特許異議申立
2022-700159
架橋性エラストマー組成物及びフッ素ゴム成形品
- 審判番号
- 2022-700159
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-549312外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6927319
- 請求日
- 2022年02月24日
- 審決日
- 2023年09月14日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ダイキン工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】本間 賢一
- 分類
- P1651.537-YAA(C08L) / P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第113条第4号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6927319号発明「架橋性エラストマー組成物及びフッ素ゴム成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6927319号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第6927319号の請求項2ないし5に係る特許を維持する。
特許第6927319号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許異議の申立ての経緯
特許第6927319号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年10月17日を国際出願日とする特許出願(優先権主張:平成29年10月18日、特願2019-549312号)であって、令和3年8月10日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年2月24日に特許異議申立人である本間 賢一(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和4年 6月23日付け: 取消理由通知
同年 8月25日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提 出
同年10月11日 : 訂正請求があった旨の申立人への通知
同年11月15日 : 申立人による意見書の提出
令和5年 1月20日付け: 申立人への審尋
同年 2月13日 : 申立人による回答書の提出
同年 3月 2日付け: 取消理由通知(決定の予告)
同年 5月 1日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提 出
なお、令和4年8月25日に提出された訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたとみなす。
2 証拠方法
(1)申立人が提出した証拠方法
申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
ア 申立書に添付したもの
甲第1号証:特許第5487584号公報
甲第2号証:特開2012-106888号公報
甲第3号証:特開2011-213540号公報
イ 意見書に添付したもの
甲第4号証:SiCのESCAによる分析・試験報告書、(株)東ソー分析センター作成(2022年2月発行)
ウ 回答書に添付したもの
甲第5号証:甲第4号証に記載の試料の納品書(2017年5月発行)
甲第6号証:Nanomakers社HPのNM SiC99に関する頁のプリントアウト(2023年2月)
なお、各甲号証の番号に応じて、甲第1号証を「甲1」などという。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和5年5月1日付けの訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を表し、当審が付した。)。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」という。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、「非酸化物系セラミックスフィラーが炭化ケイ素である請求項1記載の架橋性エラストマー組成物。」とあるのを、「架橋性エラストマー、および、表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラーを含有し、非酸化物系セラミックスフィラーが炭化ケイ素であり、かつ、ESCAで測定した際に観察されるSiO2由来のピークとSiC由来のピークの比がSiO2:SiC=3:7~6:4である架橋性エラストマー組成物。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3が引用する請求項から請求項1を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4が引用する請求項から請求項1を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5が引用する請求項から請求項1を削除する。
(6)一群の請求項について
訂正前の請求項2~5は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正事項1~5に係る訂正は、一群の請求項〔1~5〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1による請求項1についての訂正は、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そうすると、本件特許明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で訂正されたことが明らかであって、訂正によって本件訂正の前後で実質上特許請求の範囲が拡張又は変更されたものでないことも明らかである。
(2)訂正事項2
訂正事項2による請求項2についての訂正は、旧請求項1との引用関係を解消し、旧請求項1の記載を引用しないものとしたものであり、さらに、炭化ケイ素について、「ESCAで測定した際に観察されるSiO2由来のピークとSiC由来のピークの比がSiO2:SiC=3:7~6:4である」ものにすることを限定したが、この炭化ケイ素についての訂正は、本件特許明細書の段落【0014】に記載されている。
そうすると、訂正事項2による請求項2についての訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。また、訂正事項2は本件特許明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で訂正されたことが明らかであって、新たな技術的事項を導入するものでもないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3~5
訂正事項3~5についての訂正は、それぞれ、上記の訂正事項1による訂正前の請求項1の削除に合わせて、引用請求項の一部を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3~5についての訂正は、単に訂正前の請求項1を引用しないものとするものであるから、本件明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で訂正されたことが明らかであって、また、各訂正によって本件訂正の前後で実質上特許請求の範囲が拡張又は変更されたものでないことも明らかである。
3 小括
以上のとおり、請求項1ないし5についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
そして、本件の特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし5に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正請求により訂正された請求項1~5に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるとおりのものである。以下、請求項1~5に係る発明を「本件発明1」~「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ということもある。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
架橋性エラストマー、および、表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラーを含有し、
非酸化物系セラミックスフィラーが炭化ケイ素であり、かつ、ESCAで測定した際に観察されるSiO2由来のピークとSiC由来のピークの比がSiO2:SiC=3:7~6:4である架橋性エラストマー組成物。
【請求項3】
非酸化物系セラミックスフィラーの平均粒子径が0.1μm以下である請求項2に記載の架橋性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記架橋性エラストマーが、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)との共重合体である請求項2または3に記載の架橋性エラストマー組成物。
【請求項5】
請求項2~4のいずれかに記載の架橋性エラストマー組成物から作製され、
下記条件でのO2プラズマ照射後の重量減少率が2.5質量%以下で、パーティクル発生量が0.05質量%以下であり、
NF3プラズマ照射後の重量減少率が1.8質量%以下で、パーティクル発生量が0.05質量%以下であり、
300℃、70時間での圧縮永久歪が50%以下であるフッ素ゴム成形品。
記
サンプル:O-リング(AS-568A-214)
測定方法:
(1) O2プラズマ
プラズマ照射装置:ICP高密度プラズマ装置(サムコ株式会社製MODEL RIE-101iPH)
照射条件
ガス流量 :16SCCM
RF出力 :400Wh
圧力 :2.66Pa
エッチング時間 :30分間
温度 :100℃
パーフロエラストマー(ノンフィラー)のエッチング速度が12000Å/分に相当する条件。
(2) NF3プラズマ
プラズマ照射装置:ICP高密度プラズマ装置(サムコ株式会社製MODEL RIE-101iPH)
照射条件
ガス流量 :16SCCM
RF出力 :400Wh
圧力 :10Pa
エッチング時間 :4時間
温度 :200℃
シリコンウェハー熱酸化膜(SiO2)のエッチング速度が90Å/分に相当する条件。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法及び取消理由の概要
1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
申立人が特許異議申立書に記載した申立理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証を根拠とする新規性欠如)
本件特許発明1ないし5は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1ないし5は、甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)及び、申立理由4(実施可能要件違反)
本件特許発明1ないし5についての特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第1号及び同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
申立理由3、4の具体的理由は、概略、次のとおりである。
記
ア (a-1)「表面が酸化されている」について
本件特許発明1は、例えば0.01%等の極僅かでも表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラーを文言上包含する。
しかしながら、非酸化物系セラミックスフィラーの表面の酸化割合が小さすぎる場合、または、大きすぎる場合は、本件特許発明の課題を解決できないことは明らかである。
また、表面酸化処理をしていない(自然酸化被膜を形成している)比較例1~比較例6では、課題を解決していないことは明らかである。
そうすると、表面の酸化割合が特定されていない本件特許発明1の「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」との記載では、本件特許発明1が解決しようとする課題を達成できない範囲を包含していることは明らかである。
イ (a-2) 配合割合について
本件特許発明1には、「架橋性エラストマー組成物」に占める「架橋性エラストマー」および「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」の割合が何ら特定されていない。したがって、本件特許発明1は、例えば、「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」が0.01%等の極僅か含まれる架橘性エラストマー組成物や、「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」が99.9%等を占める架橋性エラストマー組成物も文言上包含する。
しかしながら、表1から明らかなように、架橋性エラストマーに対するフィラーの割合が大きくなるほど圧縮永久歪(70hr/300℃)(%)の値は大きくなっており、実施例5 (架橘性エラストマーに対するフィラーの割合は20%)では圧縮永久歪は47%である。また、フィラーを添加していない比較例10では、耐プラズマ性は非常に悪い値になっている。
したがって、本件特許発明の課題を解決するためには、「架橋性エラストマー組成物」に占めるフィラーの範囲を特定の割合にすることは必須であることは明らかである。
そうすると、「架橋性エラストマー組成物」に占める「架橋性エラストマーおよび「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」の割合が何ら特定されていない本件特許発明1は、解決しようとする課題を達成できない範囲を包含していることは明らかである。
ウ (a-3)「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」のサイズ、種類および形状について
本件特許発明1の「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」には、
・いかなるサイズのフィラー、
・非酸化物系セラミックスであれば、いかなる種類のフィラー、
・繊維状、ウィスカー状等の粒子形状以外のフィラー、
も包含される。
しかしながら、フィラーのサイズ、種類、形状等が架橋性エラストマー組成物から形成した成形品の特性に大きな影響を与えることは明らかであるし、当該技術分野において周知である。
例えば、表1において、比較例3および比較例6は、何れも表面を酸化処理していない炭化ケイ素粒子であるが、平均粒子径が比較例3の0.03μmから比較例6の0.13μmに大きくなると、表面パーティクル量が増加している。
一方、実施例1~5および比較例1~5は、炭化ケイ素の粒径が同じ(0.03μm)で、表面の酸化処理の有無による効果の違いを確認したものであるが、炭化ケイ素の粒径が同じであれば表面の酸化処理の有無による耐プラズマ性(重量減少率および表面パーティクル量)に大きな差異はない。
そうすると、表面を酸化処理した炭化ケイ素であっても、平均粒子径を大きくすればするほど、耐プラズマ性が悪化し、課題を解決できなくなることは本件明細書の記載から明らかである。
また、実施例で具体的に効果を確認しているのは、平均粒子径が0.03μmの炭化ケイ素粒子表面の40%を酸化処理したフィラーのみである。本件明細書の実施例では、炭化ケイ素以外の種類、および、繊維状等の粒子形状以外のフィラーを用いた場合でも課題が解決できることは示されておらず、且つ、本件明細書のその他の記載を参酌しても、課題が解決できるとは把握できない。
そうすると、「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」のサイズ、種類および形状が何ら特定されていない本件特許発明1は、解決しようとする課題を達成できない範囲を包含していることは明らかである。
エ (a-4) 「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラーを含有する」について
表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラーを含有する」との記載は、「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」および「表面が酸化されていない非酸化物系セラミックスフィラー」をブレンドして含有する実施形態を包含する。
しかしながら、ブレンド中の「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」の割合が、「表面が酸化されていない非酸化物系セラミックスフィラー」の割合より極端に小さい場合、本件特許発明の課題を解決できないことは、上記「(a-1)「表面が酸化されている」について」に記載と同様の理由により明らかである。
また、本件特許発明1の「非酸化物系セラミックスフィラー」の表面の酸化割合が50%であると仮定した場合、
(i)非酸化物系セラミックスフィラーの各々の表面を50%酸化処理したもの、
(ii)非酸化物系セラミックスフィラーの各々の表面を100%酸化処理したものと、非酸化物系セラミックスフィラーの表面を酸化処理していないものとを、1:1でブレンドしたもの、
の何れの実施形態も本件特許発明1に含まれる。
しかしながら、本件明細書には、上記(i)および(ii)の何れの実施形態であっても、同様の効果を奏することは記載されていない。
したがって、本件特許発明1は、解決しようとする課題を達成できない範囲を包含していることは明らかである。
(4)申立理由5(明確性要件違反)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、以下の理由で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
申立理由5の具体的理由は、概略、次のとおりである。
記
「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラーを含有する」との発明特定事項について、当該記載では、
(i)架橋性エラストマー組成物に含有される「非酸化物系セラミックスフィラー」各々の全ての表面が酸化されていることを意味するのか、
(ii)「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」が含まれれば、「表面が酸化されていない非酸化物系セラミックスフィラー」とブレンドしてもよいことを意味するのか、或いは、
(iii)上記(i)および(ii)の両方を包含することを意味するのか、
不明確である。
2 取消理由の概要
令和5年3月2日付けで通知した取消理由通知(決定の予告)の取消理由(以下、単に「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
(1)取消理由1(サポート要件違反)
本件特許の請求項2ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由は以下のとおりである。
本件明細書において、「炭化ケイ素(Nanomakers株式会社製NM-SiC、平均粒子径30nm)」を用いた比較例1~5では、表面を酸化処理はされていないが、表面に自然酸化膜を有し、X線源Mg、8kv-10mAの条件で測定したESCA分析した結果として、SiO2由来のピークとSiC由来のピークの比は1:9であり、O2プラズマ照射後の重量減少率、パーティクル発生量、NF3プラズマ照射後の重量減少率、パーティクル発生量、300℃、70時間での圧縮永久歪が所定割合を超えており、上記課題を解決できないものと解される。
したがって、本件特許発明2ないし5は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえないので、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
第5 取消理由についての当審の判断
以下に述べるように、当審が通知した取消理由(決定の予告)、及び、特許異議申立書の申立理由によっては、本件発明2ないし5に係る特許は取り消すことはできない。
そして、第2及び第3で示したとおり、本件特許の請求項1は本件訂正により削除され、この特許に対する申立ては、申立ての対象を欠くこととなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
1 取消理由1及び申立理由3(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)検討
ア 特許請求の範囲の記載
本件特許の訂正後の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。
イ 発明の詳細な説明の記載
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特定条件下でのプラズマ照射後の重量減少率とパーティクル発生量、および、高温での圧縮永久歪が小さい架橋性エラストマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定条件下でのプラズマ照射後の重量減少率とパーティクル発生量、および、高温での圧縮永久歪について種々検討したところ、表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラーを使用することによって改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、架橋性エラストマー、および、表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラーを含有する架橋性エラストマー組成物に関する。
【0007】
非酸化物系セラミックスフィラーが炭化ケイ素であることが好ましい。
【0008】
非酸化物系セラミックスフィラーの平均粒子径が0.1μm以下であることが好ましい。
【0009】
前記架橋性エラストマーが、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)との共重合体であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、下記条件でのO2プラズマ照射後の重量減少率が2.5質量%以下で、パーティクル発生量が0.05質量%以下であり、NF3プラズマ照射後の重量減少率が1.8質量%以下で、パーティクル発生量が0.05質量%以下であり、300℃、70時間での圧縮永久歪が50%以下であるフッ素
記
サンプル:O-リング(AS-568A-214)
測定方法:
(1)O2プラズマ
プラズマ照射装置:ICP高密度プラズマ装置(サムコ株式会社製MODEL
RIE-101iPH)
照射条件
ガス流量 :16SCCM
RF出力 :400Wh
圧力 :2.66Pa
エッチング時間:30分間
温度 :100℃
パーフロエラストマー(ノンフィラー)のエッチング速度が12000Å/分に
相当する条件。
(2)NF3プラズマ
プラズマ照射装置:ICP高密度プラズマ装置(サムコ株式会社製MODEL
RIE-101iPH)
照射条件
ガス流量 :16SCCM
RF出力 :400Wh
圧力 :10Pa
エッチング時間:4時間
温度 :200℃
シリコンウェハー熱酸化膜(SiO2)のエッチング速度が90Å/分に相当する条件。」
「【0013】
非酸化物系セラミックスフィラーとしては特に限定されないが、炭化物、ケイ化物、硫化物、フッ化物などが挙げられる。炭化物としては、炭化チタン、炭化ホウ素、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タンタル、炭化タングステン、炭化ニオビウム、炭化ケイ素などが挙げられる。ケイ化物としては、ケイ化チタン、ケイ化モリブデン、ケイ化ジルコニウムなどが挙げられる。硫化物としては、硫化タングステン、二硫化モリブテンなどが挙げられる。フッ化物としては、フッ化アルミニウム、フッ化イットリウム、フッ化バリウムなどがあげられる。なかでも、プラズマ照射後の重量減少率もパーティクル発生量も少なく(耐プラズマ性)、高温での圧縮永久歪が小さい(耐熱性)ことを両立できる点で、炭化ケイ素が好ましい。
【0014】
たとえば炭化ケイ素の場合、表面が酸化されてSiO2に変化するが、ESCAで測定すると、SiO2由来のピークとSiC由来のピークが観察できるが、SiO2由来のピークとSiC由来のピークの比は、SiO2:SiC=1:9~9:1が好ましく、3:7~6:4がより好ましい。ピーク比が1:9未満では、表面の酸化が不十分であって、充分な改善効果が発現せず、9:1を超えると、酸化され過ぎ、同様に充分な改善効果が発現しない傾向がある。」
「【実施例】
【0153】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0154】
製造例1(熱処理)
炭化ケイ素(Nanomakers株式会社製NM-SiC、平均粒子径30nm)を、マッフル炉を用い、大気中、800℃で1時間、熱処理し、表面が酸化されている炭化ケイ素を得た。
【0155】
<表面酸化状態の測定>
表面酸化処理して得られた非酸化物系セラミックスを、ESCAにて、X線源Mg、8kv-10mAの条件で測定した。なお、製造例1で作製した炭化ケイ素では、表面層3~5nmのSiCが40%減少しSiO2への移行し、60%がSiCとして残存することが確認された(SiO2由来のピークとSiC由来の
ピークの比は2:3)。
【0156】
実施例1~5、比較例1~10
表1に記載した配合組成にしたがって、含フッ素エラストマー(TFE/PMVE/CNVE(CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN)=59.4/40.1/0.5(モル比))に、非酸化物系セラミックス、架橋剤を添加し、オープンロールにて混練して架橋可能なフッ素ゴム組成物を調製した。
NphAFは2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンを使用した。なお、熱処理炭化ケイ素としては製造例1で熱処理したものを使用した。比較例7で使用した酸化ケイ素としては日本アエロジル社製50を、比較例8及び9の表面処理酸化ケイ素としては日本アエロジル社製RX50を使用した。
【0157】
実施例1、3、比較例1、3、6~8、10で得られたフッ素ゴム組成物を180℃で30分間プレスして架橋を行ったのち、さらにオーブン中で290℃で18時間オーブン架橋を施し、厚さ2mmの架橋物の成形品およびO-ring(AS-568A-214サイズ)の成形品を作製した。また、実施例2、4、5、比較例2、4、5、9で得られたフッ素ゴム組成物を180℃で30分間プレスして架橋を行ったのち、さらにオーブン中で200~290℃で18時間オーブン架橋を施し、厚さ2mmの架橋物の成形品およびO-ring(AS-568A-214サイズ)の成形品を作製した。
得られた成形品を用い、以下に示す方法に従って、硬度、圧縮永久歪、プラズマ照射後の重量減少率とパーティクル発生量を測定した。その結果を表1に示す。
【0158】
<硬度>
JIS K 6301に準じて、硬度を測定した。
【0159】
<圧縮永久歪>
O-リング(AS-568A-214)を成形し、JIS K6262に準じて、300℃で70時間後および168時間後の圧縮永久歪を測定した。
【0160】
<耐プラズマ性>
O-リング(P-24サイズ)の成形品に対して、以下の条件下でプラズマ照射処理を施し、照射前後の重量変化を測定した。
【0161】
(1)O2プラズマ
プラズマ照射装置:ICP高密度プラズマ装置(サムコ株式会社製MODEL RIE-101iPH)
照射条件
ガス流量 :16SCCM
RF出力 :400Wh
圧力 :2.66Pa
エッチング時間:30分間
温度 :100℃
パーフロエラストマー(ノンフィラー)のエッチング速度が12000Å/分に相当する条件。
【0162】
(2)NF3プラズマ
プラズマ照射装置:ICP高密度プラズマ装置(サムコ株式会社製MODEL RIE-101iPH)
照射条件
ガス流量 :16SCCM
RF出力 :400Wh
圧力 :10Pa
エッチング時間:4時間
温度 :200℃
シリコンウェハー熱酸化膜(SiO2)のエッチング速度が90Å/分に相当する条件。
【0163】
電子分析天秤を使用し、0.01mgまで測定し0.01mgの桁を四捨五入する。サンプルは1種類につき3個使用し、重量減少率の平均値を算出した。
【0164】
プラズマ照射後のO-リングにフィルムを押付けて、フィルムへの転写有無を目視確認した。
【0165】
【表1】
[図:0001404729000001.jpg]
」
ウ 本件発明が解決しようとする課題
本件特許発明の課題は、本件特許明細書の段落【0004】等からみて、「特定条件下でのプラズマ照射後の重量減少率とパーティクル発生量、および、高温での圧縮永久歪が小さい架橋性エラストマー組成物を提供すること」である。
エ 判断
本件訂正により、本件特許発明2は「架橋性エラストマー、および、表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラーを含有し、非酸化物系セラミックスフィラーが炭化ケイ素であり、かつ、ESCAで測定した際に観察されるSiO2由来のピークとSiC由来のピークの比がSiO2:SiC=3:7~6:4である架橋性エラストマー組成物。」と特定された。
上記第4 2で述べた通り、本件特許明細書の「炭化ケイ素(Nanomakers株式会社製NM-SiC、平均粒子径30nm)」を用いた比較例1~5では、SiO2由来のピークとSiC由来のピークの比は1:9であり、O2プラズマ照射後の重量減少率、パーティクル発生量、NF3プラズマ照射後の重量減少率の量減少率、パーティクル発生量、300℃、70時間での圧縮永久歪が所定割合を超えており、上記課題を解決できないものと認められるところ、本件訂正により、本件特許発明2は、SiO2:SiC=1:9である比較例1~5の態様、すなわち、表面に自然酸化膜を有する程度の「表面が酸化されている」態様を含まないことになった。
そして、本件特許発明2は、上記特定事項を有するものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
オ 申立人の主張に対する反論
(ア) (a-1)「表面が酸化されている」について
上記エで述べた通り、本件訂正により、本件特許発明2は、SiO2:SiC=1:9である比較例1~5の態様、すなわち、表面に自然酸化膜を有する程度の「表面が酸化されている」態様を含まないことになった。よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(イ) (a-2) 配合割合について
本件特許明細書の【0013】には、「なかでも、プラズマ照射後の重量減少率もパーティクル発生量も少なく(耐プラズマ性)、高温での圧縮永久歪が小さい(耐熱性)ことを両立できる点で、炭化ケイ素が好ましい。」と記載されており、炭化ケイ素を含有することにより、耐熱性及び耐プラズマ性が両立することが記載されている。また、実施例5における圧縮永久歪、重量減少率、パーティクル発生量の値も、耐熱性及び耐プラズマ性が両立しているものである。
よって、「架橋性エラストマー組成物」に占める「架橋性エラストマー」および「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」の割合を限定しなくても、本件特許発明2に特定された「非酸化物系セラミックスフィラーが炭化ケイ素であり、かつ、ESCAで測定した際に観察されるSiO2由来のピークとSiC由来のピークの比がSiO2:SiC=3:7~6:4である」により、上記課題が解決できるものであり、配合割合を特定しなければ上記課題が解決できないとする理由も見当たらない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(ウ) (a-3)「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」のサイズ、種類および形状について
フィラーの「種類」については、本件訂正により、本件特許発明2は「非酸化物系セラミックスフィラーが炭化ケイ素であり」と特定された。
また、フィラーの「サイズ」及び「形状」については、本件特許明細書の【0016】に、「非酸化物系セラミックスフィラーの形状は、特に限定されるものでなく、粉体状、粒子状、繊維状、ウィスカー状などが使用できる。加工性の点において、粒子状であることが好ましく、その平均粒子径は10μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。10μmを超える平均粒子径の場合、補強性に乏しく、コンパウンドへの配合量を増す必要が生じ、成形体のシール材としての性能を低下させるためである。さらに、半導体装置用シール材として使用する場合は、平均粒子径は0.1μm以下、好ましくは0.01~0.1μmのものが、パーティクルの発生が少ない点から好ましい。平均粒子径の下限は特に限定されない。」とあるように、好ましい範囲のサイズや好ましい形状が記載されているに過ぎず、平均粒子径や形状を限定するものでもない。また、「炭化ケイ素以外の種類、および、繊維状等の粒子形状以外のフィラーを用いた場合でも課題が解決できることは示されておらず、且つ、本件明細書のその他の記載を参酌しても、課題が解決できるとは把握できない。」と主張するのみで、フィラーの「サイズ」及び「形状」を特定しなければ上記課題が解決できないとする理由も見当たらない。
(エ) (a-4) 「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラーを含有する」について
上記 イ (a-2)と同様、本件特許明細書の【0013】には、「なかでも、プラズマ照射後の重量減少率もパーティクル発生量も少なく(耐プラズマ性)、高温での圧縮永久歪が小さい(耐熱性)ことを両立できる点で、炭化ケイ素が好ましい。」と記載されており、炭化ケイ素を含有することにより、耐熱性及び耐プラズマ性が両立することが記載されている。
また、実施例1~5においては、表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラーを含有することで、耐熱性及び耐プラズマ性が両立することが示されている。
そうすると、「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」と「表面が酸化されていない非酸化物系セラミックスフィラー」との割合を限定しなくても、本件特許発明2に特定された「非酸化物系セラミックスフィラーが炭化ケイ素であり、かつ、ESCAで測定した際に観察されるSiO2由来のピークとSiC由来のピークの比がSiO2:SiC=3:7~6:4である」により、上記課題が解決できるものであり、配合割合を特定しなければ上記課題が解決できないとする理由も見当たらない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
本件特許発明2を直接又は間接的に引用する本件特許発明3ないし5についても同様である。
(3)取消理由3及び申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項2ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、取消理由3及び申立理由4によっては取り消すことはできない。
第6 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)、申立理由4(実施可能要件違反)、申立理由5(明確性要件違反)であるため、これらについて以下検討する。
1 申立理由1ないし2について
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、「架橋性エラストマー組成物」に関し、以下の事項が記載されている。
なお、下線については当審において付与したものである。以下、同様。
「【0146】
非酸化物セラミックス粉末の形状は、特に限定されるものでなく、粉体状、粒子状、繊維状、ウィスロー状などが使用できる。加工性の点において、粒子状であることが好ましく、その粒子径は10μm以下であることが好ましい。10μm以上の粒子径の場合、補強性に乏しく、コンパウンドへの配合量を増す必要が生じ、成形体のシール材としての性能を低下させるためである。さらに、半導体装置用シール材として使用する場合は、粒子径は1μm以下、好ましくは0.01~0.5μmのものが、パーティクルの発生が少ない点から好ましい。粒子径の下限は特に限定されない。」
「【0205】
実験例9
100重量部の含フッ素エラストマー(TFE/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ニトリル基含有単量体=59.4/40.1/0.5(モル比)、ダイキン工業(株)製)に対し、硬化剤6,6’-ジアニリノ-3,3’-[2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチリデン]ジアニリンを1.2重量部、チッ化アルミニウムMAN-10((株)トクヤマ製、粒子径200nm)を15重量部添加し、オープンロールにて混練して架橋可能なフッ素ゴム組成物を調製した。」
「【0217】
実験例11
非酸化物セラミックス粉末として、チッ化アルミニウムMAN-10のかわりに炭化珪素DU A-1(昭和電工(株)製、450nm)15重量部を添加した以外は、実験例9と同様に混練して架橋可能なフッ素ゴム組成物を調製し、厚さ2mmの架橋物、O-リング(AS-568A-214サイズ)の被験サンプルを作製した。」
(イ)甲1発明
甲1に記載された事項について、特に非酸化物セラミックス粉末として、炭化珪素DU A-1(昭和電工(株)製、450nm)を用いて実施例11に着目して整理すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「100重量部の含フッ素エラストマー(TFE/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ニトリル基含有単量体=59.4/40.1/0.5(モル比)、ダイキン工業(株)製)に対し、硬化剤6,6’-ジアニリノ-3,3’-[2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチリデン]ジアニリンを1.2重量部、炭化珪素DU A-1(昭和電工(株)製、450nm)を15重量部添加し、オープンロールにて混練して調製した架橋可能なフッ素ゴム組成物」(以下、「甲1発明」という。)
イ 甲2に記載された事項
甲2には、「炭化ケイ素」について、以下の事項が記載されている。
「【0018】
室温で保存して表面を自然酸化させた、平均粒径4μmの炭化ケイ素粉体(純度98.5%)を電気炉に入れ、通気下、800℃で2時間加熱した後、冷却して炉外に取り出し、凝集した粒子を乳鉢で解砕した。」
ウ 甲3に記載された事項
甲3には、「α-SiC」について、以下の事項が記載されている。
「【0033】
なお、原料であるα-SiC粉末の表面に生成した自然酸化膜を、スラリー調製時に予め除去しておくことにより、焼結時における前記酸素分圧を上記範囲内に抑制することも可能である。
具体的には、フッ酸、又は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリで、α-SiC粉末を十分に洗浄し、不活性ガス雰囲気で乾燥、保持することにより、該α-SiC粉末に含まれる二酸化ケイ素を0.2重量%以下にすることができ、焼結時における酸素分圧を10-1Pa以下にすることができる。」
(2)対比・判断
ア 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1発明を対比する。
甲1発明における「含フッ素エラストマー(TFE/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ニトリル基含有単量体=59.4/40.1/0.5(モル比)、ダイキン工業(株)製)」は、本件特許発明2における「架橋性エラストマー」に相当する。また、甲1発明における「炭化珪素DU A-1(昭和電工(株)製、450nm)」は、本件特許発明2における「非酸化物系セラミックスフィラーが炭化ケイ素」に相当する。そして、甲1発明における「架橋可能なフッ素ゴム組成物」は、本件特許発明2における「架橋性エラストマー組成物」に相当する。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点1>で相違する。
<一致点>
架橋性エラストマー、および、非酸化物系セラミックスフィラーを含有し、非酸化物系セラミックスフィラーが炭化ケイ素である、架橋性エラストマー組成物
<相違点1>
非酸化物系セラミックスフィラーについて、本件特許発明2は、「表面が酸化されている」、「ESCAで測定した際に観察されるSiO2由来のピークとSiC由来のピークの比がSiO2:SiC=3:7~6:4である」と特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がされていない点
そこで、上記相違点について検討する。
<相違点1>について
甲1発明には、ESCAで測定した際に観察されるSiO2由来のピークとSiC由来のピークの比がSiO2:SiC=3:7~6:4である炭化ケイ素は記載も示唆もされていないし、炭化ケイ素の表面を自然酸化よりも更に酸化させるという思想自体も一切記載されていない。そうすると、甲1発明において、ピーク比がSiO2:SiC=3:7~6:4に調整することは、当業者であっても容易ではない。加えて、ピーク比がSiO2:SiC=3:7~6:4である炭化ケイ素を用いることで奏される、耐プラズマ性と耐熱性の両立という本件特許発明2の効果は、炭化ケイ素の表面を自然酸化よりも更に酸化させるという思想自体が一切記載されていない甲1から到底予測し得ないものである。
したがって、本件特許発明2は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明でもないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明3ないし5について
本件特許発明3ないし5は、請求項2を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明2と同様の理由で、本件特許発明3ないし5は、甲1に記載された発明ではないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)申立人の主張について
申立人は、令和4年11月15日付けの意見書において、「・・・甲1発明の「炭化珪素DU A-1」のESCAの測定結果が「SiO2:SiC=1:10」であるとの主張は客観的データではないことから、依然として本件訂正発明2の範囲に含まれる蓋然性が高いと思料する。仮に、甲1発明の「炭化珪素DU A-1」が本件訂正発明2の「SiO2:SiC=1:9~9:1」の範囲から外れていたとしても、上記のとおり「SiO2:SiC=1:9~9:1」は臨界的意義を有しないことから、本件訂正発明2は甲1発明から単なる設計事項に過ぎないというべきである。」(第5ページ)と主張する。
しかしながら、上記(2)でも説示したように、本件特許発明1は、「非酸化物系セラミックスフィラー」である「炭化ケイ素」の「ESCAで測定した際に観察されるSiO2由来のピークとSiC由来のピークの比がSiO2:SiC=3:7~6:4」に特定されているところ、甲1発明は、本件特許発明2の当該特定事項を満たす蓋然性が高いとはいえない。また、申立人は、実験成績証明書等の具体的な証拠をもって、甲1に記載された発明が、本件特許発明2の当該特定事項を満たすことを主張するものではない。
そして、当該特定事項については、甲1~甲6のいずれの証拠にも、記載も示唆もされていないし、当該特定事項を設計的事項とする理由もない。
よって、当該「「ESCAで測定した際に観察されるSiO2由来のピークとSiC由来のピークの比がSiO2:SiC=3:7~6:4」は実質的な相違点となる。
したがって、申立人の主張は首肯できない。
(4)申立理由1ないし2についてのむすび
したがって、本件特許発明2ないし5は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明2ないし5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項2~5に係る特許は、申立理由1ないし2によっては取り消すことはできない。
2 申立理由4(実施可能要件違反)について
申立理由4は、本件明細書は、本件特許発明2ないし5について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは言えない、というものである。
本件訂正により、請求項2は「架橋性エラストマー、および、表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラーを含有し、非酸化物系セラミックスフィラーが炭化ケイ素であり、かつ、ESCAで測定した際に観察されるSiO2由来のピークとSiC由来のピークの比がSiO2:SiC=3:7~6:4である架橋性エラストマー組成物。」と特定された。
これにより、本件特許発明2は、SiO2:SiC=1:9である比較例1~5の態様、すなわち、表面に自然酸化膜を有する程度の「表面が酸化されている」態様を含まないことになった。そして、本件特許明細書の実施例1~5のフッ素ゴム組成物は、本件特許発明2の構成を有するものであり、表1より、耐プラズマ性及び耐熱性を両立するものであることを具体的に確認できるから、本件の発明の詳細な説明には、具体的な実施例が記載されていると認められ、当該記載に基づき当業者は本件特許発明2を実施できるといえる。本件特許発明2を直接ないし間接的に引用している本件特許発明3ないし5についても同様である。
そうすると、本件特許発明2ないし5に係る特許は、明細書が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、取り消すことはできない。
3 申立理由5(明確性要件違反)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものである。
(2)申立人の主張及び検討
申立人の主張は、上記第4 1(4)で述べた通りである。
そこで、上記(1)の判断基準に従って、以下検討する。
「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラーを含有する」とは、技術常識からみて、表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラーが少なくとも含まれていることを意味するものである。そうすると、当該発明特定事項は、(i)架橋性エラストマー組成物に含有される「非酸化物系セラミックスフィラー」各々の全ての表面が酸化されていること、及び、(ii)「表面が酸化されている非酸化物系セラミックスフィラー」が含まれれば、「表面が酸化されていない非酸化物系セラミックスフィラー」とブレンドしてもよいことと認められるから、「(iii)上記(i)および(ii)の両方を包含すること」と解するのが自然である。
よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項2の記載及びこれを引用する請求項3ないし5の記載は不明確ではない。
したがって、申立人の主張は首肯できない。
(3)申立理由5についてのむすび
したがって、本件特許の請求項2ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由5によっては取り消すことはできない。
第7 むすび
上記第5及び第6のとおり、本件特許の請求項2ないし5に係る特許は、当審が通知した取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項2ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項1は、本件訂正により削除され、請求項1に係る特許についての申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700159