特許異議申立
2025-700949
樹脂組成物およびパワーモジュール
- 審判番号
- 2025-700949
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-212247
- 登録番号
- 7654973
- 請求日
- 2025年10月02日
- 審決日
- 2026年05月29日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友ベークライト株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】藤室 孝之
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 松本 直子
- 審判官 越本 秀幸
- 分類
- P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7654973号発明「樹脂組成物およびパワーモジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7654973号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7654973号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7654973号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和2年12月22日に出願された特願2020-212247号であって、令和7年3月25日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年4月2日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許の請求項1~5に係る特許に対して、令和7年10月2日に藤室 孝之(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後の手続は以下のとおりである。
令和7年12月25日付け 取消理由通知
令和8年 3月 9日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 同月23日付け 訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
同年 4月23日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)訂正請求の趣旨
令和8年3月9日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、「特許第7654973号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める。」ことを請求の趣旨とするものであって、その訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。
(2)訂正事項
ア 訂正事項1
訂正前の請求項1に
「ビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」と記載されているのを
「3官能以上のビフェニル骨格多官能エポキシ樹脂」に訂正する。
イ 訂正事項2
訂正前の請求項1に
「当該樹脂組成物のガラス転移温度」と記載されているのを
「当該樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度」に訂正する。
ウ 訂正事項3
訂正前の請求項1に
「前記パワー半導体素子と、前記接合層と、前記回路基板と、前記放熱シートとを封止するために用いられる樹脂組成物であって」と記載されているのを
「前記パワー半導体素子と、前記接合層と、前記金属回路基板と、前記放熱シートとを封止するために用いられる樹脂組成物であって」に訂正する。
エ 訂正事項4
訂正前の請求項5
「前記パワー半導体素子と、前記接合層と、前記回路基板と、前記放熱シートとを被覆する封止材と、を備え」と記載されているのを
「前記パワー半導体素子と、前記接合層と、前記金属回路基板と、前記放熱シートとを被覆する封止材と、を備え」に訂正する。
オ 訂正事項5
訂正前の明細書の【0051】に
「【0051】
[エポキシ樹脂(A)]
本実施形態の樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂(A)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂(OCN)、ハイドロキノン型エポキシ樹脂等の結晶性エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;フェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格含有ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、アルコキシナフタレン骨格含有フェノールアラルキルエポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、2官能ないし4官能エポキシ型ナフタレン樹脂、ビナフチル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂等のナフタレン型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂(MF)、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の3官能型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール型エポキシ樹脂等の変性フェノール型エポキシ樹脂;トリアジン核含有エポキシ樹脂等の複素環含有エポキシ樹脂等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、半導体チップが高温になっても信頼性を損なわないため、高Tgを発現するクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(OCN)やトリフェノールメタン型エポキシ樹脂(MF)、ビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂(多価MAR)、ビナフタレン型エポキシ樹脂(ナフタレンレジン)を使用することが好ましい。」と記載されているのを
「【0051】
[エポキシ樹脂(A)]
本実施形態の樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂(A)としては、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂(多価MAR)、またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂が挙げられる。」に訂正する。
なお、訂正前の請求項1~5について、請求項2~5は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。よって、訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項〔1~5〕は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂に関し「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」であるものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正前の請求項1の「ビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」の「多官能」について、一般的に「多」は、複数(2以上)のことを意味するところ、本件特許の明細書【0051】には、ビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂とは別に2官能であるビフェニル型エポキシ樹脂が記載されており、「多官能」が、2官能である「ビフェニル型エポキシ樹脂」を含むかどうかという点が明確でなかったのを、2官能の「ビフェニル型エポキシ樹脂」が含まれないことを明確化するために、「多官能」の範囲内で「3官能以上」に特定したものであり、新規事項の追加に該当するものではなく、本件特許の明細書に記載された事項の範囲内の訂正である。また、「ビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」を限定するものであるから、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるとともに、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2に関し、本件特許の明細書には「樹脂組成物のガラス転移温度」との記載はなく、【0048】、【0049】、【0084】及び本件特許の請求項1には「樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度」との記載がある。また、「樹脂組成物のガラス転移温度」と「樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度」とは同一ではないことから、いずれが適切であるか不明確であったところ、訂正前の「樹脂組成物のガラス転移温度」を「樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度」とする訂正は、これを明確化するためのものである。
したがって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、上記アに記載したとおり、明瞭でない記載の釈明であって実質的な内容の変更を伴うものではないから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるとともに、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3に関し、本件特許の請求項1に「前記回路基板」という記載があるが、それより前に「回路基板」という記載はなく、「金属回路基板」又は「前記金属回路基板」という記載のみであるから、訂正前の「前記回路基板」は「前記金属回路基板」の誤記であることが明らかである。
したがって、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項3は、上記アに記載したとおり、誤記の訂正であって実質的な内容の変更を伴うものではないから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるとともに、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4に関し、本件特許の請求項5に「前記回路基板」という記載があるが、それより前に「回路基板」という記載はなく、「金属回路基板」又は「前記金属回路基板」という記載のみであるから、訂正前の「前記回路基板」は「前記金属回路基板」の誤記であることが明らかである。
したがって、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項4は、上記アに記載したとおり、誤記の訂正であって実質的な内容の変更を伴うものではないから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるとともに、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、本件特許の明細書【0051】の「エポキシ樹脂」を、「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂(多価MAR)、またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」に限定する訂正であり、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項5は、本件明細書【0051】に例示されたエポキシ樹脂の中から「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂(多価MAR)、またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」に限定するものであり、また特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項5は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるとともに、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
ウ 明細書の訂正と関係する請求項についての説明
請求項1~5は一群の請求項であるから、請求項1~5は訂正事項5による明細書の訂正に係る請求項である。
したがって、訂正事項5は、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行うものである。
なお、訂正前の請求項1~5の全てについて特許異議の申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
3 申立人の主張について
申立人は令和8年4月23日提出の意見書において、次のとおり訂正事項1、5は新規事項を追加するものである旨を主張するが、いずれも採用できない。
ア 「ビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」の「多官能」は、官能基数が2以上であることを意味するところ、当該多官能が3以上と解釈できる明確な根拠が本件特許の明細書に存在せず、【0051】及び【0082】も「3以上」と解釈される根拠とはならない旨を主張する(意見書第4頁(3)ア~第6頁第3行)。
しかし、上記2(1)イで説示したとおり、当該訂正は多官能の範囲内で「3官能以上」に特定したものであって、新規事項を追加するものではない。
イ 本件特許の明細書【0082】には「エポキシ樹脂1:国際公開第2013/136685号の式(13A)で表されるビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂(明和化成株式会社製)」と記載されているが、明細書中で引用されているだけの文献に記載された事項に基づく訂正は許されるべきではなく、仮に、当該国際公報の記載が考慮されうるとしても、式(13A)で示される化合物が3官能以上であると理解することはできない旨を主張する(意見書第6頁第5行~第8頁第5行)。
しかし、ビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂を3官能以上とする訂正は、上記2(1)イで説示したとおり、本件特許の明細書【0082】の記載内容にかかわらず、当該明細書に記載された事項の範囲内でされたものである。
4 訂正の適否についての判断のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号、第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められたため、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」等といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
また、本件訂正後の明細書を「本件明細書」という。
「【請求項1】
金属回路基板と、
前記金属回路基板の一方の面に設けられたパワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子と前記金属回路基板とを接合するシンタリングペーストからなる接合層と、
前記金属回路基板の、前記パワー半導体素子が設けられた面とは反対の面に積層された放熱シートと、を備えるパワーモジュールにおいて、
前記パワー半導体素子と、前記接合層と、前記金属回路基板と、前記放熱シートとを封止するために用いられる樹脂組成物であって、
当該樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、無機充填剤とを含み、
前記エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり、
前記無機充填剤は、当該樹脂組成物の全固形分に対して、82質量%以上90質量%以下であり、
当該樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が、170℃以上300℃以下であり、
前記樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度未満における平均線膨張係数α1が、5ppm/K以上15ppm/K以下であり、ガラス転移温度以上における平均線膨張係数α2が、25ppm/K以上65ppm/K以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機充填剤が、シリカ粉末を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
フェノール系硬化剤をさらに含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
硬化促進剤をさらに含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
金属回路基板と、
前記金属回路基板の一方の面に設けられたパワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子と前記金属回路基板とを接合するシンタリングペーストからなる接合層と、
前記金属回路基板の、前記パワー半導体素子が設けられた面とは反対の面に積層された放熱シートと、を備えるパワーモジュールにおいて、
前記パワー半導体素子と、前記接合層と、前記金属回路基板と、前記放熱シートとを被覆する封止材と、を備え、
前記封止材が、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物からなる、
パワーモジュール。」
第4 特許異議申立書に記載した申立理由と当審において通知した取消理由
1 申立理由の概要
申立人が提出した特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立理由の概要は以下のとおりである。
(1)申立理由1(甲1~4に基づく進歩性)
請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1~4号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1~4係る発明についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由1(甲5に基づく進歩性)
請求項5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項5係る発明についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由2(サポート要件)
請求項1~5に係る発明についての特許は、以下の点で特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
請求項1には「樹脂組成物のガラス転移温度」の特定事項が記載されているが、本件特許の明細書には、樹脂組成物のガラス転移温度ではなく樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度について記載されているから、請求項1~5に関し、サポート要件についての不備がある。
(4)申立理由3(実施可能要件)
請求項1~5に係る発明についての特許は、以下の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
上記(3)と同様の理由により、実施可能要件についての不備がある。
2 取消理由の概要
当審において令和7年12月25日付けで通知した取消理由通知書の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(明確性)
請求項1~5に係る発明についての特許は、以下の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
請求項1における「ビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」の「多官能」について、2官能のビフェニル型エポキシ樹脂を含むか否か一義的に定まるものではないから、不明確である。
また、請求項1における「前記エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、ビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」について、樹脂組成物は「90~300のエポキシ当量を有する、ビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」以外のエポキシ樹脂を含むか否か一義的に定めることができないから、不明確である。
(2)取消理由2(サポート要件)
請求項1~5に係る発明についての特許は、以下の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
請求項1は「樹脂組成物のガラス転移温度」と特定されているが、本件特許の明細書におけるガラス転移温度は「樹脂組成物の硬化物」のものしか記載されておらず、技術常識を考慮しても、樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度と樹脂組成物のガラス転移温度とが同一のものであるとはいえないから、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(3)取消理由3(甲第5号証に基づく進歩性)
請求項1~5に係る発明は、甲第5号証に記載された発明に基いて本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの請求項に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 証拠方法
(1)申立人が申立書に添付した証拠方法
甲第1号証:国際公開2020/241594号
甲第2号証:特開2003-26769号公報
甲第3号証:特開2010-77303号公報
甲第4号証:特開2002-167416号公報
甲第5号証:特開2008-218907号公報
(以下「甲第1号証」等を、番号に従って「甲1」等という。)
(2)当審において職権により引用する証拠方法
引用文献1:特開2010-10173号公報
引用文献2:特開2020-4893号公報
(以下「引用文献1」等を、番号に従って「引1」等という。
(3)申立人が令和8年4月23日提出の意見書に添付した証拠方法
参考資料:国際公開第2013/136685号公報
(以下「参1」という。)
第5 当審の判断
当審合議体は、取消理由1~3及び申立理由1~3によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
その理由は、以下のとおりである。
1 取消理由1について
令和8年3月9日提出の訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲により、特許権者が同日提出の意見書で「請求項1に記載の「当該樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、無機充填剤とを含み、前記エポキシ樹脂は・・・からなり」の記載は、「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」以外のエポキシ樹脂を含まないことが一義的に定まるものとなった」と主張しているとおり、樹脂組成物は「90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」以外のエポキシ樹脂を含まないことが明らかになった。
そして、その他に本件発明に不明確な事項はない。
よって、取消理由1は解消された。
2 取消理由2及び申立理由2について
取消理由2及び申立理由2はサポート要件についてのものであるので、併せて検討する。
上記第2の2(2)で説示したとおり、令和8年3月9日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲により、本件発明は「樹脂組成物のガラス転移温度」を「樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度」と明確化する訂正がされたので、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。
そして、その他に本件発明にサポート要件違反とする事項はない。
よって、取消理由2及び申立理由2は解消された。
また、サポート要件について、申立人は令和8年4月23日提出の意見書で、新たに「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」が使用されている実施例は実施例1の1つのみであり、官能基数や骨格の構造が変化すれば物性、効果が変わるとともに、無機充填材についても種類が変われば物性、効果が変わるので、本件明細書に記載された実施例を、本件発明1の範囲まで拡張又は一般化することはできない旨を主張している。
しかし、当該主張は、エポキシ樹脂の官能基数等についての一般論を述べるだけであって、具体的な証拠等を示して本件発明の課題が解決できないことを主張するものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
3 取消理由3及び申立理由1(甲5に基づく進歩性)について
申立理由1(甲5に基づく進歩性)は、甲5を主引例とする進歩性についてのものであるので、取消理由3と併せて検討する。
(1)甲5に記載された発明
甲5の【0033】にモールド樹脂として「熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を用いてもよい」ことが記載されているところ、エポキシ樹脂を用いた場合は硬化することが明らかであるから、モールド樹脂として、エポキシ樹脂の硬化物が記載されているに等しいといえる。
そして、甲5の実施形態9(【0031】~【0033】)及び図14に着目すると、甲5には次の発明が記載されていると認める。
「電極3と、
電極3の一方の面に設けられたパワー半導体素子52と、
パワー半導体素子52と電極3とを接合するはんだ51と、
電極3の、パワー半導体素子52が設けられた面とは反対の面に積層された熱伝導シート2とを、備える、
パワーモジュール50において、
パワー半導体素子52と、はんだ51と、電極3と、熱伝導シート2とを封止するモールド樹脂55を備え、
モールド樹脂55は、エポキシ樹脂の硬化物からなる、
パワーモジュール50。」(以下「甲5モジュール発明」という。)
また、甲5の【0033】のモールド樹脂に着目すると、甲5には次の発明が記載されていると認める。
「甲5モジュール発明において、パワー半導体素子と、はんだと、電極と、熱伝導シートとを封止するエポキシ樹脂の硬化物からなるモールド樹脂」(以下「甲5樹脂発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲5樹脂発明とを対比する。
(ア)本件発明1の「金属回路基板」は、本件明細書【0018】に「Cu回路3は、導電性を有する金属材料で構成された金属回路基板」と記載されており、金属材料で構成されたものであるので、甲5樹脂発明の「電極」は、本件発明1の「金属回路基板」に相当する。
(イ)甲5樹脂発明の「熱伝導シート」は、甲5の【0013】に「熱伝導シート2は、主に樹脂組成物と無機フィラーで構成されている。樹脂組成物としては、例えばエポキシ樹脂・・・等の熱硬化性樹脂が用いられる」との記載から、熱硬化性樹脂と無機フィラーで構成されるものであり、本件明細書の【0024】に「放熱シート4は、例えば樹脂シートであって、シート用樹脂組成物を用いて形成されている・・・シート用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)、充填剤(B)、および硬化剤(C)などを含むことが好ましい」と記載されていることから、甲5樹脂発明の「熱伝導シート」は、本件発明1の「放熱シート」に相当する。
(ウ)甲5樹脂発明の「モールド樹脂」は、樹脂であって、様々な成分(組成)を含むものであるので、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。
(エ)甲5樹脂発明の「はんだ」は、電極とパワー半導体素子とを接合するものであるから、本件発明1の「シンタリングペーストからなる接合層」と、「接合層」という限りで一致する。
したがって、両者は
「金属回路基板と、
前記金属回路基板の一方の面に設けられたパワー半導体素子と、
前記パワー半導体素子と前記金属回路基板とを接合する接合層と、
前記金属回路基板の、前記パワー半導体素子が設けられた面とは反対の面に積層された放熱シートと、を備えるパワーモジュールにおいて、
前記パワー半導体素子と、前記接合層と、前記金属回路基板と、前記放熱シートとを封止するために用いられる樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
接合層について、本件発明1では「シンタリングペーストからなる」ものであるのに対して、甲5樹脂発明では、「はんだ」である点
<相違点2>
樹脂組成物について、本件発明1では「エポキシ樹脂と、無機充填剤とを含み、
前記エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり、
前記無機充填剤は、当該樹脂組成物の全固形分に対して、82質量%以上90質量%以下であり、
当該樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が、170℃以上300℃以下であり、
前記樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度未満における平均線膨張係数α1が、5ppm/K以上15ppm/K以下であり、ガラス転移温度以上における平均線膨張係数α2が、25ppm/K以上65ppm/K以下である」ことを特定するものであるのに対して、甲5樹脂発明では、エポキシ樹脂の硬化物からなるものである点。
イ 相違点についての判断
事案に鑑み相違点2について検討する。
(ア)甲1には、実施例3([0050]~[0068]、[表1])に着目すると、(A)エポキシ樹脂としてYX-4000(ビフェニル型エポキシ樹脂(商品名、三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量185、軟化点105℃))を4.43質量部及びN-655EXP-S(o-クレゾールノボラックエポキシ樹脂(商品名、DIC(株)製、エポキシ当量200、軟化点55℃))を3.35質量部、(B)硬化剤としてSH-041-01(アリル基含有トリフェニルメタン型フェノール樹脂(商品名、明和化成(株)製、水酸基当量139、軟化点90℃))を5.72質量部、(C)硬化促進剤として2P-4MHZ(イミダゾール化合物(商品名、四国化成工業(株)製))を0.40質量部、(D)無機充填材としてFB-910GSQ(球状溶融シリカ(商品名、(株)アドマテックス製、平均粒子径5μm、最大粒子径20μm))を85.0質量部、離型剤としてカルナバワックス(商品名、東洋アドレ(株)製)を0.25質量部、着色剤としてMA-100RMJ(商品名、三菱化学(株)製)を0.30質量部、難燃剤としてFP-100(商品名、(株)伏見製薬所製)を0.30質量部、イオントラップ剤としてDHT-4C(商品名、協和化学工業(株)製)を0.25質量部の各成分を常温(23℃)でミキサーを用いて混合し、熱ロールを用いて90~115℃で加熱混練し、冷却後、粉砕して調製した封止用樹脂組成物であって、樹脂組成物全量に対する(D)無機充填材の含有量が85.0質量%、ガラス転移温度(Tg)が172℃、40~90℃での熱膨張係数(α1)が12ppm/℃、200~230℃での熱膨張係数(α2)が50ppm/℃である封止用樹脂組成物が記載されている(この封止用樹脂組成物を、以下「甲1実施例3組成物」という。)。
しかし、甲1実施例3組成物は「エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」の特定事項を備えていない。
そして、甲1の[0015]には、エポキシ樹脂は「1分子中に2個以上のエポキシ樹脂を有するものであればよく」及び「エポキシ樹脂は1種を使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい」と記載されているが、[0017]に記載された具体的な商品名をみても、「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」または「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」が具体的に記載されていないので、甲1実施例3組成物から「エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」の特定事項を導くことはできない。
(イ)甲2には、実施例5(【0036】~【0040】、【表1】、【表2】)に着目すると、エポキシ当量167の多官能型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2:日本化薬株式会社製商品名EPPN-502H)(商品名から本件発明1の「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」に相当)を65.0重量部、エポキシ当量192のビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂3:新日鐵化学株式会社製商品名YSLV-80XY)を20.0重量部、エポキシ当量375、臭素含量48重量%のビスフェノールA型ブロム化エポキシ樹脂(住友化学工業株式会社製商品名ESB-400T)を15.0重量部、硬化剤として水酸基当量104のフェノール樹脂(明和化成株式会社製商品名MEH-7500)を5.4重量部、エポキシ基を有するシリコーン化合物としてエポキシ当量2900、25℃における動粘度3200mm2/sの上記一般式(IX)で示されるポリエーテル変性エポキシシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製商品名BY16-876)を75.0重量部、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を1.0重量部、無機充填剤として平均粒子径17.5μm、比表面積3.8m2/gの球状溶融シリカを977重量部(無機充填剤量は82重量%)、三酸化アンチモンを15.0重量部、エポキシ当量375、エポキシシランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を7.5重量部、カルナバワックス(クラリアント社製)を1.5重量部、ポリエチレンワックス(クラリアント社製商品名PED191)を0.35重量部及びカーボンブラック(三菱化学株式会社製商品名MA-100)を3.0重量部を配合し、各配合成分を予備混合(ドライブレンド)した後、二軸ロール(ロール表面温度約80℃)10分間混練を行って、冷却粉砕して、作製した封止用エポキシ樹脂成形材料であって、当該封止用エポキシ樹脂成形材料に対して無機充填剤量が82重量%、ガラス転移温度(Tg)が203℃、Tg未満の傾きから求めた線膨張係数(α1)が10.4ppm/℃、Tg以上の傾きから求めた線膨張係数(α2)が38.2ppm/℃である封止用エポキシ樹脂成形材料が記載されている(この封止用エポキシ樹脂成形材料を、以下「甲2実施例5成形材料」という。)。(当審注:一般式(IX)は省略。以下同じ。)
しかし、甲2実施例5成形材料は、エポキシ樹脂として「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」を含んでいるが、当該トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を含んでいるため、「エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」の特定事項を備えていない。
そして、甲2には、Tg、α1、α2について、実施例に値が記載されているに留まり、当該Tg、α1、α2を特定の範囲に調整すること、及びエポキシ樹脂の種類を選択することにより当該調整を行うことについての記載がなく、また、エポキシ樹脂の組成に応じて、線膨張係数やガラス転移温度等の物性が影響を受けることは、本件特許の出願前からの技術常識であることを踏まえると、甲2実施例5成形材料には、エポキシ樹脂を「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」のみ、すなわち「エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」という特定事項を導く動機付けはない。また、甲2の他の実施例を検討しても同様である。
(ウ)甲3には、実施例1(【0081】、【0087】、【0089】~【0101】、【表1】)に着目すると、エポキシ樹脂1(ジャパンエポキシレジン(株)製、YL-6677。一般式(1)で表される化合物においてa=0である化合物を主成分とするエポキシ樹脂(融点110℃)25質量%と、一般式(4)で表される化合物においてd=0である化合物を主成分とするエポキシ樹脂(【0081】の【化4】から本件発明1の「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」に相当)75質量%と、の混合物。融点50℃、エポキシ当量163。)を9.25質量部、フェノール樹脂1(明和化成(株)製、MEH7500。一般式(7)で表される化合物においてh=0である化合物を主成分とするフェノール樹脂。軟化点110℃、水酸基当量97。)(「フェノール系硬化剤」に相当)を5.50質量部、球状無機充填材1(球状溶融シリカ(マイクロン(株)製、S30-71。平均粒子径25μm。)を64質量部、鱗片状無機充填材1(ガラスフレーク1(日本板硝子(株)製、REF-015A。組成:硼珪酸ガラス。平均粒径15μm、平均厚み5μm、アスペクト比3。アミノシラン処理品。)を20質量部、硬化促進剤2(式(11)で表される化合物)を0.45質量部、 カップリング剤1(3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン)を0.3質量部、着色剤1(カーボンブラック)を0.3質量部及び離型剤1(カルナバワックス)を0.2質量部の各成分を常温においてミキサーで混合し、70~120℃で加熱ロールにより混練し、冷却後粉砕して得たエポキシ樹脂組成物であって、全エポキシ樹脂組成物中の無機充填材(球状無機充填材1と鱗片状無機充填材1とを合わせたもの)の含有量が84質量%(64質量%+20質量%)、ガラス転移温度Tgが190℃、線膨張係数α1(Tgより低い温度域における線膨張係数)が14ppm/℃、線膨張係数α2(Tgより高い温度域における線膨張係数)が39ppm/℃であるエポキシ樹脂組成物が記載されている(このエポキシ樹脂組成物を、以下「甲3実施例1組成物」という。)。(当審注:一般式(1)、一般式(4)、一般式(7)及び式(11)は省略。以下同じ)
しかし、甲3実施例1組成物は、エポキシ樹脂として「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」を含んでいるが、当該トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を含んでいるため、「エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」の特定事項を備えていない。
そして、甲3の請求項1、【0035】、【0041】の記載からみて、甲3は、成形時の流動性を発現させるための「結晶性エポキシ樹脂(A)」(甲3実施例1組成物の「一般式(1)で表される化合物においてa=0である化合物を主成分とするエポキシ樹脂」に相当)と反りの改善の手段としての「多官能エポキシ樹脂(B)」(甲3実施例1組成物の「一般式(4)で表される化合物においてd=0である化合物を主成分とするエポキシ樹脂」に相当するとともに、本件発明1の「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」に相当するもの)の両方を含むことが必須であるので、甲3実施例1組成物において、結晶性エポキシ樹脂(A)を除いて、多官能エポキシ樹脂(B)のみとする動機付けはない。また、甲3の他の実施例を検討しても同様である。
(エ)甲4には、実施例1(【0028】、【0034】、【0035】、【表1】)に着目すると、数平均分子量709、未反応ナフトール3.8%、多分散度1.57、水酸基当量151のフェノール樹脂1(「フェノール系硬化剤」に相当)を71.6重量部、エポキシ当量196のメチル基置換ビフェニル骨格型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製商品名YX-4000H)を65重量部、エポキシ当量393の臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂(住友化学株式会社製商品名-400T)を15重量部、トリフェニルホスフィン(【0020】の記載から「硬化促進剤」に相当)を2.5重量部、平均粒子径17.5μm、比表面積3.8m2/gの球状溶融シリカ(本件発明1の「無機充填剤」に相当)を1200重量部、エポキシシランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を4重量部、カルナバワックス(クラリアント社製)を3重量部及びカーボンブラック(三菱化学株式会社製商品名MA-100)を1重量部、をそれぞれ配合し、8インチ径の加熱ロールを使用して、90℃、10分混練して、得た封止用樹脂成形材料であって、当該封止用樹脂成形材料に対して球状溶融シリカの含有量が88重量%(1200/(71.6+65+15+2.5+1200+4+3+1)×100)、ガラス転移温度Tgが184℃、Tg以下の傾きから求めた線膨張係数α1(×10-5)が0.84/℃、Tg以上の傾きから求めた線膨張係数α2(×10-5)が3.50/℃である封止用樹脂成形材料が記載されている(この封止用樹脂成形材料を、以下「甲4実施例1成形材料」という。)。
しかし、甲4実施例1成形材料は「エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」の特定事項を備えていない。
そして、甲4の【0017】には、エポキシ樹脂は「単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい」と記載されているのみであって、「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」または「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」が具体的に記載されていないので、甲4実施例1成形材料から「エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」の特定事項を導くことはできない。
(オ)そうすると、甲1~甲4に記載の事項を、甲5樹脂発明に適用したとしても、上記相違点2に係る特定事項を満たすことはできず、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は令和8年4月23日提出の意見書において、以下(i)~(iii)の点を挙げて、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する。
(i)相違点2について、甲1~甲4には、エポキシ樹脂として、「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」のみを用いること、または「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」のみを用いることを示唆する記載がある、すなわち上記特定事項を備える動機付けがある点(意見書第9頁~第14頁)
(ii)参1の実施例(a-1)は、エポキシ樹脂として「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」のみを含有するものであるから、甲5樹脂発明において、甲1、甲2又は甲3を適用するにあたり、エポキシ樹脂として「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」のみを使用することは容易である点(意見書第14頁~第15頁)
(iii)参1の実施例(a-1)~(a-3)、(a-5)~(a-7)の組成は、本件発明1の組成に関する特定事項を満たすものであり、本件発明1で特定されている平均線膨張係数を満たすことが合理的に推認されるので、甲5樹脂発明に参1の記載事項を適用することは容易である点(意見書第15頁~第17頁)
以下、上記(i)~(iii)について順に検討する。
(ア)上記(i)について
上記イで説示したとおり、甲1~甲4には「エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」の特定事項を導く動機付けはなく、意見書の主張を参酌しても、この判断を覆すに足りるものではない。
(イ)上記(ii)について
上記イ(ア)~(ウ)で説示したとおり、甲1~3には「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」が具体的な樹脂として記載されていないから、参1に「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」が記載されているとしても、甲5樹脂発明において、甲1、2又は3を適用するにあたり、「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」を採用する動機付けがない。
(ウ)上記(iii)について
参1の実施例(a-1)([0186]~[0190]、[0212]、[0230]、[表1])は、線膨張係数が記載されておらず、さらに、参1の課題は、[0011]の記載からみて「接着性、電気的安定性、難燃性、成形性、および耐熱性をバランス良くする半導体封止材を形成し得る樹脂組成物を提供すること」であるのに対して、本件発明の発明が解決しようとする課題は、「高温域でも高い信頼性を確保することが可能な・・・樹脂組成物を提供すること」(【0006】)であり、両者の課題は相違する。
そして、本件発明1は上記課題を解決するために、特定のエポキシ樹脂を用い、更にガラス転移温度及び平均線膨張係数を特定の範囲にすることであるところ、上記のとおり参1は課題が異なり、線膨張係数を調整することの記載ないし示唆もないから、甲5樹脂発明及び参1の記載事項から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
以上のとおり、申立人の上記主張は採用できない。
エ 小括
よって、本件発明1は、甲5樹脂発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1を直接又は間接的に引用しており、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2~5と甲5樹脂発明又は甲5モジュール発明は、少なくとも相違点2において相違する。
そうすると、上記(2)イで説示したのと同様の理由により、本件発明2~5は、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)取消理由3及び申立理由1(甲5に基づく進歩性)についてのまとめ
よって、本件発明1~5は、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、取消理由3及び申立理由1(甲5に基づく進歩性)によっては本件発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。
4 取消理由通知において採用しなかった申立理由について
(1)申立理由3(実施可能要件)について
上記第2の2(2)で説示したとおり、令和8年3月9日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲により、本件発明は、「樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度」を「樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度」と明確化する訂正がされたので、実施可能要件についての不備は解消された。
そして、その他に実施可能要件違反とする事項はない。
よって、申立理由3は解消された。
また、申立人は令和8年4月23日提出の意見書において、新たに上記第5の2と同様の理由により、実施可能要件の不備が存在する旨の主張をしているが、発明の詳細な説明の記載からみて、製造及び使用できないとする具体的な理由が示されていないので、申立人の主張は採用できない。
(2)申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
ア 甲1に記載された発明
甲1には、実施例3([0050]~[0068]、[表1])に着目すると、次の発明が記載されていると認める。
「(A)エポキシ樹脂としてYX-4000(ビフェニル型エポキシ樹脂(商品名、三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量185、軟化点105℃))を4.43質量部及びN-655EXP-S(o-クレゾールノボラックエポキシ樹脂(商品名、DIC(株)製、エポキシ当量200、軟化点55℃))を3.35質量部、(B)硬化剤としてSH-041-01(アリル基含有トリフェニルメタン型フェノール樹脂(商品名、明和化成(株)製、水酸基当量139、軟化点90℃))を5.72質量部、(C)硬化促進剤として2P-4MHZ(イミダゾール化合物(商品名、四国化成工業(株)製))を0.40質量部、(D)無機充填材としてFB-910GSQ(球状溶融シリカ(商品名、(株)アドマテックス製、平均粒子径5μm、最大粒子径20μm))を85.0質量部、離型剤としてカルナバワックス(商品名、東洋アドレ(株)製)を0.25質量部、着色剤としてMA-100RMJ(商品名、三菱化学(株)製)を0.30質量部、難燃剤としてFP-100(商品名、(株)伏見製薬所製)を0.30質量部、イオントラップ剤としてDHT-4C(商品名、協和化学工業(株)製)を0.25質量部の各成分を常温(23℃)でミキサーを用いて混合し、熱ロールを用いて90~115℃で加熱混練し、冷却後、粉砕して調製した封止用樹脂組成物であって、樹脂組成物全量に対する(D)無機充填材の含有量が85.0質量%、ガラス転移温度(Tg)が172℃、40~90℃での熱膨張係数(α1)が12ppm/℃、200~230℃での熱膨張係数(α2)が50ppm/℃である封止用樹脂組成物。」(以下「甲1発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(a)甲1発明は、エポキシ樹脂として、YX-4000(ビフェニル型エポキシ樹脂(商品名、三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量185、軟化点105℃))及びN-655EXP-S(o-クレゾールノボラックエポキシ樹脂(商品名、DIC(株)製、エポキシ当量200、軟化点55℃))を含み、無機充填材としてFB-910GSQ(球状溶融シリカ(商品名、(株)アドマテックス製、平均粒子径5μm、最大粒子径20μm)を含むことから、本件発明1の「樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、無機充填剤とを含み」との特定事項を満たす。
(b)甲1発明は、無機充填材の含有量が樹脂組成物全量に対して85.0質量%であるので、本件発明1の「無機充填剤は、当該樹脂組成物の全固形分に対して、82質量%以上90質量%以下」との特定事項を満たす。
(c)甲1発明の封止用樹脂組成物は「ガラス転移温度(Tg)が172℃、40~90℃での熱膨張係数(α1)が12ppm/℃、200~230℃での熱膨張係数(α2)が50ppm/℃である」ので、本件発明1の「当該樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が、170℃以上300℃以下であり、前記樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度未満における平均線膨張係数α1が、5ppm/K以上15ppm/K以下であり、ガラス転移温度以上における平均線膨張係数α2が、25ppm/K以上65ppm/K以下である」との特定事項を満たす。
(d)甲1発明は「封止用樹脂組成物」であるので、甲1発明の「封止用樹脂組成物」は、本件発明1の「封止するために用いられる樹脂組成物」に相当する。
そうすると、両者は
「封止するために用いられる樹脂組成物であって、
当該樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、無機充填剤とを含み、
前記無機充填剤は、当該樹脂組成物の全固形分に対して、82質量%以上90質量%以下であり、
当該樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が、170℃以上300℃以下であり、
前記樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度未満における平均線膨張係数α1が、5ppm/K以上15ppm/K以下であり、ガラス転移温度以上における平均線膨張係数α2が、25ppm/K以上65ppm/K以下である、樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点3>
本件発明1は「金属回路基板と、前記金属回路基板の一方の面に設けられたパワー半導体素子と、前記パワー半導体素子と前記金属回路基板とを接合するシンタリングペーストからなる接合層と、前記金属回路基板の、前記パワー半導体素子が設けられた面とは反対の面に積層された放熱シートと、を備えるパワーモジュールにおいて、前記パワー半導体素子と、前記接合層と、前記金属回路基板と、前記放熱シートとを封止するために用いられる樹脂組成物」であるのに対して、甲1発明はそのような特定はない点
<相違点4>
エポキシ樹脂について、本件発明1は「90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」であるのに対して、甲1発明はそのような特定がない点
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み相違点4について検討する。
甲1の[0015]には、エポキシ樹脂は「1分子中に2個以上のエポキシ樹脂を有するものであればよく」及び「エポキシ樹脂は1種を使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい」と記載されているが、[0017]に記載された具体的な商品名をみても、「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」または「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」が具体的に記載されていないので、甲1発明から「エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」の特定事項を導くことはできない。
また、甲5の記載を検討しても、上記特定事項について動機付けとなる記載は見いだせない。
そうすると、甲1発明及び甲1、5の記載事項から、上記相違点4に係る特定事項を満たすことはできないから、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用しており、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2~4と甲1発明は、少なくとも相違点4において相違する。
そうすると、上記イ(イ)で説示したのと同様の理由により、本件発明2~4は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 申立理由1(甲1に基づく進歩性)についてのまとめ
よって、本件発明1~4は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由1(甲1に基づく進歩性)によっては本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
(3)申立理由1(甲2に基づく進歩性)について
ア 甲2に記載された発明
甲2には、実施例5(【0036】~【0040】、【表1】、【表2】)に着目すると、次の発明が記載されていると認める。
「エポキシ当量167の多官能型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2:日本化薬株式会社製商品名EPPN-502H)を65.0重量部、エポキシ当量192のビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂3:新日鐵化学株式会社製商品名YSLV-80XY)を20.0重量部、エポキシ当量375、臭素含量48重量%のビスフェノールA型ブロム化エポキシ樹脂(住友化学工業株式会社製商品名ESB-400T)を15.0重量部、硬化剤として水酸基当量104のフェノール樹脂(明和化成株式会社製商品名MEH-7500)を5.4重量部、エポキシ基を有するシリコーン化合物としてエポキシ当量2900、25℃における動粘度3200mm2/sの上記一般式(IX)で示されるポリエーテル変性エポキシシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製商品名BY16-876)を75.0重量部、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を1.0重量部、無機充填剤として平均粒子径17.5μm、比表面積3.8m2/gの球状溶融シリカを977重量部(無機充填剤量は82重量%)、三酸化アンチモンを15.0重量部、エポキシ当量375のエポキシシランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を7.5重量部、カルナバワックス(クラリアント社製)を1.5重量部、ポリエチレンワックス(クラリアント社製商品名PED191)を0.35重量部及びカーボンブラック(三菱化学株式会社製商品名MA-100)を3.0重量部を配合し、各配合成分を予備混合(ドライブレンド)した後、二軸ロール(ロール表面温度約80℃)10分間混練を行って、冷却粉砕して、作製した封止用エポキシ樹脂成形材料であって、当該封止用エポキシ樹脂成形材料に対して無機充填剤量が82重量%、ガラス転移温度(Tg)が203℃、Tg未満の傾きから求めた線膨張係数(α1)が10.4ppm/℃、Tg以上の傾きから求めた線膨張係数(α2)が38.2ppm/℃である封止用エポキシ樹脂成形材料。」(以下「甲2発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(a)甲2発明は、エポキシ樹脂として、エポキシ当量167の多官能型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2:日本化薬株式会社製商品名EPPN-502H)、エポキシ当量192のビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂3:新日鐵化学株式会社製商品名YSLV-80XY)及びエポキシ当量375、臭素含量48重量%のビスフェノールA型ブロム化エポキシ樹脂(住友化学工業株式会社製商品名ESB-400T)を含み、無機充填剤として平均粒子径17.5μm、比表面積3.8m2/gの球状溶融シリカを含むことから、本件発明1の「樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、無機充填剤とを含み」との特定事項を満たす。
(b)甲2発明は、無機充填剤の含有量が樹脂組成物全量に対して82重量%であるので、本件発明1の「無機充填剤は、当該樹脂組成物の全固形分に対して、82質量%以上90質量%以下」との特定事項を満たす。
(c)甲2発明の封止用エポキシ樹脂成形材料は「ガラス転移温度(Tg)が203℃、Tg未満の傾きから求めた線膨張係数(α1)が10.4ppm/℃、Tg以上の傾きから求めた線膨張係数(α2)が38.2ppm/℃である」ので、本件発明1の「当該樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が、170℃以上300℃以下であり、前記樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度未満における平均線膨張係数α1が、5ppm/K以上15ppm/K以下であり、ガラス転移温度以上における平均線膨張係数α2が、25ppm/K以上65ppm/K以下である」との特定事項を満たす。
(d)甲2発明は、封止用エポキシ樹脂成形材料であり、組成物と材料とは同等のものであることから、甲2発明の「封止用エポキシ樹脂成形材料」は、本件発明1の「封止するために用いられる樹脂組成物」に相当する。
そうすると、両者は
「封止するために用いられる樹脂組成物であって、
当該樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、無機充填剤とを含み、
前記無機充填剤は、当該樹脂組成物の全固形分に対して、82質量%以上90質量%以下であり、
当該樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が、170℃以上300℃以下であり、
前記樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度未満における平均線膨張係数α1が、5ppm/K以上15ppm/K以下であり、ガラス転移温度以上における平均線膨張係数α2が、25ppm/K以上65ppm/K以下である、樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点5>
本件発明1は「金属回路基板と、前記金属回路基板の一方の面に設けられたパワー半導体素子と、前記パワー半導体素子と前記金属回路基板とを接合するシンタリングペーストからなる接合層と、前記金属回路基板の、前記パワー半導体素子が設けられた面とは反対の面に積層された放熱シートと、を備えるパワーモジュールにおいて、前記パワー半導体素子と、前記接合層と、前記金属回路基板と、前記放熱シートとを封止するために用いられる樹脂組成物」であるのに対して、甲2発明はそのような特定がない点
<相違点6>
エポキシ樹脂について、本件発明1は「90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」であるのに対して、甲2発明はそのような特定がない点
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み相違点6について検討する。
甲2発明の「エポキシ当量167の多官能型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2:日本化薬株式会社製商品名EPPN-502H)」は商品名からみて、本件発明1の「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」であるが、当該トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を含んでいるため、甲2発明は「エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」の特定事項を備えていない。
そして、甲2には、Tg、α1、α2について、実施例に値が記載されているに留まり、当該Tg、α1、α2を特定の範囲に調整すること、及びエポキシ樹脂の種類を選択することにより当該調整を行うことについての記載がなく、エポキシ樹脂の組成に応じて、線膨張係数やガラス転移温度等の物性が影響を受けることは、本件特許の出願前からの技術常識であることを踏まえると、甲2発明には、エポキシ樹脂を「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」のみ、すなわち「エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」という特定事項を導く動機付けはない。
また、甲5の記載を検討しても、上記特定事項について動機付けとなる記載は見いだせない。
そうすると、甲2発明及び甲2、5の記載事項から、上記相違点6に係る特定事項を満たすことはできないから、本件発明1は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲2の他の実施例を引用発明としても、上記と同様に判断される。
ウ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用しており、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2~4と甲2発明は、少なくとも相違点6において相違する。
そうすると、上記イ(イ)で説示したのと同様の理由により、本件発明2~4は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 申立理由1(甲2に基づく進歩性)についてのまとめ
よって、本件発明1~4は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由1(甲2に基づく進歩性)によっては本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
(4)申立理由1(甲3に基づく進歩性)について
ア 甲3に記載された発明
甲3には、実施例1(【0081】、【0087】、【0089】~【0101】、【表1】)に着目すると、次の発明が記載されていると認める。
「エポキシ樹脂1(ジャパンエポキシレジン(株)製、YL-6677。一般式(1)で表される化合物においてa=0である化合物を主成分とするエポキシ樹脂(融点110℃)25質量%と、一般式(4)で表される化合物においてd=0である化合物を主成分とするエポキシ樹脂75質量%と、の混合物。融点50℃、エポキシ当量163。)を9.25質量部、フェノール樹脂1(明和化成(株)製、MEH7500。一般式(7)で表される化合物においてh=0である化合物を主成分とするフェノール樹脂。軟化点110℃、水酸基当量97。)を5.50質量部、球状無機充填材1(球状溶融シリカ(マイクロン(株)製、S30-71。平均粒子径25μm。)を64質量部、鱗片状無機充填材1(ガラスフレーク1(日本板硝子(株)製、REF-015A。組成:硼珪酸ガラス。平均粒径15μm、平均厚み5μm、アスペクト比3。アミノシラン処理品。)を20質量部、硬化促進剤2(式(11)で表される化合物)を0.45質量部、 カップリング剤1(3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン)を0.3質量部、着色剤1(カーボンブラック)を0.3質量部及び離型剤1(カルナバワックス)を0.2質量部の各成分を常温においてミキサーで混合し、70~120℃で加熱ロールにより混練し、冷却後粉砕して得たエポキシ樹脂組成物であって、ガラス転移温度Tgが190℃、線膨張係数α1(Tgより低い温度域における線膨張係数)が14ppm/℃、線膨張係数α2(Tgより高い温度域における線膨張係数)が39ppm/℃であるエポキシ樹脂組成物。」(以下「甲3発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(a)甲3発明の「球状無機充填材1(球状溶融シリカ(マイクロン(株)製、S30-71。平均粒子径25μm。)」及び「鱗片状無機充填材1(ガラスフレーク1(日本板硝子(株)製、REF-015A。組成:硼珪酸ガラス。平均粒径15μm、平均厚み5μm、アスペクト比3。アミノシラン処理品。)」は、本件発明1の「無機充填剤」に相当する。
(b)甲3発明は、エポキシ樹脂として、「ジャパンエポキシレジン(株)製、YL-6677。一般式(1)で表される化合物においてa=0である化合物を主成分とするエポキシ樹脂(融点110℃)」と「一般式(4)で表される化合物においてd=0である化合物を主成分とするエポキシ樹脂」とを含み、上記(a)から無機充填剤を含むので、本件発明1の「樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、無機充填剤とを含み」との特定事項を満たす。
(c)甲3発明は、球状無機充填材1を64質量部、鱗片状無機充填材を20質量部含むものであり、組成物全体に対する含有量を算出すると、(64+20)/(9.25+5.50+64+20+0.45+0.3+0.3+0.2)×100=84質量%となるので、本件発明1の「無機充填剤は、当該樹脂組成物の全固形分に対して、82質量%以上90質量%以下」との特定事項を満たす。
(d)甲3発明のエポキシ樹脂組成物は「ガラス転移温度Tgが190℃、線膨張係数α1(Tgより低い温度域における線膨張係数)が14ppm/℃、線膨張係数α2(Tgより高い温度域における線膨張係数)が39ppm/℃である」ので、本件発明1の「当該樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が、170℃以上300℃以下であり、前記樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度未満における平均線膨張係数α1が、5ppm/K以上15ppm/K以下であり、ガラス転移温度以上における平均線膨張係数α2が、25ppm/K以上65ppm/K以下である」との特定事項を満たす。
(e)甲3発明は、エポキシ樹脂組成物であり、甲3の【0097】に記載の「エポキシ樹脂組成物によりシリコンチップを搭載した回路基板等を封止成形して」から、当該エポキシ樹脂組成物は、封止用に用いられるものであるから、甲3発明の「エポキシ樹脂組成物」は、本件発明1の「封止するために用いられる樹脂組成物」に相当する。
そうすると、両者は
「封止するために用いられる樹脂組成物であって、
当該樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、無機充填剤とを含み、
前記無機充填剤は、当該樹脂組成物の全固形分に対して、82質量%以上90質量%以下であり、
当該樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が、170℃以上300℃以下であり、
前記樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度未満における平均線膨張係数α1が、5ppm/K以上15ppm/K以下であり、ガラス転移温度以上における平均線膨張係数α2が、25ppm/K以上65ppm/K以下である、樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点7>
本件発明1は「金属回路基板と、前記金属回路基板の一方の面に設けられたパワー半導体素子と、前記パワー半導体素子と前記金属回路基板とを接合するシンタリングペーストからなる接合層と、前記金属回路基板の、前記パワー半導体素子が設けられた面とは反対の面に積層された放熱シートと、を備えるパワーモジュールにおいて、前記パワー半導体素子と、前記接合層と、前記金属回路基板と、前記放熱シートとを封止するために用いられる樹脂組成物」であるのに対して、甲3発明はそのような特定がない点
<相違点8>
エポキシ樹脂について、本件発明1は「90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」であるのに対して、甲3発明はそのような特定がない点
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み相違点8について検討する。
甲3発明の「一般式(4)で表される化合物においてd=0である化合物を主成分とするエポキシ樹脂」は、本件発明1の「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」であるが、当該トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を含んでいるため、「エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」の特定事項を備えていない。
そして、甲3の請求項1、【0035】、【0041】の記載からみて、甲3は、成形時の流動性を発現させるための「結晶性エポキシ樹脂(A)」(甲3発明の「一般式(1)で表される化合物においてa=0である化合物を主成分とするエポキシ樹脂」に相当)と反りの改善の手段としての「多官能エポキシ樹脂(B)」(甲3発明の「一般式(4)で表される化合物においてd=0である化合物を主成分とするエポキシ樹脂」に相当するとともに、本件発明1の「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」に相当するもの)の両方を含むことが必須であるので、甲3発明において、結晶性エポキシ樹脂(A)を除いて、多官能エポキシ樹脂(B)のみとする動機付けはない。
また、甲5の記載を検討しても、上記特定事項について動機付けとなる記載は見いだせない。
そうすると、甲3発明及び甲3、5の記載事項から、上記相違点8に係る特定事項を満たすことはできないから、本件発明1は、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲3の他の実施例を引用発明としても、上記と同様に判断される。
ウ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用しており、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2~4と甲3発明は、少なくとも相違点6において相違する。
そうすると、上記イ(イ)で説示したのと同様の理由により、本件発明2~4は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 申立理由1(甲3に基づく進歩性)についてのまとめ
よって、本件発明1~4は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由1(甲3に基づく進歩性)によっては本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
(5)申立理由1(甲4に基づく進歩性)について
ア 甲4に記載された発明
甲4には、実施例1(【0028】、【0034】、【0035】、【表1】)に着目すると、次の発明が記載されていると認める。
「数平均分子量709、未反応ナフトール3.8%、多分散度1.57、水酸基当量151のフェノール樹脂1を71.6重量部、エポキシ当量196のメチル基置換ビフェニル骨格型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製商品名YX-4000H)を65重量部、エポキシ当量393の臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂(住友化学株式会社製商品名-400T)を15重量部、トリフェニルホスフィンを2.5重量部、平均粒子径17.5μm、比表面積3.8m2/gの球状溶融シリカを1200重量部、エポキシシランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を4重量部、カルナバワックス(クラリアント社製)を3重量部及びカーボンブラック(三菱化学株式会社製商品名MA-100)を1重量部、をそれぞれ配合し、8インチ径の加熱ロールを使用して、90℃、10分混練して、得た封止用樹脂成形材料であって、ガラス転移温度Tgが184℃、Tg以下の傾きから求めた線膨張係数α1(×10-5)が0.84/℃、Tg以上の傾きから求めた線膨張係数α2(×10-5)が3.50/℃である封止用樹脂成形材料。」(以下「甲4発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
(a)甲4発明の「球状溶融シリカ」は、甲4の【0022】の記載からみて、無機充填剤であるから、本件発明1の「無機充填剤」に相当する。
(b)甲4発明は、エポキシ樹脂として「エポキシ当量196のメチル基置換ビフェニル骨格型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製商品名YX-4000H)」及び「エポキシ当量393の臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂(住友化学株式会社製商品名-400T)」を含み、無機充填剤として、上記(a)を踏まえると、球状溶融シリカを含むので、本件発明1の「樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、無機充填剤とを含み」との特定事項を満たす。
(c)甲4発明は、球状溶融シリカの含有量を算出すると、1200/(71.6+65+15+2.5+1200+4+3+1)×100=88重量%となるので、本件発明1の「無機充填剤は、当該樹脂組成物の全固形分に対して、82質量%以上90質量%以下」との特定事項を満たす。
(d)甲4発明の封止用樹脂成形材料は「ガラス転移温度Tgが184℃、Tg以下の傾きから求めた線膨張係数α1(×10-5)が0.84/℃、Tg以上の傾きから求めた線膨張係数α2(×10-5)が3.50/℃である」ので、本件発明1の「当該樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が、170℃以上300℃以下であり、前記樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度未満における平均線膨張係数α1が、5ppm/K以上15ppm/K以下であり、ガラス転移温度以上における平均線膨張係数α2が、25ppm/K以上65ppm/K以下である」との特定事項を満たす。
(e)甲4発明は、封止用樹脂成形材料であり、組成物と材料とは同等のものであることから、甲4発明の「封止用樹脂成形材料」は、本件発明1の「封止するために用いられる樹脂組成物」に相当する。
そうすると、両者は
「封止するために用いられる樹脂組成物であって、
当該樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、無機充填剤とを含み、
前記無機充填剤は、当該樹脂組成物の全固形分に対して、82質量%以上90質量%以下であり、
当該樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が、170℃以上300℃以下であり、
前記樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度未満における平均線膨張係数α1が、5ppm/K以上15ppm/K以下であり、ガラス転移温度以上における平均線膨張係数α2が、25ppm/K以上65ppm/K以下である、樹脂組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点9>
本件発明1は「金属回路基板と、前記金属回路基板の一方の面に設けられたパワー半導体素子と、前記パワー半導体素子と前記金属回路基板とを接合するシンタリングペーストからなる接合層と、前記金属回路基板の、前記パワー半導体素子が設けられた面とは反対の面に積層された放熱シートと、を備えるパワーモジュールにおいて、前記パワー半導体素子と、前記接合層と、前記金属回路基板と、前記放熱シートとを封止するために用いられる樹脂組成物」であるのに対して、甲4発明はそのような特定がない点
<相違点10>
エポキシ樹脂について、本件発明1は「90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」であるのに対して、甲4発明はそのような特定がない点
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み相違点10について検討する。
甲4の【0017】には、エポキシ樹脂は「単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい」と記載されているのみであって、「3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂」または「トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂」が具体的に記載されていないことから、甲4発明から「エポキシ樹脂は、90~300のエポキシ当量を有する、3官能以上のビフェニル骨格含有多官能エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂からなり」の特定事項を導くことはできない。
また、甲5の記載を検討しても、上記特定事項について動機付けとなる記載は見いだせない。
そうすると、甲4発明及び甲4、5の記載事項から、上記相違点10に係る特定事項を満たすことはできないから、本件発明1は、甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用しており、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2~4と甲4発明は、少なくとも相違点10において相違する。
そうすると、上記イ(イ)で説示したのと同様の理由により、本件発明2~4は、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 申立理由1(甲4に基づく進歩性)についてのまとめ
よって、本件発明1~4は、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由1(甲4に基づく進歩性)によっては本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由通知の取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700949