特許異議申立
2026-700201
マスキング用組成物
- 審判番号
- 2026-700201
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-145860
- 登録番号
- 7745919
- 請求日
- 2026年03月06日
- 審決日
- 2026年05月25日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】池田食研株式会社
- 【異議申立人】赤松 智信
- 審判長/審判官
- 審判長 松田 成正
- 審判官 壷内 信吾
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1652.113-Y (A23L) / P1652.121-Y (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7745919号発明「マスキング用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7745919号の請求項5及び6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7745919号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、令和6年8月27日を出願日とする特許出願であって、令和7年9月19日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和8年3月6日に特許異議申立人 赤松 智信(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項5及び6)がされ、同年4月6日に特許異議申立人から手続補正書が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項5及び6に係る発明(以下、順に「本件特許発明5」及び「本件特許発明6」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項5及び6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項5】
大豆タンパク質100重量部に対してイソリクイリチンを0.001~1重量部で含む、大豆タンパク質含有経口組成物。
【請求項6】
大豆タンパク質100重量部に対してイソリクイリチンを0.001~1重量部で含有させることを特徴とする、大豆タンパク質含有経口組成物の製造方法。」
第3 特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由の概要等
令和8年4月6日に特許異議申立人から提出された手続補正書により補正された同年3月6日に提出された特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載された特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明5及び6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項5及び6に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明5及び6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項5及び6に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 証拠方法
甲第1号証:中国特許出願公開第116369382号明細書
甲第2号証:Jun Ho Lee et al., ”Physicochemical and Consumer Acceptance of Tofu Supplemented with Licorice Powder”, Prev.Nutr. Food Sci. 2017;22(4):359-364、http://doi.org/10.3746/pnf.2017.22.4.359、2017年12月31日、The Korean Society of Food Science and Nutrition
甲第3号証:Ohno et al., "Efficient Utilization of Licorice Root by Alkaline Extraction", in vivo 28 (5), 785-794 (2014) 、https://iv.iiarjournals.org/content/invivo/28/5/785.ful1.pdf、2014年9月、International Institute of Anticancer Research
甲第4号証:Simmler et al., “Species-specific Standardisation of Licorice by Metabolomic Profiling of Flavanones and Chalcones”, Phytochemical Analysis Vol.25,(4) pp.378-388、https://doi.org/10.1002/pca.2472、2015年7月1日、HHS Public Access
甲第5号証:Onuorah et al., "Comparative physico-chemical evaluation of soymilk and soya cake produced by three different methods."NIGERIAN FOOD JOURNAL,VOL.25(2)p.28-38、10. 4314/nifoj.v25i2.50838、2007年、African Journal Online
甲第6号証:不二製油株式会社のウェブサイト「大豆ペプチド 1.大豆ペプチドとは」の頁、https://www.fujioil.co.jp/healthy_soy/peptide/01/、令和8年2月4日(出力日)、赤松智信
甲第7号証:森永製菓株式会社のウェブサイト「かんたん、わかる!プロテインの教科書 大豆の植物性タンパク質「ソイプロテイン」を解説」の頁、https://www.morinaga.co.jp/protein/columns/detail/?id=13&category=beauty、令和8年2月4日(出力日)、赤松智信
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には、「青少年の発育成長を促進する植物ポリペプチド栄養製剤」(発明の名称の訳)に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲1は外国語文献のため、訳文のみを摘記した。また、半角文字は適宜全角で摘記した。下線は当審で付したものである。他の証拠についても同様。
・「[0007] 青少年の発育成長を促進する植物ポリペプチド栄養製剤であって、以下の質量百分率の原料を含む:脱脂粉乳13-17%、フラクトオリゴ糖4-6%、軟骨コラーゲンペプチド1-6%、大豆ペプチド1-6%、石斛抽出物8-12%、霊芝抽出物8-12%、甘草抽出物8-12%、γ-アミノ酪酸8-12%、葛根抽出物4-15%、モグロシド8-12%、レモン果実粉末6-8%、クエン酸6-8%。
[0008] 好ましくは、前記青少年の発育成長を促進する植物ポリペプチド栄養製剤は、以下の質量百分率の原料を含む:脱脂粉乳15%、フラクトオリゴ糖5%、軟骨コラーゲンペプチド3%、大豆ペプチド3%、石斛抽出物10%、霊芝抽出物10%、葛根抽出物10%、γ-アミノ酪酸10%、甘草抽出物10%、モグロシド10%、レモン果実粉末7%、クエン酸7%。」
・「[0009] 本発明はさらに上記青少年の発育成長を促進する植物ポリペプチド栄養製剤の製造方法を提供し、以下のステップを含む:
[0010] (1)上記配合の質量百分率に基づいて各原料を秤量する;
[0011] (2)脱脂粉乳、フラクトオリゴ糖、石斛抽出物、甘草抽出物、霊芝抽出物を反応缶に加えて均一に撹拌し、混合物Aを得る;
[0012] (3)大豆ペプチド、軟骨コラーゲンペプチド、γ-アミノ酪酸、葛根抽出物を混合物Aに加えて均一に撹拌し、混合物Bを得る;
[0013] (4)クエン酸、レモン果実粉末を混合物Bに加えて均一に撹拌混合し、混合物Cを得る;
[0014] (5)混合物Cを殺菌機に送って殺菌し、殺菌が完了した後に行灯で検査し、青少年の成長発育を促進する植物性食品を得る。」
・「[0047] 好ましくは、前記甘草抽出物の製造方法は以下のとおりである:
[0048] 1)材料の準備:甘草を洗浄して表面の不純物を除去した後、常温で送風乾燥し、甘草乾燥片を得る;
[0049] 2)物理的粉砕:甘草乾燥片を物理的に粉砕し、20-30メッシュの微粒子を得る;
[0050] 3)細胞壁の破壊:甘草微粒子を漢方薬用超微細ジェットミルで気流衝突粉砕を行い、粒径300-500メッシュの超微細甘草粉末を得る;
[0051] 4)低温抽出:甘草超微細粉末を30℃以下の低温水に入れて低温抽出を行い、甘草原液を得る;
[0052] 5)複合分離:甘草原液をデカンタ型遠心分離機(回転速度は1600-2800r/min)、次いでバタフライ型遠心分離機(回転速度は7000-7500r/min)で固液分離し、甘草分離液を得る;
[0053] 6)濾過:甘草分離液を孔径2nm未満のナノ膜で濾過し、甘草原液を得る;
[0054] 7)濃縮殺菌:まず甘草濃縮液を30℃以下の低温で濃縮し、高速遠心回転数3000-3800r/min、遠心時間1-3sで甘草濃縮初液を得る。さらに甘草濃縮初液を殺菌機の瞬間殺菌工程に投入し、加熱温度120℃-130℃、殺菌時間3sで処理し、その後室温まで急速に冷却し、甘草濃縮液を得る;
[0055] 8)凍結乾燥:甘草濃縮液をまず超低温で冷凍し(冷凍温度-25℃以下、冷凍時間は1-3h)、次に乾燥室に入れて昇温し(昇温温度35℃-45℃)、10-24h乾燥させ、甘草凍結乾燥粗粉を得る;
[0056] 9)粉砕・篩分け:甘草凍結乾燥粗粉を粉砕機で粉砕し、且つ70メッシュのふるいにかけ、70メッシュ未満の微粉を収集し、甘草抽出物を得る。」
・「[0060] 実施例1
[0061] 青少年の発育成長を促進する植物ポリペプチド栄養製剤の製造方法であって、以下のステップを含む:
[0062] (1)脱脂粉乳15g、フラクトオリゴ糖5g、軟骨コラーゲンペプチド3g、石斛抽出物10g、葛根抽出物10g、霊芝抽出物10g、大豆ペプチド3g、γ-アミノ酪酸10g、甘草抽出物10g、モグロシド10g、レモン果実粉末7g、及びクエン酸塩8gを秤量する;
[0063] (2)脱脂粉乳、フラクトオリゴ糖、石斛抽出物、霊芝抽出物、甘草抽出物を反応槽に加えて20r/minで10 min撹拌し、混合物Aを得る;
[0064] (3)軟骨コラーゲンペプチド、大豆ペプチド、γ-アミノ酪酸、葛根抽出物を混合物Aに加えて20r/minで10 min撹拌し、混合物Bを得る;
[0065] (4)モグロシド、クエン酸、レモン果実粉末を混合物Bに加えて20r/minで10 min撹拌し、混合物Cを得る;
[0066] (5)混合物Cを殺菌機に送って75℃で5 minマイクロ波殺菌し、殺菌が完了した後に行灯で検査し、身体発育成長を促進する栄養製剤を開発する。
[0067] 実施例2
・・・(略)・・・
[0069] (1)脱脂粉乳13g、フラクトオリゴ糖6g、軟骨コラーゲンペプチド4g、大豆ペプチド5g、石斛抽出物8g、霊芝抽出物8g、甘草抽出物12g、γ-アミノ酪酸12g、葛根抽出物10g、モグロシド8g、レモン果実粉末6g、及びクエン酸8gを秤量する;
・・・(略)・・・
[0074] 実施例3
・・・(略)・・・
[0076] (1)秤量:(1)脱脂粉乳17g、フラクトオリゴ糖4g、軟骨コラーゲンペプチド5g、大豆ペプチド4g、石斛抽出物12g、霊芝抽出物12g、甘草抽出物8g、γ-アミノ酪酸8g、葛根抽出物4g、モグロシド12g、レモン果実粉末8g、クエン酸6gを秤量する;
・・・(略)・・・
[0081] 実施例4
・・・(略)・・・
[0083]
(1)脱脂粉乳14g、フラクトオリゴ糖4g、軟骨コラーゲンペプチド1g、大豆ペプチド6g、石斛抽出物10g、霊芝抽出物9g、甘草抽出物11g、γ-アミノ酪酸11g、葛根抽出物12g、モグロシド9g、レモン果実粉末7g、及びクエン酸塩6gを秤量する;
・・・(略)・・・
[0088] 実施例5
・・・(略)・・・
[0090] (1)脱脂粉乳13g、フラクトオリゴ糖4g、軟骨コラーゲンペプチド6g、大豆ペプチド1g、石斛抽出物9g、霊芝抽出物11g、甘草抽出物9g、γ-アミノ酪酸9g、葛根抽出物15g、モグロシド11g、レモン果実粉末6g、及びクエン酸6gを秤量する;
・・・(略)・・・。」
・「[0096] 試験対象は8~30歳の身体発育不良の青少年患者群であり、自己申告により免疫力低下、栄養吸収不足を併せ持ち、長期的な栄養吸収不良により身体に必須の成長因子が不足し、亜健康状態にある。さらに運動量不足などの原因による栄養不均衡、身体の骨質発育遅延、健康状態不良が認められる。かつ1年以上の病歴を有し、通常は医師が処方する成長促進・免疫力向上薬(成長ホルモン、竜牡壮骨顆粒、カルシウム剤、ビタミン剤、アミノ酸、漢方薬、人参、ツバメの巣、牛骨スープなど)を服用し、成長発育問題の治療または病状安定化を図っている患者群を対象とした。4群を設定し、それぞれ実施例1~4で調製した栄養剤を服用させた。各群40名、1日3回1錠ずつ継続服用し、6ヶ月以上継続。服用期間中は他の成長促進・免疫力向上薬を中止。結果は表1の通り。」
(2)甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に実施例1ないし5に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1物発明」及び「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1物発明>
「大豆ペプチド3g及び甘草抽出物10g、大豆ペプチド5g及び甘草抽出物12g、大豆ペプチド4g及び甘草抽出物8g、大豆ペプチド6g及び甘草抽出物11g又は大豆ペプチド1g及び甘草抽出物9gで含む青少年の発育成長を促進する植物ポリペプチド栄養製剤。」
<甲1製法発明>
「大豆ペプチド3g及び甘草抽出物10g、大豆ペプチド5g及び甘草抽出物12g、大豆ペプチド4g及び甘草抽出物8g、大豆ペプチド6g及び甘草抽出物11g又は大豆ペプチド1g及び甘草抽出物9gで含有させる青少年の発育成長を促進する植物ポリペプチド栄養製剤の製造方法。」
2 本件特許発明5について
(1)対比
本件特許発明5と甲1物発明を対比する。
甲1物発明における「青少年の発育成長を促進する植物ポリペプチド栄養製剤」は8~30歳の身体発育不良の青少年患者群に服用されるものであるから、本件特許発明5における「大豆含有経口組成物」と、「経口組成物」という限りにおいて一致する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「経口組成物。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-1a>
本件特許発明5においては「大豆タンパク質100重量部に対してイソリクイリチンを0.001~1重量部で含む」と特定されているのに対し、甲1物発明においては「大豆ペプチド3g及び甘草抽出物10g、大豆ペプチド5g及び甘草抽出物12g、大豆ペプチド4g及び甘草抽出物8g、大豆ペプチド6g及び甘草抽出物11g又は大豆ペプチド1g及び甘草抽出物9gで含む」と特定されている点。
<相違点1-1b>
「経口組成物」に関して、本件特許発明5においては「大豆タンパク質含有」と特定されているのに対し、甲1物発明においてはそのようには特定されていない点。
(2)判断
相違点1-1aについて検討する。
甲1には、甲1物発明が「大豆タンパク質」を含むことは記載されておらず、当然、「大豆タンパク質100重量部」に対して「イソリクイリチン」を「0.001~1重量部」で含むことについては記載されていない。
したがって、相違点1-1aは実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
また、甲1を含め他のいずれの証拠にも、甲1物発明において、「大豆タンパク質」を含むようにした上で、「大豆タンパク質100重量部」に対して「イソリクイリチン」を「0.001~1重量部」で含むようにして、相違点1-1aに係る本件特許発明5の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はない。
そして、本件特許発明5は「経口組成物の有する不快味又は不快臭を抑制することができるため、不快味又は不快臭が軽減された経口組成物を提供することができる。」(本件特許の発明の詳細な説明の【0007】)という本件特許発明5の構成から当業者が予測することのできた範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書第14及び15ページにおいて、おおむね次のとおり主張する。なお、摘記に際し、空白行は省略した。以下同様。
「(ア)本件発明に係る大豆タンパク質と、大豆ペプチドとの相違について
本件発明は、経口組成物が有する不快味又は不快臭をマスキングすることをその技術的特徴とするものであり、かかる不快味又は不快臭が「大豆タンパク質」由来のものであることを特定し、経口組成物として、大豆粉、豆乳、豆腐、おから油揚げ、納豆、湯葉、大豆スナック等の大豆製品を挙げている(発明の詳細な説明【0004】~【0006】、【0014】)。また、本件発明5に関連する「不快味又は不快臭がマスキングされた経口組成物」は、「例えば、大豆等の豆類、魚介類、獣肉類、タンパク質製品及びその分解物、・・・等に由来する不快味又は不快臭・・・がマスキングされた飲食品が例示される」(【0016】)と説明している。
他方、甲1発明における「大豆ペプチド」は「青少年の発育成長を促進する植物ポリペプチド栄養製剤」における有効成分として添加されているものである。
大豆ペプチドは、大豆タンパク質の分解によって得られるが、タンパク質とペプチドの両者の違い(結合しているアミノ酸の数)について明確な定義があるわけではなく、例えば大豆由来の食品等に含まれる大豆タンパク質の種類、結合するアミノ酸の数も区々であり、様々な食品を製造する過程において調整されることも当該技術分野においてよく知られている(例えば、甲第6号証(不二製油株式会社のウェブサイト「大豆ペプチド 1.大豆ペプチドとは」の頁(https://www.fujioil.co.jp/healthy_soy/peptide/01/))、甲第7号証(森永製菓株式会社のウェブサイト「かんたん、わかる!プロテインの教科書 大豆の植物性タンパク質「ソイプロテイン」を解説」の頁(https://www.morinaga.co.jp/protein/columns/detail/?id=13&category=beauty))を参照)。また、上記のとおり、本件特許明細書(【0016】)においても、タンパク質製品とその分解物から不快味又は不快臭が生じていると説明しているとおり、本件発明における「大豆タンパク質」の技術的意味として大豆ペプチドを排除するものではないと解するのが相当である。
以上のとおり、本件発明5に係る「大豆タンパク質」と甲1発明に係る「大豆ペプチド」は実質的に相違するものではない。また、仮に相違するとしても、甲1発明における「大豆ペプチド」に代えて、体内で分解されて大豆ペプチドとなる「大豆タンパク質」成分を配合した栄養製剤とすることは、当業者が容易になし得る程度の変更に過ぎない。
(イ)甲1発明におけるイソリクイリチンの含有量
甲3には、室温における甘草水抽出物に含まれるイソリクイリチンは0.08%であることが記載されている。この場合、甲1発明における甘草抽出物も30℃以下の低温水で抽出されていることからみて、イソリクイリチン含有量(%)もほぼ同等と考えられる。してみると、甲1発明に係る甘草抽出物「183~900重量部」には、「0.147~0.720重量%」のイソリクイリチンを含んでいると考えるのが相当である。
したがって、甲1発明は「イソリクイリチンを0.001~1重量部で含む」ものであり、この点において本件発明5とは相違しない。」
イ 主張についての検討
そこで、上記主張について検討する。
「大豆ペプチド」は「大豆タンパク質」が分解されたものであるから、「大豆タンパク質」と「大豆ペプチド」が相違するものであることは当業者に明らかであるし、甲1物発明において、「大豆ペプチド」を分解される前の「大豆タンパク質」に変える動機付けはなく、「甲1発明における「大豆ペプチド」に代えて、体内で分解されて大豆ペプチドとなる「大豆タンパク質」成分を配合した栄養製剤とすることは、当業者が容易になし得る程度の変更に過ぎない。」とはいえない。
また、甲3において使用された「甘草」は「アフガニスタン産G.glabra」であり、甲1物発明における「甘草抽出物」の「甘草」と含有成分及び含有量が同じであるとは必ずしもいえないから、甲3に記載された事項を甲1物発明に直ちには適用できないし、甲1物発明は「大豆ペプチド」に対する「甘草抽出物」の量を規定するものであって、「大豆タンパク質」に対する「甘草抽出物」の量を規定するものではないから、特許異議申立人の「甲1発明に係る甘草抽出物「183~900重量部」には、「0.147~0.720重量%」のイソリクイリチンを含んでいる」という計算が成り立つともいえないので、「甲1発明に係る甘草抽出物「183~900重量部」には、「0.147~0.720重量%」のイソリクイリチンを含んでいると考えるのが相当である。」とはいえず、「甲1発明は「イソリクイリチンを0.001~1重量部で含む」ものであり、この点において本件発明5とは相違しない。」とはいえない。
したがって、上記主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は甲1物発明であるとはいえないし、甲1物発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
3 本件特許発明6について
(1)対比
本件特許発明6と甲1製法発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明5と甲1物発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「経口組成物の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-2a>
本件特許発明6においては「大豆タンパク質100重量部に対してイソリクイリチンを0.001~1重量部で含有させる」と特定されているのに対し、甲1製法発明においては「大豆ペプチド3g及び甘草抽出物10g、大豆ペプチド5g及び甘草抽出物12g、大豆ペプチド4g及び甘草抽出物8g、大豆ペプチド6g及び甘草抽出物11g又は大豆ペプチド1g及び甘草抽出物9gで含有させる」と特定されている点。
<相違点1-2b>
「経口組成物」に関して、本件特許発明6においては「大豆タンパク質含有」と特定されているのに対し、甲1製法発明においてはそのようには特定されていない点。
(2)判断
相違点1-2aについて検討する。
相違点1-2aは相違点1-1aと実質的に同じであるから、それについての判断も同じである。
すなわち、相違点1-2aは実質的な相違点であり、甲1製法発明において、相違点1-2aに係る本件特許発明6の発明特定事項を採用することは甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
また、本件特許発明6は「経口組成物の有する不快味又は不快臭を抑制することができるため、不快味又は不快臭が軽減された経口組成物を提供することができる。」という本件特許発明6の構成から当業者が予測することのできた範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書第15ページにおいて、おおむね次のとおり主張する。
「甲1には、甲1発明に係る「青少年の発育成長を促進する植物ポリペプチド栄養製剤」の製造方法についても具体的に開示されている([0009]~[0014]、実施例1~5)。
したがって、本件発明6は、上記(1)で本件発明5について検討した理由と同じ理由によって、甲第1号証に記載された発明であるか、当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。」
イ 主張についての検討
そこで、上記主張について検討するに、相違点についての主張は上記2(3)アと同様であると解されることから、上記2(3)イと同様に、上記主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
4 申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明5及び6は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項5及び6に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由1によっては取り消すことはできない。
第5 申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について
1 甲2に記載された事項等
(1)甲2に記載された事項
甲2には、「甘草粉末を添加した豆腐の理化学的特性及び消費者受容性」(タイトルの訳)に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「概要:機能的かつ栄養的に改善された豆腐を開発するために、部分的に甘草粉(LP)を置き換えた場合、豆腐の品質特性に与える影響が調査されました。LPの量を増加させるとpHおよび濁度(P<0.05)が低下した。LP補助豆腐の収量は対照豆腐よりも高く、LP濃度が上がるにつれて増加した(P<0.05)。LPを0.6%以上に置き換えると豆腐のテクスチャーが有意に硬化した(P<0.05)一方、対照群と0.2~0.4%のサンプルは有意な差はなかった(P>0.05)。・・・。LP(0.2~0.8%)を混入した豆腐は、15°Cの高温で対照豆腐より約4.32~26.64時間長く保存された。最後に、消費者受容テストでは、LPの0.4%以上の添加が一般的な消費者受容に悪影響を及ぼすことが明らかになった。全体的な観察結果に基づき、0.2%(w/w)LPを添加した豆腐サンプルは、消費者の受け入れを損なうことなくLPの機能的特性の恩恵を受けていることが判明した。」(第359ページ第5ないし17行)
・「豆腐の調製
洗浄した大豆(500 g)を水道水に浸漬し、25℃の水道水に24時間浸漬した。水切りした大豆をバスケットに入れ、余分な水分を除去した後、蒸留水(3,600 mL)と共にブレンダー(DA700-G、大成アルトン、韓国ソウル)で高速2分間攪拌した。その後、ガーゼ布で濾過し、圧搾して豆乳を得た。豆乳(2,800 mL)を泡を取り除きながら6分間沸騰させ、天然凝固剤(塩10 gと酢8 gの混合物)を加えて2分間攪拌し、5分間放置して凝固させたものを対照群とした。その他のサンプルは、豆乳総重量の0.2~0.8%に相当するLPを添加して調製した。凝乳をチーズクロスを敷いた専用穴あき型(10×11×10cm深さ)に慎重に移し、5kgのレンガを用いて20分間加圧した。」(第360ページ左欄第22ないし38行)
(2)甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を整理すると、甲2には次の発明(以下、順に「甲2物発明」及び「甲2製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2物発明>
「豆乳総重量の0.2~0.8%に相当するLP(甘草粉)を添加して調製した豆腐。」
<甲2製法発明>
「豆乳総重量の0.2~0.8%に相当するLP(甘草粉)を添加して調製した豆腐の製造方法。」
2 本件特許発明5について
(1)対比
本件特許発明5と甲2物発明を対比する。
甲2物発明における「豆腐」は本件特許発明5における「経口組成物」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「経口組成物。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2-1a>
本件特許発明5においては「大豆タンパク質100重量部に対してイソリクイリチンを0.001~1重量部で含む」と特定されているのに対し、甲2物発明においては「豆乳総重量の0.2~0.8%に相当するLPを添加して調製した」と特定されている点。
<相違点2-1b>
「経口組成物」に関して、本件特許発明5においては「大豆タンパク質含有」と特定されているのに対し、甲2物発明においてはそのようには特定されていない点。
(2)判断
相違点2-1aについて検討する。
甲2には、甲2物発明が「大豆タンパク質」を含むことは記載されておらず、当然、「大豆タンパク質100重量部」に対して「イソリクイリチン」を「0.001~1重量部」で含むことについては記載されていない。
したがって、相違点2-1aは実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
また、甲2を含め他のいずれの証拠にも、甲2物発明において、「大豆タンパク質100重量部」に対して「イソリクイリチン」を「0.001~1重量部」で含むようにして、相違点2-1aに係る本件特許発明5の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はない。
そして、本件特許発明5は「経口組成物の有する不快味又は不快臭を抑制することができるため、不快味又は不快臭が軽減された経口組成物を提供することができる。」という本件特許発明5の構成から当業者が予測することのできた範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書第16及び17ページにおいて、おおむね次のとおり主張する。
「(ア)甲2発明における大豆タンパク質の含有量
豆乳中の大豆タンパク質の含有量は、甲5に記載されているとおり、その製造方法によって多少異なるものの、2.8~3.8%程度であることが知られている。してみると、甲2発明における大豆タンパク質は、豆乳100重量部に対して2.8~3.8重量部程度であるといえる。
(イ)甲2発明におけるイソリクイリチンの含有量
上記2(4)(ウ)で記載したとおり、甲4のS8からは、2種類の甘草の3つのバッチ(G.glabra(ヨーロッパ甘草)についてBC693、BC694、BC695、G.uralensis(中国甘草)についてBC689、BC716、BC624)に対して、異なる方法で抽出処理を行った場合の、根粉末に対する抽出物の重量比を読み取ることができ、同じくS9からは、それぞれの抽出物に対するイソリクイリチン(Lig-4-O-Glc)の重量比を読み取ることができる。例えば、G.uralensis(中国甘草)のBC689について、S8によれば70%エタノール還流法によって抽出した場合の根粉中の抽出物の割合は28.8%、S9によれば抽出物のうちイソリクイリチンの含有量は0.246%であることが理解でき、甘草根中のイソリクイリチンの含有量はこれらの積である0.0708%である。(甲4の15頁図3B、横軸「4(LigC-4-O-Glc:イソリクイリチン)」のグラフ(70%EtOH reflux)に対応している。)
2種類の甘草の3つのバッチについて同様に甘草根中のイソリクイリチンの含有量(%)を計算すると以下のとおりである。
[図:0001436233000001.jpg]
甘草の種類、バッチによって差はあるものの甘草根粉中のイソリクイリチン含有量は、G.glabraで最大0.01%程度、G.uralensisの場合は0.07~0.17%程度であることがわかる。
(ウ)以上に基づいて、甲2発明における「豆乳総重量の0.2~0.8%に相当するLP(甘草粉)を含む」を、本件発明5に係る「大豆タンパク質100重量部に対するイソリクイリチンの含有量」を計算すると、仮に豆乳中の大豆タンパク質を約3.3%とした場合、大豆タンパク質100重量部当たりの甘草粉は約6~24重量部、G.uralensisの場合はイソリクイリチンの含有量はその約0.1%なので、0.006~0.024重量部となり、本件発明5で特定される範囲に含まれる(G.glabraの場合はこれより少ないが本件発明と重複する範囲を有することは明らかである)。
(エ)したがって、甲2発明は「大豆タンパク質100重量部に対してイソリクイリチンを0.001~1重量部で含む」ものであり、この点において本件発明5とは相違しない。」
イ 主張についての検討
そこで、上記主張について検討する。
甲4において使用された「2種類の甘草」は「G.glabra(ヨーロッパ甘草)」及び「G.uralensis(中国甘草)」であり、甲2物発明における「LP(甘草粉)」の「甘草」と含有成分及び含有量が同じであるとは必ずしもいえないから、甲4に記載された事項を甲2物発明に直ちには適用できない。
したがって、仮に、甲2物発明における大豆タンパク質の含有量が「豆乳100重量部に対して2.8~3.8重量部程度である」といえたとしても、「大豆タンパク質100重量部当たりの甘草粉は約6~24重量部、G.uralensisの場合はイソリクイリチンの含有量はその約0.1%なので、0.006~0.024重量部となり、本件発明5で特定される範囲に含まれる」とはいえず、「甲2発明は「大豆タンパク質100重量部に対してイソリクイリチンを0.001~1重量部で含む」ものであり、この点において本件発明5とは相違しない。」とはいえない。
したがって、上記主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は甲2物発明であるとはいえないし、甲2物発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
3 本件特許発明6について
(1)対比
本件特許発明6と甲2製法発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明5と甲2物発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「経口組成物の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2-2a>
本件特許発明6においては「大豆タンパク質100重量部に対してイソリクイリチンを0.001~1重量部で含有させる」と特定されているのに対し、甲2製法発明においては「豆乳総重量の0.2~0.8%に相当するLPを添加して調製した」と特定されている点。
<相違点2-2b>
「経口組成物」に関して、本件特許発明6においては「大豆タンパク質含有」と特定されているのに対し、甲2製法発明においてはそのようには特定されていない点。
(2)判断
相違点2-2aについて検討する。
相違点2-2aは相違点2-1aと実質的に同じであるから、それについての判断も同じである。
すなわち、相違点2-2aは実質的な相違点であり、甲2製法発明において、相違点2-2aに係る本件特許発明6の発明特定事項を採用することは甲2及び他の証拠に記載された事項を考慮しても当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
また、本件特許発明6は「経口組成物の有する不快味又は不快臭を抑制することができるため、不快味又は不快臭が軽減された経口組成物を提供することができる。」という本件特許発明6の構成から当業者が予測することのできた範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書第18ページにおいて、おおむね次のとおり主張する。
「甲2には、甲2発明に係る「豆乳総重量の0.2~0.8%に相当するLP(甘草粉)を添加して調整した豆腐」の製造方法についても具体的に開示されている(上記2(2)ア(イ))。
したがって、本件発明6は、上記(1)で本件発明5について検討した理由と同じ理由によって、甲第2号証に記載された発明であるか、当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。」
イ 主張についての検討
そこで、上記主張について検討するに、相違点についての主張は上記2(3)アと同様であると解されることから、上記2(3)イと同様に、上記主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲2製法発明であるとはいえないし、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
4 申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明5及び6は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項5及び6に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由2によっては取り消すことはできない。
第6 結語
以上のとおり、本件特許の請求項5及び6に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項5及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2026-700201