でも強度が得られず、高強度を発現するためには、十分な圧力が必要であることが証明された。これらの結果から、室温での強度が1400MPa以上の高強度材料を得るために、本発明の有効性が証明された。 【0021】 【表1】 [図:0001438300000004.jpg] 」 第6 新規性・進歩性(申立理由1)についての当審の判断 1 甲1に記載された発明 (1)前記第5の1(6)における甲1の実施例20に関する記載に着目すると、 ア 【0019】には、「窒化ケイ素焼結体は、窒化ケイ素と、焼結助剤で形成される粒界相とからなり、前記粒界相がアモルファス構造であることが好ましい。」との記載がある。 イ 【0027】に記載されるような「窒化ケイ素焼結体」を示す「実施例20」に関し、【0045】には、「焼結助剤で形成される粒界相に由来するピークが検出され」、「積分強度比は2.4%」であることが記載されており、これに対して、【0029】の表2の記載を確認すると、確かに実施例20における積分強度比の値は「2.4」となっている。そして、【0045】には、「このように、粒界相に結晶相は存在するがその積分強度比が5%以下と僅かであるものを、アモルファス構造と定義する」とも記載されている。 ウ また、【0029】の表2によれば、実施例20における「窒化ケイ素焼結体」を100μmに研磨して測定した絶縁破壊電圧が5.2kVとなっている。 (2)そうすると、甲1には実施例20に関し、次の発明が記載されているといえる。 <甲1発明> 窒化ケイ素と、焼結助剤で形成される粒界相とからなる、窒化ケイ素焼結体であって、 前記粒界相は結晶相が存在するアモルファス構造となっており、100μmに研磨して測定した絶縁破壊電圧が5.2kVである窒化ケイ素焼結体。 2 新規性・進歩性に関する検討 (1)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明との対比 甲1発明の「窒化ケイ素焼結体」を構成する「窒化ケイ素」は、かかる「窒化ケイ素」とともに「窒化ケイ素焼結体」を構成する「焼結助剤で形成される粒界相」が、そもそも「粒界」の相である旨の表現ぶりになっていること、また、甲1の【0020】における、 「粒界相がアモルファス構造であることにより、焼結後の冷却時に、体積収縮が小さくなるとともに、焼結助剤がより低温まで液相として存在して窒化ケイ素結晶粒間の狭い部分まで行き渡るため、窒化ケイ素焼結体中のボイドが少なくなり、窒化ケイ素焼結体の内部応力が減少して反りが小さくなる。また、ボイド形状の凹凸が小さくなる。」 との記載において、「窒化ケイ素結晶粒」との用語が使われていることからも、「粒子」の形態をとっていることが理解できる。 そうすると、甲1発明の「窒化ケイ素焼結体」を構成する「窒化ケイ素」は、本件発明1の「窒化ケイ素粒子」に相当し、また、甲1発明の「焼結助剤で形成される粒界相」は、本件発明1の「窒化ケイ素粒子の間に存在する粒界相」に相当するといえるから、甲1発明の「窒化ケイ素と、焼結助剤で形成される粒界相とからなる、窒化ケイ素焼結体」は、本件発明1の「窒化ケイ素粒子と、前記窒化ケイ素粒子の間に存在する粒界相とを有する」「窒化ケイ素焼結体」に相当する。 イ 一致点・相違点 以上により、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。 <一致点> 「窒化ケイ素粒子と、前記窒化ケイ素粒子の間に存在する粒界相とを有する窒化ケイ素焼結体」 <相違点1> 本件発明1の「窒化ケイ素焼結体」は、「フッ素元素が所定割合残留し」、「窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板において、基板表面における絶縁破壊電界Viが常温で8kV/mm以上である」のに対し、甲1発明の「窒化ケイ素焼結体」は、「粒界相は結晶相が存在するアモルファス構造となっており、100μmに研磨して測定した絶縁破壊電圧が5.2kVである」とされている点。 ウ 相違点1についての検討 上記相違点1について検討する。 (ア)前記第2の2(1)アに示した本件明細書等【0035】、【0044】及び【0074】の記載によれば、窒化ケイ素焼結体に、「フッ素元素が所定割合残留している」ことで、液相の焼結初期の緻密化の開始温度を低下させるとともに、粒界結晶化抑制を容易にし、粒界ガラス層の均一性を向上させ、焼結初期における緻密化を促進させる作用が奏されることが理解できる。 (イ)また、本件明細書等には、 【0007】に、 「しかしながら、従来の窒化ケイ素焼結体基板では、(特許文献1のような希土類元素を含む窒化ケイ素焼結体においても)粒界相中の粒界結晶相がある程度存在することによって、エッチング処理後の基板表面の外観不良の要因となり得る、窒化ケイ素焼結体の粒界結晶相部分にエッチングのむら(またはエッチング残り)が起こり得る。特に、特許文献2のように、耐エッチング性を高くするために粒界結晶相の割合を増加させると、このエッチングのむらはより一層顕著になる。このような、粒界結晶相部分のエッチングのむらが、基板内の粒子分布に不均一性を生じさせ、基板表面に局所的な絶縁耐圧の低下を引き起こすことが問題として挙げられる。特に、回路基板では、配線パターン端部における電界集中が発生し、絶縁基板表面に沿った放電路が形成されることで絶縁破壊につながることが知られている。この絶縁破壊現象は沿面放電と呼ばれ、機器の破損を引き起こし得ることから、このような電界集中を緩和させるべく、窒化ケイ素焼結体の基板表面の絶縁耐圧を向上させることが求められる。」と記載され、 【0008】に、 「発明者らは、従来の窒化ケイ素焼結体に対し、その製造方法を見直すとともに、粒界相の結晶化の制御に着目して、窒化ケイ素焼結体の基板特性をより一層改善することを課題とした。」と記載され、 【0009】に、 「本発明は、上記課題を解決するために、その目的は、エッチング処理後の基板表面におけるエッチングのむらを低減し、絶縁耐圧性能が改善された窒化ケイ素焼結体、および、その製造方法を提供することにある。」 と記載され、 【0038】に、 「窒化ケイ素焼結体は、耐エッチング性を評価するために、特定のエッチング処理条件(50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬)でエッチング処理された。窒化ケイ素焼結体のエッチング処理後の単位表面積当たりの重量減少量wdが12μg/mm2以下である。重量減少量wdは、窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板の重量と、エッチング処理前の基板の重量との差分を、基板の表面積で除算することによって得られる。後述するとおり、エッチング量を示す重量減少量wdは、第2族元素フッ化物を含有しない従来の窒化ケイ素焼結体と比べて低減されている。つまり、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、より高い耐エッチング性を有している。」とも記載され 【0043】に、 「そして、窒化ケイ素焼結体は、エッチング処理後の基板において、常温または室温(25℃の測定環境下)における基板表面の絶縁破壊電界Viが8kV/mm以上である。一方で、図3に示すような、第2族元素フッ化物を含有しない従来の窒化ケイ素焼結体では、常温または室温(25℃の測定環境下)の基板表面における絶縁破壊電界Viが8kV/mm未満となることが分かっている。すなわち、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、従来より改善された絶縁耐圧性能を有している。ここで、絶縁破壊電界Vi(V/mm)は、以下のように評価された。エッチング処理後の窒化ケイ素焼結体の基板表面に、2つの独立した銅板の電極A、Bを最小距離で離間させるようにスパッタ法で印刷した(図5参照)。そして、25℃のフッ素系不活性液体(フロリナート)中で電極に交流電流を印加し、その絶縁が破壊される電圧を測定し、その測定値を最小距離で除算することによって絶縁破壊電界Vi(V/mm)が得られた。」 と記載されている。 (ウ)そうすると、特許請求の範囲の請求項1に記載された、 「前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板において、基板表面における絶縁破壊電界Viが常温で8kV/mm以上である」 との状態が、主には上記(ア)に挙げたように、フッ素元素が焼結体中に残留したことによる粒界結晶化抑制の作用により実現すると理解できるから、本件発明1の「窒化ケイ素焼結体」において、「フッ素元素が所定割合残留している」ことは、 「窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板において、基板表面における絶縁破壊電界Viが常温で8kV/mm以上である」 状態を実現するための必要条件と解される。 (エ)それに対して、甲1発明には、フッ素元素が所定割合残留することで、本件発明1のようなエッチング処理後の絶縁破壊電圧特性が実現している窒化ケイ素焼結体は示されていないから、上記相違点1は実質的相違点である。 また、甲1には、フッ素元素が所定割合残留することで、エッチング処理後の絶縁破壊電圧特性が向上することについて記載も示唆もなされておらず、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて、相違点1に係る本件発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 エ 小括 よって、本件発明1は、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)請求項1を直接又は間接的に引用する場合の本件発明4、6及び12について 請求項1を直接又は間接的に引用する場合の本件発明4、6及び12は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(1)と事情は同じである。 よって、請求項1を直接又は間接的に引用する場合の本件発明4、6及び12は、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明3について ア 本件発明3と甲1発明との対比 (ア)上記(1)アで検討したのと同様、甲1発明の「窒化ケイ素と、焼結助剤で形成される粒界相とからなる、窒化ケイ素焼結体」は、本件発明3の「窒化ケイ素粒子と、前記窒化ケイ素粒子の間に存在する粒界相とを有する」「窒化ケイ素焼結体」に相当する。 (イ)甲1発明の「粒界相は結晶相が存在するアモルファス構造となって」いる旨の特定は、上記(1)ア(イ)のとおり、「粒界相に結晶相は存在するがその積分強度比が5%以下と僅かである」(【0045】)ことを意味するものであって、甲1発明の粒界相の大部分はアモルファス相であるが、僅かに結晶相も含んでいるものと理解されるから、かかる甲1発明の特定は、本件発明3の「粒界相は、アモルファス相と粒界結晶相とからなり」との特定に相当する。 イ 一致点・相違点 以上により、本件発明3と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。 <一致点> 「窒化ケイ素粒子と、前記窒化ケイ素粒子の間に存在する粒界相とを有するとともに、前記粒界相は、アモルファス相と粒界結晶相とからなる、窒化ケイ素焼結体」 <相違点2> 本件発明1の「窒化ケイ素焼結体」は、「フッ素元素が所定割合残留し」、「所定のエッチング条件下で前記窒化ケイ素焼結体のエッチング処理後の単位表面積当たりの重量減少量wdが12μg/mm2以下であり、 前記重量減少量wdは、前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板の重量と、エッチング処理前の基板の重量との差分を、基板の表面積で除算することによって得られる」のに対し、甲1発明の「窒化ケイ素焼結体」は、「粒界相は結晶相が存在するアモルファス構造となっており、100μmに研磨して測定した絶縁破壊電圧が5.2kVである」とされている点。 ウ 相違点2についての検討 上記相違点2について検討する。 (ア)前記(1)ウ(イ)に示した本件明細書等における【0007】~【0009】、【0038】の記載からは、特許請求の範囲の請求項3に記載された、 「所定のエッチング条件下で前記窒化ケイ素焼結体のエッチング処理後の単位表面積当たりの重量減少量wdが12μg/mm2以下であり、 前記重量減少量wdは、前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板の重量と、エッチング処理前の基板の重量との差分を、基板の表面積で除算することによって得られる」 との状態が、主には上記(1)ウ(ア)に挙げたように、フッ素元素が焼結体中に残留したことによる粒界結晶化抑制の作用により実現すると理解できるから、本件発明3の「窒化ケイ素焼結体」において、「フッ素元素が所定割合残留している」ことは、 「所定のエッチング条件下で前記窒化ケイ素焼結体のエッチング処理後の単位表面積当たりの重量減少量wdが12μg/mm2以下であり、 前記重量減少量wdは、前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板の重量と、エッチング処理前の基板の重量との差分を、基板の表面積で除算することによって得られる」 状態を実現するための必要条件と解される。 (イ)それに対して、甲1発明には、フッ素元素が所定割合残留することで、本件発明3のようにエッチング処理後の単位表面積当たりの重量減少量wdを抑えた窒化ケイ素焼結体は示されていないから、上記相違点2は実質的相違点である。 また、甲1には、フッ素元素が所定割合残留することで、エッチング処理後の単位表面積当たりの重量減少量wdを抑えることについて記載も示唆もなされておらず、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて、相違点2に係る本件発明3の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 エ 小括 よって、本件発明3は、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)請求項3を直接引用する場合の本件発明4、6及び12について 請求項3を直接引用する場合の本件発明4、6及び12は、本件発明3の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(3)と事情は同じである。 よって、請求項3を直接引用する場合の本件発明4、6及び12は、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 新規性・進歩性(申立理由1)についての当審の判断のまとめ 以上のとおりであるから、第4の1(1)に挙げた新規性・進歩性に関する申立理由1に理由はない。 第7 サポート要件違反(申立理由2、取消理由)についての当審の判断 1 サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 2 特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の記載は、前記第3のとおりである。 3 発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 (1)「このような高熱伝導率および高機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体の基板表面に、回路形成のために各種金属板が接合される。窒化ケイ素焼結体の基板表面へ各種金属板(主に銅板)を接合する方法には、直接接合法や活性金属法などが使用されている。直接接合法は、基板上へ銅板などを接触させた状態で加熱し、基板と銅板とを直接接合するものである。活性金属法は、Ti,Zr,Hfなどの活性金属を含有するろう剤を介してセラミック基板と銅板とを接合するものである。そして、接合後の銅板表面には、回路パターン状にエッチングマスクが形成され、塩化銅溶液や塩酸溶液などのエッチング液に基板全体が浸漬され、銅板の(エッチングマスクが形成されていない)不要部分がエッチングされる。窒化ケイ素焼結体の基板表面がエッチング液に暴露されることにより、その基板表面の特性が変質し得ることから、窒化ケイ素焼結体はより高い耐エッチング性を有することが望ましい。」(【0004】) (2)「しかしながら、従来の窒化ケイ素焼結体基板では、(特許文献1のような希土類元素を含む窒化ケイ素焼結体においても)粒界相中の粒界結晶相がある程度存在することによって、エッチング処理後の基板表面の外観不良の要因となり得る、窒化ケイ素焼結体の粒界結晶相部分にエッチングのむら(またはエッチング残り)が起こり得る。特に、特許文献2のように、耐エッチング性を高くするために粒界結晶相の割合を増加させると、このエッチングのむらはより一層顕著になる。このような、粒界結晶相部分のエッチングのむらが、基板内の粒子分布に不均一性を生じさせ、基板表面に局所的な絶縁耐圧の低下を引き起こすことが問題として挙げられる。特に、回路基板では、配線パターン端部における電界集中が発生し、絶縁基板表面に沿った放電路が形成されることで絶縁破壊につながることが知られている。この絶縁破壊現象は沿面放電と呼ばれ、機器の破損を引き起こし得ることから、このような電界集中を緩和させるべく、窒化ケイ素焼結体の基板表面の絶縁耐圧を向上させることが求められる。」(【0007】) (3)「発明者らは、従来の窒化ケイ素焼結体に対し、その製造方法を見直すとともに、粒界相の結晶化の制御に着目して、窒化ケイ素焼結体の基板特性をより一層改善することを課題とした。」(【0008】) (4)「本発明は、上記課題を解決するために、その目的は、エッチング処理後の基板表面におけるエッチングのむらを低減し、絶縁耐圧性能が改善された窒化ケイ素焼結体、および、その製造方法を提供することにある。」(【0009】) (5)「・・・窒化ケイ素焼結体を緻密化し、その結果、比較的高い熱伝導性と機械的強度を両立することができることが過去の知見として分かっている。・・・」(【0033】) (6)「本発明は、その原料に添加剤として第2族元素フッ化物を添加することで、窒化ケイ素粉末のフッ素量(不純物量)によらず、基板表面のエッチングむらを抑えるために、焼結体の粒界相の結晶化を効果的に制御することを可能とした。すなわち、窒化ケイ素焼結体は、エッチングむらの軽減とともに、エッチング処理後の窒化ケイ素焼結体の基板表面における絶縁耐圧性能や耐エッチング性を改善したものである。ここで、第2族元素フッ化物は、Mg、Ca、Sr、およびBaのフッ化物からなる群から選択された1つ以上である。特に、第2族元素フッ化物は、CaF2、MgF2、またはそれらの組み合わせであることが好ましい。第2族元素フッ化物がCaF2を含む場合、焼成時の液相中に導入されたCaイオンとFイオンが焼結後も粒界相に残留し、粒界相の凝固温度を低下させ、粒界結晶化抑制を容易にすることが考えられる。一方、第2族元素フッ化物がMgF2を含む場合、MgイオンがMgOと同様に焼結体の緻密化を促進する。本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、好ましくは、0.05~0.2重量%のフッ素元素を含むように構成された。また、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、より好ましくは、0.02~0.2重量%のカルシウム元素を含有する。カルシウム元素の含有量は、CaF2の配合量に基づいて算出され得る。」(【0035】) (7)「次に、第2族元素フッ化物(CaF2)の添加による窒化ケイ素焼結体の特性の変化について考察する。添加剤としてのCaF2粉末を所定の添加量で添加した混合体(そのシート成形体)の焼結過程では、酸窒化ガラスの液相組成へCaイオンおよびFイオンが加わる。CaイオンはSiとMgを含む酸窒化ガラスと共晶化合物を形成することでガラスの融点を下げる効果がある。また、Fイオンを酸窒化ガラスへ導入することでも液相中への窒素溶解度を増加させてガラス融点を低下させるとともに、2つのFイオンが1つのOイオンを置換することでガラス分子の重合度が低下し、液相の粘度を低下させることができる。これらの効果によって液相の焼結初期の緻密化の開始温度が低下させるとともに、粒界ガラス層の均一性を向上させ、焼結初期における緻密化を促進させる効果がある。焼結初期段階で緻密化を進めておくと、焼結初期から焼結後期までの全焼結過程で観察される成形体からの収縮割合に対する、焼結中期から焼結後期までの加熱過程で観測される収縮割合が小さくなる。焼結中期から焼結後期の加熱工程では、MgOやSiO2の揮発による影響により、液相量の減少や粘度増加が起こりやすく、焼結初期段階における緻密化を進めておくことは、焼結体の微細構造化、基板表裏面や基板面内での均一性や特性改善に有効である。」(【0044】) (8)「【表1】 [図:0001438300000005.jpg] 」(【0071】) (9)「【表2】 [図:0001438300000006.jpg] 」(【0072】) (10)「表1に示すとおり、焼成前の原料粉末の混合体のフッ素量は、実施例1~7では600ppm 以上であるのに対し、比較例1~3では600ppm未満である。比較例1~3のフッ素量は、主に、窒化ケイ素の原料粉末の不純物に起因しているが、この原料粉末起因のフッ素量は800ppm以下である。また、焼結体の特性について、焼結体基板中に含有されるフッ素量(フッ素元素)は、実施例1~7では0.05重量%以上であるのに対し、比較例1~3では検出されなかった(つまり0重量%)。すなわち、フッ素を適量の第2族元素フッ化物として添加したことにより、フッ素元素が焼結体中に効果的に残留したことが考えられる。」(【0074】) 4 発明が解決しようとする課題 上記3(1)~(4)によると、発明の詳細な説明の記載から把握される発明が解決しようとする課題は、「高熱伝導率および高機械的強度を併せ持つ」「窒化ケイ素焼結体に対し、その製造方法を見直すとともに、粒界相の結晶化の制御に着目」することで、「粒界相中の粒界結晶相がある程度存在すること」に起因した「回路形成」のための「エッチング処理後の基板表面におけるエッチングのむらを低減」し、「絶縁基板表面」における「絶縁耐圧性能が改善された窒化ケイ素焼結体、および、その製造方法を提供すること」と把握される。 5 課題を解決するための手段 上記4の課題を解決する手段に関しては、発明の詳細な説明の記載をもとにして、以下のように把握をすることができる。 (1)上記3(7)によれば、窒化ケイ素焼結体の焼結過程において、Fイオンを酸窒化ガラスへ導入することで、液相中への窒素溶解度を増加させてガラス融点を低下させるとともに、2つのFイオンが1つのOイオンを置換することでガラス分子の重合度が低下し、液相の粘度を低下させることにより、液相の焼結初期の緻密化の開始温度を低下させるとともに、粒界ガラス層の均一性を向上させ、焼結初期における緻密化を促進させる効果があり、その結果、焼結初期から焼結後期までの全焼結過程で観察される成形体からの収縮割合に対し、焼結中期から焼結後期までの、MgOやSiO2の揮発による液相量の減少や粘度増加が起こりやすい加熱過程で観測される収縮割合が小さくなり、焼結体の微細構造化、基板表裏面や基板面内での均一性や特性改善に有効となることが示されている。そして、上記3(5)を参酌すると、このような窒化ケイ素焼結体を緻密化は、比較的高い熱伝導性と機械的強度との両立をもたらすことを理解できる。 (2)また、上記3(6)には、窒化ケイ素焼結体における好ましいフッ素元素の含有割合範囲が示されるとともに、Fイオンが焼結後も残留する粒界相の凝固温度が低下することにより、粒界結晶化が抑制され、基板表面のエッチングむらが軽減され、エッチング処理後の窒化ケイ素焼結体の基板表面における絶縁耐圧性能や耐エッチング性が改善したことも示されている。 (3)このように、上記(2)によれば、焼結後の窒化ケイ素焼結体に所定割合残留するFイオンの働きにより、上記4の課題が解決されるものであることが把握できる。また、上記(1)によると、その際には、上記4の課題の前提たる「高熱伝導率および高機械的強度を併せ持つ」窒化ケイ素焼結体の特性も、Fイオンの働きによる緻密化促進で担保されると理解できる。 (4)そして、上記3(8)及び(9)に示されている実施例・比較例も、上記(3)で述べた機序のとおりに説明できる結果となっている。 (5)そうすると、発明の詳細な説明の記載から把握される上記4の課題を解決する手段は、窒化ケイ素粒子と、前記窒化ケイ素粒子の間に存在する粒界相とを有するとともに、Fイオンが所定割合残留していることにより、絶縁耐圧性能又は耐エッチング性(当審注:上記3(4)及び(6)によれば、耐エッチング性を備えることでエッチングのむらが低減されるので、結局のところ、絶縁耐圧性能が改善されることに帰結すると解される。)が改善した窒化ケイ素焼結体として把握することができる。 6 本件発明1~4、6及び12と発明の詳細な説明における記載との対応関係 (1)本件発明1~4、6及び12の窒化ケイ素焼結体(前記第3参照)は、いずれも「窒化ケイ素粒子と、前記窒化ケイ素粒子の間に存在する粒界相とを有する」とともに「フッ素元素が所定割合残留している窒化ケイ素焼結体」であって、 (i)これら発明のうち、本件発明1の発明特定事項を含む場合のフッ素元素の残留に係る上記「所定割合」とは、 「前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板において、基板表面における絶縁破壊電界Viが常温で8kV/mm以上である」 との絶縁耐圧性能が改善された状態を実現するために必要な割合を意味しており、 (ii)これら発明のうち、本件発明3の発明特定事項を含む場合のフッ素元素の残留に係る上記「所定割合」とは、 「所定のエッチング条件下で前記窒化ケイ素焼結体のエッチング処理後の単位表面積当たりの重量減少量wdが12μg/mm2以下であり、 前記重量減少量wdは、前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板の重量と、エッチング処理前の基板の重量との差分を、基板の表面積で除算することによって得られる」 との耐エッチング性が改善された状態を実現するために必要な割合を意味していると解される。 (2)そして、上記3(6)を参酌すると、発明の詳細な説明には、「Fイオンが焼結後も粒界相に残留し、粒界相の凝固温度を低下させ、粒界結晶化抑制を容易にする」との記載がなされていると同時に、「本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、好ましくは、0.05~0.2重量%のフッ素元素を含むように構成された」との記載がなされていることから、窒化ケイ素焼結体にFイオンが残留することと、フッ素元素が残留することとに、技術的意義の違いがあるものとも解されない。 (3)そうすると、上記(1)の発明特定事項を備える本件発明1~4、6及び12は、上記3(5)の課題を解決する手段同様、課題を解決すると認識できる範囲のものである。 したがって、本件発明1~4、6及び12は、発明の詳細な説明に記載したものである。 7 申立人の主張について (1)申立人の主張 申立人は、異議申立書の3(4)(4-4)アにおける「サポート要件について」の記載不備理由として、以下のとおり主張する。 「本件明細書の【0008】および【0009】には、発明の課題として、粒界相の結晶化を制御することにより、エッチング処理後の基板表面におけるエッチングのむらを低減し、窒化ケイ素焼結体の絶縁耐圧性能を改善することが示されている。 本件明細書の【0032】、【0034】および【0035】から、窒化ケイ素焼結体の原料に添加剤として第2族元素フッ化物を添加することで発明の課題を解決できることが理解できる。 本件明細書の【0032】には、以下の記載がある。 「本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、1~5重量%の希土類酸化物(第1の焼結助剤)と、1.5~3.5重量%の酸化マグネシウム(第2の焼結助剤)と、0.05~0.3重量%の第2族元素フッ化物と、残部を構成するSi3N4とを含有する窒化ケイ素焼結体からなる。換言すると、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、窒化ケイ素粉末、希土類酸化物粉末、酸化マグネシウム粉末および第2族元素フッ化物粉末を所定の配合比で混合した原料粉末のスラリー化した混合体を焼成したものである。」 本件明細書の実施例1~7の窒化ケイ素焼結体は、原料として2.5~4.0重量%のY2O3と、2.0~3.0重量%のMgOと0.05~0.30重量%の第2族元素フッ化物と、残部を構成するSi3N4とを含有する。 本件明細書の【0039】および実施例1~3(図2~4)の対比からも、窒化ケイ素焼結体中に第2族元素フッ化物を含有することによって、発明の課題を解決できることが理解できる。 一方、本件発明1~4、6および12はいずれも第2族元素フッ化物を含有することが特定されていない。 以上より、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、本件発明1~4、6および12は発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであることは明らかである。」 (2)申立人の主張についての検討 ア 上記(1)の申立人の主張は、本件発明1~4、6及び12は、いずれも窒化ケイ素焼結体中に第2族元素フッ化物を含有することが特定されていないものであるから、発明の詳細な説明に記載された課題を解決していない旨の主張といえる。 イ しかしながら、本件明細書等には、申立人が述べるとおり、窒化ケイ素焼結体の原料に対し、添加剤として第2族元素フッ化物を添加することは記載されている一方、それを焼成した後の窒化ケイ素焼結体にも「第2族元素フッ化物」そのものが含有されていることについては、記載も示唆もされていない。 また、本件特許に係る願書に最初に添付した願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係について確認しても、焼成後の窒化ケイ素焼結体にも「第2族元素フッ化物」そのものが含有されることについては、記載も示唆もされていないから、そもそも申立人が上記主張で特定すべきとしている技術的事項を特許請求の範囲の発明特定事項として導入できる根拠もなく、かかる主張は失当である。 ウ さらに、上記(1)の申立人の主張が、本件発明1~4、6及び12が上記課題を解決するためには、焼結体中に第2族元素フッ化物に由来する第2族元素の存在が不可欠であるとの前提に立つものであると仮定した上において、以下検討する。 (ア)上記4によれば、発明が解決しようとする課題に関し、発明の詳細な説明の記載からは、「エッチング処理後の基板表面におけるエッチングのむらを低減」し、「絶縁基板表面」における「絶縁耐圧性能が改善された窒化ケイ素焼結体、および、その製造方法を提供する」ことが読み取れる。 (イ)また、上記3によれば、発明の詳細な説明には、以下の記載がなされている。 a 上記3(6)の【0035】には、「本発明は、その原料に添加剤として第2族元素フッ化物を添加することで、窒化ケイ素粉末のフッ素量(不純物量)によらず、基板表面のエッチングむらを抑えるために、焼結体の粒界相の結晶化を効果的に制御することを可能とした」と記載されている。 b 上記3(6)の【0035】には、「第2族元素フッ化物がCaF2を含む場合、焼成時の液相中に導入されたCaイオンとFイオンが焼結後も粒界相に残留し、粒界相の凝固温度を低下させ、粒界結晶化抑制を容易にすることが考えられる」と記載されている。 c 上記3(7)の【0044】には、「添加剤としてのCaF2粉末を所定の添加量で添加した混合体(そのシート成形体)の焼結過程では、酸窒化ガラスの液相組成へCaイオンおよびFイオンが加わる」前提において、 (a)「CaイオンはSiとMgを含む酸窒化ガラスと共晶化合物を形成することでガラスの融点を下げる効果がある」とも、 (b)「Fイオンを酸窒化ガラスへ導入することでも液相中への窒素溶解度を増加させてガラス融点を低下させるとともに、2つのFイオンが1つのOイオンを置換することでガラス分子の重合度が低下し、液相の粘度を低下させることができる」とも述べられた上で、 (c)「これらの効果によって液相の焼結初期の緻密化の開始温度が低下させるとともに、粒界ガラス層の均一性を向上させ、焼結初期における緻密化を促進させる効果がある」(当審注:「開始温度が低下させる」は、「開始温度を低下させる」の誤記と認める。)と記載されている。 d 上記3(10)の【0074】には、「フッ素を適量の第2族元素フッ化物として添加したことにより、フッ素元素が焼結体中に効果的に残留したことが考えられる」と記載され、また、上記3(8)の表1及び上記3(9)の表2に示される実施例1~7及び比較例1~3の各試料についての条件及び各種測定結果では、「焼結体のフッ素含有量(ppm)」の測定結果が示されている一方で、「焼結体の第2族元素含有量」は示されていない。 (ウ)以上のとおり、発明の詳細な説明においては、上記(イ)dのように、【0074】に、第2族元素フッ化物の添加がフッ素元素の焼結体中への効果的な残留をもたらすことに着目した記載がなされ、かつ、表1及び表2では、第2族元素フッ化物を構成する元素に関し、実施例1~7及び比較例1~3における「焼結体の第2族元素含有量」が何ら示されないまま、専ら「焼結体のフッ素含有量(ppm)」の測定結果のみ示されていることからしても、第2族元素フッ化物を構成する元素のうち、焼結体中で主に課題解決に寄与する元素はフッ素であると理解される一方、焼結体中に第2族元素が含有されることに関しては、課題解決のための必須要件であるとまでは解されない。 (エ)また、上記(イ)c(a)のように、【0044】には、「CaイオンはSiとMgを含む酸窒化ガラスと共晶化合物を形成することでガラスの融点を下げる効果がある」との、第2族元素イオンであるCaイオンが焼結体に残留することで奏される効果についての記載があるとは認められる一方、同段落には、焼結体へのFイオンの導入によるガラス融点低下、分子構造の低重合化及び粘度低下の効果についても記載されている。 そうすると、仮に、かかるガラスの融点を下げる効果が課題解決に結びつくものだとしたところで、同効果は、フッ素元素が焼結体中に所定割合残留するのみでも期待ができる効果であり、第2族元素が焼結体中に同時に存在しないと奏し得ない効果であるとも解されない。 (オ)さらには、発明の詳細な説明におけるその余の記載を参酌しても、焼結体中の第2族元素の存在が課題解決のために不可欠とまで理解できるものではない。 (カ)よって、仮に上記(1)の申立人の主張が、本件発明1~4、6及び12が上記課題を解決するためには、焼結体中に第2族元素フッ化物に由来する第2族元素の存在が不可欠であるとの前提に立つものであったとしても、上記4~6の判断を左右するものではない。 8 サポート要件違反(申立理由2、取消理由)についての当審の判断のまとめ 以上のとおりであるから、前記第4の1(2)に挙げたサポート要件違反に関する申立理由1に理由はなく、また、前記第4の2に挙げたサポート要件違反に関する取消理由も解消している。 第8 実施可能要件違反(申立理由3)についての当審の判断 1 実施可能要件の判断手法 物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである(実施可能要件を満たす)というためには、発明の詳細な説明には、当業者がその物を製造することができ、かつ、その物を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されている必要がある。 2 特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の記載は、前記第3のとおりである。 3 発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 (1)「実施例1~7、比較例1~3に係る窒化ケイ素焼結体は以下の条件および手順によって作製された。まず、直接窒化法によって製造された高純度の窒化ケイ素粉末を準備した。窒化ケイ素粉末は、平均粒子径(D50)が約0.8μmであり、酸素含有量が約0.8重量%である。各粉末の配合組成比に合わせて、窒化ケイ素粉末に対してMgO粉末及びY2O3粉末を適量添加し(実施例1~7、比較例1~3)、さらに、CaF2粉末および/またはMgF2粉末(実施例1~7、比較例2)を適量添加した。この混合体100重量部に対して、ポリカルボン酸系の界面活性型分散剤を0.3mg/m2と、トルエンとエタノールの混合溶媒を約50重量部添加して、窒化ケイ素玉石を用いて粉砕混合を行った。その後、バインダーとしてポリビニルブチラールを18重量部と、可塑剤としてアジピン酸ジオクチルを6重量部と、トルエンとエタノールの混合溶媒を約20重量部加え、バインダーが完全に溶解・混合されるまで、ボールミルによって攪拌混合した後、スラリーを作製した。そして、スラリーを真空中で放置し、脱泡及び揮発させることで、粘度調整を行った。次いで、作製したスラリーからドクターブレード法によってシート成形体を得た。得られたシート成形体を金型プレス加工により260mm×200mmの形状に型抜きした。その後、型抜きしたシート表面に離型剤としての窒化ホウ素粉末のスプレーを行い、1ブロックあたり25枚の積層体を準備し、窒化ホウ素製のさや内へ配置し、乾燥空気中、500℃に約4時間加熱し、バインダーなどの有機成分を除去した。そして、シート成形体を9気圧の窒素雰囲気中、1860℃で4時間加熱することで、窒化ケイ素基板の積層体を得た。窒化ケイ素積層体の基板を分離し、最上段と最下段の基板を取り除き、残り23枚の基板外周をレーザーによってブレーク処理を行い、基板表面に残留した窒化ホウ素粉末とレーザー加工によって付着した飛沫をホーニング処理によって除去することで、190mm×140mm×0.32mmの窒化ケイ素焼結体の基板を得た。」(【0057】) (2)「・エッチング処理後の単位表面積当たりの重量減少量 作製した窒化ケイ素焼結体の40mm四方の基板の重量を測定し、その後、50℃に加熱した質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して水洗と乾燥を行った後、再度、基板の重量を測定した。エッチング処理前の重量からエッチング処理後の重量を差し引いた値を、表面積(3200mm2)で除算することによって、単位表面積当たりの重量減少量を算出した。ここで、側面(厚み0.32mm)が占める表面積の割合は、表面および裏面の面積に対して極めて小さいので、計算式において厚みを無視した。」(【0066】) (3)「・エッチング処理後の基板表面の絶縁破壊電界 作製した窒化ケイ素焼結体を50℃に加熱した質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して水洗と乾燥を行った後、基板表面上に幅1mm、間隔(最小距離)2mmであるL/Sパターンをスパッタにより形成し(図5参照)、25℃(常温)のフロリナート中で交流電圧を印加し、絶縁破壊電圧の測定を行った。図5の電極Aと電極Bに測定端子を取り付け、部分放電測定装置(フジクラ・ダイヤケーブル製 部分放電測定装置A006)を使用して絶縁破壊電圧を測定した。AとBの電極は5箇所において最小距離を形成しているが、いずれか1箇所に絶縁破壊が生じた時点の電圧値が絶縁破壊電圧として測定される。そして、絶縁破壊電圧値をパターン間距離(2mm)で除することで絶縁破壊電界が導出された。」(【0067】) (4)「【表1】 [図:0001438300000007.jpg] 」(【0071】) (5)「【表2】 [図:0001438300000008.jpg] 」(【0072】) (6)「本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、多数の窒化ケイ素粒子と、窒化ケイ素粒子の間に存在する粒界相とを含む。また、窒化ケイ素焼結体は、X線回折パターンにおいて、β-Si3N4のX線回折ピークを有する。粒界相は、アモルファス相と粒界結晶相とからなる。粒界相における粒界結晶相の割合(つまり、結晶化の度合い)を示す指標として、粒界結晶相の積分強度比Rが3%以下である。積分強度比Rは、以下の式:R=(1-Ig/Ia)×100(%)で表される。Igがβ-Si3N4に指数付けされた全てのX線回折ピークの積分強度の総和であり、Iaが観察された全てのX線回折ピークの積分強度の総和である。粒界結晶相の積分強度比Rは、好ましくは、0.3~3%である。」(【0036】) (7)「図2~図4は、エッチング処理後の焼結体基板断面のSEM画像(倍率250倍のBSE像)であり、白い箇所が粒界結晶相を示し、それ以外の箇所には粒界結晶相が存在していない。エッチングされていない基板深部では、白い箇所が一様に存在し、粒界結晶相がエッチングされていないことが分かる。一方で、基板表層から所定の深さの表層領域では、エッチング処理によって白い箇所が除去されていることが分かる。そして、表2および図2~図4によれば、実施例のエッチング深さDよりも、比較例のエッチング深さDの方が有意に大きく、さらには、比較例の基板表裏面におけるエッチング深さ比RDには有意な差が生じている。より具体的には、実施例1~7の窒化ケイ素焼結体のエッチング深さDが40μm未満(約32~36μm)であり、且つ、基板表裏面のエッチング深さ比RDが10%以下であるのに対し、比較例1~3では、エッチング深さDが40μmよりも大きく(約43~46μm)、且つ、基板表裏面のエッチング深さ比RDが10%よりも大きい。また、境界線長さ比RLについて、実施例1~7の窒化ケイ素焼結体の境界線長さ比RLが2.0未満(約1.5~1.6)であるのに対し、比較例1~3では、境界線長さ比RLが2.0以上(約2.0~2.1)である。さらに、実施例1~7では、表層深さD/2未満の表層領域には、粒界結晶相が残っていないのに対し、比較例1~3では粒界結晶相がエッチングされずに残っていることが確認された。これらのSEM観察および解析結果もまた、本発明の窒化ケイ素焼結体における耐エッチング性の改善、および基板表面の絶縁破壊電界Viの改善を裏付けている。」 (8)「上記説明したスラリー形成工程から焼成工程を経ることによって、高い耐エッチング性を有する窒化ケイ素焼結体の基板を得ることができる。このようにして作製した窒化ケイ素焼結体の基板表面に銅板などの金属板がろう接(ろう付け又は半田付け)され、接合後の銅板表面に回路パターン状のエッチングマスクが形成され、塩化銅溶液や塩酸溶液などのエッチング液によって、銅板の不要部分がエッチングされることによって、回路基板が製造され得る。すなわち、回路基板は、(銅板のエッチング条件で)エッチング処理された窒化ケイ素焼結体からなる基板と、基板の表面上に接合され、エッチング処理によって所定の回路状に形成された金属板と、を備えるように構成され得る。換言すると、回路基板の基板は、本実施形態の窒化ケイ素焼結体が回路形成時にエッチング処理を経たものである。」(【0059】) 4 実施可能要件に関する検討 発明の詳細な説明における上記3の記載内容に照らし、上記2の特許請求の範囲から把握される本件発明1~4及び6に係る「窒化ケイ素焼結体」は、実施例1~7のとおりに製造することができ、かつ、本件発明12に係る「回路基板」は、実施例1~7のように製造される「窒化ケイ素焼結体」を用い、【0059】に記載されるとおりの方法により製造することができること、また、本件発明1~4及び6に係る「窒化ケイ素焼結体」、及び本件発明12に係る「回路基板」は、いずれも基板表面における絶縁破壊電圧が高い回路基板として使用することができることを、それぞれ理解することができる。 そうすると、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~4、6及び12について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。 5 申立人の主張について (1)申立人の主張 申立人は、異議申立書の3(4)(4-4)イにおける「実施可能要件について」の記載不備理由として、以下のとおり主張する。 ア 「「ア. サポート要件について」で説明したとおり、本件発明1~4、6および12は窒化ケイ素焼結体中に第2族元素フッ化物を含有することによって、発明の課題を解決できることが理解でき、第2族元素フッ化物の含有が重要であると認められる。一方、本件発明1~4、6および12はいずれも第2族元素フッ化物を含有することが特定されていない。 第2族元素フッ化物を含有させない場合、どのように調製すればエッチング処理後の基板表面におけるエッチングのむらを低減し、絶縁耐圧性能が改善させることができるのかが、発明の詳細な説明からは不明であり、その実施には当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤または複雑高度な実験が必要である。 よって、発明の詳細な説明は、第2族元素フッ化物を含有することが特定されていない本件発明1~4、6および12を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。」 イ 「また、本件発明1~4、6および12はいずれも焼結助剤およびその量については特定されていない。窒化ケイ素焼結体においては、焼結助剤およびその量によって、焼結体の粒界層の結晶化に影響を与えることは、本件特許出願時の技術常識である。甲2の【0020】には、実施例1~6の焼結体の粒界相が非晶質であるのに対して、焼結助剤の組成のみが実施例1~6と相違する比較例7~12の焼結体の粒界相が結晶質であったことが記載されている。甲2から、焼結助剤およびその量によって、焼結体の粒界層の結晶化に影響を与えることは、自明である。 したがって、本件明細書の実施例の窒化ケイ素焼結体の原料組成と大きく異なる窒化ケイ素焼結体であって、所定のエッチング処理後の基板表面における絶縁破壊電圧Viが常温で8kV/mmである窒化ケイ素焼結体、または、所定のエッチングの条件下で窒化ケイ素焼結体のエッチング処理後の単位表面積当たりの重量減少量wdが12μg/mm2以下である窒化ケイ素焼結体を製造するためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤または複雑高度な実験などを行う必要があると認められる。 上記の点からも、発明の詳細な説明は、窒化ケイ素焼結体の原料組成が何ら特定されていない本件発明1~4、6および12を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。」 (2)申立人の主張についての検討 ア 上記(1)の申立人の主張は、前記第4の1(3)にまとめたとおり、窒化ケイ素焼結体中に第2族元素フッ化物を含有することが特定されておらず、かつ、焼結助剤及びその量についても特定されていない本件発明1~4、6及び12の実施には、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤または複雑高度な実験が必要な場合が含まれるから、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨を主張するものと解される。 イ しかしながら、実施可能要件の判断は、上記1の判断手法に則って行うべきであり、上記申立人の主張は、上記4の判断を左右するものではない。 ウ また、仮に何らか考慮すべき事情があるとしても、発明の詳細な説明における実施例1~7における窒化ケイ素焼結体の製造条件の記載内容、及び、窒化ケイ素焼結体中にフッ素元素の残留割合が重要であることを示唆する前記第7の検討結果を踏まえるに、 (i)本件発明1において特定された 「前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板において、基板表面における絶縁破壊電界Viが常温で8kV/mm以上である」 との絶縁耐圧性能が改善された状態、又は、 (ii)本件発明3において特定された 「所定のエッチング条件下で前記窒化ケイ素焼結体のエッチング処理後の単位表面積当たりの重量減少量wdが12μg/mm2以下であり、 前記重量減少量wdは、前記窒化ケイ素焼結体の基板を、50℃および質量分率7.8%の塩酸溶液中で30分間浸漬して得られるエッチング処理後の基板の重量と、エッチング処理前の基板の重量との差分を、基板の表面積で除算することによって得られる」 との耐エッチング性が改善された状態を実現するにあたり、 たとえば窒化ケイ素焼結体中におけるフッ素元素の残留割合を適宜調製することで、本件発明1~4、6及び12に包含された実施例1~7には直接対応しない態様を実施することも、当業者が通常なし得る範囲で十分可能なものであって、申立人が主張するように、過度の試行錯誤を要するとはいえない。 6 実施可能要件違反(申立理由3)についての当審の判断のまとめ 以上のとおりであるから、前記第4の1(3)に挙げた実施可能要件違反に関する申立理由3に理由はない。 第9 結言 以上のとおりであるから、本件特許1~4、6及び12は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件特許1~4、6及び12を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-701018

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