特許異議申立
2024-700399
ポリ塩化ビニル組成物及び耐火シート
- 審判番号
- 2024-700399
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-100382外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7374047
- 請求日
- 2024年04月25日
- 審決日
- 2025年07月09日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】信越ポリマー株式会社
- 【権利者代理人】西澤 和純
- 【権利者代理人】川越 雄一郎
- 【権利者代理人】伏見 俊介
- 【異議申立人】林 法子
- 分類
- P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7374047号発明「ポリ塩化ビニル組成物及び耐火シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7374047号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第7374047号の請求項3-7に係る特許を維持する。
特許第7374047号の請求項1、2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7374047号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和2年6月9日を出願日とする特許出願(特願2020-100382号)であって、令和5年10月26日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年11月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和6年4月25日に特許異議申立人 林 法子(以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~7に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和6年 7月25日付け: 取消理由通知
同年 9月26日 : 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
令和7年 3月24日付け: 訂正請求があった旨の通知(申立人宛)
なお、令和7年3月24日付けの、訂正請求があった旨の通知に対して、申立人から意見書の提出はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年9月26日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は、「特許第7374047号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」というものであって、その訂正の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1、請求項2を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を独立形式請求項とし、
「 ポリ塩化ビニルと、リン酸エステル系可塑剤と、亜リン酸アルミニウムと、熱膨張性黒鉛と、を含むポリ塩化ビニル組成物であって、
前記ポリ塩化ビニルの平均重合度が1300以上4000以下であり、
前記ポリ塩化ビニルの100質量部に対して前記リン酸エステル系可塑剤が5質量部以上150質量部以下で含まれ、
前記ポリ塩化ビニルと前記リン酸エステル系可塑剤の合計の100質量部に対して、前記亜リン酸アルミニウムと前記熱膨張性黒鉛の合計が80質量部以上120質量部以下で含まれ、
前記リン酸エステル系可塑剤の100質量部に対して前記熱膨張性黒鉛が100質量部以上150質量部以下で含まれ、
前記ポリ塩化ビニルの100質量部に対する前記亜リン酸アルミニウムの含有量が75~150質量部である、ポリ塩化ビニル組成物。」に訂正する。
(請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4~7についても同様に訂正される。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7を
「請求項3~6のいずれか一項に記載のポリ塩化ビニル組成物によって形成された、耐火シート。」に訂正する。
なお、訂正事項1に係る訂正前の請求項1~7について、請求項2~7は、それぞれ、請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~7に対応する訂正後の請求項1~7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、請求項1及び2を削除するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項2を引用し、かつ訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項3が請求項1、2を引用しないものとして独立請求項へ改めるものであるから「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項7が請求項1~6を引用していたものを、請求項3~6を引用するものに限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
なお、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~7に対してされているので、当該請求項における訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
3 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたので、本件特許の請求項3~7に係る発明(以下順に「本件発明3」~「本件発明7」のようにいい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項3~7に記載された事項により特定されるとおりのものであり、特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】(削 除)
【請求項2】(削 除)
【請求項3】
ポリ塩化ビニルと、リン酸エステル系可塑剤と、亜リン酸アルミニウムと、熱膨張性黒鉛と、を含むポリ塩化ビニル組成物であって、
前記ポリ塩化ビニルの平均重合度が1300以上4000以下であり、
前記ポリ塩化ビニルの100質量部に対して前記リン酸エステル系可塑剤が5質量部以上150質量部以下で含まれ、
前記ポリ塩化ビニルと前記リン酸エステル系可塑剤の合計の100質量部に対して、前記亜リン酸アルミニウムと前記熱膨張性黒鉛の合計が80質量部以上120質量部以下で含まれ、
前記リン酸エステル系可塑剤の100質量部に対して前記熱膨張性黒鉛が100質量部以上150質量部以下で含まれ、
前記ポリ塩化ビニルの100質量部に対する前記亜リン酸アルミニウムの含有量が75~150質量部である、ポリ塩化ビニル組成物。
【請求項4】
前記ポリ塩化ビニル組成物の総質量に対する前記亜リン酸アルミニウムの含有量が20~30質量%である、請求項3に記載のポリ塩化ビニル組成物。
【請求項5】
前記ポリ塩化ビニル組成物の総質量に対する前記熱膨張性黒鉛の含有量が20~30質量%である、請求項4に記載のポリ塩化ビニル組成物。
【請求項6】
前記ポリ塩化ビニル組成物の総質量に対する前記ポリ塩化ビニルの含有量が20~30質量%である、請求項5に記載のポリ塩化ビニル組成物。
【請求項7】
請求項3~6のいずれか一項に記載のポリ塩化ビニル組成物によって形成された、耐火シート。」
第4 特許異議申立書に記載した申立理由、証拠方法、当審において通知した取消理由の概要
1 申立理由の概要
特許異議申立書に記載した申立理由の概要は、次のとおりである。
申立理由1(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
申立理由2(実施可能要件違反)
本件特許の請求項1~7に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
申立理由3(進歩性欠如)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第8号証に記された事項に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 証拠方法
申立人が申立書に添付して提出した証拠方法は,次のとおりである。
甲第1号証:国際公開第2017/126654号
甲第2号証:サンソサイザー TCPのカタログ、新日本理化株式会社、2019年
甲第3号証:特開平10-231405号公報
甲第4号証:特開2004-161870号公報
甲第5号証:特開2005-273216号公報
甲第6号証:特開2019-119859号公報
甲第7号証:特開2020-45390号公報
甲第8号証:特開2020-50699号公報
以下、それぞれ「甲1」~「甲8」のようにいう。
3 取消理由の概要
当審において令和6年7月25日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由1(サポート要件違反)
本件特許の請求項1、2、7に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
第5 当審の判断
当審合議体は、当審において通知した取消理由及び申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項3~7に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
また、本件特許の請求項1及び2に係る特許についての特許異議の申立ては、請求項1及び2が訂正により削除されたことにより申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
1 取消理由1(サポート要件違反)、申立理由1(サポート要件違反)について
取消理由1、申立理由1は、いずれもサポート要件違反をいうものであるから、まとめて検討する。
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照)。
(2)本件発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0005】の記載からみて、「高熱に暴露された際の耐火性及び遮熱性に優れた耐火シートを形成することが可能な、ポリ塩化ビニル組成物及び耐火シートを提供すること」であると認められる。
(3)サポート要件の検討
本件発明3は、上記第3で示したとおりのものである。
そこで、本件発明3が、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できるか否かについて検討する。
本件明細書には、「ポリ塩化ビニルの平均重合度」について、「本態様のPVCの平均重合度は、1300~4000であり、・・・上記範囲の下限値以上であると、PVC組成物の粘度が高まるとともに、難燃剤の分散性も向上し、シート状に成形することが容易になる。上記範囲の上限値以下であると、PVC組成物の流動性が高まるとともに、難燃剤の分散性も向上し、シート状に成形することが容易になる。」と記載されている(【0013】)。
そして、実施例には、本件発明3の構成要件を全て満たす実施例1(ポリ塩化ビニルの平均重合度は2500)と、実施例1においてポリ塩化ビニルの平均重合度を1000に変更した比較例1、実施例1においてポリ塩化ビニルの平均重合度を5000に変更した比較例2が記載され、【0049】には、実施例1は「優れた遮熱性を示し、外形の変形も少なく耐火性も優れていた。」こと、比較例1は「PVCの平均重合度が小さいため、PVC組成物がシート成形に適した状態にならなかった。」こと、比較例2は「PVCの平均重合度が大きいため、PVC組成物がシート成形に適した状態にならなかった。」ことが記載されている。
次に、本件明細書には、ポリ塩化ビニルの100質量部に対するリン酸エステル系可塑剤の含有量について、「本態様のPVC組成物において、PVCの100質量部に対するリン酸エステル系可塑剤の含有量は、5~150質量部であり、・・・上記範囲の下限値以上であると、PVC組成物の流動性が高まるとともに、難燃剤の分散性も向上し、シート状に成形することが容易になる。上記範囲の上限値以下であると、PVC組成物の粘度が高まるとともに、難燃剤の分散性も向上し、シート状に成形することが容易になる。」と記載されている(【0019】)。
そして、実施例には、本件発明3の構成要件を全て満たす実施例1(ポリ塩化ビニルの100質量部に対するリン酸エステル系可塑剤の含有量は75質量部)と、実施例1においてリン酸エステル系可塑剤をフタル酸系可塑剤に変更した比較例3が記載され、【0049】には、実施例1は「優れた遮熱性を示し、外形の変形も少なく耐火性も優れていた。」こと、比較例3は「リン酸エステル系可塑剤を含まず、フタル酸系可塑剤を含んでいたので、遮熱性に劣り、発火した。」ことが記載されている。
次に、本件明細書には、ポリ塩化ビニルとリン酸エステル系可塑剤の合計の100質量部に対する、亜リン酸アルミニウムと熱膨張性黒鉛の合計の含有量について、「本態様のPVC組成物において、ポリ塩化ビニルとリン酸エステル系可塑剤の合計の含有量を100質量部としたとき、この100質量部に対する、亜リン酸アルミニウムと熱膨張性黒鉛の合計の含有量は、50~200質量部であり、・・・80~140質量部がさらに好ましく、90~120質量部が特に好ましい。上記範囲であると、PVC組成物をシート状に成形することが容易になるとともに、得られた耐火シートの耐火性及び遮熱性のバランスが優れる。」(【0027】)と記載されている。
そして、実施例には、本件発明3の構成要件を全て満たす実施例1(ポリ塩化ビニルとリン酸エステル系可塑剤の合計の100質量部に対する、亜リン酸アルミニウムと熱膨張性黒鉛の合計の含有量が約103質量部(=100×(90.05+90.05)/(100+75))と、実施例1において、上記含有量を約44質量部(=100×(38.59+38.59)/(100+75))に変更した比較例4、上記含有量を約240部(=100×(210.12+210.12)/(100+75))に変更した比較例6が記載され、【0049】には、実施例1は「優れた遮熱性を示し、外形の変形も少なく耐火性も優れていた。」こと、比較例4は「難燃剤の総量が少ないため、加熱後直ぐに外形が激しく変形し、遮熱性を発揮することはできなかった。」ことが、比較例6は「難燃剤の総量が多いため、所望の厚さのシートを得るためにプレスすることができなかった。」ことが記載されている。
次に、本件明細書には、リン酸エステル系可塑剤の100質量部に対する、熱膨張性黒鉛の含有量について、「本態様のPVC組成物において、リン酸エステル系可塑剤の100質量部に対する熱膨張性黒鉛の含有量は、60~250質量部が好ましく、・・・100~150質量部がさらに好ましい。上記範囲であると、PVC組成物をシート状に成形することがより容易になり、得られた耐火シートの耐火性及び遮熱性のバランスが優れる。」(【0023】)と記載されている。
そして、実施例には、本件発明3の構成要件を全て満たす実施例1(リン酸エステル系可塑剤の100質量部に対する、熱膨張性黒鉛の含有量が約120質量部(=100×90.05/75))と、上記含有量を約51質量部(=100×38.59/75)とした比較例4、上記含有量を約280質量部(=100×210.12/75)とした比較例6が記載され、【0049】には、実施例1は「優れた遮熱性を示し、外形の変形も少なく耐火性も優れていた。」こと、比較例4は「難燃剤の総量が少ないため、加熱後直ぐに外形が激しく変形し、遮熱性を発揮することはできなかった。」ことが、比較例6は「難燃剤の総量が多いため、所望の厚さのシートを得るためにプレスすることができなかった。」ことが記載されている。
次に、本件明細書には、ポリ塩化ビニルの100質量部に対する亜リン酸アルミニウムの含有量について、「本態様のPVC組成物において、PVCの100質量部に対する亜リン酸アルミニウムの含有量は、5~200質量部が好ましく、50~150質量部がより好ましく、75~125質量部がさらに好ましい。上記範囲であると、PVC組成物をシート状に成形することがより容易になり、得られた耐火シートの耐火性及び遮熱性のバランスが優れる。」(【0026】)と記載されている。
そして、実施例には、本件発明3の構成要件を全て満たす実施例1(ポリ塩化ビニルの100質量部に対する、亜リン酸アルミニウムの含有量が90.05質量部)と、上記含有量を38.59質量部に変更した比較例4、上記含有量を210.12質量部に変更した比較例6が記載され、【0049】には、実施例1は「優れた遮熱性を示し、外形の変形も少なく耐火性も優れていた。」こと、比較例4は「難燃剤の総量が少ないため、加熱後直ぐに外形が激しく変形し、遮熱性を発揮することはできなかった。」こと、比較例6は「難燃剤の総量が多いため、所望の厚さのシートを得るためにプレスすることができなかった。」ことが記載されている。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明3で特定されている各構成要件について、各成分及びその数値範囲(含有量及び重合度等)を定めた理由と、本件発明が解決しようとする課題との関係が記載されており、本件発明3の構成を満たす実施例1が本件発明の課題を解決することができ、満たさないものが本件発明の課題を解決できないことが示されているから、当業者であれば、本件発明3の構成を満たすものであれば、本件発明の課題を解決できることを理解できるものと認められる。
本件発明3を直接又は間接的に引用する本件発明4~7についても同様である。
(4)申立人の主張について
申立人は、申立書において以下の2点を主張する。
<主張1>
ポリ塩化ビニルの平均重合度について、本件発明1では「1300以上4000以下」と広範であるのに対し、実施例1組成物では「2500」であり、ポリ塩化ビニルの100質量部に対するリン酸エステル系可塑剤の含有量について、本件発明1では「5質量部以上150質量部以下」と広範であるのに対し、実施例1組成物では「75質量部」であり、本件発明1と実施例1組成物の乖離が大きいことから、実施例1組成物をもって、本件発明1が本件発明の課題を解消できるとはいえない(申立書15頁下から9~1行)。
<主張2>
本件明細書の【0021】、【0025】、【0015】には、「PVC組成物の総質量に対する熱膨張性黒鉛の含有量」、「PCV組成物の総質量に対する亜リン酸アルミニウムの含有量」、「PVC組成物の総質量に対するPVCの含有量」について、本件発明の課題の解決に係る記載がされているところ、本件発明1にはこれらの規定がなされていないから、本件発明1は本件発明の課題を解消できるとはいえない(申立書16頁1行~17頁9行)。
主張1について検討すると、上記(3)で述べたように、ポリ塩化ビニルの平均重合度を定めた理由は【0013】に記載され、平均重合度が1000の比較例1、平均重合度が5000の比較例2は本件発明の課題を解決できないことが示されている。そして、重合度が粘度や流動性と相関があることは例示するまでもなく技術常識であるから、【0013】に記載された、「下限値以上であればPVC組成物の粘度が高まる」、「上限値以下であると、PVC組成物の流動性が高まる」ことは技術常識からも理解できることであり、実施例1と比較例1、2の結果から、重合度が1300以上であれば比較例1よりは粘度が高まり、シート状に成形することが容易となり、重合度が4000以下であれば比較例2よりは流動性が高まり、シート状に成形することが容易となることは当業者が予測できることである。
また、リン酸エステル系可塑剤の含有割合について、【0019】に下限値以上であると組成物の流動性が高まり、上限値以下であると粘度が高まることが記載され、このことは「可塑剤」がポリ塩化ビニルの可塑性を高める役割を有することを考慮すれば、当業者が理解できることにすぎない。そして、本件発明3は、「可塑剤」として「リン酸エステル系可塑剤」を用いたことに特徴を有するものであり(【0008】)、そのことは実施例1(リン酸エステル系可塑剤)と比較例3(フタル酸系可塑剤)との比較からも理解できることである。そうすると、リン酸エステル系可塑剤の含有量は、可塑剤として一般に想定される程度の量が含まれていればよいと解されるから、特に実施例1(PVCの100質量部に対するリン酸エステル系可塑剤の含有量が75質量部)以外に配合割合を変化させた例がなくても、5質量部以上150質量部以下の含有量であれば、本件発明の課題を解決できることは当業者であれば予測できることである。
次に、主張2について検討すると、本件発明3では「PVC組成物の総質量に対する熱膨張性黒鉛の含有量」、「PCV組成物の総質量に対する亜リン酸アルミニウムの含有量」、「PVC組成物の総質量に対するPVCの含有量」は特定されていないものの、「リン酸エステル系可塑剤の100質量部」に対する「熱膨張性黒鉛」の含有量、「ポリ塩化ビニルの100質量部」に対する「亜リン酸アルミニウム」の含有量は規定されているから、「熱膨張性黒鉛」、「亜リン酸アルミニウム」はある程度の量が含まれることが理解できるし、本件発明3では「ポリ塩化ビニル100質量部」に対する「リン酸エステル系可塑剤」の量と、「ポリ塩化ビニル」と「リン酸エステル可塑剤」の合計100質量部に対する「亜リン酸アルミニウム」と「熱膨張性黒鉛」の合計の含有量も特定されているから、「亜リン酸アルミニウム」と「熱膨張性黒鉛」がある程度の量含まれるのであれば、「ポリ塩化ビニル」もそれなりの含有量で含まれることになる。
そして、上記(4)で述べたように、本件明細書には、「熱膨張性黒鉛」及び「亜リン酸アルミニウム」の含有量と本件発明の課題との関係が記載されており、その関係は実施例及び比較例の結果とも整合するものであるから、本件発明3で特定される要件を満たすものであれば、本件発明の課題を解決できるものと認められる。
したがって、申立人の主張は採用することができない。
(5)取消理由1(サポート要件違反)及び申立理由1(サポート要件違反)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明3~7は発明の詳細な説明に記載したものであり、本件発明3~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、取消理由1、申立理由1によっては、本件発明3~7に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件違反の判断基準
上記第3のとおり、本件発明3~7は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
(2)実施可能要件についての検討
本件明細書には、本件発明3のポリ塩化ビニル組成物を構成する「ポリ塩化ビニル」、「リン酸エステル系可塑剤」、「亜リン酸アルミニウム」、「熱膨張性黒鉛」について、【0011】~【0028】にかけて詳細な説明がされており、【0031】には本件発明3のポリ塩化ビニル組成物の製造方法が、【0033】には本件発明3の組成物を用いた耐火シートの製造方法が、【0034】には耐火シートの用途がそれぞれ記載されている。
そして、実施例には、実施例1として、具体的な組成物が各成分の入手先や組成物の製造工程も含めて記載されている。
そうすると、当業者は、本件明細書の記載に基づいて、本件発明3の組成物を製造し、使用することができるといえる。
本件発明3を直接又は間接的に引用する本件発明4~7についても同様である。
(3)申立人の主張について
申立人は、申立書において、「実施例1組成物で支持されていない本件発明1~7の範囲については、ポリ塩化ビニル組成物の成分及び配合比をどのように選定・設定すれは、上記課題a)およびb)の課題を解決できるのかが不明であり、当業者は過度の試行錯誤を要する。」と主張する(申立書18頁6~9行)。
しかし、上記(2)のとおり、本件明細書には、本件発明3の組成物を構成する各成分について詳細な説明がされているから、実施例組成物以外であっても、本件明細書に記載された他の成分に置き換えればよく、配合比は本件発明3で特定する範囲で任意に調節すればよく、組成物の製造は【0031】又は実施例1の具体的な製造工程(【0037】)にならって行えばよく、組成物の具体的な用途(使用方法)も【0034】に記載されているから、当業者であれば、実施例1以外の本件発明3の組成物について、過度の試行錯誤を要することなく製造し、使用することができる。
したがって、申立人の主張は採用することができない。
(4)申立理由2(実施可能要件違反)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明3~7について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件発明3~7に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、申立理由2によっては、本件発明3~7に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された発明
甲1には、「マトリクス樹脂、熱膨張性黒鉛、及び低級リン酸塩を含有する耐火性樹脂組成物であって、耐火性樹脂組成物中の低級リン酸塩の含有量が5質量%以上であり、可燃物成分量が65質量%以下であることを特徴とする耐火性樹脂組成物。」が記載されており(請求項1)、その具体例として実施例23が記載されている。
請求項1の「耐火性樹脂組成物」との記載、及び[0043]に記載された「トリクレジルホスフェート(TCP)」との記載も考慮して実施例23に着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「ポリ塩化ビニル樹脂(TS1000R、徳山積水工業社製)100質量部、TCP(トリクレジルホスフェート)80質量部、熱膨張性黒鉛(粒径800μm)45質量部、亜リン酸アルミニウム45質量部からなる、耐火性ポリ塩化ビニル樹脂組成物。」
(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ポリ塩化ビニル樹脂(TS1000R、徳山積水工業社製)」は、本件発明3の「ポリ塩化ビニル」に相当し、その平均重合度は、甲3の【0026】に記載されるように、「1000」である。
甲1発明の「TCP(トリクレジルホスフェート)」はリン酸エステル化合物であり、かつ、甲1の[0042]以降に記載されている「可塑剤」等の室温で液状の添加剤の例であるから、本件発明3の「リン酸エステル系可塑剤」に相当する。
甲1発明における、「ポリ塩化ビニル樹脂(TS1000R、徳山積水工業社製)」と「TCP(トリクレジルホスフェート)」の合計100質量部に対する、亜リン酸アルミニウムと熱膨張性黒鉛の含有量を計算すると、50質量部(=100×(45+45)/(100+80))となる。
甲1発明における、「TCP(トリクレジルホスフェート)」100質量部に対する、熱膨張性黒鉛の含有量を計算すると、56.25質量部(=100×45/80)となる。
そうすると、両者は、
「ポリ塩化ビニルと、リン酸エステル系可塑剤と、亜リン酸アルミニウムと、熱膨張性黒鉛と、を含むポリ塩化ビニル組成物であって、
前記ポリ塩化ビニルの100質量部に対して前記リン酸エステル系可塑剤が5質量部以上150質量部以下で含まれる、
ポリ塩化ビニル組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
「ポリ塩化ビニルの平均重合度」が、本件発明3では「1300以上4000以下」であるのに対し、甲1発明では「1000」である点
<相違点2>
「前記ポリ塩化ビニルと前記リン酸エステル系可塑剤の合計の100質量部」に対する「前記亜リン酸アルミニウムと前記熱膨張性黒鉛の合計」が、本件発明3では「80質量部以上120質量部以下」であるのに対し、甲1発明では「50質量部」である点
<相違点3>
「前記リン酸エステル系可塑剤の100質量部」に対する「前記熱膨張性黒鉛」が、本件発明では「100質量部以上150質量部以下で含まれ」るのに対し、甲1発明では「56.25質量で含まれ」る点
<相違点4>
「前記ポリ塩化ビニルの100質量部に対する前記亜リン酸アルミニウムの含有量」が、本件発明3では「75~150質量部」であるのに対し、甲1発明では「45質量部」である点
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、本件発明3の技術的意義について検討し、次に相違点2~4、相違点1の順に検討する。
(ア)本願発明3の技術的意義について
本件明細書には、次の記載がある。なお、下線は当審において付した。
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の耐火積層体では、絶縁性熱発泡層と熱膨張層とが積層されており、絶縁性熱発泡層は400℃付近で発泡して粉体状から多孔体に変化する亜リン酸アルミニウムと樹脂とを含み、熱膨張層は200℃付近で膨張作用を起こす熱膨張性黒鉛と樹脂とを含む。この耐火積層体が火炎等により加熱されると、熱膨張層が先んじて急激に膨張するため、耐火積層体の積層構造が維持されず、絶縁性熱発泡層が発泡する前に本来あるべき配置から脱落したり、外形が大きく変形したりする問題(耐火性が低い問題)があった。
【0005】
本発明は、高熱に暴露された際の耐火性及び遮熱性に優れた耐火シートを形成することが可能な、ポリ塩化ビニル組成物及び耐火シートの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために、次のように検討した。
熱膨張層の外形の変形を和らげる(耐火性を高める)ことのみが目的であれば、熱膨張層に含まれる熱膨張性黒鉛の含有量を減らし、相対的に樹脂の量を増やすことが考えられる。しかし、そうすると熱膨張層の膨張後の遮熱性が低減してしまう。
【0007】
そこで、熱膨張層に含有させる難燃剤として、熱膨張性黒鉛だけでなく、膨張による変形が比較的少ない亜リン酸アルミニウムを充分に含有させ、かつ樹脂としてポリ塩化ビニルを採用した。ところが、難燃剤を樹脂中に分散して得た樹脂組成物の粘度や流動性が安定せず、シート状に成形することの難しさに直面した。この原因を鋭意検討したところ、ポリ塩化ビニルの平均重合度を所定の範囲とし、可塑剤を所定量で充分に添加することにより、熱膨張性黒鉛と亜リン酸アルミニウムを含む樹脂組成物をシート状に成形することが可能となった。
【0008】
上記の樹脂組成物を成形して得た耐火シートの耐火性及び遮熱性を評価したところ、耐火性(外形の変形の抑制)は向上していたが、期待した程度の遮熱性(熱膨張性黒鉛を含まず、亜リン酸アルミニウムだけを含む場合よりも優れる遮熱性)が得られなかった。この原因をさらに鋭意検討したところ、ポリ塩化ビニル及び可塑剤の合計量に対する難燃剤の合計の含有量を所定の範囲にするとともに、可塑剤としてリン酸エステル系可塑剤を採用することにより、充分な遮熱性も得られることを見出し、本発明を完成した。」
すなわち、樹脂と熱膨張性黒鉛を含む熱膨張層は、火炎等により加熱されると、熱膨張層が先んじて急激に膨張するため、耐火積層体の積層構造が維持されず、脱落したり、外形が大きく変形したりする問題(耐火性が低い問題)があり(【0004】)、耐火性を高めるために熱膨張層に含まれる熱膨張性黒鉛の含有量を減らすと、熱膨張層の膨張後の遮熱性が低減してしまう問題がある(【0006】)。そこで、膨張による変形が比較的少ない亜リン酸アルミニウムを充分に含有させ、樹脂としてポリ塩化ビニルを採用したが、樹脂組成物の粘度や流動性が安定せず、シート状に成形することの難しさに直面し、「ポリ塩化ビニルの平均重合度を所定の範囲」とし、可塑剤を所定量で充分に添加することにより、熱膨張性黒鉛と亜リン酸アルミニウムを含む樹脂組成物をシート状に成形することが可能となった。しかし、それでも期待した程度の遮熱性が得られなかったため、本件発明3では、「ポリ塩化ビニルの平均重合度を所定の範囲」とし、「可塑剤を所定量で充分に添加すること」に加えて、「ポリ塩化ビニル及び可塑剤の合計量に対する難燃剤の合計の含有量を所定の範囲にする」とともに、「可塑剤としてリン酸エステル系可塑剤を採用する」ことにより、充分な遮熱性も得られることを見出し、完成されたものであり、この点が本件発明3の技術的意義であるといえる。
(イ)相違点2~4について
甲1には、「熱膨張性黒鉛の含有量は、耐火性樹脂組成物中に5~50質量%であることが好ましく」、「熱膨張性黒鉛は、マトリックス樹脂100質量部に対し、熱膨張性黒鉛を10~350質量部の範囲で含まれることが好ましく」と記載され([0034])、「低級リン酸塩(当審注:亜リン酸アルミニウム等)の含有量は、耐火性樹脂組成物中に5質量%以上である。・・・低級リン酸塩の含有量の上限は特に限定されないが、好ましくは耐火性樹脂組成物中に50質量%以下である。」([0040])、「マトリックス樹脂に対する低級リン酸塩の含有量は特に限定されないが、マトリックス樹脂100質量部に対し、低級リン酸塩を5~250質量部・・・の範囲で含まれる。」([0041])との一般的な記載はある。
しかし、上記(ア)で検討したように、単に熱膨張性黒鉛と亜リン酸アルミニウムを併用するだけでは期待した程度の遮熱性は得られず、「ポリ塩化ビニル及び可塑剤の合計量に対する難燃剤(熱膨張性黒及び亜リン酸アルミニウム)の合計の含有量」を所定の範囲(相違点2に係る範囲)とすることで、十分な遮熱性が得られるところ、マトリックス樹脂であるポリ塩化ビニルだけでなく、それと可塑剤との合計含有量に対する、熱膨張性黒鉛及び亜リン酸アルミニウムの合計の含有量を所定の範囲、それも前者100質量部に対して後者を「80質量部以上120質量部以下」という、極めて限定された範囲とすることは、甲1には記載されておらず、甲1発明にそのような変更を行う積極的な動機付けがあるともいえない。
また、甲1には「リン酸エステル系可塑剤の100質量部」に対する「熱膨張性黒鉛」の含有量を「100質量部以上150質量部以下」とすることは記載されていないし、「ポリ塩化ビニルの100質量部」に対する「亜リン酸アルミニウムの含有量」についても、「マトリックス樹脂100質量部に対し、低級リン酸塩を5~250質量部・・・の範囲で含まれる。」([0041])との記載があるのみで、その中から特に「75~150質量部」を選択することについて積極的な記載もない。
そして、本件明細書の実施例1と比較例4の組成と、【0049】の記載から、「前記ポリ塩化ビニルと前記リン酸エステル系可塑剤の合計の100質量部」に対する「前記亜リン酸アルミニウムと前記熱膨張性黒鉛の合計」が103質量部であり、「前記リン酸エステル系可塑剤の100質量部」に対する「前記熱膨張性黒鉛」が120質量部であり、「前記ポリ塩化ビニルの100質量部に対する前記亜リン酸アルミニウムの含有量」が90.05質量部である実施例1は、「優れた遮熱性を示し、外形の変形もなく耐火性も優れていた」のに対し、「前記ポリ塩化ビニルと前記リン酸エステル系可塑剤の合計の100質量部」に対する「前記亜リン酸アルミニウムと前記熱膨張性黒鉛の合計」が44質量部であり、「前記リン酸エステル系可塑剤の100質量部」に対する「前記熱膨張性黒鉛」が約51質量部であり、「前記ポリ塩化ビニルの100質量部に対する前記亜リン酸アルミニウムの含有量」が38.59質量部であり、相違点2~4に係る構成をいずれも満たさず、かつ甲1発明と同程度に少ない比較例4は、「難燃剤の総量が少ないため、加熱後直ぐに外形が激しく変形し、遮熱性を発揮することはできなかった」ことが理解できる。
これらのことから、相違点2~4に係る構成を本件発明3のようにすることで、有利な効果が得られるものと認められる。
(ウ)相違点1について
相違点1は、ポリ塩化ビニルの平均重合度に係るものであり、本件明細書の実施例1と比較例1の組成及び【0049】の記載から、「ポリ塩化ビニルの平均重合度」が2500である実施例1は「優れた遮熱性を示し、外形の変形もなく耐火性も優れていた」のに対し、「ポリ塩化ビニルの平均重合度」が1000であり、甲1発明と同じ値である比較例1では「PVCの平均重合度が小さいため、PVC組成物がシート成形に適した状態にならなかった」ことが理解できる。
一方、甲1発明の組成物はポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度が1000であるが、甲1の[0061]に「自己消火性」の評価を「耐火シート」にして行ったことが記載されるように、シート成形が可能なものである。このように、平均重合度が1000であるポリ塩化ビニル樹脂にシート成形が困難であるとの技術常識があるわけではなく、本件明細書の比較例1に示されるように、相違点2~4に係る構成を本件発明3のようにした場合において、ポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度が1000ではシート成形に適した状態にならず、シート成形に適した状態にするためには相違点1に係る構成(平均重合度1300以上4000以下)とする必要があると認められる。
しかし、甲1には「ポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度は限定されないが、通常500~6000であり、好ましくは800~3000である。」([0030])との一般的な記載があるにすぎず、甲1発明において、ポリ塩化ビニル、リン酸エステル系可塑剤、亜リン酸アルミニウム及び熱膨張性黒鉛の各成分の配合量を相違点2~4のようにした上で、さらにポリ塩化ビニルの平均重合度を相違点1のようにすることは、甲1には記載されていないし、そのようにすることで「高熱に暴露された際の耐火性及び遮熱性に優れた耐火シートを形成することができる」(本件明細書【0010】)という効果が得られることは、当業者が予測できることではない。
(エ)まとめ
したがって、甲1発明において、相違点1~4に係る本件発明3の構成を採用することは、当業者が容易に想到することではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、申立書において、主に以下の2点を主張する。
<主張1>
甲1には「ポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度は限定されないが、通常500~6000であり、好ましくは800~3000である。」と記載されているし、甲6~甲8に記載されるように、耐火性樹脂組成物、該耐火性樹脂組成物からなる熱膨張性シートにおいて用いられるポリ塩化ビニルの平均重合度を400以上にすることで、熱膨張性シートの機械的特性が良好となり、3000以下とすることで、加工性が良好になりやすい」ことは、本願出願時の技術常識であり、引用発明において、ポリ塩化ビニルの平均重合度を「1300以上4000以下」と設定することは、当業者が容易になし得ることである。(申立書24頁下から15~1行)
<主張2>
甲1には、熱膨張性黒鉛の含有量について、「耐火性樹脂組成物中に5~50質量%であることが好ましく」([0034])、「熱膨張性黒鉛の量が多い方が可燃ガスを封じ込めることができ、発火を抑制する上では好ましいが、多すぎると成型性が悪くなり、経済性に問題が出てくる場合がある。」([0036])と記載され、低級リン酸塩である亜リン酸アルミニウムの含有量について、「耐火性樹脂組成物中に5質量%以上である。」、「低級リン酸塩の含有量が5質量%以上であるため、耐火性樹脂組成物に難燃性が付与され」(以上、[0040])との記載がある。また、甲1発明の「着火」の評価は「B」であるが、甲1発明よりも「熱膨張性黒鉛と亜リン酸アルミニウムの合計の含有量」を増やした甲1の実施例26では「着火」の評価が「S」である。よって、これらの記載に基づいて、甲1発明の組成物の難燃性や成形性を考慮して、相違点2~4に係る構成を本件発明3のように設定することは、当業者が容易になし得ることである。
また、本件明細書における、比較例4の「難燃剤の総量が少ないため、加熱後直ぐに外形が激しく変形し、遮熱性を発揮することはできなかった」、比較例6の「難燃剤の総量が多いため、所望の厚さのシートを得るためにプレスすることができなかった」との結果は、甲1の[0036]、[0040]の記載から予測できるものであり、格別の効果とはいえない。(申立書25頁13行~31頁16行)
しかし、上記イで述べたように、甲1に熱膨張性黒鉛と亜リン酸アルミニウムの一般的な配合量の記載があっても、マトリックス樹脂であるポリ塩化ビニルだけでなく、それと可塑剤との合計含有量に対する、熱膨張性黒鉛及び亜リン酸アルミニウムの合計の含有量を所定の範囲、それも前者100質量部に対して後者を「80質量部以上120質量部以下」という、極めて限定された範囲とすることは、当業者が容易に想到することではない。
また、甲1発明のポリ塩化ビニル樹脂の重合度1000というのは、本件発明3の組成にするとシート成型に適さないものであるところ、甲1発明において、相違点2~4に係る構成を本件発明3のように変更した上で、さらにその重合度を相違点1のようにすることにより、シート成型に適した状態となり、優れた遮熱性を有し、外形の変形も少なく耐火性も優れる耐火シートが得られることは、当業者が予測できることではない。
したがって、申立人の主張は採用することができない。
エ 本件発明3についてのまとめ
上記のとおり、本件発明3は甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由3によっては本件発明3に係る特許を取り消すことはできない。
(3)本件発明4~7について
本件発明4~7は、本件発明3を直接又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明3が甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明4~7についても同様に判断される。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審において通知した取消理由によっては、本件発明3~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明3~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項1及び2に係る特許についての特許異議の申立ては、請求項1及び2が訂正により削除されたことにより申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700399