特許異議申立
2025-700455
組成物、重合体、硬化物、成形体及びポリメタクリル酸メチルの製造方法
- 審判番号
- 2025-700455
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-078262
- 登録番号
- 7576726
- 請求日
- 2025年04月23日
- 審決日
- 2026年01月06日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友化学株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】三上 敬史
- 【権利者代理人】吉住 和之
- 【権利者代理人】田中 政輝
- 【異議申立人】林 法子
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 辰己 雅夫
- 審判官 越本 秀幸
- 分類
- P1651.113-YAA(C08F) / P1651.121-YAA(C08F) / P1651.537-YAA(C08F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7576726号発明「組成物、重合体、硬化物、成形体及びポリメタクリル酸メチルの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7576726号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第7576726号の請求項1-7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7576726号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許は、令和6年5月13日を出願日(以下「本件出願日」という。)とする特願2024-78262号に係る特許であって、令和6年10月23日に特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和7年4月23日に特許異議申立人 林 法子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~7(全請求項))がされたものである。
以降の手続は以下のとおりである。
令和7年 7月17日付け 取消理由通知
同年 9月22日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年10月 3日付け 訂正請求があった旨の通知
同年11月 5日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和7年9月22日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、「特許第7576726号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」ことを請求の趣旨とするものであって、その内容は以下のとおりである。
<訂正事項1>
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「0質量ppmを超え10000質量ppm以下」とあるのを、
「100質量ppm~600質量ppm」と訂正する。
<訂正事項2>
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「0質量ppmを超え2000質量ppm以下」とあるのを、
「10質量ppm~2000質量ppm」と訂正する。
<訂正事項3>
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「85質量%以上」とあるのを、
「90質量%以上」と訂正する。
<訂正事項4>
訂正前の特許請求の範囲の請求項2に、
「90質量%以上」とあるのを、
「95質量%以上」と訂正する。
なお、訂正前の請求項1~7について、請求項2~7は、請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1~3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否についての判断
(1)訂正事項1
訂正事項1は、請求項1のピバル酸メチルの濃度が「0質量ppmを超え10000質量ppm以下」との発明特定事項を、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0020】に「成形体の耐久性の観点からは、組成物に含まれるピバル酸メチルの濃度は、組成物全体の10質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましく、100質量ppm以上であることがさらに好ましい。」と記載され、【0021】に「組成物に含まれるピバル酸メチルの濃度の上限値は、例えば、5000質量ppm以下、2000質量ppm以下、1000質量ppm以下、又は600質量ppm以下であってもよい。」と記載されていることに基づいて、「100質量ppm~600質量ppm」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものでもない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項1のメチルブテン酸メチルの濃度が「0質量ppmを超え2000質量ppm以下」との発明特定事項を、本件明細書の【0024】に「成形体の耐熱性の観点からは、組成物に含まれるメチルブテン酸メチルの濃度は、組成物全体の10質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましく、100質量ppm以上であることがさらに好ましく、300質量ppm以上であることがさらに好ましく、500質量ppm以上であることがさらに好ましい。」と記載されていることに基づいて、「10質量ppm~2000質量ppm」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものでもない。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、請求項1のメタクリル酸メチルの含有量が「85質量%以上」との発明特定事項を、本件明細書の【0014】に「組成物中のメタクリル酸メチルの含有量は特に制限されず、組成物を用いて得られるポリメタクリル酸メチルの用途等に応じて選択できる。メタクリル酸メチルの含有量は、例えば、組成物全体の85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上であってよい。」と記載されていることに基づいて、「90質量%以上」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものでもない。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項2のメタクリル酸メチルの含有量が「90質量%以上」との発明特定事項を、本件明細書の【0014】に「組成物中のメタクリル酸メチルの含有量は特に制限されず、組成物を用いて得られるポリメタクリル酸メチルの用途等に応じて選択できる。メタクリル酸メチルの含有量は、例えば、組成物全体の85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上であってよい。」と記載されていることに基づいて、「95質量%以上」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものでもない。
(5)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~4につき、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを認める。
第3 本件発明について
上記第2のとおり、本件訂正が認められたため、本件特許の請求項1~7に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明7」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
メタクリル酸メチル、ピバル酸メチル及びメチルブテン酸メチルを含有し、
ピバル酸メチルの濃度が組成物全体の100質量ppm~600質量ppmであり、
メチルブテン酸メチルの濃度が組成物全体の10質量ppm~2000質量ppmであり、
メタクリル酸メチルの含有量が組成物全体の90質量%以上である、組成物。
【請求項2】
メタクリル酸メチルの含有量が組成物全体の95質量%以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
メタクリル酸メチルが、再生メタクリル酸メチル又はバイオ由来メタクリル酸メチルを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の組成物の硬化物。
【請求項7】
請求項6に記載の硬化物を含む、成形体。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由、取消理由通知書に記載した取消理由の概要、証拠方法
1 申立人が提出した特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要
申立書に記載された申立理由は、以下のとおりである。
(1)申立理由1
本件発明1~7は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であり特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるか、又は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第4号証に記載されているような本件出願時における技術常識に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、同法第113条第2号に該当し取消されるべきものである。
(2)申立理由2
本件発明1~7は、以下の点で、本件出願時における技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明に記載されたものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、同法第113条第4号に該当し取消されるべきものである。
本件明細書の実施例1~4及び比較例1では、メタクリル酸メチルへのピバル酸メチル及びプロピオン酸メチルの添加量を以て、ピバル酸メチル及びプロピオン酸メチルの含有量とされているため、本件発明の効果を確認できない。
本件明細書には、限られた実施例しか開示されておらず、これらによって、広範囲に亘る本件発明が、本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)を解決できることを確認することはできない。
2 取消理由通知書に記載した取消理由の概要
令和7年7月17日付け取消理由通知書に記載した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由通知書の第3に記載した取消理由(以下「取消理由第3」という。)
本件発明1、3~7は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3~7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
本件発明1~7は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)取消理由通知書の第4に記載した取消理由(以下「取消理由第4」という。)
本件発明1~7は、以下の点で、本件出願時における技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明に記載されたものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、同法第113条第4号に該当し取消されるべきものである。
ピバル酸メチルとメチルブテン酸メチルの濃度が0質量ppmより僅かに大きい態様においても、本件課題を解決できる、と当業者が認識できるとはいえない。
3 申立人が申立書に添付して提出した証拠方法
・甲第1号証:Elnaz Esmizadeh, four others, "Waste Polymethyl Methacrylate (PMMA): Recycling and High-Yield Monomer Recovery", Handbook of Ecomaterials, 2018, p.1-33(https://irantypist.com/media/new_research/samplefile/1670845223_9764.pdf)
・甲第1-2号証:甲第1号証の部分和訳
・甲第2号証:特開2010-254742号公報
・甲第3号証:特開2010-248501号公報
・甲第4号証:特開2010-261025号公報
第5 当審の判断
1 取消理由第3(甲第1号証に基づく新規性、進歩性)、申立理由1(甲第1号証に基づく新規性、進歩性)について
取消理由第3と申立理由1とは、ともに甲第1号証に基づくものであるから、これらについてまとめて判断する。
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。なお、甲第1号証は英語により記載されているため、以下、日本語訳により記載する。
「廃棄ポリメチルメタクリレート(PMMA)
リサイクルと高収率モノマー
回収」(第1頁タイトル)
「
[図:0001434162000001.jpg]
」(第2~3頁「Introduction」欄)
「円錐噴流床反応器(CSBR)
・・・
[図:0001434162000002.jpg]
」(第18~21頁「Conical Spouted Bed Reactor(CSBR)」欄)
「
[図:0001434162000003.jpg]
」(第22頁)
ここで、表7の生成物は、各成分の合計量から「CO~1,3-ブタジエン」を含む気体生成物と、「アセトアルデヒド~未確認」を含む液体生成物が存在するものと解される。その上で、表7の右から2番目の液体生成物に着目すると、甲第1号証には、
「CSBR中でPMMAを熱分解して得られた液体生成物であって、液体生成物全体を96.34とした際に、各成分を以下の重量割合で含む液体生成物
[図:0001434162000004.jpg]
」
が記載されていると認める(以下「甲1発明」という。)。
(2)本件発明1について
ア 対比
甲1発明と本件発明1とを対比すると、甲1発明の「MMA」は「メチルメタクリレート」の略語であるから本件発明1の「メタクリル酸メチル」に相当し、「プロパン酸,2,2-ジメチル-メチルエステル」は「ピバル酸メチル」の別名であるから本件発明1の「ピバル酸メチル」に相当する。また、甲1発明の「3-ブテン酸,2-メチル,メチルエステル」は、メチル置換基を1つ有するブテン酸のメチルエステル化合物であるから、本件発明1の「メチルブテン酸メチル」に相当する。さらに、甲1発明の「液体生成物」は本件発明1の「組成物」に相当する。
そうすると、両者は以下の点で一致する。
「メタクリル酸メチル、ピバル酸メチル及びメチルブテン酸メチルを含有する、組成物。」
そして、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1における各成分の含有量は
「ピバル酸メチルの濃度が組成物全体の100質量ppm~600質量ppmであり、
メチルブテン酸メチルの濃度が組成物全体の10質量ppm~2000質量ppmあり、
メタクリル酸メチルの含有量が組成物全体の90質量%以上である」
のに対し、甲1発明における各成分の含有量は、
「プロパン酸,2,2-ジメチル-メチルエステルの割合は0.01/96.34=0.000104であるから、104質量ppm
3-ブテン酸,2-メチル,メチルエステルの割合は0.03/96.34=0.000311であるから、311質量ppm
メチルメタクリレートの割合は82.58/96.34=0.857であるから、85.7質量%」
である点
イ 判断
甲1発明におけるメチルメタクリレートの割合は85.7質量%であるから、上記相違点1は、実質的な相違点である。
その上で、甲第1号証のIntroduction欄から明らかなとおり、甲第1号証はPMMAのリサイクル技術を紹介する文書であり、同欄には「PMMAを高効率でリサイクルする方法は、依然として深い調査を必要とする議論の余地のある問題です。」とも記載されていることから、当該文書に触れた当業者であれば、高効率でリサイクルすることを目指すものと認められる。
しかしながら、甲第1号証には、甲1発明と同様にCSBR中でPMMAを熱分解して得られた液体生成物として、メタクリル酸メチルの含有量が90質量%以上のものは開示されておらず、かつ、CSBR中でPMMAを熱分解して得られる液体生成物のメタクリル酸メチルの含有量を90質量%以上とするための具体的な手段も開示されていないため、甲1発明から、どのように改変すればメタクリル酸メチルの含有量を90質量%以上とすることができるのか、当業者であっても理解できない。
また、熱分解の条件を改変すれば、メタクリル酸メチル以外の成分の含有量も変化する蓋然性が高く、仮にメタクリル酸メチルの含有量を90質量%以上とし得る条件で熱分解をすることができたとしても、そのような場合において、「ピバル酸メチルの濃度が組成物全体の100質量ppm~600質量ppm」及び「メチルブテン酸メチルの濃度が組成物全体の10質量ppm~2000質量ppm」の要件を満たすか否かは不明である。
そうすると、上記相違点1に係る構成は、当業者が容易になし得たものではない。
なお、本件出願時の技術常識を示す甲第2号証~甲第4号証には、相違点1についての記載はなく、これらの記載を参酌しても、上記判断に変わりはない。
ウ 小括
以上より、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第4号証に記載されているような本件出願時における技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1を直接ないし間接的に引用した上で、さらに特定するものであるから、上記(2)と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第4号証に記載されているような本件出願時における技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)申立人の主張について
ア 申立人は、令和7年11月5日提出の意見書において、本件訂正後の本件発明1~7について、甲第1号証に基づく新規性、進歩性に関し、以下のとおり主張している。
<主張1>CSBR反応器の温度を、673K(400℃)を超え823K(550℃)までの温度で行うことにより、PMMAの熱分解生成物におけるMMAの含有量を訂正発明1の「90質量%以上」や、訂正発明2の「95質量%以上」程度に高めることは、当業者が適宜なし得ることである(意見書のp.4)
<主張2>上記主張1は、甲第1号証の12頁のTable4において、440℃~500℃の温度で、3種のグレードのPMMA(バージン、廃自動車テールランプレンズ、廃導光板)を熱分解した解重合生成物のGC-MS(ガスクロマトグラ-質量分析)から得られた各成分の量が示されており、MMA(メタクリル酸メチル)の含有量が95.65~97.3質量% となっていることからも明らかである(意見書のp.4~5)
<主張3>メタクリル酸メチルの含有量を組成物全体の「90質量%以上」又は「95質量%以上」と規定することにより、訂正発明1や訂正発明2が格別・格段の効果を発揮するとはいえない(意見書のp.5)
<主張4>特許権者は、「メタクリル酸メチルの含有量を90質量%以上に高めた場合には、甲1発明のピバル酸メチルの割合(104質量ppm) は100質量ppm以上になる蓋然性は低い」とする具体的な根拠を何ら示していない(意見書のp.5~6)
<主張5>ピバル酸メチルの濃度の下限値を「100質量ppm」に設定する技術的意味、作用効果の差異、臨界的意義等については何ら把握・理解することはできない(意見書のp.6)
イ 上記主張について判断する。
主張1、3~5につき、上記(2)イに示したとおり、「ピバル酸メチルの濃度が組成物全体の100質量ppm~600質量ppm」、「メチルブテン酸メチルの濃度が組成物全体の10質量ppm~2000質量ppm」、「メタクリル酸メチルの含有量が組成物全体の90質量%以上」を、同時に満たすことは、甲1発明に基づいて、当業者が適宜なし得ることとはいえず、この判断を覆す主張とは認められない。
主張2につき、申立人が根拠とする記載は、CSBR反応器を用いたPMMAの熱分解に関する記載ではなく、採用できない。
ウ 以上より、申立人の主張はいずれも採用できない。
(5)取消理由第3、申立理由1(甲第1号証に基づく新規性、進歩性)のまとめ
上記(2)~(3)に示したとおり、本件発明1~7は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第4号証に記載されているような本件出願時における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
2 取消理由第4(サポート要件)、申立理由2(サポート要件)について
取消理由第4と申立理由2とは、ともにサポート要件に関するものであるから、これらについてまとめて判断する。
(1)特許法第36条第6項第1号に規定する要件の判断基準
一般に、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、本件明細書のサポート要件の存在は、本件特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である。
(2)本件課題
本件明細書には
「【0006】
・・・
上記事情に鑑み、本開示の一実施形態は、耐熱性に優れる成形体が得られる組成物、この組成物を用いて得られる重合体、硬化物及び成形体、並びにこの組成物を用いるポリメタクリル酸メチルの製造方法を提供することを課題とする。」
と記載されていることから、本件課題は、「耐熱性に優れる成形体が得られる組成物、この組成物を用いて得られる重合体、硬化物及び成形体、並びにこの組成物を用いるポリメタクリル酸メチルの製造方法を提供すること」であると認められる。
(3)検討
本件発明1は、「ピバル酸メチルの濃度が組成物全体の100質量ppm~600質量ppmであり、
メチルブテン酸メチルの濃度が組成物全体の10質量ppm~2000質量ppmであり」との特定事項を備えるものである。
これに対し、本件明細書には、上記特定事項に関し、以下のとおり記載されている。
「【0012】
後述する実施例に示すように、メタクリル酸メチルを含む組成物にピバル酸メチル及びメチルブテン酸メチルを添加した組成物を用いて得られる成形体は、メタクリル酸メチルを含む組成物にピバル酸メチルのみを添加した組成物を用いて得られる成形体に比べ、優れた耐熱性を示す。
成形体の耐熱性の指標として具体的には、5%重量減少温度及びガラス転移温度が挙げられる。成形体の5%重量減少温度が高いほど成形体が熱分解しにくく、成形体の耐久性(熱安定性)に優れると判断できる。成形体のガラス転移温度が高いほど、成形体の耐熱性に優れる傾向にある。
本開示の組成物を用いて得られる成形体は、5%重量減少温度又はガラス転移温度のいずれかが少なくとも向上するか、いずれもが向上する。
さらに、メタクリル酸メチルを含む組成物にピバル酸メチル及びメチルブテン酸メチルを添加した組成物を用いて得られる成形体は、成形体の残留MMA濃度が低い傾向にある。これは、成形体に含まれる未重合成分が少なく、耐久性又は耐熱性に優れることを意味する。」
「【0019】
後述する参考例に示すように、メタクリル酸メチルを含む組成物にピバル酸メチルを添加した組成物は、メタクリル酸メチルを含むがピバル酸メチルを添加していない組成物に比べて得られる成形体の残留MMA濃度が低い傾向にある。
【0020】
成形体の耐久性の観点からは、組成物に含まれるピバル酸メチルの濃度は、組成物全体の10質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましく、100質量ppm以上であることがさらに好ましい。」
「【0024】
成形体の耐熱性の観点からは、組成物に含まれるメチルブテン酸メチルの濃度は、組成物全体の10質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましく、100質量ppm以上であることがさらに好ましく、300質量ppm以上であることがさらに好ましく、500質量ppm以上であることがさらに好ましい。」
これらの記載から、本件発明において、その課題を解決するために、ピバル酸メチルとメチルブテン酸メチルを組成物に配合しているものと認められ、ピバル酸メチルのさらに好ましい配合量は「100質量ppm以上」であり、メチルブテン酸メチルの好ましい配合量は「10質量ppm以上」であると認められる。
加えて、本件明細書には、ピバル酸メチルの濃度を300質量ppmとし、3-メチル-2-ブテン酸メチルの濃度を100~2000質量ppmとした実施例とともに、ピバル酸メチルの濃度を300質量ppmとし、メチルブテン酸メチルを含まない比較例が示されており、当該実施例において、耐熱性の向上が確認されている。
そうすると、本件明細書には、ピバル酸メチル及びメチルブテン酸メチルを併用することにより、成形体の耐熱性を向上し得る旨が記載されており、それらの好ましい配合量は、ピバル酸メチルは100質量ppm以上であり、メチルブテン酸メチルは10質量ppm以上であり、実施例において成形体の耐熱性を向上し得ることが確認されているのであるから、当業者であれば、配合量の多少により効果の大小が影響されることはあるとしても、好ましい配合割合とされるピバル酸メチルを100質量ppm以上、メチルブテン酸メチルを10質量ppm以上含む組成物は、これらの成分を含有しない組成物に比べれば、成形体の耐熱性を向上し得ると認識できると認められる。
(4)小括
以上より、本件発明1は、本件課題を解決できると当業者が認識できるものであり、発明の詳細な説明に記載された発明である。本件発明2~7についても、同様である。
(5)申立人の主張について
ア 申立人は、令和7年11月5日に提出した本件訂正後の本件発明1~7について、サポート要件に関し、以下のとおり主張している。
<主張1>本件明細書には、どのような作用機序により、成形体の耐熱性を優れたものにできるのかについて何ら説明されておらず、限られた実施例から、ピバル酸メチルの含有量が100質量ppm~600質量ppmであり、メチルブテン酸メチルの含有量が10質量ppm~2000質量ppmという広範囲に亘って成形体の耐熱性を優れたものにできることを当業者が認識できるとはいえない(意見書p.9)
<主張2>比較例の0質量ppmと実施例1の100質量ppmの間のどこで、成形体の耐熱性の指標である5%重量減少温度やガラス転移温度が急激に上昇するのかは不明である(意見書p.10)
<主張3>本件明細書の作用機序を伴わない定性的な記載に基づく追試結果のみに依って、耐熱性に優れる成形体が得られるピバル酸メチル及びメチルブテン酸メチルの濃度の範囲を裏打ちすることは、適切ではない(意見書p.11~16)
<主張4>本件明細書の実施例では、組成物のピバル酸メチル及びプロピオン酸メチルの含有量を直接測定するのではなく、メタクリル酸メチルへのピバル酸メチル及びメチルブテン酸メチルの添加量を以てピバル酸メチル及びメチルブテン酸メチルの含有量とされているから、実施例1~4及び比較例1によっては訂正発明の効果を確認できるとはいえない(意見書p.18~19)
<主張5>特に、訂正発明3はメタクリル酸メチルが再生メタクリル酸メチルである態様を包含し、再生メタクリル酸メチルには、大量にピバル酸メチル及びメチルブテン酸メチルを含む蓋然性が高いため、実施例1~4によっては訂正発明の効果を確認できるとはいえない(意見書p.19~20)
イ 主張1につき、上記(3)に示したとおり、当業者であれば、配合量の多少により効果の大小が影響されることはあるとしても、これらの成分を含有しない組成物に比べれば、成形体の熱分解性を制御し得ると認識できると認められるから、主張1は採用できない。
ウ 主張2につき、本件課題は、成形体の耐熱性を優れたものとすることであって、申立人が主張するような「急激に上昇する」ことを要するものではないから、主張2は採用できない。
エ 主張3につき、実験成績証明書の採否にかかわらず、上記(3)に示したとおり、当業者であれば、本件発明が本件課題を解決できることを、本件明細書の記載から認識できると認められるから、主張3は採用できない。
オ 主張4につき、本件明細書の【0013】には「メタクリル酸メチルは、発明の目的を損なわないことを前提としてこれに限定されない。換言すると、「メタクリル酸メチル」は常法に従う精製方法によっては除去しきれない不純物を含みうるか、又は、常法に従う検出方法によっては検出できない程度の含有量で不純物を含みうる。」と記載されていることから、本件発明において特定されるピバル酸メチル及びメチルブテン酸メチルの含有量は、原料のメタクリル酸メチルにあらかじめ含まれていたもの、原料のメタクル酸メチルに後から添加したものを区別することなく、それらの合計量であると認められる。その上で、本件明細書の【0077】には「組成物1の組成を表1にも示す」と記載されており、通常の日本語として解すると、「組成物の組成」が記載されているものと認められ、申立人が主張するような添加量を以て含有量とした旨の記載はない。また、表1には「組成物の組成」が記載されていると解釈することにより、明らかな技術的不整合が生じるわけでもない。このため、主張4は採用できない。
カ 主張5につき、実施例1~4及び比較例1に使用されたメタクリル酸メチルが再生メタクリル酸メチルである旨の記載は存在しないし、本件発明において特定されるピバル酸メチル及びメチルブテン酸メチルの含有量は、原料のメタクリル酸メチルにあらかじめ含まれていたもの、原料のメタクル酸メチルに後から添加したものを区別することなく、それらの合計量であると認められるから、これらの成分を大量に含む再生メタクリル酸メチルを用いる際には、何らかの対策を講じ、合計量が本件発明の範囲内となるようにすることは当然である。このため、主張5は採用できない。
(6)取消理由第4、申立理由2(サポート要件)のまとめ
以上より、本件発明1~7は、本件発明の詳細な説明に記載されたものである。
第6 むすび
以上のとおりであるから、申立書に記載した取消理由及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、上記結論のとおり決定する。
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2025-700455