特許異議申立
2024-700048
前分散剤組成物、これを含む電極及び二次電池
- 審判番号
- 2024-700048
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-572469外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7313487
- 請求日
- 2024年01月24日
- 審決日
- 2024年11月25日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】エルジー・ケム・リミテッド
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【権利者代理人】渡部 崇
- 【異議申立人】安藤 宏
- 分類
- P1651.113-Z (H01M) / P1651.121-Z (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7313487号発明「前分散剤組成物、これを含む電極及び二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7313487号の請求項1ないし12に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7313487号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、2021年1月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2020年1月7日 韓国、2021年1月5日 韓国)を国際出願日とする出願であって、令和5年7月13日にその特許権が設定登録がされ、同年7月24日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1ないし12に係る特許について、令和6年1月24日に特許異議申立人 安藤 宏(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において、令和6年5月15日付けで、本件特許の請求項1ないし12に係る特許に対して取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、請求項に付された番号と同一の番号を付し、順に「本件発明1」のようにいう。)である。
「【請求項1】
水素化ニトリル-ブタジエンゴム及びアミド系分散媒を含む前分散剤組成物(pre-dispersant composition)であって、
前記前分散剤組成物の粘度(ブルックフィールド粘度計、25℃)は70cPsから3,000cPsであり、前分散剤組成物の固形分含量は、前分散剤組成物の全重量を基準として4重量%から11重量%であり、前分散剤組成物の水分含有量は0.9重量%以下である前分散剤組成物。
【請求項2】
前記水素化ニトリル-ブタジエンゴムは、
下記化学式1で表されるアクリロニトリル由来構造の繰り返し単位;及び下記化学式2及び3で表される水素化ブタジエン由来構造の繰り返し単位のうち少なくとも1つ以上を含む繰り返し単位;からなるものである、請求項1に記載の前分散剤組成物。
【化1】
[図:0001423458000001.jpg]
【化2】
[図:0001423458000002.jpg]
【化3】
[図:0001423458000003.jpg]
【請求項3】
前記アクリロニトリル由来構造の繰り返し単位:水素化ブタジエン由来構造の繰り返し単位の重量比は、10:90から50:50である、請求項2に記載の前分散剤組成物。
【請求項4】
前記水素化ニトリル-ブタジエンゴムは、下記化学式4または化学式5で表されるブタジエン由来構造の繰り返し単位をさらに含む、請求項2又は3に記載の前分散剤組成物。
【化4】
[図:0001423458000004.jpg]
【化5】
[図:0001423458000005.jpg]
【請求項5】
前記アミド系分散媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)及びN-メチルピロリドン(NMP)からなる群から選択された少なくとも1つ以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の前分散剤組成物。
【請求項6】
前記前分散剤組成物の粘度(ブルックフィールド粘度計、25℃)は、200cPsから3,000cPsである、請求項1~5のいずれか一項に記載の前分散剤組成物。
【請求項7】
前記前分散剤組成物の水分含有量は0.3重量%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の前分散剤組成物。
【請求項8】
前記前分散剤組成物は、金属性元素または半金属性元素をさらに含み、前記金属性元素または半金属性元素の濃度はそれぞれ150ppm以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の前分散剤組成物。
【請求項9】
電極活物質、導電材、バインダー、溶媒、及び請求項1~8のいずれか一項に記載の前分散剤組成物を含む電極スラリー組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の電極スラリー組成物を用いて製造された二次電池用電極。
【請求項11】
前記電極は正極である、請求項10に記載の二次電池用電極。
【請求項12】
正極;負極;セパレータ及び電解質を含み、
前記正極及び負極のうち少なくとも1つは、請求項10に記載の電極である、
リチウム二次電池。」
第3 当審において通知した取消理由の概要
当審において、令和6年5月15日付けで通知した取消理由の理由1、2(以下、順に「取消理由1」「取消理由2」という。)の概要は、次のとおりである。
[取消理由1](新規性)
本件請求項1、2、4ないし9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記甲第1号証、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件請求項1、2、4ないし9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。
[取消理由2](進歩性)
本件請求項3、10ないし12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項3、10ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。
<引用文献等一覧>
甲第1号証:米国特許出願公開第2015/0083975号明細書
甲第2号証:米国特許出願公開第2015/0200399号明細書
甲第3号証:BM-720Hの分析証明書
甲第4号証:特開2006-120604号公報
甲第5号証:特表2018-534382号公報
甲第6号証:特表2018-534220号公報
甲第7号証:特開2016-21390号公報
甲第8号証:ウェブページ(TRUMP GROUP URL http://www.trumpchemicals.com.cn/products_detail_245.htm)
第4 当審の判断
1.引用文献について
(1)甲第1号証
甲第1号証には以下の記載がある。なお、日本語訳は異議申立人提出の「甲第1号証抄訳」による。(下線は当審で付した。)
「[0053] In the non-fluorine containing binder, a content of the repeating unit having a linear alkylene structure including at least 4 carbons may be in a range of 30 wt % to 99 wt %, for example, 50 wt % to 98 wt %, 70 wt % to 70 wt %, or 75 wt % to 90 wt %. The content of the repeating unit means a content of the monomer corresponding to the repeating unit having a linear alkylene structure based on the total amount of the monomers used for preparing the non-fluorine binder polymer.」(訳:「非フッ素含有バインダーにおいて、炭素数4以上の直鎖状アルキレン構造を有する繰り返し単位の含有割合は、30重量%~99重量%、例えば、50重量%~98重量%、70重量%~70重量%、または75重量%~90重量%の範囲であり得る。繰り返し単位の含有割合は、非フッ素含有バインダーポリマーの調製に用いられるモノマーの合計量に基づく、直鎖状アルキレン構造を有する繰り返し単位に対応するモノマーの含有割合を意味する。」)
「[0112] Particularly, the carbon black was added to a non-fluorine containing binder solution (i.e., a binder solution including a hydrogenated acrylonitrile-butadiene binder dispersed in NMP, BM-720H, 300,000 g/mol of a weight average molecular weight, -30℃. of Tg, Nippon Zeon Co. Ltd ., Tokyo, Japan) and stirred in a planetary centrifugal mixer (hereinafter, referred to as “Thinky mixer”, Thinky Corporation, Laguna Hills, Calif.-USA) at a rate of 2000 rpm for 5 minutes to prepare conducting agent slurry.」(訳:「特に、非フッ素含有バインダー溶液(すなわち、NMPに分散した水素化アクリロニトリル-ブタジエンバインダーを含むバインダー溶液。BM-720H、重量平均分子量= 300,000g/mol、ガラス転移温度(Tg)=-30℃、日本ゼオン株式会社(東京、日本)製)にカーボンブラックを添加し、プラネタリー遠心ミキサー(以下、シンキーミキサーとする。Thinky社(カリフォルニア州ラグナヒルズ、アメリカ)製)で、2,000rpmで5分間撹拌し、導電材スラリーを調製した。」)
「[0113] Subsequently, a second fluorine containing binder solution (SOLEF 6020, PVDF, 700,000 g/mol of a weight average molecular weight, Solvay, Brussels, Belgium) and the cathode active material were added to the conducting agent slurry, stirred in the Thinky mixer at a rate of 2000 rpm for 5 minutes to prepare first active material slurry.」(訳:「その後、第2のフッ素含有バインダー溶液(SOLEF 6020、PVDF、重量平均分子量= 700,000g/mol、Solvay社(プリュッセル、ベルギー)製)と正極活物質を導電材スラリーに添加し、シンキーミキサーで、2,000rpmで5分間撹拌し、第1の活物質スラリーを調製した。」)
「[0114] Then, a first fluorine containing binder solution (SOLEF 5130, modified PVDF containing a carboxylic group, 1000,000 g/mol of a weight average molecular weight, Solvay, Belgium) was added to the first active material slurry, stirred in the Thinky mixer at a rate of 500 rpm for 5 minutes to prepare second active material slurry.」(訳:「次に、第1のフッ素含有バインダー溶液(SOLEF 5130、カルボキシル基を含む変性PVDF、重量平均分子量=1000,000g/mol、Solvay社(ベルギー)製)を第1の活物質スラリーに添加し、シンキーミキサーで、500rpmで5分間撹拌し、第2の活物質スラリーを調製した。」)
「[0115] The second active material slurry was coated on a 12μm-thick aluminum foil at a thickness of 102μm, dried at a temperature of 110℃. for 2 hours, and then rolled-pressed at a thickness of 71μm to prepare a cathode plate. A coin cell (CR2016 type) at a diameter of 32 mm was prepared by using the cathode plate.」(訳:「第2の活物質スラリーを、厚さ12μmのアルミニウム箔上に102μmの厚さで塗工し、110℃で2時間乾燥後、71μmの厚さに圧延して正極プレートを作製した。この正極プレートを用いて直径32mmのコイン型電池(CR2016型)を作製した。」)
「[0116] In the preparation of the cell, lithium was used as a counter electrode, and a polyethylene separator (separator, Star(R) 20, Asahi Kasei, Tokyo Japan) at a thickness of 20 μm was used as a separator, and 1.15 M LiPF6 dissolved in a mixed solution of ethylenecarbonate (EC):ethylmethylcarbonate (EMC):diethylcarbonate (DEC) at a volume ratio of 3:3:4 was used as an electrolyte.」(訳:「電池の作製にあたり、対向電極としてリチウムを用い、セパレーターとして厚さ20μmのポリエチレン製セパレーター(Star(R)20、旭化成株式会社(東京、日本)製)を用い、電解液として、体積比が3:3:4のエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC):ジエチルカーボネート(DEC) の混合溶媒に溶解した1.15MのLiPF6を用いた。」)
甲第1号証の特に段落[0112]の記載より、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「NMPに分散した水素化アクリロニトリル-ブタジエンバインダーを含むバインダー溶液であるBM-720H。」
また、NMPに分散した水素化アクリロニトリル-ブタジエンバインダーを含むバインダー溶液であるBM-720Hには、甲第1号証の段落[0112]によればカーボンブラックを添加して導電性スラリーとし、さらに、段落[0113]によれば正極活物質を添加し、段落[0114]によれば第1のフッ素含有バインダー溶液をさらに添加して第2の活物質スラリーを調製することが記載されている。
したがって、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明’」という。)が記載されていると認められる。
「NMPに分散した水素化アクリロニトリル-ブタジエンバインダーを含むバインダー溶液であるBM-720Hに、カーボンブラック、第2のフッ素含有バインダー溶液、正極活物質、第1のフッ素含有バインダー溶液を添加して調製した第2の活物質スラリー。」
さらに、上記甲1発明’の第2の活物質スラリーは、甲第1号証の段落[0115][0116]によれば、アルミニウム箔上に塗工されて電池用の正極プレートが作成されるから、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明’’」という。)が記載されているといえる。
「NMPに分散した水素化アクリロニトリル-ブタジエンバインダーを含むバインダー溶液であるBM-720Hに、カーボンブラック、第2のフッ素含有バインダー溶液、正極活物質、第1のフッ素含有バインダー溶液を添加して調製した第2の活物質スラリーをアルミニウム箔上に塗工して作製した電池用正極プレート。」
また、甲第1号証の段落[0115][0116]によれば、電池の作成に当たっては、上記「甲1発明’’」とした正極プレートと、対向電極としてリチウムと、セパレーターと、電解液を用いたことが記載されている。
したがって、甲第1号証には作成される電池に関して以下の発明(以下、「甲1発明’’’」という。)が記載されていると認められる。
「NMPに分散した水素化アクリロニトリル-ブタジエンバインダーを含むバインダー溶液であるBM-720Hに、カーボンブラック、第2のフッ素含有バインダー溶液、正極活物質、第1のフッ素含有バインダー溶液を添加して調製した第2の活物質スラリーをアルミニウム箔上に塗工して作製した電池用正極プレート、リチウムを用いた対向電極、セパレーター、電解液から作製された電池。」
(2)甲第2号証
甲第2号証には以下の記載がある。なお、日本語訳は異議申立人提出の「甲第2号証抄訳」による。(下線は当審で付した。)
「[0054] In some embodiments, an amount of the repeating unit having the linear alkylene structure having four or more carbon atoms in the non fluoropolymer binder may be in a range of about 30 to about 99 weight %, for example about 50 to about 98 weight %, for example about 70 to about 95 weight %, or for example, about 75 weight % to about 90 weight %.」
(訳:「幾つかの実施形態では、非フッ素系重合体バインダー中の炭素数4以上の直鎖状アルキレン構造を有する繰り返し単位の量は、約30重量%~約99重量%、例えば約50重量%~約98重量%、例えば約70重量%~約95重量%、または例えば約75重量%~約90重量%の範囲であり得る。」)
「[0113] In detail, carbon black was added to a non-fluoropolymer binder solution (a binder solution in which a hydrogenated acrylonitrile-butadiene binder was dispersed in NMP, BM-720H, a weight average molecular amount=300,000 g/mol, Tg=-30℃., Nippon Zeon Co. Ltd., Tokyo, Japan), and the mixture was stirred by using a Planetary centrifugal mixer (hereinafter referred to as Thinky mixer, Thinky Corporation, Laguna Hills, Calif ., USA) at a rotation rate of 2000 rpm for 5 minutes to prepare a conductive agent slurry.」(訳:「詳細には、非フッ素系重合体バインダー溶液(NMPに水素化アクリロニトリル-ブタジエンバインダーを分散させたバインダー溶液。BM-720H、重量平均分子量=300,000g/mol、ガラス転移温度(Tg)=-30℃、日本ゼオン株式会社(東京、日本)製)にカーボンブラックを添加し、プラネタリー遠心ミキサー(以下、シンキーミキサーとする、Thinky社(カリフォルニア州ラグナヒルズ、アメリカ)製で、2,000rpmで5分間撹拌し、導電剤スラリーを調製した。」)
「[0114] Then, a second fluoropolymer binder solution (SOLEF 6020, PVDF, weight average molecular amount=700,000 g/mol, Solvay, Belgium) and the cathode active material were added to the conductive agent slurry, and then, the mixture was stirred by using a Thinky mixer at a rotation rate of 2000 rpm for 5 minutes to prepare a first active material slurry.」
(訳:「次いで、第2のフッ素系重合体バインダー溶液(SOLEF6020、PVDF、重量平均分子量=700,000g/mol、Solvay社(ベルギー)製)と正極活物質を導電剤スラリーに添加し、混合物を、シンキーミキサーを用いて2,000rpmで5分間撹拌し、第1の活物質スラリーを調製した。」)
「[0115] Subsequently, a first fluoropolymer binder solution (VT471, P(TFE-VDF), weight average molecular weight=350,000 g/mol, Daikin, Osaka, Japan) was added to the first active material slurry, and then, the mixture was stirred by using a Thinky mixer at a rotation rate of 500 rpm for 5 minutes to prepare a second active material slurry.」(訳:「続いて、第1のフッ素系重合体バインダー溶液(VT471、P(TFE-VDF)、重量平均分子量=350,000g/mol、ダイキン工業株式会社(大阪、日本)製)を第1の活物質スラリーに添加し、混合物を、シンキーミキサーを用いて500rpmで5分間撹拌し、第2の活物質スラリーを調製した。」)
「[0116] The second active material slurry was coated on an aluminum foil having a thickness of 12 μm to form a coating film having a thickness of 102 μm, and then dried at a temperature of 110℃. for 2 hours, and pressed to make the thickness thereof to be 71 μm, thereby completing the manufacture of a cathode electrode plate. Then, a coin cell (CR2016 type) having a diameter of 32 mm was prepared.」(訳:「第2の活物質スラリーを、厚さ12μmのアルミニウム箔上に102μmの厚さで塗工し、110℃で2時間乾燥後、71μmの厚さにプレスして、正極電極プレートを作製した。次に、直径32mmのコイン型電池(CR2016型)を作製した。」)
「[0117] To manufacture the cell, metal lithium was used as a counter electrode, a polyethylene separator (Star(R)(審決注:(R)は登録商標を示す。以下同様。) 20, Asahi Kasei, Tokyo Japan) having a thickness of 20 μm was used as a separator, and 1.15M LiPF6 dissolved in a mixed solvent of ethylenecarbonate (EC):ethylmethylcarbonate (EMC):diethylcarbonate (DEC)(a volumetric ratio of 3:3:4) was used as an electrolyte 」(訳:「電池の作製にあたり、対向電極として金属リチウムを用い、セパレーターとして厚さ20μmのポリエチレン製セパレーター(Star(R)20、旭化成株式会社(東京、日本)製)を用い、電解液として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC) :ジエチルカーボネート(DEC) の混合溶媒(体積比3:3:4)に溶解した1.15MのLiPF6を用いた。」)
上記記載は、上記(1)の甲第1号証の記載に対応しており、甲第2号証にも甲第1号証と同様の発明が記載されているものと認められる。
(3)甲第3号証、甲第8号証
甲第3号証は、異議申立人提出の証拠説明書によれば日本ゼオン株式会社から譲渡されるBM-720Hの分析証明書であり、各分析表において「Solid Content」「Viscosity」「Water Content」のそれぞれの項目の「PRODUCT SPECS」の欄を参照すると、BM-720Hの仕様は、固形分含有量の最小値7.5wt%、最大値8.5%、粘度の最小値500mPa.s、最大値2500mPa.s、水分含有量の最大値1000ppmであることが記載されている。
一方、甲第8号証はTRUMPGROUPによるホームページの一部であり、BM-720Hの仕様について記載された表によれば、固形分含有量、粘度、水分含有量として甲第3号証と同一の値が記載されている。
また、甲第3号証によれば金属含有量は実測値でFe,Cu,Zn,Co,Ni,Crのいずれも0.5ppmより小さい。
したがって、甲第3号証、甲第8号証によれば、BM-720Hに関して以下の事項(以下、「甲3、8の記載事項」という。)が明らかである。
「BM-720Hの仕様は、固形分含有量の最小値7.5wt%、最大値8.5%、粘度の最小値500mPa.s、最大値2500mPa.s、水分含有量の最大値1000ppmであり、金属含有量(Fe,Cu,Zn,Co,Ni,Cr)はいずれも0.5ppmより少ないこと。」
(4)甲第4号証
甲第4号証には以下の記載がある。(下線は当審で付した。)
「【0039】・・・アクリロニトリル単位を含む変性ゴムの一例としては、粒子状のもの(例えば、コア-シェル構造を有する、日本ゼオン(株)製のBM-500B)や、多孔質耐熱層を作製するときに用いられる溶剤に可溶なもの(例えば、アクリロニトリル単位とCH2単位とからなる、日本ゼオン(株)製のBM-720H)等が挙げられる。」
したがって、甲第4号証には以下の事項(以下、「甲4記載事項」という。)が記載されているということができる。
「BM-720Hは、アクリロニトリル単位とCH2単位とからなること。」
(5)甲第5号証、甲第6号証
甲第5号証には、部分水素化ニトリルゴムに関して以下の記載がある。
「【0042】
一例によれば、前記部分水素化ニトリルゴムは、下記化学式1の単位、下記化学式2の単位、および下記化学式3の単位を含む。
【0043】
【化1】
[図:0001423458000006.jpg]
【0044】
【化2】
[図:0001423458000007.jpg]
【0045】
【化3】
[図:0001423458000008.jpg]
」
また、甲第6号証の段落【0039】ないし【0042】にも同様の記載がある。
(6)甲第7号証
甲第7号証には、「電気化学素子用導電材分散液」(発明の名称)に関して以下の記載がある。(下線は当審で付した。)
「【0023】
<重合体X>
重合体Xは、ニトリル基含有単量体単位およびアルキレン構造単位を含む共重合体であり、任意に、ニトリル基含有単量体単位およびアルキレン構造単位以外のその他の単量体単位(繰り返し単位)を含んでいてもよい。そして重合体Xは、本発明の導電材分散液において、導電材を分散させる分散剤として機能しうる。
・・・・・・
【0026】
そして、上記重合体X中でのニトリル基含有単量体単位の含有割合は、重合体X中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、15質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上が特に好ましく、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。重合体X中のニトリル基含有単量体単位の含有割合を15質量%以上とすることで、重合体Xのピロリドン系溶媒への溶解性を向上させることができ、50質量%以下とすることで、重合体Xの導電材分散能を向上させることができる。従って、重合体X中のニトリル基含有単量体単位の含有割合を上述の範囲内とすることで、導電材分散液の保存安定性を更に向上させることができる。そして、導電材分散液を用いて形成される電極合材層中で導電材を良好に分散させて、導電性を向上させる(即ち、内部抵抗を低減する)ことができ、本発明の導電材分散液を用いて製造された電極を備える電気化学素子の出力特性などの電気的特性を更に向上させることができる。
・・・・・・
【0029】
そして、上記重合体X中でのアルキレン構造単位の含有割合は、重合体X中の全繰り返し単位(単量体単位と構造単位との合計)を100質量%とした場合に、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、85質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下が特に好ましい。重合体X中でのアルキレン構造単位の含有割合を50質量%以上とすることで、重合体Xの導電材分散能を向上させることができ、85質量%以下とすることで、重合体Xのピロリドン系溶媒への溶解性を向上させることができる。従って、重合体X中のアルキレン構造単位の含有割合を上述の範囲内とすることで、導電材分散液の保存安定性を更に向上させることができる。そして、導電材分散液を用いて形成される電極合材層中で導電材を良好に分散させて、導電性を向上させる(即ち、内部抵抗を低減する)ことができ、本発明の導電材分散液を用いて製造された電極を備える電気化学素子の出力特性などの電気的特性を更に向上させることができる。」
2.対比及び判断
(1)甲1発明を主引用例とする場合
ア.本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
・甲1発明の「NMP」は本件発明1の「アミド系分散媒」に相当することは明らかである。また、甲1発明の「水素化アクリロニトリル-ブタジエンバインダー」はアクリロニトリルがニトリルの一種であり、「水素化ニトリル-ブタジエン」として組成が対応することから、本件発明1の「水素化ニトリル-ブタジエンゴム」に相当する。
・甲1発明の「NMPに分散した水素化アクリロニトリル-ブタジエンバインダーを含むバインダー溶液であるBM-720H」は、甲第1号証の段落[0112]に記載されているように「カーボンブラック」が添加され、攪拌されて導電性スラリーが調整されるから、導電性スラリー中においてカーボンブラックを分散させる分散剤として機能することは明らかであり、本件発明1の「前分散剤組成物」に相当する。
・本件発明1は「前記前分散剤組成物の粘度(ブルックフィールド粘度計、25℃)は70cPsから3,000cPsであり、前分散剤組成物の固形分含量は、前分散剤組成物の全重量を基準として4重量%から11重量%であり、前分散剤組成物の水分含有量は0.9重量%以下である」のに対して、甲1発明は当該事項が明らかではない点で相違する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「水素化ニトリル-ブタジエンゴム及びアミド系分散媒を含む前分散剤組成物。」
(相違点1)
本件発明1は「前記前分散剤組成物の粘度(ブルックフィールド粘度計、25℃)は70cPsから3,000cPsであり、前分散剤組成物の固形分含量は、前分散剤組成物の全重量を基準として4重量%から11重量%であり、前分散剤組成物の水分含有量は0.9重量%以下である」のに対して、甲1発明は当該事項が明らかではない点。
上記相違点1について検討する。
甲1発明を構成するBM-720Hに関しては、上記「1.(3)」で検討したように、甲3、8の記載事項から「BM-720Hの仕様は、固形分含有量の最小値7.5wt%、最大値8.5%、粘度の最小値500mPa.s、最大値2500mPa.s、水分含有量の最大値1000ppm」であることが明らかである。
そうしてみると、「粘度」に関して単位「mPa.s」は「cPs」と等しいから、甲1発明を構成するBM-720Hの粘度の範囲(最小値500mPa.s、最大値2500mPa.s)は、本件発明1の「70cPsから3,000cPs」に含まれる。
なお、甲3、8の記載事項では「粘度」の温度条件について記載はなく、一般的な温度においての値と考えられるところ、これは本件発明1の温度条件である25℃と同等であると考えられる。また、本件発明1では、粘度は「ブルックフィールド粘度計」による値となっているが、「ブルックフィールド粘度計」によって測定される粘度が一般的な粘度と異なるとはいえないから、甲3、8の記載事項における粘度の値と対比可能である。
また、「固形分含量」に関し、甲1発明を構成するBM-720Hの固形分含有量の範囲(最小値7.5wt%、最大値8.5%)は、本件発明1の「4重量%から11重量%」に含まれる。
さらに、「水分含有量」に関して、甲1発明を構成するBM-720Hの水分含有量の範囲(最大1000ppm(=0.1%))は、本件発明1の「0.9重量%以下」に含まれる。
そうしてみると、本件発明1と甲1発明には実質的な相違はなく、同一である。
したがって、本件の請求項1に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
イ.本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを対比すると、本件発明2では、「前記水素化ニトリル-ブタジエンゴムは、下記化学式1で表されるアクリロニトリル由来構造の繰り返し単位;及び、下記化学式2及び3で表される水素化ブタジエン由来構造の繰り返し単位のうち少なくとも1つ以上を含む繰り返し単位;からなる」(化学式1ないし3は記載を省略する。)のに対して、甲1発明は水素化ニトリル-ブタジエンゴムを有するものの、どのような繰り返し単位を有するか明らかではない点で相違する。
したがって、本件発明2が引用する本件発明1に関する上記ア.の検討結果も踏まえれば、本件発明2と甲1発明とは以下の相違点2で相違し、その余の点では一致する。
(相違点2)
本件発明2では、「前記水素化ニトリル-ブタジエンゴムは、下記化学式1で表されるアクリロニトリル由来構造の繰り返し単位;及び、下記化学式2及び3で表される水素化ブタジエン由来構造の繰り返し単位のうち少なくとも1つ以上を含む繰り返し単位;からなる」のに対して、甲1発明は水素化ニトリル-ブタジエンゴムを有するものの、どのような繰り返し単位を有するか明らかではない点。
[図:0001423458000009.jpg]
上記相違点2について検討する。
甲1発明を構成するBM-720H中の水素化アクリロニトリル-ブタジエンバインダーについて、上記「1.(4)」において甲4記載事項としたように、「BM-720Hは、アクリロニトリル単位とCH2単位とからなる」。ここで、アクリロニトリル単位は、上記「1.(5)」で引用した甲第5号証、甲第6号証の記載事項によれば[化学式1]
[図:0001423458000010.jpg]
で示される構造であり、これは、本件発明2の[化学式1]に示されるアクリロニトリル由来構造の繰り返し単位と同じである。また、CH2単位は、水素化されたブタジエンに由来する単位であって、甲第5号証、甲第6号証の記載事項によれば[化学式3]
[図:0001423458000011.jpg]
で示される単位であり、これは、本件発明2の[化学式2]に示される水素化ブタジエン由来構造の繰り返し単位と同じである。なお、甲第5号証、甲第6号証は部分水素化ニトリルゴムであるので甲第5、6号証の[化学式2]の繰り返し単位も含むが、完全に水素化することにより当該[化学式2]は甲第5、6号証の[化学式3]のように変化する。
そうしてみると、本件発明2と甲1発明には実質的な相違はなく、同一である。
したがって、本件の請求項2に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項2に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
ウ.本件発明3について
本件発明3と甲1発明とを対比すると、以下の相違点3で相違し、その余の点では一致する。
(相違点3)
本件発明3は「前記アクリロニトリル由来構造の繰り返し単位:水素化ブタジエン由来構造の繰り返し単位の重量比は、10:90から50:50である」であるのに対して甲1発明では当該構成が明らかではない点。
上記相違点3について検討する。
甲第1号証の段落[0053]には「非フッ素含有バインダーにおいて、炭素数4以上の直鎖状アルキレン構造を有する繰り返し単位の含有割合は、・・・、または75重量%~90重量%の範囲であり得る」(上記「1.(1)」を参照)と記載されている。ここで「炭素数4以上の直鎖状アルキレン構造を有する繰り返し単位」は本件発明3の「水素化ブタジエン由来構造の繰り返し単位」に相当する。また、上記「1.(6)」に引用したように、「電気化学素子用導電材分散液」について記載された甲第7号証の段落【0023】【0029】には、ニトリル基含有単量体単位およびアルキレン構造単位を含む共重合体である重合体X中でのアルキレン構造単位の含有割合は、50質量%以上85質量%以下が好ましいことが記載されている。
そうしてみると、上記甲第1号証、及び甲第7号証に記載された事項を参照すれば、相違点3とした構成は当業者が容易に想到し得たものである。
したがって、本件の請求項3に係る発明は甲1発明、甲第1号証に記載された事項、甲第7号証に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
エ.本件発明4について
本件発明4と甲1発明とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点では一致する。
(相違点4)
本件発明4では「前記水素化ニトリル-ブタジエンゴムは、下記化学式4または化学式5で表されるブタジエン由来構造の繰り返し単位をさらに含む」のに対して甲1発明では当該構成が明らかではない点。
[図:0001423458000012.jpg]
上記相違点4について検討する。
上記イ.において検討したように、甲1発明を構成するBM-720H中の水素化アクリロニトリル-ブタジエンバインダーには、水素化されたブタンジエンに由来する甲第5号証、甲第6号証に記載の[化学式3]の構成が含まれるところ、水素化の過程で残存する二重結合が発生し得るものであり、甲1発明を構成するBM-720Hにおいても上記(相違点4)の[化学式4]の単位が含まれると考えられるから、相違点4は実質的な相違とはいえない。
したがって、本件の請求項4に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項4に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
オ.本件発明5について
本件発明5と甲1発明とを対比すると、甲1発明は分散媒として「NMP」(=N-メチルピロリドン)を有しており、本件発明5と相違する点はない。
したがって、本件の請求項5に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項5に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
カ.本件発明6、7について
本件発明6、7と甲1発明とを対比すると、甲1発明を構成するBM-720Hは、「粘度の最小値500mPa.s、最大値2500mPa.s、水分含有量の最大値1000ppm」(「甲3、8の記載事項」より)である。
そうしてみると、甲1発明を構成するBM-720Hの粘度の範囲(最小値500mPa.s、最大値2500mPa.s)は、本件発明6の「200cPsから3,000cPs」に含まれる。なお、甲3、8の記載事項では「粘度」には「ブルックフィールド粘度計、25℃」との計測条件が付されているが、上記ア.で検討したように、甲3、8の記載事項における「粘度」は一般的な温度における値と考えられ、本件発明6の温度条件である25℃と同等である。また、「ブルックフィールド粘度計」によって測定される粘度が一般的な粘度と異なるとはいえないから、本件発明6の粘度の値と甲3、8の記載事項における粘度の値とは対比可能である。
また、BM-720Hの水分含有量の範囲(最大1000ppm(=0.1%))は、本件発明7の「0.3重量%以下」に含まれる。
そうしてみると、本件発明6、7と甲1発明には実質的な相違はなく、同一である。
したがって、本件の請求項6、7に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項6,7に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
キ.本件発明8について
本件発明8と甲1発明とを対比すると、以下の相違点5で相違し、その余の点では一致する。
(相違点5)
本件発明8は「前記前分散剤組成物は、金属性元素または半金属性元素をさらに含み、前記金属性元素または半金属性元素の濃度はそれぞれ150ppm以下である」のに対して甲1発明では当該構成が明らかではない点。
上記相違点5について検討すると、生成の過程で微量な金属性元素または半金属性元素の残留物が残存することは一般的な事項であり、 また、甲1発明を構成するBM-720Hでは、上記「1.(3)」で検討したように不純物である金属含有量は0.5ppmより少なく、本件発明8の150ppm以下の範囲内となっていることから、相違点5は実質的な相違とはいえない。
したがって、本件の請求項8に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項8に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
ク.本件発明9について
本件発明9と甲1発明’とを対比する。
・甲1発明’の「カーボンブラック」は、甲第1号証の段落[0112]によれば、BM-720Hに添加されて導電剤スラリーを調製していることから、「導電材」であることが明らかである。
・甲1発明’の「第2の活物質スラリー」は、甲第1号証の段落[0115]によればアルミニウム箔上に塗工され、正極プレートを形成するから正極電極用の活物質スラリーといえる。
・そうしてみると、甲1発明’の「正極活物質」「カーボンブラック」「NMPに分散した水素化アクリロニトリル-ブタジエンバインダーを含むバインダー溶液であるBM-720H」「第2の活物質スラリー」は、本件発明9の「電極活物質」「導電材」「請求項1~8のいずれか一項に記載の前分散剤組成物」「電極スラリー組成物」にそれぞれ相当する。また、甲1発明’の「第2のフッ素含有バインダー溶液」及び「第1のフッ素含有バインダー溶液」が、本件発明9の「バインダー」に相当する。
・本件発明9は「溶媒」を有するのに対して、甲1発明’では当該事項が明らかではない点で相違する。
したがって、本件発明9と甲1発明’とは、以下の相違点6で相違し、その余の点では一致する。
(相違点6)
本件発明9は「溶媒」を有するのに対して、甲1発明’では当該事項が明らかではない点。
上記相違点6について検討すると、甲1発明’では液状の混合物として第2の活物質スラリーが調整されている以上、溶媒を含んでいることは技術常識を踏まえ明らかである。
したがって、相違点6は実質的な相違とはいえず、本件の請求項9に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項9に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
ケ.本件発明10、11について
本件発明10、11と甲1発明’’とを対比する。
・甲1発明’’の「第2の活物質スラリー」は、本件発明10の「請求項9に記載の電極スラリー組成物」に相当する。また、甲1発明’’の「正極プレート」は、本件発明10の「電極」、及び本件発明11の「正極」に相当する。
・本件発明10、11の「電極」は「二次電池用」であるのに対して、甲1発明’’の「正極プレート」では当該事項が明らかではない点で相違する。
したがって、本件発明10、11と甲1発明’’とは、以下の相違点7で相違し、その余の点では一致する。
(相違点7)
本件発明10、11の「電極」は「二次電池用」であるのに対して、甲1発明’’の「正極プレート」では 当該事項が明らかではない点。
上記相違点7について検討する。
甲第1号証の段落[0116]には「対向電極(当審注:負極のこと)としてリチウムを用い」ると記載されており、通常の二次電池の構成とは異なっているが、甲第1号証の段落[0002][0003]に、
「[0002]1. Field
[0003]This disclosure relates to a binder composition for a secondary battery, a cathode and a lithium battery including the binder composition.」(当審仮訳:「1. 発明の分野 本開示は、二次電池用バインダー組成物、正極及び該バインダー組成物を含むリチウム電池に関する。」)と記載されており、また、段落[0142]には、実施例1~7で製造されたコインセルに対して充放電サイクルを100回繰り返したこと(This charge/discharge cycle was repeated 100 times. )が記載されている。これらの記載をみれば、甲1発明’’の「正極プレート」を「二次電池用」の電極として用いることは当業者が適宜成し得る事項にすぎない。
したがって、本件の請求項10、11に係る発明は甲第1号証に記載された発明及び記載された事項、甲第7号証に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項10、11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
コ.本件発明12について
本件発明12と甲1発明’’’とを対比する。
・甲1発明’’’の「電池用正極プレート」「リチウムを用いた対向電極」「セパレーター」「電解液」は、本件発明12の「正極」「負極」「セパレータ」「電解質」に相当する。また、甲1発明’’’の「電池用正極プレート」は、甲1発明’’の「電池用正極プレート」であるから、本件発明12の「前記正極及び負極のうち少なくとも1つは、請求項10に記載の電極である」ことに対応する。
・また、甲1発明’’’の「電池」は「対向電極」に「リチウム」を用いているから本件発明12の「リチウム二次電池」と「リチウム電池」である点では一致するものの、「二次電池」であるかは明らかではない点で相違する。
したがって、本件発明12と甲1発明’’’とは、以下の相違点8で相違し、その余の点では一致する。
(相違点8)
本件発明12の「電池」は「二次電池」であるが、甲第1号証の「電池」は「二次電池」であるか明らかではない点。
上記相違点8について検討する。
上記「ケ.」で検討したように、「正極プレート」を「二次電池用」の電極として用いることは適宜成し得る事項にすぎないから、甲1発明’’’の電池を「二次電池」とし、本件発明12に係る構成とすることは、当業者が 適宜成し得る事項にすぎない。
したがって、本件の請求項12に係る発明は甲1発明’’’に記載された発明、及び記載された事項、甲第7号証に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)甲2発明を主引用例とする場合
上記1.(1)(2)に記載したように、甲第1号証と甲第2号証には同様の事項が記載されているから、甲第2号証にも甲第1号証と同様の発明が記載されていると認められる。
したがって、本件の請求項1、2、4ないし9に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、本件の請求項3、10ないし12に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び記載された事項、甲第7号証に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1、2、4ないし9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、請求項3、10ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第5 むすび
以上のとおり、請求項1、2、4ないし9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。また、請求項3、10ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700048