特許異議申立
2024-700417
積層体および包装袋
- 審判番号
- 2024-700417
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-030273
- 登録番号
- 7373682
- 請求日
- 2024年05月01日
- 審決日
- 2026年03月10日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】浅野 真理
- 【権利者代理人】高田 泰彦
- 【権利者代理人】柏 延之
- 【異議申立人】青山 裕樹
- 【異議申立人】齊藤 恵美子
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 長谷川 一郎
- 審判官 田口 傑
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B) / P1651.161-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条の2、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7373682号発明「積層体および包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7373682号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~16〕、17、18について訂正することを認める。
特許第7373682号の請求項1~10、12~18に係る特許を維持する。
特許第7373682号の請求項11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件特許の出願から特許掲載公報の発行までの手続の経緯
特許第7373682号(以下「本件特許」という。)について、出願から特許掲載公報の発行までの手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
令和5年 2月28日 :特許出願(特願2023-17900号を原出願とする分割出願、原出願日 平成5年2月8日)
同年10月25日 :特許権の設定登録
同年11月 2日 :特許掲載公報の発行
2 本件特許異議申立ての手続の経緯
本件特許異議申立ての手続の経緯は、以下のとおりである。
令和6年 5月 1日 :特許異議申立人青山裕樹(以下「申立人1」という。)による請求項1~17に係る特許に対する本件特許異議の申立て
同年 5月 2日 :特許異議申立人齊藤恵美子(以下「申立人2」という。)による請求項1~17に係る特許に対する本件特許異議の申立て
同年10月11日付け:取消理由通知書
同年12月16日 :特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和7年 3月18日 :申立人1による意見書(以下「申立人1意見書」という。)の提出
同年 3月19日 :申立人2による意見書(以下「申立人2意見書1」という。)の提出の提出
同年 8月 8日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年10月17日 :特許権者による訂正請求書、意見書の提出
同年10月27日 :申立人2による上申書の提出
令和8年 1月16日 :申立人2による意見書(以下「申立人2意見書2」という。)の提出
令和7年12月16日付けで申立人1及び申立人2に対して、訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を、期間を指定して行ったものであるが、当該期間内に申立人1からは応答がなかった。
以下、令和7年10月17日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。
なお、令和6年12月16日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の「請求の趣旨」は、「特許第7373682号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~18について訂正することを求める。」ものであり、その内容は以下の訂正事項1~8のとおりである。なお、下線は、当審において訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、
前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第1の基材および前記第2の基材から選択される少なくとも一方が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤およびポリエステル系接着剤から選択される少なくとも一つであり、
前記第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であり、
前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である、
積層体。」と記載されているのを、
「第1の基材と、
印刷層と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、
前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されており、
前記第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であり、
前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である、
積層体。」に訂正する。また、請求項1を引用する請求項2~10,12~16も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
請求項11を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項13における「前記延伸基材と前記無機酸化物層とを備える前記バリア性基材であり、前記無機酸化物層が前記第2の基材側を向き、前記延伸基材が外側を向くように」との記載を「前記延伸基材と前記無機酸化物層とを備える前記バリア性基材であり、無機酸化物層が前記第2の基材側を向き、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材が外側を向くように」と訂正する。また、請求項13を引用する請求項14~16も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項14における「請求項1~13のいずれか一項に記載の積層体」との記載を「請求項1~10、12~13のいずれか一項に記載の積層体」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項15における「請求項1~13のいずれか一項に記載の積層体」との記載を「請求項1~10、12~13のいずれか一項に記載の積層体」と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項16における「請求項1~13のいずれか一項に記載の積層体」との記載を「請求項1~10、12~13のいずれか一項に記載の積層体」と訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項17に
「レトルトパウチまたはボイルパウチである、請求項16に記載の包装袋」とあるうち、請求項16を介して間接的に請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「第1の基材と、
印刷層と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、
前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されており、
前記第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、28.2MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であり、
前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である、
積層体を備える、
レトルトパウチまたはボイルパウチである、
包装袋。」と記載する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に
「前記バリア性基材が、前記無機酸化物層における前記延伸基材に向かう面とは反対の面上に、被覆層をさらに備える、請求項1に記載の積層体。」とあり、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「第1の基材と、
印刷層と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記バリア性基材が、前記無機酸化物層における前記延伸基材に向かう面とは反対の面上に、被覆層をさらに備え、
前記被覆層が、バリアコート層であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、
前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記被覆層が配置されており、
前記第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であり、
前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である、
積層体。」と記載し、新たに請求項18とする。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~17について、請求項2~17は、請求項1を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は一群の請求項[1~17]について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1は、訂正前請求項1の「積層体」について「第1の基材」と「第1の接着剤層」との間に「印刷層」という構成を加え、且つ、「前記第1の基材および前記第2の基材から選択される少なくとも一方が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材」を「前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材」に、「前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤およびポリエステル系接着剤から選択される少なくとも一つ」を「前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤」にそれぞれ限定し、その上で、「積層体」について「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されており、」という構成を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項1のうち、「第1の基材」と「第1の接着剤層」との間に「印刷層」という構成を加える訂正は、本件明細書の【0015】、【0016】の記載に基づくものであり、「前記第1の基材および前記第2の基材から選択される少なくとも一方が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、」を「前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、」に限定する訂正は、本件明細書の【0017】、【0056】の記載に基づくものであり、「前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤およびポリエステル系接着剤から選択される少なくとも一つであり、」を「前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、」に限定する訂正は、本件明細書の【0120】、【0116】の記載に基づくものであり、「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されており、」という構成を加える訂正は、本件明細書の【0015】、【0017】、【0056】、【0160】、【0161】の記載に基づくものであり、明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
上記訂正は、特許請求の範囲を減縮した訂正であって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項11を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項3は、訂正前請求項13の「前記延伸基材と前記無機酸化物層とを備える前記バリア性基材であり、前記無機酸化物層が前記第2の基材側を向き」との記載を「前記延伸基材と前記無機酸化物層とを備える前記バリア性基材であり、無機酸化物層が前記第2の基材側を向き」と記載し、当該「無機酸化物層」を、第1の基材に適用する構成を明確にすると共に、訂正前請求項13の「延伸基材が外側を向くように」との記載を「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材が外側を向くように」と記載することにより当該「延伸基材」を明瞭化しようとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項3のうち、「前記無機酸化物層」について「無機酸化物層」と記載することは、「前記」という記載を削除し、単に明瞭でない記載の釈明をするに過ぎないものであり、「前記延伸基材」について「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材」と記載することは、訂正前請求項1の「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材」との記載を根拠とし、また、単に明瞭でない記載の釈明をするに過ぎないものであるから、明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、本件訂正の訂正事項3に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
上記訂正は、特許請求の範囲を減縮した訂正であって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4~6について
訂正事項4~6は、それぞれ訂正事項2により請求項11が削除されたことに伴い、特許請求の範囲の記載を整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項4~6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件許明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
(5)訂正事項7について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項7は、請求項16を介して間接的に請求項1を引用する請求項17の記載を独立形式に改めるとともに、訂正前請求項1の「積層体」について「第1の基材」と「第1の接着剤層」との間に「印刷層」という構成を加え、且つ、「前記第1の基材および前記第2の基材から選択される少なくとも一方が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、」を「前記第2の基材が、無機酸化物層と被覆層をさらに備えるバリア性基材であり、」に限定し、その上で、「第1の接着剤層を形成する接着剤」について「ポリウレタン系接着剤およびポリエステル系接着剤から選択される少なくとも一つ」を「ポリウレタン系接着剤」に限定し、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率」について「35.0MPa以下」を「28.2MPa以下」に限定し、「積層体」について「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されており、」という構成を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項7のうち、「積層体」について「第1の基材」と「第1の接着剤層」との間に「印刷層」という構成を加える訂正は、本件明細書の【0015】、【0016】の記載に基づくものであり、「積層体」について、「前記第1の基材および前記第2の基材から選択される少なくとも一方が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、」を「前記第2の基材が、無機酸化物層と被覆層をさらに備えるバリア性基材であり、」に限定する訂正は、本件明細書の【0017】、【0056】の記載に基づくものであり、「第1の接着剤層を形成する接着剤」について「ポリウレタン系接着剤およびポリエステル系接着剤から選択される少なくとも一つ」を「ポリウレタン系接着剤」に限定する訂正は、本件明細書の【0120】、【0116】の記載に基づくものであり、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率」について「35.0MPa以下」を「28.2MPa以下」に限定する訂正は、本件明細書の【0181】の【表1】の記載に基づくものであり、「積層体」について「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されており、」という構成を加える訂正は、本件明細書の【0015】、【0056】、【00017】、【0160】、【0161】の記載に基づくものであり、明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、本件訂正の訂正事項6に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
上記訂正は、特許請求の範囲を減縮した訂正であって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項8について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項8は、請求項1を引用する請求項11の記載を独立形式に改めるとともに、訂正前請求項1の「積層体」について「第1の基材」と「第1の接着剤層」との間に「印刷層」という構成を加え、且つ、「前記第1の基材および前記第2の基材から選択される少なくとも一方が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、」を「前記第2の基材が、無機酸化物層と被覆層をさらに備えるバリア性基材であり、」に限定し、その上で、「第1の接着剤層を形成する接着剤」について「ポリウレタン系接着剤およびポリエステル系接着剤から選択される少なくとも一つ」を「ポリウレタン系接着剤」に限定し、「積層体」について「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記被覆層が配置されており、」という構成を加え、「被覆層」についてバリアコート層に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項8のうち、「第1の基材」と「第1の接着剤層」との間に「印刷層」という構成を加える訂正は、本件明細書の【0015】、【0016】の記載に基づくものであり、「前記第1の基材および前記第2の基材から選択される少なくとも一方が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、」を「前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、」に限定する訂正は、本件明細書の【0017】、【0056】の記載に基づくものであり、「第1の接着剤層を形成する接着剤」について「ポリウレタン系接着剤およびポリエステル系接着剤から選択される少なくとも一つ」を「ポリウレタン系接着剤」に限定する訂正は、本件明細書の【0116】の記載に基づくものであり、「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記被覆層が配置されており、」という構成を加える訂正、及び「前記被覆層が、バリアコート層であり」とする訂正は、本件明細書の【0015】~【0017】、【0056】、【0073】、【0160】、【0161】の記載に基づくものであり、明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、本件訂正の訂正事項8に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
上記訂正は、特許請求の範囲を減縮した訂正であって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
4 別の訂正単位とする求めについて
特許権者は訂正後の請求項17及び18について、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
そして、上記2及び3のとおり、当該請求項についての訂正を認めない理由はない。
また、訂正後の請求項17及び18について、一群の請求項の他の請求項と、別途訂正する求めを認めない理由はない。
5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~16〕、17、18について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたから、本件特許の請求項1~10、12~18に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」、「本件発明12」~「本件発明18」といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その訂正特許請求の範囲の請求項1~10、12~18に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1の基材と、
印刷層と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、
前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されており、
前記第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であり、
前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である、
積層体。
【請求項2】
前記第1の接着剤層の前記弾性率が、15.0MPa以上30.0MPa以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記第1の接着剤層の厚さが、2.0μm以上5.0μm以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第2の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であり、前記第2の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記第2の接着剤層の厚さが、2.0μm以上5.0μm以下である、請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記第1の接着剤層の前記弾性率が、前記第2の接着剤層の前記弾性率よりも大きい、請求項4に記載の積層体。
【請求項7】
前記第1の接着剤層の厚さが、前記第2の接着剤層の厚さよりも大きい、請求項4に記載の積層体。
【請求項8】
前記第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa超であり、前記第2の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
前記第2の接着剤層の厚さが、0.5μm以上3.0μm以下である、請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
前記第1の接着剤層の厚さが、前記第2の接着剤層の厚さよりも大きい、請求項8に記載の積層体。」
「【請求項12】
前記第1の基材が、前記延伸基材であり、
前記第2の基材が、前記延伸基材と前記無機酸化物層とを備える前記バリア性基材であり、前記無機酸化物層が前記第1の基材側を向き、前記延伸基材が前記シーラント層側を向くように、前記第2の基材が配置されている、
請求項1に記載の積層体。
【請求項13】
前記第1の基材が、前記延伸基材と前記無機酸化物層とを備える前記バリア性基材であり、無機酸化物層が前記第2の基材側を向き、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材が外側を向くように、前記第1の基材が配置されており、
前記第2の基材が、前記延伸基材である、
請求項1に記載の積層体。
【請求項14】
前記積層体に含まれる樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有割合が、80質量%以上である、請求項1~10、12~13のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項15】
包装材料である、請求項1~10、12~13のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項16】
請求項1~10、12~13のいずれか一項に記載の積層体を備える包装袋。
【請求項17】
第1の基材と、
印刷層と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、
前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されており、
前記第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、28.2MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であり、
前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である、
積層体を備える、
レトルトパウチまたはボイルパウチである、
包装袋。
【請求項18】
第1の基材と、
印刷層と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記バリア性基材が、前記無機酸化物層における前記延伸基材に向かう面とは反対の面上に、被覆層をさらに備え、
前記被覆層が、バリアコート層であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、
前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記被覆層が配置されており、
前記第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であり、
前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である、
積層体。」
第4 取消理由通知(決定の予告)の概要
本件訂正前の請求項1~17に係る特許に対して、当審において令和7年8月8日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
取消理由1(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
具体的には、本件発明は、「積層体および包装袋」(【0001】)に関するもので、本件発明の解決しようとする課題は、「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材および無機酸化物層を備えるバリア性基材と、ポリプロピレンを主成分として含有するシーラント層と、を備える積層体を用いて作製される包装袋の、レトルト処理後のガスバリア性を向上させること」(【0005】)であるところ、請求項1~17には、積層体の層構成、第1の接着層を形成する接着剤等について十分特定されておらず、特許請求の範囲で記載された発明が、発明の詳細な説明の記載から把握される課題が解決できると当業者が認識できる範囲のものとはいえない。
取消理由3(明確性要件)
本件の請求項13~17に係る特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
具体的には、請求項1には「前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、」と記載されているところ、請求項13には「前記第1の基材が、前記延伸基材と前記無機酸化物層とを備える前記バリア性基材であり、」と記載されている。そうすると、請求項13の「前記無機酸化物層」は請求項1の「無機酸化物層」を示しているが、前記第1の基材が第2の基材が備える無機酸化物層を備えるとは、どのようなものを示しているか不明確である。
また、請求項1では「前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、」と記載されているところ、請求項13の「前記第2の基材が、前記延伸基材である、」という記載は、請求項1の「前記第2の基材」が「延伸基材」及び「無機酸化物層」を備えた旨の記載と整合しない。
第5 当審の判断
当審合議体は、以下のとおり、上記取消理由で通知した理由によっては、訂正後の請求項1~10、12~18に係る特許は取り消されるべきものではないと判断する。
その理由は次のとおりである。以下、訂正後の請求項1に係る発明を、「本件発明1」のようにいい、他も同様にいう。また、それらを総称して「本件発明」ともいう。
1 取消理由1(サポート要件)
(1) サポート要件の考え方
特許請求の範囲が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、発明の詳細な説明の記載から把握される課題が解決できることを当業者が認識できるものであるか否かを検討して判断すべきものであり、パラメータ発明において、発明の詳細な説明は、その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該パラメータが満たす範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者が認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要する。
(2) 本件明細書の記載
ア 本件明細書の記載についてみると、本件発明は、「積層体および包装袋」(【0001】)に関するもので、本件発明の解決しようとする課題は、「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材および無機酸化物層を備えるバリア性基材と、ポリプロピレンを主成分として含有するシーラント層と、を備える積層体を用いて作製される包装袋の、レトルト処理後のガスバリア性を向上させること」(【0005】)である。
イ この課題を解決する手段として、「本開示の積層体は、第1の基材と、第1の接着剤層と、第2の基材と、第2の接着剤層と、シーラント層と、を厚さ方向にこの順に備え、第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、第1の基材および第2の基材から選択される少なくとも一方が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であり、第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である。」(【0006】)こと、「弾性率が上限値以下の第1の接着剤層を備える積層体を用いて作製される包装袋は、レトルト処理などの熱処理後においてもガスバリア性(例えば酸素バリア性および水蒸気バリア性、特に酸素バリア性)および外観に優れる傾向にある。第1の基材における第1の接着剤層に向かう面上に印刷層が設けられている場合は、弾性率が上限値以下の第1の接着剤層は、印刷層との密着性に優れる傾向にある。」(【0095】)こと、「軟化点が下限値以上の第1の接着剤層を備える積層体を用いて作製される包装袋は、耐熱性に優れ、例えばレトルト処理などの熱処理後においてもガスバリア性、外観およびラミネート強度に優れる傾向にある。」(【0098】)こと、「第1の基材における第1の接着剤層に向かう面上に印刷層が設けられている場合は、厚さが下限値以上の第1の接着剤層は印刷層による段差を良好に覆うことができ、外観良好な包装袋を得ることができる傾向にある。厚さが下限値以上の第1の接着剤層を備える積層体は、熱処理後においてもラミネート強度に優れる傾向にある。」(【0102】)ことが、それぞれ記載されている。
(3) 判断
ア 上記第3の特許請求の範囲の記載が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されている場合、サポート要件に適合するといえるものである。
そして、発明の詳細な説明には、上記(2)イのとおりの記載があり、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率(以下「弾性率」という。)」、「第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点(以下「軟化点」という。)」及び「第1の接着剤層の厚さ(以下「厚さ」という。)」をそれぞれを所定の数値範囲に特定したことにより、「レトルト処理後のガスバリア性を向上させる」作用を奏することが記載されている。
また、本件明細書の【0015】には、「この実施形態において、無機酸化物層が第1の接着剤層側を向き、ポリプロピレン延伸基材が第2の接着剤層側を向くように、バリア性基材は配置されていることが好ましい。このような配置により、例えば、無機酸化物層の劣化等をより抑制できる。」と記載され、【0017】には、「本開示の積層体を用いて作製された包装袋は、レトルト処理およびボイル処理などの熱処理後においても、優れたガスバリア性を示す。」と記載され、【0018】~【0021】並びに【図1】、【図2】、【図4】及び【図5】には、第1の接着剤層が無機酸化物層に接する態様が開示されていること、【0033】には、「バリア性基材は、無機酸化物層上に、被覆層を備えてもよい。」、【0069】には、「バリア性基材は、無機酸化物層上に、被覆層をさらに備えてもよい。すなわち、バリア性基材は、無機酸化物層におけるポリプロピレン延伸基材に向かう面とは反対の面上に、被覆層をさらに備えてもよい。このようなバリア性基材を備える積層体は、例えば、酸素バリア性および水蒸気バリア性に優れる。」との記載がある。
これらの記載を総合すると、第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されている積層体において、「弾性率」、「軟化点」及び「厚さ」をそれぞれを所定の数値範囲に特定したことにより、「レトルト処理後のガスバリア性を向上させる」作用を奏することは、当業者が認識できるものである。
イ そして、訂正後の請求項1~10、12~18に係る発明は、第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されていること、「弾性率」、「軟化点」及び「厚さ」をそれぞれを所定の数値範囲とすることが特定されている。
ウ そうすると、訂正後の請求項1~10、12~18に係る発明について、特許請求の範囲が、明細書のサポート要件に適合するといえる。
(4) 申立人1の主張
申立人1は、申立人1意見書にて、おおむね以下を主張する(申立人1意見書の第2~3ページ)。
・第1接着剤層について、ウレタン結合を有さない『ポリエステル系接着剤』を含むものとなっており、特許権者がポリエステル系接着剤として示すものは単にポリエステルを含むポリオール成分とイソシアネート成分との縮重合(ウレタン化反応)により得られるポリウレタン系接着剤であっても、ポリエステル系接着剤ではない。
・実施例である例5のレトルト条件は明細書には記載も示唆もされていないから、どのようなレトルト条件を用いたのか不明であるが、121℃のレトルト条件に近似する条件を用いた場合も想定され、その場合は比較も可能と考えられる。
(5) 申立人1の主張の検討
訂正により、「前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であ」ることが特定された。
また、実施例である例5の酸素透過度について、【0178】に「1.5cc/m2・day・atm」と記載されているが、【0181】の表1において「レトルト処理(121℃)後酸素透過度」、「レトルト処理(135℃)後酸素透過度」は、いずれも「-」であるところ、例1~4、6~7の「レトルト処理(121℃)後酸素透過度」、「レトルト処理(135℃)後酸素透過度」の値を比較して、直ちにその優劣を論ずることは適切とはいえず、例5の積層体が課題を解決していないとはいえない。
以上のとおり申立人1の上記主張は採用できない。
(6) 申立人2の主張
申立人2は、申立人2意見書2にて、おおむね以下を主張する。
ア バリア性基材が、被覆層をさらに備え、被覆層が、バリアコート層であることが特定されていない点に関して
・本件明細書においてバリアコート層が必須でないとされていることと、バリアコート層が存在しない場合にまで実際に本件発明の課題を解決できることとは別のことであり、本件明細書においてバリアコート層が必須でないとされているからといって、バリアコート層が存在しない場合にまで実際に本件発明の課題を解決できることを示したことにはならない(申立人2意見書2の(ア))。
・本件明細書の発明の詳細な説明には、バリアコート層が存在しない場合に実際に本件発明の課題を解決できたことを示す具体例(実施例)がなく、バリアコート層が存在しない場合にまで実際に本件発明の課題を解決できることについて合理的な期待が得られる程度の記載があるとはいえない(申立人2意見書2の(イ))。
・バリアコート層が存在しない場合にまで実際に本件発明の課題を解決できることについて合理的な期待が得られる程度の記載があるとはいえない以上、バリアコート層が存在する具体例にまで特許請求の範囲の減縮を求めることは、公開の代償として特許権を付与するという特許制度の趣旨からすれば当然のことであり、必要以上に特許請求の範囲の減縮を求めることにはならない(申立人2意見書2の(ウ))。
・本件訂正によって、「第1の接着剤層を形成する接着剤」が「ポリウレタン系接着剤」に限定され、乙13号証(「ウレタン化反応ならびにその積層材料の接着への応用に関する研究(Abstract_要旨)、<URL:https://core.ac.uk/download/39335279.pdf>)に記載されているように「第1の接着剤層に用いるウレタン系接着剤とそれに接する層との接着は、NCO基と素材表面の活性基との一次化学結合によるものではなく、接着界面に蓉透してゲル化し粘弾性の強力となった高分子体の表面に対する物理的ないわゆる二次結合によることから、バリアコート層に対しても無機酸化物層に対しても、いずれも高い接着力を有し、高いガスバリア性を得ることができるという特許権者の主張は、ウレタン系接着剤が無機酸化物との面に蓉透(原文では「滲透」)するとは考えにくく、滲透したウレタン系接着剤がゲル化し粘弾性の強力となった高分子体が形成されることも考えにくいため、乙13号証は、無機酸化物層に対するウレタン系接着剤の接着原理に関する説明を記載した文献として妥当性を欠く(申立人2意見書2の(エ))。
・本件明細書の段落【0037】において「バリア性基材は、ポリプロピレン延伸基材と無機酸化物層との間に、極性基を有する樹脂材料を含有する表面コート層を備えてもよい。このようなバリア性基材は、無機酸化物層の密着性に優れ、また、ガスバリア性にも優れる」と記載されているように、無機酸化物層の密着性には極性基が関与しているところ、無機酸化物も、電気陰性度の高い酸素と電気陰性度の低い無機原子からなる極性分子であり、無機酸化物層は極性分子であることから、第1の接着剤層に用いられたウレタン系接着剤と高い接着力を有することは明らかであるという特許権者の主張は、バリアコート層も極性分子を含んでいるため、バリアコート層が存在しなくても、実際に本件発明の課題を解決できるといえることの根拠にはならない(申立人2意見書2の(オ))。
・特許権者は、本件明細書の段落【0015】、【0018】~【0021】並びに【図1】、【図2】、【図4】及び【図5】等に基づいて「第1の接着剤層を挟んで印刷層とバリア性基材の無機酸化物層側の面が配置された構造」によって、(レトルト処理後の)ガスバリア性の「向上」という本件発明の課題を解決できると主張しているが、本件明細書の上記記載だけでは、数値範囲以外の他の構成によって課題を解決できることが認識できるとはいえない(申立人2意見書2の(カ))。
イ 数値範囲の部分に関するサポート要件違反に関して
・第1の接着剤層の「厚さ」、「弾性率」、「軟化点」について、本件明細書の【0181】の表1から、「所望の効果を奏し使用可能であることが推測できる」範囲は、それぞれ「1.35~3.6μm」、「20.4~28.2MPa」、「220.3~244.5℃」であるところ、本件発明1において特定する数値範囲のうち、上記数値範囲外の部分について本件明細書には所望の効果が得られることを裏付ける記載は存在しない(申立人2意見書2の(キ-1)、(キ-3))。
・本件発明1は、弾性率の下限を規定しておらず、本件特許に係る出願時の技術常識の観点からも、弾性率20.4MPaを下回る範囲で所望の効果が得られることを予測することはできない。その理由は、接着剤層の剥離は接着剤層の弾性率が低い場合にも発生し、弾性率が過度に低い領域では接着力が低くなり、接着力が低くなれば、接着層が界面剥離ないし凝集剥離し、剥離が生じれば、バリア性が低下する。
そして、本件発明1は、弾性率の下限を何ら規定していないため、接着カが著しく低く、剥離が生じてバリア性が劣化するような極めて低い弾性率の領域(例えば0.1MPa等)までも包含している(申立人2意見書2の(キ-2))。
ウ 本件明細書の「例5」(課題解決不可領域)の存在に関して
・本件明細書の「例5」の接着剤(接着剤C)は、本件発明1で規定された、弾性率、軟化点、厚さの数値範囲を全て満たしている。
しかし、例5の酸素透過度(cc/m2・day・atm)は「1.5」であり(段落【0178】)、これは不合格である比較例(例7:酸素透過度1.5)と同程度の低いバリア性能しか示していないから、課題(レトルト処理後のガスバリア性向上)を解決できない実施形態(例5)が本件発明1の範囲内に含まれている(申立人2意見書2の(ク))。
(7) 申立人2の主張の検討
ア 上記(6)ア及びイについて
上記(3)で検討したとおり、本件発明において、第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されている積層体において、「弾性率」、「軟化点」及び「厚さ」をそれぞれを所定の数値範囲に特定したことにより、「ガスバリア性を向上させる」との課題が解決できることを、当業者が認識できるものである。
そして、本件明細書の【0150】~【0181】の実施例の記載から、「弾性率」、「軟化点」及び「厚さ」が請求項1~18において特定された数値範囲に含まれる本件発明に係る積層体は、「ガスバリア性を向上させる」との課題が解決できることを、当業者が認識できるものである。
本件発明1において、「弾性率」の下限を特定していない点について、本件明細書には、「・・・積層体を用いて作製された包装袋は、レトルト処理後のガスバリア性が充分ではない場合があることを見出した。」(【0004】、「・・・」は記載の省略を意味する。以下同じ。)、「本開示の解決課題の一つは、・・・積層体を用いて作製される包装袋の、レトルト処理後のガスバリア性を向上させることにある。」と記載されるように、本件発明1は、レトルト処理後のガスバリア性を向上させる包装袋に用いる積層体を意図しているところ、そのような積層体の第1の接着剤層の「弾性率」として、包装袋として使用し得る、積層体の体裁を保つことができないような極めて低い弾性率は、当業者であれば採用することはない。
そうすると、「弾性率」の下限を規定しないことをもって、サポート要件違反であるとまではいえない。
イ 上記(6)ウについて
上記(5)で検討したとおりである。
ウ まとめ
上記ア及びイのとおり、申立人2の上記主張は採用できない。
(5) サポート要件のまとめ
以上より、特許請求の範囲で記載された発明が、発明の詳細な説明の記載から把握される課題が解決できると当業者が認識できる範囲のものであり、本件発明1、及び、本件発明1を引用する本件発明2~10、12~16、並びに、本件発明17、18は、サポート要件を満たしている。
2 取消理由3(明確性要件)
(1) 明確性要件の考え方
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2) 本件特許請求の範囲の記載
ア 請求項1には「前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、」と記載され、請求項13には「前記第1の基材が、前記延伸基材と前記無機酸化物層とを備える前記バリア性基材であり、」と記載されている。
イ 請求項1には「前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、」と記載され、請求項13には「前記第2の基材が、前記延伸基材である、」と記載されている。
(3) 判断
ア 上記(2)ア及びイについて、
請求項13には、「前記第1の基材が、前記延伸基材と前記無機酸化物層とを備える前記バリア性基材であり、」と記載されており、請求項13が引用する請求項1には、「前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、」と記載されている。そうすると当業者であれば、請求項13の上記記載によって「第1の基材」が、「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材」であり、「第2の基材」が、「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材」である」ものと理解することができる。そして当該「第1の基材」及び「第2の基材」は明確である。
これは、本件明細書の【0014】における、「第1の基材は、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備える。第2の基材は、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備える。第1の基材の延伸基材と第2の基材の延伸基材とは、同一でもよく、異なってもよい。第1の基材および第2の基材から選択される少なくとも一方は、該延伸基材と無機酸化物層とを備えるバリア性基材である。・・・」との記載と整合している。
イ まとめ
以上のとおり、本件発明13、並びに、本件発明13を引用する本件発明14~16は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず、明確性要件を満たしている。
(4) 申立人2の主張
申立人2は、申立人2意見書2において、おおむね以下を主張する。
ア 「前記無機酸化物層」の記載について
本件訂正発明13においては、「前記第1の基材が、前記延伸基材と前記無機酸化物層とを備える前記バリア性基材であり」との記載が残っている。
ここでいう「前記無機酸化物層」は、本件訂正発明1において「第2の基材」が備えるものとして定義された「無機酸化物層」を指していると解される。第1の基材が、第2の基材の構成要素である「前記無機酸化物層」を備えるという記載は、物理的な構成として矛盾しており、依然として不明確である。
したがって、本件訂正発明13については、明確性要件違反が解消されていない。
イ 「前記延伸基材」の記載について
本件訂正発明13では、「前記第2の基材が、前記延伸基材である」と規定されている。
一方で、引用元である本件訂正発明1では、「前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり」と規定されている。
本件訂正発明13の「第2の基材が、前記延伸基材(単体)である」という規定は、本件訂正発明1の「第2の基材が、延伸基材及び無機酸化物層を備えるバリア性基材である」という規定と明らかに矛盾しており、整合しない。
以上より、本件訂正発明13については、依然として明確性要件違反が解消されていない。
(5) 申立人2の主張の検討
ア 上記(4)ア及びイについて
上記(3)で検討したとおり、本件発明13は、当業者であれば「第1の基材」が、「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材」であり、「第2の基材」が、「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材」である」ものと理解でき、当該「無機酸化物層」、「延伸基材」を備える、「第1の基材」、「第2の基材」は明確である。
よって、申立人2の上記主張は採用できない。
第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
申立人1は、以下に示す甲第1号証~甲第4号証(以下、申立人○が提出した甲第△号証を「○甲△」という。以下同様。)を提出し、また、申立人2は、以下に示す2甲1~2甲14を提出し、本件発明1~17に係る特許は、以下の理由(以下、異議申立人番号と理由番号により「申立1理由1」等という。以下同様。)により、取り消すべきものである旨を主張する。
(1)申立1理由1(1甲1を主引例とした進歩性)
本件特許の請求項1~10、12~18(請求項18は訂正により請求項11を独立形式としている。)に係る発明は、1甲1に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない。
(2)申立2理由1(2甲1を主引例とした新規性)
本件特許の請求項1~5、13、14、18(請求項18は訂正により請求項11を独立形式としている。)に係る発明は、2甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(3)申立2理由2(2甲1を主引例とした進歩性)
本件特許の請求項1~5、7、12~18(請求項18は訂正により請求項11を独立形式としている。)に係る発明は、2甲1に記載された発明及び2甲1に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない。
(4)申立2理由3(2甲2を主引例とした新規性・進歩性)
本件特許の請求項1~5、7、12~18(請求項18は訂正により請求項11を独立形式としている。)に係る発明は、2甲2に記載された発明であるか、2甲2に記載された発明、2甲2に記載された事項及び周知技術から当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第1項第3号又は第2項に該当し、特許を受けることができない。
(5)申立2理由4(2甲3の特許出願を主引例とした拡大先願)
本件特許の請求項1~5、12、14~18(請求項18は訂正により請求項11を独立形式としている。)に係る発明は、2甲3の特許出願(以下「先願」という。)の明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者が先願の明細書等に記載された発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願時において、本件特許の出願人が先願の出願人と同一でもないから、法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
(6)申立2理由5(サポート要件)
本件特許は、請求項1~10、12~18(請求項18は訂正により請求項11を独立形式としている。)の記載が次の点で発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・本件の請求項1~10、12~18で特定する「無機酸化物層」について、本件明細書の記載から低温プラズマ化学気相成長法を用いて形成された場合に本件発明の課題を解決できていると理解できる。したがって、本件特許発明は、「無機酸化物層」について、プラズマ化学気相成長法で無機酸化物層を形成した場合に限定されるべきものである。しかし、本件特許発明では、無機酸化物層の製造方法について何ら特定しておらず、本件特許明細書の開示範囲を超えている。
・本件の請求項1~3、8~18(請求項18は訂正により請求項11を独立形式としている。)で特定する「第2の接着剤」について、本件明細書の記載から、第1の接着剤と異なる接着剤を用いて形成され、異なる弾性率を有する場合にまで本件発明の課題を解決できた例は記載されていない。したがって、本件特許発明は、「第2の接着剤」の弾性率について何ら特定しておらず、本件特許明細書の開示範囲を超えている。
(7)申立2理由6(明確性要件)
本件特許は、請求項1~10、12~18(請求項18は訂正により請求項11を独立形式としている。)の記載が次の点で明確ではなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・本件の請求項1~10、12~18(請求項18は訂正により請求項11を独立形式としている。)において「前記第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率」は、「弾性率」がレトルト処理前又はレトルト処理後のいずれで測定されたかについて何ら特定しておらず不明確である。
(2)申立人が提出した証拠
1甲1:特開2022-113738号公報
1甲2:特開2016-83930号公報
1甲3:特開2019-151746号公報
1甲4:特開2020-173283号公報
2甲1:特開2022-118046号公報
2甲2:特開2021-20391号公報
2甲3:特許第7332070号公報
2甲4:特開2008-307801号公報
2甲5:特開2012-34802号公報
2甲6:特開平8-174748号公報
2甲7:特開2000-918号公報
2甲8:特開2006-326998号公報
2甲9:再公表特許第2019/189490号
2甲10:再公表特許第2008/075461号
2甲11:国際公開第2021/256545号
2甲12:今井朗博、「ドライラミネート接着剤のエージング短縮に向けての取組み」、包装技術、JPI Journal Vol.56、No.11、平成30年11月号、公益社団法人日本包装技術協会、2018年11月、p.12~15
なお、2甲3として添付されているのは、特許第7332070号公報であるところ、2甲3の願書に最初に添付した明細書等の記載は、2甲3の記載と同じである。
2 当審の判断
(1)引用発明、先願発明
ア 2甲2(1甲1の原出願)に記載された発明
1甲1は2甲2の分割出願であり記載内容が同様であるからまとめて判断する。
2甲2(1甲1)には、特に実施例2(【0077】、【0081】、【0083】、【0085】、【0087】、表1)の積層体に着目すると、次の「2甲2発明」が記載されているといえる。
「第1基材層(OPP(収縮率3.1%):厚さ20μm)/接着剤層/ガスバリア性被覆層/厚さ30nmの酸化ケイ素からなる無機酸化物層(シリカ蒸着層)/密着層(アンカーコート剤)/第2基材層(OPP(収縮率3.8%):厚さ20μm)/接着剤層/シーラント層(CPP(収縮率1.8%):厚さ70μm)の順に積層された積層体であって、接着剤層は、2液型の接着剤(三井化学株式会社製、商品名:主剤A525/硬化剤A52)からなる、積層体。」
イ 2甲1には、特に実施例8-2(【0183】~【0187】、【0253】~【0255】)の積層体に着目すると、次の「2甲1発明」が記載されているといえる。
「ポリアミド(宇部興産(株)製、ポリアミド6、融点:220℃)と、接着性樹脂(三井化学(株)製、アドマーQF500、無水マレイン酸変性ポリプロピレン)と、ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、ノバテックFL203D、融点:160℃)とを共押出した後、縦方向(MD方向)に5倍、横方向(TD方向)に10倍延伸して、ポリアミドからなる表面樹脂層(0.4μm)と、接着性樹脂からなる接着性樹脂層(1μm)と、ポリプロピレンからなるポリプロピレン樹脂層(19.6μm)とを備える、厚さ21μmの基材と、
基材の表面樹脂層上に、低温プラズマ化学気相成長装置を用いて形成された厚さ12nmの炭素含有酸化珪素蒸着膜と、
水385g、イソプロピルアルコール67gおよび0.5N塩酸9.1gを混合し、調製したpH2.2の溶液に、金属アルコキシドとしてテトラエトキシシラン175gと、シランカップリング剤としてグリシドキシプロピルトリメトキシシラン9.2gとを10℃となるように、冷却しながら混合して得た溶液Aと、水溶性高分子としてケン価度99%以上、重合度2400のポリビニルアルコール14.7g、水324gイソプロピルアルコール17gを混合して得た溶液Bとを、質量基準で、6.5:3.5となるように混合して得たバリアコート剤を、基材上に形成した蒸着膜上にスピンコート法によりコーティングし、80℃で60秒間オーブンにて加熱処理を施して形成した厚さ300nmのバリアコート層と、
バリアコート層の上に、ポリウレタン接着剤(三井化学(株)製、タケラックA-969V/タケネートA-5(配合比3/1))を用いて形成された厚さ4μmの接着層と、
その接着層の上に形成される厚さ1μmの印刷層と、
印刷層の上に形成される、20μmの厚さを有する二軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルムと、
二軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルム上に、厚さ60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(東レフィルム加工(株)製、ZK500)をポリウレタン接着剤(三井化学(株)製、タケラックA-969V/タケネートA-5(配合比3/1))を用いてドライラミネートして、厚さ4μmの接着層を有し、
第1基材と、蒸着膜と、バリアコート層と、接着層と、印刷層と、第2基材と、接着層と、シーラント層をこの順に備える、
積層体。」
ウ 2甲3の願書に最初に添付した明細書等に記載された発明
2甲3の願書に最初に添付した明細書等には、特に実施例19(【0099】、【0104】~【0106】、【0110】、【0124】~【0127】、【0132】、表4)の積層体に着目すると、次の「2甲3発明」が記載されているといえる。
「基材、密着層、酸化ケイ素からなる透明な蒸着層(シリカ蒸着層)及びバリアコートを有するバリア層と、
バリア層のバリアコート上に、2液型の接着剤(a)を塗工し、厚さ3μmの第2接着層を形成し、第2接着層を介して最外層をラミネートし、バリア層の基材上に、2液型の接着剤(a)を塗工し、厚さ3μmの接着層を形成し、接着層を介してシーラント層をラミネートすることで、最外層、第2接着層、バリアコート、蒸着層(シリカ蒸着層)、密着層、基材、接着層、及びシーラント層の積層構造を有する積層体(ガスバリア積層体)であって、基材及び最外層が2軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルムであり、シーラント層が無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムであり、ナノインデンテーション法によって測定されたレトルト処理後の第2接着層の硬さが0.15MPaである、積層体(ガスバリア積層体)。」
(2) 申立1理由1、申立2理由3(2甲2発明を主引例とする場合)
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と2甲2発明を対比する。
2甲2発明の「第1基材層(OPP(収縮率3.1%):厚さ20μm)」は、本件発明1の「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え」る「第1の基材」に、2甲2発明の「第2基材層(OPP(収縮率3.8%):厚さ20μm)」は、本件発明1の「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え」る「第2の基材」に、2甲2発明の「シーラント層(CPP(収縮率1.8%):厚さ70μm)」は、本件発明1の「ポリプロピレンを主成分として含有」する「シーラント層」に相当する。
2甲2発明の「接着剤層」は「2液型の接着剤(三井化学株式会社製、商品名:主剤A525/硬化剤A52)からなる」ところ、甲2-10(【0091】)及び甲2-11([0137])の記載を参照すると、「2液型の接着剤(三井化学株式会社製、商品名:主剤A525/硬化剤A52)」は、ポリウレタン系接着剤であるといえるから、2甲2発明の「2液型の接着剤(三井化学株式会社製、商品名:主剤A525/硬化剤A52)からなる」「接着剤層」は、本件発明1の「第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であ」ることに相当する。
2甲2発明の「ガスバリア性被覆層/厚さ30nmの酸化ケイ素からなる無機酸化物層(シリカ蒸着層)/密着層(アンカーコート剤)/第2基材層(OPP(収縮率3.8%):厚さ20μm)」は、本件発明1の「前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であ」ることに相当する。
2甲2発明の「第1基材層(OPP(収縮率3.1%):厚さ20μm)/接着剤層/ガスバリア性被覆層/厚さ30nmの酸化ケイ素からなる無機酸化物層(シリカ蒸着層)/密着層(アンカーコート剤)/第2基材層(OPP(収縮率3.8%):厚さ20μm)/接着剤層/シーラント層(CPP(収縮率1.8%):厚さ70μm)の順に積層された積層体」は、本件発明1の「第1の基材と、印刷層と、第1の接着剤層と、第2の基材と、第2の接着剤層と、シーラント層と、を厚さ方向にこの順に備える積層体」と、「第1の基材と、第1の接着剤層と、第2の基材と、第2の接着剤層と、シーラント層と、を厚さ方向にこの順に備える積層体」の限りで相当する。
そうすると、本件発明1と2甲2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1-1]
「 第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤である、
積層体。」
[相違点1-1]
印刷層に関して、本件発明1は「第1の基材と、印刷層と、第1の接着剤層と、」「を厚さ方向にこの順に備え」、「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されて」いるのに対し、2甲2発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点1-2]
第1の接着剤層に関して、本件発明1は「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であり、前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である」のに対し、2甲2発明ではそのような特定がなされていない点。
(イ) 判断
a 事案に鑑み、相違点1-2について検討する。
2甲2には、「第1の接着剤層に関して、本件発明1の「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」る点は、記載も示唆もされていない。
2甲2発明の第1の接着剤層は「2液型の接着剤(三井化学株式会社製、商品名:主剤A525/硬化剤A52)」で形成されており、ポリウレタン系接着剤であるが、2甲2には主剤A525を構成する材料の重量平均分子量や、主剤A525と硬化剤A52とのモル比、さらに接着剤のエージング条件について何ら記載されていない。
接着剤層の弾性率は主剤に含まれる重合体成分の重量平均分子量や、主剤と硬化剤とのモル比や、接着剤のエージング条件に関連するところ、2甲2発明において、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」る構成である蓋然性が高いとはいえず、また、そのような構成とする動機付けはない。
そして、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」る構成は、本件特許に係る出願前において周知技術であるとはいえない。
また、この相違点1-2に係る本件発明1の構成が周知あるいは技術常識である等といった証拠や当該構成を記載あるいは示唆する証拠は提出されていない。
よって、相違点1-2は実質的な相違点であり、2甲2発明において、相違点1-2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
b 申立人1の主張
申立人1は申立人1意見書において、おおむね以下のとおり主張する(申立人1意見書第4ページ)。
・本件発明1には、接着剤について、主剤を構成する重合体の重量平均分子量や主剤と硬化剤とのモル比はなんら特定されていない。そして、本件実施例の例4のレトルト処理後の酸素透過度が、2甲2発明の積層体と同程度のガスバリア性であること、及び前記エージング条件について、通常の処理であることから、取消理由が解消されていない。
c 申立人1の主張の検討
本件発明1には、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」る構成が特定されているところ、2甲2発明では、第2接着剤層(本件発明1の「第1の接着剤層」に相当する。)の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率の特定がない。また、2甲2において接着剤層の弾性率に関係するパラメータである、接着剤の主剤に含まれる重合体成分の重量平均分子量や、接着剤の主剤と硬化剤とのモル比や、接着剤のエージング条件に関する記載もなく、さらに、接着剤層の弾性率を上記数値範囲とする動機付けも記載されていない。加えて、仮に実施例の例4のレトルト処理後の酸素透過度が2甲2発明の積層体と同程度のガスバリア性であり、前記エージング条件について、通常の処理であったとしても、接着剤層の弾性率が上記数値範囲であることは特定できず、また、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、申立人1の上記主張は採用できない。
d 申立人2の主張
申立人2は申立人2意見書1において、おおむね以下のとおり主張する(申立人2意見書1第10~12ページ)。
・接着剤の主剤を構成する材料の重量平均分子量や主剤と硬化剤とのモル比が特定されていないことは、本件実施例の例4の接着剤と2甲2の接着剤とは同じ接着剤ではないことの説明にはならない。
・エージング工程は接着剤層の硬化を進行させる工程であり、接着剤層を硬化させるのは当業者であれば当然行う工程である。2甲2にエージングについて記載されていないからといって、エージング(接着剤層の硬化)が行われていないことにはならない。仮にエージングを行っていないとしても、エージングを行わない場合には、弾性率は低い方向に向かうはずであり、本件発明1の弾性率35.0MPa以下の要件をよリー層充足する方向に向かうはずである。
e 申立人2の主張の検討
上記a、cで検討したとおりであり、また、相違点1-2に係る本件発明1の構成を、記載あるいは示唆する証拠は提出されていない。
よって、2甲2発明において、相違点1-2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない
したがって、申立人2の上記主張は採用できない。
f 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、2甲2発明ではなく、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、2甲2発明、2甲2に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~5、7、12~16について
本件発明2~5、7、12~16は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記アと同様の理由により、2甲2発明ではなく、また、2甲2発明、2甲2に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明6、8~10について
本件発明6、8~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記アと同様の理由により、2甲2発明、2甲2に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明17について
(ア) 対比
本件発明17と2甲2発明を対比する。
上記ア(ア)と同様である。
そうすると、本件発明17と2甲2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1-2]
「 第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤である、
積層体。」
[相違点1-3]
印刷層に関して、本件発明17は「第1の基材と、印刷層と、第1の接着剤層と、」「を厚さ方向にこの順に備え」、「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されて」いるのに対し、2甲2発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点1-4]
第1の接着剤層に関して、本件発明1は「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、28.2MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であり、前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である」のに対し、2甲2発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点1-5]
本件発明1は「積層体を備える、レトルトパウチまたはボイルパウチである、包装袋」であるのに対し、2甲2発明ではそのような特定がなされていない点。
(イ) 判断
a 事案に鑑み、相違点1-4について検討する。
上記ア(イ)と同様である。
よって、相違点1-4は実質的な相違点であり、2甲2発明において、相違点1-4に係る本件発明17の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
b 小括
以上のとおりであるから、本件発明17は、2甲2発明ではなく、また、2甲2発明、2甲2に記載された事項及び及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
オ 本件発明18について
(ア) 対比
本件発明18と2甲2発明を対比する。
上記ア(ア)と同様であり、さらに、2甲2発明の「ガスバリア性被覆層」は、本件発明18の「被覆層」及び「バリアコート層」に相当する。
2甲2発明の「ガスバリア性被覆層/厚さ30nmの酸化ケイ素からなる無機酸化物層(シリカ蒸着層)/密着層(アンカーコート剤)/第2基材層(OPP(収縮率3.8%):厚さ20μm)」は、「ガスバリア性被覆層」が無機酸化物層(シリカ蒸着層)から見て「第2基材層(OPP(収縮率3.8%):厚さ20μm)」とは反対側に備えられているから、本件発明18の「記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、前記バリア性基材が、前記無機酸化物層における前記延伸基材に向かう面とは反対の面上に、被覆層をさらに備え、前記被覆層が、バリアコート層であ」ることに相当する。
2甲2発明の「第1基材層(OPP(収縮率3.1%):厚さ20μm)/接着剤層/ガスバリア性被覆層/厚さ30nmの酸化ケイ素からなる無機酸化物層(シリカ蒸着層)/密着層(アンカーコート剤)/第2基材層(OPP(収縮率3.8%):厚さ20μm)/接着剤層/シーラント層(CPP(収縮率1.8%):厚さ70μm)の順に積層された積層体」は、本件発明18の「第1の基材と、印刷層と、第1の接着剤層と、第2の基材と、第2の接着剤層と、シーラント層と、を厚さ方向にこの順に備える積層体」と、「第1の基材と、第1の接着剤層と、第2の基材と、第2の接着剤層と、シーラント層と、を厚さ方向にこの順に備える積層体」の限りで相当する。
そうすると、本件発明18と2甲2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1-3]
「 第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記バリア性基材が、前記無機酸化物層における前記延伸基材に向かう面とは反対の面上に、被覆層をさらに備え、
前記被覆層が、バリアコート層であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤である、
積層体。」
[相違点1-6]
印刷層に関して、本件発明1は「第1の基材と、印刷層と、第1の接着剤層と、」「を厚さ方向にこの順に備え」、「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記被覆層が配置されて」いるのに対し、2甲2発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点1-7]
第1の接着剤層に関して、本件発明1は「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であり、前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である」のに対し、2甲2発明ではそのような特定がなされていない点。
(イ) 判断
a 事案に鑑み、相違点1-7について検討する。
上記ア(イ)と同様である。
よって、相違点1-7は実質的な相違点であり、2甲2発明において、相違点1-7に係る本件発明18の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
b 小括
以上のとおりであるから、本件発明18は、2甲2発明ではなく、他の相違点について検討するまでもなく、2甲2発明、2甲2に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 申立1理由1、申立2理由3についてのまとめ
申立1理由1からは請求項1~10、12~18に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、申立1理由1によっては、請求項1~10、12~18に係る特許を取り消すことはできない。
申立2理由3からは請求項1~5、7、12~18に係る特許が特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、申立2理由3によっては、請求項1~5、7、12~18に係る特許を取り消すことはできない。
(3) 申立2理由1、申立2理由2(2甲1発明を主引例とする場合)
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と2甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
2甲1発明の「印刷層」、「積層体」は、それぞれ本件発明1の「印刷層」、「積層体」に相当する。
2甲1発明の「基材」、「炭素含有酸化珪素蒸着膜」、「二軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルム」、「未延伸ポリプロピレンフィルム(東レフィルム加工(株)製、ZK500)」は、その層構成からみて、それぞれ「第1基材」、「蒸着膜」、「第2基材」、「シーラント層」にあたる。
2甲1発明の「第1基材」、「蒸着膜」、「バリアコート層」とからなるものは、本件発明1の「第1の基材」に相当する。
2甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルム」及び「第2基材」は、本件発明1の「第2の基材」に相当する。
2甲1発明の「未延伸ポリプロピレンフィルム(東レフィルム加工(株)製、ZK500)」及び「シーラント層」は、本件発明1の「シーラント層」に相当する。
2甲1発明の「バリアコート層」に隣接する「ポリウレタン接着剤(三井化学(株)製、タケラックA-969V/タケネートA-5(配合比3/1))」を用いて形成された厚さ4μmの「接着層」は、本件発明1の「第1の接着剤層」に相当するとともに、本件発明1の「第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であ」る構成、「第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である」構成を充足する。
2甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルム」及び「第2基材」と、「未延伸ポリプロピレンフィルム(東レフィルム加工(株)製、ZK500)」及び「シーラント層」の間の「ポリウレタン接着剤(三井化学(株)製、タケラックA-969V/タケネートA-5(配合比3/1))」を用いて形成された「接着層」は、本件発明1の「第2の接着剤層」に相当する。
2甲1発明の「第1基材と、蒸着膜と、バリアコート層と、接着層と、印刷層と、第2基材と、接着層と、シーラント層をこの順に備える、積層体」と、本件発明1の「第1の基材と、印刷層と、第1の接着剤層と、第2の基材と、第2の接着剤層と、シーラント層と、を厚さ方向にこの順に備える積層体」とは、「第1の基材と、第1の接着剤層と、第2の基材と、第2の接着剤層と、シーラント層と、を厚さ方向にこの順に備える積層体」の限りで相当する。
2甲1発明の「ポリアミド(宇部興産(株)製、ポリアミド6、融点:220℃)と、接着性樹脂(三井化学(株)製、アドマーQF500、無水マレイン酸変性ポリプロピレン)と、ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、ノバテックFL203D、融点:160℃)とを共押出した後、縦方向(MD方向)に5倍、横方向(TD方向)に10倍延伸して、ポリアミドからなる表面樹脂層(0.4μm)と、接着性樹脂からなる接着性樹脂層(1μm)と、ポリプロピレンからなるポリプロピレン樹脂層(19.6μm)とを備える、厚さ21μmの基材」は、延伸されたポリプロピレンからなるポリプロピレン樹脂層(19.6μm)とを備えるから、本件発明1の「第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え」ることに相当する。
2甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルム」は、本件発明1の「前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え」ることに相当する。
2甲1発明の「未延伸ポリプロピレンフィルム(東レフィルム加工(株)製、ZK500)」は、本件発明1の「シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有」する構成を充足する。
そうすると、本件発明1と2甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点2-1]
「 第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、
前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である、
積層体。」
[相違点2-1]
印刷層、バリア性基材に関して、本件発明1は「第1の基材と、印刷層と、第1の接着剤層と、」「を厚さ方向にこの順に備え」、「第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、」「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されて」いるのに対し、2甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点2-2]
第1の接着剤層に関して、本件発明1は「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」るのに対し、2甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
(イ) 判断
a 事案に鑑み、相違点2-2について検討する。
2甲1には、「バリアコート層」と「印刷層」の間の「ポリウレタン接着剤(三井化学(株)製、タケラックA-969V/タケネートA-5(配合比3/1))」を用いて形成された「接着層」に関して、本件発明1の「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」る点は、記載も示唆もされていない。
2甲1発明の上記接着剤層はポリウレタン接着剤であるが、2甲1には主剤を構成する材料の重量平均分子量や、主剤と硬化剤とのモル比、さらに接着剤のエージング条件について何ら記載されていない。
接着剤層の弾性率は主剤に含まれる重合体成分の重量平均分子量や、主剤と硬化剤とのモル比や、接着剤のエージング条件に関連するところ、2甲1発明において、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」る構成である蓋然性が高いとはいえず、また、そのような構成とする動機付けはない。
そして、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」る構成は、本件特許に係る出願前において周知技術であるとはいえない。
また、この相違点2-2に係る本件発明1の構成を、記載あるいは示唆する証拠は提出されていない。
よって、相違点2-2は実質的な相違点であり、2甲1発明において、相違点2-2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
b 申立人2の主張
申立人2は特許異議申立書において、おおむね以下のとおり主張する(申立人2の特許異議申立書第54~60ページ)。
・2甲1発明の「バリアコート層」と「印刷層」の間の「接着層」と、本件明細書の[例1]に記載された積層体の第1の接着剤層とは、40℃で24時間以上エージングされる点で同一の製造工程を有しており、出発物質が2液型のウレタン系接着剤を使用する点で類似しているから、相違点2-2に係る本件発明1の構成を満たす蓋然性が高い。
・本件発明1は、「包装袋の、レトルト処理後のガスバリア性を向上させること」を効果とし、2甲1発明は、「好ましいガスバリア性を達成でき」ることを効果の一つとしており、両者の効果は同質であるといえる。
・本件明細書の【実施例】の例5の酸素透過度(cc/m2.day.atm)の値「1.5」(【0178】)は、表1において、比較例に該当する例6及び例7のレトルト処理(121℃)後の酸素透過度「1.3」、「1.5」と同程度の値であるから、例5については、本件発明1の効果を奏していないと認められる。ここで、例1~例4では、弾性率が「20.4MPa」又は「28.2MPa」であるのに対して、例5では弾性率が「14.4MPa」であることから、本件発明1の効果は、本件発明1の弾性率の数値範囲(35.0MPa以下)内のすべての部分で顕著性があるとはいえず、本件発明1の甲1発明と比較した効果が有利な効果が顕著性を有しているとはいえない。
よって、本件発明1は2甲1発明により新規性、進歩性を有さない。
c 申立人2の主張の検討
本件発明1には、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」る構成が特定されているところ、2甲1発明では、「バリアコート層」と「印刷層」の間の「接着層」(本件発明1の「第1の接着剤層」に相当する。)の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率の特定がない。また、2甲1において接着剤層の弾性率に関係するパラメータである、接着剤の主剤に含まれる重合体成分の重量平均分子量や、接着剤の主剤と硬化剤とのモルに関する記載もなく、さらに、接着剤層の弾性率を上記数値範囲とする動機付けも記載されていない。加えて、仮に実施例の例1のレトルト処理後の酸素透過度が2甲1発明の積層体と同程度のガスバリア性であり、前記エージング条件について、40℃で24時間以上エージングされる点で同一の製造工程を有したとしても、接着剤層の弾性率が上記数値範囲であることは特定できない。
本件明細書の実施例の例5の酸素透過度(cc/m2・day・atm)について、【0178】に「1.5」と記載されているが、【0181】の表1において「レトルト処理(121℃)後酸素透過度」、「レトルト処理(135℃)後酸素透過度」は、いずれも「-」であるところ、例1~4、6~7の「レトルト処理(121℃)後酸素透過度」、「レトルト処理(135℃)後酸素透過度」の値を比較して、直ちにその優劣を論ずることは適切とはいえず、例5について、本件発明1の効果を奏していないとはいえない。
よって、申立人2の上記主張は採用できない。
d 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、2甲1発明ではなく、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、2甲1発明及び2甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~5、13、14について
本件発明2~5、13、14は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記アと同様の理由により、2甲1発明ではない。
ウ 本件発明2~5、7、12~16について
本件発明2~5、7、12~16は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記アと同様の理由により、2甲1発明及び2甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明17について
(ア) 対比
本件発明17と2甲1発明を対比する。
上記ア(ア)と同様である。
そうすると、本件発明17と2甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点2-2]
「 第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、
前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である、
積層体。」
[相違点2-3]
印刷層、バリア性基材に関して、本件発明1は「第1の基材と、印刷層と、第1の接着剤層と、」「を厚さ方向にこの順に備え」、「第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、」「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されて」いるのに対し、2甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点2-4]
第1の接着剤層に関して、本件発明1は「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、28.2MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」るのに対し、2甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点2-5]
本件発明1は「積層体を備える、レトルトパウチまたはボイルパウチである、包装袋」であるのに対し、2甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
(イ) 判断
a 事案に鑑み、相違点2-4について検討する。
上記ア(イ)と同様である。
よって、2甲1発明において、相違点2-4に係る本件発明17の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
b 小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明17は、2甲1発明及び2甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明18について
(ア) 対比
本件発明18と2甲1発明を対比する。
上記ア(ア)と同様である。
そうすると、本件発明18と2甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点2-3]
「 第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、
前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である、
積層体。」
[相違点2-6]
印刷層、バリア性基材に関して、本件発明1は「第1の基材と、印刷層と、第1の接着剤層と、」「を厚さ方向にこの順に備え」、「第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、前記バリア性基材が、前記無機酸化物層における前記延伸基材に向かう面とは反対の面上に、被覆層をさらに備え、前記被覆層が、バリアコート層であり、」「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されて」いるのに対し、2甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点2-7]
第1の接着剤層に関して、本件発明1は「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」るのに対し、2甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
(イ) 判断
a 事案に鑑み、相違点2-7について検討する。
上記ア(イ)と同様である。
よって、相違点2-7は実質的な相違点であり、2甲1発明において、相違点2-7に係る本件発明18の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
b 小括
以上のとおりであるから、本件発明18は、2甲1発明ではなく、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明18は、2甲1発明及び2甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 申立2理由1、申立2理由2についてのまとめ
申立2理由1からは請求項1~5、13、14、18に係る特許が特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものとはいえないから、申立2理由1によっては、請求項1~5、13、14、18に係る特許を取り消すことはできない。
申立2理由1からは請求項1~5、7、12~18に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、申立2理由3によっては、請求項1~5、7、12~18に係る特許を取り消すことはできない。
(4) 申立2理由4(2甲3発明を主引例とする場合)
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と2甲3発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
2甲3発明の「蒸着層(シリカ蒸着層)」、「バリア層」は、それぞれ本件発明1の「無機酸化物層」、「第2の基材」に相当する。
2甲3発明の「最外層」、「第2接着層」、「接着層」、「シーラント層」及び「積層体(ガスバリア積層体)」は、それぞれ本件発明1の「第1の基材」、「第1の接着剤層」、「第2の接着剤層」、「シーラント層」及び「積層体」に相当する。
2甲3発明の「最外層が2軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルムであ」ることは、本件発明1の「第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え」ることに相当する。
2甲3発明の「基材」は「2軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルムであ」るから、本件発明1の「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材」に相当する。
そうすると、2甲3発明の「バリア層」は、「蒸着層(シリカ蒸着層)」及び「2軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルムであ」る「基材」を有するから、本件発明1の「第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材」に相当する。
2甲3発明の「シーラント層が無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムであ」ることは、本件発明1の「シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有」することに相当する。
2甲3発明の「厚さ3μmの第2接着層」は、本件発明1の「第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である」ことに相当する。
2甲3発明の「最外層、第2接着層、バリアコート、蒸着層(シリカ蒸着層)、密着層、基材、接着層、及びシーラント層の積層構造を有する積層体(ガスバリア積層体)」と、本件発明1の「第1の基材と、印刷層と、第1の接着剤層と、第2の基材と、第2の接着剤層と、シーラント層と、を厚さ方向にこの順に備える積層体」とは、2甲3発明の「バリア層」が「バリアコート、蒸着層(シリカ蒸着層)、密着層、基材」を有するから、「第1の基材と、第1の接着剤層と、第2の基材と、第2の接着剤層と、シーラント層と、を厚さ方向にこの順に備える積層体」の限りで相当する。
そうすると、本件発明1と2甲3発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点3-1]
「 第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である、
積層体。」
[相違点3-1]
印刷層、バリア性基材に関して、本件発明1は「第1の基材と、印刷層と、第1の接着剤層と、」「を厚さ方向にこの順に備え」、「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されて」いるのに対し、2甲3発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点3-2]
第1の接着剤層に関して、本件発明1は「第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり」、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」るのに対し、2甲3発明ではそのような特定がなされていない点。
(イ) 判断
a 事案に鑑み、相違点3-2について検討する。
2甲3には、「第2接着層」(本件発明1の「第1の接着剤層」に相当する。)に関して、本件発明1の「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」る点は、記載も示唆もされていない。
2甲3発明の「第2接着層」は2液型の接着剤により形成されるが、2甲3には2液型の接着剤がポリウレタン系接着剤であって、その主剤を構成する材料の重量平均分子量や、主剤と硬化剤とのモル比、さらに接着剤のエージング条件について何ら記載されていない。
接着剤層の弾性率は主剤に含まれる重合体成分の重量平均分子量や、主剤と硬化剤とのモル比や、接着剤のエージング条件に関連するところ、2甲3発明において、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」る構成である蓋然性が高いとはいえず、また、そのような構成とする動機付けはない。
そして、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」る構成は、本件特許に係る出願前において周知技術であるとはいえない。
また、この相違点3-2に係る本件発明1の構成が周知あるいは技術常識である等といった証拠は提出されていない。
よって、相違点3-2は実質的な相違点である。
b 申立人2の主張
申立人2は特許異議申立書において、おおむね以下のとおり主張する(申立人2の特許異議申立書第96~99ページ)。
・2甲3発明における、第1接着層を形成する2液型の接着剤(a)がウレタン系接着剤である場合には、通常40℃前後で数日間エージングさせる工程を取ることがほとんどであるから、2甲3発明の第1接着層と、本件明細書の[例1]に記載された積層体の第1の接着剤層とは、40℃で数日間エージングされる点で同一の製造工程を有しており、出発物質が2液型のウレタン系接着剤を使用する点で類似しているから、相違点3-2に係る本件発明1の構成を満たす蓋然性が高い。
したがって、上記相違点3-2は実質的な相違点ではないといえる。
c 申立人2の主張の検討
本件発明1には、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」る構成が特定されているところ、2甲3発明では、「第1接着層」(本件発明1の「第1の接着剤層」に相当する。)の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率の特定がない。また、2甲3において2液型の接着剤がポリウレタン系接着剤であることや、接着剤層の弾性率に関係するパラメータである、接着剤の主剤に含まれる重合体成分の重量平均分子量や、接着剤の主剤と硬化剤とのモル比や、接着剤のエージング条件に関する記載もなく、さらに、接着剤層の弾性率を上記数値範囲とする動機付けも記載されていない。
よって、2甲3発明は、相違点3-2に係る本件発明1の構成を満たす蓋然性が高いとはいえず、相違点3-2は実質的な相違点である。
以上のとおり、申立人2の上記主張は採用できない。
d 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、2甲3発明と同一ではない。
イ 本件発明2~5、12、14~16について
本件発明2~5、12、14~16は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記アと同様の理由により、2甲3発明と同一ではない。
ウ 本件発明17について
(ア) 対比
本件発明17と2甲3発明を対比する。
上記ア(ア)と同様である。
そうすると、本件発明17と2甲3発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点3-2]
「 第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である、
積層体。」
[相違点3-3]
印刷層、バリア性基材に関して、本件発明17は「第1の基材と、印刷層と、第1の接着剤層と、」「を厚さ方向にこの順に備え」、「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されて」いるのに対し、2甲3発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点3-4]
第1の接着剤層に関して、本件発明17は「第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり」、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、28.2MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」るのに対し、2甲3発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点3-5]
本件発明17は「積層体を備える、レトルトパウチまたはボイルパウチである、包装袋」であるのに対し、2甲3発明ではそのような特定がなされていない点。
(イ) 判断
a 事案に鑑み、相違点3-4について検討する。
上記ア(イ)と同様である。
よって、相違点3-4は実質的な相違点である。
b 小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明17は、2甲3発明と同一であるとはいえない。
エ 本件発明18について
(ア) 対比
本件発明18と2甲3発明を対比する。
上記ア(ア)と同様であり、さらに、2甲3発明の「バリアコート」は、本件発明18の「被覆層」及び「バリアコート層」に相当する。
2甲3発明の「基材、密着層、酸化ケイ素からなる透明な蒸着層(シリカ蒸着層)及びバリアコートを有するバリア層」は、本件発明18の「第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、前記バリア性基材が、前記無機酸化物層における前記延伸基材に向かう面とは反対の面上に、被覆層をさらに備え、前記被覆層が、バリアコート層であ」ることに相当する。
そうすると、本件発明18と2甲3発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点3-3]
「 第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記バリア性基材が、前記無機酸化物層における前記延伸基材に向かう面とは反対の面上に、被覆層をさらに備え、
前記被覆層が、バリアコート層であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第1の接着剤層の厚さが、1.0μm以上である、
積層体。」
[相違点3-6]
印刷層、バリア性基材に関して、本件発明18は「第1の基材と、印刷層と、第1の接着剤層と、」「を厚さ方向にこの順に備え」、「前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記被覆層が配置されて」いるのに対し、2甲3発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点3-7]
第1の接着剤層に関して、本件発明1は「第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり」、「第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、35.0MPa以下であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下であ」るのに対し、2甲3発明ではそのような特定がなされていない点。
(イ) 判断
a 事案に鑑み、相違点3-7について検討する。
上記ア(イ)と同様である。
よって、相違点3-7は実質的な相違点である。
b 小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明18は、2甲3発明と同一であるとはいえない。
オ 申立2理由4についてのまとめ
申立2理由4からは請求項1~5、12、14~18に係る特許が特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえないから、申立2理由4によっては、請求項1~5、12、14~18に係る特許を取り消すことはできない。
(5)申立2理由5(サポート要件)
上記第5の1(3)で述べたとおり、本件明細書の記載を総合すると、第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されている積層体において、「弾性率」、「軟化点」及び「厚さ」をそれぞれを所定の数値範囲に特定したことにより、「レトルト処理後のガスバリア性を向上させる」作用を奏することは、当業者が認識できるものである。
そして、請求項1~10、12~18に係る発明は、第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、第1の接着剤層を形成する接着剤が、ポリウレタン系接着剤であり、前記第1の接着剤層を直接挟んで前記印刷層と前記バリア性基材の前記無機酸化物層が配置されていること、「弾性率」、「軟化点」及び「厚さ」をそれぞれを所定の数値範囲とすることが特定されている。
また、請求項1~10、12~18に係る発明において、「無機酸化物層」について、プラズマ化学気相成長法で無機酸化物層を形成したものでない場合や、「第2の接着剤」について第1の接着剤と異なる接着剤を用いて形成され、異なる弾性率を有する場合に「レトルト処理後のガスバリア性を向上させる」作用を奏することができないことを示す証拠は提出されていない。
そうすると、請求項1~10、12~18に係る発明について、特許請求の範囲が、明細書のサポート要件に適合するといえる。
よって、申立2理由5によっては、請求項1~10、12~18に係る特許を取り消すことはできない。
(6)申立2理由6(明確性要件)
本件明細書には、発明が解決しようとする課題として、「本開示者らは、このような積層体を用いて作製された包装袋は、レトルト処理後のガスバリア性が充分ではない場合があることを見出した。」(【0004】)、「本開示の解決課題の一つは、・・・積層体を用いて作製される包装袋の、レトルト処理後のガスバリア性を向上させることにある。」(【0005】)と記載されており、また、【0174】に[弾性率の測定]として「上記例で得られた積層体について、原子間力顕微鏡(AFM)を用いてフォースカーブ測定を行い、得られたフォースカーブより、接着剤層の断面の弾性率を求めた。」と記載されている。
さらに、【0095】には、「(第1の接着剤層)」について、「第1の接着剤層の断面について、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率は、35.0MPa以下であり、・・・弾性率が上限値以下の第1の接着剤層を備える積層体を用いて作製される包装袋は、レトルト処理などの熱処理後においてもガスバリア性(例えば酸素バリア性および水蒸気バリア性、特に酸素バリア性)および外観に優れる傾向にある。」と記載され、【0098】には、「第1の接着剤層の断面について、サーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点は、200℃以上であり、・・・軟化点が下限値以上の第1の接着剤層を備える積層体を用いて作製される包装袋は、耐熱性に優れ、例えばレトルト処理などの熱処理後においてもガスバリア性、外観およびラミネート強度に優れる傾向にある。」と記載されている。
すなわち、本件明細書において、積層体については、一貫して、レトルト処理前のものの接着剤層に関して記載している。
そうすると、「前記第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率」は、「弾性率」がレトルト処理前に測定されたものあることは明らかである。
また、請求項17における、「・・・積層体を備える、レトルトパウチまたはボイルパウチである、包装袋。」については、レトルト処理前の積層体の「第1の接着剤層の断面について」の弾性率が所定の数値範囲である積層体を備える、「レトルトパウチまたはボイルパウチである、包装袋」であることは明らかである。
以上のとおり、請求項1~10、12~18に係る発明について、特許請求の範囲が、明確性要件に適合するといえる。
よって、申立2理由6によっては、請求項1~10、12~18に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおり、請求項1~10、12~18に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~10、12~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正前の請求項11は本件訂正により削除されたため、請求項11についての特許異議の申立ては、不適法なものであり、その補正をすることができないから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700417