特許異議申立
2026-700392
情報処理装置及び情報処理方法
- 審判番号
- 2026-700392
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2025-004589
- 登録番号
- 7764983
- 請求日
- 2026年05月01日
- 審決日
- 2026年08月14日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ソニーグループ株式会社
- 【権利者代理人】西川 孝
- 【権利者代理人】三浦 勇介
- 【異議申立人】安藤 宏
- 審判長/審判官
- 審判長 松田 直也
- 審判官 佐藤 智康
- 審判官 笠田 和宏
- 分類
- P1651.121-Y (G08G) / P1651.537-Y (G08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7764983号発明「情報処理装置及び情報処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7764983号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7764983号の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和7年1月14日の出願(遡及日令和元年6月21日)であって、同年10月28日にその特許権の設定登録がされ、同年11月6日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和8年5月1日に異議申立人 安藤宏(以下、「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
特許第7764983号の請求項1~6に係る特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、それぞれ、「本件発明1」~「本件発明6」という。)
「【請求項1】
車両の運転者の運転挙動に関する観測情報と加速度又は速度を含む情報とを利用して生成又は更新された学習モデルを用いて、ネットワークを介して取得される加速度又は速度を含む情報に基づいて、車両の運転者の運転挙動を推定する推定部を
備え、
前記観測情報は、運転者の挙動に関して当該運転者以外の者が入力した観察情報を含み、
前記推定部により推定された車両の運転者の運転挙動に関する情報は、複数の車両の運転者の危険運転の発生位置に関する情報の生成に用いられる情報である
情報処理装置。
【請求項2】
学習モデルを生成又は更新するために利用される前記観測情報に対応する運転者の車両と、前記推定部によって運転挙動を推定される運転者の車両とが、異なる車両である
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
学習モデルを生成又は更新するために利用される加速度又は速度を含む情報を取得した車両と、前記推定部によって運転挙動を推定される運転者の車両とが、異なる車両である
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
情報処理装置が、
車両の運転者の運転挙動に関する観測情報と加速度又は速度を含む情報とを利用して生成又は更新された学習モデルを用いて、ネットワークを介して取得される加速度又は速度を含む情報に基づいて、車両の運転者の運転挙動を推定し、
前記観測情報は、運転者の挙動に関して当該運転者以外の者が入力した観察情報を含み、
推定された車両の運転者の運転挙動に関する情報は、複数の車両の運転者の危険運転の発生位置に関する情報の生成に用いられる情報である
情報処理方法。
【請求項5】
学習モデルを生成又は更新するために利用される前記観測情報に対応する運転者の車両と、運転挙動を推定される運転者の車両とが、異なる車両である
請求項4に記載の情報処理方法。
【請求項6】
学習モデルを生成又は更新するために利用される加速度又は速度を含む情報を取得した車両と、運転挙動を推定される運転者の車両とが、異なる車両である
請求項4に記載の情報処理方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、甲第1号証~甲第9号証を提出して、以下の理由のとおりであるから、請求項1~6に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。なお、理由の番号は、当審で付与した。
1 証拠方法
申立人は、次の甲第1号証~甲第9号証を証拠として提出した。
甲第1号証:山本 修平、外2名、「映像とセンサ信号を用いたドライブレコーダデータからのヒヤリハット検出手法」、情報処理学会、2017年12月、情報処理学会論文誌データベース Vol. 10、No. 4、pp. 26-30
甲第2号証:Aaron Huff、「Machine vision, AI, driving an evolution in fleet safety」、[online]、Commercial Carrier Journal、2017年11月7日、インターネット<URL: https://www.ccjdigital.com/business/article/14936004/machine-vision-ai-driving-an-evolution-in-fleet-safety>
甲第3号証:「スマートフォンによる「テレマティクスモニター制度」を2017年1月から実施」、[online]、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社、2016年9月12日、インターネット<URL: https://www.aioinissaydowa.co.jp/corporate/about/news/news_dtl.aspx?news_id=2016091200318&cate_id=02>
甲第4号証:「社有車の安全運転支援を簡単・リーズナブルに実現 通信型ドライブレコーダーを使った「安全運転管理テレマティクスサービス」を新発売」、[online]、富士通テン株式会社、2016年5月16日、インターネット<URL:https://www.denso-ten.com/jp/release/2016/05/20160516.html>
甲第5号証:「AIを活用し、運転の安全性を自動検知することに成功」、NTTコミュニケーションズ/日本カーソリューションズ共同プレスリリース、2017年10月3日
甲第6号証:特開2017-154725号公報
甲第7号証:川島 弘之、「急ブレーキ多発地点、3万台の車両走行データから可視化――富士通」、[online]、株式会社インプレス、2014年9月30日、インターネット<URL:https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/669075.html>
甲第8号証:パイオニア株式会社、「プローブデータ提供に関する専用サイトを開設~“急減速多発地点データ”を提供し、安心・安全な車社会に貢献~」、[online]、株式会社PR TIMES、2016年4月11日、インターネット<URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000309.000005670.html>
甲第9号証:豊田 正史、外2名、「運転状況を考慮したドライブレコーダデータからの潜在リスク交差点検知手法」、DEIMフォーラム、2017年3月、DEIM Forum 2017 A5-1
また、甲第1号証~甲第9号証を、以下、それぞれ、「甲1」~「甲9」という。
2 理由1(特許法第29条第2項)
(1)理由1-1(甲第1号証が主引用例)
請求項1~6に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲3~9に記載された技術事項に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)理由1-2(甲第2号証が主引用例)
請求項1~6に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲4、7~9に記載された技術事項に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3 理由2(特許法第36条第6項第1号)
請求項1、4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明に記載したものでないため、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。
4 理由3(特許法第36条第6項第2号)
請求項1、4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が明確でないため、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものである。
第4 甲号証
1 甲1に記載されている事項、甲1発明について
(1)甲1に記載されている事項
ア 「ドライブレコーダとは,車内に設置され,前方映像,加速度,ウィンカ操作,ブレーキ操作などの車両運行状況を記録する装置である.全時刻の情報を記録することは,記憶容量などの問題もあるため,実際には加速度に一定の閾値を設け,車両に何らかの衝撃が見られたと考えられるタイミングを検知し,その前後十数秒を記録することが多い.このような映像やセンサ情報は,交通事故の証拠だけでなく,交通違反をした映像や交通事故に近いヒヤリハット映像をドライバに実際に視聴してもらうことによって,安全運転を促進することにも活用されている.」(第26頁左欄下から5行~右欄下から5行)
イ 「本論文ではセンサと映像の両情報源と時系列の遷移を考慮した,深層学習を活用したヒヤリハット検出手法を提案する.センサデータは、全結合ニューラルネット,映像データはフレーム画像に分割し畳み込みニューラルネットによってそれぞれ適切な特徴表現へエンコードする.それらの特徴表現を各時刻で結合した後,再帰型ニューラルネットによって時間的な時系列モデリングし,最終的な分類結果(ヒヤリハットか否か)を得る.」(第27頁左欄27~34行)
ウ 「深層学習に基づくヒヤリハット検出ネットワーク構造を図1に示す.」(第27頁右欄25~26行)
エ 「時系列データのモデリングユニット. それぞれ適切な特徴表現へと変換されたセンサデータと画像データを結合し,LSTMユニットを持つRNNへ入力する(LSTM).LSTMは系列データの長期的な依存関係を学習できることから,ヒヤリハット検出に必要な時間的な状態遷移のモデル化を期待できる.」(第28頁左欄7~12行)
オ 「ヒヤリハット分類ユニット. LSTMによって獲得した時間的な状態遷移も考慮した特徴表現を,Fully-connected layerによって2次元の特徴量へエンコードする(FC-L).この2次元が,ヒヤリハットと非ヒヤリハットの2ラベルに対応し,SoftMax関数を通じて最大の値を持つラベルを推定結果として出力する(Softmax).」(第28頁左欄13~18行)
カ 「ネットワークの学習. ネットワークの学習では,誤差逆伝播法で求められた交差エントロピー誤差の勾配に基いて,Adamによって最適化する.」(第28頁左欄25~27行)
キ 「実験データと設定. 本章では,実際のドライブレコーダデータを用いた実験を行い,提案手法の検出性能を評価する.実験には,東京農工大学スマートモビリティ研究拠点の提供する「ヒヤリハットデータベース」を利用した.ヒヤリハットデータベースでは,各データは衝撃が加わった時刻を起点に前10秒,後5秒の約15秒からなり,各ドライブレコーダデータに訓練された人間によるヒヤリハットレベル(高,中,低,反応)と,非ヒヤリハットのラベルが付与されている.本論文では,ヒヤリハットレベルが低以上のデータを「ヒヤリハット」とし,ヒヤリハットを100件,非ヒヤリハットを100件,ヒヤリハットデータベースからそれぞれをランダムに抽出した.実験では1秒ずつフレーム画像とその時刻のセンサデータをサンプリングし,1データにつき15個の画像とセンサデータとを統一した.また,各フレーム画像はRGB形式で64×64の解像度に線形変換した.センサデータは,GPS,ウィンカ操作,ブレーキ操作などある中から,本論文では,先行研究[1],[2]や予備実験を参考に,X,Y,Z方向の加速度とスピードの4種類を使用した. 用意した200件の正解データに対し,70%の140件を訓練データ,30%の60件をテストデータに用いた.」(第28頁左欄30行~右欄15行)
ク 「
[図:0001439252000001.jpg]
」(第28頁上部)
(2)甲1から把握できる事項
ア 上記(1)クの図1の「FC-L」及び「Softmax」を含む「Network Architecture」は、コンピュータである情報処理装置に実装されることは技術常識である。また、上記(1)クの図1の「FC-L」及び「Softmax」からなるものは、上記(1)オの記載を踏まえると、「ヒヤリハット分類ユニット」として特定される。このため、上記(1)クの図1から、「ヒヤリハット分類ユニット」を含む「Network Architecture」が実装される「情報処理装置」が看取される。
イ 上記(1)エの「センサデータと画像データを結合し,LSTMユニットを持つRNNへ入力する」との記載を踏まえると、上記(1)クの図1から、Network Architectureに、「Sensor」の「35.111,137.122,11,…」である「センサデータ」と「Image」の画像である「画像データ」とを入力とすることが看取され、上記(1)キの記載から、甲1には、「センサデータとして、GPS、ウィンカ操作、ブレーキ操作などの中から、X,Y,Z方向の加速度とスピードの4種類が使用される」ことが記載されているといえる。
ウ 上記(1)イの記載の「映像データ」は「画像データ」の一態様であるから、上記(1)クの図1を踏まえると、上記(1)イの記載から、甲1には、「Network Architectureで特定される学習モデルは、センサデータ及び画像データに基づいて時系列モデリングされる」ことが記載されているといえる。
エ 上記(1)ア、キの記載から、「ドライブレコーダデータ」は、実際のドライブレコーダデータであるから、「車内に設置され、前方映像、加速度、ウィンカ操作、ブレーキ操作などの車両運行状況を記録するドライブレコーダのドライブレコーダデータ」は、「センサデータ」及び「画像データ」を含むことは明らかである。そうすると、上記(1)ア、キの記載から、甲1には、「車内に設置され、前方映像、加速度、ウィンカ操作、ブレーキ操作などの車両運行状況を記録するドライブレコーダの、センサデータ及び画像データを含むドライブレコーダデータに、訓練された人間によるヒヤリハットレベルと、非ヒヤリハットのラベルが付与される」ことが記載されているといえる。
オ 上記(1)キの記載から、甲1には、「ドライブレコーダデータに、訓練された人間によるラベルが付与されることで用意された200件の正解データに対して、70%の140件が訓練データとして用いられる」ことが記載されているといえる。
カ 上記(1)オの記載から、「ヒヤリハット分類ユニットは、ヒヤリハットと非ヒヤリハットのいずれかのラベルを推定する」ことが記載されているといえる。
(3)甲1に記載された発明
上記(2)から、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「 ヒヤリハット分類ユニットを含むNetwork Architectureが実装される情報処理装置であって、
Network Architectureで特定される学習モデルは、センサデータ及び画像データに基づいて時系列モデリングされ、
車内に設置され、前方映像、加速度、ウィンカ操作、ブレーキ操作などの車両運行状況を記録するドライブレコーダの、センサデータ及び画像データを含むドライブレコーダデータに、訓練された人間によるヒヤリハットレベルと、非ヒヤリハットのラベルが付与されることで用意された200件の正解データに対して、70%の140件が訓練データとして用いられ、センサデータとして、GPS、ウィンカ操作、ブレーキ操作などの中から、X,Y,Z方向の加速度とスピードの4種類が使用され、
ヒヤリハット分類ユニットは、ヒヤリハットと非ヒヤリハットのいずれかのラベルを推定する
情報処理装置。」
2 甲2に記載されている事項、甲2発明について
(1)甲2に記載されている事項
ア 「With Lytx Video Service, a fleet manager can capture and review video inside and around vehicles.」
(訳)
Lytx Video Serviceを利用すれば、フリートマネージャーは車両の内部及び周囲の映像を取得し、レビューすることができる。
イ 「About eight years ago, Lytx started down a path to use supervised and unsupervised machine learning in its DriveCam platform, explains Brandon Nixon, the company’s chief executive officer.
Machine learning starts onboard the vehicle with edge computing devices that detect “trigger” events. Algorithms in these devices constantly monitor streaming video and data from integrated cameras as well as from the vehicle databus and sensors.
Examples of basic trigger events include rapid deceleration and speeding. When these and more complex events occur, the devices capture and transmit video and data event files to servers in the cloud.
Supervised learning starts in Lytx’s 24/7 Review Center. The event files are reviewed by behavior analysts who verify the algorithms “tagged” the video and event data properly. Analysts can correct or add tags, as needed, to the metadata based on their observations of the root causes of risk.
The event files and metadata then move upstream to an AI engine in the cloud. This is where unsupervised machine learning takes place, automatically, using a statistical process called clustering and other AI methods.」
(訳)
同社の最高経営責任者(CEO)であるブランドン・ニクソン氏は、約8年前、LytxはそのDriveCamプラットフォームにおいて教師あり学習及び教師なし学習を利用する道を歩み始めたと説明する。
機械学習は、車載のエッジコンピューティングデバイスが「トリガー」イベントを検知することから始まります。これらのデバイスにおけるアルゴリズムは、統合されたカメラからのストリーミング映像及びデータに加え、車両データバス及びセンサーからのデータを絶えず監視している。
基本的なトリガーイベントの例としては、急減速や速度超過が含まれる。これら及びより複雑なイベントが発生すると、デバイスは映像及びデータイベントファイルを取得し、クラウド上のサーバへ送信する。
教師あり学習は、Lytxの24時間365日稼働のレビューセンターにおいて開始される。イベントファイルは行動分析者によってレビューされ、アルゴリズムが映像及びイベントデータに適切に「タグ付け」しているかが検証される。分析者は、リスクの根本原因に関する観察に基づき、必要に応じてメタデータのタグを修正又は追加することができる。
その後、イベントファイルとメタデータは、クラウド上のAIエンジンへと送信されます。ここで、クラスタリングと呼ばれる統計的手法やその他のAI手法を用いて、自動的に教師なし機械学習が行われます。」
ウ 「The machine learning process comes full circle by updating the algorithms in the edge devices over the air. The “machine vision” algorithms can then automatically, and more accurately, identify more trigger events and risky behaviors.」
(訳)
機械学習のプロセスは、エッジデバイス内のアルゴリズムを無線経由で更新することにより、一巡して完結する。この「マシンビジョン」アルゴリズムは、より多くのトリガーイベントや危険な行動を、自動的に、かつより正確に識別できるようになります。
エ 「Two years ago, Lytx released an optional service called ActiveVision that layers on the DriveCam platform. The service uses machine vision to detect additional patterns of risk caused by lane departures, distracted driving and unsafe following distances.」
(訳)
2年前、LytxはDriveCamプラットフォーム上に追加機能として「ActiveVision」というオプションサービスをリリースしました。このサービスは、車線逸脱、注意散漫運転、及び不安全な車間距離に起因する追加のリスクパターンを検出するためにマシンビジョンを使用する。
オ 「Lytx is accelerating its machine learning through its large and growing data set, Nixon says. The company now has ActiveVision outfitted on more than 50,000 vehicles. Its DriveCam platform is installed in more than 400,000 vehicles.」
(訳)
Lytxは、大規模かつ増加し続けるデータセットによって機械学習を加速しているとNixonは述べている。同社は現在、50,000台以上の車両にActiveVisionを搭載している。そのDriveCamプラットフォームは、40万台以上の車両に搭載されている。
(2)甲2から把握できる事項
ア 上記(1)イから、甲2には、機械学習は、車載のエッジコンピューティングデバイスが「トリガー」イベントを検知することから始まり、トリガーイベントが発生すると、デバイスは、統合されたカメラからのストリーミング映像及びデータに加え、車両データバス及びセンサーからのデータを、映像及びデータイベントファイルとして取得し、クラウド上のサーバへ送信し、教師あり学習が開始されることが記載されているといえる。
上記(1)ウから、甲2には、機械学習のプロセスは、エッジデバイス内のアルゴリズムを更新し、この「マシンビジョン」アルゴリズムは、より多くのトリガーイベントや危険な行動を、自動的に、かつより正確に識別できることが記載されているといえる。
上記(1)エから、甲2には、「DriveCamプラットフォーム」は、リスクパターンを検出するためのマシンビジョンを使用することが記載されているといえる。
そうすると、甲2には、「統合されたカメラからのストリーミング映像及びデータと、車両データバス及びセンサーからのデータを映像及びデータイベントファイルとして使用して教師あり学習が開始され、更新されたマシンビジョンアルゴリズムを使用してリスクパターンを検出する検出手段を備え」る「DriveCamプラットフォーム」が記載されているといえる。
イ 上記(1)イのとおり、甲2には、イベントファイルは行動分析者によってレビューされ、アルゴリズムが映像及びイベントデータに適切に「タグ付け」しているかが検証されることが記載されている。
ウ 上記(1)オのとおり、甲2には、DriveCamプラットフォームは、車両に搭載されていることが記載されているといえる。
(3)甲2に記載された発明
上記(2)から、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「 車両に搭載され、
統合されたカメラからのカメラストリーミング映像及びデータと、車両データバス及びセンサーからのデータを映像及びデータイベントファイルとして使用して教師あり学習が開始され、更新されたマシンビジョンアルゴリズムを使用してリスクパターンを検出する検出手段
を備え、
イベントファイルは行動分析者によってレビューされ、アルゴリズムが映像及びイベントデータに適切に「タグ付け」しているかが検証される、
DriveCamプラットフォーム。」
3 甲3に記載されている事項
「本モニター制度は、当社の自動車保険のご契約者を対象に、スマートフォンの専用アプリ『Visual Drive』を活用した安全運転診断等のサービスを一定期間、試験的に提供するものです。」
「テレマティクス自動車保険では、保険を付保している車両の走行データを取得する必要があり、その方法は様々です。例えばスマートフォンに内蔵されているGPSや加速度センサーにより、スピードや走行時間帯、急加速・急減速といったデータを取得することが可能です。」
「また、この仕組みでは走行データを運転終了後に纏めて一括で送信し、その通信回線もWi-Fiに限定することが可能なので、利用者にとって負担感無く利用することができます。」
4 甲4に記載されている事項
「ドライバーが免許証をICカードリーダーにタッチして運転を開始するだけで、車両の位置、ふらつきや車間距離、急ハンドルや急ブレーキ、動態などのデータが、通信機能により自動でクラウドセンターへ送信されます。」
「本サービスを利用する全ての車両の走行データや映像データを蓄積・解析することで、事故リスクの高い地点を抽出し、ヒヤリハットマップを作成します。」
「単に急ブレーキの地点を表示するだけではなく、飛び出しや追突など具体的な要因別にデータが蓄積されます。これらは時間帯や要因、自社のみなど表示を切替えて確認することが可能です。」
「無線通信ユニットを搭載しているため、リアルタイムにドライバーの運転特性データを収集できます。」
5 甲5に記載されている事項
「NTT コミュニケーションズ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:庄司哲也、以下 NTT Com)と日本カーソリューションズ株式会社(本社:東京都千代田区、:代表取締役社長 野上誠、以下 NCS)は、AI(人工知能)技術「ディープラーニング※1 による物体検出アルゴリズム」 を用いて、ドライブレコーダーの映像から道路標識などを抽出し、センサーデータ(速度)と組み合わせることで、「車両が道路標識などにより一時停止すべきことが指定されている場所で、一時停止しなかった事象(以下 本事象)」を検知するアルゴリズムを確立しました。」
「NTT Com は、2016 年より車両向けディープラーニング技術の開発に取り組み、ドライブレコーダーのデータ解析による「ヒヤリハット」の検知に成功しています。この知見から、映像や速度などマルチモーダル※4 な時系列データを、AI を活用して分析することにより、交通ルールに沿った運転が行われているかを自動で判別できると考え、両社でデータ解析に関する実験を開始しました。」
「「NCS ドライブドクター」は走行中の運行データを自動的に転送することで、車両の運行状況や運転者の安全運転実施状況を Web 上で把握でき、運転映像も録画できるテレマティクス運行管理サービス。」
6 甲6に記載されている事項
「【0041】
この検出部6は、位置情報取得部61と、センサ62と、速度情報取得部63と、地図情報取得部64とを有する。」
「【0345】
なお、検出部1001、挙動学習部1002および挙動推定部1003の全てまたは一部は、車両に備えられていてもよく、その車両の外部に備えられていてもよい。情報処理システム1000に含まれるこれらの構成要素のうち、一部の構成要素が車両に備えられ、残りの一部の構成要素が車両の外部に備えられる場合には、車両の内外にある構成要素は、例えばネットワークを介した通信を行うことによって、上述の各処理を実行する。」
7 甲7に記載されている事項
「トラックなどの貨物商用車に搭載された全国約3万台のデジタルタコグラフから1秒間隔で集められたデータを基に、ドライバーが1秒間に時速10km以上の減速を行った地点(以下、急ブレーキ多発地点)を集計した結果を、一覧表データや地図、現地写真などの形式で提供する。」
「「付加情報情報提供サービス」として、急ブレーキ多発地点に視覚的にわかりやすいマークを付けたA4サイズの地図をPDF化してオンライン提供する。さらに「情報加工サービス」として、急ブレーキ多発地点をマッピングしたA0サイズのポスター型道路地図も提供。」(原文ママ)
8 甲8に記載されている事項
「当社は渋滞情報の他にも、車載機から収集した走行履歴データなどを分析し、ドライバーが急ブレーキを踏んだと思われる地点をヒヤリハット※3につながる「急減速多発地点データ」として蓄積しています。急ブレーキを踏むことが多い地点と事故発生地点との相関は高いと言われており、ドライバーが急減速する要因を分析し、その改善策を施すことが事故発生件数の低減につながると期待されています。
当社の「急減速多発地点データ」は、事故につながる可能性のある地点として地図上に表示し、道路形状・周辺環境の分析、改善策の検討に活用できます。また、改善策を実施した後に、「急減速多発地点データ」の実施前後の変化を分析することで、改良効果を図ることもできます。本データは、日本全国または都道府県別のデータとして提供することが可能です。」
「※2 自動車のさまざまな走行データを、通信機能を搭載したカーナビゲーション経由で専用サーバーに収集し、集積された情報をネットワーク経由でユーザー同士が共有するパイオニア独自のネットワークシステム。国内市販向けカーエレクトロニクス製品のブランドであるカロッツェリアの「サイバーナビ」や「楽ナビ」などに採用。」
9 甲9に記載されている事項
「本論文では,運転者や通行者が注意を払うべき潜在リスクを持つ交差点を大規模なドライブレコーダデータから検知する手法を提案する.」
「本論文では,大規模な業務用ドライブレコーダデータを用いて,道路上での運転操作の特徴に関して詳細に分析し,さらに運転が行われた道路や天候の状況などの異種データを統合して潜在的リスクのある道路を検知する手法を提案する.」
第5 当審の判断
1 理由1(進歩性)について
1-1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 「車両の運転者の運転挙動に関する観測情報と加速度又は速度を含む情報とを利用して生成又は更新された学習モデルを用いて、ネットワークを介して取得される加速度又は速度を含む情報に基づいて、車両の運転者の運転挙動を推定する推定部、」について
(ア)甲1発明は、「Network Architectureで特定される学習モデルは、センサデータ及び画像データに基づいて時系列モデリングされ、車内に設置され、前方映像、加速度、ウィンカ操作、ブレーキ操作などの車両運行状況を記録するドライブレコーダの、センサデータ及び画像データを含むドライブレコーダデータに、訓練された人間によるヒヤリハットレベルと、非ヒヤリハットのラベルが付与されることで用意された200件の正解データに対して、70%の140件が訓練データとして用いられ、センサデータとして、GPS、ウィンカ操作、ブレーキ操作などの中から、X,Y,Z方向の加速度とスピードの4種類が使用され、ヒヤリハット分類ユニットは、ヒヤリハットと非ヒヤリハットのいずれかのラベルを推定する」ものである。
(イ)そして、甲1発明において、ドライブレコーダデータに、ヒヤリハットレベルと、非ヒヤリハットのラベルが付与されることで用意された200件の正解データに対して、70%の140件が訓練データとして用いられることから、甲1発明の「学習モデル」の訓練に、ドライブレコーダデータに付与される「ヒヤリハットレベルと、非ヒヤリハットのラベル」が利用されていることは明らかである。そうすると、甲1発明の当該「ヒヤリハットレベルと、非ヒヤリハットのラベル」と、本件発明1の「車両の運転者の運転挙動に関する観測情報」とは、「車両の運転に関する学習モデル利用情報」である点で共通する。
(ウ)他方、本件発明1は、学習モデルの生成又は更新に利用される「観測情報」が、車両の運転者の「運転挙動」に関するものであるのに対し、甲1発明は、学習モデルの訓練に利用される「ヒヤリハットレベルと、非ヒヤリハットのラベル」が、車両の運転者の「運転挙動」に関するものであるか判然としない点で相違する。
(エ)また、甲1発明の「X,Y,Z方向の加速度」及び「スピード」は、それぞれ本件発明1の「加速度」及び「速度」に相当し、甲1発明の「センサデータ」は、「X,Y,Z方向の加速度とスピードを含む」ことから、本件発明1の「加速度又は速度を含む情報」に相当する。
さらに、「学習モデル」の訓練が、学習モデルの生成又は更新であることは明らかである。
そうすると、甲1発明の「学習モデル」と、本件発明1の「車両の運転者の運転挙動に関する観測情報と加速度又は速度を含む情報とを利用して生成又は更新された学習モデル」とは、「車両の運転に関する学習モデル利用情報と加速度又は速度を含む情報とを利用して生成又は更新された学習モデル」との点で共通する。
他方、本件発明1と甲1発明とは、上記(ウ)の点で相違する。
(オ)また、上記(イ)を踏まえると、甲1発明の「ヒヤリハット分類ユニット」と、本件発明1の「学習モデルを用いて、ネットワークを介して取得される加速度又は速度を含む情報に基づいて、車両の運転者の運転挙動を推定する推定部」とは、「学習モデルを用いて、加速度又は速度を含む情報に基づいて、車両の運転に関する推定情報を推定する推定部」との点で共通する。
(カ)他方、本件発明1は、推定部が、「ネットワークを介して取得される加速度又は速度を含む情報」に基づいて車両の運転者の「運転挙動」を推定するのに対し、甲1発明は、ヒヤリハット分類ユニットが、「ネットワークを介して取得される加速度又は速度を含む情報」に基づいてヒヤリハットと非ヒヤリハットのいずれかのラベルを推定するか判然としておらず、ヒヤリハットと非ヒヤリハットのいずれかのラベルが、車両の運転者の「運転挙動」であるか判然としない点で相違する。
(キ)したがって、本件発明1と甲1発明とは、「車両の運転に関する学習モデル利用情報と加速度又は速度を含む情報とを利用して生成又は更新された学習モデルを用いて、加速度又は速度を含む情報に基づいて、車両の運転に関する推定情報を推定する推定部」の点で共通する。
他方、本件発明1と甲1発明とは、上記(ウ)(カ)の点で相違する。
イ 「前記観測情報は、運転者の挙動に関して当該運転者以外の者が入力した観察情報を含み、」について
(ア)甲1発明は、「車内に設置され、前方映像、加速度、ウィンカ操作、ブレーキ操作などの車両運行状況を記録するドライブレコーダの、センサデータ及び画像データを含むドライブレコーダデータに、訓練された人間によるヒヤリハットレベルと、非ヒヤリハットのラベルが付与されることで用意された200件の正解データに対して、70%の140件が訓練データとして用いられ、センサデータとして、GPS、ウィンカ操作、ブレーキ操作などの中から、X,Y,Z方向の加速度とスピードの4種類が使用され、ヒヤリハット分類ユニットは、ヒヤリハットと非ヒヤリハットのいずれかのラベルを推定する」ものである。
(イ)甲1発明の、ドライブレコーダデータにラベルを付与する「訓練された人間」が、運転者以外の者であることは明らかである。
そして、上記ア(イ)を踏まえると、甲1発明の「ヒヤリハットレベルと、非ヒヤリハットのラベル」がドライブレコーダデータに付与されることと、本件発明1の「観測情報」が「運転者の挙動に関して当該運転者以外の者が入力した観察情報を含」むこととは、学習モデル利用情報が「運転に関して運転者以外の者が入力した情報」である点で共通する。
(ウ)他方、本件発明1は、「観測情報」が、「運転者の挙動に関して」当該運転者以外の者が入力した「観察情報」を「含む」のに対し、甲1発明は、「ヒヤリハットレベルと、非ヒヤリハットのラベル」は「センサデータ及び画像データに基づいて時系列モデリングされ、車内に設置され、前方映像、加速度、ウィンカ操作、ブレーキ操作などの車両運行状況を記録するドライブレコーダの、センサデータ及び画像データを含むドライブレコーダデータ」に付与されるものであるものの、「運転者の挙動に関して」当該運転者以外の者が入力した「観察情報」を「含む」といえるか判然としない点で相違する。
(エ)したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記学習モデル利用情報は、運転に関して運転者以外の者が入力した情報を含」む点で共通する。
他方、本件発明1と甲1発明とは、上記(ウ)の点で相違する。
ウ 「前記推定部により推定された車両の運転者の運転挙動に関する情報は、複数の車両の運転者の危険運転の発生位置に関する情報の生成に用いられる情報である」について
本件発明1と甲1発明とは、上記ア(カ)の相違点について、さらに、本件発明1は、「前記推定部により推定された車両の運転者の運転挙動に関する情報」は、「複数の車両の運転者の危険運転の発生位置に関する情報の生成に用いられる情報」であるのに対し、甲1発明は、「ヒヤリハット分類ユニット」により推定される「ヒヤリハットと非ヒヤリハットのいずれかのラベル」が、「複数の車両の運転者の危険運転の発生位置に関する情報の生成に用いられる情報」でない点で相違する。
エ 「推定部」を備える「情報処理装置」について
甲1発明は「ヒヤリハット分類ユニットを含むNetwork Architectureが実装される情報処理装置」であって、上記ア、イの構成を有するから、甲1発明と本件発明1とは、後述する相違点は別にして、「推定部」を備える「情報処理装置」の点で一致する。
オ 一致点及び相違点について
そうすると、本件発明1と甲1発明との間には、次のとおりの一致点及び相違点がある。
<一致点>
「車両の運転に関する学習モデル利用情報と加速度又は速度を含む情報とを利用して生成又は更新された学習モデルを用いて、加速度又は速度を含む情報に基づいて、車両の運転に関する推定情報を推定する推定部を備え、
前記学習モデル利用情報は、運転に関して運転者以外の者が入力した情報を含む
情報処理装置。」
<相違点>
(相違点1)
本件発明1は、学習モデルの生成又は更新に利用される「観測情報」が、車両の運転者の「運転挙動」に関するものであるのに対し、甲1発明は、学習モデルの訓練に利用される「ヒヤリハットレベルと、非ヒヤリハットのラベル」が、車両の運転者の「運転挙動」に関するものであるか判然としない点。
(相違点2)
本件発明1は、推定部が、「ネットワークを介して取得される加速度又は速度を含む情報」に基づいて車両の運転者の「運転挙動」を推定し、この車両の運転者の運転挙動に関する情報は、「複数の車両の運転者の危険運転の発生位置に関する情報の生成に用いられる情報」であるのに対し、甲1発明は、ヒヤリハット分類ユニットが、「ネットワークを介して取得される加速度又は速度を含む情報」に基づいてヒヤリハットと非ヒヤリハットのいずれかのラベルを推定するか判然としておらず、ヒヤリハットと非ヒヤリハットのいずれかのラベルが、車両の運転者の「運転挙動」であるか判然としておらず、「複数の車両の運転者の危険運転の発生位置に関する情報の生成に用いられる情報」でない点。
(相違点3)
本件発明1は、「観測情報」が、「運転者の挙動に関して」当該運転者以外の者が入力した「観察情報」を「含む」のに対し、甲1発明は、「ヒヤリハットレベルと、非ヒヤリハットのラベル」は「センサデータ及び画像データに基づいて時系列モデリングされ、車内に設置され、前方映像、加速度、ウィンカ操作、ブレーキ操作などの車両運行状況を記録するドライブレコーダの、センサデータ及び画像データを含むドライブレコーダデータ」に付与されるものであるものの、「運転者の挙動に関して」当該運転者以外の者が入力した「観察情報」を「含む」といえるか判然としない点。
(2)判断
ア 相違点について
事案に鑑み、相違点1、3をまとめて検討する。
甲2~9には、上記第4の2~9のとおりの技術的事項は記載されているものの、学習モデルの生成又は更新のために「運転者の挙動に関して」入力した「観察情報」を利用することは記載されておらず、示唆もされていない。
したがって、甲1発明に、甲2~9に記載された技術的事項を適用しても、上記相違点1、3の構成に至らない。
また、甲1~9には、運転者の挙動に関して入力した観察情報を含む観測情報を利用することが記載も示唆もされていないことから、甲2発明を、主引用発明として、甲1、3~9に記載された技術的事項を適用しても、上記相違点1、3の構成に至らないことは明らかである。
イ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書で、概略、次のように主張する。
甲1発明における、「ドライブレコーダの画像データは、訓練された人間によるヒヤリハットレベルと,非ヒヤリハットのラベルが付与されており、実際のドライブレコーダデータを用いたヒヤリハットデータベースのデータ」は、本件発明1における、「前記観測情報は、運転者の挙動に関して当該運転者以外の者が入力した観察情報」であることに相当する。(特許異議申立書第23頁「ウ(ア)」)
甲2発明における、「映像データは、行動分析者によって検証されたタグが付与されており、複数の車両によって撮影されたイベント発生時の映像を含むデータセット」は、本件発明1における、「前記観測情報は、運転者の挙動に関して当該運転者以外の者が入力した観察情報」であることに相当する。(特許異議申立書第30頁「オ(ア)」)
しかしながら、甲1には、ドライブレコーダデータは、車内に設置され、前方映像、加速度、ウィンカ操作、ブレーキ操作などの車両運行状況を記録したデータであって、このデータに付与される甲1発明のヒヤリハットレベルと、非ヒヤリハットのラベルが、「運転者の挙動に関」する「観察情報」である旨の記載はない。
また、甲2には、「分析者は、リスクの根本原因に関する観察に基づき、必要に応じてメタデータのタグを修正又は追加することができる」と記載されているものの、甲2発明の「行動分析者によって検証されたタグ」が、「運転者の挙動に関」する「観察情報」である旨の記載はない。
よって、申立人の上記主張に理由はない。
(3)小括
以上のとおりであるから、相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~9に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない(理由1-1について)。また、本件発明1は、甲2発明及び甲1、3~9に記載された技術的事項に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものではない(理由1-2について)。
1-2 本件発明2~3について
本件発明2~3は、本件発明1を引用する発明であり、いずれも、上記相違点1、3に係る構成を備えるものである。
よって、上記1-1と同じ理由で、本件発明2~3は、いずれも、甲1発明及び甲2~9に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲2発明及び甲1、3~9に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
1-3 本件発明4~6について
本件発明4~6は、本件発明1~3に対応する「方法」の発明であるから、上記1-1及び1-2と同様の理由で、本件発明4~6は、いずれも、甲1に記載された発明及び甲2~9に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲2に記載された発明及び甲1、3~9に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
2 理由2(サポート要件)、理由3(明確性)について
(1)申立人の主張する申立理由の概要
ア 申立理由2(サポート要件)について
(ア)主張その1
本件明細書の発明の詳細な説明の【0005】、【0014】、【0019】、【0024】、【0026】、【0050】の記載によれば、学習モデルの生成又は更新に利用される情報は、「車両の運転者の保持するモバイル端末が取得する、(a1)加速度情報、(a2)回転速度情報を含む情報」である。また、学習モデルを用いて算出(推定)されるのは、「端末取得情報に基づく車両の運転者の運転挙動推定値」である。
本件特許の各請求項に係る発明は、学習モデルの生成又は更新に、「(何らの限定のない)加速度又は速度を含む情報」を利用しており、これは、例えば車両が観測する加速度や速度も含む、「加速度又は速度」に関連する広範な情報を意味している。また、学習モデルによる推定も「車両の運転者の運転挙動」という曖昧な概念を推定するものとなっている。
したがって、本件特許の各請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。(特許異議申立書第34~35頁「(その1)」)
(イ)主張その2
本件明細書の発明の詳細な説明の【0027】の記載によれば、観察情報は、「運転者以外の同乗者の持つ端末から入力される情報」である。
本件特許の請求項1及び4に係る発明における、「観察情報」は、「運転者以外の同乗者」に限らず、任意の第三者により運転者の挙動(後日撮影した動画像を含む)を適宜の手段により入力した情報も含まれるものとなっている。
したがって、本件特許の請求項1及び4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。(特許異議申立書第36頁「(その2)」)
イ 申立理由3(明確性)について
(ア)主張その3-1
請求項1には「車両の運転者の運転挙動に関する観測情報と加速度又は速度を含む情報・・・ネットワークを介して取得される加速度又は速度を含む情報・・・前記観測情報は、運転者の挙動に関して当該運転者以外の者が入力した観察情報を含み・・・」との記載がある。
ここで、「運転者の運転挙動に関する観測情報」という用語は、本件明細書の【0026】、【0030】、【0031】の記載により、(b1)車両前後方向加速度情報、(b2)車両左右方向加速度情報、及び(b3)端末操作情報、を意味するものであると解される。
そうすると、「運転者の運転挙動に関する観測情報」と、「加速度又は速度を含む情報」の「加速度」との関係が不明確である。また、「ネットワークを介して取得される加速度」が、「運転者の運転挙動に関する観測情報」と「加速度又は速度を含む情報」のどちらを指し示しているのかが不明確である。(特許異議申立書第36~37頁「(4-3)」)
(イ)主張その3-2
請求項1における、「運転者の運転挙動」と、「運転者の挙動」が異なる意味を持つのかが不明確である。さらに、請求項1に記載された、「車両の運転者の運転挙動に関する観測情報」と、「車両の運転者の運転挙動に関する情報」が異なるものであるか否かが不明確である。(特許異議申立書第37頁「(4-3)」)
(ウ)主張3-3
請求項1における、「運転者以外の者」という用語は、本件明細書の発明の詳細な説明の【0027】に記載されている、「車両10の運転者以外の同乗者」を指し示しているのか、「車両10の運転者以外の同乗者」以外の者を含むのかが不明確である。(特許異議申立書第37頁「(4-3)」)
(2)判断
ア 上記(1)アの主張その1(サポート要件)、上記(1)イの主張3-1(明確性)について
(ア)主張その1(サポート要件)について
申立人は、本件特許の各請求項に係る発明について、学習モデルの生成又は更新に利用する「加速度又は速度を含む情報」が、「加速度又は速度」に関連する広範な情報を意味し、また、学習モデルによる推定も「車両の運転者の運転挙動」という曖昧な概念を推定するものとなっている旨を主張するものの、請求項の用語が広範な情報を意味することや、曖昧な概念を含むことのみでは、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでない、ということはできない。
よって、申立人の当該主張は失当である。
(イ)主張その3-1(明確性)について
A 請求項1には、「車両の運転者の運転挙動に関する観測情報と加速度又は速度を含む情報とを利用して生成又は更新された学習モデルを用いて、ネットワークを介して取得される加速度又は速度を含む情報に基づいて、車両の運転者の運転挙動を推定する」と記載されている。
この記載から、「運転者の運転挙動に関する観測情報」は、その記載のとおり、運転者の運転挙動に関する観測情報であり、また、「加速度又は速度を含む情報とを利用して生成又は更新された学習モデル」との記載における「加速度又は速度を含む情報」は、加速度又は速度を含む情報である。そして、これらの情報は、ともに「学習モデル」の生成又は更新に利用されるものである。さらに、「ネットワークを介して取得される加速度又は速度を含む情報」は、ネットワークを介して取得される加速度又は速度を含む情報であって、当該情報に基づき車両の運転者の運転挙動を推定するものである。
したがって、請求項1の記載は明確である。
B また、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0026】【0030】【0031】には、観測情報60は、(b1)車両前後方向加速度情報、(b2)車両左右方向加速度情報、(b3)端末操作情報の情報によって構成されることが記載され、また、観測情報(=運転挙動情報)は、車両10のECUのOBDや、その他の入力情報によって構成される観測情報60であり、(b1)~(b3)の様々な観測情報(=運転挙動情報)であることが記載されており、これらの記載は、請求項1の上記Aの解釈と矛盾しない。
C そうすると、請求項1は、上記Aのとおり明確である。
よって、申立人が主張する主張その3-1に理由はない。
イ 上記(1)イの主張その3-2(明確性)について
請求項1には、「車両の運転者の運転挙動に関する観測情報と加速度又は速度を含む情報とを利用して生成又は更新された学習モデル」、「前記観測情報は、運転者の挙動に関して当該運転者以外の者が入力した観察情報を含み」と記載されている。
これらの記載から、「運転者の運転挙動」は、運転者の運転挙動であって、「学習モデル」の生成又は更新に利用される「観測情報」は、当該「運転者の運転挙動」に関するものである。「運転者の挙動」は、運転者の挙動であって、当該運転者以外の者が入力した「観察情報」は、当該「運転者の挙動」に関するものである。
そうすると、「運転者の運転挙動」、「運転者の挙動」、「車両の運転者の運転挙動に関する観測情報」、「車両の運転者の運転挙動に関する情報」との記載は、いずれも明確であり、「運転者の運転挙動」と「運転者の挙動」との関係、「車両の運転者の運転挙動に関する観測情報」と「車両の運転者の運転挙動に関する情報」との関係も明らかである。
よって、申立人が主張する主張その3-2に理由はない。
ウ 上記(1)アの主張その2(サポート要件)、上記(1)イの主張その3-3(明確性)について
事案に鑑み、明確性、サポート要件の順で検討する。
(ア)主張その3-3(明確性)について
A 請求項1には、「前記観測情報は、運転者の挙動に関して当該運転者以外の者が入力した観察情報を含み」と記載されており、「運転者以外の者」が、その記載のとおり、運転者以外の者を意味することは明らかである。
B また、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0027】には、端末操作情報は、例えば、車両10の運転者以外の同乗者の持つ端末から入力される情報であり、運転者がモバイル端末20を操作しているか否かを示す実際の観察情報であることが記載されており、「運転者以外の同乗者」が、「運転者以外の者」であることは明らかである。そして、「例えば」とあるように、当該記載は、「同乗者」以外の者を排除するものであるとは認められない。そして、請求項1の「観測情報」が「運転者の運転挙動に関する」ものであることについての解釈と矛盾しない。
C そうすると、請求項1は、上記Aのとおり明確である。
よって、申立人が主張する主張その3-3に理由はない。
(イ)主張その2(サポート要件)について
上記(ア)のとおり、請求項1の「前記観測情報は、運転者の挙動に関して当該運転者以外の者が入力した観察情報を含み」との事項は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって、申立人が主張する主張その2に理由はない。
第6 むすび
以上の次第であるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700392