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特許異議申立

2022-700779

セメント組成物及びセメント組成物の製造方法

審判番号
2022-700779
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-029360外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7007213
請求日
2022年08月08日
審決日
2023年05月11日
公報発行日
2023年06月30日
結論
維持
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-Y (C04B) / P1651.121-Y (C04B) / P1651.537-Y (C04B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7007213号発明「セメント組成物及びセメント組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第7007213号の請求項1~5に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 8項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第7007213号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成30年2月22日に出願され、令和4年1月11日にその特許権の設定登録がされ、同年2月10日に特許掲載公報が発行された。

その後、その請求項1~5に係る特許に対して、令和4年8月8日に特許異議申立人笹井栄治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年11月15日付けで取消理由が通知され、令和5年1月6日に特許権者により意見書の提出がされ、申立人に対して、同年1月24日付けで審尋が通知され、同年3月1日に申立人により回答書の提出がされた。

第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)

本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、纏めて「本件発明」という。)。

「【請求項1】
X線回折-リートベルト解析法による鉱物組成が、C3S量が50質量%~65質量%、C2S量が10質量%~25質量%、C3A量が6質量%~11質量%、C4AF量が9質量%~12質量%であって、C3Aに固溶するK2O量が0.3質量%以下であることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
ブレーン比表面積が、3100cm2/g~3500cm2/gである、請求項1に記載のセメント組成物。
続きを表示(全11行)
【請求項3】
セメントクリンカー中のC3Aに固溶するK2O量が0.3質量%以下となるようにセメントクリンカーを製造する工程(I)、及び
工程(I)で得られたセメントクリンカーに、石膏及び少量混合成分を混合して粉砕する工程(II)を含む、請求項1又は2に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項4】
前記工程(I)が、セメントクリンカー中のK2O量、硫酸アルカリ中のK2O量、及びセメントクリンカー中のC3A量を測定して、C3Aに固溶するK2O量を算出する方法を用い、C3Aに固溶するK2O量が0.3質量%以下となるように原料を調整する、請求項3に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項5】
前記工程(I)における、硫酸アルカリ量の調整を、石膏又は廃石膏ボードを窯前部から吹き込んで行うことを特徴とする、請求項3又は4に記載のセメント組成物の製造方法。」

第3 特許異議の申立てについて

1 特許異議申立理由の概要

申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。

ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。

甲第1号証 特開2016-183060号公報

甲第2号証 小野吉雄、「未水和セメントの鉱物相と水和特性」、コンク

リート工学、1981年、第19巻、第11号、第10~1

4頁

甲第3号証 荒井康夫、「セメントの材料化学」、改訂2版、大日本図書

株式会社、1991年9月25日、第86~111頁

甲第4号証 伊藤貴康他、「リートベルト法により定量したアルミネート

相とセメントの初期水和反応特性」、Cement Science and

Concrete Technology(セメント・コンクリート論文集)、

2002年、第56巻、第29~35頁

甲第5号証 特開2011-26174号公報

甲第6号証 特開2014-189456号公報

甲第7号証 特開2018-2540号公報

甲第8号証 河合研至他、「セメント中の水溶性アルカリ量」、土木学会

論文集、1991年、第433号/V-15、第35~39

頁

参考資料1 特開2017-31008号公報

参考資料2 特開2017-193451号公報

参考資料3 申立人作成、「甲第6号証の【0036】実施例1で用いら

れている試薬の不純物量の表」、2023年2月27日

なお、甲第1号証~甲第8号証は、特許異議申立書に添付して、参考資料1~3は、令和5年3月1日提出の回答書に添付して、それぞれ提出されたものである。

(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)

本件発明1、2は、甲1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件発明1~5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものである。

(2) 申立理由2(甲第6号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)

本件発明1、2は、甲6号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件発明3~5は、甲第6号証に記載された発明、並びに、甲第5号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものである。

(3) 申立理由3(明確性要件違反)

本件発明1~5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記4(3)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 取消理由通知書に記載した取消理由の概要

本件発明1~3に係る特許に対して、当審において令和4年11月15日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

ここで引用した刊行物は、次のものである。

引用文献1 特開2014-189456号公報(甲第6号証)

引用文献2 特開2014-162702号公報

引用文献3 特開2015-44717号公報

引用文献4 特開2017-210397号公報

(1) 取消理由1(引用文献1を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)

本件発明1は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件発明2、3は、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献1~引用文献4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものである。

3 各甲号証の記載内容について

(1) 甲第1号証の記載事項(下線は当審が付した。以下同様である。)

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甲第1号証には、「セメントの製造方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカーの粉砕物および石膏を含むセメントの製造方法であって、上記セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率の大きさに応じて、上記石膏における二水石膏と半水石膏の合計量中の半水石膏の割合を決定することを特徴とするセメントの製造方法。
【請求項2】
続きを表示(全11行)
上記セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率が、上記セメントクリンカーの化学組成および鉱物組成の各測定値に基いて、推定値として算出されたものである請求項1に記載のセメントの製造方法。
【請求項3】
上記化学組成が、MgO、SO3、Na2OおよびK2Oの各含有率であり、かつ、上記鉱物組成が、エーライトおよびフェライト相の各含有率である請求項1又は2に記載のセメントの製造方法。
【請求項4】
上記半水石膏の割合が、上記水溶性アルカリ成分の含有率を、水溶性アルカリ成分の含有率と半水石膏の割合の関係式である予め定められた近似式に適用することによって決定される請求項1~3のいずれか1項に記載のセメントの製造方法。
【請求項5】
セメントの連続的な製造のために供給中のセメントクリンカーを対象にして、該セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率を、1時間当たり、1回以上の頻度で求め、その結果に応じて、該セメントクリンカーと混合される石膏における二水石膏と半水石膏の合計量中の半水石膏の割合を適宜変更する請求項1~4のいずれか1項に記載のセメントの製造方法。」
イ 「【0006】
また、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分は、複雑な過程を経て生成されるため、水硬性配合物(セメント組成物)中の水溶性アルカリ成分の量を、特許文献1、3に記載されている数値範囲内(例えば、0.25%以下)となるように調整することは、実際には困難である。
すなわち、セメントクリンカーの製造工程において、原料および燃料によって焼成工程に持ち込まれたアルカリ(Na、K)および硫黄は、CaO、Al2O3、Fe2O3、MgO等と液相を形成した後、まず、2CaO・SiO2(ビーライト;以下、「C2S」ともいう。)および3CaO・SiO2(エーライト;以下、「C3S」ともいう。)の生成過程において、それらの結晶構造中に固溶する。次いで、C2SやC3Sに固溶せずに、液相中に残ったアルカリおよび硫黄は、セメントクリンカーの冷却過程において生成する3CaO・Al2O3(アルミネート相;以下、「C3A」ともいう。)および4CaO・Al2O3・Fe2O3(フェライト相;以下、「C4AF」ともいう。)の結晶構造中に固溶する。このような過程を経た後、液相中に残存するアルカリおよび硫黄から水溶性アルカリ成分(硫酸アルカリ)が形成される。
このように、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分は、複雑な過程を経て生成されるものであり、それゆえ、水溶性アルカリ成分の量を自在に調整することは、実際には困難である。」
ウ 「【0009】
本発明の目的は、混練直後の流動性が良好でかつ流動性の経時変化が小さい点で最適化されたコンクリート等を調製しうるセメントを製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメントクリンカーの粉砕物および石膏を含むセメントの製造方法であって、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率に応じて、石膏半水化率(石膏における二水石膏と半水石膏の合計量中の半水石膏の割合)を決定するセメントの製造方法によれば、本発明の目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。」
エ 「【実施例】
【0021】
[実施例]
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
続きを表示(全33行)
[セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率の推定]
普通ポルトランドセメントクリンカー(太平洋セメント社製)6種(試料a-1~a-6)、早強ポルトランドセメントクリンカー(太平洋セメント社製)4種(試料b-1~b-4)、中庸熱ポルトランドセメントクリンカー(太平洋セメント社製)8種(試料c-1~c-8)、低熱ポルトランドセメントクリンカー(太平洋セメント社製)3種(試料d-1~d-3)について、これら21種のポルトランドセメントクリンカーの鉱物組成を、X線回折装置(ブルカー・エイエックス社製、「D8 ADVANCE」)を用いたリートベルト解析によって測定した。リートベルト解析には、解析ソフトウェア(ブルカー・エイエックス社製、「DIFFRACplusTOPAS(Ver.3)」)を使用した。
また、これら21種のポルトランドセメントクリンカーの化学組成を、水溶性アルカリ成分以外の成分(MgO、SO3、Na2O、K2O、R2O)については、「JIS R 5204(セメントの蛍光X線分析方法)」に準拠し、水溶性アルカリ成分(Na2SO4、K2SO4、s-R2O)については、セメント協会標準試験方法「JCAS I-04(セメントの水溶性成分の分析方法)」に準拠して測定した。
結果を表1及び表2に示す。
【0022】
【表1】
[図:0001398279000001.jpg]
【0023】
【表2】
[図:0001398279000002.jpg]
・・・
【0025】
上記式(2)~(4)及び表1に示すデータを用いて、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、及び水溶性アルカリ成分の含有率の推定値を算出した。結果を表2に示す。
・・・
【0026】
[水溶性アルカリ成分の含有率と石膏半水化率の関係式の設定]
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)10種(試料A-1~A-10)、早強ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)4種(試料B-1~B-4)、中庸熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)3種(試料C-1~C-3)、低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)3種(試料D-1~D-3)について、これら20種のポルトランドセメントに含まれるセメントクリンカーの化学組成を測定した。この際、水溶性アルカリ成分以外の成分(SiO2、Al2O3、Fe2O3、CaO、MgO、SO3)については、「JIS R 5204(セメントの蛍光X線分析方法)」に準拠して測定を行った。また、水溶性アルカリ成分については、セメント協会標準試験方法「JCAS I-04(セメントの水溶性成分の分析方法)」に準拠して測定を行った。結果を表3に示す。
【0027】
【表3】
[図:0001398279000003.jpg]
【0028】
また、これら20種のポルトランドセメントの鉱物組成を、X線回折装置(ブルカー・エイエックス社製、「D8 ADVANCE」)を用いたリートベルト解析によって測定した。リートベルト解析には、解析ソフトウェア(ブルカー・エイエックス社製、「DIFFRACplusTOPAS(Ver.3)」)を使用した。
また、得られた二水石膏と半水石膏の含有率(質量%)から、石膏半水化率(質量%)を算出した。
さらに、各種ポルトランドセメントの粉末度を、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定した。
結果を表4に示す。
【0029】
【表4】
[図:0001398279000004.jpg]
」

(2) 甲第2号証の記載事項

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甲第2号証には、「未水和セメントの鉱物相と水和特性」(タイトル)に関して、次の事項が記載されている。

ア 「3.クリンカー鉱物の水和速度
C3S,C2S,C3A,C4AFをそれぞれ純粋に合成して水と練りまぜると,C3A及びC4AFは発熱して激しく水和し,1~2時間で40~50%,1日で80%近く水和する。・・・
・・・
クリンカー中に在存する各鉱物の不純物固溶は少量であるが,クリンカー冷却時の変態転移及び常温に冷却された各鉱物の水和速度に及ぼす影響は大である。
表-4の(1)はF.M.Leaにより,それまでの多くの研究者によるEPMAデータを取りまとめたものであり,(2)は山口教授により,EPMAとともに重液分離等により分離鉱物の化学分析を行い,X線回折,検鏡等と併せ検討した値である。(3),(4),(5)は合成実験による固溶限界値である。固溶限界は温度により変化するが,C3S+MgOでは高温で固溶量大,C3S+Al2O3+Fe2O3では高温で固溶量は減少する。」(第11頁右欄第21行~第12頁右欄第21行)
イ 「
[図:0001398279000005.jpg]
」(第12頁)

(3) 甲第3号証の記載事項

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甲第3号証には、「セメントの材料化学」(タイトル)に関して、次の事項が記載されている。

「3・2・4 間げき相
・・・
a)アルミネート相 クリンカー中のアルミネート相は,いずれもC3Aを主成分とし,これにアルカリが微量固溶している.すなわち,クリンカー中には通常Na2O,K2Oがそれぞれ0.1~1.0%程度ふくまれていて,その一部は硫酸アルカリとして存在し,その他はクリンカー鉱物中に固溶している.そして固溶アルカリは,間げき相のなかでもアルミネート相に多くふくまれており,これによりC3Aの結晶構造が変化することもよく知られている.
[図:0001398279000006.jpg]
クリンカーから分離されたアルミネート相の化学組成例は,表3・11のとおりで,CaO,Al2O3の2成分以外には,不純成分として,SiO2,Fe2O3,MgO,アルカリの存在がめだつ.これらの不純成分は,すべてC3Aに固溶して,その安定化に重要な役割をはたすものと思われている.」(第99頁第16行~第100頁第8行)

(4) 甲第4号証の記載事項

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甲第4号証には、「リートベルト法により定量したアルミネート相とセメントの初期水和反応特性」(タイトル)に関して、次の事項が記載されている。

ア 「要旨:粉末X線回折を利用したリートベルト法によるクリンカー化合物の定量は、従来の定量技術と比較して短時間で且つ精度良く定量できることから、セメントの品質管理への適用が期待されている。本研究では、リートベルト法を利用してアルミネート相の多形を考慮したクリンカー化合物の定量を実施し、少量成分が間隙相及びその水和反応特性に及ぼす影響を検討した。その結果、<1>MgO含有量増加によるフェライト相の増加及びアルミネート相の減少、<2>アルカリ(Na2O、K2O)がクリンカー化合物中へ固溶することによる斜方晶アルミネート相の増加をリートベルト法により捉えることが可能であることが確認できた。また、リートベルト法により定量したクリンカー化合物含有量は、セメントの初期水和反応特性の違いを良く説明できることがわかった。」(当審注:<1>、<2>は、それぞれ丸数字を示す。)(第29頁)

イ 「Fig.8より、アルカリ含有量の多いクリンカーを使用したセメントは、水和発熱速度が小さいことがわかる。これは、アルミネート相に固溶するアルカリ量が増加することによる斜方晶アルミネート相の量の増加に起因すると思われる。既往の研究においても、アルカリを固溶したアルミネート相は、純粋なアルミネート相よりも水和発熱速度が小さくなることが示されている12)。」(第33頁右欄第5~11行)

(5) 甲第5号証の記載事項

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甲第5号証には、「石膏を窯前に吹き込むことによるセメントクリンカの焼成方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカの焼成工程において、石膏をセメントクリンカ焼成炉のクリンカ排出口側から焼成炉内に導入することを特徴とする、セメントクリンカ焼成方法。
【請求項2】
石膏の導入が、セメントクリンカ焼成炉のクリンカ排出口側に設けた吹き込みノズルを通じて空気流とともに導入する方法であることを特徴とする、請求項1に記載のセメントクリンカ焼成方法。
【請求項3】
石膏は、廃石膏ボードを粉砕した粉末状の石膏であることを特徴とする、請求項1または2に記載のセメントクリンカ焼成方法。
【請求項4】
ロータリーキルンのクリンカ排出口側に、主燃料をバーナに供給する手段と併設して、石膏を空気流によりロータリーキルン内に圧送する手段を備えてなることを特徴とする、セメントクリンカ焼成炉。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカの焼成方法に係るものであり、セメントクリンカに必要となるSO3成分を石膏から確保する技術に関する。」
ウ 「【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明においては、石膏をセメントクリンカ焼成炉のクリンカ排出口側(窯前)から焼成炉内に導入する。焼成炉としては、典型的にはロータリーキルンである。ロータリーキルン内の窯前には、バーナが設置され、バーナから燃料を噴出させつつ燃焼することで、キルン内部をセメントクリンカの焼成に適した高温に保っている。セメント焼成において主燃料として用いら入れるのは微粉炭の場合が多い。また、セメント原料はロータリーキルン内部で焼成反応を行いながら窯尻から窯前へと移動し、窯前の排出口から排出される。
・・・
【0018】
キルンの温度低下を招くことのない石膏の導入量は、バーナの性能やクリンカの生産量にもよるが、おおむねクリンカ1tあたり1.8kg,から6.0kgの範囲である。このほかに、セメントクリンカの望ましいSO3含有量に応じて調整するのはもちろんであるが、セメント原料にはじめから含まれるSO3量と焼成過程の前段で揮発するSO3量を考慮して窯前に導入する石膏量を定めればよい。」

(6) 甲第6号証(引用文献1)の記載事項

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甲第6号証(引用文献1)には、「セメント組成物及びセメント組成物の製造方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。

ア 「【0022】
[セメント組成物の製造方法]
本発明の実施の形態に係るセメント組成物の製造方法は、Li含有物及びセメント原料の原料原単位を調整する原料工程と、調整した原料を焼成してセメントクリンカを製造する焼成工程と、セメントクリンカと石膏とを混合した混合材を粉砕する仕上工程とを含み、セメント組成物のLi含有量を0.001質量%以上とする。
Li含有物としては、炭酸リチウム等のリチウム化合物及び廃リチウムイオン電池等を用いることができる。」
イ 「【0036】
<実施例1>
≪セメントクリンカの作製≫
セメント原料として、二酸化珪素(キシダ化学製、試薬1級、SiO2)、酸化鉄(III)(関東化学製、試薬特級、Fe2O3)、炭酸カルシウム(キシダ化学製、試薬1級、CaCO3)、酸化アルミニウム(関東化学製、試薬1級、Al2O3)、塩基性炭酸マグネシウム(キシダ化学製、試薬特級、約4MgCO3・Mg(OH)2、・5H2O)、炭酸ナトリウム(キシダ化学製、無水・特級、Na2CO3)、リン酸三カルシウム(キシダ化学製、試薬1級、Ca3(PO4)2)、硫酸カルシウム2水和物(キシダ化学製、試薬1級、CaSO4・2H2O)を用いた。
続きを表示(全23行)
【0037】
これらの配合量は、作製されるセメントクリンカのC3S、C2S、C3A、C4AFの組成が普通ポルトランドセメントクリンカの組成となるように、ボーグ式を用いて決定した。具体的には、C3S、C2S、C3A、C4AFの鉱物組成が概ね表2に示す値となるように、各原料の配合量を算出した。
更に、セメント組成物全体を100質量%として、Li含有量が0.001質量%となるように配合量を算出し、Li含有物として炭酸リチウム(関東化学株式会社製)を配合した。
・・・
【0039】
上記セメント原料を、電気炉に投入して1000℃で30分間の焼成を行った。次に、1000℃から1450℃まで30分間かけて昇温させ、さらに1450℃で15分間の焼成を行った。次に、焼成物を急冷して、セメントクリンカを作製した。
【0040】
≪C3S量及びM1相量の定量≫
・X線回折プロファイルの取得及びセメントクリンカの同定
粉末X線回析装置(パナリティカル社製、X’Part Powder)を用い、測定条件を、ステップサイズ:0.17°、スキャンスピード:0.1012°/s、電圧:45kV、電流:40mAとして、X線回折測定を行い、X線回折プロファイルを得た。
【0041】
得られたX線回析プロファイルについて、上記粉末X線回析装置に備えられた結晶構造解析用ソフトウエア(パナリティカル社製、X’Part High Score Plus version 2.1b)を用い、セメントクリンカの同定を行った。同定されたセメントクリンカは、C3S-M1(M1相)、C3S-M3(M3相)、C2S-α’(α’相)、C2S-β(β相)、C3A-cubic(立方晶)、C3A-ortho(斜方晶)、C4AF、gypsum(石膏)、bassanite(半水石膏)、K3Na(SO4)2、Pottasiumsulfate(K2SO4)及びbeta-Arcanite(アルカナイト)であった。
【0042】
・リートベルト法による解析
次に、上記ソフトウエアに搭載されたリートベルト法による解析機能を用い、上記の通り同定されたセメントクリンカの質量%を定量した。ここでは、ICDS(社団法人化学情報協会の無機結晶構造データベース)から、セメントクリンカについての基本結晶構造データ(格子定数、スケールファクター等)は、上記ソフトウエアに初期値として入力されている。次に、セメントクリンカ全体の結晶構造パラメータの精密化に必要なパラメータとして格子定数、スケールファクター等を選択し、精密化操作を実行した。これにより、理論プロファイルが実測したX線回折プロファイルとフィッティングするように上記精密化に必要なパラメータが可変されることによって精密化操作が繰り返された後、最終的に精密化されたスケールファクターから、セメントクリンカの質量%が得られた。また、セメントクリンカの質量%の合計を100質量%とし、C3S-M1相量及びC3S-M3相量の和により、C3S量を算出した。このようにして定量されたセメントクリンカ量のうち、C3S量、C2S量、C3A量、及びC4AF量を表3に示す。
・・・
【0044】
≪セメント組成物の作製≫
作製したセメントクリンカと石膏とを、セメントクリンカに添加される石膏に含まれるSO3の含有量がセメント組成物全体を100質量%として2.0質量%となるように調合し、ブレーン値が3500cm2/gとなるようにボールミルで粉砕して、セメント組成物を作製した。」
ウ 「【0049】
<実施例3>
実施例1において、セメント組成物全体を100質量%として、Li含有量が0.01質量%となるようにLi含有物として炭酸リチウムを配合した以外は実施例1と同様にしてセメントクリンカ及びセメント組成物を得た。長さ変化試験及びモルタル強さ試験の結果を下記の表4に示す。」

エ 「【0050】

<実施例4>

実施例1において、セメント組成物全体を100質量%として、Li含有量が0.1質量%となるようにLi含有物として炭酸リチウムを配合した以外は実施例1と同様にしてセメントクリンカ及びセメント組成物を得た。長さ変化試験及びモルタル強さ試験の結果を下記の表4に示す。

【0051】

<実施例5>

実施例1において、セメント組成物全体を100質量%として、Li含有量が1.0質量%となるようにLi含有物として炭酸リチウムを配合した以外は実施例1と同様にしてセメントクリンカ及びセメント組成物を得た。長さ変化試験及びモルタル強さ試験の結果を下記の表4に示す。

・・・

【0053】

<比較例2>

実施例1において、セメント組成物全体を100質量%として、Li含有量が0.0005質量%となるようにLi含有物として炭酸リチウムを配合した以外は実施例1と同様にしてセメントクリンカ及びセメント組成物を得た。長さ変化試験及びモルタル強さ試験の結果を下記の表4に示す。

【0054】

<比較例3~6>

実施例1において、セメント組成物全体を100質量%として、Li含有量が0.005質量%となるようにLi含有物として炭酸リチウムを配合し、表3に示した配合となるように、C3S、C2S、C3A、C4AFの鉱物量を変えた以外は実施例1と同様にしてセメントクリンカ及びセメント組成物を得た。長さ変化試験及びモルタル強さ試験の結果を下記の表4に示す。

オ 「【0057】
【表3】
[図:0001398279000007.jpg]
」

(7) 甲第7号証の記載事項

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甲第7号証には、「セメントクリンカーおよびセメント組成物」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
C3A含有量が10.5~13.0質量%であって、全アルカリ量(R2O)に対するSO3量の比(SO3/R2O)が2.5以上であることを特徴とするセメントクリンカー。
【請求項2】
続きを表示(全15行)
セメントクリンカー中のSO3量1.0~2.5質量%、全アルカリ量(R2O)0.30~0.55質量%、および遊離石灰量0.4以上である請求項1に記載するセメントクリンカー。
【請求項3】
セメントクリンカー中のC3S量30~70質量%、C2S量5~55質量%、C4AF量7~15質量%であり、C3A量/C4AF量が1.07~1.27である請求項1または請求項2に記載するセメントクリンカー。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れかに記載するセメントクリンカーの粉砕物および石膏粉末を含有するセメント組成物。
【請求項5】
請求項4に記載するセメント組成物であって、石膏添加量がSO3換算で1.2質量%以下において、該セメント組成物を用いて調製したモルタルの材齢28日の乾燥収縮率が、クリンカー中のC3Aが10.5質量%以上~11.0質量%以下の範囲で650×10-6以下であり、クリンカー中のC3Aが11.0質量%より多く~13.0質量%以下の範囲で675×10-6以下であるセメント組成物。
【請求項6】
セメント組成物に含まれるセメントクリンカーの不溶残分が0.08~0.25質量%であって、セメント組成物におけるセメントクリンカーと石膏との粉砕物中の不溶残分が0.10質量%~0.25質量%である請求項5に記載するセメント組成物。
【請求項7】
請求項4または請求項6の何れかに記載するセメント組成物であって、混合材料としてフライアッシュ、石灰石粉末、または高炉スラグ粉末を含有する混合セメントのセメント組成物。」
イ 「【0024】
本発明のセメント組成物に用いられるセメントクリンカーは、クリンカー中のC3A含有量が一般的な普通ポルトランドセメントクリンカーより多く、10.5~13.0質量%であり、該C3A量に応じて、SO3/R2O比が2.5以上、好ましくは2.9~5.5に調整されている。このC3A量に対応したSO3/R2O比の調整によってセメント硬化体の乾燥収縮率の増大が抑制されている。」
ウ 「【発明の効果】
【0027】
本発明のセメントクリンカーおよび該クリンカーを用いたセメント組成物は、一般的な普通ポルトランドセメントに比べて、C3A量が多くても、SO3/R2O比の調整によってセメント硬化体の乾燥収縮率は増加し難い。従って、セメント原料として産業廃棄物量を多く使用してクリンカー中のC3A量が増加しても、乾燥ひび割れが生じ難いセメント組成物を得ることができる。
【0028】
本発明のセメント組成物は、SO3/R2O比の調整によってセメント硬化体の乾燥収縮率の増加を抑制し、高価な膨張材や収縮低減剤を用いないので安価であり、容易に製造することができる。」

(8) 甲第8号証の記載事項

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甲第8号証には、「セメント中の水溶性アルカリ量」(タイトル)に関して、次の事項が記載されている。

「2. セメント中のアルカリ
表-14)はセメントクリンカーの原料に含まれているアルカリ分の測定結果の一例である.この表から明らかなように,程度の差はあるがいずれのセメント原料中にもアルカリ分が含まれている.このうち約50%のアルカリは焼成中に揮発しキルン中に濃縮する5).一方,石炭や重油などの燃料中の硫黄分は,キルン中で燃焼とともに酸化されて三酸化硫黄(SO3)となる.このSO3はアルカリ,特にカリウムと選択的に反応してアルカリ硫酸塩を形成する6).
・・・
通常,クリンカー原料中のアルカリ量はSO3量を上回っており,アルカリ硫酸塩を形成した後,過剰のアルカリ分はクリンカー鉱物中に固溶する.
アルミネート相では
Ca2++Al3+ ⇔ R++Si4+(R=NaまたはK)
の置換固溶により8),Na2O・8CaO・3Al2O3ならびにK2O・8CaO・3Al2O3を生成するが,後者は前者よりも生成されにくく,しかも不安定であるため,徐冷により消失し9),クリンカーが急冷されたときにのみ存在する10).」(当審注:⇔は平衡記号を示す。)(第35頁右欄第1~28行)

(9) 参考資料3の記載事項

参考資料3には、「甲第6号証の【0036】実施例1で用いられている試薬の不純物量の表」(タイトル)に関して、次の事項が記載されている。

「
[図:0001398279000008.jpg]
」

4 当審の判断

事案に鑑み、特許異議申立理由及び取消理由を纏めて検討する。

(1) 取消理由1及び申立理由2(甲第6号証(引用文献1)を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について

ア 甲第6号証(引用文献1)に記載された発明

甲第6号証(引用文献1)には、前記3(6)ア及びイによれば、実施例1のセメント組成物の製造方法として、二酸化珪素(キシダ化学製、試薬1級、SiO2)、酸化鉄(III)(関東化学製、試薬特級、Fe2O3)、炭酸カルシウム(キシダ化学製、試薬1級、CaCO3)、酸化アルミニウム(関東化学製、試薬1級、Al2O3)、塩基性炭酸マグネシウム(キシダ化学製、試薬特級、約4MgCO3・Mg(OH)2・5H2O)、炭酸ナトリウム(キシダ化学製、無水・特級、Na2CO3)、リン酸三カルシウム(キシダ化学製、試薬1級、Ca3(PO4)2)、硫酸カルシウム2水和物(キシダ化学製、試薬1級、CaSO4・2H2O)、及び、炭酸リチウム(関東化学株式会社製)を用いて、これらの原料原単位を調整し、調整した原料を焼成してセメントクリンカを作製し、作製したセメントクリンカと石膏とを混合した混合材をボールミルで粉砕して、セメント組成物を作製したことが記載されている。

また、甲第6号証(引用文献1)には、前記3(6)ウ及びオによれば、実施例1と同様にして作製された実施例3のセメント組成物として、C3S量が58.1質量%、C2S量が18.7質量%、C3A量が9.9質量%、及びC4AF量が9.0質量%の鉱物量であって、Li含有量が0.01質量%、ブレーン値が3520cm2/gのセメント組成物が記載されており、前記鉱物量は、前記3(6)イによれば、X線回折測定及びリートベルト法による解析により定量されたものであることが記載されている。

これら記載を「実施例3」の「セメント組成物」に注目して整理すると、甲第6号証(引用文献1)には、次の「セメント組成物」の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。

「二酸化珪素(キシダ化学製、試薬1級、SiO2)、酸化鉄(III)(関東化学製、試薬特級、Fe2O3)、炭酸カルシウム(キシダ化学製、試薬1級、CaCO3)、酸化アルミニウム(関東化学製、試薬1級、Al2O3)、塩基性炭酸マグネシウム(キシダ化学製、試薬特級、約4MgCO3・Mg(OH)2・5H2O)、炭酸ナトリウム(キシダ化学製、無水・特級、Na2CO3)、リン酸三カルシウム(キシダ化学製、試薬1級、Ca3(PO4)2)、硫酸カルシウム2水和物(キシダ化学製、試薬1級、CaSO4・2H2O)、及び、炭酸リチウム(関東化学株式会社製)を用いて、これらの原料原単位を調整し、調整した原料を焼成してセメントクリンカを作製し、作製したセメントクリンカと石膏とを混合した混合材をボールミルで粉砕して作製されたセメント組成物であって、
X線回折測定及びリートベルト法による解析により定量された鉱物量が、C3S量が58.1質量%、C2S量が18.7質量%、C3A量が9.9質量%、及びC4AF量が9.0質量%であって、Li含有量が0.01質量%、ブレーン値が3520cm2/gである、セメント組成物。」

イ 本件発明1について

(ア) 本件発明1と甲6発明との対比

甲6発明の「X線回折測定及びリートベルト法による解析により定量された鉱物量」は、本件発明1の「X線回折-リートベルト解析法による鉱物組成」に相当する。

また、甲6発明の「C3S量が58.1質量%」、「C2S量が18.7質量%」、「C3A量が9.9質量%」及び「C4AF量が9.0質量%」は、それぞれ、本件発明1の「C3S量が50質量%~65質量%」、「C2S量が10質量%~25質量%」、「C3A量が6質量%~11質量%」及び「C4AF量が9質量%~12質量%」との各特定事項を満足する。

したがって、本件発明1と甲6発明とは、

「X線回折-リートベルト解析法による鉱物組成が、C3S量が50質量%~65質量%、C2S量が10質量%~25質量%、C3A量が6質量%~11質量%、C4AF量が9質量%~12質量%であるセメント組成物。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)

本件発明1では、「C3Aに固溶するK2O量が0.3質量%以下である」のに対して、甲6発明では、その点が明らかでない点。

(イ) 相違点1の検討

a まず、相違点1が実質的なものであるかを検討する。

(a) 甲6発明では、「セメントクリンカ」を作製する原料として、「二酸化珪素(キシダ化学製、試薬1級、SiO2)、酸化鉄(III)(関東化学製、試薬特級、Fe2O3)、炭酸カルシウム(キシダ化学製、試薬1級、CaCO3)、酸化アルミニウム(関東化学製、試薬1級、Al2O3)、塩基性炭酸マグネシウム(キシダ化学製、試薬特級、約4MgCO3・Mg(OH)2・5H2O)、炭酸ナトリウム(キシダ化学製、無水・特級、Na2CO3)、リン酸三カルシウム(キシダ化学製、試薬1級、Ca3(PO4)2)、硫酸カルシウム2水和物(キシダ化学製、試薬1級、CaSO4・2H2O)、及び、炭酸リチウム(関東化学株式会社製)」といった試薬が使用されているところ、各試薬の規格書(参考資料3も参照した。)をみても、「二酸化珪素(キシダ化学製、試薬1級、SiO2)」、「酸化鉄(III)(関東化学製、試薬特級、Fe2O3)」、「酸化アルミニウム(関東化学製、試薬1級、Al2O3)」、「塩基性炭酸マグネシウム(キシダ化学製、試薬特級、約4MgCO3・Mg(OH)2・5H2O)」、及び、「リン酸三カルシウム(キシダ化学製、試薬1級、Ca3(PO4)2)」におけるカリウム含有量の規格値は定められていない。

(b) また、前記3(6)イによれば、甲6発明の「セメントクリンカ」は、X線回折プロファイルによる同定で、「K3Na(SO4)2」、「Pottasiumsulfate(K2SO4)」及び「beta-Arcanite(アルカナイト)」といったカリウムを含む複数の構成相を含むことが確認されている(【0041】)。

(c) 加えて、前記3(8)によれば、「通常、クリンカー原料中のアルカリ量はSO3量を上回っており、アルカリ硫酸塩を形成した後、過剰のアルカリ分はクリンカー鉱物中に固溶する」こと、また、前記3(3)によれば、「固溶アルカリは、間げき相のなかでもアルミネート相に多くふくまれ」ることは、当該技術分野における技術常識であるといえる。

(d) 前記(a)~(c)の事項を併せ考えれば、甲6発明の「セメントクリンカ」のアルミネート相(C3A)は、K2Oを固溶しているといえるものの、その含有量が0.3質量%以下になっているとは理解できない。

b 次に、甲6発明において、C3Aに固溶するK2O量を0.3質量%以下とすることの容易想到性について検討する。

(a) 甲第2号証及び甲第3号証には、セメントクリンカー中のC3Aに固溶するK2O量が0.1~1.8%であること(前記3(2)、同(3)参照)、甲第4号証には、C3Aに固溶するアルカリ量が増加すると水和発熱反応が小さくなること(前記3(4)参照)、甲第7号証には、C3A量に応じて、SO3/R2O比を2.5以上に調整して、セメント硬化体の乾燥収縮率の増大を抑制すること(前記3(7)参照)、甲第8号証には、セメント中の水溶性アルカリ量に関する事項(前記3(8))がそれぞれ記載されているものの、これらの甲号証には、C3Aに固溶するK2O量を0.3質量%以下にして水和熱量を抑制することは記載も示唆もされていない。

(b) また、甲第1号証、甲第5号証、参考資料1、参考資料2、引用文献2~引用文献4のいずれにも、セメントクリンカー中のC3Aに固溶するK2O量に関する事項は記載されていない。

(c) したがって、甲第1号証~甲第8号証、参考資料1、参考資料2、引用文献2~引用文献4の記載を参酌しても、甲6発明において、C3Aに固溶するK2O量を0.3質量%以下とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。

(ウ) 申立人の主張についての検討

申立人は、甲6発明で使用されている原料試薬の規格値から算出した、セメントクリンカー中に含まれる不純物アルカリ量や、セメントクリンカーのSO3量を論拠として、甲6発明のC3Aに固溶するK2O量が0.3質量%を下回っている蓋然性が高い旨を主張している(回答書第第3頁第8行~第4頁第9行)。

しかしながら、前記(イ)a(a)に示したとおり、甲6発明で使用されている原料試薬の一部試薬は、カリウム含有量の規格値を特定していないし、また、C3Aに固溶するK2O量は、セメントクリンカーのSO3量のみで決まるものではなく、鉱物組成や焼成条件にも影響されるから、申立人の上記主張は採用できない。

(エ) 小括

したがって、本件発明1は、甲第6号証(引用文献1)に記載された発明であるといえないし、また、甲第6号証(引用文献1)に記載された発明、及び、甲第1号証~甲第8号証、参考資料1、参考資料2、引用文献2~引用文献4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

なお、甲第6号証の「実施例4」、「実施例5」、「比較例2」、「比較例8」の「セメント組成物」に注目して、甲第6号証に記載された発明を認定しても、いずれの場合も甲6発明と同様に判断される。

ウ 本件発明2~5について

本件発明2~5は、本件発明1の特定事項を全て含むものであり、少なくとも前記相違点1で相違するから、前記イで検討した理由により、本件発明2~5は、甲第6号証(引用文献1)に記載された発明であるといえないし、また、甲第6号証(引用文献1)に記載された発明、及び、甲第1号証~甲第8号証、参考資料1、参考資料2、引用文献2~引用文献4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

エ 取消理由1及び申立理由2についての結論

以上の検討とおり、取消理由1及び申立理由2に理由はない。

(2) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)について

ア 甲第1号証に記載された発明

甲第1号証の前記3(1)エの記載事項を、「試料A-1」の「普通ポルトランドセメント」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「セメントクリンカーの化学組成が、SiO2が20.9重量%、Al2O3が5.4重量%、Fe2O3が3.3重量%、CaOが63.8重量%、MgOが1.1重量%、SO3が2.0重量%、Na2Oが0.32重量%、K2Oが0.47重量%、アルカリ成分R2Oが0.63質量%、水溶性アルカリ成分s-R2Oが0.26質量%であり、
X線回折装置を用いたリートベルト解析によって測定されたポルトランドセメントの鉱物組成が、C3Sが59.3質量%、C2Sが15.4質量%、C3Aが6.2質量%、C4AFが11.4質量%、石灰石が3.0質量%、二水石膏が1.8質量%、半水石膏が2.6質量%である、普通ポルトランドセメント。」

イ 本件発明1について

(ア) 本件発明1と甲1発明の対比

甲1発明の「X線回折装置を用いたリートベルト解析によって測定されたポルトランドセメントの鉱物組成」は、本件発明1の「X線回折-リートベルト解析法による鉱物組成」に相当する。

また、甲1発明の「C3Sが59.3質量%」、「C2Sが15.4質量%」、「C3Aが6.2質量%」及び「C4AFが11.4質量%」は、それぞれ、本件発明1の「C3S量が50質量%~65質量%」、「C2S量が10質量%~25質量%」、「C3A量が6質量%~11質量%」及び「C4AF量が9質量%~12質量%」との各特定事項を満足する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、

「X線回折-リートベルト解析法による鉱物組成が、C3S量が50質量%~65質量%、C2S量が10質量%~25質量%、C3A量が6質量%~11質量%、C4AF量が9質量%~12質量%であるセメント組成物。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点2)

本件発明1では、「C3Aに固溶するK2O量が0.3質量%以下である」のに対して、甲1発明では、その点が明らかでない点。

(イ) 相違点2の検討

a まず、相違点2が実質的なものであるかを検討する。

甲第1号証には、C3Aに固溶するK2O量についての明示的な記載はないし、また、普通ポルトランドセメントクリンカーのC3Aに固溶するK2O量は、前記3(2)及び(3)によれば、0.1~1.8%程度であることも踏まえると、甲1発明の普通ポルトランドセメントにおいて、そのセメントクリンカー中のC3Aに固溶するK2O量が0.3質量%以下になっているとは理解できない。

b 次に、甲1発明において、C3Aに固溶するK2O量を0.3質量%以下とすることの容易想到性について検討する。

前記(1)イ(イ)bに示したとおり、甲第2号証~甲第8号証、参考資料1、参考資料2、引用文献2~引用文献4には、C3Aに固溶するK2O量を0.3質量%以下にして水和熱量を抑制することは記載も示唆もされていないから、これらの証拠の記載を参酌しても、甲1発明において、C3Aに固溶するK2O量を0.3質量%以下とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。

(ウ) 申立人の主張についての検討

申立人は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0022】に「Sの混入量を制御することによって硫酸塩となるK2O量を調整することができ、その結果として、C3Aに固溶するK2O量を調整することが可能となる。」と記載されているところ、甲1発明のセメントクリンカーのK2O量に対するSO3量が、本件特許の実施例に比べて充分に含まれていることを論拠として、甲1発明においてもC3Aに固溶するK2O量は0.3質量%以下となっている蓋然性が高いことを主張している(特許異議申立書第22頁第4行~第23頁第12行、回答書第4頁第26行~第5頁末行)。

しかしながら、C3Aに固溶するK2O量は、K2O量に対するSO3量のみで決まるものでなく、鉱物組成や焼成条件などにも影響されることから、申立人の上記主張は採用できない。

(エ) 小括

したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第8号証、参考資料1、参考資料2、引用文献2~引用文献4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

なお、甲第1号証の「試料A-2」~「試料A-10」の「普通ポルトランドセメント」、あるいは、「試料a-1」~「試料a-6」の「普通ポルトランドセメントクリンカー」に注目して、甲第1号証に記載された発明を認定しても、いずれの場合も甲1発明と同様に判断される。

ウ 本件発明2~5について

本件発明2~5は、本件発明1の特定事項を全て含むものであり、少なくとも前記相違点2で相違するから、前記イで検討した理由により、本件発明2~5は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第8号証、参考資料1、参考資料2、引用文献2~引用文献4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

エ 申立理由1についての結論

以上の検討とおり、申立理由1に理由はない。

(3) 申立理由3(明確性要件違反)について

ア 具体的な指摘事項

申立理由3は、要するに、本件発明1の「C3Aに固溶するK2O量」との特定事項に関し、本件特許明細書の【0020】には、「C3Aに固溶するK2O量は、走査型電子顕微鏡におけるエネルギー分散X線分光法(以下「SEM-EDS」という。)によって得られる値であ」ることが記載されているのに対して、特許権者は、審査段階における令和3年9月7日提出の意見書において、新規性及び進歩性欠如の拒絶理由で引用された引用文献1(伊藤貴康ら,リートベルト法により定量したアルミネート相とセメントの初期水和反応特性,Cement Science and Concrete Technology,2002年,Vol.56,pp.29-35。以下、「審査段階引用文献」という。)におけるクリンカー中のC3Aに固溶するK2O量を、本件特許明細書の【0034】に記載された「セメントクリンカー中のK2O量」、「硫酸アルカリ(水溶性アルカリ)中のK2O量」及び「セメントクリンカー中のC3A量」からの算出方法により算出しているため、本件発明1の「C3Aに固溶するK2O量」の評価方法を不明確にしていることを論拠として、本件特許の特許請求の範囲の記載は、明確性要件を満たさない、というものである。

イ 申立理由3についての検討

本件特許明細書の【0020】には、「ここで、C3Aに固溶するK2O量は、走査型電子顕微鏡におけるエネルギー分散X線分光法(以下「SEM-EDS」という。)によって得られる値であり、この測定を、5個以上の異なるセメントクリンカー粒内のC3Aについて、合計15点以上測定した値の平均値として得られたものであって、C3A粒子の化学成分の総和100質量%に対する割合(質量%)を示す。」と記載され、本件発明1の「C3Aに固溶するK2O量」の評価方法は明確に定義されている。

他方、本件特許明細書の【0034】には、「簡便且つ実際的な方法は、セメントキルンから排出されたセメントクリンカー中のK2O量(KC、質量%)、硫酸アルカリ(水溶性アルカリ)中のK2O量(Ks、質量%)、及びセメントクリンカー中のC3A量(CA、質量%)を測定し、硫酸アルカリとならなかったK2O量((KC-Ks)、質量%)が全てC3Aに固溶したとした場合のK2O固溶量(((KC-Ks)/CA)×100(質量%))を算出し、この算出値が所定の値となるように、調合原料、窯前吹き込み原料及び/又は燃料の、種類及び/又は使用量を調整すればよい。」と記載され、C3Aに固溶するK2O量の調整方法が記載されているにすぎず、当該記載が【0020】に記載された定義を不明確にするものではない。

また、令和3年9月7日提出の意見書における、審査段階引用文献でのクリンカー中のC3Aに固溶するK2O量の算出方法は、当該文献の記載事項から算出可能なC3Aに固溶するK2O量の予測値を示したものにすぎないから、当該算出方法が【0020】に記載された定義に影響しないことも明らかである。

したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、明確性要件を満たさないということはできない。

ウ 申立理由3についての結論

以上の検討とおり、申立理由3に理由はない。

第4 むすび

以上のとおりであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。

また、他に当該請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2022-700779

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