特許異議申立
2021-700997
カーボンナノチューブ分散液、それを用いた二次電池電極用組成物、電極膜、および二次電池。
- 審判番号
- 2021-700997
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-205488外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6860740
- 請求日
- 2021年10月15日
- 審決日
- 2022年10月04日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東洋インキSCホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【異議申立人】高橋 和秀
- 【異議申立人】小松 一枝
- 【異議申立人】前田 知子
- 分類
- P1651.537-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6860740号発明「カーボンナノチューブ分散液、それを用いた二次電池電極用組成物、電極膜、および二次電池。」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6860740号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。
特許第6860740号の請求項1ないし3、5ないし14に係る特許を維持する。
特許第6860740号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6860740号の請求項1~14に係る特許についての出願は、令和2年12月11日(優先権主張 同年4月27日 日本国)を出願日とする出願であり、令和3年3月30日にその特許権の設定登録がされ、同年4月21日に特許掲載公報が発行され、その後、同年10月15日に、その請求項1~14に係る特許を対象として特許異議申立人高橋和秀(以下、「異議申立人1」という。)により、同年同月20日に、その請求項1~14に係る特許を対象として特許異議申立人小松一枝 外1名(以下、「異議申立人2」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがなされ、令和4年2月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年3月8日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、同年4月13日に異議申立人1より、同年同月18日に異議申立人2より、それぞれ意見書の提出がなされ、同年6月7日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年7月27日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があったものである。
なお、令和4年3月8日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「先の訂正」ということがある。)は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正事項
上記令和4年7月27日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、本件明細書及び特許請求の範囲を、それぞれ、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)」とあるのを、「前記カーボンナノチューブ分散液の、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%~5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)」に訂正する。
(請求項1を直接または間接的に引用する請求項2~3、5~14についても同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「積(X×Y)が100以上1,500以下である、カーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「積(X×Y)が100以上1,500以下であり、複素弾性率が100Pa未満、位相角が15°以上である、カーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項1を直接または間接的に引用する請求項2~3、5~14についても同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「請求項1~3いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項5を直接または間接的に引用する請求項6~14についても同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「請求項1~3、5いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項6を直接または間接的に引用する請求項7~14についても同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「請求項1~3、5~6いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項7を直接または間接的に引用する請求項8~14についても同様に訂正する。)
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「請求項1~3、5~7いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項8を直接または間接的に引用する請求項9~14についても同様に訂正する。)
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「請求項1~3、5~8いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項9を直接または間接的に引用する請求項10~14についても同様に訂正する。)
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1~9いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「請求項1~3、5~9いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項10を直接または間接的に引用する請求項11~14についても同様に訂正する。)
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1~10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液」とあるのを、「請求項1~3、5~10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液」に訂正する。
(請求項11を直接または間接的に引用する請求項12、13についても同様に訂正する。)
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項14に「請求項1~10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液」とあるのを、「請求項1~3、5~10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液」に訂正する。
(12)訂正事項12
明細書の【0083】に「なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。」とあるのを、「なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。以下の記載において、表3、表5、表6、表7、及び表8に示したとおり、実施例1-A18、1-A21、1-A22、1-D1~1-D3;実施例2-A18、2-A21、2-A22、2-D1~2-D3;実施例3-A18、3-A21、3-A22、3-D1~3-D3;実施例4-A18、4-A21、4-A22、4-D1~4-D3;及び実施例5-A18、5-A21、5-A22、5-D1~5-D3はいずれも、参考例である。」に訂正する。
(13)訂正事項13
ア 訂正事項13-1
明細書の【0123】【表3】に「実施例1-A18」、「実施例1-A21」、「実施例1-A22」、「実施例1-D1」、「実施例1-D2」、及び「実施例1-D3」とあるのを、それぞれ「参考例1-A18」、「参考例1-A21」、「参考例1-A22」、「参考例1-D1」、「参考例1-D2」、及び「参考例1-D3」に訂正する。
イ 訂正事項13-2
明細書の【0131】【表5】に「実施例2-A18」、「実施例2-A21」、「実施例2-A22」、「実施例2-D1」、「実施例2-D2」、及び「実施例2-D3」とあるのを、それぞれ「参考例2-A18」、「参考例2-A21」、「参考例2-A22」、「参考例2-D1」、「参考例2-D2」、及び「参考例2-D3」に訂正する。
ウ 訂正事項13-3
明細書の【0139】【表6】に「実施例3-A18」、「実施例3-A21」、「実施例3-A22」、「実施例3-D1」、「実施例3-D2」、及び「実施例3-D3」とあるのを、それぞれ「参考例3-A18」、「参考例3-A21」、「参考例3-A22」、「参考例3-D1」、「参考例3-D2」、及び「参考例3-D3」に訂正する。
エ 訂正事項13-4
明細書の【0148】【表7】に「実施例4-A18」、「実施例4-A21」、「実施例4-A22」、「実施例4-D1」、「実施例4-D2」、及び「実施例4-D3」とあるのを、それぞれ「参考例4-A18」、「参考例4-A21」、「参考例4-A22」、「参考例4-D1」、「参考例4-D2」、及び「参考例4-D3」に訂正する。
オ 訂正事項13-5
明細書の【0149】【表8】に「実施例5-A18」、「実施例5-A21」、「実施例5-A22」、「実施例5-D1」、「実施例5-D2」、及び「実施例5-D3」とあるのを、それぞれ「参考例5-A18」、「参考例5-A21」、「参考例5-A22」、「参考例5-D1」、「参考例5-D2」、及び「参考例5-D3」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正前の請求項1の「前記カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下である」との記載では、測定の際の温度、周波数及びひずみ率の条件によって変わり得る「複素弾性率X」及び「位相角Y」についてそれらの測定条件が特定されておらず、「複素弾性率X」及び「位相角Y」の積(X×Y)の範囲が一意に定まらず不明確であったところ、訂正事項1は、測定条件である温度、周波数及びひずみ率の条件を特定するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 訂正事項1は、本件明細書の【0097】の「(CNT分散液の複素弾性率及び位相角の測定)
CNT分散液の複素弾性率X及び位相角Yは、直径35mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher Scientific株式会社製RheoStress1回転式レオメーター)を用い、25℃、周波数1Hzにて、ひずみ率0.01%から5%の範囲で動的粘弾性測定を実施することで評価した。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項1は、上記アで述べたとおり、明瞭でない記載を釈明するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項1のカーボンナノチューブ分散液の複素弾性率及び位相角の範囲をそれぞれ、100Pa未満及び15°以上の範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項2は、本件明細書の【0097】の「複素弾性率 判定基準
◎:10Pa未満(最良)
○:10Pa以上20Pa未満(優良)
△:20Pa以上50Pa未満(良)
△-:50Pa以上100Pa未満(可)
×:100Pa以上(不良)
位相角 判定基準
◎:45°以上(最良)
○:30°以上45°未満(優良)
△:19°以上30°未満(良)
△-:15°以上19°未満(可)
×:15°未満(不良)」との記載において、可の範囲とされている、複素弾性率については上限の値の記載に、位相角については下限の値の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項2は、訂正前の請求項1のカーボンナノチューブ分散液の複素弾性率及び位相角の範囲を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4~11について
訂正事項4~11は、訂正前の請求項5~11、14について、それぞれ引用する請求項の記載に請求項4が含まれていたところ、訂正事項3の訂正により請求項4が削除されたことに伴い、これに整合させるため引用する請求項から請求項4を削除し、引用請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項4~11は、それぞれ訂正前の請求項5~11、14が引用していた請求項の数を減少させるもので、訂正後の請求項5~11、14の内容は、それぞれ訂正前の請求項5~11、14の範囲内のものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項12、13について
訂正事項12は、上記訂正事項2において、カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率及び位相角の範囲がそれぞれ、100Pa未満及び15°以上の範囲に限定されたことに伴い、訂正後の請求項1に係る発明等の態様ではなくなった実施例が参考例であることを明らかにするものであると共に、訂正事項13(訂正事項13-1~13-5)は、訂正後の請求項1に係る発明等の態様ではなくなった実施例を参考例とし、訂正後の特許請求の範囲の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第4項及び同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1ないし14〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1ないし14〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし14に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、
前記カルボキシメチルセルロースまたはその塩が、重量平均分子量が1万~10万、エーテル化度が0.5~0.9であり、
前記カーボンナノチューブ分散液の、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%~5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下であり、
複素弾性率が100Pa未満、位相角が15°以上である、
カーボンナノチューブ分散液
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの酸性基量が0.1~0.8μmol/m2である、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの酸性基量が40~500μmol/gである、請求項1または2記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
カーボンナノチューブが、平均外径が0.5nm以上5nm未満の第一のカーボンナノチューブと、平均外径が5nm以上20nm以下の第二のカーボンナノチューブとを含み、第一のカーボンナノチューブと第二のカーボンナノチューブの質量比率が1:10~1:100である、請求項1~3いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
さらに、ポリアクリル酸を含む、請求項1~3、5いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
メジアン径が0.5μm以上2.0μm以下である、請求項1~3、5~6いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項8】
分散液のTI値が2.0~5.0である、請求項1~3、5~7いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項9】
カーボンナノチューブ分散液の塗膜が、60°で測定した光沢が5~120である、請求項1~3、5~8いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項10】
pHが7.0~10.5である、請求項1~3、5~9いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項11】
請求項1~3、5~10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液を含む、二次電池電極用組成物。
【請求項12】
請求項11記載の二次電池電極用組成物の塗工膜を含む、電極膜。
【請求項13】
請求項12記載の電極膜を含む、二次電池。
【請求項14】
下記(1)および(2)の工程を順次行うことを特徴とする、請求項1~3、5~10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
(1)高圧ホモジナイザーを用いて、60~120MPaの圧力で分散し、メジアン径を4.0μm以下にする工程
(2)ビーズミルを用いて、位相角が、40°以上になるまで分散する工程」
第4 令和4年6月7日付けで通知した取消理由(決定の予告)、この取消理由(決定の予告)で通知しなかった同年2月1日付けで通知した取消理由、及びこれら取消理由において採用しなかった異議申立人1、2による特許異議の申立理由の概要
1 令和4年6月7日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
・特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
本件特許は、先の訂正後の特許請求の範囲の記載が後記第5の1(1)の点で不備のため、特許法第36条6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(取消理由1)。
2 令和4年6月7日付けで通知した取消理由(決定の予告)で通知しなかった令和4年2月1日付けで通知した取消理由の概要
・特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)
本件特許は、設定登録時の特許請求の範囲の記載が後記第5の2(1)の点で不備のため、特許法第36条6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(取消理由2)。
3 各取消理由において採用しなかった異議申立人1による特許異議の申立理由の概要
・特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
(1)設定登録時の請求項1~4、7~14に係る発明は、後記4に記載の甲第1-1号証に記載された発明及び同甲第1-1号証~甲第1-4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立理由1)。
(2)設定登録時の請求項1~14に係る発明は、後記4に記載の甲第1-5号証に記載された発明及び同甲第1-2号証~甲第1-5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立理由2)。
(3)設定登録時の請求項1~14に係る発明は、後記4に記載の甲第1-6号証に記載された発明及び同甲第1-2号証~甲第1-6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立理由3)。
4 各取消理由において採用しなかった異議申立人2による特許異議の申立理由の概要
・特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~14に係る発明は、下記甲第2-1号証に記載された発明及び下記甲第2-1号証~甲2-6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立理由4)。
記
甲第1-1号証:特開2016-28109号公報
甲第1-2号証:特表2018-534731号公報
甲第1-3号証:特表2018-533175号公報
甲第1-4号証:特開2019-192537号公報
甲第1-5号証:国際公開第2014/002885号
甲第1-6号証:特開2016-204203号公報
甲第2-1号証:国際公開第2014/002885号(甲第1-5号証)
甲第2-2号証:特表2018-533175号公報(甲第1-3号証)
甲第2-3号証:特表2018-534731号公報(甲第1-2号証)
甲第2-4号証:特表2017-502459号公報
甲第2-5号証:特開2016-28109号公報(甲第1-1号証)
甲第2-6号証:特開2013-186034号公報
なお、異議申立人2は、特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(当審の取消理由2として採用)を立証するための証拠方法として、次の文書も提出している。
甲第2-7号証:菰田悦之、「粒子分散液塗布膜の乾燥に伴う粒子充填過程」、The Micromeritics No.61 (2018) 21-27頁
甲第2-8号証:後藤友彰 他「セラミックス薄膜焼成用スラリーのレオロジーコントロール」、日本レオロジー学会誌 Vol.29 2001 205-210頁
甲第2-9号証:特表2008-508417号公報
(以下、甲第各号証を、「甲1-1」などという。また、異議申立人2の提出した証拠で、異議申立人1の証拠に重複しているものは、異議申立人1の証拠番号で記載する。)
第5 当審の判断
当審は、上記取消理由1、2及び申立理由1~4のいずれにも理由がないと判断する。
以下、その理由について詳述する。
1 取消理由1(サポート要件違反)について
(1)取消理由1の概要
取消理由1は、概略、以下のとおりである。
本件発明の課題は、本件明細書の【0011】に記載されたとおり、「導電性の高い電極膜を得るために、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液」を提供することであると理解できる。
この発明の課題に対する本件明細書の記載を確認すると、カーボンナノチューブ分散液を対象とした実施例は、同【表3】に記載される実施例1-A1~実施例1-D3のみであるところ、これらの実施例のカーボンナノチューブ分散液が、同【表4】に記載される比較例のものに比べ、高濃度かつ高い分散性を有していることを示す指標での評価がなされておらず、実施例1-A1~実施例1-D3からは、直接本件発明のカーボンナノチューブ分散液が、高濃度かつ高い分散性を有することは理解できないこと、また、同【0097】には、複素弾性率が100Pa以上、又は位相角が15°未満の場合には、カーボンナノチューブ分散液の分散性が不良であることを示す直接的な記載があると共に、同【表3】に記載される実施例1-A1~実施例1-D3の中には、同【0097】に記載される複素弾性率及び位相角の点から、カーボンナノチューブ分散液の分散性が不良とされるものも含まれている(実施例1-A18、1-A21、1-A22、1-D1~1-D3)。
一方、実施例1-A1~実施例1-D3のカーボンナノチューブ分散液を用いて負極合剤組成物および負極を作成した実施例2-A1~2-D3(【0125】~【0132】)等を考慮すると、カーボンナノチューブ分散液の分散性と、効率的な導電ネットワークを形成することに対応する体積抵抗率との間には、直接的ではないものの、ある程度の関係性があることが理解できるから、少なくとも、上記複素弾性率及び位相角について否定的な評価の記載がなされている実施例(実施例1-A18、1-A21、1-A22、1-D1~1-D3)以外の実施例については、負極及び正極での良好な体積抵抗率等の評価を参酌することにより、上記の本件発明の課題を解決できることが一応理解できる。
また、本件明細書の「CNT分散液の複素弾性率および位相角は、CNT分散液におけるCNTの分散性と、CNT、CMC、およびその他樹脂成分の絡まり、またはこれらの分子間力等の影響によって決まることから、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)を上記の好ましい範囲とし、かつ、これらの積(X×Y)が100以上1,500以下であると、分散安定性の優れたCNT分散液を得ることができ、さらに、優れた導電ネットワークを形成できることにより導電性が非常に良好な電極膜を得ることができる。」(【0054】)との記載等によれば、複素弾性率及び位相角は、共にCNTの分散性を反映する指標であるといえることから、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を得るには、「複素弾性率X」と「位相角Y」を所定の範囲とした上で、これらの積(X×Y)が100以上1,500以下とする必要があることが理解できる。
以上から、上記の本件発明の課題を解決するには、「複素弾性率X」を100Pa未満、「位相角Y」を15°以上の範囲とした上で、「複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下」とする必要があるといえる。
しかしながら、先の訂正後の、請求項4に係る発明を除く請求項1~3、5~14に係る発明には、上記の内容に対応する特定はなされていない。
そうすると、当該請求項1~3、5~14に係る発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないから、当該発明に係る請求項1~3、5~14の記載は、サポート要件を満たしているといえない。
(2)取消理由1に対する判断
本件訂正により、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3、5~14は、「複素弾性率が100Pa未満、位相角が15°以上である」という特定事項を有するものとされたので、上記(1)で述べた本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなったということができる。
そうすると、本件発明1~3、5~14に係る請求項1~3、5~14の記載は、サポート要件を満たしているといえる。
(3)異議申立人の主張について
ア 異議申立人1の主張について
(ア)主張の概要
異議申立人1は、本件発明の課題は「高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を提供する」ことにあるとした上で、この「高濃度かつ高い分散性」は経時的にも高濃度かつ高い分散性であると解されるところ、本件明細書の【0123】【表3】に記載された実施例の中に、CNT分散液の安定性について、「△:粘度は上昇しているがゲル化はしていない(不良)」(【0099】)とされる例が含まれており、これらの例は経時的に高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を得るという本件発明の課題を解決できないものである。
そうすると、本件発明は、上記の例(実施例1-A1、1-A2、1-A4、1-A9~1-A18、1-A21、1-A22、1-B4)が除外されるような範囲でなければ、本件発明の課題を解決できる範囲内のものであるとはいえない(令和4年4月13日提出の意見書、5頁19行~6頁4行)。
(イ)検討
異議申立人1の主張は、本件発明の課題における「高濃度かつ高い分散性」が、経時的にも高濃度かつ高い分散性であることを前提としている。
そこで、本件発明の課題について検討するに、本件明細書の【発明が解決しようとする課題】の欄をみると、従来のカーボンナノチューブ分散液に関する問題点として、同【0009】には「特許文献9および10に記載のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液は、カーボンナノチューブを数質量%以上含有させることはできず、また、特許文献11に記載の分散液は、外径が小さく比表面積が高いカーボンナノチューブを分散させるには、分散性が不十分であった。さらに、高濃度のカーボンナノチューブ分散液は、保管中に凝集物や沈殿物を生じやすいため、貯蔵安定性も課題であった。沈降を防止するためには、分子量の高い分散剤を用いてカーボンナノチューブ分散液の粘度を高くする方法が有効であるが、塗工性が低下したり、ゲル化を生じやすくなるといった問題もあった。」と記載され、これを受け、同【0011】の記載によれば、本件発明は、「導電性の高い電極膜を得るために、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液、および二次電池電極用組成物を提供する」ことを発明が解決しようとする課題としていることが分かる。
ここで、上記の発明の課題の「高濃度かつ高い分散性」の「高濃度」とは、従来のカーボンナノチューブ分散液の問題点に関する、同【0009】の「特許文献9および10に記載のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液は、カーボンナノチューブを数質量%以上含有させることはできず」に対応し、「高濃度かつ高い分散性」の「高い分散性」とは、同【0009】の「特許文献11に記載の分散液は、外径が小さく比表面積が高いカーボンナノチューブを分散させるには、分散性が不十分であった」に対応するものであることが理解される。
そうすると、本件発明の課題は、同【0011】に記載されたとおり、「導電性の高い電極膜を得るために、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液」を提供することであると理解するのが妥当であり、経時的にも高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液が提供できれば、より好ましいことは明らかであるが、本件発明の課題としては、そこまでは求められていないと理解するのが妥当である。
よって、異議申立人1の主張は、前提に誤りがあるので、採用することができない。
イ 異議申立人2の主張について
(ア)主張の概要
本件発明の課題は、「高濃度かつ高い分散性」を有するカーボンナノチューブ分散液の提供であり、経時的にも「高濃度かつ高い分散性」であるとするのが合理的である。
また、本来の課題である「高濃度かつ高分散性」が達成されているか否かについて、電極膜の導電性、電池レート特性及びサイクル特性の測定では、カーボンナノチューブ分散液に関する経時的な要素を評価することはできず、本件発明の課題である「高濃度かつ高い分散性」が達成されているか否かを評価できない(令和4年4月18日提出の意見書、3頁11~18行)。
(イ)検討
本件発明の課題は、「高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液」を提供することにあるが、経時的にも「高濃度かつ高い分散性」を有するものとすることまでは求めていないことは、上記ア(イ)で述べたとおりである。
また、本件明細書の記載によれば、カーボンナノチューブ分散液の分散性と、効率的な導電ネットワークを形成することに対応する体積抵抗率との間には、直接的ではないものの、ある程度の関係性があることが理解できるから、負極及び正極での良好な体積抵抗率等の評価を参酌することにより、上記の本件発明の課題を解決できることを一応理解できることは、上記(1)に記載されているとおりである。
そうすると、異議申立人2の主張は、採用することができない。
(4)小括
以上のとおり、本件発明1~3、5~14に対応する特許請求の範囲の記載について、取消理由1には理由がない。
2 取消理由2(明確性要件違反)について
(1)取消理由2の概要
取消理由2の概要は、以下のとおりである。
設定登録時の請求項1に係る発明には、「複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)」が特定されているところ、「複素弾性率X」及び「位相角Y」は、測定の際の温度、周波数及びひずみ率の条件によって変わり得るものであるが、設定登録時の請求項1に係る発明には、それらの測定条件が特定されていないので、「複素弾性率X」及び「位相角Y(°)」の積(X×Y)の範囲が一意に定まらない。
そうすると、設定登録時の請求項1に係る発明は、明確ではない。
設定登録時の請求項1に係る発明を引用する設定登録時の請求項2~14に係る発明も、明確ではない。
(2)取消理由2に対する判断
上記取消理由2に対し、本件訂正で、本件発明1において、「前記カーボンナノチューブ分散液の、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%~5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下である」と特定され、「複素弾性率X」及び「位相角Y」の測定の際の温度、周波数及びひずみ率の条件が明らかとなることにより、「複素弾性率X」及び「位相角Y(°)」の積(X×Y)の範囲が一意に定まるものとなった。
そうすると、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3、5~14は明確であるから、上記取消理由2には、理由がない。
3 申立理由1~4(進歩性欠如)について
(1)甲1-1~甲2-6に記載の事項
ア 甲1-1の記載事項
(ア)「【請求項1】平均繊維外径が50~110nmの範囲である多層カーボンナノチューブのカルボキシメチルセルロースナトリウム水分散液であって、該多層カーボンナノチューブの含量が3~20質量%の範囲であって、該多層カーボンナノチューブに対して質量比が0.1~0.2のカルボキシメチルセルロースナトリウムを含み、レーザー回折・散乱法で測定した該分散液のメディアン径(d50)が0.3~0.6μm、且つスパン値[(d90-d50)/d50]が0.9~1.2であり、粘度が100mPa・s以下である多層カーボンナノチューブ含有カルボキシメチルセルロースナトリウム水分散液。」
(イ)「【0006】
以上のように、多層カーボンナノチューブは、電気的、機能的、機械的および複合的効果を併せ持つ材料として様々な用途に適用が検討されているが、添加効果を最大限に引き出すためには、多層カーボンナノチューブが、水、有機溶媒、樹脂溶液、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂などの分散媒体に均一に分散していることが必須となる。
【0007】
しかしながら、多層カーボンナノチューブは、直径1μm以下のチューブ状繊維が絡み合って凝集体を形成し、あるいはネットワーク構造を有し、更に嵩比重を上げるために、通常それらを集合させた状態で市販されている。そのため、これらを一本一本に解繊させ、分散するのは非常に困難である。また、一本一本に解繊した多層カーボンナノチューブ、あるいは数μm~数十μmサイズとなった凝集体は、非常に強い繊維間相互の凝集力(ファンデルワールス力)を有する。そのため、水、有機溶媒、樹脂溶液、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂などの分散媒体中で分散させることが困難であり、いったん解繊・分散した多層カーボンナノチューブ・凝集体同士も、容易に再凝集する。これらの理由から、十分に分散し、かつ分散状態が安定した多層カーボンナノチューブの集合体を得にくいのが現状である。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明が解決しようとする課題は、水溶性樹脂をバインダーとして使用する電極膜において、電極膜構成要素であるカルボキシメチルセルロースナトリウムのみを用い且つ少量添加で、極めて高い凝集力を有する凝集体である多層カーボンナノチューブを高濃度まで分散および分散安定化させた、電極膜作製用多層カーボンナノチューブ水分散液、これを用いた多層カーボンナノチューブ含有電極膜用導電ペーストを調製し、これらを用いて得られる電極膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を続けた結果、多層カーボンナノチューブに対して質量比が0.1~0.2である低濃度でカルボキシメチルセルロースナトリウムを水溶液に添加した後、平均繊維外径が50~110nmの範囲である多層カーボンナノチューブを全体に対して3~20質量%と高濃度まで添加した多層カーボンナノチューブ水分散液が調製できることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(エ)「【0037】
本発明で使用するカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩は、例えば、第一工業製薬製セロゲン5A(エーテル化度0.70~0.80)、第一工業製薬製セロゲン6A(エーテル化度0.70~0.80)・・・第一工業製薬製セロゲンWS-C(エーテル化度0.60~0.70)・・・第一工業製薬製セロゲンP-815C(エーテル化度0.70~0.85)等が挙げられる。・・・
【0040】
カルボキシメチルセルロースナトリウムの構造式は、水酸基が多数置換したシクロエーテル環基が多数連結した構造式であり、上記に述べた通り、水酸基及びシクロエーテル環基は、多層カーボンナノチューブと相容性が良い。そのため、カルボキシメチルセルロースナトリウムが分散剤的役割を果たして多層カーボンナノチューブを単分散し、さらに単分散化された多層カーボンナノチューブの表面に付着し、立体反発効果により、多層カーボンナノチューブを安定して水溶液中に保持できるものであると考えられる。
【0041】
カルボキシメチルセルロースは、本発明の多層カーボンナノチューブ水分散液の保存安定性及び再凝集防止の役割を果たすために、最適な添加量が必要である。その添加量は、多層カーボンナノチューブの平均繊維径及び比表面積と相関があり、さらに本発明の多層カーボンナノチューブ含有電極膜内ではカルボキシメチルセルロースの添加量に制限があるため、注意深く決定する事が必要である。
・・・
【0043】
しかしながら、カルボキシメチルセルロースは絶縁性であるため、添加量が多い場合、電極膜の導電性が低下し、最終的にLIB電池特性を損なう。そのため、カルボキシメチルセルロースの添加量には制限があり、多層カーボンナノチューブの平均繊維径及び比表面積を考量して計算した結果は、多層カーボンナノチューブ含有水分散液に使用可能なカルボキシメチルセルロース添加量は多くても2質量%濃度の水溶液、それ以下に制限することが望ましいである。
・・・
【0047】
したがって、本発明のカルボキシメチルセルロースの添加量は、電極膜中のカルボキシメチルセルロースナトリウム添加量の制限から、多層カーボンナノチューブ水分散液中には多層カーボンナノチューブに対して質量比0.2以下が好ましい。」
イ 甲1-2の記載事項
(ア)「【請求項1】
束型(bundle-type)カーボンナノチューブを含む導電材と、
分散剤と、
分散媒とを含み、
レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角が3゜~18゜である、導電材分散液。・・・
【請求項4】
前記分散剤は、ニトリルブタジエン系ゴムを含む、請求項1に記載の導電材分散液。
・・・
【請求項11】
前記分散媒は、アミド系有機溶媒である、請求項1に記載の導電材分散液。」
(イ)「【0006】
微細炭素繊維の一種であるカーボンナノチューブは、直径1μm以下の太さを有するチューブ状炭素であり、その特異的構造に起因した高い導電性、引張強度および耐熱性などによって様々な分野への適用および実用化が期待されている。しかし、かかるカーボンナノチューブの有用性にもかかわらず、カーボンナノチューブは、低い溶解性と分散性によってその使用に限界がある。そのため、カーボンナノチューブを用いた電極の製造時に、カーボンナノチューブを分散媒にまず分散させた後、電極形成用組成物を製造して使用した。しかし、カーボンナノチューブは、互いの強いファンデルワールス引力によって分散媒の中で安定した分散状態をなすことができず、凝集現象が生じるという問題がある。
【0007】
かかる問題を解決するために様々な試みがあった。具体的には、超音波処理などの機械的分散処理によりカーボンナノチューブを分散媒の中に分散させる方法が提案されている。しかし、この方法の場合、超音波を照射している間には分散性に優れるが、超音波の照射が終了すると、カーボンナノチューブの凝集が始まるという問題がある。また、様々な分散剤を用いてカーボンナノチューブを分散安定化する方法が提案されている。しかし、これらの方法もまたカーボンナノチューブを分散媒の中に高濃度で分散させる場合、粘度の上昇によって取り扱いが難しくなるという問題がある。
【0008】
そのため、導電性が低下することなく電極内のカーボンナノチューブの分散性を向上させる方法およびこれを用いて電極の製造に有用なカーボンナノチューブ分散液を製造する方法の開発が必要となっている。」
(ウ)「【0030】
本発明の一実施形態に係る導電材分散液は、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角(phase angle、δ)が3゜~18゜である。導電材分散液の位相角が3゜未満の場合には、固体様特性が強すぎて、コーティング時にスラリー内で導電材の均一な分散が難しく、また、位相角が18゜を超える場合には、液体様特性が強くて粘度が低くなるため、高ローディング電極の製造時に均一な厚さの活物質層の形成が容易でなく、以降、乾燥工程においてクラックが生じる恐れがある。導電材分散液の位相角の制御による導電材分散液の固体様特性およびこれを用いた電極の製造時のコーティング性およびコーティング安定性を考慮すると、前記導電材分散液の位相角は、より具体的には、3゜~15゜、さらに具体的には、3゜~10゜であってもよい。
【0031】
一般的に、液体は、外部の力が加えられた時に、歪みに対する復元力、すなわち弾性歪みがない。固体は、外部の力が加えられた時に、その形態を連続して歪ませることができない。しかし、本発明の一実施形態に係る導電材分散液は、粘弾性(viscoelasticity)特性を有する物質であることから、外部の力が加えられた時に、形態が歪むことがあり、加えられた力の回数とは関係なく最初の形態にまた戻り得る。本発明の一実施形態に係る導電材分散液の粘弾性は、応力、歪み、時間の尺度、温度など、加えられた外部条件に応じて異なり得るが、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角(phase angle、δ)が3゜~18゜である。
【0032】
前記のような導電材分散液の位相角は、これを構成する導電材、分散剤および分散媒の種類、物性および混合比、またその製造過程でのミリング工程時の条件制御により実現することができる。」
(エ)「【0076】
一方、本発明の一実施形態に係る導電材分散液において、前記分散剤は、通常、カーボンナノチューブの分散性の向上のために使用されるものであれば、特に制限なく使用可能である。
【0077】
具体的には、本発明の一実施形態に係る導電材分散液において、前記分散剤は、ニトリル系ゴムであってもよく、より具体的には、部分または全体に水素化したニトリルブタジエン系ゴムであってもよい。
【0078】
前記水素化したニトリルブタジエン系ゴムは、具体的には、水素化した共役ジエン由来構造単位、α,β-不飽和ニトリル由来構造単位および共役ジエン由来構造単位を含み、ゴムの全重量に対して、前記水素化した共役ジエン由来構造単位を20重量%~80重量%含んでもよい。前記のような含有量で含まれる時に、分散媒に対する混和性が増加し、カーボンナノチューブの分散性を高めることができ、且つ導電材分散液の固体様特性を増加させ、その結果として、電極形成用組成物のコーティング安定性を向上させることができる。より具体的には、ゴムの全重量に対して、前記水素化した共役ジエン由来構造単位を30重量%~70重量%含んでもよい。
【0079】
また、カーボンナノチューブに対する分散性の向上および分散媒との混和性を考慮すると、前記水素化したニトリルブタジエン系ゴム内のα,β-不飽和ニトリル由来構造単位の含有量は、ゴムの全重量に対して、10重量%~70重量%、具体的には、20重量%~60重量%であってもよい。上述の含有量範囲でα,β-不飽和ニトリル構造含有繰り返し単位を含む場合、カーボンナノチューブの分散性を高めることができ、導電材分散液の固体様特性を増加させることができる。
・・・
【0088】
一方、本発明の一実施形態に係る前記導電材分散液において、前記分散媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒;メタノール・・・などのアルコール類;エチレングリコール・・・などのグリコール類;グリセリン・・・などの多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル・・・などのグリコールエーテル類;アセトン・・・などのケトン類;酢酸エチル・・・などのエステル類などが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されてもよい。より具体的には、前記カーボンナノチューブおよび分散剤に対する分散性の向上効果を考慮すると、前記分散媒は、アミド系極性有機溶媒であってもよい。」
(オ)「【0159】【表1】
[図:0001393071000001.jpg]
【0160】
[実施例2-1、実施例2-2、比較例2-1~比較例2-3:導電材分散液の製造]
組成物の全重量に対して、下記表2に記載のカーボンナノチューブ5重量%、分散剤1.0重量%および分散媒94重量%を含む組成物を均質混合装置(VMA LC55、Impeller/3,000rpm)を用いて60分間混合した。結果の混合物に対して、ネッチビーズミル(NETZSCH Mini‐cer、ビーズのサイズ:1mm/3,000rpm)を用いて下記表2に記載の時間の間に循環して行い、束型カーボンナノチューブを含む実施例2-1、実施例2-2、比較例2-1~比較例2-3の導電材分散液を取得した。
【0161】
【表2】
[図:0001393071000002.jpg]
【0162】
[実験例2-1]
実施例2-1、実施例2-2、比較例2-1~比較例2-3の導電材分散液に対して、位相角を測定した。
【0163】
詳細には、位相角を測定するために、動弾性剪断レオメータ(DSR;Dynamic Shear Rheometer)を使用して常温で1%の応力を加えながら1Hzの周波数で周波数掃引をして測定した。その結果を下記表3および図1に示した。図1のx軸は位相角であり、y軸は複素弾性率である。
【0164】
【表3】
[図:0001393071000003.jpg]
・・・
【0170】
[実施例3-1、実施例3-2、比較例3-1~比較例3-3:正極形成用組成物の製造]
組成物の全重量に対して、下記表5に記載の導電材分散液16.8重量%、正極活物質81.5重量%およびバインダー1.7重量%を混合し、実施例3-1、実施例3-2、比較例3-1~比較例3-3の正極形成用組成物を製造した。
【0171】
【表5】
[図:0001393071000004.jpg]
【0172】
[実験例3-1]
実施例3-1、実施例3-2、比較例3-1~比較例3-3の正極形成用組成物に対して、位相角を測定した。
【0173】
詳細には、位相角を測定するために、動弾性剪断レオメータ(DSR;Dynamic Shear Rheometer)を使用して、常温で1%の応力を加えながら1Hzの周波数で周波数掃引をして測定した。その結果を下記表6および図2に示した。図2のx軸は位相角であり、y軸は複素弾性率である。
【0174】
【表6】
[図:0001393071000005.jpg]
」
ウ 甲1-3の記載事項
(ア)「【請求項1】
導電材分散液であって、
束型カーボンナノチューブを含む導電材と、
水素化したニトリル系ゴムを含む分散剤と、
分散媒と、を含んでなり、
レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、複素弾性率(|G*|@1Hz)が20Pa~500Paである、導電材分散液。
・・・
【請求項14】
前記分散媒は、アミド系有機溶媒である、請求項1に記載の導電材分散液。
【請求項15】
導電材分散液の製造方法であって、
束型カーボンナノチューブを含む導電材、水素化したニトリル系ゴムを含む分散剤、および分散媒を混合し、
前記混合した後、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、複素弾性率(|G*|@1Hz)が20Pa~500Paになるようにミリングすることを含んでなる、導電材分散液の製造方法。」
(イ)「【0006】
微細炭素繊維の一種であるカーボンナノチューブは、直径1μm以下の太さを有するチューブ状炭素であり、その特異的構造に起因した高い導電性、引張強度および耐熱性などによって様々な分野への適用および実用化が期待されている。しかし、かかるカーボンナノチューブの有用性にもかかわらず、カーボンナノチューブは、低い溶解性と分散性によってその使用に限界がある。そのため、カーボンナノチューブを用いた電極の製造時に、カーボンナノチューブを分散媒にまず分散させた後、電極形成用組成物を製造して使用した。しかし、カーボンナノチューブは、互いの強いファンデルワールス引力によって分散媒中に安定した分散状態をなすことができず、凝集現象が生じる問題がある。
【0007】
かかる問題を解決するために様々な試みがあった。具体的には、超音波処理などの機械的分散処理によりカーボンナノチューブを分散媒の中に分散させる方法が提案されている。しかし、この方法の場合、超音波を照射している間には分散性に優れるが、超音波の照射が終了すると、カーボンナノチューブの凝集が始まり、カーボンナノチューブの濃度が高くなって凝集するという問題がある。また、様々な分散剤を用いてカーボンナノチューブを分散安定化する方法が提案されている。しかし、これらの方法もまた微細な炭素繊維を分散媒の中に高濃度で分散させる場合、粘度の上昇によって取り扱いが難しくなるという問題がある。
【0008】
そのため、導電性が低下することなく電極内のカーボンナノチューブの分散性を向上させる方法およびこれを用いて電極の製造に有用なカーボンナノチューブ分散液を製造する方法の開発が必要となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする第1の課題は、優れた分散性および低い粉体抵抗特性を有することで、高出力用電極の製造に有用な導電材分散液およびその製造方法を提供することにある。」
(ウ)「【0027】
本発明において、導電材分散液の複素弾性率または複素剪断弾性率は、動的粘弾性を示す量であり、物質に蓄積される弾性エネルギーの大きさを意味し、固体から液体の状態に変化するにつれて小さくなる。本発明での導電材分散液の複素弾性率は、粘度測定装置、具体的には、レオメータを用いて測定することができる。より具体的には、レオメータの円形回転板の間の距離を一定に設定した後、当該間隔に満たされる体積に相当する導電材分散液を取り込み、周波数が1Hzである時に剪断速度を1/s単位で10-3から103の範囲まで設定し、回転板を回すために生じる力を測定し、剪断粘性率(shear viscosity)の値を測定することができる。
【0028】
具体的には、本発明の一実施形態に係る導電材分散液は、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、複素弾性率(|G*|@1Hz)が20Pa~500Paである。導電材分散液の複素弾性率が20Pa未満である場合には、分散液の粘度が低すぎ、分散性が低下するため、電極の形成が容易でなく、また、複素弾性率が500Paを超える場合には、分散液の粘度が高くなり、製造工程で圧力増加によって取り扱いが難しいだけでなく、電極形成用組成物の製造時に高い粘弾性を有するため、固形分が減少して生産性が低下する恐れがある。導電材分散液の複素弾性率の制御による導電材分散液の分散性の向上、さらに、これを用いて製造した電極の粉体抵抗の減少および電池出力特性の改善効果の顕著さを考慮すると、前記導電材分散液の複素弾性率は、より具体的には、50Pa~350Paであってもよい。
・・・
【0030】
前記のような導電材分散液の物性的特徴は、これを構成する導電材、分散剤および分散媒の種類、物性および混合比の制御により実現することができる。」
(エ)「【0074】
一方、本発明の一実施形態に係る導電材分散液において、前記分散剤は、部分または全体が水素化したニトリル系ゴムであってもよく、具体的には、共役ジエン由来構造の繰り返し単位、水素化した共役ジエン由来構造の繰り返し単位およびα,β-不飽和ニトリル由来構造の繰り返し単位を含む水素化したニトリル系ゴムであってもよい。この際、前記水素化したニトリル系ゴムは、共重合可能なさらなるコモノマーを選択的にさらに含んでもよい。・・・
【0080】
具体的には、カーボンナノチューブに対する分散性の向上および分散媒との混和性を考慮すると、前記水素化したニトリル系ゴムは、ゴムの全重量に対して、前記α,β-不飽和ニトリル由来構造の繰り返し単位(repeating unit)を10重量%~60重量%、具体的には、20重量%~60重量%含んでもよい。上述の含有量範囲でα,β-不飽和ニトリル構造含有繰り返し単位を含む場合、カーボンナノチューブの分散性を高めることができ、カーボンナノチューブの添加量が少なくても高い導電性を与えることができる。
・・・
【0089】
一方、本発明の一実施形態に係る前記導電材分散液において、前記分散媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒;メタノール・・・などのアルコール類;エチレングリコール・・・などのグリコール類;グリセリン・・・などの多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル・・・などのグリコールエーテル類;アセトン・・・などのケトン類;酢酸エチル・・・などのエステル類などが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されてもよい。より具体的には、前記カーボンナノチューブおよび分散剤に対する分散性の向上効果を考慮すると、前記分散媒は、アミド系極性有機溶媒であってもよい。」
エ 甲1-4の記載事項
(ア)「【請求項1】
カーボンナノチューブ(A)と、ポリビニルピロリドン(B)と、N-メチル-2-ピロリドン(C)と、アミン系化合物(D)とを含有してなり、前記カーボンナノチューブ(A)100重量部に対して、前記ポリビニルピロリドン(B)を10重量部以上、25重量部未満含有し、かつ前記アミン系化合物(D)を2重量部以上、10重量部以下含有することを特徴とする、カーボンナノチューブ分散液。」
(イ)「【0020】
このようなカーボンナノチューブ(A)としては、例えば、単層カーボンナノチューブとして、日本ゼオン社製ZEONANO SG101(外径:3~5nm)、OCSiAl社製 TUBALL(外径:約2nm)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、多層カーボンナノチューブとしては、ARKEMA社製 Graphistrength(外径:10~15nm)、SUSUN Sinotech New Materials社製 HCNTs10(外径:10~20nm)、HCNTs40(外径:30~50nm)、Nanocyl社製 NC7000(外径:10nm)、NX7100(外径:10nm)、JEIO社製 JENOTUBE8A(外径:6~9nm)、JENOTUBE10A(外径:7~20nm)、JENOTUBE10B(外径:7~10nm)、Cnano社製 FloTube9100(外径:10~15nm)、FloTube9110(外径:10~15nm)、FloTube7010(外径:7~11nm)、Kumho Petrochemical社製 K-Nanos100P(外径:10~15nm)、K?Nanos100T(外径:10~15nm)、K?Nanos200P(外径:5~15nm)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。」
オ 甲1-5の記載事項
(ア)「請求の範囲
[請求項1] カーボンナノチューブ含有組成物、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量が0.5万以上6万以下である分散剤および水系溶媒を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。
・・・
[請求項4] 前記分散剤がカルボキシメチルセルロースまたはその塩である請求項1から請求項3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。」
(イ)「[0005] これらの分散液は、液中ではカーボンナノチューブの高分散性を維持しているが、基材と接触し溶媒が除去される過程で再びカーボンナノチューブが凝集し、効率のよい導電パスの形成が困難となる。そのため基材上でのカーボンナノチューブの高分散性を維持できる分散液が求められてきた。
[0006] 本発明は、上記のような事情に鑑みなされたものであり、分散液中でのカーボンナノチューブの分散性が良く、カーボンナノチューブの切断を抑制することができ、分散液を基材に塗布した際に基材上でのカーボンナノチューブの分散性に優れ、透明導電性の良い導電性成形体を製造可能なカーボンナノチューブ含有組成物の分散液を得ることを課題とする。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明者らは、鋭意検討を行った結果、特定の分子量の分散剤を用いて、カーボンナノチューブ含有組成物を水系溶媒に分散させることにより、基材上でのカーボンナノチューブ含有組成物の凝集径が小さい分散液が得られることを見いだし、本発明に至ったものである。
[0008] すなわち本発明は、カーボンナノチューブ含有組成物、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量が0.5万以上6万以下である分散剤および水系溶媒を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液である。」
(ウ)「[0013] 本発明では、導電性材料としてカーボンナノチューブを用いる。本発明においてカーボンナノチューブ含有組成物とは、複数のカーボンナノチューブを含む総体を意味する。カーボンナノチューブ含有組成物中の、カーボンナノチューブの存在形態は、特に限定されず、それぞれが独立、束状、あるいは絡まり合うなどの形態あるいはこれらの混合形態で存在していてもよい。また、種々の層数または直径のものが含まれていてもよい。」
(エ)「[0032] 本発明のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液は、分散剤として、ポリマー系分散剤を使用する。これはポリマー系分散剤の使用によりカーボンナノチューブを溶液中で高度に分散でき、さらに高剪断力を与えても安定な分散液を得ることができるためである。このとき分散剤の分子量が小さすぎると、分散剤とカーボンナノチューブの相互作用が弱まるためにカーボンナノチューブのバンドルを十分に解すことができない。一方、分散剤の分子量が大きすぎると、カーボンナノチューブのバンドル間への侵入が難しくなる。そのため分散処理において、バンドルが解する前にカーボンナノチューブの切断が進行してしまう。本発明では、分散剤の重量平均分子量を0.5万以上6万以下にすることで、カーボンナノチューブを溶液中で高度に分散できるだけでなく、分散処理においてカーボンナノチューブの切断を抑制する効果もあることを見出した。重量平均分子量が0.5万以上6万以下の範囲の分散剤を用いることで、分散時にカーボンナノチューブ間の隙間に分散剤が入りやすくなる。そのため、より少ないエネルギーでカーボンナノチューブの分散が可能となり、カーボンナノチューブを高分散できるとともに、カーボンナノチューブの切断が抑制される。さらに基材上に塗布したとき、カーボンナノチューブの基材上での凝集も抑制されるため、得られる導電性成形体の導電性と透明性が両立できる。分散剤の量が少なくても良好な分散性が得られることから、分散剤の重量平均分子量の範囲は1万以上6万以下であることが好ましく、1万以上4万以下であることがさらに好ましい。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用い、ポリエチレングリコールによる校正曲線と対比させて算出された重量平均分子量を指す。
・・・
[0035] 分散液に含まれる分散剤の量は、カーボンナノチューブに吸着される量より多く、かつ、導電性を阻害しない量であることが好ましい。具体的にはカーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して分散剤が200重量部以上500重量部以下であることが好ましく、さらに200重量部以上400重量部以下であることが好ましい。
[0036] 分散剤の種類としては、合成高分子、天然高分子などから選択できる。合成高分子としては、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸およびその誘導体から選択したポリマーが好ましい。天然高分子としては、多糖類であるアルギン酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、セルロースおよびそれらの誘導体から選択したポリマーが好ましい。誘導体とは、前述のポリマーのエステル化物、エーテル化物、塩などを意味する。これらの中でも特に多糖類を用いることが分散性向上の点から好ましい。分散剤は、1種を用いても、2種以上を混合して用いてもよい。分散性のよい分散剤を用いることで、カーボンナノチューブのバンドルを解して透明導電性を向上させることができる点から、分散剤としては、イオン性高分子が好ましく用いられる。中でも、スルホン酸基やカルボン酸基などのイオン性官能基を持つものが、分散性および導電性が高くなるため好ましい。イオン性高分子としては、ポリスチレンスルホン酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロースおよびそれらの誘導体から選ばれたポリマーが好ましい。特にイオン性官能基を有する多糖類であるカルボキシメチルセルロースおよびその誘導体から選ばれたポリマーが最も好ましい。誘導体としては塩が好ましい。
[0037] 重量平均分子量が6万以下のカルボキシメチルセルロースは市販されていないため、重量平均分子量が0.5万以上6万以下のカルボキシメチルセルロースを得るためには、重量平均分子量が6万より大きいカルボキシメチルセルロースを加水分解などの方法で低分子量化する。・・・
[0038] また、加水分解により得られるカルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、0.4以上1以下が好ましい。エーテル化度が0.4より小さいと、カルボキシメチルセルロースが水に不溶になるため好ましくない。カルボキシメチルセルロースが分子量の場合は、カーボンナノチューブ含有組成物への相互作用が小さくなる。そのためカルボキシメチルセルロースのエーテル化度が1以上では分散剤としての効果が不十分な場合がある。」
(オ)[0044] 水系溶媒とは、水または水と混和する有機溶媒である。分散剤が溶解し、カーボンナノチューブが分散するものであれば用いることができる。水と混和する有機溶媒としては、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N,N-ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N-メチルピロリドン、アセトニトリル等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などを用いることができる。
[0045] これらのなかでも特に、水、アルコール、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有することがカーボンナノチューブの分散性から好ましい。さらに好ましくは水である。・・・
[0046] カーボンナノチューブ含有組成物の分散液調製時のカーボンナノチューブ含有組成物の濃度は、特に制限はないが、0.1質量%から0.3質量%の範囲が好ましい。濃度が0.1質量%より小さいと、分散時にカーボンナノチューブ含有組成物へのエネルギー照射が大きくなり、カーボンナノチューブの切断を促進してしまう。また濃度が0.3質量%より大きいと、分散時のエネルギーがカーボンナノチューブ含有組成物へ十分に照射されず、分散が困難になる。」
カ 甲1-6の記載事項
(ア)「【請求項1】
カーボンナノチューブ含有組成物、エーテル化度が0.4以上0.7未満であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩からなる分散剤および分散媒を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。
・・・
【請求項3】
前記カルボキシメチルセルロースまたはその塩のゲルパーミエーションクロマトフラフィーで測定した重量平均分子量が5千以上6万以下である請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術においては、カーボンナノチューブを分散させるのにカーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対し分散剤を250重量部必要としていた。分散剤であるカルボキシメチルセルロースは絶縁物であるため、カーボンナノチューブ含有組成物の分散液を基材上に塗布して得られる導電性成形体に含まれる分散剤が多くなり、カーボンナノチューブの導電ネットワークが阻害されることがある。そのため、多量のカルボキシメチルセルロースなどの分散剤を含むカーボンナノチューブ薄膜は導電性が劣るという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題、状況を鑑みてなされたものであり、その解決課題は、量産性に優れた簡便な方法で、導電性成形体としたときに、透明かつ導電性に優れた導電性成形体とすることができるカーボンナノチューブ含有組成物の分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、分散剤としてエーテル化度が0.4以上0.7未満のカルボキシメチルセルロースを分散剤として用いることで、少量の分散剤で分散性にすぐれたカーボンナノチューブ含有組成物の分散液を得ることができ、このような分散剤を使用した分散液を用いることで、導電性成形体としたときに、透明かつ導電性に優れることを見出し、本発明に至ったものである。」
(ウ)「【0013】
[カーボンナノチューブ]
本発明では導電性材料としてカーボンナノチューブを用いる。本発明においてカーボンナノチューブ含有組成物とは、複数のカーボンナノチューブを含む総体を意味する。カーボンナノチューブ含有組成物中の、カーボンナノチューブの存在形態は、特に限定されず、それぞれが独立、束状、あるいは絡まり合うなどの形態あるいはこれらの混合形態で存在していてもよい。また、種々の層数または直径のものが含まれていてもよい。」
(エ)「【0035】
カーボンナノチューブ含有組成物の分散液の分散剤として、分散性のよい分散剤を用いることで、カーボンナノチューブのバンドルを解して透明導電性を向上させることができる点から、イオン性官能基を有する多糖類であるカルボキシメチルセルロースおよびその誘導体、およびその塩を用いる。
【0036】
このとき分子量が小さすぎると、分散剤とカーボンナノチューブの相互作用が弱まるためにカーボンナノチューブのバンドルを十分に解すことができない。一方、分子量が大きすぎると、ポリマー鎖のカーボンナノチューブへの絡みつきが強くなりすぎることで過剰な分散剤の除去工程において分散剤が除去しきれず、導電性悪化の原因となってしまう。分散剤として使用するポリマーの重量平均分子量の範囲は5千以上6万以下が好ましく、特に1万以上6万以下であることが好ましく、さらに好ましくは、2万以上6万以下である。前記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用い、ポリエチレングリコールによる校正曲線と対比させることにより算出された重量平均分子量を指す。
【0037】
カルボキシメチルセルロースのエーテル化度とは、セルロースの無水グルコース単位あたり3つ存在する水酸基のうち、カルボキシメチル基に置換された数を示す。カルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、理論上0~3の値となる。本発明において、カルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、0.4以上0.7未満である必要がある。さらに0.4以上0.6以下であることが好ましい。」
(オ)「【0042】
カーボンナノチューブ含有組成物の分散液に含まれるカーボンナノチューブのバンドルを十分に解すためには、カーボンナノチューブ含有組成物の分散に適した分散剤を、適切な量必要とする。この適切な量は、分散剤の種類によって異なり、本発明ではエーテル化度が0.4以上0.7未満と小さいカルボキシメチルセルロースまたはその塩を用いるため、カーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対し、分散剤を10重量部以上200重量部以下とすることができる。過剰な分散剤は絶縁物として導電阻害が大きく、形成されるカーボンナノチューブ含有組成物を含む導電層の表面抵抗値は悪くなってしまう。一方、分散液に含まれる分散剤量が少ない過ぎる場合にはカーボンナノチューブのバンドルを完全に解すことはできない。
【0043】
すなわち、本発明のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液に含まれる分散剤の量はカーボンナノチューブに吸着される以上に過剰であり、かつ導電性を阻害しない量であることが好ましく、具体的にはカーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して分散剤が10重量部以上200重量部未満であることが好ましく、さらに25重量部以上150重量部以下であることが好ましい。最も好ましくは50重量部以上100重量部以下である。」
(カ)「【0045】
本発明ではカーボンナノチューブ含有組成物、分散剤および分散媒を用いてカーボンナノチューブ含有組成物の分散液を調製する。この分散液はさらにその他添加剤を含むことができ、液体形状でもペーストやゲルのような半固形状でもかまわないが、液体形状が好ましい。本発明において分散液とは、得られた組成物が目視において沈降物や凝集物がなく、少なくとも24時間静置後においても目視において沈降物や凝集物がない状態の液をいう。また、分散液全体に対するカーボンナノチューブ含有組成物の量は0.01重量%以上、20重量%以下であることが好ましく、0.01~10重量%であることが好ましい。
【0046】
本発明の分散液に含まれる分散媒としては、水系溶媒が好ましい。本発明で用いる水系溶媒は、分散剤を溶解し、カーボンナノチューブが分散するものであれば限定はなく、水および水と混和する溶媒類を用いることができる。・・・これらのなかでも特に、水、アルコール、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有することがカーボンナノチューブ分散性から好ましい。さらに、カルボキシメチルセルロースの溶解性とカーボンナノチューブの分散性の点から、水を用いることが最も好ましい。」
(キ)「【0096】
(実施例1)エーテル化度0.55、カルボキシメチルセルロース100重量部
[カーボンナノチューブ含有組成物の分散液の調製]
カーボンナノチューブ含有組成物15mg(乾燥質量換算で15mgのカーボンナノチューブ含有組成物を含有する参考例1で得られたカーボンナノチューブ含有組成物)、3質量%カルボキシメチルセルロースアンモニウム(ダイセルファインケム(株)社製、参考例4で得られたDN-10Lの加水分解物(重量平均分子量47000))水溶液500mg(カーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して100重量部)を量りとり、蒸留水を加え10gにし、分散前のカーボンナノチューブ混合液を調製した。1質量%アンモニア水溶液(キシダ化学(株)社製)を用いてpH7にあわせ、超音波ホモジナイザー出力20W、1.5分間で氷冷下分散し、カーボンナノチューブ分散液を調製した。」
キ 甲2-4の記載事項
(ア)「【請求項1】
電極活物質スラリーの製造方法であって、
(S1)導電材及び第1分散媒を混合して導電材分散物を製造し、電極活物質及び第2分散媒を混合して電極活物質分散物を製造する段階と、
(S2)前記電極活物質分散物に、前記導電材分散物を添加しながら分散させる段階とを含んでなる、電極活物質スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記(S1)段階において、前記導電材分散物は、5~20重量%の導電材が分散していることを特徴とする、請求項1に記載の電極活物質スラリーの製造方法。
・・・
【請求項7】
前記導電材が、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、ケッチェンブラック及びスーパーPからなる群より選択される何れか一種又は二種以上の混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の電極活物質スラリーの製造方法。
【請求項8】
前記第1分散媒が、溶解パラメーター定数値が10以上である有機溶媒からなる群より選択される何れか一種又は二種以上の混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の電極活物質スラリーの製造方法。
【請求項9】
前記第1分散媒が、水、N-メチル-2-ピロリドン又はこれらの混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の電極活物質スラリーの製造方法。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、混合物質の安定した状態を維持しながら、完全なゼータ電位を有する導電材分散物及び電極活物質分散物を先に製造した後、これを混合する電極活物質スラリーの製造方法及びその方法によって製造された電極活物質スラリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するため、本発明の一面によれば、(S1)導電材及び第1分散媒を混合して導電材分散物を製造し、電極活物質及び第2分散媒を混合して電極活物質分散物を製造する段階と、(S2)前記電極活物質分散物に、前記導電材分散物を添加しながら分散させる段階と、を含む電極活物質スラリーの製造方法が提供される。」
(ウ)「【0018】
・・・
【図2】図2は、本発明の実施例によって製造された導電材分散物及び電極活物質スラリーの位相角(phase angle)分析結果を示したグラフである。」
(エ)「【0040】
1.実施例1
(1)導電材分散物の製造
導電材としてのカーボンブラック20gを、第1分散媒としてのNMP125gに分散させて導電材分散物(固形分の割合:13.8%)を製造した。
【0041】
一方、難分散材料である導電材を分散させるために、多様な分散器機を用いることができるが、代表的には、ミル(Mill)装備または高圧ホモジナイザー(High pressure homogenizer)のような高速分散装備を用いる。
【0042】
本実施例においては、前記導電材分散物の製造に際し、一般的に用いられるホモジナイザーで4,000rpmで20分間分散させた後、高速分散装備で15,000rpmで20分間分散させることで製造した。
【0043】
(2)電極活物質分散物の製造
正極活物質としてLiCoO2 646.7gを第2分散媒としてのNMP 140.8gに分散させることで、電極活物質分散物(固形分の割合:82.1%)を製造した。
【0044】
(3)電極活物質スラリーの製造
電極活物質分散物に、導電材分散物を徐々に添加しながら分散させることで電極活物質スラリー(固形分の割合:71.5%)を製造した。このとき、一般的に用いられるホモジナイザーで4,000rpmで60分間分散させることで、電極活物質スラリーを製造した。
・・・
【0049】
4.試験例:レオロジー特性評価
導電材分散物とこれを利用して製造した電極活物質スラリーのレオロジー特性評価によって分散性とコーティング性を確認することができる。
・・・
【0052】
なお、レオロジー特性のうち、位相角の分析によって、一定のせん断速度を加えた後のスラリーの位相角の値が45゜以上であれば、良好な分散性を有すると言われる。図2を参照すれば、実施例のスラリーは、せん断速度を加えた後のスラリーの位相角の値が45゜以上を示していることから、良好な分散性を有しているといえる。」
(オ)「【図2】
[図:0001393071000006.jpg]
」
ク 甲2-6の記載事項
(ア)「【請求項1】
未解繊セルロース繊維量を測定する方法であって、
(1)セルロース繊維を含む試料を偏光顕微鏡で観察する工程、
(2)前記観察により得られた偏光顕微鏡観察画像を二値化する工程、及び
(3)前記二値化した画像を基に、単位面積当たりの未解繊セルロース繊維量を面積%として算出する工程
を含む、未解繊セルロース繊維量を測定する方法。」
(イ)「【0076】
ビーズミル処理前後の試料において未解繊セルロース繊維量と、粘度及び濾水時間との間には相関があり、偏光顕微鏡観察画像から算出した未解繊セルロース繊維量はセルロース試料の解繊程度を反映していることがわかった。このことから、高圧ホモジナイザー以外の解繊処理でも未解繊セルロース繊維量の測定が可能であることが判明した。さらに、粘度および濾水時間では判別が困難であったビーズミル解繊処理条件の違いが、本方法では判別可能であった。また、未解繊セルロース繊維が可視化されるため、形状の確認も可能であった。高圧ホモジナイザー解繊処理では繊維の剥離によって長く細い繊維が製造されたのに対し、ビーズミル解繊処理では繊維の切断によって短く太い繊維が製造されることがわかった。」
(2)各甲号証に記載された発明
ア 甲1-1に記載された発明
甲1-1の上記(1)ア(ア)の【請求項1】の記載によれば、甲1-1には、以下の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されているといえる。
「平均繊維外径が50~110nmの範囲である多層カーボンナノチューブのカルボキシメチルセルロースナトリウム水分散液であって、該多層カーボンナノチューブの含量が3~20質量%の範囲であって、該多層カーボンナノチューブに対して質量比が0.1~0.2のカルボキシメチルセルロースナトリウムを含み、レーザー回折・散乱法で測定した該分散液のメディアン径(d50)が0.3~0.6μm、且つスパン値[(d90-d50)/d50]が0.9~1.2であり、粘度が100mPa・s以下である多層カーボンナノチューブ含有カルボキシメチルセルロースナトリウム水分散液。」
イ 甲1-5(甲2-1)に記載された発明
甲1-5の上記(1)オ(ア)の記載によれば、請求項1を引用する請求項4として、「カーボンナノチューブ含有組成物、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量が0.5万以上6万以下であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩および水系溶媒を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。」が記載されているといえる。
そして、上記同(エ)の[0032]の「重量平均分子量が0.5万以上6万以下の範囲の分散剤を用いることで、分散時にカーボンナノチューブ間の隙間に分散剤が入りやすくなる。そのため、より少ないエネルギーでカーボンナノチューブの分散が可能となり、カーボンナノチューブを高分散できるとともに、カーボンナノチューブの切断が抑制される。・・・分散剤の量が少なくても良好な分散性が得られることから、分散剤の重量平均分子量の範囲は1万以上6万以下であることが好ましく、1万以上4万以下であることがさらに好ましい。」との記載、及び上記同(エ)の[0038]の「また、加水分解により得られるカルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、0.4以上1以下が好ましい。」との記載によれば、甲1-5に記載される、カーボンナノチューブ含有組成物の分散液のカルボキシメチルセルロースについて、重量平均分子量の好ましい範囲として「1万以上6万以下」の範囲であることが、またカルボキシメチルセルロースは、「0.4以上1以下」のエーテル化度を有するものであることが理解できる。
また、上記同オの[0044]及び[0045]の「水系溶媒とは、水または水と混和する有機溶媒である。・・・これらのなかでも特に、水、アルコール、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有することがカーボンナノチューブの分散性から好ましい。さらに好ましくは水である。」との記載によれば、甲1-5に記載される分散液に含まれる水系溶媒の好ましいものとして「水」が理解できる。
以上を踏まえると、甲1-5には、以下の発明(以下、「甲1-5発明」という。)が記載されているといえる。
「カーボンナノチューブ含有組成物、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量が1万以上6万以下であり、エーテル化度が0.4以上1以下であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩および水を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。」
ウ 甲1-6に記載された発明
甲1-6の上記(1)カ(ア)の記載によれば、請求項1を引用する請求項3として、「カーボンナノチューブ含有組成物、エーテル化度が0.4以上0.7未満であり、ゲルパーミエーションクロマトフラフィーで測定した重量平均分子量が5千以上6万以下であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩からなる分散剤および分散媒を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。」が記載されているといえる。
そして、上記同(エ)の【0036】の「分散剤として使用するポリマーの重量平均分子量の範囲は5千以上6万以下が好ましく、特に1万以上6万以下であることが好ましく、さらに好ましくは、2万以上6万以下である。」との記載によれば、甲1-6に記載される、カーボンナノチューブ含有組成物の分散液のカルボキシメチルセルロースについて、重量平均分子量の好ましい範囲として「1万以上6万以下」の範囲が理解できる。
また、上記同(カ)の【0046】の「本発明で用いる水系溶媒は、分散剤を溶解し、カーボンナノチューブが分散するものであれば限定はなく、水および水と混和する溶媒類を用いることができる。・・・これらのなかでも特に、水、アルコール、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有することがカーボンナノチューブ分散性から好ましい。さらに、カルボキシメチルセルロースの溶解性とカーボンナノチューブの分散性の点から、水を用いることが最も好ましい。」との記載によれば、甲1-6に記載される分散液に含まれる分散媒の最も好ましいものとして「水」が理解できる。
以上を踏まえると、甲1-6には、以下の発明(以下、「甲1-6発明」という。)が記載されているといえる。
「カーボンナノチューブ含有組成物、エーテル化度が0.4以上0.7未満であり、ゲルパーミエーションクロマトフラフィーで測定した重量平均分子量が1万以上6万以下であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩からなる分散剤および水を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。」
(3)申立理由1について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1-1発明を対比すると、甲1-1発明の「多層カーボンナノチューブ」及び「カルボキシメチルセルロースナトリウム」は、それぞれ、本件発明1の「カーボンナノチューブ」及び「カルボキシメチルセルロースまたはその塩」に相当し、甲1-1発明の「多層カーボンナノチューブのカルボキシメチルセルロースナトリウム水分散液」は、本件発明1の「カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水を含有するカーボンナノチューブ分散液」に相当する。
そして、甲1-1発明の「カルボキシメチルセルロースナトリウム」については、甲1-1の上記(1)ア(エ)の【0037】に具体的な製品の例示がなされているが、その殆どのエーテル化度が、本件発明1での0.5~0.9の範囲に含まれていることから、甲1-1発明の「カルボキシメチルセルロースナトリウム」は、本件発明1の「カルボキシメチルセルロースまたはその塩」と同程度のエーテル化度を有しているといえる。
そうすると、両発明は、「カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、
前記カルボキシメチルセルロースまたはその塩が、エーテル化度が0.5~0.9である、カーボンナノチューブ分散液。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
カルボキシメチルセルロースまたはその塩について、本件発明1では、重量平均分子量が1万~10万であるのに対し、甲1-1発明では、重量平均分子量が明らかでない点。
<相違点2>
カーボンナノチューブ分散液について、本件発明1では、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%~5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下であり、複素弾性率が100Pa未満、位相角が15°以上であるのに対し、甲1-1発明では、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)、複素弾性率及び位相角が明らかでない点。
(イ)相違点についての検討
事案にかんがみ、まず上記相違点2について検討する。
甲1-2及び甲1-3の上記(1)イ及びウの記載事項を見ても、少なくとも、カーボンナノチューブ分散液において、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%~5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下とすることは記載されていない。
また、甲1-1の上記同ア(ウ)の【0022】の記載によれば、甲1-1発明は、水溶性樹脂をバインダーとして使用する電極膜において、電極膜構成要素であるカルボキシメチルセルロースナトリウムのみを用い且つ少量添加で、極めて高い凝集力を有する凝集体である多層カーボンナノチューブを高濃度まで分散および分散安定化させた、電極膜作製用多層カーボンナノチューブ水分散液を提供することを発明の課題としているところ、このカルボキシメチルセルロースについては、同(エ)の【0041】の記載によれば、その添加量は、多層カーボンナノチューブの平均繊維径及び比表面積との相関や、多層カーボンナノチューブ含有電極膜内における添加量の制限により、注意深く決定されることが記載されている。一方、甲1-2の上記同イ(ア)には、束型(bundle-type)カーボンナノチューブを含む導電材と、分散剤と、分散媒とを含むものにおいて、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角が3゜~18゜とすることが記載されているが、甲1-2の上記同(ウ)の【0032】の「導電材分散液の位相角は、これを構成する導電材、分散剤および分散媒の種類、物性および混合比、またその製造過程でのミリング工程時の条件制御により実現することができる。」との記載によれば、導電材分散液の位相角は、分散剤および分散媒の種類や混合比によるものである。
そうすると、甲1-1発明に、甲1-2に記載の位相角の範囲を適用しようとすれば、甲1-1発明の導電材、分散剤の混合比等を調整する必要があるところ、このためには、多層カーボンナノチューブの平均繊維径及び比表面積と相関や、多層カーボンナノチューブ含有電極膜内における添加量の制限により、注意深く決定された甲1-1発明のカルボキシメチルセルロースの配合量を敢えて変更等しなければならないが、甲1-1発明には、この様なことを行って導電材分散液の位相角を所定の範囲とする動機付けがあるとはいえない。
また、甲1-2の上記同(ウ)の【0032】の記載によれば、分散剤及び分散媒の種類によって導電材分散液の位相角は変化するといえるところ、甲1-2における導電材分散液において、分散剤は、上記同(ア)の【請求項4】及び同(エ)の【0077】~【0079】に記載されるようにニトリルブタジエン系ゴムであり、分散媒は、上記同(ア)の【請求項11】及び同(エ)の【0088】に記載されるように、アミド系極性有機溶媒等の有機溶媒であり、分散剤が、カルボキシメチルセルロースであり、分散媒が水である、甲1-1発明と相違するから、単純に、甲1-2に記載される位相角を、甲1-1発明に適用することができるとはいえない。
さらには、甲1-2の上記同(オ)の【0162】~【0164】の記載によれば、位相角の値が変化すれば複素弾性率の値も変化するといえるから、この点でも単純に、甲1-2に記載される位相角を、甲1-1発明に適用することができるとはいえない。
なお、甲1-2の上記同(オ)【0170】~【0174】の特に【表6】には、正極形成用組成物の実施例である実施例3-2において、位相角(°)が20.4、|G*|(Pa)が23.4であり、位相角と|G*|の積が、100以上1,500の範囲に入る例が記載されているが、正極形成用組成物とは、甲1-2の上記同(オ)の【0170】の記載によれば、導電材分散液16.8重量%に対して固体である正極活物質を81.5重量%含むものであり、導電材分散液といえるものではないから、この正極形成用組成物における位相角(°)と|G*|(Pa)の値を、甲1-1発明に適用できるとはいえない。
また、甲1-3の上記同ウ(ア)の【請求項1】の記載によれば、束型カーボンナノチューブを含む導電材と、水素化したニトリル系ゴムを含む分散剤と、分散媒と、を含む導電材分散液において、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、複素弾性率(|G*|@1Hz)が20Pa~500Paである、導電材分散液が記載されているが、甲1-3の上記同(ウ)の【0030】の「前記のような導電材分散液の物性的特徴は、これを構成する導電材、分散剤および分散媒の種類、物性および混合比の制御により実現することができる。」との記載によれば、導電材分散液の複素弾性率は、分散剤および分散媒の種類、物性及び混合比によるところ、甲1-2について述べたのと同様に、多層カーボンナノチューブの平均繊維径及び比表面積と相関や、多層カーボンナノチューブ含有電極膜内における添加量の制限により、注意深く決定された甲1-1発明のカルボキシメチルセルロースの配合量を敢えて変更等して、導電材分散液の位相角を、甲1-3に記載されるような所定の範囲とする動機付けが、甲1-1発明にあるとはいえない。
また、甲1-3の上記同(ウ)の記載によれば、分散剤及び分散媒の種類、物性および混合比によって導電材分散液の複素弾性率が変化するところ、甲1-3における導電材分散液において、分散剤は、上記同(ア)の【請求項1】及び同(エ)の【0074】、【0080】に記載されるようにニトリル系ゴムであり、分散媒は、上記同(ア)の【請求項14】及び同(エ)の【0089】に記載されるように、アミド系極性有機溶媒等の有機溶媒であり、分散剤が、カルボキシメチルセルロースであり、分散媒が水である、甲1-1発明と相違するから、単純に、甲1-3に記載される複素弾性率を、甲1-1発明に適用することができるとはいえない。
さらには、甲1-2についてでも述べたように、位相角の値に応じて複素弾性率の値が変化するのであるから、この点でも単純に、甲1-3に記載される複素弾性率のみを、甲1-1発明に適用することができるとはいえない。
甲1-4には、位相角及び複素弾性率に関する記載はない。
そうすると、甲1-1発明において、複素弾性率及び位相角を本件発明1の範囲すること、ましてやそれらの積の値を本件発明1の範囲とすることは、甲1-2~甲1-4に記載された事項を考慮したとしても、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-1発明及び甲1-1~甲1-4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~4、7~14について
本件発明2~4、7~10は、カーボンナノチューブ分散液の発明であり、本件発明11は、二次電池電極用組成物の発明であり、本件発明12は、電極膜の発明であり、本件発明13は、二次電池の発明であり、本件発明14は、カーボンナノチューブ分散液の製造方法の発明であるが、これらの発明は、いずれも直接又は間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2~4、7~14は、甲1-1発明及び甲1-1~甲1-4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立理由1に関するまとめ
以上のとおり、本件発明1~4、7~14について、申立理由1には理由がない。
(4)申立理由2及び申立理由4について
異議申立人1による申立理由2と異議申立人1による申立理由4は、主となる証拠を含め証拠の多くが共通するのでまとめて検討する。
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1-5発明を対比すると、甲1-5発明の「カーボンナノチューブ含有組成物」は、甲1-5の上記(1)オ(ウ)の[0013]の記載によれば、「複数のカーボンナノチューブを含む総体」を意味するものであるから、本件発明1の「カーボンナノチューブ」に相当する。
そして、カルボキシメチルセルロースまたはその塩について、甲1-5発明の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量の範囲(1万以上6万以下)は、本件発明1の重量平均分子量の範囲(1万~10万)に含まれるものである。
そうすると、両発明は、「カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、 前記カルボキシメチルセルロースまたはその塩が、重量平均分子量が1万~10万である、カーボンナノチューブ分散液。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点3>
カルボキシメチルセルロースまたはその塩について、本件発明1では、エーテル化度が0.5~0.9であるのに対し、甲1-5発明では、0.4以上1以下である点。
<相違点4>
カーボンナノチューブ分散液について、本件発明1では、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%~5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下であり、複素弾性率が100Pa未満、位相角が15°以上であるのに対し、甲1-5発明では、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)、複素弾性率及び位相角が明らかでない点。
(イ)相違点についての検討
事案にかんがみ、上記相違点4から検討をする。
a 申立理由2について
本件発明1の解決しようとする課題は、上記1(2)アで述べたとおり、「導電性の高い電極膜を得るために、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液、および二次電池電極用組成物を提供する」ことであるが、本件発明1はこの課題を、上記相違点4に係る本件発明1の構成を採用することにより解決しようとするものである。ここで、本件発明1の課題の「高濃度かつ高い分散性」とは、上記課題に対する従来技術の「特許文献9および10に記載のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液は、カーボンナノチューブを数質量%以上含有させることはできず」(【0009】)との記載によれば、少なくとも数質量%を超えるものであるといえるから、上記相違点4に係る本件発明1の構成は、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を前提とし、少なくとも数質量%を超えるカーボンナノチューブ濃度を有する分散液を得ることを可能とするための構成であるといえる。
一方、甲1-5発明における分散液は、甲1-5の上記(1)オ(オ)の[0046]の記載によれば、カーボンナノチューブ含有組成物の分散液における濃度について、0.1質量%から0.3質量%の範囲が好ましいとされるものであり、本件発明1のカーボンナノチューブ分散液のように、カーボンナノチューブを少なくとも数質量%を超えて含有させようとするものではないから、少なくとも数質量%を超えるカーボンナノチューブ濃度を有する分散液を得ることを可能とするための構成である、上記相違点4に係る本件発明1の構成を採用しようとする動機付けが、甲1-5発明にあるとはいえない。
上記相違点4に係る本件発明1の構成を採用しようとする動機付けが甲1-5発明にないのであるから、他の証拠の記載内容にかかわらず、上記相違点4に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到しえたということはできないが、念のため、他の証拠の記載事項についても検討する。
上記(3)ア(イ)で述べたように、甲1-2及び甲1-3には、少なくとも、カーボンナノチューブ分散液において、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%~5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下とすることは記載されていない。
そして、分散液の位相角は、分散剤および分散媒の種類等によるところ、分散剤が、ニトリルブタジエン系ゴムであり、分散媒が、アミド系極性有機溶媒等の有機溶媒である甲1-2における導電材分散液は、分散剤が、カルボキシメチルセルロースであり、分散媒が水である、甲1-5発明と相違するから、単純に、甲1-2に記載される位相角を、甲1-5発明に適用することができるとはいえないし、甲1-2に記載される、正極形成用組成物の実施例である実施例3-2の位相角及び|G*|(Pa)の値を、カーボンナノチューブ含有組成物の分散液である甲1-5発明に適用できるとはいえない。
また、甲1-3における導電材分散液も、甲1-2における導電材分散液の場合と同様に、分散液における分散剤、分散媒等が、甲1-5発明と異なるのであるから、単純に、甲1-3に記載される複素弾性率を、甲1-5発明に適用することができるとはいえない。
さらに、位相角の値に応じて複素弾性率の値が変化するのであるから、この点でも単純に、甲1-2に記載される位相角のみを、甲1-3に記載される複素弾性率のみを、それぞれ甲1-5発明に適用することができるとはいえない。
甲1-4には、位相角及び複素弾性率に関する記載はない。
そうすると、甲1-5発明において、複素弾性率及び位相角を本件発明1の範囲すること、ましてやそれらの積の値を本件発明1の範囲とすることは、甲1-2~甲1-4に記載された事項を考慮したとしても、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
b 申立理由4について
上記(ア)で述べたとおり、上記相違点4に係る本件発明1の構成を採用しようとする動機付けが甲1-5発明にあるとはいえないから、他の証拠の記載内容にかかわらず、上記相違点4に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到しえたということはできないが、念のため、他の証拠の記載事項についても検討する。
甲1-2、甲1-3に加え、甲2-4の上記(1)キの記載事項を見ても、少なくとも、カーボンナノチューブ分散液において、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%~5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下とすることは記載されていない。
そして、甲1-1及び甲1-2の記載事項を甲1-5発明に適用することができないことは、上記(ア)で述べたとおりである。
また、甲2-4の上記同キ(エ)の【0052】には、「レオロジー特性のうち、位相角の分析によって、一定のせん断速度を加えた後のスラリーの位相角の値が45゜以上であれば、良好な分散性を有すると言われる。図2を参照すれば、実施例のスラリーは、せん断速度を加えた後のスラリーの位相角の値が45゜以上を示していることから、良好な分散性を有しているといえる。」との記載がある。しかしながら、上記の「実施例のスラリー」とは、上記同(エ)の【0044】の記載によれば、電極活物質分散物であるのに対し、上記同(ア)及び同(エ)の【0040】の記載によれば、本件発明1のカーボンナノチューブ分散液に対応するのは、甲2-4の「導電材分散物」であるところ、この導電材分散物は、上記同(オ)の図2における評価によれば位相角が5°程度しかないものであるから、甲1-5発明に、甲2-4に記載の事項を適用したとしても、甲1-5発明のカーボンナノチューブ分散液における位相角を高めるものとはならない。しかも、位相角を測定している導電材分散物における、導電材はカーボンブラックであり、分散剤は使用しておらず、分散媒もNMP(N-メチル-2-ピロリドン)であり、甲1-5発明のカーボンナノチューブ分散液とは異なるものであるから、単純に、甲2-4に記載される位相角を、甲1-5発明に適用することができるとはいえない。
さらに、位相角の値に応じて複素弾性率の値が変化するのであるから、この点でも単純に、甲2-4に記載される位相角のみを、甲1-5発明に適用することができるとはいえない。
なお、甲1-2、甲1-3及び甲2-4の記載から、分散液におけるカーボンナノチューブの分散性が複素弾性率や位相角と関連付けられた(異議申立人2の異議申立書10頁7~9行)としても、それらの積(X×Y)を100以上1,500以下とすることを容易に想到し得るとはいえない。
甲1-1及び甲2-6には、位相角及び複素弾性率に関する記載はない。
そうすると、甲1-5発明において、複素弾性率及び位相角を本件発明1の範囲すること、ましてやそれらの積の値を本件発明1の範囲とすることは、甲1-1~甲1-3、甲2-4及び甲2-6に記載された事項を考慮したとしても、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり、上記相違点4に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-5発明及び甲1-1~甲1-5に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし(申立理由2)、甲1-5発明及び甲1-5、甲1-1~甲1-3、甲2-4及び甲2-6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない(申立理由4)。
イ 本件発明2、3、5~14について
本件発明2、3、5~10は、カーボンナノチューブ分散液の発明であり、本件発明11は、二次電池電極用組成物の発明であり、本件発明12は、電極膜の発明であり、本件発明13は、二次電池の発明であり、本件発明14は、カーボンナノチューブ分散液分散液の製造方法の発明であるが、これらの発明は、いずれも直接又は間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2、3、5~14は、甲1-5発明及び甲1-1~甲1-5に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし(申立理由2)、甲1-5発明及び甲1-5、甲1-1~甲1-3、甲2-4及び甲2-6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない(申立理由4)。
ウ 申立理由2及び4に関するまとめ
以上のとおり、本件発明1~3、5~14について、申立理由2及び4には理由がない。
(5)申立理由3について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1-6発明を対比すると、甲1-6発明の「カーボンナノチューブ含有組成物」は、上記(1)カ(ウ)の【0013】の記載によれば、「複数のカーボンナノチューブを含む総体」を意味するものであるから、本件発明1の「カーボンナノチューブ」に相当する。
そして、カルボキシメチルセルロースまたはその塩について、甲1-6発明のエーテル化度の範囲(0.4以上0.7未満)は、本件発明1の範囲(0.5~0.9)に含まれ、甲1-6発明の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量の範囲(1万以上6万以下)は、本件発明1の重量平均分子量の範囲(1万~10万)に含まれるものである。
そうすると、両発明は、「カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、 前記カルボキシメチルセルロースまたはその塩が、重量平均分子量が1万~10万、エーテル化度が0.5~0.9である、
カーボンナノチューブ分散液。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点5>
カーボンナノチューブ分散液について、本件発明1では、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%~5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下であり、複素弾性率が100Pa未満、位相角が15°以上であるのに対し、甲1-6発明では、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)、複素弾性率及び位相角が明らかでない点。
(イ)相違点についての検討
上記(4)ア(イ)aで述べたように、上記相違点5に係る本件発明1の構成は、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を前提とし、少なくとも数質量%を超えるカーボンナノチューブ濃度を有する分散液を得ることを可能とするための構成であるといえる。
一方、甲1-6の上記(1)カ(カ)【0045】の「分散液全体に対するカーボンナノチューブ含有組成物の量は0.01重量%以上、20重量%以下であることが好ましく、0.01~10重量%であることが好ましい。」との記載によれば、甲1-6発明における分散液について、分散液全体に対するカーボンナノチューブ含有組成物の量として広範な範囲が記載されるものの、甲1-6の上記同(キ)の【0096】に記載される実施例では、カーボンナノチューブ含有組成物15mg、3質量%カルボキシメチルセルロースアンモニウム水溶液500mgを量りとり、蒸留水を加え10gにし、分散前のカーボンナノチューブ混合液を調製し、1質量%アンモニア水溶液を用いてpH7にあわせ、超音波ホモジナイザーで分散して、カーボンナノチューブ分散液を調製しているように、 カーボンナノチューブ含有組成物の分散液における濃度は、約0.15重量%程度であることから、甲1-6発明は、実際には、本件発明1のカーボンナノチューブ分散液のように、カーボンナノチューブを少なくとも数質量%を超えて含有させようとするものであるとはいえない。
そうすると、上記(4)ア(イ)aで述べたのと同様に、高いカーボンナノチューブの濃度に対応して特定される上記相違点5に係る本件発明1の構成を採用しようとする動機付けが甲1-6発明にあるとはいえない。
また、甲1-2~甲1-4を考慮しても、上記相違点5に係る本件発明1の構成が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないことも、上記(4)ア(イ)aで述べたのと同様である。
さらに、甲1-5には、位相角及び複素弾性率に関する記載はないのであるから、さらに、甲1-5を考慮したとしても、上述の判断は変わらない。
(ウ)小括
以上のとおり、上記相違点5に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲1-6発明及び甲1-1~甲1-6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2、3、5~14について
本件発明2、3、5~10は、カーボンナノチューブ分散液の発明であり、本件発明11は、二次電池電極用組成物の発明であり、本件発明12は、電極膜の発明であり、本件発明13は、二次電池の発明であり、本件発明14は、カーボンナノチューブ分散液分散液の製造方法の発明であるが、これらの発明は、いずれも直接又は間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2、3、5~14は、甲1-6発明及び甲1-1~甲1-6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立理由3に関するまとめ
以上のとおり、本件発明1~3、5~14について、申立理由3には理由がない。
第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本件特許1~3、5~14は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1、2及び上記申立理由1~4では、本件特許1~3、5~14を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~3、5~14を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許4は、本件訂正により削除され、本件特許4に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700997