特許異議申立
2017-701096
液晶ポリエステルおよびその製造方法
- 審判番号
- 2017-701096
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-044943外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年11月22日
- 審決日
- 2019年09月03日
- 公報発行日
- 2019年11月29日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G) / P1651.121-YAA(C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項、特許法第120条の8第1項、特許法第29条、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第7項、特許法第17条の5第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6131638号発明「液晶ポリエステルおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6131638号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3、9〕及び〔4-8〕について、訂正することを認める。
特許第6131638号の請求項2ないし9に係る特許を維持する。
特許第6131638号の請求項1に係る特許に対する本件特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨
1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6131638号(以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2013-44943号、以下「本願」という。)は、平成25年3月7日に出願人東レ株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成29年4月28日に特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、平成29年5月24日に特許掲載公報が発行されたものである。
2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成29年11月22日付けで特許異議申立人赤松智信(以下「申立人」という。)により「特許第6131638号の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された発明についての特許は取り消されるべきものである。」という趣旨の本件異議申立がされた。
3.以降の手続の経緯
以降の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成30年 3月 2日付け 取消理由通知
平成30年 4月25日 意見書・訂正請求書
平成30年 5月 9日付け 通知書(申立人あて)
平成30年 6月11日 意見書(申立人)
平成30年 7月 9日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成30年 9月 5日 意見書・訂正請求書
平成30年10月19日付け 通知書(申立人あて)
平成31年 1月25日付け 訂正拒絶理由通知
平成31年 2月20日 意見書・手続補正書(訂正請求書)
平成31年 3月11日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和 元年 5月 8日 意見書
令和 元年 6月 4日付け 審尋
令和 元年 7月 3日 回答書
(上記のとおり、平成30年9月5日付けで訂正請求がされたから、平成30年4月25日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。)
なお、平成30年9月5日付けで訂正請求がされたことに基づき、申立人に対して意見書を提出することを求める平成30年10月19日付け通知書を送付したが、申立人からの意見書の提出はなかったから、以降、申立人に意見を聴くまでもない「特別の事情」があるものとして、申立人に意見書の提出機会を与えなかった。
第2 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証を提示し、取消理由として、概略、以下の取消理由1及び2が存するとしている。
取消理由1:本件発明1ないし3及び8は、いずれも、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由2:本件発明1は、その所期の効果を奏さない実施態様を含むものであり、(本件特許に係る明細書の)発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許に係る請求項1及び同項を引用する請求項2ないし8の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願にされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開平10-95839号公報
(以下、「甲1」と略していう。)
第3 当審が通知した取消理由(決定の予告)の概要
1.平成30年7月9日付け取消理由(決定の予告)の概要
当審が上記平成30年7月9日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。
「当審は、依然として、
申立人が主張する下記(再掲)取消理由1及び2並びに当審が通知した下記取消理由aにより、本件発明1ないし3及び9についての特許はいずれも取り消すべきもの、
と判断する。・・(中略)・・
取消理由1:本件発明1ないし3及び9は、いずれも、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由2:本件発明1は、その所期の効果を奏さない実施態様を含むものであり、(本件特許に係る明細書の)発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許に係る請求項1及び同項を引用する請求項2ないし9の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願にされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由a:本件特許に係る請求項1の記載では、同項に記載された事項で特定される発明が明確であるとはいえないから、本件特許に係る請求項1及び同項を引用する請求項2、3及び9の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願にされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
(なお、上記訂正により、請求項番号の項ずれが起きており、旧請求項8は新請求項9になっているので、項番の点を訂正している。)
I.取消理由2について
・・(中略)・・
してみると、本件発明1並びにそれを直接引用する本件発明3及び9が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということはできない。
II.取消理由aについて
・・(中略)・・
してみると、本件特許の請求項1及び同項を引用する請求項2、3及び9の記載では、各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明が明確でない。
III.取消理由1について
・・(中略)・・
(5)取消理由1に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3及び9は、いずれも甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、いずれも特許を受けることができるものではない。
3.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3及び9は、いずれも特許法第29条第1項第3号に該当し、いずれも特許を受けることができるものではないから、本件の請求項1ないし3及び9に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、いずれも同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。
また、本件の請求項1ないし3及び9に係る記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものではないから、同法同条同項(柱書)の規定を満たしておらず、本件の請求項1ないし3及び9に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。」
2.平成31年3月11日付け取消理由(決定の予告)の概要
当審が上記平成31年3月11日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。
「当審は、
新たに発見した下記取消理由bにより、本件発明2、3及び9についての特許はいずれも取り消すべきもの、
訂正後の請求項1に係る特許に対する本件特許異議の申立ては、訂正によりその技術事項が全て削除され、申立ての対象を欠くものであり、不適法となったものであって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである、
と判断する。以下、詳述する。
取消理由b:本件特許に係る請求項2、3及び9の記載では、同各項に記載された事項で特定される発明が明確であるとはいえないから、本件特許に係る請求項2、3及び9の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願にされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
1.取消理由bについて
・・(中略)・・
2.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本件の請求項2、3及び9に係る記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同法同条同項(柱書)の規定を満たしておらず、本件の請求項2、3及び9に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。
・・(中略)・・
<当審の付記>
・・(中略)・・
2.上記取消理由bのとおり、本件請求項2、3又は9の記載では、同各項に係る発明が明確でないことにより、請求項2の「液晶ポリエステル」に係る発明並びに請求項2を引用して記載された請求項3の「液晶ポリエステル組成物」に係る発明及び請求項9の「成形品」に係る発明は、上記第3に示した取消理由2に係る甲1に記載された発明と精緻に対比・検討の上、物の発明としての異同につき判断することができないから、取消理由2に係る特許性(新規性)の判断につき、この取消理由通知においては、留保する。」
第4 平成30年9月5日付けの訂正請求について
I.訂正請求に係る手続補正の適否
上記平成30年9月5日付けの訂正請求書については、上記平成31年2月20日付けの手続補正書で補正されているから、当該手続補正の適否につきまず検討する。
1.平成31年1月25日付けで通知した訂正拒絶理由の概要
上記平成30年9月5日付けの訂正請求書では、訂正事項2、訂正事項12及び添付された訂正特許請求の範囲の【請求項2】において、「試験片」の「水蒸気透過度」の上限値につき訂正されているところ、訂正前の「0.05g/m2・24hr・atm以下」につき、訂正事項2では「0.0411g/m2・24hr・atm以下」と訂正されたのに対して、訂正事項12及び添付された訂正特許請求の範囲の【請求項2】では「0.0441g/m2・24hr・atm以下」と訂正され、不一致となったことを指摘するとともに、「0.0441g/m2・24hr・atm以下」と訂正した点が、本件特許明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でしたものではないとして、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしておらず、不適法である旨を上記訂正拒絶理由として通知した。
2.特許権者の応答に係る検討
上記訂正拒絶理由通知に対して、特許権者は、平成31年2月20日付け意見書において、上記「0.0441g/m2・24hr・atm以下」は、「0.0411g/m2・24hr・atm以下」とすべきところをタイプミスにより誤った単なる誤記である旨主張するとともに、上記手続補正書により、上記「0.0441g/m2・24hr・atm以下」なる事項を、いずれも「0.0411g/m2・24hr・atm以下」に補正した。
そこで、上記補正につき検討すると、特許権者の上記意見書における主張については首肯し得るものであり、上記補正は、明らかな誤記を単に正したものと認められるから、上記訂正請求書の要旨を変更するものとは認められない。
3.小括
したがって、上記補正は、特許法第17条の5第1項の規定に基づいてされたものであって、同法第120条の5第9項で準用する同法第131条の2第1項の規定に適合するものであるから、上記手続補正書による訂正請求書及びそれに添付された訂正明細書及び特許請求の範囲に係る補正は、適法なものである。
II.上記訂正請求の適否について
上記I.で説示したとおり、平成31年2月20日付けの手続補正書による補正は適法であるから、補正された平成30年9月5日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の適否につき以下検討する。
1.訂正内容
本件訂正は、本件特許に係る明細書及び特許請求の範囲を、上記訂正請求書に係る手続補正書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし9について訂正するものであって、具体的な訂正事項は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65~80モル%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して55~85モル%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して50~90モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計が実質的に等モルである請求項1に記載の液晶ポリエステル。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「樹脂温度を液晶ポリエステルの融点+20℃、金型温度を130℃に設定し、充填下限圧+1MPaの圧力で射出成形した70mm長×70mm幅×1mm厚の試験片を用いて、JISK7129(付属書C,2008年)に準拠して測定された、温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.0411g/m2・24hr・atm以下である液晶ポリエステルであり、
少なくとも2種のジオールに由来する構造単位を有し、ジオールに由来する全構造単位の合計100モル%中、下記構造単位(II)を55~85モル%含み、
下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65~80モル%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して55~85モル%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して50~90モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計が実質的に等モルである液晶ポリエステルであって、下記(A)または(B)の製造方法によって得られる液晶ポリエステル。
(A)脱酢酸重縮合工程における温度200から270℃までの間の昇温時間を81分間以上88分間以下とする方法
(B)窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンであって、その共役酸の水溶液中における酸解離定数(pKa)が7.5以上10.5以下である芳香族または脂肪族アミンを、少なくとも脱酢酸重縮合反応開始までに、原料モノマーであるヒドロキシカルボン酸、ジオールおよびジカルボン酸の合計仕込み量100重量部に対して、0.01重量部以上1重量部以下の添加量で添加する方法」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3および9も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「請求項1または2に記載の」とあるうち、請求項1の削除にともない、「請求項2に記載の」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項9も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「ヒドロキシカルボン酸および/またはジオールにアシル化剤を反応させ、水酸基の少なくとも一部をアシル化した後、ジカルボン酸と脱酢酸重縮合反応させる液晶ポリエステルの製造方法であって、窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンを少なくとも脱酢酸重縮合反応開始までに添加する、請求項1または2に記載の液晶ポリエステルの製造方法。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「ヒドロキシカルボン酸および/またはジオールにアシル化剤を反応させ、水酸基の少なくとも一部をアシル化した後、ジカルボン酸と脱酢酸重縮合反応させる液晶ポリエステルの製造方法であって、窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンを少なくとも脱酢酸重縮合反応開始までに添加する、
70mm長×70mm幅×1mm厚の試験片を用いて、JISK7129(付属書C,2008年)に準拠して測定された、温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.05g/m2・24hr・atm以下であり、少なくとも2種のジオールに由来する構造単位を有し、ジオールに由来する全構造単位の合計100モル%中、下記構造単位(II)を55~85モル%含む液晶ポリエステルの製造方法。
【化3】
」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項6~8も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に「ヒドロキシカルボン酸および/またはジオールにアシル化剤を反応させ、水酸基の少なくとも一部をアシル化した後、ジカルボン酸と脱酢酸重縮合反応させる液晶ポリエステルの製造方法であって、窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンを少なくとも脱酢酸重縮合反応開始までに添加する、請求項1または2に記載の液晶ポリエステルの製造方法。」とあるうち、請求項2を引用するものについて、独立形式に改め、「ヒドロキシカルボン酸および/またはジオールにアシル化剤を反応させ、水酸基の少なくとも一部をアシル化した後、ジカルボン酸と脱酢酸重縮合反応させる液晶ポリエステルの製造方法であって、窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンを少なくとも脱酢酸重縮合反応開始までに添加する、
70mm長×70mm幅×1mm厚の試験片を用いて、JISK7129(付属書C,2008年)に準拠して測定された、温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.05g/m2・24hr・atm以下であり、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65~80モル%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して55~85モル%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して50~90モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計が実質的に等モルである液晶ポリエステルの製造方法。
【化4】
」と記載し、新たに請求項5とする。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5の「請求項4に記載の液晶ポリエステルの製造方法。」を「請求項4または5に記載の液晶ポリエステルの製造方法。」とし、新たに請求項6とする。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6の「請求項4または5に記載の液晶ポリエステルの製造方法。」を「請求項4~6のいずれかに記載の液晶ポリエステルの製造方法。」とし、新たに請求項7とする。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7の「請求項4~6のいずれかに記載の液晶ポリエステルの製造方法。」を「請求項4~7のいずれかに記載の液晶ポリエステルの製造方法。」とし、新たに請求項8とする。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の「請求項8」を、「請求項9」とし、「請求項1または2に記載の」とあるうち、請求項1の削除にともない、「請求項2に記載の」に訂正する。
(10)訂正事項10
明細書の段落【0008】における
「(1)70mm長×70mm幅×1mm厚の試験片を用いて、JISK7129(付属書C,2008年)に準拠して測定された、温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.05g/m2・24hr・atm以下であり、少なくとも2種のジオールに由来する構造単位を有し、ジオールに由来する全構造単位の合計100モル%中、下記構造単位(II)を55~85モル%含む液晶ポリエステル、」を、削除する。
(11)訂正事項11
明細書の段落【0009】における
「【化1】
」を、削除する。
(12)訂正事項12
明細書の段落【0010】における
「(2)樹脂温度を液晶ポリエステルの融点+20℃、金型温度を130℃に設定し、充填下限圧+1MPaの圧力で射出成形した70mm長×70mm幅×1mm厚の試験片を用いて、JISK7129(付属書C,2008年)に準拠して測定された、温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.0411g/m2・24hr・atm以下である液晶ポリエステルであり、
少なくとも2種のジオールに由来する構造単位を有し、ジオールに由来する全構造単位の合計100モル%中、下記構造単位(II)を55~85モル%含み、
下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65~80モル%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して55~85モル%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して50~90モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計が実質的に等モルである上記(1)に記載の液晶ポリエステル、」を、
「(2)樹脂温度を液晶ポリエステルの融点+20℃、金型温度を130℃に設定し、充填下限圧+1MPaの圧力で射出成形した70mm長×70mm幅×1mm厚の試験片を用いて、JISK7129(付属書C,2008年)に準拠して測定された、温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.05g/m2・24hr・atm以下である液晶ポリエステルであって、少なくとも2種のジオールに由来する構造単位を有し、ジオールに由来する全構造単位の合計100モル%中、下記構造単位(II)を55~85モル%含み、
下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65~80モル%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して55~85モル%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して50~90モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計が実質的に等モルである液晶ポリエステルであって、下記(A)または(B)の製造方法によって得られる液晶ポリエステル。
(A)脱酢酸重縮合工程における温度200から270℃までの間の昇温時間を81分間以上88分間以下とする方法
(B)窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンであって、その共役酸の水溶液中における酸解離定数(pKa)が7.5以上10.5以下である芳香族または脂肪族アミンを、少なくとも脱酢酸重縮合反応開始までに、原料モノマーであるヒドロキシカルボン酸、ジオールおよびジカルボン酸の合計仕込み量100重量部に対して、0.01重量部以上1重量部以下の添加量で添加する方法、」に訂正する。
(13)訂正事項13
明細書の段落【0012】における
「(3)上記(1)または(2)に記載の液晶ポリエステル100重量部に対して、充填材10~ 200重量部を含有する液晶ポリエステル組成物、
(4)ヒドロキシカルボン酸および/またはジオールにアシル化剤を反応させ、水酸基の少なくとも一部をアシル化した後、ジカルボン酸と脱酢酸重縮合反応させる液晶ポリエステルの製造方法であって、窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンを少なくとも脱酢酸重縮合反応開始までに添加する、上記(1)または(2)に記載の液晶ポリエステルの製造方法、
(5)窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンの添加量が、ヒドロキシカルボン酸、ジオールおよびジカルボン酸の合計100重量部に対して、0.01重量部以上1重量部以下である上記(4)に記載の液晶ポリエステルの製造方法、
(6)窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンが、脂肪族アミンである上記(4)または(5)に記載の液晶ポリエステルの製造方法、
(7)窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンの共役酸の水溶液中における酸解離定数(pKa)が10.5以下である上記(4)~(6)のいずれか記載の液晶ポリエステルの製造方法、
(8)上記(1)または(2)に記載の液晶ポリエステルまたは上記(3)に記載の液晶ポリエステル組成物からなる成形品、
である。」を、
「(3)上記(2)に記載の液晶ポリエステル100重量部に対して、充填材10~ 200重量部を含有する液晶ポリエステル組成物、
(4)ヒドロキシカルボン酸および/またはジオールにアシル化剤を反応させ、水酸基の少なくとも一部をアシル化した後、ジカルボン酸と脱酢酸重縮合反応させる液晶ポリエステルの製造方法であって、窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンを少なくとも脱酢酸重縮合反応開始までに添加する、70mm長×70mm幅×1mm厚の試験片を用いて、JISK7129(付属書C,2008年)に準拠して測定された、温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.05g/m2・24hr・atm以下であり、少なくとも2種のジオールに由来する構造単位を有し、ジオールに由来する全構造単位の合計100モル%中、下記構造単位(II)を55~85モル%含む液晶ポリエステルの製造方法、
【化3】
(5)ヒドロキシカルボン酸および/またはジオールにアシル化剤を反応させ、水酸基の少なくとも一部をアシル化した後、ジカルボン酸と脱酢酸重縮合反応させる液晶ポリエステルの製造方法であって、窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンを少なくとも脱酢酸重縮合反応開始までに添加する、
70mm長×70mm幅×1mm厚の試験片を用いて、JISK7129(付属書C,2008年)に準拠して測定された、温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.05g/m2・24hr・atm以下であり、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65~80モル%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して55~85モル%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して50~90モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計が実質的に等モルである液晶ポリエステルの製造方法、
【化4】
(6)窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンの添加量が、ヒドロキシカルボン酸、ジオールおよびジカルボン酸の合計100重量部に対して、0.01重量部以上1重量部以下である上記(4)または(5)に記載の液晶ポリエステルの製造方法、
(7)窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンが、脂肪族アミンである上記(4)~(6)のいずれかに記載の液晶ポリエステルの製造方法、
(8)窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンの共役酸の水溶液中における酸解離定数(pKa)が10.5以下である上記(4)~(7)のいずれか記載の液晶ポリエステルの製造方法、
(9)上記(1)または(2)に記載の液晶ポリエステルまたは上記(3)に記載の液晶ポリエステル組成物からなる成形品、
である。」に訂正する。
(14)訂正事項14
明細書の段落【0078】における
「[実施例4]」を、
「[比較例13]」に訂正する。
(15)訂正事項15
明細書の段落【0082】における
「[実施例5]」を、
「[比較例14]」に訂正する。
(16)訂正事項16
明細書の段落【0086】における
「[実施例6]」を、
「[比較例15]」に訂正する。
(17)訂正事項17
明細書の段落【0090】における
「[実施例7]」を、
「[比較例16]」に訂正する。
(18)訂正事項18
明細書の段落【0094】における
「[実施例8]」を、
「[比較例17]」に訂正する。
(19)訂正事項19
明細書の段落【0102】における
「[実施例10]」を、
「[比較例18]」に訂正する。
(20)訂正事項20
明細書の段落【0126】における
「[実施例16]」を、
「[比較例19]」に訂正する。
(21)訂正事項21
明細書の段落【0146】における
「実施例1~16および比較例1~4の評価結果」を、
「実施例1~3、9、11~15および比較例1~4、13~19の評価結果」に訂正する。
(22)訂正事項22
明細書の段落【0147】における
「
」を、
「
」に訂正する。
(23)訂正事項23
明細書の段落【0148】における
「
」を、
「
」に訂正する。
(24)訂正事項24
明細書の段落【0149】における
「実施例1~16および比較例1~4で得られた」を、
「実施例1~3、9、11~15および比較例1~4、13~19で得られた」に訂正する。
(25)訂正事項25
明細書の段落【0150】における
「[実施例17~36および比較例5~12]」を、
「[実施例17~19、25、27~31、33~36、比較例5~12、20~26]」に訂正する。
(26)訂正事項26
明細書の段落【0151】における
「実施例17~36、比較例5~12の評価結果」を、
「実施例17~19、25、27~31、33~36、比較例5~12、20~26の評価結果」に訂正する。
(27)訂正事項27
明細書の段落【0152】における
「
」を、
「
」に訂正する。
2.検討
なお、以下の検討において、この訂正請求による訂正を「本件訂正」といい、本件訂正前の特許請求の範囲における請求項1ないし8を「旧請求項1」ないし「旧請求項8」、本件訂正後の特許請求の範囲における請求項1ないし9を「新請求項1」ないし「新請求項9」という。
(1)訂正の目的要件について
上記の各訂正事項による訂正の目的につき検討する。
ア.訂正事項1について
上記訂正事項1に係る訂正は、旧請求項1に記載された事項を全て削除しているものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
してみると、上記訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定の目的要件に適合するものである。
イ.訂正事項2について
上記訂正事項2に係る訂正は、旧請求項1を引用する旧請求項2につき、旧請求項1に係る事項を書き下し、新請求項2の独立項形式に改めた上で、液晶ポリエステルの製造方法に係る事項を明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき付加したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に規定の目的要件に適合するものである。
ウ.訂正事項3について
上記訂正事項3に係る訂正は、上記訂正事項1に係る訂正により、旧請求項1が削除されたことに伴い、旧請求項3における旧請求項1を引用する部分を削除し、引用関係を単に正したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
してみると、上記訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定の目的要件に適合するものである。
エ.訂正事項4及び5について
上記訂正事項4に係る訂正は、旧請求項4のうち、旧請求項1を引用する部分につき、旧請求項1に係る事項を単に書き下して新請求項4の独立項形式に改めたものであり、上記訂正事項5に係る訂正は、旧請求項4のうち、旧請求項2を引用する部分につき、旧請求項2に係る事項及び旧請求項2で引用する旧請求項1に係る事項を併せて単に書き下して新請求項5の独立項形式に改めたものであるから、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定の目的要件に適合するものである。
オ.訂正事項6ないし9について
上記訂正事項6ないし9に係る各訂正は、いずれも、上記訂正事項4及び5に係る訂正により請求項の数が1増加したことに伴い、旧請求項5ないし8につき項番を1繰り下げると共に、引用関係につき単に整理して、新請求項6ないし9としたものであるから、いずれも明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
したがって、訂正事項6ないし9に係る各訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定の目的要件に適合するものである。
カ.訂正事項10ないし13について
上記訂正事項10ないし13に係る各訂正は、いずれも、上記訂正事項1ないし9に係る訂正による特許請求の範囲の記載との間で不整合となった明細書の発明の詳細な説明の記載を単に正したものであるから、いずれも明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
したがって、訂正事項10ないし13に係る各訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定の目的要件に適合するものである。
キ.訂正事項14ないし27について
上記訂正事項14ないし27に係る各訂正は、いずれも、上記訂正事項1による旧請求項1の削除及び訂正事項2による特許請求の範囲の減縮に伴い、新請求項2の技術的範囲外のものとなった明細書の発明の詳細な説明に記載された「実施例」につきいずれも「比較例」とするべく整理したものであるから、いずれも明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
したがって、上記訂正事項14ないし27による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定の目的要件に適合するものである。
ク.小括
以上のとおり、上記訂正事項1ないし27に係る各訂正は、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に規定のいずれかの目的要件に適合するものである。
(2)新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
上記(1)に示したとおり、訂正事項2に係る訂正により、新請求項2及び同項を引用する新請求項3及び9の特許請求の範囲が旧請求項2、3及び8に記載された事項に対して減縮されていることが明らかであり、他の訂正事項に係る訂正は、請求項間の引用関係を単に正したものであるか、請求項の記載を単に独立項形式に改めたものか、訂正事項1ないし9に係る請求項に係る訂正により対応関係が不明瞭となった明細書の記載につき単に正したものであるから、上記訂正事項1ないし27による訂正は、いずれも新たな技術的事項を導入しないものであり、また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないことが明らかである。
してみると、上記訂正事項1ないし27による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。
(3)独立特許要件について
なお、本件の特許異議の申立ては、旧請求項1ないし8に係る全ての発明についての特許につき、申立てがされているから、訂正の適否の検討において独立特許要件につき検討すべき請求項が存するものではない。
3.訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項並びに第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-3、9〕及び〔4-8〕について訂正を認める。
第5 訂正後の本件特許に係る請求項に記載された事項
訂正後の本件特許に係る請求項1ないし9には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】
樹脂温度を液晶ポリエステルの融点+20℃、金型温度を130℃に設定し、充填下限圧+1MPaの圧力で射出成形した70mm長×70mm幅×1mm厚の試験片を用いて、JISK7129(付属書C,2008年)に準拠して測定された、温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.0411g/m2・24hr・atm以下である液晶ポリエステルであり、
少なくとも2種のジオールに由来する構造単位を有し、ジオールに由来する全構造単位の合計100モル%中、下記構造単位(II)を55~85モル%含み、
下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65~80モル%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して55~85モル%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して50~90モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計が実質的に等モルである液晶ポリエステルであって、下記(A)または(B)の製造方法によって得られる液晶ポリエステル。
(A)脱酢酸重縮合工程における温度200から270℃までの間の昇温時間を81分間以上88分間以下とする方法
(B)窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンであって、その共役酸の水溶液中における酸解離定数(pKa)が7.5以上10.5以下である芳香族または脂肪族アミンを、少なくとも脱酢酸重縮合反応開始までに、原料モノマーであるヒドロキシカルボン酸、ジオールおよびジカルボン酸の合計仕込み量100重量部に対して、0.01重量部以上1重量部以下の添加量で添加する方法
【化2】
【請求項3】
請求項2に記載の液晶ポリエステル100重量部に対して、充填材10~200重量部を含有する液晶ポリエステル組成物。
【請求項4】
ヒドロキシカルボン酸および/またはジオールにアシル化剤を反応させ、水酸基の少なくとも一部をアシル化した後、ジカルボン酸と脱酢酸重縮合反応させる液晶ポリエステルの製造方法であって、窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンを少なくとも脱酢酸重縮合反応開始までに添加する、
70mm長×70mm幅×1mm厚の試験片を用いて、JISK7129(付属書C,2008年)に準拠して測定された、温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.05g/m2・24hr・atm以下であり、少なくとも2種のジオールに由来する構造単位を有し、ジオールに由来する全構造単位の合計100モル%中、下記構造単位(II)を55~85モル%含む液晶ポリエステルの製造方法。
【化3】
【請求項5】
ヒドロキシカルボン酸および/またはジオールにアシル化剤を反応させ、水酸基の少なくとも一部をアシル化した後、ジカルボン酸と脱酢酸重縮合反応させる液晶ポリエステルの製造方法であって、窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンを少なくとも脱酢酸重縮合反応開始までに添加する、
70mm長×70mm幅×1mm厚の試験片を用いて、JISK7129(付属書C,2008年)に準拠して測定された、温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.05g/m2・24hr・atm以下であり、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65~80モル%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して55~85モル%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して50~90モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計が実質的に等モルである液晶ポリエステルの製造方法。
【化4】
【請求項6】
窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンの添加量が、ヒドロキシカルボン酸、ジオールおよびジカルボン酸の合計100重量部に対して、0.01重量部以上1重量部以下である請求項4または5に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンが、脂肪族アミンである請求項4~6のいずれか記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項8】
窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンの共役酸の水溶液中における酸解離定数(pKa)が10.5以下である請求項4~7のいずれか記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項9】
請求項2に記載の液晶ポリエステルまたは請求項3に記載の液晶ポリエステル組成物からなる成形品。」
(以下、上記請求項1ないし9に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明9」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)
第6 当審の判断
当審は、
申立人が主張する取消理由及び当審が通知した取消理由はいずれも理由がなく、訂正後の請求項2ないし9に係る発明についての特許はいずれも取り消すことはできないものであり、
訂正後の請求項1に係る特許に対する本件特許異議の申立ては、訂正によりその技術事項が全て削除され、申立ての対象を欠くものであり、不適法となったものであって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである、
と判断する。
以下、事案に鑑み、当審が通知した取消理由b及び取消理由aにつき検討し、申立人が主張する取消理由2及び1につき、順次詳述する。
1.取消理由bについて
(1)取消理由bの概要
取消理由bの概要は、
『本件特許に係る請求項2には、同項記載の「液晶ポリエステル」なる物の発明につき、
「下記(A)または(B)の製造方法によって得られる液晶ポリエステル。
(A)脱酢酸重縮合工程における温度200から270℃までの間の昇温時間を81分間以上88分間以下とする方法
(B)窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンであって、その共役酸の水溶液中における酸解離定数(pKa)が7.5以上10.5以下である芳香族または脂肪族アミンを、少なくとも脱酢酸重縮合反応開始までに、原料モノマーであるヒドロキシカルボン酸、ジオールおよびジカルボン酸の合計仕込み量100重量部に対して、0.01重量部以上1重量部以下の添加量で添加する方法」
という、その物の製造方法が記載されているものと認められる。
ここで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最二小判平成27年6月5日 平成24年(受)1204号、同2658号)。
しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、出願人(決定注:「特許権者」の誤記である。)から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。
したがって、請求項2に係る発明並びに請求項2を引用して記載された請求項3の「液晶ポリエステル組成物」に係る発明及び請求項9の「成形品」に係る発明は、いずれも明確でな』く、「本件の請求項2、3及び9に係る記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同法同条同項(柱書)の規定を満たしておらず、本件の請求項2、3及び9に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。」
というものである。
(2)検討
それに対して、特許権者は、令和元年5月8日付け意見書において、「不可能・非実際的事情」につき説明するとともに、当該「事情」につき当審が確認のため発した審尋書に対して、令和元年7月3日付け回答書において、当該「事情」につき更に技術的説明を行っている。
当該各書における技術的説明では、要約すると、本件発明2の液晶ポリエステルの脱酢酸縮合による製造方法では、水酸基含有モノマー単位(式(I)、式(II)及び式(III)の3種)の合計量に対する4-ヒドロキシ安息香酸単位(式(I)の構成単位、以下「HBA」という。)の占める割合が65~80モル%と比較的高くなるようなモノマー仕込み状態で、請求項2に記載された(A)又は(B)の制御された反応条件により縮合を行うことによって、液晶ポリエステル分子中のシークエンスを制御し、ポリエステル分子中にHBAの連鎖が形成され、複数の液晶ポリエステル分子間の当該HBA連鎖部分間のπスタッキングにより、複数のポリエステル分子間の間隔が狭まり、もって、液晶ポリエステル成形体の水蒸気透過度の低下が生起しているのであろうことを説明している。
そして、上記訂正された本件特許明細書の実施例及び比較例に係る記載を検討すると、請求項2に記載された反応条件以外の事項を具備し、更に(A)又は(B)の反応条件により縮合を行った実施例1ないし3、実施例9及び実施例15の場合のみ、「温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.0411g/m2・24hr・atm以下」が達成されているのに対して、請求項2に記載された水蒸気透過度及び(A)又は(B)の反応条件以外の事項を具備する実施例11ないし14(請求項4に記載された事項を具備する実施例であるものと認められる。)並びに請求項2に記載された反応条件以外の事項あるいは(A)又は(B)の反応条件の事項のいずれかを具備しない他の比較例の場合には、「温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.0411g/m2・24hr・atm以下」が達成されていないことが看取できる。
さらに、技術的常識からみて、HBA連鎖のポリエステル分子中における含有量の定量は、2連鎖については容易に定量できる(本件特許明細書【0058】)が、3連鎖以上のHBA連鎖を定量することは、実質的に不可能であるものと認められる。
してみると、特許権者が説明・主張する上記HBA連鎖の生成による作用機序につき、技術的常識に照らしても否定することはできず、本件特許明細書における実施例及び比較例の結果の対比からみて、請求項2に記載された(A)又は(B)の制御された反応条件により縮合を行うことにより、水蒸気透過度の低減効果が達成されているものと認められるとともに、液晶ポリエステル分子中におけるHBA連鎖の含有量につき、直接的に定量することは実質的に不可能であるから、請求項2に記載された「液晶ポリエステル」に係る発明において、ポリエステルの化学構造に係るHBA連鎖の含有量なる事項を請求項に直接的に記載・表現するにあたっての不可能・非実際的事情が存するものと認められる。
したがって、本件の請求項2の記載では、同項記載の「液晶ポリエステル」なる物の発明につき、その物の製造方法が記載されているからといって、発明が明確でないとすることはできない。
(3)小括
よって、本件の請求項2及び同項を引用する請求項3及び9の記載は、同各項の記載により、発明が明確でないとすることはできないから、上記取消理由bは理由がない。
2.取消理由aについて
(1)取消理由aの概要
取消理由aの概要は、上記訂正により請求項1の記載が削除されたことを踏まえて整理すると、
『本件特許に係る請求項2には、同項記載の発明の「液晶ポリエステル」につき、「樹脂温度を液晶ポリエステルの融点+20℃、金型温度を130℃に設定し、充填下限圧+1MPaの圧力で射出成形した70mm長×70mm幅×1mm厚の試験片を用いて、JISK7129(付属書C,2008年)に準拠して測定された、温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.05g/m2・24hr・atm以下であ」ることが記載されていたところ、当該水蒸気透過度に係る事項が、「液晶ポリエステル」なる化学物質に係る本件発明2につき、少なくともその化学構造を決定できる技術事項ではなく、いかなる技術事項を規定しようとするものであるのか不明である。
(なお、単一の液晶ポリエステルであっても、成形体の製造方法などによって、結晶構造などが変化することにより、水蒸気透過度が有意に変化する可能性さえ存するものと認められ、「水蒸気透過度」は、「液晶ポリエステル」なる化学物質に固有の物性値であるものとはいえない。)
してみると、本件特許の請求項2及び同項を引用する請求項3及び9の記載では、各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明が明確でない。』
というものである。
(2)検討
それに対して、特許権者は、上記本件訂正において、(旧)請求項2につき、測定成形体試料の作成条件に係る事項を明細書の記載に基づき付加し、
「樹脂温度を液晶ポリエステルの融点+20℃、金型温度を130℃に設定し、充填下限圧+1MPaの圧力で射出成形した70mm長×70mm幅×1mm厚の試験片を用いて、JISK7129(付属書C,2008年)に準拠して測定された、温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.0411g/m2・24hr・atm以下である」
としたから、単一の「液晶ポリエステル」であれば、複数の測定であっても同一の水蒸気透過率に係る測定値が得られる蓋然性が高いものと認められる。
してみると、上記測定方法による水蒸気透過度に係る測定値は、液晶ポリエステルの化学構造の異同はともかく、物性として「液晶ポリエステル」なる化学物質に固有値であることを規定しているものと認められるから、本件の請求項2の記載では、同項記載の「液晶ポリエステル」なる物の発明につき、発明が明確でないとすることはできない。
(3)小括
したがって、本件特許の請求項2及び同項を引用する請求項3及び9の記載では、同各項の記載により、発明が明確でないとすることはできないから、上記取消理由aについても理由がない。
3.取消理由2について
(1)取消理由2の概要
取消理由2の概要は、当初、
「本件発明1は、その所期の効果を奏さない実施態様を含むものであり、(本件特許に係る明細書の)発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許に係る請求項1及び同項を引用する請求項2ないし9の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願にされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。」
というものであったところ、上記訂正により(旧)請求項1はその内容を全て削除されるとともに、請求項4ないし8は、請求項2又は同項を引用する請求項3をいずれも引用しないものとなったから、それらを踏まえて再度整理すると、
「本件発明2は、その所期の効果を奏さない実施態様を含むものであり、(本件特許に係る明細書の)発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許に係る請求項2及び同項を引用する請求項3及び9の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件の請求項2、3及び9に係る発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願にされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。」
というものであるといえる。
(2)検討
本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載(特に【0006】)からみて、本件発明の解決しようとする課題は、「電気・電子部品や機械部品に要求される、高温高湿環境下における曲げ強度と耐トラッキング破壊性能に優れる成形品を得ることのできる液晶ポリエステルとその製造方法」の提供にあるものと認められる。
そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を更に検討すると、「高温高湿下において特定の水蒸気透過度をを示す液晶ポリエステルにより、高温高湿環境下における曲げ強度および耐トラッキング破壊性能に極めて優れる成形品を得ることができること」(【0007】)及び「温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度」「が0.05g/m2・24hr・atmより大きい場合、液晶ポリエステルが高温高湿環境下に晒されると、多量の吸湿により密度が低下し、成形品の曲げ強度が大幅に低下」し、「多量の吸湿により高温高湿環境下における耐トラッキング破壊性能が大幅に低下する」こと(【0016】)が、上記課題を解決できることを当業者が認識することができるような作用機序として記載されている。
また、実施例及び比較例に係る記載を検討すると、請求項2に記載された事項を全て具備する実施例1、2、3、9及び15のみが、他の実施例11ないし14及び比較例に比して低い「温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.0411g/m2・24hr・atm以下」を達成できることが看取できる。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、本件特許に係る請求項2に記載された事項で特定される発明、すなわち本件発明2が、上記事項を具備することによって、本件発明に係る上記課題を解決できるであろうと認識することができるものといえる。
したがって、本件発明2並びにそれを直接引用する本件発明3及び9が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができる。
(3)小括
よって、本件の請求項2並びにそれを直接引用する請求項3及び9の各記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、上記取消理由2は理由がない。
4.取消理由1について
(1)取消理由1の概要
取消理由1の概要は、当初、
「本件発明1ないし3及び9は、いずれも、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。」
というものであったところ、上記訂正により請求項1の記載事項が全て削除されたから、それを踏まえて整理すると、
「本件発明2、3及び9は、いずれも、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。」
というものである。
(2)検討
ア.甲号証に記載された事項及び記載された発明
以下、上記取消理由1につき検討するにあたり、当該理由は特許法第29条に係るものであるから、上記甲1に記載された事項を確認・摘示するとともに、甲1に記載された発明の認定を行う。(なお、摘示における下線は、当審が付したものである。)
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
(a-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 次の式〔a〕から〔e〕により表される繰返し構造単位からなり、
【化1】
かつ以下の条件(1)から(5)を満たすことを特徴とする全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル、
(1)式〔a〕の構造単位の含有割合(mol%、以下「(a)」と略す、その他同様)が全体の55~67mol%、
(2)(b)+(c)および(d)+(e)がいずれも全体の16.5~22.5mol%、
(3)(b)/(c)のモル比が30/70~50/50、
(4)(d)/(e)のモル比が50/50~90/10、および
(5)ペンタフルオロフェノール中において60℃で測定した固有粘度が0.3~10dl/g。
・・(中略)・・
【請求項3】 請求項1または請求項2記載の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルと、組成物全体に対して10~90重量%の無機充填材とを含む組成物。
【請求項4】 請求項1または請求項2記載の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルと、材料全体に対して10~90重量%の無機充填材とを含む電気電子部品用封止材料。」
(a-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規なサーモトロピック液晶ポリエステルおよびそれを用いた電気電子部品用封止材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】例えば、p-ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよびヒドロキノンから得られるサーモトロピック液晶ポリエステルは、溶融成形が可能であり、かつ流動性や耐熱性に優れているといわれている。このようなサーモトロピック液晶ポリエステルの特性を利用して、例えば特開昭60-40163号公報には、p-ヒドロキシ安息香酸を含むサーモトロピック液晶ポリエステルを用いた樹脂による電子部品の封止が示されている。しかしながら、上記の材料は必ずしも満足すべきものではない。例えば、サーモトロピック液晶ポリエステルは一般に高融点であり、そのため封止に際しては高温の溶融ポリエステルが被封止部品と接触する。その結果、被封止部品としての電気電子部品などの内部の半田接着部分が再溶融して回路が断線したり、あるいは部品内部に使用されている絶縁用被覆樹脂もまた再溶融して回路がショートを起こす等の問題が生じる。この対策として、単に樹脂自体の成形温度を低くするだけでは、耐熱性も同時に低下するため、一度樹脂封止した部品を回路基板等に半田付けする場合に、封止樹脂自体が変形や再溶融を起こすことがあり好ましくない。
【0003】一方、特に封止用材料を目的としたものではないが、p-ヒドロキシ安息香酸(HBA)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(ビフェノール:BP)、ヒドロキノン(HQ)、テレフタル酸(TPA)、イソフタル酸(IPA)からなる5元系のサーモトロピック液晶ポリエステルが従来いくつか提案されている。例えば、特開昭63-39918号公報、特開昭63-57633号公報、特開平3-52921号公報、特開昭60-38425号公報、特公表03-501749号公報およびアメリカ特許第5066767号公報等である。ここで、特開昭63-39918号公報、特開昭63-57633号公報、特開平3-52921号公報、特公表03-501749号公報およびアメリカ特許第5066767号公報に記載されたサーモトロピック液晶ポリエステルを封止材料として用いた場合には、成形温度が高いため、前記のように断線やショートが起こるなどの問題が生じる。一方、特開昭60-38425号公報に記載されたサーモトロピック液晶ポリエステルを封止材料として用いた場合には、成形温度が十分に低いために断線やショートの問題が発生する可能性は少ないが、耐熱性が低くなるため、一旦封止した後に半田付け等の加工を行う際に、封止樹脂の再溶融や変形を起こす可能性がある。このように電気電子部品用の封止材料は、低い成形温度と高い耐熱性という一見相反する物性を充足する必要があり、この点において、上記従来の5元系のサーモトロピック液晶ポリエステルでは不十分であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記のように、電気電子部品用の封止材料として使用するサーモトロピック液晶ポリエステルは、断線やショートを起こさないために十分に低い温度で成形することができ、かつ半田付け等の後加工に十分耐え得る耐熱性を保持していなければならない。すなわち、本発明は、上記5成分に代表される原料からなり、しかも成形温度が低く、耐熱性に優れたサーモトロピック液晶ポリエステルおよびそれからなる電気電子部品用封止材料を提供することを目的とする。」
(a-3)
「【0009】上記式〔a〕の構造単位の含有割合(a)は、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル全体の55~67mol%であることが必要である。55mol%未満では液晶ポリエステルの耐熱性が不十分となり、また67mol%より多いと成形温度が高くなるため好ましくない。上記式〔b〕および式〔c〕の構造単位について、(b)+(c)は全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル全体の16.5~22.5mol%であり、また(b)/(c)のモル比は30/70~50/50の範囲であることが必要である。(b)+(c)の合計に対し(c)が70mol%より多いと耐熱性が不十分となり、50mol%未満では成形温度が高すぎて好ましくない。上記式〔d〕および式〔e〕の構造単位について、(d)+(e)は全体の16.5~22.5mol%であり、また(d)/(e)のモル比は50/50~90/10の範囲であることが必要である。(d)+(e)の合計に対し(d)が50mol%未満では成形温度が高すぎ、90mol%より多いと耐熱性が低すぎるので好ましくない。また、上記構成の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルは、ペンタフルオロフェノール中において60℃で測定された固有粘度が0.3~10dl/gの範囲にあることが必要である。固有粘度が0.3dl/g未満では機械的強度が不足し、また10dl/gより大きいものは成形性が劣るのでいずれも好ましくない。」
(a-4)
「【0018】上記のようにして得られた本発明の全芳香族ポリエステルは、単独であるいは他の全芳香族ポリエステルと混合して使用することができる。また、本発明の全芳香族ポリエステルは、主として機械的強度の向上のために、繊維状、粉粒状、板状などの無機または有機充填材を配合することができる。繊維状の充填材としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカアルミナ繊維、チタン酸カリウム繊維、炭素もしくは黒鉛繊維、さらにアルミニウム、チタン、銅などの金属の繊維状物などの無機繊維状物質が挙げられる。代表的なものはガラス繊維である。一方、粒状充填材としては、カーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、タルク、クレー、ケイ藻土、ウォラストナイトのようなケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナ、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、その他各種の金属粉末が挙げられる。また、板状充填材としては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔などが挙げられる。そのほか、有機充填材の例としては、芳香族ポリエステル、芳香族ポリアミド、ポリイミドなどからなる耐熱性高強度の繊維などが挙げられる。これらの充填材は、必要に応じあらかじめ従来公知の集束剤または表面処理剤により処理することができる。
【0019】また、上記以外に従来公知の酸化防止剤、熱安定剤、増量剤、補強剤、顔料、難燃化剤等の種々の添加剤を適宜の量添加してもよい。これらの添加剤および充填材は1種または2種以上を併用することができる。
【0020】無機充填材を用いる場合に、その配合量は組成物全体に対して10重量%以上、90重量%以下、好ましくは80重量%以下である。90重量%より多い無機充填材を配合すると、機械的強度はむしろ低下するので好ましくない。
【0021】上記のようにして得られる本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルは、優れた特性により、従来公知の成形法、例えば、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形などの通常の溶融成形に供して、繊維、フィルム、三次元成形品、容器、ホースなどに加工し成形品を得ることができる。」
(a-5)
「【0027】
【発明の実施の態様】以下に実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下の各実施例および比較例により得られた全芳香族ポリエステルは、常法により測定したところいずれも溶融時に光学的異方性を示した。
【実施例】
・・(中略)・・
【0028】<実施例1>錨型攪拌翼を有し、重合槽の槽壁と攪拌翼とのクリアランスの小さい重合槽に、p-ヒドロキシ安息香酸 1238.09g(8.96モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル357.54g(1.92モル)、テレフタル酸292.39g(1.76モル)、イソフタル酸 292.39g(1.76モル)およびヒドロキノン176.16g(1.60モル)を入れ、無水酢酸1713.6gを加えて、150℃で3時間無水酢酸還流下でアセトキシ化反応を行った。その後、1℃/分の速度で昇温しながら酢酸を留去し、温度が280℃に達した後その温度で45分間保持した。次いで、300℃まで1℃/分の速度で昇温して30分間保持し、さらに330℃まで1℃/分で昇温後、10分間保持し、その後、得られた重合体を抜き出し口より取り出した。取り出した重合体を粉砕機により粉砕し、窒素雰囲気下で250℃まで120分で昇温し、250℃で固相重合を行った。キャピラリーレオメーターで測定した完全溶融温度における見かけ粘度が200poiseになった時点を固相重合の終点とした。得られた重合体の固有粘度を、ペンタフルオロフェノール中の0.1重量%溶液として60℃で測定したところ、1.2dl/gであった。さらに貯蔵弾性率の温度依存性を測定し、20%低下温度を求め、半田耐熱性およびコイル素子の変化量も測定した。原料成分の配合割合を表1に、また得られた重合体の固有粘度、完全溶融温度、20%低下温度、半田耐熱性、コイル素子の変化量および成形温度を表2に示す。
【0029】<実施例2>実施例1と同様の装置を用い、p-ヒドロキシ安息香酸1326.53g(9.60モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル387.34g(2.08モル)、テレフタル酸265.81g(1.60モル)、イソフタル酸265.81g(1.60モル)、ヒドロキノン123.31g(1.12モル)を入れて、無水酢酸1713.6gを加え、実施例1と同様にして重合体を得た後、実施例1と同様の測定を行った。組成および測定結果を表1および表2に示す。
・・(中略)・・
【0038】<比較例6>
〔特開昭63-39918号公報記載の実施例1と同じモノマー組成の重合体〕本発明の実施例1と同様の装置を用い、p-ヒドロキシ安息香酸1326.53g(9.60モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル405.48g(2.18モル)、テレフタル酸398.40g(2.40モル)、イソフタル酸132.80g(0.80モル)およびヒドロキノン112.20g(1.02モル)を入れて、無水酢酸1713.6gを加え、実施例1と同様にして重合体を得た後、実施例1と同様の測定を行った。組成および測定結果を表1および表2に示す。
・・(中略)・・
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】表1および表2において比較例1、2と実施例1~5を比較すると、テレフタル酸(TPA)/イソフタル酸(IPA)比、ビフェノール(BP)/ヒドロキノン(HQ)比が本発明の特許請求の範囲内にあっても、p-ヒドロキシ安息香酸(HBA)の含有割合が適正な範囲から外れる場合には、HBAが多すぎると(比較例1)、20%低下温度は260℃以上になり、半田耐熱性も十分であるが、完全溶融温度が高すぎて低温での成形が困難になり、結果として半田の再溶融が発生し、そのためコイルの変化量が非常に大きくなる。逆にHBAが少なすぎると(比較例2)、成形温度が低く、コイルの変化量も小さくなるが、20%低下温度が260℃よりも低くなり、結果として半田耐熱性が著しく低下する。比較例3~6と実施例を比べると、HBAの含有割合が適正な範囲内にあっても、BP/HQ比が低すぎたり(比較例3)TPA/IPA比が高すぎたり(比較例6)すると、比較例1の場合と同様に、20%低下温度および半田耐熱性は十分な性能を有するが、低温での成形が困難になり、コイルの変化量が非常に大きくなる。逆にBP/HQ比が高すぎたり(比較例4)、TPA/IPA比が低すぎたり(比較例5)すると、低温で成形が可能であり、コイルも余り変化しないが、耐熱性に劣る結果となり、いずれかの物性が要求を満たすことができない。比較例6~9は、それぞれ特開昭63-39918号、特開昭63-57633号、特開平3-52921号および特開昭60-38425号の各公報記載の実施例と同じモノマー組成で行った結果であるが、これらの実施例はすべて本発明の特許の請求範囲から逸脱しており、その結果いずれかの物性が要求を満たしていないことがわかる。
【0045】一方、実施例1~5の結果によれば、HBAの含有割合、TPA/IPA比およびBP/HQ比がすべて適正な範囲内にある場合、成形温度は310℃前後であり、十分に低温で成形が可能であり、コイル素子の変化量も非常に少ない。また、20%低下温度は260℃以上であり、半田耐熱性も、低温で成形することができた比較例に比べて著しく向上している。上記の結果から、本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルは、成形温度が非常に低く、しかも耐熱性に優れているという相反する両特性を兼ね備えていることがわかる。
【0046】
【発明の効果】本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルは、特定の組成および特定の物性を有していることにより、封止材料として用いた場合に低温による封止成形が可能であり、封止した電気電子部品の内部素子の損傷を少なくすることができ、しかも耐熱性の低下は少ないので、半田付け等の後加工時においても十分な耐熱性を有している。」
(イ)甲1に記載された発明
甲1には、上記(ア)の記載事項(特に上記【特許請求の範囲】の記載並びに【表1】の「実施例1」及び「実施例2」に係る記載)からみて、
「次の式〔a〕から〔e〕により表される繰返し構造単位からなり、
【化1】
かつ以下の条件(1)から(5)を満たすことを特徴とする全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル、
(1)式〔a〕の構造単位の含有割合(mol%、以下「(a)」と略す、その他同様)が全体の55~67mol%、
(2)(b)+(c)および(d)+(e)がいずれも全体の16.5~22.5mol%、
(3)(b)/(c)のモル比が30/70~50/50、
(4)(d)/(e)のモル比が50/50~90/10、および
(5)ペンタフルオロフェノール中において60℃で測定した固有粘度が0.3~10dl/g。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)及び
上記(1)の記載事項(特に上記【表1】の「比較例6」に係る記載)からみて、
「次の式〔a〕から〔e〕により表される繰返し構造単位からなり、
【化1】
かつ以下の条件(1)から(5)を満たすことを特徴とする全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル、
(1)式〔a〕の構造単位の含有割合(mol%、以下「(a)」と略す、その他同様)が全体の60mol%、
(2)(b)+(c)および(d)+(e)がいずれも全体の20.0mol%、
(3)(b)/(c)のモル比が75/25、
(4)(d)/(e)のモル比が68/32、および
(5)ペンタフルオロフェノール中において60℃で測定した固有粘度が1.5dl/g。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)がそれぞれ記載されているものといえる。
イ.検討
(ア)本件発明2について
(ア-1)対比
本件発明2と甲1発明1又は甲1発明2とをそれぞれ対比すると、本件発明2と甲1発明1とは、甲1発明1における「式〔a〕の構造単位の含有割合(mol%、以下「(a)」と略す、その他同様)が全体の55~67mol%」で「(d)+(e)が・・全体の16.5~22.5mol%」であり、(a)+(d)+(e)の合計量に対する(a)の割合を算出すると71.0~80.2mol%であるから、
「下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して71~80モル%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して55~85モル%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して50モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計が実質的に等モルである液晶ポリエステル。」
の点で一致し、本件発明2と甲1発明2とは、甲1発明2における「式〔a〕の構造単位の含有割合(mol%、以下「(a)」と略す、その他同様)が全体の60mol%」で「(d)+(e)が全体の20.0mol%」であり、(a)+(d)+(e)の合計量に対する(a)の割合を算出すると75mol%であるから、
「下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成され、構造単位(I)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して75モル%であり、構造単位(II)が構造単位(II)および(III)の合計に対して68モル%であり、構造単位(IV)が構造単位(IV)および(V)の合計に対して75モル%であり、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計が実質的に等モルである液晶ポリエステル。」
で一致し、いずれも下記の相違点1及び2でのみ相違するものと認められる。
相違点1:本件発明2では「樹脂温度を液晶ポリエステルの融点+20℃、金型温度を130℃に設定し、充填下限圧+1MPaの圧力で射出成形した70mm長×70mm幅×1mm厚の試験片を用いて、JISK7129(付属書C,2008年)に準拠して測定された、温度80℃および相対湿度40%における水蒸気透過度が0.0411g/m2・24hr・atm以下である」のに対して、甲1発明1及び甲1発明2では、それぞれ全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの水蒸気透過度につき特定されていない点
相違点2:本件発明2では、「下記(A)または(B)の製造方法によって得られる液晶ポリエステル。
(A)脱酢酸重縮合工程における温度200から270℃までの間の昇温時間を81分間以上88分間以下とする方法
(B)窒素原子を2つ以上含む芳香族または脂肪族アミンであって、その共役酸の水溶液中における酸解離定数(pKa)が7.5以上10.5以下である芳香族または脂肪族アミンを、少なくとも脱酢酸重縮合反応開始までに、原料モノマーであるヒドロキシカルボン酸、ジオールおよびジカルボン酸の合計仕込み量100重量部に対して、0.01重量部以上1重量部以下の添加量で添加する方法」であるのに対して、甲1発明1及び甲1発明2では、それぞれ全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの製造方法につき特定されていない点
(ア-2)検討
・相違点2について
事案に鑑み、まず、相違点2につき検討すると、甲1には、甲1発明1又は甲1発明2に係る全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの製造方法において、アミン化合物を使用せず、また、「150℃で3時間無水酢酸還流下でアセトキシ化反応を行った」「後、1℃/分の速度で昇温しながら酢酸を留去し、温度が280℃に達した後その温度で45分間保持し」、「次いで、300℃まで1℃/分の速度で昇温して30分間保持し、さらに330℃まで1℃/分で昇温後、10分間保持し、その後、得られた重合体を抜き出し口より取り出した」ことが記載されており(甲1【0028】)、本件発明2における上記「(A)または(B)の製造方法」によるものではないことが明らかであるから、上記相違点2は、実質的な相違点である。
また、甲1の記載を検討しても、上記縮重合の際に、昇温速度を特定の範囲に調節すべきこと(上記(A)の点)又はアミン化合物を使用すべきこと(上記(B)の点)を想起し得る事項も記載されておらず、甲1発明1又は甲1発明2のポリエステルの製造において、上記「(A)または(B)の製造方法」を適用する動機となる事項が存するものとも認められないから、上記相違点2に係る事項は、甲1発明1又は甲1発明2において、当業者が適宜なし得ることということはできない。
(ア-3)小括
したがって、本件発明2は、上記相違点1につき検討するまでもなく、甲1発明1又は甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明であるということはできず、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということもできない。
(イ)本件発明3及び9について
本件発明3又は本件発明9は、いずれも本件発明2を引用するものであるところ、上記(ア)で説示したとおりの理由により、本件発明2が、甲1発明1又は甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明であるということはできず、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということもできないのであるから、本件発明3又は9についても、甲1に記載された発明であるということはできず、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということもできない。
ウ.取消理由1に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件発明2、3及び9は、いずれも甲1に記載された発明であるということはできず、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということもできないから、上記取消理由1は理由がない。
5.当審の判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件の請求項2ないし9に係る発明についての特許につき、申立人が主張する取消理由及び当審が通知した取消理由はいずれも理由がなく、その他の取消理由を発見しないから、本件の請求項2ないし9に係る発明についての特許は取り消すことはできない。
また、訂正後の本件の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立ては、訂正によりその技術事項が全て削除され、申立ての対象を欠くものであり、不適法となったものであって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
第7 むすび
以上のとおり、本件特許に係る特許権者の訂正請求による訂正は適法であるから、これを認容し、当該訂正後の本件の請求項2ないし9に係る発明についての特許は維持すべきものであり、訂正後の本件の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立ては、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-701096