特許異議申立
2025-700281
樹脂組成物
- 審判番号
- 2025-700281
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-001642外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7547660
- 請求日
- 2025年03月10日
- 審決日
- 2025年12月01日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【異議申立人】阿部 治美
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L) / P1651.4 -YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第29条第2項、特許法第39条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7547660号発明「樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7547660号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7547660号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7547660号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許は、平成27年8月27日(優先日 平成26年8月27日)を国際出願日(以下「原出願の出願日」という。)とする特願2015-548520号の一部を、平成29年10月24日に新たな特許出願とした特願2017-204948号の一部を、平成30年6月12日に新たな特許出願とした特願2018-112307号の一部を、令和3年3月30日に新たな特許出願とした特願2021-58804号の一部を、令和4年8月23日に新たな特許出願とした特願2022-132380号の一部を令和6年1月10日に新たな特許出願とした特願2024-1642号に係る特許であって、令和6年8月30日に特許権の設定登録(請求項数6)がされ、同年9月9日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和7年3月10日に特許異議申立人 阿部 治美 により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~6)がされ、当審において同年4月24日付けの手続補正指令書(方式)を通知し、申立人から同年5月14日に手続補正書(方式)が提出されたものである。
以後の手続は以下のとおりである。
令和7年 6月26日付け 取消理由通知
同年 8月27日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 9月 5日 手続補正書の提出(乙号証の提出)(特許権者)
同年 同月12日付け 訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)
同年10月 3日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和7年8月27日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、「特許第7547660号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものであって、その内容は以下のとおりである。
<訂正事項1>
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「樹脂成分100重量部に対して、熱膨張性黒鉛を3~300重量部、及び無機充填材を2~200重量部の割合で含有し、
リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有せず、
前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が前記樹脂成分の分解開始温度よりも低く、かつ
樹脂成分が塩素化塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂の場合、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は215℃以下である、」とあるのを、
「樹脂成分(ただし、塩素化塩化ビニル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂を除く。)100重量部に対して、熱膨張性黒鉛を3~300重量部、及び無機充填材を2~200重量部の割合で含有し、
リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有せず、
前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が前記樹脂成分の分解開始温度よりも低い、」
に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。)
なお、訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は、請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の「樹脂成分」について、「樹脂成分(ただし、塩素化塩化ビニル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂を除く。)」と、構成の一部を除外し、除かれた塩素化塩化ビニル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂にかかる「樹脂成分が塩素化塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂の場合、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は215℃以下である」という記載を削除することで、特許請求の範囲の記載の整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
(2)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0014】~【0018】に、樹脂成分として多様なものが記載されているところ、【0072】~【0088】に、樹脂成分として、塩素化塩化ビニル樹脂(CPVC)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エポキシ樹脂をそれぞれ採用した実施例が例示されている。その上で、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の「樹脂成分」について、「樹脂成分(ただし、塩素化塩化ビニル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂を除く。)」とし、除かれた構成にかかる記載を削除するものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、訂正事項1は、本件明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でされたものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の「樹脂成分」について、「樹脂成分(ただし、塩素化塩化ビニル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂を除く。)」と限定し、除かれた構成にかかる記載を削除するものであり、訂正前の請求項1にかかる発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
なお、本件においては、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
3 申立人の主張について
申立人は、令和7年10月3日付け意見書において、「訂正前の本件特許の請求項1に係る発明は、基本構成の「熱膨張性黒鉛」の膨張開始温度が、基本構成の「樹脂成分」の分解開始温度よりも低く、と規定されている。さらに、この特許要件に続けて、「かつ」として上記要件に加えて、基本構成の「樹脂成分」が「塩素化塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂」の場合、「熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は215℃以下である」と明確に規定されている」ことを根拠に、「「本件訂正発明1」では、主たる基本構成の「樹脂成分」が、訂正請求前の「塩素化塩化ビニル樹脂(CPVC)又はポリ塩化ビニル樹脂(PVC)」に限定された樹脂類の範囲から、・・・「塩素化塩化ビニル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂を除く」こと以外何らの規定もされていない「広範な樹脂類」に変更されており、その範囲が大きく変更・拡張された」と主張している。
しかしながら、訂正前の請求項1には「樹脂成分が塩素化塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂の場合」(当審注:下線は強調のため、当審合議体が付した。)と記載されていることから、樹脂成分が「塩素化塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂の場合のみ、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は215℃以下である」ことが限定されているのであって、当該記載によって、樹脂成分が塩素化塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂に限定されると解することはできない。
そのため、訂正前は樹脂類が塩素化塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂に限定されていたとする申立人の主張は採用できない。
4 訂正の適否についての判断のまとめ
以上のとおり、請求項1~6についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項で準用する同法第126条第5及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められたため、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明6」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。また、本件特許の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。
「【請求項1】
樹脂成分(ただし、塩素化塩化ビニル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂を除く。)100重量部に対して、熱膨張性黒鉛を3~300重量部、及び無機充填材を2~200重量部の割合で含有し、
リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有せず、
前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が前記樹脂成分の分解開始温度よりも低い、熱膨張性樹脂組成物(但し、酢酸ビニル含有率40~85質量%を有する、エチレン及び酢酸ビニルの共重合樹脂を含有するものを除く。)。
【請求項2】
前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が、前記樹脂成分の分解開始温度よりも15℃以上低い、請求項1に記載の熱膨張性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が200℃以下であり、前記樹脂成分の分解開始温度が200℃よりも高い、請求項1又は2に記載の熱膨張性樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂成分が熱硬化性樹脂を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱膨張性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の熱膨張性樹脂組成物を備えた耐火部材。
【請求項6】
請求項5に記載の耐火部材を備えた建具。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由、取消理由通知の概要、証拠方法
1 申立人が提出した特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要
申立書に記載された申立理由は、以下のとおりである。
(1)申立理由1(明確性)
本件特許の請求項1~6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1~6に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1~6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由4(新規性)
本件特許の請求項1~3、5、6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第20号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3、5、6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(5)申立理由5(進歩性)
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第20号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 取消理由通知書に記載した取消理由の概要
令和7年6月26日付けの取消理由通知における取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1(明確性)
本件特許の請求項1~6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(2)取消理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1~6に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(3)取消理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1~6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(4)取消理由4(新規性)
本件特許の請求項1~3、5、6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(5)取消理由5(同日出願)
本件特許の請求項1~3、5、6に係る発明は、同日出願された下記の出願に係る発明と同一と認められ、かつ、下記の出願に係る発明は特許されており協議を行うことができないから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 証拠方法
(1)申立人が申立書に添付して提出した証拠方法
・甲第1号証:特開2015-98773号公報
・甲第2号証:特開2015-214656号公報
・甲第3号証:特開2008-180068号公報
・甲第4号証:特許第3838780号公報
・甲第5号証:特開2000-226548号公報
・甲第6号証:特開平10-330108号公報
・甲第7号証:特開2006-69809号公報
・甲第8号証:特開2007-45676号公報
・甲第9号証:特許第5130295号公報
・甲第10号証:特開2018-70880号公報
・甲第11号証:特開2021-195461号公報
・甲第12号証:特開2018-70879号公報
・甲第13号証:三洋貿易株式会社 ゴム事業部のホームページ(https://chembase-st.com/wp-content/uploads/02720f74dc159c33d79531533386224f.pdf)
・甲第14号証:エア・ウォーターグループのホームページ「熱膨張性黒鉛TEGの製品Product」(https://site.awi.co.jp/product/teg/products/index.html)
・甲第15号証:特開2014-25310号公報
・甲第16号証:「ポリ塩化ビニールの熱劣化」九州工業大学研究報告.工学、第19号、97~104頁(1969年3月1日発行)(https://kyutech.repo.nii.ac.jp/records/2678/)
・甲第17号証:「ポリ塩化ビニールの熱劣化(第二報)」九州工業大学研究報告.工学、第20号、51~61頁(1970年3月1日発行)(https://kyutech.repo.nii.ac.jp/records/2691)
・甲第18号証:「塩化ビニル樹脂の熱分解時に発生する塩化水素量の連続測定」BUNSEKI KAGAKU、Vol.44,No.1,pp.79-82(1995)
・甲第19号証:「ポリ塩化ビニルの熱劣化(第三報)」九州工業大学研究報告(工学)No.24、73~79頁(1972年2月1日発行)
・甲第20号証:特許第5352017号公報
・甲第21号証:特開2017-20205号公報
(2)特許権者が令和7年8月27日提出の意見書に添付して提出した証拠方法
・乙第1号証:国際公開第2012/124205号
・乙第2号証:特開2012-193053号公報
・乙第3号証:特開2012-193233号公報
・乙第4号証:特開2010-34398号公報
・乙第5号証:特開2007-63434号公報
(3)当審において職権で採用した証拠方法
・同日出願1:特願2015-548520号(特許第6243925号)
・同日出願2:特願2017-204948号(特許第6375040号)
第5 当審の判断
1 申立理由1(明確性)、取消理由1(明確性)について
申立理由1と取消理由1とは、理由の趣旨を同じくするものであるから、これらをまとめて判断する。
(1)明確性の判断基準
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)熱膨張性黒鉛の膨張開始温度について
ア 本件発明は「前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が前記樹脂成分の分解開始温度よりも低」いことを発明特定事項とするものであるところ、「熱膨張性黒鉛の膨張開始温度」について、特許請求の範囲において定義はされていない。
イ これに対し、本件明細書の【0073】には
「熱膨張性黒鉛としてADT社製「ADT501」(膨張開始温度160℃)を用いた場合を実施例1、ADT社製「ADT351」(膨張開始温度200℃)を実施例2、東ソ一社製「GREP-EG」(膨張開始温度220℃)を比較例1、又はエアウォーター社製「MZ160」)(膨張開始温度260℃)を比較例2とした。」
と記載され、実施例、比較例において用いた熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が記載されているものの、その他に「膨張開始温度」の定義や測定方法は記載されていないため、本件明細書の記載から「膨張開始温度」を一義的に理解できるとはいえない。
ウ そこで、本件明細書中に定義や測定方法の開示がなくとも、当業者が、原出願の出願日時に「熱膨張性黒鉛の膨張開始温度」を一義的に理解できたか否かについて、以下検討する。
エ 原出願の出願日前に公知であった甲第6~9号証、乙第1~5号証には、「熱膨張性黒鉛の膨張開始温度」について、それぞれ、以下のとおり記載されている。
(ア)甲第6号証の記載
「【0034】<膨張開始温度の測定>膨張開始温度は、電気炉に熱膨張性黒鉛1g収容のガラス瓶を挿入し、150℃から毎分5℃で昇温して膨張開始温度を測定した。」
(イ)甲第7号証の記載
「【0026】
また膨張開始温度は、次のようにして測定した。すなわち目盛りのついた容積12mlのガラスシリンダーに熱膨張性黒鉛の試料1gを投入したものを、電気炉に入れ、150℃から毎分5℃の速度で昇温し、5℃ごとにシリンダーの体積を読み取った。もとの体積の1.1倍以上に膨張した時の温度を、膨張開始温度とした。」
(ウ)甲第8号証の記載
「【0025】
膨張開始温度は、目盛の付いた容量12mlのガラスシリンダーに熱膨張性黒鉛の試料1gを投入したものを電気炉に入れ、150℃から毎分5℃の速度で昇温し、5℃毎にガラスシリンダー内の容積を読み取り、熱膨張性黒鉛の容積がもとの容積の1.1倍以上に膨張した時の温度を膨張開始温度とした。」
(エ)甲第9号証の記載
「【0084】
(2)熱膨張開始温度
目盛りのついた容器12mlのガラスシリンダーに熱膨張性黒鉛試料を1g投入し、電気炉に入れて150℃から毎分5℃の速度で昇温し、5℃毎にシリンダーの容積を読みとった。加熱前の熱膨張性黒鉛の容積の1.1倍以上に膨張したときの温度を熱膨張開始温度とした。」
(オ)乙第1号証の記載
「[0015] 本発明において、熱膨張性黒鉛の特性を示す「膨張開始温度」とは、熱膨張性黒鉛を150℃から毎分5℃の速度で昇温し、5℃毎にその体積を読み取り、元の体積の1.1倍以上に膨張したときの温度をいい、・・・。」
(カ)乙第2号証の記載
「【0018】
本発明において、熱膨張性黒鉛の特性を示す「膨張開始温度」とは、熱膨張性黒鉛を150℃から毎分5℃の速度で昇温し、5℃毎にその体積を読み取り、元の体積の1.1倍以上に膨張したときの温度をいい、・・・。」
(キ)乙第3号証の記載
「【0014】
熱膨張性黒鉛の特性を示す「膨張開始温度」とは、熱膨張性黒鉛を150℃から毎分5℃の速度で昇温し、5℃毎にその体積を読み取り、元の体積の1.1倍以上に膨張したときの温度をいい、・・・。」
(ク)乙第4号証の記載
「【0019】
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は、目盛の付いた容量12mlのガラスシリンダーに熱膨張性黒鉛の試料1gを入れ、これを電気路に入れて、150℃から毎分5℃の速度で昇温させ、5℃毎にガラスシリンダー内の容量を読み取り、熱膨張性黒鉛の容積が元の容量の1.1倍以上に膨張したときの温度である。」
(ケ)乙第5号証の記載
「【0024】
得られた熱膨張性黒鉛(1)の膨張開始温度は、310℃であり、・・・。尚、膨張開始温度は、次のようにして測定した。すなわち目盛りのついた容積12mlのガラスシリンダーに熱膨張性黒鉛(1)の試料1gを投入したものを、電気炉に入れ、150℃から毎分5℃の速度で昇温し、5℃ごとにシリンダーの体積を読み取った。もとの体積の1.1倍以上に膨張した時の温度を、膨張開始温度とした。・・・」
オ 上記エ(ア)~(ケ)には、「熱膨張性黒鉛の膨張開始温度」につき、共通する測定方法及び定義が開示されており、それは「目盛の付いた容量12mlのガラスシリンダーに熱膨張性黒鉛の試料1gを投入したものを電気炉に入れ、150℃から毎分5℃の速度で昇温し、5℃毎にガラスシリンダー内の容積を読み取り、熱膨張性黒鉛の容積がもとの容積の1.1倍以上に膨張した時の温度」であると認められる。
カ その上で、原出願の出願日前に、「熱膨張性黒鉛の膨張開始温度」の測定方法や定義につき、上記オに示した以外の測定方法や定義が存在したことの証拠はない。
キ 以上より、本件明細書中に定義や測定方法の開示がなくとも、出願時の技術常識を参酌すれば、当業者が、原出願の出願日時に「熱膨張性黒鉛の膨張開始温度」を一義的に理解できたと認められるから、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3)樹脂成分の分解開始温度について
ア 本件発明は「前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が前記樹脂成分の分解開始温度よりも低」いことを発明特定事項とするものであるところ、「樹脂成分の分解開始温度」について、特許請求の範囲において定義はされていない。
イ 次に、本件明細書の【0047】には「樹脂成分の分解開始温度とは、固体の樹脂成分が分解し、重量減少が確認し始める温度を指す。」と記載されており、その他に分解開始温度の定義や測定方法は示されていないことから、当該記載が本件特許における「分解開始温度」の定義であるといえる(以下「本件定義」という。)。
ウ そこで、本件明細書中に測定方法の開示がなくとも、本件定義のみから、当業者が、原出願の出願日時に「分解開始温度」を一義的に理解できたか否かについて、以下検討する。
エ 甲第16~18号証には、塩素化塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂の熱分解について、縷々説示している。
オ しかしながら、甲第16~18号証は、いずれも、塩素化塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂について記載されたものであり、塩素化塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂以外の「樹脂成分の分解開始温度」が、測定方法によって大きく差が生じる物性値であることを示す証拠ではない。
カ その他に、「樹脂成分の分解開始温度」が、測定方法によって大きく差が生じる物性値であることを示す証拠もない。
キ そうすると、塩素化塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂以外の「樹脂成分の分解開始温度」が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であったとすることはできない。
(4)申立人の主張について
申立人は、申立書において、明確性につき、概略、以下のとおり主張している。
<主張1>「熱膨張性黒鉛の膨張開始温度」が明確でない(申立書第59頁)
<主張2>「樹脂成分の分解開始温度」が明確でない(申立書第65頁)
<主張3>「215℃以下」が明確でない(申立書第71頁)
<主張4>本件発明3は、「前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が、前記樹脂成分の分解開始温度よりも15℃以上低い」が明確でない(申立書第72頁)
<主張5>本件発明4は、「熱硬化性樹脂」について、本件明細書に十分な記載がなく明確でない(申立書第73頁)
<主張6>本件発明1~4が不明確なため、本件発明5、6が明確でない(申立書第73頁)
しかしながら、上記(2)に示したとおりの理由により、主張1は採用できない。
特に、甲第1~3号証には、熱膨張性黒鉛以外のものの膨張開始温度の測定方法や、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度ではない物性値の測定方法が記載されており、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度の測定方法は記載されていないから、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が不明確であることの証拠とはなり得ない。また、熱膨張性黒鉛は天然物であり、ロット毎に膨張開始温度に多少の幅があることは当然であり、当業者も当然にそのことを理解するから、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度に幅があることをもって、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、上記(3)に示したとおりの理由により、主張2は採用できない。
また、本件訂正により、「215℃以下」は削除されたため、主張3は、その理由がなくなった。
さらに、上記(2)、(3)に示した理由に加え、「15℃」という数値は明確であるから、主張4は採用できない。
加えて、「熱硬化性樹脂」の記載自体は、明確であるし、申立人の主張は、「明確性要件」の上記判断基準と相容れないものであるから、主張5は採用できない。
そして、本件発明1~4が不明確であるとはいえないから、主張6は採用できない。
(5)申立理由1、取消理由1(明確性)のまとめ
以上のとおり、本件発明1~6は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないから、申立理由1、取消理由1は理由がない。
2 申立理由2(実施可能要件)、取消理由2(実施可能要件)について
申立理由2と取消理由2とは、理由の趣旨を同じくするものであるから、これらをまとめて判断する。
(1)実施可能要件の判断基準と当審の判断
本件発明は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
これに対し、本件明細書には、各成分の候補が十分に開示されており、具体的にエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エポキシ樹脂を用いた実施例も開示されている。このため、上記した考え方に基づいて検討すると、本件明細書には、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
(2)申立人の主張について
申立人は、申立書において、実施可能要件につき、概略、以下のとおり主張している。
<主張7>「熱膨張性黒鉛の膨張開始温度」、「樹脂成分の分解開始温度」が極めて不明瞭なため、本件発明は実施できない(申立書第第73頁)
<主張8>本件発明4は実施できない(申立書第74頁)
<主張9、10>本件発明1~4が実施できないため、本件発明5、6も実施できない(申立書第74、75頁)
しかしながら、上記1(2)、(3)に示したとおり、「熱膨張性黒鉛の膨張開始温度」、「樹脂成分の分解開始温度」は明確であるから、主張7は採用できない。
また、樹脂成分として「熱硬化性樹脂」を使用することは、本件明細書にエポキシ樹脂を使用した実施例21、22とともに十分開示されており、「熱硬化性樹脂」を用いることが不可能であるとする特段の事情もないことから、主張8は採用できない。
そして、本件発明1~4が実施できないとはいえないから、主張9、10は採用できない。
(3)申立理由2、取消理由2(実施可能要件)のまとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載がないとはいえないから、申立理由2、取消理由2は理由がない。
3 申立理由3(サポート要件)、取消理由3(サポート要件)について
申立理由3と取消理由3とは、理由の趣旨を同じくするものであるから、これらをまとめて判断する。
(1)サポート要件の判断基準と当審の判断
一般に、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、本件明細書のサポート要件の存在は、本件特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である。
これに対し、本件明細書には、
「【0007】
本発明の目的は、高膨張性と高い残渣硬さとを兼ね備えた樹脂組成物を提供することにある。」
と記載されていることから、本願発明の課題は「高膨張性と高い残渣硬さとを兼ね備えた樹脂組成物を提供すること」であると認められる。そして、当該課題を解決するための手段として、
「【0008】
上記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討した結果、意外にも、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度より低い場合、さらにはその差が大きい場合に、高い膨張性と燃焼後の高い残渣硬さとが得られることを見出し、本発明を完成するに到った。」
と記載されており、本件発明の作用機序として、
「【0047】
本発明の樹脂組成物は、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低いことにより、高い膨張性と燃焼後の高い残渣硬さとが得られる。・・・この理由として、理論に束縛されることは望まないが、樹脂組成物を加熱した場合、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低いと、樹脂成分が分解するよりも先に膨張性黒鉛が膨張を開始するため、膨張性黒鉛の硬い断熱層が形成され、樹脂成分の分解が遅延化し、断熱層の隙間を埋めるように樹脂成分が配置されるため、高い膨張性を確保しつつ、高い残渣硬さも保持すると考えられる。」
と記載されている。さらに、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エポキシ樹脂を用いた実施例により、本件発明の課題を解決し得ることも具体的に示されている。そうすると、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。
(2)申立人の主張について
申立人は、申立書において、サポート要件につき、概略、以下のとおり主張している。
<主張10>本件明細書に記載された実施例は極めて限定された開示にとどまり、本件発明にまで一般化することはできない(申立書第76、77頁)
<主張11>「熱膨張性黒鉛の膨張開始温度」、「樹脂成分の分解開始温度」が極めて不明瞭なため、本件発明は本件明細書に開示されているとはいえない(申立書第76、77頁)
<主張12>本件明細書に記載があるのは、一般的な熱硬化性樹脂の記載のみであり、本件発明4はサポート要件を満たさない(申立書第77頁)
しかしながら、上記したとおりの理由により、主張10は採用できない。
また、上記1(2)、(3)に示したとおり、「熱膨張性黒鉛の膨張開始温度」、「樹脂成分の分解開始温度」は明確であるから、主張11は採用できない。
さらに、樹脂成分として「熱硬化性樹脂」を使用することは、本件明細書にエポキシ樹脂を使用した実施例21、22とともに十分開示されており、その他、「熱硬化性樹脂」を用いることにより、本件発明の課題を解決し得ないとする特段の事情もないことから、主張12は採用できない。
(3)申立理由3、取消理由3(サポート要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明1~6が、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないとはいえないから、申立理由3、取消理由3は理由がない。
4 申立理由4(甲第20号証を主引例とする新規性)、取消理由5(甲第20号証を主引例とする進歩性)、取消理由4(甲第20号証を主引例とする新規性)について
申立理由4、5、取消理由4は、甲第20号証を主引例とする新規性、進歩性についてのものであるので、これらをまとめて判断する。
(1)甲第20号証について
甲第20号証には、以下のとおり記載されている。
「【請求項1】
塩素化塩化ビニル樹脂100重量部、熱膨張性黒鉛3~300重量部、無機充填剤3~200重量部及び可塑剤20~200重量部からなり、リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有しないことを特徴とする押出成形用塩素化塩化ビニル樹脂組成物。」
「【0001】
本発明は、押出成形により耐火性の成形体、特に長尺の異型成形体を製造しうる押出成形用塩素化塩化ビニル樹脂組成物に関する。」
「【0009】
本発明の押出成形用塩素化塩化ビニル樹脂組成物の構成は上述の通りであり、長時間安定的に押出成形することができ、特に、サッシのような断面形状が複雑な異型成形体を長時間安定的に押出成形することができ、得られた成形体は加熱されると膨張して機械的強度の大きい硬い断熱層を形成し、耐火性が優れている。」
「【0020】
上記無機充填剤は、一般に塩化ビニル樹脂成形体を製造する際に使用されている無機充填剤であれば、特に限定されず、・・・酸化アンチモン、・・・炭酸カルシウム、・・・。」
「【0035】
本発明の塩素化塩化ビニル樹脂組成物は、押出成形用の塩素化塩化ビニル樹脂組成物であり、常法に従って、一軸押出機、二軸押出機等の押出機で130~170℃で溶融押出することにより長尺の成形体を得ることができる。特に、本発明の塩素化塩化ビニル樹脂組成物は成形性が優れているのでサッシのような長尺であり断面形状が複雑な異型成形体を容易に得ることができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1~4、比較例1~6)
【0037】
表1に示した所定量の塩素化塩化ビニル樹脂(徳山積水社製、「HA-53K」重合度1000、塩素含有量67.3重量%、以下「CPVC-1」と言う。)、塩素化塩化ビニル樹脂(徳山積水社製「HA-53F」、重合度1000、塩素含有量64.0重量%、以下「CPVC-2」と言う。)、塩化ビニル樹脂(徳山積水社製「TS-1000R」、重合度1000、以下「PVC」と言う。)、中和処理された熱膨張性黒鉛(東ソ一社製「GREP-EG」)、炭酸カルシウム(白石カルシウム社製「ホワイトンBF300」)、三酸化アンチモン(日本精鉱社製「パトックスC」)、ジイソデシルフタレート(ジェイ・プラス社製「DIDP」、以下「DIDP」と言う。)、ポリリン酸アンモニウム(クラリアントジャパン社製「AP422」)、Ca-Zn複合安定剤(水沢化学社製「NT-231」)、ステアリン酸カルシウム(堺化学社製「SC-100」)、塩素化ポリエチレン(威海金弘社製「135A」)及びポリメチルメタクリレート(三菱レーヨン社製「P-530A」)からなる配合物を一軸押出機(池貝機販社製、65mm押出機)に供給し、150℃で断面形状がE字状(底辺の幅が100mmであり、底辺の両端部及び中央からそれぞれ50mmの3本の側壁が垂設された形状であり、底辺の厚さは3.0mm、側壁の厚さは2.0mmである。)の長尺異型成形体を1m/hrの速度で2時間押出成形した。」
「【0042】
(膨張倍率)
得られた成形体から作製した試験片(長さ100mm、幅100mm、厚さ2.0mm)を電気炉に供給し、600℃で30分間加熱した後、試験片の厚さを測定し、(加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ)を膨張倍率として算出した。」
「【表1】
[図:0001433091000001.jpg]
」
甲20には、以上の記載を踏まえた上、その実施例2に着目すると、
「塩素化塩化ビニル樹脂(徳山積水社製「HA-53F」、重合度1000、塩素含有量64.0重量%)を100重量部、中和処理された熱膨張性黒鉛(東ソ一社製「GREP-EG」)を48重量部、炭酸カルシウム(白石カルシウム社製「ホワイトンBF300」)を24重量部、ジイソデシルフタレート(ジェイ・プラス社製「DIDP」)を80重量部、Ca-Zn複合安定剤(水沢化学社製「NT-231」)を3重量部、ステアリン酸カルシウム(堺化学社製「SC-100」)を4.5重量部、塩素化ポリエチレン(威海金弘社製「135A」)を10重量部、ポリメチルメタクリレート(三菱レーヨン社製「P-530A」)を20重量部からなる配合物を一軸押出機(池貝機販社製、65mm押出機)に供給し、150℃で断面形状がE字状(底辺の幅が100mmであり、底辺の両端部及び中央からそれぞれ50mmの3本の側壁が垂設された形状であり、底辺の厚さは3.0mm、側壁の厚さは2.0mmである。)の長尺異型成形体を1m/hrの速度で2時間押出成形した成形物」
が記載されている(以下「甲20発明」という。)。
(2) 本件発明1について
ア 対比
甲20発明と本件発明1とを対比すると、「塩素化塩化ビニル樹脂(徳山積水社製「HA-53F」、重合度1000、塩素含有量64.0重量%)を100質量部」は「樹脂成分100重量部」に樹脂である限りにおいて相当し、「中和処理された熱膨張性黒鉛(東ソ一社製「GREP-EG」)を48質量部」は「熱膨張性黒鉛を3~300重量部」に相当し、「炭酸カルシウム(白石カルシウム社製「ホワイトンBF300」)を24部」は甲第20号証の【0020】の記載から「無機充填材を2~200重量部」に相当する。また、甲20発明が「リン化合物」や「酢酸ビニル含有率40~85質量%を有する、エチレン及び酢酸ビニルの共重合樹脂」を含有しないことは明らかである。さらに、甲20発明は、表1に示された膨張倍率から熱膨張性であるといえるから、本件発明1の「熱膨張性樹脂組成物」に相当する。また、甲20発明が「酢酸ビニル含有率40~85質量%を有する、エチレン及び酢酸ビニルの共重合樹脂を含有するもの」でないことは明らかである。
そうすると、両者は
「樹脂成分100重量部に対して、熱膨張性黒鉛を3~300重量部、及び無機充填材を2~200重量部の割合で含有し、
リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有しない、
熱膨張性樹脂組成物(但し、酢酸ビニル含有率40~85質量%を有する、エチレン及び酢酸ビニルの共重合樹脂を含有するものを除く。)。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1の樹脂成分は「樹脂成分(ただし、塩素化塩化ビニル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂を除く。)」であるのに対し、甲20発明の樹脂成分は「塩素化塩化ビニル樹脂」である点
<相違点2>
本件発明1は「前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が前記樹脂成分の分解開始温度よりも低」いものであるのに対し、甲20発明はそのようなことが明記されていない点
イ 判断
上記相違点1について検討する。
まず、相違点1は実質的な相違点である。
次に、甲第20号証の請求項1や【0001】の記載から、甲20発明は「塩素化塩化ビニル樹脂組成物」であることを前提とするものであると認められ、甲20発明において、樹脂成分を「塩素化塩化ビニル樹脂」以外の樹脂に変更することの動機付けはないし、むしろ阻害要因があるといえる。
そうすると、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲20発明ではないし、甲20発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、申立書において、本件訂正前の本件発明1は、甲第20号証を主引例として新規性ないし進歩性を有しない旨、主張している(申立書第78頁)が、本件訂正により、樹脂成分から「塩素化塩化ビニル樹脂」は除かれたから、申立人の主張は採用できない。
エ 小括
以上より、本件発明1は、甲第20号証に記載された発明ではなく、甲第20号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を直接ないし間接的に引用して、さらに特定するものであるから、上記(2)で本件発明1について示したのと同様の理由により、甲第20号証に記載された発明ではなく、甲第20号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)申立理由4、5、取消理由4(甲第20号証を主引例とする新規性、進歩性)のまとめ
以上のとおり、本件発明1~6は、甲第20号証に記載された発明ではなく、甲第20号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものでもないから、申立理由4、5、取消理由4は理由がない。
5 取消理由5(同日出願)について
(1)同日出願1について
ア 本件発明1について
同日出願1の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛75~300重量部、及び無機充填材2~200重量部を含有し、
樹脂成分が塩素化塩化ビニル樹脂であり、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が215℃以下であり、
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低いことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛75~300重量部、及び無機充填材10~200重量部を含有し、
前記樹脂成分がポリ塩化ビニル樹脂であり、
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低いことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項3】
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が、樹脂成分の分解開始温度よりも15℃以上低い、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が200℃以下であり、樹脂成分の分解開始温度が200℃よりも高い、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有しないことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物を備えた耐火部材。
【請求項7】
請求項6に記載の耐火部材を備えた建具。」
請求項5に係る発明は、請求項1に係る発明を引用するものであるから、これを書き下すと以下のとおりである(以下「同日出願1発明」という。)。
「樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛75~300重量部、及び無機充填材2~200重量部を含有し、
樹脂成分が塩素化塩化ビニル樹脂であり、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が215℃以下であり、
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低く、
リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有しないことを特徴とする樹脂組成物。」
イ 同日出願1発明と、本件発明1とを対比すると、同日出願1発明の樹脂成分は「塩素化塩化ビニル樹脂」であるのに対し、本件発明1の樹脂成分は「樹脂成分(ただし、塩素化塩化ビニル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂を除く。)」である点において、両者は明らかに相違する。
ウ このため、その他の一致点、相違点について検討するまでもなく、同日出願1発明と、本件発明1とは、同一ではない。同日出願1の他の請求項に係る発明について検討しても、同様である。
エ 本件発明2~6についても、上記ア~ウに示したのと同様の理由により、同日出願1の各請求項に係る発明とは同一でない。
(2)同日出願2について
ア 本件発明1について
同日出願2の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛3重量部以上75重量部未満、及び無機充填材2~200重量部を含有し、
樹脂成分が塩素化塩化ビニル樹脂であり、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が215℃以下であり、
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低いことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛10重量部を超え75重量部未満、及び無機充填材10~200重量部を含有し、
前記樹脂成分がポリ塩化ビニル樹脂であり、
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低いことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項3】
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が、樹脂成分の分解開始温度よりも15℃以上低い、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が200℃以下であり、樹脂成分の分解開始温度が200℃よりも高い、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有しないことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物を備えた耐火部材。
【請求項7】
請求項6に記載の耐火部材を備えた建具。」
請求項5に係る発明は、請求項1に係る発明を引用するものであるから、これを書き下すと以下のとおりである(以下「同日出願2発明」という。)。
「樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛3重量部以上75重量部未満、及び無機充填材2~200重量部を含有し、
樹脂成分が塩素化塩化ビニル樹脂であり、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が215℃以下であり、
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低く、
リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有しないことを特徴とする樹脂組成物。」
イ 同日出願2発明と、本件発明1とを対比すると、同日出願2発明の樹脂成分は「塩素化塩化ビニル樹脂」であるのに対し、本件発明1の樹脂成分は「樹脂成分(ただし、塩素化塩化ビニル樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂を除く。)」である点において、両者は明らかに相違する。
ウ このため、その他の一致点、相違点について検討するまでもなく、同日出願2発明と、本件発明1とは、同一ではない。同日出願2の他の請求項に係る発明について検討しても、同様である。
エ 本件発明2~6についても、上記ア~ウに示したのと同様の理由により、同日出願2の各請求項に係る発明とは同一でない。
(3)取消理由5(同日出願)のまとめ
以上より、本件発明1~6は、同日出願1、2に係る発明と同一ではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、申立書に記載した申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、上記結論のとおり決定する。
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2025-700281