審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2026-700141

電気化学装置

審判番号
2026-700141
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-197664
登録番号
7725349
請求日
2026年02月17日
審決日
2026年05月27日
公報発行日
2026年07月31日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】東芝エネルギーシステムズ株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人サクラ国際特許事務所
  • 【異議申立人】林 尚子
審判長/審判官
  • 審判長 梶尾 誠哉
  • 審判官 木村 貴俊
  • 審判官 畑中 博幸
分類
P1651.113-Y (H01M) / P1651.121-Y (H01M) / P1651.536-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7725349号発明「電気化学装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7725349号の請求項1~5に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7725349号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和3年12月6日を出願日とする特許出願であって、令和7年8月8日にその特許権の設定登録がなされ、同年8月19日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1~5に係る特許に対し、令和8年2月17日に特許異議申立人 林 尚子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明5」といい、併せて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 固体酸化物の電解質膜を第1電極と第2電極とが挟むように構成されている固体酸化物形セルと、 前記固体酸化物形セルのうち前記第1電極の側に設置された第1のセパレータ部と、 前記固体酸化物形セルのうち前記第2電極の側に設置された第2のセパレータ部と を備え、前記第1のセパレータ部と前記第1電極との間を第1電極ガスが流れると共に、前記第2のセパレータ部と前記第2電極との間を第2電極ガスが流れるように構成された電気化学装置であって、 前記第1のセパレータ部は、 前記固体酸化物形セルのうち少なくとも前記第1電極を収容する収容空間 を有し、前記第1電極の側面と前記収容空間の側面との間にギャップが介在しており、前記ギャップには、前記第1電極ガスが流れることを妨げるためのガス障壁部が設けられており、 前記ガス障壁部は、前記固体酸化物形セルの側面と前記収容空間の側面との間を付勢する付勢部材である、 電気化学装置。 【請求項2】 固体酸化物の電解質膜を第1電極と第2電極とが挟むように構成されている固体酸化物形セルと、 前記固体酸化物形セルのうち前記第1電極の側に設置された第1のセパレータ部と、 前記固体酸化物形セルのうち前記第2電極の側に設置された第2のセパレータ部と を備え、前記第1のセパレータ部と前記第1電極との間を第1電極ガスが流れると共に、前記第2のセパレータ部と前記第2電極との間を第2電極ガスが流れるように構成された電気化学装置であって、 前記第1のセパレータ部は、 前記固体酸化物形セルのうち少なくとも前記第1電極を収容する収容空間 を有し、前記第1電極の側面と前記収容空間の側面との間にギャップが介在しており、前記ギャップには、前記第1電極ガスが流れることを妨げるためのガス障壁部が設けられており、 前記ガス障壁部は、導電性を有し、前記第1電極と前記第1のセパレータ部との間を電気的に接続する、 電気化学装置。 【請求項3】 固体酸化物の電解質膜を第1電極と第2電極とが挟むように構成されている固体酸化物形セルと、 前記固体酸化物形セルのうち前記第1電極の側に設置された第1のセパレータ部と、 前記固体酸化物形セルのうち前記第2電極の側に設置された第2のセパレータ部と を備え、前記第1のセパレータ部と前記第1電極との間を第1電極ガスが流れると共に、前記第2のセパレータ部と前記第2電極との間を第2電極ガスが流れるように構成された電気化学装置であって、 前記第1のセパレータ部は、 前記固体酸化物形セルのうち少なくとも前記第1電極を収容する収容空間 を有し、前記第1電極の側面と前記収容空間の側面との間にギャップが介在しており、前記ギャップには、前記第1電極ガスが流れることを妨げるためのガス障壁部が設けられており、 前記ガス障壁部の熱膨張率は、前記固体酸化物形セルの熱膨張率以下であると共に、前記第1のセパレータ部の熱膨張率以下である、 電気化学装置。 【請求項4】 前記ガス障壁部は、上流側と下流側との少なくとも一方に設置されている、 請求項1から3のいずれかに記載の電気化学装置。 【請求項5】 前記第1電極は、水素極であって、 前記第2電極は、酸素極である、 請求項1から4のいずれかに記載の電気化学装置。」 第3 申立理由の概要 1 特許異議の申立理由 異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由は、次のとおりである。 (1)申立理由1(明確性要件) 本件発明1~5は、明確ではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)申立理由2(サポート要件) 本件発明1、3~5は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3)申立理由3(実施可能要件) 本件特許に係る願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には、本件発明3~5について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (4)申立理由4(新規性) 本件発明1~5は、甲第1号証に記載された発明であり、本件発明3~5は甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (5)申立理由5(進歩性) 本件発明1~5は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明3~5は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 異議申立人の提出した証拠 異議申立人は、次の甲第1号証~甲第9号証(以下、「甲1」~「甲9」という。)を証拠として提出している。 甲第1号証(甲1):国際公開第2018/155112号 甲第2号証(甲2):特開2018-181466号公報 甲第3号証(甲3):特開2007-265896号公報 甲第4号証(甲4):Mica (KMg3AlSi3O10F2) based glass-ceramic composite sealant with thermal stability for SOFC application、Mrinmoy Garai, Shiv Prakash Singh, Basudeb Karmakar、International Journal of Hydrogen Energy、Vol.46、Issue45、p.23480-23488、2021年7月1日、 <https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0360319920341501> 甲第5号証(甲5):固体電解質型燃料電池の湿式作製法に関する基礎的研究、長崎大学大学院海洋生産化学研究科、永石雅基、1997年12月、 <https://nagasaki-u.repo.nii.ac.jp/records/22931> 甲第6号証(甲6):「SUS430の情報を掲載:シリコロイ公式サイト」、株式会社シリコロイラボ、令和8年1月5日(出力日) <https://www.silicolloy.co.jp/material/sus430> 甲第7号証(甲7):「ステンレスの導電率、透磁率、熱膨張率などの物理的性質について」、ステンレス協会、令和8年1月5日(出力日) <https://www.jssa.gr.jp/contents/faq-article/q6> 甲第8号証(甲8):「Zircar FIBROUS CERAMICSカタログ」、巴工業株式会社、令和8年1月5日(出力日) <https://www.tomo-e.co.jp/upload/cProductsJA/25QU090-cProductsJA_content-003.pdf> 甲第9号証(甲9):固体酸化物形燃料電池(SOFC)の開発における熱物性・熱力学の重要性、酒井夏子、熱測定、Vol.32、No.5、p.226-231、日本熱測定学会、2005年 第4 異議申立人が提出した証拠の記載 1 甲1について (1) 甲1の記載 「[0001] 本明細書によって開示される技術は、電気化学反応単位に関する。」 「[0003] 発電単位には、単セル周辺の空間を埋めて発電効率を向上させる等の目的で、フェルト部材が充填されることがある。このようなフェルト部材には、柔軟性および耐熱性が要求される。そのため、フェルト部材は、例えば、金属を含むフェルト材料(例えば、ニッケルフェルト)やセラミックスを含むフェルト材料(例えば、アルミナフェルト)により構成される(例えば、特許文献1参照)。」 「[0026] 図4および図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。 [0027] インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(図2および図3参照)。 [0028] 単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向(発電単位102が並ぶ配列方向)に互いに対向する空気極(カソード)114および燃料極(アノード)116とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で電解質層112および空気極114を支持する燃料極支持形の単セルである。 [0029] 電解質層112は、Z方向視で略矩形の平板形状部材であり、緻密な(気孔率が低い)層である。電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。空気極114は、Z方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、多孔質な(電解質層112より気孔率が高い)層である。空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。燃料極116は、Z方向視で電解質層112と略同一の大きさの略矩形の平板形状部材であり、多孔質な(電解質層112より気孔率が高い)層である。燃料極116は、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。このように、本実施形態の単セル110(発電単位102)は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。」 「[0031] 図6に示すように、空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。 [0032] 図7に示すように、燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。」 「[0034] 燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。 [0035] また、本実施形態の発電単位102は、さらに、フェルト部材41を備える。図4および図6に示すように、フェルト部材41は、空気室166において、酸化剤ガスOGの主たる流れ方向(X軸方向)に直交する方向(Y軸方向)の両端の位置(Z軸方向において単セル110の空気極114と重ならない位置)に充填されている。すなわち、フェルト部材41は、Z軸方向に直交する方向(Y軸方向)において、空気極側集電体134における外側表面と空気極側フレーム130における孔131の表面との間に配置されている。また、図5および図7に示すように、フェルト部材41は、燃料室176において、燃料ガスFGの主たる流れ方向(Y軸方向)に直交する方向(X軸方向)の両端の位置(Z軸方向において単セル110の空気極114と重ならない位置)にも充填されている。すなわち、フェルト部材41は、Z軸方向に直交する方向(X軸方向)において、燃料極側集電体144における外側表面と燃料極側フレーム140における孔141の表面との間に配置されている。フェルト部材41の存在により、空気室166に供給された酸化剤ガスOGまたは燃料室176に供給された燃料ガスFGが、発電にあまり寄与しない領域を通過して空気室166または燃料室176から排出されることを抑制することができ、発電効率を向上させることができる。なお、本実施形態における空気極114および燃料極116は、特許請求の範囲における特定電極に相当する。また、本実施形態における空気極側フレーム130および燃料極側フレーム140は、特許請求の範囲におけるフレーム部材に相当し、本実施形態における空気極側集電体134および燃料極側集電体144は、特許請求の範囲における集電部材に相当する。 [0036] フェルト部材41は、アルミナ-シリカ(二酸化ケイ素)系のフェルト材料により構成されている。すなわち、フェルト部材41は、セラミックスであるアルミナと、シリカ成分とを含んでいる。フェルト部材41がアルミナを含むことにより、フェルト部材41の耐熱性や柔軟性を向上させることができる。なお、本実施形態で使用されるフェルト部材41は、Al2O3の結晶構造を有すると共に、SiO2の結晶構造も有している。このようなフェルト部材41は、Al2O3の結晶構造を有する市販のアルミナ-シリカ系のフェルト原材料を、例えば1000℃以上、1300℃以下で8~12時間の熱処理を行い、その後に成形することにより作製することができる。 [0037] A-2.燃料電池スタック100の動作: 図2、図4および図6に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、図3、図5および図7に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。」 「[0039] 各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、図2、図4および図6に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、図3、図5および図7に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。」 「[0049] また、上記実施形態では、フェルト部材41は、アルミナ-シリカ系のフェルト材料により構成されているが、他のアルミナ以外のセラミックス-シリカ系のフェルト材料により構成されていてもよい。あるいは、フェルト部材41は、金属-シリカ系のフェルト材料(例えば、ニッケルフェルト)により構成されていてもよい。このような構成においても、フェルト部材41が、セラミックスまたは金属とシリカ成分とを含むと共に、フェルト部材41のSi含有量が0.9質量%以上、13.2質量%以下であれば、フェルト部材41の強度を確保しつつ、フェルト部材41からのSiの飛散を抑制することができ、Siによる被毒を原因とした単セル110の性能低下の発生を抑制することができる。」 「[図4] [図:0001437421000001.jpg] 」 「[図5] [図:0001437421000002.jpg] 」 ア 第26段落には、「発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。」と記載されていることから、甲1には、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている発電単位102が記載されている。 さらに、図4の記載から、セパレータ120は空気極側フレーム130の下部に位置しており、一対のインターコネクタのうち、下側のインターコネクタ150は燃料極側フレーム140の下部に位置していることが看取できる。 また、第27段落の「インターコネクタ150は」、「発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。」との記載から、インターコネクタ150は発電単位102間での反応ガスの混合を防止する構成であるといえる。 イ 第28段落の「単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向(発電単位102が並ぶ配列方向)に互いに対向する空気極(カソード)114および燃料極(アノード)116とを備える。」、第29段落の「電解質層112は、・・・固体酸化物により形成されている。」との記載から、単セル110は、固体酸化物により形成される電解質層112と、電解質層112を挟んで発電単位が並ぶ配列方向に互いに対向する空気極(カソード)114および燃料極(アノード)116とを備えていることが理解できる。 ウ 第29段落の「電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。空気極114は、Z方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、多孔質な(電解質層112より気孔率が高い)層である。空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。」、「燃料極116は、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。」との記載、及び第27段落の「インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。」との記載から、電解質層112はYSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成され、空気極114は、ペロブスカイト型酸化物等により形成され、燃料極116は、Niとセラミック粒子からなるサーメット等により形成され、インターコネクタ150は、フェライト系ステンレスにより形成されていることが理解できる。 エ 第32段落の「燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。」、「燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。」との記載及び図5から、燃料極側フレーム140は金属により形成され、燃料極側フレーム140の孔141は燃料極116に面する燃料室を構成し、下側のインターコネクタ150と燃料極116との間を燃料ガスFGが流れることが理解できる。 オ 第31段落の「空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。」、「空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。」との記載及び図4、図5から、空気極側フレーム130はマイカ等の絶縁体により形成され、空気極側フレーム130の孔131は空気極114に面する空気室166を構成し、セパレータ120及び上側のインターコネクタ150と空気極114との間を酸化剤ガスOGが流れることが理解できる。 カ 第35段落の「フェルト部材41は、燃料室176において、燃料ガスFGの主たる流れ方向(Y軸方向)に直交する方向(X軸方向)の両端の位置(Z軸方向において単セル110の空気極114と重ならない位置)にも充填されている。すなわち、フェルト部材41は、Z軸方向に直交する方向(X軸方向)において、燃料極側集電体144における外側表面と燃料極側フレーム140における孔141の表面との間に配置されている。フェルト部材41の存在により、空気室166に供給された酸化剤ガスOGまたは燃料室176に供給された燃料ガスFGが、発電にあまり寄与しない領域を通過して空気室166または燃料室176から排出されることを抑制することができ、発電効率を向上させることができる。」との記載及び図4、図5から、フェルト部材41は、燃料ガスの主たる流れ方向に直交する方向の両端の位置であって、燃料極116と燃料極側フレーム140との間、及び燃料極116と下側のインターコネクタ150との間に充填されており、酸化剤ガスOGまたは燃料ガスFGが発電にあまり寄与しない領域を通過して空気室166または燃料室176から排出されることを抑制するためのものであることが理解できる。 キ 第36段落の「フェルト部材41は、アルミナ-シリカ(二酸化ケイ素)系のフェルト材料により構成されている。」との記載、第49段落の「フェルト部材41は、アルミナ-シリカ系のフェルト材料により構成されているが、他のアルミナ以外のセラミックス-シリカ系のフェルト材料により構成されていてもよい。あるいは、フェルト部材41は、金属-シリカ系のフェルト材料(例えば、ニッケルフェルト)により構成されていてもよい。」との記載から、フェルト部材41は、アルミナ-シリカ系のフェルト材料、他のアルミナ以外のセラミックス-シリカ系のフェルト材料、又は金属-シリカ系のフェルト材料(例えば、ニッケルフェルト)により構成されているといえる。 (2) 甲1発明 上記(1)によれば、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 [甲1発明] 「 単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている発電単位102であって、 セパレータ120は空気極側フレーム130の下部に位置して、インターコネクタ150は燃料極側フレーム140の下部に位置しており、 インターコネクタ150は発電単位102間での反応ガスの混合を防止する構成であり、 単セル110は、固体酸化物により形成される電解質層112と、電解質層112を挟んで発電単位が並ぶ配列方向に互いに対向する空気極(カソード)114および燃料極(アノード)116とを備え、 電解質層112はYSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成され、 空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物等により形成され、 燃料極116は、Niとセラミック粒子からなるサーメット等により形成され、 インターコネクタ150は、フェライト系ステンレスにより形成されており、 燃料極側フレーム140は金属により形成され、燃料極側フレーム140の孔141は燃料極116に面する燃料室を構成し、下側のインターコネクタ150と燃料極116との間を燃料ガスFGが流れ、 空気極側フレーム130はマイカ等の絶縁体により形成され、空気極側フレーム130の孔131は空気極114に面する空気室166を構成し、セパレータ120及び上側のインターコネクタ150と空気極114との間を酸化剤ガスOGが流れ、 フェルト部材41は、燃料ガスの主たる流れ方向に直交する方向の両端の位置であって、燃料極116と燃料極側フレーム140との間、及び燃料極116と下側のインターコネクタ150との間に充填されており、酸化剤ガスOGまたは燃料ガスFGが発電にあまり寄与しない領域を通過して空気室166または燃料室176から排出されることを抑制するためのものであり、 フェルト部材41は、アルミナ-シリカ系のフェルト材料、他のアルミナ以外のセラミックス-シリカ系のフェルト材料、又は金属-シリカ系のフェルト材料(例えば、ニッケルフェルト)により構成されている、 発電単位102。」 2 甲2~甲9について 甲2~甲9には、概略、以下の事項が記載されている。 甲2には、ガス障壁部としての突出部を有する発明が記載されている。 甲3には、ニッケルフェルトが導電性を示すことが記載されている。 甲4には、5~10重量%のマイカを含む固体酸化物燃料電池用ガラスセラミック複合材の熱膨張率は50~800℃で10.65~10.81×10-6/Kであることが記載されている。 甲5には、Ni-YSZの熱膨張係数は1.1~1.5×10-5K-1であることが記載されている。 甲6には、フェライト系ステンレスSUS430の線熱膨張係数は0~650℃において11.9×10-6/℃であることが記載されている。 甲7には、各種ステンレスの線熱膨張係数が記載されている。 甲8には、アルミナファイバーにシリカを加えた繊維製品の気孔率と収縮率が記載されている。 甲9には、固体酸化物燃料電池の熱物性に関する情報がセル・モジュール設計の最適化に不可欠な情報であることが記載されている。 第5 申立理由に対する当審の判断 1 申立理由1(明確性要件)について (1) 「ガス障壁部の位置」について 異議申立人は、請求項1~3において、ガス障壁部は、第1電極と第1のセパレータ部との間のギャップに設けられているところ、発明の詳細な説明には第1電極の側面や収容空間の側面の定義や説明はないし、空間とは「物が何も存在しない、あいている所」を意味するから、物体ではない収容空間の側面とはどこを指すのか不明である旨主張する(異議申立書10頁下から3行目~11頁7行目)。 しかしながら、特許請求の範囲の請求項1には、「前記第1のセパレータ部は、前記固体酸化物形セルのうち少なくとも前記第1電極を収容する収容空間を有し、前記第1電極の側面と前記収容空間の側面との間にギャップが介在しており、前記ギャップには、前記第1電極ガスが流れることを妨げるためのガス障壁部が設けられており」と記載されているから、第1のセパレータ部には収容空間が存在し、その収容空間に第1電極が収容されている態様が理解できる。 そして、第1のセパレータ部も第1電極も電気化学装置を構成する物体であるから、第1のセパレータ部の収容空間に第1電極を収容すると、第1電極の側面と、第1のセパレータ部の収容空間側の側面が相対することになり、直接接しない場合には、それらの間にギャップが介在し、当該ギャップにガス障壁部が設けられていること(位置していること)を当業者であれば容易に理解することができる。 そうすると、請求項1の記載により、ガス障壁部の位置は明確であるから、請求項1に記載された本件発明1は明確であり、同じ構成を有する本件発明2及び本件発明3も明確である。 (2) 「付勢部材」について 異議申立人は、請求項1において、「前記ガス障壁部は、前記固体酸化物形セルの側面と前記収容空間の側面との間を付勢する付勢部材である」との記載があるが、発明の詳細な説明には付勢の定義や説明はないし、付勢とは「付き従った軍勢」を意味するから、軍勢とは何か、付き従っているとはどのような状態であるのか不明である旨主張する。 また、異議申立人は、発明の詳細な説明の第46段落には、付勢部材として板バネが例示されていることから、付勢とは「勢いを付けること」から転じて「力を加えること」を意味する造語であるとしても、固体酸化物形セルの側面と収容空間の側面との「間」を力を加えるとは、どのような状態を指すのか不明である旨主張する(異議申立書11頁下から11行目~下から1行目)。 しかしながら、請求項1の記載からみて、付勢とは、物体に「力を加える」という程度の意味であって、異議申立人が主張するような「付き従った軍勢」などという意味ではないことは明らかである。 そして、上記(1)のとおり、第1のセパレータ部の収容空間に第1電極を収容すると、第1電極の側面と、第1のセパレータ部の収容空間側の側面が相対することになるところ、固体酸化物形セルは、電解質膜を第1電極と第2電極とが挟むように構成されているのであるから、第1電極の側面は、固体酸化物形セルの側面であるということができる。 そうすると、請求項1において、「前記固体酸化物形セルの側面と前記収容空間の側面との間を付勢する付勢部材」とは、固体酸化物形セルの側面と、第1のセパレータ部の収容空間側の側面とに力を加える部材であることを当業者であれば容易に理解することができる。 したがって、請求項1の記載により、付勢部材は明確であるから、請求項1に記載された本件発明1は明確である。 (3) 「熱膨張率」の温度範囲について 異議申立人は、請求項3において、「前記ガス障壁部の熱膨張率は、前記固体酸化物形セルの熱膨張率以下であると共に、前記第1のセパレータ部の熱膨張率以下である」との記載があるが、発明の詳細な説明には、熱膨張率の温度範囲について具体的な記載はなく、どの温度範囲において、ガス障壁部の熱膨張率が固体酸化物形セルの熱膨張率以下であると共に、第1のセパレータ部の熱膨張率以下であるのか不明であるから、熱膨張率係数の大小関係で特定されるガス障壁部は不明確である旨主張する(異議申立書12頁1行目~16行目)。 しかしながら、請求項3に記載されているガス障壁部、固体酸化物形セル及び第1のセパレータ部の熱膨張率の関係について、本件明細書の第42段落には、「これにより、電気化学装置1において発電または電解を実行する際に温度が高い状態になったときに、固体酸化物形セル10(例えば、水素極111など)、ガス障壁部50、および、第1のセパレータ部31が膨張して各部の間で接触が生じる場合であっても、その接触によって各部に加わる応力を低下させることができる。その結果、電気化学装置1において破損や歪みが発生することを防止することができる。」と記載されているから、熱膨張率の温度範囲は、電気化学装置1において発電または電解を実行する際に温度が高い状態になったときに、ガス障壁部、固体酸化物形セル及び第1のセパレータ部の接触によって各部に加わる応力を低下させることができる温度範囲であればよいことを当業者であれば容易に理解することができる。 そして、本件明細書の「背景技術」の欄において、第3段落には、「固体酸化物形セルがSOFCとして機能する際には、高温(たとえば、600~900℃)な運転条件の下で、水素極に供給された還元性の燃料ガス(水素、炭化水素、アンモニアなど)と、酸素極に供給された酸化性のガス(酸素、空気など)とが電解質膜を介して反応する」こと、第5段落には、「SOECとして機能する際には、固体酸化物形セルは、SOFCとして機能するときの反応と逆の反応が起こり、高温(たとえば、700℃以上)の水蒸気が水素と酸素とに分解する」ことが記載されているところ、「発明が解決しようとする課題」の欄の第9段落には、「電気化学装置では、固体酸化物形セルとセパレータとが相互に干渉し、歪みや破損が生ずる場合がある。歪みや破損は、例えば、寸法のバラツキや運転の際に熱膨張が生ずることに起因して、固体酸化物形セルとセパレータとの間において接触が生じ、両者に大きな応力が加わるために生ずる。その結果、電気化学装置においては、発電性能および電解性能が低下する場合がある。」ことも記載されているから、請求項3における熱膨張率は、少なくとも、600~900℃の温度範囲の熱膨張率を含むことを理解することができる。 そうすると、請求項3の記載及び発明の詳細な説明の記載により、熱膨張率の温度範囲は明確であるから、請求項3に記載された本件発明3は明確である。 (4) 「固体酸化物形セルの熱膨張率」の定義について 異議申立人は、請求項3において、「前記ガス障壁部の熱膨張率は、前記固体酸化物形セルの熱膨張率以下であると共に、前記第1のセパレータ部の熱膨張率以下である」との記載があるが、発明の詳細な説明には、固体酸化物形セルの熱膨張率について特定する記載がなく、固体酸化物形セルを構成する第1電極、第2電極又は電解質膜のいずれかの熱膨張率を指すのか、固体酸化物形セル全体としての熱膨張率を指すのか不明である旨主張する(異議申立書12頁下から11行目~下から1行目)。 しかしながら、請求項3には、「固体酸化物の電解質膜を第1電極と第2電極とが挟むように構成されている固体酸化物形セル」及び「前記固体酸化物形セルの熱膨張率」と記載されているところ、本件明細書の第42段落には、「また、ガス障壁部50の熱膨張率は、固体酸化物形セル10(例えば、水素極111など)の熱膨張率以下であると共に、第1のセパレータ部31の熱膨張率以下であることが好ましい。これにより、電気化学装置1において発電または電解を実行する際に温度が高い状態になったときに、固体酸化物形セル10(例えば、水素極111など)、ガス障壁部50、および、第1のセパレータ部31が膨張して各部の間で接触が生じる場合であっても、その接触によって各部に加わる応力を低下させることができる。その結果、電気化学装置1において破損や歪みが発生することを防止することができる。」と記載されている。 そうすると、固体酸化物形セル10の熱膨張率とは、固体酸化物形セル10のうち、例えば、水素極111(本件発明3の「第1電極」と「第2電極」のいずれかに相当するが、便宜のため、「第1電極」に相当すると仮定する。)のみとガス障壁部50が接触するのであれば、実際に接触する第1電極の熱膨張率のことで足り、第1電極を含め第2電極や電解質膜とガス障壁部50とが接触するのであれば、固体酸化物形セル10の熱膨張率のことである。 そうすると、請求項3の記載及び発明の詳細な説明の記載により、固体酸化物形セルの熱膨張率は明確であるから、請求項3に記載された本件発明3は明確である。 (5) 本件発明4及び5について 異議申立人は、本件発明1~3が明確でないから、本件発明4及び5も明確ではない旨主張する。 しかしながら、上記(1)~(4)のとおり、本件発明1~3は明確である。 したがって、異議申立人の主張は前提を欠いており、理由がない。 (6) 小括 以上によれば、本件発明は明確であるから、本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 したがって、異議申立人の主張する申立理由1は理由がない。 2 申立理由2(サポート要件)について (1) サポート要件について 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを比較し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。 そこで、以下、検討する。 本件発明の課題は、「発明が解決しようとする課題」の第8~11段落に記載されているように、電気化学装置では、寸法のバラツキや運転の際に熱膨張が生ずることに起因して、固体酸化物形セルとセパレータとの間において接触が生じ、両者に大きな応力が加わるために歪みや破損が生じて、発電性能および電解性能が低下するから、セパレータは、固体酸化物形セルの側面とセパレータの収容空間の側面との間にギャップが介在するように構成されているところ、ギャップにガスが漏洩すると、発電性能や電解性能が低下するので、発電性能や電解性能の向上を効果的に実現可能な電気化学装置を提供することである。 そして、当該課題を解決するために、本件明細書の発明の詳細な説明の第39段落には、「ギャップGには、ガス障壁部50が設けられており、ギャップGにおいて水素極ガスが流れることをガス障壁部50が妨げている。このため、本実施形態では、水素極111を通過する水素極ガスがギャップGに混入することが阻害される。その結果、本実施形態の電気化学装置においては、発電反応が効率的に進行するため、発電性能を向上可能であると共に、発電反応が効率的に進行するため、電解性能を向上可能である。」と記載されているように、ギャップに、ガス障壁部が設けられることによって、発電性能を向上可能であり、電解性能を向上可能であることが記載されている。 一方、本件特許の特許請求の範囲には、請求項1~3のいずれにおいても、「ギャップには、前記第1電極ガスが流れることを妨げるためのガス障壁部が設けられて」いる構成が記載されているから、本件発明1~3では、本件特許の発明の詳細な説明と同じく、ギャップにガス障壁部が設けられていることが特定されている。 そうすると、本件発明1~3、本件発明1~3の構成をすべて有する本件発明4及び5は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 したがって、本件発明1~5は、サポート要件を満たす。 (2) 異議申立人の主張について ア 「付勢部材」について 異議申立人は、本件発明1において、ガス障壁部は、固体酸化物形セル及び第1のセパレータ部に加わる応力を低下させるという効果を奏するから、そのためにはガス障壁部が固体酸化物形セル及び第1のセパレータ部に接している必要があるところ、本件発明1は、ガス障壁部が固体酸化物形セル及び第1のセパレータ部に接しているという記載はないから、課題を解決するための手段が反映されたものではなく、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求したものである旨主張する。 また、異議申立人は、本件発明1の付勢部材は、空気圧等を利用して物理的な接触なしに固体酸化物形セルの側面に力を加える部材をも包含するのに対し、発明の詳細な説明には板バネしか開示されていないから、本件発明1の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない旨主張する(異議申立書13頁4行目~22行目)。 しかしながら、上記(1)のとおり、本件発明1は、本件発明の課題を解決するための構成として、ギャップにガス障壁部が設けられていることが特定されているから、異議申立人のこれらの主張は、サポート要件とは無関係の主張である。 イ 「熱膨張率の大小関係」について 異議申立人は、本件発明3において、ガス障壁部は、固体酸化物形セル及び第1のセパレータ部に接触して各部に加わる応力を低下させるという効果を奏するから、少なくとも高温下では固体酸化物形セルと第1のセパレータ部とに接している必要があるところ、本件発明3は、ガス障壁部が固体酸化物形セルと第1のセパレータ部とに接しているという記載はないから、課題を解決するための手段が反映されたものではなく、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求したものである旨主張する。 また、異議申立人は、本件発明3において、熱膨張率の大小関係は温度範囲により逆転し得るところ、本件発明3では、熱膨張率の温度範囲について規定されていないため、本件発明3は、所定の温度範囲において「前記ガス障壁部の熱膨張率は、前記固体酸化物形セルの熱膨張率以下であると共に、前記第1のセパレータ部の熱膨張率以下である」という熱膨張率の大小関係を満たし、所定の温度範囲以外において当該大小関係を満たさないものも含むから、本件発明3は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張する(異議申立書13頁下から4行目~14頁16行目)。 しかしながら、上記(1)のとおり、本件発明3は、本件発明の課題を解決するための構成として、ギャップにガス障壁部が設けられていることが特定されているから、上記アと同様、異議申立人のこれらの主張は、サポート要件とは無関係の主張である。 ウ 本件発明4及び5について 異議申立人は、本件発明1及び3は発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件発明4及び5も明確ではない旨主張する。 しかしながら、上記(1)のとおり、本件発明1及び3はサポート要件を満たし、本件発明4及び5もサポート要件を満たす。 (3) 小括 以上によれば、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであって、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 したがって、異議申立人の主張する申立理由2は理由がない。 3 申立理由3(実施可能要件)について 異議申立人は、本件発明3において、「前記ガス障壁部の熱膨張率は、前記固体酸化物形セルの熱膨張率以下であると共に、前記第1のセパレータ部の熱膨張率以下である」と記載されているが、発明の詳細な説明には、このような熱膨張率の大小関係を満足するガス障壁部の材料について具体的な記載は無く、当業者は、ガス障壁部の熱膨張率を、固体酸化物形セルの熱膨張率以下とし第1のセパレータ部の熱膨張率以下にするために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をする必要があるから、本件発明3は発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、本件発明3を引用する本件発明4、5も、発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないと主張する。(異議申立書14頁下から6行目~15頁4行目) しかしながら、本件明細書の第41段落には、「上記の実施形態では、ガス障壁部50が絶縁材料で形成される場合について説明したが、これに限らない。ガス障壁部50は、電気化学装置1において発電または電解を実行するために温度が高い状態になったときに、電気化学装置1の駆動を阻害しない材料(溶融しない材料等)であれば、様々な材料を用いて形成可能である。例えば、導電性材料でガス障壁部50を形成してもよい。導電性材料は、例えば、銀を用いた発泡金属である。その他、導電性材料は、ニッケルなどの金属粉と、ガラスやフィラーなどのバインダとの混合物であってもよい。」と記載されている。 そうすると、本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明3~5のガス障壁部の材料として、絶縁材料や、導電性材料として、銀を用いた発泡金属や、ニッケルなどの金属粉とガラスやフィラーなどのバインダとの混合物が開示されており、当業者であれば、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるということができる。 以上によれば、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 したがって、異議申立人の主張する申立理由3は理由がない。 4 申立理由4(新規性)及び申立理由5(進歩性)について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 (ア) 甲1発明の「発電単位102」は、本件発明1の「電気化学装置」に相当する。 (イ) 甲1発明の「固体酸化物により形成される電解質層112」、「燃料極116」、「空気極114」はそれぞれ、本件発明1の「固体酸化物の電解質膜」、「第1電極」、「第2電極」に相当することから、甲1発明の「単セル110は、固体酸化物により形成される電解質層112と、電解質層112を挟んで一方に対向する空気極(カソード)114と燃料極(アノード)116を備え」ている構成は、本件発明1の「固体酸化物の電解質膜を第1電極と第2電極とが挟むように構成されている固体酸化物形セル」に相当する。 (ウ) 甲1発明の「燃料極116」側に設けられている「インターコネクタ150」は「燃料極側フレーム140」の下部に位置しているところ、インターコネクタ150が発電単位102間の反応ガスの混合を防止する構成であり、発電単位間で燃料室と空気室とを分離する役割を担っていることから、甲1発明の「インターコネクタ150」は、本件発明1の「第1電極の側に設置された第1のセパレータ部」に相当する。 同様に、甲1発明の「セパレータ120」は空気極114側に設けられている「空気極側フレーム130」の下部に位置しており、本件発明1の「第2電極の側に設置された第2のセパレータ部」に相当する。 そうすると、上記(イ)も考慮すると、甲1発明は、本件発明1の「前記固体酸化物形セルのうち前記第1電極の側に設置された第1のセパレータ部と、前記固体酸化物形セルのうち前記第2電極の側に設置された第2のセパレータ部と」を備えているといえる。 (エ) 甲1発明では「燃料極側フレーム140は金属により形成され、燃料極側フレーム140の孔141は燃料極116に面する燃料室を構成し、下側のインターコネクタ150と燃料極116との間を燃料ガスFGが流れ」るものであるから、本件発明1の「前記第1のセパレータ部と前記第1電極との間を第1電極ガスが流れる」に相当する。 また、甲1発明では、「空気極側フレーム130はセラミックス等の絶縁体により形成され、空気極側フレーム130の孔131は空気極114に面する空気室166を構成し、セパレータ120及び上側のインターコネクタ150と空気極114との間を酸化剤ガスOGが流れ」るものであるから、本件発明1の「前記第2のセパレータ部と前記第2電極との間を第2電極ガスが流れる」に相当する。 そうすると、甲1発明は、本件発明1の「前記第1のセパレータ部と前記第1電極との間を第1電極ガスが流れると共に、前記第2のセパレータ部と前記第2電極との間を第2電極ガスが流れるように構成された」ものといえる。 (オ) 甲1発明では、「フェルト部材41は」、「燃料極116と燃料極側フレーム140との間、及び燃料極116とインターコネクタ150との間に充填され」ていることから、燃料極116とインターコネクタ150との間にフェルト部材41を充填する場所があることが理解でき、当該場所は、本件発明1の「ギャップ」に相当する。 そして、甲1発明の「フェルト部材41」は、「燃料ガスFG」が「発電にあまり寄与しない領域を通過」することを「抑制する」部材であり、「発電にあまり寄与しない領域」に流入することを妨げるといえるから、本件発明1の「第1電極ガスが流れることを妨げるためのガス障壁部」に相当する。 そうすると、甲1発明における、「燃料極116とインターコネクタ150との間」に「燃料ガスFG」が「通過」することを「抑制する」ための「フェルト部材41」が設けられることは、本件発明1の「第1のセパレータ部は、前記第1の電極との間にギャップが介在しており」、「前記ギャップには、第1電極ガスが流れることを妨げるためのガス障壁部が設けられて」いることに相当する。 (カ) 以上によれば、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点、相違点を有する。 [一致点] 固体酸化物の電解質膜を第1電極と第2電極とが挟むように構成されている固体酸化物形セルと、 前記固体酸化物形セルのうち前記第1電極の側に設置された第1のセパレータ部と、 前記固体酸化物形セルのうち前記第2電極の側に設置された第2のセパレータ部と を備え、前記第1のセパレータ部と前記第1電極との間を第1電極ガスが流れると共に、前記第2のセパレータ部と前記第2電極との間を第2電極ガスが流れるように構成された電気化学装置であって、 前記第1のセパレータ部は、 前記第1電極との間にギャップが介在しており、前記ギャップには、前記第1電極ガスが流れることを妨げるためのガス障壁部が設けられている、 電気化学装置。 [相違点1] 本件発明1では、「第1のセパレータ部」は、「前記固体酸化物形セルのうち少なくとも前記第1電極を収容する収容空間を有し、前記第1電極の側面と前記収容空間の側面との間にギャップが介在して」いるのに対して、甲1発明では、その特定がない点。 [相違点2] 本件発明1には、「前記ガス障壁部は、前記固体酸化物形セルの側面と前記収容空間の側面との間を付勢する付勢部材である」のに対して、甲1発明には、その特定がない点。 イ 判断 (ア) 上記アのとおり、本件発明1と甲1発明とは、相違点を有するから、本件発明1は、甲1発明ではない。 (イ) また、相違点1について検討すると、相違点1の構成のうち、「第1のセパレータ部」が「第1電極を収容する収容空間を有し」ている構成は、甲2~甲9をみても記載されていないし、他に周知技術であるという証拠もない。 そして、甲1発明のインターコネクタ150について、収容空間を設けようとする動機付けもないから、甲1発明において、相違点1の構成を採用することは当業者であっても容易になし得るものではない。 一方、本件発明1は、相違点1の構成によって、本件明細書の第39段落等に記載されているように、「発電性能の向上」や「電解性能の向上」という効果を奏するものである。 したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 異議申立人の主張について 異議申立人は、異議申立書34頁下から10行目~下から8行目において、「燃料極側フレームの孔及びインターコネクタにより形成される空間」は燃料極を収容するため、本件発明1の固体酸化物形セルのうち少なくとも第1電極を収容する「収容空間」に相当する旨主張する。 しかしながら、甲1発明において、「燃料極側フレーム140は金属により形成され」、「インターコネクタ150はフェライト系ステンレスにより形成されて」おり、それぞれ異なる構成であるから、異なる構成を一体として、本件発明1の第1のセパレータ部に相当するということはできない。 したがって、異議申立人の主張は採用できない。 エ 本件発明1についてのまとめ 以上によれば、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2~甲9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2) 本件発明2~5について 本件発明2及び本件発明3も、上記(1)アの相違点1に係る構成を有する。 そして、本件発明4及び本件発明5は、本件発明1~3の構成をすべて含む発明であるから、甲1発明と対比すると、少なくとも、上記(1)アの相違点1に係る構成を有する。 そうすると、本件発明1が上記(1)のとおり、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明及び甲2~甲9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2~5も、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2~甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3) 甲2号証に記載された発明を主引用例とする新規性、進歩性について 異議申立人は、異議申立書42頁6行目~43頁下から9行目において、甲2号証に記載された発明を主引用例とし、本件発明3~5は、甲2号証に記載された発明であるし、また、甲2号証に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易に想到し得るものである旨主張する。 しかしながら、上記(1)イのとおり、甲2には、上記(1)アで認定した相違点1に係る本件発明1の構成は記載されていないところ、当該構成は、本件発明3も有するから、本件発明3~5と、甲2に記載された発明を対比すると、相違点1に係る構成で相違することになる。 そして、上記相違点1に係る構成が、甲1、甲3~甲9に記載されていないことも、上記(1)イのとおりである。 そうすると、本件発明3~5は、甲2に記載された発明及び甲1、甲3~甲9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4) 申立理由4(新規性)及び申立理由5(進歩性)についてのまとめ 本件発明1~5は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2~甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものではなく、特許法29条2項の規定に違反してされたものでもない。 また、本件発明3~5は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明及び甲1、甲3~甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、当該発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものではなく、特許法29条2項の規定に違反してされたものでもない。 第6 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び異議申立人の提出した証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2026-700141

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存