特許異議申立
2025-700835
高炉スラグ微粉末及びその製造方法
- 審判番号
- 2025-700835
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-108429
- 登録番号
- 7682044
- 請求日
- 2025年08月21日
- 審決日
- 2026年01月28日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】太平洋セメント株式会社
- 【権利者代理人】村地 俊弥
- 【異議申立人】寺澤 佳奈美
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 金 公彦
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1651.121-Y (C04B) / P1651.536-Y (C04B) / P1651.537-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7682044号発明「高炉スラグ微粉末及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7682044号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7682044号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和3年6月30日の出願であって、令和7年5月15日にその特許権の設定登録がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月21日に、請求項1~4に係る特許について、特許異議申立人 寺澤 佳奈美(以下、「申立人」という。)により、甲第1~6a号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~4に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1~4に係る発明を、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g、及び「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度が1.40~1.70であることを特徴とする高炉スラグ微粉末。
【請求項2】
「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される活性度指数及びフロー値比の値として、材齢28日活性度指数が75%以上、材齢91日活性度指数が95%以上、及びフロー値比が95%以上である請求項1に記載の高炉スラグ微粉末。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高炉スラグ微粉末と、セメントクリンカ粉末と、石膏粉末を含むセメント組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の高炉スラグ微粉末を製造するための方法であって、
上記高炉スラグ微粉末の材料として使用するか否かを判断すべき高炉スラグが、「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度が1.40~1.70の範囲内であるという条件を満たしているかどうかを調べて、上記高炉スラグが上記条件を満たしている場合に、上記高炉スラグを上記高炉スラグ微粉末の材料として選択する高炉スラグ選択工程と、
上記高炉スラグ選択工程で選択された高炉スラグを、5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、及びブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/gとなるように、粉砕手段を用いて粉砕して、高炉スラグ微粉末を得る高炉スラグ粉砕工程、
を含むことを特徴とする高炉スラグ微粉末の製造方法。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1) 甲第1号証を主引用例とした場合について
ア 本件発明1~3は、甲第1号証に記載された発明及び本件特許の出願日当時の周知技術(甲第2~3号証を引用)に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件発明4は、甲第1号証に記載された発明及び本件特許の出願日当時の周知技術(甲第2~3号証を引用)に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2) 甲第4号証を主引用例とした場合について
ア 本件発明1、3及び4は、甲第4号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件発明2は、甲第4号証に記載された発明、甲第6号証に記載された事項及び本件特許の出願日当時の周知技術(甲第2号証を引用)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 甲第6号証を主引用例とした場合について
本件発明1~4は、甲第6号証に記載された発明及び本件特許の出願日当時の周知技術(甲第2~3号証を引用)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
本件発明1においては、「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」の下限は特定されていない。
そして、本件特許明細書の段落【0037】の【表2】(下記第4の2(1)ウ)に記載された実施例のうち、「5%体積累積粒径」の最小値は1.30μm(実施例11)であり、「10%体積累積粒径」の最小値は1.78μm(実施例5)であり、これ以下の「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」を有し、かつ本件発明1の発明特定事項を満たす実施例は記載されていない。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、当業者は、「5%体積累積粒径」が1.30μm未満の範囲でありつつ、本件発明1に係る発明のほかの要件を満足する「高炉スラグ微粉末」をどのようにしたら得られるのかを理解することができないし、同様に、「10%体積累積粒径」が1.78μm未満の範囲でありつつ、本件発明1に係る発明のほかの要件を満足する「高炉スラグ微粉末」をどのようにしたら得られるのかを、理解することができない。
したがって、本件発明1を実施するには、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要するから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号所定の規定を満たさない。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
3 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) 本件発明の課題は、塩基度が低く、かつ、ブレーン比表面積が大きくないにもかかわらず、活性度指数が大きく、セメント混合材として好適に使用することができる「高炉スラグ微粉末」を提供することにある。
ところが、本件特許明細書の段落【0037】の【表2】(下記第4の2(1)ウ)には、「5%体積累積粒径」が1.30μm(実施例11)未満の実施例は記載されていないし、「10%体積累積粒径」が1.78μm(実施例5)未満の実施例は記載されていないから、当業者は、「5%体積累積粒径」が1.30μm未満又は「10%体積累積粒径」が1.78μm未満である「高炉スラグ微粉末」が、前記本件発明の課題を解決できることを認識することができない。
(2) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0031】の【表1】(下記第4の2(1)ウ)には、実施例において4種類の高炉スラグA~Dを用いることが記載され、同段落【0037】の【表2】(下記第4の2(1)ウ)には、高炉スラグA~Dを用いた実施例、比較例及び参考例が記載されている。
ところが、高炉スラグCを用いた場合には実施例しか記載されておらず、高炉スラグDについては、一つの実施例が記載されているにすぎないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、当業者は、本件発明1における「塩基度が1.40~1.70」の全範囲において前記本件発明の課題を解決できることを認識することができない。
したがって、本件発明1は、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えているから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号所定の規定を満たさない。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
4 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
本件発明1においては、「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」の下限は特定されていないから、それぞれが0を含むものである。
ところが、「高炉スラグ微粉末」の性状として、「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」は、当業者に通常用いられる性状ではないから、当業者は、「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」が0である場合の「高炉スラグ微粉末」がどういうものであるのかを理解することができない。
また、本件発明1において特定される「ブレーン比表面積」も、粒子の大きさに関連する性状であるところ、当業者は、「ブレーン比表面積」が「3,000~5,500cm2/g」の範囲を満たしつつ、「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」が0である「高炉スラグ微粉末」がどういうものであるのかを理解することができない。
したがって、本件発明1は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号所定の規定を満たさない。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
5 証拠方法
甲第1号証:近松竜一ら,「高炉スラグ微粉末の粉末度評価法に関する研究」,土木学会論文集,平成2年8月20日,社団法人土木学会,No.420/V-13,p.71-80
甲第2号証:日本規格協会編,「JISハンドブック 8 建築I(材料・設備)」,第1版第1刷,2017年1月31日,一般財団法人日本規格協会,p.256~262
甲第3号証:日本規格協会編,「JISハンドブック 8 建築I(材料)」,第1版第1刷,2005年1月31日,財団法人日本規格協会,p.200~207
甲第4号証:特開2015-27926号公報
甲第5号証:特開2016-3178号公報
甲第6号証:瀬尾文一郎ら,「11.粒度構成の異なる高炉水砕スラグ粉末を用いた高炉セメントの諸性質」,セメント技術年報,昭和61年,No.40,p.71-74
甲第6a号証:CiNii(NII学術情報ナビゲータ[サイニィ])のウエブサイト,インターネット<https://ci.nii.ac.jp/ncid/AN00351793#anc-resource>
なお、甲第6a号証は、甲第6号証が昭和61年12月に発行されたことを裏付けるためのものである。
第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1) 甲各号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア) 甲第1号証には、以下のa~gの記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
a 「1. 序
近年は,塩害やアルカリ骨材反応の抑制だけでなく,コンクリートのその他の品質の改善にも効果のある高炉スラグ微粉末(以下,スラグ微粉末と略称)をコンクリート用混和材として活用するための研究が活発に行われている.・・・
既往の試験や研究の結果を通覧すると,スラグ微粉末を用いたコンクリートの諸性質は,スラグ微粉末による置換率だけでなく,使用するスラグ微粉末の粉末度によって大きく相違することが示されている.そして,一般には,水和熱による発熱量の増加が特に問題となる場合を除き,粉末度の大きいスラグ微粉末を用いた場合ほどスラグ微粉末の使用効果が大きくなる傾向にあることが示されている.・・・
上記のようなスラグ微粉末の粉末度の影響を調べる場合には,一般にはブレーン比表面積が用いられている.また,スラグ微粉末の品質に関する各国の規格も,セメントの比表面積測定に用いるブレーン法に準じた方法を粉末度の評価方法として採用している.・・・しかしながら,後述するように,セメント以外の微粉末に対しては,ブレーン法を準用する場合の試験方法,特に,試料ベッドの作成方法が具体的に明示されているとはいいがたいのであって,試験の精度に疑問を感じることが多い.また,ブレーン法は,その装置がセメントを対象として考案されたものであること4),測定する試料の比表面積がセメント標準試料の比表面積を基準として算出されること,等の理由により,物性や細かさがセメントと著しく相違する各種の微粉末を対象とした場合には,その測定値の信頼性にも疑問が残るとの指摘もある5).これらの疑問にもかかわらず,スラグ微粉末,フライアッシュ,膨張材,などの混和材に対するブレーン法の適用性を詳細に検討した研究はほとんど見当たらない.したがって,スラグ微粉末が非常に細かく粉砕して用いられることが多くなってきている現状を考慮すると,少なくともスラグ微粉末の場合には,その比表面積測定にブレーン法を適用する場合の試験方法や現行のブレーン法で得られる値の信頼性について検討しておく必要があると考えられる.
本研究は,従来よりも細かいスラグ微粉末や粉砕方法が相違するスラグ微粉末を対象として,上記の諸点を基礎的に検討するとともに,試料ベッドの空隙率に依存しない方法によるブレーン比表面積測定,レーザー光法による微粉末の粒径分布測定,電子顕微鏡による観察,なども行って,各種のスラグ微粉末の粉末度を正しく評価する方法について検討した結果をまとめたものである.」(71ページ左欄1行~72ページ左欄27行)
b 「2. 微粉末試料
本研究で対象としたスラグ微粉末は,3種類の水砕スラグ(KO,KAおよびB)を粉砕機構の異なる2つの粉砕機(ジェットミルおよびボールミル)でそれぞれ3~4段階の粉末度に粉砕した合計10種類である(表-1).・・・
一方、表-1中の残りのスラグ微粉末B3,B4,B5およびB8は,水砕スラグBをボールミルで,ブレーン比表面積がそれぞれ約3300,4500,5500,8000cm2/gとなるように粉砕したものであり,前述した土木学会の指針や規格を作成する際の試験で用いた共通試料である.・・・
3. 試験方法
ブレーン比表面積の測定には,JIS R 5201に適合するブレーン空気透過装置を用いた.」(72ページ左欄28行~右欄13行)
c 「
[図:0001433110000001.jpg]
」(72ページ右欄)
d 「表-3に,上述の各値,式(5)で求まるeを用いてブレーン比表面積を測定した場合の測定値(Se),試料ベッドの成型に実際に要した加圧力,などをまとめて示した.」(74ページ右欄17行~20行)
e 「
[図:0001433110000002.jpg]
」(74ページ右欄)
f 「6. 粒径分布測定法(レーザー光法)による評価
ブレーン空気透過装置を用いる比表面積測定法は,試料圧縮体を透過する空気の透過速度で試料の相対的な細かさを判定する方法であるので,試料を構成する粒子の形や粒度分布が相違すれば,相対的な比表面積の値に関し誤った評価を与える可能性があると考えられる.そこで,次に,各試料の粒径分布の測定を行い,この結果に基づいた比表面積の値について検討してみることにした.
表-6に,レーザー粒度分析計によって求めた各試料の粒径分布測定結果を示した.」(77ページ右欄18行~29行)
g 「
[図:0001433110000003.jpg]
」(77ページ)
(イ) 前記(ア)aの記載によれば、甲第1号証には、近年、塩害やアルカリ骨材反応の抑制だけでなく、コンクリートのその他の品質の改善にも効果のある高炉スラグ微粉末(以下、スラグ微粉末と略称)をコンクリート用混和材として活用するための研究が活発に行われており、スラグ微粉末を用いたコンクリートの諸性質は、使用するスラグ微粉末の粉末度によって大きく相違することが示されているところ、前記スラグ微粉末の粉末度の影響を調べる場合には、一般にはブレーン比表面積が用いられているのであるが、セメント以外の微粉末に対してブレーン法を準用する場合、試験の精度に疑問を感じることが多く、また、ブレーン法は、物性や細かさがセメントと著しく相違する各種の微粉末を対象とした場合には、その測定値の信頼性にも疑問が残るとの指摘もあるにもかかわらず、スラグ微粉末、フライアッシュ、膨張材、などの混和材に対するブレーン法の適用性を詳細に検討した研究はほとんど見当たらないことから、従来よりも細かいスラグ微粉末や粉砕方法が相違するスラグ微粉末を対象として、試料ベッドの空隙率に依存しない方法によるブレーン比表面積測定、レーザー光法による微粉末の粒径分布測定、電子顕微鏡による観察、なども行って、各種のスラグ微粉末の粉末度を正しく評価する方法について検討した結果をまとめたことが記載されている。
また、前記(ア)b~gの記載によれば、甲第1号証には、前記検討におけるスラグ微粉末は、3種類の水砕スラグ(KO、KA及びB)を粉砕機構の異なる2つの粉砕機(ジェットミル及びボールミル)でそれぞれ3~4段階の粉末度に粉砕した合計10種類であり、このうち高炉スラグ微粉末B3、B4、B5及びB8は、水砕スラグBをボールミルで、ブレーン比表面積がそれぞれ約3300、4500、5500、8000cm2/gとなるように粉砕したものであることが記載されている。
そして、その試験方法は、ブレーン比表面積の測定に、JIS R 5201に適合するブレーン空気透過装置を用いたものであり、粒径分布測定法(レーザー光法)による評価は、各試料の粒径分布測定結果をレーザー粒度分析計によって求めたものであり、これらの試料のうち高炉スラグ微粉末B3に注目すると、前記高炉スラグ微粉末B3は、ブレーン比表面積が3610cm2/gであり、粒径分布が、体積比率(%)で、0~1.0μm:6.1%、1.0~1.5μm:4.6%、1.5~2.0μm:6.8%、2.0~3.0μm:8.1%、3.0~4.0μm:5.9%、4.0~6.0μm:7.8%、6.0~8.0μm:7.7%、8.0~12μm:9.8%、12~16μm:9.0%、16~24μm:14.0%、24~32μm:9.0%、32~48μm:11.2%であり、平均粒径が9.2μmであるものである。
(ウ) 前記(イ)によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「近年、塩害やアルカリ骨材反応の抑制だけでなく、コンクリートのその他の品質の改善にも効果のある高炉スラグ微粉末(以下、スラグ微粉末と略称)をコンクリート用混和材として活用するための研究が活発に行われており、スラグ微粉末を用いたコンクリートの諸性質は、使用するスラグ微粉末の粉末度によって大きく相違することが示されているところ、前記スラグ微粉末の粉末度の影響を調べる場合には、一般にはブレーン比表面積が用いられているのであるが、セメント以外の微粉末に対してブレーン法を準用する場合、試験の精度に疑問を感じることが多く、また、ブレーン法は、物性や細かさがセメントと著しく相違する各種の微粉末を対象とした場合には、その測定値の信頼性にも疑問が残るとの指摘もあるにもかかわらず、スラグ微粉末、フライアッシュ、膨張材、などの混和材に対するブレーン法の適用性を詳細に検討した研究はほとんど見当たらないことから、従来よりも細かいスラグ微粉末や粉砕方法が相違するスラグ微粉末を対象として、試料ベッドの空隙率に依存しない方法によるブレーン比表面積測定、レーザー光法による微粉末の粒径分布測定、電子顕微鏡による観察、なども行って、各種のスラグ微粉末の粉末度を正しく評価する方法について検討した結果をまとめたものであって、
前記検討におけるスラグ微粉末は、3種類の水砕スラグ(KO、KA及びB)を粉砕機構の異なる2つの粉砕機(ジェットミル及びボールミル)でそれぞれ3~4段階の粉末度に粉砕した合計10種類であり、このうち高炉スラグ微粉末B3、B4、B5及びB8は、水砕スラグBをボールミルで、ブレーン比表面積がそれぞれ約3300、4500、5500、8000cm2/gとなるように粉砕したものであり、
その試験方法は、ブレーン比表面積の測定に、JIS R 5210に適合するブレーン空気透過装置を用いたものであり、粒径分布測定法(レーザー光法)による評価は、各試料の粒径分布測定結果をレーザー粒度分析計によって求めたものであり、
これらの試料のうち高炉スラグ微粉末B3は、ブレーン比表面積が3610cm2/gであり、
粒径分布が、体積比率(%)で、0~1.0μm:6.1%、1.0~1.5μm:4.6%、1.5~2.0μm:6.8%、2.0~3.0μm:8.1%、3.0~4.0μm:5.9%、4.0~6.0μm:7.8%、6.0~8.0μm:7.7%、8.0~12μm:9.8%、12~16μm:9.0%、16~24μm:14.0%、24~32μm:9.0%、32~48μm:11.2%であり、
平均粒径が9.2μmである、高炉スラグ微粉末B3。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「JIS A6206:2013」に関して、以下の(ア)~(ウ)の記載がある。
(ア) 「コンクリート用高炉スラグ微粉末
Ground granulated blast-furnace slag for concrete
序文
この規格は,せん鉄製造過程で生成する高炉水砕スラグを粉砕した微粉末を,コンクリートとして用いるために必要な品質などについて規定したものである。この規格は,1995年に制定され,その後3回の改訂を経て今日に至っている。また,技術上重要な改正に関する旧規格との対照を附属書Bに記載する。
なお,対応国際規格は現時点で制定されていない。」(256ページ1行~7行)
(イ) 「4 種類
高炉スラグ微粉末の種類は,比表面積によって次の4種類とする。
a) 高炉スラグ微粉末 3000
b) 高炉スラグ微粉末 4000
c) 高炉スラグ微粉末 6000
d) 高炉スラグ微粉末 8000
5 品質
高炉スラグ微粉末の品質は,表1による。
[図:0001433110000004.jpg]
6 原材料
6.1 高炉水砕スラグ
高炉水砕スラグは,塩基度が1.60以上のものを用いる。
塩基度は,次の式によって算出する。各成分の定量方法は,JIS R 5202 又は JIS R 5204による。ただし,試料は、比表面積が4000cm2/g程度になるように粉砕したものを用いる。
[図:0001433110000005.jpg]
」(257ページ1行~下から15行)
(ウ) 「7 試験方法
7.1 試料
試料の調製は,次による。
・・・
7.3 比表面積
比表面積の試験は,JIS R 5201の7.1(比表面積試験)による。ただし,試料の質量は,ブレーン空気透過装置のセルに粉末度測定校正用標準試料と同程度の加圧力で詰めることのできる量とする。」(257ページ下から9行~258ページ6行)
ウ 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、「JIS R5211:2003」に関して、以下の記載がある。
「高炉セメント
Portland blast-furnace slag cement
・・・
5. 原材料
5.1 クリンカー クリンカーは,JIS R 5210に規定するクリンカーを用いる。
5.2 高炉スラグ 高炉スラグは,急冷砕したものを用いる。その塩基度(4)は,1.4以上でなければならない。
注(4) 塩基度は,次の式によって算出する。ただし,この分析方法は,JIS R 5202 又は JIS R 5204を援用する。
[図:0001433110000006.jpg]
」(201ページ1行~202ページ下から9行)
エ 甲第4号証の記載事項及び甲第4号証に記載された発明
(ア) 甲第4号証には、以下のa~cの記載がある。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカー及び石膏からなるセメント組成物と、高炉スラグとを含む低品位高炉スラグ混合セメント組成物であって、
前記高炉スラグの塩基度が1.4以上1.6未満であり、且つ、前記高炉スラグの含有量が1質量%を超え15質量%以下であることを特徴とする低品位高炉スラグ混合セメント組成物。」
b 「【0001】
本発明は、塩基度がJIS規格外の高炉スラグを使用した場合であっても強度発現性に優れる低品位高炉スラグ混合セメント組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント産業において多種の産業廃棄物及び/又は副産物が使用されている。産業廃棄物や副産物等を資源として有効利用することにより、循環型社会への貢献ならびに二酸化炭素(CO2)排出量の低減を実現することが可能となる。
【0003】
代表的な副産物としては高炉スラグがあり、セメント組成物の混合材として広く使用されている。その活性度を判断する指標の一つとして、(CaO+Al2O3+MgO)/SiO2から計算される塩基度が用いられており、一般的に塩基度は高い方が良いとされ、JIS R 5211:2009「高炉セメント」ではセメントに用いる高炉スラグの塩基度を1.6以上と定めている。例えば、特許文献1には、特定のセメント種とブレーン比表面積の高い高炉スラグ粉末を用いることで、普通セメント並の強度が得られるセメント組成物が開示されている。
【0004】
一方、さらなる循環型社会への貢献ならびに二酸化炭素排出量削減の観点で見ると、現行のJIS規格よりも低い塩基度の高炉スラグを有効利用することも必要である。このような低塩基度の高炉スラグ粉末を用いた例としては、特許文献2に、低発熱セメントの製造を目的に、塩基度が1.85~2.00である高炉水砕スラグと塩基度が1.25~1.45程度である高炉スラグを出発原料としたロックウール若しくはロックウール廃棄滓を併用し、塩基度が1.4~1.8になるように調整した混合紛体を用いた低発熱スラグセメントの製造方法が開示されている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、普通ポルトランドセメントや高炉セメントのような汎用的な用途に用いるためには、優れた強度発現性を有することが求められる。
【0007】
そこで本発明では、塩基度がJIS規格外の高炉スラグを使用した場合であっても、強度発現性に優れる低品位高炉スラグ混合セメント組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定の高炉スラグ添加量とすることで、高炉スラグの塩基度がJIS規格より低い場合であっても、優れた強度発現性が得られ、また断熱温度上昇も遜色ないセメント組成物が得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、セメントクリンカー及び石膏からなるセメント組成物と、高炉スラグとを含む低品位高炉スラグ混合セメント組成物であって、前記高炉スラグの塩基度が1.4以上1.6未満であり、且つ、前記高炉スラグの含有量が1質量%を超え15質量%以下である低品位高炉スラグ混合セメント組成物に関する。高炉スラグの塩基度と含有量をこれらの範囲とすることで、塩基度がJIS規格より低い場合であっても、優れた強度発現性が得られ、また、断熱温度上昇も抑制出来る。
・・・
【0016】
本発明によれば、塩基度がJIS規格外の高炉スラグを使用した場合であっても、強度発現性に優れ、断熱温度上昇も抑制出来るセメント組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を詳しく説明する。
【0018】
本発明の低品位高炉スラグ混合セメント組成物は、セメントクリンカー及び石膏からなるセメント組成物と、高炉スラグとを含む。
【0019】
高炉スラグの塩基度は1.4以上1.6未満であり、好ましくは1.45以上1.56未満、更に好ましくは1.50以上1.53未満である。これらの範囲であれば、強度発現性が良好である。
【0020】
高炉スラグのブレーン比表面積は2600~4600cm2/g、好ましくは3200~4400cm2/g、更に好ましくは3800~4200cm2/gである。これらの範囲であれば、強度発現性が良好で、断熱温度上昇も抑制出来る。
・・・
【0030】
低品位高炉スラグ混合セメント組成物を製造する方法としては、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを同時に粉砕して混合する方法や、セメントクリンカーと石膏とを粉砕しセメント組成物を製造した後、粉砕した高炉スラグと混合する方法や、セメントクリンカーと石膏とを粉砕しセメント組成物を製造した後、未粉砕の高炉スラグと混合し粉砕する方法等が挙げられる。」
c 「【実施例】
【0031】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容を詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0032】
[1.高炉スラグ]
表1に示す、JIS R 5211:2009「高炉セメント」の規格品および塩基度が規格外品の合計2種類の高炉スラグを用いた。高炉スラグの化学組成はJIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」により測定した。なお、ブレーン比表面積は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従い、ブレーン空気透過装置を用いて測定した。また、JIS R 5211:2009「高炉セメント」に準拠して塩基度を算出した。
【0033】
【表1】
[図:0001433110000007.jpg]
」
(イ) 前記(ア)aの記載によれば、甲第4号証には、セメントクリンカー及び石膏からなるセメント組成物と、高炉スラグとを含む低品位高炉スラグ混合セメント組成物であって、前記高炉スラグの塩基度が1.4以上1.6未満であり、且つ、前記高炉スラグの含有量が1質量%を超え15質量%以下である、低品位高炉スラグ混合セメント組成物が記載されている。
そして、前記(ア)bの記載によれば、前記低品位高炉スラグ混合セメント組成物は、塩基度がJIS規格外の高炉スラグを使用した場合であっても強度発現性に優れる低品位高炉スラグ混合セメント組成物であって、(CaO+Al2O3+MgO)/SiO2から計算される前記高炉スラグの塩基度は、1.4以上1.6未満であり、前記高炉スラグのブレーン比表面積は2600~4600cm2/gであるものである。
更に、前記(ア)cの記載によれば、前記高炉スラグとして高炉スラグBが用いられるものであり、前記高炉スラグBは、化学組成が、SiO2:38.36%、Al2O3:13.41%、Fe2O3:0.70%、CaO:41.23%、MgO:3.28%、SO3:0.05%、Na2O:0.16%、K2O:0.34%、R2O:0.38%、ブレーン比表面積が4060cm2/g、塩基度が1.51であり、ブレーン比表面積は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従い、ブレーン空気透過装置を用いて測定したものであり、JIS R 5211:2009「高炉セメント」に準拠して塩基度を算出したものである。
(ウ) そして、前記(イ)における高炉スラグBに注目すると、甲第4号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「セメントクリンカー及び石膏からなるセメント組成物と、高炉スラグとを含む低品位高炉スラグ混合セメント組成物における高炉スラグであって、
(CaO+Al2O3+MgO)/SiO2から計算される前記高炉スラグの塩基度が1.4以上1.6未満であり、前記高炉スラグのブレーン比表面積は2600~4600cm2/gであり、
化学組成が、SiO2:38.36%、Al2O3:13.41%、Fe2O3:0.70%、CaO:41.23%、MgO:3.28%、SO3:0.05%、Na2O:0.16%、K2O:0.34%、R2O:0.38%、ブレーン比表面積が4060cm2/g、塩基度が1.51であり、
ブレーン比表面積は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従い、ブレーン空気透過装置を用いて測定したものであり、JIS R 5211:2009「高炉セメント」に準拠して塩基度を算出したものである、高炉スラグB。」(以下、「甲4発明」という。)
オ 甲第6号証の記載事項及び甲第6号証に記載された発明
(ア) 甲第6号証には、以下のa~fの記載がある。
a 「 1. まえがき
高炉セメントの性質は,ポルトランドセメントの品質と高炉水砕スラグの塩基度,ガラス化率のほかに,高炉水砕スラグ粉末(以下,スラグ粉末と略記)の粒径およびその粒度分布によっても大きく左右される。スラグの塩基度やガラス化率が高炉セメントの強さとどのように関係するかを調べた研究はかなりあるが,スラグ粉末の粒度による影響を明らかにした報告は少ない1,2)。・・・
そこで本研究では,粒度構成の異なるスラグ粉末を分級調整した試製高炉セメントについて,モルタル強さ,長さ変化などを測定しスラグ粉末の粒度との関係について調べた。」(71ページ左欄1行~17行)
b 「 2. 実験方法
2.1 試料調整
使用した材料の品質を表1,2に示す。スラグ粉末は現場ミルで粉砕したものを気流分級機により再分級し13種類(No.1~No.13)の粒度構成の異なる試料を調整した。調整したスラグ粉末の粒度分布を図1に示す。これらのスラグ粉末と表2に示すポルトランドセメントを50:50(重量比)の割合で混合して高炉セメント(A1~A13,SO3=2.0%)を試製し各種試験に供した。
2.2 試験方法
モルタル強さ試験,フロー試験および凝結試験はJIS R 5201に,水和熱の測定はJIS R 5203によった。・・・またスラグ粉末の粒度分布測定はシーラス社のレーザー式粒度分布分析計を用いた。
3. 結果と検討
試製高炉セメントの試験結果を表3に示す。
スラグ粉末の粒度と高炉セメントの品質特性の関係を調べるため,上記のレーザー式粒度分布分析計の16測定ポイント(1,1.5,2,3,4,6,8,12,16,24,32,48,64,96,128,192μm)の粒度を組み合わせた117の粒子群と各品質特性との単相関係数を算出し検討を行った。」(71ページ左欄18行~72ページ左欄4行)
c 「4.まとめ
粒度構成の異なるスラグ粉末を用いて・・・品質特性と粒度構成とのかかわりを検討した結果,スラグ粉末の粒度を6μmと16μmの二つのポイントでとらえれば高炉セメントの諸性質が推定できることを明らかにした。」(74ページ右欄7行~12行)
d 「
[図:0001433110000008.jpg]
」(71ページ左欄)
e 「
[図:0001433110000009.jpg]
」(71ページ右欄)
f 「
[図:0001433110000010.jpg]
」(72ページ)
(イ) 前記(ア)aの記載によれば、甲第6号証には、粒度構成の異なるスラグ粉末を分級調整した試製高炉セメントについて、モルタル強さ、長さ変化などを測定しスラグ粉末の粒度との関係について調べたことが記載されており、前記(ア)b、dの記載によれば、使用した高炉水砕スラグの品質は、SiO2:33.8%、Al2O3:14.2%、FeO:0.7%、CaO:42.9%、MgO:5.2%、MnO:0.5%、TiO2:1.2%、S:1.0%、Total:99.5%、ガラス量99%であるものであり、スラグ粉末は現場ミルで粉砕したものを気流分級機により再分級し13種類(No.1~No.13)の粒度構成の異なる試料を調整したものである。
また、前記(ア)b及びeの記載によれば、No.13の試料は、シーラス社のレーザー式粒度分布分析計を用いたスラグ粉末の粒度分布測定によれば、累積通過分が5%の粒径が1μm未満であり、累積通過分が10%の粒径が1μm未満であることが看取されるものであり、前記(ア)cの記載によれば、粒度構成の異なるスラグ粉末を用いて品質特性と粒度構成とのかかわりを検討した結果、スラグ粉末の粒度を6μmと16μmの二つのポイントでとらえれば、高炉セメントの諸性質が推定できることを明らかにしたものである。
(ウ) そして、前記(イ)におけるNo.13の試料に注目すると、甲第6号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「粒度構成の異なるスラグ粉末を分級調整した試製高炉セメントについて、モルタル強さ、長さ変化などを測定しスラグ粉末の粒度との関係について調べるのに使用した高炉水砕スラグであって、
使用した高炉水砕スラグの品質は、SiO2:33.8%、Al2O3:14.2%、FeO:0.7%、CaO:42.9%、MgO:5.2%、MnO:0.5%、TiO2:1.2%、S:1.0%、Total:99.5%、ガラス量99%であり、
シーラス社のレーザー式粒度分布分析計を用いたスラグ粉末の粒度分布測定によれば、累積通過分が5%の粒径が1μm未満であり、累積通過分が10%の粒径が1μm未満であり、
粒度構成の異なるスラグ粉末を用いて品質特性と粒度構成とのかかわりを検討した結果、スラグ粉末の粒度を6μmと16μmの二つのポイントでとらえれば、高炉セメントの諸性質が推定できることを明らかにしたものである、高炉水砕スラグ。」(以下、「甲6発明」という。)
なお、甲第5号証及び甲第6a号証の摘記は省略する。
(2) 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)の判断
ア 甲第1号証を主引用例とした場合について
(ア) 対比・判断
a 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明において、「粒径分布が、体積比率(%)で、0~1.0μm:6.1%」であることは、このときの「5%体積累積粒径」は「1.0μm」以下であるといえるから、本件発明1において、「5%体積累積粒径が1.60μm以下」であることを満たす。
また、甲1発明において、「粒径分布が、体積比率(%)で、0~1.0μm:6.1%、1.0~1.5μm:4.6%」であることは、「0~1.0μm」及び「1.0~1.5μm」の合計の「体積比率(%)」が6.1%+4.6%=10.7%であることからみれば、このときの「10%体積累積粒径」は「1.5μm」以下であるといえるから、本件発明1において、「10%体積累積粒径が2.20μm以下」であることを満たす。
更に、甲1発明において、「JIS R 5201に適合するブレーン空気透過装置を用い」て測定した「ブレーン比表面積が3610cm2/gであ」ることは、本件発明1における「ブレーン比表面積」がJIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)の7.3 比表面積に規定されている方法により測定されたものであることと(本件特許明細書の段落【0012】。下記2(1)イ。)、JIS A 6206が記載されている甲第2号証に、コンクリート用高炉スラグ微粉末の比表面積はJIS R 5201の7.1(比表面積試験)によることが記載されている(前記(1)イ(ウ))ことからみれば、甲1発明における「ブレーン比表面積」は本件発明1と同じ測定方法によるものといえるから、本件発明1において「ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g」であることを満たす。
そして、「ブレーン比表面積が3610cm2/g」である甲1発明における「高炉スラグ微粉末B3」は、本件発明1と同様「微粉末」といえるから、本件発明1における「高炉スラグ微粉末」に相当する。
b 前記aによれば、本件発明1と甲1発明とは、
「5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/gである高炉スラグ微粉末。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「高炉スラグ微粉末」が、「「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度」(以下、「塩基度」という。)が「1.40~1.70」であるのに対して、甲1発明は、「高炉スラグ微粉末」の「塩基度」が明らかでない点。
c 以下、前記bの相違点1の容易想到性について検討すると、甲1発明は、「セメント以外の微粉末に対してブレーン法を準用する場合、試験の精度に疑問を感じることが多く、また、ブレーン法は、物性や細かさがセメントと著しく相違する各種の微粉末を対象とした場合には、その測定値の信頼性にも疑問が残るとの指摘もあるにもかかわらず、スラグ微粉末、フライアッシュ、膨張材、などの混和材に対するブレーン法の適用性を詳細に検討した研究はほとんど見当たらないことから、従来よりも細かいスラグ微粉末や粉砕方法が相違するスラグ微粉末を対象として」、「各種のスラグ微粉末の粉末度を正しく評価する方法について検討した結果をまとめたもの」であるから、甲1発明に係る「高炉スラグ微粉末」は、「各種のスラグ微粉末の粉末度を正しく評価する方法」についての検討に供される試料にすぎないし、甲1発明は、特段、「塩基度」に注目したものでもない。
ここで、甲第4号証には、セメント組成物の混合材として使用される高炉スラグの「塩基度」は、一般的に高い方がよいとされていることが記載されており(前記(1)エ(ア)b)、実施例におけるJIS R 5211:2009「高炉セメント」の規格品として、「塩基度」が1.85の高炉スラグAが記載されている(前記(1)エ(ア)c)。また、甲第6号証には、「粒度構成の異なるスラグ粉末を分級調整した試製高炉セメントについて、モルタル強さ、長さ変化などを測定しスラグ粉末の粒度との関係について調べるのに使用した高炉水砕スラグ」が記載されていることは、前記(1)オ(ウ)に記載したとおりであり、その「塩基度」が1.84であることは、下記ウ(ア)aに記載したとおりである。
これらのことからみれば、セメント組成物の混合材として使用される高炉スラグの「塩基度」は、概略1.8以上の高いものが好適に用いられるものであり、このことは、本件特許明細書の段落【0002】の「国内でセメント混合材として使用されている高炉スラグ微粉末の塩基度は、通常、1.8以上である。」との記載(下記2(1)ア)とも合致する。
そうすると、「各種のスラグ微粉末の粉末度を正しく評価する方法」についての検討に供される試料にすぎず、特段、「塩基度」に注目したものでもない甲1発明もまた、概略1.8以上の高い「塩基度」の「高炉スラグ微粉末」を使用することを前提としたものといえる。
そして、そのような甲1発明において、前記前提を破却して、「高炉スラグ微粉末」の「塩基度」を、あえて、「1.40~1.70」と低くする動機付けは存在しないから、甲1発明において、「高炉スラグ微粉末」の「塩基度」を「1.40~1.70」として、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、甲第2~3号証に記載された本件特許の出願日当時の周知技術や甲第4号証の記載事項にかかわらず、当業者が容易になし得ることではない。
d 前記cによれば、本件発明1は、甲1発明及び本件特許の出願日当時の周知技術に基づいて、又は、甲1発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、甲1発明として、高炉スラグ微粉末B4に注目して検討しても事情は同じであり、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2~4について、甲第5号証に記載された事項を参酌して検討しても事情は同じである。
(イ) 申立人の主張について
a 甲第1号証を主引用例とした場合についての申立人の主張は、概略、以下のとおりである(特許異議申立書16ページ12行~19ページ1行)。
(a) 本件発明1と、甲第1号証に高炉スラグ微粉末B3及びB4として記載された発明とは、本件発明1においては、「高炉スラグ微粉末」の「塩基度」が「1.40~1.70」と特定されているのに対して、甲第1号証に記載された発明における「塩基度」は明らかでない点で相違する。
ところが、甲第1号証には、「コンクリートのその他の品質の改善にも効果のある高炉スラグ微粉末(以下、スラグ微粉末と略称)をコンクリート用混和材として活用するための研究が活発に行われて」いることが記載されている。
一方、甲第2号証には、JIS A6206:2013において、コンクリート用高炉スラグ微粉末の原材料の水砕高炉スラグは「塩基度」が1.60以上のものを用いることが記載され(前記(1)イ(イ))、甲第3号証には、JIS R5211:2003において、高炉セメントの高炉スラグの「塩基度」は1.4以上でなければならないことが記載されているから(前記(1)ウ)、「高炉スラグ微粉末」の「塩基度」を1.60以上としたり1.4以上とすることは、本件の出願日当時の周知技術といえる。
してみれば、甲第1号証に記載された発明における「塩基度」として、コンクリートの品質を改善するために、1.60以上又は1.4以上という周知技術のうち、「1.40~1.70」に含まれるものを適宜選択することに困難性は認められないから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び本件の出願日当時の周知技術から進歩性を有しない。
(b) 甲第4号証には、塩基度がJIS規格外の高炉スラグを使用した場合であっても、強度発現性に優れ、断熱温度上昇も抑制出来るセメント組成物を得ることができること、高炉スラグの塩基度は1.4以上1.6未満であり、これらの範囲であれば、強度発現性が良好であること、高炉スラグのブレーン比表面積は2600~4600cm2/gの範囲であれば、強度発現性が良好で、断熱温度上昇も抑制できることが記載されており(前記(1)エ(ア)b)、2600~4600cm2/gの範囲のブレーン比表面積は甲第1号証に記載された発明のブレーン比表面積を含むから、甲第1号証に記載された発明における「塩基度」を、コンクリートの品質を改善するために、「1.40~1.70」とすることに困難性は認められない。
そして、本件発明1による効果は、甲第4号証に記載された事項から当業者が容易に予測することができるものにすぎないから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項から進歩性を有しない。
b 以下、前記aの主張について検討すると、前記主張は、総じて、甲第1号証に、「コンクリートのその他の品質の改善にも効果のある高炉スラグ微粉末(以下、スラグ微粉末と略称)をコンクリート用混和材として活用するための研究が活発に行われて」いることが記載されていることから、甲第1号証に記載された発明がコンクリートやセメントに混合されるものであることを前提として、その場合、「塩基度」を「1.40~1.70」とすることは、甲第2~3号証に記載された周知技術又は甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得ることであることをいうものといえる。
ところが、「各種のスラグ微粉末の粉末度を正しく評価する方法」についての検討に供される試料にすぎない甲第1号証に記載された発明が、コンクリートやセメントに混合されるものであることを前提としたものということはできない。
また、セメント組成物の混合材として使用される高炉スラグの「塩基度」は、概略1.8以上の高いものが好適に用いられるものであるから、「各種のスラグ微粉末の粉末度を正しく評価する方法」についての検討に供される試料にすぎず、特段、「塩基度」に注目したものでもない甲1発明もまた、概略1.8以上の高い「塩基度」の「高炉スラグ微粉末」を使用することを前提としたものといえ、そのような甲1発明において、前記前提を破却して、「高炉スラグ微粉末」の「塩基度」を、あえて、「1.40~1.70」と低くする動機付けは存在しないことは、前記(ア)cに記載したとおりである。
そうすると、仮に、甲第1号証に記載された発明がコンクリートやセメントに混合されるものであることを前提としているとしても、そこから進んで、「塩基度」を「1.40~1.70」とする動機付けは存在しないことに変わりはないから、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明及び本件の出願日当時の周知技術から進歩性を有しないとはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項から進歩性を有しないともいえないので、前記aの主張はいずれも採用できない。
(ウ) 小括
したがって、本件発明1~3は、甲第1号証に記載された発明及び本件特許の出願日当時の周知技術(甲第2~3号証を引用)に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明及び本件特許の出願日当時の周知技術(甲第2~3号証を引用)に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、前記第3の1(1)の特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
イ 甲第4号証を主引用例とした場合について
(ア) 対比・判断
a 本件発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明において、「JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従い、ブレーン空気透過装置を用いて測定した」「ブレーン比表面積が4060cm2/g」であることは、前記ア(ア)aに記載したのと同様の理由により、本件発明1において「ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g」であることを満たす。
また、甲4発明において、「(CaO+Al2O3+MgO)/SiO2から計算される」「塩基度」が「1.51」であることは、本件発明1における「塩基度」が、同様に(CaO+Al2O3+MgO)/SiO2の式から算出されたものであること(本件特許明細書の段落【0008】。下記2(1)イ。)からみれば、本件発明1において、「塩基度が1.40~1.70」であることを満たす。
そして、「ブレーン比表面積が4060cm2/g」である甲4発明における「高炉スラグB」は、本件発明1と同様「微粉末」といえるから、本件発明1における「高炉スラグ微粉末」に相当する。
b 前記aによれば、本件発明1と甲4発明とは、
「ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g、及び「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度が1.40~1.70である高炉スラグ微粉末。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点2:本件発明1は、「高炉スラグ微粉末」が、「5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下」であるのに対して、甲4発明は、「高炉スラグ微粉末」の「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」が明らかでない点。
c 以下、前記bの相違点2の容易想到性について検討すると、甲第6号証には、粒度構成の異なるスラグ粉末を分級調整した試製高炉セメントについて、モルタル強さ、長さ変化などを測定しスラグ粉末の粒度との関係について調べたことが記載されており、粒度構成の異なるスラグ粉末を用いて品質特性と粒度構成とのかかわりを検討した結果、スラグ粉末の粒度を6μmと16μmの二つのポイントでとらえれば、高炉セメントの諸性質が推定できることを明らかにしたものであることは、前記(1)オ(イ)に記載したとおりである。
そうすると、甲第6号証には、「高炉スラグ微粉末」の「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」に注目して、「高炉スラグ微粉末」の「5%体積累積粒径」を「1.60μm以下、10%体積累積粒径」を「2.20μm以下」とすることが記載されているとはいえないから、当業者は、甲4発明において、「高炉スラグ微粉末」の「5%体積累積粒径」を「1.60μm以下、10%体積累積粒径」を「2.20μm以下」として、本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。
また、甲第6号証には、粒度構成の異なるスラグ粉末である、No.1~No.13の粒度分布を有する「高炉スラグ微粉末」の試料が記載されている。
そして、このうちNo.13の試料は、シーラス社のレーザー式粒度分布分析計を用いたスラグ粉末の粒度分布測定によれば、累積通過分が5%の粒径が1μm未満であり、累積通過分が10%の粒径が1μm未満であることが看取されることは、前記(1)オ(イ)に記載したとおりであるから、その粒度分布が、「5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下」であることを満たすものといえる。
ところが、甲第6号証には、前記No.13の試料の「ブレーン比表面積」が記載されておらず、当該「ブレーン比表面積」が、甲4発明の「ブレーン比表面積」である「4060cm2/g」と合致するものともいえないし、このことを裏付ける証拠もない。
そして、前記No.13の「高炉スラグ微粉末」を甲4発明に適用したとき、その粒度分布が変化することで、「ブレーン比表面積」もまた変化することが推認されるのであるが、変化した後の「ブレーン比表面積」が本件発明1の「3,000~5,500cm2/g」を満たすということはできないし、このことを裏付ける証拠もなく、そのような技術常識も存在しない。
そうすると、仮に、前記No.13の試料を甲第4号証に記載された発明に適用して、その粒度分布が、本件発明1の「5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下」との発明特定事項を満たすものとなったとしても、同時に、「ブレーン比表面積」が、本件発明1の「3,000~5,500cm2/g」を満たすものとなるとはいえないから、本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。
更に、甲第6号証に記載されたそのほかの試料について検討しても事情は同じである。
d 前記cによれば、甲4発明を、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得ることではないから、本件発明1は、甲4発明及び甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2~4について、甲第2号証に記載された本件特許の出願日当時の周知技術を参酌して検討しても事情は同じである。
(イ) 申立人の主張について
a 甲第4号証を主引用例とした場合についての申立人の主張は、概略、以下のとおりである(特許異議申立書26ページ11行~28ページ3行)。
本件発明1と甲第4号証に記載された発明とは、本件発明1においては、「高炉スラグ微粉末」の「5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下」と特定されているのに対して、甲第4号証に記載された発明における「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」は明らかでない点で相違する。
ところが、甲第4号証には、強度発現性に優れる低品位高炉スラグ混合セメント組成物を提供することを課題とすること(段落【0007】。前記(1)エ(ア)b)、セメントクリンカーと石膏とを粉砕しセメント組成物を製造した後、粉砕した高炉スラグと混合する方法により、低品位高炉スラグ混合セメント組成物を製造してもよいこと(段落【0030】。前記(1)エ(ア)b)が記載されている。
一方、甲第6号証には、高炉セメントの性質は、ポルトランドセメントの品質と高炉水砕スラグの塩基度、ガラス化率のほかに、高炉水砕スラグ粉末の粒径及びその粒度分布によっても大きく左右されることが記載され(前記(1)オ(ア)a)、図1(前記(1)オ(ア)e)には、No.1~13の高炉スラグ微粉末の粒度分布が示されており、少なくともNo.8~13の高炉スラグ微粉末は、本件発明1の「5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下」、との発明特定事項を満たしているといえる。
そして、甲第6号証の表3(前記(1)オ(ア)f)には、No.1~13の高炉スラグ微粉末とポルトランドセメントを混合して調整した高炉セメントA1~A13の圧縮強さ及び水和熱が示されており、その結果からみれば、高炉スラグ微粉末の粒度が小さいものの方が、圧縮強さ及び水和熱が大きくなるものである。
ここで、甲第4号証は、強度発現性に優れる低品位高炉スラグ混合セメント組成物を提供することを課題とするものであって、その製造方法において高炉スラグを粉砕してもよいことが記載されているから、甲第4号証に記載された発明において、甲第6号証に記載された、高い圧縮強さを有する高炉セメントを調整することが可能なNo.8~13の高炉スラグ微粉末の粒度分布となるように高炉スラグを粉砕し、本件発明1の「5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下」、との発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得ることであるし、そうすることによる効果は甲第4及び6号証に記載された事項から容易に予測し得るものにすぎないから、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項から進歩性を有しない。
b 以下、前記aの主張について検討すると、甲第4号証に、強度発現性に優れる低品位高炉スラグ混合セメント組成物を提供することを課題とすること、セメントクリンカーと石膏とを粉砕しセメント組成物を製造した後、粉砕した高炉スラグと混合する方法により、低品位高炉スラグ混合セメント組成物を製造してもよいことが記載されており、甲第6号証に、高炉セメントの性質は、ポルトランドセメントの品質と高炉水砕スラグの塩基度、ガラス化率のほかに、高炉水砕スラグ粉末の粒径及びその粒度分布によっても大きく左右されることが記載され、図1から、少なくともNo.8~13の高炉スラグ微粉末は、本件発明1の「5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下」、との発明特定事項を満たしていることが看取され、更に、甲第6号証の表3に、高炉スラグ微粉末の粒度が小さいものの方が、圧縮強さ及び水和熱が大きくなることが開示されているとしても、前記(ア)cに記載した理由により、甲第6号証の記載をみても、甲第4号証に記載された発明を、本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らないことに変わりはないから、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、前記aの主張は採用できない。
(ウ) 小括
したがって、本件発明1、3及び4は、甲第4号証に記載された発明及び第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明2は、甲第4号証に記載された発明、甲第6号証に記載された事項及び本件特許の出願日当時の周知技術(甲第2号証を引用)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、前記第3の1(2)の特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
ウ 甲第6号証を主引用例とした場合について
(ア) 対比・判断
a 本件発明1と甲6発明とを対比すると、甲6発明において、「シーラス社のレーザー式粒度分布分析計を用いたスラグ粉末の粒度分布測定によれば、累積通過分が5%の粒径が1μm未満であり、累積通過分が10%の粒径が1μm未満である」ことは、本件発明1において、「5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下」であることを満たすものといえるし、このことからみれば、甲6発明における「高炉水砕スラグ」は、本件発明1における「高炉スラグ微粉末」に相当する。
ここで、甲第6号証には、甲6発明における「高炉水砕スラグ」の「塩基度」が記載されていないが、「SiO2:33.8%、Al2O3:14.2%、FeO:0.7%、CaO:42.9%、MgO:5.2%、MnO:0.5%、TiO2:1.2%、S:1.0%、Total:99.5%、ガラス量99%」という組成から、(CaO+Al2O3+MgO)/SiO2の式により「塩基度」を算出すると、(42.9+14.2+5.2)/33.8=1.84であるから、「塩基度」が「1.40~1.70である」との本件発明1の発明特定事項を満たさない。
b 前記aによれば、本件発明1と甲6発明とは、
「5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下である高炉スラグ微粉末。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点3:本件発明1は、「高炉スラグ微粉末」の「ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g」であるのに対して、甲6発明は「高炉スラグ微粉末」の「ブレーン比表面積」が明らかでない点。
・相違点4:本件発明1は、「高炉スラグ微粉末」の「塩基度が1.40~1.70」であるのに対して、甲6発明は、「塩基度」が「1.84」である点。
c 事案に鑑み、始めに、前記bの相違点4の容易想到性について検討すると、甲6発明は、「粒度構成の異なるスラグ粉末を分級調整した試製高炉セメントについて、モルタル強さ、長さ変化などを測定しスラグ粉末の粒度との関係について調べるのに使用した高炉水砕スラグ」であって、「粒度構成の異なるスラグ粉末を用いて品質特性と粒度構成とのかかわりを検討した結果、スラグ粉末の粒度を6μmと16μmの二つのポイントでとらえれば、高炉セメントの諸性質が推定できることを明らかにした」ものであり、そのための試験に供する試料を、「SiO2:33.8%、Al2O3:14.2%、FeO:0.7%、CaO:42.9%、MgO:5.2%、MnO:0.5%、TiO2:1.2%、S:1.0%、Total:99.5%、ガラス量99%」という組成を有するもの、すなわち、「塩基度」が「1.84」のものとして、「試製高炉セメント」の「モルタル強さ、長さ変化などを測定」したものである。
すなわち、甲6発明は、「粒度構成の異なるスラグ粉末を用いて品質特性と粒度構成とのかかわりを検討」する際の適切な試料として、「塩基度」が「1.84」の試料を試験に供することによって、「試製高炉セメント」の「モルタル強さ、長さ変化などを測定しスラグ粉末の粒度との関係について調べ」たものといえる。
一方、本件発明1は、本件特許明細書の段落【0002】及び【0005】(下記2(1)ア)の記載によれば、セメント混合材として使用することが困難である「塩基度」の低いスラグを使用するものである。そして、甲6発明において、あえて、試験に供する試料の組成を変化させて、「塩基度」を、セメント混合材として使用することが困難である「1.40~1.70」とする動機付けは存在しないので、甲6発明を、前記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、本件特許の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易になし得ることではない。
したがって、甲6発明を、前記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、本件特許の出願日当時の周知技術(甲第2~3号証を引用)に基づいて当業者が容易になし得ることではないから、前記bの相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明及び本件特許の出願日当時の周知技術(甲第2~3号証を引用)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2~4について検討しても事情は同じであるし、甲第6号証に記載されたNo.1~No.12の試料について検討しても事情は同じである。
(イ) 申立人の主張について
a 甲第6号証を主引用例とした場合についての申立人の主張は、概略、以下のとおりである(特許異議申立書33ページ下から5行~34ページ下から5行)。
本件発明1と甲第6号証に記載された発明とは、本件発明1においては、「塩基度」が「1.40~1.70」であるのに対して、甲第6号証に記載された発明においては、「塩基度」が「1.84」である点で相違し、本件発明1においては、「ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g」であるのに対して、甲第6号証に記載された発明においては、「ブレーン比表面積」が明らかでない点で相違する。
ところが、甲第2号証には、JIS A6206:2013において、高炉水砕スラグは塩基度が1.60以上のものを用いること、及び、ブレーン比表面積が3500cm2/g以上5000cm2/g未満である高炉スラグ微粉末4000が記載され(前記(1)イ(イ))、甲第3号証には、JIS R5211:2003において、高炉スラグの塩基度が1.4以上でなければならないことが記載されている(前記(1)ウ(ア))。
そして、高炉スラグ微粉末をコンクリートの材料として使用するにあたり、「塩基度」及び「ブレーン比表面積」は当然考慮すべき事項であり、本件発明1の「塩基度」が「1.40~1.70」である、との発明特定事項や、「ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g」である、との発明特定事項は、甲第2~3号証に記載された各数値範囲と重複するから、甲第6号証に記載された発明において、「塩基度」を「1.40~1.70」とし、「ブレーン比表面積」を「3,000~5,500cm2/g」とすることは、当業者が容易になし得ることであるので、本件発明1は、甲第6号証に記載された発明と、本件特許の出願日当時の周知技術(甲第2~3号証を引用)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
b 以下、前記aの主張について検討すると、甲第6号証に記載された発明において、あえて、試験に供する試料の組成を変化させて、「塩基度」を「1.40~1.70」とする動機付けは存在しないことは、前記(ア)cに記載したとおりであるから、甲第2~3号証に記載されたJIS規格にかかわらず、本件発明1は、甲第6号証に記載された発明と、本件特許の出願日当時の周知技術(甲第2~3号証を引用)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、前記aの主張は採用できない。
(ウ) 小括
したがって、本件発明1~4は、甲第6号証に記載された発明及び本件特許の出願日当時の周知技術(甲第2~3号証を引用)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、前記第3の1(3)の特許異議の申立て理由は理由がない。
2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
(1) 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下のア~エの記載がある。
ア 「【0001】
本発明は、高炉スラグ微粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント業界では、従来、高炉で銑鉄を製造する際に発生する副産物である高炉水砕スラグ等から得られた高炉スラグ微粉末を、セメント混合材として使用している。
セメント混合材としての高炉スラグ微粉末の品質を示す指標の一つとして、塩基度があり、塩基度が高い程、活性が高いことが知られている。国内でセメント混合材として使用されている高炉スラグ微粉末の塩基度は、通常、1.8以上である。塩基度の低い高炉スラグは、セメント混合材として使用することは困難であるとされ、その多くは、破砕した後に、路盤材等の土工資材として使用されている。また、コンクリート用高炉スラグ微粉末の塩基度について、「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」には、高炉水砕スラグは、塩基度が1.60以上のものを用いることが定められている。
【0003】
高炉セメントの原料として、強度低下を抑制し得るスラグ粉として、引用文献1には、ブレーン比表面積が4,000~7,000cm2/gであり、レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された24μm篩残分が30体積%以下である、スラグ粉が記載されている。
また、強度発現性が良好でありながら、流動性等に優れた高炉スラグ微粉末として、引用文献2には、累積体積率50%の粒子径が1.0~5.0μmであり、かつ全細孔容積が0.02cm3/g以下であることを特徴とする高炉スラグ微粉末が記載されている。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高炉スラグ微粉末の活性を高める技術として、高炉スラグ微粉末の粉末度を大きくすることが知られている。これに関して、「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」には、ブレーン比表面積が異なる4種類の高炉スラグ微粉末が規定されており、これらの高炉スラグ微粉末の活性度指数は、ブレーン比表面積が大きくなるにつれて、大きくなっている。
しかし、ブレーン比表面積を大きくすると、粉砕にかかるコストが増大するという問題がある。
本発明の目的は、塩基度が低く(具体的には、1.40~1.70)、かつ、ブレーン比表面積が過度に大きくない(具体的には、3,000~5,500cm2/g)にもかかわらず、活性度指数が大きく、セメント混合材として好適に使用することができる高炉スラグ微粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g、及び塩基度が1.40~1.70である高炉スラグ微粉末によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供するものである。
[1] 5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g、及び「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度が1.40~1.70であることを特徴とする高炉スラグ微粉末。
・・・
【発明の効果】
【0007】
本発明の高炉スラグ微粉末は、塩基度が低く(具体的には、1.40~1.70)、かつ、ブレーン比表面積が過度に大きくない(具体的には、3,000~5,500cm2/g)にもかかわらず、活性度指数が大きく、セメント混合材として好適に使用することができる。」
イ 「【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の高炉スラグ微粉末は、5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g、及び「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度が1.40~1.70であるものである。
以下、詳しく説明する。
「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度は、以下の式(1)を用いて算出することができる。
塩基度=〔(CaO+MgO+Al2O3)/SiO2〕・・・(1)
(式(1)中、CaO、MgO、Al2O3及びSiO2は、各々、高炉スラグ微粉末中の、CaO、MgO、Al2O3及びSiO2の含有率(質量%)である。)
【0009】
本発明の高炉スラグ微粉末の上記式(1)で表される塩基度は、入手の容易性や、活性度指数を大きくする観点から、1.40以上、好ましくは1.42以上、より好ましくは1.44以上、さらに好ましくは1.45以上、特に好ましくは1.48以上である。また、上記塩基度は、塩基度の小さい高炉スラグ微粉末を有効利用する観点からは、1.70以下、好ましくは1.65以下、より好ましくは1.63以下、さらに好ましくは1.60未満、さらに好ましくは1.55以下、特に好ましくは1.50以下である。なお、上記塩基度が1.70を超える高炉スラグ微粉末は、粒度分布の調整等を行わなくても、活性度指数が十分に大きいものである。
【0010】
高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径は、1.60μm以下、好ましくは1.55μm以下、より好ましくは1.50μm以下、さらに好ましくは1.45μm以下、特に好ましくは1.40μm以下である。上記5%体積累積粒径が1.60μmを超えると、高炉スラグ微粉末の活性度指数が小さくなり、高炉スラグ微粉末をセメント混合材として使用することが難しくなる。また、上記5%体積累積粒径は、フロー値比の向上、及び、粉砕にかかるコストを低減する観点からは、好ましくは1.20μm以上、より好ましくは1.25μm以上、特に好ましくは1.30μm以上である。
なお、本明細書中、「5%体積累積粒径」とは、レーザー回折散乱粒度分布測定装置等を用いて粒子の粒径を測定し、その測定された粒子の粒径に基づいて、粒径の小さい順から累積していった場合に得られた体積累積分布5%における粒径である。「10%体積累積粒径」、「50%体積累積粒径」、及び「90%体積累積粒径」も同様である。
高炉スラグ微粉末の10%体積累積粒径は、2.20μm以下、好ましくは2.15μm以下、より好ましくは2.10μm以下、さらに好ましくは2.05μm以下、特に好ましくは2.00μm以下である。上記10%体積累積粒径が2.20μmを超えると、高炉スラグ微粉末の活性度指数が小さくなり、高炉スラグ微粉末をセメント混合材として使用することが難しくなる。また、上記10%体積累積粒径は、フロー値比の向上、及び、粉砕にかかるコストを低減する観点からは、好ましくは1.70μm以上、より好ましくは1.75μm以上、特に好ましくは1.80μm以上である。
・・・
【0012】
高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積は、3,000~5,500cm2/g、好ましくは3,100~5,300cm2/g、より好ましくは3,300~5,000cm2/g、さらに好ましくは3,500~4,500cm2/g、特に好ましくは3,600~4,000cm2/gである。上記ブレーン比表面積が3,000cm2/g未満であると、高炉スラグ微粉末の活性度指数が小さくなる。また、高炉スラグ微粉末をセメント混和材として使用した場合に、該セメント混和材を含むセメント組成物の強度発現性が低下する。上記ブレーン比表面積が5,500cm2/gを超えると、フロー値比が低下し、粉砕にかかるコストが大きくなる。
なお、本明細書中、「ブレーン比表面積」とは、「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」の「7.3 比表面積」に規定されている方法によって測定されたものをいう。」
ウ 「【0023】
[高炉スラグ粉砕工程]
本工程は、高炉スラグ選択工程で選択された高炉スラグを、5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、及びブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/gとなるように、粉砕手段を用いて粉砕して、高炉スラグ微粉末を得る高炉スラグ粉砕工程である。
また、上記高炉スラグと、上述のセメント組成物に含まれる石膏粉末の少なくとも一部に相当する量の石膏を本工程において、同時に粉砕してもよい。
上記高炉スラグを粉砕して得られる高炉スラグ微粉末の、5%体積累積粒径、10%体積累積粒径、及びブレーン比表面積等の数値範囲は、目的とする高炉スラグ微粉末の活性度指数や、フロー値等を考慮して、適宜変更してもよい。上記5%体積累積粒径、上記10%体積累積粒径、及び上記ブレーン比表面積等の数値範囲は、上述した本発明の高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径、10%体積累積粒径、及びブレーン比表面積等の数値範囲と同様である。
【0024】
粉砕手段としては、特に限定されず、公知の粉砕機等を用いることができる。粉砕手段の例としては、ボールミル、竪型ローラーミル、ディスクミル、及びジェットミル等が挙げられる。これらは一種のみを用いてもよいが、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、粉砕手段はバッチ式であっても連続式であってもよいが、本発明の高炉スラグ微粉末を容易にかつ確実に得る観点からは、バッチ式が好ましい。また、粉砕時に粉砕助剤を混合してもよい。
本工程において、粉砕後又は粉砕中に、高炉スラグを粉砕してなる粉砕物を、分級手段を用いて分級して、高炉スラグ微粉末を得てもよい。
また、分級手段によって、分級された粗粒分(上記高炉スラグ微粉末に含まれないもの)を、上記粉砕手段に戻して、再度粉砕してもよい。なお、本発明の高炉スラグ微粉末を容易にかつ確実に得る観点からは、一切の分級手段を用いることなく粉砕することが好ましい。
【0025】
以下、上記粉砕手段を用いて高炉スラグを粉砕し、高炉スラグ微粉末を得る方法の例について、具体的に説明する。
[ボールミルを用いた粉砕方法]
粉砕手段としてボールミルを用いる場合、用いられるボールの径をより小さいものにする、及び、粉砕時間をより長くする、の少なくともいずれか一方を行うことによって、得られる高炉スラグ微粉末中の微粉の割合を多くして、本発明の高炉スラグ微粉末を得ることができる。
上記ボールの径は、ボールミルの形状や投入される高炉スラグの量等によっても異なるが、好ましくは10~40mm、より好ましくは15~25mmである。該径が10mm以上であれば、粉砕に要する時間をより短くすることができる。該径が40mm以下であれば、高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径及び10%体積累積粒径をより小さくすることができる。
上記粉砕時間は、ボールミルの形状や投入される高炉スラグの量等によっても異なるが、好ましくは75分間以上、より好ましくは90分間以上、特に好ましくは120分間以上である。上記時間が75分間以上であれば、高炉スラグ微粉末の5%体積累積粒径及び10%体積累積粒径をより小さくすることができる。上記時間の上限値は特に限定されないが、粉砕に要する時間が過大になることを防ぐ観点から、好ましくは360分間、より好ましくは300分間、特に好ましくは260分間である。
【0026】
粉砕の際のボールミルの回転数は、ボール径の大きさや投入される高炉スラグの量等によっても異なるが、好ましくは10~100rpm、より好ましくは15~80rpm、特に好ましくは20~50rpmである。
また、ボール(ボールの合計量)と高炉スラグの質量比(ボール/高炉スラグ)は、ボール径の大きさやボールミルの回転数等によっても異なるが、好ましくは5~20、より好ましくは8~15、特に好ましくは9~12である。
【0027】
[竪型ローラーミルを用いた粉砕方法]
竪型ローラーミルには、通常、その上部に分級機が配設されている。竪型ローラーミルの粉砕部位において粉砕された粉砕物は、気流によって吹き上げられて、空気と共に分級機に送り込まれる。次いで、分級機において分級されて、微粒分と粗粒分に分けられる。なお、粗粒分は、竪型ローラーミルの粉砕部位に再度投入されて粉砕されてもよい。
ここで、上記分級機には、回転体がない「固定式」と、回転体を有する「回転式」がある。
粉砕手段として、固定式の分級機が配設された竪型ローラーミルを用いる場合、分級機の、空気(吹き上げられた粉砕物を含むもの)の流入口に配設された固定羽根(固定ベーン)の角度を調整して、上記流入口の分級機に空気が流入する領域(空気が通過し得る領域)の断面積を小さくする等によって、空気の流入速度を大きくし、分級される微粒分の粒径をより小さくすることができる。このような固定羽根の調整によって、上記微粒分として、本発明の高炉スラグ微粉末を得ることができる。
【0028】
また、粉砕手段として、回転式の分級機が配設された竪型ローラーミルを用いる場合、回転体の回転数、及び、風量の少なくともいずれか一方を調整することによって、粉砕物の粒度調整を行うことができる。例えば、回転体の回転数を多くし、かつ、風量を大きくすることによって、分級される微粒分の粒径をより小さくすることができる。このような回転体の回転数等の調整によって、本発明の高炉スラグ微粉末を得ることができる。
【0029】
また、2種以上の粒度分布の異なる高炉スラグ粉砕物を混合して、本発明の高炉スラグ微粉末を得てもよい。例えば、複数の粉砕手段を用いて、別々に高炉スラグを粉砕した後、得られた複数の粉砕物を、混合物の5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、及びブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/gとなるような配合割合で適宜混合して、本発明の高炉スラグ微粉末を得ることができる。」
エ 「【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)高炉スラグA~D:各高炉スラグについて化学組成、及び、該化学組成を用いて算出した「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度を表1に示す。なお、高炉スラグとしては、高炉水砕スラグを用いた。
【0031】
【表1】
[図:0001433110000011.jpg]
【0032】
[実施例1]
表2に示す種類の高炉スラグを、内寸直径が600mm、長さが450mm、容積が0.13m3であるバッチ式のボールミルを用いて粉砕して、ブレーン比表面積が表2に示す数値である高炉スラグ微粉末を得た。なお、粉砕は、高炉スラグ20kgに対して、ボール径が20mmであるボールを220kg使用し、ボールミルの回転数が30rpmの条件で、90分間行った。
得られた高炉スラグ微粉末の、5%体積累積粒径(表2中、「D5」と示す。)、10%体積累積粒径(表2中、「D10」と示す。)、50%体積累積粒径(表2中、「D50」と示す。)、及び90%体積累積粒径(表2中、「D90」と示す。)を、レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、製品名「MT3300EX II」)を用いて測定した。なお、測定の際に用いられる溶媒としては、エタノールを使用した。
また、得られた高炉スラグ微粉末の材齢28日活性度指数、材齢91日活性度指数、及びフロー値比を、「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に準拠して測定した。セメントは、製造会社が異なる、3種類の市販の普通ポルトランドセメントを混合したものを使用した。
・・・
【0036】
[実施例6~12]
表2に示す種類の高炉スラグを、バッチ式のボールミルを用いて粉砕して、ブレーン比表面積が表2に示す数値である高炉スラグ微粉末を得た。なお、粉砕は、高炉スラグ20kgに対して、ボール径が20mmであるボールを220kg使用し、ボールミルの回転数が30rpmの条件で行った。
また、実施例6~12の粉砕時間は、各々、120、210、100、210、230、240、230分間であった。
・・・
各々の結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
[図:0001433110000012.jpg]
【0038】
表2の実施例1~12から、本発明の高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積は3,140~5,410cm2/gであるが、上記高炉スラグ微粉末の「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される、材齢28日活性度指数は81~101%、材齢91日活性度指数は95~110%、及びフロー値比は95~103%であることがわかる。
一方、比較例1(ブレーン比表面積が2,010cm2/gであるもの)のフロー値比は80%であり、小さいことがわかる。
比較例2~3、5(5%体積累積粒径が1.69~1.73μm、10%体積累積粒径が2.23~2.40μmであるもの)の高炉スラグ微粉末について、材齢28日活性度指数は68~79%、材齢91日活性度指数は83~91%であり、上記高炉スラグ微粉末は、活性度指数の低いものであることがわかる。」
(2) 実施可能要件の判断手法
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断すべきものである。
そして、物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要するから、以下、この観点に立って検討する。
(3) 実施可能要件の判断
ア 本件発明1に係る「高炉スラグ微粉末」の製造方法について、本件特許明細書の記載をみると、本件特許明細書の段落【0023】~【0028】(前記(1)ウ)には、本件発明1における「5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g」を満たす「高炉スラグ微粉末」を製造する際の粉砕手段は特に限定されず、公知の粉砕機等を用いることができ、粉砕手段の例としては、ボールミル、竪型ローラーミル、ディスクミル、及びジェットミル等が挙げられること、粉砕手段としてボールミルを用いる場合、用いられるボールの径をより小さいものにする、及び、粉砕時間をより長くする、の少なくともいずれか一方を行うことによって、得られる高炉スラグ微粉末中の微粉の割合を多くして、本件発明に係る「高炉スラグ微粉末」を得ることができること、粉砕手段として、固定式の分級機が配設された竪型ローラーミルを用いる場合、分級機の、空気(吹き上げられた粉砕物を含むもの)の流入口に配設された固定羽根(固定ベーン)の角度を調整して、上記流入口の分級機に空気が流入する領域(空気が通過し得る領域)の断面積を小さくする等によって、空気の流入速度を大きくし、分級される微粒分の粒径をより小さくすることができ、このような固定羽根の調整によって、前記微粒分として、本件発明に係る「高炉スラグ微粉末」を得ることができること、粉砕手段として、回転式の分級機が配設された竪型ローラーミルを用いる場合、回転体の回転数、及び、風量の少なくともいずれか一方を調整することによって、粉砕物の粒度調整を行うことができ、例えば、回転体の回転数を多くし、かつ、風量を大きくすることによって、分級される微粒分の粒径をより小さくすることができ、このような回転体の回転数等の調整によって、本発明の高炉スラグ微粉末を得ることができることが記載されている。
また、本件特許明細書の段落【0030】~【0038】(前記(1)エ)には、実施例として、本件発明1における「5%体積累積粒径が1.60μm以下、10%体積累積粒径が2.20μm以下、ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g」を満たす「高炉スラグ微粉末」を製造する具体的な製造方法が記載されているといえる。
イ 前記アによれば、当業者は、本件発明1に係る「高炉スラグ微粉末」を、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、製造し、使用することができるといえる。
そして、このことを前記(2)の判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
(4) 申立人の主張について
申立人の前記第3の2の主張は、本件発明1においては、「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」の下限値が特定されておらず、その場合、実施例において裏付けられているよりも小さい「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」を有する「高炉スラグ微粉末」を製造することは困難であるから、本件特許明細書の記載は実施可能要件を満たさない、というものといえる。
以下、前記主張について検討すると、本件発明1は、「ブレーン比表面積が3,000~5,500cm2/g」である、との発明特定事項を有するものである。そして、前記「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」が小さくなると、微細な粒子の割合が増加して、「ブレーン比表面積」が大きくなることが推認されるが、前記発明特定事項によれば、「ブレーン比表面積」は上限値を有するのであるから、本件発明1において「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」の下限値が特定されていないとしても、これらが際限なく小さくなるものとはいえず、前記「ブレーン比表面積」の上限値により規定される下限値を有するものといえる。
すると、本件発明1において、「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」の下限値が特定されていないとしても、当業者は、実施例において裏付けられているよりも小さい「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」を有する「高炉スラグ微粉末」を、前記「ブレーン比表面積」の上限値の範囲内で、本件特許明細書の段落【0023】~【0028】(前記(1)ウ)に記載された製造方法にのっとって、過度の試行錯誤を要することなく製造することができるといえるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないとはいえないので、申立人の前記第3の2の主張は採用できない。
(5) 小括
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号所定の規定に適合するので、前記第3の2の特許異議の申立て理由は理由がない。
3 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に記載された要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきであるから、以下、この観点に立って検討する。
(2) 本件発明の課題
ア 本件特許明細書の段落【0002】~【0005】の記載(前記2(1)ア)によれば、従来、国内でセメント混合材として使用されている高炉スラグ微粉末の塩基度は、通常、1.8以上であり、塩基度の低い高炉スラグは、セメント混合材として使用することは困難であるとされていたのであり、また、高炉スラグ微粉末の活性を高める技術として、高炉スラグ微粉末の粉末度を大きくすることが知られていたのであるが、ブレーン比表面積を大きくすると、粉砕にかかるコストが増大するという問題があったものである。
そこで、本件発明は、塩基度が低く(具体的には、1.40~1.70)、かつ、ブレーン比表面積が過度に大きくない(具体的には、3,000~5,500cm2/g)にもかかわらず、活性度指数が大きく、セメント混合材として好適に使用することができる「高炉スラグ微粉末」を提供することを目的とするものである。
イ 前記アによれば、本件発明は、塩基度の低い高炉スラグは、セメント混合材として使用することは困難であるとされていた、という課題や、ブレーン比表面積を大きくすると、粉砕にかかるコストが増大する、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決して、塩基度が低く(具体的には、1.40~1.70)、かつ、ブレーン比表面積が過度に大きくない(具体的には、3,000~5,500cm2/g)にもかかわらず、活性度指数が大きく、セメント混合材として好適に使用することができる「高炉スラグ微粉末」を提供することを目的とするものといえる。
(3) サポート要件の判断
ア 以下、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できるか否かについて検討すると、本件特許明細書の段落【0008】~【0012】の記載(前記2(1)イ)によれば、「塩基度」が1.70を超える「スラグ微粉末」は、粒度分布の調整等を行わなくても活性度指数が十分に大きいのであるが、本件発明に係る「高炉スラグ微粉末」は、「「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定される塩基度」を「1.40~1.70」と低くした上で、「5%体積累積粒径」を「1.60μm以下」、「10%体積累積粒径」を「2.20μm以下」、「ブレーン比表面積」を「3,000~5,500cm2/g」とするものであり、「5%体積累積粒径」が1.60μmを超えると、また、「10%体積累積粒径」が2.20μmを超えると、高炉スラグ微粉末の活性度指数が小さくなり、高炉スラグ微粉末をセメント混合材として使用することが難しくなるものであり「ブレーン比表面積」が3,000cm2/g未満であると、「高炉スラグ微粉末」の活性度指数が小さくなり、5,500cm2/gを超えると、フロー値比が低下し、粉砕にかかるコストが大きくなるものである。
これらのことからみれば、「塩基度」が1.70を超える「スラグ微粉末」は、粒度分布の調整等を行わなくても活性度指数が十分に大きいのに対して、本件発明に係る「高炉スラグ微粉末」は、「塩基度」を「1.40~1.70」と低くした上で、「5%体積累積粒径」を「1.60μm以下」、「10%体積累積粒径」を「2.20μm以下」、「ブレーン比表面積」を「3,000~5,500cm2/g」とすることで、すなわち本件発明1の発明特定事項を満たすことで、「高炉スラグ微粉末」の活性度指数を高めつつ、粉砕にかかるコストを大きくすることなく、塩基度の小さい「高炉スラグ微粉末」を有効利用して、本件課題を解決できるものといえる。
イ 前記アによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができる。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合する。
更に、本件特許請求の範囲の請求項2~4について検討しても事情は同じである。
(4) 申立人の主張について
ア 申立人の前記第3の3(1)の主張は、実施例に記載されたものよりも小さい「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」を有する「高炉スラグ微粉末」が本件課題を解決できることを認識することができないことをいうものといえる。
イ 以下、前記主張について検討すると、本件発明1において「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」の下限値が特定されていないとしても、これらが際限なく小さくなるものとはいえず、前記「ブレーン比表面積」の上限値により規定される下限値を有するものといえることは、前記2(4)に記載したとおりである。
そして、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができることは、前記(3)イに記載したとおりであるから、当業者は、実施例に記載されたものよりも小さい「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」を有する「高炉スラグ微粉末」であっても、本件課題を解決できることを認識することができるので、前記第3の3(1)の主張は採用できない。
ウ 申立人の前記第3の3(2)の主張は、本件特許明細書の実施例の記載において、高炉スラグCを用いた場合には実施例しか記載されておらず、高炉スラグDについては、一つの実施例が記載されているにすぎないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、当業者は、本件発明1における「塩基度が1.40~1.70」の全範囲において前記本件発明の課題を解決できることを認識することができないことをいうものといえる。
エ 以下、前記主張について検討すると、本件特許明細書の段落【0030】~【0038】(前記2(1)エ)の高炉スラグBを用いた実施例1~5及び比較例1~5によれば、「高炉スラグ微粉末」の「5%体積累積粒径」、「10%体積累積粒径」、「ブレーン比表面積」及び「塩基度」が本件発明1を満たす実施例1~5は、「5%体積累積粒径」、「10%体積累積粒径」及び「ブレーン比表面積」のいずれかが本件発明1を満たさない比較例2、3及び5よりも、活性度指数及びフロー値比が高いことが看取される。
また、「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」が本件発明1を満たすが「ブレーン比表面積」が本件発明1を満たさない比較例1及び4は、実施例1~5と比較してフロー値比が小さく、セメント混合材として好適に使用することができるものとはいえないものである。
してみれば、本件発明1を満たす前記実施例1~5は、本件発明1を満たさない前記比較例1~5よりも、活性度指数が大きく、セメント混合材として好適に使用することができる「高炉スラグ微粉末」とできることを理解することができる。
そして、高炉スラグC及びDにおいても、高炉スラグBと同様に、本件発明1を満たすものは、本件発明1を満たさないものよりも、活性度指数が大きく、セメント混合材として好適に使用することができる「高炉スラグ微粉末」とできることを推認できるし、「塩基度」が「1.40」及び「1.70」の高炉スラグについて検討しても、事情は同じである。
してみれば、本件特許明細書の実施例の記載において、高炉スラグCを用いた場合には実施例しか記載されておらず、高炉スラグDについては、一つの実施例が記載されているにすぎないとしても、当業者は、本件発明1における「塩基度が1.40~1.70」の全範囲において前記本件発明の課題を解決できることを認識することができるから、前記第3の3(2)の主張も採用できない。
オ したがって、申立人の前記第3の3の主張はいずれも採用できない。
(5) 小括
したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するので、前記第3の3の特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
4 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1) 明確性要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に記載された要件(明確性要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるから、以下、この観点に立って検討する。
(2) 明確性要件の判断
前記第3の4の申立人の主張は、「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」の下限が特定されていない本件発明1が、「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」のそれぞれが0であるものを含むことを前提としたものといえる。
ところが、本件発明1において「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」の下限値が特定されていないとしても、これらが際限なく小さくなるものとはいえず、前記「ブレーン比表面積」の上限値により規定される下限値を有するものといえることは、前記2(4)に記載したとおりであるから、本件発明1が、「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」のそれぞれが0であるものを含むものとはいえない。
してみれば、本件発明1が、「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」のそれぞれが0であるものを含むことを前提とした前記主張は、前提において誤っている。
そして、本件発明1において、「5%体積累積粒径」及び「10%体積累積粒径」の下限が特定されていないとしても、これらが際限なく小さくなるものとはいえず、前記「ブレーン比表面積」の上限値により規定される下限値を有するものといえる本件発明1の発明特定事項が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないのであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は明確性要件に適合する。
更に、本件特許請求の範囲の請求項2~4について検討しても事情は同じであるから、前記第3の4の申立人の主張は採用できない。
(3) 小括
したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合するので、前記第3の4の特許異議の申立て理由は理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立書に記載した特許異議の申立て理由によっては、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700835