特許異議申立
2026-700223
加飾シート
- 審判番号
- 2026-700223
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-125221
- 登録番号
- 7753712
- 請求日
- 2026年03月16日
- 審決日
- 2026年06月30日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】芝 哲央
- 【権利者代理人】林 一好
- 【異議申立人】上田 精一
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 宮地 匡人
- 審判官 長谷川 一郎
- 分類
- P1651.113-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B) / P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7753712号発明「加飾シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7753712号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7753712号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和3年7月30日(優先権主張 令和2年7月31日)の出願であって、令和7年10月6日にその特許権の設定登録がされ、令和7年10月15日に特許掲載公報が発行された。その後、令和8年3月16日に特許異議申立人上田精一(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1」等という。まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
透明樹脂層と、印刷層と、基材層と、粘着層と、がこの順に積層された加飾シートであって、
前記加飾シートの25℃での降伏点荷重が、25N/10mm以上45N/10mm以下であり、
前記基材層は、厚さが80μm以上180μm以下であり、
前記基材層は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリエステル系可塑剤を31質量部以上45質量部以下含有する加飾シート。
【請求項2】
請求項1に記載の加飾シートであって、
前記透明樹脂層の25℃での降伏点荷重が、10N/10mm以上20N/10mm以下である加飾シート。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の加飾シートであって、
前記透明樹脂層の降伏点荷重は、前記基材層の降伏点荷重と同じか、それよりも低く、
前記基材層の25℃での降伏点荷重が、10N/10mm以上40N/10mm以下である加飾シート。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の加飾シートであって、
前記透明樹脂層は、厚さが30μm以上100μm以下であり、
前記透明樹脂層は、アクリル系樹脂を含む加飾シート。
【請求項5】
請求項4に記載の加飾シートであって、
前記透明樹脂層は、前記基材層側のアクリル系樹脂層と、前記基材層と反対側のフッ素樹脂含有層とを有する加飾シート。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載の加飾シートにおいて、
前記粘着層は、厚さが20μm以上80μm以下であり、
前記粘着層は、アクリル系樹脂を含む、
加飾シート。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかに記載の加飾シートにおいて、
前記粘着層は、前記基材層と反対側の面に溝部を備える加飾シート。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれかに記載の加飾シートにおいて、
自動車の車体用である加飾シート。」
第3 申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に以下に記載の甲第1号証~甲第21号証(申立人が提出した甲第○号証は以下「甲○」という。)を提出して、大要、次の申立理由を主張している。
1 申立理由1(新規性)
本件発明1は、甲1に記載された発明であるから、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当するものである。
2 申立理由2(進歩性)
本件発明1~8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の甲1~甲21に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件明細書の実施例1~4及び比較例1~3の全てにおいて、加飾シートの基材層として専ら「厚さ150μm」の塩化ビニル系樹脂を用いたことが記載されている(【0040】参照)。
つまり、本件明細書の実施例1~4及び比較例1~3において用いられた基材層の厚さは、本件発明1の「前記基材層は、厚さが80μm以上180μm以下であり」の厚さ範囲の中の一点のみである。
透明樹脂層の厚みの変化により、加飾シートの降伏点荷重が大きく変動するのであれば、加飾シートの降伏点荷重が大きく影響を受けるとされている基材層の厚みの変化によって、加飾シートの降伏点荷重は更に大きく変動し得ることが当業者にとって合理的に予想される。
そうすると、「厚さが80μm以上180μm以下」の下限80μmから上限180μmに至るまでのいずれの厚さの基材層を用いたときでも、本件発明1の「前記基材層は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリエステル系可塑剤を31質量部以上45質量部以下含有する」の上限から下限に至るまでのいずれかの可塑剤含有量の規定を満たしつつ、本件発明1の「前記加飾シートの25℃での降伏点荷重が、25N/10mm以上45N/10mm以下であ」る範囲の加飾シートが得られるとは考えられない。
本件発明1に係る加飾シートの中には、実施例を含む本件明細書の全体を参照しても、また出願時の技術常識を考慮してもなお、当業者が製造し、使用することができると理解し得ない部分が明らかに内包されている。
4 申立理由4(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件明細書の実施例1~4及び比較例1~3にて用いられた加飾シートは「厚さ150μm」の基材層のみである。そうすると、「厚さが80μm以上180μm以下」の下限80μmから上限180μmに至るまでのいずれの厚さの基材層を用いたときでも、「前記基材層は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリエステル系可塑剤を31質量部以上45質量部以下含有する」の上限から下限に至るまでのいずれかの可塑剤含有量の規定を満たしつつ、「加飾シートの25℃での降伏点荷重が、25N/10mm以上45N/10mm以下であり」の範囲内の降伏点荷重を有する加飾シートが得られ、「施工性に優れた加飾シートを提供すること」という本件発明が解決しようとする課題が解決され得るとは考えられない。
5 証拠方法一覧
甲1:特開2018-171920号公報
甲2:「アクリル樹脂フィルム アクリプレン(当審注:登録商標)/製品情報」、[online]、三菱ケミカル株式会社、[取得日2026年2月5日]、取得先<https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/industrial-medical/product/1200466_7256.html>
甲3:特開平1-283138号公報
甲4:特開2008-110532号公報
甲5:特開2017-154359号公報
甲6:特開2017-205962号公報
甲7、甲20:特開2019-155840号公報
甲8:特開2016-088956号公報
甲9:特開2015-116705号公報
甲10:特開2015-066791号公報
甲11:「アクリル樹脂フィルム アクリプレン(当審注:登録商標)/製品情報」、[online]、2017年9月13日、三菱ケミカル株式会社、[取得日2025年2月5日]、取得先<https://web.archive.org/web/20170913195434/https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/acryplen/product/1200466_7262.html>
甲12:特開2018-130926号公報
甲13:特開2018-069672号公報
甲14:特開2016-168786号公報
甲15:特表平9-504325号公報
甲16:特開平11-209704号公報
甲17:特表2002-544364号公報
甲18:特開2015-037836号公報
甲19:特開2017-177728号公報
甲21:「アクリル溶剤系樹脂溶液:ニッセツ」、[online]、日本カーバイド工業株式会社、[取得日2026年3月7日]、取得先<https://www.carbide.co.jp/cms/wp-content/uploads/2023/12/202311-%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%BB%E3%83%84-%E8%80%90%E5%8F%AF%E5%A1%91%E5%89%A4%E6%80%A7%E8%A3%BD%E5%93%81%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%80%80%E6%A9%9F%E8%83%BD%E6%A8%B9%E8%84%82%E9%83%A8-HP%E6%8E%B2%E8%BC%89%E8%B3%87%E6%96%99.pdf>
第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について
(1) 甲1に記載された事項・発明
ア 甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与し、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。
「【請求項1】
樹脂基材シートを有する化粧シートであって、該樹脂基材シートの表面に凹凸を有し、裏面が粗面であり、かつ該樹脂基材シートのJIS Z0208:1976カップ法に準拠して測定した透湿度が20g/m2・24時間以上である熱接着加工用化粧シート。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、熱接着加工用として有用な化粧シート及び該化粧シートを用いた化粧材に関する。」
「【0026】
本発明の化粧シート10は、樹脂基材シート11の表面側にさらにオーバーコート層13を有することが好ましい。オーバーコート層は、樹脂基材シートを保護するとともに、後述する絵柄層12を保護する役割を果たすものである。
本発明の化粧シートに用いられるオーバーコート層としては、樹脂基材シート及び絵柄層を保護し得るものであれば、特に限定されないが、意匠性の観点から透明性の高いものが好ましく、例えばアクリルフィルム、ポリカーボネートフィルム、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニル系樹脂フィルムなどが挙げられる。これらの中でも、保護機能が高く、耐候性、耐久性及び透明性が高く、かつ樹脂基材シートや絵柄層との接着性が高いことから、特にアクリルフィルムが好ましい。
アクリルフィルムを構成するアクリル樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸ブチル-メタクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。」
「【0036】
実施例1
塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、可塑剤としてポリエステル系可塑剤を45質量部加えた樹脂組成物を押出し成形し、樹脂基材シートを得た(厚み;120μm)。当該樹脂基材シートの透湿度を上記方法により測定した。結果を第1表に示す。
次いで、この基材シートの表面に木目柄の絵柄層を印刷し、その上にアクリルフィルム(厚み;50μm)を熱ラミネートするとともに、エンボス加工を行った。当該化粧シートの透湿度を上記方法により測定した。また、当該化粧シートの裏面の算術平均高さ(Sa)を上記方法により測定した。結果を第1表に示す。
次いで、当該化粧シートの裏面に溶剤系接着剤を塗布し、接着剤層を形成した(厚み;50μm)。該接着剤層上に、被着基材として、硬質の塩化ビニル系樹脂板を接着し、化粧材を得た。該化粧材を十分に養生した後、恒温槽にて110℃で30分間加熱した。その後、恒温槽から取り出し、室温(23℃)まで冷却した後、上記方法により外観を観察した。」
イ 甲1に記載された発明
以上より、特に【0026】、実施例1に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、可塑剤としてポリエステル系可塑剤を45質量部加えた樹脂組成物を押出し成形し、樹脂基材シートを得て(厚み;120μm)、
次いで、この基材シートの表面に木目柄の絵柄層を印刷し、その上に透明性の高いアクリルフィルム(厚み;50μm)を熱ラミネートするとともに、エンボス加工を行って、化粧シートを得て、
次いで、当該化粧シートの裏面に溶剤系接着剤を塗布し、接着剤層を形成(厚み;50μm)して得た、
接着剤層が形成された化粧シート。」
(2) 甲2に記載された事項
甲2には、次の記載がある。
「
[図:0001438312000001.jpg]
」
「
[図:0001438312000002.jpg]
」
「
[図:0001438312000003.jpg]
」
(3) 甲3に記載された事項
甲3には、次の記載がある。
「・・・金属蒸着層側に、耐候性のすぐれた保護フィルムとして厚さ50μの透明なアクリル樹脂「アクリプレンHBS006」(三菱レイヨン(株)製)のフィルムを、ポリエステルフィルム側に、柔軟なフィルムとして厚さ100μの半硬質ポリ塩化ビニル(可塑剤:23PHR、重合度:1500)のフィルムを、それぞれ接着剤「タケラックA515/タケネートA50」(武田薬品工業(株)製)を用いてドライラミネートした。・・・
上記のようにして得たサッシ外装用メタリック化粧シートは、ステンレス調の色で、ヘアライン模様を有するものであった。」(第3ページ左上欄第20行~同右上欄第16行)
(4) 甲4に記載された事項
甲4には、次の記載がある。
「【実施例1】
【0031】
ASA樹脂フィルム2として、厚さ100μmの着色ASA樹脂フィルム(テクノポリマー(株)製:「NFW100」)を用い、これにヒートシール剤層と絵柄層のバインダーとしてアクリル系/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体混合(6:4)を用い、印刷によりヒートシール剤層3とインキによる絵柄層4と施した。この上に、透明アクリル系樹脂シート5として厚さ50μmの透明アクリルフィルム(三菱レイヨン(株)製:「アクリプレンHBS006」)を用い、これらを熱ラミネート法により積層して本発明の化粧シートを作製した。」
(5) 甲5に記載された事項
甲5には、次の記載がある。
「【0190】
さらに、得られたシート材の第2の面側に、アクリル系樹脂フィルム(アクリプレンHBS006(三菱レーヨン社製))を積層させ、を140℃、2MPaで40分間加熱加圧成形して化粧板(メラミン化粧板)を得た。」
(6) 甲6に記載された事項
甲6には、次の記載がある。
「【0072】
(実施例2)
実施例2では、表面フィルム層として、アクリル系樹脂を含有するフィルムを用いた点以外は、実施例1と同様にして実施例2の漆黒調加飾フィルムを作製した。表面フィルム層は、アクリル系樹脂を含有するフィルムとして、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)フィルム(三菱レイヨン株式会社製、アクリプレンHBS006)を用いた。上記PMMAフィルムの全光線透過率は93%、厚さは50μmであった。上記PMMAフィルムをベースフィルム層上に、熱ラミネートにより積層し、表面フィルム層を形成した。これにより、実施例2の漆黒調加飾フィルムを得た。実施例2の漆黒調加飾フィルムの構成を下記表1に示す。」
(7) 甲11に記載された事項
甲11には、次の記載がある。
「
[図:0001438312000004.jpg]
」
「
[図:0001438312000005.jpg]
」
「
[図:0001438312000006.jpg]
」
(8) 技術常識
上記(2)、(7)より、アクリプレンの「HBS006H」と「HBS006」の「引張降伏応力」が同一の値であることが示されていることから、「アクリプレンHBS006H」は、「アクリプレンHBS006」と同一系統のものまたは部分改良品であると推測され、上記(6)より、「アクリプレンHBS006」が「ポリメタクリル酸メチル(PMMA)フィルム(三菱レイヨン株式会社製、アクリプレンHBS006)」であることを総合すると、以下の事項は本件特許の優先日前における技術常識(以下「技術常識1」という。)であると認める。
「「アクリプレンHBS006H」及び「アクリプレンHBS006」は、いずれもポリメタクリル酸メチル(PMMA)により形成されたフィルム製品であること。」
(9) 周知技術
上記(3)~(6)より、以下の事項は本件特許の優先日前における周知技術(以下「周知技術1」という。)であると認める。
「化粧シート、化粧板や加飾フィルムを構成する透明樹脂フィルムとして、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)により形成されたフィルム製品「アクリプレンHBS006」を用いること。」
(10) 本件発明1について
ア 甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲1発明における「透明性の高いアクリルフィルム」は、本件発明1の「透明樹脂層」に相当する。
甲1発明における「絵柄層」は、「基材シートの表面に」「印刷」したものであるから、本件発明1の「印刷層」に相当する。
甲1発明における「樹脂基材シート」は、本件発明1の「基材層」に相当する。
甲1発明における「化粧シートの裏面に」形成された「接着剤層」は、化粧シートを接着させるものであり、本件発明1の「粘着層」と、「接着層」の限りにおいて一致する。
甲1発明における「樹脂基材シートを得て(厚み;120μm)、次いで、この基材シートの表面に木目柄の絵柄層を印刷し、その上に透明性の高いアクリルフィルム(厚み;50μm)を熱ラミネートするとともに、エンボス加工を行って、化粧シートを得て、次いで、当該化粧シートの裏面に溶剤系接着剤を塗布し、接着剤層を形成」した構成は、「透明性の高いアクリルフィルム」、「絵柄層」、「樹脂基材シート」、「接着剤層」がこの順に積層されているから、本件発明1の「透明樹脂層と、印刷層と、基材層と、粘着層と、がこの順に積層された」構成と、「透明樹脂層と、印刷層と、基材層と、接着層と、がこの順に積層された」構成の限りにおいて一致する。
甲1発明における「接着剤層が形成された化粧シート」は、本件発明1の「加飾シート」と、「シート」の限りにおいて一致する。
甲1発明における「樹脂基材シートを得て(厚み;120μm)」は、樹脂基材シートの厚みが120μmであり、厚さが80μm以上180μm以下の範囲内であるから、本件発明1の「前記基材層は、厚さが80μm以上180μm以下であり」に相当する。
甲1発明における「塩化ビニル系樹脂」、「ポリエステル系可塑剤」は、それぞれ本件発明1の「塩化ビニル系樹脂」、「ポリエステル系可塑剤」に相当する。
甲1発明における「塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、可塑剤としてポリエステル系可塑剤を45質量部加えた樹脂組成物を押出し成形し、樹脂基材シートを得て」は、樹脂基材シートについて、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリエステル系可塑剤を45質量部加えたものであり、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリエステル系可塑剤を31質量部以上45質量部以下含有するといえるから、本件発明1の「前記基材層は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリエステル系可塑剤を31質量部以上45質量部以下含有する」に相当する。
そうすると、本件発明1と、甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「透明樹脂層と、印刷層と、基材層と、接着層と、がこの順に積層されたシートであって、
前記基材層は、厚さが80μm以上180μm以下であり、
前記基材層は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリエステル系可塑剤を31質量部以上45質量部以下含有するシート。」
[相違点1]
接着層に関し、本件発明1は「粘着層」であり、また、「透明樹脂層と、印刷層と、基材層と、粘着層と、がこの順に積層された加飾シート」であるのに対し、甲1発明の接着層は粘着層といえるか不明な点。
[相違点2]
本件発明1は「前記加飾シートの25℃での降伏点荷重が、25N/10mm以上45N/10mm以下であ」るのに対し、甲1発明はそのようなものであるか不明な点。
イ 判断
事案に鑑み相違点2について検討する。
相違点2で整理したとおり、甲1発明には、「接着剤層が形成された化粧シート」の「25℃での降伏点荷重」については規定していない。そこで、甲1発明の「接着剤層が形成された化粧シート」の「25℃での降伏点荷重」が、本件発明1の「加飾シート」の「25℃での降伏点荷重」の数値範囲内のものである蓋然性が高いか否かについて、以下検討する。
積層シートの降伏点荷重については、その積層シートを構成する各層の「25℃での降伏点荷重」を含む諸性質、各層の積層方法及び、積層シートに対していかなる加工を行ったかが影響することは技術常識といえる。そしてこのことは本件明細書の【0018】の記載と矛盾しない。ここで、甲1発明においては、「塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、可塑剤としてポリエステル系可塑剤を45質量部加えた樹脂組成物を押出し成形し」た「樹脂基材シート」が用いられており、本件発明1で規定される基材層であるものの、本件発明1の「加飾シートの25℃での降伏点荷重」の数値範囲となる本件明細書の【0040】~【0045】に記載された実施例1~4と比較するに、「基材層」に積層する透明樹脂層30及び粘着層40(甲1発明では「アクリルフィルム」及び「接着剤層」に相当)の厚さや構成に違いがあり、さらに、甲1発明のみエンボス加工を施しているなど、両者は同一のものとは認められず、甲1発明の「接着剤層が形成された化粧シート」の「25℃での降伏点荷重」は、本件発明1の「加飾シートの25℃での降伏点荷重」の数値範囲となっている蓋然性が高いとはいえない。
よって、相違点2は実質的な相違点である。
また、甲1発明は、「化粧シートの通気性を高め、かつ化粧シートの裏面の粗さを低くすることで」(甲1の【0005】)、「加熱を伴う後加工においても膨れを発生させることのない化粧シートを提供する」(甲1の【0004】)ものであるから、「接着剤層が形成された化粧シート」の「25℃での降伏点荷重」について調整する動機付けは存在せず、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。
さらに、示された他の証拠を参照しても同様である。
以上のとおり、技術常識1及び周知技術1に接した当業者が甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、容易に想到し得たことではない。
ウ 申立人の主張について
(ア) 申立人は特許異議申立書において以下のとおり主張する。
a 新規性に関する相違点2について(第22ページ~第23ページ)
甲1発明に係る化粧材について、本件発明1に関して本件特許明細書に示される「降伏点荷重」についての諸要因に照らし検討すると、この本件発明1において当該諸要因において示される各条件を満たす甲1発明の化粧材の25℃での降伏点荷重は、本件発明1と同様に25N/10mm以上45N/10mm以下の範囲内に調整できる蓋然性が極めて高い。そして、この高い蓋然性は、本件特許の審査にて特許権者が提出した令和7年6月4日付け意見書の上記主張によっても合理的に裏付けられる。
このように、甲1発明の化粧材は、本件発明1の「前記加飾シートの25℃での降伏点荷重が、25N/10mm以上45N/10mm以下であり」なる事項を満たすものであると言えるから、甲1発明の化粧材と本件発明1の加飾シートとは、この点において相違しない。
b 進歩性に関する相違点2について(第23ページ~第26ページ)
甲1発明の認定の基礎とされた甲1の実施例3においては、本件発明1の透明樹脂層に相当するオーバーコート層として、「アクリルフィルム(厚み;50μm)」が用いられたことが記載されている(段落【0036】及び【0038】参照)。
甲1の実施例3に、オーバーコート層のアクリルフィルムを構成する樹脂の詳細は示されていないが、甲1の段落【0026】には、「本発明の化粧シートに用いられるオーバーコート層としては、・・・例えばアクリルフィルムなどが挙げられる。これらの中でも、・・・特にアクリルフィルムが好ましい。アクリルフィルムを構成するアクリル樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチルーメタクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸ブチルーメタクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。」と記載されている。
一方、本件明細書の実施例4では、透明樹脂層として「アクリル樹脂層53μmの透明樹脂層30(三菱ケミカル株式会社製アクリプレンHBS006H)」が用いられたこと、及び、その加飾シートの降伏点荷重が本件発明1の規定範囲内である31N/10mmであったことが記載されている。
以上から、甲1発明の化粧材において、甲1の段落【0026】の記載及び甲3~甲6の記載から把握される周知技術を参照して、アクリルフィルムであるオーバーコート層として、本件明細書の実施例4で用いられた「アクリプレンHBS006H」と同様に周知のフィルム製品である「アクリプレンHBS006」などのポリメタクリル酸メチルから形成されたオーバーコート層を採用することは、当業者にとって容易になし得る事項である。
本件明細書には、本件発明1に関する限り透明樹脂層の降伏点荷重が加飾シートの降伏点荷重にいかなる影響を及ぼすのか具体的な説明が示されていないが、たとえ加飾シートの降伏点荷重が透明樹脂層の降伏点荷重の影響を多少は受けるとしても、上述のとおり、甲1発明の化粧材においてアクリルフィルムであるオーバーコート層として「アクリプレンHBS006」などのポリメタクリル酸メチルから形成されたオーバーコート層を採用することは当業者にとって容易であり、そのようにして得られた甲1発明の化粧材は、本件明細書に記載された「アクリプレンHBS006H」を用いた実施例4の加飾シートと同様に、本件発明1の発明特定事項である「前記加飾シートの25℃での降伏点荷重が、25N/10mm以上45N/10mm以下であり」を満たす蓋然性がやはり極めて高い。
(イ) 上記各主張について検討する。
a 上記主張aについて
上記主張aについては、上記イで説示したとおりであり、甲1発明において、「前記加飾シートの25℃での降伏点荷重が、25N/10mm以上45N/10mm以下であ」ることは特定されていない。また、上記イにも示したとおり、甲1発明の「接着剤層が形成された化粧シート」は、本件発明1の「加飾シートの25℃での降伏点荷重」の数値範囲である実施例1~4と同一のものとは認められず、「25℃での降伏点荷重」は、本件発明1の「加飾シートの25℃での降伏点荷重」の数値範囲である蓋然性が高いとは把握することはできない。
b 上記主張bについて
上記主張bについて、甲1の実施例3は、「可塑剤の含有量を、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、35質量部としたこと以外は実施例2と同様にして、樹脂基材シート及び化粧材を得た。」(【0038】)、実施例2は「可塑剤として、フタル酸系可塑剤(フタル酸ウンデシル、(DUP))を用い、該可塑剤の含有量を、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、38質量部加えたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂基材シート及び化粧材を得た。」(【0037】)と記載され、実施例1は上記1(1)アの【0036】のとおりであるから、結局、甲1の実施例3の樹脂基材シートは、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、可塑剤としてフタル酸系可塑剤(フタル酸ウンデシル、(DUP))を35質量部加えた樹脂組成物を押出し成形し、樹脂基材シートを得た(厚み;120μm)ものである。
そうすると、実施例3の樹脂基材シートは、可塑剤としてポリエステル系可塑剤ではなく、フタル酸系可塑剤(フタル酸ウンデシル、(DUP))を加えているから、本件発明1の「前記基材層は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリエステル系可塑剤を31質量部以上45質量部以下含有する」点を充足するとはいえない。
また、甲1発明のアクリルフィルムについて、「アクリプレンHBS006」、「アクリプレンHBS006H」などを採用したとしても、甲1発明の「接着剤層が形成された化粧シート」(本件発明1の「加飾シート」に相当する。)が、本件明細書に記載された実施例とは、同一のものとは認められず、甲1発明の「接着剤層が形成された化粧シート」について、「25℃での降伏点荷重が、25N/10mm以上45N/10mm以下であ」るとはいえず、また、その蓋然性も高いとはいえない。
c まとめ
よって、申立人の上記主張a、bは採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明、技術常識1及び周知技術1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(11) 本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(10)イで検討したものと同じ理由により、甲1発明、技術常識1及び周知技術1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(12) 新規性、進歩性についてのまとめ
したがって、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、本件発明1~8は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 申立理由3(実施可能要件)
(1) 判断規範
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすか否かは、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この点について検討する。
(2) 過度の試行錯誤を要することなく実施できるか否か
本件発明1は、本件の請求項1に記載されるとおり、「 透明樹脂層と、印刷層と、基材層と、粘着層と、がこの順に積層された加飾シートであって、
前記加飾シートの25℃での降伏点荷重が、25N/10mm以上45N/10mm以下であり、
前記基材層は、厚さが80μm以上180μm以下であり、
前記基材層は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、ポリエステル系可塑剤を31質量部以上45質量部以下含有する加飾シート。」である。ここで、「加飾シートの25℃での降伏点荷重」については【0018】に「加飾シート2の降伏点荷重は、基材層10以外の層の降伏点荷重の影響も受けるが、基材層10の降伏点荷重の影響を大きく受けるため、例えば、基材層10において、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して添加される可塑剤の質量部(可塑剤量)を最適化したり、樹脂の種類を変更したり、樹脂の密度や分子量を最適化したりすることによって調整可能である。」と記載され、「基材層」については【0018】~【0025】にその選択方法について記載されているものである。そして、【0040】~【0055】の実施例においては、本件の請求項1で規定される「加飾シート」である実施例1~4が記載されているものであるから、本件明細書には、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施することができる程度の記載があるといえる。
本件発明1を引用する、本件発明2~8も同様である。
(3) 申立人の主張について
申立人は上記第3の3のとおり主張する。しかしながら、本件明細書において、加飾シートの降伏点荷重について、「例えば、基材層10において、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して添加される可塑剤の質量部(可塑剤量)を最適化したり、樹脂の種類を変更したり、樹脂の密度や分子量を最適化したりすることによって調整可能である。」(【0018】)と記載されているとともに、本件明細書の【0040】~【0055】には、本件発明1の実施例が示されているものであり、当該記載及び技術常識を参酌することにより当業者は本件発明を実施することができるといえる。ここで、発明の詳細な説明において、本件発明1で規定する数値範囲の全範囲に対する具体的な実施例の記載が求められるものではないことは、明らかである。
よって、申立人の当該主張は採用できない。
(4) 実施可能要件についての小括
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
3 申立理由4(サポート要件)
(1) 判断規範
特許請求の範囲の記載が、本件明細書のサポート要件を満たすか否かは、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この点について検討する。
(2) 本件発明の課題
本件明細書の【0005】によれば、本件発明が解決すべき課題は、「施工性に優れた加飾シートを提供すること」であると把握される。「施工性に優れた」の意味は、【0004】の記載から、「施工の際に加飾シート自体の縦横寸法が変化してしまうため、柄に歪みが生じたり、施工現場で加飾シートをカットしたりする必要が生じる」ことがないように、また「車体への追従性が低下してしまい、車体に貼り合せた加飾シートにシワ、浮き上がり、気泡等(以下、「シワ等」ともいう)の外観異常が発生する」ことがないように、変形のしやすさが適切に調整されていることを指すと理解される。
(3) 発明の詳細な説明の記載により発明の課題を解決できると認識できるか否か
本件明細書の【0018】には「本実施形態の加飾シート2は、室温25℃で引張試験を実施した際の降伏点荷重が25N/10mm以上45N/10mm以下に設定される。25N/10mm以上であるので、施工の際に加飾シートが変形しすぎないために柄の歪みが発生しにくい。また、45N/10mm以下であるので、車体への追従性が良好であり、車体に貼り合わせた際にシワが発生しにくい。」と記載されていることから、本件発明1の上記解決課題は、加飾シートが「前記加飾シートの25℃での降伏点荷重が、25N/10mm以上45N/10mm以下であり」という発明特定事項を満たすことによって解決され得ると理解される。
本件明細書の【0040】~【0054】には、実施例1~4及び比較例1~3において、「降伏点荷重」として、本件発明で規定された数値範囲の実施例1~4の加飾シートは、「施工性A」、「施工性B」の評価がいずれも「〇」であり、一方、本件発明で規定された数値範囲の範囲外の比較例1~3の加飾シートは、「施工性A」又は「施工性B」の評価が「△」又は「×」であることから、上記理解と整合する。
そうすると、「加飾シートの25℃での降伏点荷重が、25N/10mm以上45N/10mm以下であ」ることを特定する本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであって、本件課題を解決できることを当業者は認識できる。
(4) 申立人の主張について
申立人は上記第3の4のとおり主張する。しかしながら、申立人が主張するとおり、本件明細書の実施例1~4及び比較例1~3のすべてにおいて、加飾シートの基材層として専ら「厚さ150μm」の塩化ビニル系樹脂を用いたことが記載されており、この基材層の厚さは、発明特定事項の「前記基材層は、厚さが80μm以上180μm以下であり」の厚さ範囲の中の一点のみであるとしても、本件明細書の【0019】に「基材層10の厚さは、80μm以上180μm以下であることが好ましい。基材層10の厚さを80μm以上180μm以下とすることで、ラッピング加工等の曲げ加工性の点で有利である。」と記載されているように、基材層10の厚さは、主として「曲げ加工性」に寄与するパラメータであると考えられる。
そして、上記(3)でも示したとおり、本件明細書の【0018】に記載より、「前記加飾シートの25℃での降伏点荷重が、25N/10mm以上45N/10mm以下であ」ることによって、本件特許の発明が解決しようとする課題を解決することができるものといえる。
そうすると、加飾シートの厚さにかかわらず、加飾シートの25℃での降伏点荷重の数値範囲を規定することにより発明の解決しようとする課題を解決できると認識できるものである。
よって、申立人の当該主張は採用できない。
(5) サポート要件についての小括
よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
第5 むすび
以上のとおり、請求項1~8に係る特許は、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700223