特許異議申立
2026-700117
C/Cコンポジット及びSi単結晶引き上げ炉用部材
- 審判番号
- 2026-700117
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-108925
- 登録番号
- 7722854
- 請求日
- 2026年02月09日
- 審決日
- 2026年06月02日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東洋炭素株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人大阪フロント特許事務所
- 【異議申立人】米田 耕一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 手島 理
- 分類
- P1651.113-Y (C04B) / P1651.121-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7722854号発明「C/Cコンポジット及びSi単結晶引き上げ炉用部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7722854号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7722854号に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和3年6月30日を出願日とするものであって、令和7年8月4日に特許権の設定登録がされ、令和7年8月13日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和8年2月9日に、請求項1~6に係る特許について、特許異議申立人 米田 耕一郎(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」といい、これらをまとめて「本件発明」という場合がある。)は、特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
炭素繊維を含む、C/Cコンポジットであって、
X線回折法により測定した前記C/Cコンポジットの002面における回折ピークにおいて、ピーク高さの2/3の高さにおけるピーク中心の2θをd0とし、ピーク高さの1/3の高さにおける低角度側の2θをd1とし、ピーク高さの1/3の高さにおける高角度側の2θをd2としたときに、下記式(1)で表される非対称性パラメータPが、1.0以上、2.0以下であり、
かさ密度が、1.70g/cm3以上、2.00g/cm3以下であり、
開気孔率が、16.5%以下である、C/Cコンポジット。
P=(d0-d1)/(d2-d0) …式(1)
【請求項2】
真密度が、2.05g/cm3以上、2.20g/cm3以下である、請求項1に記載のC/Cコンポジット。
【請求項3】
前記炭素繊維の真密度が、2.00g/cm3以上、2.20g/cm3以下である、請求項1又は2に記載のC/Cコンポジット。
【請求項4】
前記炭素繊維が、長さ1mm以上、50mm以下の短繊維である、請求項1~3のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。
【請求項5】
フィラメントワインディング成形法により成形された成形体により構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。
【請求項6】
炭素繊維を含む、C/Cコンポジットを含む、Si単結晶引き上げ炉用部材であって、
X線回折法により測定した前記C/Cコンポジットの002面における回折ピークにおいて、ピーク高さの2/3の高さにおけるピーク中心の2θをd0とし、ピーク高さの1/3の高さにおける低角度側の2θをd1とし、ピーク高さの1/3の高さにおける高角度側の2θをd2としたときに、下記式(1)で表される非対称性パラメータPが、1.0以上、2.0以下であり、
前記C/Cコンポジットのかさ密度が、1.70g/cm3以上、2.00g/cm3以下であり、
前記C/Cコンポジットにより構成されている、ルツボである、Si単結晶引き上げ炉用部材。
P=(d0-d1)/(d2-d0) …式(1)」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証~甲第4号証を提出し、以下の理由により、請求項1~6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性)
本件発明1~5は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2 申立理由2(進歩性)
本件発明1~5は、甲第1号証に記載された発明、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証~甲第4号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明6は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第4号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 特開2009-269774号公報
甲第2号証 特開2002-173392号公報
甲第3号証 特開平10-167879号公報
甲第4号証 特開2002-326890号公報
(以下、「甲第1号証」などを「甲1」などという。)
第4 甲号証の記載事項
1 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある(下線は当審が付した。以下同様である。)。
(1)「【請求項1】
結晶性炭素系粉末およびガラス状炭素を含むマトリックスと、炭素繊維と、を含み、
硫黄の含有量が5質量ppm以下である、半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材。
【請求項2】
ヘリウムガスを用いたピクノメータによる真密度が2.0~2.265g/cm3、かさ密度が1.40~1.80g/cm3、X線回折測定における002面の半値幅が0.5°以下、繊維配向方向の引張強度が50MPa以上である、請求項1に記載の半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材。
【請求項3】
水銀圧入法による気孔率が10~35%である、請求項1または2に記載の半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材。」
(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンやSiC、化合物などの半導体製造装置に使用する高純度の炭素繊維強化炭素複合材(C/Cコンポジット)に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化炭素複合材(以下、C/Cコンポジットとも言う)は、軽く、強度が強い上、大型化し易いといった長所を持っているため、シリコン単結晶引上装置、シリコン多結晶製造装置、半導体製造装置等に広く使われている。
このような用途においては、シリコン単結晶等に金属等の不純物が混入することを防止するため、ハロゲンガスを用いて純化した高純度のC/Cコンポジットが用いられてきた。
・・・
【0003】
しかし、上記従来の製造方法では、一回の含浸では十分な強度を得ることが出来ないため、含浸、硬化、焼成工程を何度も繰り返すことで、強度を得ている。
また、上記従来のC/Cコンポジットは、マトリックスが主に非晶質のガラス状炭素で構成されているため、気体の浸透性が低い。これは、ガラス状炭素が気体不浸透の性質を備えている上、繰り返し数回の含浸を繰り返しているため、表層から内部につながる連続気孔が、非常に細くなったり、気孔の一部が、外部へ繋がることのない閉気孔となってしまうためと考えられる。このため、ハロゲンガス中で加熱する従来の純化方法では、C/Cコンポジット材内部に含まれる、主に金属元素からなる不純物を除去することは困難であった。
・・・
【0005】
表1に、三成分系C/Cコンポジットの一例と二成分系C/Cコンポジットの一例の物理性状を示す。また、図1にサーモ フィニガン社製水銀ポロシメータを用い、水銀圧入法により測定した三成分系C/Cコンポジット材の気孔分布のグラフを、図2に二成分系C/Cコンポジット材の気孔分布のグラフを、図3に三成分系C/Cコンポジット材および従来の二成分系C/Cコンポジット材の積算気孔分布のグラフを、図4に三成分系C/Cコンポジット材のX線回折測定のグラフを、図5に二成分系C/Cコンポジット材のX線回折測定のグラフを示す。
【0006】
【表1】
[図:0001437416000001.jpg]
【0007】
図1~3から、図1では、三成分系は、半径10μm前後の気孔が集中していることが分かり、図2では、二成分系では主に0.1~10μmまでの間に気孔が広く分布していることが分かり、図3では、三成分系は二成分系に比べ気孔が多いことが分かる。また、表1より、三成分系と二成分系はかさ密度がほぼ同等レベルであるにも関わらず、三成分系の方は、真密度が高いため、気孔率は大きくなっていることが分かる。
図4~5、表1から二成分系C/Cコンポジット材に比べ三成分系C/Cコンポジット材では、(002)面のピーク強度がシャープであるため、結晶化度が高いことがわかり、言い換えれば三成分系C/Cコンポジットの真密度の方が高いといえる。
表1から、繊維配向方向の引張強度は三成分系であっても50MPaを超えており、半導体製造装置の部材として使用出来るだけの十分な強度を備えていることがわかる。」
(3)「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、このような問題点は、三成分系のC/Cコンポジット中に含まれる硫黄が原因であることを見出した。
すなわち本発明は以下の高純度炭素繊維強化炭素複合材およびその製造方法を提供する。
[1]結晶性炭素系粉末およびガラス状炭素を含むマトリックスと、炭素繊維と、を含み、
硫黄の含有量が5質量ppm以下である、半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材。
[2]ヘリウムガスを用いたピクノメータによる真密度が2.0~2.265g/cm3、かさ密度が1.40~1.80g/cm3、X線回折測定における002面の半値幅が0.5°以下、繊維配向方向の引張強度が50MPa以上である、上記[1]に記載の半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材。
[3]水銀圧入法による気孔率が10~35%である、上記[1]または[2]に記載の半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材。
[4]結晶性炭素系粉末およびガラス状炭素を含むマトリックスと、炭素繊維と、を含む炭素繊維強化炭素複合材を、純化炉中で真空引きした後、1800~2400℃に加熱し、次にハロゲン系ガスを50kPa以上になるまで導入する第1工程と、続いて20kPa以下になるまで真空引きを行う第2工程とを交互に繰り返す純化処理工程を含む、半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属元素が除去しやすく製造工程の少ない三成分系のC/Cコンポジットであっても、シリコン単結晶引き上げ装置でのシリコンの汚染や、接触する銀や銅合金の腐食を低減することができる。」
(4)「【0018】
本発明の炭素繊維強化炭素複合材は、真密度が好ましくは2.0~2.265g/cm3であり、より好ましくは2.05~2.265g/cm3である。真密度が上記範囲であれば材料外部に接続した連続気孔が出来やすくC/Cコンポジット中に存在する不純物を純化ガスで除去し易い。バインダー樹脂を炭化したガラス状炭素の真密度は概ね1.4~1.6g/cm3、炭素繊維の真密度は1.5~2.0g/cm3であるため、これらより得られる従来の二成分系のC/Cコンポジットの真密度はせいぜい1.4~2.0g/cm3であると概算される。これに対し、本発明の三成分系のC/Cコンポジットは、熱処理後の真密度が2.10~2.265g/cm3となるコークス、黒鉛等の易結晶性炭素系材料を使用し、その分熱処理後の真密度の低いバインダー樹脂等の含有量が少ないため、C/Cコンポジット全体の真密度が上記2.0~2.265g/cm3と高い値を示すと考えられる。
真密度は、例えば市販の真比重計、(ユアサアイオニクス社製ペンタピクノメータ)等によって測定することができる。
【0019】
本発明の炭素繊維強化炭素複合材は、かさ密度が好ましくは1.40~1.80g/cm3であり、より好ましくは1.45~1.70g/cm3である。かさ密度が上記範囲であれば十分な強度を得ることが出来、材料外部に接続した連続気孔が出来やすくC/Cコンポジット中に存在する不純物を純化ガスで除去し易い。
かさ密度は、例えば質量を寸法測定で得られた体積で除することによって測定することができる。
【0020】
また、本発明の高純度炭素繊維強化炭素複合材は、X線回折測定における002面(26.0度)の半値幅が好ましくは0.5°以下、より好ましくは0.4°以下である。X線回折測定によって炭素材料の結晶化度を測定することができる。また、図6に示すように半値幅とは、バックグラウンドを基準としたピーク高さの1/2の高さにおける強度の幅を意味し、半値幅が低いほど、結晶面の広がりが大きく結晶化度が高いことを意味する。X線回折測定は、炭素繊維強化炭素複合材を粉砕した粉末を試料とし、たとえばCu、Kα線のX線回折装置を用いて行うことができる。
【0021】
炭素繊維や、バインダー樹脂等を熱処理等により炭素化して得られるガラス状炭素の結晶化度は低く、易結晶性の炭素系材料であるコークス、黒鉛等を熱処理した結晶性炭素系粉末の結晶化度は高い。本発明のC/Cコンポジットは、結晶性炭素系粉末を多量に含有し、その分炭素繊維、ガラス状炭素の含有量が少ないため、002面の半価幅は上記範囲となる。一方、易結晶性炭素系材料を使用せず、炭素繊維とフェノール樹脂等を主原料とする従来の二成分系のC/Cコンポジットは002面の半値幅が0.5以上となると推測される。
【0022】
真密度が2.0~2.265g/cm3であり、かつ、かさ密度が1.40~1.80g/cm3であるということは、気孔率の理論値が約10~38%であるので、C/Cコンポジットは使用に耐え得る充分な強度を有する。さらに、X線回折測定における002面(26度)の半値幅が0.5°以下であるということは、結晶化度が高いということであるので、C/Cコンポジットは連続気孔が形成されやすく、高純度化のためのガスが透過しやすい。従って、C/Cコンポジットの強度を充分に確保しつつ、C/Cコンポジット中に存在する不純物を純化ガスで除去することができる。
【0023】
そして、本発明の高純度炭素繊維強化炭素複合材は、気孔率が好ましくは10~35%、より好ましくは20~35%である。気孔率は、水銀圧入法、例えばサーモ フィニガン社製水銀ポロシメータによって測定することができる。水銀圧入法による気孔率がこの様な範囲にある場合には、充分な数の連続気孔が形成される。」
(5)「【実施例】
【0033】
<高純度炭素繊維強化炭素複合材の製造>
(実施例1)
易結晶性炭素系材料として、平均粒子径2μmの石炭系生コークスを用い、炭素繊維としてPAN系の平均径7μm、平均長さ5mmのチョップを使用し、バインダー樹脂としてレゾール系のフェノール樹脂を使用した。次に易結晶性炭素系材料30質量%、炭素繊維45質量%、バインダー樹脂25質量%の比率でミキサーを用いて混合し、100×100のキャビティを持った金型を用い20MPa、90℃で15分間プレスし硬化させた。
得られた成形体をさらに150℃で30分処理し完全硬化させた後、還元性雰囲気(炭化水素ガス)下で4℃/時間の昇温速度で900℃まで焼成したのち、次の高温処理炉で窒素雰囲気下50℃/時間の昇温速度で2000℃まで焼成した。こうして得られたC/Cコンポジットを70×70×20mmのサイズに加工した。尚、繊維は、70×70の方向に2軸配向している。
前記、C/Cコンポジットを純化炉に入れ、20kPaまで真空引きを行い、加熱した。2100℃になったところで塩素ガスを導入し、60kPa以上に達するまで導入し、1分間保持(第1工程)再び20kPaに達するまで真空引きを行い(第2工程)20kPaに達し他時点で前記(第1工程)へ戻るように高純度化を行い、交互に(第1工程)、(第2工程)を3回ずつ実施した。高純度化の終了したC/Cコンポジット材は、冷却した後、窒素ガスで復圧し、大気解放した。」
(6)「【図4】
[図:0001437416000002.jpg]
【図5】
[図:0001437416000003.jpg]
」
2 甲2の記載事項
甲2には、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】 嵩密度(AD)が1.5 g/cm3以上、3点曲げ強度(St )が120MPa 以上で、比強度(St /AD)の値が80( MPa/ g/cm3)以上の特性を有し、更に気孔率が10%以下、層間剪断強度が10MPa以上の特性を備えた炭素繊維強化炭素材からなることを特徴とする単結晶引上げ装置用C/C部材。」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、炭素繊維強化炭素材(C/C材)からなり、チョコラルスキー法(以下「CZ法」という)によるシリコンなどの単結晶引上げ装置に使用される高温部材、例えば、ルツボなどとして好適なC/C部材に関する。」
(3)「【0027】
【表1】
[図:0001437416000004.jpg]
」
3 甲3の記載事項
甲3には、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】 直胴部と、R部を含む底部とによって構成され、少なくとも前記R部が炭素繊維強化炭素複合材料を含んで形成される単結晶引き上げ用ルツボであって、
前記R部をピッチ系炭素繊維からなる炭素繊維強化炭素複合材料により形成することを特徴とする単結晶引き上げ用ルツボ。」
(2)「【0030】(1)ピッチ系C/C材の作製
試料1としてピッチ系C/C材を作製した。その具体的な製造条件と、製造されたもののかさ密度等は以下のとおりである。市販のピッチ系炭素繊維の長さ3mmからなるチョップドファイバー(三菱化学株式会社製ダイヤリードK-321)100部と、軟化点160℃のピッチ(アドケムコ製)200部とを加え、十分に混合した後に前記で説明したような金型に充填した。そして、成形圧100kg/cm2 、成形温度200℃により成形を行い、かさ密度1.35の成形体を得た。この成形体を1000℃まで焼成し、ピッチ含浸、焼成を1回行った後に2000℃処理を行い、かさ密度1.55のC/C材を得た。」
4 甲4の記載事項
甲4には、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】 単結晶引き上げに用いられる炭素繊維強化炭素複合材料製ルツボであって、
前記ルツボが側筒部及び底部とで構成され、フィラメントワインディング法で多層に巻かれて一体に形成されており、
前記多層のうちルツボ最内層の第1層は、炭素繊維が前記底部の極点を通る軌道となるように巻かれ、
前記第1層の外表面に巻かれる第2層は、前記第1層の炭素繊維が前記極点に集中し盛り上がった部分の略中腹部から外側に広がる第1外輪底部を形成する軌道で巻かれ、
前記第2層の外表面に巻かれる第3層以降の各層は、夫々の層の内側の各層の外表面の略中腹部から外側に夫々段階的に広がる外輪底部を形成する軌道で巻かれ、
前記多層に巻かれた炭素繊維の前記底部における前記第1層の盛り上がり部分の頂部及び各外輪底部の頂部が略同じ高さであることを特徴とする単結晶引き上げ用炭素繊維強化炭素複合材料製ルツボ。」
(2)「【0007】一つは、フィラメントワインディング法と呼ばれる方法である。この方法は、通常炭素繊維を束ねた炭素繊維束を熱硬化性樹脂、溶剤等からなる低粘度の結合材に浸漬した後、結合材の付着した炭素繊維束をルツボ形状を有するマンドレルに巻付けて必要なルツボ形状に成形する。その後、例えば、100~300℃程度の温度で熱硬化を行ない、得られる成形体をN2ガス等の不活性ガス中でたとえば約1000℃の温度で炭素化させる。この炭素化の後、必要に応じてフェノール樹脂、タールピッチ等を含浸させ、さらに1500℃以上の温度で加熱して炭素化(黒鉛化)を行なう。以上の工程により得られたルツボを、たとえばハロゲンガス雰囲気中で、1500~2500℃程度の温度において加熱し、高純度化処理を施し、C/C材からなるルツボを得る。」
第5 申立理由(新規性、進歩性欠如)に対する判断
1 本件発明1について
(1)甲1に記載された発明
上記第4 1(1)によれば、甲1には、結晶性炭素系粉末及びガラス状炭素を含むマトリックスと、炭素繊維と、を含み、硫黄の含有量が5質量ppm以下である、半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材が記載され(【請求項1】)、さらに、この高純度炭素繊維強化炭素複合材について、かさ密度が1.40~1.80g/cm3であること(【請求項2】)、水銀圧入法による気孔率が10~35%であること(【請求項3】)が記載されている。
したがって、これらの記載を整理すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。
「結晶性炭素系粉末及びガラス状炭素を含むマトリックスと、炭素繊維と、を含み、硫黄の含有量が5質量ppm以下であり、かさ密度が1.40~1.80g/cm3、水銀圧入法による気孔率が10~35%である、半導体製造装置用の高純度炭素繊維強化炭素複合材。」
(2)本件発明1と甲1発明の対比
甲1発明の「高純度炭素繊維強化炭素複合材」は、第4 1(2)で示した【0002】に「炭素繊維強化炭素複合材(以下、C/Cコンポジットとも言う)」と記載されているように、「C/Cコンポジット」とも呼ばれるものであるから、甲1発明の「炭素繊維と、を含」む「高純度炭素繊維強化炭素複合材」は、本件発明1の「炭素繊維を含む、C/Cコンポジット」に相当する。
そうすると、本件発明1と、甲1発明は、「炭素繊維を含む、C/Cコンポジット」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1は「X線回折法により測定した前記C/Cコンポジットの002面における回折ピークにおいて、ピーク高さの2/3の高さにおけるピーク中心の2θをd0とし、ピーク高さの1/3の高さにおける低角度側の2θをd1とし、ピーク高さの1/3の高さにおける高角度側の2θをd2としたときに、下記式(1)で表される非対称性パラメータPが、1.0以上、2.0以下」、「P=(d0-d1)/(d2-d0) …式(1)」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
(相違点2)
本件発明1は「かさ密度が、1.70g/cm3以上、2.00g/cm3以下」であるのに対し、甲1発明は「かさ密度が1.40~1.80g/cm3」である点。
(相違点3)
本件発明1は「開気孔率が、16.5%以下」であるのに対し、甲1発明は「水銀圧入法による気孔率が10~35%」である点。
(3)相違点の検討
ア 新規性欠如について
(ア)相違点1について検討すると、甲1には、本件発明1における「非対称性パラメータP」に相当するパラメータが「1.0以上、2.0以下」であることについて、記載も示唆もされていないし、甲1発明がそのような特性を有することが技術常識から合理的に推認できるともいえないから、相違点1は実質的な相違点である。したがって、相違点2、3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
(イ)申立人は、上記相違点1に関して、甲1の図4(上記第4 1(6)参照)に補助線を引くことにより「非対称性パラメータP」を実測すると、P=1.50であったこと、同様に図5(上記第4 1(6)参照)についてはP=1.75であったことを論拠として、甲1発明は、本件発明1の「非対称性パラメータPが、1.0以上、2.0以下であ」ることを満足する旨主張する(特許異議申立書第22頁~23頁)。
しかしながら、上記第4 1(2)によれば、甲1の図4、図5は背景技術の説明としてのC/Cコンポジット材のX線回折測定のグラフと解され、甲1発明の高純度炭素繊維強化炭素複合材のX線回折測定の結果を示すものではない。そして、甲1のその他の記載をみても、甲1発明の高純度炭素繊維強化炭素複合材についてX線回折測定の結果を示したグラフが甲1に開示されているとはいえない。そのため、甲1発明の、本件発明における「非対称性パラメータP」は不明であり、「1.0以上、2.0以下」ということはできない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
イ 進歩性欠如について
(ア)本件発明1のC/Cコンポジットは、本件明細書の段落【0033】で示されるように、「大きく低角度側にテーリングした複合プロファイルをもつC/Cコンポジットにおいても、炭素繊維及び炭素マトリクスの平均的な黒鉛化度と相関性の高い非対称性パラメータPが得られることを見出した」ものであって、「非対称性パラメータPとC/Cコンポジットの特性の相関を検討したこところ、非対称性パラメータPが、1.0以上、2.0以下と非対称性が小さいC/Cコンポジットは、SiOガスのようなガスとの反応性を効果的に低減し得ることを見出した」(【0034】)ものである。
一方、上記第4 1(4)によれば、甲1には【0020】「また、本発明の高純度炭素繊維強化炭素複合材は、X線回折測定における002面(26.0度)の半値幅が好ましくは0.5°以下、より好ましくは0.4°以下である。X線回折測定によって炭素材料の結晶化度を測定することができる。また、図6に示すように半値幅とは、バックグラウンドを基準としたピーク高さの1/2の高さにおける強度の幅を意味し、半値幅が低いほど、結晶面の広がりが大きく結晶化度が高いことを意味する。」との記載があり、甲1発明は、半値幅で測定される結晶化度を上げることを課題としているといえる。他方で、甲1には、本件発明1のように黒鉛化度と相関性の高い「非対称パラメータ性P」を設定し、その値を「1.0以上、2.0以下」とすることで、SiOガスのようなガスとの反応性を効果的に低減し得ることについては記載も示唆もない。そうすると、そのような甲1発明において、「非対称パラメータ性P」を調整して特定の値とする動機付けがあるとはいえない。
また、甲3~甲4のいずれにも、相違点1に係る本件発明1の構成は、何ら記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
よって、相違点2、3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、又は、甲1発明及び甲3~甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(イ)申立人は、「甲第1号証には、1.70g/cm3以上2.00g/cm3以下のかさ密度を有し、16.5%以下の開気孔率を有するC/Cコンポジットが図4及び/または図5のようなX線回折測定のプロファイルを示さないとは記載されていない。つまり、甲第1号証には、構成要件C及びDを満たすC/Cコンポジットの場合に、構成要件B(非対称性パラメータ)を満たすようなX線回折測定のプロファイルを示さないとは記載されていない。
また、甲1発明は、炭素繊維を必然的に含んでいるので、本件特許発明の明細書【0031】の「炭素繊維は、炭素マトリクスより黒鉛化度が低いことが多いため、XRDにおいて炭素繊維のピークは、炭素マトリクスのピークより低角度側に位置することが多い。このことから、複合プロファイルは、低角度側にテーリングした非対称のピークとなることが多い。」との記載のように、甲1発明のX線回折測定のプロファイルも低角度側にテーリングした非対称のピークとなるものと認められる。
そして、甲第1号証の【0007】及び【0020】の記載のように、甲1発明は、結晶化度が高くなって、ピーク強度がシャープになり回折ピークの半値幅が小さくなる場合がある。よって、甲1発明のX線回折測定のプロファイルにおいて、低角度側のテーリングの幅は、高角度側のテーリングと同じ幅にはならないものの、高角度側のテーリングと同じ幅に近づくものと認められる。
このように、甲第1号証には、甲1発明が炭素繊維を含む点、及び、結晶化度が高くなって回折ピークの半値幅が小さくなる点が開示されている。炭素繊維を含む点は、炭素繊維により出現する低角度側テーリングに対応する。結晶化度が高くなって回折ピークの半値幅が小さくなる点は、半値幅の縮小による低角度側テーリングの縮小に対応する。したがって、炭素繊維により出現する低角度側テーリング、及び、半値幅の縮小による低角度側テーリングの縮小から、甲1発明は、構成要件B(非対称性パラメータ)を満たすようなX線回折測定のプロファイルを有するようになる。
よって、甲1発明の構成要件C及びDを満たすC/Cコンポジットにおいて、X線回折測定のプロファイルにおける式(1)で表される非対称性パラメータPを1.0以上、2.0以下にすることは、当業者が容易に想到しうるものである。」と主張する(特許異議申立書第27~28頁)。
上記主張について検討すると、確かに、甲1には、甲1発明が炭素繊維を含む点、及び、結晶化度が高くなって回折ピークの半値幅が小さくなる点が開示されている。しかしながら、上記(ア)で検討したとおり、甲1、3、4には、本件発明1の「非対称パラメータP」を「1.0以上、2.0以下」とすることで、SiOガスのようなガスとの反応性を効果的に低減し得ることについては記載も示唆もなく、甲1発明において、「非対称パラメータP」を調整して特定の値とする動機付けがあるとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明、又は、甲1発明及び甲3~甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
2 本件発明2~5について
本件発明2~5は、いずれも本件発明1の全ての構成を有するものであるから、上記1で検討したのと同様の理由により、本件発明2~5は甲1発明ではなく、甲1発明、又は、甲1発明及び甲3~甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
3 本件発明6について
(1)本件発明6と甲1発明との対比
ア 本件発明6と甲1発明の対応関係は上記1(2)と同様であるから、本件発明6と、甲1発明は、「炭素繊維を含む、C/Cコンポジット」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点4)
本件発明6は「X線回折法により測定した前記C/Cコンポジットの002面における回折ピークにおいて、ピーク高さの2/3の高さにおけるピーク中心の2θをd0とし、ピーク高さの1/3の高さにおける低角度側の2θをd1とし、ピーク高さの1/3の高さにおける高角度側の2θをd2としたときに、下記式(1)で表される非対称性パラメータPが、1.0以上、2.0以下」、「P=(d0-d1)/(d2-d0) …式(1)」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
(相違点5)
本件発明6は「かさ密度が、1.70g/cm3以上、2.00g/cm3以下」であるのに対し、甲1発明は「かさ密度が1.40~1.80g/cm3」である点。
(相違点6)
本件発明6は、炭素繊維を含む、C/Cコンポジットを含む、「Si単結晶引き上げ炉用部材」であるのに対し、甲1発明は「半導体製造装置用」である点。
(2)相違点の検討
ア 上記1(3)で検討したのと同様に、甲1には、相違点4に係る本件発明6の構成は、記載も示唆もされていない。また、甲2~甲4のいずれにも、相違点4に係る本件発明6の構成は、記載も示唆もされていない。そして、甲1発明において、相違点4に係る本件発明6の構成を備えるようにする動機付けがあるとはいえない。
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明6は、甲1発明及び甲2~甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
イ 申立人は、本件発明6と甲1発明との相違点を「相違点1:本件特許発明6では「L:前記C/Cコンポジットにより構成されている、ルツボである、Si単結晶引き上げ炉用部材。」を特定しているが、甲1発明では「シリコン単結晶引き上げ装置(【0001】)」との記載はあるが、「ルツボである」点については言及していない点。」とした上で、相違点1の内容は甲2~4に開示されており、甲1発明と、甲2~甲4とを組み合わせ、甲1発明に甲2~甲4の記載事項を適用することは、当業者が適宜なし得ることである旨を主張する(特許異議申立書第31頁~第32頁)。
しかしながら、上記(1)で検討したとおり、本件発明6と甲1発明とは、申立人が主張する相違点以外にも相違点4、5で相違している。そして、上記アで検討したとおり、甲1発明において、相違点4に係る本件発明6の構成を備えるようにする動機付けがあるとはいえないから、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明6は、甲1発明及び甲2~甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(4)小括
以上の検討のとおり、本件発明6は、甲1発明及び甲2~甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人による特許異議の申立ての申立理由1(新規性欠如)及び申立理由2(進歩性欠如)によって、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700117