特許異議申立
2024-700591
エポキシ樹脂組成物
- 審判番号
- 2024-700591
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-055058
- 登録番号
- 7404127
- 請求日
- 2024年06月21日
- 審決日
- 2026年03月26日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】旭化成株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】内藤 和彦
- 【権利者代理人】白幡 文吾
- 【権利者代理人】大貫 敏史
- 【権利者代理人】江口 昭彦
- 【異議申立人】佐伯 圭佑
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 松本 直子
- 審判官 加藤 幹
- 分類
- P1651.853-ZB (C08G) / P1651.113-ZB (C08G) / P1651.121-ZB (C08G) / P1651.537-ZB (C08G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項特許法29条2項特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7404127号発明「エポキシ樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7404127号の請求項1ないし9に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7404127号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和2年3月25日を出願日とする出願(特願2020-55058号)であって、令和5年12月15日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和6年6月21日に、本件特許の請求項1~9に係る特許に対して、特許異議申立人 佐伯 圭佑(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた(以下「特許異議申立書」を「申立書」という。)。
以後の手続は以下のとおりである。
令和6年 9月20日付け 取消理由通知
同年11月21日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年12月18日 手続補正書(方式)の提出(特許権者)
同年 同月26日付け 訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
令和7年 2月 4日 意見書の提出(申立人)
同年 4月 3日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 6月 2日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 同月 9日付け 訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
同年 7月10日 意見書の提出(申立人)
同年 8月28日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年10月31日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年11月 7日付け 訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
同年12月11日 意見書の提出(申立人)
令和8年 1月13日付け 訂正拒絶理由通知
同年 2月16日 手続補正書及び意見書の提出(特許権者)
なお、令和6年11月21日提出及び令和7年6月2日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正請求の趣旨及び訂正事項について
令和7年10月31日提出の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正は、「特許第7404127号(以下、「本件特許」という)の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求める。」ことを請求の趣旨とするものであって、その訂正事項は、訂正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含み、前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上である、」と記載されているのを、
「下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含み、前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上であり、前記成分(B)の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体に対して、21.67質量%以上40質量%以下であり(ただし、マスターバッチ型硬化剤を用いる場合は、マスターバッチ型硬化剤全体の含有量を成分(B)の含有量とする)、前記成分(C)の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体に対して、0.93質量%以下である、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
明細書の実施例(【0053】~【0055】、【0058】~【0061】)において、「実施例1」~「実施例5」及び「実施例7」と記載されているのを、それぞれ「参考例1」~「参考例6」に訂正する。具体的には以下のとおりである。
・【0053】に「実施例1~8」と記載されているのを、「実施例6及び8、参考例1~6」に訂正する。
・【0054】の【表1-1】に、「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」と記載されているのを、それぞれ「参考例1」、「参考例2」、「参考例3」に訂正し、【表1-2】に、「実施例4」と記載されているのを、「参考例4」に訂正し、【表1-3】に、「実施例5」と記載されているのを、「参考例5」に訂正し、【表1-4】に、「実施例7」と記載されているのを、「参考例6」に訂正する。
・【0055】に、「実施例1~3」、「実施例4」、「実施例5」、「実施例6~8」(各2箇所)と記載されているのを、それぞれ「参考例1~3」、「参考例4」、「参考例5」、「実施例6及び8並びに参考例6」(各2箇所)に訂正する。
・【0058】に「実施例1~3及び6~8」と記載されているのを、「参考例1~3、実施例6及び8、参考例6」に訂正する。
・【0059】の【表3】に、「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」、「実施例7」と記載されているのを、それぞれ「参考例1」、「参考例2」、「参考例3」、「参考例6」に訂正する。
・【0060】に「実施例5及び6」(2箇所)と記載されているのを、「参考例5及び実施例6」に訂正する。
・【0061】の【表4】に、「実施例5」と記載されているのを、「参考例5」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に「下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含むエポキシ樹脂組成物の製造方法であって、成分(A)及び成分(B)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程を含み、前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上である、」と記載されているのを、
「下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含むエポキシ樹脂組成物の製造方法であって、成分(A)及び成分(B)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程を含み、前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上であり、前記成分(B)の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体に対して、21.67質量%以上40質量%以下であり(ただし、マスターバッチ型硬化剤を用いる場合は、マスターバッチ型硬化剤全体の含有量を成分(B)の含有量とする)、前記成分(C)の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体に対して、0.93質量%以下である、」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項9も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
明細書の実施例(【0053】~【0055】、【0058】~【0061】)において、「実施例1」~「実施例5」及び「実施例7」と記載されているのを、それぞれ「参考例1」~「参考例6」に訂正する(具体的には、訂正事項2に示したとおりである。)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9において、従属関係を「請求項7又は8」から「請求項7」に訂正する。
(8)一群の請求項について
訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は独立請求項である請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項7~9について、請求項8、9は独立請求項である請求項7を引用しているものであって、訂正事項4によって記載が訂正される請求項7に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項7~9に対応する訂正後の請求項7~9は特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
さらに、訂正事項2による明細書(【0053】~【0055】、【0058】~【0061】)の訂正は、一群の請求項を構成する請求項1~6について請求するものであり、訂正事項5による明細書(【0053】~【0055】、【0058】~【0061】)の訂正は、一群の請求項を構成する請求項7~9について請求するものである。
2 訂正拒絶理由の概要
令和8年1月13日付け訂正拒絶理由通知の概要は、以下のとおりである。
訂正事項1及び4は、設定登録時の請求項1に記載されていた「成分(B)」について、その含有量を特定し、かつ、「ただし、マスターバッチ型硬化剤を用いる場合は、マスターバッチ型硬化剤全体の含有量を成分(B)の含有量とする」(以下「ただし書部分」という。)とする訂正を含んでいるが、当該ただし書部分の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1~4号に掲げる事項を目的とするものではなく、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものでもないから、訂正事項1及び4による訂正は認められない。
そして、本件訂正の請求は、一群の請求項を構成する請求項1~6並びに一群の請求項を構成する請求項7~9に対するものであるが、訂正は一体不可分な一群の請求項ごとにしなければならないところ、上述のとおり、請求項1及び7についての訂正の請求が認められない。
したがって、一群の請求項を構成する請求項1~6並びに一群の請求項を構成する請求項7~9についてする本件訂正は、認めることができない。
3 令和8年2月16日提出の手続補正書による手続補正について
(1)手続補正の内容
令和8年2月16日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、令和8年1月13日付け訂正拒絶理由通知に対して、本件訂正請求書の「7 請求の理由」及び本件訂正請求書に添付する訂正特許請求の範囲の全文を、上記手続補正書に添付した訂正請求書及び訂正特許請求の範囲のとおり補正しようとするものである。
本件補正は、以下のア(ア)及びイ(ア)に示す本件補正前の訂正事項1及び4(上記1(1)及び(4)と同じ)を、それぞれ以下のア(イ)及びイ(イ)に示す本件補正後の訂正事項1及び4に変更する補正事項からなるものである(下線は補正箇所を示す。)。
ア 訂正事項1
(ア)本件補正前
特許権の設定の登録時の請求項1に「下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含み、前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上である、」と記載されているのを、「下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含み、前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上であり、前記成分(B)の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体に対して、21.67質量%以上40質量%以下であり(ただし、マスターバッチ型硬化剤を用いる場合は、マスターバッチ型硬化剤全体の含有量を成分(B)の含有量とする)、前記成分(C)の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体に対して、0.93質量%以下である、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する。)
(イ)本件補正後
特許権の設定の登録時の請求項1に「下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含み、前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上である、」と記載されているのを、「下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含み、前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上であり、前記成分(B)の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体に対して、21.67質量%以上40質量%以下であり(ただし、固体のイミダゾール系マイクロカプセル型硬化剤を含むマスターバッチ型潜在性硬化剤を用いる場合は、当該マスターバッチ型潜在性硬化剤全体の含有量を成分(B)の含有量とする)、前記成分(C)の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体に対して、0.93質量%以下である、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する。)
イ 訂正事項4
(ア)本件補正前
特許権の設定の登録時の請求項7に「下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含むエポキシ樹脂組成物の製造方法であって、成分(A)及び成分(B)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程を含み、前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上である、」と記載されているのを、「下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含むエポキシ樹脂組成物の製造方法であって、成分(A)及び成分(B)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程を含み、前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上であり、前記成分(B)の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体に対して、21.67質量%以上40質量%以下であり(ただし、マスターバッチ型硬化剤を用いる場合は、マスターバッチ型硬化剤全体の含有量を成分(B)の含有量とする)、前記成分(C)の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体に対して、0.93質量%以下である、」に訂正する。
(イ)本件補正後
特許権の設定の登録時の請求項7に「下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含むエポキシ樹脂組成物の製造方法であって、成分(A)及び成分(B)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程を含み、前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上である、」と記載されているのを、「下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含むエポキシ樹脂組成物の製造方法であって、成分(A)及び成分(B)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程を含み、前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上であり、前記成分(B)の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体に対して、21.67質量%以上40質量%以下であり(ただし、固体のイミダゾール系マイクロカプセル型硬化剤を含むマスターバッチ型潜在性硬化剤を用いる場合は、当該マスターバッチ型潜在性硬化剤全体の含有量を成分(B)の含有量とする)、前記成分(C)の含有量が、エポキシ樹脂組成物全体に対して、0.93質量%以下である、」に訂正する。
(2)本件補正の適否についての判断
ア 判断の基準
訂正拒絶理由通知に対しては、訂正事項の削除、軽微な瑕疵の補正等、訂正請求書の要旨を変更しないものであれば補正することができる。しかし、新たに訂正事項を加えることや、訂正事項を変更することは、訂正の要旨を変更するものである。(特許法120条の5第9項で準用する同法131条の2第1項。審判便覧67-05.3の4.(3)イ参照)
イ 訂正事項1について
本件補正前後の訂正事項1に係る訂正の内容は、上記(1)ア(ア)及び(イ)のとおり、本件補正前に、「(ただし、マスターバッチ型硬化剤を用いる場合は、マスターバッチ型硬化剤全体の含有量を成分(B)の含有量とする)」と記載されていたのを、「(ただし、固体のイミダゾール系マイクロカプセル型硬化剤を含むマスターバッチ型潜在性硬化剤を用いる場合は、当該マスターバッチ型潜在性硬化剤全体の含有量を成分(B)の含有量とする)」とするものである(下線は、補正箇所のうち、具体的に変更されている箇所である。)。
上記補正により、訂正事項1のただし書部分の訂正は、「マスターバッチ型硬化剤を用いる場合」から、「固体のイミダゾール系マイクロカプセル型硬化剤を含むマスターバッチ型潜在性硬化剤を用いる場合」に変更されるから、実質的に訂正請求時の訂正事項の内容を変更するものであって、訂正事項の削除、軽微な瑕疵の補正とはいえない。
そうすると、訂正事項1に係る手続補正は、本件訂正請求書の要旨を変更するものである。
ウ 訂正事項4について
本件補正前後の訂正事項4に係る訂正の内容は、上記(1)イ(ア)及び(イ)のとおり、本件補正前に、「(ただし、マスターバッチ型硬化剤を用いる場合は、マスターバッチ型硬化剤全体の含有量を成分(B)の含有量とする)」と記載されていたのを、「(ただし、固体のイミダゾール系マイクロカプセル型硬化剤を含むマスターバッチ型潜在性硬化剤を用いる場合は、当該マスターバッチ型潜在性硬化剤全体の含有量を成分(B)の含有量とする)」とするものである(下線は、補正箇所のうち、具体的に変更されている箇所である。)。
そうすると、上記イと同様の理由により、訂正事項4に係る手続補正は、本件訂正請求書の要旨を変更するものである。
(3)令和8年2月16日提出の意見書による特許権者の主張について
ア 特許権者は、令和8年2月16日提出の意見書において以下のとおり主張する。
「当該補正は、本件明細書[0022]・・・に基づくものです。
したがいまして、当該補正後の訂正事項1及び4におけるただし書部分の訂正は、「明瞭でない記載の釈明を」目的とするものであることから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものです。
以上説述したとおり、今般の補正は、訂正の審理内容が実質的に変更されたものではなく、それゆえ、審理の遅延を招くおそれもないため、要旨の変更に該当しないと思料致します。」
イ しかしながら、上記アの主張は、補正後のただし書部分の訂正が、訂正の要件を満たすものであることについて説明するものに過ぎず、訂正の審理内容が実質的に変更されたものではない理由、すなわち、本件補正が認められるべき理由については述べられていない。
そして、上記(2)イ及びウにおいて説示したとおり、本件補正は、実質的に訂正請求時の訂正事項の内容を変更するものであるから、上記アの主張は、上記(2)イ及びウの判断を左右するものではない。
(4)本件補正の適否についての判断のまとめ
以上のとおり、本件補正は、本件訂正請求書の要旨を変更するものであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法131条の2第1項の規定により、認めることができない。
4 本件訂正請求書による訂正についての判断
上記3のとおり、本件補正は認められないから、本件訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、上記1(1)~(7)に記載されたとおりのものである。
事案に鑑み、訂正事項1及び訂正事項4について検討する。
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、設定登録時の請求項1に記載されていた「成分(B)」について、その含有量を特定し、かつ、ただし書部分を加える訂正を含んでいる。
ア 訂正の目的について
(ア)事案に鑑み、まず、ただし書部分の訂正が、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるかを検討する。
ここで、「明瞭でない記載の釈明」とは、設定登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面中のそれ自体意味の不明瞭な記載、又は、設定登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載等、明細書、特許請求の範囲又は図面に生じている記載上の不備を訂正し、その本来の意を明らかにすることをいう(審判便覧38-03の5.参照)。
そこで、上記規範に照らして検討する。
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0022】には、「成分(B)硬化剤は、固体の硬化剤を含むこと、すなわち、25℃、1013hPaで固体である硬化剤を含むことが、保存安定性の点で好ましい。固体の硬化剤をエポキシ樹脂組成物中に分散させておき、所定の温度、及び加熱開始後での所定時間経過後にて硬化反応が開始するメカニズムとすることで、エポキシ樹脂組成物が反応性と貯蔵安定性とを兼ね備えることができる。このような固体の硬化剤として、ジシアンジアミド、固体のイミダゾール系化合物、固体のポリアミン系化合物、及びそれらを含むマスターバッチ型潜在性硬化剤が好ましく、固体のイミダゾール系マイクロカプセル型硬化剤を含むマスターバッチ型潜在性硬化剤としてノバキュア HX-3721、HX-3722、HX-3613、HX-3921HP、HXA9322HPを含むことがより好ましい。
常温での保存安定性やディスペンサー等でエポキシ樹脂組成物を塗布する際の増粘制御の観点から、(B)硬化剤はマイクロカプセル型硬化剤を含むことが好ましい。マイクロカプセル型硬化剤としては、ノバキュア HX-3721、HX-3722、HX-3613、HX-3921HP、HXA9322HPを用いることができる。
また、架橋点を多くすることで、架橋構造を複雑化させ、硬化物の強度を向上させる観点から、成分(B)として、活性水素を4つ以上含む化合物を含むことが好ましく、さらに基材との密着性を向上させる観点で、ヘテロ原子を含み且つ活性水素を4つ以上含む化合物を含むことがより好ましい。このような化合物としては、特に限定されないが、例えば、ジシアンジアミドが挙げられる。」(当審注:下線は当審において付した。以下同様。)と記載されているものの、「マスターバッチ型硬化剤」という記載はされていない。
上記【0022】には、「固体の硬化剤をエポキシ樹脂組成物中に分散させておき」と記載されているが、これは、成分(B)が「固体の硬化剤」である場合に、「エポキシ樹脂組成物」(成分(A)~(C)を含む)に分散させておくことを説明するに過ぎず、これが「マスターバッチ型硬化剤」を意味するとは解されない。
また、【0022】には、「このような固体の硬化剤として、ジシアンジアミド、固体のイミダゾール系化合物、固体のポリアミン系化合物、及びそれらを含むマスターバッチ型潜在性硬化剤」、「固体のイミダゾール系マイクロカプセル型硬化剤を含むマスターバッチ型潜在性硬化剤」と記載されており、実施例6(【0054】の【表1-4】、【0052】)では、成分(B)として、「成分B-2:ノバキュアHXA9322HP(旭化成株式会社製)」が記載されているが、当該記載は単なる商品名の記載にとどまり、「ノバキュアHXA9322HP(旭化成株式会社製)」が「マスターバッチ型硬化剤」に該当するとしても、当該商品名の記載をもって、「マスターバッチ型硬化剤」という用語が記載されていると解することはできない。
そして、本件明細書の他の記載をみても、「マスターバッチ型硬化剤」という用語は記載も示唆もされていないから、この用語が、どのような定義を有し、どのようなものが包含され得るのかが明確でない。
加えて、「成分(B)」は、「アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上」と規定されているところ、本件明細書の【0022】等の記載を参照したとしても、「マスターバッチ型硬化剤」が上記規定とどのような関係を有するのか、上記の選択肢に包含されるものか否かも明らかでない。
次に、本件明細書の【0022】には、「成分(B)の含有量」の算出方法について記載も示唆もされておらず、【0024】の「成分(B)の含有量は、エポキシ樹脂組成物全体に対して、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、成分(B)の含有量は、エポキシ樹脂組成物全体に対して、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。」という記載等をみても、本件明細書の記載に基づけば、「マスターバッチ型硬化剤」である場合の「成分(B)の含有量」の算出方法が自明であるとはいえない。
また、実施例6(【0054】の【表1-4】、【0052】)には、【表1-4】の成分(B)の欄に、「成分B-2:ノバキュアHXA9322HP(旭化成株式会社製)」を、「Total 129.2質量部」に対し、「28質量部」含むことが示されているものの、上述したとおり、「ノバキュアHXA9322HP(旭化成株式会社製)」の商品名の記載のみをもって、「マスターバッチ型硬化剤」という用語が記載されていると解することはできないから、実施例6の記載のみをもって、本件明細書には、「マスターバッチ型硬化剤」を用いる場合の「成分(B)の含有量」として、硬化剤として作用する物質そのものの含有量ではなく、また、マスターバッチ型硬化剤中の硬化剤として作用する物質の含有割合にかかわらず、「マスターバッチ型硬化剤全体の含有量」を算出することが記載ないし示唆されていたとまではいえず、そのように算出することが本件明細書の記載から自明であるともいえない。
以上のとおり、ただし書部分については、そもそも、「マスターバッチ型硬化剤」の意味するところが明確ではなく、また、本件明細書の記載からみて、「マスターバッチ型硬化剤全体の含有量」を「成分(B)の含有量」として算出することが自明であるともいえないから、ただし書部分の訂正が、記載上の不備を訂正し、その本来の意を明らかにするものということはできない。
そうすると、ただし書部分の訂正は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものとはいえない。
(イ)その他の目的要件についても検討すると、ただし書部分の訂正は、「マスターバッチ型硬化剤を用いる場合」の「成分(B)の含有量」の算出方法を定義するものに過ぎないから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとはいえず、また、「誤記又は誤訳の訂正」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものでないことも明らかである。
(ウ)小括
したがって、訂正事項1のただし書部分の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1~4号に掲げる事項を目的とするものではない。
イ 新規事項の有無について
上記ア(ア)に示したように、本件明細書(【0022】及び実施例6を含む)には、「マスターバッチ型硬化剤」という用語は記載も示唆もされておらず、「マスターバッチ型硬化剤全体の含有量」を「成分(B)の含有量」として算出することが本件明細書の記載から自明であるともいえない。
そうすると、ただし書部分の訂正、すなわち、「ただし、マスターバッチ型硬化剤を用いる場合は、マスターバッチ型硬化剤全体の含有量を成分(B)の含有量とする」という訂正は、本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、訂正事項1のただし書部分の訂正は、本件明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものとはいえない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記イのとおり、訂正事項1のただし書部分の訂正は、本件明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、新たな技術的事項を導入するものである以上、訂正前の請求項1に含まれなかった特定事項が、訂正後の請求項1には含まれることとなるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更しないものであるということはできない。
(2)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項7について、訂正事項1と同様の訂正をするものであるから、上記(1)のア~ウで指摘した事項と同様のことがいえる。
(3)本件訂正請求書による請求人の主張について
ア 請求人は、本件訂正請求書において、訂正事項1について、以下のとおり主張する(3頁9行~4頁13行)。
(ア)訂正前の請求項1に係る発明では、成分(B)及び成分(C)の含有量を限定するものであり、また、成分(B)の含有量を限定する訂正に伴い、成分(B)の含有量の明確性を考慮して、「ただし、マスターバッチ型硬化剤を用いる場合は、マスターバッチ型硬化剤全体の含有量を成分(B)の含有量とする」との内容を規定し、発明を明確とするものであるため、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)訂正事項1は、成分(B)及び成分(C)の含有量を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(ウ)請求項1に係る発明において、成分(B)の含有量を限定する訂正は、本件明細書[0024]及び本件実施例(例えば、実施例6)に基づき、成分(C)の含有量を限定する訂正は、本件実施例(例えば、実施例6)に基づくものであり、また、成分(B)の含有量について、「ただし、マスターバッチ型硬化剤を用いる場合は、マスターバッチ型硬化剤全体の含有量を成分(B)の含有量とする」との内容を規定する訂正は、本件明細書[0022]及び本件実施例(例えば、実施例6)に基づくものであることから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項4についても、上記(ア)~(ウ)と同様の主張をしている(7頁2行~8頁4行)。
イ しかしながら、ただし書部分の訂正が、明瞭でない記載の釈明等を目的とするものではないこと、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当すること、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではないことは、上記(1)及び(2)において説示したとおりであるから、上記(ア)~(ウ)の主張は、いずれも採用することはできない。
なお、令和8年2月16日提出の意見書による主張は、本件補正後の訂正事項1及び4を前提とするものであるから、上記(1)及び(2)の判断を左右するものではない。
(4)本件訂正についての判断のまとめ
以上のとおり、訂正事項1及び4のただし書部分の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1~4号に掲げる事項を目的とするものではなく、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものでもないから、訂正事項1及び4による訂正は認められない。
そして、本件訂正の請求は、一群の請求項を構成する請求項1~6並びに一群の請求項を構成する請求項7~9に対するものであるが、訂正は一体不可分な一群の請求項ごとにしなければならないところ、上述のとおり、請求項1及び7についての訂正の請求が認められない。
したがって、他の訂正事項について検討するまでもなく、一群の請求項を構成する請求項〔1-6〕及び〔7-9〕についてする本件訂正は認めることができない。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められないため、本件特許の請求項1~9に係る発明(以下、順に「本件発明1」等といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含み、
前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上である、
エポキシ樹脂組成物(ただし、アルキレン1,2-カーボネートを含む態様を除く)。
(A)エポキシ樹脂
(B)硬化剤
(C)下記式(1)で示される化合物
【化1】
[図:0001436141000001.jpg]
{式(1)中、R1は、ヒドロキシル基であり、R2、R3及びR4は、水素であり、R5~R9は、それぞれ、水素、アルキル基、芳香族基、ヘテロ原子を含む置換基、及びハロゲン原子を含む置換基からなる群から選ばれる一種である。R5~R9は、それぞれ、同一であっても、異なっていてもよい。また、R5~R9から選ばれるいずれかが同一環に存在する縮合環化合物でもよい。}
【請求項2】
前記成分(B)が固体の硬化剤を含む、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(B)として、活性水素を4つ以上含む化合物を含む、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(B)が、イミダゾール系硬化剤を含む、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分(B)が、マイクロカプセル型硬化剤を含む、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
成分(D)として、硬化促進剤をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含むエポキシ樹脂組成物の製造方法であって、成分(A)及び成分(B)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程を含み、
前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上である、
エポキシ樹脂組成物(ただし、アルキレン1,2-カーボネートを含む態様を除く)の製造方法。
(A)エポキシ樹脂
(B)硬化剤
(C)下記式(1)で示される化合物
【化2】
[図:0001436141000002.jpg]
{式(1)中、R1は、ヒドロキシル基であり、R2、R3及びR4は、水素であり、R5~R9は、それぞれ、水素、アルキル基、芳香族基、ヘテロ原子を含む置換基、及びハロゲン原子を含む置換基からなる群から選ばれる一種である。R5~R9は、それぞれ、同一であっても、異なっていてもよい。また、R5~R9から選ばれるいずれかが同一環に存在する縮合環化合物でもよい。}
【請求項8】
エポキシ樹脂組成物がさらに下記成分(D)を含み、
成分(A)、成分(B)、及び成分(D)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程を含む、請求項7に記載のエポキシ樹脂組成物の製造方法。
(D)硬化促進剤
【請求項9】
エポキシ樹脂組成物がさらに下記成分(E)を含み、
成分(A)、成分(B)、及び成分(E)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程を含む、請求項7又は8に記載のエポキシ樹脂組成物の製造方法。
(E)フィラー」
第4 申立理由の概要及び証拠方法
申立人は、概略、下記申立理由1~5のとおり、特許異議の申立てをするとともに、証拠方法として以下の甲第1及び2号証を提出した。
1 申立理由1(甲第1号証又は甲第2号証を主引例とする新規性)
本件発明1~6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第1号証又は甲第2号証を主引例とする進歩性)
本件発明1~9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(明確性)
本件特許の請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
6 証拠方法
(1)申立人が申立書に添付して提出した証拠方法
甲第1号証:特開2007-91899号公報
甲第2号証:特開2015-221859号公報
(以下「甲第1号証」、「甲第2号証」を、それぞれ「甲1」、「甲2」という。)
(2)申立人が令和7年7月10日提出の意見書に添付して提出した証拠方法
参考資料1:特開2017-171804号公報
第5 取消理由の概要
1 令和7年8月28日付けの取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の概要
令和7年8月28日付けの取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、以下のとおりである(なお、下記(1)及び(2)における本件発明1等、下記(3)における請求項1等は、令和7年6月2日提出の訂正請求書による訂正後の請求項1等を指し、請求項6及び8は削除されていたものである。)。
(1)取消理由1(甲1を主引例とする新規性)
本件発明1、2、4、5及び7は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)取消理由2(甲1を主引例とする進歩性)
本件発明1~5、7及び9は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)取消理由3(請求項1~5、7及び9についての明確性)
本件特許の請求項1~5、7及び9に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
2 令和6年9月20日付けの取消理由通知書に記載した取消理由の概要
令和6年9月20日付けの取消理由通知書に記載した取消理由の概要は、以下のとおりである(なお、下記(1)~(3)における本件特許の請求項1等とは、設定登録時の請求項1等を指す。)。
(1)取消理由1(甲1又は甲2を主引例とする新規性)
本件特許の請求項1~9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1又は甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、請求項1~9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)取消理由2(甲1又は甲2を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1~9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1又は甲2に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1~9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)取消理由3(請求項6、8及び9についての明確性)
本件特許の請求項6、8及び9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
第6 当審の判断
当審合議体は、以下に述べるように、本件発明1~9は、令和6年9月20日付けの取消理由通知書において通知した取消理由3(請求項6、8及び9についての明確性)並びに取消理由1及び2(甲1を主引例とする新規性及び進歩性)を有するものであるから、本件発明1~9に係る特許は取り消すべきものであると判断する。
1 取消理由3(請求項6、8及び9についての明確性)
(1)本件発明6について
本件発明6は、「成分(D)として、硬化促進剤をさらに含む」と特定されており、本件明細書には、「成分(D)硬化促進剤」について、以下の記載がある(下線は当審による。)。
「【0031】
<成分(D)硬化促進剤> 本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、硬化反応を促進する目的で、(D)硬化促進剤(以下「成分(D)」とも記す)を含むことができる。(D)硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン系化合物、イミダゾール系化合物、オニウム化合物のボロン塩、リン系化合物、ルイス酸、尿素誘導体等が挙げられる。・・・成分(B)硬化剤に該当するイミダゾール化合物は、他の成分(B)硬化剤を含む場合に、組み合わせによっては、成分(D)硬化促進剤に該当する。本明細書中では、以下に記載の場合にイミダゾール化合物は成分(D)硬化促進剤とする。
【0032】
成分(B)が、グアニジン化合物、ヒドラジド系化合物、酸無水物系化合物、フェノール樹脂、ポリチオール系化合物、芳香族アミン、ベンゾオキサジン、シアネートエステルのうち少なくとも1種を含み、イミダゾール化合物を加えることで、硬化時間の短縮、硬化温度の低温化、硬化物強度の向上等の硬化性向上が発揮される場合に、イミダゾール化合物は成分(D)硬化促進剤とする。
【0033】
また、成分(B)が2種以上のイミダゾール化合物を含む場合に、硬化時間の短縮、硬化温度の低温化、硬化物強度の向上等の硬化性向上への部数当たりの寄与度が小さい方のイミダゾール化合物を成分(D)硬化促進剤とする。
【0034】
イミダゾール化合物を成分(D)硬化促進剤とする場合の上記に記載の成分(B)硬化剤の具体的例としては、上記の[成分(B)硬化剤]の段落に記載の化合物等が使用できる。」
ここで、成分(B)は、「アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上である」と特定されているところ、上記【0031】等によれば、成分(B)に該当する化合物であっても、「成分(D)硬化促進剤とする」場合があり得、また、成分(B)と成分(D)として例示された化合物又は誘導体(誘導体には、アダクトも包含され得る。)が重複していることから、両者を区別できず、成分(D)の「硬化促進剤」の定義及び示す範囲が不明確である。
また、成分(B)は、「一つ以上」含むことが特定されているが、成分(B)に該当するにも関わらず、「成分(D)硬化促進剤とする」のは、【0032】(芳香族アミンにイミダゾール化合物を加える。)及び【0033】(2種以上のイミダゾール化合物を含む。)の場合に限られるのか、これらの場合以外であっても、2種以上の成分(B)の一部を「組み合わせによっては、成分(D)硬化促進剤に該当する」とする場合があるのかが明らかでない。
よって、本件発明6における「(D)硬化促進剤」の定義及び示す範囲が明確でなく、本件発明6は明確でない。
(2)本件発明8及び9について
本件発明8は、「さらに下記成分(D)を含み・・・(D)硬化促進剤」と特定されており、上記(1)と同様に、「(D)硬化促進剤」の定義及び示す範囲が明確でない。
よって、本件発明8及びこれを引用する本件発明9は明確でない。
(3)意見書における特許権者の主張について
特許権者による、令和6年11月21日提出の意見書、令和7年6月2日提出の意見書、同年10月31日提出の意見書及び令和8年2月16日提出の意見書における主張は、いずれも請求項6及び8を削除する訂正を前提とするものであるから、上記(1)及び(2)の判断を左右するものではない。
(4)取消理由3についてのまとめ
したがって、本件発明6、8及び9は明確でないから、本件特許の請求項6、8及び9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
2 取消理由1及び2(甲1を主引例とする新規性及び進歩性)
(1)甲1に記載された事項及び発明
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
アミンアダクト(A)と低分子アミン化合物(B)を主成分とするエポキシ樹脂用硬化剤であって、アミンアダクト(A)の重量平均分子量が200以上15000以下であり、重量平均分子量と数平均分子量の比として定義される分子量分布が1を超えて7以下にあって、かつ、低分子アミン化合物(B)の含有量がアミンダクト(A)100質量部に対して0.000001質量部以上0.001質量部未満であることを特徴とするエポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項2】
25℃で固体状であることを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項3】
アミンアダクト(A)がエポキシ樹脂(a1)とアミン化合物(b1)との反応により得られることを特徴とする請求項1又は2記載のエポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項4】
低分子アミン化合物(B)がイミダゾール類であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項5】
請求項1~4のエポキシ樹脂用硬化剤よりなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂用硬化剤(C)からなるコアの表面を合成樹脂および/または無機酸化物からなるシェルによって被覆されている構造を持つことを特徴とするマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤。」
「【請求項8】
10~50000重量部のエポキシ樹脂(E)に請求項1~4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂用硬化剤(C)および/または請求項5~7のいずれか1項に記載のマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤(D)を、エポキシ樹脂用硬化剤(C)および/または(D)として100重量部を配合したことを特徴とするマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物。」
「【請求項11】
エポキシ樹脂(E)のジオール末端不純成分が、エポキシ樹脂(E)の基本構造成分の0.001~30質量%であることを特徴とする請求項8~10のいずれか1項に記載のマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物。」
「【請求項15】
エポキシ樹脂(J)100質量部に対して、請求項1~11のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂用硬化剤、マイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤、マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物から選ばれる少なくとも1種を0. 1~1000質量部含有し、それらを主成分とすることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。」
「【0006】
本発明は、低温硬化性に優れ、極めて高い貯蔵安定性を有するエポキシ樹脂用硬化剤、およびエポキシ樹脂組成物、そして、高温でも極めて貯蔵安定性が高く、低温あるいは短時間の硬化条件であっても、高い接続信頼性、高い封止性が得られる接着材料、導電材料、絶縁材料、封止材料、コーティング材料、塗料組成物、プリプレグ、構造用接着剤、熱伝導性材料等を提供することを目的とする。」
「【0017】
・・・本発明は、アミンアダクト(A)を主成分とし、低分子アミン化合物(B)を特定比率で含有するエポキシ樹脂用硬化剤(C)からなるコアの表面を、シェルで被覆したマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤(D)および、該マイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤(D)をエポキシ樹脂(E)に分散させてマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤としたものである。
【0018】
アミンアダクト(A)の説明を行う。
アミンアダクト(A)は、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物、イソシアネート化合物、尿素化合物およびエポキシ樹脂(a1)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とアミン化合物(b1)とを反応して得られるアミノ基を有する化合物である。アミンアダクト(A)の原料として用いられる、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物、イソシアネート化合物、尿素化合物およびエポキシ樹脂(a1)を下記に示す。
カルボン酸化合物としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、ダイマー酸等が挙げられる。
スルホン酸化合物としては、例えば、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。」
「【0026】
アミン化合物(b1)としては、少なくとも1 個の一級アミノ基および/または二級アミノ基を有するが三級アミノ基を有さない化合物と、少なくとも1個の三級アミノ基と少なくとも1個の活性水素基を有する化合物が挙げられる。・・・
【0027】
・・・アミン化合物(b1)としては、貯蔵安定性と硬化性のバランスが優れているので、少なくとも1個の三級アミノ基と少なくとも1個の活性水素基を有する化合物が好ましく、イミダゾール類が更に好ましく、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールが一層好ましい。」
「【0031】
本発明に用いられる低分子アミン化合物(B)は、一級、二級および/または三級アミノ基を有する化合物が挙げられる。これらは併用することができる。・・・
【0032】・・・低分子アミン化合物(B)としては、貯蔵安定性の優れたエポキシ樹脂組成物が得られるため、三級アミノ基を有する化合物が好ましく、イミダゾール類が更に好ましく、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールが一層好ましい。」
「【0060】
本発明のマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物(F)を製造する方法として、先に製造されたエポキシ樹脂用硬化剤(C)および/またはマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤(D)を、例えば、三本ロール等を用いてエポキシ樹脂(E)中に分散させる方法や、エポキシ樹脂(E)の中でエポキシ樹脂用硬化剤(C)の被覆反応を行い、硬化剤を得ると同時に、マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤(F)を得る方法等が例示される。後者が、生産性が高く好ましい。
また、本発明のエポキシ樹脂(E)のジオール末端不純成分が、エポキシ樹脂(E)の基本構造成分の0.001~30質量%であることが望ましい。
【0061】
本発明において、エポキシ樹脂(E)の基本構造成分とは、末端のすべてにエポキシ基が存在する構造を言う。エポキシ樹脂(E)のジオール末端不純成分とは、末端のエポキシ基のうち、すくなくとも1つのエポキシ基が、α-グリコール末端の構造をとるものである。参考とする文献として、エポキシ樹脂技術協会刊行の「総説 エポキシ樹脂 第1巻基礎編I」を挙げる。
エポキシ樹脂(E)の基本構造成分およびジオール末端不純成分の分析方法については、同じくエポキシ樹脂技術協会刊行の「総説 エポキシ樹脂 第1巻 基礎編I」において引用されている文献に記載の方法を参考に分析を行う。
【0062】
エポキシ樹脂(E)のジオール末端不純成分についてのエポキシ樹脂(E)基本構造成分に対する比率が30質量%よりも大きいと、硬化物の耐水性が低下することがあり、0.001質量%よりも小さいと、エポキシ樹脂組成物の硬化性が低下してしまうことがある。このような観点からエポキシ樹脂(E)のジオール末端不純成分についてのエポキシ樹脂(E)の基本構造成分に対する比率は好ましくは、0.01~25質量%であり、より好ましくは0.1~20質量%であり、特に好ましくは、0.5~18質量%であり、殊に好ましくは1.2~15質量%である。」
「【0067】
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂(J)は、平均して1分子当たり2個以上のエポキシ基を有するものであればよく、エポキシ樹脂(E)と同じであってもよい。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、テトラフルオロビスフェノールA等のビスフェノール類をグリシジル化したビスフェノール型エポキシ樹脂;・・・等が例示される。
【0068】
本発明のエポキシ樹脂用硬化剤(C)、マイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤(D)、マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物(F)から選ばれる少なくとも1種とエポキシ樹脂(J)との混合比は、硬化性、硬化物の特性の面から決定されるものであるが、好ましくはエポキシ樹脂(J)100質量部に対して、本発明のエポキシ樹脂用硬化剤(C)および/またはマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤(D)および/またはマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物(F)が0.1~1000質量部となる量で用いればよい。より好ましくは、0.2~200質量部、更に好ましくは、0.5~30質量部である。0.1質量部以上で実用的に満足し得る硬化性能を得ることができ、100質量部以下で、本発明のエポキシ樹脂組成物が偏在することなく、バランスの良い硬化性能を有する硬化剤を与える。・・・
【0069】
本発明に用いられるエポキシ樹脂用硬化剤(C)、マイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤(D)、マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物(F)から選ばれる少なくとも1種は、酸無水物類、フェノール類、ヒドラジド類、およびグアニジン類よりなる群より選ばれる少なくとも1種の硬化剤(K)を併用する事ができる。・・・
【0070】
硬化剤(K)の中で好ましいのは、グアニジン類および酸無水物類である。さらに好ましくは、ジシアンジアミド、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水メチルナジック酸である。
【0071】
本発明に用いられるマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物(F)には、所望によって、増量剤、補強材、充填材、導電微粒子、顔料、有機溶剤、反応性希釈剤、非反応性希釈剤、樹脂類、結晶性アルコール、カップリング剤等を添加することができる。充填剤の例としては、例えば、コールタール、ガラス繊維、アスベスト繊維、ほう素繊維、炭素繊維、セルロース、ポリエチレン粉、ポリプロピレン粉、石英紛、鉱物性ケイ酸塩、雲母、アスベスト粉、スレート粉、カオリン、酸化アルミニウム三水和物、水酸化アルミニウム、チョーク粉、石こう、炭酸カルシウム、三酸化アンチモン、ペントン、シリカ、エアロゾル、リトポン、バライト、二酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化鉄、金、銀、アルミニウム粉、鉄粉、ナノサイズの金属結晶、金属間化合物等を挙げることができ、これらはいずれもその用途に応じて有効に用いられる。・・・
【0072】
本発明に用いられるエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂用硬化剤(C)および/またはマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤(D)とエポキシ樹脂(E)と、必要に応じてエポキシ樹脂(J)および硬化剤(K)が主成分である。・・・」
「【0084】
(12)エポキシ樹脂(E)のジオール末端不純成分の定量
エポキシ樹脂(E)の基本構造成分の定量と同様にして、分離液をMSで分析する。MSスペクトルにより、基準ピークの質量数に18の差があるもの同士について、18大きいものをジオール末端不純成分と認める。HPLC分析チャート上のジオール末端不純成分ピークの強度を示す面積と、基本構造成分を示すピーク強度の面積比でエポキシ樹脂(E)中の基本構造成分に対する、ジオール末端不純成分の含有量を求める。尚、検出波長を254nmとした。ここでいうジオール末端不純成分の構造とは、どちらか一方、または両方の末端のエポキシ基が開環して、1,2-グリコールを形成した構造をいう。」
「【0088】
[製造例1]
(アミンアダクト(A-1)の製造)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量185g/当量、全塩素量1900ppm:以下エポキシ樹脂a1-1と称す)1.5当量と、2-メチルイミダゾール1当量(活性水素換算)を、n-ブタノールとトルエンの1/1混合溶媒中(樹脂分50%)、80℃で反応させた。その後減圧下で2-メチルイミダゾール(2MZ)の含有量が5ppm未満になるまで溶剤と共に留去し、25℃で固体状のアミンアダクトA-1を得た。得られたアミンアダクトの重量平均分子量は3800、分子量分布は3.7であった。
【0089】
[製造例2]
(アミンアダクト(A-2)の製造)
以下エポキシ樹脂a1-1を1当量とビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量470g/当量、全塩素量1300ppm:以下エポキシ樹脂a1-2と称す)1当量と、トリエチレンテトラミン2当量を2-プロパノールとキシレンの1/2混合溶媒中(樹脂分50%)、80℃で反応させた。その後、減圧下で溶剤と未反応低分子アミン化合物を留去し、トリエチレンテトラミン(TETA)が10ppm未満になった時点で蒸留を終了し、25℃で固体状のアミンアダクトA-2を得た。得られたアミンアダクトの重量平均分子量は2500、分子量分布は1.9であった。」
「【0096】
[実施例1]
製造例1で得たアミンアダクトA-1((B)成分の2MZ5ppm未満残留)の100質量部を溶融し、これに3ppmの2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)を均一に混合し、室温に冷却後粉砕して、25℃で固体状の平均粒径2.5μmのエポキシ樹脂用硬化剤C-1を得た。200質量部のエポキシ樹脂E-1に、エポキシ樹脂用硬化剤C-1を100質量部、水1.5質量部、トリレンジイソシアネート5質量部を加えて、40℃で攪拌しながら4時間反応を続けた。その後、シェル形成反応を50℃で12時間行い、マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1を得た。
【0097】
マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1からキシレンを用いてマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤を分離し、FT-IR測定により、結合基(x)、(y)、(z)を有することが確認された。
更に、100部のエポキシ樹脂(M)に、得られたマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1を30部配合したときの一液性エポキシ樹脂組成物の硬化性と貯蔵安定性を評価した。得られた結果を表-1に示す。
【0098】
[実施例2~6]
製造例2~6で得たアミンアダクトA-2~6((B)成分の各アミン化合物10ppm残留)を粉砕して、表-1記載のエポキシ樹脂用硬化剤C-2~6を得た。得られたエポキシ樹脂用硬化剤の特性を表-1に示す。
更に、表-1で示した配合で、実施例1と同様にしてマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2~6を得た。何れも実施例1と同様にして結合基(x)、(y)、(z)を有することを確認し、実施例1と同様にしてマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2~6を硬化剤としたときの一液性エポキシ樹脂組成物の硬化性と貯蔵安定性を評価した。評価結果を表-1に示す。」
「【0103】
【表1】
[図:0001436141000003.jpg]
」
「【0114】
[絶縁性ペーストの作製の実施例]
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名「YL983U」)100重量部、ジシアンジアミドを4重量部、シリカ粉末100重量部、希釈剤としてフェニルグリシジルエーテル10重量部、および有機リン酸エステル(日本化薬社製、商品名「PM-2」)1重量部を十分混合した後、さらに三本ロールで混練する。さらに、そこに実施例2で得られたマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2を30部加えて、さらに均一に混合させて、減圧脱泡および遠心脱泡処理を行い、絶縁性ペーストを製造した。得られた絶縁性ペーストを用いて、半導体チップを樹脂基板に200℃で1時間加熱硬化させて接着したところ、絶縁性ペーストとして有用であった。」
イ 甲1に記載された発明
(ア)甲1の実施例1(【0097】)に記載の「100部のエポキシ樹脂(M)に、得られたマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1を30部配合」して得られた「一液性エポキシ樹脂組成物」に着目し、「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1」について、【0096】、【0088】製造例1並びに【0103】【表1】及びその欄外の記載を踏まえると、甲1には次の発明が記載されているといえる。
なお、【0096】と【0103】の【表1】とでは、水及びトリレンジイソシアネートの含有量がわずかに異なるが、【0096】の記載に基づいて認定を行った。
「100部のエポキシ樹脂(M)に、以下のマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1を30部配合して得られた一液性エポキシ樹脂組成物。
<マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1>
以下のアミンアダクトA-1((B)成分の2MZ(2-メチルイミダゾール)5ppm未満残留)の100質量部を溶融し、これに3ppmの2-エチル-4-メチルイミダゾールを均一に混合し、室温に冷却後粉砕して、25℃で固体状の平均粒径2.5μmのエポキシ樹脂用硬化剤C-1を得た後、200質量部の以下のエポキシ樹脂E-1(ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量175g/当量、ジオール末端不純成分/基本構造成分=0.13、全塩素量:1900ppm))に、上記エポキシ樹脂用硬化剤C-1を100質量部、水1.5質量部、トリレンジイソシアネート5質量部を加えて40℃で攪拌しながら4時間反応を続け、その後、シェル形成反応を50℃で12時間行って得られる、マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1。
<アミンアダクトA-1>
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量185g/当量、全塩素量1900ppm:以下「エポキシ樹脂a1-1」という。)1.5当量と、2-メチルイミダゾール1当量(活性水素換算)を、n-ブタノールとトルエンの1/1混合溶媒中(樹脂分50%)、80℃で反応させ、その後減圧下で2-メチルイミダゾール(2MZ)の含有量が5ppm未満になるまで溶剤と共に留去して得られる、25℃で固体状であり、重量平均分子量は3800、分子量分布は3.7であるアミンアダクトA-1。」(以下「甲1A発明」という。)
また、甲1には、次の甲1A発明の製造方法の発明も記載されているといえる。
「100部のエポキシ樹脂(M)に、以下の製造工程により得られたマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1を30部配合する一液性エポキシ樹脂組成物の製造方法。
<マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1の製造工程>
以下の製造工程により得られたアミンアダクトA-1((B)成分の2MZ5ppm未満残留)の100質量部を溶融し、これに3ppmの2-エチル-4-メチルイミダゾールを均一に混合し、室温に冷却後粉砕して、25℃で固体状の平均粒径2.5μmのエポキシ樹脂用硬化剤C-1を得た後、200質量部の以下のエポキシ樹脂E-1(ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量175g/当量、ジオール末端不純成分/基本構造成分=0.13、全塩素量:1900ppm))に、上記エポキシ樹脂用硬化剤C-1を100質量部、水1.5質量部、トリレンジイソシアネート5質量部を加えて40℃で攪拌しながら4時間反応を続け、その後、シェル形成反応を50℃で12時間行って、マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1を得た。
<アミンアダクトA-1の製造工程>
エポキシ樹脂a1-1 1.5当量と、2-メチルイミダゾール1当量(活性水素換算)を、n-ブタノールとトルエンの1/1混合溶媒中(樹脂分50%)、80℃で反応させ、その後減圧下で2-メチルイミダゾール(2MZ)の含有量が5ppm未満になるまで溶剤と共に留去して、25℃で固体状であり、重量平均分子量は3800、分子量分布は3.7であるアミンアダクトA-1を得た。」(以下「甲1A製法発明」という。)
(イ)次に、甲1の【0114】における「絶縁性ペーストの作製の実施例」に着目し、「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2」について、【0098】、【0089】製造例2並びに【0103】【表1】実施例2及びその欄外の記載を踏まえると、甲1には次の発明が記載されているといえる。
「ビスフェノールF型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名「YL983U」)100重量部、ジシアンジアミドを4重量部、シリカ粉末100重量部、希釈剤としてフェニルグリシジルエーテル10重量部、および有機リン酸エステル(日本化薬社製、商品名「PM-2」)1重量部を十分混合した後、三本ロールで混練し、そこに以下のマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2を30部加え、さらに均一に混合させて、減圧脱泡および遠心脱泡処理を行い、得られた絶縁性ペースト。
<マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2>
以下のアミンアダクトA-2((B)成分のTETA(トリエチレンテトラミン)10ppm未満残留)を粉砕して、エポキシ樹脂用硬化剤C-2を得た後、200質量部の以下のエポキシ樹脂E-2(ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量165g/当量、ジオール末端不純成分/基本構造成分=0.12、全塩素量:1300ppm))に、上記エポキシ樹脂用硬化剤C-2を100質量部、水1質量部、MR-200(日本ポリウレタン社製ポリエチレンフェニレンポリイソシアネート)4質量部を加えて40℃で攪拌しながら4時間反応を続け、その後、シェル形成反応を50℃で12時間行って得られる、マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2。
<アミンアダクトA-2>
エポキシ樹脂a1-1を1当量とビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量470g/当量、全塩素量1300ppm:以下エポキシ樹脂a1-2と称す)1当量と、トリエチレンテトラミン2当量を2-プロパノールとキシレンの1/2混合溶媒中(樹脂分50%)、80℃で反応させ、減圧下で溶剤と未反応低分子アミン化合物を留去し、トリエチレンテトラミン(TETA)が10ppm未満になった時点で蒸留を終了して得られる、25℃で固体状であり、重量平均分子量は2500、分子量分布は1.9であるアミンアダクトA-2。」(以下「甲1B発明」という。)
また、甲1には、次の甲1B発明の製造方法の発明も記載されているといえる。
「ビスフェノールF型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名「YL983U」)100重量部、ジシアンジアミドを4重量部、シリカ粉末100重量部、希釈剤としてフェニルグリシジルエーテル10重量部、および有機リン酸エステル(日本化薬社製、商品名「PM-2」)1重量部を十分混合した後、三本ロールで混練し、そこに以下の製造工程により得られたマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2を30部加え、さらに均一に混合させて、減圧脱泡および遠心脱泡処理を行う、絶縁性ペーストの製造方法。
<マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2の製造工程>
以下のアミンアダクトA-2((B)成分のTETA(トリエチレンテトラミン)10ppm未満残留)を粉砕して、エポキシ樹脂用硬化剤C-2を得た後、200質量部の以下のエポキシ樹脂E-2(ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量165g/当量、ジオール末端不純成分/基本構造成分=0.12、全塩素量:1300ppm))に、上記エポキシ樹脂用硬化剤C-2を100質量部、水1質量部、MR-200(日本ポリウレタン社製ポリエチレンフェニレンポリイソシアネート)4質量部を加えて40℃で攪拌しながら4時間反応を続け、その後、シェル形成反応を50℃で12時間行って、マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2を得た。
<アミンアダクトA-2の製造工程>
エポキシ樹脂a1-1を1当量とビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量470g/当量、全塩素量1300ppm:以下エポキシ樹脂a1-2と称す)1当量と、TETA2当量を2-プロパノールとキシレンの1/2混合溶媒中(樹脂分50%)、80℃で反応させ、減圧下で溶剤と未反応低分子アミン化合物を留去し、TETAが10ppm未満になった時点で蒸留を終了して、25℃で固体状であり、重量平均分子量は2500、分子量分布は1.9であるアミンアダクトA-2を得た。」(以下「甲1B製法発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 「甲1A発明」を主引用発明とした場合について
本件発明1と甲1A発明とを対比する。
(ア)甲1A発明の「エポキシ樹脂(M)」は、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」に相当する。
(イ)本件明細書の【0020】には、「潜在性硬化剤としては、・・・例えば、イミダゾール化合物・・・又はこれらを被覆してなるマイクロカプセル型硬化剤、多孔質体に吸着させてなる硬化剤などが挙げられる。」と記載され、【0022】には、「成分(B)硬化剤は、固体の硬化剤を含む」、「固体の硬化剤として、ジシアンジアミド、固体のイミダゾール系化合物、固体のポリアミン系化合物、及びそれらを含むマスターバッチ型潜在性硬化剤が好ましく、固体のイミダゾール系マイクロカプセル型硬化剤を含むマスターバッチ型潜在性硬化剤・・・を含むことがより好ましい。」と記載されているところ、甲1A発明の「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1」は、シェル形成反応により得られるもので、キシレンを用いてマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤を分離できる(甲1の【0097】)マスターバッチ型の硬化剤であることから、本件発明1の「潜在性硬化剤」に相当する。
また、その含有成分である、エポキシ樹脂a1-1及び2-メチルイミダゾール(2MZ)を反応して得られる「アミンアダクトA-1((B)成分の2MZ5ppm未満残留)」は、本件発明1の「アミン系硬化剤」、「イミダゾール系硬化剤」又は「潜在性硬化剤」にも相当し、また、「2-エチル-4-メチルイミダゾール」は、本件発明1の「アミン系硬化剤」又は「イミダゾール系硬化剤」にも相当するといえる。
そうすると、甲1A発明の「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1」は、本件発明1の「アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上である」「(B)硬化剤」に相当する。
(ウ)甲1A発明の「エポキシ樹脂E-1(ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量175g/当量、ジオール末端不純成分/基本構造成分=0.13、全塩素量:1900ppm))」には「ジオール末端不純成分」が含まれているところ、「エポキシ樹脂(E)のジオール末端不純成分とは、末端のエポキシ基のうち、すくなくとも1つのエポキシ基が、α-グリコール末端の構造をとるもの」(【0061】)であり、「ジオール末端不純成分の構造とは、どちらか一方、または両方の末端のエポキシ基が開環して、1,2-グリコールを形成した構造」(【0084】)であって、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂である「エポキシ樹脂E-1」の場合、下記のような1,2-グリコール基を有する構造で表されるものを含むと解される。
[図:0001436141000004.jpg]
これは、本件発明1の「式(1)」において、「R1」が「ヒドロキシル基」、「R2、R3及びR4」が「水素」、「R5、R6、R8及びR9」が「水素」、「R7」が「ヘテロ原子を含む置換基」である「(C)下記式(1)で示される化合物」に相当する。
(エ)そして、甲1A発明の「一液性エポキシ樹脂組成物」は、「アルキレン1,2-カーボネートを含む」ものではないから、本件発明1の「エポキシ樹脂組成物(ただし、アルキレン1,2-カーボネートを含む態様を除く)」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1A発明とは、
「下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含み、
前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上である、
エポキシ樹脂組成物(ただし、アルキレン1,2-カーボネートを含む態様を除く)。
(A)エポキシ樹脂
(B)硬化剤
(C)下記式(1)で示される化合物・・・
{式(1)中、R1は、ヒドロキシル基であり、R2、R3及びR4は、水素であり、R5~R9は、それぞれ、水素、アルキル基、芳香族基、ヘテロ原子を含む置換基、及びハロゲン原子を含む置換基からなる群から選ばれる一種である。R5~R9は、それぞれ、同一であっても、異なっていてもよい。また、R5~R9から選ばれるいずれかが同一環に存在する縮合環化合物でもよい。}」(当審注:式(1)は省略。以下同様)である点で一致し、相違する点はない。
イ 「甲1B発明」を主引用発明とした場合について
本件発明1と甲1B発明とを対比する。
(ア)甲1B発明の「ビスフェノールF型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名「YL983U」)」は、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」に相当する。
(イ)甲1B発明の「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2」は、実施例1の方法と同様にして作製されるものであるから、上記ア(イ)と同様に「潜在性硬化剤」に相当し、その含有成分である、エポキシ樹脂a1-1、エポキシ樹脂a1-2及びTETA(トリエチレンテトラミン)を反応して得られる「アミンアダクトA-2((B)成分のTETA(トリエチレンテトラミン)10ppm未満残留)」は、「アミン系硬化剤」又は「潜在性硬化剤」にも相当するといえる。
また、本件明細書の【0015】に「アミド系硬化剤としては、・・・例えば、活性水素を4つもつジシアンジアミド及びその誘導体であるグアニジン化合物・・・が挙げられる」と記載されているように、本件発明1における「アミド系硬化剤」には、ジシアンジアミドが包含されるから、甲1B発明の「ジシアンジアミド」は、「アミド系硬化剤」に相当する。
そうすると、甲1B発明の「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2」及び「ジシアンジアミド」は、本件発明1の「アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上である」「(B)硬化剤」に相当する。
(ウ)甲1B発明の「エポキシ樹脂E-2(ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量165g/当量、ジオール末端不純成分/基本構造成分=0.12、全塩素量:1300ppm))」には「ジオール末端不純成分」が含まれているところ、エポキシ樹脂(E)のジオール末端不純成分とは、上記ア(ウ)において説示したのと同様に、ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂の末端のエポキシ基が開環して、1,2-グリコール基を形成した構造であるから、本件発明1の「式(1)」において、「R1」が「ヒドロキシル基」、「R2、R3及びR4」が「水素」、「R5、R6、R8及びR9」が「水素」、「R7」が「ヘテロ原子を含む置換基」である「(C)下記式(1)で示される化合物」に相当する。
(エ)そして、甲1B発明の「絶縁性ペースト」は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2等を含む加熱硬化前の混合物(組成物)であり、「アルキレン1,2-カーボネートを含む」ものではないから、「エポキシ樹脂組成物(ただし、アルキレン1,2-カーボネートを含む態様を除く)」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1B発明とは、
「下記成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含み、
前記成分(B)が、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上である、
エポキシ樹脂組成物(ただし、アルキレン1,2-カーボネートを含む態様を除く)。
(A)エポキシ樹脂
(B)硬化剤
(C)下記式(1)で示される化合物・・・
{式(1)中、R1は、ヒドロキシル基であり、R2、R3及びR4は、水素であり、R5~R9は、それぞれ、水素、アルキル基、芳香族基、ヘテロ原子を含む置換基、及びハロゲン原子を含む置換基からなる群から選ばれる一種である。R5~R9は、それぞれ、同一であっても、異なっていてもよい。また、R5~R9から選ばれるいずれかが同一環に存在する縮合環化合物でもよい。}」である点で一致し、相違する点はない。
ウ したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明(甲1A発明又は甲1B発明)であり、また、仮に相違する点があるとしても、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、「前記成分(B)が固体の硬化剤を含む」と特定するものである。
しかし、甲1A発明の「アミンアダクトA-1」及びそれから得られる「エポキシ樹脂用硬化剤C-1」はいずれも「25℃で固体状」であり、「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1」も、上記エポキシ樹脂用硬化剤C-1にシェル形成反応を行って得られるもので、キシレンを用いてマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤を分離できる(【0097】)ことから、「25℃で固体状」であるといえる。
同様に、甲1B発明の「アミンアダクトA-2」、「エポキシ樹脂用硬化剤C-2」及び「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2」も、いずれも「25℃で固体状」であるといえる。
そうすると、本件発明2に係る上記特定は、甲1A発明又は甲1B発明との対比において相違点とはならず、仮に相違する点があるとしても、甲1の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、本件発明2は、甲1に記載された発明(甲1A発明又は甲1B発明)であり、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件発明3について
ア 本件発明3は、本件発明1又は2において、「前記成分(B)として、活性水素を4つ以上含む化合物を含む」と特定するものである。
イ 「甲1A発明」を主引用発明とした場合について
甲1A発明は、「活性水素を4つ以上含む化合物」を含むものでない点で、本件発明3と相違する。
しかし、甲1には、マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物(F)は、「酸無水物類、フェノール類、ヒドラジド類、およびグアニジン類よりなる群より選ばれる少なくとも1種の硬化剤(K)を併用する事ができる」(【0069】)こと、「好ましくは、ジシアンジアミド」(【0070】)であることも記載されており、具体的に、甲1の【0114】には、マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物F-2と「ジシアンジアミド」を併用した絶縁性ペーストが記載されているところ、「ジシアンジアミド」は、「活性水素を4つ以上含む化合物」に相当する(本件明細書の【0015】参照)。
そうすると、甲1A発明において、甲1の記載に基づいて、「活性水素を4つ以上含む化合物」に相当する「ジシアンジアミド」をさらに配合することは、当業者が容易に想到し得るものである。
ウ 「甲1B発明」を主引用発明とした場合について
甲1B発明における「ジシアンジアミド」は、上記イのとおり、「活性水素を4つ以上含む化合物」に相当するから、本件発明3に係る上記特定は相違点とはならない。
エ したがって、本件発明3は、甲1に記載された発明(甲1B発明)であり、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)本件発明4について
ア 本件発明4は、本件発明1又は2において、「前記成分(B)が、イミダゾール系硬化剤を含む」と特定するものである。
イ 「甲1A発明」を主引用発明とした場合について
甲1A発明における「2-メチルイミダゾール」及び「2-エチル-4-メチルイミダゾール」は、「イミダゾール系硬化剤」に相当するから、本件発明4に係る上記特定は相違点とはならない。
ウ 「甲1B発明」を主引用発明とした場合について
甲1B発明は、「イミダゾール系硬化剤」を含むものでない点で、本件発明4と相違する。
しかし、甲1には、「低分子アミン化合物(B)としては、貯蔵安定性の優れたエポキシ樹脂組成物が得られるため、・・・イミダゾール類が更に好ましく、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールが一層好ましい」と記載されており(【0032】)、実施例1、4~7においても、2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)、2-メチルイミダゾール(2MZ)が用いられており、これらは本件発明4の「イミダゾール系硬化剤」に相当する。
そうすると、甲1B発明において、TETA(トリエチレンテトラミン)に代えて又は加えて、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール等のイミダゾール類を配合することは、甲1の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
エ したがって、本件発明4は、甲1に記載された発明(甲1A発明)であり、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1又は2において、「前記成分(B)が、マイクロカプセル型硬化剤を含む」と特定するものである。
しかし、甲1A発明の「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1」及び甲1B発明の「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2」は、シェル形成反応により得られるもので、キシレンを用いてマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤を分離できる(【0097】)ものであることから、本件発明5の「マイクロカプセル型硬化剤を含む」ものに相当し、上記特定は相違点ではなく、仮に相違する点があるとしても、甲1の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、本件発明5は、甲1に記載された発明(甲1A発明又は甲1B発明)であり、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7)本件発明6について
ア 本件発明6は、本件発明1又は2において、「成分(D)として、硬化促進剤をさらに含む」と特定するものである。
イ 本件明細書には、「成分(D)硬化促進剤」について、以下の記載がある。
「【0031】
<成分(D)硬化促進剤>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、硬化反応を促進する目的で、(D)硬化促進剤(以下「成分(D)」とも記す)を含むことができる。(D)硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン系化合物、イミダゾール系化合物、オニウム化合物のボロン塩、リン系化合物、ルイス酸、尿素誘導体等が挙げられる。・・・
成分(B)硬化剤に該当するイミダゾール化合物は、他の成分(B)硬化剤を含む場合に、組み合わせによっては、成分(D)硬化促進剤に該当する。本明細書中では、以下に記載の場合にイミダゾール化合物は成分(D)硬化促進剤とする。
【0032】
成分(B)が、グアニジン化合物、ヒドラジド系化合物、酸無水物系化合物、フェノール樹脂、ポリチオール系化合物、芳香族アミン、ベンゾオキサジン、シアネートエステルのうち少なくとも1種を含み、イミダゾール化合物を加えることで、硬化時間の短縮、硬化温度の低温化、硬化物強度の向上等の硬化性向上が発揮される場合に、イミダゾール化合物は成分(D)硬化促進剤とする。
【0033】
また、成分(B)が2種以上のイミダゾール化合物を含む場合に、硬化時間の短縮、硬化温度の低温化、硬化物強度の向上等の硬化性向上への部数当たりの寄与度が小さい方のイミダゾール化合物を成分(D)硬化促進剤とする。
【0034】
イミダゾール化合物を成分(D)硬化促進剤とする場合の上記に記載の成分(B)硬化剤の具体的例としては、上記の[成分(B)硬化剤]の段落に記載の化合物等が使用できる。
【0035】
組み合わせにより成分(D)硬化促進剤となるイミダゾール化合物としては、特に限定されないが、例えば、2-エチル-4-メチルイミダゾール・・・等が挙げられる。・・・」
そうすると、上記1(1)において説示したとおり、本件発明6の成分(D)の「硬化促進剤」の意味するところが明確ではないものの、本件明細書の【0031】~【0035】には、「硬化促進剤」として、成分(B)の硬化剤である「アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、潜在性硬化剤及びイミダゾール系硬化剤からなる群より選ばれる一つ以上」(本件明細書の【0014】~【0022】も参照)と重複するものが例示されており、例えば、成分(B)が、「グアニジン化合物、ヒドラジド系化合物、酸無水物系化合物、フェノール樹脂、ポリチオール系化合物、芳香族アミン、ベンゾオキサジン、シアネートエステルのうち少なくとも1種」を含み、「イミダゾール化合物」を加える場合のように、成分(B)硬化剤に該当するイミダゾール化合物は、他の成分(B)硬化剤を含む場合に、組み合わせによっては、成分(D)硬化促進剤に該当することや、「2種以上のイミダゾール化合物を含む場合」に、一方を(B)硬化剤、他方を(D)硬化促進剤とすることも記載されていることが理解できる。
ウ 「甲1A発明」を主引用発明とした場合について
(ア)甲1A発明の「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1」は、「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」と「2-メチルイミダゾール」とから得られる「アミンアダクトA-1」に、「2-エチル-4-メチルイミダゾール」を添加したものであり、甲1A発明は、(B)硬化剤に相当する「2-メチルイミダゾール」及び「2-エチル-4-メチルイミダゾール」の2種のイミダゾールを含むものであるが、上記イを踏まえると、2種のイミダゾールの一方は「(B)硬化剤」に相当し、他方は「成分(D)」である「硬化促進剤」に相当することが明らかである。
そうすると、本件発明6に係る上記特定は、実質的な相違点とはならない。
(イ)また、上記特定が実質的な相違点であるとしても、甲1には、「本発明に用いられるエポキシ樹脂用硬化剤(C)、マイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤(D)、マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物(F)から選ばれる少なくとも1種は、酸無水物類、フェノール類、ヒドラジド類、およびグアニジン類よりなる群より選ばれる少なくとも1種の硬化剤(K)を併用する事ができる」(【0069】)と記載されており、当該「硬化剤(K)」は、甲1A発明の「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1」という硬化剤に併用し得る「硬化促進剤」であることが明らかである。
そうすると、甲1A発明において、甲1の記載に基づいて、さらに上記「硬化剤(K)」、すなわち「(D)硬化促進剤」を併用することは、当業者が容易に想到し得たものである。
エ 「甲1B発明」を主引用発明とした場合について
(ア)甲1B発明は、硬化剤として、「ジシアンジアミド」及び「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2」の2種を含むものであるが、甲1には、「ジシアンジアミド」が、「硬化剤(K)」(【0070】)として例示されており、上記ウ(イ)のとおり、「硬化剤(K)」、すなわち「ジシアンジアミド」は、甲1B発明の「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2」に併用される「硬化促進剤」であることが明らかである。
そうすると、本件発明6に係る上記特定は、実質的な相違点とはならない。
(イ)また、上記特定が実質的な相違点であるとしても、上記ウ(イ)と同様の理由により、甲1B発明において、甲1の記載に基づいて、さらに上記「硬化剤(K)」、すなわち「(D)硬化促進剤」を併用することは、当業者が容易に想到し得たものである。
オ したがって、本件発明6は、甲1に記載された発明(甲1A発明又は甲1B発明)であり、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
(8)本件発明7について
ア 「甲1A製法発明」を主引用発明とした場合について
(ア)本件発明7と甲1A製法発明とを対比する。
本件発明7の「成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含むエポキシ樹脂組成物の製造方法」における「エポキシ樹脂組成物」の組成は、本件発明1で特定されるところと同じであるから、甲1A製法発明における「一液性エポキシ樹脂組成物」との相当関係については、上記(2)アにおいて説示したとおりであり、相違する点はない。
次に、本件発明7の工程に係る特定事項について検討すると、本件発明7と甲1A製法発明とは、本件発明7においては、「成分(A)及び成分(B)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程を含み」と特定されているのに対し、甲1A製法発明はそのような特定がない点で一応相違する。
(イ)そこで、上記一応の相違点について検討する。
甲1A製法発明は、「100部のエポキシ樹脂(M)に、以下のマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1を30部配合」したものであるから、本件発明7の「成分(A)」に相当する「エポキシ樹脂(M)」に、「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1」を添加する工程を含むといえる。
そして、該マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物F-1における「エポキシ樹脂E-1」は、上記(2)ア(ウ)において説示したとおり、本件発明7の「成分(C)」に相当する「ジオール末端不純成分」を含むものである。
そうすると、甲1A製法発明において、「エポキシ樹脂(M)」に、「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-1」を添加する工程は、本件発明7の「成分(A)に成分(C)を添加する工程」を含むことに相当するから、上記一応の相違点は実質的な相違点ではない。
(ウ)また、仮に相違する点があるとしても、複数の成分を含む組成物の製造において、各成分の添加順序を好適化することは当業者が適宜行うことである。例えば、甲1の【0060】には、「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物(F)を製造する方法として、先に製造されたエポキシ樹脂用硬化剤(C)および/またはマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤(D)を、例えば、三本ロール等を用いてエポキシ樹脂(E)中に分散させる方法」が記載されているところ、当該マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物(F)を製造する工程において、本件発明7の「成分(C)」に相当する「ジオール末端不純成分」を含む「エポキシ樹脂(E-1)」と、本件発明7の「成分(B)」に相当する「エポキシ樹脂用硬化剤(C-1)」の添加順序は当業者が適宜設定し得るものである。
そして、本件明細書の記載を参酌しても、実施例(【0046】)において、各成分の添加順序は記載されていないから、本件発明7が、添加順序を特定したことにより、当業者の予測を超える効果を奏したとはいえない。
イ 「甲1B製法発明」を主引用発明とした場合について
(ア)本件発明7と甲1B製法発明とを対比する。
本件発明7の「成分(A)、下記成分(B)及び下記成分(C)を含むエポキシ樹脂組成物の製造方法」における「エポキシ樹脂組成物」の組成は、本件発明1で特定されるところと同じであるから、甲1B製法発明における「一液性エポキシ樹脂組成物」との相当関係については、上記(2)イにおいて説示したとおりであり、相違する点はない。
次に、本件発明7の工程に係る特定事項について検討すると、本件発明7と甲1B製法発明とは、本件発明7においては、「成分(A)及び成分(B)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程を含み」と特定されているのに対し、甲1B製法発明はそのような特定がない点で一応相違する。
(イ)そこで、上記一応の相違点について検討する。
甲1B製法発明は、「ビスフェノールF型エポキシ樹脂・・・100重量部、ジシアンジアミドを4重量部、シリカ粉末100重量部、希釈剤としてフェニルグリシジルエーテル10重量部、および有機リン酸エステル・・・1重量部を十分混合した後、三本ロールで混練し、そこに以下の製造工程により得られたマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2を30部加え、さらに均一に混合」したものであるから、本件発明7の「成分(A)」に相当する「ビスフェノールF型エポキシ樹脂」に、「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2」を添加する工程を含むといえる。
そして、該マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物F-2における「エポキシ樹脂E-2」は、上記(2)イ(ウ)において説示したとおり、本件発明7の「成分(C)」に相当する「ジオール末端不純成分」を含むものである。
そうすると、甲1B製法発明において、「ビスフェノールF型エポキシ樹脂」に、「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2」を添加する工程は、本件発明7の「成分(A)に成分(C)を添加する工程」を含むことに相当するから、上記一応の相違点は実質的な相違点ではない。
(ウ)また、仮に相違する点があるとしても、上記ア(ウ)と同様に、各成分の添加順序は当業者が適宜設定し得るものである。
そして、本件明細書の記載を参酌しても、実施例(【0046】)において、各成分の添加順序は記載されていないから、本件発明7が、添加順序を特定したことにより、当業者の予測を超える効果を奏したとはいえない。
ウ したがって、本件発明7は、甲1に記載された発明(甲1A製法発明又は甲1B製法発明)であり、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
(9)本件発明8について
ア 本件発明8は、本件発明7において、「エポキシ樹脂組成物がさらに下記成分(D)を含み・・・(D)硬化促進剤」、「成分(A)、成分(B)、及び成分(D)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程を含む」と特定するものである。
イ 「甲1A製法発明」を主引用発明とした場合について
(ア)「硬化促進剤」の特定については、上記(7)ウにおいて説示したとおり、甲1A製法発明との実質的な相違点ではないか、当業者が容易に想到し得たものである。
(イ)そして、「工程」の特定については、上記(8)ア(イ)において説示したとおり、甲1A製法発明は、「成分(A)に成分(C)を添加する工程」を含むといえるから、実質的な相違点ではなく、仮に相違するとしても、上記(8)ア(ウ)において説示したのと同様に、(D)硬化促進剤をさらに含む複数の成分を含む組成物の製造においても、各成分の添加順序を好適化することは当業者が適宜行うことである。
そして、本件発明8が、上記特定により、当業者の予測を超える効果を奏したともいえない。
ウ 「甲1B製法発明」を主引用発明とした場合について
(ア)「硬化促進剤」の特定については、上記(7)エにおいて説示したとおり、甲1B製法発明との実質的な相違点ではないか、当業者が容易に想到し得たものである。
(イ)そして、「工程」の特定については、上記(8)イ(イ)において説示したとおり、甲1B製法発明は、「成分(A)に成分(C)を添加する工程」を含むといえるから、実質的な相違点ではなく、仮に相違するとしても、上記(8)イ(ウ)において説示したのと同様に、(D)硬化促進剤をさらに含む複数の成分を含む組成物の製造においても、各成分の添加順序を好適化することは当業者が適宜行うことである。
そして、本件発明8が、上記特定により、当業者の予測を超える効果を奏したともいえない。
エ したがって、本件発明8は、甲1に記載された発明(甲1A製法発明又は甲1B製法発明)であり、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
(10)本件発明9について
ア 本件発明9は、本件発明7又は8において、「エポキシ樹脂組成物がさらに下記成分(E)を含み・・・(E)フィラー」、「成分(A)、成分(B)、及び成分(E)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程を含む」と特定するものである。
イ 「甲1A製法発明」を主引用発明とした場合について
(ア)甲1A製法発明は、「フィラー」を含むものでない点、また、「成分(A)、成分(B)、及び成分(E)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程を含む」との特定がない点で、本件発明9と相違する。
(イ)「フィラー」の特定については、甲1に、マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物(F)は、「充填材・・・を添加することができる」と記載され、充填材の化合物の例も示されており(【0071】)、また、具体的に、甲1の【0114】には、シリカ粉末を配合した絶縁性ペーストが記載されているところ、当該「シリカ粉末」は「フィラー」に相当する。
そうすると、甲1A製法発明において、甲1の記載に基づいて、「(E)フィラー」に相当する「充填材」をさらに配合することは、当業者が容易に想到し得るものである。
(ウ)次に、「工程」の特定については、上記(8)ア(イ)において説示したとおり、甲1A製法発明は、「成分(A)に成分(C)を添加する工程」を含むといえるから、実質的な相違点ではなく、仮に相違するとしても、上記(8)ア(ウ)において説示したのと同様に、(E)フィラーをさらに含む複数の成分を含む組成物の製造においても、各成分の添加順序を好適化することは当業者が適宜行うことである。
そして、本件発明9が、添加順序を特定したことにより、当業者の予測を超える効果を奏したとはいえない。なお、本件明細書の実施例には、「(E)フィラー」を添加した具体例も、各成分の記載順序も示されていない。
ウ 「甲1B製法発明」を主引用発明とした場合について
(ア)甲1B製法発明における「シリカ粉末」は、「(E)フィラー」に相当する。
(イ)そして、甲1B製法発明は、「ビスフェノールF型エポキシ樹脂・・・100重量部、ジシアンジアミドを4重量部、シリカ粉末100重量部、希釈剤としてフェニルグリシジルエーテル10重量部、および有機リン酸エステル・・・1重量部を十分混合した後、三本ロールで混練し、そこに以下の製造工程により得られたマスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2を30部加え、さらに均一に混合」したものであるところ、本件発明9の「成分(A)」に相当する「ビスフェノールF型エポキシ樹脂」、「成分(B)」に相当する「ジシアンジアミド」及び「成分(E)」に相当する「シリカ粉末」を含む混合物に、「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2」を添加する工程を含むといえる。
そして、該マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤組成物F-2における「エポキシ樹脂E-2」は、上記(2)イ(ウ)において説示したとおり、本件発明9の「成分(C)」に相当する「ジオール末端不純成分」を含むものである。
そうすると、「ビスフェノールF型エポキシ樹脂」、「ジシアンジアミド」及び「シリカ粉末」を含む混合物に、「マスターバッチ型エポキシ樹脂用硬化剤F-2」を添加する工程は、本件発明9の「成分(A)、成分(B)、及び成分(E)の群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物又は組成物に成分(C)を添加する工程」を含むことに相当する。
(ウ)そうすると、本件発明9に係る上記特定は、いずれも甲1B製法発明との相違点ではなく、仮に相違する点があるとしても、甲1の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
エ したがって、本件発明9は、甲1に記載された発明(甲1B製法発明)であり、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
(11)意見書における特許権者の主張について
ア 特許権者は、令和6年11月21日提出の意見書(5頁下から6行~6頁下から5行)、令和7年6月2日提出の意見書(7頁19行~10頁下から6行)、同年10月31日提出の意見書(7頁19行~10頁8行)及び令和8年2月16日提出の意見書(5頁24~26行)において、いずれも成分(B)及び/又は成分(C)の含有量を特定したことにより、甲1に記載された発明と相違し、また、成分(B)及び/又は成分(C)の含有量を特定したことによって得られる本件発明の効果は、甲1から予測できない顕著な効果であるから、本件発明は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない旨を主張する。
イ しかし、上記第3のとおり、本件発明は、成分(B)及び/又は成分(C)の含有量を特定するものではないから、上記アの主張は、上記(2)~(10)の判断を左右するものではない。
(12)取消理由1及び2についてのまとめ
したがって、本件発明1~9は、甲1に記載された発明であり、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明1~9に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項6、8及び9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
そして、本件発明1~9に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700591