特許異議申立
2025-700639
溶接部品および溶接部品の製造方法
- 審判番号
- 2025-700639
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-082404
- 登録番号
- 7603743
- 請求日
- 2025年06月19日
- 審決日
- 2026年03月19日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】岩谷産業株式会社
- 【権利者代理人】北野 修平
- 【権利者代理人】田中 勝也
- 【権利者代理人】木村 豊
- 【異議申立人】安藤 宏
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 貴雄
- 審判官 田々井 正吾
- 審判官 本庄 亮太郎
- 分類
- P1652.113-Y (B23K) / P1652.121-Y (B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7603743号発明「溶接部品および溶接部品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7603743号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7603743号の請求項1~4に係る特許は、令和5年5月18日に出願され、令和6年12月12日にその特許権の設定登録がされ、同月20日に特許掲載公報が発行された。
その後、当該特許のうちの請求項1~3に係る特許(以下「本件特許」という。)に対し、令和7年6月19日に特許異議申立人 安藤 宏(以下「申立人」という。)から特許異議の申立てがされ、同年7月28日に申立人から特許異議の申立てのために提出した特許異議申立書を補正の対象とする手続補正書が提出され、同年11月26日付けにて当審は取消理由を通知した(以下、この通知を「取消理由通知」という。)。
これに対し、令和8年1月15日に特許権者 岩谷産業株式会社(以下「特許権者」という。)からの申込みに応じて当審は特許権者と面接をし、同月27日に特許権者から意見書が提出された。
第2 本件発明
本件特許に係る発明(以下「本件発明」という。また、請求項1の特許に係る発明を「本件発明1」といい、他の請求項についても同様にいう。)は、それぞれ、前記特許掲載公報の特許請求の範囲の請求項1~3に記載された次の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
オーステナイト系ステンレス鋼から構成される第1部材と、
銅から構成される第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを接合する溶接部と、を備え、
前記溶接部は、
前記第1部材を構成するオーステナイト系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域と、
前記第1領域との間に界面を形成するように配置され、銅を主成分とする第2領域と、を含み、
前記第2領域内には、前記第1部材を構成するオーステナイト系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域が互いに分離して存在し、
前記第1領域内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域が互いに分離して存在し、
前記第1領域と前記第2領域とは、前記界面において金属結合を形成している、溶接部品。
【請求項2】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、JIS規格SUS304またはJIS規格SUS316である、請求項1に記載の溶接部品。
【請求項3】
前記第1部材および前記第2部材は管状の形状を有し、
前記第1部材および前記第2部材は長手方向端部において、前記溶接部により互いに接合されている、請求項1または請求項2に記載の溶接部品。」
第3 取消理由の概要
1 当審が請求項1~3に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(新規性)請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(下記の甲第1号証に記載された発明)であって、特許法29条1項3号に該当するものであるから、請求項1に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
(進歩性)請求項2~3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(下記の甲第1号証に記載された発明)に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2~3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
2 申立人が、証拠方法として提出した証拠は以下のとおりである。
甲第1号証:I. Magnabosco、外3名「An investigation of fusion zone microstructures in electron beam welding of copper-stainless steel」、Materials Science and Engineering A 424(2006)、163-173ページ
甲第2号証:及川勝成、外1名「金属結晶の不思議な世界 1 卵型二液相分離合金」、まなびの杜 東北大学季刊2009春号No.47
(以下、甲第1号証を「甲1」といい、他の甲号証についても同様にいう。)
第4 各証拠の記載事項
1 甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
(1)甲1の記載事項
以下、甲1の参照箇所を示すとともに和訳を併記する。和訳について、ア~エ、及び、オの図14の説明については、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付された甲1の抄訳を用い、オの図12~図13の説明、及び、カ~クについては、当審による日本語訳を示す。
ア 「Abstract
The article presents ・・・the process and geometry parameters.」(163ページ要約欄)
(「要約
本稿では、異種材料の電子ビーム溶接によって作製された3種類の溶接継手に関する研究を紹介する。接合部は銅板と3種類のオーステナイト系ステンレス鋼板の間で作製された。サンプルの厚さに応じて、異なる溶接パラメータが使用された。溶接ビードの形態学的、微細組織学的、および機械的性質(微小硬度試験)分析を実施した。
その結果、相互に不溶性の主要元素を含む材料の急速冷却と混合不良を特徴とする、複雑で不均質な溶融部微細構造が明らかになった。また、気孔や微小亀裂などの欠陥も確認された。これらは主に、プロセスと形状パラメータに起因している。」)
イ 「3.1. Joint 1: Cu-AISI 304L
The first sample・・・can be observed.」(164ページ右欄下から3行目~165ページ左欄8行)
(「3.1. 接合部1: Cu-AISI 304L
最初のサンプルは、銅板と AISI 304L 板の2枚の板を1パス溶接して得られたものである。
・・・
図2aは、ビード上部領域のミクロ組織を示しており、銅マトリックスに埋め込まれた鋼球とデンドライトが特徴である。一方、図2bは、FZ中央のミクロ組織を示している。これは、銅球を含む鋼マトリックスで、その中に微細な鋼球が観察される。」)
ウ 「
[図:0001434176000001.jpg]
」
(「図2 継手1のFZの顕微鏡写真:Cu-AISI 304L. (a) 銅マトリックスに埋め込まれた鋼球、(b) 銅球を含む鋼マトリックス。」)
エ 「3.3. Joint 3: CuCrZr-AISI 316L
The third sample was ・・・ identified in this seam.」(168ページ右欄3行~169ページ右欄4行)
(「3.3. 接合部3: CuCrZr-AISI 316L
3番目のサンプルは、銅合金C18100(表1)の板と AISI 316L ステンレス鋼の板を溶接した2パス溶接継手である。・・・。
図12は、FZと母材の界面の概略プロファイルと2枚の顕微鏡写真を示す。
図13は、溶融銅が浸透したFZと鋼の界面の微小亀裂を示している。
図14aの顕微鏡写真は、2つの溶融部の交差部におけるビードの微細構造を示しており、図14bは接合部の底部の顕微鏡写真を示している。この接合部には樹枝状組織は確認されなかった。」)
オ 「
[図:0001434176000002.jpg]
[図:0001434176000003.jpg]
[図:0001434176000004.jpg]
」
(「図12 接合部3の溶接ビード(Cu合金 - AISI 316L)。左:溶融部(FZ)-銅合金側界面、右:溶融部(FZ)- AISI 316L 側界面。
図13 接合部3:Cu合金-AISI 316Lの溶融部と鋼の界面の微小亀裂
図14 接合部3:Cu合金-AISI 316Lの溶融部の顕微鏡写真。(a)中央、(b)底部。」)
カ 「4.3. Solidification microstructures
The microstructures of all the fusion zones ・・・ shrinkage pores as seen in Fig. 9b.」(171ページ左欄19行~右欄13行)
(「4.3. 凝固組織
すべての溶融部(FZ)の微細組織は、主として球状のオーステナイト結晶を含む銅リッチ領域と、銅の球状領域を含むオーステナイト領域によって特徴づけられる(図18)。これらの組織は非常に不均一であり、短い溶融時間の間に銅とオーステナイトの溶融金属が十分に混ざり合っていなかったことを示している。
しかしながら、強い乱流が発生していた明確な証拠がある。図6及び図15からは、銅側とオーステナイト側の間に徐々に変化する連続的な濃度勾配が存在しているのではなく、局所的に大きな濃度変動が存在していたことが分かる。これらの大きな局所濃度勾配と高冷却速度が、凝固組織を支配した。オーステナイト粒は溶融金属中で優先的に核生成しており、(接合部3(3番目のサンプル)の図12を除けば)母材板側からの方向性凝固の証拠はほとんど認められない。この核生成は非常に多量に起こっており、これは高冷却速度と、それに伴う高い局所過冷却によるものと考えられる。濃度勾配が急峻であるため、鉄リッチな球状部(iron globules)は通常、デンドライトへ成長できるほど長く成長することができなかった。一部の鉄リッチ領域では大きなオーステナイト粒が形成され、これらの領域では、図2b、図4b(zone D)、図10b、図14aに見られるように、銅の微細な偏析パターンが観察される。鉄リッチ領域には、より大きな閉じ込められた銅溶融部も存在し、その内部では小さな球状およびデンドライト状のオーステナイト粒が凝固していた(図10b)。これらの閉じ込められた銅領域は 最終凝固部に相当し、図9bに見られるように、しばしば収縮ポロシティ(収縮孔)を含んでいた。」)
キ 「
[図:0001434176000005.jpg]
」
(「図18 観察された2種類の主要な球状組織(グロビュール)の形態を模式的に示す図。」)
ク 「4.5. Defects, geometry and process parameters
By varying process parameters, ・・・ the presence of porosity.」(172ページ左欄16行~最終行)
(「4.5. 欠陥、形状およびプロセスパラメータ
プロセスパラメータ、化学組成、および板厚を変化させることで、表9にまとめられるように、異なる接合特性を得ることができる。1番目のサンプル(接合部1)において、気孔や微小亀裂といった欠陥が存在しないことは、(微細組織的な観点から)健全な溶接であることを示している。鋼粒界への銅の浸透は、静的破断には影響しないようである。同様の条件(気孔や微小亀裂がなく、鋼の粒界に銅の浸透が存在する場合)において、Tosto ら [7] は引張強さが銅の値に極めて近いことを示している。一方、2番目のサンプル(接合部2)及び3番目のサンプル(接合部3)における気孔や微小亀裂は溶接部の延性を低下させる可能性が高い。また、銅の粒界浸透と微小亀裂は疲労強度の低下を引き起こす可能性がある。特に、微細組織が熱的に不安定であるため、熱疲労は非常に深刻な問題となり得る。
化学組成の違いは、主に微細組織の微細化をもたらすのみである。接合部3は母材組成の差が最も大きい試験片であり、接合部1及び接合部2と比較して、デンドライトが存在せず、球状組織がより小さいことが特徴である。接合部1と接合部2は同一材料を用いて実施されたため、接合部2及び接合部3に見られた欠陥は、プロセスおよび形状パラメータに起因するものであると考えられる。例えば、板厚が大きいほど冷却速度が高くなり、銅が微小亀裂を完全に充填することを妨げる可能性がある。また、入熱を増加させると溶融部(FZ)が大きくなり、対流(溶融池の流動)が変化するため、気孔の発生に影響を与えることがある。」)
(2) 甲1の記載から理解できる事項
ア 取消理由通知においては、(2)イ~ウを参考にしつつ(2)オの図14aをみると、図14a左側に鋼マトリックスがあり、右側に銅マトリックスがあるといえ、さらに、両者の間には図14aの中央上部から右下にかけて「界面」といえるものが示され、この両者は「界面」を形成するように配置され、「界面」において両者は少なくとも部分的には金属結合を形成しているものと解されるとして、上記通知の第2の1(4)の「甲1発明」の認定、及び、同(6)の一応の相違点に対する判断をした。
しかしながら、意見書における特許権者の主張を踏まえて、図14a及び図14bを検討すると、甲1には、図14について、次の記載があるのみである。
「図14aの顕微鏡写真は、2つの溶融部の交差部におけるビードの微細構造を示しており、図14bは接合部の底部の顕微鏡写真を示している。この接合部には樹枝状組織は確認されなかった。」((1)エ)
「図14 接合部3:Cu合金-AISI 316Lの溶融部の顕微鏡写真。(a)中央、(b)底部。」((1)オ)
そして、図14bに着目すると、図14bについて説明される「接合部の底部」の用語について、接合部のどの位置を指しているのか甲1から認識することができず、また当該用語が、一般的な技術用語であることを裏付ける証拠等もなく、具体的な位置を特定することができない。
仮に、「底部」との文言どおりに解釈し、接合部のうち、鉛直方向で下方の位置、例えば図12において符号2が付された位置であると解釈したとしても、図14bにおいては、銅マトリックスの左右両側に鋼マトリックスが位置していることが看取され、銅と鋼の接合部に関する一般的な知識からすれば、接合部が「鋼マトリックス-銅マトリックス-鋼マトリックス」の並びとなることは想定されず、結果として図14bに示される接合部は、一般的な認識における銅と鋼の「溶接部」を指すものと断定することができない。
そのため、図14bと併記されている図14aについても、接合部が一般的な認識に基づく「溶接部」と解することができず、図14aに、一見「鋼マトリックス-銅マトリックス」の界面らしきものが看取されたとしても、それ自体が一般的な「溶接部」の界面であるとまで断定することができない。
また、(1)カには、溶融部(FZ)の微細組織が非常に不均一であり、短い溶融時間の間に銅とオーステナイトの溶融金属が十分に混ざり合っていないものの、強い乱流が発生し、銅側とオーステナイト側の間に徐々に変化する連続的な濃度勾配が存在しているのではなく、局所的に大きな濃度変動が存在していたことを示唆する記載があるものの、「局所的に大きな濃度変動が存在」との記載のみでは、そこに界面があるとまで断定することができない。
仮に、溶接部に大きな濃度変動が存在する旨の当該記載から、「鋼マトリックス-銅マトリックス」の界面が存在していたとしても、(1)クには、1番目のサンプル(接合部1)について「鋼粒界への銅の浸透は、静的破断には影響しないようである。同様の条件(気孔や微小亀裂がなく、鋼の粒界に銅の浸透が存在する場合)において、Tosto ら [7] は引張強さが銅の値に極めて近いことを示している。」と記載され、図14aに対応する3番目のサンプル(接合部3)について「気孔や微小亀裂は溶接部の延性を低下させる可能性が高い。また、銅の粒界浸透と微小亀裂は疲労強度の低下を引き起こす可能性がある。特に、微細組織が熱的に不安定であるため、熱疲労は非常に深刻な問題となり得る。」と記載されるように、接合部3の図14aにおける当該界面では、引張強さが銅の値程度である接合部1よりも強度が低いことがわかる。
そして、本件発明1における「金属結合」については、本件明細書の次の記載を考慮して、その用語の意義を解釈する。
すなわち、本件明細書の段落【0024】には「ここで、界面33において金属結合が形成されている状態とは、界面33において、第1領域31を構成する金属原子の格子と第2領域32を構成する金属原子の格子とが連続性を有している状態を意味する。」と記載され、段落【0044】には図6を参照して「図6から明らかなように、溶接部品1は、溶接部30以外の領域、具体的には第2部材20において破断している。」と記載され、段落【0049】には「さらに、上記疲労試験において溶接部30に亀裂が発生しなかったことから、第1領域31と第2領域32とは、界面33において金属結合を形成していると判断できる。」と記載される。これらの記載を参酌すると、本件発明1における「金属結合」とは、単に第1領域と第2領域とが界面を介して接しているだけではなく、金属原子の格子間において自由電子が行き来できる態様で接合することを意味し、引張応力を負荷する疲労試験(段落【0040】)を行えば、溶接部30ではなく、銅から構成される第2部材20(段落【0020】)で破断する程度に、溶接部30の界面33では強い結合を有することを意味すると理解できる。
してみると、甲1の図14aに仮に界面が形成されたとしても、その界面での引張強さは、銅の値よりも低いと解されることから、甲1における銅と鋼との界面では、引張強度が高い金属結合が生じていることを、甲1の記載から認識することができない。
イ 図14aの左側の鋼マトリックスのなかに、鋼マトリックスと異なる色で示される複数の箇所が互いに分離して存在し、この箇所は(2)イ~ウを参考にすると銅球を示すものと解される。同様に、右側の銅マトリックスのなかにも鋼球が互いに分離して存在しているものと解される。
(3) 甲1発明
(1)及び(2)を踏まえると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「オーステナイト系ステンレス鋼板と、
銅板と、
オーステナイト系ステンレス鋼板と銅板とを接合する接合部と、を備え、
前記接合部は、
鋼マトリックスと、
銅マトリックスと、を含み、
前記銅マトリックス内には、複数の鋼球が互いに分離して存在し、
前記鋼マトリックス内には、複数の銅球が互いに分離して存在し、
前記鋼マトリックスと前記銅マトリックスとは、結合している、溶接継手。」
2 甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001434176000006.jpg]
・・・。
金属で「水と油」の関係にある元素として、「鉄」と「銅」があります。これらの合金では1,430℃以上の高温ではどんな割合でも溶け合いますが、低温では仲が悪く「鉄」を多く含む相と「銅」を多く含む相へ二液相分離してしまいます。写真は、鉄-銅基合金の液滴を1秒以内に室温まで急冷することができるアトマイズ法で作製した粉末の断面を、光学顕微鏡で撮影したものです。外側が銅に富む相で内側が鉄に富む相です。」
第5 当審の判断
1 新規性の取消理由について
(1) 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「オーステナイト系ステンレス鋼板」は本件発明1の「オーステナイト系ステンレス鋼から構成される第1部材」に相当し、以下同様に、「銅板」は「銅から構成される第2部材」に、「接合部」は「溶接部」に、「鋼マトリックス」は「前記第1部材を構成するオーステナイト系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域」に、「銅マトリックス」は「銅を主成分とする第2領域」に、「複数の鋼球」は「前記第1部材を構成するオーステナイト系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域」に、「複数の銅球」は「銅を主成分とする複数の第2島状領域」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「結合している」と本件発明1の「前記界面において金属結合を形成している」とは、「結合を形成している」という概念で共通する。
最後に、甲1発明の「溶接継手」は本件発明1の「溶接部品」に相当する。
イ そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点と、相違点は以下のとおりである。
(ア) 一致点
「オーステナイト系ステンレス鋼から構成される第1部材と、
銅から構成される第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを接合する溶接部と、を備え、
前記溶接部は、
前記第1部材を構成するオーステナイト系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域と、
銅を主成分とする第2領域と、を含み、
前記第2領域内には、前記第1部材を構成するオーステナイト系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域が互いに分離して存在し、
前記第1領域内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域が互いに分離して存在し、
前記第1領域と前記第2領域とは、結合を形成している、溶接部品。」
(イ) 相違点
第2領域について、本件発明1では「第1領域との間に界面を形成するように配置され」、第1領域と「界面において金属結合を形成している」のに対し、甲1発明では、第1領域との間に界面を形成するように配置されるのか不明であり、仮に界面が形成されていたとしても、当該界面において金属結合が生じているか否かも不明である点。
(2) 判断
前記相違点は形式的な相違ではなく実質的な相違であるから、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。
(3) 新規性の取消理由についての小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、特許法(以下「法」という。)29条1項3号に該当するものであるとはいえない。
したがって、請求項1に係る特許は、法29条1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
2 進歩性の取消理由について
(1) 対比
本件発明2~3は少なくとも本件発明1を引用するものであるから、本件発明2~3と甲1発明とを対比すると、少なくとも1(1)イ(イ)の相違点があることになる。
(2) 判断
甲2には鉄と銅とが二液相分離することが開示されるところ、申立人は、このように鉄と銅が溶接部で二液相分離することは技術常識であり、かつ、二液相分離した界面に金属結合が存在することが技術常識である旨を主張している(申立書18~19ページ)。
しかしながら、甲2の記載からみて、甲1の溶融部においても仮に、溶融部で銅と鋼が二液相分離して界面が生じていたとしても、当該甲1の界面において金属結合が生じていたことを示す記載はない。むしろ、上記第4の1(1)クの、引張強さが銅の値に満たない旨の記載からみて、当該界面において引張強度が高い金属結合(第4の1(2)アで用語の意義を解釈した金属結合)が生じていたとまで認定することができない。また、甲2の「鉄」を多く含む相と「銅」を多く含む相へ二液相分離する旨の記載からは、両者が金属結合することを認識することができない。この点に関して、申立人は、当該界面に金属結合が存在することが技術常識である旨を主張しているが、証拠として提出された甲1~甲2には、溶融部の銅と鋼が凝固する過程において両者の間に金属結合が形成されることが技術常識である、と認めるに足りる記載内容(例えば、甲1における図14aに示されるサンプル3には導電性があり、界面を行き来する自由電子の存在が裏付けられる、又は、引張り試験を行うと溶接部ではなく銅部材から破断する、等の記載)は見当たらない。
そうすると、甲1発明において甲2の記載事項を参酌することで前記相違点に係る本件発明2~3の構成を当業者が容易に想到できたとはいえない。
(3) 進歩性の取消理由についての小括
以上のとおり、本件発明2~3は、甲1発明及び甲2の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、請求項2~3に係る特許は、法29条2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知で採用しなかった特許異議申立ての理由について検討する。
(1) 請求項2~3に係る特許についての新規性
本件発明2~3は少なくとも本件発明1を引用するものであるから、本件発明2~3と甲1発明とを対比すると、少なくとも1(1)イ(イ)の相違点があることになる。
そうすると、新規性については1(2)と同様に判断できるので、本件発明2~3は、法29条1項3号に該当するものであるとはいえない。
したがって、請求項2~3に係る特許は、法29条1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(2) 請求項1に係る特許についての進歩性
本件発明1と甲1発明とを対比すると、1(1)イ(イ)の相違点があることになる。
そうすると、進歩性については2(2)と同様に判断できるので、本件発明1は、甲1発明及び甲2の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、請求項1に係る特許は、法29条2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
4 取消理由及び特許異議申立理由についてのまとめ
以上のとおり、本件特許については法29条1項又は2項の規定に違反してされたものでないから、法113条2号に該当するものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700639