特許異議申立
2024-700918
集塵水の処理方法
- 審判番号
- 2024-700918
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-129549
- 登録番号
- 7454092
- 請求日
- 2024年09月24日
- 審決日
- 2025年06月16日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日鉄環境株式会社
- 【権利者代理人】近藤 利英子
- 【権利者代理人】菅野 重慶
- 【権利者代理人】竹山 圭太
- 【権利者代理人】岡田 薫
- 【異議申立人】松山 徳子
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 原 賢一
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1651.536-YAA(C02F) / P1651.537-YAA(C02F) / P1651.113-YAA(C02F) / P1651.121-YAA(C02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7454092号発明「集塵水の処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7454092号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7454092号の請求項1、2、4~6に係る特許を維持する。
特許第7454092号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7454092号の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和5年8月8日を出願日とする出願であり、令和6年3月12日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、同年9月24日に、その請求項1~6に係る特許を対象として特許異議申立人松山徳子(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、同年12月17日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和7年2月18日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、それに対し、同年3月31日に異議申立人より意見書の提出があったものである。
第2 訂正の適否
1 訂正事項
本件訂正は、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「排ガスを湿式集塵処理して得られる、懸濁物質、シアン化物イオン、及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に過酸化水素を添加すること;
・・・
前記固液分離設備で前記集塵水中の前記懸濁物質とは分離された分離液の一部を洗浄水として循環設備で前記湿式集塵処理に供給すること;を含み、」とあるのを、「排ガスを湿式集塵処理して得られる、懸濁物質、シアン化物イオン、及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に過酸化水素を添加すること;
・・・
前記固液分離設備で前記集塵水中の前記懸濁物質とは分離された分離液の一部を洗浄水として循環設備で前記湿式集塵処理に供給すること;を含み、
前記還元性硫黄成分が、チオ硫酸イオンであり、」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2、4~6も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記集塵水への前記過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)が、前記集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、1.2倍以上であり、」とあるのを、「前記集塵水への前記過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)が、前記集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、1.2倍以上7.0倍以下であり、」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2、4~6も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件明細書の【0032】の「還元性硫黄成分としては、例えば、硫化物イオン(S2-)、チオ硫酸イオン(S2O32-)、亜ジチオン酸イオン(S2O42-)、亜硫酸イオン(SO32-)、重亜硫酸イオン(HSO3-)、トリチオン酸イオン(S3O62-)やテトラチオン酸イオン(S4O62-)を含むポリチオン酸イオン(SnO62-、ただしn>2)、及びこれらの塩(化合物)、並びに単体硫黄(S)、及び硫化水素(H2S)等を挙げることができる。」との記載に基づいて、また、同【0077】~【0090】に記載される試験例において、例えば、同【0079】には、「懸濁物質中の、全硫黄(S)に含まれるチオ硫酸イオン(S2O32-)の含有量(質量%)を、ヨウ素滴定法によって求めた」、同【0085】には、「試験例D1~6では、模擬集塵水に、さらに溶解性の還元性硫黄化合物であるチオ硫酸ナトリウムの1質量%濃度の水溶液を添加し、模擬集塵水にチオ硫酸イオン(S2O32-)を50mg/L含有させた。」とあり、【0080】の表2、【0082】の表3、【0087】の表4及び【0089】の表5には、「S2O32-」の項目があることから、集塵水中の還元性硫黄化合物として、チオ硫酸イオン(S2O32-)が具体的に例示されているといえることに基づき、本件訂正前の請求項1の「還元性硫黄成分」を「チオ硫酸イオン」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項3の「前記集塵水への前記過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)が、前記集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、7.0倍以下である」との記載に基づき、本件訂正前の請求項1における、集塵水への過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)の範囲に上限を規定し、その範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~6〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1~6に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。なお、「本件発明」については、本件訂正前のものに対しても区別せずに用いることがある。)は、次のとおり特定されるものである。
「【請求項1】
排ガスを湿式集塵処理して得られる、懸濁物質、シアン化物イオン、及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に過酸化水素を添加すること;
前記集塵水中で前記過酸化水素を反応させること;
前記過酸化水素を添加し、反応させた前記集塵水を固液分離設備で固液分離処理すること;
前記固液分離設備で前記集塵水中の前記懸濁物質とは分離された分離液の一部を洗浄水として循環設備で前記湿式集塵処理に供給すること;を含み、
前記還元性硫黄成分が、チオ硫酸イオンであり、
前記集塵水への前記過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)が、前記集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、1.2倍以上7.0倍以下であり、
前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり、
前記集塵水中で前記過酸化水素を反応させることが、前記集塵水中で1mg-Cu/L以上の銅濃度の存在下で前記過酸化水素を反応させることである集塵水の処理方法。
【請求項2】
前記集塵水中で前記過酸化水素を反応させる際に、前記集塵水に銅化合物を1mg-Cu/L以上の銅濃度にて添加することを含む請求項1に記載の集塵水の処理方法。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記集塵水の懸濁物質濃度が、500mg/L以上である請求項1に記載の集塵水の処理方法。
【請求項5】
前記集塵水を前記固液分離設備に供給する流路において、前記流路を流れる前記集塵水に前記過酸化水素を添加する請求項1に記載の集塵水の処理方法。
【請求項6】
前記集塵水の全シアン濃度が、3mg-CN/L以上である請求項1に記載の集塵水の処理方法。」
第4 令和6年12月17日付けで通知した取消理由、及び異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 令和6年12月17日付けで通知した取消理由の概要
(1)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1~6に係る特許は、その請求項1~6の記載が下記(3)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由1」とする。)。
(2)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)
設定登録時の請求項1~6に係る特許は、その請求項1~6の記載が下記(4)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由2」とする。)。
(3)取消理由1の内容
ア サポート要件判断の規範と本件発明の課題
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するものとされている。
本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明の課題は、【0009】に記載されるように、「シアン化物イオン及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に対して、生成しうるチオシアン酸イオン中のシアン分と全シアン濃度を含めたシアン残存率の低い処理水を得ることが可能な集塵水の処理方法を提供」することにあるといえる。
イ 本件発明の課題に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載
上記アの発明の課題に対応して、【課題を解決するための手段】として、【0010】には、「排ガスを湿式集塵処理して得られる、懸濁物質、シアン化物イオン、及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に過酸化水素を添加すること;前記集塵水中で前記過酸化水素を反応させること;前記過酸化水素を添加し、反応させた前記集塵水を固液分離設備で固液分離処理すること;前記固液分離設備で前記集塵水中の前記懸濁物質とは分離された分離液の一部を洗浄水として循環設備で前記湿式集塵処理に供給すること;を含み、前記集塵水への前記過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)が、前記集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、1.2倍以上であり、前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり、前記集塵水中で前記過酸化水素を反応させることが、前記集塵水中で1mg-Cu/L以上の銅濃度の存在下で前記過酸化水素を反応させること」が記載されている。
ここで、「集塵水の酸化還元電位(ORP)」について、【0020】には、「処理対象である集塵水中の固体又は溶解性の還元性硫黄成分等の還元性物質の濃度が高いほど、必要となる過酸化水素の量は増えると考えられる。集塵水中に還元性硫黄成分等の還元性物質が多くなると、過酸化水素がシアン化物イオンよりも還元性物質に優先的に反応すると考えられるためである。この観点から、本方法では、集塵水への過酸化水素の添加濃度に関して、過酸化水素を添加した直後の集塵水の酸化還元電位(ORP)も指標とする。」と記載され、【0022】には、【0010】に記載の手段をとることにより、「集塵水中のシアン化物イオンの分解とチオシアン酸イオンの生成抑制とのバランスをとることができ、チオシアン酸イオン中のシアン分と全シアン濃度を含めたシアン残存率の低い処理水、具体的には、シアン残存率が50%以下の一次処理水を得ることが可能である」ことが記載され、集塵水に含まれる「還元性硫黄成分」としては、【0032】に「還元性硫黄成分は、硫黄原子を有するイオン、又は硫黄原子を有する化合物(還元性硫黄化合物)である。還元性硫黄成分としては、例えば、硫化物イオン(S2-)、チオ硫酸イオン(S2O32-)、亜ジチオン酸イオン(S2O42-)、亜硫酸イオン(SO32-)、重亜硫酸イオン(HSO3-)、トリチオン酸イオン(S3O62-)やテトラチオン酸イオン(S4O62-)を含むポリチオン酸イオン(SnO62-、ただしn>2)、及びこれらの塩(化合物)、並びに単体硫黄(S)、及び硫化水素(H2S)等を挙げることができる。上述の塩としては、カリウム及びナトリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、並びにアンモニウム塩等が挙げられる。集塵水には、1種の還元性硫黄成分が単独で含有されていてもよく、2種以上の還元性硫黄成分が含有されていてもよい。」と記載され、この還元性硫黄成分の集塵水中での濃度について、【0033】には、「集塵水の還元性硫黄成分濃度は、特に限定されない。集塵水中の還元性硫黄成分の全種類を特定することは実際的ではないことから、硫黄(S)換算濃度で示すと、0.2~100mg-S/Lであることが好ましく、0.5~50mg-S/Lであることがより好ましく、1.0~50mg-S/Lであることがさらに好ましい。」と記載され、さらに、過酸化水素の添加濃度について、【0043】には、「過酸化水素の添加量の増加に伴い、チオシアン酸イオンの生成量が増加する傾向にあることがわかった。そのため、チオシアン酸イオンの生成量とのバランス、すなわち、シアン残存率を低くする観点から、集塵水への過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)は、集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、7.0倍以下であることが好ましく、6.7倍以下であることがより好ましく、6.0倍以下であることがさらに好ましい。」と記載され、【0044】には、「処理対象である集塵水の還元性硫黄成分等の還元性物質の濃度が比較的高い場合、過酸化水素がシアン化物イオンよりも還元性硫黄成分等の還元性物質に優先的に反応する可能性がある。そのため、集塵水への過酸化水素の添加濃度は、過酸化水素を添加した直後の集塵水(換言すると、過酸化水素と集塵水の混合液)の酸化還元電位(ORP)≧200+59×(7-pH測定値)mVを満たす量とする。この式中のpH測定値は、過酸化水素を添加した直後の集塵水(上記混合液)のpH測定値であり、ORP(mV)の値は、過酸化水素を添加した直後の上記pH測定値での集塵水(上記混合液)のORP測定値である。例えば、上記pH測定値が6.0の場合には上記ORPは259mV以上、上記pH測定値が8.0の場合には上記ORPは141mV以上、上記pH測定値が9.0の場合には上記ORPは82mV以上である。本方法の好ましい一態様において、ORP測定値に基づいて、集塵水への過酸化水素の添加濃度を制御することも可能である。」と記載されている。
そして、集塵水中のCuについては、【0047】に、「集塵水中に過酸化水素を反応させる際に、1mg-Cu/L以上の銅濃度が存在することにより、シアン化物イオンの分解が促進されるとともに、チオシアン酸イオンの生成を抑制しやすくなる。」と記載されている。
また、本件発明の実施例では、予備実験例として、T-CN濃度、F-CN濃度、SCN濃度、及びアンモニア態窒素濃度が下記表1に示される2種の原水に(【0077】、【0078】)、
[図:0001426835000001.jpg]
下記表2に示される元素組成で、特に懸濁物質SS1は、全硫黄(S)に対してチオ硫酸イオン(S2O32-)を含む、懸濁物質SS1及び懸濁物質SS2を添加し(【0079】、【0080】)、
[図:0001426835000002.jpg]
下記表3の「模擬集塵水」欄に示す模擬集塵水を調製し、予備実験例1~5では、模擬集塵水に、さらに溶解性の還元性硫黄化合物であるチオ硫酸ナトリウムの1質量%濃度の水溶液を添加し、模擬集塵水にチオ硫酸イオン(S2O32-)を50mg/L含有させて、35質量%濃度の過酸化水素水を添加し、得られた処理水についてのT-CN濃度(溶解性T-CN;mg-CN/L)及びSCN濃度(溶解性SCN;mg-SCN/L)の測定し、並びにSCN中CN(mg/L)及びCN残存率(%)を計算している(【0081】、【0082】)。
[図:0001426835000003.jpg]
この予備実験例の結果によれば、懸濁物質、シアン化物イオン、及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に過酸化水素を添加すると、シアン化物イオンと還元性硫黄とが反応し、チオシアン酸イオンが生じると考えられるとしている(【0084】)。
次に、(試験例A~E)では、下記表4の「模擬集塵水」欄に示す原水200mL、及び「模擬集塵水」欄に示すSS濃度(mg/L)となる量の懸濁物質SS1を混合して模擬集塵水を調製し、この際、試験例D1~6では、模擬集塵水に、さらに溶解性の還元性硫黄化合物であるチオ硫酸ナトリウムの1質量%濃度の水溶液を添加し、模擬集塵水にチオ硫酸イオン(S2O32-)を50mg/L含有させ、この模擬集塵水に、表4の「H2O2添加濃度」欄に示すH2O2量となる35質量%濃度の過酸化水素水、及び表4の「CuSO4添加濃度」欄に示す銅濃度となる1質量%濃度の硫酸銅(II)5水和物の水溶液を添加し、過酸化水素を添加した直後の所定のpHでの模擬集塵水(混合液)の酸化還元電位(ORP)を測定すると共に、得られた処理水についてのT-CN濃度(溶解性T-CN;mg-CN/L)及びSCN濃度(溶解性SCN;mg-SCN/L)を測定し、SCN中CN(mg/L)及びCN残存率(%)を計算している(【0085】~【0087】)。
[図:0001426835000004.jpg]
この結果によれば、処理水のCN残存率を50%以下にするには、懸濁物質、シアン化物イオン、及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に、集塵水中の全シアン濃度に対して1.2倍以上の濃度となる過酸化水素を添加すること、過酸化水素の添加濃度については、過酸化水素を添加した直後の集塵水(混合液)のORPを、200+59×(7-pH測定値)mV以上とする必要があること、集塵水中で過酸化水素を反応させる際には、集塵水中に1mg-Cu/L以上の濃度の銅の存在が必要であることが確認されたとしている(【0090】)。
以上の本件明細書の記載に基づき、上記アの発明の課題を解決することができる範囲について検討すると、本件明細書で、【課題を解決するための手段】として記載される【0010】に記載されるように、少なくとも、「排ガスを湿式集塵処理して得られる、懸濁物質、シアン化物イオン、及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に過酸化水素を添加すること;前記集塵水中で前記過酸化水素を反応させること;前記過酸化水素を添加し、反応させた前記集塵水を固液分離設備で固液分離処理すること;前記固液分離設備で前記集塵水中の前記懸濁物質とは分離された分離液の一部を洗浄水として循環設備で前記湿式集塵処理に供給すること;を含み、前記集塵水への前記過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)が、前記集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、1.2倍以上であり、前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり、前記集塵水中で前記過酸化水素を反応させることが、前記集塵水中で1mg-Cu/L以上の銅濃度の存在下で前記過酸化水素を反応させること」が必要であるといえるし、【0087】の表4に記載される試験例についても、【0010】で記載される事項の範囲に含まれる試験例であれば、「CN残存率」が50%以下となって、上記アで述べた発明の課題を解決しているものであることが理解できる。
他方で、上記の過酸化水素の添加濃度に関し、【0043】の「過酸化水素の添加量の増加に伴い、チオシアン酸イオンの生成量が増加する傾向にあることがわかった。」との記載によれば、過酸化水素の添加量を多くし過ぎてしまうと、チオシアン酸イオンが増加してしまうことになるから、上記アの「生成しうるチオシアン酸イオン中のシアン分と全シアン濃度を含めたシアン残存率の低い処理水を得る」という発明の課題を解決できないこととなる。
そうすると、上記アの発明の課題を解決するには、過酸化水素の添加濃度には限度があるといえ、【0043】に記載されるように、「集塵水への過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)は、集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、7.0倍以下である」ことが肝要であるといえる。
また、上記アの発明の課題は、【0007】等に記載されるように、「シアン化物イオン及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に過酸化水素を添加すると、チオシアン酸イオンが生成しうること」を前提としており、仮に、「シアン化物イオン及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に過酸化水素を添加」しても「チオシアン酸イオンが生成」しないのであれば、上記アの発明の課題が生じることはないし、また、発明の課題が解決できるということもない。
ここで、本件明細書では、シアン化物イオン及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に過酸化水素を添加すると、チオシアン酸イオンが生成することの作用機序が明らかにされていないため、単に「還元性硫黄成分」とされるものが、必ず「チオシアン酸イオン」を生成するものであるのか明らかでない。また、本件明細書では、【0032】に種々の還元性硫黄成分が記載されているものの、上記【0077】~【0087】に記載される試験例において、懸濁物質に含まれることが明示されているのは、S2O32-であるチオ硫酸イオンのみであるし(【0079】、【0080】の表2)、模擬集塵水に添加されている還元性硫黄成分も、チオ硫酸イオンのみであるから(【0081】、【0082】の表3、【0085】、【0087】の表4)、本件明細書の記載からは、「シアン化物イオン及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に過酸化水素を添加すると、チオシアン酸イオンが生成しうる」「還元性硫黄成分」としては、「チオ硫酸イオン」しか理解することができない。
そうすると、上記アの発明の課題を解決するには、「還元性硫黄成分」は、「チオ硫酸イオン」であることが肝要であるといえる。
ウ 特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対比
上記イで述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと、上記アの発明の課題を解決するには、上記【0010】に課題を解決するための手段として記載される事項に加えて、「集塵水への過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)は、集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、7.0倍以下である」こと、「還元性硫黄成分」は、「チオ硫酸イオン」であることが肝要であるといえる。
しかしながら、前者の事項は、設定登録時の請求項1、2、4~6に係る発明に特定されていないし、後者の事項は、設定登録時の請求項1~6に係る発明に特定されていない。
そうすると、設定登録時の請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
エ まとめ
上記ウについて、上記アのサポート要件判断の規範への当てはめを行うと、設定登録時の請求項1~6に係る発明は、サポート要件を満たしていない。
(4)取消理由2の内容
設定登録時の請求項1には、「前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり」との記載がある。
ここで、集塵水に過酸化水素が拡散するには所定の時間が必要である一方、集塵水の酸化還元電位(ORP)は、過酸化水素の反応に応じて変化するといえるが、「添加した直後」とは抽象的な記載で、測定される酸化還元電位(ORP)との関係で、どのような時期を「直後」としているのか明らかでない。
設定登録時の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~6についても、同様である。
2 異議申立人による特許異議の申立理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)
設定登録時の請求項1~3、6に係る発明は、下記3に記載の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、それらの特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(甲第2、3号証を参考とする。以下、「申立理由1」という。)。
(2)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~6に係る発明は、下記3に記載の甲第1号証に記載された発明及び甲第2~4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2」という。)。
(3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1~6に係る特許は、請求項1~6の記載が下記(6)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由3」という。)。
(4)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)
本件特許は、設定登録時の請求項1~6に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載が下記(7)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由4」という。)。
(5)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)
設定登録時の請求項1~6に係る特許は、請求項1~6の記載が下記(8)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由5」という。)。
(6)申立理由3の内容
ア 本件発明の課題は、「生成しうるチオシアン酸イオン中のシアン分と全シアン濃度を含めたシアン残存率の低い処理水を得ることが可能な集塵水の処理方法の提供」であるところ、本件明細書の【0043】に記載のとおり、「本発明者らの実験に基づく検討の結果、過酸化水素の添加量の増加に伴い、チオシアン酸イオンの生成量が増加する傾向にある」ため、過酸化水素の添加濃度の上限が特定されていないと、上記課題の一部である「生成しうるチオシアン酸イオン中のシアン分の低い処理水を得ること」を達成し得ない。上記課題を解決するためには、「集塵水中に1mg-Cu/L以上の銅濃度の存在下で過酸化水素を反応させることを含み、集塵水への過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)を集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して1.2倍以上とし、かつ、過酸化水素を添加した直後の集塵水の酸化還元電位(ORP)を「200+59×(7-pH測定値)mV」以上とする」ことに加え、過酸化水素の添加濃度の上限を特定する必要がある。
以上より、設定登録時の請求項1、2、4~6に係る発明は、過酸化水素の添加濃度の上限が特定されておらず、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるため、サポート要件を具備していない(「申立理由3-1」とする。)。
イ 本件明細書の【0007】の記載によれば、集塵水への過酸化水素の添加及び反応により生じるチオシアン酸イオンは、集塵水中に還元性硫黄成分が含有されている場合に過酸化水素を添加すると生成される成分であることが確認できる。
しかしながら、本件発明では、集塵水中の還元性硫黄成分濃度と集塵水に添加される過酸化水素の添加濃度との関係については何ら規定されておらず、集塵水中の還元性硫黄成分の濃度がいかなる場合であっても、上記アの課題の一部である「生成し得るチオンシアン酸イオン中のシアン分の低い処理水を得る」ことを達成し得るとはいえない。
なぜなら、集塵水中の還元性硫黄成分の濃度が高い場合、集塵水中の酸化還元電位(ORP)はマイナスの値であるが、その場合、「集塵水への過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)を集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して1.2倍以上であり、前記過酸化水素を添加した直後の集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり、」との構成を満たす程度に集塵水に過酸化水素を添加すると、チオシアン酸イオンが大量に生成するためである。
以上より、設定登録時の請求項1~6に係る発明は、集塵水中の還元性硫黄成分濃度と集塵水に添加される過酸化水素の添加濃度との関係については何ら規定されておらず、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるため、サポート要件を具備していない(「申立理由3-2」とする。)。
ウ 本件発明は、「排ガスを湿式集塵処理して得られる、懸濁物質、シアン化物イオン、及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に過酸化水素を添加すること;」との構成を含む集塵水の処理方法である。
ここで、本件明細書の【0017】に、「シアン化物イオンを含有する集塵水への過酸化水素の添加及び反応により、測定値としての全シアン濃度が、処理対象である集塵水の全シアン濃度よりも低い処理水を得ることが可能である。その一方で、シアン化物イオン及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に過酸化水素を添加し、反応させると、チオシアン酸イオンが生成しうる」との記載があり、また、【0032】に「還元性硫黄成分としては、例えば、硫化物イオン(S2-)、チオ硫酸イオン(S2O32-)、亜ジチオン酸イオン(S2O42-)、亜硫酸イオン(SO32-)、重亜硫酸イオン(HSO3-)、トリチオン酸イオン(S3O62-)やテトラチオン酸イオン(S4O62-)を含むポリチオン酸イオン(SnO62-、ただしn>2)、及びこれらの塩(化合物)、並びに単体硫黄(S)、及び硫化水素(H2S)等を挙げることができる。」との記載がある。
しかしながら、上記【0032】に記載の還元性硫黄成分のうち、チオ硫酸イオンは過酸化水素と反応しチオシアン酸イオンが生成し得る成分として公知であるが、チオ硫酸イオン以外の還元性硫黄成分については過酸化水素と反応することによりチオシアン酸イオンが生成し得る成分であるかは公知文献等から確認できず、チオシアン酸イオンの生成原因となるのか不明である。
さらに、本件明細書の実施例を確認しても、試験例で用いた原水、及び、模擬集塵水に含まれることが確認される還元性硫黄成分は、チオ硫酸イオン(S2O32-)のみであり、チオ硫酸イオン(S2O32-)を含む被試験水についてはチオシアン酸イオン(SCN)が生じることは認められるものの、他の還元性硫黄成分を含む被試験水については何ら開示も示唆もされておらず、水中のシアン化物イオン及び過酸化水素と反応し、チオシアン酸イオン(SCN)を生じることは何ら確認することができない。
以上より、設定登録時の請求項1に係る発明で特定される「還元性硫黄成分」は、チオ硫酸イオン以外の成分についてチオシアン酸イオンの生成が認められるものではなく、当業者であっても、設定登録時の請求項1に係る発明(設定登録時の請求項2~6に係る発明)の全体にわたって、本件発明の課題が解決できるとは認識できないため、サポート要件を具備しない(「申立理由3-3」とする。)。
(7)申立理由4の内容
上記(6)イに記載の通り、本件明細書の全体を確認しても、集塵水中の還元性硫黄成分濃度と集塵水に添加される過酸化水素の添加濃度との関係については何ら規定されておらず、集塵水中の還元性硫黄成分の濃度がいかなる場合であっても、本件発明の課題を解決できるとは当業者であっても認識し得ない。
よって、設定登録時の請求項1~6に係る発明は、本件明細書の全体を照らしても当業者が実施できる程度に充分に記載されていないため、実施可能要件を具備していない。
(8)申立理由5の内容
本件発明は、「前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり」との構成を含む集塵水の処理方法である。
しかしながら本件明細書の全体を確認しても、「過酸化水素を添加した直後の集塵水」とは、過酸化水素を添加した後どのくらいの時間が経過した、又は、過酸化水素を添加した後どのくらいの時間が経過する前まで、の集塵水を示しているのか不明である。水中の酸化還元電位は、薬剤添加後の測定時間、測定位置により得られる結果が異なるものであるため、「過酸化水素を添加した直後の集塵水」が明確に理解できなければ、「過酸化水素を添加した直後の集塵水の酸化還元電位(ORP)」の測定値を一義的に導くことができず、上記構成を満たすか否か、当業者であっても判断することができない。
よって、設定登録時の請求項1~6は、明確性要件を具備していない。
3 提出された証拠
甲第1号証:特開2021-137802号公報
甲第2号証:特開平7-204662号公報
甲第3号証:特開2020-179329号公報
甲第4号証:特開2023-10580号公報
(以下、甲第1号証を略して、「甲1」などという。)
第5 当審の判断
当審は、上記取消理由1、2及び申立理由1~5のいずれの理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。
以下、その理由について詳述する。
1 記載要件に関する理由
(1)サポート要件違反に関する取消理由1、申立理由3について
ア 取消理由1について
本件発明のサポート要件の判断は、上記第4の1(3)アに記載の「サポート要件の判断手法」に従って判断すべきところ、この「サポート要件の判断手法」に従って判断すると、同(3)ウで述べたように、設定登録時の請求項1、2、4~6で、「集塵水への過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)は、集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、7.0倍以下である」こと、及び設定登録時の請求項1~6で、「還元性硫黄成分」は、「チオ硫酸イオン」であることが、サポート要件を充足するには必要である。
そして、第2の1で述べた本件訂正(訂正事項1及び2)によって、本件発明1~6は、第3に記載されるとおりのものとなり、「集塵水への過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)が、集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、」「7.0倍以下であ」ること、及び「還元性硫黄成分が、チオ硫酸イオンであ」ることが特定された。
そうすると、本件訂正によって、本件発明(本件発明1、2、4~6)において、サポート要件を充足するために必要な事項が全て特定されたことになるから、本件発明は、サポート要件を充足するものであり、取消理由1には、理由がない。
イ 申立理由3について
(ア)申立理由3-1、申立理由3-3について
申立理由3-1は、要は、設定登録時の請求項1、2、4~6に係る発明が、サポート要件を充足するには、過酸化水素の添加濃度の上限を特定する必要があるとするものであり、申立理由3-3は、要は、設定登録時の請求項1~6に係る発明が、サポート要件を充足するには、集塵水中の還元性硫黄成分がチオ硫酸イオンであることを特定する必要があるとするものである。
上記アで述べたように、本件訂正によって、これらの事項は、本件発明1、2、4~6で特定されたのであるから、申立理由3-1、申立理由3-3には、理由がない。
(イ)申立理由3-2について
上記アで述べたように、本件訂正によって、本件発明において、「集塵水への過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)が、集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、」「7.0倍以下であ」ること、及び「還元性硫黄成分が、チオ硫酸イオンであ」ることが特定され、上記第4の1(3)イで述べた、本件発明の課題を解決するのに必要とされている全ての事項が特定されていることになるから、本件発明はサポート要件を充足するものであり、申立理由3-2には、理由がないが、念のため、申立理由3-2について、以下検討する。
まず、申立理由3-2では、集塵水中の還元性硫黄成分の濃度が高い場合、「前記集塵水への前記過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)が、前記集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、1.2倍以上であり、前記過酸化水素を添加した直後の集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり」との構成を満たす程度に集塵水に過酸化水素を添加すると、チオシアン酸イオンが大量に生成する、としているが、本件発明は、集塵水への過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)を集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して7.0倍以下とするものでもある。そして、本件明細書の【0043】の「本発明者らの実験に基づく検討の結果、過酸化水素の添加量の増加に伴い、チオシアン酸イオンの生成量が増加する傾向にあることがわかった。そのため、チオシアン酸イオンの生成量とのバランス、すなわち、シアン残存率を低くする観点から、集塵水への過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)は、集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、7.0倍以下であることが好ましく、6.7倍以下であることがより好ましく、6.0倍以下であることがさらに好ましい。」との記載によれば、過酸化水素の添加量の増加に伴い、チオシアン酸イオンの生成量が増加する傾向があることに対して、集塵水への過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)を、集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、7.0倍以下とすることにより、チオシアン酸イオンの生成量とのバランスをとる、すなわち、シアン残存率を低くすることができるのであるから、申立理由3-2にあるように、集塵水中の還元性硫黄成分の濃度が高い場合であっても、チオシアン酸イオンが大量に生成するということはない。
しかも、本件発明は、「前記集塵水中で前記過酸化水素を反応させることが、前記集塵水中で1mg-Cu/L以上の銅濃度の存在下で前記過酸化水素を反応させる」ことが特定されるものであるところ、同【0047】の「本方法は、集塵水中に1mg-Cu/L以上の銅濃度の存在下で過酸化水素を反応させることを含む。集塵水中に過酸化水素を反応させる際に、1mg-Cu/L以上の銅濃度が存在することにより、シアン化物イオンの分解が促進されるとともに、チオシアン酸イオンの生成を抑制しやすくなる。」との記載によれば、反応集塵水中での過酸化水素の反応を、1mg-Cu/L以上の銅濃度の存在下で行うことによって、シアン化物イオンの分解を促進するとともに、チオシアン酸イオンの生成を抑制することができるのであるから、本件発明において、集塵水中の還元性硫黄成分の濃度が高い場合であっても、チオシアン酸イオンが大量に生成するということはない。
そうすると、本件発明において、集塵水中の還元性硫黄成分濃度と集塵水に添加される過酸化水素の添加濃度との関係が特定されていなくとも、「生成し得るチオンシアン酸イオン中のシアン分を含めたシアン残存率の低い処理水を得る」ことを達成できるといえるのであるから、申立理由3-2には、理由がない。
(ウ)上記(ア)及び(イ)で述べたとおり、申立理由3には、理由がない。
(2)明確性要件違反に関する取消理由2、申立理由5について
取消理由2と申立理由5は、共に、本件発明1の「前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり」との記載における「添加した直後」とは、どのような時期を「直後」としているのか明らかでない、というものである。
まず、「前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)」とは、「過酸化水素を添加したすぐ後の集塵水の酸化還元電位(ORP)」といった意味であり、用語及び文章として不明確な点はない。
また、本件明細書の【0046】の「ORPの測定には、酸化還元電位計(ORP計)64を用いることができる。後述する固液分離設備40として好適な沈殿装置(シックナー)40を用いる場合、図2~図4に示すように、沈殿装置40におけるセンターウェル42の内側にORP計64を設けることが好ましい。後述する通り、センターウェル42は、集塵水の流入部位であるため、センターウェル42の内側にORP計64を設けることにより、過酸化水素を添加した直後の集塵水のORPを測定しやすい。」との記載、同【0059】の「固液分離設備40として沈殿装置40を用いる場合、図2~図4に示すように、センターウェル42を備える沈殿装置40を用いることがより好ましい。センターウェル42は、沈殿装置40の内部に設置された無底筒状形状に形成された部位であり、集塵水が流路(第2の流路)32を通って流入してくる部位である。センターウェル42により、流路32を通って流入してきた集塵水を整流させることができる。また、前述の通り、センターウェル42を設けることで、その内側にORP計64やpH計(不図示)を設けることができ、それにより、過酸化水素を添加した直後の集塵水のORPやpHを容易に測定することができる。」との記載、及び以下の「【図2】
[図:0001426835000005.jpg]
」によれば、固液分離設備40の前で過酸化水素が添加された集塵水(同【0038】)が、固液分離設備40に注がれる位置付近で測定される酸化還元電位(ORP)を、「過酸化水素を添加した直後の集塵水の酸化還元電位(ORP)」としていること、そして、これによれば、集塵水に過酸化水素が添加されてからほとんど時間を置かずに酸化還元電位(ORP)が測定され、このことが「添加した直後」を意味していることが理解できる。
さらには、ORP計64のある固液分離設備40は、撹拌機構44により十分撹拌がなされ、過酸化水素の拡散が速やかになされること、特許権者が令和7年2月18日に提出した意見書に記載される「模擬集塵水への過酸化水素の添加から所定時間後のOPRの測定」の実験の結果(5頁表6)によれば、過酸化水素を添加してから所定時間後までは、OPRの変化が緩やかであるから、上記【図2】のように、酸化還元電位(ORP)を測定した場合、測定した酸化還元電位(ORP)が大きく変動するなどして、値が定まらないといった事情があるともいえない。
そうすると、本件発明1の「前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり」との記載における「添加した直後」は、本件明細書の記載等より、添加してすぐ後の時点、すなわち、固液分離設備40の前で集塵水に過酸化水素が添加され、集塵水が固液分離設備40に注がれる位置付近に配置されたORP計64によって測定がなされるまでの時点程度を「添加した直後」としていることが理解できるから、特に、添加されてどのような時期を「直後」としているのか明らかでない、ということはない。
以上のとおり、本件発明1の「前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり」との記載における「添加した直後」に不明確な点はないから、取消理由2と申立理由5には、理由がない。
(3)実施可能要件違反に関する申立理由4について
申立理由4は、申立理由3(申立理由3-2)に関する第4の2(6)イに記載のように、本件明細書の全体を確認しても、集塵水中の還元性硫黄成分濃度と集塵水に添加される過酸化水素の添加濃度との関係については何ら規定されておらず、集塵水中の還元性硫黄成分の濃度がいかなる場合であっても、本件発明の課題を解決できるとは当業者であっても認識し得ないから、すなわち、申立理由3-2について理由があるから、本件発明は、実施可能要件を充足していないというものであるが、上記(1)イ(イ)で述べたとおり、申立理由3-2は、理由がないのであるから、同様に、申立理由4も、理由がない。
(4)令和7年3月31日に提出の意見書における異議申立人の主張について
ア 明確性要件違反について
(ア)異議申立人の主張
a 上記(2)の明確性要件違反について
令和7年2月18日に特許権者が提出した意見書で、請求項1の「前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり」との記載における「添加した直後」について、「集塵水に過酸化水素を添加した直後とは、集塵水に過酸化水素を添加した後、ORPの数値が有意に低下する(例えば5%以上の低下)前までの時期ということができます。」、「集塵水に過酸化水素が拡散した後(集塵水に過酸化水素を添加後、数秒から数分後)から15分後までの間の時期を、「前記過酸化水素を添加した直後」ということができます。」と主張しているが、これらの時期は、集塵水中の還元性物質の濃度により変動するものであり、集塵水中の還元性物質の濃度を考慮しない、集塵水中のORPの数値が有意に低下する(例えば5%以上の低下)前までの時期を「添加した直後」とする説明は、理解できるものではない。また、ORPの数値が5%以上低下するまでの時期は、集塵水中の還元性物質との反応の完了の時点をどの時点とするかによって変動するものであるから、特許権者の意見書での説明は、理解できるものでない(2頁1行~5頁19行)。
b 請求項1の「反応させた前記集塵水」について
請求項1の「前記過酸化水素を添加し、反応させた前記集塵水を固液分離設備で固液分離処理すること」には、「反応させた前記集塵水」との記載がある。
そして、ORP測定値が最低値を示す時期は、添加された過酸化水素及び集塵水中のシアン化物イオンや還元性硫黄成分(チオ硫酸イオン)の反応が完了している時点であるといえるところ、特許権者が令和7年2月18日に提出した意見書の5頁に記載される、模擬集塵水への過酸化水素の添加から所定時間後のORPの測定値を示す「表6」及び集塵水への過酸化水素の添加後の経過時間のORPの関係を示す「図5」によれば、集塵水に過酸化水素を添加してから60分後のORPは「128mV」、120分後のORPは「127mV」であり、極めて近似し、集塵水に過酸化水素を添加してから180分後のORPは「102mV」であり、240分後のORPは「103mV」であり、極めて近似している。
これによれば、過酸化水素添加後60分以降のORP値の挙動が極めて緩やかな変化を示すことから、当業者であっても、いずれの時点で集塵水に添加された過酸化水素の反応が完了しているかを判断することができないから、請求項1における「反応させた前記集塵水」とは、過酸化水素添加後どの時点の「集塵水」であるのか明らかでない(5頁20行~8頁下から3行)。
(イ)上記(ア)の主張に対する判断
a 上記(ア)aの主張について
請求項1の「前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり」との記載における「添加した直後」は、添加してすぐ後の時点、具体的には、固液分離設備40に注がれる集塵水に過酸化水素が添加された後、固液分離設備40に注がれ、注がれる位置付近に設けられたORP計64によって測定がなされるまでの時点を「添加した直後」としていることが理解できる。
そして、上記(ア)aにおける異議申立人の主張は、上述の事項に関連のない主張であり、採用することはできない。
b 上記(ア)bの主張について
請求項1の「前記過酸化水素を添加し、反応させた前記集塵水を固液分離設備で固液分離処理すること」における「反応させた前記集塵水」は、その記載のとおり、「過酸化水素を反応させた集塵水」として明確に理解できるものであり、特に、過酸化水素との反応が完全に完了した時点を特定しなければ不明確になるというものではない。
そうすると、特許権者の提出した意見書に記載される、集塵水への過酸化水素の添加後の経過時間のORPの関係を示す「図5」の結果では、いずれの時点で集塵水に添加された過酸化水素の反応が完了しているかを判断することができないから、請求項1における「反応させた前記集塵水」とは、過酸化水素添加後どの時点の「集塵水」であるのか明らかでない、とする異議申立人の主張は、その前提に誤りがあり、採用することができない。
イ サポート要件違反について
(ア)異議申立人の主張
本件発明の課題は、「シアン化物イオン及び還元性硫黄成分を含有する集塵水に対して、生成しうるチオシアン酸イオン中のシアン分と全シアン濃度を含めたシアン残存率の低い処理水を得ることが可能な集塵水の処理方法を提供」することにあるといえる。
そして、この課題を解決するには、[課題を解決するための手段]として【0010】に記載される「集塵水に過酸化水素を添加すること」の構成と、「前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり、」の構成とについて、「過酸化水素を添加した“直後”の集塵水のORP測定値に基づき、集塵水への過酸化水素の添加濃度を決定すること」や、さらに具体的に、「集塵水に過酸化水素を添加した後、ORPの数値が有意に低下する前までの時期に当該集塵水のORPを測定し、得られるORP値が、200+59×(7-pH測定値)mV以上となるよう、過酸化水素の集塵水への添加量を決定する」等の関係性が必須であるといえる。
しかしながら、上記のような「集塵水に過酸化水素を添加すること」の構成と、「前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり、」の構成との関係性について、本件発明に特定されていないから、本件発明は、サポート要件を満たしていない(8頁下から2行~12頁15行)。
(イ)上記(ア)の主張に対する判断
本件発明1において、「過酸化水素を添加した“直後”の集塵水のORP測定値に基づき、集塵水への過酸化水素の添加濃度を決定すること」や、さらに具体的に、「集塵水に過酸化水素を添加した後、ORPの数値が有意に低下する前までの時期に当該集塵水のORPを測定し、得られるORP値が、200+59×(7-pH測定値)mV以上となるよう、過酸化水素の集塵水への添加量を決定する」との特定がなされていないとしても、本件発明1において、常に「前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上」にすることができる制御可能な要素は、過酸化水素をどの程度添加するかだけであるから、本件発明1に上述の特定がなされていないとしても、実質的には、上述の特定にあるような制御が行われていることは、当業者であれば理解できることであるといえる。
そうすると、異議申立人の主張は、採用することができない。
ウ 実施可能要件違反について
(ア)異議申立人の主張
上記ア(ア)aに記載のとおり、請求項1における「前記過酸化水素を添加した直後」の記載は、不明確であるし、上記同bに記載のとおり、請求項1における「前記過酸化水素を添加し、反応させた前記集塵水」は、不明確であるから、これらの構成を含む本件発明1は、当業者であっても実施することができない。
さらに、上記イ(ア)に記載のとおり、本件発明1では、「集塵水に過酸化水素を添加すること」の構成と、「前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり、」の構成との関係が特定されておらず、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないから、本件発明1は、当業者であっても実施することができない(12頁16行~13頁4行)。
(イ)上記(ア)の主張に対する判断
異議申立人の主張は、本件発明1は、明確性要件及びサポート要件を満たしていないために、実施可能要件も満たしていないというものであるが、上記ア(イ)及びイ(イ)で述べたように、本件発明1は、上記(ア)で異議申立人が主張する点で、明確性要件及びサポート要件を満たしていないというものではないから、同じく、実施可能要件も満たしていないとすることはできない。
そうすると、異議申立人の主張は、採用することができない。
2 新規性及び進歩性欠如に関する申立理由1及び2について
(1)各甲号証に記載された事項
ア 甲1に記載された事項
(ア)「【請求項1】
シアン化物イオン及びシアノ錯体を含有する被処理水を処理する水処理方法であって、
前記被処理水中の全シアン濃度(mg-CN/L)及びシアン化物イオン濃度(mg-CN/L)を測定する工程(A)と、
前記被処理水に、前記被処理水中のH2O2としての添加濃度(mg-H2O2/L)が前記被処理水中の前記シアン化物イオン濃度の測定値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の過酸化水素を添加し、反応させる工程(B)と、
前記工程(B)で得られた反応液に、前記被処理水中のCuとしての添加濃度(mg-Cu/L)が前記被処理水中の前記全シアン濃度の測定値から前記シアン化物イオン濃度の測定値を減じて求められるシアノ錯体濃度値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の銅(I)化合物を添加し、反応させる工程(C)と、
前記工程(C)で得られた反応液を固液分離処理し、前記工程(C)で生成した難溶化物を分離除去する工程(D)と、
を含む水処理方法。」
(イ)「【0005】
特許文献1に開示された方法では、シアノ錯体を含有する廃水への銅(I)化合物の添加等により、水に対する不溶性又は難溶性(以下まとめて「難溶性」と記載する。)の塩を生成させ、その難溶性塩を廃水から除去することで、シアノ錯体が除去処理された処理水を得ることができる。この方法のように、廃水中に難溶性塩を生成させるために銅(I)化合物を添加することを含む水処理方法においては、廃水の特性に応じて、銅(I)化合物の添加量を制御することは難しく、銅(I)化合物の添加を定量注入で行わざるを得ないと考えられていた。
【0006】
シアノ錯体を含有する廃水に銅(I)化合物を定量で添加するに当たり、より確実に難溶性塩を生成させるためには、銅(I)化合物の添加量が過剰となりやすい。そのため、難溶性塩を生成させた後、固液分離処理により難溶性塩を除去処理して得られる処理水中に銅が溶解した状態で残留する傾向にあることがわかった。このように処理水中に銅が残留していると、水質汚濁防止法の排水基準において銅含有量の許容限度が3mg/Lと規制されていることから、さらに次段階の処理として、処理水中の銅を除去するための処理(例えば、銅を水酸化物にして沈殿除去する処理等)が必要となる。そうすると、残留銅を処理するための工程や設備の分、処理コストや設備費が高くなり、また、設備を設置する敷地面積も拡大することになる。したがって、残留する銅を処理するための工程や設備を省略することが可能な程度に処理水中の銅の残留量を抑制することが可能となれば、より有用な水処理方法となり得る。
【0007】
そこで、本発明は、シアン化物イオン及びシアノ錯体を含有する被処理水について、銅(I)化合物を用いて処理する場合に、得られる処理水中の銅の残留量を抑制することが可能な水処理方法を提供しようとするものである。」
(ウ)「【0019】
一般に、実際の廃水処理設備に処理対象として流入してくる、シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体等のシアン成分を含有する廃水(シアン含有廃水)においては、その廃水中のシアン成分の濃度は日々変動する。本発明者らの検討により、実際の廃水処理設備において、仮に、シアン含有廃水に過酸化水素及び銅(I)化合物を共存させて処理を行うと、日々変化するシアン含有廃水によっては、一時的に、シアン成分の除去性能が低下する問題が生じることがわかった。具体的には、廃水中のシアン化物イオンの濃度及び鉄シアノ錯体の濃度がいずれも低い場合には、上述の問題が生じ難い一方、廃水中のシアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い場合には、上述の問題が生じ易い傾向にあることがわかった。そのため、本方法における好適な処理対象としては、シアン化物イオン濃度に比べて鉄シアノ錯体濃度が高い被処理水を挙げることができる。
【0020】
上述のシアン含有廃水としては、例えば、石炭工場、メッキを行う工場、コークス工場、及びコークスを大量に使用する工場等から排出される廃水を挙げることができる。シアン含有廃水としては、シアン化物イオン、並びに鉄シアノ錯体(フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、[Fe(CN)5(CO)]3-、及び[Fe(CN)4(CO)2]2-のうちの少なくとも1種)を含有する可能性が高いと考えられることから、排出ガスの洗浄排水がより好適である。排出ガスの洗浄排水には、排ガス処理装置から生じる排水も含まれる。さらに好適な被処理水としては、コークスを燃料とする炉から発生する、懸濁物質を含む排出ガスを湿式集塵処理して得られた集塵水から、懸濁物質を除去するための固液分離処理がなされた、排出ガスの洗浄廃水を挙げることができる。
【0021】
工程(A)では、被処理水中の全シアン(以下、「T-CN」と記載することがある。)濃度(mg-CN/L)及びシアン化物イオン(以下、「F-CN」と記載することがある。)濃度(mg-CN/L)を測定する。
【0022】
工程(A)で被処理水中のF-CN濃度を測定するのは、後述する工程(B)において被処理水に添加する過酸化水素の量をF-CN濃度の測定値に基づき制御するためである。また、F-CN濃度の測定に加えて、工程(A)で被処理水中のT-CN濃度を測定するのは、後述する工程(C)において被処理水に添加する銅(I)化合物の量を、T-CN濃度の測定値からF-CN濃度の測定値を減じて求められるシアノ錯体濃度値に基づき制御するためである。
【0023】
従来のアルカリ塩素法で用いられる次亜塩素酸ナトリウムの添加量は、被処理水の酸化-還元電位(ORP)により制御されることがある。しかし、被処理水として好適な上述のシアン含有廃水の場合、シアン成分以外にも、例えばアンモニウム性窒素(NH4+-N)及び還元性硫黄化合物等の様々な成分が含有されていることから、ORPによる制御は難しい。また、次亜塩素酸ナトリウムはアンモニアと反応しやすく、その反応に消費されてしまう。そのため、本方法では、過酸化水素を用いることとし、かつ、その添加量の制御に、被処理水中のF-CN濃度の測定値を用いることとしている。」
(エ)「【0028】
工程(B)では、被処理水に、被処理水中のH2O2としての添加濃度(mg-H2O2/L)が上述の工程(A)における被処理水中のシアン化物イオン濃度の測定値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の過酸化水素を添加し、反応させる。例えば、工程(A)において、被処理水中のシアン化物イオン(F-CN)濃度が2mg-CN/Lと測定された場合、工程(B)では、被処理水に過酸化水素を2~8mg-H2O2/L添加することができる。
【0029】
工程(B)において、被処理水に過酸化水素を添加して反応させることにより、過酸化水素が被処理水中のシアン化物イオン(CN-)と酸化反応し、CN-を分解することが可能である。この効果が得られやすい観点から、過酸化水素の添加量は、被処理水中のH2O2としての添加濃度が被処理水中のシアン化物イオン濃度の測定値に対して1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましい。シアン化物イオンは、炭素(C)及び窒素(N)からなることから、最終的には、二酸化炭素(CO2)や窒素(N2)に分解される。なお、被処理水に、例えば、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体等の易分解性のシアノ錯体が含有されている場合には、そのようなシアノ錯体も工程(B)によって分解することが期待できる。」
(オ)「【0081】
図4に示す排出ガスGの処理設備60は、排出ガスGを連続的に洗浄する湿式集塵機(ベンチュリスクラバー)61と、湿式集塵機61から得られた集塵水W61を沈降分離処理する沈殿槽63と、沈降分離により得られた上澄み液W63を一次処理水として貯留する一次処理水槽65とを備える。また、一次処理水槽65に送られた上澄み液(一次処理水)の一部は、循環水W65として、補給水W60が加えられつつ湿式集塵機61に戻されて、排出ガスGの洗浄に循環使用されてもよい。さらに、沈殿槽63で沈降分離により得られた沈殿物S63を脱水処理する脱水機67を設けてもよく、脱水機67により処理された一部は脱水ケーキCとして処理され、また別の一部は脱離液(脱水ろ液)W67として沈殿槽63に再送されてもよい。
【0082】
上述の一次処理水槽65における一次処理水に、シアン化物イオン及びシアノ錯体が含有されている場合に、その一次処理水を、前述の水処理方法における処理対象である被処理水W1とすることができる。図4では、一次処理水槽65内の一次処理水をブロー水(被処理水W1)として、前述した水処理装置10、12、14(それらにおける第1の反応槽22又は調整槽21)に送り、被処理水W1の処理を行う場合が例示されている。水処理装置10、12、14における固液分離装置26で液分とは分離された固形分を含むスラリーを脱水機67に送って脱水処理し、脱水機67で得られた分離水(脱離液、脱水ろ液)を、沈殿槽63に送ることが好ましい。図4に示す脱水機67は、濃縮槽であってもよく、濃縮槽と脱水機67とを併用してもよい。また、沈殿槽63には、脱水ろ液のほか、上記濃縮槽で得られた分離水が送られてもよく、余剰の上記スラリーが送られてもよい。なお、沈殿槽63の代わりに、各種の膜分離装置及びろ過器等が使用されてもよい。」
(カ)「【図1】
[図:0001426835000006.jpg]
・・・
【図4】
[図:0001426835000007.jpg]
」
イ 甲2に記載された事項
(ア)「【請求項1】(i)8.5~12の範囲のpH値で、処理すべき水溶液へホルムアルデヒドのための源を連続的又は周期的に添加し、その際、遊離の及び遊離されたシアン化物をグリコニトリルに変え、かつ引き続き、(ii)8.5~12の範囲のpH値で、過酸化水素のための源を連続的又は周期的に添加することにより、グリコニトリルを過加水分解し、その際、酸化還元電位を測定し、一定に保たれたpH値で酸化還元電位がもはや高まらない場合に添加を終了する工程を包含する、シアン化物及び/又は不安定な重金属シアノ錯体を含有する水溶液の解毒の制御法において、工程(i)の間に、pH値を、酸のpH調節添加により実質的に一定に保ち、かつこれによりpH値がもはや高まらない場合に、ホルムアルデヒドの添加を終了することを特徴とする、シアン化物及び/又は不安定な重金属シアノ錯体を含有する水溶液の解毒の制御法。」
(イ)「【0010】第(ii)工程で、自体公知の方法で、過酸化水素のための源を供給する。酸化の間に、pH値は、塩基の添加なしには低下する。pH値の一定保持下に、酸化の間に、酸化還元電位は、酸化が終了するまで上昇する。Ag-電極及びサラミド(Thalamid)-参照電極の使用下で、通常、最大電位は、大抵、650~750mVの範囲である。
【0011】本発明による方法は、殊に、遊離シアン化物含有排水、例えば、硬質化工業からのものを解毒するために、並びに電気メッキ工場での亜鉛メッキの際に生じる亜鉛シアノ錯体を含有する排水を解毒するために適当である。固有の解毒後に、水酸化亜鉛をpH値約9で、簡単に分離し、かつ再使用に供することができる。カドミウムシアノ錯体を含有する排水も、問題なく解毒されうる。それというのも、これらの錯体、例えば亜鉛シアノ錯体は、不安定な錯体であるからである。このような排水において、Ni、Cu、Ag及びAuのシアノ錯体の少量の存在は妨げにならず、むしろこれらも解毒される。」
ウ 甲3に記載された事項
(ア)「【請求項1】
セレンおよびシアンを含む排水に第1鉄剤を添加して第1凝集物を形成させ、固液分離により前記第1凝集物を除いて第1処理水とし、
前記第1処理水に酸を添加して酸性水とし、前記酸性水に酸化剤および第2鉄剤を添加して前記セレンを酸化させた後、凝集剤を添加して第2凝集物を形成させ、固液分離により前記第2凝集物を除いて第2処理水を得る排水処理方法。」
(イ)「【0020】
石炭ガス化設備では、還元雰囲気下で石炭を蒸し焼きにして燃料ガスを生成する。石炭ガス化発電設備からの排気には、セレンおよびシアン(CN)が含まれている。排気が水に接触することで、排気に含まれるセレンおよびシアンは水に溶解する。
【0021】
石炭ガス化発電設備からの排水において、セレンは、亜セレン酸イオン(SeO32-,Se(IV))または+4価よりも価数の低いセレノシアン酸(SeCN-、Se(0))などの形態で存在する。
【0022】
石炭ガス化発電設備からの排水において、シアンは、シアンイオン(CN-)、セレノシアン酸イオン(SeCN-、Se(0))、塩化シアン(CNCl-)、フェリシアン化物イオン([Fe(CN)6]3-)、フェロシアン化物イオン([Fe(CN)6]4-)などの形態で存在する。
【0023】
石炭ガス化発電設備から出る排水中には、他に、懸濁物質(SS)、砒素(As)、フッ素(F)、水銀(Hg)、クロム(Cr)、BOD(Biochemical Oxygen Demand)成分、COD成分、およびアンモニア(NH3)などが含まれてよい。COD成分は、化学酸化処理での難分解性物質である。ここで難分解性物質とは、チオ硫酸、メタノール、酢酸、ギ酸、ベンゼン、安息香酸、フェノール、クロロフェノール、クロロアニリン、アミノ安息香酸、またはヒダントインなどである。」
(ウ)「【0036】
酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いる場合、次亜塩素酸ナトリウムの添加量は200mg/L以上800mg/L以下、好適には200mg/L以上500mg/L以下とされる。次亜塩素酸ナトリウムの添加量が少なすぎると、セレンの酸化が十分に進まず+4価よりも価数の低いセレン(例えばSeCN-)が残存する。一方、次亜塩素酸ナトリウムを過剰に添加すると、酸性排水の酸化還元電位が高くなりすぎる。酸性排水の酸化還元電位を高くしすぎると、セレンの酸化反応が促進され、Se(VI)が増えるため、その後、セレンの除去が困難となる。
【0037】
酸性水の酸化還元電位は、酸性水が酸化傾向の溶液となるよう制御するとよい。具体的には、酸性水の酸化還元電位は、200mV以上1500mV以下、好ましくは200mV以上1000mV以下、更に好ましくは400mV以上500mV以下とされる。酸化還元電位の調整は酸化剤、第2鉄剤あるいは酸化剤と第2鉄剤の双方を活用して調整してもいい。」
エ 甲4に記載された事項
(ア)「【請求項1】
排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、
前記集塵水は、さらにペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記固液分離設備で固液分離処理することを含む、集塵水の処理方法。
・・・
【請求項8】
前記集塵水は、さらにシアン化物イオンを含有し、
前記集塵水;前記循環設備に供給される前の前記分離液;及び前記循環設備に供給された前記分離液;のうちの少なくともいずれかに、酸化剤を添加することを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の集塵水の処理方法。
【請求項9】
前記酸化剤は、少なくとも過酸化水素を含む請求項8に記載の集塵水の処理方法。
【請求項10】
前記酸化剤は、過酸化水素と、次亜塩素酸又はその塩との組み合わせ;過酸化水素と、触媒量としての銅塩との組み合わせ;過酸化水素と、還元性硫黄化合物との組み合わせ;次亜塩素酸又はその塩と、還元性硫黄化合物との組み合わせ;からなる群より選ばれる少なくとも1種の組み合わせを含む請求項8に記載の集塵水の処理方法。」
(イ)「【0053】
酸化剤としては、過酸化水素、酸素、オゾン、次亜塩素酸又はその塩、亜塩素酸又はその塩、塩素酸又はその塩、次亜臭素酸又はその塩、亜臭素酸又はその塩、及びヨウ素化合物等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、シアン化物イオンに対する酸化分解能、及び設備の腐食が生じ難い観点から、使用する酸化剤は、少なくとも過酸化水素を含むことが好ましい。また、酸化剤とともに、酸化剤の反応助剤を用いてもよい。反応助剤としては、例えば、触媒量としての銅塩や、還元性硫黄化合物等を挙げることができ、それらの1種又は2種以上を用いることができる。」
(2)甲1に記載された発明
甲1の上記(1)ア(ア)の【請求項1】には、「シアン化物イオン及びシアノ錯体を含有する被処理水を処理する水処理方法であって、
前記被処理水中の全シアン濃度(mg-CN/L)及びシアン化物イオン濃度(mg-CN/L)を測定する工程(A)と、
前記被処理水に、前記被処理水中のH2O2としての添加濃度(mg-H2O2/L)が前記被処理水中の前記シアン化物イオン濃度の測定値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の過酸化水素を添加し、反応させる工程(B)と、
前記工程(B)で得られた反応液に、前記被処理水中のCuとしての添加濃度(mg-Cu/L)が前記被処理水中の前記全シアン濃度の測定値から前記シアン化物イオン濃度の測定値を減じて求められるシアノ錯体濃度値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の銅(I)化合物を添加し、反応させる工程(C)と、
前記工程(C)で得られた反応液を固液分離処理し、前記工程(C)で生成した難溶化物を分離除去する工程(D)と、
を含む水処理方法。」が記載されている。
ここで、甲1の同(オ)の【0081】の「図4に示す排出ガスGの処理設備60は、排出ガスGを連続的に洗浄する湿式集塵機(ベンチュリスクラバー)61と、湿式集塵機61から得られた集塵水W61を沈降分離処理する沈殿槽63と、沈降分離により得られた上澄み液W63を一次処理水として貯留する一次処理水槽65とを備える。また、一次処理水槽65に送られた上澄み液(一次処理水)の一部は、循環水W65として、補給水W60が加えられつつ湿式集塵機61に戻されて、排出ガスGの洗浄に循環使用されてもよい。」との記載、及び同【0082】の「図4では、一次処理水槽65内の一次処理水をブロー水(被処理水W1)として、前述した水処理装置10、12、14(それらにおける第1の反応槽22又は調整槽21)に送り、被処理水W1の処理を行う場合が例示されている。水処理装置10、12、14における固液分離装置26で液分とは分離された固形分を含むスラリーを脱水機67に送って脱水処理し、脱水機67で得られた分離水(脱離液、脱水ろ液)を、沈殿槽63に送ることが好ましい。」との記載によれば、甲1には、「排出ガスを連続的に洗浄する湿式集塵機(ベンチュリスクラバー)と、湿式集塵機から得られた集塵水を沈降分離処理する沈殿槽と、沈降分離により得られた上澄み液を一次処理水として貯留する一次処理水槽とを備え、一次処理水槽に送られた上澄み液(一次処理水)の一部は、循環水として、補給水が加えられつつ湿式集塵機に戻されて、排出ガスの洗浄に循環使用されてもよ」く、「一次処理水槽内の一次処理水をブロー水(被処理水)として、水処理装置(それらにおける第1の反応槽又は調整槽)に送り、水処理装置における固液分離装置で液分とは分離された固形分を含むスラリーを脱水機に送って脱水処理し、脱水機で得られた分離水(脱離液、脱水ろ液)を、沈殿槽に送る」、「排出ガスの処理設備」が記載されている。
そして、同【0082】の「上述の一次処理水槽65における一次処理水に、シアン化物イオン及びシアノ錯体が含有されている場合に、その一次処理水を、前述の水処理方法における処理対象である被処理水W1とすることができる。」との記載によれば、上記の【請求項1】に記載される「水処理方法」における「被処理水」とは、上記「排出ガスの処理設備」の「水処理装置」に供給される「一次処理水槽内の一次処理水」からの「ブロー水(被処理水)」である。
以上を踏まえ、上記「排出ガスの処理設備」の「一次処理水槽内の一次処理水」からの「ブロー水(被処理水)」を「被処理水」とすると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「排出ガスを連続的に洗浄する湿式集塵機(ベンチュリスクラバー)と、湿式集塵機から得られた集塵水を沈降分離処理する沈殿槽と、沈降分離により得られた上澄み液を一次処理水として貯留する一次処理水槽とを備え、一次処理水槽に送られた上澄み液(一次処理水)の一部は、循環水として、補給水が加えられつつ湿式集塵機に戻されて、排出ガスの洗浄に循環使用されてもよく、一次処理水槽内の一次処理水を被処理水として、水処理装置(それらにおける第1の反応槽又は調整槽)に送り、水処理装置における固液分離装置で液分とは分離された固形分を含むスラリーを脱水機に送って脱水処理し、脱水機で得られた分離水(脱離液、脱水ろ液)を、沈殿槽に送る、排出ガスの処理設備における、シアン化物イオン及びシアノ錯体を含有する被処理水を処理する水処理方法であって、
前記被処理水中の全シアン濃度(mg-CN/L)及びシアン化物イオン濃度(mg-CN/L)を測定する工程(A)と、
前記被処理水に、前記被処理水中のH2O2としての添加濃度(mg-H2O2/L)が前記被処理水中の前記シアン化物イオン濃度の測定値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の過酸化水素を添加し、反応させる工程(B)と、
前記工程(B)で得られた反応液に、前記被処理水中のCuとしての添加濃度(mg-Cu/L)が前記被処理水中の前記全シアン濃度の測定値から前記シアン化物イオン濃度の測定値を減じて求められるシアノ錯体濃度値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の銅(I)化合物を添加し、反応させる工程(C)と、
前記工程(C)で得られた反応液を固液分離処理し、前記工程(C)で生成した難溶化物を分離除去する工程(D)と、
を含む水処理方法。」
(3)本件発明1について
ア 対比
(ア)甲1発明は、「排出ガスを連続的に洗浄する湿式集塵機(ベンチュリスクラバー)と、湿式集塵機から得られた集塵水を沈降分離処理する沈殿槽と、沈降分離により得られた上澄み液を一次処理水として貯留する一次処理水槽とを備え、一次処理水槽に送られた上澄み液(一次処理水)の一部は、循環水として、補給水が加えられつつ湿式集塵機に戻されて、排出ガスの洗浄に循環使用されてもよ」いものである。
そして、甲1発明で、「湿式集塵機から得られた集塵水を沈降分離処理する沈殿槽と、沈降分離により得られた上澄み液を一次処理水として貯留する一次処理水槽」を経て得られた「被処理水」は、「シアン化物イオン」を含むものであるから、「集塵水」も「シアン化物イオン」を含むものであると共に、「集塵水」であるからには、「懸濁物質」を含むものであるといえる。
また、甲1発明の「沈殿槽」、「沈降分離」及び「上澄み液」は、それぞれ、本件発明1の「固液分離設備」、「固液分離処理」及び「分離水」に相当する。
そうすると、甲1発明は、本件発明1と「排ガスを湿式集塵処理して得られる、懸濁物質、及びシアン化物イオンを少なくとも含有する集塵水を固液分離設備で固液分離処理すること;
前記固液分離設備で前記集塵水中の前記懸濁物質とは分離された分離液の一部を洗浄水として循環設備で前記湿式集塵処理に供給すること;を含」む点で共通している。
(イ)甲1発明は、「湿式集塵機から得られた集塵水を沈降分離処理する沈殿槽と、沈降分離により得られた上澄み液を一次処理水として貯留する一次処理水槽」を経て得られた「被処理水」の「水処理方法」であるのに対し、本件発明1は、「集塵水の処理方法」であるから、両者は、「処理対象水の処理方法」の点で共通する。
(ウ)以上によれば、本件発明1と甲1発明は、「排ガスを湿式集塵処理して得られる、懸濁物質、及びシアン化物イオンを少なくとも含有する集塵水を固液分離設備で固液分離処理すること;
前記固液分離設備で前記集塵水中の前記懸濁物質とは分離された分離液の一部を洗浄水として循環設備で前記湿式集塵処理に供給すること;を含む、処理対象水の処理方法」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点>
本件発明1は、処理の対象を「集塵水」とするものであって、還元性硫黄成分を含有する集塵水に過酸化水素を添加し、前記集塵水中で前記過酸化水素を反応させ、前記過酸化水素を添加し、反応させた前記集塵水を固液分離設備で固液分離処理し、前記還元性硫黄成分が、チオ硫酸イオンであり、前記集塵水への前記過酸化水素の添加濃度(mg-H2O2/L)が、前記集塵水の全シアン濃度(mg-CN/L)に対して、1.2倍以上7.0倍以下であり、前記過酸化水素を添加した直後の前記集塵水の酸化還元電位(ORP)が、200+59×(7-pH測定値)mV以上であり、前記集塵水中で前記過酸化水素を反応させることが、前記集塵水中で1mg-Cu/L以上の銅濃度の存在下で前記過酸化水素を反応させる、集塵水の処理方法であるのに対し、甲1発明は、処理の対象を「湿式集塵機から得られた集塵水を沈降分離処理する沈殿槽と、沈降分離により得られた上澄み液を一次処理水として貯留する一次処理水槽」を経て得られた「被処理水」とするものであって、「集塵水」に対する本件発明1における処理方法を行うものでないことや、「集塵水」には、チオ硫酸イオンである還元性硫黄成分が含まれるのか明らかでない、被処理水を処理する処理方法である点で相違している。
イ 相違点に対する判断
上記相違点について検討する。
(ア)まず、本件発明1は、「集塵水」を処理の対象としているのに対し、甲1発明は、「湿式集塵機から得られた集塵水を沈降分離処理する沈殿槽と、沈降分離により得られた上澄み液を一次処理水として貯留する一次処理水槽」を経て得られた「被処理水」を処理の対象とし、処理の対象が相違しているから、少なくともこの点を含む上記相違点は実質的な相違点である。
(イ)次に、上記相違点に係る本件発明1の構成の容易想到性、すなわち、甲1発明において「被処理水」に対して行っている処理を、「集塵水」に対して行うことに変更し、さらに、その処理を、本件発明1での処理と同じものとすることが、当業者にとり容易であるか否かについて検討する。
甲1には、「集塵水」に対して何らかの処理を行おうとする何らの記載もないから、甲1発明には、「被処理水」について行っている処理を、「集塵水」に対して行う動機付けは何ら存在しない。
さらに、過酸化水素の添加及び過酸化水素が反応する際の銅の存在に関する処理の詳細について検討しても、甲1発明は、甲1の上記(1)ア(イ)の【0007】に記載されるように、「シアン化物イオン及びシアノ錯体を含有する被処理水について、銅(I)化合物を用いて処理する場合に、得られる処理水中の銅の残留量を抑制することが可能な水処理方法を提供」するために、「前記被処理水中の全シアン濃度(mg-CN/L)及びシアン化物イオン濃度(mg-CN/L)を測定する工程(A)と、前記被処理水に、前記被処理水中のH2O2としての添加濃度(mg-H2O2/L)が前記被処理水中の前記シアン化物イオン濃度の測定値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の過酸化水素を添加し、反応させる工程(B)と、前記工程(B)で得られた反応液に、前記被処理水中のCuとしての添加濃度(mg-Cu/L)が前記被処理水中の前記全シアン濃度の測定値から前記シアン化物イオン濃度の測定値を減じて求められるシアノ錯体濃度値(mg-CN/L)に対して1.0~4.0倍となる量の銅(I)化合物を添加し、反応させる工程(C)」を有するものとしているように、被処理水に過酸化水素を添加し、反応させて得られた反応液に、適量の銅化合物を添加している。
他方、同(ウ)の【0019】の「実際の廃水処理設備において、仮に、シアン含有廃水に過酸化水素及び銅(I)化合物を共存させて処理を行うと、日々変化するシアン含有廃水によっては、一時的に、シアン成分の除去性能が低下する問題が生じることがわかった。」との記載によれば、甲1発明では、過酸化水素及び銅(I)化合物を共存させて被処理水の処理を行うことは好ましくないものとされている。
そうすると、甲1発明の、過酸化水素の添加及び過酸化水素が反応する際の銅の存在に関する処理において、過酸化水素及び銅(I)化合物を共存させて非処理水の処理を行うことを意味しているといえる、本件発明1に係る「前記集塵水中で前記過酸化水素を反応させることが、前記集塵水中で1mg-Cu/L以上の銅濃度の存在下で前記過酸化水素を反応させる」との構成を採用する動機付けは、甲1発明にはない。
また、甲2~甲4には、上記(2)イ~エに摘記した事項が記載されているが、これらの記載の如何にかかわらず、甲1発明において、少なくとも、好ましくないとされている、本件発明1に係る「前記集塵水中で前記過酸化水素を反応させることが、前記集塵水中で1mg-Cu/L以上の銅濃度の存在下で前記過酸化水素を反応させること」を採用することはできない。
ウ 小括
以上のとおり、上記相違点は、実質的な相違点であるし、上記相違点に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、相違点における全ての事項について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件発明2、4~6について
本件発明2、4~6は、本件発明1を引用し、これを、さらに限定するものであるところ、本件発明1が、甲1発明ではなく、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2、6は、甲1発明ではないし、本件発明2、4~6は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)上記(3)及び(4)で述べたとおりであるから、申立理由1及び2には、理由がない。
第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本件特許1、2、6は、特許法第29条第1項の規定に、本件特許1、2、4~6は、同法同条第2項の規定に違反してされたものであるとも、本件特許1、2、4~6は、同法第36条第4項第1号並びに同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1、2及び上記申立理由1~5では、本件特許1、2、4~6を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1、2、4~6を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項3は、本件訂正により削除され、本件特許3に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700918