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特許異議申立

2025-700969

水電解用被覆膜

審判番号
2025-700969
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-538771
登録番号
7660201
請求日
2025年10月08日
審決日
2026年03月06日
公報発行日
2026年04月24日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】グリナリティ・ゲーエムベーハー
  • 【権利者代理人】的場 基憲
  • 【権利者】ヘレウス ドイチュラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
  • 【権利者代理人】的場 基憲
  • 【権利者】テヒニッシェ ウニヴェルジテート ミュンヘン
  • 【権利者代理人】的場 基憲
  • 【異議申立人】小松 一枝
  • 【異議申立人】前田 知子
審判長/審判官
  • 審判長 井上 猛
  • 審判官 酒井 英夫
  • 審判官 佐藤 陽一
分類
P1651.121-Y (C25B) / P1651.537-Y (C25B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7660201号発明「水電解用被覆膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7660201号の請求項1~24に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7660201号(以下「本件特許」という。)の請求項1~24に係る特許についての出願は、2021年(令和 3年)12月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2020年12月23日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願(特願2023-538771号。以下「本願」という。)であって、令和 7年 4月 2日にその特許権の設定登録がなされ、同年 4月10日にその特許掲載公報が発行されたものである。 その後、令和 7年10月 8日に、請求項1~24(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である小松 一枝、前田 知子(以下、まとめて「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~24に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~24に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1~24に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明24」といい、これらを総称して「本件発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 「【請求項1】 被覆膜であって、 - 前面及び後面を有する膜、 - 前記膜の前記前面に備えられ、水電解における酸素発生反応用の触媒を含有する触媒含有被覆、 を含有し、 前記触媒は、 - 2m2/g~80m2/gのBET表面積を有する担体材料と、 - 前記担体材料上に備えられ、酸化イリジウム、水酸化イリジウム若しくは水酸化酸化イリジウム、又はこれらのイリジウム化合物のうち少なくとも2種類の混合物を含有するイリジウム含有被覆と、 を含有し、 前記触媒は、5重量%~60重量%の量のイリジウムを含有し、 前記膜前面に備えられる前記被覆は、イリジウム0.01~0.4mg/cm2のイリジウム含有量を有する、被覆膜。 【請求項2】 前記膜前面に備えられる被覆のイリジウム含有量が、最大でイリジウム0.3mg/cm2である、請求項1に記載の被覆膜。 【請求項3】 前記膜前面に備えられる被覆のイリジウム含有量が、イリジウム0.20mg/cm2未満である、請求項1又は2に記載の被覆膜。 【請求項4】 前記触媒が、最大で40重量%の量でイリジウムを含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項5】 前記触媒が、最大で35重量%の量でイリジウムを含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項6】 前記担体材料が、最大で65m2/gのBET表面積を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項7】 前記担体材料が、最大で50m2/gのBET表面積を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項8】 前記担体材料が、2m2/g~40m2/gの範囲のBET表面積を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項9】 前記担体材料上に備えられる前記イリジウム含有被覆が、1.0nm~5.0nmの範囲の平均層厚を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項10】 前記担体材料上に備えられる前記イリジウム含有被覆が、1.5nm~4.0nmの範囲の平均層厚を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項11】 前記担体材料上に備えられる前記イリジウム含有被覆が、1.7nm~3.5nmの範囲の平均層厚を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項12】 前記担体材料が、2~35m2/gの範囲のBET表面積を有し、前記触媒が、5重量%~35重量%のイリジウムを含有し、前記膜前面に備えられる前記触媒含有被覆のイリジウム含有レベルが、イリジウム0.03~0.20mg/cm2未満である、請求項1~11のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項13】 前記担体材料のBET表面積及び前記触媒のイリジウム含有量が、以下の条件: (1.003(g/m2)×BET)/(1+0.0117(g/m2)×BET)≦Ir-G≦(5.015(g/m2)×BET/(1+0.0585(g/m2)×BET) [式中、BETは、前記担体材料のBET表面積(m2/g)であり、 Ir-Gは、前記触媒のイリジウム含有量(重量%)である] を満たす、請求項1~12のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項14】 前記触媒が、前記担体材料がコアを形成し、前記イリジウム含有被覆がシェルを形成するコアシェル構造を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項15】 前記イリジウムが、酸化状態+3のイリジウム(イリジウム(III))及び/若しくは酸化状態+4のイリジウム(イリジウム(IV))としてのみ含まれる、並びに/又は 前記イリジウム含有被覆において、X線光電子分光法(XPS)によって求められるイリジウム(IV)のイリジウム(III)に対する原子比が、最大で4.7/1.0である、請求項1~14のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項16】 前記担体材料が、遷移金属の酸化物、主族金属の酸化物、SiO2、又は前述の担体材料のうち2種類以上の混合物である、請求項1~15のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項17】 前記膜前面に備えられる前記被覆が、2μm~10μmの範囲の厚さを有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項18】 前記膜前面に備えられる前記被覆が、3μm~8μmの範囲の厚さを有する、請求項1~17のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項19】 前記膜前面に備えられる前記被覆が、3μm~7μmの範囲の厚さを有する、請求項1~18のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項20】 前記膜前面に備えられる前記被覆が、アイオノマーを含有する、請求項1~19のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項21】 前記アイオノマーが、スルホン酸基含有モノマーを含有するポリマーである、請求項20に記載の被覆膜。 【請求項22】 水素発生反応用の触媒を含有する被覆が前記膜の前記後面に付着されている、請求項1~21のいずれか一項に記載の被覆膜。 【請求項23】 水電解用の膜電極接合体としての、請求項1~22のいずれか一項に記載の被覆膜の使用。 【請求項24】 請求項1~22のいずれか一項に記載の被覆膜を含有する水電解セル。」 第3 特許異議の申立ての理由の概要 申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第3号証を提出し、以下の申立理由1、2により、本件特許の請求項1~24に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。 1 申立理由1(進歩性) 本件発明1~14、16~24は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(サポート要件) (1)本件明細書の段落【0021】に記載されているように、本件発明は、「水電解プロセスにおいて、アノードとして機能する該被覆上で、可能な限り最も効率的である酸素発生反応を可能とする、被覆膜を提供すること」を課題としている。 そして、本件発明1は、触媒が「5重量%~60重量%の量のイリジウムを含有」することを発明特定事項としている。 また、本件発明13では、担体材料のBET表面積と触媒のイリジウム含有量との関係について特定されているが、本件発明13が引用する本件発明1との関係から、本件発明13は、触媒のイリジウム含有量が、最も低い場合で5重量%である場合を依然として包含している。 一方、本件明細書において、実際に上記課題を解決できることが示されているのは、イリジウム含有量が30重量%及び45重量%の場合の2点のみであり、イリジウム含有量が30重量%未満の場合及び45重量%超の場合については、課題を解決できるか否かが不明である。 ここで、本件明細書の記載(段落【0012】、【0017】、【0061】)によれば、本件発明におけるイリジウム化合物は、触媒としての機能に加え、非導電性である担体材料の表面において導電性を付与する役割も担っているところ、導電性を確保するためには、触媒が比較的多量のIr又はIrO2を含有する必要があることが知られていた(本件明細書の段落【0017】、甲第1号証)。 以上のことを考慮すると、本件明細書では、イリジウム含有量が30重量%または45重量%の場合に課題を解決できることが示されているにすぎず、本願出願時の技術水準を考慮しても、本件発明1におけるイリジウム含有量の範囲(5重量%~60重量%)、特に、5重量%というような極めてイリジウム含有量が低い場合であっても本件発明の課題を解決できることは、本件明細書に開示されているとはいえない。 よって、本件発明1~24について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)本件明細書の段落【0021】に記載されているように、本件発明は、「水電解プロセスにおいて、アノードとして機能する該被覆上で、可能な限り最も効率的である酸素発生反応を可能とする、被覆膜を提供すること」を課題としている。 そして、本件発明1は、膜前面に備えられている被覆が「0.01~0.4mg/cm2のイリジウム含有量」を有することを発明特定事項としている。 一方、本件明細書において、実際に上記課題を解決できることが示されているのは、被覆のイリジウム含有量が0.13~0.3mgIr/cm2の場合についてのみであり、0.13mgIr/cm2未満及び0.3mgIr/cm2超の場合については、課題を解決できるか否かが不明である。また、被覆のイリジウム含有量が0.13mgIr/cm2であったとしても、本件明細書の記載は、触媒のイリジウム含有量が5重量%~60重量%の全範囲にわたって課題を解決できることを示しているわけではない。さらに、本件発明1における下限値は、実施例における最小値からかけ離れており、被覆のイリジウム含有量が極端に低い場合にも課題を解決できることは示されていない。 よって、本件発明1~24について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 3 証拠方法 ・甲第1号証:国際公開第2013/092566号及びその抄訳 ・甲第2号証:P. MAZUR(Uはアキュート・アクセント付き) et al., "Non-conductive Ti02 as the anode catalyst support for PEM water electrolysis", International Journal of Hydrogen Energy,2012, 37, pp.12081-12088及びその抄訳 ・甲第3号証:M. BERNT et al., "Current Challenges in Catalyst Development for PEM Water Electrolyzers", Chemie Ingenieur Technik, 2020, 92, No. 1-2, pp.31-39及びその抄訳 第4 当合議体の判断 以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~24に係る特許を取り消すことはできない。 1 申立理由1(進歩性)について (1)甲号証に記載された事項 ア 甲第1号証に記載された事項(以下の翻訳文は、甲第1号証の抄訳に基づく。) (ア)「水電解用触媒であって、酸化イリジウムと高比表面積の無機酸化物とを含み、前記無機酸化物は30~200m2/gの範囲のBET比表面積を有し、前記無機酸化物は、前記触媒の総重量に対して25~70重量%の範囲の量で存在し、かつ、前記触媒の電気伝導率(粉末測定による)が0.01S/cm超であることを特徴とする、触媒。」(請求項1) (イ)「クレームされた触媒は複合触媒材料であり、酸化イリジウム(IrO2および/またはIr2O3)と、任意で酸化ルテニウム(RuO2および/またはRu2O3)とを、高比表面積の無機酸化物(好ましくはTiO2、Al2O3、ZrO2およびそれらの混合物)との組み合わせで含む。本発明の酸化イリジウムは、主に酸化イリジウム(IV)(IrO2)から成るが、様々な量の酸化イリジウム(III)(Ir2O3)が存在する場合がある。「複合触媒」という用語は、触媒が、無機酸化物材料上に微細に堆積した、またはその周りに分散した酸化イリジウム粒子を含むことを意味する。主張される材料は、PEM電解装置のアノード触媒として使用できる。この応用分野において、それらは高い電流密度を示し、生成される水素の体積あたりの比エネルギー消費量を低下させる。したがって、それらは所与のセル電圧でより高い水素生成率を提供する。要約すると、それらは、無機酸化物を含まない従来の酸化イリジウム系触媒よりも低い電圧で水を電解することができる。 クレームされた貴金属酸化物触媒の使用により製造されたPEM水電解装置用の触媒被覆膜(「CCM」)および膜電極接合体(「MEA」)は、従来技術の材料と比較して改善された性能を示す。結果として、アイオノマー膜、貴金属、バイポーラプレートなどの高価な材料の消費を抑え、より小型で安価な電解装置システムを設計することができる。 しかしながら、PEM燃料電池(例えば、起動/停止特性の改善のため)、再生型燃料電池(RFC)、および電気化学センサーなど、他の応用分野も可能である。」(第5ページ第1~21行) (ウ)「電極、触媒被覆膜(CCM)、および膜電極接合体(MEA)の製造のために、酸化イリジウム触媒は、適切な溶媒および任意でアイオノマー材料を添加することによってインクまたはペーストに加工される。触媒インクは、ガス拡散層(GDL)、集電体、アイオノマー膜、ブランクPTFEシート、剥離紙またはセパレータプレートなどに、スプレー、印刷、ドクターブレードまたは他の堆積プロセスによって堆積させることができる。通常、その後、触媒インクの溶媒を除去するために乾燥プロセスが適用される。PEM水電解装置用の触媒被覆膜およびMEAでは、クレームされた触媒材料がMEAのアノード側に適用される。典型的な搭載量は0.2~2.5mg貴金属/cm2の範囲である。カソード側では、標準的なPt触媒(例:Pt/CまたはPtブラック)が使用される。カソードでの搭載量は0.1~1mgpt/cm2の範囲である。」(第8ページ第1~11行) (エ)「実施例1 IrO2/TiO2(54wt.-%TiO2,46wt.-%IrO2)の調製 21.24g(乾燥質量)の二酸化チタン(P25,Evonik Degussa GmbH製;BET50m2/g)を、激しく撹拌しながら5.5Lの脱イオン水が入った10Lビーカーに加える。次に、74.46gのヘキサクロロイリジウム酸溶液(H2IrCl6,20.5wt.-%Ir;Umicore,Hanau/Germany製)を200mLの脱イオン水で希釈し、撹拌しながら懸濁液に加える。その後、懸濁液を70℃に加熱する。その温度に達した後、220mlのNaOH溶液(80gのNaOHを500mLの脱イオン水に溶解)を加え、さらに脱イオン水で希釈して総量を8Lにする。 温度は約4時間、同じレベルに保たれる。最終的なpHは20wt.-%のHClを用いて7.5に調整され、スラリーは70℃でさらに1時間撹拌される。最後に、生成物をろ過によって分離し、0.5%酢酸および脱イオン水で洗浄する。触媒はオープンで一晩乾燥させる。その後、生成物を管状炉内で空気中、400℃で焼成する。表1に、この触媒の特性データを示す。」(第9ページ第1~14行) (オ)「表1:水電解触媒の特性データ [図:0001434188000001.jpg] 」(第11ページ)(当合議体注:実施例1のみ記す。) イ 甲第3号証に記載された事項(以下の(ア)~(ウ)の翻訳文は、甲第3号証の抄訳に基づき、(エ)の翻訳文は、当合議体の仮訳である。また、下線は、当合議体が付与したものである。) (ア)「1.緒言 プロトン交換膜水電解(PEM-WE)は、その高い出力密度と優れた負荷追従性により、大規模なエネルギー貯蔵の文脈において、持続可能な水素製造のための有望な技術である[1-3]。しかし、PEM-WE内の過酷な環境(アノード側は低pH、1.5Vを超える電位、高酸素濃度)のため、電極触媒の選択肢は白金族金属(PGM)に限られる。通常、カソードでの水素発生反応(HER)にはカーボン担持白金(Pt/C)が使用され、アノードでの酸素発生反応(OER)にはイリジウム(Ir)ベースの触媒が使用される。 一般的に、カソードに約0.5~1.0mgPtcm-2、アノードに約2mgIrcm-2という高い触媒搭載量が適用されているにもかかわらず[4]、今日の比較的小規模な(kW級)システムでは、触媒材料費は総コストの約5%にすぎない[5]。しかし、より大規模なシステム(MW級)になると、周辺機器やその他のスタック構成部品のコスト割合が大幅に低下するため、触媒コストが主要なコスト要因になると予想される。さらに、PEM-WEの設置容量がGW(ギガワット)規模に達すると、Irの限られた資源量が懸念事項となる。このシナリオについて、我々のグループによる最近の研究では、PEM-WEを大規模に実用化するためには、Ir搭載量を現在の約2mgIrcm-2からわずか約0.05mgIrcm-2へと大幅に削減する必要があると示されている[3,7]。 カソードのPt搭載量については、酸性電解質中でのPtのHER反応速度が非常に速いため、性能に影響を与えることなく削減可能であることが示されている[2,7-9]。一方、Ir触媒については、IrO2ベースのOER触媒でIr搭載量を削減した場合のOER反応速度の不利益を図1に示す。実線(赤)は、Nafion212膜(厚さ約50μm)、カソードに約0.35mgPtcm-2のPt、アノードに約2mgIrcm-2のIrを搭載したMEA(膜電極接合体)を、温度80℃、常圧で測定したデータである (参考文献[10]の図4aより引用)。薄い膜と最適化された電極構造により、電流密度4Acm-2で、水素の低位発熱量(LHV)基準で70%のセル電圧効率(セル電圧1.79Vに相当)を達成できる。これは、水素1kgあたり約48kWhのエネルギー消費に相当する。IrO2ベースのOER触媒で一般的に観測されるターフェル勾配(TS≒50mV/decade)(当合議体注:「≒」はダブルチルダ)に基づくと[10]、触媒搭載量をmgIrcm-2から0.05mgIrcm-2に削減した場合のOER過電圧の増加(ΔηOER)は、80mVのセル電圧上昇に相当する。OER触媒搭載量の削減が他の電圧損失に影密しないと仮定すると、電圧-電流密度曲線は単純に80mV上方にシフトすることになり、これが図1の破線(赤)で示されている。」(第31ページ左欄~右欄) (イ)「 [図:0001434188000002.jpg] 図1.厚さ50μmのNafion212膜、触媒量2mgIrcm-2および約0.35mgPtcm-2のMEA(膜電極接合体)について、温度80℃で測定した常圧PEM-WE性能曲線(赤色実線。5cm2の単セルのデータは参考文献[10]より引用)。赤色破線は、IrO2触媒のOER反応速度に基づき、OER触媒量の削減が他のすべての電圧損失に影響しないという仮定のもとで計算された、Ir搭載量0.05mgIrcm-2の場合の予測性能曲線を示す。青色の線は、Ir搭載量が2mgIrcm-2(実線)および0.05mgIrcm-2(破線)の場合の、電流密度の関数としてのIr比出力密度を表す。矢印は、電流密度を一定に保つ(経路A)か、セル電圧(すなわち効率)を一定に保つ(経路B)か、いずれかの一方でIr搭載量を下げた場合の結果を示している。」(第32ページ左欄) (ウ)「Ir比セル出力密度(すなわち、Ir搭載量をセル出力密度で割ったもの、単位はgIr/kW)に関しては、Ir搭載醤を40分の1に(すなわち、2mgIrcm-2から0.05mgIrcm-2へ)削減した場合に予測される性能損失があっても、Ir比出力密度はなお30分の1に削減される結果となる(図1の青色の実線と破線を参照)。言い換えれば、このIr搭載量を40分の1に削減した場合の性能指標の予測は、2つの見方のいずれかで捉えることができる:i)電流密度を一定に保つ場合、4Acm-2におけるセル電圧は約80mV上昇して1.87Vとなり、これはセルエネルギー消費量が4%増加して50kWh/kgH2(LHV効率67%)となることに相当するが、Ir比出力密度は約0.3gIr/kWから約0.007gIr/kWへと削減される(図1に示された経路Aを参照)。または、ii)効率を70%LHVで一定に保つ場合、電流密度を約27%減少させて約2.9Acm-2にする必要があるが、Ir比出力密度はそれでも約0.01Ir/kWへと大幅に削減される(図1の経路Bを参照)。どちらの戦略も、PEM-WEのGW規模での応用に必要とされるであろう0.01gIr/kW以下へのIr比出力密度の削減につながるだろう。しかしながら、図1に示されるような電流密度2Acm-2以上で70%LHV以上の電圧効率は、薄い膜(ここでは約50μmに対し、今日の商用電解槽では約200μm)によってのみ達成可能であり、そのためにはアノード区画での爆発性のH2/O2混合ガスの生成を防ぐための特別な軽減措置が必要となることにも留意すべきである。 上記の分析は、PEM-WEの大規模応用の要件が、Ir搭載置を0.05mgIrcm-2に削減することによって満たされる可能性を示唆している。しかし、今日の商用触媒材料では、このようなIr搭載量の抜本的な削減は不可能である。図1(赤色実線)の性能曲線でIr搭載量2mgIrcm-2で使用された酸化チタン担持IrO2(IrO2/TiO2)触媒(Umicore社製、Elyst Ir75 0480)の場合、その搭載量を0.5mgIrcm-2未満に減らすと、触媒層が非常に薄く不均ーになり、単にOER反応速度の損失に基づく予想よりもはるかに高い性能損失をもたらす。その分析が示すように、今日の商用Irべース触媒のOER活性は、わずかな性能損失でイリジウム搭載量の大幅な削減を可能にするには十分であろうが、このような低いIr搭載量で均ーな触媒層の作製を可能にするためには、高構造化触媒、すなわち電極内のイリジウム充填密度がはるかに低い触媒が必要となるだろう。例えば、ここで使用されたIrO2/TiO2触媒のアノード電極におけるイリジウム充填密度は約2.3gIrcm-3(層厚約4.3μm/(mgIrcm-2)に相当)であり、これは燃料電池や電解槽カソードで使われる典型的なカーボン担持白金触媒(15wt%Pt/C触媒で約0.08gPtcm-3または約125μm/(mgPtcm-2))の30倍も大きい。次のセクションでは、このような高構造化触媒を開発するための異なる概念について議論する。」(第32ページ左欄~右欄) (エ)「2 イリジウムベースのOER触媒開発のコンセプト 最先端のPEM-WEでは、支持されていないイリジウム(Ir)又はIrO2ベースの触媒がアノードでの酸素発生反応(OER)に使用されている[4]。超低イリジウム負荷で十分な厚さ(約4-8μm[7])の電極を製造するためには、高構造触媒を作製するためのさまざまなアプローチが存在する。一つの戦略は、Ir又はIrO2の薄膜やナノ粒子を高表面積の支持材料に支持することによって貴金属の分散を最大化することである。このコンセプトは、電解槽のカソードやPEM燃料電池の電極に使用されるPt/C触媒に類似している。しかし、アノード側の高い電気化学的電位(>1.4V)では、炭素支持体がこれらの条件下でCO2に酸化されるため、炭素支持体の使用は不可能である[14,15]。一方、酸化チタン(TiO2)は安定した商業的に入手可能で、安価な材料である[16]。TiO2は、Irの触媒支持体として頻繁に使用されている[17,18]。しかし、TiO2自体は導電性がないため、Ir又はIrO2の連続的なネットワーク/フィルムを形成して十分な電気導電性を生成するためには、比較的高い量のIr又はIrO2(>40wt%)が必要である[19,20]。導電性で安定した支持材料があれば、触媒層全体に十分な導電性を提供するためにIr又はIrO2の浸透ネットワークを必要とせず、したがって、より低いIr負荷を実現できる。アンチモンドープスズ酸化物(ATO)[21-24]やニオブドープ酸化チタン(NTO)[25]は、潜在的な支持材料として提案されているが、PEM電解における長期的な安定性はまだ検証されていない。別の有望な支持オプションは、ATOと比較して高い内因的導電性を持つチタン亜酸化物である[26,27]。しかし、この高い導電性が長時間の電解槽運転中に維持できるかどうかを示すためには、さらなる研究が必要である。タングステンドープ酸化チタン(WxTi1-xO2)は、別の潜在的な支持材料として提示されており、0.2mgIrcm-2のIr負荷で1000時間以上の高性能と十分な安定性が示されている[28]。適切な支持材料がない場合、Irベースのナノワイヤ[29]、ナノ構造薄膜(NSTF)[30]、またはコアシェル構造[6,22]などの代替触媒構造と、反応性スプレー堆積法[6]のような改良された触媒層製造技術が、より低いIr負荷を達成するための別の道を提供する。 Kopernikus P2Xプロジェクト[31]の中で、Greenerity GmbH、Heraeus Deutschland GmbH & Co.KG、ミュンヘン大学(LMU)、及びミュンヘン工科大学(TUM)のプロジェクトパートナーによって、イリジウム負荷を削減するためのさまざまなアプローチが調査された。その結果、イリジウムの充填密度が約0.46gIrcm-3に低下した新しい高構造触媒が得られ、約0.3mgIrcm-2の負荷でも十分な厚さ(約6.5μm)の電極を実現している。この負荷と厚さでの性能は、図2(緑の線)で、2.53mgIrcm-2の高い負荷で約11μmの電極厚さを持つ商業的なIrO2/TiO2触媒(赤の線)と比較されている。触媒の負荷が約8倍削減されたにもかかわらず、新しい触媒ではわずかに高い性能が得られた。これは、PEM-WEの大規模な応用に必要なIr負荷の大幅な削減に向けた重要な第一歩である。セル電圧が1.79Vで、セル電圧効率が70%LHVに相当する場合、両触媒の電流密度は約3.4Acm-2となり、2.5mgIrcm-2及び0.3mgIrcm-2のアノードに対して、それぞれ約0.41gIr/kWおよび約0.05gIr/kWのIr特有の出力密度に相当する。この新しいIrベースのOER触媒に対して、予測されるIr特有の出力密度は、上記の目標である0.01gIr/kWの5~10倍の範囲にすでに入っている。しかし、このような新しいOER触媒の開発には、有望な材料を合理的な時間内に特定するための迅速かつ信頼性の高いスクリーニング方法が必要である。可能な方法とそれに伴う課題については、次のセクションで議論する。 [図:0001434188000003.jpg] 図2.市販触媒(IrO2/TiO2、Umicore)を用いたMEAの80℃における常圧電解槽性能(5cm2単セル)と、アノードIr担持量2.5mgIrcm-2(赤)のMEAと、Ir担持量約0.3mgIrcm-2を超える新規高構造化触媒材料(緑)の比較。MEAは、厚さ約50μmのNafion212膜とカソードPt担持量0.3mgPtcm-2を用いて作製した。セルのハードウェアおよびその他のセルコンポーネントは、参考文献[10]に記載されているとおりである。」(第32ページ右欄~第33ページ右欄) (2)甲第1号証に記載された発明 ア 上記(1)ア(ア)のとおり、甲第1号証には、「水電解用触媒であって、酸化イリジウムと高比表面積の無機酸化物とを含み、前記無機酸化物は30~200m2/gの範囲のBET比表面積を有し、前記無機酸化物は、前記触媒の総重量に対して25~70重量%の範囲の量で存在し、かつ、前記触媒の電気伝導率(粉末測定による)が0.01S/cm超であることを特徴とする、触媒。」に関する発明が記載されている。 イ また、上記(1)ア(エ)、(オ)のとおり、上記アの発明の具体例と認められる実施例1には、「IrO2/TiO2(54wt.-% TiO2,46wt.-% IrO2)の調製」として、触媒のBET[m2/g]:45、無機酸化物(チタニア)のBET[m2/g]:50、無機酸化物(チタニア)の重量%:54、1.5Vvs.RHEにおける電流密度[mA/mg]:8.69、電気伝導度[S/cm]:5.24の触媒が得られたことが記載されている。 ウ そして、上記(1)ア(ウ)によれば、「PEM水電解装置用の触媒被覆膜およびMEAでは、クレームされた触媒材料がMEAのアノード側に適用され」(「触媒被覆膜」においても同様にアノード側に適用されると解される。)、適用した際の「典型的な搭載量は0.2~2.5mg貴金属/cm2の範囲である」といえるから、甲第1号証には、上記イの実施例1の触媒をアノード側に適用して、0.2~2.5mgIr/cm2の範囲で搭載したPEM水電解装置用の触媒被覆膜が記載されていると認められる。 エ そうすると、甲第1号証には、特に、実施例1の触媒がアノード側に適用されたPEM水電解装置用の触媒被覆膜に着目すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲1発明> 酸化イリジウム(IrO2)と高比表面積のチタニア(TiO2)とを含み、前記チタニアは50m2/gのBET比表面積を有し、前記チタニアは、前記触媒の総重量に対して54重量%の量で存在し、前記酸化イリジウムは、前記触媒の総重量に対して46重量%の量で存在し、かつ、前記触媒の電気伝導率(粉末測定による)が5.24S/cmである水電解用触媒が、PEM水電解装置用の触媒被覆膜のアノード側に適用された触媒被覆膜であって、前記触媒の搭載量が、0.2~2.5mgIr/cm2である触媒被覆膜。 (3)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の触媒被覆膜は、膜と触媒被覆を含むものであるところ、このうち、触媒被覆膜を構成する膜は、膜である以上、面積が側面に対して広い第1の面及び第2の面を有するものであると認められる。そして、甲1発明の触媒被覆膜は、PEM水電解装置用の触媒被覆膜であって、当該触媒被覆膜に適用された水電解用触媒は、PEM水電解装置用の触媒被覆膜のアノード側(の触媒被覆)に適用されている。ここで、技術常識に照らして、PEM水電解装置用の触媒被覆膜のアノード側は、酸素が発生する側であるから、甲1発明における水電解用触媒は、酸素発生反応用の触媒であるといえる。 そうすると、触媒被覆膜の第1の面をアノード側とすると、甲1発明において、「触媒被覆膜」が「膜」と「触媒被覆」を含み、「膜」が第1の面及び第2の面を有し、酸素発生反応用の触媒である「水電解用触媒」が「適用された」「触媒被覆」が「膜」の第1の面に存在していることは、本件発明1において、「被覆膜」が「膜」と「触媒含有被覆」を含有し、「膜」が「前面及び後面を有」し、「水電解における酸素発生反応用の触媒を含有する触媒含有被覆」が「前記膜の前記前面に備えられ」ていることに相当する。 (イ)上記(1)ア(イ)によれば、甲1発明における「水電解用触媒」は、複合触媒材料であり、無機酸化物材料(チタニア)上に微細に堆積した、またはその周りに分散した酸化イリジウム粒子を含むものであると解される。ここで、酸化イリジウム粒子が、チタニア上に微細に堆積した、またはその周りに分散した状態は、酸化イリジウムがチタニアの上を覆っている状態であるといえる。そして、技術常識に照らして、甲1発明における「高比表面積のチタニア(TiO2)」は触媒担体である。 そうすると、甲1発明の触媒被覆膜において、水電解用触媒が、「酸化イリジウム(IrO2)と高比表面積のチタニア(TiO2)とを含み、前記チタニアは50m2/gのBET比表面積を有」することは、本件発明1の被覆膜において、「前記触媒は、- 2m2/g~80m2/gのBET表面積を有する担体材料と、- 前記担体材料上に備えられ、酸化イリジウム、水酸化イリジウム若しくは水酸化酸化イリジウム、又はこれらのイリジウム化合物のうち少なくとも2種類の混合物を含有するイリジウム含有被覆と、を含有」することに相当する。 (ウ)甲1発明の触媒被覆膜において、水電解用触媒に含まれる酸化イリジウム(IrO2)の量は、46wt.-%であり、イリジウムの原子量(192.22)及び酸素の原子量(16.00)から、水電解用触媒に含まれるイリジウムの量を算出すると、39.4wt.-%(=46×192.22/(192.22+16.00×2))となる。 そうすると、甲1発明の水電解用触媒は、本件発明1の「前記触媒は、5重量%~60重量%の量のイリジウムを含有し」との特定を満たすものである。 (エ)以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、 「被覆膜であって、 - 前面及び後面を有する膜、 - 前記膜の前記前面に備えられ、水電解における酸素発生反応用の触媒を含有する触媒含有被覆、 を含有し、 前記触媒は、 - 2m2/g~80m2/gのBET表面積を有する担体材料と、 - 前記担体材料上に備えられ、酸化イリジウム、水酸化イリジウム若しくは水酸化酸化イリジウム、又はこれらのイリジウム化合物のうち少なくとも2種類の混合物を含有するイリジウム含有被覆と、 を含有し、 前記触媒は、5重量%~60重量%の量のイリジウムを含有する、被覆膜。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1の「被覆膜」は、前記膜前面に備えられる「前記被覆は、イリジウム0.01~0.4mg/cm2のイリジウム含有量を有する」のに対し、甲1発明の「触媒被覆膜」は、触媒被覆膜のアノード側に適用された「触媒の搭載量が、0.2~2.5mgIr/cm2である」点。 イ 判断 (ア)相違点1について a 相違点1が実質的な相違点であるかについて 甲1発明の触媒被覆膜のアノード側(の触媒被覆)における触媒の搭載量は、「0.2~2.5mgIr/cm2」であるところ、本件発明1の被覆膜の被覆におけるイリジウム含有量である「0.01~0.4mg/cm2」に対して、0.4mgIr/cm2超の範囲を含むものであり、後者が前者を内包するものではないから、両者は一致するとはいえない。また、甲第1号証の記載や技術常識を考慮しても、甲1発明の触媒被覆膜のアノード側(の触媒被覆)における触媒の搭載量が、0.4mgIr/cm2以下にとどまるかは不明である。 よって、相違点1は、実質的な相違点である。 b 相違点1の容易想到性について (a)甲第1号証には、甲1発明の触媒被覆膜のアノード側(の触媒被覆)における触媒の搭載量について、その上限を0.4mgIr/cm2以下とすることが何ら記載されていないから、甲1発明の触媒被覆膜において、触媒の搭載量の上限を0.4mgIr/cm2以下とすることが動機付けられるとはいえない。 (b)i 一方、上記(1)イ(ア)、(イ)のとおり、甲第3号証には、「PEM-WEを大規模に実用化するためには、Ir搭載量を現在の約2mgIrcm-2からわずか約0.05mgIrcm-2へと大幅に削減する必要がある」との記載があるため、甲1発明の触媒被覆膜において、触媒の搭載量を0.05mgIr/cm2とすることについて、一応の動機付けがあるといえる。 しかしながら、上記(1)イ(ウ)のとおり、甲第3号証には、「搭載量を0.5mgIrcm-2未満に減らすと、触媒層が非常に薄く不均ーになり、単にOER反応速度の損失に基づく予想よりもはるかに高い性能損失をもたらす」ため、「PEM-WEの大規模応用の要件が、Ir搭載置を0.05mgIrcm-2に削減することによって満たされる可能性を示唆している」ものの、「今日の商用触媒材料では、このようなIr搭載量の抜本的な削減は不可能である」旨の記載もあるため、甲1発明の触媒被覆膜において、触媒の搭載量を0.05mgIr/cm2とした際に、触媒被覆の厚さが薄くなりすぎないかを検討する。 甲第1号証には、触媒被覆に含まれる単位体積当たりのイリジウム量が記載されていないから、触媒の搭載量を0.05mgIr/cm2とした際に、触媒被覆の厚さが薄くなりすぎないかは不明である。また、触媒被覆の厚さを変更せずに、触媒の総重量に対するイリジウムの量を低減することで、触媒の搭載量を0.05mgIr/cm2とすることも可能であるが、この場合、甲1発明の触媒被覆膜において、触媒の総重量に対するイリジウムの量が、5重量%未満(本件発明1の範囲外)とならないかも不明である。 そうすると、甲第3号証の「Ir搭載量を約0.05mgIrcm-2へと大幅に削減する必要がある」旨の示唆に基づいて、甲1発明の触媒被覆膜における触媒の搭載量を0.05mgIr/cm2にしようとしても、これが実現可能であるかは不明であるから、甲1発明の触媒被覆膜において、相違点1に係る特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。 ii また、上記(1)イ(エ)のとおり、甲第3号証には、「イリジウムの充填密度が約0.46gIrcm-3に低下した新しい高構造触媒が得られ、約0.3mgIrcm-2の負荷でも十分な厚さ(約6.5μm)の電極を実現している。」との記載もあるため、甲1発明の触媒被覆膜において、触媒を「新しい高構造触媒」に変更し、その搭載量を約0.3mgIr/cm2とすることについて、一応の動機付けがあるといえる。 しかしながら、上記(1)イ(エ)のとおり、甲第3号証には、「新しい高構造触媒」における、担体材料のBET表面積、触媒のイリジウム含有量がいずれも記載されておらず不明である。 そうすると、甲1発明の触媒被覆膜における触媒を「新しい高構造触媒」に変更し、その搭載量を約0.3mgIr/cm2としても、「新しい高構造触媒」が、本件発明1の他の特定事項を満たすのかは不明であるから、本件発明1は、甲1発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 iii そして、甲第2号証には、PEM水電解プロセス用の陽極IrO2電極触媒担体としてのTiO2の適用可能性に関する記載はあるものの、触媒被覆膜における、触媒の搭載量(mgIr/cm2)に関する記載はないから、甲第2号証に記載された事項は、上記判断を左右するものではない。 ウ 小括 以上によれば、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明2~14、16~24について 本件発明2~14、16~24は、本件特許の請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(3)で述べたとおり、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2~14、16~24についても同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)申立理由1(進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、本件発明1~14、16~24は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、申立理由1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1~14、16~24に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2(サポート要件)について (1)本件発明1~24について ア 本件明細書の段落【0021】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「酸性水電解において膜電極接合体として使用することができる被覆膜であって、該水電解プロセスにおいて、アノードとして機能する該被覆上で、可能な限り最も効率的である酸素発生反応を可能とする、被覆膜を提供すること」であると認められる。 イ 本件明細書には、上記アの課題に関し、以下の事項が記載されている。 (ア)「【0023】 触媒の上記の特性(すなわち、担体材料の最大で80m2/gのBET表面積、及び最大で60重量%のイリジウム含有量)と、膜前面に備えられる触媒含有被覆の非常に低いイリジウム含有量(最大でイリジウム0.4mg/膜1cm2)との組み合わせにより、この被覆は、水電解において、低いイリジウム含有量で高い活性を有する非常に効率的なアノードとして機能する。」 (イ)「【0026】 膜被覆は、好ましくは最大でイリジウム0.3mg/cm2、より好ましくはイリジウム0.20mg/cm2未満のイリジウム含有量を有する。例えば、膜被覆のイリジウム含有量は、イリジウム0.01~0.4mg/cm2、より好ましくはイリジウム0.02~0.3mg/cm2、更により好ましくはイリジウム0.03~0.20mg/cm2未満の範囲である。」 (ウ)「【0029】 触媒は、好ましくは最大で40重量%、より好ましくは最大で35重量%の量でイリジウムを含有する。例えば、触媒は、5重量%~60重量%、より好ましくは5重量%~40重量%、更により好ましくは5重量%~35重量%の量でイリジウムを含有する。」 (エ)「【0031】 担体材料は、好ましくは最大で65m2/g、より好ましくは最大で50m2/gのBET表面積を有する。例えば、担体材料のBET表面積は、2~80m2/g、より好ましくは2~65m2/g、更により好ましくは2~50m2/gの範囲である。好ましい実施形態において、担体材料のBET表面積は、2m2/g~40m2/g、より好ましくは2m2/g~10m2/g未満、更により好ましくは2m2/g~9m2/gである。」 ウ そして、上記イの記載を含む本件明細書の段落【0023】~【0103】、表1~3、図1、2の記載によれば、上記アの課題は、前面及び後面を有する膜と、当該膜の前面に備えられた水電解における酸素発生反応用の触媒を含有する触媒含有被覆と、を含有する被覆膜において、前記触媒は、2m2/g~80m2/gのBET表面積を有する担体材料と、前記担体材料上に備えられ、酸化イリジウム、水酸化イリジウム若しくは水酸化酸化イリジウム、又はこれらのイリジウム化合物のうち少なくとも2種類の混合物を含有するイリジウム含有被覆と、を含有し、前記触媒は、5重量%~60重量%の量のイリジウムを含有し、前記膜前面に備えられる前記被覆は、イリジウム0.01~0.4mg/cm2のイリジウム含有量を有する、被覆膜とすることによって解決できることが理解できる。 エ 以上のとおり、本件明細書の記載を総合すれば、上記ウの技術的事項を備えた本件発明1~24は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であって、出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により当業者が上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。 したがって、本件発明1~24について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。 (2)申立人の主張について ア 申立人は特許異議申立書の第54ページ第6行~第57ページ第6行において、本件明細書において、実際に上記課題を解決できることが示されているのは、イリジウム含有量が30重量%及び45重量%の場合の2点のみであり、イリジウム含有量が30重量%未満の場合及び45重量%超の場合については、課題を解決できるか否かが不明であり、特に、5重量%というような極めてイリジウム含有量が低い場合であっても本件発明の課題を解決できることは、本件明細書に開示されているとはいえない旨を主張する。 しかしながら、上記(1)ウ、エで述べたとおり、触媒におけるイリジウムの含有量については、5重量%~60重量%であれば、上記(1)アの課題を解決できると認識できる範囲のものである。特に、触媒の電気伝導の観点で付言すると、担体材料が非導電性の場合、担体材料のBET表面積の大小に応じて、電気伝導のために必要となるイリジウムの量が増減することは明らかであるから、担体材料のBET表面積が小さい場合には、5重量%のイリジウム含有量であっても、上記(1)アの課題を解決できると認識できる。 よって、申立人の上記主張は採用できない。 イ 申立人は特許異議申立書の第57ページ第7~27行において、本件明細書において、実際に上記課題を解決できることが示されているのは、被覆のイリジウム含有量が0.13~0.3mgIr/cm2の場合についてのみであり、0.13mgIr/cm2未満及び0.3mgIr/cm2超の場合については、課題を解決できるか否かが不明であり、また、被覆のイリジウム含有量が0.13mgIr/cm2であったとしても、本件明細書の記載は、触媒のイリジウム含有量が5重量%~60重量%の全範囲にわたって課題を解決できることを示しているわけではなく、さらに、本件発明1における下限値は、実施例における最小値からかけ離れており、被覆のイリジウム含有量が極端に低い場合にも課題を解決できることは示されていない旨を主張する。 しかしながら、上記(1)ウ、エで述べたとおり、被覆のイリジウム含有量については、イリジウム0.01~0.4mg/cm2であれば、上記(1)アの課題を解決できると認識できる範囲のものである。また、イリジウム0.13mg/cm2未満及びイリジウム0.3mg/cm2超のイリジウム含有量の場合について、上記(1)アの課題を解決できないことを示す具体的な根拠は見当たらないし、被覆のイリジウム含有量がイリジウム0.13mg/cm2の場合において、触媒のイリジウム含有量が5重量%~60重量%のいずれかで、上記(1)アの課題を解決できないことを示す具体的な根拠も見当たらない。 よって、申立人の上記主張は採用できない。 (3)申立理由2(サポート要件)のまとめ 以上のとおり、本件発明1~24について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。 したがって、申立理由2(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1~24に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~24に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700969

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