特許異議申立
2023-701181
組成物及び硬化体
- 審判番号
- 2023-701181
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-536396
- 登録番号
- 7284875
- 請求日
- 2023年11月08日
- 審決日
- 2024年11月29日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】アクシス国際弁理士法人
- 【異議申立人】古川 興輝
- 審判長/審判官
- 審判長 近野 光知
- 審判官 藤原 浩子
- 審判官 松本 直子
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7284875号発明「組成物及び硬化体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7284875号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕、10について訂正することを認める。
特許第7284875号の請求項1~9に係る特許を維持する。
特許第7284875号の請求項10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7284875号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願(特願2022-536396号)は、2021年(令和3年)7月13日を国際出願日(優先権主張:令和2年7月15日、令和3年5月20日)とし、令和5年5月23日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同月31日に特許掲載公報が発行された。
そして、令和5年11月8日に古川興輝(以下「申立人」という。)により、請求項1~10に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。以後の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和5年11月 8日提出 :特許異議申立書
令和6年 3月 7日付け :取消理由通知書
同年 5月13日提出 :訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 6月26日提出 :意見書(申立人)
同年 9月17日付け :取消理由通知書(決定の予告)
同年10月29日提出 :訂正請求書及び意見書(特許権者)
なお、令和6年5月13日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたとみなす。
また、同年10月29日にされた訂正の請求は、上記先の訂正の請求から請求項10を削除したものを訂正の内容とするものであり、上記先の訂正の請求の際に申立人に意見書の提出の機会が与えられているため、本件訂正請求については、改めて申立人に意見書を提出する機会は与えないこととした(特許法第120条の5第5項ただし書)。
第2 訂正について
1 訂正の内容
令和6年10月29日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、「特許第7284875号の特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める。」ことを請求の趣旨とするものであって、その訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「(4)オレフィンが炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、」とあるのを、
「(4)オレフィンが、エチレン単独であるか、エチレンとエチレン以外の炭素数2以上20以下のαオレフィンとの組み合わせであるか、又はエチレンと炭素数5以上20以下の環状オレフィンとの組み合わせであり、」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に
「(4)オレフィンが炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、」とあるのを、
「(4)オレフィンが、エチレン単独であるか、エチレンとエチレン以外の炭素数2以上20以下のαオレフィンとの組み合わせであるか、又はエチレンと炭素数5以上20以下の環状オレフィンとの組み合わせであり、」と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
なお、独立請求項である請求項1の訂正に連動し、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3、6~9も訂正され、また、独立請求項である請求項4の訂正に連動し、請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5~9も訂正されるところ、両者は、請求項6~9が共通しているから、訂正前の請求項1~9に対応する訂正後の請求項1~9は、一群の請求項である。
また、削除される請求項10は、独立請求項であり、上記とは別の群の請求項である。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1及び2について
訂正事項1及2は、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)【0015】の「オレフィン単量体とは、炭素数2以上20以下のαオレフィン及び炭素数5以上20以下の環状オレフィンから選ばれる一種以上であり、実質的に酸素や窒素、ハロゲンを含まず、炭素と水素から構成される化合物である。…オレフィンとして好ましく使用できるのは、エチレンとエチレン以外のαオレフィンや環状オレフィンとの組み合わせか、又はエチレン単独である。」との記載に基づいて、請求項1及び4における「炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数」を、「エチレン単独であるか、エチレンとエチレン以外の炭素数2以上20以下のαオレフィンとの組み合わせであるか、又はエチレンと炭素数5以上20以下の環状オレフィンとの組み合わせ」に限定するものである。
したがって、訂正事項1及び2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではない。
(2)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項10を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではない。
(3)訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕、10について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められ、請求項1~9に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるもの(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)であり、訂正特許請求の範囲の記載は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記(1)~(4)の条件をすべて満たす、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーに対し、以下の(a)~(c)から選ばれる単数又は複数、及び
(d)溶剤を含むワニス。
(1)共重合オリゴマーの数平均分子量が500以上12000未満である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上60質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり2個以上7個未満である。
(4)オレフィンが、エチレン単独であるか、エチレンとエチレン以外の炭素数2以上20以下のαオレフィンとの組み合わせであるか、又はエチレンと炭素数5以上20以下の環状オレフィンとの組み合わせであり、前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
(a)硬化剤
(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂
(c)極性単量体
【請求項2】
少なくとも樹脂分の濃度が33質量%以上であり、その25℃、1sec-1で測定した粘度が2000mPa・s以下である請求項1に記載のワニス。
【請求項3】
請求項1または2に記載のワニスから得られる硬化体。
【請求項4】
下記(1)~(4)の条件をすべて満たす、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーを含む硬化体。
(1)共重合オリゴマーの数平均分子量が500以上12000未満である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上60質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり2個以上7個未満である。
(4)オレフィンが、エチレン単独であるか、エチレンとエチレン以外の炭素数2以上20以下のαオレフィンとの組み合わせであるか、又はエチレンと炭素数5以上20以下の環状オレフィンとの組み合わせであり、前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
【請求項5】
さらに、以下の(a)~(c)から選ばれる単数、または複数を含む、請求項4記載の硬化体。
(a)硬化剤
(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂
(c)極性単量体
【請求項6】
さらに以下の(e)~(g)から選ばれる単数又は複数を含む、請求項3~5のいずれか一項に記載の硬化体。
(e)充填剤
(f)難燃剤
(g)表面変性剤
【請求項7】
電気絶縁材料である請求項3~6のいずれか一項に記載の硬化体。
【請求項8】
請求項7に記載の硬化体を含む、電気絶縁材料。
【請求項9】
請求項7に記載の硬化体を含む、CCL基板、FCCL基板、層間絶縁層または層間接着層。
【請求項10】
(削除) 」
第4 特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由
1 特許異議申立書に記載された申立ての理由について
(1)特許異議申立書に記載された申立ての理由
申立人は、証拠方法として甲第1~5号証(以下「甲1」などという。)を提出し、特許異議申立書において、概要、以下の申立理由を主張する。
申立理由1(新規性)
請求項1~9に係る発明は、その優先日前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
申立理由2(進歩性)
請求項1~10に係る発明は、その優先日前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明、及び甲2~5に記載された事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
申立理由3(サポート要件)
請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
申立理由4(実施可能要件)
請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
申立理由5(明確性要件)
請求項1~3、5~9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(2)甲号証一覧
・甲1:特開2018-39995号公報
・甲2:特開2010-280771号公報
・甲3:特開2009-161743号公報
・甲4:特開2010-280860号公報
・甲5:国際公開第2020/067336号
2 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について
取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由(進歩性)
本件特許の請求項10に係る発明は、その優先日前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明及び文献A、Bに記載された事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
<引用文献等一覧>
・甲1:特開2018-39995号公報
・文献A:特開平9-40709号公報(本件明細書【0089】に記載の文献)
・文献B:特開平9-309925号公報(同上)
第5 当審における判断
1 請求項10に係る特許異議の申立てについて
取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の対象は請求項10のみであるところ、上記第2のとおり、本件訂正により、特許異議の申立ての対象であった請求項10は削除されたので、請求項10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
2 申立理由1及び2(新規性及び進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
甲1には、耐熱性、相溶性、誘電特性、湿熱信頼性及び耐熱酸化劣化性が改善された、回路基板材料用ワニスなどに用いられる、硬化性組成物を有機溶剤に溶解させてなるワニスが開示され(特許請求の範囲、【0021】)、実施例のうち、実施例16(共重合体Dは実施例4)に着目すると、次の「甲1発明」が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「共重合体D:40wt%
変性PPE-C:40wt%
TAIC(トリアリルイソシアヌレート):10wt%
ESN-475V(ナフトール型エポキシ樹脂):10wt%
パークミルP(ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド):1phr
アデカスタブ A0-60(フェノール系酸化防止剤):0.2phr
である配合処方を、
トルエンに溶解して固形分濃度を60wt%とした、硬化性樹脂組成物(ワニス)であって、
前記共重合体Dは、Mnが1760であり、ジビニルベンゼン由来の構造単位を37.8モル%(37.0w%)、エチルビニルベンゼン由来の構造単位を合計15.5モル%(15.4w%)、スチレンに由来する構造単位を20.9モル%(16.4wt%)、及び、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エンに由来する構造単位を25.9モル%(31.2wt%)含有しており(末端構造単位を含む)、共重合体D中に含まれる残存ビニル基を持つジビニルベンゼン由来の構造単位の含有量は、20.2モル(19.8wt%)であり(末端構造単位を含む)、
前記変性PPE-Cは、片末端にビニル基を有するポリフェニレンオリゴマー(Mn=2340、ポリフェニレンエーテルとクロロメチルスチレンとの反応生成物)である、
硬化性樹脂組成物(ワニス)。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「共重合体D」は、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エンに由来する構造単位(31.2wt%)、エチルビニルベンゼン由来の構造単位(15.4w%)、スチレンに由来する構造単位(16.4wt%)、ジビニルベンゼン由来の構造単位(37.0w%)とからなるものであり、各構造単位は、順に、本件発明1の「オレフィン」、「芳香族ビニル化合物」、「芳香族ビニル化合物」、「芳香族ポリエン」に対応し、甲1発明の「共重合体D」は、Mnが1760であり、本件明細書で定義されるオリゴマーに当たる(本件明細書【0014】)。したがって、甲1発明の「共重合体D」は、本件発明1の「オレフィン-芳香族ビニル化合物―芳香族ポリエン共重合オリゴマー」に相当し、本件発明1の「(4)」のうち、「前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である」の条件及び「(1)共重合オリゴマーの数平均分子量が500以上12000未満である。」の条件を満たす。
(イ)甲1発明の「共重合体D」における、エチルビニルベンゼン由来の構造単位(15.4w%)とスチレンに由来する構造単位(16.4wt%)は、いずれも、本件発明1の「炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物」に対応し、合計量が31.8w%であるから、甲1発明の「共重合体D」は、本件発明1の「(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上60質量%以下である。」の条件を満たす。
(ウ)甲1発明の「共重合体D」における、ジビニルベンゼン由来の構造単位(37.0w%)は、本件発明1の「分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエン」に対応し、「残存ビニル基を持つジビニルベンゼン由来の構造単位の含有量は、20.2モル(19.8wt%)」であるから、残存ビニル基を持つジビニルベンゼン(Mw130)由来の単位はMn1760当たり、約2.7程度となる(1760×0.198÷130=約2.7)。したがって、甲1発明の「共重合体D」は、本件発明1の「(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり2個以上7個未満である。」の条件を満たす。
(エ)甲1発明の「パークミルP(ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド)」は、本件発明1の「(a)硬化剤」に相当する。
(オ)甲1発明の「変性PPE-C」は、本件発明1の「(b)」「ポリフェニレンエーテル系樹脂」に相当する。
(カ)甲1発明の「TAIC(トリアリルイソシアヌレート)」と「ESN-475V(ナフトール型エポキシ樹脂)」は、本件明細書【0038】の「極性単量体とは、分子内に酸素、窒素、リン、硫黄から選ばれる単数又は複数の原子を有する単量体であ」るとの記載によれば、本件発明1の「(c)極性単量体」に相当する。
(キ)甲1発明の「トルエンに溶解して固形分濃度を60wt%とした、硬化性樹脂組成物(ワニス)」は、本件発明1の「(d)溶剤を含むワニス」に相当する。
(ク)そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「下記(1)~(4)の条件をすべて満たす、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーに対し、以下の(a)~(c)から選ばれる単数又は複数、及び(d)溶剤を含むワニス。
(1)共重合オリゴマーの数平均分子量が500以上12000未満である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上60質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり2個以上7個未満である。
(4)前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
(a)硬化剤
(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂
(c)極性単量体」
<相違点1>
オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーの(4)の条件に関し、本件発明1においては、「オレフィンが、エチレン単独であるか、エチレンとエチレン以外の炭素数2以上20以下のαオレフィンとの組み合わせであるか、又はエチレンと炭素数5以上20以下の環状オレフィンとの組み合わせ」であることが特定され、「エチレン」を必須としているのに対し、甲1発明においては、「ジビニルベンゼン由来の構造単位」、「エチルビニルベンゼン由来の構造単位」、「スチレンに由来する構造単位」及び「テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エンに由来する構造単位」とからなり、「エチレン」を含まない点
イ 判断
相違点1について検討する。
甲1には、「耐熱性、相溶性、透明性及び靱性が改善された硬化物又は成形体を与えることができる新規な可溶性多官能ビニル芳香族共重合体とその製造方法、この共重合体を含有する硬化性組成物を提供すること」(【0012】)を発明が解決しようとする課題とし、その課題を解決する手段として、「ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)、モノビニル芳香族化合物に由来する構造単位(b)、及びシクロオレフィン化合物に由来する構造単位(c)を含有する多官能ビニル芳香族共重合体」を用いることが記載されている(【0013】)。
そして、甲1には、上記構造単位(a)~(c)以外に使用できる単量体について、「本発明の共重合体の製造方法では、本発明の効果を損なわない範囲で、ジビニル芳香族化合物、モノビニル芳香族化合物、及びシクロオレフィン化合物の他に、トリビニル芳香族化合物、トリビニル脂肪族化合物やジビニル脂肪族化合物及びモノビニル脂肪族化合物等の他の単量体を使用し、他の単量体に由来する構造単位(e)を共重合体中に導入することができる。」(【0044】)と記載されているものの、具体的に「エチレン」をモノマーとして用いることは記載も示唆もされていない。
また、甲2~4、文献A、文献Bに記載されるように、スチレン等の芳香族ビニル化合物と共重合させる単量体として、エチレンは一般的なものではあるものの、これらの文献をみても、甲1発明の共重合体Dにおいて、エチレンに由来する構造単位を用いることに、動機付けがあるとはいえない。
甲5の記載を検討しても同様である。
そして、本件明細書の実施例における共重合オリゴマーは、全て、スチレンとジビニルベンゼンとともに、エチレン(又はエチレンと1-ヘキセン)を用いて重合したものであり、「本発明の組成物は、製膜性等の成形性や成形加工性に優れ、低誘電率、低誘電損失で、体積抵抗が高く室温及び高温で力学強度が高く、靱性(伸び)や強度、耐熱性、低い吸水性に優れる硬化体を与えることができる。」(【0112】)という効果を奏するものである。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲2~5、文献A、文献Bに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(3)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1と同じ、(1)~(4)の条件を全て満たす共重合オリゴマーを含む硬化体の発明である。
そうすると、本件発明4と甲1発明とは、少なくとも相違点1において相違する。
したがって、上記(2)イに説示したものと同様の理由により、本件発明4は、甲1に記載された発明、及び、甲2~5、文献A、文献Bに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(4)本件発明2、3、5~9
本件発明2、3、5~9は、本件発明1又は4の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2、3、5~9と甲1発明とは、少なくとも相違点1において相違する。
したがって、上記(2)イに説示したものと同様の理由により、本件発明2、3、5~9は、甲1に記載された発明、及び、甲2~5、文献A、文献Bに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(5)小括
以上によれば、本件発明1~9は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、申立理由1及び2は、理由がない。
3 申立理由3及び4(サポート要件及び実施可能要件違反)について
(1)本件発明の課題は、ワニスとして使用するのに適し、かつその硬化体が、架橋度が高く優れた低誘電特性と低吸水性を示す硬化性物質を提供すること(【0008】)であると認められる。
(2)発明の詳細な説明には、本件発明の「オレフィン-芳香族ビニル-芳香族ポリエン共重合オリゴマー」について、数平均分子量、及び、使用可能なオレフィン、芳香族ビニル、芳香族ポリエンについて具体的な説明や例示があり(【0015】~【0020】)、また、(a)硬化剤、(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂、(c)極性単量体、(d)溶剤についても具体的に例示されている(【0029】~【0041】)。
そして、実施例・比較例において、オレフィンとして「エチレン」又は「エチレンと1-ヘキセン」、芳香族ビニルとして「スチレン」、芳香族ポリエンとして「ジビニルベンゼン」を用いた、数平均分子量が2100~10400の範囲の合成例O-1~O-4のオレフィン-芳香族ビニル-芳香族ポリエン共重合オリゴマーを用いて製造した、ワニス又は硬化体は、同じモノマーから構成された、数平均分子量が18000又は36000のものを用いて製造した、ワニス又は硬化体よりも、ワニス粘度が低く塗布や含浸が容易であり、かつ、硬化体は十分に架橋し、高温の力学物性が高く、低誘電率、低誘電損失で、低い吸水性を有し、上記(1)の本件発明の課題が解決できることが示されている(【0075】~【0112】)。
(3)そうすると、本件発明において、実施例における単量体以外のモノマーを用いた場合、あるいは、実施例とは異なるモノマーの含有比とした場合にも、数平均分子量を、実施例の2100~10400を包含する「500以上12000未満」の数平均分子量の範囲とすることで、上記(1)の本件発明の課題が解決できることを、当業者であれば認識できるといえる。
また、(a)硬化剤として、実施例のジクミルパーオキサイド以外のものを用いた場合や、実施例では用いられていない(c)極性単量体を用いた場合についても、同様である。
(4)また、上記(2)の発明の詳細な説明の記載に基づけば、当業者が本件発明を過度な試行錯誤を要することなく製造し使用できるものといえる。
(5)申立人の主張について
申立人は、本件出願時の技術常識に照らしても、実施例の記載から、請求項に係る発明の範囲まで、拡張ないし一般化できず、本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に明細書が記載されていない旨を主張する。
しかし、上記(2)~(4)のとおり、本件発明については、サポート要件及び実施可能要件は満たしており、申立人は、実施例が限られたものであることを主張するのみで、それらの要件に違反するといえる具体的な根拠を示していない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(6)小括
以上によれば、本件発明1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号又は同条第4項第1号の規定に違反する出願に対してされたものではなく、申立理由3及び4は、理由がない。
4 申立理由5(明確性)について
(1)申立人は、本件発明の課題を解決するために、オレフィン-芳香族ビニル-芳香族ポリエン共重合オリゴマーに対し、(a)~(c)から選ばれる単数又は複数をどの程度配合すればよいのか不明であるから、本件発明1~3、5~9は明確ではない旨を主張する。
しかしながら、(a)~(c)の配合量は、実施例やその他の発明の詳細な説明の記載を参照しつつ、当業者が適宜設定し得る事項にすぎず、それらの配合量が請求項に記載されていないからといって、本件発明1~3、5~9が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(2)そして、本件発明1~3、5~9においては、含まれる成分が明確に特定されており、特段不明確な点は見いだせないから、本件発明1~3、5~9は明確である。
(3)小括
したがって、本件発明1~3、5~9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反する出願に対してされたものではなく、申立理由5は、理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により請求項10は削除されたので、請求項10に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701181