特許異議申立
2025-700315
離型フィルム{RELEASE FILM}
- 審判番号
- 2025-700315
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-141454
- 登録番号
- 7554798
- 請求日
- 2025年03月17日
- 審決日
- 2026年02月20日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東レ尖端素材株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】角田 朗
- 審判長/審判官
- 審判長 神山 茂樹
- 審判官 長谷川 一郎
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1652.537-YAA(B32B) / P1652.121-YAA(B32B) / P1652.113-YAA(B32B) / P1652.536-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7554798号発明「離型フィルム{RELEASE FILM}」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7554798号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~24〕について訂正することを認める。
特許第7554798号の請求項1~7、9~12、14~24に係る特許を維持する。
特許第7554798号の請求項13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7554798号の請求項1~24に係る特許についての出願は、令和4年9月6日(パリ条約による優先権主張 2021年9月7日(KR)韓国)の出願であって、令和6年9月11日にその特許権の設定登録がされ、令和6年9月20日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和7年 3月17日 :特許異議申立人角田朗(以下「申立人」という。)による請求項1~7、9~24に係る特許に対する特許異議の申立て
令和7年 8月 5日付け:取消理由通知
令和7年10月30日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和7年12月16日 :特許権者による訂正請求書を対象とする手続補正書の提出(以下、手続補正書による補正後の訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
なお、当審から令和7年12月25日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を行ったが、指定の期間内に申立人からは応答がなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである(「・・・」は省略した部分を表す。)。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された
「基材フィルム;及び前記基材フィルムの少なくとも一面に離型コーティング組成物が塗布されて形成される離型層;を含み、
前記離型コーティング組成物は化学式1のメラミン化合物、そのオリゴマー、その重合体、またはこれらの組合わせであるメラミン成分;極性官能基を含有し、重量平均分子量が3,000~30,000である重合体成分;及び酸触媒を含み、
前記重合体成分はシリコン重合体成分を含まず、
前記重合体成分はポリエステル、ポリウレタン、ポリビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、アクリレート、メタクリレート、これらの組合わせ、及びこれらの共重合体からなる群から選択された1つ以上であり、
前記極性官能基は水酸化基、カルボキシ基、アミノ基、アミン基、カルボニル基、アクリル基、アクリロイル基、ニトリル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、及びエステル基で構成された群から選択された1つ以上であり、
前記離型層は、下記式(1)を満たす離型フィルム。
・・・」を、
「基材フィルム;及び前記基材フィルムの少なくとも一面に離型コーティング組成物が塗布されて形成される離型層;を含み、
前記離型コーティング組成物は化学式1のメラミン化合物、そのオリゴマー、その重合体、またはこれらの組合わせであるメラミン成分;極性官能基を含有し、重量平均分子量が3,000~30,000である重合体成分;及び酸触媒を含み、
前記重合体成分はシリコン重合体成分を含まず、
前記重合体成分はポリエチレンテレフタレート共重合体であり、
前記ポリエチレンテレフタレート共重合体はテレフタル酸;エチレングリコール;及びイソフタル酸、ジエチレングリコール、モノプロピレングリコール、及びシクロへキシレンジメタノールのうちの1つ以上;を含む共重合体であり、
前記極性官能基は水酸化基、カルボキシ基、アミノ基、アミン基、カルボニル基、アクリル基、アクリロイル基、ニトリル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、及びエステル基で構成された群から選択された1つ以上であり、
前記雛型コーティング組成物のうち、メラミン成分及び重合体成分の重量比は固形分を基準に100:3~100:70であり、
前記離型層は、下記式(1)を満たす離型フィルム。
・・・」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~7、9~12、14~24も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項8を削除する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項13を削除する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~24は、請求項2~24が、本件訂正の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~24〕について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記された「重合体成分」及び「離型コーティング組成物」について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1のうち「重合体成分」についての訂正は、本件特許の明細書の【0030】及び特許請求の範囲の【請求項8】の記載に基づくものであり、「離型コーティング組成物」についての訂正は、本件特許の明細書の【0036】及び特許請求の範囲の【請求項13】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2、3について
訂正事項2、3は、それぞれ本件訂正前の請求項8、13を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 本件訂正の適否のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、同法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とする訂正事項2により訂正される請求項8については、特許異議の申立てがされていない請求項であることから同法第120条の5第9項で準用する第126条第7項に規定される独立特許要件が課されるが、本件訂正により削除されたものであり、特許要件の適否について見直すべき新たな事項は存在しない。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~24〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正請求が認められたことから、本件特許の請求項1~7、9~12、14~24に係る発明(以下「本件発明1」等という。またこれらを「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7、9~12、14~24に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~7、9~12、14~24の記載は、次のとおりである。
【請求項1】
基材フィルム;及び前記基材フィルムの少なくとも一面に離型コーティング組成物が塗布されて形成される離型層;を含み、
前記離型コーティング組成物は化学式1のメラミン化合物、そのオリゴマー、その重合体、またはこれらの組合わせであるメラミン成分;極性官能基を含有し、重量平均分子量が3,000~30,000である重合体成分;及び酸触媒を含み、
前記重合体成分はシリコン重合体成分を含まず、
前記重合体成分はポリエチレンテレフタレート共重合体であり、
前記ポリエチレンテレフタレート共重合体はテレフタル酸;エチレングリコール;及びイソフタル酸、ジエチレングリコール、モノプロピレングリコール、及びシクロへキシレンジメタノールのうちの1つ以上;を含む共重合体であり、
前記極性官能基は水酸化基、カルボキシ基、アミノ基、アミン基、カルボニル基、アクリル基、アクリロイル基、ニトリル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、及びエステル基で構成された群から選択された1つ以上であり、
前記雛型コーティング組成物のうち、メラミン成分及び重合体成分の重量比は固形分を基準に100:3~100:70であり、
前記離型層は、下記式(1)を満たす離型フィルム。
式(1)
0.5≦Pb/Pa≦10.0
Pa:FT-IRスペクトルにおいて、波数が1450cm-1以上1650cm-1未満の領域における最大吸収ピーク強度
Pb:FT-IRスペクトルにおいて、波数が1650cm-1以上1850cm-1以下の領域における最大吸収ピーク強度
[化学式1]
【化1】
[図:0001435183000001.jpg]
(式中、Xは水素原子、-CH2OH、または-CH2-O-Rを示し、それぞれ同一であるか、または異なってもよい。Rは、炭素数1~8つのアルキル基を示し、それぞれ同一であるか、または異なってもよい。少なくとも1つのXは-CH2-O-CH3である)
【請求項2】
前記離型フィルムは、下記の条件(1)~条件(4)のうちの1つ以上を満たす
請求項1に記載の離型フィルム。
条件
(1)前記離型フィルムの離型層にTESA7475テープを付着した後、0.3m/分の剥離速度で180°剥離時の剥離力を測定したとき、剥離力が30~50gf/inである
(2)前記離型フィルムの離型層にTESA7475テープを付着し、常温で24時間経過後、0.3m/分の剥離速度で180°剥離時の剥離力を測定したとき、常温1日剥離力が200~250gf/inである
(3)グリーンシートに対して前記離型フィルムを0.5m/分の剥離速度で90°剥離時の剥離力を測定したとき、グリーンシートに対する離型フィルムの剥離力が1~100gf/inである
(4)RF90/RF1≧0.9(ここで、RF1及びRF90は、それぞれグリーンシートが付着した離型フィルムを24時間(1日)及び90日間室温23℃、湿度50%の条件下で保管した後に測定したグリーンシートに対する離型フィルムの剥離力である)
【請求項3】
X線蛍光(XRF)分析器を用いて測定した前記離型層中のシリコン含量が0.001~0.015g/m2である、
請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項4】
前記離型フィルムの残留接着率は94%以上である、
請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項5】
前記離型層の表面エネルギーが21~30dyne/cmである、
請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項6】
前記離型層の揮発性有機化合物の残留量が5ppm以下である、
請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項7】
前記メラミン成分の総酸価は390~780mgKOH/gである、
請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項9】
前記重合体成分は互いに異なる2以上の極性官能基を含有するものである、
請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項10】
前記酸触媒は塩酸、硫酸、窒酸、リン酸、シュウ酸、硝酸、ギ酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、カンファースルホン酸、ヘキサンスルホン酸、オクタンスルホン酸、ノナンスルホン酸、デカンスルホン酸、ヘキサデカンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メラミンヨウ化亜鉛(melamine ZnI2)、メラミントリスルホン酸(melamine trisulfonic acid;MTSA)、クメンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ノニルナフタレンスルホン酸、メチルアシッドフォスフェート、エチルアシッドフォスフェート、プロピルアシッドフォスフェート、イソプロピルアシッドフォスフェート、ブチルアシッドフォスフェート、ブトキシエチルアシッドフォスフェート、オクチルアシッドフォスフェート、2-エチルヘキシルアシッドフォスフェート、デシルアシッドフォスフェート、ラウリルアシッドフォスフェート、ステアリルアシッドフォスフェート、オレイルアシッドフォスフェート、ベヘニルアシッドフォスフェート、フェニルアシッドフォスフェート、ノニルフェニルアシッドフォスフェート、シクロヘキシルアシッドフォスフェート、フェノキシエチルアシッドフォスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドフォスフェート、ビスフェノールAアシッドフォスフェート、ジメチルアシッドフォスフェート、ジエチルアシッドフォスフェート、ジプロピルアシッドフォスフェート、ジイソプロピルアシッドフォスフェート、ジブチルアシッドフォスフェート、ジオクチルアシッドフォスフェート、ジ2-エチルヘキシルアシッドフォスフェート、ジラウリルアシッドフォスフェート、ジステアリルアシッドフォスフェート、ジフェニルアシッドフォスフェート、ビスノニルフェニルアシッドフォスフェートスルホニウム塩、ベンゾチアゾリウム塩、アンモニウム塩、及びホスホニウム塩で構成された群から選択された1つ以上である、
請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項11】
前記離型コーティング組成物のうち、メラミン成分と酸触媒の重量比が100:5~100:30である、
請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項12】
前記離型コーティング組成物は組成物全体の総重量を基準に0.2~1.0重量%のメラミン成分、または
組成物全体の総重量を基準に0.01~5重量%の重合体成分を含む、
請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項14】
前記離型コーティング組成物は帯電防止剤、伝導性向上剤、pH調節剤、界面活性剤、及び防汚剤のうちの1つ以上をさらに含む、
請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項15】
前記帯電防止剤はPEDOT、PEDOT:PSS、ポリアニリン、ポリピロール、第4級アンモニウム塩、スルホン酸塩、及びリン酸塩からなる群から選択された1つ以上である、
請求項14に記載の離型フィルム。
【請求項16】
前記pH調節剤は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム及びアンモニア水からなる群から選択された1つ以上である、
請求項14に記載の離型フィルム。
【請求項17】
前記界面活性剤はカチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、変性シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、またはこれらの組合わせである、
請求項14に記載の離型フィルム。
【請求項18】
前記防汚剤はフッ素、フッ素基含有シラン系化合物、フッ素基含有有機化合物、及び自己乳化型シリコンからなる群から選択された1つ以上である、
請求項14に記載の離型フィルム。
【請求項19】
前記防汚剤は自己乳化型シリコンであり、
前記自己乳化型シリコンは水酸化基を含むシリコンモノマーである、
請求項18に記載の離型フィルム。
【請求項20】
前記離型コーティング組成物は組成物全体の総重量を基準に
0.1~30重量%の帯電防止剤、
0.01~0.3重量%のpH調節剤、
0.05~0.2重量%の界面活性剤、または
0.1~0.3重量%の防汚剤を含む、
請求項14に記載の離型フィルム。
【請求項21】
前記離型コーティング組成物はオキサゾリン系硬化剤をさらに含む、
請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項22】
前記離型コーティング組成物は水または水と有機溶剤の組合わせを含み、
前記水と有機溶剤の調合比は、水と有機溶剤の総重量を基準としたときの水の含量が50重量%以上である、
請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項23】
前記メラミン成分と、極性官能基を含有する重合体成分は硬化後、互いに架橋網の構造を形成するものである、
請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項24】
前記離型フィルムは粘着剤、半硬化性接着剤、積層セラミックキャパシタ用セラミックシート、印刷回路用半硬化樹脂、またはプリプレグに用いられる
請求項1に記載の離型フィルム。
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審において令和7年8月5日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1~7、9~12、14~24に係る発明は、離型コーティング組成物のうち、メラミン成分及び重合体成分の重量比は固形分を基準に100:3~100:70である構成を発明特定事項として有していないため、当業者が課題を解決できるとは認識できず、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合しないため、請求項1~7、9~12、14~24に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~7、9~24に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第1号証に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7、9~24に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
甲第1号証 特開2021-116428号公報(以下「甲1」という。)
甲第6号証 SILVERSTEIN 外2名著、荒木峻 外3名訳、「有機化合物のスペクトルによる同定法-MS,IR,NMRの併用-」、第7版、株式会社東京化学同人、2006年9月15日、126~131ページ(以下「甲6」という。)
2 取消理由1(サポート要件)について
本件訂正により、請求項1は、取消理由1の対象としなかった本件訂正前の請求項13の発明特定事項により限定されたため、取消理由1は当たらないものとなった。
3 取消理由2(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
甲1(【0062】、【0067】、【0077】、【0144】、【0152】~【0157】)には、特に実施例4に着目すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「ステアリルアクリレートを40部、ラウリルアクリレートを55部、2-ヒドロキシルエチルメタクリレートを5部加え、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを2部、溶媒としてメチルエチルケトンを153部込み、反応を行い重量平均分子量38100のポリマーとし、固形分濃度40%のポリマー溶液を得て(【0152】、【0154】【表1】)、
(A)成分として、得られたポリマーを固形成分換算で10部、(B)成分としてメラミン化合物であるフルエーテル型メチル化メラミン樹脂(製品名「サイメル303LF」:オルネクスジャパン社製)60部、(C)成分として酸触媒であるパラトルエンスルホン酸を4部、(D)成分としてポリオールである水添ダイマージオール(製品例「Pripol2033」、クローダジャパン株式会社製、OH価=207mgKOH/g)30部添加し、これをトルエンで希釈して固形分が10%になるように配合した熱硬化剥離コーティング剤の溶液をポリエチレンテレフタレートフィルムに塗工し、乾燥させて硬化した硬化物とし、得た、剥離フィルム(【0062】、【0067】、【0077】、【0144】、【0155】~【0157】【表2】)。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。(なお、本件発明1中の[化学式1]の化学式については省略する。以下同様。)
甲1発明の「ポリマー」は本件発明1の「重合体成分」に相当する。
甲1発明の「メラミン化合物であるフルエーテル型メチル化メラミン樹脂(製品名「サイメル303LF」:オルネクスジャパン社製)」は、その構造から、本件発明1の「化学式1のメラミン化合物」といえるから、本件発明1の「化学式1のメラミン化合物、そのオリゴマー、その重合体、またはこれらの組合わせであるメラミン成分」に相当する。
甲1発明の「酸触媒であるパラトルエンスルホン酸」は本件発明1の「酸触媒」に相当する。
甲1発明の「ポリエチレンテレフタレートフィルム」は本件発明1の「基材フィルム」に相当する。
甲1発明の「硬化物」は、「熱硬化剥離コーティング剤の溶液」を「硬化した」ものであるから、本件発明1の「離型層」に相当する。
甲1発明の「剥離フィルム」は本件発明1の「離型フィルム」に相当する。
甲1発明において「熱硬化剥離コーティング剤の溶液をポリエチレンテレフタレートフィルムに塗工し、乾燥させて硬化した硬化物とし、得た」ことは、本件発明1において「基材フィルム;及び前記基材フィルムの少なくとも一面に離型コーティング組成物が塗布されて形成される離型層;を含」むことに相当する。
甲1発明における「ポリマー」が「ステアリルアクリレートを40部、ラウリルアクリレートを55部、2-ヒドロキシルエチルメタクリレートを5部加え、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを2部、溶媒としてメチルエチルケトンを153部込み、反応を行」ったものであることは、「ステアリルアクリレート」、「ラウリルアクリレート」、「2-ヒドロキシルエチルメタクリレート」のいずれもがカルボニル基を含有するものであるから、本件発明1における「前記重合体成分」が、「極性官能基を含有し」、「前記極性官能基は水酸化基、カルボキシ基、アミノ基、アミン基、カルボニル基、アクリル基、アクリロイル基、ニトリル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、及びエステル基で構成された群から選択された1つ以上であ」ることに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1]
「基材フィルム;及び前記基材フィルムの少なくとも一面に離型コーティング組成物が塗布されて形成される離型層;を含み、
前記離型コーティング組成物は化学式1のメラミン化合物、そのオリゴマー、その重合体、またはこれらの組合わせであるメラミン成分;極性官能基を含有する重合体成分;及び酸触媒を含み、
前記重合体成分はシリコン重合体成分を含まず、
前記極性官能基は水酸化基、カルボキシ基、アミノ基、アミン基、カルボニル基、アクリル基、アクリロイル基、ニトリル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、及びエステル基で構成された群から選択された1つ以上である、離型フィルム。」
[相違点1]
本件発明1の「重合体成分」は、「重量平均分子量が3,000~30,000である」のに対し、甲1発明の「ポリマー」は、「重量平均分子量38100」である点。
[相違点2]
本件発明1は、「前記重合体成分はポリエチレンテレフタレート共重合体であり、前記ポリエチレンテレフタレート共重合体はテレフタル酸;エチレングリコール;及びイソフタル酸、ジエチレングリコール、モノプロピレングリコール、及びシクロへキシレンジメタノールのうちの1つ以上;を含む共重合体であ」るのに対して、甲1発明は、「ステアリルアクリレートを40部、ラウリルアクリレートを55部、2-ヒドロキシルエチルメタクリレートを5部加え、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを2部、溶媒としてメチルエチルケトンを153部込み、反応を行」った「ポリマー」である点。
[相違点3]
本件発明1の「前記離型層」は、「Pa:FT-IRスペクトルにおいて、波数が1450cm-1以上1650cm-1未満の領域における最大吸収ピーク強度」、「Pb:FT-IRスペクトルにおいて、波数が1650cm-1以上1850cm-1以下の領域における最大吸収ピーク強度」として「0.5≦Pb/Pa≦10.0」「式(1)を満たす」のに対して、甲1発明の「硬化物」は「Pb/Pa」の値が不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1には、「ポリマー」としてポリエチレンテレフタレート共重合体を用いることは、記載も示唆もされておらず、申立人が提出した他の証拠を参照しても、甲1発明の「ポリマー」をポリエチレンテレフタレート共重合体とすることを示唆する記載はない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(3)本件発明2~7、9~12、14~24について
本件発明2~7、9~12、14~24は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)イと同様の理由により、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
請求項1~7、9~24について、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
申立理由1(新規性)
請求項1、2、4~7、9~11、13、23、24に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、4~7、9~11、13、23、24に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
申立理由2(実施可能要件)
請求項1~7、9~12、14~24に係る発明は、発明の詳細な説明において、式(1)0.5≦Pb/Pa≦10.0を満たす離型層を得るための手段である、請求項8、13に記載された事項で限定されていない。
したがって、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、請求項1~7、9~12、14~24の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものなく、請求項1~7、9~12、14~24に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 申立理由1(新規性)について
上記第4の3(2)で示したとおり、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも実質的な相違点である相違点2で相違している。
そうすると、本件発明1、2、4~7、9~11、23、24は、甲1発明ではない。
3 申立理由2(実施可能要件)について
本件訂正により、請求項1は、本件訂正前の請求項8、13の発明特定事項により限定されたため、申立理由2は当たらないものとなった。
第6 むすび
取消理由通知書に記載した取消理由、及び特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~7、9~12、14~24に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1~7、9~12、14~24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項13に係る特許は、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項13に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700315