特許異議申立
2023-701140
植物エキス末の製造方法
- 審判番号
- 2023-701140
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-238570
- 登録番号
- 7265834
- 請求日
- 2023年10月26日
- 審決日
- 2025年07月23日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】小林製薬株式会社
- 【権利者代理人】田中 順也
- 【権利者代理人】水谷 馨也
- 【権利者代理人】迫田 恭子
- 【異議申立人】古川 慎二
- 【異議申立人】千葉 真理子
- 【異議申立人】笹井 栄治
- 審判長/審判官
- 審判長 松波 由美子
- 審判官 冨永 みどり
- 審判官 福山 則明
- 分類
- P1651.121-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の3第1項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
結論
結 論
特許第7265834号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。
特許第7265834号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 主な手続の経緯
特許7265834号(以下「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成28年12月8日の出願であって、令和5年4月19日にその特許権の設定登録がされ、同年4月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、同年10月26日に特許異議申立人 古川 慎二(以下「異議申立人A」という。)及び特許異議申立人 千葉 真理子(以下「異議申立人B」という。)により特許異議の申立(以下、それぞれ「異議申立A」及び「異議申立B」という。)がされ、同年10月27日に特許異議申立人 笹井 栄治(以下「異議申立人C」という。)により特許異議の申立(以下「異議申立C」という。)がされた。
異議申立A、異議申立B及び異議申立Cは、特許法第120条の3第1項の規定により、異議2023-701140号事件として併合して審理されることとなったところ、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和6年 5月22日付け:取消理由通知書
同年 7月24日 :意見書(特許権者)の提出
同年 8月30日 :上申書(異議申立人B)の提出
同年 9月 6日 :上申書(異議申立人C)の提出
令和7年 2月 5日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年 4月11日 :意見書(特許権者)の提出
同年 4月11日 :訂正請求書の提出
同年 4月23日付け:手続補正指令書(方式)
同年 5月21日 :手続補正書(特許権者)の提出
同年 5月21日 :上申書(特許権者)の提出
同年 5月28日 :手続補正書(特許権者)の提出
同年 5月28日 :上申書(特許権者)の提出
以下、令和7年5月28日提出の手続補正書により補正された訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。
本件訂正請求については、特許法第120条の5第5項に規定する特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないとされる特別の事情にあたると認められるため、異議申立人に、再度、意見書を提出する機会は与えなかった。
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「植物を含む漢方又は植物由来の生薬」と記載されているのを、
「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「加熱処理後に、溶液温度50℃以下で噴霧乾燥処理に供する、」と記載されているのを、
「加熱処理後に、噴霧乾燥処理に供する工程を有し、前記噴霧乾燥処理に供される原料液の温度は、防風通聖散の場合は50℃以下、清心蓮子飲の場合は0~30℃、及び茵ちん五苓散の場合は0~30℃である、」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「漢方又は生薬エキス末(但し、アンコウ魚胃タンパク質ペプチドと甘草エキスの粉混合物、及びアスパラサス・リネアリス粉末を除く)の製造方法。」と記載されているのを、
「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末の製造方法。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「固形製剤に使用される漢方又は生薬エキス末の製造方法である、請求項1に記載の製造方法。」と記載されているのを、
「 固形製剤に使用される防風通聖散のエキス末、清心蓮子飲のエキス末、又は茵ちん五苓散のエキス末の製造方法であり、
防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散を抽出処理した後に濃縮することにより得られた原料液を、60℃以上且つ180分以下の条件での加熱処理後に、噴霧乾燥処理に供する工程を有し、前記噴霧乾燥処理に供される原料液の温度は、防風通聖散の場合は50℃以下、清心蓮子飲の場合は20℃以下、及び茵ちん五苓散の場合は20℃以下である、防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末の製造方法。」に訂正する。
(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1及び2について、請求項2は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1~3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。従って、訂正前の請求項1及び2に対応する訂正後の請求項1及び2は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(6)別の訂正単位とする求め
特許権者は、訂正後の請求項2について、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、物の製造方法である訂正前の請求項1に係る発明において、抽出処理に供される原料である「植物を含む漢方又は植物由来の生薬」を、「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」という特定の種類の「植物を含む漢方」に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項1における「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」を抽出処理することについては、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)の「【0017】本発明において、これらの植物原材料は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、本発明の製造方法において、植物原材料としては、好ましくは漢方又は生薬、より好ましくは漢方、更に好ましくは防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散が挙げられる。」との記載、「【0018】(植物エキス末の製造方法)本発明において植物エキス末は、好ましくは、植物原材料を抽出処理する工程、植物原材料の残渣を分離して原料液を得る工程、前記原料液を濃縮する工程、前記濃縮した原料液を加熱殺菌する工程、及び、加熱殺菌された原料液を噴霧乾燥する工程、を経ることにより製造される。」との記載、「【0037】実施例1(植物エキス末の製造)防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散の各原生薬20kg(乾燥重量)にイオン交換水250Lを加え、加熱し、100℃で60分間撹拌抽出した。そして、遠心分離した後、メッシュ(100mesh)でろ過して残渣を除き、抽出液を得た。得られた抽出液を加熱しながら減圧することにより18倍に濃縮し、次いで120℃で10秒間加熱殺菌を行った。加熱殺菌後、抽出液の溶液温度を、シェル&チューブ式冷却機で10分間冷却して20℃にし、続けて、噴霧乾燥(TR-160、プリス社製、140℃)を行い、各植物エキス末を得た。」との記載からみて、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項1は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アのとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、物の製造方法である訂正前の請求項1に係る発明において、「加熱処理後に、溶液温度50℃以下で噴霧乾燥処理に供する、」との記載を、「加熱処理後に、噴霧乾燥処理に供する工程を有し、前記噴霧乾燥処理に供される原料液の温度は、防風通聖散の場合は50℃以下、清心蓮子飲の場合は0~30℃、及び茵ちん五苓散の場合は0~30℃である、」との記載に訂正するものであるが、この訂正は噴霧乾燥処理に供される原料液の温度に関して、「清心蓮子飲」及び「茵ちん五苓散」の場合の温度を「50℃以下」の範囲内である「0~30℃」に限定する訂正である。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項2における「噴霧乾燥処理に供される原料液の温度」が「清心蓮子飲の場合は0~30℃、及び茵ちん五苓散の場合は0~30℃である」ことについては、明細書等の「【0024】本発明の製造方法においては、前述の加熱殺菌処理後の原料液を、溶液温度70℃以下で噴霧乾燥処理に供する。本発明の製造方法においては、加熱殺菌処理後の原料液を高温のままではなく、ただちに溶液温度70℃以下に冷却して、噴霧乾燥処理に供することで、固形製剤の崩壊性を向上させることができる植物エキス末を製造することができる。すなわち、本発明の製造方法においては、前述の加熱殺菌処理と噴霧乾燥処理を一連で行うことが好ましい。本発明において、加熱殺菌処理と噴霧乾燥処理を一連で行うとは、加熱殺菌処理後、8時間以内、好ましくは3時間以内、より好ましくは30分以内に噴霧乾燥処理を行うことをいう。前記加熱殺菌処理後(すなわち、噴霧乾燥処理前)の原料液の溶液温度としては、固形製剤の崩壊性をより一層向上させることができる点で、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下、更に好ましくは0~30℃が挙げられる。」との記載、「【0037】実施例1(植物エキス末の製造)防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散の各原生薬20kg(乾燥重量)にイオン交換水250Lを加え、加熱し、100℃で60分間撹拌抽出した。そして、遠心分離した後、メッシュ(100mesh)でろ過して残渣を除き、抽出液を得た。得られた抽出液を加熱しながら減圧することにより18倍に濃縮し、次いで120℃で10秒間加熱殺菌を行った。加熱殺菌後、抽出液の溶液温度を、シェル&チューブ式冷却機で10分間冷却して20℃にし、続けて、噴霧乾燥(TR-160、プリス社製、140℃)を行い、各植物エキス末を得た。」との記載からみて、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項2は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アのとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、物の製造方法である訂正前の請求項1に係る発明において、製造される物が、特定の態様を除くのみであった「漢方又は生薬エキス末(但し、アンコウ魚胃タンパク質ペプチドと甘草エキスの粉混合物、及びアスパラサス・リネアリス粉末を除く)」を、「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末」という特定の漢方のエキス末に限定するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項3における「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末」を製造することについては、明細書等の「【0037】実施例1(植物エキス末の製造)防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散の各原生薬20kg(乾燥重量)にイオン交換水250Lを加え、加熱し、100℃で60分間撹拌抽出した。そして、遠心分離した後、メッシュ(100mesh)でろ過して残渣を除き、抽出液を得た。得られた抽出液を加熱しながら減圧することにより18倍に濃縮し、次いで120℃で10秒間加熱殺菌を行った。加熱殺菌後、抽出液の溶液温度を、シェル&チューブ式冷却機で10分間冷却して20℃にし、続けて、噴霧乾燥(TR-160、プリス社製、140℃)を行い、各植物エキス末を得た。」との記載からみて、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項3は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アのとおり、訂正事項3は、特許請求の範囲を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4は、次の訂正事項4-1~4-4から構成されるものである。
訂正事項4-1
訂正前の請求項2が引用していた請求項1の「植物を含む漢方又は植物由来の生薬を抽出処理した後に濃縮することにより得られた原料液を、60℃以上且つ180分以下の条件での加熱処理後に、溶液温度50℃以下で噴霧乾燥処理に供する、漢方又は生薬エキス末(但し、アンコウ魚胃タンパク質ペプチドと甘草エキスの粉混合物、及びアスパラサス・リネアリス粉末を除く)の製造方法。」の記載を引用しないものとする。
訂正事項4-2
「植物を含む漢方又は植物由来の生薬」を、「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」に限定する。
訂正事項4-3
「加熱処理後に、溶液温度50℃以下で噴霧乾燥処理に供する、」を、「加熱処理後に、噴霧乾燥処理に供する工程を有し、前記噴霧乾燥処理に供される原料液の温度は、防風通聖散の場合は50℃以下、清心蓮子飲の場合は20℃以下、及び茵ちん五苓散の場合は20℃以下である、」に限定する。
訂正事項4-4
「漢方又は生薬エキス末(但し、アンコウ魚胃タンパク質ペプチドと甘草エキスの粉混合物、及びアスパラサス・リネアリス粉末を除く)の製造方法。」を、「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末の製造方法。」に限定する。
訂正事項4-1は、請求項2の記載が請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して独立請求項へ改めるものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項4-2及び訂正事項4-4は、それぞれ前記(1)ア及び(3)アで説示したのと同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
さらに、訂正事項4-3は、噴霧乾燥処理に供される原料液の温度に関して、「清心蓮子飲」及び「茵ちん五苓散」の場合の温度を「50℃以下」の範囲内である「20℃以下」に限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無
訂正事項4による訂正は、前記アで説示したとおり、請求項2の記載が請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して独立請求項へ改め、請求項間の引用関係を解消し、なおかつ、抽出処理に供される原料を、「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」に限定し、噴霧乾燥処理に供される原料液の温度に関して、「清心蓮子飲」及び「茵ちん五苓散」の場合の温度をいずれも「20℃以下」に限定し、製造される物を「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末」に限定するものであるところ、前記(1)イ、(2)イ及び(3)イで説示したのと同様の理由から、訂正事項4は、明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
よって、訂正事項4は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アのとおり、訂正事項4は、請求項間の引用関係を解消し、かつ、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(5)独立特許要件について
本件特許異議の申立てにおいては、訂正前の請求項1~2について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~4による訂正については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(6)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2のとおり本件訂正は認められたので、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~2に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明2」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、以下のとおりのものである。
【請求項1】
防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散を抽出処理した後に濃縮することにより得られた原料液を、60℃以上且つ180分以下の条件での加熱処理後に、噴霧乾燥処理に供する工程を有し、前記噴霧乾燥処理に供される原料液の温度は、防風通聖散の場合は50℃以下、清心蓮子飲の場合は0~30℃、及び茵ちん五苓散の場合は0~30℃である、防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末の製造方法。
【請求項2】
固形製剤に使用される防風通聖散のエキス末、清心蓮子飲のエキス末、又は茵ちん五苓散のエキス末の製造方法であり、
防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散を抽出処理した後に濃縮することにより得られた原料液を、60℃以上且つ180分以下の条件での加熱処理後に、噴霧乾燥処理に供する工程を有し、前記噴霧乾燥処理に供される原料液の温度は、防風通聖散の場合は50℃以下、清心蓮子飲の場合は20℃以下、及び茵ちん五苓散の場合は20℃以下である、防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末の製造方法。
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由について
1 異議申立Aの理由の概要
異議申立人Aが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~2に係る特許に対して申し立てた特許異議の申立ての理由は、概略、以下の(1)のとおりであって、異議申立人Aは、特許異議申立書に添付して、証拠方法として、下記(2)の甲第1~3号証(以下、各甲号証については番号に従い、例えば「甲第1号証」については「甲A1」という。)を提出した。
(1)申立理由A(進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1~2に係る発明は、以下の甲A1~甲A3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、本件訂正前の請求項1~2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)甲号証
甲A1:特開平10-113148号公報
甲A2:特開平2-104265号公報
甲A3:特開2004-65094号公報
2 異議申立Bの理由の概要
異議申立人Bが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~2に係る特許に対して申し立てた特許異議の申立ての理由は、概略、以下の(1)~(3)のとおりであって、異議申立人Bは、特許異議申立書に添付して、証拠方法として、下記(4)の甲第1~9号証(枝番号を含む。以下、各甲号証については番号に従い、例えば「甲第1号証」については「甲B1」、「甲第4号証の2」については「甲B4の2」という。)を提出した。
(1)申立理由B1(進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1~2に係る発明は、以下の甲1~9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、本件訂正前の請求項1~2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由B2(サポート要件違反)
本件訂正前の請求項1~2に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、本件訂正前の請求項1~2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を充足していないから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由B3(明確性要件違反)
本件訂正前の請求項1~2に係る発明は明確ではなく、本件訂正前の請求項1~2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を充足していないから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)甲号証
甲B1:日本防菌防黴学会編、「21世紀の生薬・漢方製剤」、株式会社繊維社 企画出版、1999年、323~335頁、「第11章 生薬・漢方製剤における微生物学的品質保証」
甲B2:中国特許出願公開第105077279号明細書
甲B3:特開2004-65094号公報
甲B4の1:「液体滅菌装置」と題するカタログ、株式会社日阪製作所、2016年6月、1~10頁
甲B4の2:株式会社日阪製作所による甲4の1の発行時期の証明書
甲B5:特開2016-69366号公報
甲B6:「漢方とは?」と題するウェブページの「漢方薬は、自然のものでできている。」、一般社団法人漢方産業化推進研究会、2014年9月25日、https://kampo-promotion.jp/html/what.html
甲B7:特開2015-189748号公報
甲B8:「ツムラ清心蓮子飲エキス顆粒(医療用)」の添付文書、株式会社ツムラ、2013年3月改訂(第6版)
甲B9:「ツムラ茵チン五苓散エキス顆粒(医療用)」の添付文書、株式会社ツムラ、2013年3月改訂(第5版)(当審合議体注:「チン」は「くさかんむり」に「陳」の漢字で記載されている。)
3 異議申立Cの理由の概要
異議申立人Cが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~2に係る特許に対して申し立てた特許異議の申立ての理由は、概略、以下の(1)~(3)のとおりであって、異議申立人Cは、特許異議申立書に添付して、証拠方法として、下記(4)の甲第1~10号証(枝番号を含む。以下、各甲号証については番号に従い、例えば「甲第1号証」については「甲C1」、「甲第6号証の1」については「甲C6の1」という。)を提出した。
(1)申立理由C1(進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1~2に係る発明は、以下の甲1~9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、本件訂正前の請求項1~2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由C2(実施可能要件違反)
本件明細書には、本件訂正前の請求項1~2に係る発明について当業者が実施できるように記載されているとはいえず、本件訂正前の請求項1~2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を充足していないから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由C3(サポート要件違反)
本件訂正前の請求項1~2に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、本件訂正前の請求項1~2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を充足していないから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)甲号証
甲C1:特開2009-242330号公報
甲C2:日本防菌防黴学会編、「21世紀の生薬・漢方製剤」、株式会社繊維社 企画出版、1999年、323~335頁、「第11章 生薬・漢方製剤における微生物学的品質保証」
甲C3:日本防菌防黴学会編、「21世紀の生薬・漢方製剤」、株式会社繊維社 企画出版、1999年、277~287頁、「第7章 漢方エキス製剤の製造と品質管理」
甲C4:食品製造装置百科辞典編纂委員会編、「食品製造装置百科辞典」、株式会社化学工業社、1988年、第367~370頁
甲C5:特開平5-7471号公報
甲C6:「液体滅菌装置」と題するカタログ、株式会社日阪製作所、2016年6月、1~10頁
甲C6の1:株式会社日阪製作所による甲6の発行時期の証明書
甲C7:特開2022-130003号公報
甲C8:「造粒技術への挑戦!!流動層造粒による打錠用顆粒の設計とスーパースケールアップ」、製剤機械技術研究会誌、2005年、Vol. 14、No. 1、5~15頁
甲C9:Importance of Gelatinization Degree of Starch Paste Binder in Hardness and Disintegration Time of Tablets、 Chemical and Pharmaceutical Bulletin、1995、Vol. 43、No. 3、pp. 514-516、DOI:https://doi.org/10.1248/cpb.43.514
甲C10:A comparative study of spray-dried medicinal plant aqueous extracts. Drying performance and product quality、Chemical Engineering Research and Design、2015、Vol. 104、pp. 681-694
4 取消理由の概要
(1)令和6年5月22日付け取消理由通知書における取消理由
本件訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して、当審が令和6年5月22日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
なお、引用文献1と甲B1及び甲C2、引用文献2と甲A2、引用文献3と甲B2、引用文献4と甲C5、引用文献5と甲C3、引用文献6と甲C10は、それぞれ同じである。
取消理由1(進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献1~6の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基いて、当業者が容易に想到することができたものであるから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
取消理由2(サポート要件違反)
本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)令和7年2月5日付け取消理由通知書(決定の予告)における取消理由
本件訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して、当審が令和7年2月5日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
なお、引用文献1~6と甲号証との対応関係は、前記(1)のとおりである。また、引用文献7と甲B4の1及び甲C6は、同じである。
取消理由1(進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献1~7の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基いて、当業者が容易に想到することができたものであるから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第5 取消理由通知に記載した取消理由についての判断
事案に鑑み、まず、令和7年2月5日付け取消理由通知書における取消理由について検討する。
1 令和7年2月5日付け取消理由通知書における取消理由1(進歩性欠如)について
(1)引用文献に記載された事項及び引用文献に記載された発明
異議申立人A~Cが提出した甲号証のうち、取消理由で引用するものについて、以下、記載事項を摘記する。なお、下線部は当審合議体が付したものであり、外国語で記載された甲号証については、当審合議体による日本語訳文で摘記する。また、文中の「・・・」は記載の省略を意味する。
ア 引用文献1(甲B1、甲C2)に記載された事項
摘記1a(329頁左欄下から9行~右欄13行)
「5.生薬・漢方エキス剤
エキス剤の製法は、原料用生薬を単独または複数、組み合わせて溶剤で抽出した後、固液分離した液を濃縮する。濃縮液は、そのまま製剤化に用いられるか、あるいは噴霧乾燥などして粉末化する。このように、加工法が明確な漢方エキス剤の品質は、原料用生薬と製造衛生管理によるところが大きい。
微生物制御に関係する製造工程の操作温度と細菌数の関係を、模式的に第6図に示した。生菌数の挙動をみると、原料用生薬に付着する微生物は抽出工程において減少し、二次汚染がない限り生残菌数はほとんど不変のまま最終製品に至る。そのため、清潔な漢方エキス剤を確保するため、次の3点を重要管理点としている。
○1(当審合議体注:○の中に1。以下同様。)耐熱性菌の付着が少ない原料用生薬を用いる。
○2原料用生薬由来の微生物を殺菌する製造条件の設定。
○3抽出工程から混合工程までで、微生物の増殖と2次感染を防止する。」
摘記1b(329頁第6図)
「
[図:0001427908000001.jpg]
」
摘記1c(329頁右欄下から3行~330頁左欄3行)
「5-1 抽出
抽出は、通常、約100℃、30分ないし1時間行われるため、この加熱条件により原料用生薬に由来する易熱性菌は死滅する。しかし、薄荷、荊芥、白朮、辛夷など、多量に付着する芽胞菌は生残する場合がある。」
摘記1d(330頁右欄9行~12行)
「5-3 濃縮
固液分離液の溶剤を留去する工程で、成分の分解、揮散などを抑える目的から、通例、50℃以下での減圧濃縮法が用いられている。」
摘記1e(330頁右欄20行~331頁左欄6行)
「5-4 エキス粉末化
液状のエキスを乾燥物にする工程であり、噴霧、凍結、減圧乾燥などの方法が利用される。生薬・漢方エキス剤の場合は、工程の連続性や衛生管理、生産性などより、噴霧乾燥法が一般的に用いられている。
噴霧乾燥法では、瞬間的に水分蒸発が起こり、殺菌効果は期待できない。近年、原料用生薬に由来する生残菌を殺菌する目的で、噴霧する直前の液、すなわち濃縮液を高温瞬間殺菌する場合がある。間接加熱方式により、防風通聖散料濃縮液を高温瞬間殺菌機で処理したときの菌数変化と、熱感受性のセンノシド類の残存率を調べた結果を、第7表に示した。
本処方では、原料用生薬由来の細菌は、125℃、5秒の加熱処理で死滅した。しかし、殺菌効果を上げるため、高温・長時間の処理は有効成分の分解を起こす。したがって、原料用生薬由来で抽出・濃縮工程を経て熱損傷を受けているBacillus属などの殺菌に有効性が期待できるが、工程汚染に対応するためには、過酷な加熱が要求されるため成分分解も無視できない。」
摘記1f(331頁第7表)
「
[図:0001427908000002.jpg]
」
摘記1g(334頁第8表)
「
[図:0001427908000003.jpg]
」
イ 引用文献2(甲A2)に記載された事項
摘記2a(4頁右上欄4行~左下欄10行)
「実施例2
実施例1で使用した3Lガラス製カラムに丸粒焙煎麦500gを仕込み、・・・
得られた抽出液に、上記の揮発性香気成分濃縮液50gを添加して混合し、本発明の香味の優れた麦茶エキス1,280gを得た。
次いで、該エキス1,000gにパインデックス♯2(松谷化学製デキストリン:DE10-12)60gを添加し、均一に溶解後90℃/15分間加熱殺菌後、40℃以下に冷却して常法によりスプレードライ処理して、麦茶エキス粉末115gを得た(本発明品2)。」
ウ 引用文献3(甲B2)に記載された事項
摘記3a([0036]~[0040])
「[0036](6)甘草抽出物の調整:甘草をハンマーミルで3~10mmの粒度となるように粉砕し、5~10倍量以上の水を加えて10~30分以上浸漬し、30分以上加熱して煎じ、濾過して滓を除き、上清を取って甘草抽出液とする。
[0037](7)配合均質:甘草抽出液を、調整した酵素分解濃縮液に添加して混合液を調製し、甘草抽出液と酵素分解濃縮液の体積比は1:10~1:50とし、その後、混合液中に0.5~5重量%のシクロデキストリンを添加して、均一に攪拌して十分に溶解させた後、高圧ホモジナイザーで均質化した。
[0038](8)滅菌:ホモジナイズと噴霧乾燥の間の工程が滅菌であり、その条件は超高温瞬間滅菌機により濃縮液を135℃の温度で、5秒間滅菌する。
[0039](9)乾燥:滅菌後の混合液を噴霧乾燥する。噴霧乾燥の技術条件は、供給液温度30~60℃、入気温度100~180℃、排気温度75~90℃である。
[0040]包装:乾燥した粉末を密閉して保存し、直接調合したり、カプセルにすることができる。」
摘記3b([0044]~[0054])
「[0044]実施例1
・・・
[0051](6)甘草抽出物の調製:甘草をハンマーミルで3mm程度に粉砕し、10倍量の水を加えて10分間浸漬し、120分間加熱して煎じ、濾過して滓を除き、上清を取って甘草抽出液とした。
[0052](7)配合均質:甘草抽出液を、調製した酵素分解濃縮液に添加して混合液を調製し、甘草抽出液と酵素分解濃縮液の体積比は1:10とし、その後、0.5重量%のシクロデキストリンを添加して、均一に攪拌して十分に溶解させた後、高圧ホモジナイザーで均質化した。
[0053](8)滅菌:ホモジナイズと噴霧乾燥の間の工程として、超高温瞬間滅菌機により濃縮液を135℃の温度で5秒間の条件で滅菌した。
[0054](9)乾燥:滅菌後の混合液を噴霧乾燥した。噴霧乾燥の技術条件は、供給液温度30℃、入口温度100℃、出口温度90℃である。」
摘記3c([0070]~[0079])
「[0070]実施例3
・・・
[0076](6)甘草抽出物の調製:甘草をハンマーミルで5mm程度に粉砕し、8倍量の水を加えて20分間浸漬し、90分間加熱して煎じ、濾過して滓を除き、上清を取って甘草抽出液とした。
[0077](7)配合均質:甘草抽出液を、調製した酵素分解濃縮液に添加して混合液を調製し、甘草抽出液と酵素分解濃縮液の体積比は1:30とし、その後、2重量%のシクロデキストリンを添加して、均一に攪拌して十分に溶解させた後、高圧ホモジナイザーで均質化した。
[0078](8)滅菌:ホモジナイズと噴霧乾燥の間の工程として、超高温瞬間滅菌機により濃縮液を135℃の温度で5秒間の条件で滅菌した。
[0079](9)乾燥:滅菌後の混合液を噴霧乾燥した。噴霧乾燥の技術条件は、供給液温度50℃、入口温度130℃、出口温度80℃である。」
エ 引用文献4(甲C5)に記載された事項
摘記4a(【0001】)
「【0001】本発明はイネ科植物の緑葉の搾汁液又はその乾燥粉末及びその製造法に関し、さらに詳しくは、自然食品として実質的に添加物を含まず且つ人体にとつて好ましくない塩素及び硝酸根の含有量の少ない、嗜好性及び保存性等が改善されたイネ科植物の緑葉の搾汁液又はその乾燥粉末及びその製造法に関する。」
摘記4b(【0046】~【0049】)
「【0046】また、本発明に従い処理されるイネ科植物の搾汁液は、その調製から乾燥処理前の任意の時点で、瞬間加熱処理して、変色、変質に関与する不都合な酵素を分解乃至不活性し且つまた混入し得る細菌の殺菌を兼ね行うことができる。この処理は、常圧において、或いは減圧下または加圧下のいずれでも行うことができ、例えば90~150℃の温度で180秒~2秒程度、好ましくは80~100℃の温度で2~60秒間の処理条件が採用できる。この処理後は急冷、とくに10℃以下の温度に急冷することが望ましい。
【0047】前述した如くして得られるイネ科植物の青汁は、可及的速やかに噴霧乾燥または凍結乾燥、好ましくは噴霧乾燥する。噴霧乾燥または凍結乾燥はそれ自体既知の方法で行うことができる。
【0048】例えば、噴霧乾燥に際しては120~200℃、好ましくは140~170℃程度の熱風を用いる加熱噴霧乾燥、或いは適当な乾燥剤、例えば塩化リチウム等で乾燥した空気中で常温噴霧乾燥することができる。・・・
【0049】また、乾燥工程に供する青汁の濃度は1.5~30%程度の範囲内で、可及的高濃度側が好ましい。このために濃縮する場合には、連続薄膜濃縮装置、真空濃縮装置などを利用することができる。さらに、本発明の青汁の製造に際して、所望に応じて・・・、冷温に保ったり、遮光したり等の手段を単独もしくいは組み合わせて、乾燥工程に供するまでの搾汁液(青汁)の移送、貯蔵等における変色、変質を防止することもできる。」
オ 引用文献5(甲C3)に記載された事項
摘記5a(278頁第1図)
「
[図:0001427908000004.jpg]
」
摘記5b(280頁左欄11行~右欄18行)
「2-2-3 濃縮工程
この工程からは、標準湯剤と異なる状態とする工程であり、熱に曝される工程である。したがって、抽出液の品質を保持できるように、できる限り低温かつ短時間で行う必要がある。濃縮工程は、次工程の乾燥を効率良くするために行われる。漢方エキスの場合、一般的に低温真空濃縮が行われる。
低温真空濃縮法の一つである薄膜流下方式で大黄(ダイオウ)抽出液を濃縮した際のセンノシドA(熱により分解しやすい成分)の挙動を第4図に示した。100℃で濃縮した場合、センノシドAは分解され含量が著しく低下したが、40℃で濃縮した場合には、ほとんど分解しない。・・・
2-2-4 乾燥工程
濃縮液を乾燥エキス粉末にする工程である。乾燥方法としては、噴霧乾燥法と凍結乾燥法がある。凍結乾燥法は熱がかからないという利点があるが、乾燥に時間がかかり、大量の処理ができないという欠点がある。
一方、噴霧乾燥法では、短時間に大量の処理ができるため、工業的に適した乾燥法である。この方式では、高温の気流中に濃縮液を微細な液滴として噴霧するが、気化熱を奪われ瞬時に乾燥するため、成分劣化はほとんど起こらない。
第5図に、大黄濃縮液を噴霧乾燥した時のセンノシドAの挙動を示した。送風温度が200℃以下、排風温度105℃以下であれば、センノシドAは分解されず乾燥できる。」
摘記5c(280頁第4図、第5図)
「
[図:0001427908000005.jpg]
」
摘記5d(281頁左欄9行~20行)
「2-3 製剤化工程
次に製剤化工程では、標準湯剤と同等な品質が確保されたエキス粉末の品質を損なうことなく、顆粒、細粒、錠剤等に製剤化することが重要である。したがって、できる限りエキス粉末に手を加えないような製剤化方法(熱がかからない、溶媒を使用しないなど)が望ましい。
基本的には、通常の医薬品の製剤化と同じであるが、第2表に示した漢方エキス粉末の特性を考慮して、処方ごとに最適な製剤化条件を設定する必要がある。製剤化する上でのポイントを第3表に示した。」
摘記5e(281頁第3表)
「
[図:0001427908000006.jpg]
」
カ 引用文献6(甲C10)に記載された事項
摘記6a(アブストラクト)
「漢方薬の錠剤の製造では、乾燥した植物抽出物が治療成分として使用される。通常、噴霧乾燥によって得られるこれらの粉末は、一般的に湿潤性であり、直接打錠(DC)による錠剤の製造には流動性と打錠性が悪い。その上、噴霧乾燥の操作条件と液体供給組成は生薬に依存することが報告されている。その結果、乾燥エキスの製造には長い新製品開発期間が必要となる。したがって、本論文の目的は、(a)噴霧乾燥によるDCに適した生薬粉末の初期製造ポイントとしての推奨事項を提供すること、(b)粉末特性を研究し、エキスの性質に影響されるものを特定することである。・・・
粉末の特性、すなわち粒子径と形態、含水率、吸湿性、流動性、成形硬度は、ハーブの種類によるものではなかった。逆に、工程収率とガラス転移温度、粒子密度と嵩密度、粉末の構成比、圧縮空隙率、湿潤時間と崩壊時間は、ハーブの化学的性質に依存することがわかった。」
摘記6b(682頁左欄下から10行~最終行)
「噴霧乾燥粉末の物理化学的特性およびプロセス収率は、操作条件(すなわち、入口空気温度、噴霧化、液体および乾燥空気流量)および液体供給組成(例えば、全固形分含量、液体植物抽出物の固体残渣(SR)に対する乾燥アジュバントの比率、溶媒の種類)に依存する(Mujumdar, 2006)。これらのパラメーターを適切に選択するためには、試行錯誤的なアッセイや要因設計が必要であり(Coutoet al.,2012;Krishnaiah et al.,2012;Sahin-Nadeemet al.,2013)、これは非常に時間のかかるステップである。」
摘記6c(692頁右欄29行~46行)
「3.3.4. 崩壊時間
錠剤の一次粒子への崩壊は、活性原薬の溶解およびその後の吸収に有効な表面積を決定するため、重要である。この意味で、薬局方(Pharmacoeias)では、試験液(水など)中における非コーティング錠剤の最大崩壊時間として30分を定めている(Ansel et al.2009)。水性抽出物が噴霧乾燥されただけであること、および対応する粉末が主に非晶質の微粒子で構成されていることを考慮すると、水性媒体中では高い溶出率が期待され、崩壊時間が抽出物の放出に期待される律速段階となる。
表4に報告された結果によると、圧縮された噴霧乾燥抽出物の崩壊時間は有意に異なり(p<0.05)、P.boldusとC.asiaticaを除き、満足できるものであった。多孔性が高いにもかかわらず、これらハーブの圧縮体は、30分を超える崩壊時間を示した(表5)。」
摘記6d(692頁表5)
「
[図:0001427908000007.jpg]
」
キ 引用文献7(甲B4の1、甲C6、技術常識を示す文献)に記載された事項
摘記7a(2頁)
「
[図:0001427908000008.jpg]
」
摘記7b(3~4頁)
「
[図:0001427908000009.jpg]
[図:0001427908000010.jpg]
」
摘記7c(10頁)
「
[図:0001427908000011.jpg]
」
ク 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、生薬・漢方エキス剤の製造方法として、「原料用生薬を単独または複数、組み合わせて溶剤で抽出した後、固液分離した液を濃縮」し、濃縮液を、「噴霧乾燥などして粉末化する」方法が記載されており、前記「濃縮」は、「固液分離液の溶剤を留去する工程で、成分の分解、揮散などを抑える目的から、通例、50℃以下での減圧濃縮法が用いられ」ること、前記「粉末化」は、「液状のエキスを乾燥物にする工程であり、・・・生薬・漢方エキス剤の場合は、工程の連続性や衛生管理、生産性などより、噴霧乾燥法が一般的に用いられている」ことが記載されている(摘記1a、1d及び1e)。また、第6図には、「生薬・漢方エキス剤の製造工程温度」につき、「凝縮」時の温度が一定であることがみてとれ(摘記1b)、当該「凝縮」が「濃縮」であることは当業者の技術常識に照らし明らかである。
前記記載事項を踏まえると、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。
「原料用生薬を単独または複数、組み合わせて溶剤で抽出した後、固液分離した液を50℃以下での減圧濃縮法を用いて濃縮した濃縮液を、噴霧乾燥して粉末化する、漢方・生薬エキス末の製造方法。」(以下「引用発明1」という。)
(2)当審の判断
事案に鑑み、「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末の製造方法」と選択肢で記載された本件発明1を「防風通聖散」「のエキス末の製造方法」、「清心蓮子飲」「のエキス末の製造方法」及び「茵ちん五苓散のエキス末の製造方法」に係る発明のそれぞれについて検討する。
ア 本件発明1のうち、「防風通聖散」「のエキス末の製造方法」に係る発明(以下「本件発明1-1」という。)について
(ア)対比
本件発明1-1と引用発明1を対比する。
本件発明1-1の「防風通聖散」は複数の原料用生薬を組み合わせた漢方薬であるから、引用発明1の「原料用生薬を」「複数、組み合わせ」たものと、本件発明1-1における「防風通聖散」は、「原料用生薬を」「複数、組み合わせ」たものである点で共通する。
また、引用発明1において「溶剤で抽出」することは、本件発明1-1において「抽出処理」することに相当する。また、引用発明1における「濃縮液」は、「固液分離した液を」「減圧濃縮法を用いて濃縮した」ものであるところ、本件発明1の「濃縮することにより得られた原料液」に相当する。
そして、引用発明1における「濃縮液を、噴霧乾燥して粉末化する」ことは、当該濃縮液は、「固液分離した液を50℃以下での減圧濃縮法を用いて濃縮した」ものであるから、本件発明1における「噴霧乾燥処理に供される原料液の温度」が「50℃以下」である「噴霧乾燥処理に供する」ことに相当する。
さらに、引用発明1の「漢方」「エキス末の製造方法」は、本件発明1-1の「防風通聖散」「のエキス末の製造方法」と、「漢方エキス末の製造方法」であることで共通する。
そうすると、本件発明1-1と引用発明1は、
「原料用生薬を複数、組み合わせて抽出処理した後に濃縮することにより得られた原料液を、溶液温度50℃以下で噴霧乾燥処理に供する、漢方エキス末の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1-1>
複数組み合わせて用いられる原料用生薬、及び製造する目的物である漢方エキス末について、本件発明1においては「防風通聖散」及び「防風通聖散のエキス末」と特定されているのに対し、引用発明1においては、そのような特定はない点。
<相違点1-2>
本件発明1は、原料液を、「60℃以上且つ180分以下の条件での加熱処理後に」、溶液温度50℃以下で噴霧乾燥処理に供するものであるのに対し、引用発明1においては、そのように特定されていない点。
(イ)判断
a 相違点1-1について
引用文献1は、「生薬・漢方製剤における微生物学的品質保証」と題し、多様な漢方エキス剤を念頭においた一般文献であるところ、引用文献1の「5-4 エキス粉末化」の項には、液状のエキスを乾燥物にする工程において、原料用の生薬に由来する生残菌を殺菌する目的で、噴霧する直前の液、すなわち濃縮液を高温瞬間殺菌する場合があることが記載され、その例として、防風通聖散料濃縮液が、具体的に挙げられている。そして、かかる記載に接した当業者であれば、防風通聖散は、引用文献1に記載の漢方エキス剤の製造方法が適用される典型例として示されていると解するのが自然である(摘記1e及び1f)。そうすると、引用発明1において、複数組み合わせて用いられる原料用生薬、及び製造する目的物である漢方エキス末として、それぞれ、防風通聖散及び防風通聖散のエキス末を選択し、相違点1-1に係る構成にすることは当業者が容易に想到し得たことである。
b 相違点1-2について
引用文献1には、原料用生薬由来の微生物を殺菌する製造条件の設定は、清潔な生薬・漢方エキス剤を確保するための、重要管理点の1つであること(摘記1a)、生薬の抽出処理を通常の加熱条件(100℃、30分ないし1時間)で行った場合、原料用生薬に由来する易熱性菌は死滅する一方で、芽胞菌は生残することがあること(摘記1c)、噴霧乾燥法では、瞬間的に水分蒸発が起こり殺菌効果は期待できないことから、原料用生薬に由来する生残菌を殺菌する目的で、噴霧する直前の液、すなわち濃縮液を高温瞬間殺菌する場合があることが記載されており(摘記1e)、防風通聖散濃縮液を、125℃、5秒の高温瞬間殺菌処理することにより原料用生薬由来の細菌が死滅したことが記載されている(摘記1e及び1f)。
そして、防風通聖散は、構成生薬として薄荷、荊芥、白朮を含有する漢方薬であるところ、引用文献1には、薄荷、荊芥、白朮について、通常の加熱条件により実施される抽出時の加熱によっても、付着する芽胞菌は生残する場合があることが記載されていることから(摘記1c)、衛生的で清潔な防風通聖散エキス剤を得るためには、原料用生薬由来の微生物を殺菌する製造条件を設ける必要性があることを当業者であれば認識するものといえる。
他方、引用文献1には、高温瞬間殺菌が、高温・長時間の処理となると有効成分の分解を起こすこと、及び、防風通聖散濃縮液の高温瞬間殺菌処理において、加熱時間及びホールド時間が高温・長時間になるほど、熱感受性のセンノシド類の残存率が低下することが記載されており(摘記1e及び1f)、このことは、濃縮工程に係る引用文献1の開示及び引用文献5の記載にも沿うものである。すなわち、引用文献1には、濃縮工程を「50℃以下での減圧濃縮法を用い」て行う技術的背景として、生薬・漢方エキスの抽出液の濃縮工程においては、成分の分解、揮散などを抑えることが求められることが記載されるとともに、第6図からも、凝縮工程時、すなわち濃縮工程時の温度が乾燥工程に至るまで、保持されていることがみてとれる(摘記1b及び1d)。また、引用文献5にも、濃縮工程において抽出液の品質を保持できるよう、できる限り低温かつ短時間で行う必要があり、熱により分解しやすい成分であるセンノシドAを含む大黄抽出液を濃縮する場合について、100℃で濃縮するとセンノシドAが分解されて著しく含量が低下する一方、40℃で濃縮した場合にはほとんど分解しないことが記載されている(摘記5b)。
くわえて、引用文献2~4に記載されるように、生薬を含む植物由来のエキス末を製造するにあたり、原料液を、加熱殺菌後に冷却して、溶液温度50℃以下で噴霧乾燥処理に供することは、汎用の技術であり(摘記2a、3a~3c、4a及び4b)、漢方や生薬の滅菌・殺菌に用いられる市販のチューブ式滅菌装置が加熱器・ホールド部に続けて冷却器を備えていることや、UHT滅菌について、温度条件を滅菌95~140℃、冷却85~30℃の範囲で設定可能な試験機で滅菌温度・ホールド時間の差による品質確認テストが行われることもまた、本件出願日当時、当業者にとり技術常識であった(摘記7a~7c)。
そうしてみると、原料用生薬由来の微生物を殺菌して、衛生的な生薬・漢方エキス末を製造することは、望まれる課題であることから、引用発明1において、噴霧乾燥処理工程の前に、引用文献1の前記記載に基づき、125℃、5秒程度の高温瞬間殺菌処理を採用すること、及び、その際に、防風通聖散が、熱により分解しやすいセンノシドAを含有する大黄を、その構成生薬として含む漢方薬であることを考慮して(摘記1e、1f、5b及び5c)、高温瞬間殺菌処理において、原料液が高温に曝される時間を短くすることに、一応の動機付けはあるとはいえる。
しかしながら、本件発明1-1において、「溶液温度50℃以下で噴霧乾燥処理に供する」ことの目的は、植物エキス末を含有する錠剤等の固形製剤の崩壊性の向上にあるのであるところ、引用文献1には、加熱殺菌後に一定温度以下までに冷却してから続けて噴霧乾燥に供することにより、エキス末の性質を変化させ、固形製剤とした際の崩壊性が向上するという技術的思想については何ら開示がない。
この点は、引用文献2~4を参照しても同様である。すなわち、引用文献2~4の記載から、加熱殺菌後に冷却して、溶液温度50℃以下で噴霧乾燥処理に供することが、本件出願前汎用技術であり、また、高温瞬間殺菌に用いられる市販のチューブ式滅菌装置が、加熱器に加えて冷却器を備えるものであることは認められるものの、これらの引用文献には、植物エキス末の製造において、加熱殺菌後、噴霧乾燥処理に供する温度と、当該植物エキス末を含有する錠剤等の固形製剤の崩壊性との相関についての開示はない。
したがって、引用発明1において、濃縮後、噴霧乾燥前に、高温瞬間殺菌処理を採用するにあたり、固形製剤の崩壊性を向上すべく、加熱殺菌後、噴霧乾燥処理に供する温度を50℃以下に決定することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
c 本件発明1-1の効果について
明細書等の実施例1には、防風通聖散を抽出処理した後に濃縮することで得た原料液を、120℃で10秒間加熱殺菌し、その後、抽出液を冷却して溶液温度を20℃とし、続けて噴霧乾燥して防風通聖散のエキス末を製造したこと、当該エキス末を用いた水に対する溶解分散性を評価したことが記載されている(明細書等の【0037】、【0046】~【0048】、実施例1、【表2】)。また、比較例1には、実施例1の前記製造方法において、加熱殺菌後の抽出液の溶液温度を90℃とした以外は同様にして、防風通聖散のエキス末を製造し、当該エキス末について、水に対する溶解分散容易性を評価したことが記載されている(明細書等の【0043】、【0046】~【0048】、比較例1、【表2】)。
ここで、【表2】には、水中に均一に溶解・分散するまでの時間について、溶液温度を90℃とし、続けて噴霧乾燥して得られた比較例1のエキス末においては、550秒であったのに対し、溶液温度を20℃とし、続けて噴霧乾燥して得られた実施例1のエキス末においては、350秒であったことが示されており、かかる結果からみて、噴霧乾燥する直前の溶液温度を90℃から20℃まで低下させること、すなわち、原料液を、「60℃以上且つ180分以下の条件での加熱処理後に」、溶液温度50℃以下で噴霧乾燥処理に供することによって、溶液温度90℃で噴霧乾燥処理に供した場合と比較して、溶解・分散時間が、200秒短縮したことを読み取ることができる。
そして、噴霧乾燥する直前の溶液温度を50℃以下に低下させることによって、防風通聖散のエキス末の水に対する溶解分散性が向上することについては、引用文献1~7のいずれに記載も示唆もなく、また、そのような効果を当業者が予測するに足りる本件出願日当時の技術常識も見いだせないから、明細書等の【表2】に示された実施例1と比較例1の対比試験の結果は当業者の予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。
よって、本件発明1-1の構成により奏される効果は、当業者の予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1-1は、引用発明1並びに引用文献1~7の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、進歩性を有するものである。
イ 本件発明1のうち、「清心蓮子飲」「のエキス末の製造方法」及び「茵ちん五苓散のエキス末の製造方法」に係る発明(以下「本件発明1-2」という。)について
(ア)対比
本件発明1-2と引用発明1を対比する。
前記ア(ア)での検討を踏まえると、本件発明1-2と引用発明1は、
「原料用生薬を複数、組み合わせて抽出処理した後に濃縮することにより得られた原料液を噴霧乾燥処理に供する、漢方エキス末の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点2-1>
複数組み合わせて用いられる原料用生薬、及び製造する目的物である漢方エキス末について、本件発明1-2においては「清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」及び「清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末」と特定されているのに対し、引用発明1においては、そのような特定はない点。
<相違点2-2>
本件発明1-2は、原料液を、「60℃以上且つ180分以下の条件での加熱処理後に」、「原料液の温度」を「0~30℃」として噴霧乾燥処理に供するものであるのに対し、引用発明1においては、噴霧乾燥処理前に「60℃以上且つ180分以下の条件での加熱処理」を行うことが特定されておらず、なおかつ、噴霧乾燥処理に供される原料液の温度を「0~30℃」とすることが特定されていない点。
(イ)判断
まず、相違点2-1について、前示のとおり、引用文献1は、「生薬・漢方製剤における微生物学的品質保証」と題し、多様な漢方エキス剤を念頭においた一般文献である。しかしながら、引用文献1には第8表等に、漢方エキス粉末の具体例が多数、例示されているにもかかわらず、「清心蓮子飲」及び「茵ちん五苓散」については開示も示唆もない(摘記1g)。したがって、引用発明1において、複数組み合わせて用いられる原料用生薬として、あえてその開示のない「清心蓮子飲」又は「茵ちん五苓散」の原料用生薬を選択し、「清心蓮子飲」又は「茵ちん五苓散」の漢方エキス末を製造することは、当業者にとり動機づけられたことではない。このことは、引用文献2~7の記載を参照しても同様である。
次に、相違点2-2についてみると、引用文献1~7には、そもそも、「清心蓮子飲」及び「茵ちん五苓散」の漢方エキス末を、噴霧乾燥処理を含む製造方法により製造することについても、加熱滅菌を要することについても開示も示唆もないのであるから、当然に、加熱滅菌後、噴霧乾燥処理に供される原料液の温度を「0~30℃」とすることについての記載はない。したがって、相違点2-2についても、「清心蓮子飲」及び「茵ちん五苓散」の漢方エキス末の崩壊性を向上させるべく、「60℃以上且つ180分以下の条件での加熱処理後に」、「原料液の温度」を「0~30℃」として噴霧乾燥処理に供することは、当業者が容易に想到し得たものではない。
そして、本件発明1-2の構成により奏される効果についても、明細書等の実施例1には、清心蓮子飲又は茵ちん五苓散を抽出処理した後に濃縮することで得た原料液を、120℃で10秒間加熱殺菌し、その後、抽出液を冷却して溶液温度を20℃とし、続けて噴霧乾燥して清心蓮子飲及び茵ちん五苓散のエキス末を製造したこと、当該エキス末を含む錠剤を製造したこと、得られた錠剤の崩壊性を評価したことが記載されているところ(明細書等の【0037】~【0039】、【0044】、実施例1、【表1】)、実施例1のエキス末を含む錠剤は、溶液温度を90℃とし、続けて噴霧乾燥して得られた比較例1のエキス末を含む錠剤と比べて高い崩壊性を示すことが記載されており(明細書等の【0044】、【表1】)、かかる効果は、引用文献1~7及び本件出願日当時の技術常識から予測できるものではない。
したがって、本件発明1-2の構成により奏される効果は、当業者の予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1-2は、引用発明1並びに引用文献1~7の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、進歩性を有するものである。
ウ 本件発明1について
前記ア及びイにおいて検討したとおり、本件発明1は、引用発明1並びに引用文献1~7の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、進歩性を有するものである。
エ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末の製造方法」を「固形製剤に使用される防風通聖散のエキス末、清心蓮子飲のエキス末、又は茵ちん五苓散のエキス末の製造方法」と特定し、なおかつ、「噴霧乾燥処理に供される原料液の温度」について、「清心蓮子飲の場合は0~30℃、及び茵ちん五苓散の場合は0~30℃である」を「清心蓮子飲の場合は20℃以下、及び茵ちん五苓散の場合は20℃以下である」と特定した発明に相当するものである。
しかしながら、引用発明1の「漢方・生薬エキス末」は、それ自体固形製剤であり、また、錠剤等の他の固形製剤にも使用されるものであることは明らかであるから(要すれば、摘記5a及び5d参照)、「固形製剤に使用される防風通聖散のエキス末、清心蓮子飲のエキス末、又は茵ちん五苓散のエキス末の製造方法」であることの特定により、新たな相違点が生じるとはいえない。
また、噴霧乾燥処理に供される原料液の温度については、上限値を更に低下する特定であるところ、原料液の温度を更に低下させることの動機付けは、引用文献1~7には記載されていないし、明細書等の実施例1に示される効果は前記ア(イ)c及びイ(イ)のとおり、当業者の予測できるものではなく、本件発明2の構成により奏される効果は、当業者の予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。
したがって、本件発明2は、引用発明1並びに引用文献1~7の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、進歩性を有するものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、令和7年2月5日付け取消理由通知書における取消理由1には理由がない。
2 令和6年5月22日付け取消理由通知書における取消理由について
(1)取消理由1(進歩性欠如)について
令和7年2月5日付け取消理由通知書における取消理由1(進歩性欠如)は、令和6年5月22日付け取消理由通知書における取消理由1(進歩性欠如)と、引用文献1~6が共通するものであり、さらに、新たに技術常識を示す文献として引用文献7を引用した拒絶理由である。
前記1で説示したとおり、本件発明1~2は、引用発明1並びに引用文献1~7の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないところ、本件発明1~2は、引用発明1並びに引用文献1~6の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、進歩性を有するものである。
(2)取消理由2(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、この観点に沿って、以下検討する。
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1について
本件発明1は、前記第3で記載したとおりのものである。
(イ)本件発明の課題について
明細書等の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)の【0008】には、「発明が解決しようとする課題」として、「本発明は、上記現状に鑑みて、固形製剤の崩壊性を向上させることができる植物エキス末を製造するための方法を提供する。」と記載されていることから、本件発明の解決しようとする課題は、「固形製剤の崩壊性を向上させることができる植物エキス末を製造するための方法を提供すること」であると認められる。
(ウ)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、以下の事項が示されている。
a (【0037】)
「実施例1
(植物エキス末の製造)
防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散の各原生薬20kg(乾燥重量)にイオン交換水250Lを加え、加熱し、100℃で60分間撹拌抽出した。そして、遠心分離した後、メッシュ(100mesh)でろ過して残渣を除き、抽出液を得た。得られた抽出液を加熱しながら減圧することにより18倍に濃縮し、次いで120℃で10秒間加熱殺菌を行った。加熱殺菌後、抽出液の溶液温度を、シェル&チューブ式冷却機で10分間冷却して20℃にし、続けて、噴霧乾燥(TR-160、プリス社製、140℃)を行い、各植物エキス末を得た。」
b (【0038】)
「(錠剤の作製)
下記に示す配合比率で粉体混合し、200mgを油圧打錠機「テーブルプレスTB-20H」(エヌピーエーシステム社製)を用いて7kNで圧縮成型し、直径8mmの平錠を得た。
<錠剤処方>
植物エキス末 93重量部
軽質無水ケイ酸 4重量部
バレイショデンプン 1.5重量部
カルメロースCa 1重量部
ステアリン酸マグネシウム 0.5重量部」
c (【0039】)
「得られた錠剤について、下記の方法で、崩壊性を評価した。
(崩壊性)
上記で製造した錠剤(6個)について、日本薬局方(第十七改正)記載の崩壊試験法に従って崩壊時間を測定した。錠剤6個のうち、最も崩壊時間の遅い時間を崩壊時間とした。」
d (【0040】)
「実施例2
実施例1において、加熱殺菌後の抽出液の溶液温度を50℃にした以外は、実施例1と同様にして、防風通聖散の植物エキス末を製造し、錠剤を製造して、その錠剤の崩壊性を評価した。」
e (【0041】)
「実施例3
実施例1において、加熱殺菌後の抽出液の溶液温度を60℃にした以外は、実施例1と同様にして、防風通聖散の植物エキス末を製造し、錠剤を製造して、その錠剤の崩壊性を評価した。」
f (【0042】)
「実施例4
実施例1において、加熱殺菌後の抽出液の溶液温度を70℃にした以外は、実施例1と同様にして、防風通聖散の植物エキス末を製造し、錠剤を製造して、その錠剤の崩壊性を評価した。」
g (【0043】)
「比較例1
実施例1において、加熱殺菌後の抽出液の溶液温度を90℃にした以外は、実施例1と同様にして、植物エキス末を製造し、錠剤を製造して、その錠剤の崩壊性を評価した。」
h (【0044】【表1】)
「
[図:0001427908000012.jpg]
」
i (【0045】)
「結果を表1に示す。表1より、噴霧乾燥前の液温が70℃以下であると、得られる植物エキス末を含有する錠剤の崩壊性が良好になることが確認された。」
j (【0046】)
「(溶解分散容易性)
実施例1及び比較例1において製造された防風通聖散のエキス末について、水に対する溶解分散容易性を評価した。具体的には、以下の方法で行った。まず、25℃の精製水200mLをビーカーに投入し、スターラーを入れて300rpmで撹拌した(KPIマイティスターラー、小池精密機器製作所製)。ビーカーの中に、実施例1又は比較例1において製造された防風通聖散のエキス末500mgを投入し、エキス末が水中に均一に溶解・分散するまでの時間を測定した。結果を表2に示す。」
k (【0047】【表2】)
「
[図:0001427908000013.jpg]
」
l (【0048】)
「表2より、噴霧乾燥前の溶液温度が20℃又は70℃と低い温度で得られた実施例1及び実施例4のエキス末の方が、噴霧乾燥前の溶液温度が90℃で得られた比較例1のエキス末よりも、水への溶解・分散が容易になることが確認された。これらの結果から、噴霧乾燥前の溶液温度が70℃以下で製造された植物エキス末は、噴霧乾燥前の溶液温度が90℃で製造された植物エキス末と比べて、水への溶解・分散が容易になるため、固形製剤に適用すると当該固形製剤の崩壊性が良好になると考えられた。」
(エ)当審の判断
a 防風通聖散のエキス末について
発明の詳細な説明の前記a及びbには、防風通聖散の水による抽出により得られる抽出液を濃縮した後、120℃で10秒間加熱殺菌し、20℃に冷却してから続けて噴霧乾燥を行い、防風通聖散について、実施例1のエキス末を得たこと、当該エキス末を所定の錠剤処方により錠剤を製造したことが記載されている。また、発明の詳細な説明の前記d~gでは、防風通聖散について、冷却温度をそれぞれ50℃、60℃、70℃及び90℃とした以外は実施例1と同様の方法により、防風通聖散の実施例2、実施例3、実施例4及び比較例1のエキス末を得たこと、実施例1と同様に、当該エキス末を含む錠剤を製造したことが記載されている。
そして、発明の詳細な説明の前記c、g及びhには、実施例1~4及び比較例1の錠剤について、所定の手法により崩壊性を評価したところ、実施例1~4の錠剤は、比較例1の錠剤に比べて、崩壊性が向上していることが記載され、発明の詳細な説明の前記j~lには、実施例1及び4並びに比較例1のエキス末について、所定の手法により水に対する溶解分散容易性を評価したところ、実施例1及び4のエキス末は、比較例1のエキス末に比べて、溶解・分散するまでの時間が短いこと、及び、エキス末の水への溶解・分散が容易になるため、固形製剤に適用すると当該固形製剤の崩壊性が溶解になると考えられたことが記載されている。
そうすると、防風通聖散について、冷却温度が90℃という高い温度である場合に比して、冷却温度を50℃以下の温度範囲とした場合には、固形製剤の崩壊性を向上させることができる植物エキス末を製造するための方法を提供することができると認識できる。
b 清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末について
発明の詳細な説明の前記a及びbには、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散の水による抽出により得られる各抽出液を濃縮した後、120℃で10秒間加熱殺菌し、20℃に冷却してから続けて噴霧乾燥を行い、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のそれぞれについて、実施例1のエキス末を得たこと、当該エキス末を所定の錠剤処方により錠剤を製造したことが記載されている。また、発明の詳細な説明の前記gには、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散について、冷却温度を90℃とした以外は実施例1と同様の方法により、比較例1のエキス末を得たこと、実施例1と同様に、当該エキス末を含む錠剤を製造したことが記載され、発明の詳細な説明の前記c、g及びhには、実施例1及び比較例1の錠剤について、所定の手法により崩壊性を評価したところ、実施例1の錠剤は、比較例1の錠剤に比べて、崩壊性が向上していることが示されている。
そうすると、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散について、冷却温度が90℃という高い温度である場合に比して、冷却温度が20℃である場合、及び、近似する30℃という温度を上限にした温度範囲とした場合には、固形製剤の崩壊性を向上させることができる植物エキス末を製造するための方法を提供することができると認識できる。
(オ)小括
以上より、本件発明1が、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記(イ)の発明の課題を解決できると認識できるといえるから、本件発明1は、サポート要件を充足する。
ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末の製造方法」を「固形製剤に使用される防風通聖散のエキス末、清心蓮子飲のエキス末、又は茵ちん五苓散のエキス末の製造方法」と特定し、なおかつ、「噴霧乾燥処理に供される原料液の温度」について、「清心蓮子飲の場合は0~30℃、及び茵ちん五苓散の場合は0~30℃である」を「清心蓮子飲の場合は20℃以下、及び茵ちん五苓散の場合は20℃以下である」と特定した発明に相当するものであるところ、前記イ(エ)において説示した理由と同様の理由から、本件発明2が、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記(イ)の発明の課題を解決できると認識できるといえる。
よって、本件発明2に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件を充足する。
(3)小括
以上のとおりであるから、令和6年5月22日付け取消理由通知書における取消理由1及び2には、理由がない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立理由1~7についての判断
1 甲号証の記載
(1)甲A1
甲A1には、「アスパラリネアを熱水抽出した後に冷却濾過、減圧濃縮し、90℃で15分間加熱殺菌して得られる濃縮液と、デキストリン水溶液を混合し、90℃で15分間加熱殺菌して冷却した後、スプレードライにより噴霧乾燥し、アスパラリネア粉末を製造する方法」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる(【0008】、【0011】)。
(2)甲A2
甲A2には、摘記2aの事項が記載されていると認められる。
(3)甲A3
甲A3には、以下の事項が記載されていると認められる。
ア (【請求項1】)
「【請求項1】
茶樹茸を常圧下90℃以上の熱水で1時間~1.2時間かけてエキスを抽出し、濾固液分離後に55℃以下で減圧濃縮を行って固形分30%以下に調整し、この濃縮液を加熱殺菌して、その後噴霧して乾燥することを特徴とする茶樹茸エキス粉末の製造方法。」
イ (【0016】)
「【0016】
第4工程において、濃縮液の濃度を固形分30%以下に調整する。このとき糖度を調整し、賦形剤を加えてもよい。第5工程では、第4工程で得られた濃縮液を殺菌する。常圧下温度100℃で20分の殺菌を行う。殺菌の間に成分の劣化が進むことはない。第6工程で殺菌後の液の冷却を行う。70℃まで冷却する。第7工程において、スプレードライヤによって噴霧乾燥を行う。入口温度160℃、出口温度90℃の熱風ガスの中に、9000rpmの遠心回転式アトマイザから70℃の殺菌後のエキス溶液を噴霧する。これによって2秒~10秒程度の熱風ガスとの熱交換により微細粉末化する。粒度調整はアトマイザで行えるが、ノズルを選択して調整できる。第8工程においては、得られた粉末を均一混合するためナウターミキサに導入する。」
(4)甲B1
甲B1には、摘記1a~1gの事項、及び、前記第5の1(1)クに示した引用発明1が記載されていると認められる。
(5)甲B2
甲B2には、摘記3a~3cの事項が記載されていると認められる。
(6)甲B3
甲B3は、甲A3と同じであり、B3には、前記(3)に記載の発明が記載されていると認められる。
(7)甲B4の1
甲B4の1には、摘記7a~7cの事項が記載されていると認められる。
(8)甲B5
甲B5には、本件出願日当時の技術常識として、防風通聖散を構成する生薬が記載されていると認められる(【請求項1】、【0027】及び【0028】)。
(9)甲B6
甲B6には、本件出願日当時の技術常識として、漢方薬は植物や鉱物、動物を由来とする生薬を複数組み合わせたものであることが記載されていると認められる(「漢方薬は、自然のものでできている」と題する欄)。
(10)甲B7
甲B7には、本件出願日当時の技術常識として、防風通聖散を構成する生薬であるダイオウにセンノシドAやセンノシドBが含まれることが記載されていると認められる(【0013】、【0014】及び【0023】)。
(11)甲B8
甲B8には、本件出願日当時の技術常識として、清心蓮子飲を構成する生薬が記載されていると認められる(【組成・性状】と題する表の「組成」の欄)。
(12)甲B9
甲B9には、本件出願日当時の技術常識として、茵ちん五苓散を構成する生薬が記載されていると認められる(【組成・性状】と題する表の「組成」の欄)。
(13)甲C1
甲C1には、「防風通聖散の水抽出液を、減圧下濃縮した後、スプレードライを用いて乾燥し、防風通聖散のエキス末を製造する方法」の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる(【0049】)。
(14)甲C2
甲C2には、摘記1a~1gの事項、及び、前記第5の1(1)クに示した引用発明1が記載されていると認められる。
(15)甲C3
甲C3には、摘記5a~5eの事項が記載されていると認められる。
(16)甲C4
甲C4には、以下の事項が記載されていると認められる(369頁の表15-14)。
「
[図:0001427908000014.jpg]
」
(17)甲C5
甲C5には、摘記4a~4bの事項が記載されていると認められる。
(18)甲C6
甲C6には、摘記7a~7cの事項が記載されていると認められる。
(19)甲C7
甲C7は、本願出願日後に公開された特許文献であるところ、以下の事項が記載されていると認められる。
ア (【0002】~【0003】)
「【0002】
錠剤などの固形製剤では、服用後に一定時間で崩壊して、有効成分の効果・効能を奏することが一般に求められる。しかし、漢方エキスを含む固形製剤では、漢方エキスの配合割合が増加するのに伴って、その崩壊時間が延長することが知られている。例えば漢方エキス含有錠剤の場合、錠剤の硬度と崩壊性を考慮して処方を設計すると、錠剤が大型化して服用性に問題が生じる。反対に、服用性を考慮して大型化しないように錠剤の処方を設計すると、1錠当たりの漢方エキス含有量が増加するので、崩壊時間が著しく延長するという問題が生じる。
【0003】
このような問題を解決するため、医薬品添加物を用いた製剤技術的アプローチによって、漢方エキス含有固形製剤の崩壊性を向上させる様々な取り組みがなされている。例えば特許文献1には、漢方エキスを含有する混合末と、軽質無水ケイ酸及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとを混合したものを圧縮成型した後、破砕して得られた顆粒に軽質無水ケイ酸をさらに混合して圧縮成型することで、崩壊時間の遅延が抑制された錠剤が得られることが記載されている。特許文献2には、所定の範囲内の粉体物性を有するセルロース粉末を造粒賦形剤として用いることで、崩壊時間の短い錠剤が得られることが記載されている。」
イ (【0006】)
「【0006】
漢方エキスは種々の生薬の抽出物であるところ、本発明者らは、漢方エキスには、植物性生薬に由来するα化デンプンが含まれることに着目した。α化デンプンとは、デンプンを水中で加熱することにより得られる、立体構造が変化したデンプンである。デンプンは通常の状態では水にほとんど溶けない物質であるが、水中で加熱すると、α化デンプンとなって水中に溶出する。α化デンプンが溶解した水は、糊液と呼ばれる粘性のある溶液となる。漢方エキスの抽出工程では、適切な大きさに裁断した各種の生薬を処方に従って一定量ずつ量り、それらの全量に水などの水性溶媒を加えて一定時間加熱して抽出する。そのため、植物性生薬に含まれるデンプンが熱と水分によってα化され、α化デンプンが植物性生薬の有効成分とともに抽出される。」
(20)甲C8
甲C8には、以下の事項が記載されていると認められる。文中の「・・・」は記載の省略を意味する。
ア (8頁右欄13~18行)
「・・・デンプン糊の性質については既に研究4)されており、デンプン糊液温度と打錠用顆粒の錠剤特性との関係から、錠剤硬度はデンプン糊液温度と比例的に上昇し、一方崩壊時間はある臨界点(75~80℃)から急激に遅延することがわかっていた。・・・」
(21)甲C9
甲C9には、以下の事項が記載されていると認められる。
ア (515頁の図2)
「
[図:0001427908000015.jpg]
(当審合議体注:
「Fig. 2. Effect of Cooking Temperature of Starch Paste on the Properties of the Resulting Lactose Tablets」の訳は「図2 得られたラクトース錠剤の特性に対するデンプンペーストの調理温度の影響」、
「(a): cornstarch 3% (b): potato starch 3%」の訳は「(a):コーンスターチ3%、(b):ポテトスターチ3%」)」
(22)甲C10
甲C10には、摘記6a~6dの事項が記載されていると認められる。
2 申立理由A(進歩性欠如)について
申立理由Aは、本件訂正前の請求項1~2に係る発明について、甲A1を主引例として、甲A1~3から進歩性を有しないとするものである。
(1)本件発明1について
ア 対比
引用発明2については、前記1(1)で認定したとおりであるところ、本件発明1と引用発明2を対比すると、次の点で一致及び相違する。
<一致点>
「植物を含む原料を抽出処理した後に濃縮することにより得られた原料液を60℃以上且つ180分以下の条件で加熱処理後に冷却した後に、噴霧乾燥処理に供する工程を有する植物を含むエキス末の製造方法。」
<相違点3-1>
植物を含む原料、及び製造する目的物であるエキス末について、本件発明1においては「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」及び「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末」と特定されているのに対し、引用発明2においては、「アスパラリネア」及び「アスパラリネア粉末」と特定されている点。
<相違点3-2>
本件発明1においては、噴霧乾燥処理に供される原料液の温度について、「防風通聖散の場合は50℃以下、清心蓮子飲の場合は0~30℃、及び茵ちん五苓散の場合は0~30℃である」ことが特定されているのに対し、引用発明2においてそのような特定はされていない点。
イ 判断
引用発明2は、甲A1の「課題を解決するための手段」に記載されるとおり、「優れた効能を有するアスパラリネアを容易に摂取できる健康飲料、及び食材や食品添加剤として使い易く加工した粉末を提供する」こと(【0005】)を解決すべくなされた発明であって、甲A1には、植物エキス末を含有する錠剤等の固形製剤の崩壊性について何ら開示も示唆もない。したがって、甲A1~3に開示される事項を考慮しても、引用発明2において、「アスパラリネア粉末」に代えて、吸湿性が高く、固形製剤とした際の崩壊性の向上が求められる漢方エキス末のうち、特に「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末」を採用すること、及び、その際の、噴霧乾燥処理に供される原料液の温度を決定して、相違点3-1~3-2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。ましてや、甲A1~3のいずれにも、「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」についてのエキス末を用いて評価された明細書等の表1、表2に示された効果を推認するに足りる記載はないといえ、本件発明1の構成により奏される効果は、当業者の予測し得ない格別顕著な効果であるといえる。
ウ 異議申立人Aの主張について
異議申立人Aは、特許異議申立書において、本件発明1に特定される「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」を選択することについて主張しておらず、本件発明1~2の進歩性を否定することはできない。
エ 小括
本件発明1について、甲A1~3から進歩性を有しないと判断することはできない。
(2)本件発明2について
前記(1)と同様の理由により、本件発明2について、甲A1~3から進歩性を有しないと判断することはできない。
(3)小括
よって、申立理由Aは、理由がない。
3 申立理由B1(進歩性欠如)について
申立理由B1は、本件訂正前の請求項1~2に係る発明について、甲B1を主引例として、甲B1~9から進歩性を有しないとするものである。
(1)判断
前記第5の1(2)で説示したとおり、本件発明1~2について、引用文献1(甲B1)を主引例として、引用文献1~7及び本件特許の出願時の技術常識から進歩性を有しないとはいえないところ、甲B1~9の記載事項を検討してもなお、進歩性を有しないと結論付けるに足りる根拠を見いだせない。
(2)異議申立人Bの主張について
異議申立人Bは、特許異議申立書において、本件訂正前の請求項1~2に係る発明の効果について「この表1を参照すると、防風通聖散、清心蓮子飲及び茵ちん五苓散の各錠剤の崩壊性は、噴霧乾燥前の液温を20℃としたとき(実施例1)は、当該液温を90℃としたとき(比較例1)に比べて8~11分短縮しており、噴霧乾燥処理に供する原料液の溶液温度を20℃にすることにより、錠剤の崩壊性が向上したように見受けられる。」と説明しており、実施例1の効果を認めた上で、防風通聖散、清心蓮子飲及び茵ちん五苓散以外の植物を含む漢方又は植物由来の生薬のすべてについて顕著な効果を認められないこと、液温を50℃とした実施例2についても顕著な効果を認められないことを主張する。
しかしながら、本件発明1は、本件訂正により、本件訂正前の「植物を含む漢方又は植物由来の生薬」は「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」に限定されているところ、「清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」については、噴霧乾燥処理に供される原料液の温度が「0~30℃」に限定されているから、まず、本件発明1のうち、「清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」については、明細書等の実施例1には、顕著な効果が示されているといえる。
次に、本件発明1のうち、「防風通聖散」に関して、噴霧乾燥処理に供される原料液の温度が「50℃」である場合について検討すると、前記第5の1(2)ア(イ)cで説示したとおり、明細書等の表2に示された結果から、顕著な効果を奏していると認められる。異議申立人Bは専ら表1に焦点を当てて顕著な効果が認められない旨を説明するものの、本件発明の構成を備える製造方法により製造された防風通聖散のエキス末の溶解分散容易性に係る表2に示される対比結果については言及がないから、異議申立人Bの主張を採用することはできない。
また、令和6年8月30日付けの異議申立人Bによる上申書における主張をみても、本件発明1~2が、甲B1~9から進歩性を有しないと判断するに足りる根拠を見いだせない。
(3)小括
よって、本件発明1~2について、甲B1~9から進歩性を有しないと判断することはできないから、申立理由B1は、理由がない。
4 申立理由B2(サポート要件違反)について
申立理由B2は、本件訂正前の請求項1~2に係る発明について、サポート要件を充足しないとするものである。
(1)判断
前記第5の2(2)において説示したとおり、本件発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記第5の2(2)イ(イ)の発明の課題を解決できると認識できるといえる。
(2)異議申立人Bの主張について
ア 異議申立人Bは、特許異議申立書において、「植物原材料から成分を抽出及び濃縮して得られた原料液を加熱殺菌した後、当該原料液を高温に維持したまま噴霧乾燥して製造された植物エキス末」を製造したことが記載されておらず、原料液を高温に維持したまま噴霧乾燥する比較例が示されていないから、サポート要件を充足しない旨主張する。
しかしながら、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解されるところ、比較例がないことのみをもって直ちにサポート要件を充足しないことにはならない。そして、前記第5の2(2)において説示したとおり、発明の詳細な説明には、本件発明の構成を備え、原料液を加熱処理後に、所定の温度に冷却して噴霧乾燥処理に供することにより得られた植物エキス末が、「固形製剤の崩壊性を向上させることができる植物エキス末を製造するための方法を提供すること」という課題(前記第5の2(2)イ(イ))を解決できることを、実施例の結果をもって示しているから、異議申立人Bによる主張を採用することはできない。
イ 異議申立人Bは、特許異議申立書において、「植物を含む漢方又は植物由来の生薬」を特定する本件訂正前の請求項1~2に係る発明について、漢方及び生薬として多種多様なものが存在するところ、実施例として開示された植物を含む漢方は、実施例1における防風通聖散、清心蓮子飲、及び茵ちん五苓散の3例だけであり、「植物を含む漢方又は植物由来の生薬」の全範囲にわたって、課題を解決し目的を達成できることを裏付けているとはいうことができない旨主張する。
しかしながら、訂正により、「植物を含む漢方又は植物由来の生薬」は、明細書等において実施例により裏付けられる「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」に限定されているから、異議申立人Bによる主張を採用することはできない。
ウ また、令和6年8月30日付けの異議申立人Bによる上申書における主張をみても、本件発明1~2が、サポート要件を充足しないと判断するに足りる根拠を見いだせない。
(3)小括
よって、本件発明1~2は、サポート要件を充足するから、申立理由B2は、理由がない。
5 申立理由B3(明確性要件違反)について
申立理由B3は、本件訂正前の請求項1~2に係る発明について、本件訂正前の請求項1におけるいわゆる除くクレームに起因して特許請求の範囲が不明確であるとするものである。
しかしながら、本件発明1~2は、本件訂正によって当該除くクレームの記載を含まないものに訂正されたため、申立理由B3は妥当しないものとなった。
よって、申立理由B3は、理由がない。
6 申立理由C1(進歩性欠如)について
申立理由C1は、本件訂正前の請求項1~2に係る発明について、甲C1を主引例として、甲C1~9から進歩性を有しないとするものである。
(1)本件発明1-1について
ア 対比
引用発明3については、前記1(13)で認定したとおりであるところ、本件発明1-1と引用発明3を対比すると、次の点で一致及び相違する。
<一致点>
「防風通聖散を抽出処理した後に濃縮することにより得られた原料液を、噴霧乾燥処理に供する工程を有する防風通聖散のエキス末の製造方法。」
<相違点4-1>
本件発明1は、原料液を「60℃以上且つ180分以下の条件での加熱処理」することが特定されているのに対し、引用発明3はそのように特定されていない点。
<相違点4-2>
噴霧乾燥処理に供される原料液の温度が、本件発明1は「50℃以下」であることが特定されているのに対し、引用発明3はそのように特定されていない点。
イ 判断
引用発明3は、甲C1の【0006】にあるとおり、「防風通聖散特有の不快な風味が低減されて、服用感が改善されてなる防風通聖酸配合製剤を提供することを目的」としてなされた発明であって、【0017】~【0018】にエキス末の製造方法につき、減圧下に濃縮し、スプレードライ法により乾燥エキス末とすることについての記載はあるものの、防風通聖散配合製剤の形態としては、【0027】のとおり、「経口投与形態であれば限定されず、液剤(シロップ等を含む)等の液状製剤(懸濁剤含む)や、錠剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)等の固形製剤のいずれでもよい。」とされており、固形剤に係る他の記載(【0029】)を参照しても、これらの記載から、防風通聖散を固形製剤とした場合の崩壊性に係る課題について読み取ることはできず、まして、防風通聖散を固形製剤とした場合の崩壊性と、噴霧乾燥処理に供される原材料の温度の関係について、甲C1には記載も示唆もない。この点は、甲C2~9を参照しても同様である。
したがって、上記相違点4-1及び4-2について、本願出願日当時の技術常識(甲C2、C3、C5)を参照しても当業者が容易に想到し得たものではない。そして、その効果も、前記第5の1(2)ア(イ)cで説示した理由と同様の理由から、甲C1~9に基づいて、明細書等の表2に示された結果を予測することはできない。
ウ 異議申立人Cの主張
異議申立人Cは、異議申立書において、甲C7の記載に基づいて、明細書等に示された噴霧乾燥時の原料液温度と、製造されるエキス末を含む錠剤の崩壊性との関係について予測可能である旨主張する。
しかしながら、甲C7は、本願出願日後に公開された特許文献であり、当該文献に示されたメカニズムが、本願出願日当時に知られていたメカニズムであるということはできないから、当該文献の記載に基づいて、明細書等に示された効果が予測可能であるということはできず、異議申立人Cの主張を採用することはできない。
また、令和6年9月6日付けの異議申立人Cによる上申書における主張をみても、本件発明1~2が、甲C1~9から進歩性を有しないと判断するに足りる根拠を見いだせない。
エ 小括
本件発明1-1について、甲C1~9から進歩性を有しないと判断することはできない。
(2)本件発明1-2について
ア 対比
引用発明3については、前記1(13)に説示したとおりであるところ、本件発明1-2と引用発明3を対比すると、次の点で一致及び相違する。
<一致点>
「植物を含む漢方を抽出処理した後に濃縮することにより得られた原料液を、噴霧乾燥処理に供する工程を有する植物を含む漢方のエキス末の製造方法。」
<相違点5-1>
植物を含む漢方、及び製造する目的物であるエキス末について、本件発明1においては「清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」及び「清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末」と特定されているのに対し、引用発明3においては、「防風通聖散」及び「防風通聖散のエキス末」と特定されている点。
<相違点5-2>
本件発明1は、原料液を「60℃以上且つ180分以下の条件での加熱処理」することが特定されているのに対し、引用発明3はそのように特定されていない点。
<相違点5-3>
噴霧乾燥処理に供される原料液の温度が、本件発明1は「0~30℃」であることが特定されているのに対し、引用発明3はそのように特定されていない点。
イ 判断
相違点5-1~5-3に関して、甲C1~9には、少なくとも「清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散」に係る記載がないし、前記第5の1(2)ア(イ)cで説示した理由と同様の理由から、甲C1~9に基づいて、明細書等の表1に示された結果を予測することはできない。
ウ 小括
本件発明1-2について、甲C1~9から進歩性を有しないと判断することはできない。
(3)本件発明2について
前記(1)及び(2)と同様の理由により、本件発明2について、甲C1~9から進歩性を有しないと判断することはできない。
(4)小括
よって、申立理由C1は、理由がない。
7 申立理由C2(実施可能要件違反)について
申立理由C2は、発明の詳細な説明の記載が、本件訂正前の請求項1~2に係る発明について、実施可能要件を充足しないとするものである。
(1)物の製造方法の発明に関する実施可能要件の判断基準
発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たすためには、発明の詳細な説明は、請求項に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていなければならない。
前記第3のとおり、本件発明1~2は「防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散のエキス末の製造方法」に係る「物の製造方法の発明」であるところ、「物の製造方法の発明」について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえるためには、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基いて、過度の試行錯誤を要することなく、請求項に係る発明の物を製造できるように記載されていることが必要である。
そこで、この観点に沿って、以下検討する。
(2)判断
発明の詳細な説明には、防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散の水による抽出により得られる抽出液を濃縮した後、120℃で10秒間加熱殺菌し、20℃又は50℃に冷却してから続けて噴霧乾燥を行い、それぞれエキス末を製造できたことが具体的な実施例を伴って記載されているから(前記第5の2(2)イ(ウ))、本件発明1~2に関して、過度の試行錯誤を要することなくエキス末を製造できることが発明の詳細な説明に記載されているといえる。
(3)異議申立人Cの主張について
異議申立人Cは、特許異議申立書において、本件訂正前の請求項1~2に係る発明について、発明の詳細な説明にはいかなる作用機序により崩壊性改善効果が得られるのかについての記載は一切ないところ、漢方・生薬エキス末を含有する錠剤の崩壊性は、漢方・生薬エキスの種類と製造工程中の溶液温度に影響されることに照らせば、実施例1で用いられた漢方以外の漢方・生薬エキスを原料とする場合や、噴霧乾燥に供される原料液の液温が20℃以外の場合でも、明細書等の実施例1と同様の効果が得られるとは、当業者には理解できないから、実施可能要件を充足しない旨主張する。
しかしながら、本件発明1~2は、訂正により、漢方の種類、及び、噴霧乾燥に供される原料液の液温が特定され、明細書等の実施例により裏付けられる範囲に限定されたため、異議申立人Cの主張を採用することはできない。
(4)小括
よって、本件発明1~2は、実施可能要件を充足するから、申立理由C2は、理由がない。
8 申立理由C3(サポート要件違反)について
申立理由C3は、本件訂正前の請求項1~2に係る発明について、サポート要件を充足しないとするものである。
(1)判断
前記第5の2(2)において説示したとおり、本件発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記第5の2(2)イ(イ)の発明の課題を解決できると認識できるといえる。
(2)異議申立人Cの主張について
異議申立人Cは、異議申立書において、明細書等の実施例1~4、比較例1の結果からは、防風通聖散以外の漢方・生薬エキスを原料とする場合や、噴霧乾燥に供される原料液の液温が20℃以外の場合でも、実施例1と同様の効果が得られるとは、当業者には理解できない旨主張する。
しかしながら、本件発明1~2は、訂正により、漢方の種類、及び、噴霧乾燥に供される原料液の液温が特定され、明細書等の実施例により裏付けられる範囲に限定されたため、異議申立人Cの主張を採用することはできない。
また、令和6年9月6日付けの異議申立人Cによる上申書における主張をみても、本件発明1~2が、サポート要件を充足しないと判断するに足りる根拠を見いだせない。
(3)小括
よって、本件発明1~2は、サポート要件を充足するから、申立理由C3は、理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書で通知された取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によって、本件訂正後の請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701140