特許異議申立
2024-700183
積層体
- 審判番号
- 2024-700183
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-563107外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7334624
- 請求日
- 2024年02月28日
- 審決日
- 2025年10月07日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7334624号発明「積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7334624号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第7334624号の請求項2~8に係る特許を維持する。
特許第7334624号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7334624号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和元年10月4日(優先権主張 平成30年10月18日、平成31年3月5日)を国際出願日とするものであって、令和5年8月21日にその特許権の設定登録がされ、同年8月29日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての手続きの経緯の概略は、次のとおりである。
令和6年 2月28日 :特許異議申立人赤松智信(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和6年10月31日付け:取消理由通知書
令和6年12月11日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和7年 1月24日 :申立人による意見書(以下「意見書」という。)の提出
第2 本件訂正の適否
1.訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第7334624号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」ものであり、その訂正の内容は、次の訂正事項を含むものである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項1
請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2に記載された
「前記A層は、X線光電子分光により測定される酸素原子(O1s)のピークの半値幅が3.25eV以下である請求項1に記載の積層体。」を、
「 基材の少なくとも片側に、非晶質膜であるA層とアンカーコート層を有し、
前記アンカーコート層は基材とA層の中間に存在しており、
前記A層は、マグネシウム及び/またはカルシウムを含み、且つ、前記A層はケイ素及び酸素を含み、
前記A層は、陽電子ビーム法により測定される平均寿命が0.935ns以下であり、
水蒸気透過度が2.4×10-2g/m2/day以下であり、
前記A層は、X線光電子分光により測定される酸素原子(O1s)のピークの半値幅が3.25eV以下である積層体。」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3、5~8も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項3に記載された
「請求項1または2に記載の積層体。」を、
「請求項2に記載の積層体。」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項5~8も同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項4に記載された
「前記A層は、シリケート結合を有する、請求項1~3のいずれかに記載の積層体。」を、
「 基材の少なくとも片側に、非晶質膜であるA層とアンカーコート層を有し、
前記アンカーコート層は基材とA層の中間に存在しており、
前記A層は、マグネシウム及び/またはカルシウムを含み、且つ、前記A層はケイ素及び酸素を含み、
前記A層は、陽電子ビーム法により測定される平均寿命が0.935ns以下であり、
水蒸気透過度が2.4×10-2g/m2/day以下であり、
前記A層は、シリケート結合を有する積層体。」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5~8も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項5に記載された
「請求項1~4のいずれかに記載の積層体。」を、
「請求項2~4のいずれかに記載の積層体。」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6~8も同様に訂正する。)。
(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項6に記載された
「請求項1~5のいずれかに記載の積層体。」を、
「請求項2~5のいずれかに記載の積層体。」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7、8も同様に訂正する。)。
(7)訂正事項7
本件訂正前の請求項8に記載された
「請求項1~7のいずれかに記載の積層体。」を、
「請求項2~7のいずれかに記載の積層体。」に訂正する。
(8)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~8は、請求項2~8が、本件訂正前の請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~8〕について請求されたものである。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったものを、請求項1の発明特定事項の全てを変更することなく、請求項1の記載を引用しない独立形式請求項へ改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3、5~7について
訂正事項3、5~7は、それぞれ、本件訂正前の請求項3、5、6、8について、訂正事項1によって請求項1が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させ、また、訂正事項1によって削除された請求項1を引用しているという不明瞭な状態を解消させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4が請求項1~3のいずれかの記載を引用するものであったのを、請求項2、3を引用しないものとして特許請求の範囲を減縮するとともに、請求項1を引用するものについて、請求項1の発明特定事項の全てを変更することなく、請求項1の記載を引用しない独立形式請求項へ改めるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3.訂正についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件訂正後の請求項〔1~8〕について訂正を認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたから、本件特許の請求項2~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明2」~「本件発明8」という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項2~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項2】
基材の少なくとも片側に、非晶質膜であるA層とアンカーコート層を有し、
前記アンカーコート層は基材とA層の中間に存在しており、
前記A層は、マグネシウム及び/またはカルシウムを含み、且つ、前記A層はケイ素及び酸素を含み、
前記A層は、陽電子ビーム法により測定される平均寿命が0.935ns以下であり、
水蒸気透過度が2.4×10-2g/m2/day以下であり、
前記A層は、X線光電子分光により測定される酸素原子(O1s)のピークの半値幅が3.25eV以下である積層体。
【請求項3】
前記A層は、マグネシウム、ケイ素及び酸素を含む、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
基材の少なくとも片側に、非晶質膜であるA層とアンカーコート層を有し、
前記アンカーコート層は基材とA層の中間に存在しており、
前記A層は、マグネシウム及び/またはカルシウムを含み、且つ、前記A層はケイ素及び酸素を含み、
前記A層は、陽電子ビーム法により測定される平均寿命が0.935ns以下であり、
水蒸気透過度が2.4×10-2g/m2/day以下であり、
前記A層は、シリケート結合を有する積層体。
【請求項5】
前記アンカーコート層は、一方の面が前記基材と接し、他方の面が前記A層と接している、請求項2~4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記A層は、マグネシウム、ケイ素及び酸素を含み、X線光電子分光により測定されるマグネシウム(Mg)原子濃度が5~50atm%、ケイ素(Si)原子濃度が2~30atm%、及び酸素(O)原子濃度が45~70atm%である、請求項2~5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記A層は、マグネシウム(Mg)原子とケイ素(Si)原子の原子濃度(atm%)の比率Mg/Siが、0.30~11.00である、請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
前記A層が真空蒸着法により形成される層である、請求項2~7のいずれかに記載の積層体。」
第4 取消理由の概要
当審が通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1 取消理由1(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
実施例1~6の原子濃度は、技術常識から想定されるA層中の原子濃度と異なるものであり、本件特許明細書のA層の形成方法に係る記載のみからでは、実施例1~6のA層を形成できるとは直ちにはいえないから、発明の詳細な説明は、本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
2 取消理由2(明確性要件)
本件の請求項6~8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明6が特定する(Mg、Si、O)の各含有割合には、技術常識から想定される酸素(O)の含有割合よりも多くの酸素を含有する場合を含み得るものとなっているから、請求項6~8に係る発明は明確でない。
3 取消理由3(進歩性)
本件特許の請求項1、3、5及び8に係る発明は、以下の甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用刊行物>
甲第1号証:特開2012-132085号公報
甲第2号証:特開2015-42487号公報
以下、甲第1号証を「甲1」といい、他も同様にいう。
第5 取消理由通知に記載した取消理由についての当審の判断
1 取消理由1(実施可能要件)について
物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用することができる程度のものでなければならない。
(1)実施可能要件を満たすか否かについて
本件発明は、本件特許の請求項1に記載のとおりのものであるところ、A層に関して、段落【0084】、【0085】において、作成方法が記載され、実施例として【表1】において結果が記載されており、本件発明の発明特定事項を有する実施例が把握できる。
なお、当該各実施例において、A層中のMg、Si、Oの原子比率が示されているところ、MgOとSiO2の蒸着材料の面積比率とのずれが見られるが、この点については、蒸着工程において金属原子が基材以外にも付着したり、蒸着機内の雰囲気中などに含まれる酸素原子が基材に付着したりすることなどにより、Oが多くなるように変動しうるものであることを踏まえれば、実施例が作成できないとまではいえない。
そうすると、これらの記載を参照することにより、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施できるものである。
(2)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、「実施例1~6、11、12はいずれも、化学の常識に照らして実際にとり得ない組成であるから、・・・請求項に係る発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解できない」(17ページ)旨を主張する。また、意見書において、「本件特許明細書の記載からは、どのようにしてOHとの結合の量等を制御して酸素過多の状態を形成すればよいのか、当業者は理解することができない」(2ページ)旨を主張する。
しかし、上記(1)で検討したように、蒸着工程において金属原子が基材以外にも付着したり、蒸着機内の雰囲気中などに含まれる酸素原子が基材に付着したりすることなどにより、A層中のMg、Si、Oの原子比率はOが多くなるように変動しうるものであることを踏まえれば、当業者であれば、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施できるものであるから、申立人の主張は採用できない。
2 取消理由2(明確性要件)について
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(1)明確性要件を満たすか否かについて
本件発明6において、「前記A層は、マグネシウム、ケイ素及び酸素を含み、X線光電子分光により測定されるマグネシウム(Mg)原子濃度が5~50atm%、ケイ素(Si)原子濃度が2~30atm%、及び酸素(O)原子濃度が45~70atm%である」と特定している。この点について、上記1(1)で検討したように、蒸着工程において金属原子が基材以外にも付着したり、蒸着機内の雰囲気中などに含まれる酸素原子が基材に付着したりすることなどにより、A層中のMg、Si、Oの原子比率はOが多くなるように変動しうるものであることを踏まえれば、上記記載の原子濃度とすることは可能であり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとまではいえない。
(2)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、「請求項6の「マグネシウム(Mg)原子濃度が5~50atm%、ケイ素(Si)原子濃度が2~30atm%、及び酸素(O)原子濃度が45~70atm%である」(6B)という発明特定事項は、実際にとり得ない組成を含むものであり、発明特定事項の内容に技術的な欠陥があるため、発明が不明確となっている」(15ページ)旨を主張する。
しかし、上記(1)で検討したとおりであり、実際にとり得ない組成を含むものとはいえないから、申立人の主張は採用できない。
3 取消理由3(進歩性)について
請求項1が削除されたことにより、請求項1及びこれを引用する請求項3、5及び8に対する取消理由は解消された。
第6 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立書に記載の申立理由について
1 取消理由通知で採用しなかった申立理由の概要について
取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
(1) 申立理由(甲1を主引用例とする進歩性)
本件特許の請求項2~8に係る発明は、以下の甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用刊行物>
甲1:特開2012-132085号公報
甲2:特開2015-42487号公報
甲3:特開2002-234100号公報
甲4:特開2018-1521号公報
2 当審の判断
(1)引用文献の記載事項、引用発明
ア 甲1
(ア)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。「・・・」は省略を示す。以下同様。)
「【0040】
続いて、本発明の薄膜シート及び積層シートについて、その製造方法とともに説明する。図1に示すように、本発明の薄膜シート10は、第1基材フィルム11と、好ましくは上記蒸着材を用いて形成された本発明の薄膜12を有する。そして、本発明の積層シート20は、上記本発明の薄膜シート10と、この薄膜シート10の薄膜形成側に接着層13を介して接着された第2基材フィルム14とを有する。
【0041】
第1基材フィルム11及び第2基材フィルム14は、長時間の高温高湿度環境試験に耐え得る機械的強度や耐候性等を有するものが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフテレート(PET)、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート、ポリエーテルスルフォン、トリアセチルセルロース(TAC)、環状オレフィン(コ)ポリマー等の樹脂フィルムが挙げられる。これらの樹脂フィルムは、必要に応じて難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等が配合されていても構わない。第1基材フィルム11及び第2基材フィルム14の厚さは、好ましくは5~300μm、更に好ましくは10~150μmである。
【0042】
この第1基材フィルム11上に、好ましくは上述した本発明の蒸着材を用いて、ガスバリア材としての薄膜12が形成される。蒸着材中の第1酸化物に含まれる金属元素をA、第2酸化物に含まれる金属元素をBとすると、薄膜12中の金属元素Aと金属元素Bとのモル比が5~85:95~15である。薄膜12中の金属元素A,Bの含有割合が上記範囲外になると、それぞれ各酸化物の結晶状態が優先となり、アモルファス状で緻密で微細な構造を得られないといった不具合を生じる。薄膜12の厚さは10~200nmの範囲内が好ましい。下限値未満では、ガスバリア材としての十分なガスバリア性が得られ難く、また、膜の耐久性が低下し易い。一方、上限値を越えると材料が無駄になり、また、厚み効果により、折り曲げ等の外力によるクラックが生じ易くなる。このうち、薄膜12の厚さは、20~100nmの範囲内が特に好ましい。蒸着材を用いた薄膜12の形成方法としては、電子ビーム蒸着法(Electron Beam Evaporation Method 以下、EB法という)、イオンプレーティング法、反応性プラズマ蒸着法(Reactive Plasma Deposition Method 以下、RPD法という)、抵抗加熱法又は誘導加熱法等の真空成膜法が好ましい。」
「【0061】
<実施例11>
第2酸化物粉末として平均粒径が0.9μm、純度が99.7%の高純度MgO粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるSiO粒子及びMgO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるSiO、MgOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。
・・・
【0063】
<実施例13>
SiO粉末並びにMgO粉末の混合量を、形成後の蒸着材に含まれるSiOが50モル%、MgOが50モル%となるように調整したこと以外は、実施例11と同様に、蒸着材を得た。得られた蒸着材に含まれるSiO粒子及びMgO粒子の平均粒径、また、蒸着材に含まれるSiO、MgOの含有量、ペレットの塩基度を以下の表1に示す。」
「【0112】
【表1】
[図:0001431099000001.jpg]
」
「【0115】
・・・
<比較試験及び評価1>
実施例1~41及び比較例1~20で得られた蒸着材を用いて、厚さ75μmのPETフィルム上に、以下の表5~表7に示す方法により蒸着を行って薄膜を成膜し、薄膜シートを形成した。これらの薄膜シートについて、水蒸気透過度を測定し、ガスバリア性を評価した。また、上記ガスバリア性評価における条件よりも高温、高湿度条件下で長時間放置した後の水蒸気透過度及びその変化率から耐久性を評価した。更に、これらの薄膜シートについて、光透過率を測定し、透明性を評価した。これらの結果を以下の表5~表7に示す。」
「【0119】
【表5】
[図:0001431099000002.jpg]
」
(イ)甲1に記載された発明
上記(ア)より、甲1には、特に実施例13の蒸着材から得られた積層体に着目すると、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「SiO50モル%、MgO50モル%含有する蒸着材を用いて、PETフィルム上にRPD法(反応性プラズマ蒸着法(Reactive Plasma Deposition Method))により蒸着を行って薄膜を成膜し、水蒸気透過度が0.02g/m2・dayである、薄膜シート。」
イ 甲2
甲2には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、ガスバリア性に優れた食品、医薬品、電子部品等の気密性を要求される包装材料、または、ガス遮断材料として使用される透明バリアフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性のすぐれたフィルムとしては、プラスチックフィルム上にアルミニウムを積層したもの、塩化ビニリデンやエチレンビニールアルコール共重合体をコーティングしたものが知られている。また、無機薄膜を利用したものとしては、酸化珪素、酸化アルミニウム薄膜等を積層したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
これら、無機薄膜を利用した透明バリアフィルムは、酸素透過量、水蒸気透過量を測定することで評価されてきた。
無機薄膜を利用した透明バリアフィルムを透過してくる気体は基板フィルムの自由体積(空孔)を通過し、無機薄膜の割れ目等の欠陥部分あるいは無機薄膜層にある空孔を透過してくる。
無機層の割れ目などの欠陥は透明バリアフィルムを扱う時に発生したり、基板となるプラスチックフィルム上の突起、ゴミにより発生したりする。
一方、無機薄膜層にある空孔は、物質自身の性質や膜形成条件に起因する。
バリアの向上を検討するに当たり透過量のみで評価しても対策がうまく取れない。
また、有機層と無機層とを積層することによりバリア性能を向上させる方法が知られているが、無機層に空孔が多い膜では積層による効果がない。
【0003】
高分子フィルムの自由体積を測定する方法として対象となるフィルム内に打ち込んだ陽電子が空孔内で消滅するまでの時間により評価する陽電子消滅寿命測定法が知られている。(たとえば、非特許文献1参照)
無機材料内の欠陥を評価する方法としても陽電子消滅法が使われる。陽電子消滅を利用した評価法としては寿命を測定する方法以外にも、陽電子の消滅時に発生するγ線のエネルギー分布を評価するドップラー広がり評価法がある。(たとえば、非特許文献2参照)」
ウ 甲3
甲3には、以下の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、食品や医薬品等の包装、収納、保存等に好適に使用されるガスバリヤー性に優れたフィルム、およびその製造方法に関する。」
「【0013】シリコン酸化物薄膜層
ガスバリヤー層として機能するシリコン酸化物薄膜層は、シリコン酸化物から形成されており、層は次の状態をとっている。まず、薄膜をX線光電子分光スペクトル(以降、XPSスペクトルと呼ぶ)法によって酸素1sのスペクトルを測定し、縦軸に強度(Intensity)および横軸に結合エネルギー(Binding Energy)の関係で表す。次に、半値幅を1.60~1.0eV、好ましくは1.3~1.1eV、より好ましくは1.2eVの条件に設定して波形分離を行う。そこで得られたピークの内でピーク面積の大きい3つのピークに関して、一番ピーク面積が大きいピークをピーク1、ピーク1よりも低エネルギー側のピークをピーク2、ピーク1よりも高エネルギー側のピークをピーク3と名つけた時に、ピーク3の面積に対するピーク2の面積の比(ピーク2/ピーク3)は、1.10より大きい。このような面積比の関係にあるシリコン酸化物薄膜層は、優れたガスバリヤー性能を有している。」
エ 甲4
甲4には、以下の記載がある。
「【0006】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、多層積層をせずとも高度なガスバリア性の発現が可能であり、フィルム搬送や後工程における加工に対しても高度なガスバリア性を維持することができるガスバリア性フィルムを提供せんとするものである。」
「【0012】
また、本発明はX線光電子分光法により第2層表面側から原子濃度を測定した場合に、前記酸化亜鉛を含む第1層における亜鉛の原子濃度が、少なくとも1個のピークを有することが好ましい。第1層における亜鉛の原子濃度が、第1層の表面側でピークを有する場合、第1層表面の原子欠陥に第2層に含まれるケイ素原子が充填されて欠陥が減少することに加えて、第1層に含まれる亜鉛原子と第2層に含まれるケイ素原子が化学結合してZn-O-Siのシリケートを形成しやすくなり、第1層と第2層間の密着性が向上して第2層が緻密化するため、高度なガスバリア性をより安定して発現するものとなる。・・・」
(2)本件発明2について
ア 本件発明2と甲1発明を対比する。
甲1発明の「PETフィルム」は、本件発明2の「基材」に相当する。
甲1発明の「薄膜」は、SiとMgとOを含むものであり、本件発明2の「マグネシウム及び/またはカルシウムを含み、且つ、前記A層はケイ素及び酸素を含」む「A層」に相当する。
甲1発明の「水蒸気透過度が0.02g/m2・day」であることは、本件発明2の「水蒸気透過度が2.4×10-2g/m2/day以下である」ことに相当する。
甲1発明の「薄膜シート」は、PETフィルムと薄膜を積層したものであるから、本件発明2の「積層体」に相当する。
以上より、本件発明2と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
《一致点》
「基材の少なくとも片側に、A層を有し、
前記A層は、マグネシウム及び/またはカルシウムを含み、且つ、前記A層はケイ素及び酸素を含み、水蒸気透過度が2.4×10-2g/m2/day以下である積層体。」
《相違点1》
本件発明2の「A層」が「非晶質膜」であるのに対し、甲1発明の薄膜がそうであるか特定されていない点。
《相違点2》
本件発明2は、「アンカーコート層を有し、前記アンカーコート層は基材とA層の中間に存在」しているのに対し、甲1発明ではそのように特定されていない点。
《相違点3》
本件発明2の「A層は、陽電子ビーム法により測定される平均寿命が0.935ns以下であ」るのに対し、甲1発明の薄膜がそうであるか特定されていない点。
《相違点4》
本件発明2の「A層は、X線光電子分光により測定される酸素原子(O1s)のピークの半値幅が3.25eV以下である」のに対し、甲1発明の薄膜がそうであるか特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み《相違点4》から検討する。
《相違点4》について
上記(1)ウのとおり、甲3には、シリコン酸化物薄膜層について、X線光電子分光スペクトル法によって酸素1sのスペクトルを測定し、半値幅を1.60~1.0eV、好ましくは1.3~1.1eV、より好ましくは1.2eVの条件に設定して波形分離を行い、ピーク3の面積に対するピーク2の面積の比(ピーク2/ピーク3)が1.10より大きいような面積比の関係にあるシリコン酸化物薄膜層は優れたガスバリヤー性能を有していることが示されている。
ここでは、半値幅の数値を条件に設定して波形分離を行った場合のことは記載されているものの、酸素原子(O1s)のピークの半値幅が3.25eV以下であることを示しているものではない。また、酸素原子(O1s)のピークの半値幅を3.25eV以下とする技術思想は、提出された他の証拠にも記載されていない。そうすると、相違点4に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
なお、申立人は意見書において、本件特許の前記試料の方が甲1の試料よりも結合の種類が多いことから甲1には酸素原子(O1s)のピークの半値幅が3.25eV以下である構成が開示されていた旨(9ページ)を主張するが、ピークの半値幅が結合の種類に影響を受けるとしても、結合の種類の多少だけからピークの半値幅が決定されるわけではないものと認められるから、当該意見を採用することはできない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び甲2、甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明2の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものであるところ、上記(2)で検討したとの同様に、本件発明3は、甲1発明及び甲2、甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明4について
本件発明4と甲1発明を対比すると、上記(2)で示した《相違点1》~《相違点3》の他に、次の相違点を有する。
《相違点5》
本件発明2の「A層」が「シリケート結合を有する」ものであるのに対し、甲1発明の薄膜がそうであるか特定されていない点。
事案に鑑み《相違点5》から検討する。
《相違点5》について
上記(1)エのとおり、甲4には、「第1層に含まれる亜鉛原子と第2層に含まれるケイ素原子が化学結合してZn-O-Siのシリケートを形成しやすくなり、第1層と第2層間の密着性が向上して第2層が緻密化するため、高度なガスバリア性をより安定して発現するものとなる」ことが記載されている。
一方で、本件明細書の【0031】には、「前記A層は、シリケート結合を有することが好ましい。・・・A層中にシリケート結合を有することで、緻密な構造となり、高いガスバリア性が得られる。」と記載されているように、本件発明4はA層中にシリケート結合を有するものである。つまり、第1層に含まれる原子と第2層に含まれる原子が化学結合してシリケートを形成するものではない。また、緻密な構造とする機序の観点からみても、甲4においては、第1層と第2層間の密着性が向上することで第2層が緻密化するものであるから、本件発明4のようにA層中にシリケート結合を有することで緻密な構造となるものとは一定程度相違するものと認められる。また、A層中にシリケート結合を有する構成は、提出された他の証拠にも記載されていない。そうすると、相違点5に係る本件発明4の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明及び甲2、甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)本件発明5について
本件発明5は、本件発明2~4の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものであるところ、上記(2)~(4)で検討したとの同様に、本件発明5は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6)本件発明6について
本件発明6は、本件発明2~5の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものであるところ、上記(2)~(5)で検討したとの同様に、本件発明6は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(7)本件発明7について
本件発明7は、本件発明6の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものであるところ、上記(6)で検討したとの同様に、本件発明7は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(8)本件発明8について
本件発明8は、本件発明2~7の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものであるところ、上記(2)~(7)で検討したとの同様に、本件発明8は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、請求項2~8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項2~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項1は、本件訂正により削除されたため、請求項1に係る特許についての本件特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700183