特許異議申立
2026-700281
化粧シート
- 審判番号
- 2026-700281
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-161647
- 登録番号
- 7746779
- 請求日
- 2026年04月01日
- 審決日
- 2026年07月30日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】堀田 幸裕
- 【権利者代理人】柳本 陽征
- 【権利者代理人】高田 泰彦
- 【権利者代理人】柏 延之
- 【異議申立人】飯田 進
- 審判長/審判官
- 審判長 一ノ瀬 薫
- 審判官 岩谷 一臣
- 審判官 宮地 匡人
- 分類
- P1651.121-Y (B32B) / P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7746779号発明「化粧シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7746779号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7746779号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、令和3年9月30日を出願日とするものであって、令和7年9月22日にその特許権の設定登録がされ、令和7年10月1日に特許掲載公報が発行された。その後、令和8年4月1日に特許異議申立人飯田進(以下「申立人」という。)により、その請求項1に係る特許に対して本件特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
凹凸面を有する艶消層を備えた化粧シートであって、
前記艶消層は、樹脂層と複数の粒子とを含み、
前記凹凸面は、シワ構造を有し、
前記凹凸面における、JIS Z8741:1997に規定される60°鏡面光沢度は、5以下であり、
前記凹凸面における、JIS B0601:2013に規定される平均長さRSmは、25μm以上35μm以下であり、
前記複数の粒子は、前記樹脂層の厚さの1/2以上の最大寸法を有する粒子を含む、化粧シート。」
第3 申立理由の概要
申立人による特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
また、申立人は、下記4に示した甲第1号証~甲第9号証(それぞれ「甲1」等という。)を証拠として申立書に添付している。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲2に記載された周知技術に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明が、以下の点で当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
本件発明は、化粧シートの艶消層を形成する樹脂組成物にその技術的特徴があるところ、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明には、本件発明に係る化粧シートを実現するための肝心の具体的な樹脂材料が何ら開示されておらず、具体的な樹脂材料を特定できないから、発明の詳細な説明は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許は、本件発明が、以下の点で発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
(1)発明の詳細な説明には、本件発明に係る艶消層を構成する肝心の「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー」、他のオリゴマー、及び「官能基数2-6のアクリレートモノマー」についての具体的な樹脂材料が開示されていないから、発明の詳細な説明は本件発明を実現するための具体的な技術手段を欠いており、請求項において発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえない。
(2)本件発明では、「平均長さRSmは、25μm以上35μm以下であり」と特定しているところ、この数値範囲の裏付けをなす拭き取り性評価AのRSmデータは、【表1】に記載のサンプル1の27.5とサンプル2の32.5のみである一方で、上限値35μmを大きく超えるサンプル5でも拭き取り性評価がAとなっている。サンプル1-2、5は、いずれも、本件発明が前提とする凹凸面がシワ構造を有するものであるから、これら実施例には平均長さRSmの観点からみると矛盾があるといえる。したがって、本件発明で特定しているRSmの上限値が35μmであることの技術的意義が、発明の詳細な説明の記載から明らかとはいえない。
4 証拠
甲1:韓国特許公開第10-2020-0025050号公報
甲2:再公表特許第2017/057673号
甲3:「JIS Z 8741-1997 鏡面光沢度-測定方法」、財団法人日本規格協会、平成13年5月20日、P.1-18
甲4:津谷裕子、外2名、「環境に広がるイソシアネートの有害性」、臨床環境医学、2012年、Vol.21、No.1、P.82-94
甲4の2:日本臨床環境医学会のホームページの抜粋、[online]、日本臨床環境医学会、2022年10月3日、取得先<https://web.archive.org/web/20221003011009/http://jsce-ac.umin.jp/index.html>
甲5:清水兵衛、外4名、「キシリレンジイソシアネートの特性とその塗料用硬化剤への応用」、ネットワークポリマー、2011、Vol.32、No.6、P.310-316
甲5の2:合成樹脂工業協会のホームページの抜粋、[online]、合成樹脂工業協会、2011年10月20日、取得先<https://web.archive.org/web/20111020145234/https://www.jtpia.jp/>
甲6:「ポリオール(PPG)輸送管理指針」、ウレタン原料工業会、2015年9月、P.1-4
甲7:芥子明三、児玉勝久、「ポリオール化合物」、日本ゴム協会誌、1982年、第55巻、第3号、P.143-150
甲7の2:日本ゴム協会のホームページの抜粋、[online]、日本ゴム協会、2006年6月19日、取得先<https://web.archive.org/web/20060619054700/http://srij.or.jp/kyoukaishi/kyoukaishi.html>
甲8:「特許・実用新案審査基準」の抜粋、特許庁、平成27年9月、第II部第1章第1節(P.1-9)、第II部第2章第2節(P.1-5)
甲9:知的財産高等裁判所判決(平成17年(行ケ)第10280号)、平成17年6月30日判決言渡
第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(進歩性)について
(1) 引用文献の記載事項・発明
ア 甲1
(ア) 甲1の記載
甲1には、次の事項が記載されている。()内は、当審訳である(下線は当審において付与した。「・・・」は省略を示す。以下同様。)。
「
[図:0001439243000001.jpg]
・・・
[図:0001439243000002.jpg]
」
(当審訳:
請求項1
発泡層、基材層及びアクリル樹脂組成物の硬化層を有し、硬化層は、表面に一点を中心とし、該中心部から周辺部に延在する放射状の屈曲構造のデンドライト状を含み、
表面粗度(Rz)が平均5μmないし40μmであり、
平均静的水接触角(static water contact angle)が80゜ないし120゜である床材。
・・・
請求項5
表面光沢度グロス(Gloss)60°条件下で5未満である、
請求項1に記載の床材。)
「
[図:0001439243000003.jpg]
」
(当審訳:
【技術分野】
[0001]本発明は耐汚染性およびノンスリップ性に優れた床材及びその製造方法に関し、詳細には疎水性が実現された表面に半径方向の屈曲構造を誘導して耐汚染性及びノンスリップ性に優れた床材およびその製造方法に関するものである。)
「
[図:0001439243000004.jpg]
」
(当審訳:
【発明が解決しようとする課題】
[0009]本発明の目的は、床材の低光沢を実現し、同時に表面に疎水性を導入し、表面粗さを制御することにより耐汚染性を改善する一方、ノンスリップ性が向上された床材を提供することにある。)
「
[図:0001439243000005.jpg]
・・・
[図:0001439243000006.jpg]
・・・
[図:0001439243000007.jpg]
・・・
[図:0001439243000008.jpg]
・・・
[図:0001439243000009.jpg]
・・・
[図:0001439243000010.jpg]
」
(当審訳:
[0108]製造例1~3.アクリル樹脂組成物の製造
[0109]第1アクリル系オリゴマー(3官能オリゴマー、Mw:7,000±10)、第2ウレタンアクリレート(バイオオリゴマー、Mw:1,500±10)、ケイ素含有官能基を有するオリゴマー(Mw:3,000±10)、ラウリルテトラデシルメタクリル酸(M1241)、ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、ポリエチレングリコール200ジメタクリレート(PEG200DA)、フィラーとしてコロイダルシリカ(平均径:5~10μm)及び分散剤を開始剤であるイルガキュア754(Irgacure754)とともに下記表1に示すように混合して、無溶剤タイプのアクリル樹脂組成物を製造した。
・・・
[0112]実施例1~2.
[0113]それぞれサイズが10cm×縦10cmのポリ塩化ビニル(PVC)発泡シート(平均厚み:1T、平均孔径:300~400μm)及び透明ポリ塩化ビニル(PVC)基材を積層し、透明ポリ塩化ビニル(PVC)基材上に上記製造例1及び2で製造されたアクリル樹脂組成物をそれぞれ塗布し、図1に示すような構造の光硬化装置に固定した。その後、下記表3に示すように20±1m/minの移動速度で基材を移動させながら段階的に光照射を行って床材試験片を製造した。このとき、前記硬化層の平均厚さは、15±1μmであった。
・・・
[0122]実験例1
[0123]本発明に係る床材の最も外側の層である硬化層の表面構造を確認するために、実施例1と比較例1、5及び6で製造された床材片を対象として走査型電子顕微鏡(SEM)分析を実施し、その結果は図2~4に示した。
[0125]図2及び3を参照して、本発明に係る実施例1の試片の表面には一定の大きさと頻度で放射状屈曲構造を含むものが示されており、前記放射状屈曲構造は中心部から周辺部に行くほど高さが低くなる構造を有することが分かる。
・・・
[0130]実験例2.
[0131]本発明に係る床材の光沢性、耐汚染性、ノンスリップ性及び低温耐久性を評価するために、実施例1~4と比較例1~3で製造された試片を対象として、表面粗さ、光沢度、ヨウ素汚染による色座標偏差、ノンスリップ性試験及び低温破断強度を測定した。具体的な測定方法は次の通りであり、測定結果は、下記表6に示す。
・・・
[0134]イ)光沢度評価
[0135]実施例及び比較例の試片を対象として、光沢計(Gloss Meter)を用いて60°の光沢度(グロス60°条件)を測定した。
・・・
[0154]
[図:0001439243000011.jpg]
)
「
[図:0001439243000012.jpg]
」
(当審訳:
[図:0001439243000013.jpg]
)
(イ) 認定事項
アクリル樹脂組成物は、[0113]に「上記製造例1及び2で製造されたアクリル樹脂組成物」と記載されているところ、当該「製造例1」、「製造例2」は、[0109]で説明されているものであると認める。そうすると、当該アクリル樹脂組成物には、フィラーとしてコロイダルシリカ(平均径:5~10μm)が含まれているものと理解される。
(ウ) 甲1発明
上記(ア)、(イ)より、甲1には、実施例1として、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
「発泡層、基材層及びアクリル樹脂組成物の硬化層を有し、硬化層は、表面に一点を中心とし、該中心部から周辺部に延在する放射状の屈曲構造のデンドライト状を含む床材であって、(請求項1)
ポリ塩化ビニル(PVC)発泡シート及び透明ポリ塩化ビニル(PVC)基材を積層し、透明ポリ塩化ビニル(PVC)基材上にアクリル樹脂組成物を塗布し、光照射を行って平均厚さ15±1μmの硬化層を形成し、([0113])
60°の光沢度が2±0.01であり、([0135]、[0154]表6)
前記アクリル樹脂組成物は、フィラーとしてコロイダルシリカ(平均径:5~10μm)を含む、([0109]、上記(イ))
床材。」
イ 甲2
(ア) 甲2の記載
甲2には、次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート及び化粧板に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0009】
本発明は、住環境の中で用いるに際し、日常的に用いられる汚染物質の中で、粉状の微粒子のような清掃し難い汚染物質が付着することによる汚れが取れ易く、易掃性に優れており、且つ、耐衝撃性に優れた化粧シートを提供することを目的とする。」
「【0015】
図1は、本発明のシートの一例を示す断面図である。図1に例示する本発明のシート1は、最表面に表面保護層9を有しており、表面保護層9には、凹凸模様としてうねりの形状が賦形されている。また、表面保護層9の表面には、全面にわたって微細な表面凹凸形状10が存在している。本発明の化粧シートは、上記(1)により規定されるRa(i)/Ra(ii)の値、及び上記(2)により規定されるRSm(i)/RSm(ii)の値を特定の範囲とすることにより、表面保護層9の表面の凹凸模様が特定の形状となっており、更に、上記(3)により規定される、カットオフ値(λc)0.08mm、評価長さ0.4mmの条件で測定したRa及びRSmを特定の範囲とすることにより、表面保護層9の表面の微細な表面凹凸形状10が特定の形状となっているので、粉状の微粒子のような清掃し難い汚染物質が付着することによる汚れが取れ易くなり、易掃性に優れた化粧シートとすることができ、且つ、耐衝撃性に優れた化粧シートとすることができる。」
「【0028】
本発明の化粧シートは、(3)表面保護層の表面の、JIS B0601:2001に準拠した測定方法により、カットオフ値(λc)0.08mm、評価長さ0.4mmの条件で測定した粗さ曲線要素の平均長さRSmが22.90μm以上である。カットオフ値(λc)0.08mm、評価長さ0.4mmの条件で測定した粗さ曲線要素の平均長さRSmが22.90μm未満であると、易掃性が低下する。上記RSmは、30.00μm以上が好ましい。また、上記カットオフ値(λc)0.08mm、評価長さ0.4mmの条件で測定した粗さ曲線要素の平均長さRSmの上限値は特に限定されないが、80.00μmが好ましく、50.00μmがより好ましい。上記RSmの上限値を上記値とすることにより、本発明の化粧シートがより一層優れた易掃性を示すことができる。」
「【図1】
[図:0001439243000014.jpg]
」
(イ) 甲2に記載された事項
上記(ア)より甲2には以下の事項(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されている。
「化粧シートにおいて、表面保護層の表面の、JIS B0601:2001に準拠した測定方法で測定した平均長さRSmを30.00μm以上50.00μm以下とすることで、易掃性に優れたものが得られること。」
(2) 本件発明について
ア 対比
本件発明と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲1発明の「床材」は、本件発明の「化粧シート」に相当する。
・甲1発明において、「硬化層は、表面に一点を中心とし、該中心部から周辺部に延在する放射状の屈曲構造のデンドライト状を含む床材」であるから、当該「硬化層」の表面は、その形状からみて、シワ構造を有する凹凸形状になっているものと理解される。そうすると、甲1発明の「硬化層」は、本件発明の「凹凸面を有する艶消層」に相当するとともに、当該「硬化層」の表面は、本件発明の「前記凹凸面は、シワ構造を有し」という事項を充足する。
・甲1発明の「硬化層」は「アクリル樹脂組成物」で形成され、また、「アクリル樹脂組成物は、フィラーとしてコロイダルシリカ(平均径:5~10μm)を含む」ものであるから、当該事項は、本件発明の「前記艶消層は、樹脂層と複数の粒子とを含」むという事項に相当する。
そうすると、本件発明と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「凹凸面を有する艶消層を備えた化粧シートであって、
前記艶消層は、樹脂層と複数の粒子とを含み、
前記凹凸面は、シワ構造を有する、
化粧シート。」
<相違点1>
本件発明では、「前記凹凸面における、JIS Z8741:1997に規定される60°鏡面光沢度は、5以下であ」るのに対して、甲1発明では、「60°の光沢度が2±0.01であ」るものの、これがJIS Z8741:1997によるものであるか不明である点。
[相違点2]
本件発明では、「前記凹凸面における、JIS B0601:2013に規定される平均長さRSmは、25μm以上35μm以下であ」るのに対して、甲1発明では、そのような特定を有さない点。
[相違点3]
本件発明では、「前記複数の粒子は、前記樹脂層の厚さの1/2以上の最大寸法を有する粒子を含む」のに対して、甲1発明では、硬化層の平均厚さが「15±1μm」であり、「フィラーとしてコロイダルシリカ(平均径:5~10μm)を含む」ので、本件の数値範囲を必ずしも満たしているとはいえない点。
イ 判断
(ア) 相違点1~3について
相違点1~3は、関連しているため、まとめて判断するに、本件発明では、当該相違点1~3に係る事項を同時に満たすことで、艶消層において粘度の高い汚染物質に対する表面の拭き取り性を向上させることを目的としたものである(本件特許明細書【0002】、【0006】)。一方、甲2には、上記(1)イ(イ)に甲2記載事項として示した事項が記載されているところ、その「RSm」の数値は、一部が当該相違点2に係る発明特定事項と重なってはいるものの、大部分は外れた数値である。してみれば、仮に甲1発明に甲2記載事項を採用したとしても、当該相違点1~3に係る本件発明の発明特定事項を直ちに得ることはできない。
加えて、甲1の[0009]には、甲1発明の目的として、「床材の低光沢を実現し、同時に表面に疎水性を導入し、表面粗さを制御することにより耐汚染性を改善する一方、ノンスリップ性が向上された床材を提供すること」が記載されているものの、易掃性を改善することや平均長さRSmを制御することは記載も示唆もないから、甲1発明において、甲2記載事項を採用する動機づけは見出せず、まして甲2記載事項を採用した上で各種条件を調整し、相違点1~3に係る本件発明の発明特定事項を得ようという動機付けは見出せない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(イ) 申立人の主張について
a 申立人は、相違点2に関して、上記甲2記載事項は周知技術1であり、甲1発明と当該周知技術1とは、技術分野、課題、及び凹凸構造の形成方法のいずれもが同一であるから、甲1発明に、周知技術1を適用することにより、甲1発明の表面形状に係るRSmを、本件発明で特定するRSmの値の範囲と大幅に重複する30μm以上50μm以下とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである旨主張する。
しかし、上記(ア)で検討したとおり、甲1発明において、甲2記載事項を採用する動機付けは見出せないし、そもそも採用しても相違点1~3を同時に満たすものを得ることはできない。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。
b また、申立人は、相違点2のRSmの数値範囲の上限に関して、本件特許明細書に記載の【表1】によれば、本件発明が前提とする凹凸面がシワ構造を有するサンプル1-2、5に注目すると、本件発明で規定するRSmの上限35μmを越える42.6μmのサンプル5であっても、拭き取り性でサンプル1-2と同等のA評価となっているため、本件発明のように、RSmの上限を35μmとしたことに何らの臨界的意義はなく、RSmの上限値をどのように設定するかは設計的事項である旨主張する。
しかし、本件発明は、鏡面光沢度、RSm、粒子径を同時に特定することで所与の効果を得たものであって、ことさらRSmの数値のみで臨界的意義がないとする主張は、本件発明を正解していない。
したがって、上記主張は採用することができない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明は、甲1発明及び甲2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 申立理由2(実施可能要件)について
(1) 判断規範
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすか否かは、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) 当審の判断
化粧シートの艶消層を形成する樹脂組成物に関して、本件特許明細書の【0037】、【0038】には、本件発明の「樹脂層」は樹脂組成物を含み、電離放射線硬化樹脂を含んでもよく、電離放射線硬化樹脂は、従来電離放射線硬化樹脂として慣用されている重合性モノマー、重合性オリゴマーの中から適宜選択して用いてもよいことが記載されている。
そして、同【0067】、【0068】には、多官能オリゴマー(平均官能基数:3)及び2官能モノマーを含む樹脂組成物を用いた硬化層の具体的な製造方法が記載されているところ、これにより得たサンプル1、2が、【0077】【表1】に記載されるように、拭き取り性が良好であることを確認している。
そうすると、発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施することができる程度の記載がある。
(3) 申立人の主張について
申立人は上記第3の2のとおり主張する。しかしながら、上記(2)で示したとおり、発明の詳細な説明には、従来電離放射線硬化樹脂として慣用されている重合性モノマー、重合性オリゴマーの中から選択された樹脂組成物を用いて、本件発明を実施可能なことが記載されており、当該記載及び技術常識を参酌することにより当業者は本件発明を実施することができるといえる。
また、申立人は、上記主張の理由として、本件特許明細書の【0037】~【0044】に記載された事項から、重合性オリゴマー、重合性モノマーは、ともに膨大な数の種類があることが知られており、さらにそれらの組み合わせも無数であるから、樹脂層を構成する樹脂組成物を特定するにあたり、当業者が過度の試行錯誤を要する旨主張しているが、【0038】には慣用されているものを適宜選択すればよいことが記載されており、例示の中から特定の重合性モノマー、重合性オリゴマー及びその組み合わせについてのみ、本件発明を実施することができることを示したものとは理解されない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(4) 小括
以上より、実施可能要件に係る申立理由2には理由がない。
3 申立理由3(サポート要件)について
(1) 判断規範
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この観点に立って検討する。
(2) 当審の判断
本件特許明細書の【0005】及び【0006】の記載から、本件発明が解決しようとする課題は、表面にシワ状の凹凸面を有する化粧シートにおいて、粘度の高い汚染物質に対する表面の拭き取り性を向上させることであると認められる。
そして、【0031】~【0035】、【0046】、【0050】の記載から、凹凸面における、JIS Z8741:1997に規定される60°鏡面光沢度を5以下とし、凹凸面における、JIS B0601:2013に規定される平均長さRSmを25μm以上35μm以下とし、また、樹脂層に層厚の1/2以上の最大寸法を有する粒子を含有させることで、本件発明が解決しようとする課題を解決できることが理解できる。
この点、【0065】~【0080】には、本件発明の発明特定事項を具備するサンプル1、2では、クレヨン及び靴墨の拭き取り性評価がAであり、そうでないサンプル3、4では、当該評価がB又はCであることが記載されていることからみても、上記理解と整合する。
そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、課題を解決するための手段を有していることから、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(3) 申立人の主張について
申立人は、上記第3の3(1)及び(2)のとおり主張(以下、それぞれの主張を「主張(1)」、「主張(2)」という。)するので、以下検討する。
ア 主張(1)について
本件発明の課題を解決するための手段は、上記(2)で示したとおりのものであり、申立人が主張する樹脂層を形成する樹脂材料を特定することでない。
したがって、申立人の上記主張(1)は採用できない。
イ 主張(2)について
本件発明は、鏡面光沢度、RSm、粒子径を同時に特定することで所与の効果を得たものであって、ことさらRSmの数値のみで臨界的意義がないとする主張は、本件発明を正解していない。
したがって、申立人の上記主張(2)は採用できない。
(4) 小括
以上より、サポート要件に係る申立理由3には理由がない。
第5 むすび
以上のとおり、請求項1に係る特許は、特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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