特許異議申立
2024-701215
組成物、重合体、硬化物、成形体及びポリメタクリル酸メチルの製造方法
- 審判番号
- 2024-701215
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-143082
- 登録番号
- 7506237
- 請求日
- 2024年12月19日
- 審決日
- 2026年03月10日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】住友化学株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】三上 敬史
- 【権利者代理人】田中 政輝
- 【権利者代理人】吉住 和之
- 【異議申立人】林 法子
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 浩子
- 審判官 越本 秀幸
- 審判官 藤井 勲
- 分類
- P1651.113-ZDA(C08F) / P1651.121-ZDA(C08F) / P1651.537-ZDA(C08F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7506237号発明「組成物、重合体、硬化物、成形体及びポリメタクリル酸メチルの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7506237号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第7506237号の請求項1~5、8に係る特許を取り消す。
特許第7506237号の請求項6、7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7506237号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和5年9月4日に出願され、令和6年6月17日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許の請求項1~8に係る特許に対して、令和6年12月19日に異議申立人である林 法子(以下「申立人」という。)から、特許異議の申立てがなされた。
その後の本件特許異議申立事件の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和7年 4月11日付け 取消理由通知書
同年 6月13日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 同月24日付け 手続補正指令書(方式)
同年 7月 1日提出 手続補正書(方式)
同年 8月14日付け 通知書(申立人宛て)
同年 9月10日提出 意見書(申立人)
同年11月 6日付け 取消理由通知書(決定の予告)
なお、令和7年11月6日付けで取消理由通知書(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正請求書を補正する手続補正書(方式)について
令和7年7月1日になされた、訂正請求書を補正する手続補正は、「6 請求の趣旨」における誤記、及び「7 請求の理由」「(3)イ(ウ)a.訂正の目的について」における誤記を訂正したものであり、その要旨を変更するものでないから、上記補正を認める。
2 訂正請求の趣旨
訂正請求の趣旨は、特許第7506237号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める、というものである。
3 訂正の内容
訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を表す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「85質量%以上」とあるのを、「95質量%以上」と訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~8も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「組成物。」とあるのを、
「組成物(但し、化学種として、
メチルメタクリレート99.21%
n-ブタノール0.30%
メタノール0.19%
メチルアセテート0.11%
メチルイソブチレート0.09%
メチルプロパン0.07%
トルエン0.02%
スチレン0.01%
を含む、ポリメチルメタクリレートの熱解重合から回収された凝縮物
を除く)。」と訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~8も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に、「90質量%以上」とあるのを、「99質量%以上」と訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。
なお、本件訂正前の請求項1~8について、請求項2~8は請求項1を直接又は間接的に引用しており、訂正事項1及び2により記載が訂正される請求項1に連動して訂正がされるから、本件訂正前の請求項1~8に対応する訂正後の請求項1~8は一群の請求項である。
4 本件訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「メタクリル酸メチルの含有量」の下限を上げて数値範囲を狭く限定したものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
「メタクリル酸メチルの含有量」について、本件明細書の段落【0013】に、「メタクリル酸メチルの含有量は、例えば、組成物全体の85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上であってよい。」ことが記載されており、この記載を根拠として、「メタクリル酸メチルの含有量」の下限を95質量%以上とするものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に該当しない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項1の末尾が「組成物」であったところ、該「組成物」から、令和7年4月11日付け取消理由通知書に記載した、甲第1号証の表2に基づいて認定した甲1発明を除くことにより、訂正後の請求項1に係る発明である「組成物」を限定したものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
上記アに示したように、令和7年4月11日付け取消理由通知書に記載した甲1発明を除く訂正によって、本件明細書に記載された本件訂正前の発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえないから、訂正事項2は、本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新規事項を追加しないものであることは明らかであり、また、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に該当しない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項2において、「メタクリル酸メチルの含有量」の下限を上げて数値範囲を狭く限定したものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
「メタクリル酸メチルの含有量」について、上記(1)イに示したとおり、段落【0013】の記載を根拠として、「メタクリル酸メチルの含有量」の下限を99質量%以上とするものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に該当しない。
なお、訂正前の請求項1~8の全てについて特許異議の申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
(4)申立人の意見書における主張について
申立人は、意見書において、以下のア、イの点で訂正事項2は新規事項を追加するものであり、認められるべきでない旨を主張をしている。
ア 訂正事項2により、甲1発明が除かれるとしても、甲1に記載された組成物の全てが除かれたとはいえず、また、訂正前発明1は甲1に記載された発明と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有するが、たまたま引用発明と重なるような発明ではないことから、「除くクレーム」の訂正として適切でない。
イ 訂正事項2について、除かれる組成物における各化学種の割合である「%」が「質量%」、「モル%」、「容量%」等のいずれを表しているかが不明であり、訂正後の請求項1に係る発明が明確に把握できないから、「除くクレーム」の訂正として適切ではない。
そこで、順に検討する。
アについて
特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に基づき特許請求の範囲を訂正するときは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしなければならないとされている一方で、技術的思想が顕著に異なる先行技術とたまたま重なる部分のみを除外することは要件とされていない。
そして、本件訂正が、本件明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであることは、上記(2)に示したとおりである。
したがって、申立人のアに係る主張は妥当でない。
イについて
甲1の第728頁の「3.3. Monomer purity and bed performance」において、回収された「メチルメタクリレート」の純度が99.2~99.4%であることが記載されている。
ここで、上記「メチルメタクリレート」は、第725頁のFig.2の第1水冷凝縮器(Primary water-cooled condenser)で凝縮して得られたものであることが把握できるから、流動床に使用したポリメチルメタクリレートペレット、及び熱解重合により回収したメチルメタクリレートの各々の重量(質量)を用いて、純度を計算することが可能であり、上記純度は質量を基準としていると認められる。
そうすると、除かれる組成物における各化学種の割合である「%」は、「質量%」であることは明らかである。
したがって、申立人のイに係る主張は妥当でない。
以上のとおり、申立人の主張はいずれも妥当でないから、採用できない。
5 本件訂正についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正後の請求項1~8に係る発明(以下順に「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
メタクリル酸メチル及びトルエンを含有し、
トルエンの濃度が組成物全体の0質量ppmを超え700質量ppm以下であり、メタクリル酸メチルの含有量が組成物全体の95質量%以上である、組成物(但し、化学種として、
メチルメタクリレート99.21%
n-ブタノール0.30%
メタノール0.19%
メチルアセテート0.11%
メチルイソブチレート0.09%
メチルプロパン0.07%
トルエン0.02%
スチレン0.01%
を含む、ポリメチルメタクリレートの熱解重合から回収された凝縮物
を除く)。
【請求項2】
メタクリル酸メチルの含有量が組成物全体の99質量%以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
トルエンの濃度が組成物全体の5質量ppm~700質量ppmである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
トルエンの濃度が組成物全体の100質量ppm~600質量ppmである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
メタクリル酸メチルが、再生メタクリル酸メチル又はバイオ由来メタクリル酸メチルを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の組成物に含まれるメタクリル酸メチルを重合させる工程を含む、ポリメタクリル酸メチルの製造方法。」
第4 特許異議申立書の申立理由と当審において通知した取消理由
1 特許異議申立書(以下「申立書」ということがある。)の申立理由
申立書に記載された申立理由の概要は以下のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証を主引例とする新規性欠如)
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1~8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は甲第1号証に記載された発明及び甲第2~4号証に記載された事項に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1~8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1~8に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
理由の概要は以下のとおり。
ア 「メタクリル酸メチル」及び「トルエン(富士フイルム和光純薬社製)」に多量に含まれる不純物を無視して、単に「メタクリル酸メチル」への「トルエン(富士フイルム和光純薬社製)」の添加量を以てトルエン濃度を設定することは適切でないことから、本件発明におけるトルエン濃度の規定は、実施例によって何らサポートされていないものである。
イ 本件発明6(当審注:本件発明5の誤記と認められる。)において、「メタクリル酸メチル」が「再生メタクリル酸メチル」である場合には、甲第1号証に示されているように200ppm程度の「トルエン」を含んでいることから、実施例において、それぞれ記載されたトルエン濃度よりも増量されたものであり、本件発明におけるトルエン濃度の規定は、実施例によって何らサポートされていないものである。
2 証拠方法
(1)申立書に添付した証拠方法
・甲第1号証:Applied Thermal Engineering,2003,Vol.23,p.721-731(https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1359431102002405)
・甲第1-1号証:甲第1号証の部分和訳
・甲第2号証:特開2010-254742号公報
・甲第3号証:特開2010-248501号公報
・甲第4号証:特開2010-261025号公報
・甲第5号証:特開2023-80616号公報
・甲第6号証:特許第6913908号公報
・甲第7号証:特開2011-88980号公報
・甲第8号証:特開2023-67831号公報
以下「甲第1号証」等を、番号にしたがって、「甲1」等という。
(2)申立人が令和7年9月10日に提出した意見書に添付した証拠方法
・参考資料1:特許・実用新案 審査基準、平成27年9月改訂、表紙、改訂にあたって、及び、第IV部 第2章 新規事項を追加する補正(特許法第17条の2第3項)
3 当審において通知した取消理由(決定の予告)
当審において通知した取消理由(決定の予告)の概要は以下のとおりである。
(1)取消理由1(甲1を主引例とする新規性欠如)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、これらの請求項に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)取消理由2(甲1を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1~5、8に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの請求項に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 当審の判断
以下に述べるように、当審において通知した取消理由1(甲1を主引例とする新規性欠如)及び取消理由2(甲1を主引例とする進歩性欠如)により、本件発明1~5、8に係る特許は取り消すべきものである。
また、申立書に記載された申立理由によっては、本件発明6、7に係る特許を取り消すことはできない。
1 取消理由1(甲1を主引例とする新規性欠如)及び取消理由2(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1に記載された事項
甲1には、以下の記載がある。
「
[図:0001437358000001.jpg]
」(第721頁 表題)
(当審訳:機械的流動床を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)の熱解重合)
「
[図:0001437358000002.jpg]
」(第721頁 Abstract)
(当審訳:要約
スクラップポリマーからモノマーを回収する新しい方法を提示する。ポリメタクリル酸メチルの解重合における実験的機械流動床の性能について考察する。公称床温度400℃、周波数35Hz、振幅2.5mmという好ましい運転条件下で、メタクリル酸メチルモノマーを最大99.4%の純度で回収した。この結果は、従来の鉛ポット式又はガス流動式解重合プロセスと比較して、この回収プロセスが有利であることを示している。)
「
[図:0001437358000003.jpg]
」(第722頁第4行~第16行)
(当審訳:
化学組成上、すべての大量生産ポリマーが解重合に適しているわけではない。ここでは、建築装飾、自動車部品、窓ガラス、衛生設備などに広く使用されているPMMAの熱解重合に焦点を当てる。PMMAは熱分解することで、高純度(90%以上)のモノマーを高い実効収率(70~90%)で得ることができる。このモノマーは、初回使用時の製造工程で生じた着色料やその他の残留物を含んでいない。ポリマースクラップには、一般的にキャストグレードと成形グレードの2種類があり、キャストアクリル樹脂は最も高純度(99%以上)のモノマーを生成する。現在、PMMAは溶融鉛浴の表面に浮かべることで解重合されている[2]。この従来のプロセスには、いくつかの重大な制約がある(例:溶融鉛の表面にドロスが生成し、熱伝達を阻害し、廃棄物処理の問題を引き起こすし、再生されたモノマーが鉛に汚染されるし、プロセスは約550℃で稼働するためエネルギーを大量に消費する)。したがって、PMMAやその他のポリマーを熱分解するための、よりエネルギー効率が高く環境に優しい方法の研究が望まれている。)
「
[図:0001437358000004.jpg]
」(第724頁第1行~第12行)
(当審訳:2.1.実験的アプローチ
本実験プログラムの主な目的は、PMMAを試験装置で解重合できるかどうかの実現可能性を評価し、さらに、反応速度の確保、高純度モノマーの取得、安全な操作、高いエネルギー効率といった点に関して、望ましい運転条件を特定することであった。検討対象となった主なパラメータは、振動数、振幅、床温度、モノマー純度、モノマー収率、ポリマー供給速度である。
PMMA試験ペレットを解重合するためのMFB(当審注:mechanically fluidized bedで、「機械的流動床」のこと。) は、実験室のドラフトチャンバー内で運転するよう設計された(図2)。この装置は、加熱された不活性粒子(アルミナ、粒径100μm<d<300μm)が充填された床で構成され、粒子は視覚的に床の流動状態を観察できるよう、円筒形ガラス容器内に収められている。装置は、床高さ/直径比φ=1.27及び0.61の2種類で運転できるよう設計され、それぞれ内径63mmと90mmの円筒ガラス容器を使用した。(特に断りのない限り、以下の結果はφ=1.27の深い床に関するものである。)
「
[図:0001437358000005.jpg]
[図:0001437358000006.jpg]
」(第725頁)
(当審訳:図2 実験装置 (a) 床部、(b) リグ構成
なお、(b)中の「Primary water-cooled condenser」は、熱分解により凝集物を回収するための「第1水冷凝縮器」のこと。)
「
[図:0001437358000007.jpg]
」(第728頁第下から第15行~第3行)
(当審訳:3.3. モノマー純度と床性能
初期結果として、成形グレードのポリマーを原料として使用した場合、平均床温度が300、350、400℃のとき、それぞれ82.3~82.9%、87.9~89.1%、85.1~87.7%の純度を持つメタクリル酸メチルが得られた。連続供給速度の実験では、平均床温度321℃で純度88~89%、403℃で88~90%のMMAが得られた。
キャストグレードのペレット(非可塑化)では、回収されたMMAは非常に高純度であり、99.2~99.4%の純度が平均床温度395~404℃の試験で得られた。これは優れた結果と評価された。回収されたモノマーの品質は市販のMMAに類似しており、追加の精製工程を行わずに得られた。主な不純物はメタノール、メチルイソ酪酸(MIB)、n-ブタノールであり、典型的な試験ランから得られる凝縮液の特徴は表2に示されている。特に重要なのは、MIBの含有量が低かったことである。MIBは、MMAと沸点が非常に近いため、蒸留によって後から除去することが極めて困難であるためである。)
「
[図:0001437358000008.jpg]
」(第729頁)
(当審訳:表2 試験装置を、公称床温度400℃で運転した際に回収された凝縮物の典型的な内訳
化学種 相対存在比(%)
メチルメタクリレート 99.21
n-ブタノール 0.30
メタノール 0.19
メチルアセテート 0.11
メチルイソブチレート 0.09
メチルプロパン 0.07
トルエン 0.02
スチレン 0.01)
イ 甲1に記載された発明
甲1には、ポリメチルメタクリレートを熱解重合するための実験的な機械的流動床を用いることが記載され(要約)、その機械的流動床が図示されている(図2)。
上記図2の(b)リグ構成からは、流動床から気化したメチルメタクリレートを第1水冷凝縮器で凝縮させて、モノマー液体が主成分の凝縮物を得たことが理解できる。
そして、上記凝集物について、甲1の「3.3.モノマー純度と床構成」には、「キャストグレードのペレット(非可塑化)では、回収されたMMAの純度は非常に高く、流動床の平均温度が395~404℃のときのテスト実施で99.2~99.4%」であったことが記載されており、これに着目して整理すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認める。
「キャストグレードのポリメチルメタクリレートペレットを熱解重合して回収された凝縮物であって、流動床の平均温度が395~404℃のときに、回収されたメチルメタクリレートの純度が99.2~99.4%である凝集物。」(以下「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
(ア)甲1発明の「メチルメタクリレート」は、本件発明1の「メタクリル酸メチル」に相当する。
(イ)甲1発明の「凝集物」は、回収された「メチルメタクリレート」の純度が99.2~99.4%であることから、該「凝集物」自体は組成物であるといえ、本件発明1の「組成物」に相当する。
ここで、上記第2の4(4)イに示したように、甲1の「%」は「質量%」であるといえるから、甲1発明の「凝集物」中に「メチルメタクリレート」を「99.2~99.4%」含むことは、本件発明1の「メタクリル酸メチルの含有量が組成物全体の95質量%以上である」ことに相当する。
以上から、本件発明1と甲1発明とは、
「メタクリル酸メチルを含有し、
メタクリル酸メチルの含有量が組成物全体の95質量%以上である、組成物。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。
<相違点1>
トルエンの濃度に関し、本件発明1は「組成物全体の0質量ppmを超え700質量ppm以下であ」るのに対し、甲1発明は不明である点
<相違点2>
組成物に関し、本願発明1は「(但し、化学種として、
メチルメタクリレート99.21%
n-ブタノール0.30%
メタノール0.19%
メチルアセテート0.11%
メチルイソブチレート0.09%
メチルプロパン0.07%
トルエン0.02%
スチレン0.01%
を含む、ポリメチルメタクリレートの熱解重合から回収された凝集物を除く)」のに対し、甲1発明はそのような特定がされていない点
イ 検討
相違点1と相違点2は、トルエンの濃度に関するものであるから、併せて検討する。
甲1には、表2に、「公称床温度400℃で運転中に試験装置から回収された凝集物の典型的内訳」と題して、凝縮物の化学種と相対存在比(%)を示しているところ、該「公称床温度400℃」は、「流動床の平均温度が395~404℃」のことを意味していると認められる。
ここで、上記表2には、公称床温度400℃で熱解重合したときに、メチルメタクリレートが99.21%、トルエンが0.02%であることが記載されているところ、これは甲1発明において、「流動床の平均温度が395~404℃(公称床温度400℃)のとき、回収されたメチルメタクリレートの純度が99.2~99.4%である」ときの一事例を示していると解される。
そうすると、「流動床の平均温度が395~404℃のとき、回収されたメチルメタクリレートの純度が99.2~99.4%である」ことは、別の見方をすれば、公称床温度400℃のときに、メチルメタクリレートの純度が99.2%のときもあれば、99.4%のときもあるというような、複数の事例を有していたといえる。
してみると、回収されたメチルメタクリレートの純度が99.4%であったときには、上記表2におけるメチルメタクリレートの純度より高い値になり、その分トルエン等の不純物は上記表2における不純物の含有量の総和よりも少なくなるから、トルエンの濃度は多く見積もっても0.02%程度であると認められる。
そして、甲1の「3.3.モノマー純度と床構成」には、回収されたモノマーは追加の精製段階を行わずに得られたことが記載されており、トルエンの濃度が0質量ppmになることはないといえる。
さらに、上記「凝縮物」中のメチルメタクリレートの含有量が99.4%であるときには、上記表2に記載されたメチルメタクリレートの含有量(99.21%)よりも大きいことから、本件発明1において除かれた凝集物(化学種として、メチルメタクリレート99.21%・・・トルエン0.02%・・・を含む、ポリメチルメタクリレートの熱解重合から回収された凝集物)である場合にも該当しない。
以上を踏まえると、甲1発明の「凝縮物」における「トルエンの濃度」は、本件発明1の「組成物」における「トルエンの濃度」と同程度である蓋然性が高いといえる。
したがって、本件発明1は、甲1発明と同じである。
仮に相違したとしても、甲1発明及び甲1の記載を参考に、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明2について
甲1発明は、メチルメタクリレートの純度が99.2~99.4%であるから、新たな相違点は生じない。
したがって、本件発明2は、甲1発明と同じであるか、仮に相違したとしても、甲1発明及び甲1の記載を参考に、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件発明3、4について
上記(2)イに示したように、トルエンの濃度は多く見積もっても0.02%程度であると認められるから、新たな相違点は生じない。
したがって、本件発明3、4は、甲1発明と同じであるか、仮に相違したとしても、甲1発明及び甲1の記載を参考に、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1において、「メタクリル酸メチルが、再生メタクリル酸メチル又はバイオ由来メタクリル酸メチルを含む」ことを、さらに特定するものである。
この点について、ポリメチルメタクリレートの熱解重合から回収された、甲1発明の「メチルメタクリレート」は、再生モノマーであるといえるから、甲1発明の「再生メチルメタクリレート」を含むものと解され、両者に新たな相違点は生じない。
したがって、本件発明5は、甲1発明と同じであるか、仮に相違したとしても、甲1発明及び甲1の記載を参考に、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)本件発明8について
甲1には、凝集物に含まれるメチルメタクリレートを重合させる工程を含むことについて、直接的な記載はないが、熱解重合して得られたモノマーは、再度原料として重合されることが一般的であるから、甲1発明の「凝集物」中の「メチルメタクリレート」を重合して、ポリメチルメタクリレートを製造することは、当業者が容易に想到することができたものである。
したがって、本件発明8は、甲1発明及び甲1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7)小括
以上から、本件発明1~5は、甲1に記載された発明であるか、また甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明8は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 取消理由通知書(決定の予告)において採用しなかった申立理由について
(1)本件発明6に対する申立理由1(甲1を主引例とする新規性欠如)及び申立理由2(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明は、上記1(1)ア及びイに記載したとおりである。
本件発明6と甲1発明を対比すると、上記1(2)アと同様の相当関係を有するから、相違点1、2に加えて、以下の点で相違する。
<相違点3>
本件発明6はメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルをさらに含むのに対し、甲1発明はそのような特定がない点
相違点1、2については、上記1(2)イに示したとおりであるから、相違点3について検討する。
ア 新規性について
甲1発明には、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルをさらに含むことが記載されていないことから、相違点3は実質的な相違点である。
イ 進歩性について
甲1は、「機械的流動床を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)の熱解重合」と題された論文であって、機械的流動床を用いてポリメタクリル酸メチルを熱解重合することにより高純度でメタクリル酸メチルを回収すること(要約)、その流動床を持つ実験装置が図2に示されている。
これらの記載によると、甲1は、ポリメタクリル酸メチルを熱解重合して、メタクリル酸メチルを高純度で得ることに着目していたことが分かる。
一方、甲1には、ポリメタクリル酸メチルを熱解重合して回収したメタクリル酸メチルを含む組成物に、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルをさらに含むことは記載も示唆もされていない。
また、甲2(【0012】)、甲3(【0013】)及び甲4(【0007】)には、「市販のポリメチルメタクリレート(メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合体)」と記載されているところ、仮に、甲1に記載された熱解重合の技術を、甲1発明のPMMAのホモポリマーではなく、市販のポリメチルメタクリレート(メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合体である市販のポリメチルメタクリレート)に適用したとしても、その結果、得られた組成物におけるメタクリル酸メチルとトルエンの濃度が本件発明1の範囲となる具体的な根拠があるとはいえない。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件発明6の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、申立書において、以下の主張をしている。
(ア)甲2~甲4には、市販のポリメタクリル酸メチルがメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合体であることが記載されているから、そのようなポリメタクリル酸メチルを熱解重合すれば、メタクリル酸メチルのほか、その以外の(メタ)アクリル酸エステルとしてアクリル酸メチルが自ずと含まれているから、本件発明6は新規性、進歩性を有さない。
(イ)本件発明6の組成物が「メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルをさらに含む」ことの技術的意義、作用効果については何ら記載されていない。
そこで検討する。
(ア)について
表2における内訳を見ると、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルを含んでいないから、上記アのとおり、本件発明6は新規性を有するし、甲1において、市販品(メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合体)を熱解重合したとしても、上記イに示したとおり、進歩性を有する。
また、申立人は、400℃公称床温度という高温で熱解重合したら、メタクリル酸メチルのメチル基が脱離してアクリル酸メチルになることも想定できる旨主張するも、具体的な根拠に基づいて主張するものでない。
したがって、当該主張は妥当でない。
(イ)について
甲1発明において、「メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルをさらに含む」ことが、当業者にとって容易に想到し得えないものであることは、上記イに示したとおりである。また、当該「メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルをさらに含む」ことの技術的意議や作用効果が本件明細書に記載されていないことが、上記イにおける判断に影響を及ぼさないことも明らかである。
したがって、当該主張は妥当でない。
以上から、申立人の主張は採用できない。
エ 小括
本件発明6は、甲1に記載された発明でないし、また甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(2)本件発明7に対する申立理由2(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明は、上記1(1)ア及びイに記載したとおりである。
ア 進歩性について
本件発明7と甲1発明を対比すると、上記1(2)アと同様の相当関係を有するから、相違点1、2に加えて、以下の点で相違する。
<相違点4>
本件発明7はメタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体をさらに含むのに対し、甲1発明はそのような特定がない点
相違点1、2については、上記1(2)イに示したとおりであるから、相違点4について検討する。
甲1には、上記(1)に示したように、ポリメタクリル酸メチルを熱解重合して、メタクリル酸メチルを高純度で得ることが記載されている。
一方、甲1発明である凝集物は、図2の実験装置により得られたものであり、その内訳は表2に示されたものであるところ、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体をさらに含むことは記載も示唆もされていない。
また、甲1の凝集物は、熱解重合の最終物であり、流動床から気化させたものを凝集して得られたものであるところ、該凝集物に原料であるポリメタクリル酸メチル又はそのオリゴマーが混入するといえる、具体的な根拠は見いだせないし、甲2~甲4の記載をみても同様である。
したがって、甲1発明において、相違点4に係る本件発明7の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
イ 申立人の主張について
申立人は、申立書において、以下の主張をしている。
(ア)ポリメタクリル酸メチルを熱解重合する過程にポリメタクリル酸メチルとメタクリル酸メチルが混入する可能性があるから、本願発明7は進歩性を有さない。
(イ)本件発明7の組成物が「メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体をさらに含む」ことの技術的意義、作用効果については何ら記載されていない。
そこで検討する。
(ア)について
上記アに示したとおりであり、具体的な根拠に基づいて主張するものでない。
(イ)について
甲1発明において、「メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体をさらに含む」ことが、当業者にとって容易に想到し得えないものであることは、上記アに示したとおりである。また、当該「メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体をさらに含む」ことの技術的意議や作用効果が本件明細書に記載されていないことが、上記アにおける判断に影響を及ぼさないことも明らかであるも。
したがって、申立人の主張は採用できない。
ウ 小括
本件発明7は、甲1に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(3)本件発明6、7に対する申立理由3(サポート要件違反)について
ア 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 本件発明の課題について
本件明細書の段落【0006】によると、保管安定性、特に長期保管した場合の保管安定性に優れる組成物、及びこの組成物を用いるポリメタクリル酸メチルの製造方法を提供することが本件発明の課題であると認められる(以下「本件発明の課題」という。)。
ここで、本願発明6、7は、本件発明1を引用するものであるから、当該本件発明1が、本件発明の課題を解決できると認識されるか否かを先に検討する。
ウ 本件発明1について
本件明細書には、メタクリル酸メチル及びトルエンを含有し、トルエンの濃度が組成物全体の0質量ppmを超え1000質量ppm未満である、組成物であることで、実施例に示すように、本開示の組成物は保管安定性に優れていること(【0011】)、組成物中のメタクリル酸メチルの含有量は特に制限されず、組成物を用いて得られるポリメタクリル酸メチルの用途等に応じて選択でき、メタクリル酸メチルの含有量は、例えば、組成物全体の85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上であってよいこと、組成物中のメタクリル酸メチルの含有量が上記範囲であると、組成物を重合した重合物及びそれを含む成形体において、少なくとも耐熱性又はその透明性(光透過率)の観点で好ましいこと(【0013】)、組成物の長期間の保管安定性の観点から、組成物に含まれるトルエンの濃度は、組成物全体の5質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましく、100質量ppm以上であること、組成物の光学安定性の観点から、組成物に含まれるトルエンの濃度は、組成物全体の700質量ppm以下であることが好ましく、600質量ppm以下であることがより好ましく、500質量ppm以下であることがさらに好ましいこと(【0017】)、保管後の組成物の透過率がトルエンを添加しない場合に比べて向上するため、長期間保管しても高い透過率を維持すること(【0045】)、トルエン及びメタクリル酸メチルを所定比率で混合することにより、トルエンを含有しない組成物に比べて保管後の透過率が向上し、保管後においても高い透過率を示すこと、その理由は定かではないが、メタクリル酸メチルに少量のトルエンを添加したことにより保管中に何らかの作用(例えば、モノマー間の相互作用など)が生じていると考えられること(【0049】)、本願の組成物によれば、トルエンを含まない組成物の重合物又は硬化物に比べて透明性の高い重合物又は硬化物を提供でき、組成物を長期間保管した後も、トルエンを含まない組成物に比べて高い透過率を示すので、本願の組成物によれば、組成物を長期間した後でも、透明性の高い重合物又は硬化物を提供できること(【0051】)が記載されている。
これらの記載によると、95重量%などの所定量以上のメタクリル酸メチルを含有する組成物にトルエンを最大でも700ppm程度まで含むことにより、組成物の長期間の保存安定性を示すことが理解できる。
次いで、実施例では、トルエンの添加量が50ppm(実施例1)、100ppm(実施例2)、500ppm(実施例3)であって、その余がメタクリル酸メチルである組成物は、長期保管後の安定性を評価すると、トルエンを添加しない比較例1よりも平均透過率が向上することが示されている。
したがって、本件明細書は、本件発明1が本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されており、本件の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定に違反してされたものでない。
エ 本件発明6、7について
本件発明6、7は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記ウで述べたのと同様の理由により、本件明細書は、本件発明6、7が上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているといえる。
オ 申立人の主張について
申立人は、申立書及び令和7年9月10日付け意見書において、トルエン濃度は質量ppmオーダーという「ごく微量」な不純物レベルのものであり、本件発明に係る組成物の成分である「メタクリル酸メチル」、「トルエン」が通常、自然に含有する不純物量から見ると、トルエン濃度はそれらの不純物により大きく影響を受けるし、また、「メタクリル酸メチル」の不純物にはトルエンが含まれる蓋然性が高いから、実施例において、単に「メタクリル酸メチル」への「トルエン」の添加量のみをもって、トルエン濃度を設定することは適切ではなく、本件発明におけるトルエン濃度の規定(0質量ppmを超え700質量ppm以下)は、実施例によって何らサポートされていないことを主張している。
なお、本件明細書の実施例1~3では、トルエン濃度を直接測定するのではなく、「メタクリル酸メチル」への「トルエン(富士フイルム和光純薬社製)」の添加量を以てトルエン濃度が設定され、表1において、「トルエン[ppm]」の添加量が、実施例1~3では、順に50質量ppm(0.005質量%)、100質量ppm(0.01質量%)、500質量ppm(0.05質量%)であり、メタクリル酸メチルは99.999質量%であるから、例えば、実施例1では、2成分の配合の合計は100.004質量%となり、配合比の規定に誤りがある。
ここで、申立書では、2成分の配合比には誤りがあり、トルエン濃度が正しく、メタクリル酸メチルの配合比が誤りであることを前提に主張しているところ、本件発明は、実施例1~3をみると、メタクリル酸メチルにトルエン添加量を特定の数値範囲内にすることで、平均透過率(安定性)が良好になるものであるから、表1に記載されたトルエン添加量とメタクリル酸メチルをあわせて100質量%になっていると解するのが自然であり、申立書に記載したとおりといえる。
そのため、この点については、申立人の主張としていない。
そこで検討する。
本件明細書の段落【0012】には、「メタクリル酸メチル」は常法に従う精製方法によっては除去しきれない不純物を含みうるか、又は、常法に従う検出方法によっては検出できない程度の含有量で不純物を含みうることが記載されていることから、市販品を常法で精製したメタクリル酸メチルを使用しているといえ、トルエン濃度に影響を与えるほどの不純物量ではないと認められる。
そして、一般的にメタクリル酸メチルを製造する際にトルエンを用いることはないし、副生もしないから、仮に、本件明細書の実施例で使用された「メタクリル酸メチル99.999質量%」に不純物がメタクリル酸メチル全体の20000ppm(2%)程度含まれていたとしても、該不純物中にトルエンを相当程度含むとは通常想定し得ないし、本件明細書の実施例で使用されたメタクリル酸メチルが再生メタクリル酸メチルであると記載されているわけではないから、甲1の再生MMAに含まれるトルエン濃度は、本件明細書の実施例と直接には関係しない。
次いで、トルエンの純度が仮に99%程度であったとしても、使用するトルエン添加量自体がppmオーダーであるから、組成物に対して何らかの影響を与えるとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
カ 小括
本件発明6、7は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項6、7に係る特許は、申立理由3によって取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~5、8に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。
また、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件特許の請求項6、7に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の請求項6、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-701215