特許異議申立
2023-701075
射出成形に用いるポリエステル樹脂組成物の製造方法
- 審判番号
- 2023-701075
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-154908
- 登録番号
- 7254138
- 請求日
- 2023年10月06日
- 審決日
- 2024年06月10日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
- 【権利者代理人】弁理士法人南青山国際特許事務所
- 【異議申立人】平居 博美
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 藤井 勲
- 審判官 北澤 健一
- 分類
- P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第113条第2号、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7254138号発明「射出成形に用いるポリエステル樹脂組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7254138号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第7254138号の請求項1に係る特許を維持する。
特許第7254138号の請求項2、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7254138号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和3年9月22日(優先権主張 令和3年5月11日)に出願され、令和5年3月30日に特許権の設定登録がされ、同年4月7日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和5年10月6日に、特許異議申立人である平居博美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~3)がされた。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和6年 1月 5日付け 取消理由通知書
同年 3月29日提出 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 4月 4日付け 訂正請求があった旨の通知書(申立人宛て)
同年 5月 9日提出 意見書(申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を表し、当審が付した。)。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の「ポリエステル樹脂組成物」が、「前記改質リサイクルポリエステル粒子と、バージンポリエステル粒子とを混合することによって、」とあるのを、「前記改質リサイクルポリエステル粒子と、バージンポリエステル粒子のみを混合することによって、」と訂正するとともに、訂正前の請求項1に訂正前の請求項2、3の構成を組み込み、すなわち「前記ポリエステル樹脂組成物は、前記ポリエステル樹脂組成物の総重量に基づいて、20~50重量%の前記改質リサイクルポリエステル粒子と、50~80重量%のバージンポリエステル粒子とからなる、」ことを更に特定するように訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2、3を削除する。
(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1~3について、請求項2、3は請求項1を引用しているものであり、訂正事項1によって、記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~3は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
よって、本件訂正は、一群の請求項〔1-3〕に対してされたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「ポリエステル樹脂組成物」が「前記改質リサイクルポリエステル粒子と、バージンポリエステル粒子とを混合することによって、」とあるのを、訂正後の請求項1において、「前記改質リサイクルポリエステル粒子と、バージンポリエステル粒子のみを混合することによって、」とする訂正(以下、「訂正事項1-1」という。)、及び、訂正前の請求項2、3を組み込んで、「前記ポリエステル樹脂組成物は、前記ポリエステル樹脂組成物の総重量に基づいて、20~50重量%の前記改質リサイクルポリエステル粒子と、50~80重量%のバージンポリエステル粒子とからなる、」とする訂正(以下、「訂正事項1-2」という。)である。
まず、訂正事項1-1は、「ポリエステル樹脂組成物」を構成する「ポリエステル粒子」を2種の「ポリエステル粒子」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1-1による訂正は、本件特許の明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0065】~【0067】及び表2からみて、「ポリエステル樹脂組成物」が「改質リサイクルポリエステル粒子」と「バージンポリエステル粒子」のみを混合して製造することが理解できるから、訂正事項1-1による請求項1についての訂正は、本件明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
ついで、訂正事項1-2は、「ポリエステル樹脂組成物」の組成を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項1-2による訂正は、訂正前の請求項2、3を組み込むものであるから、本件明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項2による訂正は、本件明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。
3 独立特許要件
訂正前の全ての請求項1~3について特許異議申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
4 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正請求により訂正された請求項1~3に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである。
「【請求項1】
リサイクルポリエステル材料を切断することと、
切断した前記リサイクルポリエステル材料を解重合液に投入することにより、前記リサイクルポリエステル材料の解重合を行って、オリゴマー混合物を得ることと、
前記オリゴマー混合物を分離・精製し、前記オリゴマー混合物に艶消し剤を添加して、再重合により、65~72重量%のテレフタル酸成分と、28~31重量%のエチレングリコール成分と、0.1~5重量%のイソフタル酸成分とを含有する改質リサイクルポリエステル粒子を製造することと、
前記改質リサイクルポリエステル粒子と、バージンポリエステル粒子のみを混合することによって、固有粘度(IV)が0.5~0.85dL/gであるポリエステル樹脂組成物を製造することとを、含み、
前記ポリエステル樹脂組成物は、前記ポリエステル樹脂組成物の総重量に基づいて、20~50重量%の前記改質リサイクルポリエステル粒子と、50~80重量%のバージンポリエステル粒子とからなる、ことを特徴とする射出成形に用いるポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)」
以下では、本件特許の請求項1~3に係る発明を、「本件発明1」~「本件発明3」といい、総称して「本件発明」ともいう。
第4 特許異議申立書の申立理由及び当審が通知した取消理由
1 特許異議申立書(以下、「申立書」ということがある。)の申立理由
(1)申立理由1(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~10号証に記載された事項に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の訂正前の請求項1~3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(実施可能要件違反)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
具体的な理由の概要は以下のとおり。
ア 「固有粘度(IV)が0.5~0.85dL/g」の測定条件が不明であり、固有粘度を確定できないから本件発明1のポリエステル樹脂組成物を製造できない。
イ 「艶消し剤」の含有量は不明であるから改質リサイクルポリエステル粒子の総重量を確定できず、本件発明1の改質リサイクルポリエステル粒子、及びポリエステル樹脂組成物を製造できない。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許の訂正前の請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由の概要は以下のとおり。
ア 「改質リサイクルポリエステル粒子と、バージンポリエステル粒子とを混合すること」について、あらゆる混合比率において発明の課題を解決できることはサポートされていない。
イ 「艶消し剤」について、艶消し剤を含む具体的な構成が開示されておらず、サポートされていない。
2 申立書及び意見書とともに提出された証拠方法
(1)申立書に添付した証拠方法
・甲第1号証:特開2011-256328号公報
・甲第2号証:特開2006-316095号公報
・甲第3号証:特開2009-215396号公報
・甲第4号証:特開2015-157900号公報
・甲第5号証:特開2012-91862号公報
・甲第6号証:特開2014-80594号公報
・甲第7号証:特開2003-160652号公報
・甲第8号証:特表2021-504064号公報
・甲第9号証:特開2015-155484号公報
・甲第10号証:特開2019-210429号公報
(2)令和6年3月29日提出の意見書に添付された証拠方法
・乙第1号証:国際公開第01/32756号
(3)令和6年5月9日提出の意見書に添付された証拠方法
・甲第11号証:エコマーク商品類型 No.118 「プラスチック製品 Version2.10」認定基準書、(公財)日本環境協会 エコマーク事務局、2020年11月1日
・甲第12号証:PETボトルリサイクル推奨マーク認定基準、PETボトル協議会 推奨マーク認定委員会、2021年9月15日
・甲第13号証:特開2015-101057号公報
・甲第14号証:特開2017-203116号公報
・甲第15号証:特表2014-525965号公報
・甲第16号証:特表2005-511878号公報
・甲第17号証:特開2005-97617号公報
・甲第18号証:特開2002-161166号公報
・甲第19号証:特表2022-540546号公報
以下、甲第1号証~甲第19号証、乙第1号証をそれぞれ「甲1」~「甲19」、「乙1」という。
なお、甲19は、本件特許の優先日(令和3年5月11日)時点では公開されていないため、そのパテントファミリーである国際公開第2021/010591号(国際公開日:令和3年1月21日)を「甲19参」として、以下、検討する。
3 当審が通知した令和6年1月5日付け取消理由通知の取消理由
当審で通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
・取消理由1(進歩性)
本件発明1~3は、甲1及び周知技術に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・取消理由2(実施可能要件)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
具体的理由の概要は以下のとおり。
本件明細書には、「固有粘度(IV)」に関する記載があるところ、その「固有粘度(IV)」がいかなる条件で測定されたものであるのか、開示も示唆もされていない。一般的に、「固有粘度(IV)」は、溶媒の種類や測定温度などの測定条件によって影響を受けるものであるから、本件発明1で特定する「固有粘度(IV)」を満たすために、どのようにすればよいか不明であって、過度な試行錯誤を要するものである。
・取消理由3(サポート要件)
本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
具体的理由の概要は以下のとおり。
実施例で示されている「ポリエステル樹脂組成物を100重量%として、50~80重量%としてのバージンポリエステル粒子と、20~50重量%の改質リサイクルポリエステル粒子とを含有」するとき以外に、本件発明1の課題を解決することが十分かつ客観的に裏付けられていない。
第5 当審の判断
当審は、上記第4の各申立理由及び取消理由のいずれによっても、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
また、上記第2に示したとおり、請求項が削除されたことにより申立ての対象が存在しないものとなったので、本件特許の請求項2、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
1 申立理由1(甲1を主引例とする進歩性欠如)及び取消理由1(進歩性)について
申立理由1(甲1を主引例とする進歩性欠如)は、取消理由1(進歩性)と、主引例を同じくするものであるから、併せて検討する。
(1)甲1に記載された発明
甲1において、バージンPET、ケミカルリサイクルによる再生PET、メカニカルリサイクルによる再生PETに関する記載(【0025】~【0027】)、ポリエステル樹脂を射出成形機によりプリフォームを成形することの記載(【0032】)に着目して、実施例4を射出成形機に供給される前のブレンドにより得られる組成物の製造方法として整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
「バージンPET材料1の5015W(固有粘度0.83)と、メカニカルリサイクルによる再生PET材料TEST-A(固有粘度0.83)と、ケミカルリサイクルによる再生PET材料KP-123(固有粘度0.82)とを、50:15:35の重量比でブレンドしてなる組成物の製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「バージンPET材料1の5015W」と本件発明1の「バージンポリエステル粒子」とは、「バージンポリエステル」である限りにおいて一致する。
(イ)甲1発明の「ケミカルリサイクルによる再生PET材料KP-123」について、甲1には、回収PETのケミカルリサイクルの方法として、「(i)回収PETを粉砕、洗浄、異物分別等を行った後、フレーク又はペレット状にする前処理工程、(ii)前処理で得られたフレーク又はペレットを、エチレングリコールを用いて解重合して、ビス-β-ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)を得る解重合工程、(iii)PET以外のプラスチック成分を除去する異物除去工程、(iv)得られたBHETを濃縮するBHET濃縮工程、(iv)BHETを原料とするPET生成工程、から成っており、原料レベルまで解重合することにより蒸留、濾過などの高度な精製手法が採用できること」(【0012】)が記載されている。
そうすると、上述の甲1発明の「ケミカルリサイクルによる再生PET材料KP-123」を得ることと、本件発明1の「リサイクルポリエステル材料を切断することと、
切断した前記リサイクルポリエステル材料を解重合液に投入することにより、前記リサイクルポリエステル材料の解重合を行って、オリゴマー混合物を得ることと、
前記オリゴマー混合物を分離・精製し、前記オリゴマー混合物に艶消し剤を添加して、再重合により、65~72重量%のテレフタル酸成分と、28~31重量%のエチレングリコール成分と、0.1~5重量%のイソフタル酸成分とを含有する改質リサイクルポリエステル粒子を製造すること」とは、「リサイクルポリエステル材料を切断することと、切断した前記リサイクルポリエステル材料を解重合液に投入することにより、前記リサイクルポリエステル材料の解重合を行って、オリゴマー混合物を得ることと、前記オリゴマー混合物を分離・精製し、」「再重合により、」「改質リサイクルポリエステル」「を製造すること」である限りにおいて一致する。
(ウ)甲1発明の「組成物」は、「バージンPET材料1の5015W(固有粘度0.83)と、メカニカルリサイクルによる再生PET材料TEST-A(固有粘度0.83)と、ケミカルリサイクルによる再生PET材料KP-123(固有粘度0.82)とを、50:15:35の重量比でブレンド」して製造されるものであるから、各々の固有粘度からみて、「組成物」の固有粘度は、0.82~0.83近辺であると認められる。
そうすると、上述の甲1発明の「組成物」を製造することと、本件発明1の「前記改質リサイクルポリエステル粒子と、バージンポリエステル粒子のみを混合することによって、固有粘度(IV)が0.5~0.85dL/gであるポリエステル樹脂組成物を製造すること」とは、「固有粘度(IV)が0.5~0.85dL/gであるポリエステル樹脂組成物を製造すること」である限りにおいて一致する。
(エ)甲1発明の「組成物」は、「バージンPET材料1」、「ケミカルリサイクルによる再生PET」、「メカニカルリサイクルによる再生PET」を含むものであるから、「ポリエステル組成物」である。
そして、上記「組成物」が、射出成形機に供給されてボトル用プリフォームに成形されることが甲1から読み取れるから(【0032】)、射出成形用であることが明らかであり、本件発明1の「射出成形用に用いるポリエステル樹脂組成物」に相当する。
(オ)甲1発明において、「バージンPET材料1」、「ケミカルリサイクルによる再生PET」、「メカニカルリサイクルによる再生PET材料」をブレンドしてなる組成物の製造方法は、「バージンPET材料」と「リサイクルによる再生PET」とを原料とする限りにおいて、本件発明1の「ポリエステル樹脂組成物の製造方法」に相当する。
以上から、本件発明1と甲1発明とは、
「リサイクルポリエステル材料を切断することと、
切断した前記リサイクルポリエステル材料を解重合液に投入することにより、前記リサイクルポリエステル材料の解重合を行って、オリゴマー混合物を得ることと、
前記オリゴマー混合物を分離・精製し、再重合により、改質リサイクルポリエステルを製造することと、
固有粘度(IV)が0.5~0.85dL/gであるポリエステル樹脂組成物を製造する、射出成形に用いるポリエステル樹脂組成物の製造方法。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
ポリエステル樹脂組成物の製造方法に関し、本件発明1が「前記オリゴマー混合物に艶消し剤を添加」するのに対し、甲1発明では不明である点
<相違点2>
改質リサイクルポリエステル(粒子)を構成する組成に関し、本件発明1が「65~72重量%のテレフタル酸成分と、28~31重量%のエチレングルコール成分と、0.1~5重量%のイソフタル酸成分とを含有する」のに対し、甲1発明では組成が不明である点
<相違点3>
改質リサイクルポリエステル及びバージンポリエステルの形状に関し、本件発明1では「粒子」であるのに対し、甲1発明では不明である点
<相違点4>
ポリエステル樹脂組成物の製造に際し、本件発明1が「前記改質リサイクルポリエステル粒子と、バージンポリエステル粒子のみを混合することによ」るのに対し、甲1発明が「バージンPET材料1」、「ケミカルリサイクルによる再生PET」、「メカニカルリサイクルによる再生PET」をブレンドする点
<相違点5>
ポリエステル樹脂組成物が、本件発明1では、「前記ポリエステル樹脂組成物の総重量に基づいて、20~50重量%の前記改質リサイクルポリエステル粒子と、50~80重量%のバージンポリエステル粒子とからなる」のに対し、甲1発明では、バージンPET材料1、メカニカルリサイクルによる再生PET材料、ケミカルリサイクルによる再生PET材料を、重量比で50:15:35で含む点
イ 判断
事案に鑑みて、相違点4及び相違点5を併せて検討する。
甲1発明における「組成物」は、「バージンPET材料1」、「メカニカルリサイクルによる再生PET材料」及び「ケミカルリサイクルによる再生PET材料」をブレンドしてなるものである。
そして、甲1には、以下の記載がある。
「【請求項2】
エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をケミカルリサイクルして成るケミカルリサイクルポリエステル樹脂と、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る容器をメカニカルリサイクルしてなるメカニカルリサイクルポリエステル樹脂とをブレンドして成るブレンド物を含有することを特徴とするポリエステル構造体。
・・・
【請求項5】
カラーb値が+2乃至-10の範囲に調整された、バージンのエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂又はケミカルリサイクルポリエステル樹脂を含有する請求項1乃至4の何れかに記載のポリエステル構造体。」
「【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレートから成るボトルを再生して成るリサイクルポリエステルを含有するポリエステル構造体に関するものであり、より詳細には、ケミカルリサイクルによる再生ポリエステル及びメカニカルリサイクルによる再生ポリエステルの両方を含有するポリエステル構造体及びプリフォームの製造方法に関する。」
「【0002】
エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル製ボトル(以下、「PETボトル」という)の消費は近年増大しており、使用済みPETボトルの再利用を図るべく、種々のリサイクル方法が確立されている。
PETボトルのリサイクル方法としては、一般に回収されたPETボトルを粉砕、アルカリ洗浄して繊維等に再利用するマテリアルリサイクルが主流であるが、マテリアルリサイクルによる再生PETを飲食用途のPETボトルに再利用する場合は、衛生性の問題から再生PETが直接飲食品に触れないことが必要であり、多層構成の中間層或いは外層として用いなければならないという制約があると共に、マテリアルリサイクルによる再生PETは、熱履歴が重なるため黄色味が強く、外観が重視されるPETボトルにおいては、エコマークを取得可能な25%以上の利用は困難である。
【0003】
・・・
ケミカルリサイクルは、回収されたPETボトルを化学分解して、原料レベルに差し戻してポリエチレンテレフタレートを再合成するものであり・・・、バージンPETと変わらないPETを再生することが可能であるが、バージンPETを生成するよりもコストがかかるという問題がある。
【0004】
一方、メカニカルリサイクルは、上述したマテリアルリサイクルにおけるアルカリ洗浄をより厳密に行うこと、或いは高温で真空乾燥すること等によって、マテリアルリサイクルよりもPETの汚れを確実に取り除くことを可能にした手法である・・・。このメカニカルリサイクルによる再生PETは、欧米では既に飲食品と直接触れる用途への使用が認められており、今後日本においてもかかる用途への利用の拡大が予想されるものであるが、マテリアルリサイクルと同様再生PETは黄色味が強いという問題を有している。」
「【0006】
・・・
本発明の目的は、ケミカルリサイクル及びメカニカルリサイクルによる再生PETを利用することにより、環境性を具備しながら、満足する経済性及び外観特性を有するポリエステル容器を提供することである。」
「【0010】
・・・
また本発明のプリフォームの製造方法によれば、ケミカルリサイクル及びメカニカルリサイクルのそれぞれによって再生されたPETを所定量比でブレンドしてプリフォームを成形することにより、環境性に優れると共に、飲食品用途に使用可能なプリフォームを製造することが可能になる。」
「【0011】
更に、メカニカルリサイクルに比して安定して再生PETの供給が可能なケミカルリサイクルよる再生PETの供給量を基準に、メカニカルリサイクルによる再生PETの配合量を変化させることにより、バージンPETから成るものと同程度の品質を有すると共に環境性に優れたプリフォームを、効率よく安定して製造することができる。」
これらの記載によると、リサイクルポリエステル樹脂には「ケミカルリサイクルポリエステル樹脂」、「メカニカルリサイクルポリエステル樹脂」等が知られていること、「ケミカルリサイクルポリエステル樹脂」はバージンPETと同等の性質を有するがコストがかかること、「メカニカルリサイクルポリエステル樹脂」は黄色味が強いこと、ケミカルリサイクル及びメカニカルリサイクルによる再生PETを利用することにより、環境性を具備しながら、満足する経済性及び外観特性を有するポリエステル容器を提供できることが理解できる。
そうすると、甲1発明は、「ケミカルリサイクルポリエステル樹脂」及び「メカニカルリサイクルポリエステル樹脂」には、環境性、経済性及び外観性の面で一長一短があるものの、これらを併用しても、お互いの短所をなるだけ小さくできる配合比で混合して、バージンポリエステル樹脂と同程度の品質を有しつつ、環境性に優れた成形体を製造できる方法であるといえる。
そして、甲1発明において、「ケミカルリサイクルポリエステル樹脂」と「メカニカルリサイクルポリエステル樹脂」とは併用するのが前提であって、バージンPETを含めた、甲1発明を構成する3種のポリエステル樹脂のうち、とりわけ「メカニカルリサイクルポリエステル樹脂」を使用しないことについて、甲1には記載も示唆もされていない。
してみると、甲1発明において、「メカニカルリサイクルポリエステル樹脂」を用いないという動機付けが存在しないのであるから、相違点4及び相違点5に係る構成は、当業者が容易に想到しえないものである。
また、PETリサイクルポリエステル粒子の使用比率を向上させ、PETバージン粒子の使用を低減しながらPET製品の機能を維持しつつ、射出成形に用いるポリエステル樹脂組成物、その製造方法及びその射出成形品を得るという、本件発明1の効果を、甲1の全記載から当業者は予測しえないものである。
よって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和6年5月9日付け意見書(第4頁~第13頁)で、甲1は、メカニカルリサイクル再生PETとケミカルリサイクル再生PETの比率を変更することで黄色味とコストのバランスを図る技術であり、メカニカルリサイクル再生PETとケミカルリサイクル再生PETとを組み合わせること自体に特有の技術的貢献、すなわち新たな効果はなく、当業者であれば甲1に基づいて、品質(外観性)を重視してケミカルリサイクル再生PETを使用するか、コストや環境負荷を重視してメカニカルリサイクル再生PETを使用するかは適宜選択できる設計事項であって、メカニカルリサイクル再生PETとバージンPETの組合せ、ケミカルリサイクル再生PETとバージンPETの組合せのいずれもバージンPETよりも環境負荷は小さくなるから、いずれの組合せも動機付けられる旨主張している。
しかしながら、上記イに示したように、甲1には、リサイクルポリエステル樹脂を用いたPETボトルにおいて、メカニカルリサイクル再生PETとケミカルリサイクル再生PETとを併用することで、バージンPETからなるPETボトルと同等の外観性を有しつつ、コストがかからないポリエステル樹脂が記載されているのであって、申立人が主張するような、メカニカルリサイクル再生PETとバージンPETの組合せ、又はケミカルリサイクル再生PETとバージンPETの組合せの、いずれの組合せについても、またそのような組合せにすることへの動機付けについても記載されていない。
よって、申立人の主張は採用できない。
2 申立理由2(実施可能要件違反)及び取消理由2(実施可能要件)
申立理由2(実施可能要件違反)の上記第4 1(2)アと取消理由2(実施可能要件)とは、同旨であるから、併せて検討する。
(1)特許法第36条第4項第1号の判断手法について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、方法や物を生産する方法の発明では、その方法を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明に記載があるか、そのような記載がない場合は、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その方法を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
(2)本件発明1について
本件発明1は、「固有粘度(IV)が0.5~0.85dL/gであるポリエステル樹脂組成物」との発明特定事項を有するものであるところ、本件明細書には、上記「固有粘度(IV)」について、その測定条件は何ら記載されていない。
ここで、本件明細書には、本件発明1がコンテナなどの射出成形品に用いられること(【0030】)が記載されており、該コンテナは、バージンポリエステル粒子と改質リサイクルポリエステル粒子とを有するポリエステル樹脂組成物から製造されるものであることから、実質的にポリエステルよりなるPETボトル等の容器を意味しているものと解される。
そこで、本件特許の優先日当時、PETボトル等の容器に用いられるポリエステル樹脂組成物が、どの程度の固有粘度を有するものであるのか、その測定条件も含めて確認していく。
乙1には、「(4)固有粘度」として、試料180mgをフェノール:テトラクロロエタン=3:2の混合溶媒に溶解し、ウベローデ型粘度管で25℃で測定したこと(第12頁第7行~第10行)、「参考例1~5(ポリエステルの製造)」として、ポリエステル製中空成形体のポリエステルが、参考例1、2では固有粘度(トリクロロフェノール2重量部とフェノール3重量部の混合溶媒、35℃)0.65~0.70、参考例3では固有粘度(テトラクロロエタン2重量部とフェノール3重量部の混合溶媒、25℃)0.83であること、参考例4、5では固有粘度(をテトラクロロエタン2重量部とフェノール3重量部の混合溶媒、25℃)0.44のプレポリマーを、加熱真空下で処理し、固有粘度(トリクロロフェノール2重量部とフェノール3重量部の混合溶媒、35℃)0.45のポリマー(ブレンド用)を得、ポリマー(ブレンド用)とPET(IV=0.83)とを、重量比でポリマー(ブレンド用)/PET=30/70、50/50のブレンドポリマーである熱可塑性ポリエステルを得たこと(第16頁第1行~第18頁第5行)が記載されている。
同様に、甲16には、「[試験方法]」として、固有粘度(IV)が20mlのジクロロ酢酸の中で、0.2gのポリマー合成物を溶解するまで加熱することによって決定されたこと、相対粘度(RV)がウベローデ型粘度系を用いて25℃の温度下で測定され、計算式を用いて固有粘度に変換されたこと(【0029】)、実施例1で1.5重量%のイソフタル酸を含むPET樹脂に対して、0~20%の廃棄ポリエステルとを触媒下で重合したプレポリマーの固有粘度が0.634~0.637であること(表1)、ついで固相重合され、目標とする固有粘度0.835とし、予備成形品が射出成形された後、ボトル状にブロー成形されたこと(【0034】~【0038】)が記載されている。
同様に、甲18には、再生PETポリエステル樹脂組成物の固有粘度IVの算出は、トリフルオロ酢酸ナトリウムを0.1%(W/v)HFIPに添加したものを溶媒として用いること(【0036】)、HFIPがヘキサフルオロイソプロパノール(あるいはヘキサフルオロ-2-プロパノール)であること(【0038】)、通常業界でバージンに使用のIV(dl/g)値0.8のペレットより製造されたPETボトルの粉砕品粉砕物(フレーク)の2試料の平均IV値が0.729であったこと、上記フレークを用い、減圧(真空)乾燥を行って二軸混練押出機でポリマーアロイの状態にし、さらにスクリューにて練上げサイジングダイでペレットを製造し、2試料の平均IV値が0.706であったこと、このペレットを用いて、触媒の注入及び/又はPENフレーク(ほぼ完全に洗浄されたもの)と適宜ブレンドして、加えて乾燥条件を適宜変更して得られた、2試料の平均IV値が0.702~0.809であること(以上、【0020】~【0033】)、極めてローコストで廃棄PETボトルのボトルtoボトルのリサイクルを可能にしたこと(【0134】)が記載されている。
同様に、甲19参には、「(1)固有粘度(IV)」として、試料をo-chlorophenolに1.2g/dlの濃度で150℃で15分間溶解させた後、Ubbelohde粘度管を用いて試料の固有粘度を測定したこと([70]~[76])、損失弾性率が増加する地点の温度が高くなると、ポリエステル樹脂が再利用PET樹脂の速い結晶化速度を効果的に遅らせて高透明性の厚い容器の製作に有効であること([104]~[108])、製造例1~9で固有粘度(IV)が0.55~0.95dl/gのポリエステル樹脂を得たこと([110]~[167])、「実施例および比較例:ポリエステル樹脂混合物の製造」として、製造例1~9で製造したポリエステル樹脂と、イソフタル酸の含有量が全体ジカルボン酸に対して3モル%以内で、固有粘度(IV)が0.75dl/gの再利用PET樹脂とを、重量比50:50で混合したポリエステル樹脂混合物を得たこと([206]~[208])が記載されている。
これらの記載によると、PETボトル等の容器に用いられるポリエステル樹脂組成物において、固有粘度(IV)の測定条件が異なっていても、固有粘度(IV)が0.50未満であったり、0.85より大きくなったりすることが少ないものと解される。
そうすると、一般に固有粘度(IV)は、溶媒の種類及び温度などの測定条件によって影響を受けることが技術常識であるところ、PETボトル等の容器に用いられるポリエステル樹脂組成物の固有粘度(IV)が、測定条件によって影響を受けたとしても、上述のとおり、本件発明1に特定された固有粘度(IV)の数値範囲と十分に重複しているといえる。
してみると、本件明細書に、固有粘度(IV)の測定条件が記載されていないことが、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や、複雑高度な実験等を要して、「固有粘度(IV)が0.5~0.85dL/gであるポリエステル樹脂組成物」を製造できないものであるとはいえない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合するものといえる。
(3)申立人の主張について
申立人は、令和6年5月9日付け意見書において、本件明細書には、固有粘度の測定条件の記載がなく、乙1に関する記載もないし、乙1、甲16~甲19参に見られるように、固有粘度に関する溶媒の種類や温度は複数存在するから、本件明細書及び技術常識を参酌しても乙1と同じ条件であるとはいえないし、測定条件が不明であるから「固有粘度(IV)が0.5~0.85dL/gであるポリエステル樹脂組成物」を製造できない旨主張している。
そこで検討するも、上記(2)に示したように、溶媒の種類や温度などの測定条件の違いによる影響を受けたとしても、PETボトル等の容器に用いられるポリエステル樹脂組成物は、本件発明1と同程度の固有粘度(IV)を有するものといえるから、本件明細書及び乙1、甲16~甲19参から読み取れる技術事項に基づいて、「固有粘度(IV)が0.5~0.85dL/gであるポリエステル樹脂組成物」を当業者が製造できるといえる。
また、測定条件の違いにおける固有粘度(IV)の差異がどの程度であるのか、申立人は具体的に示すことなく、実施可能要件を満たさない可能性を主張するのみで、当業者がポリエステル樹脂組成物を製造する際に、過度の試行錯誤や複雑高度な実験を要するとまではいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
3 申立理由3(サポート要件違反)及び取消理由3(サポート要件)
申立理由3(サポート要件違反)の上記第4 1(3)アと取消理由3(サポート要件)とは、同旨であるから、併せて検討する。
(1)特許法第36条第6項第1号の判断手法について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。
同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明が解決しようとする課題について
本件明細書には、組成比の改良により、PETリサイクルポリエステル粒子の使用比率を向上させ、PETバージン粒子の使用を低減しながらPET製品の機能を維持することは、この業界にとって解決しようとする重要な課題となること(【0007】)、本発明が解決しようとする技術の課題は、従来技術の不足に対し、射出成形に用いるポリエステル樹脂組成物、その製造方法及びその射出成形品を提供すること(【0008】)、リサイクル経済及びプラスチックリサイクルは、市場の発展傾向となっているので、製品におけるPETリサイクルポリエステル粒子の添加量を増加しつつ、機械的特性及び加工性を維持すると共に、材料のコストの要求を満たすことは、プラスチックのリサイクルにおいて解決しようとする重要な課題となっていること(【0028】)が記載されている。
そうすると、本件発明が解決しようとする課題は、「PETリサイクルポリエステル粒子の使用比率を向上させ、PETバージン粒子の使用を低減しながらPET製品の機能を維持しつつ、射出成形に用いるポリエステル樹脂組成物、その製造方法及びその射出成形品を提供すること」であると認める。
(3)本件発明1について
本件発明1では、「65~72重量%のテレフタル酸成分と、28~31重量%のエチレングリコール成分と、0.1~5重量%のイソフタル酸成分とを含有する「改質リサイクルポリエステル粒子(ケミカルリサイクルポリエステル粒子)」を製造すること、「改質リサイクルポリエステル粒子」と「バージンポリエステル粒子」のみを混合して、「固有粘度(IV)が0.5~0.85dL/gであるポリエステル樹脂組成物」を製造すること、及び「前記ポリエステル樹脂組成物は、前記ポリエステル樹脂組成物の総重量に基づいて、20~50重量%の前記改質リサイクルポリエステル粒子と、50~80重量%としてのバージンポリエステル粒子とからなる」ことが特定されている。
そして、本件明細書には、改質リサイクルポリエステル粒子が、65~72重量%のテレフタル酸と、28~31重量%のエチレングリコールと、0.1~5重量%のイソフタル酸を含有することで、ポリエステル樹脂組成物の結晶化度及び流動性を効果的に制御すると共に、リサイクルポリエステル粒子の使用量を増加し、プロセスのコストを低減できること(【0018】)、改質リサイクルポリエステルの組成比を制御することで、固有粘度(IV)を0.5~0.85dL/gにして、金型温度を60℃以下に低減させることができること、改質リサイクルポリエステルの製造において、テレフタル酸及びエチレングリコールの結晶化時間を延長して、改質リサイクルポリエステルの物性及び製造にとって好ましく、また、ポリエステル樹脂組成物におけるバージンポリエステル粒子の使用量を低減しても、同様の物性を達成できること(【0019】)が記載され、実施例において、改質リサイクルポリエステル粒子、バージンポリエステル粒子を、実験例1では、それぞれ20wt%、80wt%の割合で混合し、実験例2では、それぞれ50wt%、50wt%の割合で混合した試験例(固有粘度(IV)はいずれも0.8dL/g)を挙げ、いずれも機械的特性に優れていることが示されている。
これらの記載によると、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分、及びイソフタル酸成分とを特定含有量で含有する改質リサイクルポリエステル粒子と、バージンポリエステル粒子とを特定の重量割合で含む、固有粘度(IV)が0.5~0.85dL/gであるポリエステル樹脂組成物であれば、実施例に示すように、本件発明1の課題を解決することが理解できる。
そうすると、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明により、当業者が本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
4 取消理由通知において採用しなかった申立理由について
(1)申立理由2(実施可能要件違反)
・上記第4 1(2)イについて
例えば、甲2【0014】、甲3実施例1、甲4【0064】等に見られるように、重合反応系に艶消し剤を含有させることは、従来からよく知られていることであるから、艶消し剤を含有するのであれば、その含有量は、最適量であると解される。
してみると、艶消し剤の含有量は、本件特許の優先日当時の技術常識からみて、最適量で含有されると認められるから、その記載がないことをもって、当業者がその実施にあたり、過度の試行錯誤を要するとはいえない。
よって、当該申立理由は、理由がない。
(2)申立理由3(サポート要件違反)
・上記第4 1(3)イについて
上記3(3)で述べたように、本件発明1に係る発明特定事項を有することで、本件発明の課題を解決することを当業者は認識できる。
そうすると、本件明細書の記載から、本件の実施例以外、例えば艶消し剤を含有するポリエステル樹脂組成物の場合であっても、本件発明の課題を解決することを当業者は認識できるといえるから、艶消し剤を含有することによって、上記サポート要件の判断は左右されない。
よって、当該申立理由は、理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2、3が本件訂正により削除されたことにより、申立人による請求項2、3に係る特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701075