特許異議申立
2025-700738
ペースト状シリコーン組成物、その製造方法及び化粧料
- 審判番号
- 2025-700738
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-115224
- 登録番号
- 7617819
- 請求日
- 2025年07月18日
- 審決日
- 2026年03月12日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】信越化学工業株式会社
- 【権利者代理人】好宮 幹夫
- 【権利者代理人】小林 俊弘
- 【権利者代理人】大塚 徹
- 【異議申立人】刑部 良
- 審判長/審判官
- 審判長 辰己 雅夫
- 審判官 加藤 幹
- 審判官 松本 直子
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第2号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第2条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7617819号発明「ペースト状シリコーン組成物、その製造方法及び化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7617819号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第7617819号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
特許第7617819号の請求項1及び3~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7617819号に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和3年7月12日に出願された特願2021-115224号であって、令和7年1月9日にその特許権の設定登録(請求項の数 7)がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和7年7月18日に、本件特許に対して、特許異議申立人 刑部 良(以下「申立人」という。)により、全請求項(請求項1~7)を対象として特許異議の申立てがされた。
その後の手続は以下のとおりである。
令和 7年10月 2日付け 取消理由通知
同年11月14日 応対記録(最終応対日)
同年 同月25日 訂正請求書、意見書(特許権者)の提出
同年12月 2日付け 手続補正指令(方式)
同年 同月15日 手続補正書(方式)の提出
同年 同月26日付け 訂正請求があった旨の通知
なお、上記訂正請求があった旨の通知に対し申立人は意見書を提出しなかった。
第2 訂正請求書の補正の適否
令和7年12月15日提出の手続補正書(方式)による訂正請求書の補正(以下「本件補正」という。)は、請求の理由について、訂正特許請求の範囲に対応する訂正事項が訂正請求書に存在していないとの手続補正指令に対してするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第131条の2第1項ただし書第1号及び第3号に該当する。
したがって、本件補正は適法なものである。
第3 訂正の適否
1 訂正の内容
(1)訂正請求の趣旨
令和7年11月25日提出の訂正請求書(本件補正後のもの。以下同じ。)による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は、「特許第7617819号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-7に訂正することを求める。」ことを請求の趣旨とするものである。
(2)訂正事項
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「(A-1)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下のオルガノハイドロジェンポリシロキサン、」とあるのを、
「(A-1)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下の下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
【化1】
[図:0001437388000001.jpg]
(前記一般式(1)中、R1は独立して、炭素数1~30のアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアラルキル基から選ばれる基であり、R2は独立して前記R1または水素原子から選ばれる基(ただし、両末端のR2がともに水素原子である場合を除く)であり、ただし、1分子中2個以上のR2は水素原子であり、3≦a≦100,000、1≦b≦50の整数である。)」
に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2-7も同様に訂正する)
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1または請求項2に記載の」とあるのを、
「請求項1に記載の」
に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の」とあるのを、
「請求項1、請求項3、及び請求項4のいずれか1項に記載の」
に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に
「請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の」とあるのを、
「請求項1、請求項3、及び請求項4のいずれか1項に記載の」
に訂正する。
(3)一群の請求項
訂正前の請求項1~7について、訂正前の請求項2~7は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。そのため、訂正前の請求項1~7に対応する訂正後の請求項1~7は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は一群の請求項ごとにするものである。
3 訂正事項の検討
(1)訂正事項1
訂正事項1による請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「オルガノハイドロジェンポリシロキサン」を、「一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
また、訂正事項1による訂正は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項2に記載された一般式(1)に基づいて、訂正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「オルガノハイドロジェンポリシロキサン」を、同一般式(1)に包含されるものに限定した上で、両末端のR2がともに水素原子であるものを除くものであって、当業者によって本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるといえるから、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。
(2)訂正事項2
訂正事項2による請求項2についての訂正は、請求項2を削除するものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(3)訂正事項3~5
訂正事項3~5による請求項3、5及び7についての訂正は、請求項2を引用する旨の記載を削除するものである。
したがって、訂正事項3~5による訂正は、選択肢の一部を削除するものである点で特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項2を引用しないようにするものである点で他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。また、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(4)独立特許要件
本件訂正請求による訂正は特許異議の申立てがされている請求項である訂正前の請求項1~7に係るものであるから、これに対応する訂正後の請求項1~7に係る発明に、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
4 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正請求による訂正は適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
第4 本件発明
上記第3のとおり本件訂正請求による訂正が認められたため、本件特許の請求項1~7に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明7」といい、これらを合わせて「本件発明」という。)は、その訂正後の特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ペースト状シリコーン組成物であって、下記成分(A)および成分(B)を含み、前記ペースト状シリコーン組成物中に含まれるオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンがそれぞれ2,000ppm未満のものであることを特徴とするペースト状シリコーン組成物。
(A):下記成分(A-1)と成分(A-2);
(A-1)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下の下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
【化1】
[図:0001437388000002.jpg]
(前記一般式(1)中、R1は独立して、炭素数1~30のアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアラルキル基から選ばれる基であり、R2は独立して前記R1または水素原子から選ばれる基(ただし、両末端のR2がともに水素原子である場合を除く)であり、ただし、1分子中2個以上のR2は水素原子であり、3≦a≦100,000、1≦b≦50の整数である。)
(A-2)1分子中にケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を2個以上有し、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、
のヒドロシリル化反応物からなる架橋型オルガノポリシロキサン、
(B):25℃で液状の油剤
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記成分(A-2)が下記一般式(2)で表されるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項1に記載のペースト状シリコーン組成物。
【化2】
[図:0001437388000003.jpg]
(前記一般式(2)中、R1は独立して、炭素数1~30のアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアラルキル基から選ばれる基であり、R3は独立して前記R1または炭素数2~10のアルケニル基から選ばれる基であり、ただし、1分子中2個以上のR3はアルケニル基であり、3≦c≦100,000、0≦d≦50の整数である。)
【請求項4】
前記一般式(2)において、d=0であることを特徴とする請求項3に記載のペースト状シリコーン組成物。
【請求項5】
請求項1、請求項3、及び請求項4のいずれか1項に記載のペースト状シリコーン組成物の製造方法であって、前記成分(A-1)と前記成分(A-2)をヒドロシリル化反応用触媒存在下でヒドロシリル化反応を行って、前記成分(A)を得る工程を含み、前記成分(A-1)並びに前記成分(A-2)として、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下のものを用いることを特徴とするペースト状シリコーン組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のペースト状シリコーン組成物の製造方法において、前記ヒドロシリル化反応を、前記ペースト状シリコーン組成物に配合される成分(B)の配合量の0.01~100質量%の存在下で行うことを特徴とするペースト状シリコーン組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1、請求項3、及び請求項4のいずれか1項に記載のペースト状シリコーン組成物を含むものであることを特徴とする化粧料。」
第5 申立理由及び取消理由並びに証拠方法
1 特許異議申立に係る申立理由
(1)申立理由1(甲第1号証を主引用例とする新規性、進歩性)
本件発明1~7は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
仮にそうでないとしても、本件発明1~7は、上記甲第1号証に記載された発明に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許の本件発明1~7についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲第2号証を主引用例とする新規性、進歩性)
本件発明1~7は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
仮にそうでないとしても、本件発明1~7は、上記甲第2号証に記載された発明に基いてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許の本件発明1~7についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(甲第3号証を主引用例とする新規性、進歩性)
本件発明1~6は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
仮にそうでないとしても、本件発明1~6は、上記甲第3号証に記載された発明に基いてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許の本件発明1~6についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(実施可能要件)
本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載は、以下の点で特許法第36条第4項第1号に適合しないから、本件特許の本件発明1~7についての特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
明細書には、「可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭が少なく、安定したペースト状シリコーン組成物を提供すること」や、「このペースト状シリコーン組成物を配合することで、安定性や官能性の良い、環境に配慮した化粧料が提供可能となる」ことが記載されているが、実施例においては、特定のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(A-1)、特定のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(A-2)及び特定の油剤(B)が使用されているのみである。
これに対し、特許請求の範囲に記載されたオルガノハイドロジェンポリシロキサン(A-1)、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(A-2)及び油剤(B)は非常に広範なものである。そして、ペースト状組成物の粘度、安定性、臭い、官能性等は、架橋型オルガノポリシロキサンの官能基の種類、その長さ、立体構造等や油剤の種類、構造性状等によって変化するものである。
したがって、いかなる架橋型オルガノポリシロキサンや油剤を用いれば、可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭が少なく、安定したペースト状シリコーン組成物を得ることができるのかということや、いかなる架橋型オルガノポリシロキサン及び油剤を含有するペースト状シリコーン組成物を配合すれば安定性や官能性の良い化粧料が得られるのかということを検討するために、過度の実験等を要する。
(5)申立理由5(サポート要件)
本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~7の記載は、以下の点で特許法第36条第6項第1号に適合しないから、本件特許の本件発明1~7についての特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
本件発明が解決しようとする課題は「可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭が少なく、安定したペースト状シリコーン組成物を提供すること」であり、明細書には「このペースト状シリコーン組成物を配合することで、安定性や官能性の良い、環境に配慮した化粧料が提供可能となる」ことも記載されているが、実施例においては、特定のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(A-1)、特定のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(A-2)及び特定の油剤(B)が使用されているのみである。
これに対し、特許請求の範囲に記載されたオルガノハイドロジェンポリシロキサン(A-1)、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(A-2)及び油剤(B)は非常に広範なものである。そして、ペースト状組成物の粘度、安定性、臭い、官能性等は、架橋型オルガノポリシロキサンの官能基の種類、その長さ、立体構造等や油剤の種類、構造性状等によって変化するものである。
したがって、一般式(1)及び(2)のR1が炭素数の多いアルキル基である場合やアリール基及びアラルキル基である場合まで、またいかなる種類、構造、性状等の油剤であっても、上記課題が解決できるとはいえない。
(6)申立理由6(明確性)
本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~4及び7の記載は、以下の点で特許法第36条第6項第2号に適合しないから、本件特許の本件発明1~4及び7についての特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
本件発明1~4及び7は物の発明であるところ、請求項1の「成分(A-1)と成分(A-2)」「のヒドロシリル化反応物からなる架橋型オルガノポリシロキサン」という記載は物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に該当し、かつ、いわゆる不可能・非実際的事情が存するとは認められない。
2 取消理由通知に係る取消理由
(1)取消理由1及び取消理由2-1(甲第1号証を主引用例とする新規性、進歩性)
本件発明1~7は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
また、本件発明1~7は、上記甲第1号証に記載された発明に基いてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許の本件発明1~7についての特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)取消理由2-2(甲第2号証を主引用例とする進歩性)
本件発明1~7は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許の本件発明1~7についての特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 証拠方法
(1)特許異議申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証:特表2019-518837号公報
甲第2号証:特開2012-162700号公報
甲第3号証:特開2004-182758号公報
甲第4号証:The Food Packaging Forum Foundation(食品包装フォーラム財団),ECHA adds 10 new substances to Candidate List(ECHAが候補リストに10種類の新規化合物を追加),2018年6月28日,URL:https://foodpackagingforum.org/news/echa-adds-10-news-substances-to-candidate-list?utm_source=chatgpt.com及びその抄訳
甲第5号証:信越化学工業株式会社,「KE-3601SB-U」についての安全データシート,2020年3月30日,URL:https://faq.as-1.co.jp/attachment_file/faq?id=77988.pdf&site_domain=default
甲第6号証:富士フイルム和光純薬株式会社,「イソドデカン(異性体混合物)」についての安全データシート,2023年5月23日,URL:https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0235-2647JGHEJP.pdf
甲第7号証:四日市合成株式会社,「フェノキシエタノール」についてのProduct information,公開日不明,URL:https://yg-chem.co.jp/files/product/cosme/PHE(J).pdf(当審合議体注:URLはリンクが切れている。)
甲第8号証:東京化成工業株式会社,Indoline,公開日不明,URL:https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/I0033?utm_source=chatgpt.com
甲第9号証:National Library of Medicine,1,3-Benzodioxole,公開日不明,URL:https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/1_3-Benzodioxole?utm_source=chatgpt.com#section=Computed-Properties
以下「甲第1号証」等を「甲1」等という。
(2)令和7年10月2日付けの取消理由通知において当審合議体が職権で採用し提示した証拠方法
参考1:環境省大臣官房環境保健部環境安全課,平成30年度 化学物質と環境 化学物質分析法開発調査報告書,2020年1月,URL:https://www.nies.go.jp/kisplus/dtl/man/146,https://www.nies.go.jp/kisplus/images/bunseki/pdfs/kurohon/2018/adoc2018_v3.pdf
参考2:日本化粧品工業連合会事務局,環状シリコーン化合物(D4、D5、D6)に係る国内外の規制状況について(情報提供),粧工連通知2018001号,2018年4月,URL:https://aichi-cosme.com/document/,https://aichi-cosme.com/wp/wp-content/uploads/2018/04/dfd79205f21cf1b8cd6ce43c87fe1fe7.pdf
以下「参考1」等を「参1」等という。
第6 当審の判断
1 判断の大要
当審合議体は、本件特許の請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、本件訂正請求による訂正により請求項2が削除された結果対象を失った、不適法な申立てであってその補正をすることができないものであると判断する。
また、当審合議体は、本件特許の請求項1及び3~7に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできないと判断する。そして、そのように判断する理由は以下のとおりである。
2 取消理由1及び取消理由2-1並びにこれと同旨の申立理由1(甲1を主引用例とする新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
甲1(段落0066、0072及び0073)に記載された実施例1に係るO/Wゲルエマルション(当審合議体注:甲1には「O/Wエマルションゲル」という表記もみられるが、甲1の特許請求の範囲における表記に倣い、「O/Wゲルエマルション」に統一する。)に着目すると、甲1には
「25℃で約5Pa・sの粘度を有するビニルポリジメチルシロキサン40重量部、25℃で約0.02Pa・sの粘度を有するビス-ハイドロジェンジメチコン10重量部及びイソドデカン20重量部の混合物を十分に混合し、ポリオキシエチレンラウリルエーテル5重量部、セテアリル硫酸ナトリウム0.5重量部及び脱イオン水5重量部の混合物と撹拌器中で組み合わせて、安定なエマルションを得て、エマルションへの脱イオン水の添加により、架橋ポリオルガノシロキサンの含有量を40重量%に減少させ、エマルションを60℃に加熱し、pHを4に調整し、続いて0.05重量部の過硫酸アンモニウムを添加して、ビニルポリジメチルシロキサンのフリーラジカル重合及びビス-ハイドロジェンジメチコンによるヒドロシリル化を開始させ、4時間後、得られた安定なO/Wゲルエマルション中の未反応のSiHは、Luoらによる、「Silicone Resin and its Application」、ChemicalIndustry Press、Beijing、pp.227-228(2002)に記載の発酵管法により測定したところ、0.1cc/g未満であり、このエマルションをトリエタノールアミンでpHを7に調整し、防腐剤としてフェノキシエタノール0.8重量部を添加して得た、従来のガスクロマトグラフィーによって測定したD4の含有量及びD5の含有量が0.021質量%及び0.032質量%である、O/Wゲルエマルション」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者の構成の対応は以下のとおりとなる。
(a)甲1発明における「ビス-ハイドロジェンジメチコン」は、甲1の段落0065の表1の実施例1に係るポリオルガノシロキサンIIが甲1の段落0028で定義される構造単位を用いてMHD20MHと表されること、「ジメチコン」がポリジメチルシロキサンの別名であること及び「ビス-ハイドロ」が2つの水素原子を意味することから、両末端のみにヒドロシリル基を有するポリジメチルシロキサンであるといえる。そのため、甲1発明における「ビス-ハイドロジェンジメチコン」は、本件発明1における一般式(1)において、R1が全て炭素数1のアルキル基であり、両末端以外のR2が全てこのR1であり、両末端のR2がともに水素原子であり、a及びbはa+b=20を満たす限り任意(例えばa=b=10)のものであるといえる。そうすると、甲1発明における「ビス-ハイドロジェンジメチコン」は、本件発明1における
「(A-1)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下の下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
【化1】
[図:0001437388000004.jpg]
(前記一般式(1)中、R1は独立して、炭素数1~30のアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアラルキル基から選ばれる基であり、R2は独立して前記R1または水素原子から選ばれる基(ただし、両末端のR2がともに水素原子である場合を除く)であり、ただし、1分子中2個以上のR2は水素原子であり、3≦a≦100,000、1≦b≦50の整数である。)」
と、
「(A-1)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し」、「下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
【化1】
[図:0001437388000005.jpg]
(前記一般式(1)中、R1は独立して、炭素数1~30のアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアラルキル基から選ばれる基であり、R2は独立して前記R1または水素原子から選ばれる基であり、ただし、1分子中2個以上のR2は水素原子であり、3≦a≦100,000、1≦b≦50の整数である。)」
という限りで一致する。
(b)甲1発明における「ビニルポリジメチルシロキサン」は、甲1の段落0065の表1の実施例1に係るポリオルガノシロキサンIが甲1の段落0028で定義される構造単位を用いてMVD560DV36MVと表されること及び「ビニルポリジメチルシロキサン」という名称から、両末端にビニルシリル基を有し、かつ鎖中にもビニルシリル基を有するポリジメチルシロキサンであるといえる。そして、ビニル基は炭素数2のアルケニル基である。そうすると、甲1発明における「ビニルポリジメチルシロキサン」は、本件発明1における「(A-2)1分子中にケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を2個以上有し、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン」と、「(A-2)1分子中にケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を2個以上有」する「アルケニル基含有オルガノポリシロキサン」という限りで一致する。
(c)甲1発明における「ビニルポリジメチルシロキサンのフリーラジカル重合及びビス-ハイドロジェンジメチコンによるヒドロシリル化」により得られたものには、ビニルポリジメチルシロキサン2分子が、それらの鎖中のビニルシリル基がビス-ハイドロジェンジメチコン1分子の両末端のヒドロシリル基によりヒドロシリル化されることで架橋された構造が存在するといえる。そうすると、前記(a)及び(b)を踏まえると、甲1発明における「ビニルポリジメチルシロキサンのフリーラジカル重合及びビス-ハイドロジェンジメチコンによるヒドロシリル化」により形成したものは、本件発明1における「成分(A-1)と成分(A-2)」「のヒドロシリル化反応物からなる架橋型オルガノポリシロキサン」である「成分(A)」に相当する。
(d)甲1発明における「イソドデカン」は、本件特許に係る願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の段落0035及び0037の成分(B)の例示についての記載(特に段落0037の「イソドデカン(INCI)」)からみて、本件発明1における「(B):25℃で液状の油剤」に相当する。
(e)甲1発明における「O/Wゲルエマルション」は、「ビニルポリジメチルシロキサンのフリーラジカル重合及びビス-ハイドロジェンジメチコンによるヒドロシリル化」により得られたものを含有する点で「シリコーン組成物」であるといえるし、甲1の段落0007の、甲1に係る組成物は水ベースのヘアケア及びスキンケア組成物の構成要素とされ、そのような組成物が塗布されるときの指による押し広げに対する抵抗を高めるものである旨の記載を踏まえると「ペースト状」であるといえる。そうすると、甲1発明における「O/Wゲルエマルション」は、本件発明1における「ペースト状シリコーン組成物」に相当する。
(f)甲1発明におけるO/Wゲルエマルションの従来のガスクロマトグラフィーによって測定したD4の含有量及びD5の含有量が0.021質量%及び0.032質量%であることは、当業界においてオクタメチルシクロテトラシロキサン及びデカメチルシクロペンタシロキサンはD4及びD5とも表記されること(参1の203~204頁、参2の1頁)及び0.1%は1000ppmであることから、甲1発明におけるO/Wゲルエマルションの従来のガスクロマトグラフィーによって測定したオクタメチルシクロテトラシロキサンの含有量及びデカメチルシクロペンタシロキサンの含有量が210ppm及び320ppmであることを意味するといえる。そうすると、前記(e)を踏まえると、甲1発明におけるO/Wゲルエマルションの従来のガスクロマトグラフィーによって測定したD4の含有量及びD5の含有量が0.021質量%及び0.032質量%であることは、本件発明1における「ペースト状シリコーン組成物中に含まれるオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン」「がそれぞれ2,000ppm未満」に相当する。
イ 一致点、相違点
前記アから、本件発明1と甲1発明とは、
「ペースト状シリコーン組成物であって、下記成分(A)および成分(B)を含み、前記ペースト状シリコーン組成物中に含まれるオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンがそれぞれ2,000ppm未満のものであることを特徴とするペースト状シリコーン組成物。
(A):下記成分(A-1)と成分(A-2);
(A-1)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
【化1】
[図:0001437388000006.jpg]
(前記一般式(1)中、R1は独立して、炭素数1~30のアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアラルキル基から選ばれる基であり、R2は独立して前記R1または水素原子から選ばれる基であり、ただし、1分子中2個以上のR2は水素原子であり、3≦a≦100,000、1≦b≦50の整数である。)
(A-2)1分子中にケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を2個以上有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、
のヒドロシリル化反応物からなる架橋型オルガノポリシロキサン、
(B):25℃で液状の油剤」
という点で一致し、
(相違点1-1)成分(A-1)の一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、本件発明1は、両末端のR2がともに水素原子であるものは除かれているのに対し、甲1発明は両末端のR2がともに水素原子である点
(相違点1-2)ペースト状シリコーン組成物中に含まれるドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量が、本件発明1は2,000ppm未満であるのに対し、甲1発明は不明である点
(相違点1-3)成分(A-1)のオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量が、本件発明1はそれぞれ2,000ppm以下であるのに対し、甲1発明は不明である点
(相違点1-4)成分(A-2)のオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量が、本件発明1はそれぞれ2,000ppm以下であるのに対し、甲1発明は不明である点
で相違する。
ウ 検討
相違点1-1について、上記ア(a)で指摘したとおり、甲1発明における「ビス-ハイドロジェンジメチコン」は、本件発明1における一般式(1)において両末端のR2がともに水素原子である。したがって、相違点1-1は実質的な相違点である。
次いで、甲1発明において相違点1-1に係る構成を備えるようにすることについて検討する。
甲1には、ポリオルガノシロキサンIIは少なくとも1つのヒドロシリル含有部分MH、DH及び/又はTHを含有する旨の記載がある(段落0032及び0036)。しかし、実施例で実際に使用されているポリオルガノシロキサンIIは、直鎖構造であってヒドロシリル基を両末端に有するものか(実施例1及び3)、直鎖構造であってヒドロシリル基を1つしか有しないものか(実施例4及び5)、そもそも直鎖構造でないもの(実施例2)に限られる(段落0065)。
そのため、甲1発明における「ビス-ハイドロジェンジメチコン」(甲1の実施例1に係るMHD20MHと表されるポリオルガノシロキサンII)を、直鎖構造であり2つ以上のヒドロシリル基を有するが両末端の少なくとも一方はヒドロシリル基を有しないポリオルガノシロキサンとする積極的な動機付けが、甲1に記載されているとはいえない。
また、そのような積極的な動機付けは、以下のとおり甲2~9又は参1若しくは2の記載に存するとはいえないし、本件特許に係る出願時の技術常識に存するともいえない。
(a)甲2には、直鎖構造であり2つ以上のヒドロシリル基を有するが両末端の少なくとも一方はヒドロシリル基を有しない具体的なポリオルガノシロキサンが記載されている(段落0077、0083及び0099)。しかし、甲2には、このポリオルガノシロキサンは直鎖構造であり両末端にヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサンの同等物として記載されているにとどまり(請求項1)、これを甲1発明に使用する積極的な動機付けとなるような記載はない。
(b)甲3には、直鎖構造であり2つ以上のヒドロシリル基を有するが両末端の少なくとも一方はヒドロシリル基を有しない具体的なポリオルガノシロキサンが記載されている(段落0031)。しかし、甲3には、これをゴム状又はゲル状の硬化物を与える難燃性シリコーン組成物の成分とすることが記載されているにとどまり(段落0001及び0006)、これをO/Wゲルエマルションである甲1発明に使用する積極的な動機付けとなるような記載はない。
(c)甲4及び5並びに参1及び参2は環状シリコーン化合物についてのものであり、甲6~甲9は液状有機化合物についてのものであって、直鎖構造であり2つ以上のヒドロシリル基を有するが両末端の少なくとも一方はヒドロシリル基を有しないポリオルガノシロキサンについては記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明において相違点1-1に係る構成を備えるようにすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
以上から、相違点1-2~1-4について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明であるとはいえないし、本件発明1の構成は当業者が甲1発明に基づいて容易に想到できたものであるともいえない。
エ 効果について
本件明細書には、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとアルケニル基含有オルガノポリシロキサンのヒドロシリル化反応により得られたシリコーン架橋物は、従来から油剤の一部と予め混合・ペースト化された状態で化粧料やパーソナルケア組成物に配合されている旨(段落0002)、本発明者らは、ペースト状シリコーン組成物に含まれるオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン及びドデカメチルシクロヘキサシロキサン(当審合議体注:「オクタメチルシクロテトラシロキサン」、「デカメチルシクロペンタシロキサン」及び「ドデカメチルシクロヘキサシロキサン」を以下「D4」、「D5」及び「D6」ということがある。)の量を低減することで、不快な臭気や可塑戻りを抑制することを見出して本発明を完成させた旨(段落0023)、本件発明1によれば、環状低分子シロキサンの含有量を低減した原料を用いることで、可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭の少ない、安定したペースト状シリコーン組成物を提供することができ、近年環状シロキサンの使用や含有量を規制する国や地域においても懸念無く使用でき、このペースト状シリコーン組成物を配合することで、安定性や官能性の良い、環境に配慮した化粧料が提供可能となる旨(段落0021)が記載されている。
さらに、本件明細書には、実際の例として、ペースト状シリコーン組成物に含まれるD4、D5及びD6が少ない実施例1~4に係るペースト状シリコーン組成物は、これらがやや多い参考例1に係るペースト状シリコーン組成物やこれらが非常に多い比較例1に係るペースト状シリコーン組成物よりも臭気及び可塑戻りが抑制されたものである旨も記載されている(段落0054~0069)。
そうすると、本件発明1は、環状低分子シロキサンの含有量を低減した原料を用いることでペースト状シリコーン組成物に含まれるD4、D5及びD6の量を低減することにより、可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭の少ない、安定したペースト状シリコーン組成物を提供することができ、近年環状シロキサンの使用や含有量を規制する国や地域においても懸念無く使用でき、このペースト状シリコーン組成物を配合することで、安定性や官能性の良い、環境に配慮した化粧料が提供可能となるという効果を奏するといえる。
一方、甲1には、D4及びD5のような環状シロキサンは、パーソナルケア製品に望ましい感触特性を提供するが、低粘度で流動性の高い液体でありパッケージユニット内で分離したり適用時には皮膚上で制御不能な様式で流動したりする旨(段落0002)が記載され、D4及びD5の合計含有量が1,000ppm未満であるO/Wゲルエマルションが有利である旨(0072)も記載されているが、本件発明1の上記効果については記載も示唆もされていない。
また、本件発明1の上記効果が甲2~9、参1若しくは2の記載又は本件特許に係る出願時の技術常識から当業者が予測できたものであるともいえない。
したがって、本件発明1の上記効果は甲1発明との関係において当業者の予測の範囲を超えた顕著なものである。
オ 申立人の主張について
上記ウで検討した相違点1-1は本件訂正請求による訂正が認められたため生じた相違点であるところ、訂正請求があった旨の通知に対し申立人は意見書を提出しなかった(上記第1)。
また、上記エで検討した本件発明1の効果について、申立人は、本件明細書の参考例1ではD4、D5及びD6の含有量が多い成分(A-1)及び成分(A-2)を用いて成分(A)を作製している旨を指摘し、これを根拠として「D4、D5及びD6の含有量と、可塑戻りの効果との間には技術的因果関係は存在しておらず、本件特許発明1におけるD4、D5及びD6の含有量「2,000ppm以下」という範囲に臨界的意義は存在していない」(申立書13頁30~40行)と主張する。
しかし、上記エで指摘した本件明細書の実際の例(実施例1~4、参考例1及び比較例1)についての記載から、ペースト状シリコーン組成物に含まれるD4、D5及びD6の含有量と本件発明1の効果との間には技術的因果関係が存在するといえる。そして、本件発明1はペースト状シリコーン組成物に含まれるD4、D5及びD6の含有量を「ペースト状シリコーン組成物中に含まれるオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンがそれぞれ2,000ppm未満」と特定するものである。
したがって、申立人の主張は上記エにおける本件発明1の上記効果は甲1発明との関係において当業者の予測の範囲を超えた顕著なものであるとの判断を左右しない。
カ 本件発明1についてのまとめ
以上から、本件発明1は、甲1発明ではないし、当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明3~7について
本件発明3~7は、本件特許請求の範囲の請求項1を引用し、相違点1-1に係る構成を備えるものである。そして、上記(2)ウにおける検討と同様にこの構成は甲1発明との実質的な相違点であるから、本件発明3~7は甲1発明ではない。
また、上記(2)ウにおける検討と同様に、甲1発明において相違点1-1に係る構成を備えるようにすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえないし、上記(2)エにおける検討と同様に、本件発明3~7は甲1発明との関係において当業者の予測の範囲を超える顕著な効果を奏するものである。したがって、本件発明3~7は当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
(4)取消理由1及び取消理由2-1並びにこれと同旨の申立理由1についてのまとめ
以上から、本件発明1及び3~7は、甲1に記載された発明ではないし、当業者が甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、本件特許の本件発明1及び3~7についての特許は、取消理由1若しくは取消理由2-1又はこれと同旨の申立理由1により特許法第113条第2号に該当するとして取り消すことはできない。
3 取消理由2-2及びにこれと同旨の申立理由2(甲2を主引用例とする新規性・進歩性)について
(1)甲2に記載された発明
甲2(段落0077及び0078)に記載された合成実施例1に係るペースト状組成物に着目すると、甲2には
「反応容器に、下記式(5)のメチルハイドジェンポリシロキサン80.0質量部、下記式(6)のメチルハイドロジェンポリシロキサン20.0質量部、下記式(7)のメチルビニルポリシロキサン155.0質量部及び非反応性のシリコーン油としてジメチルポリシロキサン(粘度6mm2/s)85.0質量部を仕込み、付加重合触媒として塩化白金酸2質量%のジビニルテトラメチルジシロキサン溶液0.09質量部を加え、内温を70~80℃に維持して2時間撹拌し、(I)オルガノポリシロキサン重合体を含む生成物を得、次に、前記生成物100質量部と、(II)油剤としてジメチルポリシロキサン(粘度6mm2/s)275質量部を混合し、三本ロールミルにて十分混練りして得た、(I)オルガノポリシロキサン重合体/ジメチルポリシロキサン=20/80質量比で粘度が423,000mPa・sのペースト状組成物。
[図:0001437388000007.jpg]
」
の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者の構成の対応は以下のとおりとなる。
(a)甲2発明における「式(5)のメチルハイドジェンポリシロキサン」は、その構造からみて、本件発明1における一般式(1)において、R1が全て炭素数1のアルキル基であり、両末端のR2がこのR1であり、両末端以外のR2が全て水素原子であり、a=56、b=2であるといえる。そうすると、甲2発明における「式(5)のメチルハイドジェンポリシロキサン」は、本件発明1における
「(A-1)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下の下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
【化1】
[図:0001437388000008.jpg]
(前記一般式(1)中、R1は独立して、炭素数1~30のアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアラルキル基から選ばれる基であり、R2は独立して前記R1または水素原子から選ばれる基(ただし、両末端のR2がともに水素原子である場合を除く)であり、ただし、1分子中2個以上のR2は水素原子であり、3≦a≦100,000、1≦b≦50の整数である。)」
と、
「(A-1)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、」「下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
【化1】
[図:0001437388000009.jpg]
(前記一般式(1)中、R1は独立して、炭素数1~30のアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアラルキル基から選ばれる基であり、R2は独立して前記R1または水素原子から選ばれる基(ただし、両末端のR2がともに水素原子である場合を除く)であり、ただし、1分子中2個以上のR2は水素原子であり、3≦a≦100,000、1≦b≦50の整数である。)」
という限りで一致する。
(b)甲2発明における「式(7)のメチルビニルポリシロキサン」は、その構造からみて、本件発明1における「(A-2)1分子中にケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を2個以上有し、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン」と、「(A-2)1分子中にケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を2個以上有」する「アルケニル基含有オルガノポリシロキサン」という限りで一致する。
(c)甲2発明における「(I)オルガノポリシロキサン重合体を含む生成物」は、式(5)及び式(6)のメチルハイドロジェンポリシロキサン並びに式(7)のメチルビニルポリシロキサンを塩化白金酸の存在下で加熱撹拌して得たものであることから、式(6)のメチルハイドロジェンポリシロキサンの4つのヒドロシリル基が式(7)のメチルビニルポリシロキサン4分子のビニルシリル基をヒドロシリル化することで形成した架橋構造と、式(5)のメチルハイドロジェンポリシロキサンの2つのヒドロシリル基が式(7)のメチルビニルポリシロキサン2分子のビニルシリル基をヒドロシリル化することで形成した直鎖構造とを有するといえる。そうすると、前記(a)及び(b)を踏まえると、甲2発明における「(I)オルガノポリシロキサン重合体を含む生成物」は、本件発明1における「成分(A-1)と成分(A-2)」「のヒドロシリル化反応物からなる架橋型オルガノポリシロキサン」である「成分(A)」と、「成分(A-1)と成分(A-2)」「のヒドロシリル化反応物」を含む「架橋型オルガノポリシロキサン」である「成分(A)」という限りで一致する。
(d)甲2発明における「非反応性のシリコーン油としてのジメチルポリシロキサン(粘度6mm2/s)」及び「(II)油剤としてジメチルポリシロキサン(粘度6mm2/s)」は、本件明細書の段落0035及び0036の成分(B)の例示についての記載(特に段落0036の「ジメチコン(INCI)」)からみて、本件発明1における「(B):25℃で液状の油剤」に相当する。
(e)甲2発明における「ペースト状組成物」は、「(I)オルガノポリシロキサン重合体を含む生成物」を含有する点で「シリコーン組成物」であるといえる。そうすると、甲2発明における「ペースト状組成物」は、本件発明1における「ペースト状シリコーン組成物」に相当する。
イ 一致点、相違点
前記アから、本件発明1と甲2発明とは、
「ペースト状シリコーン組成物であって、下記成分(A)および成分(B)を含む、ペースト状シリコーン組成物。
(A):下記成分(A-1)と成分(A-2);
(A-1)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
【化1】
[図:0001437388000010.jpg]
(前記一般式(1)中、R1は独立して、炭素数1~30のアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアラルキル基から選ばれる基であり、R2は独立して前記R1または水素原子から選ばれる基(ただし、両末端のR2がともに水素原子である場合を除く)であり、ただし、1分子中2個以上のR2は水素原子であり、3≦a≦100,000、1≦b≦50の整数である。)
(A-2)1分子中にケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を2個以上有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、
のヒドロシリル化反応物を含む架橋型オルガノポリシロキサン、
(B):25℃で液状の油剤」
という点で一致し、
(相違点2-1)ペースト状シリコーン組成物中に含まれるオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量が、本件発明1はそれぞれ2,000ppm未満であるのに対し、甲2発明は不明である点
(相違点2-2)成分(A-1)のオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量が、本件発明1はそれぞれ2,000ppm以下であるのに対し、甲2発明は不明である点
(相違点2-3)成分(A-2)のオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量が、本件発明1はそれぞれ2,000ppm以下であるのに対し、甲2発明は不明である点
(相違点2-4)成分(A)である架橋型オルガノポリシロキサンが、本件発明1は成分(A-1)と成分(A-2)のヒドロシリル化反応物からなるものであるのに対し、甲2発明は成分(A-1)と成分(A-2)のヒドロシリル化反応物を含むものである点
で相違する。
ウ 検討
相違点2-1について、甲2にはオルガノポリシロキサン重合体と油剤とを含むペースト状組成物に係る発明が記載されており(特許請求の範囲)、この油剤の例としてD4、D5及びD6が記載されているものの(段落0027及び0028)、上記ペースト状組成物におけるD4、D5及びD6の含有量を調整することや、甲2発明である合成実施例1に係るペースト状組成物(段落0077及び0078)がD4、D5及びD6をどの程度含有するか又はしないかということについては、記載も示唆もされていない。そのほか、甲2発明におけるD4、D5及びD6の含有量がそれぞれ2,000ppm未満であるとする根拠は見当たらない。したがって、相違点2-1は実質的な相違点である。
次いで、甲2発明において相違点2-1に係る構成を備えるようにすることについて検討する。
上記2(2)エにおける検討を踏まえると、相違点2-1に係る構成は、可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭の少ない、安定したペースト状シリコーン組成物を提供することができ、近年環状シロキサンの使用や含有量を規制する国や地域においても懸念無く使用でき、このペースト状シリコーン組成物を配合することで、安定性や官能性の良い、環境に配慮した化粧料が提供可能となるという意義を有するものであるといえる。
しかし、甲2には、こうした観点から甲2発明において相違点2-1に係る構成を備えるようにする動機付けは記載も示唆もされていない。
また、そのような動機付けは、以下のとおり甲1若しくは3~9又は参1若しくは2の記載に存するとはいえないし、本件特許に係る出願時の技術常識に存するともいえない。
(a)甲1には、パーソナルケア製品に含まれる架橋型オルガノポリシロキサンが記載され(段落0001及び請求項1)、パーソナルケア製品に含まれる環状シロキサンは処方物中で容易に保持されず、むしろパッケージユニット内で分離したり、適用時には皮膚上で制御不能な様式で流動する旨(段落0002)、一般に架橋型オルガノポリシロキサンのD4及びD5の合計含有量が1,000ppm未満のO/Wゲルエマルションを提供することが有利である旨(段落0072)が記載されている。しかし、甲1には、架橋型オルガノポリシロキサンのD4、D5及びD6の含有量を低減することで、可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭の少ない、安定したペースト状シリコーン組成物を提供することができることは記載も示唆もされていない。
(b)甲3には、ゴム状又はゲル状の硬化物を与える難燃性シリコーン組成物が記載されているにとどまり(段落0001及び0006)、D4、D5及びD6については記載も示唆もされていない。
(c)甲4及び5並びに参1及び参2は環状シリコーン化合物についてのものであり、D4、D5及びD6について記載されている。しかし、甲4及び5並びに参1及び参2には、架橋型オルガノポリシロキサンのD4、D5及びD6の含有量を低減することで、可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭の少ない、安定したペースト状シリコーン組成物を提供することができることは記載も示唆もされていない。
(d)甲6~甲9は液状有機化合物についてのものであって、D4、D5及びD6については記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明において上記観点から相違点2-1に係る構成を備えるようにすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
以上から、相違点2-2~2-4について検討するまでもなく、本件発明1は甲2発明であるとはいえないし、本件発明1の構成は当業者が甲2発明に基づいて容易に想到できたものであるともいえない。
エ 効果について
上記2(2)エにおいて検討したとおり、本件発明1は、可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭の少ない、安定したペースト状シリコーン組成物を提供することができ、近年環状シロキサンの使用や含有量を規制する国や地域においても懸念無く使用でき、このペースト状シリコーン組成物を配合することで、安定性や官能性の良い、環境に配慮した化粧料が提供可能となるという効果を奏するといえる。
一方、甲2には本件発明1の上記効果については記載も示唆もされていない。
また、本件発明1の上記効果が甲1若しくは3~9、参1若しくは2の記載又は本件特許に係る出願時の技術常識から当業者が予測できたものであるともいえない。
したがって、本件発明1の上記効果は甲2発明との関係において当業者の予測の範囲を超えた顕著なものである。
オ 申立人の主張について
上記ウで検討した相違点2-1について、申立人は、「甲第2号証には、D4、D5及びD6の含有量に関する記載は存在していない。しかしながら、D4、D5及びD6は不純物であるので、本件特許発明1におけるD4、D5及びD6の含有量の範囲内であると考えられる」(申立書14頁11~14行)と主張する。
しかし、組成物における不純物の含有量は一般的に2,000ppm以下であるとか、ポリシロキサンにおける環状低分子シロキサンの含有量は一般的に2,000ppm以下であるといった本件特許に係る出願時の技術常識は見当たらないし、申立人はD4、D5及びD6が不純物であることのみを根拠としてそれら含有量が2,000ppm以下であると考えられる理由について何ら提示していない。
したがって、申立人の主張は上記ウにおける相違点2-1は実質的な相違点であるとの判断を左右しない。
また、上記エで検討した本件発明1の効果について、申立人は、「本件特許発明1におけるD4、D5及びD6の含有量に臨界的意義は存在していない」(申立書14頁25~26行)と主張する。この主張は、申立書13頁30~40行のそれと同旨と解される。
しかし、上記2(2)オで検討したとおり、ペースト状シリコーン組成物に含まれるD4、D5及びD6の含有量と本件発明1の効果との間には技術的因果関係が存在するといえる。
したがって、申立人の主張は上記エにおける本件発明1の上記効果は甲1発明との関係において当業者の予測の範囲を超えた顕著なものであるとの判断を左右しない。
カ 本件発明1についてのまとめ
以上から、本件発明1は、甲2発明ではないし、当業者が甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明3~7について
本件発明3~7は、本件特許請求の範囲の請求項1を引用し、相違点2-1に係る構成を備えるものである。そして、上記(2)ウにおける検討と同様にこの構成は甲2発明との実質的な相違点であるから、本件発明3~7は甲2発明ではない。
また、上記(2)ウにおける検討と同様に、甲2発明において相違点2-1に係る構成を備えるようにすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえないし、上記(2)エにおける検討と同様に、本件発明3~7は甲1発明との関係において当業者の予測の範囲を超える顕著な効果を奏するものである。したがって、本件発明3~7は当業者が甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
(4)取消理由2-2及びこれと同旨の申立理由2についてのまとめ
以上から、本件発明1及び3~7は、甲2に記載された発明ではないし、当業者が甲2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、本件特許の本件発明1及び3~7についての特許は、取消理由2-2又はこれと同旨の申立理由2により特許法第113条第2号に該当するとして取り消すことはできない。
4 申立理由3(甲3を主引用例とする新規性・進歩性)について
(1)甲3に記載された発明
甲3に記載された、実施例1(段落0031)と同様にして得たとされる実施例2(段落0032)に係るシリコーンゲルシートに着目すると、甲3には
「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され、25℃での粘度が1,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン(環状ジメチルシロキサン3~10量体(D3~D10)の含有量の合計350ppm)100部に、下記式(3)
【化1】
[図:0001437388000011.jpg]
で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン(環状ジメチルシロキサン3~10量体(D3~D10)の含有量の合計330ppm)1.7部(このとき、珪素原子に結合した水素原子の個数とビニル基の個数の比(以下、H/Viと略す)は0.7であった。)、白金原子として1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液0.25部、ベンゾオキサゾール0.005部を均一に混合後、150℃/30分加熱硬化して得た、針入度43で厚さ3mmの透明なシリコーンゲルシート。」
の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、両者の構成の対応は以下のとおりとなる。
(a)甲3発明における「下記式(3)」「で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン」は、その構造からみて、本件発明1における一般式(1)において、R1が全て炭素数1のアルキル基であり、両末端のR2がこのR1であり、両末端以外のR2が全て水素原子であり、a=50、b=28であるといえるし、「環状ジメチルシロキサン3~10量体(D3~D10)の含有量の合計330ppm」であることから、「オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下」であるといえる。そうすると、甲3発明における「下記式(3)」「で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン」は、本件発明1における
「(A-1)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下の下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
【化1】
[図:0001437388000012.jpg]
(前記一般式(1)中、R1は独立して、炭素数1~30のアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアラルキル基から選ばれる基であり、R2は独立して前記R1または水素原子から選ばれる基(ただし、両末端のR2がともに水素原子である場合を除く)であり、ただし、1分子中2個以上のR2は水素原子であり、3≦a≦100,000、1≦b≦50の整数である。)」
に相当する。
(b)甲3発明における「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され」た「ジメチルポリシロキサン」は、ジメチルビニルシロキシ基が炭素数2のアルケニル基を1つ有することから、「1分子中にケイ素原子に結合した炭素数2のアルケニル基を2個有」する「アルケニル基含有オルガノポリシロキサン」であるといえるし、「ジメチルポリシロキサン(環状ジメチルシロキサン3~10量体(D3~D10)の含有量の合計350ppm)」であることから、「オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下」であるといえる。そうすると、甲3発明における「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され」た「ジメチルポリシロキサン」は、本件発明1における「(A-2)1分子中にケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を2個以上有し、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン」に相当する。
(c)甲3の段落0013、0017及び0021の記載から、甲3発明における「下記式(3)」「で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン」は、そのヒドロシリル基が同「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され」た「ジメチルポリシロキサン」のアルケニル基と付加反応し、同「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され」た「ジメチルポリシロキサン」の架橋剤として作用するものであるといえる。そして、この付加反応がヒドロシリル化反応であり加熱により促進されることは本件特許に係る出願時の技術常識である。そうすると、甲3発明における「150℃/30分加熱硬化」により形成したものは、上記(a)及び(b)を踏まえると、本件発明1における「成分(A-1)と成分(A-2)」「のヒドロシリル化反応物からなる架橋型オルガノポリシロキサン」である「成分(A)」に相当する。
(d)甲3発明における白金原子として1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液の溶媒である「ジメチルポリシロキサン」は、本件明細書の段落0035及び0036の記載(特に段落0036の「ジメチコン(INCI)」)からみて、本件発明1における「(B):25℃で液状の油剤」に相当する。
(e)甲3発明における「針入度43で厚さ3mmの透明なシリコーンゲルシート」は、上記(c)及び(d)を踏まえると、複数のシリコーン化合物を含有する点でシリコーン組成物であるといえるから、本件発明1における「ペースト状シリコーン組成物」と、「シリコーン組成物」という限りで一致する。
イ 一致点、相違点
前記アから、本件発明1と甲3発明とは、
「シリコーン組成物であって、下記成分(A)および成分(B)を含む、シリコーン組成物。
(A):下記成分(A-1)と成分(A-2);
(A-1)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下の下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
【化1】
[図:0001437388000013.jpg]
(前記一般式(1)中、R1は独立して、炭素数1~30のアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアラルキル基から選ばれる基であり、R2は独立して前記R1または水素原子から選ばれる基(ただし、両末端のR2がともに水素原子である場合を除く)であり、ただし、1分子中2個以上のR2は水素原子であり、3≦a≦100,000、1≦b≦50の整数である。)
(A-2)1分子中にケイ素原子に結合した炭素数2~10のアルケニル基を2個以上有し、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、
のヒドロシリル化反応物からなる架橋型オルガノポリシロキサン、
(B):25℃で液状の油剤」
という点で一致し、
(相違点3-1)シリコーン組成物が、本件発明1はペースト状であるのに対し、甲3発明は針入度43で厚さ3mmの透明なシリコーンゲルシートである点
(相違点3-2)シリコーン組成物中に含まれるオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量が、本件発明1はそれぞれ2,000ppm未満であるのに対し、甲3発明は不明である点
で相違する。
ウ 検討
ペーストは低い流動性を有するものであるのに対しシートは流動性を有しないものである。したがって、相違点3-1は実質的な相違点である。
次いで、甲1発明において相違点3-1に係る構成を備えるようにすることについて検討する。
甲3には「本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、室温硬化や1液化が可能であり、透明性を有し、優れた硬化性と難燃性を発現するゴム状又はゲル状の硬化物を与える難燃性シリコーン組成物を提供することを目的とする」(段落0006)と記載されているところ、ゴムもゲルも流動性を有しないものであるから、甲3はペースト状のものを提供することを目的とするものではないといえる。そして、甲3にはシート状のゲル又はゴムである硬化物が記載されているにとどまり(段落0031~0035)、甲3発明をペースト状のものとするような動機付けは記載も示唆もされていない。
また、そのような動機付けは、以下のとおり甲1、2若しくは4~9又は参1若しくは2の記載に存するとはいえないし、本件特許に係る出願時の技術常識に存するともいえない。
(a)甲1には、パーソナルケア製品に含まれる架橋型オルガノポリシロキサンが記載されているにとどまり(段落0001及び請求項1)、甲3に記載されるような難燃性のゴム状又はゲル状の硬化物(段落0006)をペースト状のものとすることは記載も示唆もされていない。
(b)甲2には、化粧料に含まれる架橋型オルガノポリシロキサンが記載されているにとどまり(段落0001及び請求項1)、甲3に記載されるような難燃性のゴム状又はゲル状の硬化物(段落0006)をペースト状のものとすることは記載も示唆もされていない。
(c)甲4及び5並びに参1及び参2は環状シリコーン化合物についてのものであり、甲6~甲9は液状有機化合物についてのものであって、甲3に記載されるような難燃性のゴム状又はゲル状の硬化物(段落0006)をペースト状のものとすることは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲3発明において相違点3-1に係る構成を備えるようにすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
以上から、相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明1は甲3発明であるとはいえないし、本件発明3の構成は当業者が甲3発明に基づいて容易に想到できたものであるともいえない。
エ 効果について
上記2(2)エにおいて検討したとおり、本件発明1は、可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭の少ない、安定したペースト状シリコーン組成物を提供することができ、近年環状シロキサンの使用や含有量を規制する国や地域においても懸念無く使用でき、このペースト状シリコーン組成物を配合することで、安定性や官能性の良い、環境に配慮した化粧料が提供可能となるという効果を奏するといえる。
一方、甲3には本件発明1の上記効果については記載も示唆もされていない。
また、本件発明1の上記効果が甲1、2若しくは4~9、参1若しくは2の記載又は本件特許に係る出願時の技術常識から当業者が予測できたものであるともいえない。
したがって、本件発明1の上記効果は甲3発明との関係において当業者の予測の範囲を超えた顕著なものである。
オ 申立人の主張について
上記ウで検討した相違点3-1について、申立人は、「甲3発明における…「シリコーンゲルシート」は「ペースト状シリコーン組成物」に相当する」(申立書14頁31行~15頁3行)と主張する。
しかし、上記(2)ウで指摘したとおり、ペーストは低い流動性を有するものであるのに対しシートは流動性を有しないものであるから、甲3発明における「シリコーンゲルシート」は本件発明1における「ペースト状シリコーン組成物」に相当しない。
したがって、申立人の主張は上記ウにおける相違点3-1は実質的な相違点であるとの判断を左右しない。
カ 本件発明1についてのまとめ
以上から、本件発明1は、甲3発明ではないし、当業者が甲3発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明3~6について
本件発明3~6は、本件特許請求の範囲の請求項1を引用し、相違点3-1に係る構成を備えるものである。そして、上記(2)ウにおける検討と同様にこの構成は甲3発明との実質的な相違点であるから、本件発明3~6は甲3発明ではない。
また、上記(2)ウにおける検討と同様に、甲3発明において相違点3-1に係る構成を備えるようにすることは当業者が容易になし得たことであるとはいえないし、上記(2)エにおける検討と同様に、本件発明3~6は甲3発明との関係において当業者の予測の範囲を超える顕著な効果を奏するものである。したがって、本件発明3~6が甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)申立理由3についてのまとめ
以上から、本件発明1及び3~6は、甲3に記載された発明ではないし、当業者が甲3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、本件特許の本件発明1及び3~6についての特許は、申立理由3により特許法第113条第2号に該当するとして取り消すことはできない。
5 申立理由4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断手法
物の発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為であり(特許法2条3項1号)、物を生産する方法の発明の実施とは、その方法を使用する行為等であるから(同項3号))、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、物の発明については、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があること、物を生産する方法の発明については、その方法を使用し、かつ、その方法により生産した物を使用することができる程度の記載があることを要する。
(2)本件明細書の発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下のとおりの記載がある。
「【0002】
シリコーン油や炭化水素油、エステル油などを化粧料やパーソナルケア組成物に安定に配合する方法として、架橋構造を有するオルガノシロキサン重合物が提案されている(特許文献1、2、3)。これは既に公知の技術であり、架橋構造を有するオルガノシロキサン重合物(以下、シリコーン架橋物と記す)は、主にオルガノハイドロジェンポリシロキサンとアルケニル基含有オルガノポリシロキサンのヒドロシリル化反応により得られ、使用される油剤の一部と予め混合・ペースト化された状態で化粧料やパーソナルケア組成物に配合されている。」
「【0023】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、ペースト状シリコーン組成物に含まれるオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの量を低減することで、不快な臭気や可塑戻りを抑制することを見出し、本発明を完成させた。オクタメチルシクロテトラシロキサンは分子量296、デカメチルシクロペンタシロキサンは370、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンは444であるため、これらの量を管理することで、分子量300未満の高揮発性成分も充分に除去された状態となる。」
「【0048】
[ペースト状シリコーン組成物の製造方法]
本発明のペースト状シリコーン組成物の製造方法は、前記成分(A-1)と前記成分(A-2)をヒドロシリル化反応用触媒存在下でヒドロシリル化反応を行って、前記成分(A)を得る工程を含み、前記成分(A-1)並びに前記成分(A-2)として、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの含有量がそれぞれ2,000ppm以下のものを用いる製造方法であれば、特に限定されず、例えば、前記成分(A)を得る工程により得られる上記成分(A)と上記成分(B)を常法により混錬することによってペースト状シリコーン組成物を得ることができる。架橋物の原料となるオルガノハイドロジェンポリシロキサンやアルケニル基含有オルガノポリシロキサン中に残存するオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンの量を予め低減することで、不快な臭気や可塑戻りを抑制することができる。
【0049】
[成分(A-1)及び成分(A-2)の製造方法]
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサン(A-1)や、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(A-2)の製造方法は、特に限定されないが、一般には、ジメチルジクロルシランの加水分解、或いは更にこの加水分解物を水酸化カリウム等のアルカリ触媒存在下でクラッキングした環状及び/または非環状シロキサンオリゴマーを主成分とするシロキサン類を原料とし、酸触媒やアルカリ触媒下で平衡化反応を行うことで得られる。得られたポリシロキサンに減圧ストリッピング等の処理を施すことで、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンをそれぞれ2,000ppm以下に低減させることができる。
【0050】
[成分(A)の製造方法]
構成要素であるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(A-1)と、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(A-2)の反応は、ヒドロシリル化反応用触媒存在下でヒドロシリル化反応により行うことができる。これにより成分(A)が製造される。ヒドロシリル化反応用触媒としては、特に制限はないが、例えば、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸-ビニルシロキサン錯体等の白金化合物、又はロジウム化合物等のヒドロシリル化反応用触媒の存在下で、(A-1)のオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(A-2)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを反応させればよい。この際、反応温度は特に限定されないが、40~120℃であることが好ましい。前記ヒドロシリル化反応用触媒の添加量は周知の有効量でよく、上記(A-1)及び(A-2)の合計量に対して、白金族金属の換算量で、通常、0.1~500ppm、好ましくは0.5~200ppm、より好ましくは、1~100ppmである。また、このヒドロシリル化反応において、全アルケニル基/全ヒドロシリル基のモル比は、特に限定されないが、好ましくは、1/10~10/1であり、より好ましくは、8/10~3/1である。
【0051】
上記ヒドロシリル化反応を行なう際には、無溶剤で行なってもよいし、必要に応じて有機溶剤や揮発性のあるジメチルシリコーンを使用してもよい。かかる有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2―プロパノール、ブタノール等の脂肪族アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤等が挙げられる。中でも、化粧料用途として用いるという観点から、無溶剤、エタノール又は2-プロパノールが好ましい。揮発性のあるジメチルシリコーンとしては、動粘度5mm2/s以下のジメチルポリシロキサン等が挙げられる。これらの有機溶剤や、揮発性のあるジメチルシリコーンは、必要に応じて、反応後に、減圧加熱などで取り除くことも可能である。また、液状の油剤成分(B)の存在下に行ってもよく、他の溶剤を用いないため、使用性や製造上、この方法が最も好ましい。この場合、本発明のペースト状シリコーン組成物に配合される成分(B)の配合量のうち、0.01~100質量%の存在下で行うことが好ましく、0.1~90質量%がより好ましい。例えば、前記成分(A-1)と前記成分(A-2)をヒドロシリル化反応用触媒存在下でヒドロシリル化反応を行って、前記成分(A)を得る工程を含み、前記成分(A)を得る工程においてヒドロシリル化反応を、前記ペースト状シリコーン組成物に配合される成分(B)の配合量の0.01~100質量%の存在下で行うことができる。」
「【0052】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、各測定方法は以下に示す通りである。
【0053】
・環状シロキサン含有量:サンプル0.5gを、テトラデカンを内部標準として20質量ppm含有するアセトン10mlと混合(6時間振とう)した後、遠心分離を行い、アセトン層を採取してガスクロマトグラフィー分析に供し、各環状シロキサン成分を定量した。結果を表1に記載した。
・稠度:JIS K 2220:2013に記載の方法に準じて測定した。
・絶対粘度:JIS K 7117-1:1999に記載のB型回転粘度計(装置名:東機産業社製TVB-10M型粘度計)を用いた方法によって測定した。
・動粘度:JIS Z 8803:2011に記載のキャノン-フェンスケ粘度計を用いた方法により25℃で測定した。
・異臭:臭気を9人のパネラーによる官能評価を行い、下記判断基準において最も回答の多い結果を記載した。
(1)なし、(2)ややあり、(3)あり
・可塑戻り:性状,翌日の性状を目視および、ヘラによる手混ぜ撹拌で状態を確認し、下記の表現にて記載した。
(1)なし、(2)ややあり、(3)あり
【0054】
実施例1
反応容器に、下記表1に記載の(1)のオルガノハイドロジェンポリシロキサン40.9質量部、下記表1に記載の(6)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン10.8質量部、25℃で液状の油剤としてジメチルシロキサン(動粘度2mm2/s)51.8質量部、及びヒドロシリル化反応用触媒として、塩化白金酸1質量%のジビニルテトラメチルジシロキサン溶液0.02質量部を加え、70~80℃にて2時間反応させた。
【0055】
次に、得られた反応物の全量を、3本ロールを使用し、上記ジメチルシロキサン(動粘度2mm2/s)155質量部と充分に混練し、反応物/液状の油剤=20/80質量比で、稠度270の滑らかなペースト状シリコーン組成物を得た。異臭はなく、翌日の性状も変化なしであった。この時、ペースト状シリコーン組成物中のオクタメチルシクロテトラシロキサンとデカメチルシクロペンタシロキサンの含有量はそれぞれ100ppm未満、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンは100ppmであった。
【0056】
実施例2
反応容器に、下記表1に記載の(1)のオルガノハイドロジェンポリシロキサン40.9質量部、下記表1に記載の(7)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン10.0質量部、25℃で液状の油剤としてジメチルシロキサン(動粘度2mm2/s)50.9質量部、及びヒドロシリル化反応用触媒として、塩化白金酸1質量%のジビニルテトラメチルジシロキサン溶液0.02質量部を加え、70~80℃にて2時間反応させた。
【0057】
次に、得られた反応物の全量を、3本ロールを使用し、上記ジメチルシロキサン(動粘度2mm2/s)152.7質量部と充分に混練し、反応物/液状の油剤=20/80質量比で、稠度273の滑らかなペースト状シリコーン組成物を得た。異臭はなく、翌日の性状も変化なしであった。この時、ペースト状シリコーン組成物中のオクタメチルシクロテトラシロキサンとデカメチルシクロペンタシロキサンの含有量はそれぞれ100ppm未満、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンは180ppmであった。
【0058】
実施例3
反応容器に、下記表1に記載の(3)のオルガノハイドロジェンポリシロキサン8.0質量部、下記表1に記載の(9)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン96.5質量部、およびヒドロシリル化反応用触媒として、塩化白金酸1質量%のジビニルテトラメチルジシロキサン溶液0.03質量部を加え、70~80℃にて2時間反応させた。
【0059】
次に、得られた反応物の全量を、3本ロールを使用し、25℃で液状の油剤としてイソドデカン185.8質量部と充分に混練し、反応物/液状の油剤=36/64質量比で、稠度318の滑らかなペースト状シリコーン組成物を得た。異臭はなく、翌日の性状も変化なしであった。この時、ペースト状シリコーン組成物中のオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンとドデカメチルシクロヘキサシロキサンは、それぞれ100ppm未満であった。
【0060】
実施例4
反応容器に、下記表1に記載の(5)のオルガノハイドロジェンポリシロキサン7.2質量部、下記表1に記載の(9)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン21.5質量部、25℃で液状の油剤としてジフェニルシロキシフェニルトリメチコン(表示名称;信越化学工業(株)社製 KF-56A)114.6質量部、およびヒドロシリル化反応用触媒として、塩化白金酸1質量%のジビニルテトラメチルジシロキサン溶液0.02質量部を加え、70~80℃にて2時間反応させた。
【0061】
次に、得られた反応物の全量を、3本ロールを使用し、上記ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン143.7質量部と充分に混練し、反応物/液状の油剤=10/90質量比で、粘度78Pa・sの流動性のあるペースト状シリコーン組成物を得た。異臭はなく、翌日の性状も変化なしであった。この時、ペースト状シリコーン組成物中のオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンは、それぞれ100ppm未満であった。
【0062】
参考例1
反応容器に、下記表1に記載の(4)のオルガノハイドロジェンポリシロキサン8.6質量部、下記表1に記載の(10)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン103.1質量部、およびヒドロシリル化反応用触媒として、塩化白金酸1質量%のジビニルテトラメチルジシロキサン溶液0.03質量部を加え、70~80℃にて2時間反応させた。
【0063】
得られた反応物26.4質量部を、3本ロールを使用し、25℃で液状の油剤としてイソドデカン46.9質量部と充分に混練し、反応物/液状の油剤=36/64質量比で、稠度318のペースト状シリコーン組成物を得た。わずかに異臭はあるが、翌日の性状はなめらかなペースト状で、可塑戻りは確認されなかった。この時、ペースト状シリコーン組成物中のオクタメチルシクロテトラシロキサンは、1480ppm、デカメチルシクロペンタシロキサンは1960ppm、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンは710ppmであった。
【0064】
比較例1
反応容器に、下記表1に記載の(2)のオルガノハイドロジェンポリシロキサン45.2質量部、下記表1に記載の(8)のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン11.0質量部、25℃で液状の油剤としてジメチルシロキサン(動粘度2mm2/s)56.3質量部、及びヒドロシリル化反応用触媒として、塩化白金酸1質量%のジビニルテトラメチルジシロキサン溶液0.02質量部を加え、70~80℃にて2時間反応させた。
【0065】
得られた反応物60.0質量部を、3本ロールを使用し、上記ジメチルシロキサン(動粘度2mm2/s)89.9質量部と充分に混練し、反応物/液状の油剤=20/80質量比で、稠度307のペースト状シリコーン組成物を得た。異臭があり、翌日、硬化し可塑戻りを確認した。この時、ペースト状シリコーン組成物中のオクタメチルシクロテトラシロキサンは、170ppm、デカメチルシクロペンタシロキサンは2800ppm、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンは1900ppmであった。
【0066】
実施例1~4、参考例1及び比較例1で用いたオルガノポリシロキサンを下記表1に、実施例1~4、参考例1及び比較例1をまとめた結果を下記表2に示す。
【0067】
【表1】
[図:0001437388000014.jpg]
環状シロキサン含有量を求めるためのサンプルには(1)~(10)のオルガノポリシロキサンを用いた。
D4:オクタメチルシクロテトラシロキサン
D5:デカメチルシクロペンタシロキサン
D6:ドデカメチルシクロヘキサシロキサン
【0068】
【表2】
[図:0001437388000015.jpg]
環状シロキサン含有量を求めるためのサンプルには実施例1~4、参考例1、比較例1のペースト状シリコーン組成物を用いた。
D4:オクタメチルシクロテトラシロキサン
D5:デカメチルシクロペンタシロキサン
D6:ドデカメチルシクロヘキサシロキサン」
【0069】
表2の実施例1~4、参考例1に示す通り、本発明のペースト状シリコーン組成物であれば、可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭が少なく、安定したペースト状シリコーン組成物となった。特に実施例1~4は異臭がなかった。」
(3)検討
本件明細書の発明の詳細な説明には、ペースト状シリコーン組成物は成分(A)と成分(B)を常法により混錬することによって製造することができる旨(段落0048)が記載され、成分(A)はオルガノハイドロジェンポリシロキサン(A-1)とアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(A-2)をヒドロシリル化反応用触媒の存在下でヒドロシリル化反応を行うことによって製造することができる旨(段落0050)が記載されているとともに、このヒドロシリル化反応について、使用する触媒及びその添加量、反応温度、反応雰囲気等の諸条件が種々例示されている(段落0050及び0051)。また、ヒドロシリル基がアルケニル基に付加する反応であるヒドロシリル化反応は本件特許に係る出願時の技術常識でもある。
また、本件明細書の発明の詳細な説明には、成分(A)の原料であるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(A-1)及びアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(A-2)は、シロキサン類を原料として酸触媒やアルカリ触媒下で平衡化反応を行うことで製造することができる旨(段落0049)が記載されている。また、ヒドロシリル基あるいはアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンの合成は本件特許に係る出願時の技術常識でもある。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、成分(A)の原料であるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(A-1)及びアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(A-2)に減圧ストリッピング等の処理を施すことでD4、D5及びD6をそれぞれ2,000ppm以下に低減させることができる旨(段落0049)が記載され、そのようなオルガノハイドロジェンポリシロキサン(A-1)及びアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(A-2)を用いることで本件発明に係るペースト状シリコーン組成物を製造することができる旨(段落0048)が記載されている。そして、D4、D5及びD6が高い揮発性を有することは本件特許に係る出願時の技術常識であるから(参1の203~204及び208頁)、当業者であれば本件明細書の発明の詳細な説明に記載された減圧ストリッピング等の処理によりポリシロキサンからD4、D5及びD6を容易に除去することができるといえる。
さらに、本件明細書の発明の詳細な説明には、D4、D5及びD6をそれぞれ2,000ppm以下に低減させたオルガノハイドロジェンポリシロキサン(A-1)及びアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(A-2)を用いて、実際に本件発明に係るD4、D5及びD6がそれぞれ2,000ppm未満のペースト状シリコーン組成物を製造したこと及びその具体的な製造工程が記載されている(段落0052~0069)。
そうすると、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許に係る出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1及び3~7に係るペースト状シリコーン組成物又はそれを含む化粧料を生産することができるといえる。
したがって、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許に係る出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1及び3~7の実施をすることができるといえる。
(4)申立人の主張について
申立人は、「いかなる架橋型オルガノポリシロキサンを用いれば、可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭が少なく、安定したペースト状シリコーン組成物を得ることができるのか、また、いかなる架橋型オルガノポリシロキサンを含有するペースト状シリコーン組成物を配合すれば、安定性や官能性の良い化粧料が得られるのかを検討するためには、当業者に過去の実験等を要するものといえる。 同様にして、いかなる液状の油剤を用いれば、可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭が少なく、安定したペースト状シリコーン組成物を得ることができるのか、また、いかなる液状の油剤を含有するペースト状シリコーン組成物を配合すれば、安定性や官能性の良い化粧料が得られるのかを検討するためには、当業者に過度の実験等を要するものといえる」(申立書17頁23~33行)と主張する。
しかし、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとアルケニル基含有オルガノポリシロキサンのヒドロシリル化反応物を使用してシリコーン油や炭化水素油、エステル油などを化粧料やパーソナルケア組成物に安定に配合することは本件特許に係る出願時の技術常識であるから(本件明細書の段落0002)、いかなる架橋型オルガノポリシロキサンや油剤によりペースト状シリコーン組成物やそれを含む化粧料を生産することができるのかは当業者に明らかであるといえる。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明の作用機序についての記載(段落0023)及び実施例、参考例及び比較例についての記載(段落0052~0069)に接した当業者であれば、ペースト状シリコーン組成物をD4、D5及びD6の含有量を低減したものとすることで、異臭の少ない、安定したペースト状シリコーン組成物やそれを含む化粧料となることが理解できるといえる。
そうすると、上記(3)で検討したとおり、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び本件特許に係る出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1及び3~7の実施をすることができるといえる。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(5)申立理由4(実施可能要件)についてのまとめ
以上から、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1及び3~7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
そのため、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1及び3~7について特許法第36条第4項第1号に適合する。
したがって、本件特許の本件発明1及び3~7についての特許は、申立理由4により同法第113条第4号に該当するとして取り消すことはできない。
6 申立理由5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)発明の課題
本件明細書の発明の詳細な説明の段落0006、0015及び0019から、本件発明の課題は、「可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭が少なく、安定したペースト状シリコーン組成物、そのようなペースト状シリコーン組成物の製造方法又はそのようなペースト状シリコーン組成物を含む化粧料を提供する」ことであると認められる。
(3)本件明細書の発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、上記5(2)で指摘したとおりの記載がある。
(4)検討
当業者であれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、ペースト状シリコーン組成物に含まれるD4、D5及びD6の量を低減することが不快な臭気や可塑戻りを抑制することにつながるという発明の課題を解決するための作用機序を理解し(段落0023)、ペースト状シリコーン組成物に含まれるD4、D5及びD6が少ない実施例1~4に係るペースト状シリコーン組成物は、これらがやや多い参考例1に係るペースト状シリコーン組成物やこれらが非常に多い比較例1に係るペースト状シリコーン組成物よりも臭気及び可塑戻りが抑制されたものであることを認識する(段落0054~0069)といえる。
そうすると、当業者であれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、ペースト状シリコーン組成物に含まれるD4、D5及びD6の量が少ないことが上記(2)で認定した発明の課題の解決手段であると認識するといえる。
したがって、本件特許請求の範囲の請求項1に記載された「ペースト状シリコーン組成物中に含まれるオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンがそれぞれ2,000ppm未満」という構成によりペースト状シリコーン組成物に含まれるD4、D5及びD6の量が少ない旨が特定されている本件発明1及び3~7は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が上記(2)で認定した発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(5)申立人の主張について
申立人は、「本件特許発明における解決しようとする課題は、「可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭が少なく、安定したペースト状シリコーン組成物を提供すること」である(段落[0006])。また、本件特許発明の「ペースト状シリコーン組成物を配合することで、安定性や官能性の良い、環境に配慮した化粧料が提供可能となる」ことが記載されている(段落[0021])」(申立書16頁26~31行)とした上で、「一般式(1)及び(2)のR1の炭素数の多いアルキル基である場合やアリール基及びアラルキル基である場合のときまで、上記課題が解決できるものとは認められない。 同様にして、いかなる種類、構造、性状等の液状の油剤を用いても、上記課題が解決できるものとも認められない」(申立書17頁37行~18頁1行)と主張する。
しかし、発明の課題は、上記(2)で認定したとおり「可塑戻りなどの経時変化が少なく、異臭が少なく、安定したペースト状シリコーン組成物、そのようなペースト状シリコーン組成物の製造方法又はそのようなペースト状シリコーン組成物を含む化粧料を提供する」ことである。そして、上記(4)で検討したとおり、当業者であれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、ペースト状シリコーン組成物に含まれるD4、D5及びD6の量が少ないことが上記課題の解決手段であると認識するといえる。一方、成分(A-1)や成分(A-2)が特定のオルガノポリシロキサンであることが上記課題の解決手段であるとか、成分(B)が特定の油剤であることが上記課題の解決手段であるとする的確な根拠は見当たらない。
そうすると、上記(4)で検討したとおり、ペースト状シリコーン組成物に含まれるD4、D5及びD6の量が少ない旨が特定されている本件発明1及び3~7は、当業者が上記(2)で認定した発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(6)申立理由5(サポート要件)についてのまとめ
以上から、本件発明1及び3~7は、発明の詳細な説明に記載したものである。
そのため、本件特許請求の範囲の請求項1及び3~7の記載は特許法第36条第6項第1号に適合する。
したがって、本件特許の本件発明1及び3~7についての特許は、申立理由5により同法第113条第4号に該当するとして取り消すことはできない。
7 申立理由6(明確性)について
(1)検討
本件特許請求の範囲の請求項1には、「ペースト状シリコーン組成物」が含む「成分A」について、「成分(A-1)と成分(A-2)…のヒドロシリル化反応物からなる架橋型オルガノポリシロキサン」と記載され、「成分(A-1)」について「(A-1)…下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン」と記載され、「成分(A-2)」について「(A-2)…アルケニル基含有オルガノポリシロキサン」と記載されている。
ここで、ヒドロシリル化反応とはヒドロシリル基がアルケニル基に付加する反応をいうことは本件特許に係る出願時の技術常識である。
そのため、上記「成分A」である「成分(A-1)と成分(A-2)…のヒドロシリル化反応物からなる架橋型オルガノポリシロキサン」が、「(A-1)…下記一般式(1)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン」のヒドロシリル基が「(A-2)…アルケニル基含有オルガノポリシロキサン」のアルケニル基に付加反応した結果生じた結合構造を有し、この結合構造を結節点として「成分(A-1)」と「成分(A-2)」とが架橋構造を形成しているオルガノポリシロキサンを意味することは、当業者に明らかである。
そうすると、本件特許請求の範囲の請求項1の上記記載は、「架橋型オルガノポリシロキサン」の、ヒドロシリル化反応の結果生じた結合構造及びこの結合構造を結節点とする架橋構造を特定するもの、すなわち「架橋型オルガノポリシロキサン」という物の構造を特定するものとして明確である。
したがって、本件発明1及び本件特許請求の範囲の請求項1を引用する本件発明3、4及び7は明確であるといえる。
(2)申立人の主張について
申立人は、「本件特許発明1-4及び7は物の発明であるところ、請求項1には「(A-1)…オルガノハイドロジェンポリシロキサン、(A-2)…アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、のヒドロシリル化反応物からなる架橋型オルガノポリシロキサン」と、物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている。そして、本件特許発明1-4及び7には、いわゆる不可能・非実際的事情も認められない。 よって、本件特許発明1-4及び7は、物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合に相当し、明確でない」(申立書18頁7~14行)と主張する。
しかし、上記(1)で検討したとおり、申立人が指摘する本件特許請求の範囲の請求項1の記載は、「架橋型オルガノポリシロキサン」の、ヒドロシリル化反応の結果生じた結合構造及びこの結合構造を結節点とする架橋構造を特定するもの、すなわち「架橋型オルガノポリシロキサン」という物の構造を特定するものとして明確である。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(3)申立理由6(明確性)についてのまとめ
以上から、本件発明1、3、4及び7は、明確である。
そのため、本件特許請求の範囲の請求項1、3、4及び7の記載は特許法第36条第6項第2号に適合する。
したがって、本件特許の本件発明1、3、4及び7についての特許は、申立理由6により同法第113条第4号に該当するとして取り消すことはできない。
第7 むすび
上記第6の1のとおり、本件特許の請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、対象が存在しない不適法な申立てであって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきである。
また、上記第6の2~7のとおり、本件特許の請求項1及び3~7に係る特許は、取消理由に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によって取り消すことはできない。
そして、他に本件特許の請求項1及び3~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700738