特許異議申立
2026-700412
非水電解質電池用リード線、絶縁膜及び非水電解質電池
- 審判番号
- 2026-700412
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-124948
- 登録番号
- 7768068
- 請求日
- 2026年05月11日
- 審決日
- 2026年06月29日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】住友電気工業株式会社
- 【権利者代理人】池田 義典
- 【異議申立人】松山 徳子
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲高▼橋 真之
- 審判官 涌井 智則
- 審判官 ▲吉▼澤 雅博
- 分類
- P1651.537-Y (H01M) / P1651.121-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7768068号発明「非水電解質電池用リード線、絶縁膜及び非水電解質電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7768068号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7768068号の請求項1~6に係る特許についての出願は、2021年12月27日を国際出願日とする特願2022-534814号の一部を令和4年8月4日に新たな特許出願としたものであって、令和7年11月4日にその特許権が設定登録され、令和7年11月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和8年5月11日に特許異議申立人松山徳子(以下、「申立人」という。)により、請求項1~6に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
特許第7768068号の請求項1~6の特許に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
導体と、
複数の層を有し、上記導体の外周面の少なくとも一部を被覆する絶縁膜と
を備え、
上記絶縁膜が上記導体の表面に積層される導体被覆層と、上記絶縁膜の最表面に積層される第1絶縁層と、上記第1絶縁層の内面に積層される第2絶縁層とを有し、
上記第1絶縁層がランダムポリプロピレンを含み、
上記第2絶縁層がブロックポリプロピレンを含み、
上記導体被覆層が酸変性ポリオレフィンを含み、
上記第2絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度における弾性率E2が180MPa以上420MPa以下であり、上記第1絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度における弾性率E1が45MPa以上900MPa以下である非水電解質電池用リード線。
【請求項2】
上記第2絶縁層の平均厚さT2が25μm以上であり、
上記第1絶縁層の平均厚さT1が25μm以上である請求項1に記載の非水電解質電池用リード線。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の非水電解質電池用リード線に用いる絶縁膜。
【請求項4】
封入容器と、
上記封入容器の内部から外部へ延びるように配置される請求項1又は請求項2に記載の複数の非水電解質電池用リード線と
を備え、
上記封入容器が最内樹脂層、金属層及び最外樹脂層をこの順に積層されたシート体から構成されており、
上記最内樹脂層と上記第1絶縁層とが熱融着されている非水電解質電池。
【請求項5】
上記第1絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度における弾性率E1に対する上記最内樹脂層の上記第1絶縁層と同じ温度における弾性率E4の比率(E4/E1)が0.10以上10.00以下である請求項4に記載の非水電解質電池。
【請求項6】
上記弾性率E4が10MPa以上900MPa以下である請求項5に記載の非水電解質電池。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人の特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
1 理由A(サポート要件違反)
本件の請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから特許法第36条第6項第1号の規定に違反し、その特許は同法第113条第4号の規定により取り消されるべきである。
2 理由B(明確性違反)
本件の請求項1~6に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確でないから特許法第36条第6項第2号の規定に違反し、その特許は同法第113条第4号の規定により取り消されるべきである。
3 理由C(進歩性)
本件請求項1~6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1ないし3号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきである。
[証拠]
甲第1号証:国際公開第2021/090950号
甲第2号証:国際公開第2021/100226号
甲第3号証:特開2011-174088号公報
第4 各甲号証の記載
1 甲第1号証について
(1)記載事項
甲第1号証には、「金属端子用接着性フィルム付き金属端子」に関して、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
「[請求項1] 蓄電デバイス素子の電極に電気的に接続された金属端子と、前記蓄電デバイス素子を封止する蓄電デバイス用外装材との間に介在される、金属端子用接着性フィルムであって、
前記金属端子用接着性フィルムは、前記金属端子側に配置される第1ポリオレフィン層と、基材と、蓄電デバイス用外装材側に配置される第2ポリオレフィン層とをこの順に備える積層体から構成されており、
以下の測定条件において、前記第1ポリオレフィン層の厚み方向の断面に対して垂直方向に測定されるマルテンス硬さが、30N/mm2以下である、金属端子用接着性フィルム。
<マルテンス硬さの測定条件>
負荷荷重は、10mNである。
荷重印加速度は、1mN/10秒である。
保持時間は、10秒間である。
荷重除荷速度は、1mN/10秒である。
圧子は、正四角錐の先端部分の対面角が136°のビッカース圧子である。
測定温度は、25℃である。
測定値は、測定箇所を変更して10回測定し、最大値1つと最小値1つを除いた合計8つの測定値の平均値である。」
「[請求項14] 金属端子に、請求項1~12のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルムが取り付けられてなる、金属端子用接着性フィルム付き金属端子。
[請求項15] 少なくとも、正極、負極、及び電解質を備えた前記蓄電デバイス素子と、当該蓄電デバイス素子を封止する前記蓄電デバイス用外装材と、前記正極及び前記負極のそれぞれに電気的に接続され、前記蓄電デバイス用外装材の外側に突出した前記金属端子とを備える蓄電デバイスであって、
前記金属端子と前記蓄電デバイス用外装材との間に、請求項1~12のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルムが介在されてなる、蓄電デバイス。」
「[0024] 本開示の金属端子用接着性フィルム1は、図4及び図5に示すように、少なくとも、第1ポリオレフィン層12aと、基材11と、第2ポリオレフィン層12bとがこの順に積層された構成を含んでいる。第1ポリオレフィン層12aが金属端子側に配置される。また、第2ポリオレフィン層12bが、蓄電デバイス用外装材3側に配置される。本開示の金属端子用接着性フィルム1においては、両面側の表面に、それぞれ第1ポリオレフィン層12a及び第2ポリオレフィン層12bが位置している。」
「[0112] 本開示の蓄電デバイス用外装材は、電池(コンデンサー、キャパシター等を含む)などの蓄電デバイスに好適に使用することができる。また、本開示の蓄電デバイス用外装材は、一次電池、二次電池のいずれに使用してもよいが、好ましくは二次電池である。本開示の蓄電デバイス用外装材が適用される二次電池の種類については、特に制限されず、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、全固体電池、鉛蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・鉄蓄電池、ニッケル・亜鉛蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池、金属空気電池、多価カチオン電池、コンデンサー、キャパシター等が挙げられる。これらの二次電池の中でも、本開示の蓄電デバイス用外装材の好適な適用対象として、リチウムイオン電池及びリチウムイオンポリマー電池が挙げられる。」
「[0115] 実施例2
第1ポリオレフィン層を形成するポリオレフィンとして、カーボンブラックで黒色に着色された無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PPa)、第2ポリオレフィン層を形成するポリオレフィンとして、ポリプロピレン(PP)、基材として、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP、ホモポリプロピレン、厚み50μm)を用意した。第1ポリオレフィン層を形成する素材としては、表1に記載のマルテンス硬さ、押し込み弾性率及び押し込み深さhmaxを備えるよう、従来の金属端子用接着性フィルムには使用されていない、柔軟性の高い素材を用いた。基材(CPP)の一方面に、カーボンブラックで黒色に着色された無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PPa)をTダイ押出機で押出して、第1ポリプロピレン層(厚み50μm)を形成し、基材(CPP)の他方面に、ポリプロピレン(PP)をTダイ押出機で押出して、第2ポリプロピレン層(厚み50μm)を形成し、第1ポリオレフィン層(50μm、PPa層)/基材(50μm、CPP層)/第2ポリオレフィン層(50μm、PP層)が順に積層された金属端子用接着性フィルムを得た。」
「[0120] <マルテンス硬さ、押し込み弾性率、押し込み深さhmaxの測定>
実施例及び比較例の金属端子用接着性フィルムの第1ポリオレフィン層、基材、第2ポリオレフィン層について、それぞれ、マルテンス硬さ、押し込み弾性率及び押し込み深さhmaxを測定した。これらの測定は、なお、測定対象とするサンプルの前処理として、金属端子用接着性フィルムをMD30mm、TD15mmに裁断した。次に、サンプルをエポキシ冷間埋込樹脂で包埋し、約1日乾燥させた。その後、丸本ストルアス社製 Tegrapol-35 機械研磨装置を用いて、TDの方向に裁断して取得された断面を研磨し、サンプルの断面を表面粗さ1.0μm程度とした。インデンテーション法による測定として、フィッシャーインストルメンツ社製のピコデンターHM-500を用いて行い、測定対象とする層の厚み方向の断面(厚み方向の中心部分)に対して垂直方向に対して測定を行った。測定対象となる断面は、金属端子用接着性フィルムをTDの方向に裁断することで取得し、前記前処理を行った断面である。測定条件は以下の通りである。
(測定条件)
負荷荷重は、10mNである。
荷重印加速度は、1mN/10秒である。
保持時間は、10秒間である。
荷重除荷速度は、1mN/10秒である。
圧子は、正四角錐の先端部分の対面角が136°のビッカース圧子である。
測定温度は、25℃である。
測定値は、測定箇所を変更して10回測定し、最大値1つと最小値1つを除いた合計8つの測定値の平均値である。
[0121] なお、参考のため、前記のマルテンス硬さ、押し込み弾性率、押し込み深さhmaxの測定で得られる押込み深さ(μm)と荷重(mN)との関係を示すグラフのイメージ図を、図8に示す。
[0122] マルテンス硬さは、以下の式により算出される。
HM(マルテンス硬さ)=最大荷重F(N)/押込み深さから求めた圧子の表面積(mm2)=最大荷重F(N)/26.43h2
F:最大荷重(N)
h:試験荷重下での押込み深さ=hmax(図8のE点の値(C点からY軸へ垂線を引いて交わった点))
[0123] また、押込み弾性率は、図8のC-Dの接線の勾配から算出される。また、押込み深さhmaxは、図8のE点の値から算出される。」
「[0126] [表1]
[図:0001438323000001.jpg]
」
(2)記載された技術事項
上記記載事項より、甲第1号証には次の技術事項が記載されているといえる。
ア [0115]には、実施例2として、「第1ポリオレフィン層を形成するポリオレフィンとして、カーボンブラックで黒色に着色された無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PPa)」、「第2ポリオレフィン層を形成するポリオレフィンとして、ポリプロピレン(PP)」、「基材として、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP、ホモポリプロピレン、厚み50μm)を用意し」、「基材(CPP)の一方面に、」「第1ポリプロピレン層(厚み50μm)を形成し、基材(CPP)の他方面に、」「第2ポリプロピレン層(厚み50μm)を形成し」た、「第1ポリオレフィン層(50μm、PPa層)/基材(50μm、CPP層)/第2ポリオレフィン層(50μm、PP層)が順に積層された金属端子用接着性フィルム」が記載されている。
イ [請求項14]には、「金属端子に、請求項1~12のいずれか1項に記載の金属端子用接着性フィルムが取り付けられてなる、金属端子用接着性フィルム付き金属端子」が記載されている。
また、[0024]には、「第1ポリオレフィン層12aが金属端子側に配置され」、「第2ポリオレフィン層12bが、蓄電デバイス用外装材3側に配置される」ことが記載されている。
ウ 上記ア、イの記載より、甲第1号証には、実施例2に係る金属端子用接着性フィルムを用いた金属端子として、
金属端子に、
金属端子側に配置される第1ポリオレフィン層を形成するポリオレフィンとして、カーボンブラックで黒色に着色された無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PPa)、蓄電デバイス用外装材側に配置される第2ポリオレフィン層を形成するポリオレフィンとして、ポリプロピレン(PP)、基材として、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP、ホモポリプロピレン、厚み50μm)を用意し、基材(CPP)の一方面に、第1ポリプロピレン層(厚み50μm)を形成し、基材(CPP)の他方面に、第2ポリプロピレン層(厚み50μm)を形成した、第1ポリオレフィン層(50μm、PPa層)/基材(50μm、CPP層)/第2ポリオレフィン層(50μm、PP層)が順に積層された金属端子用接着性フィルムが、取り付けられてなる、
金属端子用接着性フィルム付き金属端子
が記載されている。
エ [請求項15]には、「少なくとも、正極、負極、及び電解質を備えた前記蓄電デバイス素子と、当該蓄電デバイス素子を封止する前記蓄電デバイス用外装材と、前記正極及び前記負極のそれぞれに電気的に接続され、前記蓄電デバイス用外装材の外側に突出した前記金属端子」と記載され、[0112]には「電池(コンデンサー、キャパシター等を含む)などの蓄電デバイス」と記載されており、金属端子は、正極、負極、及び電解質を備えた電池などの蓄電デバイス素子の正極及び負極のそれぞれに電気的に接続されたものである。
オ [0120]ないし[0123]の記載及び[0126]の[表1]によれば、実施例2の基材(CPP)の押し込み弾性率は測定温度25℃で660.2MPa、第2ポリオレフィン層(PP)の押し込み弾性率は測定温度25℃で622.7MPaである。
(3)記載された発明
上記(2)ア~オの技術事項を総合勘案すると、甲第1号証には、実施例2の金属端子用接着性フィルムが取り付けられた金属端子として次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「金属端子に、
金属端子側に配置される第1ポリオレフィン層を形成するポリオレフィンとして、カーボンブラックで黒色に着色された無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PPa)、蓄電デバイス用外装材側に配置される第2ポリオレフィン層を形成するポリオレフィンとして、ポリプロピレン(PP)、基材として、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP、ホモポリプロピレン、厚み50μm)を用意し、基材(CPP)の一方面に、第1ポリプロピレン層(厚み50μm)を形成し、基材(CPP)の他方面に、第2ポリプロピレン層(厚み50μm)を形成した、第1ポリオレフィン層(50μm、PPa層)/基材(50μm、CPP層)/第2ポリオレフィン層(50μm、PP層)が順に積層された金属端子用接着性フィルムが、取り付けられてなる、
金属端子用接着性フィルム付き金属端子であって、
金属端子は、正極、負極、及び電解質を備えた電池などの蓄電デバイス素子の正極及び負極のそれぞれに電気的に接続され、
基材(CPP)の押し込み弾性率は測定温度25℃で660.2MPa、第2ポリオレフィン層(PP)の押し込み弾性率は測定温度25℃で622.7MPaである、
金属端子用接着性フィルム付き金属端子。」
2 甲第2号証について
甲第2号証には、外装パッケージで覆われた二次電池において、正極又は負極に接続されたリード導体と外装パッケージとの間に配置されて熱シールされる封止フィルムに関する発明が記載されている([0001]、[0018]~[0019])。
また、同封止フィルム20は、コア層21とその両面に形成されたスキン層22、23とからなる3層の多層封止フィルムであることが記載されている([0018]、[0023])。
さらに、コア層21に含まれるポリプロピレンとして、ポリプロピレンブロックコポリマーを用いることが好ましいこと([0029])、スキン層の一方であって外装パッケージ40と接着するパッケージ接着層23に含まれるポリプロピレンとして、ポリプロピレンランダムコポリマーを用いることが好ましいこと([0035]、[0037])が記載されている。
3 甲第3号証について
甲第3号証には、ポリプロピレン(PP)、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム(E/αR)などからなる樹脂組成物についてJISK7198に準拠して測定した、23℃及び80℃における弾性率が記載されている(【0033】段落、【0036】段落、【0040】段落、【0044】段落、【0047】段落を参照)。
第5 当審の判断
1 理由A(サポート要件違反)について
(1)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、概略、次のように主張している。
ア 理由A-1
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0010】、【0011】に記載のように、封入容器とリード線とが、高温下でも、良好な接着性を実現することであり、課題を解決するには、接着する対象である「封入容器の最内樹脂層」と「リード線の第1絶縁層」の組み合わせが必須の構成である。
ここで、本件発明は、「第1絶縁層」及び「第2絶縁層」の「弾性率」を所定範囲にコントロールすることで、上述した課題を全て達成できるよう本件明細書には記載されているが、2つの絶縁層の「弾性率」をコントロールすることで実現できる技術的効果は、【0017】に記載のように物理的な力が多層構造の絶縁膜(第1絶縁層/第2絶縁層)に作用した場合に、作用する力が一層(第1絶縁層/第2絶縁層のいずれか)に集中せず、できるだけ偏在しないように均等に分散するものである。
2つの絶縁層の「弾性率」を所定範囲にコントロールするだけでは、「非水電解質電池の封入容器との高温下における接着性に優れる」という課題を解決することはできず、「酸変性ポリプロピレンを含む封入容器の最内樹脂層」と「ポリプロピレンである第1絶縁層」との強固な溶着を前提として達成されるものである。
本件発明では、封入容器の最内樹脂層とリード線の第1絶縁層とを具体的に限定していないため、あらゆる材料の封入容器の最内樹脂層及び第1絶縁層で課題を解決できたかは不明であり、技術常識に照らしても、本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
イ 理由A-2
本件明細書では、リード線に固着された「絶縁膜」が備える外側から2つの層「第1絶縁層」及び「第2絶縁層」の「弾性率」が所定範囲にコントロールされることで、課題を達成できるよう記載されている。
コントロールされた「第1絶縁層」及び「第2絶縁層」の弾性率は、「導体」に「絶縁膜」を熱で固着した状態、すなわち、熱処理した後の「絶縁膜」が備える、外側から2つの層「第1絶縁層」及び「第2絶縁層」の弾性である。
上記熱処理として、本件明細書では【0084】に「金型温度220℃、面圧0.3MPaの条件でヒートシールを行った。」と記載されている。
しかしながら、本件特許発明は、ヒートシール条件を具体的に限定していないため、如何なるヒートシール条件でヒートシールした場合であっても課題を解決できたかは不明であり、技術常識に照らしても、本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(2)当審の判断
ア 理由A-1について
本件特許は、本件明細書の段落【0011】の記載からみて、「高温下におけるリード線と非水電解質電池の封入容器との接着性の向上」を課題とするものである。
一方、本件明細書の【0015】には、「また、上記第2絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度における弾性率E2に対する上記第1絶縁層の上記第2絶縁層と同じ温度における弾性率E1の比率(E1/E2)が0.10以上10.00以下であることで、高出力の電池が到達する温度範囲の弾性率が、上記第1絶縁層と上記第1絶縁層の内面に積層される第2絶縁層とで近い範囲となる。一般に、非水電解質電池の使用上限温度は60℃付近であり、電池内部にて電解液、電解質などが劣化し分解ガスとなって内圧がかかった際に起きる剥離現象では、最初に剥離の起点となる絶縁膜などの材料破壊が起き、次にできた起点から剥離が進行して、接着部全体が剥離して分解ガスや電解液が漏洩する事態となる。しかし、当該非水電解質電池用リード線は、この従来の上限温度以上の高温下において上記絶縁膜に対して剥離する方向に力が生じても、第1絶縁層と上記第1絶縁層の内面に積層される第2絶縁層との弾性率が近いことから剥離力によって2つの層が同時に変形して力が分散し、剥離の起点になることを抑制することができる。そのため、当該非水電解質電池用リード線が非水電解質電池の封入容器に収容され、上記封入容器と当該非水電解質電池用リード線とが上記絶縁膜を介して接着された場合に、高温下においても強固な接着性を維持しやすい。」と記載されている。
上記記載からみて、本件特許は、上記課題に関して、「使用上限温度は60℃付近」における「内圧がかかった際に起きる剥離現象」について、「最初に剥離の起点となる絶縁膜などの材料破壊が起き、次にできた起点から剥離が進行」する点に着目し、その対策として「従来の上限温度以上の高温下」においても内圧がかかった際に「非水電解質電池用リード線」の「絶縁膜に対して剥離する方向に力が生じても、第1絶縁層と上記第1絶縁層の内面に積層される第2絶縁層との弾性率が近いことから剥離力によって2つの層が同時に変形して力が分散し、剥離の起点になることを抑制」することにより課題を解決するものである。
してみると、本件明細書に接した当業者は、本件発明が、非水電解質電池用リード線を構成する絶縁膜の第1絶縁層と第2絶縁層について、高温下における弾性率を所定範囲に特定することにより、剥離力が作用した際に両層が同時に変形して応力を分散し、絶縁膜における剥離起点の発生を抑制することにより、封入容器とリード線との接着部全体の剥離を抑制して、高温下における接着性を維持し得るものと理解することができる。
また、本件明細書の上記記載は、「80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度における第1絶縁層の弾性率E1及び第2絶縁層の弾性率E2の比率(E1/E2)が0.10以上10.00以下」とするものであるが、本件発明において特定された第1絶縁層と第2絶縁層との弾性率は、それぞれ「弾性率E1が45MPa以上900MPa以下」、「弾性率E2が180MPa以上420MPa以下」であることから、E1/E2は、少なくとも約0.107以上5.00以下の範囲となり上記記載の「0.10以上10.00以下」の範囲内にある。
してみると、本件発明1~3については、封入容器の最内樹脂層について特定されていなくとも、リード線側の絶縁膜の層構成及び高温下弾性率を特定することにより、少なくとも絶縁膜における剥離起点の発生を抑制するという課題解決手段を把握することができる。
また、本件発明4~6についても、請求項5及び6において最内樹脂層の弾性率E4又はE4/E1が特定されており、本件明細書には、最内樹脂層と第1絶縁層との弾性率関係により応力集中を抑制し得ることが記載されている。
したがって、申立人のいうように、封入容器の最内樹脂層の材料名が具体的に限定されていないことをもって、直ちに本件発明1~6が発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
イ 理由A-2について
上記「A-1について」で検討したように、本件明細書には、非水電解質電池用リード線を構成する絶縁膜の第1絶縁層と第2絶縁層の高温下での弾性率をコントロールすることにより、当該両層間での剥離を抑制し、接着部全体の剥離を抑制、封入容器とリード線との強固な接着性を維持し得ることが記載されている。
してみると、封入容器とリード線との強固な接着性の維持のためには、第1絶縁層及び第2絶縁層の高温下の弾性率を特定すれば足り、当該弾性率の層を製造するためのヒートシール条件は課題を解決するために必須の構成であるとは認められない。
よって、本件発明は、特定のヒートシール条件自体を課題解決手段とするものではなく、最終的に得られる絶縁膜における第1絶縁層及び第2絶縁層の高温下弾性率により課題解決するものである。
したがって、実施例に記載されたヒートシール条件が請求項に限定されていないことをもって、本件発明が発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
ウ まとめ
以上のことより、本件の請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであって、特許法第36条第6項第1号に適合しないものとはいえない。
したがって、申立人の主張する申立理由Aは理由がない。
2 理由B(明確性違反)について
(1)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、概略、次のように主張している。
ア 理由B-1
本件発明は、「第1絶縁層」及び「第2絶縁層」の「弾性率」の範囲を規定しているところ、本件明細書の【0016】に弾性率の測定方法として、ナノインデンターにより、圧子を樹脂膜の断面から押し込み、測定した荷重-変位曲線から算出したと記載されている。
ここで、圧子を押し込む「絶縁膜の断面」は少なくとも2面あり、いずれの断面に押し込んだのかが、全く不明である。
本件明細書において、絶縁膜は押出成形により製造されることが記載されており(【0056】)、押出成形により成型されたフィルムは、仮に未延伸と称されるフィルムであっても、実際にはフィルムの巻き取り方向(MD)と幅方向(TD)では物性が異なるものとなる。
すなわち、圧子を押し込む断面によっては、測定値が変動する可能性が高い。
そうすると、本件明細書には圧子の押し込む断面が不明であるため、本件明細書に記載の弾性率の測定方法では測定条件が不十分であり、どのような条件で弾性率E2及び弾性率E1を測定した場合に本件発明の範囲となるのか不明確である。
イ 理由B-2
課題を解決できたことの評価として、本件明細書【0089】に(剥離強度)の評価を記載しているが、当該評価におけるサンプルの具体的な説明が記載されていない。
本件明細書の【0084】~【0086】に非水電解質電池用リード線、封入容器、及び、非水電解質電池の作製についてそれぞれ記載されているが、これらの段落に記載された方法で作製された非水電解質電池を用いてどのような剥離強度測定用のサンプルを作製したかは記載も示唆もされていない。
よって、どのようにして作製したサンプルであれば本件発明の課題を解決できることになるのかが不明瞭であるため、本件発明がどのようにして課題を解決できたのかが不明瞭である。
(2)当審の判断
ア 理由B-1について
本件発明は、絶縁膜の第1絶縁層と第2絶縁層との弾性率を特定するものである。
ここで、本件明細書【0016】には、弾性率の測定方法として、測定試料を積層方向に切断し、Arイオンミリング加工により絶縁膜の断面を露出させた上で、ナノインデンターを用い、当該断面に対して垂直方向に圧子を押し込んで荷重-変位曲線を測定し弾性率を算出することが、使用装置、圧子、押込時間、荷重負荷速度、押し込み荷重等の条件とともに具体的に記載されている。してみると、当業者は、積層体である絶縁膜の弾性率について、各層の厚み方向を含む断面を露出させ、各層の断面に対して垂直方向から測定するものと理解できる。
したがって、本件発明は、絶縁膜の断面において測定される弾性率が特定された範囲内にあるものとして明確である。
仮に、申立人の主張のように、フィルムの方向による物性の違いによって、フィルム断面の弾性率の測定値が異なるとしても、本件発明が「第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確」であるとまではいえない。
よって、本件発明1における弾性率E1及びE2の測定方法が不明確であるとはいえず、請求項1、及びこれを直接又は間接に引用又は前提とする請求項2~6の記載が特許法第36条第6項第2号に違反するとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
イ 理由B-2について
本件発明は、絶縁膜の第1絶縁層と第2絶縁層との弾性率を特定するものであるが、剥離強度又はその測定用サンプルの構成を発明特定事項として含むものではない。
したがって、実施例における剥離強度測定用サンプルの具体的説明がないことは、請求項に記載された発明の範囲を直ちに不明確にするものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
ウ まとめ
以上のことより、本件発明1~6は、特許を受けようとする発明が明確でないとはいえず、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するとはいえない。
したがって、申立人の主張する申立理由Bは理由がない。
3 理由C(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「金属端子」は、本件発明1の「導体」に相当する。
(イ)甲1発明の「金属端子用接着性フィルム」は、「第1ポリオレフィン層(50μm、PPa層)/基材(50μm、CPP層)/第2ポリオレフィン層(50μm、PP層)が順に積層され」、「金属端子に、」「取り付けられてなる」ものであるから、複数の層を有し、金属端子の外周面を被覆するものといえる。また、「PPa」、「CPP」及び「PP」は、いずれもポリプロピレン系樹脂であり、通常、電気絶縁性を有するといえる。
よって、甲1発明の上記「金属端子用接着性フィルム」は、本件発明1の「複数の層を有し、上記導体の外周面の少なくとも一部を被覆する絶縁膜」に相当する。
(ウ)甲1発明の「金属端子側に配置される第1ポリオレフィン層」は、本件発明1の「上記導体の表面に積層される導体被覆層」に相当する。
甲1発明の「蓄電デバイス用外装材側に配置される第2ポリオレフィン層」は、金属端子から見て一番外側となる層であるから、本件発明1の「上記絶縁膜の最表面に積層される第1絶縁層」に相当する。
甲1発明の「基材」は、第1ポリオレフィン層と第2ポリオレフィン層との間に積層されるものであり、第2ポリオレフィン層の内側といい得る位置に積層されているから、本件発明1の「上記第1絶縁層の内側に積層される第2絶縁層」に相当する。
そして、甲1発明の「金属端子用接着性フィルム」は、第1ポリオレフィン層(50μm、PPa層)/基材(50μm、CPP層)/第2ポリオレフィン層(50μm、PP層)が順に積層されたものであるから、本件発明1の「上記絶縁膜が上記導体の表面に積層される導体被覆層と、上記絶縁膜の最表面に積層される第1絶縁層と、上記第1絶縁層の内面に積層される第2絶縁層とを有」することに相当する構成を有する。
(エ)甲1発明は「蓄電デバイス用外装材側に配置される第2ポリオレフィン層を形成するポリオレフィンとして、ポリプロピレン(PP)」を用意するものであるから、甲1発明の「第2ポリオレフィン層」と、本件発明1の「上記第1絶縁層がランダムポリプロピレンを含」むこととは、「上記第1絶縁層がポリプロピレンを含」む点で共通する。
ただし、第1絶縁層が含むポリプロピレンが、本件発明1は「ランダムポリプロピレン」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。
(オ)甲1発明は「基材として、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP、ホモポリプロピレン、厚み50μm)」を用意するものであるから、甲1発明の「基材」と、本件発明1の「上記第2絶縁層がブロックポリプロピレンを含」むこととは、「上記第2絶縁層がポリプロピレンを含」む点で共通する。
ただし、第2絶縁層が含むポリプロピレンが、本件発明1は「ブロックポリプロピレン」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。
(カ)甲1発明は「金属端子側に配置される第1ポリオレフィン層を形成するポリオレフィンとして、カーボンブラックで黒色に着色された無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PPa)」を用意するものであるから、甲1発明の「第1ポリオレフィン層」は、本件発明1の「上記導体被覆層が酸変性ポリオレフィンを含」むことに相当する。
(キ)本件発明1は、「上記第2絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度における弾性率E2が180MPa以上420MPa以下であり、上記第1絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度における弾性率E1が45MPa以上900MPa以下である」のに対して、甲1発明は、「基材(CPP)の押し込み弾性率は測定温度25℃で660.2MPa、第2ポリオレフィン層(PP)の押し込み弾性率は測定温度25℃で622.7MPaである」と特定されるのみである点で相違する。
(ク)甲1発明の「金属端子用接着性フィルム付き金属端子」は、金属端子に金属端子用接着性フィルムが取り付けられてなり、金属端子は、正極、負極、及び電解質を備えた電池などの蓄電デバイス素子の正極及び負極のそれぞれに電気的に接続されるものであるから、本件発明1の「非水電解質電池用リード線」とは、「電池用リード線」である点で共通する。
ただし、電解質が、本件発明1は「非水電解質」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。
(ケ)上記(ア)ないし(ク)より、本件発明1と甲1発明とは、
「導体と、
複数の層を有し、上記導体の外周面の少なくとも一部を被覆する絶縁膜と
を備え、
上記絶縁膜が上記導体の表面に積層される導体被覆層と、上記絶縁膜の最表面に積層される第1絶縁層と、上記第1絶縁層の内面に積層される第2絶縁層とを有し、
上記第1絶縁層がポリプロピレンを含み、
上記第2絶縁層がポリプロピレンを含み、
上記導体被覆層が酸変性ポリオレフィンを含む、電解質電池用リード線。」
である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点1〉
第1絶縁層が含むポリプロピレンが、本件発明1は「ランダムポリプロピレン」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点。
〈相違点2〉
第2絶縁層が含むポリプロピレンが、本件発明1は「ブロックポリプロピレン」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点。
〈相違点3〉
本件発明1は、「上記第2絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度における弾性率E2が180MPa以上420MPa以下であり、上記第1絶縁層の80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度における弾性率E1が45MPa以上900MPa以下である」のに対して、甲1発明は、「基材(CPP)の押し込み弾性率は測定温度25℃で660.2MPa、第2ポリオレフィン層(PP)の押し込み弾性率は測定温度25℃で622.7MPaである」と特定されるのみである点。
〈相違点4〉
電解質が、本件発明1は「非水電解質」であるのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
上記第4の3のとおり甲第3号証には、ポリプロピレン(PP)、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム(E/αR)などからなる樹脂組成物についてJISK7198に準拠して測定した、23℃及び80℃における弾性率が記載されている。
ここで、申立人は、甲第3号証の温度依存性に関する記載を根拠として、甲1発明の25℃における押し込み弾性率から80℃における弾性率を推認できる旨主張するものと解される。
しかしながら、甲第3号証に記載された樹脂組成物は、甲第1号証に記載された基材及び第2ポリオレフィン層と同じ組成とは認められず、また、甲第3号証に記載された弾性率の測定方法と甲第1号証に記載された弾性率の測定方法(フィッシャーインストルメンツ社製ピコデンターHM-500を用いたインデンテーション法による押し込み弾性率)は同一であるとは認められない。
よって、甲第3号証に記載の事項を参酌しても、甲第1号証の基材及び第2ポリオレフィン層の弾性率に関し、80℃での弾性率が23℃での弾性率の37%前後になるとはいえない。
してみると、甲第3号証の記載より、甲1発明の基材の押し込み弾性率は測定温度80℃で180MPa以上420MPa以下であり、第2ポリオレフィン層の押し込み弾性率は測定温度80℃で45MPa以上900MPa以下である蓋然性が高いとはいえない。
また、上記第4の2のとおり甲第2号証には、スキン層の一方の層であるパッケージ接着層23としてポリプロピレンランダムコポリマーを含むものとし、コア層21としてポリプロピレンブロックコポリマーを含むものとすることが記載されているものの、甲第2号証には、本件発明1において特定される80℃以上125℃以下のいずれか1点の温度における第1絶縁層及び第2絶縁層の弾性率E1、E2の具体的な値は記載されていない。
また、甲第2号証には、当該弾性率を本件発明1の数値範囲に調整することについての動機付けも見いだせない。
さらに、甲1発明に甲第2号証に記載された発明を適用して、基材をポリプロピレンブロックコポリマーとし、第2ポリオレフィン層をポリプロピレンランダムコポリマーとしたとしても、これら樹脂組成物における測定温度25℃や80℃における弾性率は特定できない。
したがって、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3号証に記載された発明に基づいて本件発明1の相違点3に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件の請求項1に係る発明は甲第1号証~第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとは認められず、本件の請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(2)本件発明2~6について
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに第2絶縁層の平均厚さT2及び第1絶縁層の平均厚さT1を限定するものである。また、本件発明4~6は、本件発明1又は2に係る非水電解質電池用リード線を構成要素として含む非水電解質電池に係るものである。
よって、本件発明2及び4~6は、少なくとも本件発明1について認定した相違点3に係る構成を含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証~第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとは認められない。
また、本件発明3は、本件発明1又は2に記載の非水電解質電池用リード線に用いる絶縁膜に係るものであり、少なくとも本件発明1の絶縁膜に係る第1絶縁層、第2絶縁層及び導体被覆層の層構成、並びに第1絶縁層及び第2絶縁層の材料及び弾性率E1、E2に関する発明特定事項を含むものである。
よって、本件発明3についても、相違点3に係る構成が容易想到でないことから、甲第1号証~第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとは認められない。
したがって、本件の請求項2~6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700412